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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-14
(45)【発行日】2022-11-22
(54)【発明の名称】ロータの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 45/68 20060101AFI20221115BHJP
   B29C 45/64 20060101ALI20221115BHJP
   B29C 33/24 20060101ALI20221115BHJP
   H02K 1/27 20220101ALI20221115BHJP
   H02K 15/03 20060101ALI20221115BHJP
【FI】
B29C45/68
B29C45/64
B29C33/24
H02K1/27
H02K15/03
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2018057339
(22)【出願日】2018-03-26
(65)【公開番号】P2019166752
(43)【公開日】2019-10-03
【審査請求日】2021-01-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000116655
【氏名又は名称】愛知製鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100113664
【弁理士】
【氏名又は名称】森岡 正往
(74)【代理人】
【識別番号】110001324
【氏名又は名称】特許業務法人SANSUI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤巻 匡
(72)【発明者】
【氏名】平 勝巳
【審査官】吉田 早希
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-084776(JP,A)
【文献】実開昭49-030563(JP,U)
【文献】特開平05-169497(JP,A)
【文献】特開2017-170756(JP,A)
【文献】特開昭61-263721(JP,A)
【文献】特開2017-034765(JP,A)
【文献】特開平07-125007(JP,A)
【文献】特開2000-061987(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC B29C 45/00 - 45/84
B29C 33/00 - 33/76
H02K 1/27 - 1/2798
H02K 15/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定型と、可動型と、該固定型側に対して該可動型を進退させるトグル式の型締めユニットと、溶融樹脂中に磁石粒子が混在した溶融混合物を該固定型側から射出する射出ユニットと、該型締めユニットを作動させて固定型と可動型が近接または当接する型閉じ時に、電磁鋼板を積層してなる積層体の一端面による該固定型の分割面への圧接力の上限値を規制する圧接力調整ユニットとを備える射出成形機を用いて、
該積層体を該可動型のキャビティ部に嵌挿し、該固定型の分割面に圧接させた該積層体の一端面側から該積層体の側面部または中空部へ該溶融混合物を射出してボンド磁石を成形してなるロータを得る製造方法であり、
該積層体の一端面と該固定型の分割面とが当接する時期を、型閉じする時期に先行させるロータの製造方法。
【請求項2】
前記圧接力調整ユニットは、前記圧接力を発生する油圧シリンダーと、
該油圧シリンダーに作用する油圧の上限値を規制するリリーフ弁と、
を備える請求項1に記載のロータの製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボンド磁石を成形してロータ(電動機の回転子)等を製造するために用いられる射出成形機に関する。
【背景技術】
【0002】
電動機(発電機を含めて単に「モータ」という。)には種々のタイプがある。最近ではインバータ制御の発達と高性能な希土類磁石の普及に伴い、省電力で高効率な同期機が多用されている。同期機(Synchronous Motor)は、回転子(ロータ)に永久磁石を、固定子(ステータ)に電機子巻線(コイル)を備え、電機子巻線に交流(AC)を供給して固定子に回転磁界を生じさせ、回転子を駆動するACモータである。
【0003】
同期機には、永久磁石が回転子の表面に配設された表面磁石型モータ(Surface Permanent Magnet Synchronous Motor/単に「SPMモータ」という。)と、その永久磁石が回転子の内部に配設された内包(埋込)磁石型モータ(Interior Permanent Magnet Synchronous Motor/単に「IPMモータ」という。)とがある。その永久磁石(起磁源)として、従来は焼結磁石が用いられていたが、現在では形状自由度が大きく生産性や歩留まりに優れるボンド磁石が用いられるようになってきた。
【0004】
ボンド磁石は、例えば、電磁鋼板を積層したロータコアに対して射出成形して形成される。このとき、ロータコアは、射出充填領域(キャビティ)を区画する金型の一部となる。そして射出ユニット側の金型(例えば固定型)の分割面に圧接されたロータコアの一端面側から、磁石粉末と樹脂の溶融混合物が射出充填される。ここで、ロータコアの一端面と金型の分割面との間に作用する圧接力が不十分であると、両面間の隙間へ溶融混合物が漏出して、いわゆるバリ等の不良を生じる。従って、両面間に十分な圧接力を印加した状態で射出成形される必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平5-169497号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、これまでの射出成形機を用いる場合、その圧接力は型締めユニットによる型締力として付与されていた。型締めユニットには、大別すると直圧式とトグル式がある。直圧式は油圧シリンダーにより型締力を生じる。このため、ロータコアの軸方向高さ(積層厚さ)に寸法誤差(バラツキ)があっても、駆動源である油圧シリンダーへの油圧調整により、圧接力はほぼ一定に維持される。
【0007】
しかし、現在の主流であるトグル式は、機械的なリンクを所定量移動させることにより型締力を生じる。このため、ロータコアの寸法誤差は、圧接力に大きな影響を及ぼす。例えば、ロータコアの積層厚さが0.2~0.3mm程度変化するだけでも、圧接力は数ton変化する。しかも、電磁鋼板の積層数が増加するほど、積層厚さの変動量も大きくなるため、トグル式型締めユニットを用いる場合、ロータコアの一端面と金型の分割面との間の圧接力は過小または過大となり易い。圧接力が過小になるとバリが生じ、圧接力が過大になると金型や型締めユニットの損傷や寿命低下が生じ得る。
【0008】
なお、特許文献1では、バリを生じる隙間を零とする射出成形装置に関する提案がなされているが、ロータコアのような電磁鋼板の積層体をワークとするものではない。
【0009】
本発明はこのような事情に鑑みて為されたものであり、バリや金型の損傷等を回避しつつ、電磁鋼板を積層したロータコア等の積層体へボンド磁石を一体化させる射出成形を安定的に行える射出成形機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者はこの課題を解決すべく鋭意研究した結果、型締めユニットがトグル式でも、積層体の積層厚さのバラツキを吸収しつつ、積層体の一端面と金型の分割面との間に作用する圧接力をほぼ一定にできる新たな機構を着想した。これを具現化し発展させることにより、以降に述べる本発明を完成するに至った。
【0011】
《射出成形機》
(1)本発明は、固定型と、可動型と、該固定型側に対して該可動型を進退させるトグル式の型締めユニットと、溶融樹脂中に磁石粒子が混在した溶融混合物を該固定型側から射出する射出ユニットとを備え、電磁鋼板を積層してなる積層体を該可動型のキャビティ部に嵌挿して、該固定型の分割面に圧接させた該積層体の一端面側から該積層体の側面部または中空部へ該溶融混合物を射出してボンド磁石を成形する射出成形機であって、前記型締めユニットを作動させて前記固定型と前記可動型が近接または当接する型閉じ時に、前記積層体の一端面による該固定型の分割面への圧接力を所定範囲内とする圧接力調整ユニットをさらに備える射出成形機である。
【0012】
(2)本発明の射出成形機によれば、省エネルギーで高応答性のトグル式型締めユニットを用いつつも、圧接力調整ユニットにより、型閉じ時に積層体の一端面と固定型(射出ユニット側の金型)の分割面との間に作用する圧接力を所定範囲内に安定して維持できる。従って、電磁鋼板を多数積層して軸方向の寸法誤差(積層厚さのバラツキ)が大きくなり易い積層体に対して、溶融混合物を射出してボンド磁石を成形する場合でも、バリの発生、金型や型締めユニットの損傷や寿命低下等を抑制できる。
【0013】
《圧接力調整ユニット/射出成形方法》
本発明は、上述した射出成形機の一部を構成する圧接力調整ユニットとして把握してもよい。また本発明は、上述した射出成形機を用いた射出成形方法またはロータの製造方法として把握することもできる。
【0014】
ちなみに、積層体の一端面と固定型の分割面とが当接(圧接)する時期は、固定型と可動型が型閉じ(型締め)する時期(例えば完了時期)に対して、先行しても、後行しても、ほぼ同時でもよい。また、トグル式型締めユニットを用いる場合、予めなされる型厚調整により、型閉じ時、固定型と可動型の分割面(型開き面)同士は、通常、接触(当接)状態となる。但し、本発明の場合、積層体の一端面と固定型の分割面との間に十分な圧接力が確保される限り、型閉じ時、固定型と可動型の分割面同士は必ずしも当接状態でなくてもよい(つまり、当接直前の近接状態であってもよい)。
【0015】
《その他》
(1)本明細書では、適宜、射出成形機の固定側を「一端側」、それに対向する可動側を「他端側」という。積層体の軸心の方向を「軸方向」という。電磁鋼板が順次積層される方向を「積層方向」という。通常、軸方向と積層方向は一致する。適宜、軸方向を「縦方向」ともいい、それに直交する方向を「横方向」という。横方向は、通常、積層体の一端面と固定型・可動型の分割面との延在方向である。さらに、積層体の軸心に近い側を「内周側」といい、逆にその軸心から遠い側を「外周側」という。
【0016】
(2)本明細書でいう射出成形には、トランスファ成形も含まれる。固定型に形成される溶融混合物の流路(スプルーまたはランナー)は、加熱されないタイプ(いわゆるコールドランナー)でも、加熱されるタイプ(いわゆるホットランナー)でもよい。
【0017】
(3)本明細書でいうロータ(コア)は、アウターロータ(コア)でもインナーロータ(コア)でもよい。各ロータが用いられるモータは、SPMモータでもIPMモータでもよい。また、本発明に係るロータは、モータに限らず、ジェネレータ(発電機)に用いられてもよい。本明細書では、便宜上、ジェネレータ(発電機)も含めて、単にモータ(電動機)という。
【0018】
(4)特に断らない限り本明細書でいう「x~y」は下限値xおよび上限値yを含む。本明細書に記載した種々の数値または数値範囲に含まれる任意の数値を、新たな下限値または上限値として「a~b」のような範囲を新設し得る。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1A】一実施例である射出成形機を模式的に示す正面断面図である。
図1B】その射出成形機の油圧シリンダーを僅かに可動させたときの可動型と圧接力調整ユニットを示す拡大図である。
図1C】その拡大図のA-A断面図である。
図1D】圧接力調整ユニットを構成する油圧シリンダーの作動に必要な油圧回路図である。
図2】型厚調整時の様子を模式的に示す正面断面図である。
図3】ロータコアのセット時の様子を模式的に示す正面断面図である。
図4】圧接力調整ユニットの油圧シリンダーに油圧を作用させたときの様子を模式的に示す正面断面図である。
図5】型閉じ時の様子を模式的に示す正面断面図である。
図6】射出成形時の様子を模式的に示す正面断面図である。
図7】型開き時の様子を模式的に示す正面断面図である。
図8】突き出し時の様子を模式的に示す正面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本明細書中に記載した事項から任意に選択した一つまたは二つ以上の構成要素を上述した本発明の構成に付加し得る。本明細書で説明する内容は、射出成形機のみならず、それを構成する各ユニットや射出成形方法等にも適宜該当する。また方法的な構成要素であっても物に関する構成要素ともなり得る。いずれの実施形態が最良であるか否かは、対象、要求性能等によって異なる。
【0021】
《圧接力調整ユニット》
圧接力調整ユニットには、種々の形態が考えられる。例えば、積層体の一端面と固定型の分割面との間の圧接力を発生する油圧シリンダーと、その油圧シリンダーに作用する油圧を調整する油圧調整ユニットとにより圧接力調整ユニットは構成される。この場合、ほぼ一定で十分に大きな圧接力が確保される。
【0022】
十分なデーライトを確保できるときは、油圧シリンダーと可動型のキャビティ部(キャビティ型)を縦方向に直列的に配置してもよい。例えば、油圧シリンダーを可動盤(可動プラテン)と可動型のキャビティ部の間に配設するとよい。
【0023】
十分なデーライトを確保できないときは、油圧シリンダーを可動型のキャビティ部の横方向に並列的に配置してもよい。この場合、一つ以上の伝達部材(連結部材)を介して、油圧シリンダーによる押圧力を可動型のキャビティ部へ伝達することになる。
【0024】
なお、デーライトとは、型締めユニットを作動させて可動盤を後退(他端側へ移動)させたときの可動盤と固定盤(固定プラテン)との最大間隔である。
【0025】
油圧調整ユニットは、オイルポンプ等の油圧源から作動油を油圧シリンダーへ供給すると共に油圧シリンダーに作用する油圧を設定値内に調整する油圧回路を備える。油圧回路は、例えば、油圧シリンダーに作用させる油圧を所定値内にする調圧弁(レデューシングバルブ)、型閉じ時等に油圧シリンダーに作用する過大な油圧を減圧する減圧弁(リリーフバルブ)、その過大な油圧の油圧源への作用を阻止する逆止弁(チェックバルブ)、それら各弁と油圧源を接続する油路(配管)等により構成される。なお、油圧源や油圧回路(一部)は、油圧調整ユニット専用に構成されても、他ユニットと兼用で構成されてもよい。
【0026】
《固定型と可動型》
固定型と可動型は、それぞれ、射出成形機の固定盤と可動盤に配設される単数または複数の金型からなる。固定型は、少なくとも、射出ノズルに接するノズル口と、射出された溶融混合物が流動する流路(スプルー、ランナー、ゲート等となる部分)とを備える。流路構成に依るが、通常、残留物(スプルー等)を除去するために、固定型は分離可能な複数の金型の組合わせからなる。
【0027】
可動型は、例えば、可動側取付板に取り付けられるスペーサブロック、可動側受板、可動側型板、可動側型板の一端側に収容されると共に積層体が嵌挿されるキャビティ型(可動型のキャビティ部)等により構成される。可動型には、通常、射出成形後のロータを取り出すために、キャビティ型を突き出すエジェクタ機構が備わる。エジェクタ機構は、例えば、油圧または電動により進退するエジェクタロッドと、エジェクタロッドにより押圧されるエジェクタプレートと、エジェクタプレートとキャビティ型を連結するガイドピン等により構成される。
【0028】
なお、上述したように油圧シリンダーを並列的に配設する場合、エジェクタプレートおよびガイドピンは、油圧シリンダーによる押圧力をキャビティ型(ひいては積層体の一端面)へ伝達する伝達部材の一部として兼用され得る。
【0029】
《積層体》
積層体は、電磁鋼板の積層体からなる。電磁鋼板は、通常、軟磁性鋼板の両面が樹脂やセラミックスにより絶縁被覆されてなる。積層された多数の電磁鋼板は、かしめや溶接等により固定される。積層体は、例えば、ロータやステータの筐体(ヨーク)となるロータコアやステータコアである。以下、積層体の一例として、ロータコアを取り上げて説明する。
【0030】
SPMモータの場合、ロータコアの表面部にボンド磁石が形成される。アウターロータコアはその内周側にボンド磁石が形成され、インナーロータコアはその外周側にボンド磁石が形成される。いずれの場合でも、表面側に形成されるボンド磁石は、磁極毎に分断されていても、リング状のように連続していてもよい。IPMモータの場合、磁極毎にロータコアに設けられた単層または複数層の中空部(スロット)にボンド磁石が形成される。
【0031】
《ボンド磁石》
ボンド磁石は、異方性磁石粒子と(バインダ)樹脂からなる異方性ボンド磁石でも、等方性磁石粒子とバインダ樹脂からなる等方性ボンド磁石でもよい。磁石粒子には種々のものを用いることができる。磁気特性に優れる希土類磁石粒子が少なくともボンド磁石中に含まれていると好ましい。希土類磁石粒子には、例えば、Nd-Fe-B系磁石粒子の他、Sm-Fe-N系磁石粒子、Sm-Co系磁石粒子等がある。さらに、磁石粒子は、単種にかぎらず、複数種が混合したものでもよい。
【0032】
樹脂には、ゴムを含む公知の材料を用いることができる。溶融混合物の流動性や充填性等を考慮すると、熱可塑性樹脂(例えばポリアミド(PA)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)等)を用いると好ましい。なお、トランスファ成形する場合なら、熱硬化性樹脂(例えばエポキシ、不飽和ポリエステル等)を用いてもよい。
【0033】
ちなみに、異方性ボンド磁石は、配向磁場中で射出成形されることにより高い磁気特性を発揮する。配向磁場の印加には、電磁石を用いることもできるが、希土類磁石等の永久磁石(磁場源)と配向ヨークで構成した配向金型を用いると、省エネルギー化と射出成形機(金型)の小型化または簡素化を図れて好ましい。なお、配向金型は、所望するロータの仕様により形態や配置が異なるが、通常は、可動型側に配置される。
【実施例
【0034】
本実施例では、電磁鋼板の積層体からなる環状のアウターロータコアR(単に「コアR」という。)の内周側面(表面部)に、希土類異方性ボンド磁石を射出成形する際に使用する射出成形機Sを取り上げて、本発明をより具体的に説明する。
【0035】
《構成》
射出成形機Sの概要模式図を図1Aに、その要部である可動型2と圧接ユニット3(圧接力調整ユニット)の拡大図を図1Bに、図1B中のA-A断面図を図1Cに、圧接ユニット3の作動に必要な油圧回路4(油圧調整ユニット)を図1Dにそれぞれ示した。なお、説明の便宜上、縦方向、横方向、一端側および他端側を、図1Aに示すように設定した。また、図1Bには、敢えて、図1Aの状態(油圧OFF状態)に対して、後述する油圧シリンダー31のロッド3111、3121、クランク32等が僅かに一端側へ変位した状態を示した。
【0036】
射出成形機Sは、固定型1と、可動型2と、圧接ユニット3と、油圧回路4と、トグル式の型締めユニット5と、射出ユニット6と、フレーム7とを備える。フレーム7は、固定プラテン71と、可動プラテン72と、リアプラテン73と、固定プラテン71とリアプラテン73を連結し可動プラテン72の摺動軌道となるタイバー74とを備える。
【0037】
固定型1は、固定プラテン71に固定されると共に射出ユニット6のノズル先端(図略)が接続されるノズル口111を有する取付板11と、取付板11に固定されて主スプルーおよびランナーからなる流路121を形成する払い板12と、払い板12に分離可能に積層されてランナー、副スプルーおよびゲートからなる流路131を形成する型板13とを備える。なお、型板13の他端側にある分割面132は、型開き面となると共に、コアRの一端面r1が圧接される面ともなる。
【0038】
可動型2は、可動プラテン72に固定される取付板24と、取付板24の一端側に固定されるスペーサブロック231、232(両者を併せて単に「スペーサブロック23」という。)と、スペーサブロック23の一端側に固定される受板22と、受板22の一端側に固定される型板21と、型板21の一端側中央に嵌入されたキャビティガイド25と、キャビティガイド25に対して縦方向に進退(摺動)可能でありコアRが嵌挿されるキャビティ型26と、希土類焼結磁石(永久磁石)と配向ヨークからなりコアRの内周側から配向磁場を印加できる配向型27とを備える。
【0039】
なお、受板22の一端側には、キャビティ型26の他端側が僅かに収まる深さ(d)を有する凹部221が形成されている。キャビティ型26の他端面262が凹部221に接しているとき、キャビティ型26の一端面261も、型板21の分割面211(型開き面)やキャビティガイド25の分割面251に対して、その深さ分(d)だけ他端側へ凹んだ状態となる。本実施例では、後述するクリアランスc1等の最大値がその深さ(d)と等しくなる。
【0040】
圧接ユニット3は、油圧シリンダー311、312(両者を併せて単に「油圧シリンダー31」という。)と、取付板24の一端側に配置されるベースプレート33と、クランク321、322(両者を併せて単に「クランク32」という。)と、ベースプレート33の一端側に配置されるエジェクタープレート341、342(両者を併せて単に「エジェクタープレート34」という。)と、エジェクタープレート342に他端側が連結され一端側がキャビティ型26に連結されているガイドピン351、352(両者を併せて単に「ガイドピン35」という。)とを備える。
【0041】
なお、クランク32は、内周側がベースプレート33の側面に固定されると共に外周側が油圧シリンダー31のロッド3111、3121に固定されている。これにより、油圧シリンダー31の押圧力は、クランク32を介してベースプレート33に伝達され、ベースプレート33は取付板24に対して一端側へ移動する。但し、取付板24に固定されたストッパ36により、その移動量は所定範囲内(本実施例ではd以下)に規制されている。
【0042】
油圧回路4は、作動油が貯められたオイルパン41と、そのオイルパン41から作動油を汲上げ加圧して油路481へ供給するオイルポンプ42と、油路481内の油圧を所定値に調圧する調圧弁43と、オイルポンプ42へ過大な油圧が作用することを阻止する逆止弁45と、油圧シリンダー31へ通じる油路482を流れる作動油の流量を調整する流量調整弁46と、油圧シリンダー31内の油圧が過大になったときに作動油を油路483を通じてオイルパン41に戻すリリーフ弁47とを備える。この油圧回路4により、油圧シリンダー31へ作動油が供給されると共に、その油圧が所定範囲内に維持される。
【0043】
型締めユニット5は、トグルリンク51と、トグルリンク51を伸縮させるために縦方向に進退するボールねじ52と、トグルリンク51を各部に連結する支点53(図中の●/固定端)および支点54(図中の○/自由端)とを備える。ボールねじ52は電動機(図略)により駆動される。また、型締めユニット5には、可動プラテン72を貫通して進退するエジェクタロッド58を駆動する電動機(図略)も設けられている。
【0044】
射出ユニット6は、その詳細図を省略しているが、希土類異方性磁石粉末と熱可塑性樹脂を混練して製造したペレットを入れるホッパーと、そのペレットを加熱して溶融混合物とするヒータと、その溶融混合物を所定量圧送するシリンダと、その溶融混合物を高圧で射出するノズル等を備える。
【0045】
《作動》
(1)油圧OFF
油圧シリンダー31に油圧を作用させていないとき、圧接ユニット3は図1Aに示す状態となる。つまり、キャビティ型26の他端面262と受板22の凹部221は接した状態となり、両者間のクリアランスc1は零となる。また、ベースプレート33も取付板24に接した状態となり、両者間のクリアランスc2も零となる。逆に、ベースプレート33とストッパ36のクリアランスc3は設定値(例えばd)となる。
【0046】
(2)型厚調整
油圧シリンダー31に油圧を作用させない状態で、図2に示すような型厚調整がなされる。つまり、トグルリンク51を延ばして固定型1側の分割面132と可動型2側の分割面211を当接させる。そして、所望の型締力が得られるところに、トグルリンク51の支点53を設定する。なお、本実施例では、型締めユニット5の型締力:F1、油圧シリンダー31の押圧力:F2、射出圧力に抗するために最小限必要となる分割面132と一端面r1との間の圧接力:Fminとしたときに、Fmin<F2<F1となるように設定した。
【0047】
ちなみに、型厚とは、固定型1と可動型2との縦方向(ストローク方向)の長さの和であり、型閉じ完了時の固定プラテン71と可動プラテン72の間の距離(間隔)に相当する。また、図2図8では、油圧シリンダー31と連動する部材にハッチングを施した。
【0048】
(3)コアセット
油圧シリンダー31に油圧を作用させない状態で、図3に示すように、型締めユニット5を作動させてトグルリンク51を畳み、型開きする。そしてキャビティ型26内にコアRをセットする。
【0049】
(4)油圧ON
油圧回路4から油圧シリンダー31へ油圧を作用させると、図4に示すようになる。つまり、油圧シリンダー31の押圧力がクランク32、ベースプレート33、エジェクタープレート34、ガイドピン35およびキャビティ型26へ伝達される。この結果、ベースプレート33は一端側へ設定値(例えばd)移動してストッパ36に当接し、ストッパ36とベースプレート33のクリアランスc3は0となる。つまり、ベースプレート33は、それ以上に一端側へ移動できない。このベースプレート33の移動により、キャビティ型26の一端面261も一端側へ設定値(例えばd)移動し、型板21の分割面211やキャビティガイド25の分割面251と面一状態となる。また、キャビティ型26は凹部221に対してクリアランスc1が設定値(例えばd)だけ浮いた状態となり、ベースプレート33は取付板24に対してクリアランスc2が設定値(例えばd)だけ浮いた状態となる。
【0050】
このとき、キャビティ型26の一端面261、キャビティガイド25の分割面251および型板21の分割面211よりも、コアRの一端面r1が一端側へ少し突き出るように、型板21の厚さやキャビティ型26の深さ等が設定されている。本実施例では、分割面211(分割面251)に対する一端面r1の突出量(t)がクリアランスc1、c2の約半分程度(約d/2)となるように設定した。
【0051】
(5)型閉じ
図4に示した状態(油圧シリンダー31に油圧を作用させた状態)のまま、型締めユニット5を作動させてトグルリンク51を延して型閉じする。このとき、図5に示すように、固定型1の分割面132にコアRの一端面r1が当接する。両面間に作用する圧接力は、油圧シリンダー31の押圧力により生じ、両面の当接後、トグルリンク51の伸長と共にその圧接力は増加する。
【0052】
但し、油圧回路4のリリーフ弁47により油圧シリンダー31に作用する油圧の上限値は規制されている。従って、分割面132と一端面r1の間に作用する圧接力(F)の上限値も所定値となり、既述したように、Fmin<F(≒F2)<F1となる。こうして分割面132と一端面r1は、略一定の力で安定的に圧接された状態となる。
【0053】
なお、型閉じは、型厚調整時に設定したストローク分だけ可動型2(可動プラテン72)が進行して完了する。このとき、固定型1と可動型2の間には、所定の型締力(F>F)が生じるため、クリアランスc1、c2、c3は、図4に示したときから、コアRの一端面r1の突出量(t)だけ略減少した値となる。
【0054】
(6)成形
型閉じ完了後、図6に示すように、射出ユニット6から溶融混合物が射出される。その溶融混合物は、固定型1のノズル口111、流路121、131を経て、コアRと配向型27の間にできた円筒状のキャビティへ充填される。こうして、コアRの内周面にはリング状のボンド磁石が成形される。なお、そのボンド磁石は、配向型27による配向磁場の印加により、希土類異方性磁石粒子が各磁極毎に所定の向きに配向した状態となっている。
【0055】
(7)型開き
ボンド磁石の成形後、図7に示すように、トグルリンク51が畳まれて、型開きがなされる。このとき、ボンド磁石(製品部)と、スプルーおよびランナー(残部)とがゲート部で分離される。
【0056】
(8)突き出し(エジェクト)
型開き後、図8に示すように、エジェクタロッド58を進行させて、キャビティ型26を突き出す。そして、そのキャビティ型26から、ボンド磁石が一体成形されたコアR(ロータ)を取り出す。こうしてSPMモータのアウターロータが得られた。
【0057】
本実施例では、油圧シリンダー31に油圧を一旦作用させた後は、その状態(図4に示す状態後)を継続したまま、次のコアRに対して射出成形を行った。つまり、コアセット(図3)→型閉じ(図5)→成形(図6)→型開き(図7)→突き出し(図8)の操作を繰り返すことにより、順次、アウターロータを製造した。
【0058】
(9)補足
上述した実施例では、油圧シリンダー31の作動後に型閉じしたが、型閉じ後または型閉じ毎に油圧シリンダー31を作動させてもよい。この場合、逆止弁45やリリーフ弁47を設けずに油圧回路4を簡素することも可能である。但し、既述した実施例のように、油圧シリンダー31へ油圧を常時作用させておくと、射出成形毎に型閉じ完了を検出して油圧回路4を作動させる必要がなくなり、射出成形機全体の制御を簡素化できる。
【符号の説明】
【0059】
S 射出成形機
1 固定型
2 可動型
26 キャビティ型(キャビティ部)
3 圧接ユニット(圧接力調整ユニット)
31 油圧シリンダー
4 油圧回路(油圧調整ユニット)
5 型締めユニット
図1A
図1B
図1C
図1D
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8