(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-11
(45)【発行日】2022-11-21
(54)【発明の名称】二ヨウ化ホウ素化合物、それから得られるボロン酸およびボロン酸エステル等、ならびにそれらの製造方法
(51)【国際特許分類】
C07F 5/02 20060101AFI20221114BHJP
C07F 5/04 20060101ALI20221114BHJP
【FI】
C07F5/02 B CSP
C07F5/02 C
C07F5/04 B
(21)【出願番号】P 2018148656
(22)【出願日】2018-08-07
【審査請求日】2021-03-25
(31)【優先権主張番号】P 2017165211
(32)【優先日】2017-08-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 1.講演予稿集(電気通信回線を通じた掲載) (1)学会名:日本化学会第97春季年会 http://www.csj.jp/nenkai/97haru/ (2)掲載日 :平成29年3月3日 (3)掲載物 :日本化学会第97春季年会予稿集、公益社団法人日本化学会 (4)公開者 :畠山琢次、植浦健太、小田晋 (5)公開内容:「1E8-12 芳香族化合物に対する求電子的C-Hホウ素化反応の開発」 2.講演予稿集(DVD及びUSBによる配布) (1)学会名 :日本化学会第97春季年会 http://www.csj.jp/nenkai/97haru/ (2)配布日:平成29年3月3日(3)配布物 :日本化学会第97春季年会予稿集、公益社団法人日本化学会 (4)公開者 :畠山琢次、植浦健太、小田晋(5)公開内容:「1E8-12 芳香族化合物に対する求電子的C-Hホウ素化反応の開発」 3.学会発表(プロジェクタ映写による公開) (1)学会名 :日本化学会第97春季年会、慶應義塾大学 日吉キャンパス http://www.csj.jp/nenkai/97haru/ (2)開催日 :平成29年3月16日 (3)公開者 :畠山琢次、植浦健太、小田晋 (4)公開内容:「1E8-12 芳香族化合物に対する求電子的C-Hホウ素化反応の開発」
(73)【特許権者】
【識別番号】503092180
【氏名又は名称】学校法人関西学院
(73)【特許権者】
【識別番号】521180485
【氏名又は名称】エスケーマテリアルズジェイエヌシー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100128484
【氏名又は名称】井口 司
(74)【代理人】
【識別番号】100104282
【氏名又は名称】鈴木 康仁
(72)【発明者】
【氏名】畠山 琢次
(72)【発明者】
【氏名】笹田 康幸
(72)【発明者】
【氏名】近藤 靖宏
【審査官】奥谷 暢子
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-085986(JP,A)
【文献】Siebert, Walter; Schaper, Klaus J.; Schmidt, Max,Redox studies on iodoboranes. XI. Synthesis and properties of sterically hindered aryldiiodoboranes,Journal of Organometallic Chemistry,1970年,25, 2,315-328
【文献】Weber, Lothar; Domke, Imme; Schmidt, Christian,Syntheses, structures, luminescence and electrochemistry of benzene- and biphenyl-centered bis- and tris-1,3,2-diazaboroles and -1,3,2-diazaborolidines,Dalton Transactions,2006年,2006, 17,2127-2132
【文献】Bluhm, Martin; Pritzkow, Hans; Siebert, Walter; Grimes, Russell N.,Organotransition-metal metallacarboranes. Part 56. Benzene-centered tri- and tetrametallacarborane sandwich complexes,Angewandte Chemie, International Edition,2000年,39, 24,4562-4564
【文献】Odom, J. D.; Moore, T. F.; Goetze, R.; Noeth, H.; Wrackmeyer, B.,Nuclear magnetic resonance studies of boron compounds. XVI. Carbon-13 studies of organoboranes: phenylboranes and boron-substituted aromatic heterocycles,Journal of Organometallic Chemistry,1979年,173, 1,15-32
【文献】Siebert, Walter; Schaper, Klaus-Juergen; Asgarouladi, Bagher,Redox-Studies on Iodoboranes, XV Synthsesis of Diborylarene Compounds,Zeitschrift fuer Naturforschung Teil B,1979年,29b,642-646
【文献】Renk, Thomas; Ruf, Werner; Siebert, Walter,Metallocenylboranes. III. Preparation and properties of ferrocenyl- and cymantrenylboranes,Journal of Organometallic Chemistry,1976年,120, 1,1-25
【文献】Schmalz, S. W.; Haworth, D. T.,A comparative study of the ferrocenyldihaloboranes,Journal of Inorganic and Nuclear Chemistry,1977年,39, 9,1715-1716
【文献】Siebert, Walter; Ruf, Werner; Schaper, Klaus Juergen; Renk, Thomas,Metallocenylboranes. VI. Protonated ferrocenium tetrahaloborates,Journal of Organometallic Chemistry,1977年,128, 2,219-224
【文献】Ruf, W.; Fueller, M.; Siebert, W.,Metalloceneborane. I. Reaction of ferrocene with trihaloboranes,Journal of Organometallic Chemistry,1974年,64, 3,C45-C47
【文献】Wrackmeyer, Bernard; Doerfler, Udo; Herberhold, Max,Synthesis of Polyborylated Ferrocenes,Zeitschrift fuer Naturforschung B: Chemical Sciences,1993年,48, 1,121-123
【文献】Pebler, J.; Ruf, W.; Siebert, W.,On metallocene boranes. Moessbauer studies on ferrocenylboranes,Zeitschrift fuer Anorganische und Allgemeine Chemie,1976年,422, 1,39-42
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07F
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される
二ヨウ化ホウ素化合物または下記一般式(1)で表される構造を複数有する
二ヨウ化ホウ素多量体化合物。
【化1】
(上記式(1)中、
A環、B環およびC環は、それぞれ独立して、アリール環またはヘテロアリール環であり、これらの環における少なくとも1つの水素は置換されていてもよく、
X
1およびX
2は、それぞれ独立して、-O-、>N-R、-S-または-Se-であり、ここで、前記>N-RのRは置換されていてもよいアリール、置換されていてもよいヘテロアリールまたは置換されていてもよいアルキルであり、前記>N-RのRは連結基または単結合により前記A環、B環および/またはC環と結合していてもよく、そして、
式(1)で表される化合物または構造における少なくとも1つの水素は重水素で置換されていてもよい。)
【請求項2】
上記式(1)中、
A環、B環およびC環は、それぞれ独立して、アリール環またはヘテロアリール環であり、これらの環における少なくとも1つの水素は、置換もしくは無置換のアリール、置換もしくは無置換のヘテロアリール、置換もしくは無置換のジアリールアミノ、置換もしくは無置換のジヘテロアリールアミノ、置換もしくは無置換のアリールヘテロアリールアミノ、置換もしくは無置換のアルキル、置換もしくは無置換のアルコキシ、置換もしくは無置換のアリールオキシまたはハロゲンで置換されていてもよく、
X
1およびX
2は、それぞれ独立して、-O-、>N-R、-S-または-Se-であり、ここで、前記>N-RのRはアルキルもしくはハロゲンで置換されていてもよいアリール、アルキルもしくはハロゲンで置換されていてもよいヘテロアリールまたはアルキルもしくはハロゲンで置換されていてもよいアルキルであり、前記>N-RのRは-O-、-S-、>C(-R)
2または単結合により前記A環、B環および/またはC環と結合していてもよく、また、前記>C(-R)
2のRはそれぞれ独立して水素またはアルキルであり、このアルキルにおける少なくとも1つの水素はハロゲンで置換されていてもよく、
式(1)で表される化合物または構造における少なくとも1つの水素は重水素で置換されていてもよく、そして、
前記多量体化合物は2量体化合物または3量体化合物である、
請求項1に記載する二ヨウ化ホウ素化合物または二ヨウ化ホウ素多量体化合物
。
【請求項3】
下記一般式(2)で表される
二ヨウ化ホウ素化合物または下記一般式(2)で表される構造を2つもしくは3つ有する
二ヨウ化ホウ素2量体化合物もしくは
二ヨウ化ホウ素3量体化合物。
【化2】
(上記式(2)中、
R
1~R
11は、それぞれ独立して、水素、アリール、ヘテロアリール、ジアリールアミノ、ジヘテロアリールアミノ、アリールヘテロアリールアミノ、アルキル、アルコキシ、アリールオキシまたはハロゲンであり、これらにおける少なくとも1つの水素はアリール、ヘテロアリール、アルキルまたはハロゲンで置換されていてもよく、また、R
1~R
11のうちの隣接する基同士が結合してa環、b環またはc環と共にアリール環またはヘテロアリール環を形成していてもよく、形成された環における少なくとも1つの水素はアリール、ヘテロアリール、ジアリールアミノ、ジヘテロアリールアミノ、アリールヘテロアリールアミノ、アルキル、アルコキシ、アリールオキシまたはハロゲンで置換されていてもよく、これらにおける少なくとも1つの水素はアリール、ヘテロアリール、アルキルまたはハロゲンで置換されていてもよく、
X
1およびX
2は、それぞれ独立して、-O-、>N-R、-S-または-Se-であり、ここで、前記>N-RのRは炭素数6~12のアリール、炭素数2~15のヘテロアリールまたは炭素数1~6のアルキルであり、これらにおける少なくとも1つの水素はハロゲンで置換されていてもよく、前記>N-RのRは-O-、-S-、>C(-R)
2または単結合により前記a環、b環および/またはc環と結合していてもよく、また、前記>C(-R)
2のRはそれぞれ独立して炭素数1~6のアルキルであり、このアルキルにおける少なくとも1つの水素はハロゲンで置換されていてもよく、そして、
式(2)で表される化合物における少なくとも1つの水素は重水素で置換されていてもよい。)
【請求項4】
上記式(2)中、
R
1~R
11は、それぞれ独立して、水素、炭素数6~30のアリール、炭素数2~30のヘテロアリール、ジアリールアミノ(ただしアリールは炭素数6~12のアリール)またはハロゲンであり、これらにおける少なくとも1つの水素はハロゲンで置換されていてもよく、また、R
1~R
11のうちの隣接する基同士が結合してa環、b環またはc環と共に炭素数9~16のアリール環または炭素数6~15のヘテロアリール環を形成していてもよく、形成された環における少なくとも1つの水素は炭素数6~10のアリールまたはハロゲンで置換されていてもよく、この炭素数6~10のアリールにおける少なくとも1つの水素はハロゲンで置換されていてもよく、
X
1およびX
2は、それぞれ独立して、-O-、>N-Rまたは-S-であり、ここで、前記>N-RのRは炭素数6~10のアリールまたは炭素数1~4のアルキルであり、これらにおける少なくとも1つの水素はハロゲンで置換されていてもよく、そして、
式(2)で表される化合物における少なくとも1つの水素は重水素で置換されていてもよい、
請求項3に記載する二ヨウ化ホウ素化合物または二ヨウ化ホウ素2量体化合物もしくは二ヨウ化ホウ素3量体化合物
。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の化合物中の二ヨウ化ホウ素基「-BI2」が下記いずれかで表されるボロン酸基またはボロン酸エステル基となった、ボロン酸化合物またはボロン酸エステル化合物。
【化3】
(上記各式中、
R21は水素または炭素数1~30のアルキルであり、当該アルキルにおける任意の-CH2-は-O-、-S-、-CO-、>N-Rまたは-SiH2-で置換されていてもよく、任意の-CH2CH2-は-CH=CH-または-C≡C-で置換されていてもよく、少なくとも1つの水素はハロゲンで置換されていてもよく、ここで、前記>N-RのRはアルキルもしくはハロゲンで置換されていてもよいアリール、アルキルもしくはハロゲンで置換されていてもよいヘテロアリールまたはアルキルもしくはハロゲンで置換されていてもよいアルキルであり、そして、
R22は炭素数1~30のアルキレンまたは炭素数6~16のアリーレンであり、前記アルキレンにおける任意の-CH2-は-O-、-S-、-CO-、>N-Rまたは-SiH2-で置換されていてもよく、任意の-CH2CH2-は-CH=CH-または-C≡C-で置換されていてもよく、少なくとも1つの水素はハロゲンで置換されていてもよく、前記アリーレンにおける少なくとも1つの水素は炭素数1~10のアルキルまたはハロゲンで置換されていてもよく、ここで、前記>N-RのRはアルキルもしくはハロゲンで置換されていてもよいアリール、アルキルもしくはハロゲンで置換されていてもよいヘテロアリールまたはアルキルもしくはハロゲンで置換されていてもよいアルキルである。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、有機電界発光素子、有機電界効果トランジスタおよび有機薄膜太陽電池ならびに表示装置および照明装置に用いられる多環芳香族化合物または多環芳香族多量体化合物(以下、多環芳香族化合物等ともいう)を製造することができる二ヨウ化ホウ素化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
有機ホウ素化合物は、有機合成における重要な合成中間体として知られている。その製造方法については、ハロゲン置換基を有する芳香族化合物からグリニャール試薬を調製し、金属交換反応によって製造する例が知られている。
【0003】
このような間接的な製造方法に対して、近年、直接的な製造方法として、イリジウムなどの遷移金属触媒を用いたC-Hホウ素化反応が盛んに研究されている(非特許文献1および2)。
【0004】
また、遷移金属触媒を用いない製造方法としては、三塩化ホウ素を用いて求電子的C-Hホウ素化反応が報告されている(非特許文献3)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】J.F.Hartwig, Chem.Soc.Rev., 2011, 40, 1192
【文献】N.Miyaura, J.F.Hartwig et al, J.Am.Chem.Soc., 2002, 124, 3916
【文献】T.Marcelli, M.J.Ingleson et al., J.Am.Chem.Soc., 2013, 135, 474
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、イリジウムなどの遷移金属触媒を用いた製造方法は、実用に際しては、経済性に課題が残る。また、遷移金属触媒を用いないとしても、三塩化ホウ素を用いた製造方法では、量論量の塩化アルミニウムおよびアミンを用いるため、生成物を有機ボロン酸として得ることは困難である。これは、基本的に有機ボロン酸は精製が難しく、再結晶等の限られた精製方法でしか単離が困難であり、量論量の塩化アルミニウムやアミンを用いると副生成物が多量に生成し、現実的には有機ボロン酸として単離が困難となるためである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討した結果、三ヨウ化ホウ素とブレンステッド塩基を用いた求電子的C-Hホウ素化反応を開発し、種々のアリールボロン酸やそのピナコールエステル(pin)などのボロン酸エステルを簡便に製造することに成功し、本発明を完成するに至った。
【0008】
項1.
下記一般式(Y)で表される二ヨウ化ホウ素化合物。
【化6】
(上記式(Y)中、Arは、n価の、ヘテロアリール環、炭素数10以上のアリール環または置換基を有するベンゼン環であって、これらの環における少なくとも1つの水素は置換されていてもよく、nは1~6の整数であり、そして、上記式(Y)で表される化合物における少なくとも1つの水素は重水素で置換されていてもよい。)
【0009】
項2.
下記一般式(1)で表される化合物または下記一般式(1)で表される構造を複数有する多量体化合物である、項1に記載する二ヨウ化ホウ素化合物。
【化7】
(上記式(1)中、
A環、B環およびC環は、それぞれ独立して、アリール環またはヘテロアリール環であり、これらの環における少なくとも1つの水素は置換されていてもよく、
X
1およびX
2は、それぞれ独立して、-O-、>N-R、-S-または-Se-であり、ここで、前記>N-RのRは置換されていてもよいアリール、置換されていてもよいヘテロアリールまたは置換されていてもよいアルキルであり、前記>N-RのRは連結基または単結合により前記A環、B環および/またはC環と結合していてもよく、そして、
式(1)で表される化合物または構造における少なくとも1つの水素は重水素で置換されていてもよい。)
【0010】
項3.
上記式(1)中、
A環、B環およびC環は、それぞれ独立して、アリール環またはヘテロアリール環であり、これらの環における少なくとも1つの水素は、置換もしくは無置換のアリール、置換もしくは無置換のヘテロアリール、置換もしくは無置換のジアリールアミノ、置換もしくは無置換のジヘテロアリールアミノ、置換もしくは無置換のアリールヘテロアリールアミノ、置換もしくは無置換のアルキル、置換もしくは無置換のアルコキシ、置換もしくは無置換のアリールオキシまたはハロゲンで置換されていてもよく、
X1およびX2は、それぞれ独立して、-O-、>N-R、-S-または-Se-であり、ここで、前記>N-RのRはアルキルもしくはハロゲンで置換されていてもよいアリール、アルキルもしくはハロゲンで置換されていてもよいヘテロアリールまたはアルキルもしくはハロゲンで置換されていてもよいアルキルであり、前記>N-RのRは-O-、-S-、>C(-R)2または単結合により前記A環、B環および/またはC環と結合していてもよく、また、前記>C(-R)2のRはそれぞれ独立して水素またはアルキルであり、このアルキルにおける少なくとも1つの水素はハロゲンで置換されていてもよく、
式(1)で表される化合物または構造における少なくとも1つの水素は重水素で置換されていてもよく、そして、
前記多量体化合物は2量体化合物または3量体化合物である、
項2に記載する二ヨウ化ホウ素化合物。
【0011】
項4.
下記一般式(2)で表される化合物または下記一般式(2)で表される構造を2つもしくは3つ有する2量体化合物もしくは3量体化合物である、項1に記載する二ヨウ化ホウ素化合物。
【化8】
(上記式(2)中、
R
1~R
11は、それぞれ独立して、水素、アリール、ヘテロアリール、ジアリールアミノ、ジヘテロアリールアミノ、アリールヘテロアリールアミノ、アルキル、アルコキシ、アリールオキシまたはハロゲンであり、これらにおける少なくとも1つの水素はアリール、ヘテロアリール、アルキルまたはハロゲンで置換されていてもよく、また、R
1~R
11のうちの隣接する基同士が結合してa環、b環またはc環と共にアリール環またはヘテロアリール環を形成していてもよく、形成された環における少なくとも1つの水素はアリール、ヘテロアリール、ジアリールアミノ、ジヘテロアリールアミノ、アリールヘテロアリールアミノ、アルキル、アルコキシ、アリールオキシまたはハロゲンで置換されていてもよく、これらにおける少なくとも1つの水素はアリール、ヘテロアリール、アルキルまたはハロゲンで置換されていてもよく、
X
1およびX
2は、それぞれ独立して、-O-、>N-R、-S-または-Se-であり、ここで、前記>N-RのRは炭素数6~12のアリール、炭素数2~15のヘテロアリールまたは炭素数1~6のアルキルであり、これらにおける少なくとも1つの水素はハロゲンで置換されていてもよく、前記>N-RのRは-O-、-S-、>C(-R)
2または単結合により前記a環、b環および/またはc環と結合していてもよく、また、前記>C(-R)
2のRはそれぞれ独立して炭素数1~6のアルキルであり、このアルキルにおける少なくとも1つの水素はハロゲンで置換されていてもよく、そして、
式(2)で表される化合物における少なくとも1つの水素は重水素で置換されていてもよい。)
【0012】
項5.
上記式(2)中、
R1~R11は、それぞれ独立して、水素、炭素数6~30のアリール、炭素数2~30のヘテロアリール、ジアリールアミノ(ただしアリールは炭素数6~12のアリール)またはハロゲンであり、これらにおける少なくとも1つの水素はハロゲンで置換されていてもよく、また、R1~R11のうちの隣接する基同士が結合してa環、b環またはc環と共に炭素数9~16のアリール環または炭素数6~15のヘテロアリール環を形成していてもよく、形成された環における少なくとも1つの水素は炭素数6~10のアリールまたはハロゲンで置換されていてもよく、この炭素数6~10のアリールにおける少なくとも1つの水素はハロゲンで置換されていてもよく、
X1およびX2は、それぞれ独立して、-O-、>N-Rまたは-S-であり、ここで、前記>N-RのRは炭素数6~10のアリールまたは炭素数1~4のアルキルであり、これらにおける少なくとも1つの水素はハロゲンで置換されていてもよく、そして、
式(2)で表される化合物における少なくとも1つの水素は重水素で置換されていてもよい、
項4に記載する二ヨウ化ホウ素化合物。
【0013】
項6.
上記式(Y)中、
Arは、n価の、ベンゼン環、トリフェニルアミン環、ナフタレン環、テトラヒドロナフタレン環、アントラセン環、ピレン環、トリフェニレン環、クリセン環、ペリレン環またはフェロセン環であって、これらの環における少なくとも1つの水素は炭素数1~6のアルキルで置換されていてもよく、そして、
nは1~4の整数である、
項1に記載する二ヨウ化ホウ素化合物。
【0014】
項7.
Ar’をブレンステッド塩基の存在下で三ヨウ化ホウ素と反応させることで、下記一般式(Y)で表される二ヨウ化ホウ素化合物を製造する方法。
【化9】
(Ar’は、ヘテロアリール環、炭素数10以上のアリール環または置換基を有するベンゼン環であって、これらの環における少なくとも1つの水素は置換されていてもよく、
上記式(Y)中、Arは、n価の、ヘテロアリール環、炭素数10以上のアリール環または置換基を有するベンゼン環であって、これらの環における少なくとも1つの水素は置換されていてもよく、nは1~6の整数であり、そして、上記式(Y)で表される化合物における少なくとも1つの水素は重水素で置換されていてもよい。)
【0015】
項8.
下記一般式(Y)で表される二ヨウ化ホウ素化合物に、水、アルコールまたはジオールもしくはジカルボン酸を反応させることで、下記一般式(Y’-1)で表されるボロン酸化合物もしくはボロン酸エステル化合物または下記一般式(Y’-2)で表されるボロン酸エステル化合物を製造する方法。
【化10】
(上記各式中、
Arは、n価の、ヘテロアリール環、炭素数10以上のアリール環または置換基を有するベンゼン環であって、これらの環における少なくとも1つの水素は置換されていてもよく、nは1~6の整数であり、
R
21は水素または炭素数1~30のアルキルであり、当該アルキルにおける任意の-CH
2-は-O-、-S-、-CO-、>N-Rまたは-SiH
2-で置換されていてもよく、任意の-CH
2CH
2-は-CH=CH-または-C≡C-で置換されていてもよく、少なくとも1つの水素はハロゲンで置換されていてもよく、ここで、前記>N-RのRはアルキルもしくはハロゲンで置換されていてもよいアリール、アルキルもしくはハロゲンで置換されていてもよいヘテロアリールまたはアルキルもしくはハロゲンで置換されていてもよいアルキルであり、
R
22は炭素数1~30のアルキレンまたは炭素数6~16のアリーレンであり、前記アルキレンにおける任意の-CH
2-は-O-、-S-、-CO-、>N-Rまたは-SiH
2-で置換されていてもよく、任意の-CH
2CH
2-は-CH=CH-または-C≡C-で置換されていてもよく、少なくとも1つの水素はハロゲンで置換されていてもよく、前記アリーレンにおける少なくとも1つの水素は炭素数1~10のアルキルまたはハロゲンで置換されていてもよく、ここで、前記>N-RのRはアルキルもしくはハロゲンで置換されていてもよいアリール、アルキルもしくはハロゲンで置換されていてもよいヘテロアリールまたはアルキルもしくはハロゲンで置換されていてもよいアルキルであり、そして、
上記式(Y)で表される化合物、式(Y’-1)で表される化合物および式(Y’-2)で表される化合物における少なくとも1つの水素は重水素で置換されていてもよい。)
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る二ヨウ化ホウ素化合物は、従来のグリニャール試薬等を用いた間接的な製造方法および直接的であっても高価な遷移金属触媒などを用いた製造方法などに比べて極めて簡便な方法で製造することができ、またそれから得られるボロン酸およびボロン酸エステルはその後、種々の芳香族系化合物を製造するのに重要な化合物である。本発明では、このような重要な化合物およびその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本実施形態に係る有機EL素子を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
1.本発明の概要
本発明を概略的に説明すると、まず、所定のアリールまたはヘテロアリールであるAr’をブレンステッド塩基の存在下で三ヨウ化ホウ素と反応させることで、下記一般式(Y)で表される二ヨウ化ホウ素化合物を製造することができる。さらに、この二ヨウ化ホウ素化合物に、水、アルコールまたはジオールを反応させることで、下記一般式(Y’-1)で表されるボロン酸化合物もしくはボロン酸エステル化合物または下記一般式(Y’-2)で表されるボロン酸エステル化合物を製造することができる。なお、下記式中の符号は上で定義するとおりである。
【0019】
【0020】
また、本発明に係る二ヨウ化ホウ素化合物は、ボロン酸化合物またはボロン酸エステル化合物以外にも、フッ化ホウ素化合物(およびその塩)などの様々な化合物を製造するための出発物質として使用することができる。
【0021】
二ヨウ化ホウ素化合物としては、例えば、下記一般式(1)または(2)で表される化合物および下記一般式(1)または(2)で表される構造を複数有する多量体化合物が挙げられる。しかしながら、本発明の特徴の一つは、アリールまたはヘテロアリールであるAr’に簡便な方法で導入された二ヨウ化ホウ素基にあり、Ar’としては式(1)や式(2)で表される構造に特に限定されない。なお、下記式中の符号は上で定義するとおりである。
【0022】
【0023】
2.一般式(Y)の二ヨウ化ホウ素化合物
本発明は下記一般式(Y)で表される二ヨウ化ホウ素化合物である。
【化13】
(上記式(Y)中、Arは、n価の、ヘテロアリール環、炭素数10以上のアリール環または置換基を有するベンゼン環であって、これらの環における少なくとも1つの水素は置換されていてもよく、nは1~6の整数であり、そして、上記式(Y)で表される化合物における少なくとも1つの水素は重水素で置換されていてもよい。)
【0024】
一般式(Y)中のArである「炭素数10以上のアリール環」としては、例えば、炭素数10~30のアリール環が挙げられ、炭素数10~16のアリール環が好ましく、炭素数10~12のアリール環がより好ましく、炭素数10のアリール環が特に好ましい。
【0025】
また、「置換基を有するベンゼン環」とは、単なるベンゼン環ではなく必ず置換基を有し、置換基としては炭素数1~4のアルキルが挙げられ、具体的には、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、s-ブチル、t-ブチルなどである。置換基の数は1~3個であり、好ましくは1個であるが、置換基がメチル基の場合には置換基数は2個または3個である。
【0026】
具体的な「アリール環」としては、単環系であるベンゼン環(ただし、キシレン環などのように必ず置換基を有する)、二環系であるビフェニル環、縮合二環系であるナフタレン環、テトラヒドロナフタレン環、インデン環、インダン環、アズレン環、ヘプタレン環、三環系であるテルフェニル環(m-テルフェニル、o-テルフェニル、p-テルフェニル)、縮合三環系である、アントラセン環、アセナフチレン環、フルオレン環、フェナレン環、フェナントレン環、ビフェニレン環、as-インダセン環、s-インダセン環、縮合四環系であるトリフェニレン環、ピレン環、ナフタセン環、クリセン環、フルオランテン環、アセフェナントリレン環、アセアントリレン環、プレイアデン環、縮合五環系であるペリレン環、ペンタセン環、ピセン環、ペンタフェン環、縮合六環系以上のアリール環であるジベンゾクリセン環、コロネン環、アンタントレン環、1.12-ベンゾペリレン環、サーキュレン環、スマネン環、コランニュレン環、ヘリセン環、ヘプタセン環、ヘキサセン環、ケクレン環、オバレン環、ゼトレン環などが挙げられる。
【0027】
一般式(Y)中のArである「ヘテロアリール環」としては、例えば、炭素数2~30のヘテロアリール環が挙げられ、炭素数2~25のヘテロアリール環が好ましく、炭素数2~20のヘテロアリール環がより好ましく、炭素数2~15のヘテロアリール環がさらに好ましく、炭素数2~10のヘテロアリール環が特に好ましい。また、「ヘテロアリール環」としては、例えば環構成原子として炭素以外に酸素、硫黄、窒素および鉄などの金属元素から選ばれるヘテロ原子を1ないし5個含有する複素環などが挙げられる。
【0028】
具体的な「ヘテロアリール環」としては、例えば、ピロール環、オキサゾール環、イソオキサゾール環、チアゾール環、イソチアゾール環、イミダゾール環、オキサジアゾール環、チアジアゾール環、トリアゾール環、テトラゾール環、ピラゾール環、ピリジン環、ピリミジン環、ピリダジン環、ピラジン環、トリアジン環、ピラン環、インドール環、イソインドール環、1H-インダゾール環、ベンゾイミダゾール環、ベンゾオキサゾール環、ベンゾチアゾール環、1H-ベンゾトリアゾール環、キノリン環、イソキノリン環、シンノリン環、キナゾリン環、キノキサリン環、フタラジン環、ナフチリジン環、プリン環、プテリジン環、カルバゾール環、アクリジン環、フェノキサチイン環、フェノキサジン環、フェノチアジン環、フェナジン環、インドリジン環、フラン環、ベンゾフラン環、イソベンゾフラン環、ジベンゾフラン環、ナフトベンゾフラン環、ジナフトフラン環、チオフェン環、ベンゾチオフェン環、ジベンゾチオフェン環、ナフトベンゾチオフェン環、ジナフトチオフェン環、キサンテン環、ベンゾチエノベンゾチオフェン環、フラザン環、オキサジアゾール環、チアントレン環、フェロセン環などが挙げられる。
【0029】
上記「アリール環」または「ヘテロアリール環」における少なくとも1つの水素は置換されていてもよく、例えば、置換もしくは無置換の「アリール」、置換もしくは無置換の「ヘテロアリール」、置換もしくは無置換の「ジアリールアミノ」、置換もしくは無置換の「ジヘテロアリールアミノ」、置換もしくは無置換の「アリールヘテロアリールアミノ」、置換もしくは無置換の「アルキル」、置換もしくは無置換の「アルコキシ」、置換もしくは無置換の「アリールオキシ」、置換もしくは無置換の「アリールチオ」、置換もしくは無置換の「アリールセレノ」、または、ハロゲンで置換されていてもよいが、この第1の置換基としての「アリール」や「ヘテロアリール」、「ジアリールアミノ」のアリール、「ジヘテロアリールアミノ」のヘテロアリール、「アリールヘテロアリールアミノ」のアリールとヘテロアリール、また「アリールオキシ」、「アリールチオ」および「アリールセレノ」のアリールとしては上述した「アリール環」または「ヘテロアリール環」の一価の基が挙げられる。
【0030】
また第1の置換基としての「アルキル」としては、直鎖および分岐鎖のいずれでもよく、例えば、炭素数1~24の直鎖アルキルまたは炭素数3~24の分岐鎖アルキルが挙げられる。炭素数1~18のアルキル(炭素数3~18の分岐鎖アルキル)が好ましく、炭素数1~12のアルキル(炭素数3~12の分岐鎖アルキル)がより好ましく、炭素数1~6のアルキル(炭素数3~6の分岐鎖アルキル)がさらに好ましく、炭素数1~4のアルキル(炭素数3~4の分岐鎖アルキル)が特に好ましい。
【0031】
具体的な「アルキル」としては、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、s-ブチル、t-ブチル、n-ペンチル、イソペンチル、ネオペンチル、t-ペンチル、n-ヘキシル、1-メチルペンチル、4-メチル-2-ペンチル、3,3-ジメチルブチル、2-エチルブチル、n-ヘプチル、1-メチルヘキシル、n-オクチル、t-オクチル、1-メチルヘプチル、2-エチルヘキシル、2-プロピルペンチル、n-ノニル、2,2-ジメチルヘプチル、2,6-ジメチル-4-ヘプチル、3,5,5-トリメチルヘキシル、n-デシル、n-ウンデシル、1-メチルデシル、n-ドデシル、n-トリデシル、1-ヘキシルヘプチル、n-テトラデシル、n-ペンタデシル、n-ヘキサデシル、n-ヘプタデシル、n-オクタデシル、n-エイコシルなどが挙げられる。
【0032】
また第1の置換基としての「アルコキシ」としては、例えば、炭素数1~24の直鎖または炭素数3~24の分岐鎖のアルコキシが挙げられる。炭素数1~18のアルコキシ(炭素数3~18の分岐鎖のアルコキシ)が好ましく、炭素数1~12のアルコキシ(炭素数3~12の分岐鎖のアルコキシ)がより好ましく、炭素数1~6のアルコキシ(炭素数3~6の分岐鎖のアルコキシ)がさらに好ましく、炭素数1~4のアルコキシ(炭素数3~4の分岐鎖のアルコキシ)が特に好ましい。
【0033】
具体的な「アルコキシ」としては、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、イソプロポキシ、ブトキシ、イソブトキシ、s-ブトキシ、t-ブトキシ、ペンチルオキシ、ヘキシルオキシ、ヘプチルオキシ、オクチルオキシなどが挙げられる。
【0034】
また第1の置換基としての「ハロゲン」としては、フッ素、塩素、臭素またはヨウ素が挙げられる。
【0035】
第1の置換基である、置換もしくは無置換の「アリール」、置換もしくは無置換の「ヘテロアリール」、置換もしくは無置換の「ジアリールアミノ」、置換もしくは無置換の「ジヘテロアリールアミノ」、置換もしくは無置換の「アリールヘテロアリールアミノ」、置換もしくは無置換の「アルキル」、置換もしくは無置換の「アルコキシ」、置換もしくは無置換の「アリールオキシ」、置換もしくは無置換の「アリールチオ」、または、置換もしくは無置換の「アリールセレノ」は、置換もしくは無置換と説明されているとおり、それらにおける少なくとも1つの水素が第2の置換基で置換されていてもよい。この第2の置換基としては、例えば、アリール、ヘテロアリール、アルキルまたはハロゲンが挙げられ、それらの具体的な基は、上述した「アリール環」または「ヘテロアリール環」の一価の基、また第1の置換基としての「アルキル」や「ハロゲン」の説明を参照することができる。また、第2の置換基としてのアリールやヘテロアリールには、それらにおける少なくとも1つの水素がフェニルなどのアリール(具体例は上述した基)やメチルなどのアルキル(具体例は上述した基)で置換された基も第2の置換基としてのアリールやヘテロアリールに含まれる。その一例としては、第2の置換基がカルバゾリル基の場合には、9位における少なくとも1つの水素がフェニルなどのアリールやメチルなどのアルキルで置換されたカルバゾリル基も第2の置換基としてのヘテロアリールに含まれる。
【0036】
一般式(Y)中のnは1~6の整数であり、好ましくは1~5の整数、より好ましくは1~4の整数、さらに好ましくは1~3の整数、特に好ましくは1または2、最も好ましくは1である。ただし、nが示す二ヨウ化ホウ素基の数は、その後の反応で生成するボロン酸基やボロン酸エステル基の数であるため、最終的にどのような化合物を製造するかに応じてその数は適宜変更することができる。
【0037】
3.一般式(1)または式(2)の二ヨウ化ホウ素化合物
上記式(Y)の二ヨウ化ホウ素化合物の具体例としては、例えば、下記一般式(1)で表される化合物および下記一般式(1)で表される構造を複数有する多量体化合物が挙げられる。なお、多量体化合物は多量化の数や多量化の態様により化合物構造が異なるため、下記構造は一例である。また、各式中の符号は上で定義するとおりである。
【0038】
【0039】
また、式(1)で表される化合物およびその多量体化合物の好ましい具体例としては、下記一般式(2)で表される化合物、または下記一般式(2)で表される構造を複数有する多量体化合物が挙げられる。なお、各式中の符号は上で定義するとおりである。
【0040】
【0041】
一般式(1)におけるA環、B環およびC環は、それぞれ独立して、アリール環またはヘテロアリール環であり、これらの環における少なくとも1つの水素は置換基で置換されていてもよい。この置換基は、置換もしくは無置換のアリール、置換もしくは無置換のヘテロアリール、置換もしくは無置換のジアリールアミノ、置換もしくは無置換のジヘテロアリールアミノ、置換もしくは無置換のアリールヘテロアリールアミノ(アリールとヘテロアリールを有するアミノ基)、置換もしくは無置換のアルキル、置換もしくは無置換のアルコキシ、置換もしくは無置換のアリールオキシまたはハロゲンが好ましい。これらの基が置換基を有する場合の置換基としては、アリール、ヘテロアリール、アルキルまたはハロゲンが挙げられる。
【0042】
また、A環、B環およびC環は、それぞれ独立して、別の環で縮合されていてもよい5員環または6員環であることが好ましい。一般式(2)の構造は、A環、B環およびC環がベンゼン環(6員環)になった例である。ただし後述するように、R1~R11のうちの隣接する基同士は結合してa環、b環またはc環と共にアリール環またはヘテロアリール環を形成していてもよいため、当該ベンゼン環は別の環が縮合した構造になることもあり得る。
【0043】
一般式(1)におけるA環(またはB環、C環)は、一般式(2)におけるa環とその置換基R1~R3(またはb環とその置換基R8~R11、c環とその置換基R4~R7)に対応する。その意味で、一般式(2)の各環を小文字のa~cで表した。
【0044】
一般式(2)では、a環、b環およびc環の置換基R1~R11のうちの隣接する基同士が結合してa環、b環またはc環と共にアリール環またはヘテロアリール環を形成していてもよく、形成された環における少なくとも1つの水素はアリール、ヘテロアリール、ジアリールアミノ、ジヘテロアリールアミノ、アリールヘテロアリールアミノ、アルキル、アルコキシ、アリールオキシまたはハロゲンで置換されていてもよく、これらにおける少なくとも1つの水素はアリール、ヘテロアリール、アルキルまたはハロゲンで置換されていてもよい。したがって、一般式(2)で表される化合物は、a環、b環およびc環における置換基の相互の結合形態によって、下記式(2-1)および式(2-2)に示すように、化合物を構成する環構造が変化する。各式中のA’環、B’環およびC’環は、一般式(1)におけるそれぞれA環、B環およびC環に対応する。なお、各式中の符号は上で定義するとおりである。
【0045】
【0046】
上記式(2-1)および式(2-2)中のA’環、B’環およびC’環は、一般式(2)で説明すれば、置換基R1~R11のうちの隣接する基同士が結合して、それぞれa環、b環およびc環と共に形成したアリール環またはヘテロアリール環を示す(a環、b環またはc環に他の環構造が縮合してできた縮合環ともいえる)。なお、式では示してはいないが、a環、b環およびc環の全てがA’環、B’環およびC’環に変化した化合物もある。また、上記式(2-1)および式(2-2)から分かるように、例えば、b環のR8とc環のR7、b環のR11とa環のR1、c環のR4とa環のR3などは「隣接する基同士」には該当せず、これらが結合することはない。すなわち、「隣接する基」とは同一環上で隣接する基を意味する。
【0047】
上記式(2-1)や式(2-2)で表される化合物は、例えば後述する具体的化合物として列挙した式(1-3-323)~(1-3-391)で表されるような化合物に対応する。すなわち、例えばa環(またはb環またはc環)であるベンゼン環に対してベンゼン環、インドール環、ピロール環、ベンゾフラン環またはベンゾチオフェン環などが縮合して形成されるA’環(またはB’環またはC’環)を有する化合物であり、形成されてできた縮合環A’(または縮合環B’または縮合環C’)はそれぞれナフタレン環、カルバゾール環、インドール環、ジベンゾフラン環またはジベンゾチオフェン環などである。
【0048】
一般式(1)におけるX1およびX2は、それぞれ独立して、-O-、>N-R、-S-または-Se-であり、前記>N-RのRは置換されていてもよいアリール、置換されていてもよいヘテロアリールまたは置換されていてもよいアルキルであり、前記>N-RのRは連結基または単結合により前記A環、B環および/またはC環と結合していてもよく、連結基としては、-O-、-S-または>C(-R)2が好ましい。なお、前記「>C(-R)2」のRはそれぞれ独立して水素またはアルキルであり、このアルキルにおける少なくとも1つの水素はハロゲンで置換されていてもよい。この説明は一般式(2)におけるX1およびX2でも同じである。
【0049】
ここで、一般式(1)における「>N-RのRは連結基または単結合により前記A環、B環および/またはC環と結合している」との規定は、一般式(2)では「>N-RのRは-O-、-S-、>C(-R)2または単結合により前記a環、b環および/またはc環と結合している」との規定に対応する。
この規定は、下記式(2-3-1)で表される、X1やX2が縮合環B’および縮合環C’に取り込まれた環構造を有する化合物で表現できる。すなわち、例えば一般式(2)におけるb環(またはc環)であるベンゼン環に対してX1(またはX2)を取り込むようにして他の環が縮合して形成されるB’環(またはC’環)を有する化合物である。形成されてできた縮合環B’(または縮合環C’)は例えばフェノキサジン環、フェノチアジン環またはアクリジン環である。
また、上記規定は、下記式(2-3-2)や式(2-3-3)で表される、X1および/またはX2が縮合環A’に取り込まれた環構造を有する化合物でも表現できる。すなわち、例えば一般式(2)におけるa環であるベンゼン環に対してX1(および/またはX2)を取り込むようにして他の環が縮合して形成されるA’環を有する化合物である。形成されてできた縮合環A’は例えばフェノキサジン環、フェノチアジン環またはアクリジン環である。
なお、各式中の符号は上で定義するとおりである。
【0050】
【0051】
一般式(1)のA環、B環およびC環である「アリール環」としては、例えば、炭素数6~30のアリール環が挙げられ、炭素数6~16のアリール環が好ましく、炭素数6~12のアリール環がより好ましく、炭素数6~10のアリール環が特に好ましい。なお、この「アリール環」は、一般式(2)で規定された「R1~R11のうちの隣接する基同士が結合してa環、b環またはc環と共に形成されたアリール環」に対応し、また、a環(またはb環、c環)がすでに炭素数6のベンゼン環で構成されているため、これに5員環が縮合した縮合環の合計炭素数9が下限の炭素数となる。
【0052】
具体的な「アリール環」としては、単環系であるベンゼン環、二環系であるビフェニル環、縮合二環系であるナフタレン環、三環系であるテルフェニル環(m-テルフェニル、o-テルフェニル、p-テルフェニル)、縮合三環系である、アントラセン環、アセナフチレン環、フルオレン環、フェナレン環、フェナントレン環、縮合四環系であるトリフェニレン環、ピレン環、ナフタセン環、クリセン環、縮合五環系であるペリレン環、ペンタセン環などが挙げられる。
【0053】
一般式(1)のA環、B環およびC環である「ヘテロアリール環」としては、例えば、炭素数2~30のヘテロアリール環が挙げられ、炭素数2~25のヘテロアリール環が好ましく、炭素数2~20のヘテロアリール環がより好ましく、炭素数2~15のヘテロアリール環がさらに好ましく、炭素数2~10のヘテロアリール環が特に好ましい。また、「ヘテロアリール環」としては、例えば環構成原子として炭素以外に酸素、硫黄および窒素から選ばれるヘテロ原子を1ないし5個含有する複素環などが挙げられる。なお、この「ヘテロアリール環」は、一般式(2)で規定された「R1~R11のうちの隣接する基同士が結合してa環、b環またはc環と共に形成されたヘテロアリール環」に対応し、また、a環(またはb環、c環)がすでに炭素数6のベンゼン環で構成されているため、これに5員環が縮合した縮合環の合計炭素数6が下限の炭素数となる。
【0054】
具体的な「ヘテロアリール環」としては、例えば、ピロール環、オキサゾール環、イソオキサゾール環、チアゾール環、イソチアゾール環、イミダゾール環、オキサジアゾール環、チアジアゾール環、トリアゾール環、テトラゾール環、ピラゾール環、ピリジン環、ピリミジン環、ピリダジン環、ピラジン環、トリアジン環、インドール環、イソインドール環、1H-インダゾール環、ベンゾイミダゾール環、ベンゾオキサゾール環、ベンゾチアゾール環、1H-ベンゾトリアゾール環、キノリン環、イソキノリン環、シンノリン環、キナゾリン環、キノキサリン環、フタラジン環、ナフチリジン環、プリン環、プテリジン環、カルバゾール環、アクリジン環、フェノキサチイン環、フェノキサジン環、フェノチアジン環、フェナジン環、インドリジン環、フラン環、ベンゾフラン環、イソベンゾフラン環、ジベンゾフラン環、チオフェン環、ベンゾチオフェン環、ジベンゾチオフェン環、フラザン環、オキサジアゾール環、チアントレン環などが挙げられる。
【0055】
上記「アリール環」または「ヘテロアリール環」における少なくとも1つの水素は、第1の置換基である、置換もしくは無置換の「アリール」、置換もしくは無置換の「ヘテロアリール」、置換もしくは無置換の「ジアリールアミノ」、置換もしくは無置換の「ジヘテロアリールアミノ」、置換もしくは無置換の「アリールヘテロアリールアミノ」、置換もしくは無置換の「アルキル」、置換もしくは無置換の「アルコキシ」、置換もしくは無置換の「アリールオキシ」、または、ハロゲンで置換されていてもよいが、この第1の置換基としての「アリール」や「ヘテロアリール」、「ジアリールアミノ」のアリール、「ジヘテロアリールアミノ」のヘテロアリール、「アリールヘテロアリールアミノ」のアリールとヘテロアリール、また「アリールオキシ」のアリールとしては上述した「アリール環」または「ヘテロアリール環」の一価の基が挙げられる。
【0056】
また第1の置換基としての「アルキル」としては、直鎖および分岐鎖のいずれでもよく、例えば、炭素数1~24の直鎖アルキルまたは炭素数3~24の分岐鎖アルキルが挙げられる。炭素数1~18のアルキル(炭素数3~18の分岐鎖アルキル)が好ましく、炭素数1~12のアルキル(炭素数3~12の分岐鎖アルキル)がより好ましく、炭素数1~6のアルキル(炭素数3~6の分岐鎖アルキル)がさらに好ましく、炭素数1~4のアルキル(炭素数3~4の分岐鎖アルキル)が特に好ましい。
【0057】
具体的なアルキルとしては、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、s-ブチル、t-ブチル、n-ペンチル、イソペンチル、ネオペンチル、t-ペンチル、n-ヘキシル、1-メチルペンチル、4-メチル-2-ペンチル、3,3-ジメチルブチル、2-エチルブチル、n-ヘプチル、1-メチルヘキシル、n-オクチル、t-オクチル、1-メチルヘプチル、2-エチルヘキシル、2-プロピルペンチル、n-ノニル、2,2-ジメチルヘプチル、2,6-ジメチル-4-ヘプチル、3,5,5-トリメチルヘキシル、n-デシル、n-ウンデシル、1-メチルデシル、n-ドデシル、n-トリデシル、1-ヘキシルヘプチル、n-テトラデシル、n-ペンタデシル、n-ヘキサデシル、n-ヘプタデシル、n-オクタデシル、n-エイコシルなどが挙げられる。
【0058】
また第1の置換基としての「アルコキシ」としては、例えば、炭素数1~24の直鎖または炭素数3~24の分岐鎖のアルコキシが挙げられる。炭素数1~18のアルコキシ(炭素数3~18の分岐鎖のアルコキシ)が好ましく、炭素数1~12のアルコキシ(炭素数3~12の分岐鎖のアルコキシ)がより好ましく、炭素数1~6のアルコキシ(炭素数3~6の分岐鎖のアルコキシ)がさらに好ましく、炭素数1~4のアルコキシ(炭素数3~4の分岐鎖のアルコキシ)が特に好ましい。
【0059】
具体的なアルコキシとしては、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、イソプロポキシ、ブトキシ、イソブトキシ、s-ブトキシ、t-ブトキシ、ペンチルオキシ、ヘキシルオキシ、ヘプチルオキシ、オクチルオキシなどが挙げられる。
【0060】
また第1の置換基としての「ハロゲン」としては、フッ素、塩素、臭素またはヨウ素が挙げられる。
【0061】
第1の置換基である、置換もしくは無置換の「アリール」、置換もしくは無置換の「ヘテロアリール」、置換もしくは無置換の「ジアリールアミノ」、置換もしくは無置換の「ジヘテロアリールアミノ」、置換もしくは無置換の「アリールヘテロアリールアミノ」、置換もしくは無置換の「アルキル」、置換もしくは無置換の「アルコキシ」、または、置換もしくは無置換の「アリールオキシ」は、置換もしくは無置換と説明されているとおり、それらにおける少なくとも1つの水素が第2の置換基で置換されていてもよい。この第2の置換基としては、例えば、アリール、ヘテロアリール、アルキルまたはハロゲンが挙げられ、それらの具体的な基は、上述した「アリール環」または「ヘテロアリール環」の一価の基、また第1の置換基としての「アルキル」や「ハロゲン」の説明を参照することができる。また、第2の置換基としてのアリールやヘテロアリールには、それらにおける少なくとも1つの水素がフェニルなどのアリール(具体例は上述した基)やメチルなどのアルキル(具体例は上述した基)で置換された基も第2の置換基としてのアリールやヘテロアリールに含まれる。その一例としては、第2の置換基がカルバゾリル基の場合には、9位における少なくとも1つの水素がフェニルなどのアリールやメチルなどのアルキルで置換されたカルバゾリル基も第2の置換基としてのヘテロアリールに含まれる。
【0062】
一般式(2)のR1~R11におけるアリール、ヘテロアリール、ジアリールアミノのアリール、ジヘテロアリールアミノのヘテロアリール、アリールヘテロアリールアミノのアリールとヘテロアリール、アリールオキシのアリールまたはハロゲンとしては、一般式(1)で説明した「アリール環」または「ヘテロアリール環」の一価の基が挙げられる。また、R1~R11におけるアルキル、アルコキシまたはハロゲンとしては、上述した一般式(1)の説明における第1の置換基としての「アルキル」、「アルコキシ」または「ハロゲン」の説明を参照することができる。さらに、これらの基への置換基としてのアリール、ヘテロアリール、アルキルまたはハロゲンも同様である。また、R1~R11のうちの隣接する基同士が結合してa環、b環またはc環と共にアリール環またはヘテロアリール環を形成した場合の、これらの環への置換基であるヘテロアリール、ジアリールアミノ、ジヘテロアリールアミノ、アリールヘテロアリールアミノ、アルキル、アルコキシ、アリールオキシまたはハロゲン、および、さらなる置換基であるアリール、ヘテロアリール、アルキルまたはハロゲンについても同様である。
【0063】
一般式(1)のX1およびX2における>N-RのRは上述した第2の置換基で置換されていてもよいアリール、ヘテロアリールまたはアルキルであり、アリール、ヘテロアリールまたはアルキルにおける少なくとも1つの水素は例えばアルキルやハロゲンで置換されていてもよい。このアリール、ヘテロアリール、アルキルおよびハロゲンとしては上述する基が挙げられる。特に炭素数6~10のアリール(例えばフェニル、ナフチルなど)、炭素数2~15のヘテロアリール(例えばカルバゾリルなど)、炭素数1~4のアルキル(例えばメチル、エチルなど)が好ましい。この説明は一般式(2)におけるX1およびX2でも同じである。
【0064】
一般式(1)における連結基である「>C(-R)2」のRはそれぞれ独立して水素またはアルキルであり、このアルキルにおける少なくとも1つの水素はハロゲンで置換されていてもよいが、このアルキルやハロゲンとしては上述する基が挙げられる。アルキルとしては特に炭素数1~4のアルキル(例えばメチル、エチルなど)が好ましい。この説明は一般式(2)における連結基である「>C(-R)2」でも同じである。
【0065】
また、本発明に係る二ヨウ化ホウ素化合物の具体例は、一般式(1)で表される単位構造を複数有する多量体化合物、好ましくは、一般式(2)で表される単位構造を複数有する多量体化合物である。多量体化合物は、2~6量体が好ましく、2~3量体がより好ましく、2量体が特に好ましい。多量体化合物は、一つの化合物の中に上記単位構造を複数有する形態であればよく、例えば、上記単位構造が単結合、炭素数1~3のアルキレン基、フェニレン基、ナフチレン基などの連結基で複数結合した形態(例えば後述する式(1-1-223)、式(1-1-226)で表されるような化合物に対応)に加えて、上記単位構造に含まれる任意の環(A環、B環またはC環、a環、b環またはc環)を複数の単位構造で共有するようにして結合した形態であってもよく、また、上記単位構造に含まれる任意の環(A環、B環またはC環、a環、b環またはc環)同士が縮合するようにして結合した形態であってもよい。
【0066】
このような多量体化合物としては、例えば、下記式(2-4)、式(2-4-1)、式(2-4-2)、式(2-5-1)~式(2-5-4)または式(2-6)で表される多量体化合物が挙げられる。具体的には、例えば後述する式(1-1-224)、式(1-1-225)、式(1-1-227)、式(1-1-228)で表されるような化合物に対応する。下記式(2-4)で表される多量体化合物は、一般式(2)で説明すれば、a環であるベンゼン環を共有するようにして、複数の一般式(2)で表される単位構造を一つの化合物中に有する多量体化合物である。より具体的に、下記式(2-4-1)で表される多量体化合物は、一般式(2)で説明すれば、a環であるベンゼン環を共有するようにして、二つの一般式(2)で表される単位構造を一つの化合物中に有する多量体化合物であり、下記式(2-4-2)で表される多量体化合物は、一般式(2)で説明すれば、a環であるベンゼン環を共有するようにして、三つの一般式(2)で表される単位構造を一つの化合物中に有する多量体化合物である。また、下記式(2-5-1)~式(2-5-4)で表される多量体化合物は、一般式(2)で説明すれば、b環(またはc環)であるベンゼン環を共有するようにして、複数の一般式(2)で表される単位構造を一つの化合物中に有する多量体化合物である。また、下記式(2-6)で表される多量体化合物は、一般式(2)で説明すれば、例えばある単位構造のb環(またはa環、c環)であるベンゼン環とある単位構造のb環(またはa環、c環)であるベンゼン環とが縮合するようにして、複数の一般式(2)で表される単位構造を一つの化合物中に有する多量体化合物である。なお、各式中の符号は上で定義するとおりである。
【0067】
【0068】
多量体化合物は、式(2-4)、式(2-4-1)または式(2-4-2)で表現される多量化形態と、式(2-5-1)~式(2-5-4)のいずれかまたは式(2-6)で表現される多量化形態とが組み合わさった多量体化合物であってもよく、式(2-5-1)~式(2-5-4)のいずれかで表現される多量化形態と、式(2-6)で表現される多量化形態とが組み合わさった多量体化合物であってもよく、式(2-4)、式(2-4-1)または式(2-4-2)で表現される多量化形態と式(2-5-1)~式(2-5-4)のいずれかで表現される多量化形態と式(2-6)で表現される多量化形態とが組み合わさった多量体化合物であってもよい。
【0069】
また、一般式(1)または(2)で表される化合物、もしくは、一般式(1)または(2)で表される構造を複数有する多量体化合物の化学構造中の水素は、その全てまたは一部が重水素であってもよい。
【0070】
4.二ヨウ化ホウ素化合物の具体例
本発明の二ヨウ化ホウ素化合物のさらに具体的な例としては、以下の化合物が挙げられる。各式中、Meはメチル基、tBuはt-ブチル基、iPrはイソプロピル基、Dは重水素である。
【0071】
【0072】
【0073】
【0074】
【0075】
【0076】
【0077】
【0078】
【0079】
【0080】
【0081】
【0082】
【0083】
【0084】
【0085】
【0086】
【0087】
【0088】
【0089】
【0090】
【0091】
【0092】
【0093】
【0094】
【0095】
【0096】
【0097】
【0098】
【0099】
【0100】
【0101】
【0102】
【0103】
【0104】
【0105】
【0106】
【0107】
【0108】
【0109】
【0110】
【0111】
【0112】
【0113】
【0114】
【0115】
【0116】
【0117】
【0118】
【0119】
【0120】
【0121】
【0122】
【0123】
【0124】
【0125】
【0126】
【0127】
【0128】
5.二ヨウ化ホウ素化合物の製造方法
本発明の二ヨウ化ホウ素化合物は、Ar’をブレンステッド塩基の存在下で三ヨウ化ホウ素と反応させることでを製造することができる。なお、各式中の符号は上で定義したとおりである。
【化76】
【0129】
上記製造方法で用いられるブレンステッド塩基としては、トリフェニルボラン、トリス(2,4,6-トリメチルフェニル)ボラン等のトリアリールボラン、トリエチルアミン、N,N-ジイソプロピルエチルアミン、テトラメチルピペリジン、ペンタメチルピペリジン、N,N-ジメチル-p-トルイジン等のアミン、テトラフェニルホウ酸リチウム、テトラフェニルホウ酸ナトリウム、テトラフェニルホウ酸カリウム等のテトラフェニルホウ酸塩などが好ましい。
【0130】
上記製造方法では反応を促進させる目的で、ルイス酸を添加してもよい。ルイス酸としては、三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体、三塩化ホウ素、三臭化ホウ素、塩化アルミニウム、臭化アルミニウム、トリフルオロメタンスルホン酸銀(I)、塩化鉄(III)または臭化鉄(III)等が好ましい。
【0131】
上記製造方法で用いられる反応溶媒は、反応自体を阻害しないものであればよく、例えば、ペンタン、ヘキサン、ヘプタンおよびオクタン、ノナン、デカン、ウンデカンおよびドデカン等の炭化水素、クロロベンゼンや1,2-ジクロロベンゼン、2,4-ジクロロトルエンおよび1,2,4-トリクロロベンゼン等のハロゲン化された芳香族炭化水素等の一般的な溶媒から選択して、単独で、または複数の溶媒を混合して用いることができる。また、反応溶媒を使用せず反応基質のみで反応させることもできる。
【0132】
上記製造方法では三ヨウ化ホウ素の添加量を調整することによって、目的とする化合物の二ヨウ化ホウ素基の置換基数および目的とするホウ酸置換基数を制御することができる。すなわち、一置換体を調製する場合には、三ヨウ化ホウ素に対し反応基質を過剰に用いることで所望の目的物を得ることができ、多置換体を調製する場合には、反応基質に対し三ヨウ化ホウ素を過剰に添加すれば所望の目的物を得ることができる。したがって、反応基質と三ヨウ化ホウ素のモル比率は100:1~1:100、より好ましくは50:1~1:40の範囲であり、さらに好ましくは40:1~1:30の範囲であり、特に好ましくは30:1~1:20の範囲である。
【0133】
上記製造方法は、適切な反応温度にて実施されることが望ましい。すなわち、-78℃から、使用される反応基質あるいは溶媒の沸点までの間で実施されることが操作を簡便にする点で好ましい。反応速度と副生成物の生成量とのバランスを考慮すると、20℃から250℃の間で実施されることがより好ましい。上記製造方法は大気中でも実施できるが、窒素およびアルゴン等の不活性ガス雰囲気下で実施されることが好ましい。
【0134】
6.ボロン酸およびボロン酸エステルの製造方法
本発明の二ヨウ化ホウ素化合物に、水、アルコール(R
21-OH)またはジオールもしくはジカルボン酸(OH-R
22-OH)を反応させることで、下記一般式(Y’-1)で表されるボロン酸化合物もしくはボロン酸エステル化合物または下記一般式(Y’-2)で表されるボロン酸エステル化合物を製造することができる。なお、各式中の符号は上で定義したとおりである。
【化77】
【0135】
反応に使用する水またはアルコール「R21-OH」におけるR21は、水素または炭素数1~30のアルキルであり、当該アルキルにおける任意の-CH2-は-O-、-S-、-CO-、>N-Rまたは-SiH2-で置換されていてもよく、任意の-CH2CH2-は-CH=CH-または-C≡C-で置換されていてもよく、少なくとも1つの水素はハロゲンで置換されていてもよい。ここで、前記>N-RのRはアルキルもしくはハロゲンで置換されていてもよいアリール、アルキルもしくはハロゲンで置換されていてもよいヘテロアリールまたはアルキルもしくはハロゲンで置換されていてもよいアルキルであり、これらの説明は、一般式(1)のX1およびX2における>N-RのRの説明を引用することができる。
【0136】
炭素数1~30のアルキルとしては、直鎖および分岐鎖のいずれでもよく、例えば、炭素数1~24の直鎖アルキルまたは炭素数3~24の分岐鎖アルキルが挙げられる。炭素数1~18のアルキル(炭素数3~18の分岐鎖アルキル)が好ましく、炭素数1~12のアルキル(炭素数3~12の分岐鎖アルキル)がより好ましく、炭素数1~6のアルキル(炭素数3~6の分岐鎖アルキル)がさらに好ましく、炭素数1~4のアルキル(炭素数3~4の分岐鎖アルキル)が特に好ましい。
【0137】
具体的なアルキルとしては、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、s-ブチル、t-ブチル、n-ペンチル、イソペンチル、ネオペンチル、t-ペンチル、n-ヘキシル、1-メチルペンチル、4-メチル-2-ペンチル、3,3-ジメチルブチル、2-エチルブチル、n-ヘプチル、1-メチルヘキシル、n-オクチル、t-オクチル、1-メチルヘプチル、2-エチルヘキシル、2-プロピルペンチル、n-ノニル、2,2-ジメチルヘプチル、2,6-ジメチル-4-ヘプチル、3,5,5-トリメチルヘキシル、n-デシル、n-ウンデシル、1-メチルデシル、n-ドデシル、n-トリデシル、1-ヘキシルヘプチル、n-テトラデシル、n-ペンタデシル、n-ヘキサデシル、n-ヘプタデシル、n-オクタデシル、n-エイコシルなどが挙げられる。
【0138】
使用可能なアルコールの具体例としては、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、2-メチル-2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、シクロブタノール、2-メチル-1-ブタノール、3-メチル-1-ブタノール、1-ペンタノール、2-エチル-2-プロパノール、1-ヘキサノール、2-ヘキサノール、、4-メチル-2-ペンタノール、3,3-ジメチル-1-ブタノール、2-エチル-1-ブタノール、1-ヘプタノール、2-ヘプタノール、1-オクタノール、1,1,3,3-テトラメチル-1-ブタノール、2-オクタノール、2-エチル-1-ヘキサノール、2-プロピル-1-ペンタノール、1-ノナノール、2,2-ジメチル-1-ヘプタノール、2,6-ジメチル-4-ヘプタノール、3,5,5-トリメチル-1-ヘキサノール、1-デカノール、1-ウンデカノール、2-ウンデカノール、1-ドデカノール、1-トリデカノール、6-トリデカノール、1-テトラデカノール、1-ヘプタデカノール、1-ヘキサデカノール、1-ヘプタデカノール、1-オクタデカノール、1-ノナデカノール、1-エイコサノールなどが挙げられる。
【0139】
反応に使用するジオール「OH-R22-OH」におけるR22は、炭素数1~30のアルキレンまたは炭素数6~16のアリーレンであり、前記アルキレンにおける任意の-CH2-は-O-、-S-、-CO-、>N-Rまたは-SiH2-で置換されていてもよく、任意の-CH2CH2-は-CH=CH-または-C≡C-で置換されていてもよく、少なくとも1つの水素はハロゲンで置換されていてもよく、前記アリーレンにおける少なくとも1つの水素は炭素数1~10のアルキルまたはハロゲンで置換されていてもよい。ここで、前記>N-RのRはアルキルもしくはハロゲンで置換されていてもよいアリール、アルキルもしくはハロゲンで置換されていてもよいヘテロアリールまたはアルキルもしくはハロゲンで置換されていてもよいアルキルであり、これらの説明は、一般式(1)のX1およびX2における>N-RのRの説明を引用することができる。
【0140】
炭素数1~30のアルキレンとしては、上記R21として説明した「炭素数1~30のアルキル」の二価の基が挙げられる。
【0141】
炭素数6~16のアリーレンとしては、具体的には、1,2-フェニレン、1,4-フェニレン、1,2-ナフチレン、2,3-ナフチレンおよび4,5-ナフチレンなどが挙げられる。
【0142】
使用可能なジオールの具体例としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、2-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオール、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール、1,2-シクロヘキサンジオール、ベンゾピナコール、ピナコール、1-(1-ヒドロキシシクロヘキシル)-シクロヘキサン-1-オール、1-(4-メトキシフェニル)-2-メチルプロパン-1,2-ジオール、2-メチル-ブタン-2,3-ジオール、N-フェニルジエタノールアミンなどが挙げられ、使用可能なジカルボン酸の具体例としては、シュウ酸、マロン酸、こはく酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、リンゴ酸、イタコン酸、フマル酸、1,2-シクロヘキサンジカルボン酸、フタル酸、N-メチルイミノ二酢酸などが挙げられる。
【0143】
エステル化においては、反応を促進させる目的で、トリエチルアミン、N,N-ジイソプロピルエチルアミン、テトラメチルピペリジン、ペンタメチルピペリジン、N,N-ジメチル-p-トルイジン等のブレンステッド塩基を添加してもよいし、予め、アルコール「R21-OH」またはジオールもしくはジカルボン酸「OH-R22-OH」を金属塩としてから用いてもよい。
【0144】
上記製造方法で用いられる反応溶媒は、反応自体を阻害しないものであればよく、例えば、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ウンデカンおよびドデカン等の炭化水素、クロロベンゼンや1,2-ジクロロベンゼン、2,4-ジクロロトルエンおよび1,2,4-トリクロロベンゼン等のハロゲン化された芳香族炭化水素等を筆頭にジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジクロロメタン、クロロホルム、酢酸エチル、ベンゼン、トルエン、アセトニトリル等の一般的な有機溶媒から選択して、単独でまたは複数の溶媒を混合して用いることができる。また、反応溶媒を使用せず反応基質のみで反応させることもできる。
【0145】
上記製造方法は、適切な反応温度にて実施されることが望ましい。すなわち、-78℃から使用される溶媒の沸点の間で実施されることが操作を簡便にする点で好ましい。反応速度と副生成物の生成量とのバランスを考慮すると、0℃から100℃の間で実施されることがより好ましい。上記製造方法は大気中でも実施できるが、窒素およびアルゴン等の不活性ガス雰囲気下で実施されることが好ましい。
【0146】
上記製造方法では得られた二ヨウ化ホウ素誘導体に一価のアルコールを作用させることによって、所望のホウ酸エステルを得ることができる。作用させる一価アルコールの添加量は、作用させる基質の二ヨウ化ホウ素基の置換数によって異なる。したがって添加する一価のアルコールのモル比率は対応する二ヨウ化ホウ素誘導体に対して400mol%~3000mol%、より好ましくは300mol%~2000mol%の範囲であり、さらに好ましくは240mol%~1500mol%の範囲であり、特に好ましくは220mol%~1320mol%の範囲である。
【0147】
上記製造方法では得られた二ヨウ化ホウ素誘導体に二価のアルコールもしくは二価のカルボン酸を作用させることによって、所望のホウ酸エステルを得ることができる。作用させる一価アルコールの添加量は、作用させる基質の二ヨウ化ホウ素基の置換数によって異なる。したがって添加する二価のアルコールまたは二価のカルボン酸のモル比率は対応する二ヨウ化ホウ素誘導体に対して200mol%~1500mol%、より好ましくは150mol%~1000mol%の範囲であり、さらに好ましくは120mol%~750mol%の範囲であり、特に好ましくは110mol%~660mol%の範囲である。
【0148】
上記製造方法では、通常の化学操作で用いられる方法により、反応終了後の反応系から生成物を単離することができる。たとえば、反応液に水を加えて反応を停止させた後、有機溶媒で反応系から抽出することができる。反応生成物は必要に応じて再結晶、蒸留、シリカゲルクロマトグラフィー等の精製操作を単独またはこれらを組み合わせて行うことにより、より純度の高いボロン酸またはボロン酸エステル等にすることもできる。あるいは反応生成物を精製することなく官能基を変換して、より精製が容易な化合物に変換した後、上述した精製操作を単独またはこれらを組み合わせて行うことにより、望ましい化合物を得ることもできる。
【0149】
7.ボロン酸およびボロン酸エステル
本発明の二ヨウ化ホウ素化合物から得られるボロン酸およびボロン酸エステルとしては、式(Y’-1)で表されるボロン酸化合物もしくはボロン酸エステル化合物または式(Y’-2)で表されるボロン酸エステル化合物が挙げられ、より具体的には、式(1)または(2)で表される化合物およびそれらの多量体化合物における二ヨウ化ホウ素基(BI2部位)がボロン酸基またはボロン酸エステル基となった化合物が挙げられる。
【0150】
ボロン酸エステル基としては特に限定されず、ヒドロキシル基を有する例えばアルキルやアリールとボロン酸との反応で得られるような基が挙げられる。具体的には以下の構造の基が挙げられる。
【0151】
【0152】
8.ボロン酸またはボロン酸エステルからの多環芳香族化合物の製造方法
次に、式(1)または(2)で表される化合物およびそれらの多量体化合物における二ヨウ化ホウ素基(BI2部位)がボロン酸基またはボロン酸エステル基となった化合物を用いて、多環芳香族化合物および多環芳香族多量体化合物を製造する方法について説明する。なお、以下に示す各スキーム中の構造式における符号は上の定義のとおりであり、ただし、各式中のYはボロン酸またはボロン酸エステルを示す。
【0153】
下記スキーム(1)または(2)において、ボロン酸またはボロン酸エステルに塩化アルミニウムのようなルイス酸を反応させることで、多環芳香族化合物を製造することができる。
【0154】
【0155】
【0156】
また、p-トルエンスルホン酸のようなブレンステッド酸も用いることができる。特にルイス酸を用いて反応を行う場合には、選択率や収率を向上させるためにジイソプロピルエチルアミンなどの塩基を加えてもよい。
【0157】
また、下記スキーム(3)~(5)に示された方法により、一般式(1)または(2)で表される構造を複数有する多量体化合物のボロン酸またはボロン酸エステルを用いて、多環芳香族多量体化合物を製造することもできる。この場合、ボロン酸またはボロン酸エステルの繰り返し構造の数に応じて使用する塩化アルミニウム等の試薬の量を2倍量、3倍量等とすることで2量体化合物、3量体化合物等の目的物を得ることができる。
【0158】
【0159】
【0160】
【0161】
上記スキーム(1)~(5)で使用するルイス酸としては、AlCl3、AlBr3、AlF3、BF3・OEt2、BCl3、BBr3、GaCl3、GaBr3、InCl3、InBr3、In(OTf)3、SnCl4、SnBr4、AgOTf、ScCl3、Sc(OTf)3、ZnCl2、ZnBr2、Zn(OTf)2、MgCl2、MgBr2、Mg(OTf)2、LiOTf、NaOTf、KOTf、Me3SiOTf、Cu(OTf)2、CuCl2、YCl3、Y(OTf)3、TiCl4、TiBr4、ZrCl4、ZrBr4、FeCl3、FeBr3、CoCl3、CoBr3などが挙げられる。また、これらのルイス酸を固体に担持した材料も同様に使用することができる。
【0162】
上記スキーム(1)~(5)で使用するブレンステッド酸としては、p-トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、フルオロスルホン酸、カルボラン酸、トリフルオロ酢酸、(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、トリス(トリフルオロメタンスルホニル)メタン、塩化水素、臭化水素、フッ化水素などが挙げられる。また固体ブレンステッド酸としてアンバーリスト(商品名:ダウ・ケミカル)、ナフィオン(商品名:デュポン)、ゼオライト、テイカキュア(商品名:テイカ株式会社)などが挙げられる。
【0163】
上記スキーム(1)~(5)で加えてもよいアミンとしては、ジイソプロピルエチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン、N,N-ジメチル-p-トルイジン、N,N-ジメチルアニリン、ピリジン、2,6-ルチジン、2,6-ジ-t-ブチルアミンなどが挙げられる。
【0164】
また上記スキーム(1)~(5)で使用する溶媒としては、o-ジクロロベンゼン、クロロベンゼン、トルエン、ベンゼン、塩化メチレン、クロロホルム、ジクロロエチレン、ベンゾトリフルオリド、デカリン、シクロヘキサン、ヘキサン、ヘプタン、1,2,4-トリメチルベンゼン、キシレン、ジフェニルエーテル、アニソール、シクロペンチルメチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、メチル-t-ブチルエーテルなどが挙げられる。
【0165】
9.フッ化ホウ素化合物などのその他の化合物
また、本発明に係る二ヨウ化ホウ素化合物は、ボロン酸化合物またはボロン酸エステル化合物以外にも、フッ化ホウ素化合物(およびその塩)などの様々な化合物を製造するための出発物質として使用することができる。フッ化ホウ素化合物(およびその塩)は、二ヨウ化ホウ素化合物にフッ化アルカリ金属(LiF、NaF、KFなど)を反応させることで得られ、フッ化ホウ素基としては例えば-BF3Li、-BF3Na、-BF3Kなどが挙げられる。
【0166】
10.有機デバイス
本発明で製造される多環芳香族化合物および多環芳香族多量体化合物は、有機デバイス用材料として用いることができる。有機デバイスとしては、例えば、有機電界発光素子、有機電界効果トランジスタまたは有機薄膜太陽電池などが挙げられる。
【0167】
10-1.有機電界発光素子
本発明で製造される多環芳香族化合物および多環芳香族多量体化合物は、有機電界発光素子の各層を構成する材料として用いることができる。以下に、本実施形態に係る有機EL素子について図面に基づいて詳細に説明する。
図1は、本実施形態に係る有機EL素子を示す概略断面図である。
【0168】
図1に示された有機電界発光素子100は、基板101と、基板101上に設けられた陽極102と、陽極102の上に設けられた正孔注入層103と、正孔注入層103の上に設けられた正孔輸送層104と、正孔輸送層104の上に設けられた発光層105と、発光層105の上に設けられた電子輸送層106と、電子輸送層106の上に設けられた電子注入層107と、電子注入層107の上に設けられた陰極108とを有する。
【0169】
なお、有機電界発光素子100は、作製順序を逆にして、例えば、基板101と、基板101上に設けられた陰極108と、陰極108の上に設けられた電子注入層107と、電子注入層107の上に設けられた電子輸送層106と、電子輸送層106の上に設けられた発光層105と、発光層105の上に設けられた正孔輸送層104と、正孔輸送層104の上に設けられた正孔注入層103と、正孔注入層103の上に設けられた陽極102とを有する構成としてもよい。
【0170】
上記各層すべてがなくてはならないわけではなく、最小構成単位を陽極102と発光層105と陰極108とからなる構成として、正孔注入層103、正孔輸送層104、電子輸送層106、電子注入層107は任意に設けられる層である。また、上記各層は、それぞれ単一層からなってもよいし、複数層からなってもよい。
【0171】
有機電界発光素子を構成する各層は、各層を構成すべき材料を蒸着法、抵抗加熱蒸着、電子ビーム蒸着、スパッタリング、分子積層法、印刷法、スピンコート法またはキャスト法、コーティング法などの方法で薄膜とすることにより、形成することができる。このようにして形成された各層の膜厚については特に限定はなく、材料の性質に応じて適宜設定することができるが、通常2nm~5000nmの範囲である。膜厚は通常、水晶発振式膜厚測定装置などで測定できる。蒸着法を用いて薄膜化する場合、その蒸着条件は、材料の種類、膜の目的とする結晶構造および会合構造などにより異なる。蒸着条件は一般的に、ボート加熱温度+50~+400℃、真空度10-6~10-3Pa、蒸着速度0.01~50nm/秒、基板温度-150~+300℃、膜厚2nm~5μmの範囲で適宜設定することが好ましい。
【0172】
このようにして得られた有機電界発光素子に直流電圧を印加する場合には、陽極を+、陰極を-の極性として印加すればよく、電圧2~40V程度を印加すると、透明または半透明の電極側(陽極または陰極、および両方)より発光が観測できる。また、この有機電界発光素子は、パルス電流や交流電流を印加した場合にも発光する。なお、印加する交流の波形は任意でよい。
【0173】
10-2.有機電界効果トランジスタ
本発明で製造される多環芳香族化合物および多環芳香族多量体化合物は、有機電界効果トランジスタを構成する材料として用いることができる。有機電界効果トランジスタは、電圧入力によって発生させた電界により電流を制御するトランジスタのことであり、ソース電極とドレイン電極の他にゲート電極が設けられている。ゲート電極に電圧を印加すると電界が生じ、ソース電極とドレイン電極間を流れる電子(あるいはホール)の流れを任意にせき止めて電流を制御することができる。電界効果トランジスタは、単なるトランジスタ(バイポーラトランジスタ)に比べて小型化が容易であり、集積回路などを構成する素子としてよく用いられている。
【0174】
有機電界効果トランジスタの構造は、通常、本発明で製造される多環芳香族化合物および多環芳香族多量体化合物を用いて形成される有機半導体活性層に接してソース電極およびドレイン電極が設けられており、さらに有機半導体活性層に接した絶縁層(誘電体層)を挟んでゲート電極が設けられていればよい。その素子構造としては、例えば以下の構造が挙げられる。
(1)基板/ゲート電極/絶縁体層/ソース電極・ドレイン電極/有機半導体活性層
(2)基板/ゲート電極/絶縁体層/有機半導体活性層/ソース電極・ドレイン電極
(3)基板/有機半導体活性層/ソース電極・ドレイン電極/絶縁体層/ゲート電極
(4)基板/ソース電極・ドレイン電極/有機半導体活性層/絶縁体層/ゲート電極
このように構成された有機電界効果トランジスタは、アクティブマトリックス駆動方式の液晶ディスプレイや有機エレクトロルミネッセンスディスプレイの画素駆動スイッチング素子等として適用できる。
【0175】
10-3.有機薄膜太陽電池
本発明で製造される多環芳香族化合物および多環芳香族多量体化合物は、有機薄膜太陽電池を構成する材料として用いることができる。有機薄膜太陽電池は、ガラスなどの透明基板上にITOなどの陽極、ホール輸送層、光電変換層、電子輸送層、陰極が積層された構造を有する。光電変換層は陽極側にp型半導体層を有し、陰極側にn型半導体層を有している。本発明で製造される多環芳香族化合物および多環芳香族多量体化合物は、その物性に応じて、ホール輸送層、p型半導体層、n型半導体層、電子輸送層の材料として用いることが可能である。本発明で製造される多環芳香族化合物および多環芳香族多量体化合物は、有機薄膜太陽電池においてホール輸送材料や電子輸送材料として機能しうる。有機薄膜太陽電池は、上記の他にホールブロック層、電子ブロック層、電子注入層、ホール注入層、平滑化層などを適宜備えていてもよい。有機薄膜太陽電池には、有機薄膜太陽電池に用いられる既知の材料を適宜選択して組み合わせて用いることができる。
【実施例】
【0176】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明していくが、本発明はこれらに限定されない。
【0177】
合成例(1):
化合物(Y’-2-1):2-(4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボロラン-2-イル)-トリフェニレンの合成
【化84】
【0178】
三ヨウ化ホウ素(120mg、0.31mmol)およびトリフェニレン(276mg、1.2mmol)および1,2,4-トリクロロベンゼン(2.00ml)を窒素雰囲気下、180℃で12時間加熱撹拌した。反応液を室温まで冷やした後、減圧留去して、2-ジヨードボリルトリフェニレン(Y-1)を得た。その後、トリエチルアミン(0.500ml、3.60mmol)、ピナコール(107mg、0.91mmol)を加え、室温で撹拌した。その後、溶媒を減圧留去した。得られた粗生成物をゲル浸透クロマトグラフィー<GPC>(溶離液:トルエン)によって精製し、黄色液体として化合物(Y’-2-1)(58.6mg、収率55%)を得た。
【0179】
1H-NMR(400MHz,CDCl3):δ=1.42(s,12H)、7.55-7.66(quint,4H)、8.05(d,1H)、7.06-7.08(m,3H)、7.20-7.27(m,14H)、8.60-8.68(m,4H)、8.79-8.83(dd,1H)、9.19(s,1H).
【0180】
13C-NMR(101MHz,CDCl3):25.0(4C)、84.0(2C)、122.4(1C)、123.1(1C)、123.3(1C)、123.7(2C)、127.1(2C)、127.2(1C)、127.6(1C)、129.0(1C)、129.6(1C)、129.9(1C)、130.3(1C)、130.5(3C).
【0181】
合成例(2):
化合物(Y’-2-2):2-(4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボロラン-2-イル)-アントラセンの合成
【化85】
【0182】
三ヨウ化ホウ素(159.0mg、0.41mmol)、アントラセン(290mg、1.63mmol)および1,2,4-トリクロロベンゼンを窒素雰囲気下、180℃で12時間加熱撹拌した。反応液を室温まで冷やした後、減圧留去して、2-ジヨードボリルアントラセン(Y-2)を得た。その後、トリエチルアミン(0.67ml、4.80mmol)、ピナコール(142mg、1.20mmol)を加え、室温で撹拌した。その後、溶媒を減圧留去した。得られた粗生成物をGPC(溶離液:トルエン)によって単離精製したところ、化合物(Y’-2-2)(64.5mg、収率53%)を白色固体として得た。
【0183】
1H-NMR(400MHz,CDCl3):δ=1.41(s,12H)、7.43-7.49(m,2H)、7.79(d,1H)、7.96-8.02(m,3H)、8.39(s,1H)、8.47(s,1H)、8.57(s,1H).
【0184】
13C-NMR(101MHz,CDCl3):24.9(4C)、84.0(2C)、125.2(1C)、125.8(1C)、125.9(1C)、127.1(1C)、127.4(1C)、128.1(1C)、128.5(1C)、129.2(1C)、131.1(1C)、131.6(1C)、132.4(1C)、132.7(1C)、137.4(1C).
【0185】
合成例(3):
化合物(Y’-1-1):(5,6,7,8-テトラヒドロナフタレン-2-イル)ボロン酸の合成
【化86】
【0186】
三ヨウ化ホウ素(236mg、0.60mmol)および1,2,3,4-テトラヒドロナフタレン(2.45ml、18mmol)を窒素雰囲気下、220℃で12時間加熱撹拌した。反応液を室温まで冷やした後、減圧留去して、2-ジヨードボリル-5,6,7,8-テトラヒドロナフタレン(Y-3)を得た。その後、ジクロロメタンを加えて、リン酸緩衝液に移した。その後、ジクロロメタンで3回抽出操作を行った後に、有機層に飽和食塩水を加えて1回抽出操作を行った。次に無水硫酸マグネシウムを加えて脱水した後に抽出液を減圧留去した。得られた粗生成物をトルエンに溶解させた後にヘキサンを加えた。得られた析出物を吸引ろ過することで取り除いた。ろ液を減圧留去した後に、ヘキサンで洗浄したところ、白色固体として化合物(Y’-1-1)(25.4mg、収率24%)を得た。
【0187】
1H-NMR(400MHz,CDCl3):δ=1.72-1.73(m,4H)、2.68-2.72(m,4H)、6.99(d,1H)、7.47(d,1H)、7.48(s,1H)、7.84(s,2H).
【0188】
13C-NMR(101MHz,CDCl3):22.8(2C)、28.9(2C)、128.0(1C)、131.2(1C)、135.1(1C)、135.3(1C)、138.6(1C).
【0189】
合成例(4):
化合物(Y’-2-3):(5,6,7,8-テトラヒドロナフタレン-2-イル)ボロン酸N-メチルイミノ二酢酸エステルの合成
【化87】
【0190】
三ヨウ化ホウ素(236mg、0.60mmol)および1,2,3,4-テトラヒドロナフタレン(2.45ml、18mmol)を窒素雰囲気下、220℃で12時間加熱撹拌した。反応液を室温まで冷やした後、減圧留去して、2-ジヨードボリル-5,6,7,8-テトラヒドロナフタレン(Y-3)を得た。その後、トリエチルアミン(1.00ml、7.2 mmol)、N-メチルイミノ二酢酸(265mg、1.8mmol)を加え、室温で撹拌した。ろ液を減圧留去した後に、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離液:ヘキサン/酢酸エチル=1:1(容積比))を行った後、得られた粗生成物をヘキサン洗浄することで、黄色固体として化合物(Y’-2-3)(7.40mg、収率4.3%)を得た。
【0191】
1H-NMR(400MHz,CDCl3):δ=1.78-1.83(m,4H)、2.58(s,3H)、2.76-2.81(m,4H)、3.73(s,1H)、3.77(s,1H)、3.90(s,1H)、7.08(d,1H)、7.21(d,1H)、7.22(s,1H).
【0192】
合成例(5):
化合物(Y’-2-4):2-(4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボロラン-2-イル)-5,6,7,8-テトラヒドロナフタレンの合成
【化88】
【0193】
三ヨウ化ホウ素(237mg、0.60mmol)および1,2,3,4-テトラヒドロナフタレン(2.45ml、18mmol)を窒素雰囲気下、220℃で12時間加熱撹拌した。反応液を室温まで冷やした後、減圧留去して、2-ジヨードボリル-5,6,7,8-テトラヒドロナフタレン(Y-3)を得た。その後、トリエチルアミン(1.00ml、7.2mmol)、ピナコール(214mg、1.8mmol)を加え、室温で撹拌した。その後、溶媒を減圧留去した。得られた粗生成物をGPC(溶離液:トルエン)によって精製した後、化合物(Y’-2-4)(121mg、収率78%)を黄色液体として得た。
【0194】
1H-NMR(400MHz,CDCl3):δ=1.33(s,12H)、1.77-1.80(m,4H)、2.76-2.79(m,4H)、7.07(d,1H)、7.52(d,1H)、7.53(s,1H).
【0195】
13C-NMR(101MHz,CDCl3):23.2(2C)、24.8(4C)、29.1(1C)、29.6(1C)、83.5(2C)、128.6(1C)、131.7(1C)、135.7(1C)、136.5(1C)、140.7(1C).
【0196】
合成例(6):
化合物(Y’-2-5):2,5,8,11-テトラキス(4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボロラン-2-イル)ペリレンの合成
【化89】
【0197】
ペリレン(50.5mg、0.20mmol)に三ヨウ化ホウ素(626mg、1.6mmol)および1,2,4-トリクロロベンゼン(2.0ml)を加え、窒素雰囲気下、240℃で16時間加熱撹拌した。反応液を室温まで冷やした後、減圧留去して、2,5,8,11-テトラキス(ジヨードボリル)ペリレン(Y-4)を得た。その後、トリエチルアミン(2.6ml、19mmol)およびピナコール(567mg、4.8mmol)を加え、室温で30分間撹拌した。溶媒を減圧留去した後、GPC(溶離液:ジクロロエタン)で分取することで、化合物(Y’-2-5)(49.5mg、収率33%)を黄色固体として得た。
【0198】
1H-NMR(500MHz,CDCl3):δ=1.43(s,48H)、8.25(s,4H)、8.63(s,4H).
【0199】
13C-NMR(126MHz,CDCl3):25.1(16C)、84.2(8C)、126.2(4C)、130.5(4C)、132.1(2C)、133.4(2C)、137.1(4C).
【0200】
合成例(7):
化合物(Y’-2-6):2,7-ビス(4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボロラン-2-イル)ピレンの合成
【化90】
【0201】
ピレン(40.5mg、0.20mmol)に三ヨウ化ホウ素(313mg、0.80mmol)および1,2,4-トリクロロベンゼン(2.0ml)を加え、窒素雰囲気下、240℃で16時間加熱撹拌した。反応液を室温まで冷やした後、減圧留去し2,7-ビス(ジヨードボリル)ピレン(Y-5)を得た。その後、トリエチルアミン(1.3ml、9.6mmol)およびピナコール(284mg、2.4mmol)を加え、室温で30分間撹拌した。溶媒を減圧留去した後、GPC(溶離液:ジクロロエタン)で分取することで、化合物(Y’-2-6)(35.4mg、収率39%)を白色固体として得た。
【0202】
1H-NMR(400MHz,CDCl3):δ=1.45(s,24H)、8.08(s,4H)、8.62(s,4H).
【0203】
13C-NMR(126MHz,CDCl3):25.1(8C)、84.3(4C)、126.5(2C)、127.8(4C)、131.0(4C)、131.3(4C).
【0204】
合成例(8):
化合物(Y’-1-2):2,7-ピレンジボロン酸の合成
【化91】
【0205】
ピレン(40.5mg、0.20mmol)に三ヨウ化ホウ素(313mg、0.80mmol)および1,2,4-トリクロロベンゼン(2.0ml)を加え、窒素雰囲気下、240℃で16時間加熱撹拌した。反応液を室温まで冷やした後、減圧留去して、2,7-ビス(ジヨードボリル)ピレン(Y-5)を得た。その後、反応溶液をリン酸緩衝液(0.4M、50ml)に0℃で加え、水層を酢酸エチル(60ml)で3回抽出した。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥した後、濾過した。溶媒を留去し、粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離液:メタノール/ジクロロメタン=1/20(容量比))で分取することで、化合物(Y’-1-2)(24.9mg、収率43%)を茶色固体として得た。
【0206】
1H-NMR(400MHz,CDCl3):δ=8.14(s,4H)、8.40(s,4H)、8.67(s,4H).
【0207】
13C-NMR(126MHz,CDCl3):125.0(2C)、127.5(4C)、130.0(4C)、130.8(4C).
【0208】
合成例(9):
化合物(Y’-2-7):2-(4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボロラン-2-イル)-9H-フルオレンの合成
化合物(Y’-2-8):3-(4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボロラン-2-イル)-9H-フルオレンの合成
【化92】
【0209】
三ヨウ化ホウ素(159mg、0.41mmol)およびフルオレン(266mg、1.6mmol)を窒素雰囲気下、200℃で12時間加熱撹拌した。反応液を室温まで冷やした後、減圧留去して、2-ジヨードボリルフルオレン(Y-6)および3-ジヨードボリルフルオレン(Y-7)を混合物として得た。その後、トリエチルアミン(0.670ml、4.8mmol)、ピナコール(147mg、1.2mmol)を加え、室温で撹拌した。その後、溶媒を減圧留去した。得られた粗生成物をゲル浸透クロマトグラフィー(溶離液:トルエン)によって単離精製したところ、化合物(Y’-2-7)および化合物(Y’-2-8)(56.1mg、収率48%)を60:40の比率で黄色液体として得た。
【0210】
NMR測定により得られた化合物(Y’-2-7)の構造を確認した。
1H-NMR(400MHz,CDCl3):δ=1.36(s,12H)、3.88(s,2H)、7.23-7.38(m,2H)、7.54(d,1H)、7.76-7.85(m,3H)、8.00(s,1H).
【0211】
13C-NMR(101MHz,CDCl3):24.9(4C)、36.7(1C)、83.7(2C)、119.2(1C)、120.3(1C)、125.1(2C)、126.7(1C)、127.2(1C)、133.4(1C)、141.5(1C)、142.4(1C)、143.8(1C)、144.5(1C).
【0212】
NMR測定により得られた化合物(Y’-2-8)の構造を確認した。
1H-NMR(400MHz,CDCl3):δ=1.36(s,12H)、3.89(s,2H)、7.23-7.38(m,2H)、7.51(d,2H)、7.76-7.85(m,2H)、8.24(s,1H).
【0213】
13C-NMR(101MHz,CDCl3):24.9(4C)、37.1(1C)、83.8(2C)、120.1(1C)、124.4(1C)、124.9(1C)、126.2(1C)、126.6(1C)、126.7(1C)、133.3(1C)、141.2(1C)、141.6(1C)、146.6(1C).
【0214】
合成例(10):
化合物(Y’-2-9):1-(4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボロラン-2-イル)-4-フェノキシベンゼンの合成
化合物(Y’-2-10):1-(4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボロラン-2-イル)-3-フェノキシベンゼンの合成
【化93】
【0215】
三ヨウ化ホウ素(156mg、0.40mmol)およびジフェニルエーテル(287mg、1.6mmol)を窒素雰囲気下、180℃で12時間加熱撹拌した。反応液を室温まで冷やした後、減圧留去して、1-ジヨードボリル-4-フェノキシベンゼン(Y-8)および1-ジヨードボリル-3-フェノキシベンゼン(Y-9)を混合物として得た。その後、トリエチルアミン(0.670ml、4.8mmol)、ピナコール(142mg、1.2mmol)を加え、室温で撹拌した。その後、溶媒を減圧留去した。得られた粗生成物をゲル浸透クロマトグラフィー(溶離液:トルエン)によって単離精製したところ、化合物(Y’-2-9)および化合物(Y’-2-10)(60.1mg、収率51%)を75:25の比率で黄色液体として得た。
【0216】
NMR測定により得られた化合物(Y’-2-9)の構造を確認した。
1H-NMR(400MHz,CDCl3):δ=1.33(s,12H)、6.98(d,2H)、7.02(d,2H)、7.12(t,1H)、7.32-7.36(m,2H)、7.78(d,2H).
【0217】
13C-NMR(101MHz,CDCl3):24.8(4C)、117.6(2C)、119.4(2C)、123.6(1C)、129.8(2C)、136.6(2C)、156.5(1C)、160.2(1C).
【0218】
NMR測定により得られた化合物(Y’-2-10)の構造を確認した。
1H-NMR(400MHz,CDCl3):δ=1.32(s,12H)、6.98(d,2H)、7.07(d,1H)、7.12(t,1H)、7.28-7.36(m,3H)、7.49(s,1H)、7.56(d,1H).
【0219】
13C-NMR(101MHz,CDCl3):24.8(4C)、83.9(2C)、118.4(1C)、122.8(1C)、125.3(1C)、129.2(1C)、129.6(1C)、129.8(1C)、156.5(1C)、157.6(1C).
【0220】
合成例(11):
化合物(Y’-3-1):トリフルオロ(5,6,7,8-テトラヒドロナフタレン-2-イル)-λ4-ボランカリウム塩の合成
【化94】
【0221】
三ヨウ化ホウ素(235mg、0.60mmol)および1,2,3,4-テトラヒドロナフタレン(2.45ml、18mmol)を窒素雰囲気下、220℃で12時間加熱撹拌した。反応液を室温まで冷やし、減圧留去して、2-ジヨードボリル-5,6,7,8-テトラヒドロナフタレン(Y-3)を得た。その後、これを、0℃、カニュラーでゆっくりとフッ化カリウム(215mg、3.7mmol)の脱水アセトニトリル溶液(20ml)に加えた。その後、40℃に昇温し、1時間加熱撹拌した。得た反応溶液を吸引ろ過し、ろ液を減圧下で濃縮して得られた粗生成物をジクロロメタンに溶解させた後、濾過した。ろ液を減圧下で濃縮して化合物(Y’-3-1)(51.1mg、収率30%)を白色固体として得た。
【0222】
1H-NMR(500MHz,Acetone-D6):δ=1.69-1.74(m,4H)、2.60-2.66(m,4H)、6.71(d,1H)、7.12(s,1H)、7.16(d,1H).
【0223】
13C-NMR(126MHz,Acetone-D6):24.7(2C)、24.7(2C)、127.6(1C)、130.1(1C)、132.6(1C)、133.3(1C)、134.4(1C).
【0224】
合成例(12):
化合物(Y’-2-11):2,2’-(5,5’-ジメチル-[1,1’-ビフェニル]-3,3’-ジイル)(4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボロラン)の合成
【化95】
【0225】
三ヨウ化ホウ素(783mg、2.0mmol)、3,3-ジメチルビフェニル(75.0μl、0.41mmol)および1,2,4-トリクロロベンゼン(2.0ml)を窒素雰囲気下、220℃で16時間加熱撹拌した。反応液を室温まで冷やし、減圧留去して5,5’-ジメチル-3,3’-ジヨードボリルビフェニル(Y-10)を得た。その後、トリエチルアミン(3.35ml、24mmol)、ピナコール(708mg、6.0mmol)を加え、室温で撹拌した。その後、溶媒を減圧留去した。得られた粗生成物をゲル浸透クロマトグラフィー(溶離液:トルエン)によって単離精製したところ、黄色固体として化合物(Y’-2-11)(55.7mg、収率32%)を得た。
【0226】
1H-NMR(400MHz,CDCl3):δ=1.36(s,24H)、2.41(s,6H)、7.53(s,2H)、7.61(s,2H)、7.84(s,2H).
【0227】
13C-NMR(126MHz,CDCl3):21.3(2C)、24.8(8C)、83.8(4C)、130.6(2C)、131.1(2C)、134.2(2C)、137.4(2C)、140.6(2C).
【0228】
11B-NMR(129MHz,CDCl3):30.8.
【0229】
合成例(13):
化合物(Y’-1-3):(3-クロロ-4,5-ジメチル)フェニルボロン酸の合成の合成
【化96】
【0230】
三ヨウ化ホウ素(392mg、1.0mmol)および3-クロロ-オルトキシレン(1.95ml、15mmol)を窒素雰囲気下、160℃で16時間加熱撹拌した。反応液を室温まで冷やし、減圧留去し、1-ジヨードボリル-3-クロロ-4,5-ジメチルベンゼン(Y-11)を得た。その後、トリエチルアミン(1.65ml、12mmol)を加えた。次に脱水トルエン(5.0ml)を加えて希釈した後に、リン酸緩衝液(20ml)に移した。1規定の塩酸(10ml)を加えた後に、トルエン(20ml)で3回抽出操作を行った。有機層に飽和食塩水(20ml)を加えて1回抽出操作を行った。次に無水硫酸マグネシウムを加えて脱水した後に抽出液を減圧留去した。得られた粗生成物をゲル浸透クロマトグラフィー(溶離液:1,2-ジクロロエタン)によって単離精製したところ、茶色液体として化合物(Y’-1-3)(102mg、収率55%)を得た。
【0231】
1H-NMR(400MHz,CDCl3):δ=2.28(s,6H)、6.99(s,1H)、7.52(s,1H)、7.63(s,1H)、8.10(s,2H).
【0232】
13C-NMR(126MHz,CDCl3):16.1(1C)、20.4(1C)、128.0(1C)、132.1(1C)、133.2(1C)、134.2(1C)、135.6(1C)、137.6(1C).
【0233】
11B-NMR(129MHz,CDCl3):27.8.
【0234】
合成例(14):
化合物(Y’-2-12):2-(3-クロロ-4,5-ジメチルフェニル)-4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボロランの合成
【化97】
【0235】
三ヨウ化ホウ素(392mg、1.0mmol)および3-クロロ-オルトキシレン(1.95ml、15mmol)を窒素雰囲気下、160℃で16時間加熱撹拌した。反応液を室温まで冷やし、減圧留去し、1-ジヨードボリル-3-クロロ-4,5-ジメチルベンゼン(Y-11)を得た。その後トリエチルアミン(1.65ml、12mmol)、ピナコール(356mg、3.0mmol)を加え、室温で撹拌した。その後、溶媒を減圧留去した。得られた粗生成物をゲル浸透クロマトグラフィー(溶離液:トルエン)によって単離精製したところ、黄色固体として化合物(Y’-2-12)(176mg、収率66%)を得た。
【0236】
1H-NMR(400MHz,CDCl3):δ=1.33(s,12H)、2.30(s,3H)、2.33(s,3H)、7.46(s,1H)、7.64(s,1H).
【0237】
13C-NMR(101MHz,CDCl3):16.5(1C)、20.6(1C)、24.8(4C)、83.9(2C)、132.9(1C)、134.2(1C)、134.5(1C)、137.7(1C)、137.9(1C).
【0238】
11B-NMR(129MHz,CDCl3):29.6.
【0239】
合成例(15):
化合物(Y’-2-13):9-フェニル-2-(4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボロラン-2-イル)-9H-カルバゾールの合成
化合物(Y’-2-14):9-フェニル-3-(4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボロラン-2-イル)-9H-カルバゾールの合成
【化98】
【0240】
三ヨウ化ホウ素(39.2mg、0.10mmol)、9-フェニルカルバゾール(98.4mg、0.40mmol)及び1,2,4-トリクロロベンゼン(1.0ml)を窒素雰囲気下、180℃で6時間加熱撹拌した。反応液を室温まで冷やし、減圧留去し、9-フェニル-2-ジヨードボリルカルバゾール(Y-12)および9-フェニル-3-ジヨードボリル-カルバゾール(Y-13)を混合物として得た。その後に、トリエチルアミン(0.170ml、1.2mmol)、ピナコール(35.1mg、0.30mmol)を加え、室温で撹拌した。その後、溶媒を減圧留去した。得られた粗生成物をゲル浸透クロマトグラフィー(溶離液:トルエン)によって単離精製したところ、白色固体として化合物(Y’-2-13)および化合物(Y’-2-14)を15:85の比率の混合物(19.2mg、収率52%)として得た。
【0241】
NMR測定により得られた化合物(Y’-2-13)の構造を確認した。
1H-NMR(400MHz,CDCl3):δ=1.35(s,12H)、7.27-7.33(m,1H)、7.36-7.40(m,2H)、7.45-7.49(m,1H)、7.54-7.63(m,4H)、7.75(d,1H)、7.84(s,1H)、8.14-8.18(m,2H).
【0242】
13C-NMR(101MHz,CDCl3):24.9(4C)、83.7(2C)、109.9(1C)、116.0(1C)、119.5(1C)、119.8(1C)、120.7(1C)、123.0(1C)、125.8(1C)、126.1(1C)、126.1(1C)、126.5(1C)、127.4(2C)、127.5(1C)、129.9(2C)、137.6(1C)、140.5(1C)、141.5(1C).
【0243】
11B-NMR(129MHz,CDCl3):31.6.
【0244】
NMR測定により得られた化合物(Y’-2-14)の構造を確認した。
1H-NMR(400MHz,CDCl3):δ=1.40(s,12H)、7.27-7.31(m,1H)、7.36-7.40(m,3H)、7.45-7.49(t,1H)、7.54-7.63(m,4H)、8.05(d,1H)、8.18(d,1H)、8.65(s,1H).
【0245】
13C-NMR(101MHz,CDCl3):24.9(4C)、83.7(2C)、109.1(1C)、109.8(1C)、120.3(1C)、120.5(1C)、123.0(1C)、123.5(1C)、125.9(1C)、127.1(1C)、127.6(1C)、127.7(1C)、129.9(2C)、132.4(1C)、137.5(2C)、141.0(1C)、143.0(1C).
【0246】
11B-NMR(129MHz,CDCl3):31.6.
【0247】
合成例(16):
化合物(Y’-2-15):(4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボロラン-2-イル)フェロセンの合成
【化99】
【0248】
三ヨウ化ホウ素(157mg、0.40mmol)、フェロセン(298mg、1.6mmol)およびオルトジクロロベンゼン(1.6ml)を窒素雰囲気下、0℃で16時間撹拌した。反応液を0℃で減圧留去し、ジヨードボリルフェロセン(Y-14)を得た。その後に室温まで昇温し、トリエチルアミン(0.670ml、4.8mmol)、ピナコール(142mg、1.2mmol)を加え、撹拌した。その後、溶媒を減圧留去した。得られた粗生成物をゲル浸透クロマトグラフィー(溶離液:トルエン)によって単離精製したところ、橙色固体として化合物(Y’-2-15)(77.4mg、収率62%)を得た。
【0249】
1H-NMR(400MHz,CDCl3):δ=1.35(s,12H)、4.15(s,12H)、4.38(t,2H)、4.43(s,1H).
【0250】
13C-NMR(101MHz,CDCl3):24.9(4C)、68.4(5C)、71.9(2C)、73.7(2C)、83.9(2C).
【0251】
11B-NMR(129MHz,CDCl3):32.2.
【0252】
その他の合成例:
上述した合成例の他に、以下の合成例により本発明に係る二ヨウ化ホウ素化合物およびそれから得られるボロン酸化合物またはボロン酸エステル化合物を得た。なお各スキーム中、「pin」はピナコールエステルを示す。
【0253】
【0254】
【0255】
【0256】
【0257】
【0258】
【0259】
【産業上の利用可能性】
【0260】
本発明に係る二ヨウ化ホウ素化合物は、従来のグリニャール試薬等を用いた間接的な製造方法および直接的であっても高価な遷移金属触媒などを用いた製造方法などに比べて極めて簡便な方法で製造することができ、またそれから得られるボロン酸およびボロン酸エステル等はその後、種々の芳香族系化合物を製造するのに重要な化合物である。本発明では、このような重要な化合物およびその製造方法を提供することができる。
【符号の説明】
【0261】
100 有機電界発光素子
101 基板
102 陽極
103 正孔注入層
104 正孔輸送層
105 発光層
106 電子輸送層
107 電子注入層
108 陰極