(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-14
(45)【発行日】2022-11-22
(54)【発明の名称】脳反応計測システム、脳反応計測方法及び脳反応計測プログラム
(51)【国際特許分類】
A61B 5/246 20210101AFI20221115BHJP
【FI】
A61B5/246 ZDM
(21)【出願番号】P 2019046411
(22)【出願日】2019-03-13
【審査請求日】2021-12-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】三坂 好央
(72)【発明者】
【氏名】森瀬 博史
(72)【発明者】
【氏名】工藤 究
【審査官】磯野 光司
(56)【参考文献】
【文献】特開昭55-091337(JP,A)
【文献】国際公開第2013/057931(WO,A1)
【文献】特開2007-054138(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/24-5/398
A61B 5/1455
A61B 10/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の刺激を被験者に与える第1の刺激出力部と、
第2の刺激を前記被験者に与える第2の刺激出力部と、
前記第1の刺激出力部から前記被験者に前記第1の刺激を与えるタイミングと、前記第2の刺激出力部から前記被験者に前記第2の刺激を与えるタイミングと、を設定する刺激タイミング制御部と、
前記被験者の第1の脳領野に生起される脳反応と、前記被験者の第2の脳領野に生起される脳反応と、を計測する計測部と、
を有する脳反応計測システムであって、
前記刺激タイミング制御部は、
前記第1の刺激による前記第1の脳領野で生起される脳反応に対する前記第2の刺激による前記第1の脳領野で生起される脳反応の遅延時間δaと、前記第2の刺激による前記第2の脳領野で生起される脳反応に対する前記第1の刺激による前記第2の脳領野で生起される脳反応の遅延時間δbと、に基づいて、
前記第1の刺激による前記第1の脳領野の反応と、前記第2の刺激による前記第1の脳領野の反応と、が重複せず、かつ、前記第2の刺激による第2の脳領野の反応と、前記第1の刺激による前記第2の脳領野の反応と、が重複しない、前記第1の刺激の開始時刻及び終了時刻と、前記第2の刺激の開始時刻及び終了時刻とを算出し、
算出した前記第1の刺激の開始時刻と終了時刻とを前記第1の刺激出力部に設定し、
算出した前記第2の刺激の開始時刻と終了時刻とを前記第2の刺激出力部に設定すること
を特徴とする脳反応計測システム。
【請求項2】
前記刺激タイミング制御部は、
前記第1の刺激の開始時刻をt1s、前記第1の刺激の終了時刻をt1e、前記第2の刺激の開始時刻をt2s、前記第2の刺激の終了時刻をt2eとするときに、(t1e-t2s)<δa、かつ、(t2e-t1s)<δbの関係を満たす、複数群の開始時刻t1s、終了時刻t1e、開始時刻t2s、終了時刻t2eを算出し、
算出した複数群のいずれかの開始時刻t1sと終了時刻t1eとを前記第1の刺激出力部に設定し、
算出した複数群の前記いずれかの開始時刻t2sと終了時刻t2eとを前記第2の刺激出力部に設定すること
を特徴とする請求項1に記載の脳反応計測システム。
【請求項3】
前記刺激タイミング制御部は、
前記第1の刺激の開始時刻をt1s、前記第1の刺激の終了時刻をt1e、前記第2の刺激の開始時刻をt2s、前記第2の刺激の終了時刻をt2eとするときに、(t1e-t2s)<50ms、かつ、(t2e-t1s)<50msの関係を満たす、複数群の開始時刻t1s、終了時刻t1e、開始時刻t2s、終了時刻t2eを算出し、
算出した複数群のいずれかの開始時刻t1sと終了時刻t1eとを前記第1の刺激出力部に設定し、
算出した複数群の前記いずれかの開始時刻t2sと終了時刻t2eとを前記第2の刺激出力部に設定すること
を特徴とする請求項1に記載の脳反応計測システム。
【請求項4】
前記刺激タイミング制御部は、
前記第1の刺激による前記第1の脳領野の反応の終了時刻から、前記第2の刺激による前記第1の脳領野の反応の開始時刻までの第1の時間間隔と、前記第2の刺激による第2の脳領野の反応の終了時刻から、前記第1の刺激による前記第2の脳領野の反応の開始時刻までの第2の時間間隔とを最大化する開始時刻t1s、終了時刻t1eと開始時刻t2s、終了時刻t2eとを前記第1の刺激出力部と第2の刺激出力部とにそれぞれ設定すること
を特徴とする請求項2または請求項3に記載の脳反応計測システム。
【請求項5】
前記刺激タイミング制御部は、
前記第1の刺激による前記第1の脳領野の反応を所定時間継続して得られる前記第1の刺激の最小の継続時間と、前記第2の刺激による前記第2の脳領野の反応を所定時間継続して得られる前記第2の刺激の最小の継続時間とを満足するように、前記第1の時間間隔と前記第2の時間間隔とを最大化する開始時刻t1s、t2s及び終了時刻t1e、t2eを設定すること
を特徴とする請求項4に記載の脳反応計測システム。
【請求項6】
前記刺激タイミング制御部は、
算出した複数群の開始時刻t1s、終了時刻t1e、開始時刻t2s、終了時刻t2eを表示装置に表示し、入力装置を介して選択された開始時刻t1s、終了時刻t1eと、開始時刻t2s、終了時刻t2eとを前記第1の刺激出力部と前記第2の刺激出力部とにそれぞれ設定すること
を特徴とする請求項2または請求項3に記載の脳反応計測システム。
【請求項7】
前記刺激タイミング制御部は、
前記第1の刺激及び前記第2の刺激の周期を少なくとも300msに設定し、
前記第1の刺激及び前記第2の刺激を与える毎に、所定の時間範囲内で前記周期をランダムに変更すること
を特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載の脳反応計測システム。
【請求項8】
前記刺激タイミング制御部は、
前記第1の刺激の開始時刻t1sと前記第2の刺激の開始時刻t2sとを同じ時刻に設定することを特徴とする請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の脳反応計測システム。
【請求項9】
前記刺激タイミング制御部は、刺激の種類及び前記被験者の特性の一方又は両方に応じて決められる遅延時間δa及び遅延時間δbに基づいて、前記第1の刺激の開始時刻及び終了時刻と、前記第2の刺激の開始時刻及び終了時刻とを算出すること
を特徴とする請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の脳反応計測システム。
【請求項10】
前記刺激タイミング制御部は、
前記第1の刺激出力部が前記第1の刺激を前記被験者に向けて出力してから前記被験者が前記第1の刺激を受けるまでの遅延時間に基づいて、前記被験者が前記第1の刺激を受けるタイミングを示す同期情報を前記計測部に出力し、
前記計測部は、前記同期情報に基づいて、前記被験者が前記第1の刺激を実際に受けた時刻を認識し、認識した時刻を前記第1の脳領野の脳反応の計測データに紐付けること
を特徴とする請求項1から請求項9のいずれか1項に記載の脳反応計測システム。
【請求項11】
前記刺激タイミング制御部は、
前記第2の刺激出力部が前記第2の刺激を前記被験者に向けて出力してから前記被験者が前記第2の刺激を受けるまでの遅延時間に基づいて、前記被験者が前記第2の刺激を受けるタイミングを示す同期情報を前記計測部に出力し、
前記計測部は、前記同期情報に基づいて、前記被験者が前記第2の刺激を実際に受けた時刻を認識し、認識した時刻を前記第2の脳領野の脳反応の計測データに紐付けること
を特徴とする請求項1から請求項10のいずれか1項に記載の脳反応計測システム。
【請求項12】
前記第1の刺激は、視覚刺激、聴覚刺激、体性感覚刺激のうちのいずれかであり、
前記第2の刺激は、視覚刺激、聴覚刺激、体性感覚刺激のうちの前記第1の刺激と異なるいずれかであることを特徴とする請求項1から請求項11のいずれか1項に記載の脳反応計測システム。
【請求項13】
前記第1の刺激は、視覚刺激、聴覚刺激のうちのいずれかであり、
前記第2の刺激は、視覚刺激、聴覚刺激のうちの前記第1の刺激と異なるいずれかであることを特徴とする請求項1から請求項11のいずれか1項に記載の脳反応計測システム。
【請求項14】
前記計測部は、前記被験者の脳に生起される反応により発生する脳磁場を計測することを特徴とする請求項1から請求項13のいずれか1項に記載の脳反応計測システム。
【請求項15】
第1の刺激を被験者に与える第1の刺激出力部と、第2の刺激を前記被験者に与える第2の刺激出力部と、前記第1の刺激出力部から前記被験者に向けて前記第1の刺激を与えるタイミングと、前記第2の刺激出力部から前記被験者に向けて前記第2の刺激を与えるタイミングとを設定する刺激タイミング制御部と、前記第1の刺激による前記被験者の第1の脳領野に生起される脳反応と、前記第2の刺激による前記被験者の第2の脳領野に生起される脳反応とを計測する計測部と、を有する脳反応計測システムによる脳反応計測方法であって、
前記刺激タイミング制御部が、
前記第1の刺激による前記第1の脳領野で生起される脳反応に対する前記第2の刺激による前記第1の脳領野で生起される脳反応の遅延時間δaと、前記第2の刺激による前記第2の脳領野で生起される脳反応に対する前記第1の刺激による前記第2の脳領野で生起される脳反応の遅延時間δbとに基づいて、前記第1の刺激による前記第1の脳領野の反応と、前記第2の刺激による前記第1の脳領野の反応とが重複せず、かつ、前記第2の刺激による第2の脳領野の反応と、前記第1の刺激による前記第2の脳領野の反応とが重複しない、前記第1の刺激の開始時刻及び終了時刻と、前記第2の刺激の開始時刻及び終了時刻とを算出し、
算出した前記第1の刺激の開始時刻と終了時刻とを前記第1の刺激出力部に設定し、
算出した前記第2の刺激の開始時刻と終了時刻とを前記第2の刺激出力部に設定すること
を特徴とする脳反応計測方法。
【請求項16】
第1の刺激を被験者に与える第1の刺激出力部と、第2の刺激を前記被験者に与える第2の刺激出力部と、前記第1の刺激出力部から前記被験者に向けて前記第1の刺激を与えるタイミングと、前記第2の刺激出力部から前記被験者に向けて前記第2の刺激を与えるタイミングとを設定する刺激タイミング制御部と、前記第1の刺激による前記被験者の第1の脳領野に生起される脳反応と、前記第2の刺激による前記被験者の第2の脳領野に生起される脳反応とを計測する計測部と、を有する脳反応計測システムを制御する脳反応計測プログラムであって、
前記刺激タイミング制御部に、
前記第1の刺激による前記第1の脳領野で生起される脳反応に対する前記第2の刺激による前記第1の脳領野で生起される脳反応の遅延時間δaと、前記第2の刺激による前記第2の脳領野で生起される脳反応に対する前記第1の刺激による前記第2の脳領野で生起される脳反応の遅延時間δbとに基づいて、前記第1の刺激による前記第1の脳領野の反応と、前記第2の刺激による前記第1の脳領野の反応とが重複せず、かつ、前記第2の刺激による第2の脳領野の反応と、前記第1の刺激による前記第2の脳領野の反応とが重複しない、前記第1の刺激の開始時刻及び終了時刻と、前記第2の刺激の開始時刻及び終了時刻とを算出させ、
算出させた前記第1の刺激の開始時刻と終了時刻とを前記第1の刺激出力部に設定させ、
算出させた前記第2の刺激の開始時刻と終了時刻とを前記第2の刺激出力部に設定させること
を特徴とする脳反応計測プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脳反応計測システム、脳反応計測方法及び脳反応計測プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
脳反応計測システムの1つである脳磁計(MEG:Magnetoenephalograph)は、人の脳神経活動に伴って発生する微弱な生体磁場を計測及び解析する装置である。脳反応計測システムによる生体磁場の計測では、視覚刺激及び聴覚刺激等の外部刺激により神経活動を誘発させ、神経活動により発生する磁場をセンサにより繰り返し計測して加算平均することでノイズによる影響を低減している。
【0003】
聴覚刺激の繰り返しによる被験者の覚醒度の変化に由来する聴覚事象関連電位の変動を抑制するために、映像を提示しながら聴覚刺激を提示する手法が提案されている(特許文献1)。一方、聴覚事象関連反応に視覚反応が混入することを防止するために、映像シーンの切り替わりにより映像の輝度が大きく変化した場合、所定の期間に聴覚刺激を与えない手法が提案されている(特許文献2)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般に、被験者に聴覚刺激を与えた場合、脳の聴覚野で脳反応が誘発された後、聴覚野と異なる領野で脳反応が誘発される。同様に、被験者に視覚刺激を与えた場合、脳の視覚野で脳反応が誘発された後、視覚野と異なる領野で脳反応が誘発される。聴覚野と視覚野での脳反応は、空間分解能の高い計測装置を用いることで区別することができる。
【0005】
しかしながら、脳反応の計測時間を短くするために、被験者に聴覚刺激と視覚刺激を並列に与えた場合、例えば、聴覚刺激による聴覚野の脳反応と視覚刺激による聴覚野の脳反応とが重畳するおそれがある。異なる複数の刺激による計測対象の領野の脳反応が重畳した場合、空間分解能の高い計測装置を用いても、着目する刺激に対する計測対象の脳反応を計測することができない。
【0006】
本発明は、異なる器官の刺激によりそれぞれ誘発される異なる領野の脳反応を、短時間で精度良く計測することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記技術的課題を解決するため、本発明の一形態の脳反応計測システムは、第1の刺激を被験者に与える第1の刺激出力部と、第2の刺激を前記被験者に与える第2の刺激出力部と、前記第1の刺激出力部から前記被験者に前記第1の刺激を与えるタイミングと、前記第2の刺激出力部から前記被験者に前記第2の刺激を与えるタイミングと、を設定する刺激タイミング制御部と、前記被験者の第1の脳領野に生起される脳反応と、前記被験者の第2の脳領野に生起される脳反応と、を計測する計測部と、を有する脳反応計測システムであって、前記刺激タイミング制御部は、前記第1の刺激による前記第1の脳領野で生起される脳反応に対する前記第2の刺激による前記第1の脳領野で生起される脳反応の遅延時間δaと、前記第2の刺激による前記第2の脳領野で生起される脳反応に対する前記第1の刺激による前記第2の脳領野で生起される脳反応の遅延時間δbと、に基づいて、前記第1の刺激による前記第1の脳領野の反応と、前記第2の刺激による前記第1の脳領野の反応と、が重複せず、かつ、前記第2の刺激による第2の脳領野の反応と、前記第1の刺激による前記第2の脳領野の反応と、が重複しない、前記第1の刺激の開始時刻及び終了時刻と、前記第2の刺激の開始時刻及び終了時刻とを算出し、算出した前記第1の刺激の開始時刻と終了時刻とを前記第1の刺激出力部に設定し、算出した前記第2の刺激の開始時刻と終了時刻とを前記第2の刺激出力部に設定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、異なる器官の刺激によりそれぞれ誘発される異なる領野の脳反応を、短時間で精度良く計測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】第1の実施形態における生体磁場計測システムの概略図である。
【
図2】
図1の生体磁場計測システムの機能構成の例を示すブロック図である。
【
図3】
図2の刺激タイミング制御部のハードウェア構成の例を示す図である。
【
図4】視覚野、聴覚野及び体性感覚野の空間的配置を示す図である。
【
図5】刺激S1、S2を被験者に与えるタイミングと、刺激S1、S2に応答する被験者の脳反応のタイミングの定義を示す図である
【
図6】I1>0、かつ、I2>0を満たす条件を説明する図である。
【
図7】
図6のパターン(a)の条件を満たす刺激タイミングと脳反応との例を示す図である。
【
図8】
図6のパターン(b)の条件を満たす刺激タイミングと脳反応との例を示す図である。
【
図9】
図6のパターン(c)の条件を満たす刺激タイミングと脳反応との例を示す図である。
【
図10】
図6のパターン(d)の条件を満たす刺激タイミングと脳反応との例を示す図である。
【
図11】
図6のパターン(e)の条件を満たす刺激タイミングと脳反応との例を示す図である。
【
図12】
図6のパターン(f)の条件を満たす刺激タイミングと脳反応との例を示す図である。
【
図13】
図6のパターン(g)の条件を満たす刺激タイミングと脳反応との例を示す図である。
【
図14】
図6のパターン(h)の条件を満たす刺激タイミングと脳反応との例を示す図である。
【
図15】
図1の生体磁場計測システムの動作の例を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して実施の形態の説明を行う。なお、各図面において、同一構成部分には同一符号を付し、重複した説明を省略する場合がある。
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態における生体磁場計測システム1の概略図である。生体磁場計測システム1は、脳反応計測システムの一例である。生体磁場計測システム1は、例えば、脳磁図(MEG:Magneto-encephalography)信号を計測する。生体磁場計測システム1は、計測装置3(脳磁計)と、視覚刺激装置5と、聴覚刺激装置6と、情報処理装置42、44と、情報表示システム22、24とを含む。例えば、視覚刺激装置5は、被験者に向けて映像を投影するプロジェクタを含み、聴覚刺激装置6は、音を発生するオーディオ装置を含む。視覚刺激装置5は、第1の刺激出力部の一例であり、聴覚刺激装置6は、第2の刺激出力部の一例である。
【0011】
情報処理装置42は、計測装置3を制御する。情報処理装置42に接続された情報表示システム22は、計測装置3が計測で得た磁場データの情報等と解析結果等を表示するモニタディスプレイ26を有する。ここでは、情報処理装置42と情報表示システム22が別々に描かれているが、情報処理装置42の少なくとも一部を情報表示システム22に組み込んでもよい。
【0012】
情報処理装置44は、視覚刺激装置5及び聴覚刺激装置6を制御する。情報処理装置44は、刺激を被験者に与えるタイミングを視覚刺激装置5及び聴覚刺激装置6に指示する。また、情報処理装置44は、被験者が視覚刺激装置5及び聴覚刺激装置6のそれぞれから刺激を受けるタイミングをトリガ信号TRG1、TRG2(例えば、時間情報)として情報処理装置42に出力する。トリガ信号TRG1、TRG2を受けた情報処理装置42は、計測装置3から出力される磁場データ等をトリガ信号TRG1、TRG2に紐付けて、情報処理装置42に含まれる記憶装置に格納する。トリガ信号TRG1、TRG2による同期については、後述する。
【0013】
なお、計測装置3、情報処理装置42、44、視覚刺激装置5及び聴覚刺激装置6は、ネットワークを介して相互に接続されてもよい。
【0014】
情報処理装置44に接続された情報表示システム24は、例えば、生体磁場計測システム1のオペレータにより操作されてもよい。情報表示システム24のモニタディスプレイ28には、オペレータの操作に必要な情報が表示されてもよい。なお、情報処理装置44の少なくとも一部を情報表示システム24に組み込んでもよい。情報表示システム22、24は、表示装置の一例である。
【0015】
脳磁場の計測を受ける被験者は、計測テーブル4に仰向けに横たわり、計測装置3のデュワ30の窪み31に頭部を入れる。デュワ30は、液体ヘリウムを用いた極低温環境の保持容器であり、デュワ30の窪み31の内側には脳磁計測用の多数の磁気センサが配置されている。計測装置3は、磁気センサからの脳磁信号を収集し、収集された磁場信号を情報処理装置42に出力する。計測装置3による脳磁信号の収集は、被検体に刺激を与えた状態で行われる。
【0016】
窪み31に頭部を入れた被験者は、視覚刺激装置5から投影される映像による視覚刺激を受け、耳にセットされたエアーチューブ型イヤホン7を介して聴覚刺激装置6から流れる音による聴覚刺激を受ける。例えば、視覚刺激装置5からの映像は、計測テーブル4に横たわる被験者の頭部の真上に、計測装置3側を下側に傾けて配置された図示しないスクリーンを介して被験者の目に届けられる。
【0017】
なお、視覚刺激装置5は、プロジェクタの代わりに、被験者に向けて映像を呈示する液晶ディスプレイを含んでもよい。この場合、液晶ディスプレイは、
図1の視覚刺激装置5の位置よりも計測装置3の近い側であって、磁気センサから十分に離れた位置に配置される。また、液晶ディスプレイを計測装置3に向けて配置する場合、液晶ディスプレイからの映像は、計測テーブル4に横たわる被験者の頭部の真上に、計測装置3側を下側に傾けて配置された図示しない反射ミラーを介して被験者の目に届けられてもよい。
【0018】
そして、計測装置3は、視覚刺激により視覚野で生起される脳反応により発生する磁場と、聴覚刺激により聴覚野で生起される脳反応により発生する磁場とを計測する。なお、被験者に与えられる刺激は、視覚刺激と聴覚刺激に限定されず、視覚刺激と体性感覚刺激でもよく、聴覚刺激と体性感覚刺激でもよい。視覚野は、第1の脳領野の一例であり、聴覚野は、第2の脳領野の一例である。
【0019】
脳磁信号は、脳の電気活動により生じた微小な磁場変動を表わす。計測装置3に含まれる脳磁計は、脳磁場を高感度の超伝導量子干渉素子(SQUID;Superconducting quantum interference device)センサで検知する。脳磁計は空間分解能が高く、計測したデータを信号源推定することで、複数感覚野の脳反応を空間的に分離することができる。なお、脳磁計は、光ポンピング原子磁気センサ(OPAM;Optically-Pumped Atomic Magnetometer)により脳磁場を検知してもよい。
【0020】
一般的に、磁気センサを内蔵するデュワ30と計測テーブル4は磁気シールドルーム内に配置されているが、図示の便宜上、磁気シールドルームの記載を省略している。なお、視覚刺激装置5は、磁気シールドルームの外に配置され、磁気シールドルームに設けられた窓からスクリーン又は反射ミラーに向けて映像を投影してもよい。聴覚刺激装置6も磁気シールドルームの外に配置されてもよい。また、情報処理装置44及び情報表示システム24は、オペレータが操作するため、磁気シールドルームの外に配置されることが好ましい。
【0021】
計測装置3により計測され、情報処理装置42に収録された脳磁信号等のデータは、例えば、情報表示システム22のモニタディスプレイ26に波形として表示され、オペレータ等により解析される。
【0022】
図2は、
図1の生体磁場計測システム1の機能構成の例を示すブロック図である。生体磁場計測システム1は、刺激装置10、12と、刺激タイミング制御部14と、被験者Pの脳反応を計測する計測部16とを有する。計測部16は、
図1の計測装置3、情報処理装置42及び情報表示システム22に対応する。刺激タイミング制御部14は、
図1の情報処理装置44及び情報表示システム24に対応する。
【0023】
刺激タイミング制御部14は、刺激装置10による刺激S1の開始時刻及び終了時刻と、刺激装置12による刺激S2の開始時刻及び終了時刻とを設定することで、刺激装置10、12を制御する。
【0024】
刺激装置10は、被験者Pに刺激S1を与え、刺激装置12は、被験者Pに刺激S2を与える。刺激S1は、第1の刺激の一例であり、刺激S2は、第2の刺激の一例である。特に限定されないが、以下では、刺激S1は視覚刺激であり、刺激S2は聴覚刺激であるとして説明する。この場合、刺激装置10は、視覚刺激装置5に対応し、刺激装置12は、聴覚刺激装置6に対応する。計測部16は、刺激S1、S2によりそれぞれ誘発される被験者Pの脳反応を計測する。
【0025】
刺激装置10、12から出力された刺激が被験者Pに届くまでには、刺激の伝達経路の長さ及び伝達媒体に応じたタイムラグが発生する。視覚刺激においては、プロジェクタや液晶ディスプレイのリフレッシュレートによる刺激S1の遅延が発生し、聴覚刺激においては空気伝搬による刺激S2の遅延が発生する。
【0026】
そのため、刺激が被験者Pに届くまでのタイムラグを何らかの手段で計測装置3に予め通知することが好ましい。この実施形態では、刺激タイミング制御部14は、計測部16にトリガ信号TRG1、TRG2を出力する。例えば、トリガ信号TRG1は、刺激装置10が刺激を出力してから被験者Pが刺激を受けるまでのタイムラグを示す。トリガ信号TRG2は、刺激装置12が刺激を出力してから被験者Pが刺激を受けるまでのタイムラグを示す。トリガ信号TRG1は、被験者Pが刺激S1を受けるタイミングを示す同期情報の一例であり、トリガ信号TRG2は、被験者Pが刺激S2を受けるタイミングを示す同期情報の一例である。
【0027】
計測部16は、トリガ信号TRG1に基づいて、刺激S1が被験者Pに実際に与えられた時刻を認識し、トリガ信号TRG2に基づいて、刺激S2が被験者Pに実際に与えられた時刻を認識する。これにより、計測部16は、各刺激装置10、12から刺激を被験者Pが実際に受けた時刻に合わせて、計測した磁場データの計測時刻を管理することができる。すなわち、刺激装置10、12と計測部16との時刻を同期させることができる。この結果、計測部16は、刺激装置10、12から刺激を被験者Pが受けた時刻と、計測装置3から出力される磁場データ(計測データ)等の計測時刻との関係を紐付けることができ、診断精度等を向上することができる。
【0028】
なお、刺激タイミング制御部14は、計測部16に含まれてもよい。この場合、刺激タイミング制御部14は、
図1の情報処理装置42及び情報表示システム22に対応し、生体磁場計測システム1は、情報処理装置44及び情報表示システム24を持たなくてもよい。そして、計測部16は、刺激S1の開始時刻及び終了時刻を刺激装置10に指示し、刺激S2の開始時刻及び終了時刻を刺激装置12に指示し、被験者Pからの脳反応を計測する。
【0029】
また、刺激装置10、12及び刺激タイミング制御部14が、計測部16に含まれてもよい。この場合にも、刺激タイミング制御部14は、
図1の情報処理装置42及び情報表示システム22に対応し、生体磁場計測システム1は、情報処理装置44及び情報表示システム24を持たなくてもよい。そして、計測部16は、刺激S1の開始時刻及び終了時刻と、刺激S2の開始時刻及び終了時刻とを設定し、刺激S1、S2を被験者Pに与え、被験者Pからの脳反応を計測する脳反応計測装置として機能する。
【0030】
図3は、
図2の刺激タイミング制御部14のハードウェア構成の例を示す図である。すなわち、
図3は、
図1の情報処理装置44と情報表示システム24の例を示している。なお、
図1の情報処理装置42と情報表示システム22も、
図3と同様の構成を有している。
【0031】
刺激タイミング制御部14は、CPU(Central Processing Unit:プロセッサ)61、RAM(Random Access Memory)62、ROM(Read Only Memory)63、補助記憶装置64、入出力インタフェース65、及び表示装置66を有し、これらがバス67で相互に接続されている。
【0032】
CPU61は、刺激タイミング制御部14の全体の動作を制御し、各種の情報処理を行う。CPU61は、ROM63又は補助記憶装置64に格納された脳反応計測プログラムを実行して、刺激装置10、12を制御する。RAM62は、CPU61のワークエリアとして用いられ、主要な制御パラメータや情報を記憶する不揮発RAMを含んでもよい。ROM63は、各種プログラムや各種プログラムで使用するパラメータ等を記憶する。本発明の脳反応計測プログラムもROM63に保存されてもよい。補助記憶装置64は、SSD(Solid State Drive)、HDD(Hard Disk Drive)などの記憶装置であり、例えば、刺激タイミング制御部14の動作を制御するOS(Operating System)等の制御プログラムや、刺激タイミング制御部14の動作に必要な各種のデータ、ファイル等を格納する。
【0033】
入出力インタフェース65は、タッチパネル、キーボード、表示画面、操作ボタン等のユーザインタフェースと、各種センサあるいは情報処理装置42からの情報を取り込み、他の電子機器に解析情報を出力する通信インタフェースの双方を含む。また、入出力インタフェース65は、刺激装置10、12のそれぞれに刺激の開始時刻と終了時刻とを送信し、情報処理装置42にトリガ信号TRG1、TRG2を送信する。表示装置66は
図1の情報表示システム22に対応する。
【0034】
図4は、視覚野、聴覚野及び体性感覚野の空間的配置を示す図である。
図4は、ヒトの左半球を示している。視覚野は、後頭葉の先端側に位置し、聴覚野は、側頭葉における外側溝側に位置する。体性感覚野は、頭頂葉における中心溝側に位置する。
【0035】
視覚、聴覚及び体性感覚は、いずれもヒトの基盤となる感覚であり、視覚、聴覚及び体性感覚を刺激することは、ヒトの脳の神経基盤を調べるのに有効である。また、
図4に示すように、視覚野と聴覚野と体性感覚野とは空間的に分離されているため、空間分解能の高い脳磁計においては、各刺激によって生起される脳反応から、信号源を推定し、視覚野と聴覚野と体性感覚野の反応をそれぞれ空間的に分離することができる。
【0036】
図5は、刺激S1、S2を被験者Pに与えるタイミングと、刺激S1、S2に応答する被験者Pの脳反応のタイミングの定義を示す図である。
【0037】
例えば、刺激装置10は、開始時刻t1sから終了時刻t1eまで被験者Pに刺激S1(例えば、視覚刺激)を与える。刺激S1により被験者Pの脳の第1領野(例えば、視覚野)に反応が現れ、第1領野の反応は、刺激S1の終了時刻t1eの後、時間r11(例えば、150ms)の間続く。また、刺激S1の開始時刻t1sから時間r12(例えば、200ms)後に被験者Pの脳の第2領野(例えば、聴覚野)に反応が現れる。時間r11、r12は、刺激S1に固有の時間であり、刺激S1の持続時間に依存しない時間である。また、時間r11、r12は、被験者P毎に僅かに変動する場合があるが、変動幅は小さい。
【0038】
一方、刺激装置12は、時刻t2sから時刻t2eまで被験者Pに刺激S2(例えば、聴覚刺激)を与える。刺激S2により被験者Pの脳の第2領野(例えば、聴覚野)に反応が現れ、第2領野の反応は、刺激S2の終了時刻t2eの後、時間r22(例えば、150ms)の間続く。また、刺激S2の開始時刻t2sから時間r21(例えば、200ms)後に被験者Pの脳の第1領野(例えば、視覚野)に反応が現れる。時間r21、r22は、刺激S2に固有の時間であり、刺激S2の持続時間に依存しない時間である。また、時間r21、r22は、被験者P毎に僅かに変動する場合があるが、変動幅は小さい。
【0039】
なお、
図5及び後述する
図7以降において、刺激に対する脳の各領野の反応を示す矩形は、実際には、例えば、時間とともに減衰していく波形としてモニタディスプレイ26等に表示される。
【0040】
以下では、刺激S1により第1領野で生起される脳反応により発生する磁場と、刺激S2により第2領野で生起される脳反応により発生する磁場とを同時に計測することを検討する。
【0041】
まず、刺激S1による第1領野の脳反応で発生する磁場を正しく計測するためには、刺激S1による第1領野の脳反応と、刺激S2による第1領野の脳反応とが重複してはならない。すなわち、刺激S1による第1領野の脳反応の終了時刻と、刺激S2による第1領野の脳反応の開始時刻との間を時間I1(>0)空ける必要がある。
【0042】
同様に、刺激S2による第2領野の脳反応で発生する磁場を正しく計測するためには、刺激S2による第2領野の脳反応と、刺激S1による第2領野の脳反応とを重複させてはならない。すなわち、刺激S2による第2領野の脳反応の終了時刻と、刺激S1による第2領野の脳反応の開始時刻との間を時間I2(>0)空ける必要がある。
【0043】
したがって、時間間隔I1及び時間間隔I2がともに"0"以上になるように各時刻t1s、t1e、t2s、t2eを決めることで、刺激S1による第1領野での脳反応と、刺激S2による第2領野での脳反応とを同時に計測することができる。時間間隔I1は、第1の時間間隔の一例であり、時間間隔I2は、第2の時間間隔の一例である。
【0044】
刺激S1による第1領野の反応の終了時刻は"t1e+r11"であり、刺激S2による第1領野の反応の開始時刻は"t2s+r21"であるから、時間間隔I1は式(1)により表すことができる。
I1=(t2s+r21)-(t1e+r11)
=(t2s-t1e)+(r21-r11) …(1)
【0045】
同様に、刺激S2による第2領野の反応の終了時刻は"t2e+r22"であり、刺激S1による第1領野の反応の開始時刻は"t1s+r12"であるから、時間間隔I2は式(2)により表すことができる。
I2=(t1s+r12)-(t2e+r22)
=(t1s-t2e)+(r12-r22) …(2)
【0046】
刺激S1による第1領野の脳反応で発生する磁場と、刺激S2による第2領野の脳反応で発生する磁場とを同時に計測する条件I1>0、I2>0と、式(1)、式(2)とからそれぞれ式(3)、式(4)が成立する。
(t1e-t2s)<(r21-r11) …(3)
(t2e-t1s)<(r12-r22) …(4)
【0047】
ここで、"r21-r11"を時間δaとし、"r12-r22"を時間δbとすると、式(3)、式(4)は、式(5)、式(6)となる。時間δaは、視覚刺激による視覚野で生起される脳反応に対する聴覚刺激による視覚野で生起される脳反応の遅延時間を示す。時間δbは、聴覚刺激による聴覚野で生起される脳反応に対する視覚刺激による聴覚野で生起される脳反応の遅延時間を示す。
(t1e-t2s)<δa …(5)
(t2e-t1s)<δb …(6)
【0048】
したがって、式(5)、式(6)を満足する場合、時間間隔I1>0、かつ、時間間隔I2>0を満足させることができる。換言すれば、式(5)、式(6)を満足する場合、刺激S1による第1領野の反応と、刺激S2による第1領野の反応が時間的にオーバーラップせず、かつ、刺激S2による第2領野の反応と、刺激S1による第2領野の反応が時間的にオーバーラップしない。この結果、刺激S1による第1領野の脳反応で発生する磁場と、刺激S2による第2領野の脳反応で発生する磁場とを同時に計測することができる。
【0049】
なお、時間間隔I1>0、かつ、時間間隔I2>0を満足させるためには、刺激S1、S2の持続時間は短い方がよく、刺激S1、S2の開始時刻t1s、t2sの差は少ない方がよい。但し、刺激S1、S2の継続時間は、各領野での脳反応により発生する磁場のデータの持続時間および強度を診断可能にする最小時間以上である必要がある。すなわち、刺激S1、S2の継続時間は、刺激S1による第1領野の反応を所定時間継続して得られる刺激S1の最小の継続時間と、刺激S2による第2領野の反応を所定時間継続して得られる刺激S2の最小の継続時間とをそれぞれ満足する必要がある。
【0050】
図6は、時間間隔I1>0、かつ、時間間隔I2>0を満たす条件を説明する図である。まず、刺激S1に対する刺激S2の開始時刻t2sの関係から分けられる4つの条件1により4つのグループGr(Gr1、Gr2、Gr3、Gr4)に分けられる。
【0051】
グループGr1の条件1は、開始時刻t2sが開始時刻t1sより早いことであり、グループGr2の条件1は、開始時刻t2sが開始時刻t1sと等しいことである。グループGr3の条件1は、開始時刻t2sが開始時刻t1sと等しいか遅く、かつ、終了時刻t1eより早いことである。グループGr4の条件1は、開始時刻t2sが終了時刻t1eと等しいか遅いことである。
【0052】
各グループGr1、Gr2、Gr3は、刺激S1に対する刺激S2の終了時刻t2eの関係と式(5)又は式(6)の関係とから、条件2により複数のサブグループに分けられる。グループGr1は、3つのサブグループを有し、グループGr2、Gr3は、それぞれ2つのサブグループを有し、グループGr4は、1つのサブグループを有する。
【0053】
そして、各グループGrの条件1と各グループGr内のサブグループの条件2とをともに満たすことで、時間間隔I1>0、かつ、時間間隔I2>0を満たす刺激S1、S2の設定仕様(パターン(a)~パターン(h))を決定することができる。8つのパターン(a)~パターン(h)は、時間間隔I1>0、かつ、時間間隔I2>0を満たす条件を網羅している。
【0054】
図7~
図14は、
図6の各パターン(a)~(h)の条件を満たす刺激S1、S2と、刺激S1、S2に応答する脳反応との例を示す図である。
【0055】
図7は、
図6のパターン(a)の条件を満たす刺激タイミングと脳反応との例を示し、
図8は、
図6のパターン(b)の条件を満たす刺激タイミングと脳反応との例を示す。
図9は、
図6のパターン(c)の条件を満たす刺激タイミングと脳反応との例を示し、
図10は、
図6のパターン(d)の条件を満たす刺激タイミングと脳反応との例を示す。
図11は、
図6のパターン(e)の条件を満たす刺激タイミングと脳反応との例を示し、
図12は、
図6のパターン(f)の条件を満たす刺激タイミングと脳反応との例を示す。そして、
図13は、
図6のパターン(g)の条件を満たす刺激タイミングと脳反応との例を示し、
図14は、
図6のパターン(h)の条件を満たす刺激タイミングと脳反応との例を示す。
【0056】
図7~
図14では、時間r11、r22を150msとし、時間r12、r21を200msとしている。時間r11、r22の150ms及び時間r12、r21の200msは、標準的な被験者Pの脳反応に基づいて設定された値である。この場合、時間δa、δbは、ともに50msになる。つまり、δa=50ms、δb=50msと設定することは、多くの被験者Pにとって、種類の異なる刺激に対する脳反応を効率的に計測できるシステムとなるため、望ましい。また、視覚刺激である刺激S1と聴覚刺激である刺激S2との組み合わせは、体性感覚刺激などと比べて脳反応が生じるまでの時間が長く、着目する領野での反応の持続時間も長い。このため、本発明による計測効率化の効果が高く、好ましい組み合わせである。
【0057】
また、
図7~
図14では、一例として、刺激S1を開始してから第1領野の反応が出るまでの時間を30msとし、刺激S2を開始してから第2領野に反応が出るまでの時間を50msとしている。刺激から反応が出るまでの時間は、脳領野毎に固有である。例えば、視覚刺激を開始してから視覚野に反応が出るまでの時間は30~50ms程度であり、聴覚刺激を開始してから聴覚野に反応が出るまでの時間は50ms程度であり、体性感覚刺激を開始してから体性感覚野に反応が出るまでの時間は、20ms程度である。
【0058】
すなわち、
図7~
図14は、時間δa、δbをともに50msにした場合に、式(5)、式(6)を満たす刺激S1の開始時刻t1s及び終了時刻t1eと、刺激S2の開始時刻t2s及び終了時刻t2eの例が示されている。
【0059】
なお、時間δa、δbは、50msに限定されず、互いの値が相違してもよい。時間δa、δbは、刺激タイミング制御部14に予め入力される。なお、刺激に対する被験者Pの脳反応を計測する前に、被験者Pに対してあらかじめ所定の視覚刺激及び聴覚刺激を与え、視覚野及び聴覚野で生起される脳反応を計測することで、被験者Pに固有の時間δa、δbを特定してもよい。
【0060】
すなわち、刺激タイミング制御部14は、刺激の種類及び被験者Pの特性の一方又は両方に応じて決められる遅延時間δa及び遅延時間δbに基づいて、開始時刻t1s、終了時刻t1e、開始時刻t2s、終了時刻t2eを算出してもよい。これにより、被験者P個々の脳反応の特性に合わせて、時間δa、δbを設定することができ、時間間隔I1、I2を確実に"0"より大きくすることができる。
【0061】
図6に示した8つのパターン(a)~(h)のいずれかを用いて刺激S1、S2を被験者Pに与えることで、
図7~
図14に例示するように、視覚刺激と聴覚刺激とを同時に被験者Pに与える場合にも、視覚野での脳反応と聴覚野での脳反応とをそれぞれ計測できる。すなわち、聴覚刺激による視覚野での脳反応と、視覚刺激による聴覚野での脳反応とが出る期間を避けつつ、視覚刺激による視覚野の脳反応と、聴覚刺激による聴覚野の脳反応とを独立して精度良く検出できる。
【0062】
これにより、視覚野での脳反応と聴覚野での脳反応とを別々に計測する場合に比べて、脳反応の計測時間(すなわち、検査時間)を短縮することができる。したがって、異なる器官の刺激によりそれぞれ誘発される異なる領野の脳反応を、短時間で精度良く計測することができる。この結果、脳反応の計測による被験者Pの疲労を軽減することができる。
【0063】
ところで、刺激を被験者Pに与える時間(持続時間)が長いほど、長時間に渡って脳反応を誘発し続けることができ、より明瞭な脳反応を計測できる。パターン(d)、(e)に示すように、刺激S1、S2の開始時刻t1s、t2sを同じ時刻に設定することで、時間間隔I1>0、かつ、時間間隔I2>0を満足しながら、刺激の持続時間を他のパターンに比べて長くすることができる。これにより、長時間にわたって脳反応を誘発し続けることができ、より明瞭な脳反応を精度よく計測することができる。そのため、パターン(d)、(e)は、他のパターンに比べて、刺激の開始タイミングとして好ましい。また、刺激の持続時間は、時間間隔I1>0、かつ、時間間隔I2>0を満足する範囲で、できるだけ長い方が好ましい。
【0064】
なお、脳反応を計測しやすくするために下記の点を考慮して刺激の条件を設定してもよい。視覚刺激による視覚野の脳反応を検出しやすくするために、視覚刺激で与える映像の輝度は少なくとも20cd/m2以上であることが好ましい。同様に聴覚刺激による聴覚野の脳反応を検出しやすくするために、聴覚刺激で与える音は、45dBから65dBの範囲であることが好ましい。なお、これらは一例であって、他の条件に設定されてもよい。
【0065】
さらに、刺激の持続時間中に刺激のパターンを周期的に変化させてもよい。例えば、視覚刺激では、千鳥格子状の映像パターンにおいて、格子により区画される複数の矩形領域の輝度を周期的に反転してもよい。また、聴覚刺激では、被験者Pに与える音の周波数又は音量を周期的に変化させてもよい。さらに、刺激の持続時間は、制約条件の中で可能な限り長く設定することが好ましい。
【0066】
次に、好ましい無刺激時間について説明する。ここで、無刺激時間とは、脳反応の計測後、次の刺激を被験者Pに与えるまでの期間(刺激を与えない期間)である。
【0067】
一般に、視覚刺激、聴覚刺激又は体性感覚刺激を被験者Pに与えてから300ms後に事象関連電位P300と呼ばれる特徴的な脳反応が発生することが知られている。事象関連電位P300は、脳磁場にも影響を及ぼす。このため、1試行目の視覚刺激及び聴覚刺激によるその脳反応と、2試行目の視覚刺激及び聴覚刺激の脳反応とが重畳されることを避けるため、各試行の前に少なくとも300msの無刺激時間を挿入することが好ましい。
【0068】
また、常に一定の無刺激時間を挿入すると、刺激の開始タイミングが毎試行で揃い、計測装置3は、その周期性を反映した電気的ノイズ等が重畳された磁場情報を計測することになる。この場合、加算平均してもノイズ成分が減衰せず、あたかも脳反応が発生しているかのように検出されてしまう。そこで、無刺激時間を所定の時間範囲でランダムに変更し、刺激タイミングに起因したノイズの発生タイミングをずらすことで、加算平均によりノイズ成分を減衰させることができ、脳反応をより精度良く検出することができる。一例として、脳反応が消えてベースラインに戻るまでの時間を長めに見積もって500ms、基線補正区間を200msとして、700ms~1000ms程度の間で無刺激時間をランダムに変化させることが好ましい。ここで、基線補正区間とは、脳磁計の複数の磁気センサの基準電位を合わせるために必要な期間である。
【0069】
図15は、
図1の生体磁場計測システム1の動作の例を示すフロー図である。すなわち、
図15は、生体磁場計測システム1による脳反応計測方法及び生体磁場計測システム1を制御する脳反応計測プログラムの例を示している。ステップS10、S12、S14の動作は、
図2の刺激タイミング制御部14による処理を示し、ステップS16の動作は、
図2の刺激装置10、12による処理を示す。ステップS18、S20の動作は、
図2の計測部16による処理を示す。
【0070】
まず、ステップS10において、刺激タイミング制御部14は、遅延時間δa、δbを入力する。遅延時間δa、δbの入力は、情報処理装置44及び情報表示システム24を操作するオペレータにより行われてもよく、ネットワーク等を介しての転送により行われてもよい。
【0071】
次に、ステップS12において、刺激タイミング制御部14は、
図5及び
図6で説明したように、遅延時間δa、δbに基づいて、刺激S1の開始時刻t1s、終了時刻t1eと、刺激S2の開始時刻t2s、終了時刻t2eとを算出する。また、刺激タイミング制御部14は、複数群の開始時刻t1s、終了時刻t1e、開始時刻t2s、終了時刻t2eを算出により得た場合、複数群の開始時刻t1s、終了時刻t1e、開始時刻t2s、終了時刻t2eのいずれかを選択する。
【0072】
例えば、刺激タイミング制御部14は、算出した複数群の時刻t1s、t1e、t2s、t2eのうち、
図5に示した時間間隔I1、I2を最大化する時刻t1s、t1e、t2s、t2eを選択してもよい。この際、刺激タイミング制御部14は、刺激S1による視覚野の反応を所定時間継続させる刺激S1の最小の継続時間と、刺激S2による聴覚野の反応を所定時間継続させる刺激S2の最小の継続時間とを満足するように、時間間隔I1、I2を最大化してもよい。ここで、最大化とは、時間間隔I1、I2の一方のみを最大にすることではなく、時間間隔I1、I2の両方を最大にすることを示す。
【0073】
時間間隔I1、I2がそれぞれ大きいほど、着目する刺激に対する脳領野の反応を、着目しない刺激に対する脳領野の反応と区別しやすくなる。また、計測する各領野の反応が所定時間継続するように、刺激S1、S2の最小時間を設定することで、所望の計測時間を確保することができる。この結果、より明瞭な脳反応を精度よく計測することができる。
【0074】
さらに、刺激タイミング制御部14は、算出した複数群の時刻t1s、t1e、t2s、t2eを
図1のモニタディスプレイ28に表示してもよい。そして、刺激タイミング制御部14は、情報処理装置44を操作するオペレータ等に情報表示システム24のマウス等の入力装置を介して、複数群の時刻t1s、t1e、t2s、t2eのいずれかの群を選択させてもよい。刺激タイミング制御部14は、オペレータ等が選択した時刻t1s、t1e、t2s、t2eを、刺激装置10、12への設定対象にしてもよい。これにより、着目する脳領野の脳反応をより明瞭に計測できる時刻t1s、t1e、t2s、t2eを、オペレータの意志に基づいて選択することができる。
【0075】
次に、ステップS14において、刺激タイミング制御部14は、ステップS12で選択した刺激S1の開始時刻t1s、終了時刻t1eを刺激装置10に設定し、刺激S2の開始時刻t2s、終了時刻t2eを刺激装置12に設定する。
【0076】
次に、ステップS16において、刺激装置10は、設定された開始時刻t1s、終了時刻t1eにしたがって刺激S1を被験者Pに出力し、刺激装置12は、設定された開始時刻t2s、終了時刻t2eにしたがって刺激S2を被験者Pに出力する。
【0077】
次に、ステップS18において、計測部16は、着目する複数の脳領野において刺激S1、S2により誘発された脳反応(脳磁場)を計測する。次に、ステップS20において、計測部16は、例えば、脳磁場データの加算平均をするために計測を続ける場合、処理をステップS14に戻し、加算平均に必要な所定数の試行を行った場合、計測動作を終了する。なお、処理がステップS14に戻る場合、刺激タイミング制御部14は、少なくとも300msの無刺激時間を挿入することが好ましい。
【0078】
以上、各実施形態に基づき本発明の説明を行ってきたが、上記実施形態に示した要件に本発明が限定されるものではない。これらの点に関しては、本発明の主旨をそこなわない範囲で変更することができ、その応用形態に応じて適切に定めることができる。
【符号の説明】
【0079】
1 生体磁場計測システム
3 計測装置
5 視覚刺激装置
6 聴覚刺激装置
7 エアーチューブ型イヤホン
10、12 刺激装置
14 刺激タイミング制御部
16 計測部
22、24 情報表示システム
26、28 モニタディスプレイ
30 デュワ
31 窪み
42、44 情報処理装置
61 CPU
62 RAM
63 ROM
64 補助記憶装置
65 入出力インタフェース
66 表示装置
67 バス
P 被験者
t1s、t2s 開始時刻
t1e、t2e 終了時刻
δa、δb 遅延時間
【先行技術文献】
【特許文献】
【0080】
【文献】特許第5352029号
【文献】特許第5249478号