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特許7176191金属部材-ポリフェニレンスルフィド樹脂部材複合体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-14
(45)【発行日】2022-11-22
(54)【発明の名称】金属部材-ポリフェニレンスルフィド樹脂部材複合体
(51)【国際特許分類】
   B29C 45/14 20060101AFI20221115BHJP
   B29C 45/26 20060101ALI20221115BHJP
   C23F 1/00 20060101ALI20221115BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20221115BHJP
【FI】
B29C45/14
B29C45/26
C23F1/00 D
B32B27/00 A
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018018741
(22)【出願日】2018-02-06
(65)【公開番号】P2019136863
(43)【公開日】2019-08-22
【審査請求日】2021-01-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】山野 直樹
【審査官】吉田 早希
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-292034(JP,A)
【文献】特開2010-173298(JP,A)
【文献】特開2015-016682(JP,A)
【文献】特開2016-074092(JP,A)
【文献】特開2016-215654(JP,A)
【文献】特開2015-183101(JP,A)
【文献】特開昭56-123375(JP,A)
【文献】特開2014-133407(JP,A)
【文献】特開2005-119237(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC B29C 45/00 - 45/84
B29C 33/00 - 33/76
C23F 1/00 - 4/04
B32B 1/00 - 43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも下記(1)~(3)の工程を経ることを特徴とする金属部材-ポリフェニレンスルフィド樹脂部材射出接合複合体の製造方法。
(1)シボ、印字、パターンからなるいずれかの修飾部を有する金属部材表面の少なくとも該修飾部をペースト塩ビゾルで覆い、その後、該金属部材を加熱ゲル化し、ペースト塩ビゲルを保護層として形成する工程。
(2)保護層を形成した金属部材を化学処理し、その後、保護層を除去し、部分的に表面化学処理された金属部材とする工程。
(3)部分的に表面化学処理された金属部材を射出成形金型内に装着し、射出成形によりポリフェニレンスルフィド樹脂100重量部に対し、エチレン-α、β-不飽和カルボン酸アルキルエステル-無水マレイン酸共重合体,エチレン-α、β-不飽和カルボン酸グリシジルエステル共重合体,エチレン-α、β-不飽和カルボン酸グリシジルエステル-酢酸ビニル共重合体,エチレン-α、β-不飽和カルボン酸グリシジルエステル-α、β-不飽和カルボン酸アルキルエステル共重合体及び無水マレイン酸グラフト変性エチレン-α-オレフィン共重合体からなる群より選択される少なくとも1種以上の変性エチレン系共重合体1~40重量部を含んでなる溶融ポリフェニレンスルフィド樹脂と一体化し、金属部材-ポリフェニレンスルフィド樹脂部材射出接合複合体とする工程。
【請求項2】
溶融ポリフェニレンスルフィド樹脂が、さらにガラス繊維を含むものであることを特徴とする請求項1に記載の金属部材-ポリフェニレンスルフィド樹脂部材射出接合複合体の製造方法
【請求項3】
金属部材が、アルミニウム製部材、アルミニウム合金製部材、銅製部材、銅合金製部材、マグネシウム製部材、マグネシウム合金製部材、鉄製部材、チタン製部材、チタン合金製部材、ステンレス製部材からなる群より選択される少なくとも1種以上の金属部材であることを特徴とする請求項1又は2に記載の金属部材-ポリフェニレンスルフィド樹脂部材射出接合複合体の製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属部材-ポリフェニレンスルフィド樹脂部材射出接合複合体及びその製造方法に関するものであり、さらに詳しくは、モバイル用の各種電子機器用、家電製品用、自動車部品用等の各種用途用として、機能性、意匠性、修飾性に優れる表面修飾のなされた金属部材とポリフェニレンスルフィド樹脂部材を一体化した射出接合複合体及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車や航空機などの輸送機器の部品を軽量化するため、金属の一部を樹脂に置き換えた複合体が検討されている。金属と樹脂との複合体として、金型内に物理的処理及び/又は化学処理を施した表面を有する金属部材をインサートし、樹脂を射出成形して直接一体化した複合体(以下、射出インサート成形と表記する場合がある)が、良量産性、少部品点数、低コスト、高設計自由度、低環境負荷の観点から注目されており、自動車部品やスマートフォン等の携帯電子機器に提案されている(例えば、特許文献1~4参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第5701414号公報
【文献】特許第4020957号公報
【文献】特許第5714193号公報
【文献】特許第WO2016/158516号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1、2に提案された、レーザーによって物理的処理を施した射出インサート成形法により得られる金属部材-ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物部材複合体においては、物理的処理を施す金属部材の形状に制限があり、単純な形状であることが必要となっている。これは、汎用、つまり、多種多様の形状への適応性を必要とする用途の拡大・展開をはかるうえで大きな制約となっている。
【0005】
一方、特許文献3、4に提案された化学処理を施した射出インサート成形法により得られる金属部材-ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物部材複合体においては、金属部材を化学処理液等に浸漬することより金属部材表面に化学処理を施すことが可能であり、金属部材の形状的制約のないものであった。
【0006】
しかし、金属部材を化学処理する際には金属部材を化学処理液等に浸漬することより化学処理を行うことが一般的であるため、金属部材表面の全面に化学処理がなされる。その際には、めっき、印字、パターンあるいは各種部品などが予め設けられた金属部材は、化学処理液の影響により、機能性、意匠性、修飾性などの発現が期待という課題があった。
【0007】
そこで、本発明は、化学処理液等の影響を受けることなく、機能性、意匠性、修飾性に優れる金属部材表面を有する金属部材-ポリフェニレンスルフィド樹脂部材射出接合複合体及びその製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記の課題を解決すべく鋭意検討した結果、特定の工程を経た部分化学処理金属部材とし、それよりなる金属部材-ポリフェニレンスルフィド樹脂部材射出接合複合体とすることにより、軽量性及び量産性に優れると共に、機能性、意匠性、修飾性にも優れる部材、部品、製品等を提供することが可能となる金属部材-ポリフェニレンスルフィド樹脂部材射出接合複合体となることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、金属部材とポリフェニレンスルフィド樹脂部材との金属部材-ポリフェニレンスルフィド樹脂部材の射出接合複合体であって、該金属部材が、接合部以外の一部又は全部の表面に修飾がなされている金属部材であることを特徴とする金属部材-ポリフェニレンスルフィド樹脂部材射出接合複合体及びその製造方法に関するものである。
【0010】
以下に、本発明を詳細に説明する。
【0011】
本発明の金属部材-ポリフェニレンスルフィド樹脂部材射出接合複合体は、接合部以外の金属部材表面の一部又は全部に修飾のされているものであり、該修飾により機能性、意匠性、修飾性に優れるものとなるものである。そして、該修飾とは、例えばめっき、シボ、印字、パターン、着色、ブラスト等を挙げるができ、これらにより、意匠性、修飾性を付与することは無論のこと、金属部材に各種部品を設け機能性を付与することをも含む概念である。
【0012】
そして、本発明の金属部材-ポリフェニレンスルフィド樹脂部材射出接合複合体とする際には、より効率的に複合体を得ることが可能となることから、表面が部分的に化学処理された金属部材であることが好ましく、特に接合部の表面が化学処理された金属部材であることが好ましい。このような、表面の部分的な化学処理を施すことにより、シボ、めっき、印字、パターン着色、ブラストを施した金属部材、各種部品が予め設けられた金属部材等であっても化学処理の影響のない複合体とすることが可能となる。また、該部分的な化学処理とは、例えば該金属部材の全表面積あたり面積パーセントで1%以上の化学処理を挙げることができ、めっき、印字、パターン、着色、ブラスト又は各種部品が予め設けられた金属部材など化学処理を施したくない部位が複数存在する金属部材であってもよい。また、金属部材-ポリフェニレンスルフィド樹脂部材射出接合複合体の接合面は、より接合強度に優れた複合体となる事から化学処理されたものであることが好ましい。
【0013】
そして、部分的な化学処理としては、例えば、金属部材に例えばめっき、シボ、印字、パターン、着色、ブラストを施した表面又は金属部材に各種部品を設けた表面に保護層を設け、化学処理を施すことにより行うことが可能であり、その際の保護層としては、化学処理の際の処理液に影響されないものであればよく、中でも、処理液に影響を受けず、金属部材表面への影響もなく、その取り扱い性にも優れることから、ペースト塩ビによる保護であることが好ましい。ペースト塩ビによる保護としては、金属部材の保護面をペースト塩ビゾルで覆い、その後、該金属部材を加熱ゲル化し、ペースト塩ビゲルを保護層として形成した金属部材とし、次いで、該ペースト塩ビゲルの保護層を有する金属部材を化学処理した後、該ペースト塩ビゲルを除去することにより表面が部分的に化学処理された金属部材とする方法が挙げられる。そして、該表面が部分的に化学処理された金属部材とポリフェニレンスルフィド樹脂部材とを射出成形により一体化した複合体とすることにより、金属部材-ポリフェニレンスルフィド樹脂部材射出接合複合体とすることができる。
【0014】
ここで、ペースト塩ビとは、ペースト加工用の塩化ビニル系樹脂であり、ペースト加工用塩化ビニル系樹脂は、ジエチルヘキシルフタレートに代表される可塑剤、炭カルに代表される充填剤、熱安定剤等と共に混練することにより、液状のペースト塩ビゾルとなり、該ペースト塩ビゾルは該可塑剤量により、該ペースト塩ビゾルの粘度を調整する事が可能であることから、複雑な形状を有する金属部材であっても保護層として表面を覆う事が可能となる。該ペースト塩ビゾルで該金属部材を部分的に覆う方法としては、該金属部材の一部を該ペースト塩ビゾルに浸漬する方法、該ペースト塩ゾルを刷毛やへら等で該金属部材の保護部位へ塗布する方法、スポイト等で該金属部材の保護部位へ滴下する方法などが挙げられる。
【0015】
そして、該金属部材としては、金属部材の範疇に属するものであればいかなる材質よりなる部材でもよく、その中でもポリフェニレンスルフィド樹脂部材複合体とした際に各種用途への適応が可能となることから、アルミニウム製部材、アルミニウム合金製部材、銅製部材、銅合金製部材、マグネシウム製部材、マグネシウム合金製部材、鉄製部材、チタン製部材、チタン合金製部材、ステンレス製部材である金属部材が好ましく、とりわけ、アルミニウム製部材、アルミニウム合金製部材、銅製部材、銅合金製部材、チタン製部材、チタン合金製部材、ステンレス製部材である金属部材が好ましい。また、該金属部材は、板に代表される展伸材であっても、ダイカストに代表される鋳造材であっても、鍛造材からなる金属部材であってもかまわない。該アルミニウム製部材またはアルミニウム合金製部材を構成するアルミニウムまたはアルミニウム合金の具体的例示としては、A1050、A1100、A2017、A3003、A4043、A5052、A6063、A7052、ADC12、AC4Bなどが挙げられ、銅製部材または銅合金製部材を構成する銅または銅合金の具体的例示としては、C1020、C1100、C5191、C2801、C2700などが挙げられ、チタン製部材またはチタン合金製部材を構成するチタンまたはチタン合金の具体的例示としては、TP270、TP340、TP480、TP550、TF270などが挙げられ、ステンレス製部材を構成するステンレスの具体的例示としては、SUS304、SUS316、SUS430、SUS403、SUS410、SUS329などが挙げられる。そして、該金属部材は、例えばめっき、印字、パターン、着色、ブラスト又は各種部品の設置等により表面が修飾された金属部材である。
【0016】
該金属部材の表面の(部分的)化学処理としては、例えば酸及び/又はアルカリの水溶液で化学処理する方法、陽極酸化処理法等を挙げることができ、酸及び/又はアルカリの水溶液で化学処理する方法が好ましい。そして、酸及び/又はアルカリの水溶液で化学処理する方法としては、例えば金属部材を酸及び/又はアルカリの水溶液に浸せきし金属部材表面を化学処理する方法であってもよく、その際の酸及び/又はアルカリの水溶液としては、例えばリン酸等のリン酸系化合物;クロム酸等のクロム酸系化合物;フッ化水素酸等のフッ化水素酸系化合物;硝酸等の硝酸系化合物;塩酸等の塩酸系化合物;硫酸等の硫酸系化合物;水酸化ナトリウム、アンモニア水溶液、N-エチルモルホリン溶液などのアルカリ水溶液;トリアジンチオール水溶液、トリアジンチオール誘導体水溶液により化学処理する方法、25℃ における水素イオン濃度指数(pH)が9.0以上11.0以下の範囲にあり、かつ、分子内に窒素原子を有する化合物により化学処理する方法等を挙げることができ、より具体的例示としては、特開平10-096088号公報、特開平10-056263号公報、特開平04-032585号公報、特開平04-032583号公報、特開平02-298284号公報、WO2009/151099号公報、WO2011/104944号公報、WO2016/158516号公報、特開2017-218616号公報等に提案の方法、等を挙げることができる。
【0017】
また、陽極酸化処理法としては、例えば金属部材を陽極として電解液中で電化反応を行いその表面に酸化被膜を形成する方法であってもよい。より具体的には、例えば1)一定の直流電圧をかけて電解を行う直流電解法、2)直流成分に交流成分を重畳した電圧をかけることにより電解を行うバイポーラ電解法、等を挙げることができる。陽極酸化法の具体的例示としては、WO2004/055248号公報等に提案の方法等を挙げることができる。
【0018】
該化学処理は、複数の化学処理を併用、例えば、金属部材を酸又はアルカリの水溶液に浸漬した後に酸又はアルカリの水溶液に浸漬してもよく、また、本発明を損なわない限り物理的処理を併用して処理しても良く、例えば、表面に物理的処理を施した後に表面が部分的に化学処理を施した金属部材を用いて金属部材-ポリフェニレンスルフィド樹脂部材複合体としたものであっても良い。
【0019】
本発明の金属部材-ポリフェニレンスルフィド樹脂部材射出接合複合体を構成するポリフェニレンスルフィド樹脂部材としては、ポリフェニレンスルフィド樹脂の範疇に属する樹脂を含む射出成形部材であればよく組成物よりなるものであってもよい。一般にポリフェニレンスルフィド樹脂と称される範疇に属するものとしては、例えばp-フェニレンスルフィド単位、m-フェニレンスルフィド単位、o-フェニレンスルフィド単位、フェニレンスルフィドスルフォン単位、フェニレンスルフィドケトン単位、フェニレンスルフィドエーテル単位、ビフェニレンスルフィド単位からなる単独重合体又は共重合体を挙げることができ、該ポリフェニレンスルフィド樹脂の具体的例示としては、ポリ(p-フェニレンスルフィド)、ポリフェニレンスルフィドスルフォン、ポリフェニレンスルフィドケトン、ポリフェニレンスルフィドエーテル等が挙げられ、その中でも、特に耐熱性、強度特性に優れるポリフェニレンスルフィド樹脂となることから、ポリ(p-フェニレンスルフィド)であることが好ましい。
【0020】
さらに、該ポリフェニレンスルフィド樹脂は、直径1mm、長さ2mmのダイスを装着した高化式フローテスターにて、測定温度315℃、荷重10kgの条件下で測定した溶融粘度において、機械的強度と薄肉流動性に優れるポリフェニレンスルフィド樹脂が得られることから50~2000ポイズのポリフェニレンスルフィド樹脂であることが好ましい。
【0021】
該ポリフェニレンスルフィド樹脂の製造方法としては、ポリフェニレンスルフィド樹脂の製造方法として知られている方法により製造することが可能であり、例えば極性溶媒中で硫化アルカリ金属塩、ポリハロ芳香族化合物を重合することにより得る事が可能である。その際の極性有機溶媒としては、例えばN-メチル-2-ピロリドン、N-エチル-2-ピロリドン、シクロヘキシルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等を挙げる事ができ、硫化アルカリ金属塩としては、例えば硫化ナトリウム、硫化ルビジウム、硫化リチウムの無水物又は水和物を挙げる事ができる。また、硫化アルカリ金属塩としては、水硫化アルカリ金属塩とアルカリ金属水酸化物を反応させたものであってもよい。ポリハロ芳香族化合物としては、例えばp-ジクロロベンゼン、p-ジブロモベンゼン、p-ジヨードベンゼン、m-ジクロロベンゼン、m-ジブロモベンゼン、m-ジヨードベンゼン、4,4’-ジクロロジフェニルスルホン、4,4’-ジクロロベンゾフェノン、4,4’-ジクロロジフェニルエーテル、4,4’-ジクロロジビフェニル等を挙げる事ができる。
【0022】
また、ポリフェニレンスルフィド樹脂としては、直鎖状のもの、重合時にトリハロゲン以上のポリハロゲン化合物を少量添加して若干の架橋又は分岐構造を導入したもの、ポリフェニレンスルフィド樹脂の分子鎖の一部及び/又は末端を例えばカルボキシル基、カルボキシ金属塩、アルキル基、アルコキシ基、アミノ基、ニトロ基等の官能基により変性したもの、窒素などの非酸化性の不活性ガス中で加熱処理を施したものなどが挙げられ、さらにこれらポリフェニレンスルフィド樹脂の混合物であってもかまわない。また、該ポリフェニレンスルフィド樹脂は、酸洗浄、熱水洗浄あるいはアセトン、メチルアルコールなどの有機溶媒による洗浄処理を行うことによってナトリウム原子、ポリフェニレンスルフィド樹脂のオリゴマー、食塩、4-(N-メチル-クロロフェニルアミノ)ブタノエートのナトリウム塩などの不純物を低減させたものであってもよい。
【0023】
本発明の金属部材-ポリフェニレンスルフィド樹脂部材射出接合複合体を構成するポリフェニレンスルフィド樹脂は特に耐衝撃性、接合強度に優れた金属部材-ポリフェニレンスルフィド樹脂部材射出接合複合体となることから、さらに、変性エチレン系共重合体を配合してなるものが好ましい。該変性エチレン系共重合体は、エチレン-α、β-不飽和カルボン酸アルキルエステル-無水マレイン酸共重合体,エチレン-α、β-不飽和カルボン酸グリシジルエステル共重合体,エチレン-α、β-不飽和カルボン酸グリシジルエステル-酢酸ビニル共重合体,エチレン-α、β-不飽和カルボン酸グリシジルエステル-α、β-不飽和カルボン酸アルキルエステル共重合体及び無水マレイン酸グラフト変性エチレン-α-オレフィン共重合体からなる群より選択される少なくとも1種以上の変性エチレン系共重合体であることが好ましい。該エチレン-α、β-不飽和カルボン酸アルキルエステル-無水マレイン酸共重合体の具体的例示としては、(商品名)ボンダインLX4110(アルケマ(株)製)、(商品名)ボンダインTX8030(アルケマ(株)製)、(商品名)ボンダインAX8390(アルケマ(株)製)等が挙げられ、該エチレン-α、β-不飽和カルボン酸グリシジルエステル共重合体の具体的例示としては、(商品名)ボンドファースト2C(住友化学(株)製)、(商品名)ボンドファーストE(住友化学(株)製)等、該エチレン-α、β-不飽和カルボン酸グリシジルエステル-酢酸ビニル共重合体の具体的例示としては、(商品名)ボンドファースト2B(住友化学(株)製)、(商品名)ボンドファースト7B(住友化学(株)製)等、該エチレン-α、β-不飽和カルボン酸グリシジルエステル-α、β-不飽和カルボン酸アルキルエステル共重合体の具体的例示としては、(商品名)ボンドファースト7L(住友化学(株)製)、(商品名)ボンドファースト7M(住友化学(株)製)等が挙げられ、該無水マレイン酸グラフト変性エチレン-α-オレフィン共重合体は、具体的には、無水マレイン酸グラフト変性直鎖状低密度ポリエチレン、無水マレイン酸グラフト変性エチレン-プロピレンゴム、炭素数が3以上のα-オレフィンからなる無水マレイン酸グラフト変性エチレン-α-オレフィン共重合体等が挙げられる。該変性エチレン系共重合体の配合量としては、ポリフェニレンスルフィド樹脂100重量部に対して、1~40重量部であることが好ましい。
【0024】
該ポリフェニレンスルフィド樹脂部材としては、特に強度、耐衝撃性に優れた金属部材-ポリアリーレンスルフィド樹脂部材複合体となることから、ガラス繊維を配合してなるものであってもよい。該ガラス繊維としては、一般にガラス繊維と称すものであれば如何なるものを用いてもよい。該ガラス繊維の具体的例示としては、平均繊維径が6~14μmのチョップドストランド、繊維断面のアスペクト比が2~4の扁平ガラス繊維からなるチョップドストランド、ミルドファイバー、ロービング等のガラス繊維;シラン繊維;アルミノ珪酸塩ガラス繊維;中空ガラス繊維;ノンホーローガラス繊維等が挙げられ、その中でもとりわけ耐衝撃性に優れる金属部材-ポリアリーレンスルフィド樹脂部材射出接合複合体となることから、平均繊維径が6~14μmのチョップドストランド、ないしは、繊維断面のアスペクト比が2~4である扁平ガラス繊維からなるチョップドストランドを用いたものであってもよい。これらのガラス繊維は2種以上を併用することも可能であり、必要によりエポキシ系化合物、イソシアネート系化合物、シラン系化合物、チタネート系化合物等の官能性化合物又はポリマーで、予め表面処理したものを用いてもよい。
【0025】
該ポリフェニレンスルフィド樹脂部材としては、本発明の効果を損なわない範囲で、炭素繊維、炭酸カルシウム、炭酸リチウム、炭酸マグネシウム、炭酸亜鉛、マイカ、シリカ、タルク、クレイ、硫酸カルシウム、カオリン、ワラステナイト、ゼオライト、酸化珪素、酸化マグネシウム、酸化ジルコニウム、酸化スズ、珪酸マグネシウム、珪酸カルシウム、リン酸カルシウム、リン酸マグネシウム、ハイドロタルサイト、ガラスパウダー、ガラスバルーン、ガラスフレークなどの充填材が添加されたものであっても構わない。
【0026】
また、ポリフェニレンスルフィド樹脂部材は、本発明の効果を損なわない範囲で、酸化防止剤、熱安定剤、滑剤、紫外線防止剤、難燃剤、発泡剤、顔料、染料、カーボンブラックなどの通常の添加剤を1種以上含むものであってもよい。
【0027】
本発明の金属部材-ポリフェニレンスルフィド樹脂部材射出接合複合体の製造方法として、一例示を以下に示す。その際の保護層としてペースト塩ビを使用したものとした。
【0028】
本発明の金属部材-ポリフェニレンスルフィド樹脂部材射出接合複合体は、例えば下記(1)~(3)の工程を経る製造方法により製造することができる。
(1)金属部材の一部に保護層を形成する工程。
(2)保護層を形成した金属部材を化学処理し、その後、保護層を除去し、部分的に表面化学処理された金属部材とする工程。
(3)部分的に表面化学処理された金属部材を射出成形金型内に装着し、射出成形により溶融ポリフェニレンスルフィド樹脂と一体化し、金属部材-ポリフェニレンスルフィド樹脂部材射出接合複合体とする工程。
【0029】
そして、金属部材の表面に修飾を行う際には、(1)工程の前に金属部材を修飾する工程を追加すればよく、その際には、金属部材の表面に例えばめっき、印字、パターン、着色、ブラスト等を施す又は各種部品の設置等を行う、ことにより調製することが可能である。
【0030】
(1)工程は、(表面に修飾のなされた)金属部材の一部に修飾保護の保護層を形成する工程であり、その際の保護層としては、化学処理液より修飾部分の保護が可能であれば如何なるものであってもよく、好ましい態様としてペースト塩ビを挙げることができる。そして、例えば保護層としてペースト塩ビゲルを形成する際には、金属部材の修飾部分である化学処理を施したくない部分をペースト塩ビゾルで覆い、その後、該金属部材を加熱ゲル化し、ペースト塩ビゲルを保護層として形成する工程を挙げることができる。
【0031】
(2)工程は、部分的に保護層を形成した金属部材を化学処理し、その後、保護層を除去し、部分的に表面を化学処理した金属部材とする工程であり、部分的に保護層を形成することにより、化学処理の影響を受けない修飾表面を維持すると共に、ポリフェニレンスルフィド樹脂との接合性に優れる化学処理表面を形成する工程である。その際に、保護層がペースト塩ビゲルである場合、ペースト塩ビゲルは化学処理液に対する耐性が高い、また、除去の際には容易に除去することが可能であり修飾面の維持・保護に適したものとなる。
【0032】
(3)工程は、部分的に表面化学処理された金属部材を射出成形金型内に装着し、射出成形により溶融ポリフェニレンスルフィド樹脂と直接一体化し、表面が部分的に化学処理された金属部材とポリフェニレンスルフィド樹脂部材との射出接合複合体とする工程である。その際の射出成形法としては、例えば射出インサート成形法を挙げることができる。そして、該射出インサート成形法としては、例えば金型内に表面が部分的に化学処理された金属部材を装着し、該金属部材に溶融ポリフェニレンスルフィド樹脂を充填し、ポリフェニレンスルフィド樹脂部材とし、該金属部材とポリフェニレンスルフィド樹脂部材とが直接一体化された複合体とする方法を挙げることができる。この際のインサート成形を行う際の成形機としては、とりわけ生産性に優れることから射出成形機を用いて射出インサート成形を行うことが好ましい。またとりわけ、接合強度に優れた金属部材-ポリフェニレンスルフィド樹脂部材複合体となることから、保圧は1MPa以上であることが好ましい。
【0033】
本発明の金属部材-ポリフェニレンスルフィド樹脂部材射出接合複合体は、シボ、めっき、印字、パターン、着色、各種部品などの設置等の修飾に悪影響を与えることなく、接合強度、軽量性及び量産性に優れると共に、意匠性、機能性、修飾性等の特性を併せ持つものであり、特にこれら特性を必要とする自動車や航空機などの輸送機器の部品用途に好適に用いられる。
【発明の効果】
【0034】
本発明の金属部材-ポリフェニレンスルフィド樹脂部材射出接合複合体は、シボ、めっき、印字、パターン、着色、各種部品などの設置等の修飾された金属部材とポリフェニレンスルフィド樹脂部材を射出接合した複合体であり、接合強度、軽量性及び量産性に優れると共に、意匠性、機能性、修飾性等の特性を併せ持つ射出接合複合体及びその製造方法に関するものである。
【実施例
【0035】
以下に、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらによりなんら制限されるものではない。
【0036】
実施例及び比較例において用いた、ポリフェニレンスルフィド樹脂、変性エチレン系共重合体、ガラス繊維を以下に示す。
【0037】
<ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)>
ポリ(p-フェニレンスルフィド)(以下、PPS(A-1)と記す。):溶融粘度190ポイズ。
ポリ(p-フェニレンスルフィド)(以下、PPS(A-2)と記す。):溶融粘度400ポイズ。
ポリ(p-フェニレンスルフィド)(以下、PPS(A-3)と記す。):溶融粘度80ポイズ。
【0038】
<変性エチレン系共重合体(B)>
エチレン-α、β-不飽和カルボン酸アルキルエステル-無水マレイン酸共重合体(B-1)(以下、変性エチレン系共重合体(B-1)と記す。):アルケマ(株)製、(商品名)ボンダインAX8390。
エチレン-α、β-不飽和カルボン酸グリシジルエステル-α、β-不飽和カルボン酸アルキルエステル共重合体(B-2)(以下、変性エチレン系共重合体(B-2)と記す。):住友化学(株)製、(商品名)ボンドファースト7M。
エチレン-α、β-不飽和カルボン酸-グリシジルエステル共重合体(B-3)(以下、変性エチレン系共重合体(B-3)と記す。):住友化学(株)製、(商品名)ボンドファーストE。
【0039】
<ガラス繊維(C)>
ガラス繊維(C-1);オーウェンス コーニング ジャパン(株)製、(商品名)RES03-TP91;繊維径10μm、繊維長3mm
ガラス繊維(C-2);日東紡株式会社製チョップドストランド、(商品名)CSG-3PA 830、繊維断面のアスペクト比4。
【0040】
<合成例1(PPS(A-1)の合成)>
攪拌機を装備する15リットルオートクレーブに、フレーク状硫化ソーダ(NaS・2.9HO)1814g、30%苛性ソーダ溶液(30%NaOHaq)48g及びN-メチル-2-ピロリドン3679gを仕込み、窒素気流下攪拌しながら徐々に200℃まで昇温して、380gの水を留去した。190℃まで冷却した後、p-ジクロロベンゼン2107g、N-メチル-2-ピロリドン985gを添加し、窒素気流下に系を封入した。この系を2時間かけて225℃に昇温し、225℃にて1時間重合させた後、25分かけて250℃に昇温し、さらに250℃にて3時間重合を行った。重合後、減圧下で重合スラリーからN-メチル-2-ピロリドンを蒸留操作で回収した。最終到達温度は170℃で圧力は4.7kPaであった。得られたケーキに80℃の温水を加えスラリー濃度20%として洗浄し、再度、同様に温水を加え175℃まで昇温してポリ(p-フェニレンスルフィド)の洗浄を合計2回行った。得られたポリフェニレンスルフィドを105℃で一昼夜乾燥した。次いで、乾燥したポリフェニレンスルフィドをバッチ式ロータリーキルン型焼成装置に充填し、窒素雰囲気下で240℃まで昇温し、1時間の保持による硬化処理を行うことによって、溶融粘度が190ポイズのPPS(A-1)を得た。
【0041】
<合成例2(PPS(A-2)の合成)>
攪拌機を装備する15リットルオートクレーブに、フレーク状硫化ソーダ(NaS・2.9HO)1814g、粒状の苛性ソーダ(100%NaOH:和光純薬特級)8.7g及びN-メチル-2-ピロリドン3232gを仕込み、窒素気流下攪拌しながら徐々に200℃まで昇温して、340gの水を留去した。190℃まで冷却した後、p-ジクロロベンゼン2107g、N-メチル-2-ピロリドン1783gを添加し、窒素気流下に系を封入した。この系を2時間かけて225℃に昇温し、225℃にて1時間重合させた後、25分かけて250℃に昇温し、250℃にて2時間重合を行った。次いで、この系に250℃で蒸留水509gを圧入し、255℃まで昇温してさらに1時間重合反応を行った。重合後、減圧下で重合スラリーからN-メチル-2-ピロリドンを蒸留操作で回収した。最終到達温度は170℃で圧力は4.7kPaであった。得られたケーキに80℃の温水を加えスラリー濃度20%として洗浄し、再度、同様に温水を加え175℃まで昇温してポリ(p-フェニレンスルフィド)の洗浄を合計2回行った。得られたポリ(p-フェニレンスルフィド)を105℃で一昼夜乾燥することによって、溶融粘度が400ポイズのPPS(A-2)を得た。
【0042】
<合成例3(PPS(A-3)の合成)>
攪拌機を装備する15リットルオートクレーブに、フレーク状硫化ソーダ(NaS・2.9HO)1814g、粒状の苛性ソーダ(100%NaOH:和光純薬特級)8.7g及びN-メチル-2-ピロリドン3232gを仕込み、窒素気流下攪拌しながら徐々に200℃まで昇温して、339gの水を留去した。190℃まで冷却した後、p-ジクロロベンゼン2085g、N-メチル-2-ピロリドン1783gを添加し、窒素気流下に系を封入した。この系を2時間かけて225℃に昇温し、225℃にて1時間重合させた後、25分かけて250℃に昇温し、250℃にて2時間重合を行った。重合後、減圧下で重合スラリーからN-メチル-2-ピロリドンを蒸留操作で回収した。最終到達温度は170℃で圧力は4.7kPaであった。得られたケーキに80℃の温水を加えスラリー濃度20%として洗浄し、再度、同様に温水を加え175℃まで昇温してポリ(p-フェニレンスルフィド)を洗浄した。得られたポリ(p-フェニレンスルフィド)を105℃で一昼夜乾燥することによって、溶融粘度が80ポイズのPPS(A-3)を得た。
【0043】
<調整例1(ペースト塩ビゾル(1)の作製)>
ペースト塩ビ(東ソー製、(商品名)リューロンペーストK670)100重量部、フタル酸ビス(2-エチルヘキシル)50重量部(ジェイプラス製、工業用グレード)、バリウム亜鉛系安定剤3重量部(ADEKA製、(商品名)アデカスタブAC-285)を、ディゾルバーを用いて3分混練し、ペースト塩ビゾル(1)を得た。
【0044】
<調整例2(ペースト塩ビゾル(2)の作製)>
ペースト塩ビ(東ソー製、(商品名)リューロンペースト815A)100重量部、フタル酸ビス(2-エチルヘキシル)60重量部(ジェイプラス製、工業用グレード)、バリウム亜鉛系安定剤(ADEKA製、(商品名)アデカスタブAC-285)3重量部を、ディゾルバーを用いて3分混練し、ペースト塩ビゾル(2)を得た。
【0045】
得られたポリフェニレンスルフィド樹脂、金属部材-ポリフェニレンスルフィド樹脂部材複合体の評価・測定方法を以下に示す。
【0046】
~ポリアリーレンスルフィド樹脂の溶融粘度測定~
直径1mm、長さ2mmのダイスを装着した高化式フローテスター((株)島津製作所製、商品名CFT-500)にて、測定温度315℃、荷重10kgの条件下で溶融粘度の測定を行った。
【0047】
~金属接合強度の評価~
金属部材とポリフェニレンスルフィド樹脂部材との複合体の接合強度は、ISO19095に従い、接合面積が50mmの引張せん断接合強度により評価した。
【0048】
実施例1
アルミニウム合金(A5052)製試験片(40mm×18mm×1.5mm厚さ)の全表面にシボ加工を施した。該アルミニウム合金製試験片の長辺側の半分(20mm×18mm)を、調整例1で作製したペースト塩ビゾルに浸漬し、該アルミニウム合金製試験片全表面積に対し面積パーセントで50%覆ったアルミニウム合金製試験片を得、次いで、該試験片を200℃で硬化しペースト塩ビゲルが付着したアルミニウム合金製試験片を得た。次に、該試験片をアルミニウム合金用脱脂剤(メルテックス製、(商品名)NE-6)を用いた8重量%水溶液に浸漬することにより表面の洗浄を行った後、塩酸1重量%水溶液、次いで水酸化ナトリウム1重量%水溶液に浸漬した。次に、N-エチルモルホリン4重量%水溶液に10分間浸漬した後に、該ペースト塩ビゲルを除去することにより、アルミニウム合金全表面積に対し面積パーセントで50%化学処理したアルミニウム合金製試験片を得た。該アルミニウム合金製試験片の表面を実体顕微鏡(ニコン製、(商品名)SMZ)で観察したところ、ペースト塩ビで覆われていた部位は、シボ加工が初期状態を維持していることを確認した。
【0049】
合成例1で得られたPPS(A-1)100重量部、変性エチレン系共重合体(B-1)15重量部を、シリンダー温度300℃に加熱した二軸押出機(東芝機械製、(商品名)TEM-35-102B)のホッパーに投入した。一方、ガラス繊維(C-1)をPPS(A-1)100重量部に対して25重量部となるように該二軸押出機のサイドフィーダーのホッパーから投入し、溶融混練してペレット化したポリフェニレンスルフィド樹脂を作製した。
【0050】
得られた該面積パーセントで50%化学処理したアルミニウム合金(A5052)製試験片を、化学処理した部位が接合面となるように金型内にセットし、シリンダー温度300℃、金型温度140℃、保圧を50MPaに設定した射出成形機(住友重機械工業製、(商品名)SE75S)を用いて射出成形し、ISO19095に従い、接合面積が50mmのせん断接合強度評価用試験片で面積パーセントで50%化学処理したアルミニウム合金部材-ポリフェニレンスルフィド樹脂部材射出接合複合体を作製した。
【0051】
得られた面積パーセントで50%化学処理したアルミニウム合金部材-ポリフェニレンスルフィド樹脂部材射出接合複合体の接合強度は41MPaであった。
【0052】
実施例2
アルミニウム合金(A6063)製試験片(40mm×18mm×1.5mm厚さ)表面の10mm×10mm範囲内にレーザを用いて線径0.5mmの格子状パターンを施した。調整例2で作製したペースト塩ビゾルを、刷毛を用いて、該アルミニウム合金製試験片の格子状パターンを含む20mm×18mmの範囲に塗布し、該アルミニウム合金製試験片全表面積に対し面積パーセントで22%塗布したアルミニウム合金製試験片を得、次いで、該試験片を200℃で硬化しペースト塩ビゲルが付着したアルミニウム合金製試験片を得た。次に、該試験片をアルミニウム合金用脱脂剤(メルテックス製、(商品名)NE-6)を用いた8重量%水溶液に浸漬することにより表面の洗浄を行った後、塩酸1重量%水溶液、次いで水酸化ナトリウム1重量%水溶液に浸漬した後に、硝酸1重量%水溶液に浸漬した。次に、pH10の水酸化ナトリウム水溶液に10分間浸漬した後に、該ペースト塩ビゲルを除去することにより、アルミニウム合金全表面積に対し面積パーセントで22%化学処理したアルミニウム合金製試験片を得た。該アルミニウム合金製試験片の表面を観察したところ、ペースト塩ビで覆われていた部位は化学処理されておらず、格子状パターンを確認した。
【0053】
合成例2で得られたPPS(A-2)100重量部、変性エチレン系共重合体(B-2)5重量部を、シリンダー温度300℃に加熱した二軸押出機(東芝機械製、(商品名)TEM-35-102B)のホッパーに投入した。一方、ガラス繊維(B-1)をPPS(A-2)100重量部に対して45重量部となるように該二軸押出機のサイドフィーダーのホッパーから投入し、溶融混練してペレット化したポリフェニレンスルフィド樹脂を作製した。
【0054】
得られた該面積パーセントで22%化学処理したアルミニウム合金(A5052)製試験片を、化学処理した部位が接合面となるように金型内にセットし、シリンダー温度300℃、金型温度150℃、保圧を40MPaに設定した射出成形機(住友重機械工業製、(商品名)SE75S)を用いて射出成形し、ISO19095に従い、接合面積が50mmのせん断接合強度評価用試験片で面積パーセントで22%化学処理したアルミニウム合金部材-ポリフェニレンスルフィド樹脂部材射出接合複合体を作製した。
【0055】
得られた面積パーセントで22%化学処理したアルミニウム合金部材-ポリフェニレンスルフィド樹脂部材射出接合複合体の接合強度は38MPaであった。
【0056】
実施例3
アルミニウム(A1050)製試験片(40mm×18mm×1.5mm厚さ)にレーザを用いて3mm×3mm大きさの文字を印字した。該アルミニウム製試験片の印字部を含むφ10mmの範囲に、調整例1で作製したペースト塩ビゾルをスポイトを用いて滴下し、該アルミニウム製試験片全表面積に対し面積パーセントで5%覆ったアルミニウム製試験片を得、次いで、該試験片を200℃で硬化しペースト塩ビゲルが付着したアルミニウム製試験片を得た。次に、該試験片をアルミニウム合金用脱脂剤(メルテックス製、(商品名)NE-6)を用いた7.5重量%水溶液に浸漬することにより表面の洗浄を行った後、1重量%塩酸水溶液、次いで水酸化ナトリウム1重量%水溶液に浸漬した後に、硝酸1重量%水溶液に浸漬した。次に、アンモニア3重量%水溶液に10分間浸漬した後に、該ペースト塩ビゲルを除去することにより、アルミニウム全表面積に対し面積パーセントで5%化学処理したアルミニウム製試験片を得た。該アルミニウム合金製試験片表面のペースト塩ビで覆われていた文字は確認できた。
【0057】
合成例3で得られたPPS(A-3)100重量部、変性エチレン系共重合体(B-1)25重量部を、シリンダー温度300℃加熱した二軸押出機(東芝機械製、(商品名)TEM-35-102B)のホッパーに投入した。一方、ガラス繊維(B-2)をPPS(A-3)100重量部に対して100重量部となるように該二軸押出機のサイドフィーダーのホッパーから投入し、溶融混練してペレット化したポリフェニレンスルフィド樹脂を作製した。
【0058】
得られた該面積パーセントで5%化学処理したアルミニウム(A1050)製試験片を、化学処理した部位が接合面となるように金型内にセットし、シリンダー温度300℃、金型温度150℃、保圧を70MPaに設定した射出成形機(住友重機械工業製、(商品名)SE75S)を用いて射出成形し、ISO19095に従い、接合面積が50mmのせん断接合強度評価用試験片で面積パーセントで5%化学処理したアルミニウム部材-ポリフェニレンスルフィド樹脂部材射出接合複合体を作製した。
【0059】
得られた面積パーセントで5%化学処理したアルミニウム部材-ポリフェニレンスルフィド樹脂部材射出接合複合体の接合強度は35MPaであった。
【0060】
実施例4
ステンレス(SUS304)製試験片(40mm×18mm×1.5mm厚さ)の全表面にシボ加工を施した。該ステンレス製試験片の長辺側の40%(16mm×18mm)を、調整例1で作製したペースト塩ビゾルに浸漬し、該ステンレス製試験片全表面積に対し面積パーセントで40%覆ったステンレス製試験片を得、次いで、該試験片を200℃で硬化しペースト塩ビゲルが付着したステンレス製試験片を得た。次に、該試験片をアルミニウム合金用脱脂剤(メルテックス製、(商品名)NE-6)を用いた7.5重量%水溶液に浸漬することにより表面の洗浄を行った後、塩酸10重量%水溶液、次いで硫酸15重量%水溶液に10分間浸漬した後に、該ペースト塩ビゲルを除去することにより、ステンレス全表面積に対し面積パーセントで40%化学処理したステンレス製試験片を得た。該ステンレス製試験片の表面を実体顕微鏡(ニコン製、(商品名)SMZ)で観察したところ、ペースト塩ビで覆われていた部位は、シボ加工が初期状態を維持していることを確認した。
【0061】
合成例1で得られたPPS(A-1)100重量部、変性エチレン系共重合体(B-3)3重量部を、シリンダー温度300℃に加熱した二軸押出機(東芝機械製、(商品名)TEM-35-102B)のホッパーに投入した。一方、ガラス繊維(B-2)をPPS(A-1)100重量部に対して15重量部となるように該二軸押出機のサイドフィーダーのホッパーから投入し、溶融混練してペレット化したポリフェニレンスルフィド樹脂を作製した。
【0062】
得られた該面積パーセントで40%化学処理したステンレス(SUS304)製試験片を、化学処理した部位が接合面となるように金型内にセットし、シリンダー温度300℃、金型温度150℃、保圧を50MPaに設定した射出成形機(住友重機械工業製、(商品名)SE75S)を用いて射出成形し、ISO19095に従い、接合面積が50mmのせん断接合強度評価用試験片で面積パーセントで40%化学処理したステンレス部材-ポリフェニレンスルフィド樹脂部材射出接合複合体を作製した。
【0063】
得られた面積パーセントで40%化学処理したステンレス部材-ポリフェニレンスルフィド樹脂部材射出接合複合体の接合強度は33MPaであった。
【0064】
実施例5
銅(C1100)製試験片(40mm×18mm×1.5mm厚さ)にレーザを用いて3mm×3mm大きさの文字を印字した。該銅製試験片の印字部を含むφ10mmの範囲に、調整例1で作製したペースト塩ビゾルをスポイトを用いて滴下し、該アルミニウム製試験片全表面積に対し面積パーセントで5%覆った銅製試験片を得、次いで、該試験片を200℃で硬化しペースト塩ビゲルが付着した銅製試験片を得た。次に、該試験片を硫酸1重量%、過酸化水素1重量%およびドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム3重量%を含む水溶液に浸漬することにより表面の洗浄を行った後、硫酸10重量%および過酸化水素10重量%水溶液、次いで水酸化ナトリウム5重量%および次亜塩素酸ナトリウム5%を含む水溶液に10分間浸漬した後に、該ペースト塩ビゲルを除去することにより、銅全表面積に対し面積パーセントで5%化学処理した銅製試験片を得た。該銅製試験片表面のペースト塩ビで覆われていた文字は確認できた。
【0065】
合成例2で得られたPPS(A-2)100重量部、変性エチレン系共重合体(B-2)20重量部を、シリンダー温度300℃に加熱した二軸押出機(東芝機械製、(商品名)TEM-35-102B)のホッパーに投入した。一方、ガラス繊維(B-2)をPPS(A-2)100重量部に対して50重量部となるように該二軸押出機のサイドフィーダーのホッパーから投入し、溶融混練してペレット化したポリフェニレンスルフィド樹脂を作製した。
【0066】
得られた該面積パーセントで5%化学処理した銅(C1100)製試験片を、化学処理した部位が接合面となるように金型内にセットし、シリンダー温度300℃、金型温度150℃、保圧を80MPaに設定した射出成形機(住友重機械工業製、(商品名)SE75S)を用いて射出成形し、ISO19095に従い、接合面積が50mmのせん断接合強度評価用試験片で面積パーセントで5%化学処理した銅部材-ポリフェニレンスルフィド樹脂部材射出接合複合体を作製した。
【0067】
得られた面積パーセントで5%化学処理した銅部材-ポリフェニレンスルフィド樹脂部材射出接合複合体の接合強度は31MPaであった。
【0068】
比較例1
実施例1のアルミニウム合金(A5052)製試験片のペースト塩ビ塩ビルで覆わずにアルミニウム合金全表面積に対し面積パーセントで100%化学処理したアルミニウム合金製試験片を得た以外は、実施例1と同様の方法により複合体を製造した。
【0069】
アルミニウム合金表面のシボ加工は初期状態を維持しておらず、複合体としての商品性に劣るものとなった。
【0070】
比較例2
実施例2のアルミニウム合金(A6063)製試験片のペースト塩ビ塩ビルで覆わずにアルミニウム合金全表面積に対し面積パーセントで100%化学処理したアルミニウム合金製試験片を得た以外は、実施例1と同様の方法により複合体を製造した。
【0071】
アルミニウム合金表面の格子状パターンは消失し、複合体としての商品性に劣るものとなった。
【0072】
比較例3
実施例3のアルミニウム合金(A1050)製試験片のペースト塩ビ塩ビルで覆わずにアルミニウム合金全表面積に対し面積パーセントで100%化学処理したアルミニウム合金製試験片を得た以外は、実施例1と同様の方法により複合体を製造した。
【0073】
アルミニウム合金表面の文字は消失し、複合体としての商品性に劣るものとなった。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明の金属部材-ポリフェニレンスルフィド樹脂部材射出接合複合体は、シボ、めっき、印字、パターン、着色、各種部品などの設置等の修飾された金属部材とポリフェニレンスルフィド樹脂部材を射出接合した複合体であり、接合強度、軽量性及び量産性に優れると共に、意匠性、機能性、修飾性等の特性を併せ持つことから、特に自動車や航空機などの輸送機器の複合体に有用なものである。