(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-11
(45)【発行日】2022-11-21
(54)【発明の名称】ノロウイルスおよびその代替ウイルスに対する抗ウイルス剤および抗ウイルス組成物
(51)【国際特許分類】
A01N 65/00 20090101AFI20221114BHJP
A01P 1/00 20060101ALI20221114BHJP
A01N 65/08 20090101ALI20221114BHJP
A01N 65/40 20090101ALI20221114BHJP
A01N 25/30 20060101ALI20221114BHJP
A61P 31/12 20060101ALI20221114BHJP
A61P 31/14 20060101ALI20221114BHJP
A61K 36/44 20060101ALI20221114BHJP
A61K 36/889 20060101ALI20221114BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20221114BHJP
A61K 47/10 20060101ALI20221114BHJP
A61K 47/12 20060101ALI20221114BHJP
A61K 47/14 20060101ALI20221114BHJP
A61K 47/20 20060101ALI20221114BHJP
A61K 47/26 20060101ALI20221114BHJP
【FI】
A01N65/00 G
A01P1/00
A01N65/08
A01N65/40
A01N25/30
A61P31/12
A61P31/14
A61K36/44
A61K36/889
A61K45/00
A61K47/10
A61K47/12
A61K47/14
A61K47/20
A61K47/26
(21)【出願番号】P 2018169348
(22)【出願日】2018-09-11
【審査請求日】2021-09-10
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 公開者 :藤阪幸恵、島本敏、成谷宏文、吉田充史、曽根原亮、■徹、島本整 発行者 :第39回日本食品微生物学会学術総会 学術総会長西川禎一 刊行物 :第39回日本食品微生物学会学術総会 講演要旨集、第129頁 発行年月日 :平成30年8月31日
(73)【特許権者】
【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000101684
【氏名又は名称】アルタン株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】390008637
【氏名又は名称】オタフクソース株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】230104019
【氏名又は名称】大野 聖二
(74)【代理人】
【識別番号】100162503
【氏名又は名称】今野 智介
(72)【発明者】
【氏名】島本 整
(72)【発明者】
【氏名】辻 徹
(72)【発明者】
【氏名】吉田 充史
【審査官】谷尾 忍
(56)【参考文献】
【文献】再公表特許第2009/123183(JP,A1)
【文献】再公表特許第2010/067873(JP,A1)
【文献】特開2013-139432(JP,A)
【文献】藤阪幸恵ほか,デーツ種子のノロウィルスと代替ウィルスに対する抗ウィルス効果,日本防菌防黴学会年次大会要旨集,Vol.44,2017年,p.187
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N 65/00
A01N 65/08
A01N 65/40
A01N 25/30
A61K 36/44
A61K 36/889
A61K 45/00
A61K 47/10
A61K 47/12
A61K 47/14
A61K 47/20
A61K 47/26
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも縮合型タンニンを含む、カキノキ属(Diospyros)の植物の果実の抽出物(以下「カキ抽出物」という。)と、少なくともタンニンを含む、ナツメヤシ属(Phoenix)の植物の種子の抽出物(以下「デーツ種子抽出物」という。)とを含有する、ノロウイルスまたはその代替ウイルスであるMS2ファージもしくはネコカリシウイルスに対する抗ウイルス剤。
【請求項2】
前記カキ抽出物がカキノキ(Diospyros kaki)の果実の抽出物である、請求項1に記載の抗ウイルス剤。
【請求項3】
前記カキ抽出物がエタノール水溶液による抽出物である、請求項1または2に記載の抗ウイルス剤。
【請求項4】
前記デーツ種子抽出物がナツメヤシ(Phoenix dactylifera)の種子の抽出物である、請求項1~3のいずれか一項に記載の抗ウイルス剤。
【請求項5】
前記デーツ種子抽出物がエタノール水溶液による抽出物である、請求項1~4のいずれか一項に記載の抗ウイルス剤。
【請求項6】
前記デーツ種子抽出物が低分子タンニンについて富化されたものである、請求項1~5のいずれか一項に記載の抗ウイルス剤。
【請求項7】
前記カキノキ属の植物の果実1重量部に相当する前記カキ抽出物に対して、前記ナツメヤシ属の植物の種子10~100重量部に相当する前記デーツ種子抽出物を含有する、請求項1~6のいずれか一項に記載の抗ウイルス剤。
【請求項8】
前記ナツメヤシ属の植物の種子1重量部に相当する前記デーツ種子抽出物に対して、前記カキノキ属の植物の果実0.0005~0.1重量部に相当する前記カキ抽出物を含有する、請求項1~6のいずれか一項に記載の抗ウイルス剤。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載の抗ウイルス剤と、アルコール、有機酸および/またはその塩、界面活性剤、抗菌剤、保湿剤および化粧品用油脂類からなる群より選ばれる少なくとも1つの成分とを含有する、ノロウイルスまたはその代替ウイルスであるMS2ファージもしくはネコカリシウイルスに対する抗ウイルス組成物。
【請求項10】
前記アルコールとしてエタノールおよび/またはプロパノールを含有する、請求項9に記載の抗ウイルス組成物。
【請求項11】
前記有機酸および/またはその塩として、乳酸、クエン酸およびフェルラ酸ならびにそれらの塩からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する、請求項9または10に記載の抗ウイルス組成物。
【請求項12】
前記界面活性剤として、グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ラウリルグルコシド、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸アンモニウム、ラウレス硫酸ナトリウムおよびオレフィンスルホン酸ナトリウムからなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する、請求項9~11のいずれか一項に記載の抗ウイルス組成物。
【請求項13】
前記組成物全体100重量%に対して、前記カキノキ属の植物の果実0.05~1重量%に相当する前記カキ抽出物を含む前記抗ウイルス剤を含有する、請求項9~12のいずれか一項に記載の抗ウイルス組成物。
【請求項14】
前記組成物全体100重量%に対して、前記ナツメヤシ属の植物の種子1.25~2.5重量%に相当する前記デーツ種子抽出物を含む前記抗ウイルス剤を含有する、請求項9~13のいずれか一項に記載の抗ウイルス組成物。
【請求項15】
少なくとも縮合型タンニンを含む、カキノキ属(Diospyros)の植物の果実の抽出物(以下「カキ抽出物」という。)と、少なくともタンニンを含む、ナツメヤシ属(Phoenix)の植物の種子の抽出物(以下「デーツ種子抽出物」という。)を併用することにより、前記カキ抽出物、前記デーツ種子抽出物それぞれ単独のノロウイルスまたはその代替ウイルスであるMS2ファージもしくはネコカリシウイルスに対する抗ウイルス作用を相乗効果により増強する方法
(ただし、人間を治療する方法として人体内および人体表面上で行う場合を除く。)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノロウイルスまたはその代替ウイルスに対して有効な抗ウイルス剤および抗ウイルス組成物に関する。また本発明は、カキノキ等の果実の抽出物およびナツメヤシ等の種子の抽出物それぞれの用途に関する。
【背景技術】
【0002】
ノロウイルス(Norovirus)は、カリシウイルス科ノロウイルス属に分類される、直径が約30nmのプラス鎖の一本鎖RNAウイルスである。1968年に米国で食中毒・急性胃腸炎の病原体として発見されて以来、世界各国で検出され、日本においてもノロウイルスに起因する食中毒の発生が毎年多数報告されている。感染源としては、カキなどの二枚貝を原因食とする食材からの感染と患者の吐物・排泄物からの二次感染があり、特に後者が感染拡大の大きな原因となっている。ノロウイルスは感染力が極めて強く、10個以上のウイルスで感染するともいわれている。
【0003】
ノロウイルスの感染拡大を抑制するためには、原因食品を加熱する一次感染の予防とともに、調理器具や調理者の手指などの消毒によりノロウイルスの二次感染を予防することが極めて重要である。ところがノロウイルスは、ウイルス粒子の外層にエンベロープと呼ばれる膜状の構造を持たないウイルス(非エンベロープウイルス)であるため、エンベロープを持つウイルス(エンベロープウイルス)に対して有効である界面活性剤やアルコール(エタノール等)によっては消毒することができない。飲食店、給食施設、工場など食品を調理加工する場において、抗菌剤として汎用されていた塩化ベンザルコニウムやエタノール類にはノロウイルスに対する効果が認められておらず、塩素系漂白剤(次亜塩素酸ナトリウム等)、ヨード剤(ポピドンヨード等)、アルデヒド剤(グルタラール等)などがある程度有効とされていた。例えば、85℃以上で1分間の加熱、または200ppm以上の次亜塩素酸ナトリウムでの処理は、ノロウイルスの消毒方法として公的に認められている(厚生労働省)。しかしながら、人体に対する安全性への配慮から作業者の手指や調理器具類にこれらの薬剤類を使用することは適当とはいえず、まして食品に混入するおそれのある調理場での薬剤類の使用は現実的に困難である。
【0004】
上記の観点から、食品添加物に準じる植物由来の抽出物であって、ノロウイルス(またはその他の比エンベロープウイルス)の消毒に有効な抗ウイルス剤やそれを含有する抗ウイルス組成物の研究開発が進められている。ノロウイルス等に対する抗ウイルス剤の有効成分としては、例えば、カキノキ属(Diospyros)の植物の果実の抽出物(特許文献1、2)、カリンに代表されるボケ属(Chaenomeles)の植物の抽出物(特許文献3)、バナナに代表されるバショウ属(Musa)の植物の抽出物(特許文献4)、ブドウ種子由来ポリフェノールであるプロアントシアニジン(特許文献5)、栗渋皮抽出物(特許文献6)がこれまでに提案されている。
【0005】
一方、デーツ(ナツメヤシの実)は、日本では、甘みやコクを出すためにお好みソースの原料として用いられているが、その種子は産業廃棄物として大量に処分されている。デーツ種子の抽出物について、これまで抗ウイルス剤の有効成分として利用できることは知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開2008/153077号
【文献】国際公開2009/123183号
【文献】特開2013-087101号公報
【文献】特開2013-087102号公報
【文献】特開2013-047196号公報
【文献】特開2017-071585号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、ノロウイルス(またはその代替ウイルス)に対する抗ウイルス作用に優れ、かつ人体に対する安全性も高い抗ウイルス剤であって、従来有効活用されていなかった原料を用いて製造することのできるものを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、カキノキ(Diospyros kaki)に代表されるカキノキ属(Diospyros)の植物の果実の抽出物(本明細書において「カキ抽出物」という。)と、ナツメヤシ(Phoenix dactylifera)に代表されるナツメヤシ属(Phoenix)の植物の種子の抽出物(本明細書において「デーツ種子抽出物」という。)に注目した。そして、上記2種類の抽出物をそれぞれ比較的低い濃度で単独で使用した場合には十分な抗ノロウイルス作用が認められない(例えば後述する感染価減少値が3に満たない)としても、それらを併用した場合は意外にも十分な抗ノロウイルス作用が認められるようになる(例えば後述する感染価減少値が3以上になる)こと、つまり抗ノロウイルス作用における飛躍的な(好ましくは相乗効果的な)増強効果が発揮されることを見出した。
【0009】
本発明者らはさらに、上記の相乗効果にとって、デーツ種子抽出物に含まれる成分のうち、BSA等のタンパク質との凝集能を有する分子量が比較的高いタンニン(高分子タンニン)は不要であること、つまりBSA等のタンパク質との凝集能を有さない分子量が比較的低いタンニン(低分子タンニン)またはその他の成分が重要であることも見出した。高分子タンニンの方がノロウイルスのカプシドタンパク質と相互作用によって抗ノロウイルス作用を増強するように思われるところ、そのような相互作用を起こさない低分子タンニン等の成分の方が抗ノロウイルス作用を増強させる効果を有することは意外である。
【0010】
すなわち、本発明は下記の事項を包含する。
[1]
少なくとも縮合型タンニンを含む、カキノキ属(Diospyros)の植物の果実の抽出物(以下「カキ抽出物」という。)と、少なくともタンニンを含む、ナツメヤシ属(Phoenix)の植物の種子の抽出物(以下「デーツ種子抽出物」という。)とを含有する、ノロウイルスまたはその代替ウイルスに対する抗ウイルス剤。
[2]
前記カキ抽出物がカキノキ(Diospyros kaki)の果実の抽出物である、項1に記載の抗ウイルス剤。
[3]
前記カキ抽出物がエタノール水溶液による抽出物である、項1または2に記載の抗ウイルス剤。
[4]
前記デーツ種子抽出物がナツメヤシ(Phoenix dactylifera)の種子の抽出物である、項1~3のいずれか一項に記載の抗ウイルス剤。
[5]
前記デーツ種子抽出物がエタノール水溶液による抽出物である、項1~4のいずれか一項に記載の抗ウイルス剤。
[6]
前記デーツ種子抽出物が低分子タンニンについて富化されたものである、項1~5のいずれか一項に記載の抗ウイルス剤。
[7]
前記カキノキ属の植物の果実1重量部に相当する前記カキ抽出物に対して、前記ナツメヤシ属の植物の種子10~100重量部に相当する前記デーツ種子抽出物を含有する、項1~6のいずれか一項に記載の抗ウイルス剤。
[8]
前記ナツメヤシ属の植物の種子1重量部に相当する前記デーツ種子抽出物に対して、前記カキノキ属の植物の果実0.0005~0.1重量部に相当する前記カキ抽出物を含有する、項1~6のいずれか一項に記載の抗ウイルス剤。
[9]
項1~8のいずれか一項に記載の抗ウイルス剤と、アルコール、有機酸および/またはその塩、界面活性剤、抗菌剤、保湿剤および化粧品用油脂類からなる群より選ばれる少なくとも1つの成分とを含有する、ノロウイルスまたはその代替ウイルスに対する抗ウイルス組成物。
[10]
前記アルコールとしてエタノールおよび/またはプロパノールを含有する、項9に記載の抗ウイルス組成物。
[11]
前記有機酸および/またはその塩として、乳酸、クエン酸およびフェルラ酸ならびにそれらの塩からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する、項9または10に記載の抗ウイルス組成物。
[12]
前記界面活性剤として、グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ラウリルグルコシド、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸アンモニウム、ラウレス硫酸ナトリウムおよびオレフィンスルホン酸ナトリウムからなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する、項9~11のいずれか一項に記載の抗ウイルス組成物。
[13]
前記組成物全体100重量%に対して、前記カキノキ属の植物の果実0.05~1重量%に相当する前記カキ抽出物を含む前記抗ウイルス剤を含有する、項9~12のいずれか一項に記載の抗ウイルス組成物。
[14]
前記組成物全体100重量%に対して、前記ナツメヤシ属の植物の種子1.25~2.5重量%に相当する前記デーツ種子抽出物を含む前記抗ウイルス剤を含有する、項9~13のいずれか一項に記載の抗ウイルス組成物。
[15]
カキ抽出物およびデーツ種子抽出物を併用することにより、カキ抽出物、デーツ種子抽出物それぞれ単独のノロウイルスまたはその代替ウイルスに対する抗ウイルス作用を相乗効果により増強する方法。
【発明の効果】
【0011】
カキ抽出物およびデーツ種子抽出物を抗ウイルス剤として併用することにより、ノロウイルス(またはその代替ウイルス)に対する抗ウイルス作用において相乗効果が発揮され、優れた抗ウイルス作用(抗ウイルス活性)が示される。したがって、それぞれ単独では充分な抗ウイルス作用を奏さないほどの低濃度であっても、組成物中に混合して配合することができるようになるため、カキ抽出物およびデーツ種子抽出物の用途が広がる。
【0012】
本発明は一つの側面において、すでに優れた抗ノロウイルス作用(抗ウイルス活性)を有することが知られているカキ抽出物を含有する抗ウイルス剤および抗ウイルス組成物について、着色・発色の観点から改良できるものと期待される。従来、カキ抽出物はカキ縮合型タンニンにより僅かに着色しており、例えば噴霧後しばらく経過してカキ縮合型タンニンが酸化するとさらに濃く発色することがあるため、有機酸等を添加することでそのような着色および発色を抑制していた。しかし本発明においては、ほとんど無色透明であるがカキ抽出物の抗ウイルス作用を相乗効果的に増強することに貢献する、高分子タンニンを除去したデーツ種子抽出物を併用することで、カキ抽出物の使用量を少なくすることができる。そのため、抗ウイルス剤および抗ウイルス組成物の製造にあたって、下記抽出物の着色・発色をより容易に抑制することができる、あるいは発色・着色を目立たなくすることができるようになる。
【0013】
また、これまではほとんど産業廃棄物として処理されていたデーツ種子を、本発明の抗ウイルス剤の一方の成分であるデーツ種子抽出物の原料として有効活用できるようになるため、デーツを大量に消費する事業者にとってコスト面での貢献も大きい。
【0014】
このような本発明の抗ウイルス剤およびそれを有効成分として含有する抗ウイルス組成物は、食品を取り扱う状況下や医療機関などにおいてノロウイルスを消毒し感染を予防するための製品として、性能面およびコスト面の両面で競争力の高い優れた製品となり得る。
【0015】
なお、本発明の抗ウイルス剤が有する、ノロウイルス(またはその代替ウイルス)に対する「抗ウイルス作用」(本明細書において「抗ノロウイルス作用」と呼ぶこともある。)とは、少なくともノロウイルスの感染・増殖能力を喪失させる、またはノロウイルスを不活性化させる作用を含み、通常はさらに、ノロウイルスのゲノムを減少または実質的に消滅させる作用までを含む。抗ウイルス作用は、例えばlog PFU/mLまたはlog TCID50/mLで表される感染価(コントロールの感染価と比較したときの減少値、Δlog PFU/mLまたはΔlog TCID50/mL)によって評価および確認することができる。また、抗ウイルス作用のうちノロウイルスのゲノムを消滅させる作用は、例えばリアルタイムRT-PCR法により測定されるCt値またはそれから換算されるノロウイルスのゲノム遺伝子のコピー数(コントロールと比較したときのゲノム残存率)によって評価および確認することができる。これらの評価方法はノロウイルスおよびその他のウイルスに対する抗ウイルス作用について周知慣用であり、例えば本明細書の実施例に示したような、標準的な手法によって実施することができる。本発明における抗ウイルス作用は、感染価の減少値、ゲノム残存率、またはその他の手法のいずれによって評価されるものであってもよい。本明細書では、上記のような抗ウイルス作用によってもたらされる効果を「消毒効果」と呼ぶことがある。
【0016】
抗ウイルス作用は、本発明の抗ウイルス剤および抗ウイルス組成物の用途に応じて所期の目的が達成される水準に到達していればよく、その作用の強さは特に限定されるものではない。一般的な抗ウイルス作用については、感染価減少値(Δlog PFU/mLまたはΔlog TCID50/mL)が3以上であるかどうかが一つの基準とされている。本明細書では、「抗ウイルス作用」によって3以上の感染価減少値がもたらされる場合、抗ウイルス剤または抗ウイルス組成物は「抗ウイルス活性を有する」(ノロウイルスに対するものであれば「抗ノロウイルス活性を有する」)と表現する。また、ノロウイルスのゲノムの減少は感染価の減少を過小評価する傾向にあることを考慮すると、感染価減少値が2以上である場合に、「抗ウイルス活性を有する」と評価する(本明細書の記載を読み替える)ことも可能である。
【0017】
また、本発明の抗ウイルス剤における、カキ抽出物とデーツ種子抽出物との併用による抗ウイルス作用に対する「相乗効果」は、FICインデックス(Fractional Inhibitory Concentration Index)を応用することによって評価および確認することができる。FICインデックスは、細菌類に対する薬剤の効果を評価するための手法として周知慣用であり、各薬剤の単独でのMIC(Minimum Inhibitory Concentration:最少生育阻止濃度)および2剤を併用したときのMICを測定し、それを用いる所定の式によってFICインデックスを算出して、その値を基準と照らし合わせて、相乗効果の有無を判定する(FICインデックスの計算式および判定基準は後記実施例参照)。MICはウイルスについては測定できないため、本発明では、感染価減少値(Δlog PFU/mL)が3となる濃度、または上記のようなことを考慮して感染価減少値が2となる濃度をMICの代替としてよい。
【0018】
本明細書の実施例(参考例、調製例を含む)に開示されているように、本発明によれば、ノロウイルスに対しても、ノロウイルスの代替ウイルスに対しても、抗ウイルス作用の飛躍的な(相乗効果的な)増強効果が認められる。このような増強効果と、ノロウイルスの代替ウイルスに対して抗ウイルス活性を有する(感染価減少値が3以上である)ことから、本発明の抗ウイルス剤はノロウイルスに対しても同様に抗ウイルス活性を有するものと推認できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1は、調製例2において測定した、デーツ種子と抽出溶媒の比率を変更した各デーツ種子抽出物(DSE)のタンニン含有量を表すグラフである。
【
図2】
図2は、調製例3において測定した、抽出溶媒を変更した各デーツ種子抽出物(DSE)および各デーツ果実抽出物(DFE)のタンニンの含有量を表すグラフである(n=3)。
【
図3】
図3は、参考例2において測定した、抽出溶媒を変更した各デーツ種子抽出物(DSE)または各デーツ果実抽出物(DFE)を単独で含む試験液の、MS2ファージに対する抗ウイルス作用(感染価減少値)を表すグラフである(n=3)。
【
図4】
図4は、参考例3において測定した、デーツ種子と抽出溶媒である50%エタノール水溶液の比率を変更した各デーツ種子抽出物(DSE)を単独で含む試験液の、ノロウイルスに対する抗ウイルス作用(ゲノム残存率)を表すグラフである。
【
図5】
図5は、参考例4において測定した、デーツ種子と抽出溶媒である70%エタノール水溶液の比率を変更した各デーツ種子抽出物(DSE)を単独で含む試験液の、ノロウイルスに対する抗ウイルス作用(ゲノム残存率)を表すグラフである。
【
図6】
図6は、実施例1において測定した、カキ抽出物(PE)単独、デーツ種子抽出物(DSE)単独、またはPEおよびDSEの両方を含む試験液の、MS2ファージに対する抗ウイルス作用(感染価減少値)を表すグラフである(n=3)。
【
図7】
図7は、実施例1(2.相乗効果の有無の検証)における、カキ抽出物(PE)にデーツ種子抽出物(DSE)を組み合わせることによる、MS2ファージに対する抗ウイルス作用(感染価減少値)における相乗効果の評価に関するグラフである。[A]PEの濃度を0.05%に固定し、DSEの濃度を変化させた場合。[B]PEの濃度を0.1%に固定し、DSEの濃度を変化させた場合。
【
図8】
図8は、実施例1(2.相乗効果の有無の検証)における、デーツ種子抽出物(DSE)にカキ抽出物(PE)を組み合わせることによる、MS2ファージに対する抗ウイルス作用(感染価減少値)における相乗効果の評価に関するグラフである。[A]DSEの濃度を1.25%に固定し、PEの濃度を変化させた場合。[B]DSEの濃度を2.5%に固定し、PEの濃度を変化させた場合。
【
図9】
図9は、調製例4において調製された、BSAの使用量を変更して処理した各デーツ種子抽出物(DSE)についての、タンニン含有量(右縦軸)とMS2ファージに対する抗ウイルス作用(感染価減少値、左縦軸)の結果を表すグラフである(n=3)。横軸下の写真は、各BSA処理DSEの写真であり、凝集(沈澱)した高分子タンニンが認められる。
【
図10】
図10は、調製例5における、デーツ種子抽出物(DSE)およびBSA処理DSEの成分を、抽出物薄層クロマトグラフィー(TLC)により分析した際の、バニリン塩酸塩法による呈色反応を表す写真等である。
【
図11】
図11は、実施例2において測定した、カキ抽出物(PE)、BSA処理デーツ種子抽出物(DSE)、およびそれらの混合物による、MS2ファージに対する抗ウイルス作用(感染価減少値)を表すグラフである(n=3)。
【
図12】
図12は、実施例3において測定した、カキ抽出物(PE)、デーツ種子抽出物(DSE)、およびそれらの混合物による、ノロウイルスに対する抗ウイルス作用(ゲノム残存率)を表すグラフである(n=4)。
【発明を実施するための形態】
【0020】
- 抗ウイルス剤 -
本発明の抗ウイルス剤は、ノロウイルスまたはその代替ウイルスに対するものであって、少なくとも縮合型タンニンを含む、カキノキ属(Diospyros)の植物の果実の抽出物(カキ抽出物)と、少なくともタンニンを含む、ナツメヤシ属(Phoenix)の植物の種子の抽出物(デーツ種子抽出物)とを含有する。このような抗ウイルス剤は、カキ抽出物およびデーツ種子抽出物のみからなるものであってもよいし、これら2つの抽出物に加えて、適切な溶媒や賦形剤、またノロウイルスおよびその代替ウイルスに対する抗ウイルス作用を同等以上にする(増強する)ことのできる物質を含有するものであってもよい。
【0021】
天然のカキノキ属の植物の果実および天然のナツメヤシ属の植物の種子には、タンパク質の凝集能(変成作用、収斂作用)や金属イオンへの結合能などを有し、渋味を感じさせる物質、いわゆる「タンニン」と総称される種々の化合物が豊富に含まれている。したがって、それらの抽出物である本発明のカキ抽出物およびデーツ種子抽出物は、抽出工程およびその他の工程において特定の成分を除去するような操作を行っていないかぎり、タンニン(カキ抽出物については縮合型タンニン、デーツ種子抽出物については高分子タンニンおよび低分子タンニン)を自ずと含むものであるとみなせる。
【0022】
タンニンは一般的に、「縮合型タンニン」と「加水分解型タンニン」に大別することができる。縮合型タンニンは、フラバン骨格を有するエピカテキン(EC)、エピガロカテキン(EGC)、エピカテキンガレート(ECg)、エピガロカテキンガレート(EGCg)などのカテキン類(下記構造式参照)が、C4-C8(またはC4-C6間)の炭素-炭素結合によって縮合した化合物である。縮合型タンニンは加水分解されないが、酸性条件下で加熱することによってアントシアニジンを生成することからプロアントシアニジンとも呼ばれる。一方、加水分解型タンニンは、グルコース等の糖アルコールと没食子酸等のカルボン酸(多価フェノール)とがエステル結合により結合した構造を有しており、加水分解される。縮合型タンニンおよび加水分解型タンニンは、構成単位の構造や結合数の異なる、高分子量から低分子量まで多岐にわたるポリマーおよびオリゴマーを包含する。なお、縮合型タンニンの構造単位として例示したECgおよびEGCg(それぞれ、ECまたはEGCの没食子酸エステルであり、そのエステル結合を加水分解することが可能である。)も加水分解型タンニンに分類されることがある。また、本明細書において、EC、EGC、ECg、EGCgなどのカテキン類、その他の多量体化していない化合物も、広義の「タンニン」に含める、特に「低分子タンニン」に含めることができる。
【0023】
【0024】
カキ抽出物とデーツ種子抽出物の間では(さらにその他の植物原料に由来する抽出物との間では)、タンニンとして含有される化合物の構造および各化合物の割合(組成)が相違しており、本明細書ではそれぞれに特徴的な組成のタンニンを「カキタンニン」、「デーツ種子タンニン」などと呼ぶこともある。詳細は以下に述べるが、カキ抽出物(カキタンニン)には高分子量のタンニンである縮合型タンニンが多く含まれる一方、それ以外のタンニンは少量しか含まれない。これに対してデーツ種子抽出物(デーツ種子タンニン)は、高分子量のタンニンだけでなく低分子量のタンニンも比較的多く含まれる。
【0025】
・カキ抽出物
本発明で用いるカキ抽出物は、カキノキ属の植物、代表的にはカキノキ、の果実に含まれる物質の集合体であって、抗ノロウイルス作用を有するものである。天然のカキ抽出物はタンニンおよびそれ以外の様々な物質を含有するが、抗ウイルス作用を有する物質として、少なくとも下記推定構造式で表されるカキ縮合型タンニンを含有することが好ましい。カキ縮合型タンニンの平均分子量や構成成分の比率には諸説有るが、Liら(C. Li, J. D. Reed, A. E. Hagerman, the XXVth International Conferenceon Polyphenols, 2010.5)によると、平均分子量は11kDa、構成成分比はEGC:EGCg:EC:ECgは4:11:3:8と報告されている。
【0026】
【0027】
カキ抽出物が含有するタンニンは通常、ほとんどが縮合型タンニンであり、加水分解型タンニンやEGC等のカテキン類はわずかである。カキ抽出物のノロウイルス等に対する抗ウイルス作用は、主に縮合型タンニンが担っていると考えられ、エピガロカテキンガレート等単独ではノロウイルス等に対する抗ウイルス作用はほとんど示されないため、本発明で用いるカキ抽出物は、縮合型タンニンの純度(カキ抽出物の固形分全体に対する縮合型タンニンの割合)が高い方が好ましい。縮合型タンニンは、後述するような抽出方法により得られるカキ抽出物の固形分全体に対して10~50重量%程度、通常は20~30重量%程度の割合(カキ抽出物の原料とする、水分を含む生のカキ果実を基準とすれば、例えば0.1~1重量%程度)で含まれている。ただし、カキ抽出物中の縮合型タンニン以外の物質が、カキ抽出物中(縮合型タンニン等)および/またはデーツ種子抽出物のノロウイルス等に対する抗ウイルス作用を増強ないし補助していたりする可能性も排除されるものではない。
【0028】
また、本発明のカキ抽出物は、水および/またはアルコールに対して可溶性の縮合型タンニンを豊富に含むもの、逆に言えば縮合型タンニンが不溶化処理されていないもの(不溶化している縮合型タンニンが実質的にないもの、ないし不溶化している縮合型タンニンが存在したとしてもその割合が低いもの)が好ましい。いわゆる渋柿に豊富に含まれているカキ縮合型タンニンは基本的に水等に対して可溶性であり、口腔内で渋味を感じさせたり、タンパク質を凝集させたりといったタンニンの典型的な性質が発揮される。一方で、いわゆる甘柿や、渋柿をアルコールまたは炭酸ガスを用いて渋抜きしたものは、本来水等に対して可溶性であるカキ縮合型タンニンが不溶化しているため、渋味を感じないなど、上記のようなタンニンの性質が表れにくくなっている。カキ縮合型の不溶化のプロセスには、果実の成熟や渋抜き処理により生じるホルムアルデヒドによって、カキ縮合型タンニン同士が8位の部位においてさらに架橋されるためと推測されている(下記反応式参照、矢印は8位の部位を表す)。本発明による抗ウイルス活性や、組成物に配合したときの挙動などを考慮すると、カキ縮合型タンニンは、水および/またはアルコールに対して可溶性である方が好ましい。
【0029】
【0030】
カキ抽出物の原料は特に限定されるものではなく、様々なカキノキ属(Diospyros)の植物、代表的にはカキノキ(Diospyros kaki)の果実を原料とすることができるが、例えば不溶化していない縮合型タンニンを豊富に含む渋柿(例えば蜂屋、平種無といった品種)の未成熟果を用いると効率的かつ経済的である。果実のうち、特に果肉の部分に縮合型タンニンが豊富に含まれているが、果実全体を丸ごと、または果肉に果皮や種子が付着した状態で原料とすることもできる。
【0031】
カキ抽出物は、例えば、蔕を除去した渋柿を、粉砕、圧搾して搾汁を回収するか、適度な大きさに切断してからミキサーにかけて液状にし、さらに遠心分離機にかけて上澄み液を回収する方法、あるいは適切な溶媒で抽出して抽出液を回収する方法によって得られるものである。「カキ抽出物」の実施形態には、必要に応じて後述するような処理を施したカキ果実の搾汁液や、それと水および/またはエタノール(もしくはその他のアルコール)との混合液も包含される。
【0032】
カキ抽出物の抽出溶媒としては、植物由来原料から抽出液を調製する際に用いられている一般的な溶媒を用いることができるが、例えば水;メタノール、エタノール、n-プロパノール、n-ブタノール等の低級アルコール;プロピレングリコール、グリセリン等の多価アルコール;ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシドなどの極性溶媒または両極性溶媒を用いることができる。抗ウイルス作用や生体への安全性を考慮すると、水および/またはエタノール(もしくはその他のアルコール)を含有する溶媒、例えばエタノール水溶液を用いることが好ましい。エタノール水溶液中のエタノールの濃度は適宜調整することができるが、通常10vol%以上、好ましくは30vol%以上、より好ましくは50vol%以上、かつ通常90vol%以下、好ましくは80vol%以下、より好ましくは70vol%以下である。
【0033】
カキ抽出物の原料と抽出溶媒との比率は、所望の濃度の抽出液が得られるよう、好ましくはなるべく多くの原料中の成分(特に縮合型タンニン)を抽出できるよう、用いる抽出溶媒およびその他の抽出条件に応じて適宜調節することができる。
【0034】
カキ抽出物を抽出する際の温度、圧力、時間、その他の条件も適宜調整することができる。カキ抽出物は、例えば、室温付近、常圧で、10分~一晩程度かけた抽出処理により得られるが、必要に応じて加熱、加圧、長時間化してもよい。抽出処理には適宜、遠心分離処理、残渣の濾過処理などを組み合わせることができる。
【0035】
カキ抽出物の調製方法は、抗ノロウイルス作用を有し、デーツ種子抽出物と併用したときに相乗効果が奏され、抗ノロウイルス活性が認められるようになるものが得られる限り特に限定されるものではなく、上に例示したような方法による抽出工程の他、さらに必要に応じて加熱/アルコール処理工程、精製工程、凍結乾燥工程、粉末化工程などを含むことができる。これらの工程は、カキ抽出物に含有されるカキ縮合型タンニンおよびその他の成分による抗ノロウイルス作用が極力低下しない条件下で行うことが望ましく、当業者であればそのような条件を適宜設定することができる。
【0036】
本発明のカキ抽出物として、上述のようなカキノキ属の植物の果実の抽出物をそのまま用いることもできるが、特に搾汁液等については、加熱またはアルコールで処理した抽出物を用いることが望ましい。このような処理により、カキ抽出物(搾汁液等)の腐敗、着色、臭気の発生などを抑制することができ、保存性が高く工業的に利用しやすいカキ抽出物とすることができるとともに、原料としたカキノキ属の植物の果実に由来する酵素を失活させることができるため抗ウイルス性を検証するための測定が妨害される(正しく評価できない)おそれも低減できる。
【0037】
加熱処理の温度および時間条件は、搾汁液等に含有されているカキノキ属の植物に由来する酵素を失活させることができる程度の条件であればよく、植物の酵素を失活させるための一般的な条件を採用することができる。すなわち、温度は通常60~130℃、時間は通常5秒~30分であり、たとえば、120℃~130℃で5~10秒間、あるいは約85℃で5~15分間などの条件で加熱処理を行えばよい。また、加熱処理工程の態様は特に限定されるものではなく、たとえば搾汁液を殺菌する工程における加熱や、粉末化する工程における加熱、あるいは柿渋(詳細は後述)を製造するための発酵開始前の加熱などを、加熱処理工程とみなすこともできる。
【0038】
一方、アルコール処理は、通常10~90vol%、好ましくは30~80vol%、より好ましくは50~70vol%のエタノール等のアルコールを用いて行うことができる。たとえば、カキ搾汁液に95vol%エタノールを同量程度添加する(処理液全体におけるエタノールの濃度を47.5vol%とする)ように処理し、その後は密閉遮光容器内で保存することが好ましい。このようにして得られるアルコール処理されたカキ搾汁液は、通常淡褐色の液体となる。また、アルコール処理工程の態様も特に限定されるものではなく、たとえばエタノール等のアルコール水溶液を用いて抽出をする工程や、典型的には本発明の抗ウイルス組成物としてのアルコール製剤を製造するための一工程として、必要に応じて上記の加熱処理が施されたカキ抽出物にアルコールを添加して混合することにより行うことを、アルコール処理工程とみなすこともできる。
【0039】
上記のような工程により得られたカキ抽出物が抽出液の状態である場合、保存性(着色等の変質の防止)や取り扱い性などの観点から、凍結乾燥工程により固形化し、さらに粉末化工程により固形化物を粉砕して粉末化することが好ましい。このようにして調製されるカキ抽出物の凍結乾燥粉末は、通常微黄色である。凍結乾燥粉末はさらに、使用時まで冷凍保存しておくことが好ましい。
【0040】
なお、日本の食品衛生法に基づく「既存添加物名簿収載品目リスト」に「柿タンニン」(品名/別名=柿渋、柿抽出物。基原・製法・本質=カキ科カキ(Diospyros kaki THUNB.)の実より、搾汁したもの、又は水若しくはエタノールで抽出して得られたものである。主成分はタンニン及びタンニン酸である。)として記載されている添加物を、本発明におけるカキ抽出物として使用してもよい。
【0041】
本発明におけるカキ抽出物としては、未成熟の渋柿を搾汁したのち長期間(1~3年程度)発酵、熟成させて得られる液体であって、固形分および発酵により生成した有機酸などを含有する(例えば、液体の全量に対して約10重量%の固形分を含有し、その約半分、すなわち約5重量%の縮合型タンニンを含有する)「柿渋」を利用してもよい。このような柿渋は従来、民間薬や塗料などとして利用されており、商品として一般的に市販されている。このような「柿渋」は、渋柿の搾汁液にカキ由来の酵母培養液を加え、20~25℃で1~3ヶ月間発酵させたもの(通常は赤褐色の液体)であってもよい。
【0042】
さらに、カキノキ属の植物の果実の抽出物を再現ないし模倣した物質、例えばカキノキ属の植物の果実から得られる抽出物と同等の成分(特に同等の含有量の縮合型タンニン)および抗ノロウイルス作用を有する抽出物を、カキノキ属の植物の果実以外の部位(葉、樹皮等)から調製したり、人工的に調製したりしたものを、本発明におけるカキ抽出物として使用できる可能性もある。
【0043】
・デーツ種子抽出物
本発明で用いるデーツ種子抽出物は、ナツメヤシ属の植物の種子に含まれる物質の集合体であって、抗ノロウイルス作用を有するものである。天然のデーツ種子抽出物は様々な物質を含有するが、抗ノロウイルス作用を有する物質として、少なくとも低分子タンニン(全タンニンから高分子タンニンを除去した画分)を含有することが好ましく、低分子タンニンの純度(デーツ種子抽出物の固形分全体に対する低分子タンニンの割合)は高い方が好ましい。ただし、デーツ種子抽出物の低分子タンニン以外の物質、例えば高分子タンニンまたはその他のタンニン様化合物が、それ自身抗ノロウイルス作用を有していたり、デーツ種子抽出物(低分子タンニン)および/またはカキ抽出物中の抗ノロウイルス作用を増強ないし補助していたりする可能性も排除されるものではない。
【0044】
本明細書において、デーツ種子抽出物が含有する「タンニン」とは、バニリン塩酸塩法、フォーリンチオカルト法、EcCl2法、その他の測定方法により、好ましくはバニリン塩酸塩法により定量できる物質を指す。「高分子タンニン」とは、前記「タンニン」のうち、BSAまたはその他のタンパク質、好ましくはBSAとの凝集能を有する画分、換言すればBSA等と反応させることにより溶液中から除去できる画分を指す。「低分子タンニン」は、前記「タンニン」のうち、BSA等との凝集能を有さない画分、換言すればBSA等と反応させたときに溶液(上清)中に溶解して残存する画分を指す。デーツ種子抽出物が含有する「低分子タンニン」には、具体的には、少なくとも、エピガロカテキンガレートおよび/またはエピカテキンが含まれる。なお、通常は「高分子タンニン」は黄褐色、「低分子タンニン」はほとんど無色であり、デーツ種子抽出物の溶液から高分子タンニンを除去した後の上清(低分子タンニン溶液)はほぼ無色となる。
【0045】
後記実施例において示されているように、本発明における相乗効果は、カキ抽出物と、全画分のタンニンを含有するデーツ種子抽出物との併用によっても奏されるが、カキ抽出物と、デーツ種子抽出物のうち「高分子タンニン」を除去した画分、すなわち「低分子タンニン」の画分との併用によっても奏される。したがって、本発明におけるデーツ種子抽出物は、少なくとも低分子タンニンを含有することが好ましい。
【0046】
デーツ種子抽出物は、低分子タンニンについて富化されたもの、つまりタンニン全体に含まれる高分子タンニンの比率(重量比)を低減させ、低分子タンニンの比率を増加させたものが好ましい。本発明の一側面において、デーツ種子抽出物は、抽出された全タンニンから精製処理等によって高分子タンニンを除去し、タンニンとして実質的に低分子タンニンのみを含有するものが望ましい。「実質的に」は、高分子タンニンを除去するための精製処理等によっても除去しきれなかった微量の(または検出限界以下の)分子タンニンが残存することは許容されることを意味する。このような実施形態は、相乗効果によって抗ウイルス活性を有するとみなされる水準を保持しつつ(感染価減少値が少なくとも3であり)、デーツ種子抽出物の高分子タンニンによる着色を低減することができるため好適である。
【0047】
デーツ種子抽出物中の高分子タンニンを低減させる(除去する)ための手段は特に限定されるものではない。例えば、デーツ種子抽出物の溶液を、BSAまたはその他のタンパク質の溶液と混合し、高分子タンニンとBSA等のタンパク質との凝集物を沈澱させ、その上清を回収する方法を用いることができる。この際のBSAの濃度は、通常1mg/mL以上、好ましくは2mg/mL以上、より好ましくは3mg/mL以上である。
【0048】
本発明の一実施形態において、抗ウイルス剤が含有するデーツ種子抽出物は、デーツ種子抽出物中の全タンニン量に対して、50重量%以上、75重量%以上、または80重量%以上の高分子タンニンが除去されている、言い換えれば低分子タンニンが2倍以上、4倍以上または5倍以上に富化されている。これらの割合を用いて、本明細書に記載されている「ナツメヤシ属の植物の種子1重量部に相当するデーツ種子抽出物」から換算される「タンニン」の重量を「低分子タンニン」の重量に換算してもよい。
【0049】
デーツ種子抽出物中の高分子タンニンを低減させる(除去する)ための手段としては、高分子タンニンと低分子タンニンの挙動の相違を利用した、シリカゲル、イオン交換樹脂、活性担当の吸着材を用いたカラムクロマトグラフィや、ポリビニルポリピロリドン(PVPP)との接触処理などにより、低分子タンニン画分を回収する(高分子タンニン画分を破棄する)方法を用いることも可能である。
【0050】
デーツ種子抽出物の調製方法は、抗ノロウイルス作用を有し、カキ抽出物と併用したときに相乗効果が奏され、抗ノロウイルス活性が認められるようになるものが得られる限り特に限定されるものではなく、上に例示したような方法による抽出工程の他、さらに必要に応じて濃縮工程、精製工程、(凍結)乾燥工程、粉砕・粉末化工程などを含むことができる。これらの工程は、デーツ種子抽出物に含有される低分子タンニンおよびその他の成分による抗ノロウイルス作用が極力低下しない条件下で行うことが望ましく、当業者であればそのような条件を適宜設定することができる。
【0051】
デーツ種子抽出物の原料は特に限定されるものではなく、様々なナツメヤシ属(Phoenix)の植物、代表的にはナツメヤシ(Phoenix dactylifera)の種子を原料とすることができるが、デーツ(ナツメヤシの果肉)を利用した後に残される種子を用いると、産業廃棄物の効率的な利用といえ、経済的である上、環境に対する負荷を減らすこともできる。デーツのタンニンの含有量は、種子中で高く、果肉中では低いため、種子のみを原料とすることが望ましいが、種子に果肉が付着した状態で原料とすることもできる。
【0052】
デーツ種子抽出物は、例えば、デーツ種子の粉砕物または凍結乾燥粉末を適切な温度および時間で抽出溶媒に浸漬することにより、抽出液として回収されるものである。
【0053】
デーツ種子抽出物の抽出溶媒としては、植物由来原料から抽出液を調製する際に用いられている一般的な溶媒を用いることができるが、例えば水;メタノール、エタノール、n-プロパノール、n-ブタノール等の低級アルコール;プロピレングリコール、グリセリン等の多価アルコール;ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシドなどの極性溶媒または両極性溶媒を用いることができる。抗ウイルス作用や生体への安全性を考慮すると、水および/またはエタノール(もしくはその他のアルコール)を含有する溶媒が好ましく、さらに抽出物中に含まれるタンニン量および抗ウイルス作用を考慮すると、例えばエタノール水溶液(もしくはその他のアルコールの水溶液)を用いることが好ましい。エタノール水溶液中のエタノールの濃度は適宜調整することができるが、通常10vol%以上、好ましくは30vol%以上、より好ましくは50vol%以上、かつ通常90vol%以下、好ましくは80vol%以下、より好ましくは70vol%以下である。
【0054】
なお、後記実施例(参考例)に示すように、デーツ種子抽出物は、水を抽出溶媒として用いたときよりも、エタノール水溶液を抽出溶媒として用いたときの方が、タンニンの含有量が高くなる傾向にある。しかしながら、本発明は後者のデーツ種子抽出物を使用する実施形態に限定されるものではなく、抗ウイルス剤やそれを含有する抗ウイルス組成物の用途に応じて、所期の抗ウイルス活性(消毒効果)を奏することができれば、前者のデーツ種子抽出物を使用する実施形態であってもよい。
【0055】
デーツ種子抽出物の原料と抽出溶媒との比率は、所望の濃度の抽出液が得られるよう、好ましくはなるべく多くの原料中の成分(特にタンニン)を抽出できるよう、用いる抽出溶媒およびその他の抽出条件に応じて適宜調節することができる。例えば、抽出溶媒としてエタノール水溶液を用いる場合、エタノール水溶液に対する原料(デーツ種子)の重量比が少なくとも10重量%に達するまでは、当該重量比が大きいほど抽出物中のタンニン量も多い、つまり抗ウイルス作用の面で好ましい抽出物が得られる傾向にある。
【0056】
デーツ種子抽出物を抽出する際の温度、圧力、時間、その他の条件も適宜調整することができる。デーツ種子抽出物は、例えば、室温付近、常圧で、10分~一晩程度かけた抽出処理により得られるが、必要に応じて加熱、加圧、長時間化してもよい。抽出処理には適宜、遠心分離処理、残渣の濾過処理などを組み合わせることができる。
【0057】
デーツ種子抽出物についても、必要に応じて、カキ抽出物について前述した加熱/アルコール処理工程、凍結乾燥工程、粉末化工程などを同様に(必要に応じて適宜改変しながら)行ってもよい。
【0058】
さらに、ナツメヤシ属の植物の種子の抽出物を再現ないし模倣した物質、例えばナツメヤシ属の植物の種子から得られる抽出物と同等の成分(特に同等の含有量の低分子タンニン)および抗ノロウイルス作用を有する抽出物を、ナツメヤシ属の植物の種子以外の部位から調製したり、人工的に調製したりしたものを、本発明におけるデーツ種子抽出物として使用できる可能性もある。
【0059】
・ノロウイルス
本発明の抗ウイルス剤が対象とするノロウイルスは、カリシウイルス科ノロウイルス属に属するウイルスの総称であり、ヒトノロウイルス、マウスノロウイルス等を包含する。また、ヒトノロウイルスにはこれまで2つの遺伝子群(GIおよびGII)があること、さらにGIは9種類(GI.1~GI.9)、GIIは22種類(GII.1~GII.22)の遺伝子型に分類できることが知られているが、本発明の抗ウイルス剤はいずれの遺伝子群および遺伝子型のヒトノロウイルスを対象とすることもできる。
【0060】
本発明の抗ウイルス剤は、ノロウイルスだけでなく、その代替ウイルス、例えばMS2ファージ、ネコカリシウイルス等を対象とすることもできる。本発明では、後記実施例に示すように、ノロウイルスに対しても、その代替ウイルスに対しても、優れた抗ウイルス作用(抗ウイルス活性)を示す。
【0061】
・抗ウイルス剤の調製および用途
本発明の抗ウイルス剤が「ノロウイルスまたはその代替ウイルスに対する」ものであるとは、抗ウイルス剤を溶解してそれらのウイルスと接触させたときに、前述したような「抗ウイルス作用」が奏されること、または「抗ウイルス作用」を奏することができる用途を有すること、を意味する。このときの抗ウイルス剤の「抗ウイルス作用」の強さは特に限定されるものではなく、少なくともノロウイルス等の感染・増殖能力を喪失させる(不活性化させる)こと、またはノロウイルス等の遺伝子を消滅させることが、客観的な指標、測定データ等により確認できればよい。抗ウイルス作用を評価するための指標としては、例えば感染価減少値(Δlog PFU/mLまたはΔlog TCID50/mL)またはゲノム残存率を用いることができる。本発明の好ましい実施形態においては、「抗ウイルス作用が奏される」ことは、前述したような「抗ウイルス活性を有する」こと、例えばノロウイルス等の感染価減少値が3以上であること、好ましくは4以上であること、より好ましくは5以上であること、を意味する。
【0062】
本発明の抗ウイルス剤は、上述したようにして得られるカキ抽出物とデーツ種子抽出物とを、適切な割合で混合することにより調製することができる。抗ウイルス剤中の、カキ抽出物とデーツ種子抽出物との比率は、抗ウイルス剤の抗ウイルス活性が所望の水準のものとなるよう適宜調節することができ、特に限定されるものではない。この比率は、必要に応じて、カキ抽出物がカキ縮合型タンニンについて富化されているか(カキ抽出物中のカキ縮合型タンニンの純度)、デーツ種子抽出物が低分子タンニンについて富化されているか(デーツ種子抽出物中の低分子タンニンの純度)などを考慮しながらさらに調節することができる。
【0063】
本発明の一実施形態において、本発明の抗ウイルス剤は、カキノキ属の植物の果実1重量部に相当するカキ抽出物に対して、ナツメヤシ属の植物の種子10重量部以上または20重量部以上、好ましくは100重量部以下または50重量部以下に相当するデーツ種子抽出物を含有する。
【0064】
本発明の一実施形態において、本発明の抗ウイルス剤は、ナツメヤシ属の植物の種子1重量部に相当するデーツ種子抽出物に対して、カキノキ属の植物の果実0.0005重量部以上または0.01重量部以上、好ましくは0.1重量部以下または0.05重量部以下に相当するカキ抽出物を含有する。
【0065】
なお、本明細書において「カキノキ属の植物の果実1重量部に相当するカキ抽出物」とは、カキノキ属の植物の果実(水分等を含む生の果実)1重量部に含まれている成分(縮合型タンニン等)を含有するカキ抽出物であって、前述したような抽出溶媒、例えば水および/またはエタノール(もしくはその他のアルコール)を含有する溶媒、好ましくはエタノール水溶液(例えば50%エタノール水溶液)を用いることにより抽出される成分を含有するカキ抽出物である。本発明の一実施形態において、「カキノキ属の植物の果実1重量部に相当するカキ抽出物」には、0.001~0.01重量部程度(0.1~1重量%程度)の縮合型タンニンが含まれている。この割合を用いて、本明細書に記載されている「カキノキ属の植物の果実1重量部に相当するカキ抽出物」の重量を「縮合型タンニン」の重量に換算してもよい。
【0066】
本明細書において「ナツメヤシ属の植物の種子1重量部に相当するデーツ種子抽出物」とは、ナツメヤシ属の植物の種子(水分等を含む生の種子)1重量部に含まれている成分(タンニン等)を含有するデーツ種子抽出物であって、前述したような抽出溶媒、例えば水および/またはエタノール(もしくはその他のアルコール)を含有する溶媒、好ましくはエタノール水溶液(例えば50%または70%エタノール水溶液)を用いることにより抽出される成分を含有するデーツ種子抽出物である。本発明の一実施形態において、「ナツメヤシ属の植物の種子1重量部に相当するデーツ種子抽出物」には、約0.01~0.03重量部のタンニンが含まれている(後記調製例2および調製例3、
図1および
図2参照)。これらの割合を用いて、本明細書に記載されている「ナツメヤシ属の植物の種子1重量部に相当するデーツ種子抽出物」の重量を「タンニン」の重量に換算してもよい。
【0067】
本発明の抗ウイルス剤は、カキ抽出物の原料(典型的にはカキの果実、好ましくは例えばその凍結乾燥粉末)およびデーツ種子抽出物の原料(典型的にはデーツ種子、好ましくは例えばその凍結乾燥粉末)を抽出溶媒に添加し、同時に抽出した後、濾過して、最初からカキ抽出物およびデーツ種子抽出物の混合物(混合液)となっている状態で回収すること、または残渣を濾過せずにそのまま使用することも可能である。
【0068】
本発明の抗ウイルス剤の用途は特に限定されるものではなく、ノロウイルスまたはその代替ウイルスに対する抗ウイルス活性が求められる様々な実施形態において使用することができる。本発明の抗ウイルス剤は、固形状(例えば凍結乾燥粉末)で使用してもよいし、水、緩衝液(PBS等)、その他の適切な溶媒に溶解させた溶液(組成物ではない形態)に調製して使用してもよい。抗ウイルス剤の溶液は、本発明の抗ウイルス組成物またはその他の製品の基剤とみなすこともでき、後述する本発明の抗ウイルス組成物中のカキ抽出物およびデーツ種子抽出物の含有量の規定は、そのような抗ウイルス剤の溶液中のカキ抽出物およびデーツ種子抽出物の含有量の規定に応用することができる。
【0069】
本発明の抗ウイルス剤の代表的な用途として、後述するような本発明の抗ウイルス組成物(例えばアルコール製剤、洗浄用組成物、化粧用組成物)に、ノロウイルス等に対する有効成分として配合することが挙げられる。抗ウイルス組成物の製造に先立って、カキ抽出物とデーツ種子抽出物とを混合して本発明の抗ウイルス剤をあらかじめ調製しておいてもよい。抗ウイルス組成物を製造する際に、カキ抽出物とデーツ種子抽出物とは別々に添加し、組成物中でカキ抽出物とデーツ種子抽出物とが共存することを、本発明の抗ウイルス剤の使用とみなすこともできる。
【0070】
本発明の一側面において、本発明の抗ウイルス剤の使用は、カキ抽出物およびデーツ種子抽出物を併用することにより、カキ抽出物、デーツ種子抽出物それぞれのノロウイルスまたはその代替ウイルスに対する抗ウイルス作用を相乗効果により増強する方法、に置き換えることができる。
【0071】
本発明の一実施形態において、本発明の抗ウイルス剤は、in vitroまたはex vivoでの試験・研究における試薬として、例えば、培地に添加してノロウイルスまたはその代替ウイルスと接触させて、それらのウイルスに対する抗ウイルス作用(活性)の影響を分析するための物質として使用することができる。その際、必要に応じて、抗ウイルス作用をさらに増強させるための候補薬剤を添加したり、抗ウイルス作用に影響する条件を変更してみたりすることもできる。
【0072】
本発明のさらなる形態として、本発明の抗ウイルス剤は、医薬組成物または食品組成物に、ノロウイルス等に対する有効成分として配合することも挙げられる。換言すれば、本発明の抗ウイルス剤は、in vivoで(ヒトまたはその他の動物の生体内で)ノロウイルス等と接触させて、例えばノロウイルスによる食中毒を処置したり、ノロウイルスの感染を予防したりするための物質として、使用することも可能である。
【0073】
なお、抗ウイルス組成物において、抗ウイルス剤中のカキ抽出物(カキ縮合型タンニン)は、抗ノロウイルス活性とともに、保湿作用(皮膚の収斂作用等)を有する成分として機能することができる。
【0074】
- 抗ウイルス組成物 -
本発明の抗ウイルス組成物は、少なくともノロウイルスまたはその代替ウイルスに対する消毒効果を有するものであって、少なくとも、本発明の抗ウイルス剤と、アルコール、有機酸および/またはその塩(本明細書において「有機酸等」と呼ぶことがある。)、界面活性剤、抗菌剤、保湿剤および化粧品用油脂類からなる群より選ばれる少なくとも1つの成分とを含有し、必要に応じてさらにその他の成分を含有していてもよい。
【0075】
抗ウイルス組成物の実施形態は特に限定されるものではなく、上記の成分を含有する様々な組成物の形態に調製することができるが、代表的には以下のようなアルコール製剤、洗浄用組成物、および化粧用組成物が挙げられる。これらの抗ウイルス組成物は、所望の物体または場所を処理(塗布、散布、浸漬等)し、そこに存在しているノロウイルスを消毒するために、または将来的にそこにノロウイルスが存在することを予防するために使用することができる。また、本発明の抗ウイルス組成物は、ノロウイルスの消毒効果だけでなく、所望によりノロウイルス以外の非エンベロープウイルス、エンベロープウイルス、細菌類、その他の微生物に対する消毒効果を併せて持たせるように調製することもできる。
【0076】
抗ウイルス組成物中の抗ウイルス剤の含有量は、一方でノロウイルス等に対する消毒効果、製品の着色(カキ縮合型タンニンが参加されることによる発色)、その他の組成物に応じた目的(作用)や性状を考慮し、他方で抗ウイルス剤の組成(カキ抽出物およびデーツ種子抽出物の成分および量)などを考慮しながら、所望の抗ウイルス作用(抗ウイルス活性)が奏されるよう、適宜調整することができる。本発明の抗ウイルス組成物は、例えば、下記(A)および/または(B)の条件、好ましくは(A)および(B)の両方の条件を満たす含有量とすることができる:
(A)前記組成物全体(溶媒等、有効成分以外の成分を含む。)100重量%に対して、カキノキ属の植物の果実0.00002重量%以上、0.0001重量%以上、0.0002重量%以上、0.0004重量%以上、0.002重量%以上、0.003重量%以上、0.005重量%以上、0.01重量%以上、0.02重量%以上、または0.05重量%以上、かつ10重量%以下、5重量%以下、2重量%以下、1重量%以下、0.5重量%以下、0.1重量%以下、0.05重量%以下または0.01重量%以下(但し、下限値の数値が上限値の数値よりも大きくなる組み合わせは除く。)に相当するカキ抽出物を含む抗ウイルス剤を含有する;
(B)前記組成物全体(溶媒等、有効成分以外の成分を含む。)100重量%に対して、ナツメヤシ属の植物の種子0.1重量%以上、0.2重量%以上、0.3%以上、0.5重量%以上、1.0重量%以上、1.5重量%以上または2.0重量%以上、かつ20重量%以下、10重量%以下、5.0重量%以下、2.5重量%以下、2.0重量%以下、1.5重量%以下、1.0重量%以下、0.5重量%以下または0.2重量%以下(但し、下限値の数値が上限値の数値よりも大きくなる組み合わせは除く。)に相当するデーツ種子抽出物を含む抗ウイルス剤を含有する。
【0077】
なお、本発明の抗ウイルス組成物が使用時に所定の倍率で希釈されることを想定した実施形態である(濃縮型である)場合は、使用時のカキ抽出物および/またはデーツ種子抽出物の濃度が上記の数値範囲を満たすものとなるよう、貯蔵時のカキ抽出物および/またはデーツ種子抽出物の濃度は上記の数値範囲よりも(希釈倍率の分だけ)高いものとなるよう調製することができる。
【0078】
本発明の好ましい実施形態において、抗ウイルス組成物は、カキ抽出物およびデーツ種子抽出物が所定の範囲の比率にあることで「相乗効果」が奏される抗ウイルス剤を、所定の範囲の量で含有することにより、「抗ウイルス活性を有する」(感染価減少値が3以上である)ものとなっている。
【0079】
「相乗効果」は、カキ抽出物およびデーツ種子抽出物を「混合する」(併用する)ことによって奏される。「混合」は通常、前者に後者を「添加」することと、逆に後者に前者を「添加」することとは区別されない。例えば、抗ウイルス剤を組成物に配合する実施形態を考慮し、カキ抽出物またはデーツ種子抽出物のいずれか一方の濃度を先に設定し、そこに他方を適切な濃度で添加することによって、添加しなかった場合と比較して相乗効果的に抗ウイルス作用が増強するようにすることができる。
【0080】
ここで、「相乗効果」には、「FICインデックス」(後記数式参照)による判定が「相乗効果」である場合および「部分的相乗効果」である場合の両方が含まれる。例えば、後記実施例に示すように、抽出溶媒(50%エタノール水溶液)に対して0.05重量%のカキノキ属の植物(カキノキ)の果実を用いて調製されたカキ抽出物に対しては、デーツ種子抽出物の添加により「相乗効果」があると判定され、抽出溶媒(50%エタノール水溶液)に対して0.1重量%のカキノキ属の植物(カキノキ)の果実を用いて調製されたカキ抽出物に対しては、デーツ種子抽出物の添加により「部分的相乗効果」があると判定されるが、これらはどちらも「相乗効果」が奏されるとみなされる。逆に、抽出溶媒(50%エタノール水溶液)に対して1.25重量%のナツメヤシ属の植物(デーツ)の種子を用いて調製されたデーツ種子抽出物に対しては、カキ抽出物の添加により「相乗効果」があると判定され、抽出溶媒(50%エタノール水溶液)に対して2.5重量%のナツメヤシ属の植物(デーツ)の種子を用いて調製されたデーツ種子抽出物に対しては、カキ抽出物の添加により「部分的相乗効果」があると判定されるが、これらはどちらも「相乗効果」が奏されるとみなされる。カキ抽出物またはデーツ種子抽出物が他の濃度であるときも、「相乗効果」または「部分的相乗効果」があると判定されれば、「相乗効果」が奏されるとみなされる。このように「相乗効果」が奏される上で、抗ウイルス組成物が「抗ウイルス活性を有する」のであれば、通常想定されるよりも少量のカキ抽出物およびデーツ種子抽出物によって効果的に抗ウイルス活性を有するものになっているといえる。
【0081】
本発明のより好ましい実施形態においては、抗ウイルス組成物中のカキ抽出物およびデーツ種子抽出物の少なくとも一方、好ましくは両方の濃度は、カキ抽出物単独および/またはデーツ種子抽出物単独では「抗ウイルス活性を有さない」範囲内にある。換言すれば、本発明のより好ましい実施形態においては、それぞれ所定の範囲の濃度にあるカキ抽出物およびデーツ種子抽出物の両方を含有することによって初めて、抗ウイルス組成物は「抗ウイルス活性を有する」ものとなっている。
【0082】
カキ抽出物については、例えば、実施例1(
図6)に例示されているように、抽出溶媒(50%エタノール)に対してカキノキ属の植物(カキノキ)の果実0.1重量%または0.05重量%を用いて調製された試験液を単独で用いた場合、すなわちそれと混合したウイルス(MS2ファージ)液の容量を考慮した場合、組成物(混合液)100重量部に対してカキノキ属の植物の果実約0.093重量部または0.047重量部を用いて調製された試験液を単独で用いた場合、感染価減少値はそれぞれ1.12および0.24で「抗ウイルス活性を有さない」と認められるが、2.相乗効果の有無の検証(
図7および
図8)に示されているように、デーツ種子抽出物を併用することによって感染価減少値は少なくとも3まで引き上げられ、「抗ウイルス活性を有する」と認められるようになる。したがって、本発明の好ましい一実施形態において、本発明の組成物は、組成物全体100重量部に対して、カキノキ属の植物の果実0.1重量部以下または0.05重量部以下、例えば0.05~0.1重量部に相当するカキ抽出物を含む抗ウイルス剤を含有する。
【0083】
デーツ種子抽出物については、例えば、実施例1(
図6)に例示されているように、抽出溶媒(50%エタノール)に対してナツメヤシ属の植物(デーツ)の種子2.5重量%または1.25重量%を用いて調製された試験液を単独で用いた場合、すなわちそれと混合したウイルス(MS2ファージ)液の容量を考慮した場合、組成物(混合液)100重量部に対してカキノキ属の植物の果実約2.33重量部または1.16重量部を用いて調製された試験液を単独で用いた場合、感染価減少値がそれぞれ0.81およびほぼ0(検出限界以下)で「抗ウイルス活性を有さない」と認められるが、2.相乗効果の有無の検証(
図7および
図8)に示されているように、カキ種子抽出物を併用することによって感染価減少値は少なくとも3まで引き上げられ、「抗ウイルス活性を有する」と認められるようになる。したがって、本発明の好ましい一実施形態において、本発明の組成物は、組成物全体100重量部に対して、ナツメヤシ属の植物の種子2.5重量部以下または1.25重量部以下、例えば1.25~2.5重量部に相当するデーツ種子抽出物を含む抗ウイルス剤を含有する。
【0084】
・アルコール製剤
本発明のウイルス組成物の一つの実施形態として、少なくとも本発明の抗ウイルス剤と(比較的多量の)アルコールとを含有するアルコール製剤が挙げられる。アルコール製剤はさらに、有機酸等、界面活性剤、またはその両方を含有することが好ましい。このようなアルコール製剤は、作業者の手指、食品、食器、調理器具、冷蔵庫、食器、ショーケース、テーブル・椅子、施設などのドアノブ・手すり、トイレ、患者の汚物を取り扱った器具などに付着した、または付着するおそれのあるノロウイルス等を消毒するための組成物であり、例えば従来のエタノール製剤と同様の噴霧剤として調製することができる。
【0085】
・洗浄用組成物
本発明の抗ウイルス組成物の一つの実施形態として、少なくとも本発明の抗ウイルス剤と(洗浄に適した量および種類の)界面活性剤とを含有する洗浄用組成物が挙げられる。洗浄用組成物はさらに、アルコール、有機酸等、界面活性剤および殺菌剤からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有することが好ましく、それら全部を含有することがより好ましい。このような洗浄用組成物は、作業者の手指、食品、食器、調理器具、着衣などの汚れを落とすとともに、そこに付着した、または付着するおそれのあるノロウイルス等を消毒するための組成物であり、例えば液状または固形状の洗剤(代表的にはハンドソープ)として調製することができる。
【0086】
・化粧用組成物
本発明の抗ウイルス組成物の一つの実施形態として、少なくとも本発明の抗ウイルス剤と保湿剤および/または化粧品用油脂類とを含有する化粧用組成物が挙げられる。化粧用組成物はさらに、アルコール、有機酸等、保湿剤および抗炎症剤からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有することが好ましく、それら全部を含有することがより好ましい。このような化粧用組成物は、水仕事等で荒れやすい作業者の手指に塗ってスキンケアをするとともに、食指に付着した、または付着するおそれのあるノロウイルス等を消毒するための組成物であり、例えばローション、クリーム、乳液、その他の基礎化粧品(代表的にはハンドローション)として調製することができる。
【0087】
・アルコール
アルコールは、抗ウイルス組成物に含まれる各種の成分、例えばカキ抽出物およびデーツ種子抽出物が含有するタンニン、特にカキ抽出物が含有する縮合型タンニンの溶解性を向上させることができる成分である。アルコールはまた、エンベロープウイルスや細菌類に対する消毒効果を有することから、それを配合したアルコール製剤またはその他の抗ウイルス組成物に、ノロウイルスだけでなく、エンベロープウイルスや細菌類に対する消毒効果(抗菌作用)を賦与することができる。また、アルコールは肌への収斂性や防腐性をもたらす成分として化粧用組成物に配合することもできる。
【0088】
本発明の抗ウイルス組成物に配合して用いることのできるアルコールとしては、例えばメタノール、エタノール、プロパノール(n-プロパノール)、ブタノール(n-ブタノール)等の低級アルコールが挙げられるが、食品添加物としても認められているエタノールおよびプロパノールが好ましく、特にエタノールが好ましい。これらのアルコールは、いずれか1種を単独で用いてもよいし、複数の種類を併用してもよい。
【0089】
抗ウイルス組成物中のアルコールの含有量は、目的(作用)やアルコールの種類などを考慮しながら適宜調整することができる。例えば、アルコールは、抗ウイルス組成物全体(溶媒等、有効成分以外の成分を含む。)に対して、通常は10~80重量%、好ましくは30~70重量%で配合することができる。
【0090】
なお、カキ抽出物および/またはデーツ種子抽出物がエタノール等のアルコールを用いて抽出等の処理がなされたものであって、処理に用いたアルコールと混合した状態にある場合、そのアルコールを抗ウイルス組成物の成分の一部または全部として配合してもよい。抗ウイルス組成物が含有すべき量よりも、アルコール処理に用いたアルコールの量が少なければ、その不足分を補うようにアルコールを追加して抗ウイルス組成物を調製してもよい。
【0091】
・有機酸等(有機酸および/またはその塩)
有機酸等は、pHを調節することによって抗ウイルス組成物に含まれる各種の成分、例えばカキ抽出物およびデーツ種子抽出物が含有するタンニン、特にカキ抽出物が含有する縮合型タンニンの溶解性を向上させると共に、タンニンが鉄と接触したときの着色を防止するキレート剤として、またはタンニンの酸化による着色(例えばカキ抽出物中のカキ縮合型タンニンの赤色の発色)を抑制する酸化防止剤として、組成物中に配合して用いることができる。有機酸等は、一部の非エンベロープウイルス、エンベロープウイルスおよび細菌類を消毒する効果を有する成分としても用いることができる。
【0092】
なお、本発明の抗ウイルス組成物の成分としての有機酸および/またはその塩は通常、カキ抽出物および/またはデーツ種子抽出物が天然の状態で含有する可能性のあるもの以外に、製造時に添加されるものを指す。
【0093】
本発明で用いることのできる有機酸としては、例えば乳酸、リンゴ酸、クエン酸、酒石酸、サリチル酸、コハク酸、フマル酸、イタコン酸、フェルラ酸、アスコルビン酸(ビタミンC)が挙げられる。また、それらの有機酸の塩としては、例えばナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩が挙げられる。これらの有機酸および/またはその塩は、いずれか1種を単独で用いてもよいし、複数の種類を併用してもよい。
【0094】
本発明の好ましい一実施形態において、本発明の抗ウイルス組成物としてのアルコール製剤は、有機酸および/またはその塩として、乳酸、クエン酸、フェルラ酸および乳酸ならびにそれらの塩からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する。例えば、乳酸および乳酸カルシウムはそれぞれ「酸味料」および「強化剤」として、クエン酸およびクエン酸ナトリウム(クエン酸三ナトリウム)はそれぞれ「酸味料」および「調味料」として、またフェルラ酸は「酸化防止剤」として、「食品添加物リスト」(厚生労働省)に掲載されている物質であるが、本発明の抗ウイルス組成物においては上述したような効果を発揮する成分となる。
【0095】
抗ウイルス組成物中の有機酸等の含有量は、目的(作用)や有機酸等の種類などを考慮しながら適宜調整することができる。例えば、有機酸等は、抗ウイルス組成物全体(溶媒等、有効成分以外の成分を含む。)に対して、通常は0.01~5.0重量%、好ましくは0.05~2.5重量%の割合となる量で添加することができる。あるいは、有機酸等は、抗ウイルス組成物のpHが、通常は6.0~2.0、好ましくは5.0~3.0となる量で配合することができる。
【0096】
・界面活性剤
界面活性剤は、抗ウイルス組成物に含まれる各種の成分を乳化する乳化剤として作用すると共に、エンベロープウイルスおよび細菌類を消毒する効果を有する成分として用いることができる。また、界面活性剤は、食指、食品、食器、調理器具等を洗浄するための成分として洗浄用組成物に配合したり、ローション、クリーム、乳液等において油相と水相とを混和するための成分として化粧用組成物に配合したりすることもできる。
【0097】
界面活性剤には、カチオン系、アニオン系、両イオン系および非イオン系のものがあるが、カキ抽出物に含まれるカキ縮合型タンニンおよびデーツ種子抽出物に含まれる低分子タンニン(いわゆるポリフェノール)や、任意で配合される有機酸および/またはその塩の化学的性質を考慮すると、本発明ではアニオン系界面活性剤および/または非イオン系界面活性剤を用いることが好ましい。
【0098】
アニオン系界面活性剤としては、例えば、石けん(高級脂肪酸のアルカリ塩)、モノアルキル硫酸塩(オレフィン(C14-16)スルホン酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸アンモニウム等)、アルキルポリオキシエチレン硫酸塩(ラウレス硫酸ナトリウム等)、アルキルベンゼンスルホン酸塩、モノアルキルリン酸塩が挙げられる。
【0099】
非イオン系界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、糖アルコール脂肪酸エステル(ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ラウリルグルコシド等)、脂肪酸ジエタノールアミドが挙げられる。
【0100】
これらの界面活性剤のうち、グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸部分エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ラウリルグルコシドなど食品添加物として認められている非イオン性界面活性剤は、食指、食品、食器、調理器具等に付着しても問題にならない点で特に好ましい。また、オレフィン(C14-16)スルホン酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸アンモニウム等のモノアルキル硫酸塩、ラウレス硫酸ナトリウム等のアルキルポリオキシエチレン硫酸塩も好ましい。
【0101】
抗ウイルス組成物中の界面活性剤の含有量は、添加する目的や用いる界面活性剤の種類などを考慮しながら適宜調整することができる。例えば、界面活性剤は、抗ウイルス組成物全体(溶媒等、有効成分以外の成分を含む。)に対して、通常は0.05~5.0重量%、好ましくは0.1~2.5重量%の割合となる量で配合することができる。
【0102】
・抗菌剤
抗菌剤(殺菌剤、除菌剤、静菌剤と呼ばれることもある。)は、本発明の抗ウイルス組成物に、ノロウイルスに加えて細菌類に対する消毒効果、例えば食品加工の際の感染あるいは院内感染が問題となる大腸菌、黄色ブドウ球菌、MRSA、サルモネラ、腸炎ビブリオ、緑膿菌などに対する消毒効果を賦与するために、組成物中に配合して用いることができる。また、抗菌剤は防腐剤として化粧用組成物に配合することもできる。
【0103】
なお、本発明の抗ウイルス組成物の成分としての抗菌剤は、アルコール(エタノール等)、有機酸および/またはその塩(クエン酸等)など、抗ウイルス組成物の他の成分として挙げられているもの以外に、製造時に添加されるものを指す。
【0104】
抗菌剤としては、例えば次のものが挙げられる。これらの抗菌剤は、いずれか1種を単独で用いてもよいし、複数の種類を併用してもよい。
・天然抗菌剤…タンパク質類(白子タンパク、卵白リゾチーム等)、ペプチド類(ポリリジン等)など;
・抗生物質…ペニシリン系抗生物質、クロラムフェニコール、ストレプトマイシン、テトラサイクリン系抗生物質、セファロスポリン系抗生物質など;
・合成抗菌剤…塩素系化合物(トリクロサン等)、ヨード系化合物(ポピドンヨード等)、亜鉛化合物(セチルピリジニウム亜鉛等)、ベンゼンカルボン酸類(安息香酸、サリチル酸、イソプロピルメチルフェノール(シメン-5-オールと呼ばれることもある。)、ブチルパラヒドロキシベンゾエート(=ブチルパラベン)等)、有機酸エステル類(グリセリンエステル、ショ糖エステル等)、アルデヒド類(グルタルアルデヒド、ホルムアルデヒド等)、ビグアナイド系化合物(グルコン酸クロルヘキシジン等)、第四級アンモニウム塩(塩化ベンザルコニウム、臭化セチルアンモニウム等)など。
【0105】
これらの抗菌剤のうち、イソプロピルメチルフェノール(シメン-5-オール)、ブチルパラヒドロキシベンゾエート、トリクロサンなどは、抗菌作用に優れており、カキ抽出物およびデーツ種子抽出物との相溶性も良好であることから、本発明における好ましい抗菌剤である。
【0106】
・保湿剤
保湿剤(湿潤剤と呼ばれることもある。)は、主に本発明の抗ウイルス組成物を化粧用組成物として製造する場合に用いられる成分であって、皮膚の角質層の水分を保持し、肌の柔軟性や弾力性を維持するための成分である。
【0107】
保湿剤としては、一般的なローション、乳液、クリーム等の化粧品に用いられているもの、例えばグリセリン、プロピレングリコール、ソルビトール、ポリエチレングリコール、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸ナトリウム、セラミド、アロエエキスが挙げられる。これらの保湿剤のうち、例えばグリセリンおよびプロピレングリコールは、本発明の抗ウイルス組成物(化粧用組成物)に配合するためのものとして好ましい。
【0108】
・化粧品用油脂類
化粧品用油脂類は、皮膚面に被膜を形成して皮膚の保護や柔軟性、滑沢性の賦与などの役割を果たし、また化粧品に適度な使用感を持たせるための成分である。
【0109】
化粧品用油脂類としては、一般的な乳液、クリーム等の化粧品に用いられているものと同様の化粧品用油脂類を用いることができ、たとえば下記のようなものが挙げられる。
・ 油脂(高級脂肪酸とグリセリンのエステル)…植物性油脂、動物性油脂またはこれらの水素添加物(部分水添ナタネ油等)、合成トリグリセリド(トリ(カプリル/カプリン酸)グリセリル等)など;
・ ロウ(高級脂肪酸と高級アルコールの常温で固体のエステル)…植物性ロウ、動物性ロウ(蜜蝋、ラノリン等)など;
・ 炭化水素…鉱物性炭化水素(流動パラフィン、ワセリン、パラフィン等)、動物性炭化水素(スクワラン等)など;
・ 高級脂肪酸…ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、イソステアリン酸など;
・ 高級アルコール…セタノール、ステアリルアルコール、ラノリンアルコールなど;
・ エステル(ロウ類以外の、脂肪酸とアルコールとのエステル)…ミリスチン酸ミリスチル、ジオレイン酸プロピレングリコール、乳酸セチルなど。
【0110】
これらの化粧品用油脂類のうち、例えばトリ(カプリル/カプリン酸)グリセリルは、本発明の抗ウイルス組成物(化粧用組成物)に配合するためのものとして好ましい。
【0111】
・その他の成分
本発明の抗ウイルス組成物は、典型的には水(または前述したようなアルコール水溶液)を溶媒とする溶液の形態に調製され、上記の成分以外の残部は水(精製水等)および/またはその他の溶媒とすることができる。
【0112】
また、本発明の抗ウイルス組成物は、上記の成分以外にも、従来のアルコール製剤、洗浄用組成物、化粧用組成物などが含有することのできる一般的な成分ないし公知の成分を任意で含有することができる。そのような任意成分としては、例えば、酸化防止剤・保存料(亜硫酸ナトリウム等)、香料、色素、その他の医薬品、化粧品、食品等に配合することができる各種の成分ないし添加物が挙げられる。
【0113】
任意成分の一例として、化粧法組成物に配合することのできる抗炎症剤が挙げられる。抗炎症剤としては、例えば、グリチルリチン酸ジカリウム、アラントインが挙げられる。
【0114】
<抗ウイルス組成物の使用方法および製造方法>
本発明の抗ウイルス組成物が「ノロウイルスまたはその代替ウイルスに対する」ものであるとは、「ノロウイルスまたはその代替ウイルスに対する」抗ウイルス剤を含有することにより、それらのウイルスと接触させたときに、前述したような「抗ウイルス作用」が奏されること、または「抗ウイルス作用」を奏することができる用途を有すること、を意味する。このときの抗ウイルス組成物の「抗ウイルス作用」の強さは特に限定されるものではなく、少なくともノロウイルス等の感染・増殖能力を喪失させる(不活性化させる)こと、好ましくはさらに、ノロウイルス等の粒子または遺伝子を消滅させることが、客観的な測定データ等により確認できればよい。本発明の好ましい実施形態においては、「抗ウイルス作用が奏される」ことは、前述したような「抗ウイルス活性を有する」こと、例えば感染価減少値(Δlog PFU/mLまたはΔlog TCID50/mL)が3以上であること、好ましくは4以上であること、より好ましくは5以上であること、を意味する。
【0115】
本発明の抗ウイルス組成物は、その実施形態に応じて、従来の抗ウイルス組成物と同様の方法で使用することができる。抗ウイルス組成物を適用する部位は、ヒトまたはその他の動物の部位(体内および体表)であってもよいし、それ以外の部位であってもよい。
【0116】
たとえば、抗ウイルス剤を噴霧剤、ハンドソープ等として調製した場合は、従来と同様の方法で、非エンベロープウイルスが存在する可能性のある部位(食品、食器、調理器具、作業従事者の手指や着衣等)に適用すればよい。また、抗ウイルス剤は、マスク、エアコンフィルター、衣類、ウェットティッシュ等に含浸させるための液剤として調製することや、使用時に適切な濃度となるよう希釈して用いる濃縮型の液剤として調製することも可能である。
【0117】
本発明の抗ウイルス剤が医薬組成物の形態をとる場合、その投与量および投与方法(投与経路、投与スケジュール等)は、患者の年齢、体重、症状なども考慮しながら、剤型に応じて適切な範囲内で決定すればよい。なお、医薬組成物としての本発明の抗ウイルス剤の適用(投与)対象はヒトに限定されるものではなく、非エンベロープウイルスが感染しうるヒト以外の動物を適用(投与)対象とすることもできる。
【0118】
本発明の抗ウイルス組成物は、前述したような方法により調製されるカキ抽出物およびデーツ種子抽出物(本発明の抗ウイルス剤)をノロウイルスに対する有効成分として使用するとともに、組成物の実施形態に応じたその他の成分、すなわちアルコール、有機酸および/またはその塩、界面活性剤、抗菌剤、保湿剤および化粧品用油脂類からなる群より選ばれる少なくとも1つの成分、さらに必要に応じてその他の任意成分を使用した上で、従来の抗ウイルス組成物の製造方法に準じた工程および製造装置により製造することができる。
【実施例】
【0119】
[調製例1]カキ抽出物の調製
十分に殺菌(NaClO)、洗浄、変色防止(ビタミンC)等の処理をした、蔕を切除した柿の未成熟果を、ダイス状にカットして潰した。得られた果実・果汁溶液を200メッシュ篩にかけ、遠心分離し、高温殺菌処理(120~130℃、7~10秒)をした後、フリーズドライ処理をして、カキ果実のフリーズドライ(FD)粉末を調製した。得られたFD粉末の約5%がカキ縮合型タンニンであった。
【0120】
このカキ果実FD粉末0.01gに対して50%エタノール水溶液10mLの割合で、両者をボルテックスで混合し、室温で一晩放置した後、遠心分離し(13k×g、5分間)、ADVANTECフィルターで滅菌処理をした。得られたカキ抽出物を試験液をとし、「0.1%PE/50%EtOH」と表記する(PE:Persimmon Extract)。
【0121】
[調製例2]デーツ種子抽出物(DSE)の調製、ならびに各抽出物中のタンニンの定量
デーツ種子(DS:Date Seed)を粉砕・粉末化したもの(デーツ種子粉末)0.5gと、50%もしくは70%のエタノール水溶液10mLまたは蒸留水10mLとをボルテックスで混合し、室温で一晩放置した後、遠心分離し(13,000×g、5分間)、ADVANTECフィルターで滅菌処理をした。得られた3つのデーツ種子抽出物を試験液とし、それぞれ「5%DSE/50%EtOH」、「5%DSE/70%EtOH」および「5%DSE/Water」と表記する。
【0122】
上記のようにして得られた3つの試験液のそれぞれについて、バニリン塩酸塩法、フォーリンチオカルト法およびEcCl2法の3通りの方法で濾紙上で呈色反応を行い、タンニンの含有量を定性的に評価したところ、「5%DSE/50%EtOH」が最も呈色が濃かった(図示せず)。また、この試験液についてBSAによる凝集反応を行っても、BSAの凝集物が生成し、充分なタンニンが存在することが裏付けられた(図示せず)。
【0123】
また、「5%DSE/50%EtOH」および「5%DSE/70%EtOH」については、次の手順で試験液中のタンニンの含有量をバニリン塩酸塩法により定量した。96ウェルプレートにおいて、各試験液15μLと、4%バニリン/メタノール溶液90μLおよび濃塩酸45μLからなる試薬とを混合した。室温で20分間、遮光下で静置した後、500nmにおける吸光度を測定した。測定された吸光度と、濃度が既知のカテキン溶液を標準液として作成された検量線から、各試験液中のタンニンの濃度を定量した。
【0124】
さらに、デーツ種子抽出物を調製する際の原料の量を変えた試験液を追加で調製し、上記と同様にしてタンニンの含有量をバニリン塩酸塩法により定量した。10mLの50%EtOHを用いて、デーツ粉末の量を0.5g(5%)から、1g(10%)に増加させた、または0.45g、0.4g、0.3g、0.25g、0.1g(それぞれ4.5%、4%、3%、2.5%、1%)などに段階的に減少させた試験液を調製し、それぞれ「10%DSE/50%EtOH」、「4.5%DSE/50%EtOH」、「4%DSE/50%EtOH」、「3%DSE/50%EtOH」、「2.5%DSE/50%EtOH」、「1%DSE/50%EtOH」と表記する。また、10mLの70%EtOHを用いて、デーツ種子粉末の量を、0.5g(5%)から、1g(10%)に増加させた、または0.1g(1%)に減少させた試験液を調製し、それぞれ「10%DSE/70%EtOH」、「1%DSE/70%EtOH」と表記する。
【0125】
上記各試験液のタンニンの含有量をバニリン塩酸塩法により定量した結果を
図1示す。前述した傾向と同様に、「50%EtOH」の試験液の方が全体的に、「70%EtOH」の試験液よりも、タンニンの含有量が高い傾向にあった。
【0126】
[調製例3]デーツ種子抽出物(DSE)およびデーツ果実抽出物(DFE)の調製、ならびに各抽出物中のタンニンの定量
調製例2と同様の手順で再度、3つの試験液「5%DSE/50%EtOH」、「5%DSE/70%EtOH」および「5%DSE/Water」を調製した。また、デーツ種子を粉砕・粉末化したもの(デーツ種子粉末)の代わりに、デーツ種を取り除いたデーツ果実(DF:Date Fruit)を粉砕・粉末化したもの(デーツ果実粉末)を原料とし、それ以外は「5%DSE/50%EtOH」および「5%DSE/Water」と同様の手順で、新たに2つの試験液「5%DFE/50%EtOH」および「5%DFE/Water」を調製した。
【0127】
これらの試験液のタンニンの含有量を、調製例2と同様の手順で、バニリン塩酸塩法により定量した。結果を
図2に示す。タンニンは、水または50%エタノール水溶液を用いたデーツ果実(DF)抽出物にはほとんど含まれていないが、水を用いたデーツ種子(DS)抽出物には少量含まれ、50%または70%エタノール水溶液を用いたデーツ種子(DS)抽出物に豊富に含まれることが分かった。
【0128】
[参考例1]デーツ種子(DS)抽出物単独によるMS2ファージに対する抗ウイルス作用の評価-その1-
JIS規格の方法を一部改変し以下のような手順により、デーツ種子抽出物を単独で使用した場合のMS2ファージ(ノロウイルスの代替ウイルス)に対する抗ウイルス作用(感染価減少値)を評価した。
【0129】
あらかじめ力価を107~108PFU/mLに調整済みのMS2ファージ溶液15μLと、調製例2において50%EtOHを用いて調製された各試験液135μLとを混合し、2分間室温で反応させた。この混合液100μLをLB培地900μLに加えて反応を止めた。LB培地を用いて10倍希釈系列で段階希釈し、MS2ファージ試薬とした。
【0130】
2mLの軟寒天LB培地(0.5%)に、あらかじめ調製した大腸菌(E. coli)溶液100μLを加え、そこにさらにMS2ファージ試薬100μLを加えた。よく混合した後、BL寒天培地に注ぎ、プラーク数から力価を計測し、感染価減少値(Δlog PFU/mL)を算出した。
【0131】
結果を表1に示す。感染価減少値が3以上(有効数字1桁とする)の場合に抗ウイルス活性を有する(消毒効果がある)と認めるという基準の下、10%DSE/50%EtOHおよび5%DSE/50%EtOHは抗ウイルス活性を有すると認められる。一方、4.5%DSE/50%EtOH~0.5%DSE/50%EtOHについては、一定の抗ウイルス作用(感染価の減少)が認められるものの、抗ウイルス活性を有するとは認められない。
【0132】
調製例2(
図1)のデータを参照すると、5%DS/50%EtOHは0.81mg/mLの濃度でタンニンを含有することから、およそ0.80mg/mLの濃度のタンニンを含有する(それと一緒にタンニン以外の成分も含有する)デーツ種子抽出物は単独で、MS2ファージに対する抗ウイルス活性を有するといえる。
【0133】
【0134】
[参考例2]デーツ種子抽出物(DSE)単独によるMS2ファージに対する抗ウイルス作用の評価-その2-
調製例3で調製した合計5つの試験液と、対照として「50%EtOH」および「70%EtOH」(デーツ種子抽出物を含有しない、抽出溶媒そのもの)について、参考例1と同様の手順により、MS2ファージに対する抗ウイルス活性(感染価減少値)を評価した。
【0135】
結果を
図3に示す。感染価減少値が3以上(有効数字1桁とする)の場合に抗ウイルス活性を有する(消毒効果がある)と認めるという基準の下、「5%DSE/50%EtOH」および「5%DSE/70%EtOH」は抗ウイルス活性を有すると認められる。「5%DFE/50%EtOH」については、一定の感染価の減少が認められるものの、抗ウイルス活性を有するとは認められない。
【0136】
[参考例3]デーツ種子抽出物(DSE)単独によるノロウイルスに対する抗ウイルス作用の評価-その1-
ノロウイルスに罹患した患者の糞便由来のノロウイルス懸濁液を精製、保存して使用した。ノロウイルスの濃度は106~107/mLであった。このノロウイルス懸濁液1.2μLと、前記試験液「5%DSE/50%EtOH」(調製例2参照)10.8μLとを混合し、2分間室温で反応させた後、990μLのLB培地に加えて反応を止めた(100倍希釈)。この反応液から市販のキットを用いて、ノロウイルスのRNAを抽出し、DNaseで処理し、cDNAを合成した。このcDNA溶液を用いて常法に従ってリアルタイムPCRを行い、上記の反応によって残存したノロウイルス量を定量し、コントロールに対するゲノム残存率(%)を算出した。
【0137】
コントロールとしては次の2つを行った。1つは、前記試験液「5%DSE/50%EtOH」10.8μLの代わりに「50%EtOH」10.8μLを用いたこと以外は上記と同様の手順でノロウイルス量を定量したコントロール(Total control)である。もう1つは、上記の手順のように培地に加える前に試験液とノロウイルス懸濁液を接触させるのではなく、990μLのLB培地に試験液「5%DSE/50%EtOH」9μLを加えてから、ノロウイルス懸濁液1μLを加えて接触させ、反応後の培地140μLから上記と同様の手順でリアルタイムPCRによりノロウイルス量を定量したコントロールである(「5%DSE/50%EtOH-C」と表記する。)。上記の試験は2反復行い、ゲノム残存率はその平均値±SDとして求めた。
【0138】
結果を
図4に示す。「5%DSE/50%EtOH」の抗ノロウイルス作用はあまり強くないが(ゲノム残存率約65%)、「10%DSE/50%EtOH」は一定程度の抗ノロウイルス作用を有していた(ゲノム残存率約15%)。
【0139】
[参考例4]デーツ種子抽出物(DSE)単独によるノロウイルスに対する抗ウイルス作用の評価-その2-
試験液として、「5%DSE/50%EtOH」の代わりに「5%DSE/70%EtOH」および「10%DSE/70%EtOH」を用い、コントロールもそれぞれに対応するものに変更したこと以外は、参考例3と同様の手順でゲノム残存率(%)を測定した。
【0140】
結果を
図5に示す。「10%DSE/70%EtOH」は強い抗ノロウイルス活性を有しており(ゲノム残存率約5%)、「5%DSE/70%EtOH」も一定程度の抗ノロウイルス活性を有していた(ゲノム残存率約18%)。
【0141】
[実施例1]カキ抽出物(PE)およびデーツ種子抽出物(DSE)の併用による、MS2ファージに対する抗ウイルス作用の評価
【0142】
1.感染価減少値の測定
調製例1と同様のカキ抽出物(PE)試験液「0.1%PE/50%EtOH」を調製し、さらにその試験液を50%EtOHで希釈して試験液「0.05%PE/50%EtOH」を調製した。また、調製例2と同様のデーツ種子抽出物(DSE)試験液「2.5%DSE/50%EtOH」を調製し、さらにその試験液を50%EtOHで希釈して試験液「1.25%DSE/50%EtOH」を調製した。
【0143】
参考例1の手順において、MS2ファージ溶液15μLと各試験液135μLとの混合を、下記(i)~(vi)のように変更し、それ以外は同様にして、カキ抽出物単独の場合、デーツ種子抽出物単独の場合、およびカキ抽出物とデーツ種子抽出物を併用した場合のMS2ファージに対する抗ウイルス作用(感染価減少値)を比較した。
(i)MS2ファージ溶液15μLと、試験液「0.1%PE/50%EtOH」135μLとを混合。
(ii)MS2ファージ溶液15μLと、試験液「2.5%DSE/50%EtOH」135μLとを混合。
(iii)MS2ファージ溶液15μLと、試験液「0.1%PE/50%EtOH」135μLと、試験液「2.5%DSE/50%EtOH」135μLとを混合。
(iv)MS2ファージ溶液15μLと、試験液「0.05%PE/50%EtOH」135μLとを混合。
(v)MS2ファージ溶液15μLと、試験液「1.25%DSE/50%EtOH」135μLとを混合。
(vi)MS2ファージ溶液15μLと、試験液「0.05%PE/50%EtOH」135μLと、試験液「1.25%DSE/50%EtOH」135μLとを混合。
【0144】
結果を
図6に示す。感染価減少値が3以上(有効数字1桁とする)の場合に抗ウイルス活性を有する(消毒効果がある)と認めるという基準の下、まず(i)~(iii)を対比すると、「0.1%PE/50%EtOH」単独の感染価減少値は1.12、「2.5%DSE/50%EtOH」単独の感染価減少値は0.81で、共に抗ウイルス活性を有するとは認められなかったが、それらを併用すると感染価減少値が5.52と飛躍的に高まり、抗ウイルス活性を有すると認められるようになった。同様に、(iv)~(vi)を対比すると、「0.05%PE/50%EtOH」単独の感染価減少値は0.24、「2.5%DSE/50%EtOH」単独の感染価減少値は0(測定限界以下)で、共に抗ウイルス活性を有するとは認められなかったが、それらを併用すると感染価減少値が3.27と飛躍的に高まり、抗ウイルス活性を有すると認められるようになった。
【0145】
2.相乗効果の有無の検証
上記「1.感染価減少値の測定」の結果のうち、(iii)および(vi)のケースにおいて相乗効果が認められるといえるかどうか、次のようにして検証した。
【0146】
本発明(実施例)では、FICインデックスにより相乗効果を判定する。FICインデックスの計算式および判定基準は下記の通りである。FICインデックスによる判定が「相乗効果」および「部分的相乗効果」の場合に、相乗効果があるとみなす。
【0147】
【0148】
まず、次のような手順で上記FICインデックス計算式中の「単独時薬剤AのMIC値」を求めた。試験液「0.1%PE/50%EtOH」を希釈してカキ抽出物(PE)試験液中のPE濃度を様々に変化させた試験液を調製し、それらの試験液を単独で用いながら感染価減少値を測定していったところ、試験液のPE濃度が0.34%のときに感染価減少値が3となる(消毒効果を有すると認められる)ことが分かった。したがって「単独時薬剤AのMIC値」は「0.34」となる。同様にして、デーツ種子抽出物(DSE)試験液を用いて「単独時薬剤BのMIC値」を求めたところ、「4.31」となる。
【0149】
続いて、PEおよびDSEを混合した試験液の感染価減少値を測定するために、PE試験液の濃度を0.05%に固定してDSE試験液の濃度を変化させたところ、DSE試験液の濃度が1.26%のときに感染価減少値が3となる(消毒効果が認められるようになる)ことが分かった(
図7[A]参照)。したがって「併用時薬剤AのMIC値」は「0.05」、「併用時薬剤BのMIC値は」「1.26」となる。
【0150】
各MIC値を上記FICインデックス計算式に代入すると、FICインデックスは(0.05/0.34)+(1.26/4.31)≒0.44と算出され、「相乗効果」(0.5以下)と判定される。つまり、濃度0.05%のPE試験液には消毒効果が認められないが、濃度が一定の水準よりも高いDSEを添加することによって消毒効果が認められるよう改良することができ、その際には抗ウイルス作用において「相乗効果」が発揮されるといえる。
【0151】
さらに、上記の手順において、PE試験液の濃度を0.1%に固定してDSE試験液の濃度を変化させたところ、DSE試験液の濃度が1.22%のときに感染価減少値が3となる(消毒効果が認められるようになる)ことが分かった(
図7[B]参照)。このとき、「併用時薬剤AのMIC値」は「0.1」、「併用時薬剤BのMIC値は」「1.22」となり、FICインデックスは(0.1/0.34)+(1.22/4.31)≒0.58と算出され、「部分的相乗効果」(0.5より大きく0.75以下)と判定される。つまり、消毒効果が認められない濃度0.1%のPE試験液についても、濃度が一定の水準よりも高いDSEを添加することによって、抗ウイルス作用における“部分的相乗効果”が発揮され(本発明においてはこれも相乗効果があるとみなす)、消毒効果が認められるよう改良することができる。
【0152】
逆に、DSE試験液の濃度を固定し、PE試験液の濃度を変化させた場合の評価も行った。DSE試験液の濃度を1.25%に固定した場合は、PE試験液の濃度が0.023%のときに感染価減少値が3となって消毒効果が認められるようになり(
図8[A]参照)、FICインデックスは(0.023/0.34)+(1.25/4.31)≒0.36と算出され、「相乗効果」(0.5以下)と判定される。DSE試験液の濃度を2.5%に固定した場合は、PE試験液の濃度が0.0016%のときに感染価減少値が3となって消毒効果が認められるようになり(
図8[B]参照)、FICインデックスは(0.0016/0.34)+(2.5/4.31)≒0.56と算出され、「部分的相乗効果」(0.5より大きく0.75以下)と判定される。つまり、消毒効果が認められない濃度2.5%および1.25%のDSE試験液について、濃度が一定の水準よりも高いPEを添加することによって、抗ウイルス作用における“相乗効果”または“部分的相乗効果”が発揮され(本発明においてはどちらも相乗効果があるとみなす)、消毒効果が認められるよう改良することができる。
【0153】
[調製例4]BSA処理デーツ種子抽出物(その1)の調製、ならびにタンニンの定量およびMS2ファージに対する抗ウイルス作用の評価
高分子量のタンニンはウシ血清アルブミン(BSA)に結合し、凝集塊を形成することはよく知られている。BSA濃度が0mg/mL(コントロール)、1mg/mL、2mg/mLおよび3mg/mLとなるよう滅菌水にBSAを溶解した水溶液を調製し、前記デーツ種子抽出物試験液「10%DSE/50%EtOH」と等量ずつ混合した。混合液を室温で15分間静置し、10,000×gで10分間遠心分離し、上清を回収し、「BSA処理試験液」(EtOH濃度は25%)とした。なお、BSA処理前の試験液は淡黄褐色であったが、BSAよりにより黄褐色の凝集塊(沈澱)が生じ、上清はほぼ無色透明になった(
図9参照)。
【0154】
BSA処理試験液について、調製例2と同様の手順により、BSA処理試験液中のタンニンの含有量をバニリン塩酸塩法で測定した。あわせて、参考例1と同様の手順により、MS2ファージに対する抗ウイルス作用(感染価減少値)を評価した。
【0155】
結果を
図9に示す。処理に用いたBSA濃度が高い試験液ほどタンニンの含有量が減少し、抗ウイルス作用も低下する傾向にあるが、抗ウイルス作用が実質的になくなるBSA濃度が2mg/mLおよび3mg/mLでも一定程度のタンニンは残存していることが分かった。このような結果から、高濃度のBSAで処理した試験液からは、BSAの凝集能を有するタンニン、すなわち「高分子タンニン」が除去され、その試験液を単独で用いた場合の抗ウイルス活性はほぼ失われるが、BSAの凝集能は有さないもののバニリン塩酸塩法により呈色するタンニン、すなわち「低分子タンニン」が残存していることが示唆される。
【0156】
[調製例5]BSA処理デーツ種子抽出物(その2)の調製、およびそこに含まれる成分の分析
前記デーツ種子抽出物試験液「2.5%DSE/50%EtOH」および前記1mg/mLの濃度のBSA溶液を用いて、調製例4と同様の手順で、BSA処理試験液「2.5%DSE/50%EtOH/BSA(1mg/mL)処理」を調製した。
【0157】
上記2つの試験液に含まれる成分を薄層クロマトグラフィー(TLC)により分析した。展開液にはトルエン:アセトン:酢酸=3:3:1の混合溶媒を用いた。展開槽にて展開し、乾燥した後、スポットにバニリン塩酸塩法の試薬(4%バニリン/メタノール:塩酸=2:1)を噴霧して呈色させた。対照として、カテキンのモノマー標準物質であるフラバン-3-オール類(エピカテキン、エピカテキンガレート、エピガロカテキン、エピガロカテキンガレート)を用いた。
【0158】
結果を
図10に示す。「2.5%DSE/50%EtOH」および「2.5%DSE/50%EtOH/BSA(1mg/mL)処理」はいずれも、それぞれエピガロカテキンガレート(EGCg)およびエピカテキン(EC)に対応するスポットIIおよびIIIの呈色反応があり、これら2種の化合物が「低分子タンニン」であるものと推測される。一方、「2.5%DSE/50%EtOH」でのみに見られるスポットIは「高分子タンニン」を表していると推測される。
【0159】
なお、同図に併せて掲載してあるが、TLCで同様にカキ抽出物の成分分析を行った際にはスポットIの位置にだけ呈色があった。カキ抽出物が含有するタンニンはほぼ全て「高分子タンニン」(カキ縮合型タンニン)で「低分子タンニン」は存在しないと推測される。
【0160】
[実施例2]カキ抽出物およびBSA処理デーツ種子抽出物の併用による、MS2ファージに対する抗ウイルス作用の評価
参考例1の手順において、MS2ファージ溶液15μLと各試験液135μLとの混合を、下記(i’)、(vii)および(viii)のように変更し、それ以外は同様にして、カキ抽出物単独の場合、デーツ種子抽出物単独の場合、およびカキ抽出物とデーツ種子抽出物を併用した場合のMS2ファージに対する抗ウイルス作用(感染価減少値)を比較した。なお、下記(i’)は実施例1の(i)と同条件の試験を再度行ったものである。
(i’)MS2ファージ溶液15μLと、前記試験液「0.1%PE/50%EtOH」135μLとを混合。
(vii)MS2ファージ溶液15μLと、前記試験液「2.5%DSE/50%EtOH/BSA(1mg/mL)処理」135μLとを混合。
(viii)MS2ファージ溶液15μLと、前記試験液「0.1%PE/2.5%DSE/50%EtOH/BSA(1mg/mL)処理」135μLとを混合。
【0161】
結果を
図11に示す。「2.5%DSE/50%EtOH/BSA(1mg/mL)処理」を単独で用いた場合の抗ウイルス作用(感染価減少値=0.10)は、BSA無処理の試験液「2.5%DSE/50%EtOH」を単独で用いた場合(実施例1の(ii)、
図6参照、感染価減少値=0.81)よりも大幅に低下している。しかしながら「2.5%DSE/50%EtOH/BSA(1mg/mL)処理」を「0.1%PE/50%EtOH」と併用した場合の抗ウイルス作用(感染価減少値=3.59)は、「0.1%PE/50%EtOH」と「2.5%DSE/50%EtOH」とを併用した場合(実施例1の(iii)、
図6参照、感染価減少値=5.52)ほどではないが、「抗ウイルス活性を有する」と認められる水準に到達している。このような結果から、デーツ種子抽出物は高分子タンニンおよび低分子タンニンを含有するが、カキ抽出物の抗ウイルス作用を増強する(相乗効果を発揮する)ためにはその両方が必須なのではなく、低分子タンニンだけでもよいことが示唆される。
【0162】
[実施例3]カキ抽出物およびデーツ種子抽出物の併用による、ノロウイルスに対する抗ウイルス作用の評価
実施例1と同様にして、カキ抽出物(PE)の濃度が0.05%のエタノール水溶液「0.05%PE/50%EtOH」およびデーツ種子抽出物(DSE)の濃度が2.5%のエタノール水溶液「2.5%DSE/50%EtOH」を調製した。
【0163】
参考例3の手順において、ノロウイルス懸濁液1.2μLと試験液「5%DS/50%EtOH」10.8μLと混合を、下記(iv)~(xii)のように変更し、それ以外は同様にして、PE単独の場合、DSE単独の場合、およびPEとDSEを併用した場合の、ノロウイルスに対する抗ウイルス作用(ゲノム残存率)を比較した。PBSのみ、または50%エタノール水溶液のみを試験液として用いた場合を対照とした。
(iv)ノロウイルス懸濁液1.2μLと、PBS10.8μLとを混合。
(x)ノロウイルス懸濁液1.2μLと、50%エタノール水溶液10.8μLとを混合。
(xi)ノロウイルス溶液1.2μLと、試験液「2.5%DSE/50%EtOH」10.8μLとを混合。
(xii)ノロウイルス溶液1.2μLと、試験液「0.05%PE/50%EtOH」10.8μLとを混合。
(xiii)ノロウイルス溶液1.2μLと、試験液「2.5%DSE/0.05%PE/50%EtOH」10.8μLとを混合。
【0164】
結果を
図12に示す。「2.5%DSE/50%EtOH」および「0.05%PE/50%EtOH」の抗ウイルス作用(ゲノム残存率約51%)は、コントロールとして用いたそれらの溶媒「50%EtOH」の抗ウイルス作用(ゲノム残存率約60%)と大きな差はないが、それらを併用した場合は抗ウイルス作用が著しく増強された(ゲノム残存率約7%)。