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  • 特許-乾燥水酸化リチウムの製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-14
(45)【発行日】2022-11-22
(54)【発明の名称】乾燥水酸化リチウムの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01D 15/02 20060101AFI20221115BHJP
   F26B 11/16 20060101ALI20221115BHJP
【FI】
C01D15/02
F26B11/16
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018182689
(22)【出願日】2018-09-27
(65)【公開番号】P2019064911
(43)【公開日】2019-04-25
【審査請求日】2021-06-16
(31)【優先権主張番号】P 2017192116
(32)【優先日】2017-09-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】田上 梓
(72)【発明者】
【氏名】重松 伸彦
【審査官】青木 千歌子
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-052301(JP,A)
【文献】特開2011-178584(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01D 15/02
F26B 11/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒形の撹拌室と、前記撹拌室の底部に配置され撹拌翼を備えた撹拌手段と、前記撹拌室の側壁の内部に熱媒を供給して前記撹拌室内を加熱する加熱手段と、を有する加熱手段付き転動撹拌機の、
前記撹拌室内に水酸化リチウム水和物を入れ、前記撹拌手段により前記水酸化リチウム水和物を撹拌しながら、前記加熱手段により加熱する乾燥工程を有し、
前記乾燥工程の間、前記撹拌室内の前記側壁と接する前記水酸化リチウム水和物の最高到達高さが、前記撹拌室に投入された前記水酸化リチウム水和物の高さよりも高く、前記側壁の高さの96%以下の範囲に位置するように、かつ前記撹拌室内の前記側壁と接する前記水酸化リチウム水和物の前記最高到達高さと、前記撹拌室に投入された前記水酸化リチウム水和物の高さとの差が、前記側壁の高さの5%以上となるように前記撹拌手段の前記撹拌翼を回転させる乾燥水酸化リチウムの製造方法。
【請求項2】
前記撹拌翼がピッチドパドル型、フラットパドル型、アンカーパドル型、ピッチドタービン型、フラットタービン型、リボン型、及びスクリュー型から選択された1種類以上である請求項1に記載の乾燥水酸化リチウムの製造方法。
【請求項3】
前記撹拌室の前記側壁に、邪魔板が配置されている請求項1または2に記載の乾燥水酸化リチウムの製造方法。
【請求項4】
前記水酸化リチウム水和物は、粒径が100μm以下の微粉の含有割合が8質量%以下であり、
前記乾燥工程の間、前記撹拌手段の前記撹拌翼の周速度v(m/s)が、前記水酸化リチウム水和物の平均粒径D(μm)と、以下の式(1)の関係を満たす、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の乾燥水酸化リチウムの製造方法。
0.03×D-7 ≦ v ≦ 0.03×D+1 ・・・(1)
【請求項5】
前記水酸化リチウム水和物は、粒径が100μm以下の微粉の含有割合が8質量%より多く、
前記乾燥工程の間、前記撹拌手段の前記撹拌翼の周速度v(m/s)が、前記水酸化リチウム水和物の平均粒径D(μm)と、以下の式(2)の関係を満たす、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の乾燥水酸化リチウムの製造方法。
0.03×D-11 ≦ v ≦ 0.03×D-7 ・・・(2)
【請求項6】
前記水酸化リチウム水和物は、粒径が100μm以下の微粉の含有割合が8質量%以下である請求項1乃至4のいずれか一項に記載の乾燥水酸化リチウムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乾燥水酸化リチウムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話、ノートパソコンなどの小型電子機器の急速な拡大とともに、充放電可能な電源として、リチウム二次電池の需要が急激に伸びている。リチウム二次電池の正極に用いられる正極活物質として、リチウムコバルト複合酸化物や、リチウムニッケル複合酸化物等のリチウムを含有する複合酸化物が用いられている。
【0003】
リチウムを含有する複合酸化物の製造方法として、例えば特許文献1には、リチウム塩とニッケル塩とをLi/Niモル比が少なくとも1となるように混合し、焼成して正極材料用のLiNiOを得る方法において、リチウム塩とニッケル塩との混合物を、オゾン1%以上を含む空気及び/または酸素中で500℃~1000℃で10時間以上焼成することを特徴とするリチウム二次電池用正極材料の製造方法が開示されている。
【0004】
さらに特許文献1には、リチウム塩として、無水水酸化リチウムを用いた例も開示されている。具体的には、水酸化ニッケルと無水水酸化リチウムとの混合物を、雰囲気調整炉内で加熱焼成して、リチウム二次電池用正極活物質を製造した例が開示されている。
【0005】
ところで、水酸化リチウムは通常水和し、一水和物となっていることから、水酸化リチウムの無水物とするためには、水酸化リチウム水和物を脱水し、無水化する必要がある。
【0006】
例えば特許文献2には、水酸化リチウム一水塩を、ロータリーキルンを用いて、炉心管内温度150℃以上に加熱することにより無水化することを特徴とする水酸化リチウム一水塩の無水化方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平8-180863号公報
【文献】特開2006-265023号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、水酸化リチウム水和物を熱処理により脱水する場合に、該脱水の処理に多くの時間を要する場合があり、生産性を向上し、また熱処理に要するコストを低減する観点から短い時間で脱水し、乾燥した水酸化リチウムを製造できる乾燥水酸化リチウムの製造方法が求められていた。
【0009】
上記従来技術の問題に鑑み、本発明の一側面では、短い時間で乾燥水酸化リチウムを製造できる乾燥水酸化リチウムの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため本発明の一側面では、
円筒形の撹拌室と、前記撹拌室の底部に配置され撹拌翼を備えた撹拌手段と、前記撹拌室の側壁の内部に熱媒を供給して前記撹拌室内を加熱する加熱手段と、を有する加熱手段付き転動撹拌機の、
前記撹拌室内に水酸化リチウム水和物を入れ、前記撹拌手段により前記水酸化リチウム水和物を撹拌しながら、前記加熱手段により加熱する乾燥工程を有し、
前記乾燥工程の間、前記撹拌室内の前記側壁と接する前記水酸化リチウム水和物の最高到達高さが、前記撹拌室に投入された前記水酸化リチウム水和物の高さよりも高く、前記側壁の高さの96%以下の範囲に位置するように、かつ前記撹拌室内の前記側壁と接する前記水酸化リチウム水和物の前記最高到達高さと、前記撹拌室に投入された前記水酸化リチウム水和物の高さとの差が、前記側壁の高さの5%以上となるように前記撹拌手段の前記撹拌翼を回転させる乾燥水酸化リチウムの製造方法を提供する。

【発明の効果】
【0011】
本発明の一側面によれば、短い時間で乾燥水酸化リチウムを製造できる乾燥水酸化リチウムの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】加熱手段付き転動撹拌機の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照して説明するが、本発明は、下記の実施形態に制限されることはなく、本発明の範囲を逸脱することなく、下記の実施形態に種々の変形および置換を加えることができる。
[乾燥水酸化リチウムの製造方法]
本実施形態の乾燥水酸化リチウムの製造方法の一構成例について説明する。
【0014】
本実施形態の乾燥水酸化リチウムの製造方法は、加熱手段付き転動撹拌機の、撹拌室内に水酸化リチウム水和物を入れ、撹拌手段により水酸化リチウム水和物を撹拌しながら、加熱手段により加熱する乾燥工程を有することができる。
【0015】
なお、上記加熱手段付き転動撹拌機は、円筒形の撹拌室と、撹拌室の底部に配置され撹拌翼を備えた撹拌手段と、撹拌室の側壁の内部に熱媒を供給して撹拌室内を加熱する加熱手段と、を有することができる。そして、乾燥工程の間、撹拌室内の側壁と接する水酸化リチウム水和物の最高到達高さが、撹拌室に投入された水酸化リチウム水和物の高さよりも高く、撹拌室の側壁の高さの96%以下の範囲に位置するように、撹拌手段の撹拌翼を回転させることが好ましい。
【0016】
ここでまず、本実施形態の乾燥水酸化リチウムの製造方法に用いる加熱手段付き転動撹拌機の構成例について図1を用いて説明する。
【0017】
図1は、撹拌室の底部に設けられた撹拌翼の回転軸を通り、該回転軸と平行な面での断面図を模式的に示している。
【0018】
加熱手段付き転動撹拌機10は、円筒形の撹拌室11、すなわち試料室を有することができる。
【0019】
なお、撹拌室11は完全な円筒形である必要はなく、例えば底面と、側壁との間の接続部111について、図1に示したように、断面が曲線形状となるように構成することもできる。
【0020】
撹拌室11の底部には撹拌翼121を備えた撹拌手段12を有することができる。なお、撹拌手段12は図示しないモーターを有しており、該モーターにより撹拌翼121を所望の周速度で回転させ、撹拌室11内の水酸化リチウムを撹拌できるように構成されている。
【0021】
そして、撹拌室11の側壁13は、ジャケット構造、すなわち該側壁の内部に図示しない空間(空隙)を有する中空の構造となっており、該空間内に水蒸気等の熱媒を供給することで、撹拌室11内を加熱する加熱手段が配置されている。なお、撹拌室11の底面の内部にも同様に空間を形成し、該空間に熱媒を供給することで加熱できるように構成することもできる。
【0022】
撹拌室11の上面には、乾燥工程の間は図示しない蓋部を設けることができ、撹拌室11内の撹拌物が飛散しないように、また撹拌室11内の雰囲気を制御できるように構成できる。
【0023】
本実施形態の乾燥水酸化リチウムの製造方法では、乾燥工程を実施するに当って、まず撹拌室11内に、乾燥水酸化リチウムの原料となる水酸化リチウム水和物を入れることができる。
撹拌室11内に投入する水酸化リチウム水和物の量は特に限定されない。
ただし、乾燥工程の間の後述する撹拌室内の側壁と接する水酸化リチウム水和物の最高到達高さが所定の範囲に収められるように、水酸化リチウム水和物を過度に投入しないことが好ましい。例えば撹拌室に投入された水酸化リチウム水和物の高さ(試料の投入高さ)が、撹拌室11の側壁13の高さの60%以下となるように水酸化リチウム水和物を投入することが好ましく、50%以下となるように水酸化リチウム水和物を投入することがより好ましい。
また、生産性の観点から、例えば撹拌室に投入された水酸化リチウム水和物の高さが、撹拌室11の側壁13の高さの10%以上となるように水酸化リチウム水和物を投入することが好ましく、20%以上となるように水酸化リチウム水和物を投入することがより好ましい。
【0024】
水酸化リチウムは、通常水和物として水酸化リチウム一水和物を形成することから、水酸化リチウム水和物は、例えば水酸化リチウム一水和物とすることができる。
【0025】
なお、水酸化リチウム水和物の粉体特性は特に限定されないが、例えば粒径が100μm以下の微粉の含有割合が8質量%以下であることが好ましい。これは、水酸化リチウム水和物の、粒径が100μm以下の微粉の含有割合が8質量%以下の場合、撹拌手段12により撹拌する際、流動し易くなり、乾燥時間を短くできるためである。
【0026】
そして、乾燥工程では、撹拌手段12により、撹拌翼121を回転させ、水酸化リチウム一水和物を撹拌することができる。
【0027】
この際、撹拌室内の側壁と接する水酸化リチウム水和物の最高到達高さが、撹拌室に投入された水酸化リチウム水和物の高さよりも高く、撹拌室の側壁の高さの96%以下の範囲に位置するように、撹拌手段の撹拌翼を回転させることが好ましい。
なお、本明細書において、撹拌室内の側壁と接する水酸化リチウム水和物の最高到達高さは、乾燥工程の間に水酸化リチウム水和物が撹拌され、撹拌室内の側壁に接した最高到達点の高さを意味し、例えば乾燥工程後に撹拌室内の側壁に残った跡を基に測定できる。撹拌室に投入された水酸化リチウム水和物の高さとは、乾燥工程前に、撹拌室に投入された水酸化リチウム水和物の上面を平坦にした時の、該水酸化リチウム水和物の上面の高さを意味する。また、撹拌室の側壁の高さは、撹拌室を画する側壁の上端部の高さを意味する。
そして、撹拌室内の側壁と接する水酸化リチウム水和物の最高到達高さ、撹拌室に投入された水酸化リチウム水和物の高さ、及び撹拌室の側壁の高さは、いずれも撹拌室内の底面の最も低い位置を基準とした各位置の高さを意味する。
【0028】
加熱手段付き転動撹拌機においては、少なくとも側壁13の部分が加熱手段により加熱されている。このため、短い時間で乾燥水酸化リチウムを製造するためには、水酸化リチウム水和物を撹拌して撹拌室11内の側壁13との接触面積を広く保つことが好ましい。
【0029】
乾燥工程の間、撹拌室内の側壁と接する水酸化リチウム水和物の最高到達高さを、乾燥工程開始前に撹拌室に投入された水酸化リチウム水和物の高さ、すなわち試料の投入高さよりも高くすることで、本発明の効果が得られる。乾燥工程の間、撹拌室内の側壁と接する水酸化リチウム水和物の最高到達高さと、該試料の投入高さとの差は、撹拌室の側壁の高さの5%以上とすることが好ましく、10%以上とすることがより好ましい。
【0030】
ただし、撹拌室内の側壁と接する水酸化リチウム水和物の最高到達高さを過度に高くすると、撹拌された水酸化リチウム水和物は、図示しない蓋部にも達するようになる。水酸化リチウム水和物以外の一般的な粉体であれば、撹拌室11の蓋部に接した場合であっても、重力により落下し、再び撹拌手段12により撹拌されることになる。一方水酸化リチウム水和物は、側壁13と接して加熱された後、蓋部にまで達すると、蓋部と固着し易くなる。このため、撹拌された水酸化リチウム水和物が過度に蓋部にまで到達すると、水分を十分に除去できていない水酸化リチウム水和物が蓋部に固着し、乾燥効率が低下する原因となる。また、乾燥工程終了後、乾燥水酸化リチウムを回収することが困難になる場合もある。
【0031】
このため、撹拌室内の側壁と接する水酸化リチウム水和物の最高到達高さは、撹拌室11の側壁の高さの96%以下とすることが好ましく、95%以下とすることがより好ましく、90%以下とすることがさらに好ましい。
【0032】
乾燥工程において、撹拌室内の水酸化リチウム水和物を撹拌する撹拌手段12が撹拌翼121を回転させる際の周速度は特に限定されない。ただし、乾燥工程の間、撹拌手段12の撹拌翼121の周速度v(m/s)が、水酸化リチウム水和物の平均粒径D(μm)と、以下の関係を満たすことが好ましい。
例えば、撹拌室に供給した水酸化リチウム水和物の粒径が100μm以下の微粉の含有割合が8質量%以下の場合、以下の式(1)の関係を満たすことが好ましい。
【0033】
0.03×D-7 ≦ v ≦ 0.03×D+1 ・・・(1)
また、撹拌室に供給した水酸化リチウム水和物の粒径が100μm以下の微粉の含有割合が8質量%より多い場合、以下の式(2)の関係を満たすことが好ましい。
【0034】
0.03×D-11 ≦ v ≦ 0.03×D-7 ・・・(2)
これは、周速度v(m/s)と水酸化リチウム水酸化物の平均粒径D(μm)とが上記関係を充足することで、特に乾燥時間を短くすることができ、好ましいからである。
【0035】
係る理由については明らかではないが、撹拌翼121の周速度vを上記範囲とすることで、撹拌室11内の水酸化リチウム水和物を適度に捲き上げ、散らすことができるため、撹拌室11内に供給される加熱手段からの熱で十分に加熱することができるからと考えられる。また、撹拌室内の側壁と接する水酸化リチウム水和物の最高到達高さを適切な高さとすることもできるためと考えられる。
【0036】
なお、平均粒径D(μm)は、乾式で、レーザー回折・散乱法によって求めた粒度分布における体積積算値50%での粒径を意味する。本明細書では平均粒径は同様の意味を有する。
【0037】
撹拌室11内に設置された撹拌翼の形状は特に限定されず、各種撹拌翼を用いることができる。ただし、撹拌室11内の側壁と水酸化リチウム水和物とが接し易いように、水酸化リチウム水和物を捲き上げやすい形状の撹拌翼を用いることが好ましい。例えば、撹拌翼121は、ピッチドパドル型、フラットパドル型、アンカーパドル型、ピッチドタービン型、フラットタービン型、リボン型、及びスクリュー型から選択された1種類以上とすることが好ましい。
【0038】
なお、撹拌翼は、特に高負荷用または高循環用であることが好ましい。
【0039】
また、撹拌翼121により撹拌された水酸化リチウム水和物が、撹拌室11の側壁13に沿って側壁13の上方に進み易いように、撹拌室11の側壁13に、邪魔板を配置することもできる。邪魔板は、例えば撹拌室11の側壁13に高さ方向に沿って配置することが好ましい。
【0040】
そして、乾燥工程では既述のように、撹拌手段12により、撹拌室11内の水酸化リチウム水和物を撹拌しながら、撹拌室11の側壁13に設けられた加熱手段により、水酸化リチウム水和物を加熱し、乾燥することができる。
【0041】
撹拌室11の側壁13は、既述のように内部に図示しない空間を備えたジャケット構造を有しており、ジャケット構造の空隙内に水蒸気等の熱媒を供給し、加熱することができる。
【0042】
撹拌室11の側壁13の内部の空間に供給する熱媒の温度は特に限定されないが、乾燥工程における加熱温度、すなわち熱媒の温度は、80℃以上250℃以下の範囲が好ましく、100℃以上200℃以下の範囲がより好ましい。
【0043】
上述のように、熱媒として水蒸気を用いる場合は、操業の容易性や設備の簡略化の観点から、乾燥工程における加熱温度を100℃以上150℃以下とすることが好ましい。なお、加熱温度とは、既述の様に供給する熱媒の温度であり、通常、側壁13の撹拌室11内側の表面温度も熱媒とほぼ同じ温度になることから、側壁13の撹拌室11内側の表面の温度と言い換えることもできる。
【0044】
乾燥工程において、上記温度範囲で加熱して乾燥することにより、水酸化リチウム水和物の結晶水を十分に除去(脱水)するとともに、乾燥工程に必要な時間を短縮することができる。
【0045】
なお、水酸化リチウム水和物を乾燥する際の、撹拌室11内の雰囲気は特に限定されないが、空気雰囲気、窒素雰囲気、真空雰囲気から選択されたいずれかの雰囲気を好ましく用いることができる。
【0046】
真空雰囲気とする場合には、真空圧を-70kPa以下とすることが好ましい。なお、本明細書で真空圧はゲージ圧(相対圧)で示している。真空圧を-70kPa以下とすることで、乾燥(脱水反応)を促進することができるからである。真空圧の下限値は特に限定されないが、高真空とするためには、排気能力の高い真空ポンプが必要となるため、コストを低減する観点から-90kPa以上であることが好ましい。
【0047】
乾燥工程における乾燥時間(加熱時間)は、特に限定されるものではない。例えば、乾燥工程に供する水酸化リチウム水和物の量や、加熱温度等を考慮して、水酸化リチウム水和物を十分に乾燥できる、例えば無水水酸化リチウムの水分含有量が好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下、特に好ましくは1質量%以下となる時間を選択できる。
【0048】
乾燥時間は、例えば200分間以上250分間以下とすることができる。なお、乾燥時間とは、撹拌室11の側壁13の内部の空間に既述の加熱温度に加熱された熱媒を供給している時間であり、側壁13の撹拌室11内側の表面の温度を既述の加熱温度で保持している時間と言い換えることもできる。
【0049】
乾燥工程終了後に、乾燥水酸化リチウムを得ることができる。乾燥水酸化リチウムは、水和水や、吸着水が除去されており、無水水酸化リチウムとすることができる。
【0050】
なお、乾燥工程後に乾燥水酸化リチウムに水分が吸着すると、炭酸リチウムの生成が促進されるため、乾燥工程後の乾燥水酸化リチウムは乾燥状態を保持することが好ましい。工業的規模の量産工程では、管理された水分および炭酸ガス分圧下で保管することにより水酸化リチウムの乾燥状態を維持することが好ましい。
[リチウムニッケル複合酸化物の製造方法]
本実施形態の乾燥水酸化リチウムの製造方法を用いて各種リチウム含有化合物を製造することができる。ここでは、リチウムニッケル複合酸化物の製造方法の一構成例について説明する。
【0051】
本実施形態のリチウムニッケル複合酸化物の製造方法により、最終的に得られるリチウムニッケル複合酸化物の組成は特に限定されるものではなく任意の組成とすることができる。
【0052】
ただし、一般式:LiNi(1-y-z)2+α(式中、Mは、CoおよびMnから選択される少なくとも1種、Nは、AlおよびTiから選択される少なくとも1種であり、0.95≦x≦1.15、0.05≦y≦0.35、0.005≦z≦0.8、-0.2≦α≦0.2である。)で表されるリチウムニッケル複合酸化物であることが好ましい。
【0053】
リチウムニッケル複合酸化物としては、各種組成の複合酸化物が提案されているが、上記一般式で表されるリチウムニッケル複合酸化物は、電池特性に優れている点で好ましく、さらに、本実施形態に係るリチウムニッケル複合酸化物の製造方法を適用することにより、工業的規模での量産工程においても、優れた充放電特性を安定して備える正極活物質を得ることが可能となる。
【0054】
ここで、一般式のM元素は、Coおよび/またはMnであり、yを上記範囲とすることで、リチウム二次電池の正極材料に用いられた際の電池容量の低下を抑制しながらサイクル特性を向上させることができる。yは、0.1以上0.2以下の範囲にあることが特に好ましい。
【0055】
また、一般式のN元素は、Alおよび/またはTiであり、zを上記範囲とすることで、リチウム二次電池の正極材料に用いられた際の電池容量の低下を抑制しながら熱安定性を向上させることができる。zは、0.02以上0.05以下の範囲にあることが特に好ましい。
【0056】
そして、本実施形態のリチウムニッケル複合酸化物の製造方法は、以下の工程を有することができる。
【0057】
乾燥水酸化リチウムと、ニッケル化合物との混合物を形成する混合工程。
【0058】
混合物を、焼成する焼成工程。
【0059】
以下に各工程について説明する。
(混合工程)
混合工程では、既述の乾燥水酸化リチウムの製造方法で得られた乾燥水酸化リチウムと、ニッケル化合物との混合物を形成することができる。
【0060】
この際に用いるニッケル化合物は特に限定されるものではなく、一般的にリチウムニッケル複合酸化物の原料となるニッケル化合物を用いることができる。
【0061】
ニッケル化合物としては特に、不純物混入の低減や粒径制御の観点から、ニッケル複合水酸化物、およびニッケル複合酸化物から選択された1種類以上を用いることが好ましい。具体的には調製するリチウムニッケル複合酸化物の目的組成に応じた、ニッケル複合水酸化物や、ニッケル複合酸化物を用いることができ、例えば、既述の一般式で示したリチウムニッケル複合酸化物を調製する場合、Ni(1-y-z)(OH)2+βや、Ni(1-y-z)1+γから選択された1種類以上を用いることができる。
【0062】
なお、上記ニッケル複合水酸化物や、ニッケル複合酸化物の一般式中のy、zは、既述のリチウムニッケル複合酸化物の一般式の場合と同様の範囲を有することが好ましい。また、β、γは-0.2≦β≦0.2、-0.2≦γ≦0.2の範囲を満たすことが好ましい。
【0063】
ニッケル複合水酸化物は通常の方法で得られるものでよく、特に限定されないが、組成が均一であり、適度な粒径である粒子が得られるため、共沈法で得られたニッケル複合水酸化物を好ましく用いることができる。また、ニッケル複合酸化物は、ニッケルおよび添加元素を含有する化合物を酸化焙焼することで得られるものが好ましく、例えば上記ニッケル複合水酸化物を酸化焙焼して得られるものがより好ましい。
【0064】
原料として、ニッケル複合水酸化物、および/またはニッケル複合酸化物を用いた場合、これらの原料の二次粒子の平均粒径は特に限定されないが、5μm以上20μm以下の範囲とすることが好ましく、8μm以上15μm以下の範囲とすることがより好ましい。原料の平均粒径は、得られるリチウムニッケル複合酸化物に継承されるため、上記平均粒径の範囲とすることで、良好な充填性とともに、電池に用いた際の電解質との反応性を高くすることができ、電池特性を良好なものとすることができる。
【0065】
ニッケル化合物と混合する乾燥水酸化リチウムの量は特に限定されず、目的とするリチウムニッケル複合酸化物の組成に応じて選択することができる。例えば既述のリチウムニッケル複合酸化物の組成に応じた混合比とすることができる。焼成前後で組成はほとんど変化しないため、得ようとするリチウムニッケル複合酸化物の組成から、ニッケル複合酸化物と混合する乾燥水酸化リチウムの量を容易に決定することができる。
【0066】
混合方法としては、通常用いられる方法でよく、一般的な混合機を使用することができ、シェーカーミキサー、レーディゲミキサ、ジュリアミキサ、Vブレンダなどを用いることができ、ニッケル化合物の形骸が破壊されない程度に、十分に混合されればよい。
(焼成工程)
焼成工程では、混合工程で得られた混合物を焼成することで、リチウムニッケル複合酸化物を生成することができる。
【0067】
焼成時の雰囲気としては、酸素を十分に供給するため、酸素濃度が60容量%以上であることが好ましく、80容量%以上であることがより好ましい。なお、焼成時の雰囲気は酸素雰囲気とすることもできることから、酸素濃度は100容量%以下とすることができる。
【0068】
これは、リチウムニッケル複合酸化物の合成反応では、例えば以下の反応式(A)に示す化学反応により水が生成される。水が多量に生成されると、外部から十分な酸素が供給されない場合は、反応場への酸素の拡散が不足して反応式(A)の反応が進行せず、リチウムニッケル複合酸化物の合成不足が発生し、電池容量の低下など、電池性能が劣化した正極活物質となる恐れがあるからである。
【0069】
2NiO+2LiOH+1/2O2 → 2LiNiO2+H2O ・・・(A)
この際、酸素は、窒素あるいは不活性ガスと混合して供給することが好ましい。
【0070】
また、焼成温度としては、700℃以上780℃以下の範囲であることが好ましく、700℃以上750℃以下の範囲であることがより好ましい。700℃以上とすることで、十分に結晶成長したリチウムニッケル複合酸化物を得ることができ、良好な電池性能が得られ、好ましいからである。また、780℃以下とすることで、生成したリチウムニッケル複合酸化物が分解することを抑制できるからである。
【0071】
焼成工程において、上記焼成温度に昇温する過程で、水酸化リチウムの溶融温度から焼成温度までの温度域、例えば450℃以上650℃以下の範囲で一旦保持してニッケル化合物と水酸化リチウムを十分に反応させることが好ましい。
【0072】
焼成に用いる炉は、雰囲気が制御できる各種の炉が使用可能であるが、排気ガスが発生することがない電気炉を用いることが好ましく、工業的生産においては、特にプッシャー炉やローラーハース炉などのように、連続的に焼成可能な炉を使用することが好ましい。
【0073】
なお、ここではリチウムニッケル複合酸化物を製造する場合を例に説明したが、本実施形態の乾燥水酸化リチウムの製造方法により得られた乾燥水酸化リチウムは、各種リチウム化合物の製造に適用することができ、係る形態に限定されるものではない。
【実施例
【0074】
以下、本発明の実施例について、比較例との対比により、より具体的に説明をおこなうが、本発明は、これらの実施例によって何ら限定されるものではない。
[実施例1]
平均粒径が620μm、粒径が100μm以下の微粉の含有量が8.7質量%の水酸化リチウム水和物を用意した。なお、水酸化リチウム水和物は、レーザー回折・散乱法粒度分布測定機(日機装株式会社製 型式:HRA9320 X-100)を用いて乾式で粒度分布を測定した。そして、得られた粒度分布から、上述の粒径が100μm以下の微粉の含有割合、及び平均粒径をそれぞれ求めた。
(乾燥工程)
以下の手順で乾燥工程を実施した。
【0075】
上記水酸化リチウム水和物を、図1に示す加熱手段付き転動撹拌機10(日本コークス工業(株)製、型式:FM4000)の円筒形状の撹拌室11内に入れた。なお、撹拌室11の側壁13には、4枚の長方形の邪魔板が、等間隔で側壁13の高さ方向に沿って配置されている。試料投入量(試料の投入高さ)は、撹拌室11の側壁の高さの30%とした。
【0076】
そして、撹拌室11の上部に蓋部をセットして撹拌室11を密閉し、撹拌室11内の雰囲気を大気圧から減圧した真空雰囲気(-90kPa)とした。
【0077】
次いで、加熱手段付き転動撹拌機10の側壁13の内部、すなわちジャケット内に水蒸気をゲージ圧0.19MPa(130℃相当)で供給した。
【0078】
この際、撹拌室11の底部に設けられた、撹拌手段12の撹拌翼121を周速10.5m/sで回転させた。なお、撹拌翼121は、フラットパドル型の撹拌翼であり、高負荷用翼となっている。
【0079】
そして、加熱手段付き転動撹拌機10内の中心部で測温した温度が65℃に達した時点から、加熱手段付き転動撹拌機10内の中心部で測温した温度が120℃に達するまでを乾燥時間とし、上記条件で加熱、撹拌を継続して行った。
【0080】
なお、加熱手段付き転動撹拌機10の側壁13内に水蒸気を供給開始後、水酸化リチウム水和物の乾燥(脱水)が進行している間は加熱手段付き転動撹拌機10の側壁13から離れた撹拌室11中心部で測温した温度は65℃近傍で安定する。その後乾燥(脱水)が完了に近づくと徐々に温度が上昇し、加熱手段付き転動撹拌機10の撹拌室11内の中心部で測温した温度も供給する水蒸気の温度に近い120℃程度にまで昇温する。そして、加熱手段付き転動撹拌機10の撹拌室11内の中心部で測温した温度が120℃に達したことを確認した後、水蒸気の供給を停止し、加熱を止め、冷却した。なお、加熱手段付き転動撹拌機10の側壁13内に水蒸気を供給している間、撹拌室11内側の側壁13の表面や、側壁13近傍では側壁13の内部に供給した水蒸気と略同じ温度、すなわち約130℃となっている。このため、上記乾燥時間は、加熱手段付き転動撹拌機10の側壁13内に既述の水蒸気を供給している時間であり、側壁13の撹拌室11内側の表面が、供給した水蒸気の温度に加熱、保持されている時間と言い換えることもできる。
【0081】
上記条件での乾燥工程が終了後、側壁についた跡から、乾燥工程の間に撹拌室内の側壁13と接する水酸化リチウム水和物の最高到達高さを測定したところ、撹拌室の側壁の高さの70%であることが確認できた。
【0082】
また、乾燥工程に要した時間である乾燥時間は220分間であり、得られた乾燥水酸化リチウム、すなわち無水水酸化リチウムの含水率は0.1質量%になっていた。なお、以下の他の実施例、比較例においても、乾燥工程後に得られた無水水酸化リチウムの含水率は、約0.1質量%となっていた。
【0083】
なお、乾燥時間の評価について、乾燥工程に要した時間が225分以下の場合はA、225分より長く250分以下の場合にはB、250分を超える場合にはCとして、表1に示す。
[実施例2]
乾燥工程において、加熱手段付き転動撹拌機として、撹拌室の側壁の邪魔板を外したものを用いた点以外は、実施例1と同様の条件で乾燥工程を実施した。
【0084】
乾燥工程終了後、乾燥工程の間に撹拌室内の側壁と接する水酸化リチウム水和物の最高到達高さを測定したところ、撹拌室の側壁の高さの67%であることが確認できた。
【0085】
その他の評価結果を表1に示す。
[実施例3]
乾燥工程で、撹拌手段の撹拌翼をピッチドパドル型の撹拌翼とした点以外は、実施例2と同様の条件で乾燥工程を実施した。なお、撹拌翼は高負荷用翼となっている。
乾燥工程終了後、乾燥工程の間に撹拌室内の側壁と接する水酸化リチウム水和物の最高到達高さを測定したところ、撹拌室の側壁の高さの62%であることが確認できた。
その他の評価結果を表1に示す。
[実施例4]
乾燥工程で、撹拌手段の撹拌翼を周速度が7.9m/sとなるように回転させた点以外は、実施例2と同様の条件で乾燥工程を実施した。
【0086】
乾燥工程終了後、乾燥工程の間に撹拌室内の側壁と接する水酸化リチウム水和物の最高到達高さを測定したところ、撹拌室の側壁の高さの51%であることが確認できた。
【0087】
その他の評価結果を表1に示す。
[実施例5]
乾燥工程で、撹拌手段の撹拌翼を周速度が7.1m/sとなるように回転させた点以外は、実施例2と同様の条件で乾燥工程を実施した。
乾燥工程終了後、乾燥工程の間に撹拌室内の側壁と接する水酸化リチウム水和物の最高到達高さを測定したところ、撹拌室の側壁の高さの43%であることが確認できた。
その他の評価結果を表1に示す。
[比較例1]
乾燥工程で、撹拌手段の撹拌翼を周速度が6.4m/sとなるように回転させた点以外は、実施例2と同様の条件で乾燥工程を実施した。
【0088】
乾燥工程終了後、乾燥工程の間に撹拌室内の側壁と接する水酸化リチウム水和物の最高到達高さを測定したところ、撹拌室の側壁の高さの30%であることが確認できた。
【0089】
その他の評価結果を表1に示す。
[比較例2]
乾燥工程で、撹拌手段の撹拌翼を周速度が11.8m/sとなるように回転させた点以外は、実施例2と同様の条件で乾燥工程を実施した。
【0090】
乾燥工程終了後、乾燥工程の間に撹拌室内の側壁と接する水酸化リチウム水和物の最高到達高さを測定したところ、撹拌室の側壁の高さの97%であることが確認できた。
【0091】
その他の評価結果を表1に示す。
【0092】
なお、乾燥工程終了後、加熱手段付き転動撹拌機の撹拌室の蓋部を開ける際、蓋部に水酸化リチウムが固着していることが確認できた。
[実施例6]
平均粒径が625μm、粒径が100μm以下の微粉の含有量が7.5質量%の水酸化リチウム水和物を用意した。なお、水酸化リチウム水和物は、レーザー回折・散乱法粒度分布測定機(日機装株式会社製 型式:HRA9320 X-100)を用いて乾式で粒度分布を測定した。そして、得られた粒度分布から、上述の粒径が100μm以下の微粉の含有割合、及び平均粒径をそれぞれ求めた。
【0093】
そして、上記水酸化リチウム水和物を用いたことと、試料投入量(試料の投入高さ)を、撹拌室11の側壁の高さの35%としたことと、乾燥工程で、撹拌手段の撹拌翼を周速度が17.7m/sとなるように回転させた点以外は、実施例2と同様の条件で乾燥工程を実施した。
【0094】
乾燥工程終了後、乾燥工程の間に撹拌室内の側壁と接する水酸化リチウム水和物の最高到達高さを測定したところ、撹拌室の側壁の高さの82%であることが確認できた。
【0095】
その他の評価結果を表1に示す。
[実施例7]
乾燥工程で、撹拌手段の撹拌翼を周速度が13.3m/sとなるように回転させた点以外は、実施例6と同様の条件で乾燥工程を実施した。
【0096】
乾燥工程終了後、乾燥工程の間に撹拌室内の側壁と接する水酸化リチウム水和物の最高到達高さを測定したところ、撹拌室の側壁の高さの51%であることが確認できた。
【0097】
その他の評価結果を表1に示す。
[実施例8]
乾燥工程で、撹拌手段の撹拌翼を周速度が12.5m/sとなるように回転させた点以外は、実施例6と同様の条件で乾燥工程を実施した。
【0098】
乾燥工程終了後、乾燥工程の間に撹拌室内の側壁と接する水酸化リチウム水和物の最高到達高さを測定したところ、撹拌室の側壁の高さの45%であることが確認できた。
【0099】
その他の評価結果を表1に示す。
[実施例9]
乾燥工程で、撹拌手段の撹拌翼を周速度が11.4m/sとなるように回転させた点以外は、実施例6と同様の条件で乾燥工程を実施した。
乾燥工程終了後、乾燥工程の間に撹拌室内の側壁と接する水酸化リチウム水和物の最高到達高さを測定したところ、撹拌室の側壁の高さの40%であることが確認できた。
その他の評価結果を表1に示す。
[比較例3]
乾燥工程で、撹拌手段の撹拌翼を周速度が10.5m/sとなるように回転させた点以外は、実施例6と同様の条件で乾燥工程を実施した。
【0100】
乾燥工程終了後、乾燥工程の間に撹拌室内の側壁と接する水酸化リチウム水和物の最高到達高さを測定したところ、撹拌室の側壁の高さの35%であることが確認できた。
【0101】
その他の評価結果を表1に示す。
[比較例4]
乾燥工程で、撹拌手段の撹拌翼を周速度が19.9m/sとなるように回転させた点以外は、実施例6と同様の条件で乾燥工程を実施した。
【0102】
乾燥工程終了後、乾燥工程の間に撹拌室内の側壁と接する水酸化リチウム水和物の最高到達高さを測定したところ、撹拌室の側壁の高さの97%であることが確認できた。
【0103】
その他の評価結果を表1に示す。
【0104】
なお、乾燥工程終了後、加熱手段付き転動撹拌機の撹拌室の蓋部を開ける際、蓋部に水酸化リチウムが固着していることが確認できた。
【0105】
【表1】
表1に示した結果によると、実施例1~実施例9の結果から、乾燥工程の間、撹拌室内の側壁と接する水酸化リチウム水和物の最高到達高さを、撹拌室に投入された水酸化リチウム水和物の高さよりも高く、側壁の高さの96%以下の範囲内とすることで、蓋部への固着を防ぎつつ、乾燥時間を短くできることを確認できた。
【0106】
一方、比較例1、3の結果から明らかなように、乾燥工程の間の撹拌室内の側壁と接する水酸化リチウム水和物の最高到達高さが撹拌室に投入された水酸化リチウム水和物の高さ以下の場合、乾燥時間が250分を大幅に超え、乾燥時間が長くなることを確認できた。
【0107】
また、比較例2、4の結果から明らかなように、乾燥工程の間の撹拌室内の側壁と接する水酸化リチウム水和物の最高到達高さが、側壁の高さの96%を超えると、蓋部に固着が生じ、乾燥時間も250分を越え、長くなることを確認できた。
【0108】
なお、例えば実施例2と実施例3との比較からも明らかなように、撹拌翼の形状によらず、乾燥工程の間、撹拌室内の側壁と接する水酸化リチウム水和物の最高到達高さを所定の範囲内とすることで、乾燥時間を短くできることが確認できた。
さらに、アンカーパドル型、ピッチドタービン型、フラットタービン型、リボン型、及びスクリュー型の各形状の撹拌翼に変更して乾燥工程も実施した。その結果、撹拌室内の側壁と接する水酸化リチウム水和物の最高到達高さが、上記各実施例、比較例と同じになるように撹拌翼の周速度を調整し、乾燥工程を実施した場合、乾燥時間は、上記各実施例、比較例と同様の評価結果になった。すなわち、撹拌翼に形状によらず、撹拌室内の側壁と接する水酸化リチウム水和物の最高到達高さと、乾燥時間との関係は、上記実施例、比較例と同様の結果になることも確認できた。
【符号の説明】
【0109】
10 加熱手段付き転動撹拌機
11 撹拌室
12 撹拌手段
121 撹拌翼
13 側壁
図1