(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-11
(45)【発行日】2022-11-21
(54)【発明の名称】ガラス
(51)【国際特許分類】
C03C 4/08 20060101AFI20221114BHJP
C03C 3/083 20060101ALI20221114BHJP
C03C 3/085 20060101ALI20221114BHJP
C03C 3/087 20060101ALI20221114BHJP
C03C 3/091 20060101ALI20221114BHJP
G02B 5/22 20060101ALI20221114BHJP
【FI】
C03C4/08
C03C3/083
C03C3/085
C03C3/087
C03C3/091
G02B5/22
(21)【出願番号】P 2017554192
(86)(22)【出願日】2016-12-02
(86)【国際出願番号】 JP2016085853
(87)【国際公開番号】W WO2017094869
(87)【国際公開日】2017-06-08
【審査請求日】2019-08-26
【審判番号】
【審判請求日】2021-04-01
(31)【優先権主張番号】P 2015235799
(32)【優先日】2015-12-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】513077162
【氏名又は名称】株式会社坪田ラボ
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【氏名又は名称】伊東 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100168985
【氏名又は名称】蜂谷 浩久
(72)【発明者】
【氏名】永井 研輔
(72)【発明者】
【氏名】中島 哲也
(72)【発明者】
【氏名】黒岩 裕
(72)【発明者】
【氏名】土屋 博之
(72)【発明者】
【氏名】谷田 正道
(72)【発明者】
【氏名】小池 章夫
(72)【発明者】
【氏名】西沢 学
(72)【発明者】
【氏名】坪田 一男
(72)【発明者】
【氏名】栗原 俊英
(72)【発明者】
【氏名】鳥居 秀成
【合議体】
【審判長】井上 猛
【審判官】粟野 正明
【審判官】佐藤 陽一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/171141(WO,A1)
【文献】特開平02-038339(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C3/00-3/32
C03C4/08
INTERGLAD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式で表される波長315nm超400nm以下の光透過率T
315nm超400nm以下が板厚6mm換算で
18~70%であり、下記式で表される波長315nm以下の光透過率T
315nm以下が板厚6mm換算で0.1%以下であり、
酸化物基準の質量%表示で、Fe
2O
3で表した全鉄含有量が0.04~0.15%、CeO
2が0.35~0.45%であり、TiO
2が0~0.2%であり、SnO
2が0~0.2%であり、CeO
2+3×TiO
2+6×SnO
2が0.41~0.5であり、Fe-Redoxが25~65%である、波長選択透過性のガラス。
【数1】
【数2】
(上記式中、A
kは、ISO-9050:2003で規定されるT(光透過率)を算出するための、波長k(nm)における重み付け係数であり、T
kは、波長k(nm))における板厚6mm換算の透過率である。)
【請求項2】
下記式で表される波長360~400nmの光透過率T
360-400nmが板厚6mm換算で1%以上である、請求項1に記載の波長選択透過性のガラス。
【数3】
(上記式中、A
kは、ISO-9050:2003で規定される光透過率Tを算出するための、波長k(nm)における重み付け係数であり、T
kは、波長k(nm))における板厚6mm換算の透過率である。)
【請求項3】
前記T
360-400nmが板厚6mm換算で19~92%である、請求項2に記載の波長選択透過性のガラス。
【請求項4】
下記式で表される波長400~760nmの可視光透過率T
400-760nmが板厚6mm換算で1%以上である、請求項1~
3のいずれか1項に記載の波長選択透過性のガラス。
【数4】
(上記式中、A´
kは、ISO-9050:2003で規定される可視光透過率(D65光源)T_D65を算出するための、波長k(nm)における重み付け係数であり、T
kは、波長k(nm))における板厚6mm換算の透過率である。)
【請求項5】
前記T
400-760nmが板厚6mm換算で40~92%である、請求項
4に記載の波長選択透過性のガラス。
【請求項6】
前記T
400-760nmが板厚6mm換算で80~92%である、請求項
5に記載の波長選択透過性のガラス。
【請求項7】
A光源を用いて測定した主波長Dwが板厚6mm換算で380~700nmである、請求項1~
6のいずれか1項に記載の波長選択透過性のガラス。
【請求項8】
A光源を用いて測定した主波長Dwが板厚6mm換算で460~510nmである、請求項
7に記載の波長選択透過性のガラス。
【請求項9】
酸化物基準の質量%表示で、ガラス母組成として、SiO
2:60~80%、Al
2O
3:0~7%、MgO:0~10%、CaO:4~20%、Na
2O:7~20%、K
2O:0~10%を含有する、請求項1~
8のいずれか1項に記載の波長選択透過性のガラス。
【請求項10】
酸化物基準の質量%表示で、ガラス母組成として、SiO
2:65~75%、Al
2O
3:0~5%、MgO:0~6%、CaO:5~12%、Na
2O:10~16%、K
2O:0~3%、MgO+CaO:5~15%、Na
2O+K
2O:10~16%を含有する、請求項
9に記載の波長選択透過性のガラス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラスに関する。より具体的には、特定の波長域の光を透過し、当該特定の波長域以外の光の透過率が低い、波長選択透過性のガラスに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車輌用の窓ガラスや家屋、ビル等の建物に取り付けられる建材用の窓ガラスにおいて、紫外線の広域を98%以上カットするガラスが知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近視には屈折近視と軸性近視があり、多くは軸性近視である。軸性近視においては、眼軸長の伸長に伴って近視が進行し、伸長は不可逆的である。近年、子供らが戸外活動、すなわち屋外の太陽光の下で、長い時間活動することで、近視の進行が抑制される要因となりうることが知られている。
【0005】
その一方で、眼は紫外線を受けることで様々な損傷を受けることが知られている。具体的には屋外等のUVB(波長280~315nmの光)は、角膜炎や白内障に影響を及ぼしやすいことが知られている。
【0006】
一方、特定の波長域の光を透過し、これ以外の波長域の光を透過しない、波長選択透過性のガラスはこれまでに存在していない。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであって、眼軸長の伸長を抑制する効果を奏する特定の波長域の光を透過し、当該特定の波長域以外の光の透過率が低い、波長選択透過性のガラスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記した目的を達成するため、本発明は、下記式で表される波長315nm超400nm以下の光透過率T315nm超400nm以下が板厚6mm換算で1%以上であり、下記式で表される波長315nm以下の光透過率T315nm以下が板厚6mm換算で60%以下である、波長選択透過性のガラスを提供する。
【0009】
【0010】
【0011】
上記式中、Akは、ISO-9050:2003で規定されるT(光透過率)を算出するための、波長k(nm)における重み付け係数であり、Tkは、波長k(nm)における板厚6mm換算の透過率である。
【0012】
本発明の波長選択透過性のガラスにおいて、下記式で表される波長360~400nmの光透過率T360-400nmが板厚6mm換算で1%以上であることが好ましい。
【0013】
【0014】
上記式中、Akは、ISO-9050:2003で規定される光透過率Tを算出するための、波長k(nm)における重み付け係数であり、Tkは、波長k(nm))における板厚6mm換算の透過率である。
【0015】
本発明の波長選択透過性のガラスにおいて、下記式で表される波長400~760nmの可視光透過率T400-760nmが板厚6mm換算で1%以上であることが好ましい。
【0016】
【0017】
上記式中、A´kは、ISO-9050:2003で規定される可視光透過率(D65光源)T_D65を算出するための、波長k(nm)における重み付け係数であり、Tkは、波長k(nm)における板厚6mm換算の透過率である。
【0018】
本発明の波長選択透過性のガラスは、Fe2O3で表した全鉄含有量が0.001~10質量%であり、Fe―Redoxの値が5~80%であることが好ましい。
【0019】
本発明の波長選択透過性のガラスは、Au、Ag、Sn、希土類元素(La、Yを除く)、Ti、W、Mn、As、Sb、Uからなる群から選択される少なくとも1つの元素を酸化物換算の合量で0.1質量ppm以上5質量%以下含有することが好ましい。
【0020】
本発明の波長選択透過性のガラスは、Ce、Sn、Ti、からなる群から選択される少なくとも1つの元素を酸化物換算の合量で0.1質量ppm以上5質量%以下含有することが好ましい。
【0021】
また、本発明の波長選択透過性のガラスは、Au、Ag、Sn、希土類元素(La、Yを除く)、W、Mn、As、Sb、Uからなる群から選択される少なくとも1つの元素を酸化物換算の合量で0.1質量ppm以上5質量%以下含有することが好ましい。
【0022】
本発明の波長選択透過性のガラスは、金属コロイドによる表面プラズモン吸収を起こさせるために、1族から14族からなる群から選択される少なくとも1つの金属元素のコロイドを含有することが好ましい。この目的で含有させるコロイドは、粒径が1μm以下のコロイド粒子であると好ましい。また、金属元素は、Ag、Au、Cuからなる群から選択される少なくとも1つが好ましい。
【0023】
本発明の波長選択透過性のガラスは、A光源(CIE規定の標準光源A)を用いて測定した主波長Dwが板厚6mm換算で380~700nmであることが好ましい。
【0024】
本発明の波長選択透過性のガラスは、A光源を用いて測定した主波長Dwが板厚6mm換算で380~480nmであることが好ましい。
【0025】
また、本発明の波長選択透過性のガラスは、A光源を用いて測定した主波長Dwが板厚6mm換算で460~510nmであることが好ましい。
【0026】
また、本発明の波長選択透過性のガラスは、A光源を用いて測定した主波長Dwが板厚6mm換算で500~570nmであることが好ましい。
【0027】
また、本発明の波長選択透過性のガラスは、A光源を用いて測定した主波長Dwが板厚6mm換算で580~700nmであることが好ましい。
【0028】
また、本発明の波長選択透過性のガラスは、酸化物基準の質量%表示で、ガラス母組成として、SiO2:60~80%、Al2O3:0~7%、MgO:0~10%、CaO:4~20%、Na2O:7~20%、K2O:0~10%を含有することが好ましい。
【0029】
また、本発明の波長選択透過性のガラスは、酸化物基準の質量%表示で、ガラス母組成として、SiO2:45~80%、Al2O3:7%超30%以下、B2O3:0~15%、MgO:0~15%、CaO:0~6%、Na2O:7~20%、K2O:0~10%、ZrO2:0~10%を含有することが好ましい。
【0030】
また、本発明の波長選択透過性のガラスは、酸化物基準の質量%表示で、ガラス母組成として、SiO2:45~70%、Al2O3:10~30%、B2O3:0~15%、MgO、CaO、SrOおよびBaOからなる群から選ばれる少なくとも1種:5~30%、Li2O、Na2OおよびK2Oからなる群から選ばれる少なくとも1種:0%以上7%以下を含有することが好ましい。
【発明の効果】
【0031】
本発明の波長選択透過性のガラスは、波長315nm超400nm以下の光を選択的に透過することができる。当該ガラスを透過した光を目が受けることにより、眼軸長の伸長を抑制する効果、すなわち、軸性近視を予防する効果が期待される。一方、それ以外の波長域の光、具体的には、波長315nm以下の光透過率を低く抑えることができるため、当該波長域の光による眼の様々な損傷を抑制することができる。
【0032】
上記の効果により、本発明の波長選択透過性のガラスは、建材用の窓ガラス、自動車用窓ガラス、液晶ディスプレイ(LCD)、プラズマディスプレイ(PDP)、有機ELディスプレイ(OLED)、フィールドエミッションディスプレイ(FED)などのフラットパネルディスプレイ(FPD)の前面板、あるいは、これらフラットパネルディスプレイ(FPD)の前面に設置するカバーガラス、化学強化用カバーガラス、光学フィルタガラス、また3次元映像や仮想空間映像用等のバーチャルリアリティー用のゴーグルやメガネや、そのガラスシートなどとして好適である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
本発明のガラスは、特定の波長域の光を透過し、当該特定の波長域以外の光の透過率が低い、波長選択透過性のガラスである。本発明における特定の波長域とは、波長315nm超400nm以下である。この波長域の光を透過することが求められるのは、上述したように、ガラスを透過した光を目が受けることにより、眼軸長の伸長を抑制する効果、すなわち、軸性近視を予防する効果が期待されるからである。一方、波長315nm以下の光透過率が低いため、当該波長域の光による眼の様々な損傷を抑制することができる。
【0034】
本発明の波長選択透過性のガラスは、下記式で表される波長315nm超400nm以下の光透過率T315nm超400nm以下が板厚6mm換算で1%以上である。
【0035】
【0036】
上記式中、Akは、ISO-9050:2003で規定されるT(光透過率)を算出するための、波長k(nm)における重み付け係数であり、Tkは、波長k(nm)における板厚6mm換算の透過率である。
【0037】
したがって、上記式は、ISO-9050:2003で規定されるT(光透過率)を算出するための重み付け係数のうち、315nm超400nm以下の波長範囲の重み付け係数のみを使用し、この波長範囲における、重み付け係数(Ak)と板厚6mm換算の透過率(Tk)と、の積の和を、この波長範囲における重み付け係数の和で割った値であり、重み付け後の板厚6mm換算の透過率(Tk)の平均値である。ここで、板厚6mm換算の透過率とするのは、本発明の波長選択透過性のガラスの主要な用途の一つである建材用の窓ガラスの一般的な板厚だからである。
【0038】
尚、ISO-9050:2003におけるAkは波長kが5nm毎に規定されるため、上記式のシグマにおけるk=315超の際のAkは、本発明においてはk=320nmの際のAkとして扱うこととする。
【0039】
本発明の波長選択透過性のガラスは、光透過率T315nm超400nm以下が板厚6mm換算で1%以上であることにより、眼軸長の伸長を抑制する効果、すなわち、軸性近視を予防する効果が期待される。
【0040】
本発明の波長選択透過性のガラスは、光透過率T315nm超400nm以下が板厚6mm換算で3%以上であることが好ましく、5%以上であることがより好ましく、10%以上であることがより好ましく、20%以上であることがより好ましく、30%以上であることがより好ましく、40%以上であることがより好ましく、60%以上がより好ましく、80%以上であることが特に好ましい。
【0041】
T315nm超400nm以下とT315nm以下とT360-400nmとT400-760nmとの光学特性のバランスと考慮すると、T315nm超400nm以下は板厚6mm換算で、18~70%が好ましく、30~69%がより好ましく、50~68%がさらに好ましい。
【0042】
本発明の波長選択透過性のガラスは、下記式で表される波長315nm以下の光透過率T
315nm以下が板厚6mm換算で60%以下である、
【数6】
上記式中、A
kおよびT
kは、上記と同様である。したがって、上記式は、ISO-9050:2003で規定されるT(光透過率)を算出するための重み付け係数のうち、300~315nmの波長範囲の重み付け係数のみを使用し、この波長範囲における、重み付け係数(A
k)と板厚6mm換算の透過率(T
k)と、の積の和を、この波長範囲における重み付け係数の和で割った値であり、重み付け後の板厚6mm換算の透過率(T
k)の平均値である。なお、300~315nmの波長範囲の重み付け係数のみを使用するのは、ISO-9050:2003で規定される重み付け係数(A
k)の値が波長300nm未満については0で設定されているからである。
【0043】
本発明の波長選択透過性のガラスは、光透過率T315nm以下が板厚6mm換算で60%以下であることにより、当該波長域の光による眼の様々な損傷を抑制することができる。
【0044】
本発明のガラスは、光透過率T315nm以下が板厚6mm換算で45%以下であることが好ましく、30%以下であることがより好ましく、15%以下であることがより好ましく、5%以下であることがより好ましく、1%以下であることがより好ましく、0.8%以下であることが特に好ましい。さらに0.5%以下が好ましく、0.3%以下がより好ましく、0.1%以下がさらに好ましく、0%が最も好ましい。
【0045】
本発明の波長選択透過性のガラスは、下記式で表される波長360~400nmの光透過率T360-400nmが板厚6mm換算で1%以上であることが好ましい。
【0046】
【0047】
上記式中、AkおよびTkは、上記と同様である。したがって、上記式は、ISO-9050:2003で規定されるT(光透過率)を算出するための重み付け係数のうち、360~400nmの波長範囲の重み付け係数のみを使用し、この波長範囲における、重み付け係数(Ak)と板厚6mm換算の透過率(Tk)と、の積の和を、この波長範囲における重み付け係数の和で割った値であり、重み付け後の板厚6mm換算の透過率(Tk)の平均値である。
【0048】
本発明の波長選択透過性のガラスは、光透過率T360-400nmが板厚6mm換算で1%以上であることにより、眼軸長の伸長を抑制する効果、すなわち、軸性近視を予防する効果がさらに期待される。315nm超400nm以下の波長域の中でも、360~400nmの波長域の光が、眼軸長の伸長を抑制する効果、すなわち、軸性近視を予防する効果を特に期待されているからである。
【0049】
本発明の波長選択透過性のガラスは、光透過率T360-400nmが板厚6mm換算で5%以上であることが好ましく、10%以上であることがより好ましく、20%以上であることがより好ましく、30%以上であることがより好ましく、40%以上であることがより好ましく、60%以上であることがより好ましく、80%以上であることが特に好ましい。過度の入射を抑えることを考慮すると、92%以下であることが好ましい。
【0050】
また、T315nm超400nm以下とT315nm以下とT360-400nmとT400-760nmとの光学特性のバランスと考慮すると、T360-400nmは板厚6mm換算で、19~92%が好ましく、50~91%がより好ましく、70~90%がさらに好ましい。
【0051】
本発明の波長選択透過性のガラスは、可視光線、赤外線の透過率は特に限定されず、用途に応じて適宜選択すればよい。
【0052】
可視光線透過率に着目すると、本発明の波長選択透過性のガラスは、下記式で表される波長400~760nmの可視光透過率T400-760nmが板厚6mm換算で1%以上であることが好ましい。
【0053】
【0054】
上記式中、Tkは、上記と同様である。A´kは、ISO-9050:2003で規定される可視光透過率(D65光源)T_D65を算出するための、波長k(nm)における重み付け係数である。したがって、上記式は、ISO-9050:2003で規定される可視光透過率(D65光源)T_D65を算出するための重み付け係数のうち、400~780nmの波長範囲の重み付け係数のみを使用し、この波長範囲における、重み付け係数(Ak)と板厚6mm換算の透過率(Tk)と、の積の和を、この波長範囲における重み付け係数の和で割った値であり、重み付け後の板厚6mm換算の透過率(Tk)の平均値である。
【0055】
本発明の波長選択透過性のガラスは、可視光透過率T400-760nmが可視光透過率T400-760nmが板厚6mm換算で1%以上であることにより、ガラス背面の視認性を得やすくなるため、樹脂、金属、壁材と比較して、ガラス特有の光沢、質感を認知することが容易になり、意匠性を高められる。
【0056】
可視光透過率T400-760nmのより好ましい範囲は、本発明の波長選択透過性のガラスの用途により異なるが、可視光を透過することが求められる用途の場合、可視光透過率T400-760nmが、10%以上であることがより好ましく、20%以上であることがより好ましく、40%以上であることがより好ましく、60%以上であることがより好ましく、80%以上であることがより好ましく、90%以上であることが特に好ましい。
【0057】
T315nm超400nm以下とT315nm以下とT360-400nmとT400-760nmとの光学特性のバランスと考慮すると、T400-760nmは板厚6mm換算で、40~92%が好ましく、60~92%がより好ましく、80~92%がさらに好ましい。
【0058】
本発明の波長選択透過性のガラスの色調は、その用途に応じて適宜選択することができる。本発明では、ガラスの色調の指標として、A光源を用いて測定した主波長Dwを用いる。
【0059】
本発明の波長選択透過性のガラスは、A光源を用いて測定した主波長Dwが板厚6mm換算で380~700nmであることが、用途に応じた様々な色調のガラスを包含するため好ましい。
【0060】
例えば、主波長Dwが380~480nmのガラスは紫色系のガラスであり、主波長Dwが460~510nmのガラスは青色系のガラスであり、主波長Dwが500~570nmのガラスは緑色系のガラスであり、主波長Dwが580~700nmのガラスは赤色系のガラスである。
【0061】
本発明の波長選択透過性のガラスにおける光透過率には、当該ガラスの鉄含有量、および、ガラス中に含まれる鉄における二価の鉄(Fe2+)と、三価の鉄(Fe3+)との割合が影響する。すなわち、当該ガラスの鉄含有量は、300~400nmの光全波長域の透過率に影響する。
【0062】
一方、ガラス中に含まれる鉄における二価の鉄(Fe2+)と、三価の鉄(Fe3+)との割合は、光のうち、300~315nmの波長域の透過率に影響する。本明細書では、ガラス中に含まれる鉄における二価の鉄(Fe2+)と、三価の鉄(Fe3+)との割合の指標として、Fe-Redoxを用いる。Fe-Redoxとは、Fe2O3換算の全鉄含有量に対するFe2O3換算のFe2+含有量の割合である。
【0063】
本発明の波長選択透過性のガラスは、Fe2O3で表した全鉄含有量が0.001~10質量%であり、Fe―Redoxの値が5~80%であることが好ましい。
【0064】
Fe2O3で表した全鉄含有量が0.001質量%以上であることにより、大型窯でのガラスの溶解性、脱泡性が向上する。0.01質量%以上であることがより好ましく、0.03質量%以上であることがさらに好ましく、0.04質量%以上さらに0.05質量%以上であることが最も好ましい。
【0065】
一方、Fe2O3で表した全鉄含有量が10質量%以下であることにより、近紫外波長領域の光を通しやすくする効果がある。また、ガラス背面の視認性を得やすくなるため、樹脂、金属、壁材と比較して、ガラス特有の光沢、質感を認知することが容易になり、意匠性を高められる。7質量%以下であることがより好ましく、5質量%以下であることがさらに好ましく、2質量%以下であることが最も好ましい。さらに酸化物基準の質量%表示で、0.5質量%以下が好ましく、0.3質量%以下がより好ましく、0.15質量%以下がさらに好ましい。
【0066】
Fe-Redoxが5%以上であることにより、大型窯での脱泡性が向上し、ガラスの遮熱性が向上する。7%以上であることがより好ましく、10%以上であることがより好ましく、15%以上であることがより好ましく、25%以上であることがより好ましく、30%以上であることがより好ましく、35%以上であることがより好ましく、40%以上であることが最も好ましい。
【0067】
一方、Fe-Redoxが80%以下であることにより、近紫外波長領域の光を通しやすくし、大型窯での生産時におけるガラス原料の溶解性が向上し、溶解時に使用する燃料を減らすことができる。75%以下であることがより好ましく、70%以下であることがより好ましく、65%以下であることがより好ましく、60%以下であることが最も好ましい。
【0068】
本発明の波長選択透過性のガラスは、波長315nm以下の光を吸収する作用を有する微量成分を含有することが好ましい。波長315nm以下の光を吸収する作用を有する微量成分の具体例としては、Au、Ag、Sn、希土類元素(La、Yを除く)、Ti、W、Mn、As、Sb、Uが挙げられる。
【0069】
本発明の波長選択透過性のガラスは、Au、Ag、Sn、希土類元素(La、Yを除く)、Ti、W、Mn、As、Sb、Uからなる群から選択される少なくとも1つの元素を酸化物換算の合量で0.1質量ppm以上5質量%以下含有することが好ましい。
【0070】
上記の成分を合量で0.1質量ppm以上含有することにより、波長315nm以下の光を吸収する作用が発揮される。上記の成分を合量で1質量ppm以上含有することがより好ましく、5質量ppm以上含有することがさらに好ましい。一方、上記の成分の含有量が合量で5質量%以下であることにより、耐水性や耐薬品性に代表されるガラスの安定性が劣化することがなく、大型窯での原料コストが増大することがなく、生産時のガラスの色制御、安定化が困難になることがない。上記の成分を合量で2質量%以下含有することがより好ましく、1質量%以下含有することがさらに好ましい。
【0071】
上記の成分の中でも、Ce、Sn、Tiが波長315nm以下の光を吸収する作用が高いため好ましい。本発明の波長選択透過性のガラスは、Ce、Sn、Tiからなる群から選択される少なくとも1つの元素を酸化物換算の合量で0.1質量ppm以上含有することが好ましく、1質量ppm以上含有することがより好ましく、5質量ppm以上含有することがさらに好ましい。一方、ガラスの着色等を抑えることを考慮すると、上記の成分を合量で5質量%以下含有することが好ましく、2質量%以下含有することがより好ましく、1質量%以下含有することがさらに好ましい。
【0072】
また酸化物基準の質量%表示で、CeO2が0.1~0.8%であり、TiO2が0~0.6%であり、SnO2が0~0.6%であることが好ましく、CeO2が0.2~0.6%であり、TiO2が0~0.4%であり、SnO2が0~0.4%であることがより好ましく、CeO2が0.35~0.45%であり、TiO2が0~0.2%であり、SnO2が0~0.2%であることがさらに好ましい。
【0073】
また、本発明の波長選択透過性のガラスにおいて、CeO2/(CeO2+TiO2+Fe2O3)が0.2以上、好ましくは0.3以上、より好ましくは0.4以上、さらに好ましくは0.5以上であると、眼軸長の伸長を抑制する効果の高い光透過率T360-400nmを保持したまま、波長315nm以下の光を吸収し、かつ、可視光透過率T400-760nmを維持する効果を有するため、好ましい。また、0.95以下、好ましくは0.90以下、より好ましくは0.85以下、さらに好ましくは0.8以下、よりさらに好ましくは0.75以下であると、着色が抑えられるため好ましい。
【0074】
また、所定の光透過率T315nm超400nm以下を保持し、眼軸長の伸長を抑制する効果の高い光透過率T360-400nmを保持したまま、波長315nm以下の光を吸収し、かつ、可視光透過率T400-760nmを維持する効果、並びに、着色を抑える効果のために、CeO2+3×TiO2+6×SnO2が、0.1~2.0であると好ましく、0.3~1.5であるとより好ましく、0.41~1.2であるとさらに好ましく、0.43以上、さらに0.45以上であると好ましく、また0.9以下、さらに0.7以下、さらに0.55以下、さらに0.5以下であると好ましい。
【0075】
したがって、本発明の波長選択透過性のガラスにおいて、酸化物基準の質量%表示で、Fe2O3で表した全鉄含有量が0.04~0.15%、CeO2が0.35~0.45%であり、TiO2が0~0.2%であり、SnO2が0~0.2%であり、CeO2+3×TiO2+6×SnO2が0.41~0.5であり、Fe―Redoxが25~65%であることが、特に好ましい。
【0076】
また、上記の成分の中でも、Au、Ag、Sn、希土類元素(La、Yを除く)、W、Mn、As、Sb、Uは、波長315nm以下の光を吸収して、可視光に変換する作用を有する。本発明の波長選択透過性のガラスは、Au、Ag、Sn、希土類元素(La、Yを除く)、W、Mn、As、Sb、Uからなる群から選択される少なくとも1つの元素を酸化物換算の質量%の合量で0.1質量ppm以上含有することが好ましく、1質量ppm以上含有することがより好ましく、5質量ppm以上含有することがさらに好ましい。一方、上記の成分を合量で5質量%以下含有することが好ましく、2質量%以下含有することがより好ましく、1質量%以下含有することがさらに好ましい。
【0077】
本発明の波長選択透過性のガラスは、金属コロイドによる表面プラズモン吸収を起こさせるために、1族から14族からなる群から選択される少なくとも1つの金属元素のコロイドを含有することが好ましい。この目的で含有させるコロイドは、粒径が1μm以下のコロイド粒子であると好ましく、より好ましくは800nm以下、より好ましくは600nm以下、より好ましくは400nm以下、特に好ましくは300nm以下である。また、金属元素は、Ag、Au、Cuからなる群から選択される少なくとも1つが好ましい。
【0078】
また、本発明の波長選択透過性のガラスは、清澄剤としてSO3、Cl、Fを合量で1%以下、好ましくは0.5%以下含有してもよい。また、本発明の波長選択透過性のガラスは、着色剤としてSe、Co、Ti、Cr、V、その他の遷移金属元素などを合量で1%以下、好ましくは0.5%以下含有してもよい。
【0079】
また、本発明の波長選択透過性のガラスは、ガラス中の水分量が90~800質量ppmであることが好ましい。90質量ppm以上であることにより、ガラスの成形域温度が下がり、曲げ加工が容易になる。また、赤外線吸収強度が上がり、遮熱性能が向上する。一方で800ppm以下であることにより、耐水性、耐薬品性に代表されるガラスの安定性が低下することがなく、また、クラックやキズに対する耐性が低下することがない。
【0080】
本発明の波長選択透過性のガラスのガラス母組成は、その用途に応じて適宜選択することができる。
【0081】
本発明の波長選択透過性のガラスの用途が、建材用の窓ガラスや自動車用窓ガラスや光学フィルター用ガラス等である場合、酸化物基準の質量%表示で、ガラス母組成として、SiO2:60~80%、Al2O3:0~7%、MgO:0~10%、CaO:4~20%、Na2O:7~20%、K2O:0~10%を含有することが好ましい。
【0082】
B2O3を含有する場合には、0.5%以下が好ましく、0.2%以下がより好ましく、実質的に含有しないことが好ましい。本発明において実質的に含有しないとは、不可避的不純物を除き含有しないことをいう。本発明の母組成成分において不可避的不純物は、例えば0.08%以下が好ましく、0.05%以下がより好ましく、0.03%以下がさらに好ましい。
【0083】
SiO2:65~75%、Al2O3:0~5%、MgO:0~6%、CaO:5~12%、Na2O:10~16%、K2O:0~3%、MgO+CaO:5~15%、Na2O+K2O:10~16%を含有することが、特に好ましい。
【0084】
また、本発明の波長選択透過性のガラスの用途が、FPDの前面板である場合、酸化物基準の質量%表示で、ガラス母組成として、SiO2:45~80%、Al2O3:7%超30%以下、B2O3:0~15%、MgO:0~15%、CaO:0~6%、Na2O:7~20%、K2O:0~10%、ZrO2:0~10%を含有することが好ましい。
【0085】
また、本発明の波長選択透過性のガラスの用途が、FPDの前面に設置するカバーガラスである場合、酸化物基準の質量%表示で、ガラス母組成として、SiO2:45~70%、Al2O3:10~30%、B2O3:0~15%、MgO、CaO、SrOおよびBaOからなる群から選ばれる少なくとも1種:5~30%、Li2O、Na2OおよびK2Oからなる群から選ばれる少なくとも1種:0%以上7%以下を含有することが好ましい。
【0086】
本発明の波長選択透過性のガラスの製造時には、その用途に応じた所望の成形法を用いることができる。例えば、成形方法としては、フロート法、ロールアウト法、フュージョン法などが挙げられる。
【0087】
また、本発明の波長選択透過性のガラスは、化学強化ガラス、物理強化ガラスといった強化処理が施されたガラスであってもよく、網入りガラスであってもよい。
【0088】
上述したように、本明細書では、光透過率(T315nm超400nm以下、T360-400nm、T315nm以下)、および、可視光透過率(T400-760nm)を板厚6mm換算の透過率として評価しているが、本発明の波長選択透過性のガラスの板厚はこれに限定されず、その用途に応じて、板厚を適宜選択することができる。
本発明の波長選択透過性のガラスの用途が、建材用の窓ガラスである場合、その板厚は通常6mmである。一般的には、20mm以下、15mm以下、10mm以下、8mm以下であり、2mm以上、3mm以上、4mm以上である。自動車用の窓ガラスの場合、その板厚は1~5mmである。
【0089】
一方、本発明の波長選択透過性のガラスの用途が、FPDの前面板である場合、その板厚は通常0.05~0.7mmである。
【0090】
また、本発明の波長選択透過性のガラスの用途が、FPDの前面に設置するカバーガラスである場合、その板厚は通常0.01~4mmである。
【0091】
上述したように、FPDの前面板の通常の板厚は、光透過率(T315nm超400nm以下、T360-400nm、T315nm以下)、可視光透過率(T400-760nm)を評価する際の基準板厚(6mm)とは大きく異なる。このような場合、実際の板厚での光透過率(T315nm超400nm以下、T360-400nm、T315nm以下)、および、可視光透過率(T400-760nm)も上記範囲を満たすことが好ましい。
【実施例】
【0092】
以下、実施例を用いて本発明をさらに説明する。
【0093】
下記表に示すガラス組成となるように、酸化物等の一般的に使用されるガラス原料を適宜選択し、混合物を白金るつぼに入れ、1600℃の抵抗加熱式電気炉に投入し、3時間溶融し、脱泡、均質化した後、型材に流し込み、ガラス転移点から約30℃高い温度にて1時間以上保持した後、毎分0.3~1℃の冷却速度にて室温まで徐冷し、例1~29の板状のガラスサンプル(板厚6mm)を作製した。例1~29は実施例である。
【0094】
得られたガラスサンプルについて、分光光度計により測定したガラスサンプルのスペクトル曲線から下式(1)を用いてFe-Redoxを算出した。
【0095】
Fe-Redox(%)=-loge(T1000nm/91.4)/(Fe2O3量×t×20.79)×100 ・・・(1)。
【0096】
ただし、
T1000nmは、分光光度計(Perkin Elmer社製、Lambda950)により測定した波長1000nmの透過率(%)であり、
tは、ガラスサンプルの厚さ(cm)であり、
Fe2O3量は、蛍光X線測定によって求めた、Fe2O3換算の全鉄含有量(%=質量百分率)である。
【0097】
また、波長315nm超400nm以下の光透過率T315nm超400nm以下、波長360~400nmの光透過率T360-400nm、波長315nm以下の光透過率T315nm以下、波長400~760nmの可視光透過率T400-760nm、主波長Dwについては分光光度計(Perkin Elmer社製、Lambda950)を用いて測定した。
【0098】
【0099】
【0100】
【0101】
実施例のガラスは、いずれも波長315nm超400nm以下の光透過率T315nm超400nm以下が1%以上、および、波長360~400nmの光透過率T360-400nmが1%以上であり、波長315nm以下の光透過率T315nm以下が60%以下であり、波長400~760nmの可視光透過率T400-760nmが1%以上であった。また、A光源を用いて測定した主波長Dwが380~700nmであった。
【0102】
本発明を特定の態様を参照して詳細に説明したが、本発明の精神と範囲を離れることなく様々な変更および修正が可能であることは、当業者にとって明らかである。なお、本出願は、2015年12月2日付けで出願された日本特許出願(特願2015-235799)に基づいており、その全体が引用により援用される。また、ここに引用されるすべての参照は全体として取り込まれる。