IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-10
(45)【発行日】2022-11-18
(54)【発明の名称】米飯改良剤及び米飯の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 7/10 20160101AFI20221111BHJP
   A23D 9/00 20060101ALI20221111BHJP
   A23D 9/007 20060101ALI20221111BHJP
【FI】
A23L7/10 B
A23D9/00 518
A23D9/007
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2022549242
(86)(22)【出願日】2021-11-26
(86)【国際出願番号】 JP2021043390
(87)【国際公開番号】W WO2022114126
(87)【国際公開日】2022-06-02
【審査請求日】2022-08-15
(31)【優先権主張番号】P 2020198873
(32)【優先日】2020-11-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001421
【氏名又は名称】キユーピー株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】591112371
【氏名又は名称】キユーピー醸造株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100152423
【弁理士】
【氏名又は名称】小島 一真
(72)【発明者】
【氏名】三上 晃史
(72)【発明者】
【氏名】小林 英明
(72)【発明者】
【氏名】飛彈 真由美
(72)【発明者】
【氏名】漆畑 亘
(72)【発明者】
【氏名】保科 亮祐
(72)【発明者】
【氏名】須▲崎▼ 健太
【審査官】川崎 良平
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-245367(JP,A)
【文献】特開2000-116344(JP,A)
【文献】特開2003-284515(JP,A)
【文献】特開平07-147914(JP,A)
【文献】特開2018-033335(JP,A)
【文献】特開平07-163306(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 7/10
A23D 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
油脂、イオン性界面活性剤、及び多価アルコールを含有する米飯改良剤であって、
前記油脂の含有量が、前記米飯改良剤の全量に対して、8質量%以上65質量%以下であり、
20℃での下記方法により算出したL2値-L1値が正であることを特徴とする、米飯改良剤。
L1値:米飯改良剤の明度の値
L2値:米飯改良剤に100質量倍の清水を添加して得られた乳化物の明度の値
【請求項2】
20℃での粘度が50,000mPa・s以下であることを特徴とする、
請求項1に記載の米飯改良剤。
【請求項3】
水分含有量が、前記米飯改良剤の全量に対して、5質量%以上30質量%以下であることを特徴とする、
請求項1又は2に記載の米飯改良剤。
【請求項4】
前記多価アルコールが、グリセリン及び/又は糖アルコールを含むことを特徴とする、
請求項1~3のいずれか一項に記載の米飯改良剤。
【請求項5】
前記多価アルコールの含有量が、前記米飯改良剤の全量に対して、固形分換算で20質量%以上であることを特徴とする、
請求項1~4のいずれか一項に記載の米飯改良剤。
【請求項6】
前記イオン性界面活性剤がリゾリン脂質を含むことを特徴とする、
請求項1~5のいずれか一項に記載の米飯改良剤。
【請求項7】
前記イオン性界面活性剤の含有量が、前記米飯改良剤の全量に対して、0.1質量%以上10質量%以下であることを特徴とする、
請求項1~6のいずれか一項に記載の米飯改良剤。
【請求項8】
前記L2値-L1値が10.0以上であることを特徴とする、
請求項1~7のいずれか一項に記載の米飯改良剤。
【請求項9】
米飯の製造方法であって、
油脂、イオン性界面活性剤、及び多価アルコールを含有する混合物を添加する工程を含み、
前記油脂の含有量が、前記混合物の全量に対して、8質量%以上65質量%以下であり、
20℃での下記方法により算出したL2値-L1値が正であることを特徴とする、
米飯の製造方法。
L1値:混合物の明度の値
L2値:混合物に100質量倍の清水を添加して得られた乳化物の明度の値
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、米飯改良剤及び米飯の製造方法に関する。特に、本発明は、油脂、イオン性界面活性剤、及び多価アルコールを含有する米飯改良剤、及び米飯の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
スーパーマーケットやコンビニエンスストア等では、様々な形態で米飯が販売されている。例えば、米飯は、市販弁当の主食として容器詰めされた形態で販売されたり、当日消費用に米飯だけを透明プラスチック容器に詰めた形態で販売されたりしている。これらの米飯の多くはそのまま食される、または必要に応じて電子レンジで加熱後、食されているが、チャーハン、オムライス、雑炊等の他の米料理にも手軽に応用できるため、近年、その販売量が家庭用・業務用共に増加傾向にある。
【0003】
市販の米飯は機械設備によって大量に炊飯されているため、機械にデンプン糊や米粒が付着すると製造歩留まりが落ちてしまう。そのため、離型剤として乳化剤入りの炊飯用油を生米と水とともに添加して仕込むことが一般的であるが、大型の炊飯釜では油が全体に行き渡らずにムラが生じるという課題がある。このような課題に対して、離型剤として炊飯用油を添加した後に、十分に撹拌することでそのムラを解消することが行われてきたが、撹拌によって破砕米が増えて、炊き上がりの米飯品質の劣化につながる傾向にあった。また、仕込みの直前に、炊飯用油に水を加え機械撹拌によって乳化させ、分散性を向上させる技術もあるが、特殊な機械設備が必要であり、広く使用できるものではなかった。さらに、上記課題に対して、離型剤として事前に乳化させた米飯添加用乳化液を予め製造し、これを炊飯仕込み時に用いることが提案されている(特許文献1及び2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平6-197711号公報
【文献】特開平7-163306号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1及び2に記載されるような米飯添加用水中油型乳化液は、油脂の酸化劣化が進み易い。そのため、流通時は密閉型の容器に充填されたとしても、開封後から炊飯使用までは数時間から数日かかるため、やはり油脂の酸化劣化による米飯の不快臭の原因になるという課題があった。
【0006】
したがって、本発明の目的は、事前に水中油型に乳化したものではなく、添加直後に油脂を容易に乳化させることができ、米飯の離型効果に優れ、米粒の崩れが少なくて粒立ちが良く、老化を抑制し、さらにはコク味が向上して風味の良い炊飯米を得ることができる米飯改良剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題に対して誠意検討した結果、米飯改良剤において、油脂、イオン性界面活性剤、及び多価アルコールを配合し、さらに油脂の含有量を調節し、かつ、米飯改良剤の明度およびその乳化物の明度の差を調節することにより、上記の課題を解決できることを知見した。本発明者らは、このような知見に基づき、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明の一態様によれば、
油脂、イオン性界面活性剤、及び多価アルコールを含有する米飯改良剤であって、
前記油脂の含有量が、前記米飯改良剤の全量に対して、8質量%以上65質量%以下であり、
20℃での下記方法により算出したL2値-L1値が正であることを特徴とする、米飯改良剤が提供される。
L1値:米飯改良剤の明度の値
L2値:米飯改良剤に100質量倍の清水を添加して得られた乳化物の明度の値
【0009】
本発明の態様においては、米飯改良剤の20℃での粘度が50,000mPa・s以下であることが好ましい。
【0010】
本発明の態様においては、水分含有量が、前記米飯改良剤の全量に対して、5質量%以上30質量%以下であることが好ましい。
【0011】
本発明の態様においては、前記多価アルコールがグリセリン及び/又は糖アルコールを含むことが好ましい。
【0012】
本発明の態様においては、前記多価アルコールの含有量が、前記米飯改良剤の全量に対して、固形分換算で20質量%以上であることが好ましい。
【0013】
本発明の態様においては、前記イオン性界面活性剤がリゾリン脂質を含むことが好ましい。
【0014】
本発明の態様においては、前記イオン性界面活性剤の含有量が、前記米飯改良剤の全量に対して、0.1質量%以上10質量%以下であることが好ましい。
【0015】
本発明の態様においては、前記L2値-L1値が10.0以上であることが好ましい。
【0016】
また、本発明の別の態様によれば、
米飯の製造方法であって、
油脂、イオン性界面活性剤、及び多価アルコールを含有する混合物を添加する工程を含み、
前記油脂の含有量が、前記混合物の全量に対して、8質量%以上65質量%以下であり、
20℃での下記方法により算出したL2値-L1値が正であることを特徴とする、米飯の製造方法が提供される。
L1値:混合物の明度の値
L2値:混合物に100質量倍の清水を添加して得られた乳化物の明度の値
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、添加直後に油脂を容易に乳化させることができ、米飯の離型効果に優れ、米粒の崩れが少なくて粒立ちが良く、老化を抑制し、さらにはコク味が向上して風味の良い炊飯米を得ることができる米飯改良剤を提供することができる。
【0018】
一般的に、離型剤として油を添加することは米飯の風味という点では好ましくなく、特に乳化タイプの炊飯油は水中油型(O/W型)という性質上、水分含有量が多く、添加量に合わせて炊飯加水量を調整しなければならず、現場の作業を煩雑にする傾向にある。本発明の米飯改良剤は、従来の米飯改良剤に比べて水分含有量を低く調節でき、かつ、少量の使用により効果を発揮できる。そのため、炊飯時の釜内への水分持ち込みがほとんどなく、炊飯時の加水量を調整する必要が無くなるため、作業性を向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
<米飯改良剤>
本発明の米飯改良剤は、少なくとも、油脂、イオン性界面活性剤、及び多価アルコールを含有するものであり、米飯の品質や、製造時の作業性を改善することができる。本発明において、米飯の品質とは、米飯の粒立ち、老化防止、風味を指し、米飯製造時の作業性とは、油脂の乳化容易性、米飯の離型性等を指すものである。
【0020】
(米飯)
本発明において、米飯とは、白飯や玄米を炊飯して得た米飯だけでなく、白米と大麦とを一緒に炊飯して得た麦飯、精米したもち米を炊飯又は蒸して得たおこわ等も含まれる。また、米飯には、各種炊き込みご飯、炒飯、おかゆ、茶飯、酢飯、赤飯、栗又は豆等の具材入りご飯等の調理加工米飯、レトルト米飯、無菌包装米飯も含まれる。また、米飯には、常温、冷蔵、又は冷凍の状態で流通及び販売されるものも含まれる。
【0021】
(L値)
米飯改良剤は、20℃での測色色差計を用いた色の明度を表すL値の測定において、米飯改良剤の明度L1値と、米飯改良剤に100質量倍の清水を添加して得られた場合の明度L2値との差(L2値-L1値)が正となる性質を有するものである。
【0022】
L値は色の明度を表す数値であり、値が大きいほど明るい色であることを示す。乳化物の場合、乳化粒子が微細化するほど散乱光量が増加して白っぽくなるため、L値が大きくなる。本発明におけるL値の変化は、米飯改良剤を水に添加することによって相転移し、油脂が微細粒子化した乳化物となって白濁して透明度が低下するために起こるものである。なお、本発明において、L値は測色色差計(商品名「Color Meter ZE-2000」:日本電色工業社製)を用いて測定することができる。
【0023】
油脂に水を添加することによって容易に油脂が微粒子化した乳化状態(O/W乳化)となる性質を「自己乳化性」という。本発明の米飯改良剤は、水に添加することにより自己乳化してO/W乳化物となる前の状態が維持されたものである。自己乳化性は、液晶、界面活性剤が無限に会合した両連続マイクロエマルション(BCME;bicontinuous microemulsion)等、分子が無限に会合した無限会合体が形成された系に見られる特徴であり、系の安定性と自己乳化性の高さは比例関係にある。本発明の米飯改良剤の構造の詳細は明らかではないが、水の添加によって自己乳化性を示すことから、無限会合体が形成された系又はそれに類する状態を有する系であると推測される。本発明の米飯改良剤は、添加直後に油脂を容易に乳化させることができるため、製造工程での作業性を向上させることができる。また、本発明の米飯改良剤は、事前に乳化させる必要が無いため、油脂の酸化劣化を防止することもできる。
【0024】
本発明の米飯改良剤の自己乳化性が高いと多量の水を添加した場合に得られるO/W乳化物中の油脂粒子の大きさも小さくなり、その結果、L2値は大きくなる。自己乳化性の高さは上述のとおり米飯改良剤の安定性と比例関係にあることから、L2値は米飯改良剤の安定性を表すこととなる。したがって、米飯改良剤(水添加前の状態)のL1値と、米飯改良剤に100質量倍の水を添加して得られた乳化物のL2値との差(L2値-L1値)が大きいほど、米飯改良剤はその構造を安定に維持しており、添加直後に油脂を容易に乳化させることができる。また、本発明においては、詳細な原理は不明だが、得られるO/W乳化物の油脂粒子が小さく米飯に浸透しやすいと推察され、そのため、米粒の崩れが少なくて粒立ちが良く、老化を抑制し、さらには油臭さを感じずにコク味が向上して風味の良い炊飯米を得ることができる。
【0025】
本発明においては、米飯改良剤のL2値-L1値は正であり、好ましくは10以上であり、より好ましくは15以上であり、さらに好ましくは20以上である。米飯改良剤のL2値-L1値が正であれば、米飯改良剤を添加直後に油脂を容易に乳化させることができ、酸化による油臭さを米飯に付与することなく、コク味が向上して風味の良い炊飯米を得ることができる。一方、前記L2値―L1値が負の場合、老化防止効果を得られず、また、油臭さを強く感じてしまう。
【0026】
(米飯改良剤の粘度)
米飯改良剤の粘度は、20℃において、50,000mPa・s以下であり、好ましくは30,000mPa・s以下であり、より好ましくは10,000mPa・s以下であり、さらに好ましくは5,000mPa・s以下であり、また、好ましくは100mPa・s以上であり、より好ましくは500mPa・s以上であり、さらに好ましくは1,000mPa・s以上である。米飯改良剤の粘度が上記範囲内であれば、米飯改良剤を添加直後に油脂を容易に乳化させることができ、さらに作業性を向上させることができる。
なお、米飯改良剤の粘度は、BL形粘度計を使用し、品温20℃、回転数6rpmの条件で、粘度が3000mPa・s未満のとき:ローターNo.2、3000mPa・s以上5000mPa・s未満以上のとき:ローターNo.3、5000mPa・s以上のとき:ローターNo.4を使用し、測定開始後3分後の示度により算出した値である。
【0027】
(油脂)
米飯改良剤に配合する油脂としては、特に限定されず従来公知の食用油脂を用いることができる。具体的には、食用油脂として、例えば、菜種油、大豆油、コーン油、パーム油、綿実油、ひまわり油、サフラワー油、胡麻油、オリーブ油、亜麻仁油、米油、椿油、荏胡麻油、グレープシードオイル、ピーナッツオイル、アーモンドオイル、アボカドオイル等の植物油脂、魚油、DHA含有藻類油、牛脂、豚脂、鶏脂、又はMCT(中鎖脂肪酸トリグリセリド)、ジグリセリド、硬化油、エステル交換油等のような化学的あるいは酵素的処理等を施して得られる油脂等を用いることができる。また、これら天然油脂にファイトケミカル類(ビタミンK、ビタミンD、トコフェロール、トコトリエノール、γオリザノール、ポリフェノールなど)が含有されていると健康面からもより好ましい。これらの中でも植物油脂を用いることが好ましく、米油、菜種油、大豆油、コーン油又はこれらの混合油を用いることがより好ましい。
本発明の米飯改良剤は、これらの油脂を米飯に容易に添加することができるという点においても効果的であり、脂溶性機能性成分を米飯に添加したり、あるいは酸化劣化に弱い油脂を添加の直前まで酸化劣化させることなく、米飯に添加することができる。
【0028】
油脂の含有量は、米飯改良剤の全量に対して、8質量%以上65質量%以下であり、好ましくは10質量%以上60質量%以下であり、より好ましくは15質量%以上55質量%以下であり、さらに好ましくは20質量%以上50質量%以下である。油脂の含有量が上記数値範囲内であれば、米飯改良剤を添加直後に油脂を容易に乳化させることができ、米飯の離型効果に優れ、米粒の崩れが少なくて粒立ちが良く、老化を抑制し、さらにはコク味が向上し風味の良い炊飯米を得ることができる。一方、前記下限値を下回ると、十分に優れた離型効果を有しない。また、前記上限値を上回ると、安定な乳化物にならなかったり、添加直後に油脂を容易に乳化させることができない。
【0029】
(イオン性界面活性剤)
米飯改良剤に配合するイオン性界面活性剤は、水に溶解した際に電離してイオンを生成するものであり、陰イオン性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤、両性イオン性界面活性剤の3種がある。本発明においては、上述する3種のイオン性界面活性剤から選択される少なくとも1種のイオン性界面活性剤を含有する。また、イオン性界面活性剤の由来は、天然、合成、半合成いずれものでも用いることができる。
【0030】
陰イオン性界面活性剤としては、例えば、モノグリセリドの水酸基にさらに有機酸(酢酸、乳酸、クエン酸、コハク酸、ジアセチル酒石酸等)が結合した有機酸モノグリセリド、パーフルオロカルボン酸又はその塩、ドデシル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸アンモニウム等のアルキル硫酸塩、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルグリセロール等が挙げられる。
陽イオン性界面活性剤としては、例えば、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム等の四級アンモニウム塩等が挙げられる。
両性イオン性界面活性剤としては、例えば、ステアリルベタイン、ラウリルベタイン等のアルキルベタイン、ラウリルジメチルアミンオキサイド等のアルキルアミンオキサイド、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルコリン等のリン脂質、又はこれらをリゾ化したリゾリン脂質、等が挙げられる。
なお、界面活性剤と類似の作用を有する乳化素材も界面活性剤に含める。
【0031】
本発明においては、前記3種の界面活性剤のうち両性イオン性界面活性剤を用いると、前記米飯改良剤の乳化状態を形成し易く、米飯の老化がより効果的に抑制することができる。両性イオン性界面活性剤は、pHによってイオン性が変化する界面活性剤であり、親水基が負に帯電すると陰イオン性界面活性剤、親水基が正に帯電すると陽イオン性界面活性剤の性質を示す。すなわち、本発明で示す米飯改良剤を調製する際、その配合成分によるイオン性によらず常にイオン性界面活性剤として作用し、自己乳化性を有する本発明の米飯改良剤を形成しやすい。また、これに水を添加して自己乳化物を得る際にも、水以外のイオン性成分(塩類等)の共存に影響を受けず、微細で安定なO/W乳化物を得ることができる。
【0032】
本発明に用いる両性イオン性界面活性剤を構成する脂肪酸は、油脂の酸化がより効果的に抑制される観点から、飽和型であるとよい。両性イオン性界面活性剤を構成する脂肪酸が飽和型であると、界面活性剤そのものが酸化されにくくなる。また、配合された油脂の不飽和脂肪酸部分が、無限会合体が形成された系又はそれに類する状態において分子レベルで混合されることにより、自動酸化の連鎖の抑制効果も得られると推測される。
【0033】
両性イオン性界面活性剤を構成する飽和脂肪酸は、前記米飯改良剤の乳化状態を形成し易く、米飯の老化がより効果的に抑制される観点から、前記脂肪酸を構成する脂肪酸全体に対して、質量比率で40%以上がよく、さらに65%以上がよい。
【0034】
本発明においては、前記米飯改良剤の乳化状態を形成し易く、米飯の老化がより効果的に抑制される観点から、前記両性イオン性界面活性剤のうちリン脂質を用いるとよい。リン脂質は、リン酸エステル及びホスホン酸エステルを有する脂質であり、親水性基と疎水性基の両方を持つ両親媒性物質である。リン脂質には、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルイノシトール等のグリセロールを骨格とするグリセロリン脂質、スフィンゴエミリン等のスフィンゴシンを骨格とするスフィンゴリン脂質がある。リン脂質の中でもホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルイノシトールを用いるのがよく、これらリン脂質を含有する混合物、例えば、各種レシチンを用いることが好ましい。レシチンとしては、大豆レシチン、菜種レシチン、及びヒマワリレシチン等の植物レシチン、並びに卵黄レシチン等が挙げられ、植物レシチンを用いることが植物由来のため好ましい。リン脂質を含有する混合物を用いる場合は、含まれているリン脂質部分が本発明のイオン性界面活性剤に相当する。例えば、卵黄レシチン(PL-30、LPL-20S:キユーピー(株)製、等)を用いる場合、混合物に含まれているリン脂質が本発明のイオン性界面活性剤に相当し、卵黄油の部分は本発明の油脂に相当する。
【0035】
(リゾリン脂質)
本発明においては、上述のリン脂質をリゾ化したリゾリン脂質を用いると、より老化を効果的に抑制させることができる。リゾリン脂質としては、例えば、リゾフォスファチジルコリン、リゾホスファチジルエタノールアミン、リゾホスファチジルイノシトールを用いることが好ましい。
【0036】
イオン性界面活性剤の含有量は、米飯改良剤の全量に対して、好ましくは0.1質量%以上10質量%以下であり、より好ましくは0.3質量%以上8質量%以下であり、さらに好ましくは0.5質量%以上5質量%以下である。イオン性界面活性剤の含有量が上記範囲内であれば、米飯改良剤を添加直後に油脂を容易に乳化させることができ、米飯の老化防止効果を向上させることができる。
【0037】
(多価アルコール)
米飯改良剤に配合する多価アルコールとは、分子内に2つ以上のヒドロキシ基を有するアルコールの総称であり、例えば、グリセリン、エチレングリコール、プロピレングリコール、又はこれらの重合体、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,2-プロパンジオール等のアルカンジオール、マルチトール、ラクチトール、ソルビトール、キシリトール、エリスリトール、還元パラチノース、還元水あめ等の糖アルコール等が挙げられる。これらの中でもグリセリン、糖アルコールが好ましく、糖アルコールがより好ましい。さらに、糖アルコールの平均分子量は、100~2000が好ましく、150~1000がより好ましい。本発明においては、多価アルコールを用いることで、米飯改良剤を添加直後に油脂を容易に乳化させることができ、米飯の離型効果に優れ、米粒の崩れが少なくて粒立ちが良く、老化を抑制し、さらにはコク味が向上し風味の良い炊飯米を得ることができる。
【0038】
多価アルコールは粉末のものを使用してもよいし、液体のものを使用してもよい。液体のものを使用する場合、多価アルコールの含有量とは、固形分換算したものである。多価アルコールの含有量は、米飯改良剤の全量に対して、固形分換算で、好ましくは20質量%以上であり、より好ましくは25質量%以上であり、さらに好ましくは30質量%以上であり、さらにより好ましくは35質量%以上であり、また、好ましくは60質量%以下であり、より好ましくは55質量%以下であり、さらに好ましくは50質量%以上である。多価アルコールの含有量は、上記数値範囲内であれば、米飯改良剤を添加直後に油脂をより容易に乳化させることができ、米飯の離型効果により優れ、米粒の崩れがより少なくて粒立ちが良く、老化をより抑制し、さらにはコク味がより向上し風味の良い炊飯米を得ることができる。
【0039】
(水分)
米飯改良剤は、乳化や粘度の調節のために水分を含んでいてもよい。水分を含む場合は、清水を配合してもよく、水分を含有する配合原料、例えば多価アルコールとして含水した液糖等に由来するものでもよい。
【0040】
水分含有量は、米飯改良剤の全量に対して、好ましくは30質量%以下であり、より好ましくは25質量%以下であり、さらに好ましくは22質量%以下であり、また0質量%以上であればよいが、5質量%以上であってもよく、10質量%以上であってもよい。水分含有量を前記上限値以下に調節することで、炊飯時の釜内への水分持ち込みがほとんどなく、炊飯時の加水量を調整する必要が無くなるため、作業性を向上させることができる。また、水分含有量を前記下限値以上に調整することで、粘度を低く調整することができ、その結果、添加直後に油脂を容易に乳化させることができ、さらに作業性を向上させることができる。
【0041】
(他の原料)
米飯改良剤は、上述した原料以外に、本発明の効果を損なわない範囲で米飯改良剤に通常用いられている各種原料を適宜選択して配合することができる。他の原料としては、例えば、酢酸、クエン酸等の有機酸、アミノ酸、食塩、甘味料、増粘剤、着色料、香料、保存料等が挙げられる。
【0042】
(米飯改良剤の調製方法)
米飯改良剤の調製方法は、特に限定されず、従来公知の方法により行うことができる。例えば、撹拌タンクに、イオン性界面活性剤、多価アルコール、清水、及び必要に応じて食塩や甘味料等の他の原料を投入し、ミキサーを用いて撹拌混合して均一な状態とした後、撹拌しながら食用油脂を徐々に添加して、米飯改良剤を調製することができる。
【0043】
(製造装置)
本発明の米飯改良剤の調製には、通常の食品製造に使われる装置を用いることができる。このような装置としては、例えば、一般的な撹拌機、スティックミキサー、スタンドミキサー、ホモミキサー、ホモディスパー等が挙げられる。撹拌機の撹拌羽形状としては、例えばプロペラ翼、タービン翼、パドル翼、アンカー翼等が挙げられる。
【0044】
<米飯の製造方法>
本発明の米飯の製造方法は、少なくとも、油脂、イオン性界面活性剤、及び多価アルコールを含有する混合物を添加する工程を含むものである。混合物については、上記で詳述した本発明の米飯改良剤と同様の組成のものを用いることができる。米への混合物の添加方法や炊飯方法は、特に限定されず、従来公知の方法で行うことができる。また、米に混合物を添加する時期は、特に限定されず、米の炊飯前、炊飯と同時、および炊飯後のいずれであってもよい。
【実施例
【0045】
以下に、実施例と比較例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例の内容に限定して解釈されるものではない。
【0046】
[実施例1~7、比較例1~4]
<米飯改良剤の調製>
表1に記載の配合割合に準じて、米飯改良剤を調製した。具体的には、ガラス製のビーカーに多価アルコール(糖アルコール(平均分子量が150~1000のもの)又はグリセリン)と、イオン性界面活性剤(リゾリン脂質)と、水とを添加して、アンカーを付けたプロペラ撹拌機で撹拌混合して均一な状態とした。その後、撹拌を続けたまま食用油脂(菜種油等)を徐々に添加して、米飯改良剤を調製した。
【0047】
[比較例5]
市販の米飯改良剤(植物油、多価アルコール、乳化剤(大豆由来)等を主成分とする水中油型乳化物)を用いた。
【0048】
<米飯改良剤の評価>
(L値の測定)
上記の米飯改良剤を用い、20℃において下記の方法で水希釈前後の各試料のL値を3回測定してその平均値を採用し、L2値-L1値の値を算出した。結果を表1、2に示した。なお、米飯改良剤が製造直後に分離したために測定できなかった比較例2、3については、表1において未測定(「-」)と示した。
[測定装置]
測色色差系(Color Meter ZE-2000、日本電色工業社製)
[測定条件]
L1値:米飯改良剤の明度の値
円形セルに水希釈前の米飯改良剤1.5gを入れて測定に供した。
L2値:米飯改良剤に清水で100質量倍を添加して得られた乳化物の明度の値
ビーカーに希釈前の米飯改良剤0.2gを採取し、清水20.0g添加して撹拌した。得られた水希釈後の試料1.5gを円形セルに入れ、測定に供した。
【0049】
(粘度測定)
上記の米飯改良剤について、BL形粘度計を使用し、品温20℃、回転数6rpmの条件で、粘度が3000mPa・s未満のとき:ローターNo.2、3000mPa・s以上5000mPa・s未満以上のとき:ローターNo.3、5000mPa・s以上のとき:ローターNo.4を使用し、測定開始後3分後の示度により、粘度(mPa・s)を算出した。各米飯改良剤について、粘度測定を3回行って平均値を採用し、測定結果を表1、2に示した。なお、米飯改良剤が製造直後に分離したために測定できなかった比較例2、3については、表1において未測定(「-」)と示した。
【0050】
<米飯の製造>
生米450gを十分に洗米し、水に60分間浸漬して十分吸水させた。次に、浸漬米を水切りした後、市販の炊飯釜に入れ、浸漬米と水との総重量が1150gとなるよう水を加えた。続いて、上記の米飯改良剤14gを添加し、軽く撹拌した後に炊飯した。炊飯後、米飯を釜から取り出して、真空冷却機にて25℃まで冷却した。
【0051】
(乳化容易性)
上記で炊飯時に添加した際の乳化容易性(作業性)について、下記の基準で評価を行った。評価結果を表1、2に示した。下記の評価は、評価が「◎」、「○」、又は「△」であれば、良好な結果であるといえる。なお、米飯改良剤が製造直後に分離したために測定できなかった比較例2、3については、表1において未測定(「-」)と示した。
[米飯改良剤の乳化容易性の評価基準]
◎:添加直後にしゃもじで簡単に撹拌しただけで、数秒後均一な乳白色となった。
○:添加直後にしゃもじで簡単に撹拌しただけで、十数秒後均一な乳白色となった。
△:添加直後にしゃもじで簡単に撹拌したが、均一にするのに多少時間がかかったが、実用上問題は無かった。
×:添加直後にしゃもじで強く撹拌したが、暫くしても完全に均一な状態とならず、塊状のものが残ってしまった。
【0052】
(離型性)
上記で炊飯した米飯の離型性について、炊飯後釜を反転し米飯を取り出したのち、釜底部における米粒や米のデンプン糊の残存について、目視で確認し、下記の基準で評価を行った。評価結果を表1、2に示した。下記の評価は、評価が「◎」、又は「○」であれば、良好な結果であるといえる。なお、米飯改良剤が製造直後に分離したために測定できなかった比較例2、3については、表1において未測定(「-」)と示した。
[米飯の離型性の評価基準]
◎:釜離れが良く、米粒やデンプン糊は全く残らなかった。
○:釜離れが良く、デンプン糊はわずかに残ったが、米粒は全く残らなかった。
×:釜離れが悪く、米粒が残った。
【0053】
(官能評価)
上記で炊飯した米飯の粒立ち、老化防止効果、風味について、複数の訓練されたパネルにより、下記の基準で官能評価を行った。対照区とは、米飯改良剤を加えることなく、上記と同様の方法で炊飯した米飯を指す。評価結果を表1、2に示した。下記の評価は、評価が「◎」、「○」、又は「△」であれば、良好な結果であるといえる。なお、米飯改良剤が製造直後に分離したために測定できなかった比較例2、3については、表1において未測定(「-」)と示した。
[米飯の粒立ちの評価基準]
◎:米の粒立ちが良く、米飯として非常に好ましい歯ごたえであった。
○:米の粒立ちが良く、米飯として好ましい歯ごたえであった。
×:米の粒立ちが悪く、米粒がもろく米飯として好ましくない歯ごたえであった。
[米飯の老化防止効果の評価基準]
○:老化が防止されており、適度な粘りがあり弾力があった。
×:老化しており、粘りが無くぼそぼそとした食感であった。
[米飯の風味の評価基準]
◎:対照区と比較し、コク味が強く増していた。
○:対照区と比較し、コク味が増していた。
△:対照区と比較し、コク味が少し増していた、または油臭さを少し感じた。
×:対照区と比較し、コク味が全く増していない、または油臭さを強く感じた。
【0054】
【表1】
【0055】
【表2】
【0056】
実施例1~7の米飯改良剤はいずれも、添加直後に容易に乳化させることができ、米飯の離型効果に優れ、米粒の崩れが少なくて粒立ちが良く、老化を抑制し、さらにはコク味が向上し風味の良い炊飯米を得ることができた。
また、乳化容易性の評価が「◎」であった実施例の中でも特に、実施例3は極めて乳化が容易であった。
加えて、実施例1~4は、物性が滑らかで投入し易さに優れており、特に実施例1~3は、極めて投入し易さ優れていた。
比較例1の米飯改良剤は油脂含有量が低過ぎたため、離型効果に劣るものであった。
比較例2及び3の米飯改良剤は油脂含有量が高過ぎたため、米飯改良剤の製造直後に分離した。そのため、その後の評価が実施できなかった。
比較例4の米飯改良剤は油脂の含有量が多すぎるため乳化しづらく、また、米飯の粒立ちが悪く、老化を抑制することができなかった。
比較例5の米飯改良剤は、L2値-L1値が負であるため、老化を抑制することができず、油臭さを強く感じた。