(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-11
(45)【発行日】2022-11-21
(54)【発明の名称】半導体装置用基板
(51)【国際特許分類】
H01L 23/15 20060101AFI20221114BHJP
H01L 23/12 20060101ALI20221114BHJP
H01L 23/36 20060101ALI20221114BHJP
H05K 1/03 20060101ALI20221114BHJP
H05K 1/02 20060101ALI20221114BHJP
C04B 37/02 20060101ALI20221114BHJP
【FI】
H01L23/14 C
H01L23/12 J
H01L23/36 C
H05K1/03 630H
H05K1/02 Q
C04B37/02 A
(21)【出願番号】P 2020558757
(86)(22)【出願日】2018-12-06
(86)【国際出願番号】 JP2018044943
(87)【国際公開番号】W WO2020115869
(87)【国際公開日】2020-06-11
【審査請求日】2021-03-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】391039896
【氏名又は名称】NGKエレクトロデバイス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000202
【氏名又は名称】新樹グローバル・アイピー特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】梅田 勇治
【審査官】豊島 洋介
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-138830(JP,A)
【文献】特開平08-195450(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B37/00 -37/04
H01L23/12 -23/15
H01L23/29
H01L23/34 -23/36
H01L23/373-23/427
H01L23/44
H01L23/467-23/473
H05K 1/00 - 1/02
H05K 3/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
板状に形成され、第1主面と第2主面とを有するセラミックス焼結体と、
前記第1主面上に配置され、銅又はアルミニウムによって構成される第1回路板と、
前記第2主面上に配置され、銅又はアルミニウムによって構成される第2回路板と、
を備え、
前記セラミックス焼結体は、Al、Zr、Y及びMgを含み、
前記セラミックス焼結体におけるMgのMgO換算での含有量をS1質量%とし、ZrのZrO
2換算での含有量をS2質量%とした場合、
S2は5質量%以上27.5質量%以下であり、かつ、下記の式(1)が成立し、
第1回路板の厚さをT1mmとし、第2回路板の厚さをT2mmとし、前記セラミックス焼結体の厚さをT3mmとした場合、下記の式(2)、(3)、(4)が成立する、
半導体装置用基板。
-0.004×S2+0.171<S1<-0.032×S2+1.427・・・(1)
1.7<(T1+T2)/T3<3.5 ・・・(2)
T1≧T2 ・・・(3)
T3≧0.25 ・・・(4)
【請求項2】
板状に形成され、第1主面と第2主面とを有するセラミックス焼結体と、
前記第1主面上に配置され、銅又はアルミニウムによって構成される第1回路板と、
前記第2主面上に配置され、銅又はアルミニウムによって構成される第2回路板と、
を備え、
前記セラミックス焼結体は、Al、Zr、Y及びMgを含み、
前記セラミックス焼結体におけるMgのMgO換算での含有量をS1質量%とし、ZrのZrO
2
換算での含有量をS2質量%とした場合、下記の式(1)、(5)が成立し、
第1回路板の厚さをT1mmとし、第2回路板の厚さをT2mmとし、前記セラミックス焼結体の厚さをT3mmとした場合、下記の式(2)、(3)、(4)が成立する、
半導体装置用基板。
-0.004×S2+0.171<S1<-0.032×S2+1.427・・・(1)
1.7<(T1+T2)/T3<3.5 ・・・(2)
T1≧T2 ・・・(3)
T3≧0.25 ・・・(4)
7.5≦S2≦25 ・・・(5)
【請求項3】
板状に形成され、第1主面と第2主面とを有するセラミックス焼結体と、
前記第1主面上に配置され、銅又はアルミニウムによって構成される第1回路板と、
前記第2主面上に配置され、銅又はアルミニウムによって構成される第2回路板と、
を備え、
前記セラミックス焼結体は、Al、Zr、Y及びMgを含み、
前記セラミックス焼結体におけるMgのMgO換算での含有量をS1質量%とし、ZrのZrO
2
換算での含有量をS2質量%とした場合、下記の式(1)、(6)が成立し、
第1回路板の厚さをT1mmとし、第2回路板の厚さをT2mmとし、前記セラミックス焼結体の厚さをT3mmとした場合、下記の式(2)、(3)、(4)が成立する、
半導体装置用基板。
-0.004×S2+0.171<S1<-0.032×S2+1.427・・・(1)
1.7<(T1+T2)/T3<3.5 ・・・(2)
T1≧T2 ・・・(3)
T3≧0.25 ・・・(4)
17.5≦S2≦23.5 ・・・(6)
【請求項4】
前記セラミックス焼結体において、下記の式(7)が成立する、
請求項1乃至3のいずれかに記載の半導体装置用基板。
0.08<S1<1.18 ・・・(7)
【請求項5】
前記セラミックス焼結体におけるYの含有量は、Y
2
O
3
換算で0.3質量%以上2.0質量%以下である、
請求項1乃至4のいずれかに記載の半導体装置用基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体装置用基板に関する。
【背景技術】
【0002】
パワートランジスタモジュールなどに用いる半導体装置用基板として、セラミックス焼結体の表裏面に回路板を備えたDBOC基板(Direct Bonding of Copper Substrate)や、セラミックス焼結体の表裏面にアルミニウム板を備えたDBOA基板(Direct Bonding of Aluminum Substrate)が知られている。
【0003】
特許文献1には、アルミナと部分安定化ジルコニアとマグネシアとを含むセラミックス焼結体を備える半導体装置用基板が開示されている。特許文献1に記載のセラミックス焼結体において、部分安定化ジルコニアの含有量は1~30wt%であり、マグネシアの含有量は0.05~0.50wt%であり、部分安定化ジルコニアにおけるイットリアのモル分率は0.015~0.035であり、セラミックス焼結体に含まれるジルコニア結晶のうち80~100%が正方晶相である。特許文献1に記載のセラミックス焼結体によれば、セラミックス焼結体と回路板又はアルミニウム板との接合界面にクラックが生じることを抑制できるとともに、熱伝導率を向上させることができるとされている。
【0004】
特許文献2には、アルミナとジルコニアとイットリアとを含むセラミックス焼結体を備える半導体装置用基板が開示されている。特許文献2に記載のセラミックス焼結体において、ジルコニアの含有量は2~15重量%であり、アルミナの平均粒径は2~8μmである。特許文献2に記載のセラミックス焼結体によれば、熱伝導率を向上させることができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許4717960号公報
【文献】特表2015-534280号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1では、セラミックス焼結体単体での熱伝導率については検討されているものの、回路板(回路板又はアルミニウム板)を含めた半導体装置用基板全体としての熱抵抗率については検討されていない。
【0007】
同様に、特許文献2でも、半導体装置用基板全体としての熱抵抗率については検討されておらず、また、接合界面におけるクラックについても検討されていない。
【0008】
そこで、本発明者が鋭意検討した結果、セラミックス焼結体の組成と各構成部材の厚みとの組み合わせが、半導体装置用基板の熱抵抗率及び接合界面におけるクラックに影響を与えるという新たな知見を得た。
【0009】
本発明は、熱抵抗率の低減とクラックの抑制とを両立可能な半導体装置用基板の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る半導体装置用基板は、セラミックス焼結体と、第1回路板と、第2回路板とを備える。セラミックス焼結体は、板状に形成され、第1主面と第2主面とを有する。第1回路板は、第1主面上に配置され、銅又はアルミニウムによって構成される。第2回路板は、第2主面上に配置され、銅又はアルミニウムによって構成される。セラミックス焼結体は、Al、Zr、Y及びMgを含む。セラミックス焼結体において、MgのMgO換算での含有量をS1質量%とし、ZrのZrO2換算での含有量をS2質量%とした場合、下記の式(1)が成立する。第1回路板の厚さをT1mmとし、第2回路板の厚さをT2mmとし、セラミックス焼結体の厚さをT3mmとした場合、下記の式(2)、(3)、(4)が成立する。
【0011】
-0.004×S2+0.171<S1<-0.032×S2+1.427・・・(1)
1.7<(T1+T2)/T3<3.5・・・(2)
T1≧T2・・・(3)
T3≧0.25・・・(4)
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、熱抵抗率の低減とクラックの抑制とを両立可能な半導体装置用基板を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】実施形態に係る半導体装置の構成を示す斜視図である。
【
図3】実施形態に係る半導体装置用基板の製造方法を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係る半導体装置の構成について、図面を参照しながら説明する。
【0015】
(半導体装置1の構成)
図1は、実施形態に係る半導体装置1の断面図である。
図2は、
図1のA-A断面図である。
【0016】
半導体装置1は、自動車、空調機、産業用ロボット、業務用エレベータ、家庭用電子レンジ、IH電気炊飯器、発電(風力発電、太陽光発電、燃料電池など)、電鉄、UPS(無停電電源)などの様々な電子機器においてパワーモジュールとして用いられる。
【0017】
半導体装置1は、半導体装置用基板2、半導体チップ6、ボンディングワイヤ7、ヒートシンク8及び放熱部9を備える。
【0018】
半導体装置用基板2は、いわゆるDBOC基板(Direct Bonding of Copper Substrate)、又は、DBOA基板(Direct Bonding of Aluminum Substrate)である。
【0019】
半導体装置用基板2のサイズ及び平面形状は特に制限されないが、例えば、縦長さP1が25~40mm、横長さQ1が35~50mmの正方形又は長方形とすることができる。半導体装置用基板2を構成する各構成部材の厚みについては後述する。
【0020】
半導体装置用基板2は、セラミックス焼結体3、第1回路板4及び第2回路板4’を備える。
【0021】
セラミックス焼結体3は、半導体装置用基板2用の絶縁体である。セラミックス焼結体3は、平板状に形成される。セラミックス焼結体3は、第1主面F1と、第1主面の反対側の第2主面F2とを有する。セラミックス焼結体3の構成元素については後述する。
【0022】
第1回路板4は、セラミックス焼結体3の第1主面F1上に配置される。第1回路板4は、銅又はアルミニウムによって構成される。第1回路板4は、平板状に形成される。第1回路板4は、セラミックス焼結体3の第1主面F1と直接的に接合される。本実施形態に係る第1回路板4は、3枚の板部材から構成されており、これによって電送回路が形成されている。ただし、第1回路板4の平面形状は特に制限されず、複数の板部材によって所望の電送回路が形成されていればよい。
【0023】
第1回路板4による第1主面F1の被覆率は特に制限されないが、例えば85%以上95%以下とすることができる。第1回路板4による第1主面F1の被覆率は、第1主面F1の平面視において、第1回路板4の合計面積を第1主面F1の全面積で除することによって求められる。
【0024】
第2回路板4’は、セラミックス焼結体3の第2主面F2上に配置される。第2回路板4’は、銅又はアルミニウムによって構成される。第2回路板4’は、平板状に形成される。第2回路板4’は、セラミックス焼結体3の第2主面F2と直接的に接合される。第2回路板4’は、単一の板部材である。
【0025】
第2回路板4’による第2主面F2の被覆率は特に制限されないが、例えば90%以上96%以下とすることができる。第2回路板4’による第2主面F2の被覆率は、半導体装置用基板2の平面視において、第2回路板4’の全面積を第2主面F2の全面積で除することによって求められる。第2回路板4’による第2主面F2の被覆率は、第1回路板4による第1主面F1の被覆率と同様であってもよいし、第1回路板4による第1主面F1の被覆率より大きくてもよい。第2回路板4’の全面積は、第1回路板4の全面積と同様であってもよいし、第1回路板4の全面積より大きくてもよい。
【0026】
半導体装置用基板2の作製方法は特に制限されないが、例えば次のように作製することができる。まず、セラミックス焼結体3の第1主面F1側に第1回路板4を配置し、セラミックス焼結体3の第2主面F2側に第2回路板4’を配置した積層体を形成する。次に、積層体を1070℃~1075℃の窒素雰囲気条件下で10分程度加熱する。これによって、セラミックス焼結体3と第1及び第2回路板4,4’とが接合する界面(以下、「接合界面」と総称する。)にCu-O共晶液相が生成され、セラミックス焼結体3の第1及び第2主面F1,F2が濡れる。次に、積層体を冷却することによってCu-O共晶液相が固化されて、セラミックス焼結体3に第1及び第2回路板4,4’が接合される。
【0027】
なお、半導体装置用基板2では、電送回路が形成された第1銅板4がセラミックス焼結体3の表面に接合されているが、電送回路は、サブトラクティブ法又はアディティブ法によって形成されてもよい。
【0028】
半導体チップ6は、第1回路板4に接合される。ボンディングワイヤ7は、半導体チップ6と第1回路板4とを接続する。
【0029】
ヒートシンク8は、第2回路板4’に接合される。ヒートシンク8は、半導体装置用基板2を介して伝達される半導体チップ6の熱を吸収する。ヒートシンク8は、例えば銅などによって構成することができる。ヒートシンク8のサイズ及び形状は特に制限されない。
【0030】
放熱部9は、ヒートシンク8に取り付けられる。放熱部9は、半導体装置用基板2及びヒートシンク8を介して伝達される半導体チップ6の熱を外気中に放熱する。放熱部9は、例えばアルミニウムなどによって構成することができる。放熱部9のサイズ及び形状は特に制限されない。放熱部9は、複数のフィン部9aを有することが好ましい。これにより、放熱部9の放熱効率を向上させることができる。
【0031】
ヒートシンク8及び放熱部9の平面サイズ及び平面形状は特に制限されないが、例えば、縦長さP2が25~40mm、横長さQ2が35~50mmの正方形又は長方形とすることができる。
【0032】
(セラミックス焼結体3の構成元素)
セラミックス焼結体3は、Al(アルミニウム)と、Zr(ジルコニウム)と、Y(イットリウム)と、Mg(マグネシウム)とを含む。
【0033】
セラミックス焼結体3におけるAlの含有量は、Al2O3換算で75質量%以上92.5質量%以下とすることができる。セラミックス焼結体3におけるAlの含有量は、Al2O3換算で75質量%以上85質量%以下であることが好ましい。
【0034】
セラミックス焼結体3におけるZrの含有量(後述する、S2)は、ZrO2換算で5%以上27.5質量%以下とすることができ、ZrO2換算で7.5質量%以上25質量%以下が好ましく、ZrO2換算で17.5質量%以上23.5質量%以下がより好ましい。
【0035】
Zrの含有量をZrO2換算で7.5質量%以上とすることによって、セラミックス焼結体3の線熱膨張係数αが過小になることを抑制でき、セラミックス焼結体3と第1及び第2回路板4,4’との線熱膨張係数差を小さくできると考えられる。その結果、接合界面に生じる熱応力を小さくでき、接合界面にクラックが生じることの抑制に寄与するものと考えられる。この効果は、Zrの含有量をZrO2換算で17.5質量%以上とすることによって更に向上させることができる。
【0036】
Zrの含有量をZrO2換算で25質量%以下とすることによって、回路板接合時の接合界面における反応が過剰になることを抑制でき、接合界面にボイドが生じることを抑制できると考えられる。その結果、接合界面にクラックが生じることの抑制に寄与するものと考えられる。この効果は、Zrの含有量をZrO2換算で23.5質量%以下とすることによって更に向上させることができる。
【0037】
セラミックス焼結体3におけるYの含有量は、Y2O3換算で0.3質量%以上2.0質量%以下とすることができる。セラミックス焼結体3におけるYの含有量は、Y2O3換算で0.7質量%以上2.0質量%以下であることが好ましい。
【0038】
Yの含有量をY2O3換算で0.3質量%以上とすることによって、セラミックス焼結体3が結晶相として含むZrO2結晶相のうち単斜晶相のピーク強度比が過大になることを抑制できると考えられる。その結果、セラミックス焼結体3の機械的強度を向上でき、接合界面にクラックが生じることの抑制に寄与するものと考えられる。
【0039】
Yの含有量をY2O3換算で2.0質量%以下とすることによって、セラミックス焼結体3が結晶相として含むZrO2結晶相のうち単斜晶相のピーク強度比が過小になることを抑制できると考えられる。その結果、セラミックス焼結体3の機械的強度を向上でき、接合界面にクラックが生じることの抑制に寄与するものと考えられる。
【0040】
セラミックス焼結体3におけるMgの含有量(後述する、S1)は、MgO換算で0.08質量%より大きく1.18質量%未満とすることができる。
【0041】
Mgの含有量をMgO換算で0.08質量%より大きくすることによって、焼成温度を過剰に高くしなくてもセラミックス焼結体3を焼結させられ、Al2O3粒子及びZrO2粒子の粗大化を抑制できると考えられる。その結果、セラミックス焼結体3の機械的強度を向上でき、接合界面にクラックが生じることの抑制に寄与するものと考えられる。また、セラミックス焼結体3中に十分な量のMgAl2O4(スピネル)結晶を生成でき、回路板接合時におけるCu-O共晶液相との濡れ性を向上させることができると考えられる。その結果、接合界面にボイドが生じることの抑制に寄与するものと考えられる。
【0042】
Mgの含有量をMgO換算で1.18質量%未満とすることによって、アルミナ及びジルコニア結晶の過剰な成長を抑制でき、セラミックス焼結体3の機械的強度を向上できると考えられる。その結果、接合界面にクラックが生じることの抑制に寄与するものと考えられる。また、セラミックス焼結体3中にMgAl2O4結晶が過剰に生成されることを抑制でき、回路板接合時の接合界面における反応が過剰になることを抑制できると考えられる。その結果、接合界面にボイドが生じることの抑制に寄与するものと考えられる。
【0043】
セラミックス焼結体3は、Hf(ハフニウム)と、Si(ケイ素)と、Ca(カルシウム)と、Na(ナトリウム)及びK(カリウム)の少なくとも一方と、これら以外の残部とを含んでいてもよい。残部に含まれる元素は、意図的に添加する元素であってもよいし、不可避的に混入する元素でもよい。残部に含まれる元素は特に制限されないが、例えば、Fe(鉄)、Ti(チタン)、Mn(マンガン)などが挙げられる。
【0044】
本実施形態において、セラミックス焼結体3の構成元素の含有量は、上記のとおり酸化物換算にて算出されるが、セラミックス焼結体3の構成元素は、酸化物の形態で存在していてもよいし、酸化物の形態で存在していなくてもよい。例えば、Y、Mg及びCaのうち少なくとも1種は、酸化物の形態で存在せず、ZrO2中に固溶していてもよい。
【0045】
セラミックス焼結体3の構成元素の酸化物換算での含有量は、以下のように算出される。まず、蛍光X線分析装置(XRF)、又は、走査型電子顕微鏡(SEM)に付設のエネルギー分散型分析器(EDS)を用いて、セラミックス焼結体3の構成元素を定性分析する。次に、この定性分析により検出された各元素につき、ICP発光分光分析装置を用いて定量分析を行う。次に、この定量分析により測定された各元素の含有量を酸化物に換算する。
【0046】
(セラミックス焼結体3の組成と各構成部材の厚み)
次に、セラミックス焼結体3の組成と、セラミックス焼結体3、第1回路板4及び第2回路板4’それぞれの厚みとの組み合わせについて説明する。
【0047】
セラミックス焼結体3におけるMgのMgO換算での含有量をS1質量%とし、ZrのZrO2換算での含有量をS2質量%とした場合、下記の式(1)が成立する。
【0048】
-0.004×S2+0.171<S1<-0.032×S2+1.427・・・(1)
【0049】
第1回路板の厚さをT1mmとし、第2回路板の厚さをT2mmとし、前記セラミックス焼結体の厚さをT3mmとした場合、下記の式(2)、(3)、(4)が成立する、
【0050】
1.7<(T1+T2)/T3<3.5・・・(2)
T1≧T2・・・(3)
T3≧0.25・・・(4)
【0051】
以上の式(1)~(4)が成立することによって、セラミックス焼結体3に熱サイクルがかかったとしても接合界面にクラックが生じることを抑制できるとともに、半導体装置用基板2全体としての熱抵抗率を低減させることができる。このような効果が得られる機序は必ずしも明らかではないが、式(1)、式(2)の上限値及び式(4)を満たすことでセラミックス焼結体3の機械的強度が高まることと、式(2)の下限値及び式(3)が成立することで熱伝導率の低いセラミックス焼結体3と熱伝導率の高い第1及び第2回路板4,4’との相対的な厚さが至適化されることとの相乗効果であると考えられる。
【0052】
式(3)に示すように、第1回路板の厚さT1mmは、第2回路板の厚さT2mmと同じであってもよいし、第2回路板の厚さT2mmより大きくてもよい。ただし、第2回路板4’の全面積が第1回路板4の全面積より大きい場合、回路板接合時にセラミックス焼結体3が第2回路板4’側に向かって凹状に変形するおそれがある。そのため、第2回路板4’の全面積が第1回路板4の全面積より大きい場合には、第1回路板の厚さT1mmは、第2回路板の厚さT2mmより大きいことが好ましい。
【0053】
セラミックス焼結体3におけるZrのZrO2換算での含有量をS2については、下記の式(5)が成立することが好ましい。
【0054】
7.5≦S2≦25・・・(5)
【0055】
式(5)が成立することによって、上述のとおり、セラミックス焼結体3の機械的強度をより高めることができるため、接合界面にクラックが生じることをより抑制できる。
【0056】
セラミックス焼結体3におけるZrのZrO2換算での含有量をS2については、下記の式(6)が成立することが更に好ましい。
【0057】
17.5≦S2≦23.5・・・(6)
【0058】
式(6)が成立することによって、セラミックス焼結体3の機械的強度を更に高めることができるため、接合界面にクラックが生じることを更に抑制できる。
【0059】
セラミックス焼結体3におけるMgのMgO換算での含有量S1については、下記の式(7)が成立することがより好ましい。
【0060】
0.08<S1<1.18・・・(7)
【0061】
式(7)が成立することによって、上述のとおり、セラミックス焼結体3の機械的強度をより高めることができるため、接合界面にクラックが生じることをより抑制できる。
【0062】
(セラミックス焼結体3の製造方法)
図2を参照しながらセラミックス焼結体3の製造方法について説明する。
図2は、セラミックス焼結体3の製造方法を示すフローチャートである。
【0063】
ステップS1において、Al2O3、ZrO2、Y2O3及びMgOのほか、所望によりHfO2、SiO2、CaO、Na2O及びK2Oなどの粉体材料を調合する。
【0064】
なお、ZrO2及びY2O3のそれぞれは単独の粉体材料でもいいが、Y2O3で部分安定化されたZrO2の粉体材料を用いてもよい。また、Mg、Ca、及びアルカリ金属(Na及びK)は、炭酸塩粉体であってもよい。
【0065】
ステップS2において、調合した粉体材料を、例えばボールミルなどにより粉砕混合する。
【0066】
ステップS3において、粉砕混合した粉体材料に、有機質バインダー(例えば、ポリビニルブチラール)、溶剤(キシレン、トルエンなど)及び可塑剤(フタル酸ジオクチル)を添加してスラリー状物質を形成する。
【0067】
ステップS4において、所望の成形手段(例えば、金型プレス、冷間静水圧プレス、射出成形、ドクターブレード法、押し出し成型法など)によって、スラリー状物質を所望の形状に成形してセラミックス成形体を作製する。この際、セラミックス焼結体3の厚さT3が、第1回路板の厚さT1及び第2回路板の厚さT2との関係において上記(2)~(4)が成立するように、ステップS5における焼成収縮率を考慮して、セラミックス成形体の厚さを調整する。
【0068】
ステップS5において、セラミックス成形体を、酸素雰囲気又は大気雰囲気で焼成(150~1620℃、0.7~1.0時間)する。
【実施例】
【0069】
サンプルNo.1~72として、
図1及び
図2に示した構成を有する半導体装置1を作製して、半導体装置1の熱抵抗とクラックが発生する熱サイクル数とを測定した。
【0070】
(半導体装置1の作製)
まず、Al2O3、ZrO2、Y2O3及びMgOの粉体材料を調合して、ボールミルで粉砕混合した。この際、ZrO2の含有量S2とMgOの含有量S1とを表1に示すようにサンプルごとに変更し、残りはAl2O3
及びY
2
O
3
とした。
【0071】
次に、粉砕混合した粉体材料に、有機質バインダーとしてのポリビニルブチラールと、溶剤としてのキシレンと、可塑剤としてのフタル酸ジオクチルとを添加してスラリー状物質を形成した。
【0072】
次に、ドクターブレード法によって、スラリー状物質をシート状に成形してセラミックス成形体を作製した。この際、ブレードのゲート高さを変更することによって、セラミックス焼結体3の厚さT3が表1に示す値になるように、セラミックス成形体の厚さをサンプルごとに調整した。
【0073】
次に、セラミックス成形体を、大気雰囲気において焼成(1600℃、0.8時間)してセラミックス焼結体3を作製した。セラミックス焼結体3の縦長さP1は40mmであり、横長さQ1は40mmであった。
【0074】
次に、JIS C1020に準拠した無酸素銅からなる第1回路板4(縦長さ37.4mm×横長さ19.8mmが1枚、縦長さ37.4mm×横長さ7.8mmが2枚、)と第2回路板4’(縦長さ37.4mm×横長さ37.4mmが1枚)とを準備した。第1回路板4の厚さT1と第2回路板4’の厚さT2は、表1に示すようにサンプルごとに異ならせた。
【0075】
次に、大気中で300℃に加熱することによって、第1及び第2回路板4,4’それぞれの外表面を酸化させた。
【0076】
次に、セラミックス焼結体3を第1及び第2回路板4,4’で挟んだ積層体を、窒素(N2)雰囲気中において1070℃で10分加熱した。
【0077】
次に、積層体を冷却することによって、セラミックス焼結体3に第1及び第2回路板4,4’を接合した。第1回路板4による第1主面F1の被覆率は82.7%であり、第2回路板4’による第2主面F2の被覆率は87.4%であった。
【0078】
次に、半田を用いて、アルミニウム製の放熱部9(縦長さ60mm×横長さ60mm×厚さ6.5mm)が取り付けられた銅製のヒートシンク8(縦長さ60mm×横長さ60mm×厚さ3mm)を第2回路板4’に接合した。
【0079】
次に、半田を用いて、Si半導体チップ6を第1回路板4に接合するとともに、Si半導体チップ6(縦長さ10mm×横長さ10mm×厚さ0.35mm)と第1回路板4とにボンディングワイヤ7を取り付けた。
【0080】
(熱抵抗の測定)
サンプルNo.1~72について、Si半導体チップ6に通電して発熱させることによって、下記の式(8)から半導体装置1の熱抵抗RJ-a(℃/W)を測定した。ただし、式(8)において、TjはSi半導体チップ6の素子温度(℃)であり、TaはSi半導体チップ6の周囲温度(℃)であり、QはSi半導体チップ6に供給した電力(W)である。
【0081】
RJ-a=(Tj-Ta)/Q・・・(8)
【0082】
表1では、サンプルNo.1~72それぞれについて、10ピースの熱抵抗率の平均値が記載されている。表1では、熱抵抗率(℃/W)が0.805以上のサンプルが「×」と評価され、0.790以上0.805未満のサンプルが「△」と評価され、0.790未満のサンプルが「○」と評価されている。
【0083】
(クラック発生率)
サンプルNo.1~72について、セラミックス焼結体3にクラックが発生するまで、「-40℃×30分→25℃×5分→125℃×30分→25℃×5分」のサイクルを繰り返した。
【0084】
表1では、サンプルNo.1~72それぞれについて、10ピースのいずれかにクラックが発生したサイクル数がクラック発生サイクル数として記載されている。表1では、クラック発生サイクル数(回)が51以上のサンプルが「○」と評価され、31以上50以下のサンプルが「△」と評価され、30以下のサンプルが「×」と評価されている。
【0085】
【0086】
表1に示すように、上述した式(1)~(4)のすべてが成立するサンプルでは、セラミックス焼結体3に熱サイクルがかかったとしても接合界面にクラックが生じることを抑制できたとともに、半導体装置用基板2全体としての熱抵抗率を低減させることができた。
【0087】
一方、式(1)を満たさないサンプルNo.2,5,12,15,22,25,32,35,42,45,52,55,62,65では、セラミックス焼結体3の機械的強度が十分でなかったため、接合界面にクラックが生じやすかった。また、式(2)の上限値を満たさないサンプルNo.10,20,30,40,50,60,70でも、セラミックス焼結体3の機械的強度が十分でなかったため、接合界面にクラックが生じやすかった。また、式(2)の下限値を満たさないサンプルNo.6,11,16,21,26,31,36,41,46,51,56,61,66,71では、熱伝導率の低いセラミックス焼結体3と熱伝導率の高い第1及び第2回路板4,4’との相対的な厚さが至適化されていないため、半導体装置用基板2全体としての熱抵抗率が高かった。
【0088】
また、サンプルNo.1とサンプルNo.8,18とを比較すると分かるように、上述した式(5)が成立するサンプルでは、セラミックス焼結体3と第1及び第2回路板4,4’との接合界面にクラックが生じることをより抑制することができた。
【0089】
更に、上述した式(6)が成立するサンプルでは、セラミックス焼結体3と第1及び第2回路板4,4’との接合界面にクラックが生じることを更に抑制することができた。なお、この効果は、ZrのZrO2換算での含有量を17.5質量%以上23.5質量%以下としたサンプルにおいて特に向上させることができた。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明によれば、半導体装置用基板における熱抵抗率の低減とクラックの抑制とを両立させることができるため、本発明に係る半導体装置用基板は、種々の電子機器において利用することができる。
【符号の説明】
【0091】
1…半導体装置
2…半導体装置用基板
3…セラミックス焼結体
4,4’…回路板
6…半導体チップ
7…ボンディングワイヤ
8…ヒートシンク
9…放熱部