(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-11
(45)【発行日】2022-11-21
(54)【発明の名称】保存性が向上したナッツの製造方法
(51)【国際特許分類】
A23L 25/00 20160101AFI20221114BHJP
【FI】
A23L25/00
(21)【出願番号】P 2018067706
(22)【出願日】2018-03-30
【審査請求日】2021-03-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000006138
【氏名又は名称】株式会社明治
(74)【代理人】
【識別番号】110002354
【氏名又は名称】弁理士法人平和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】永嶋 浩二
(72)【発明者】
【氏名】土舘 恭子
(72)【発明者】
【氏名】松田 幸喜
(72)【発明者】
【氏名】北島 正樹
【審査官】村松 宏紀
(56)【参考文献】
【文献】特開昭54-067056(JP,A)
【文献】実開昭58-152891(JP,U)
【文献】特開平06-311845(JP,A)
【文献】特開2009-072086(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
融解した油脂にローストナッツを浸漬する工程と、ローストナッツが浸漬した油脂を減圧する工程と、ローストナッツが浸漬した油脂を昇圧する工程を有
し、
ローストナッツが浸漬した油脂を減圧する絶対圧が、標準大気圧より低く0.005MPaまでであり、
ローストナッツが浸漬した油脂を昇圧する絶対圧が、標準大気圧より高く0.6MPaまでである、油脂含有ナッツの製造方法。
【請求項2】
前記減圧工程を1秒~120秒行う、請求項
1に記載の油脂含有ナッツの製造方法。
【請求項3】
前記昇圧工程を1秒~120秒行う、請求項1
または2に記載の油脂含有ナッツの製造方法。
【請求項4】
融解した油脂にローストナッツを浸漬する工程と、ローストナッツが浸漬した油脂を減圧する工程と、ローストナッツが浸漬した油脂を昇圧する工程を含む方法により製造された油脂含有ナッツであって、
ローストナッツが浸漬した油脂を減圧する絶対圧が、標準大気圧より低く0.005MPaまでであり、
ローストナッツが浸漬した油脂を昇圧する絶対圧が、標準大気圧より高く0.6MPaまでである、油脂含有ナッツ。
【請求項5】
前記減圧工程を1秒~120秒行う、請求項
4に記載の油脂含有ナッツ。
【請求項6】
前記昇圧工程を1秒~120秒行う、請求項
4または
5に記載の油脂含有ナッツ。
【請求項7】
請求項
4~
6のいずれかに記載の油脂含有ナッツを含有するチョコレート菓子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油脂を含浸させたナッツおよびその製造方法に関する発明である。
【背景技術】
【0002】
アーモンドをはじめとするナッツはロースト処理をすることにより、香ばしさが発現し、嗜好性が大きく増す。そのため、ロースト処理することが一般的である。しかし、ロースト処理によりその保存性が低下してしまう。
特に、アーモンドの酸化、過酸化が高くなると、例えば青臭い等著しい風味上の劣化が著しい。
また、「食品衛生法施行規則」及び「食品,添加物等の規格基準」における「菓子の製造・取扱いに関する衛生上の指導に付いての通達」では,油脂で処理した菓子は,「酸価が3を超え,かつ,過酸化物価が30を超えるものであってはならない。」及び「酸価が5を超え,又は過酸化物価が50を超えるものであってはならない。」と定められている。
特許文献1には、加熱処理したナッツ類の表面をトレハロースにて被覆することを特徴とするナッツ類の抗酸化処理方法が記載されている。特許文献2には、ナッツ類の品質の長期間安定化を行うための、ナッツ類の表面に、水溶性食物繊維の水溶液を噴霧した後、乾燥することを特徴とするナッツ類の処理方法が記載されている。特許文献3には、種実類の表面をシェラック被膜で被覆して、種実類と空気を低減し、油脂の酸化を防止する方法が記載されている。特許文献4には、融点がチョコレートの融点より高い硬化油、乳化剤でコーティングされた白化防止ナッツ類が記載されている。しかし、いずれの方法も、糖衣等物性の大きく異なる被膜を有することで食感が悪くなったり、充分な酸化防止効果が得られないものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2002-27953号公報
【文献】特公平8-32231号公報
【文献】特開2001-258515号公報
【文献】特許第5337904号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、食感を著しく低下させることなく、保存性が向上したローストナッツを提供する事である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、ローストナッツに油脂を含浸させることで良好な食感を保ちつつ保存性が向上する事を見出し、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明は以下の構成からなる。
(1)融解した油脂にローストナッツを浸漬する工程と、ローストナッツが浸漬した油脂を減圧する工程と、ローストナッツが浸漬した油脂を昇圧する工程を有する、油脂含有ナッツの製造方法。
(2)ローストナッツが浸漬した油脂を減圧する絶対圧が、大気圧~0.005MPaであることを特徴とする、(1)に記載の油脂含有ナッツの製造方法。
(3)ローストナッツが浸漬した油脂を昇圧する絶対圧が、大気圧~0.5MPaである事を特徴とする、(1)または(2)に記載の油脂含有ナッツの製造方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明により、従来より保存中の過酸化物価上昇および品質劣化を抑制し保存性が向上したローストナッツが得られた。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。
本発明の実施形態におけるナッツは、アーモンド、マカダミアナッツ、カシューナッツ、ヘーゼルナッツ、ピスタチオ等一般的にナッツと呼ばれる物であれば良いが、特にアーモンドに対して本発明は特に効果を奏する。
本発明の実施形態において使用する油脂は、植物性油脂、動物性油脂のいずれでもよいが、油脂自体が変敗しにくいものを使用することが好ましい。好ましくは植物性油脂、更に好ましくはココアバターあるいはココアバター代用脂を使用する。
本発明の実施形態において、油脂をナッツに含浸する方法は、減圧法または加圧法を用いる。
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
(油脂を高温で融解する工程)
油脂を攪拌機能付き恒温槽に投入し、一定温度に保温しながら攪拌する。この時の恒温槽の大きさや攪拌の強度、速さには特に制限はなく、油脂が均一に攪拌できれば良い。攪拌時間には特に制限はなく、また攪拌機の容量や攪拌効率によっても効果は異なるが、概ね40分以上が好ましい。
(チャンバー内に、融解した油脂に埋没させたナッツを準備する工程)
まず融解した油脂にナッツを埋没させる。この時、ナッツが融解した油脂から露出しない様にすることが好ましい。ナッツの一部に融解した油脂で覆われていない部分があると、含浸工程で空気が優先的にナッツに戻ってしまうので、油脂を十分にナッツに行き渡らせることができる様にするためである。そしてナッツが埋没した油脂槽を減圧チャンバーに投入して密閉する。
(チャンバー内の圧力を低下させる工程)
次に、チャンバー内の圧力を低下させて、ナッツ内部を脱気する。チャンバー内の圧力は、例えば、0.006MPa~大気圧まで低下させてもよく、0.01~0.05MPaに低下させてもよい。また、チャンバー内の圧力を低下させる時間は、例えば、1秒~120秒であってよく、10秒~60秒であってよい。
(チャンバー内の圧力を上昇させる工程)
次に、チャンバー内の圧力を大気圧まで上昇させる。必要に応じてさらにチャンバー内の圧力を大気圧より高くまで加圧してもよい。例えば、大気圧以上~0.6MPa以下に加圧してもよい。また、チャンバー内の圧力を上昇させる時間は、例えば、1秒~120秒であってよく、10秒~60秒であってよい。
チャンバー内の圧力を低下させる工程と、チャンバー内の圧力を上昇させる工程は、順序
が逆でもよい。
【実施例】
【0008】
(製造例1)
全粒アーモンドを約140kg計量し、直火式のロースターにて品温が155℃になるよう30分間焙焼し、ローストアーモンドを得た。
(製造例2)
カカオマス20質量部、ココアバター16質量部、砂糖47質量部、全粉乳16質量部、レシチン0.5質量部、香料0.5質量部を混合、粉砕し、定法にてチョコレートを得た。
【実施例1】
【0009】
融解した植物油脂(商品名:オレオA7、不二製油株式会社製)を40℃に維持したまま上記ローストアーモンドを埋没させてチャンバー内に入れ、チャンバー内の圧力を減圧状態(絶対圧0.005MPa)にした後、大気圧に戻した。次に、加圧状態(絶対圧約0.6MPa)にし、1分間加圧状態を維持した後、大気圧まで減圧した。その後、植物油脂からローストアーモンドを取り出し、まわりに付着した過剰な植物油脂を除去するために遠心分離(手回し1分間)に供し、植物油脂が含浸したローストアーモンドを得た。
(比較例1)
加圧も減圧も行わない以外は実施例1と同様の方法で、表面に植物油脂が被覆したローストアーモンドを得た。
(比較例2)
製造例1で得たローストアーモンドに何も処理をせず未処理のローストアーモンドを得た。
【実施例2】
【0010】
製造例2で得た、植物油脂が含浸したローストアーモンド質量30質量部をレボルビングパンに投入し、製造例3で得たチョコレート70質量部を少量ずつ投入し、ローストアーモンド表面にチョコレートが被覆した略楕円球状のチョコレート菓子を得た。
(比較例3)
比較例1で得た、表面に植物油脂が被覆したローストアーモンドを使用した以外は実施例2と同様の方法で、ローストアーモンド表面にチョコレートが被覆した略楕円球状のチョコレート菓子を得た。
(比較例4)
比較例2で得た、未処理のローストアーモンドを使用した以外は実施例2と同様の方法で、ローストアーモンド表面にチョコレートが被覆した略楕円球上のチョコレート菓子を得た。
(保存試験)
実施例1、2および比較例1~4で得たローストアーモンド及びチョコレート菓子を、23℃で保存し、一定期間毎に過酸化物価(POV)の測定および風味の評価を行った。
結果を表1、表2に示した。
ローストアーモンド、チョコレート菓子のいずれの状態においても、ローストアーモンドを含浸処理したものの保存中の過酸化物価の上昇が著しく抑制されており、劣化臭(青臭い香り)が無く、ナッツのおいしさが残っている。
【0011】
【0012】
【0013】
ナッツ劣化臭の評価基準
5:ローストしたての香ばしい香りと風味がある
4:少し香ばしい香りが損なわれるが、十分なナッツのおいしさがある
3:香ばしさはないが、十分なナッツのおいしさがある
2:わずかに劣化臭がある
1:劣化臭があり食用できない