(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-14
(45)【発行日】2022-11-22
(54)【発明の名称】パワー半導体装置を製造する方法、熱プレス用シート及び熱プレス用熱硬化性樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
H01L 21/52 20060101AFI20221115BHJP
H01L 25/07 20060101ALI20221115BHJP
H01L 25/18 20060101ALI20221115BHJP
【FI】
H01L21/52 C
H01L25/04 C
(21)【出願番号】P 2019539510
(86)(22)【出願日】2018-08-28
(86)【国際出願番号】 JP2018031678
(87)【国際公開番号】W WO2019044798
(87)【国際公開日】2019-03-07
【審査請求日】2021-07-30
(31)【優先権主張番号】P 2017163407
(32)【優先日】2017-08-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018131435
(32)【優先日】2018-07-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】昭和電工マテリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100169454
【氏名又は名称】平野 裕之
(74)【代理人】
【識別番号】100140578
【氏名又は名称】沖田 英樹
(72)【発明者】
【氏名】小関 裕太
(72)【発明者】
【氏名】本田 一尊
【審査官】小池 英敏
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-121648(JP,A)
【文献】特開2017-045996(JP,A)
【文献】国際公開第2013/100174(WO,A1)
【文献】国際公開第2011/058999(WO,A1)
【文献】特開2014-135411(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/52
H01L 25/07-25/18
H01L 21/60-21/603
H05K 3/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配線基板及び該配線基板に搭載されたパワー半導体素子を備えるパワー半導体装置を製造する方法であって、
絶縁基板及び該絶縁基板上に設けられた配線層を有する配線基板と電極を有するパワー半導体素子と金属粒子を含む焼結材とを有する積層体であって、前記パワー半導体素子が前記配線層と前記電極とが対向するように配置され、対向する前記配線層と前記電極との間に前記焼結材が介在している、積層体を、ステージ及び圧着ヘッドで挟
み前記ステージと前記圧着ヘッドとによって荷重を加える熱プレスによって加熱及び加圧し、それにより、前記焼結材の焼結により形成された焼結金属層を介して前記配線層と前記電極とを電気的に接続する工程を備え、
前記配線層と前記電極とを電気的に接続する前記工程において、前記積層体と前記圧着ヘッドとの間に、熱硬化性樹脂層を有する熱プレス用シートを介在させた状態で、前記積層体が加熱及び加圧される、
方法。
【請求項2】
前記熱硬化性樹脂層が、(メタ)アクリレート化合物、及び重合禁止剤を含有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記配線層と前記電極とを電気的に接続する前記工程において、それぞれ1つの前記パワー半導体素子を有する複数の前記積層体が、又は、1つの前記配線基板上に配置された複数の前記パワー半導体素子を有する1つ又は複数の前記積層体が、1組の前記ステージ及び前記圧着ヘッドで挟むことによって加熱及び加圧される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
熱硬化性樹脂層を有する熱プレス用シートであって、
絶縁基板及び該絶縁基板上に設けられた配線層を有する配線基板と電極を有するパワー半導体素子と金属粒子を含む焼結材とを有する積層体であって、前記パワー半導体素子が前記配線層と前記電極とが対向するように配置され、対向する前記配線層と前記電極との間に前記焼結材が介在している、積層体を、ステージ及び圧着ヘッドで挟
み前記ステージと前記圧着ヘッドとによって荷重を加える熱プレスによって加熱及び加圧し、それにより、前記焼結材の焼結により形成された焼結金属層を介して前記配線層と前記電極とを電気的に接続する工程において、前記積層体と前記圧着ヘッドとの間に介在させるために用いられる、熱プレス用シート。
【請求項5】
前記熱硬化性樹脂層の厚みが20μm以上である、請求項4に記載の熱プレス用シート。
【請求項6】
前記熱硬化性樹脂層の片面上又は両面上に設けられた離型シートを更に有する、請求項4又は5に記載の熱プレス用シート。
【請求項7】
前記熱硬化性樹脂層が、(メタ)アクリレート化合物、及び重合開始剤を含有する、請求項4~6のいずれか一項に記載の熱プレス用シート。
【請求項8】
前記熱硬化性樹脂層が、(メタ)アクリレート化合物、及び重合禁止剤を含有する、請求項4~6のいずれか一項に記載の熱プレス用シート。
【請求項9】
前記熱硬化性樹脂層が、エポキシ化合物、及びその硬化剤を更に含有する、請求項7又は8に記載の熱プレス用シート。
【請求項10】
熱硬化性樹脂を含有し、請求項4~6のいずれか一項に記載の熱プレス用シートの熱硬化性樹脂層を形成するために用いられる、熱プレス用熱硬化性樹脂組成物。
【請求項11】
前記熱硬化性樹脂として(メタ)アクリレート化合物を含有し、重合開始剤を更に含有する、請求項10に記載の熱プレス用熱硬化性樹脂組成物。
【請求項12】
前記熱硬化性樹脂として(メタ)アクリレート化合物を含有し、重合禁止剤を更に含有する、請求項10に記載の熱プレス用熱硬化性樹脂組成物。
【請求項13】
前記熱硬化性樹脂としてエポキシ化合物を更に含有し、前記エポキシ化合物の硬化剤を更に含有する、請求項10~12のいずれか一項に記載の熱プレス用熱硬化性樹脂組成物。
【請求項14】
溶剤を更に含有する、請求項10~13のいずれか一項に記載の熱プレス用熱硬化性樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パワー半導体装置を製造する方法、パワー半導体装置を製造するために用いられる熱プレス用シート及び熱プレス用シートを形成するために用いられる熱プレス用熱硬化性樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
パワー半導体素子を配線基板に搭載して、パワー半導体素子が導電材料によって配線基板に接続されたパワー半導体装置を製造する場合、一般に、パワー半導体素子は、熱プレスによって1個ずつ加熱及び加圧される工程を経て配線基板に搭載される。パワー半導体装置は、高温領域での使用が想定されるため、パワー半導体素子の電極と配線基板とを電気的に接続する導電材料として、金属粒子を含み高い耐熱性を有する焼結材が適用されることがある(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、金属粒子を含む焼結材を介してパワー半導体素子を配線基板に搭載する場合、接続部分の一部に剥離が生じる、焼結材の焼結により形成される焼結金属層の一部が疎になる等の不具合が生じることがあった。特に、複数のパワー半導体素子を含む積層体を一括して加熱及び加圧すると、複数のパワー半導体素子のうち高い割合で、接続信頼性が不足するという問題があった。そのため、複数のパワー半導体素子を一括して配線基板に搭載する工程を含む方法によって、十分な接続信頼性を有するパワー半導体装置を安定して生産することは、実際には非常に困難であった。
【0005】
そこで本発明の一側面の目的は、金属粒子を含む焼結材を介してパワー半導体素子を配線基板に搭載する場合において、パワー半導体素子を高い接続信頼性で配線基板に搭載できる方法を提供することにある。また、本発明は、係る方法に用いられる熱プレス用シート、及び熱プレス用シートを形成するために用いられる熱プレス用熱硬化性樹脂組成物も提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一側面は、配線基板及び該配線基板に搭載されたパワー半導体素子を備えるパワー半導体装置を製造する方法に関する。本発明の一側面に係る方法は、絶縁基板及び該絶縁基板上に設けられた配線層を有する配線基板と電極を有するパワー半導体素子と金属粒子を含む焼結材とを有する積層体であって、パワー半導体素子が配線層と電極とが対向するように配置され、対向する配線層と電極との間に焼結材が介在している、積層体を、ステージ及び圧着ヘッドで挟むことによって加熱及び加圧し、それにより、焼結材の焼結により形成された焼結金属層を介して配線層と電極とを電気的に接続する工程を備える。上記工程において、積層体と圧着ヘッドとの間に、熱硬化性樹脂層を有する熱プレス用シートを介在させた状態で、積層体が加熱及び加圧される。熱硬化性樹脂層は、熱硬化性樹脂を含む樹脂層である。
【0007】
配線基板及びパワー半導体素子を有する積層体を、積層体と圧着ヘッドとの間に熱硬化性樹脂層を有する熱プレス用シートを介在させた状態で加熱及び加圧することによって、パワー半導体素子を高い接続信頼性で配線基板に搭載することができる。
【0008】
熱硬化性樹脂層が、(メタ)アクリレート化合物、及び重合禁止剤を含有してもよい。重合禁止剤の含有量が、(メタ)アクリレート化合物の含有量100質量部に対して、0.01~10質量部であってもよい。
【0009】
(メタ)アクリレート化合物を含有する熱硬化性樹脂層を有する熱プレス用シートを、長期間保存した後に用いると、熱プレスによって安定してパワー半導体装置が製造し難くなることがあった。上記方法によれば、熱プレス用シートを長期に保存した後であっても、安定してパワー半導体装置を製造することができる。
【0010】
配線層と電極とを電気的に接続する上記工程において、それぞれ1つの半導体パワー素子を有する複数の積層体が、又は、1つの配線基板上に配置された複数のパワー半導体素子を有する1つ又は複数の積層体が、1組のステージ及び圧着ヘッドで挟むことによって加熱及び加圧されてもよい。
【0011】
配線基板上に焼結材を介して配置された複数のパワー半導体素子を含む積層体を、一括して加熱及び加圧することにより、複数のパワー半導体素子を同時に配線基板に搭載することができれば、パワー半導体装置を高い効率で製造できることができる。複数のパワー半導体素子を一括して接続する場合、それらパワー半導体素子に均一に圧力が加わらず、圧力の偏りに起因して、パワー半導体素子の一部において接続状態に不具合が生じ易いという問題がある。そのような場合であっても、熱硬化性樹脂層を有する熱プレス用シートを用いることにより、圧力の偏りが緩和されて、十分な接続信頼性を有するパワー半導体装置を安定して製造することができる。
【0012】
本発明の別の一側面は、熱硬化性樹脂層を有する熱プレス用シートに関する。この熱プレス用シートは、上記方法において、積層体と圧着ヘッドとの間に介在させるために用いられる。言い換えると、本発明の別の一側面は、熱硬化性樹脂層を有するシートの、上記方法において積層体と圧着ヘッドとの間に介在させるための応用、又は、上記方法において積層体と圧着ヘッドとの間に介在させることによってパワー半導体装置を製造するための応用に関する。
【0013】
熱硬化性樹脂層の厚みが20μm以上であってもよい。
【0014】
熱プレス用シートは、熱硬化性樹脂層の片面上又は両面上に設けられた離型シートを更に有していてもよい。
【0015】
熱硬化性樹脂層が、熱硬化性樹脂として(メタ)アクリレート化合物を含有し、熱硬化性樹脂層が重合開始剤を更に含有してもよい。熱硬化性樹脂層が、熱硬化性樹脂として(メタ)アクリレート化合物を含有し、熱硬化性樹脂層が重合禁止剤を更に含有してもよい。熱硬化性樹脂層が、熱硬化性樹脂としてエポキシ化合物を含み、熱硬化性樹脂層がエポキシ化合物の硬化剤を更に含有してもよい。
【0016】
本発明の更に別の一側面は、熱硬化性樹脂を含有し、上記熱プレス用シートの熱硬化性樹脂層を形成するために用いられる、熱プレス用熱硬化性樹脂組成物に関する。言い換えると、本発明の更に別の一側面は、熱硬化性樹脂を含有する熱硬化性樹脂組成物の、上記熱プレス用シートの熱硬化性樹脂層を形成するための応用に関する。熱硬化性樹脂組成物が、熱硬化性樹脂として(メタ)アクリレート化合物を含有し、熱硬化性樹脂組成物が重合開始剤を更に含有してもよい。熱硬化性樹脂組成物が、熱硬化性樹脂としてエポキシ化合物を含有し、熱硬化性樹脂組成物がエポキシ化合物の硬化剤を更に含有してもよい。この熱硬化性樹脂組成物は、溶剤を更に含有してもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、パワー半導体素子を高い接続信頼性で配線基板に搭載することができる。特に、複数のパワー半導体素子を一括して配線基板に搭載する場合であっても、接続状態のバラつきを抑制しながら高い接続信頼性でパワー半導体装置を製造することができる。例えば、1つの配線基板上に複数のパワー半導体素子を搭載する場合、パワー半導体素子の高さがパワー半導体素子ごとに異なるため、それらを一括して加熱及び加圧すると圧力の偏りを生じ易いが、そのような場合でも、本発明の熱プレス用シートを用いた方法によれば、配線基板上の複数のパワー半導体素子を高い接続信頼性で一括して搭載することができる。1つの配線基板上においてパワー半導体素子を1つずつ加熱及び加圧すると、生産性が低いことに加えて、加熱及び加圧されるパワー半導体素子の周囲にも熱が伝わり、これがパワー半導体素子を接続する焼結金属層の特性に影響を及ぼすという問題もある。本発明の方法によれば、そのような問題を回避することもできる。
【0018】
本発明のいくつかの側面によれば、金属粒子を含む焼結材を介してパワー半導体素子を配線基板に搭載されたパワー半導体装置を、(メタ)アクリレート化合物を含有する熱硬化性樹脂層を有する熱プレス用シートを用いて製造する場合において、熱プレス用シートを長期に保存した後であっても安定した製造を可能にする方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】パワー半導体装置を製造する方法の一実施形態を示す断面図である。
【
図2】パワー半導体装置を製造する方法の一実施形態を示す断面図である。
【
図3】パワー半導体装置を製造する方法の一実施形態を示す断面図である。
【
図4】一実施形態に係るパワー半導体装置の断面図である。
【
図5】一実施形態に係る熱プレス用シートの断面図である。
【
図6】実施例1-1の半導体素子搭載基板の超音波観察により得られた断面像である。
【
図7】比較例1-1の半導体素子搭載基板の超音波観察により得られた断面像である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を適宜参照しながら、本発明の実施形態について説明する。但し、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。以下の実施形態において、その構成要素(要素ステップ等も含む)は、特に明示した場合を除き、必須ではない。数値及びその範囲についても同様であり、本発明を制限するものではない。また、各図における部材の大きさは概念的なものであり、部材間の大きさの相対的な関係はこれに限定されない。
【0021】
本明細書において「工程」との語には、他の工程から独立した工程に加え、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の目的が達成されれば、当該工程も含まれる。
本明細書において「~」を用いて示された数値範囲には、「~」の前後に記載される数値がそれぞれ最小値及び最大値として含まれる。
本明細書において組成物中の各成分の含有量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数種存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数種の物質の合計の含有量を意味する。
本明細書において組成物中の各成分の粒径は、組成物中に各成分に該当する粒子が複数種存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数種の粒子の混合物についての値を意味する。
本明細書において「層」との語には、当該層が存在する領域を観察したときに、当該領域の全体に形成されている場合に加え、当該領域の一部にのみ形成されている場合も含まれる。
【0022】
パワー半導体装置を製造する方法
図1、
図2及び
図3は、パワー半導体装置を製造する方法の一実施形態を示す断面図である。
図1~3に示す方法は、それぞれ1つのパワー半導体素子を含む複数の積層体を、1組のステージ及び圧着シートで挟むことによって一括して加熱及び加圧することを含む。
【0023】
まず、
図1に示すように、絶縁基板11及び該絶縁基板11上に設けられた配線層13を有する配線基板10を準備し、配線層13上に焼結材50Aを供給する。
【0024】
次いで、
図2に示すように、素子本体21と素子本体21の一方の主面である裏面上に設けられた電極23とを有するパワー半導体素子20を、配線層13と電極23とが対向するように焼結材50A上に配置し、それにより積層体1Aを形成する。積層体1Aにおいて、対向する配線層13と電極23との間に焼結材50Aが介在している。
【0025】
次いで、
図3に示すように、ステージ41上に複数の積層体1Aを配置し、複数の積層体1Aと圧着ヘッド43との間に、熱硬化性樹脂層を有する熱プレス用シート3を介在させる。この状態で、複数の積層体1Aを1組のステージ41及び圧着ヘッド43で同時に挟むことによって加熱及び加圧する。加熱及び加圧によって焼結材50Aが焼結して焼結金属層を形成する。加熱及び加圧の過程で、熱プレス用シート3の熱硬化性樹脂層は、通常、一旦ある程度流動性を有する状態になった後、硬化する。加熱及び加圧の後、熱プレス用シート3は取り除かれる。この方法によって、複数のパワー半導体素子を、一度の加熱及び加圧によって一括して配線基板に搭載することができる。
【0026】
図4は、上記方法によって得られるパワー半導体装置の一実施形態を示す断面図である。
図4に示すパワー半導体装置1は、電極23を有するパワー半導体素子20、配線層13を有する配線基板10、及び焼結材から形成された焼結金属層50を備えている。パワー半導体素子20の電極23と配線基板10の配線層13とが焼結金属層50を介して電気的に接続されている。パワー半導体素子20が空隙の少ない密な焼結金属層50により配線基板10と電気的に接続されているため、パワー半導体装置1は優れた熱伝導性及び接続信頼性を有する。
【0027】
1つの配線基板に搭載されるパワー半導体素子の数は、特に制限されない。1つの配線基板に搭載されるパワー半導体素子の数が、生産効率の観点からは、2個以上、又は3個以上であってもよく、パワー半導体装置の構成上の要請から6個以上であってもよい。1つの配線基板に複数のパワー半導体素子が搭載される場合、1つの配線基板及び複数のパワー半導体素子を有する積層体を1つずつ加熱及び加圧してもよいし、複数の該積層体を一括して加熱及び加圧してもよい。本実施形態の方法による効果は、一括して搭載されるパワー半導体素子の数が多いほど顕著である。1つの配線基板に搭載されるパワー半導体素子の個数の上限は、特に制限されないが、例えば50個以下であってもよい。
【0028】
焼結材の焼結により形成される焼結金属層は、焼結の際に加えられる圧力が不足すると、空隙率が高くなって接続信頼性を低下させる傾向がある。複数の積層体を一括して加熱及び加圧する場合、焼結材及び配線基板の厚みのバラつき、高温下での配線基板の反り、又は、圧着ヘッドの歪み及び傾き等の要因によって圧力にある程度偏りが生じ得る。この圧力の偏りのために、パワー半導体素子を接続する焼結金属層の空隙率が高くなる、すなわち疎になると考えられる。焼結材に加わる圧力の偏りを、熱硬化性樹脂層を有する熱プレス用シートによって緩和することで、空隙率の低い密な焼結金属層が安定して形成される。その結果、複数のパワー半導体素子を高い接続信頼性で一括して配線基板に搭載することができると考えられる。1つの配線基板上に1つのパワー半導体素子を有する1つの積層体のみを加熱及び加圧し、パワー半導体素子の電極と配線基板の配線層とを電気的に接続する場合であっても、1つの積層体の面内で圧力の偏りが生じることがある。そのため、熱プレス用シートを用いた方法が、接続信頼性の向上に寄与することができる。
【0029】
配線基板
配線基板10は、絶縁基板11及び絶縁基板11上に設けられた配線層13を有する。絶縁基板11の種類は特に制限されない。例えば、FR4、FR5等の繊維基材を含む有機基板;繊維基材を含まないビルドアップ型の有機基板;ポリイミド、ポリエステル等の有機樹脂フィルム;及び、セラミック、アルミナ、ガラス、シリコン等の無機材料を含む基板から、絶縁基板11を選択することができる。特に、絶縁基板11が、パワー半導体装置に要求される耐熱性及び耐衝撃性の点で優れたセラミック基板であってもよい。
【0030】
配線層13は、通常、接続用の電極を含む導体配線である。配線層13は、例えば、セミアディティブ法、サブトラクティブ法等の手法により形成される。焼結材の種類によっては、配線層13に対して銀、金、又はニッケルなどの金属めっきが施されていてもよい。
【0031】
焼結材
焼結材50Aは、金属粒子を含み、一般にペースト状である。金属粒子の粒径は、例えば100nm以下であってもよい。焼結材としては、例えば銅粒子を含む銅ペースト、又は銀粒子を含む銀ペーストを用いることができる。銀ペーストから形成される焼結金属層50は銀粒子が凝集して形成された焼結体(銀バルク)を含む。銀バルクを含む焼結金属層は、2次実装の際に再溶融し難いため、安定した接続の点で特に優れている。
【0032】
焼結材50Aを配線層13上に塗工することにより、配線層13上に焼結材50Aを供給することができる。焼結材を塗工する方法の例としては、塗工部分に開口を形成しているメタルマスク又はメッシュ状マスクを用いる方法、ディスペンサを用いて必要部分に塗工する方法、及び、塗工部分に開口を形成しているパターンを撥水性樹脂によって形成し、その開口部分に焼結材を塗工する方法がある。撥水性樹脂は、例えばシリコーン又はフッ素を含む樹脂である。撥水性樹脂のパターンは、例えば、必要部分に開口を形成しているメタルマスク又はメッシュ状マスクを用いて撥水性樹脂を塗工する方法、感光性の撥水性樹脂を露光及び現像する方法、又は、配線基板に塗工された撥水性樹脂の一部をレーザーにより除去する方法によって形成することができる。これらの塗工方法は、接合する電極の面積、形状に応じて組み合わせることが可能である。
【0033】
積層体の加熱及び加圧
積層体を加熱及び加圧する際の、ステージ上に配置される積層体の数は、特に制限されない。生産効率の観点からは、ステージ上に配置される積層体の数が2個以上、3個以上、又は5個以上であってもよい。本実施形態の製造方法による効果は、一括して加熱及び加圧する積層体の数が多いほど顕著である。ステージ上に配置される積層体の個数の上限は、特に制限されないが、例えば100個以下であってもよい。
【0034】
積層体の加熱及び加圧の条件は、焼結材から空隙率の小さい焼結金属層が形成されれば、特に制限されない。
【0035】
積層体の加熱温度は、特に制限されないが、例えば、150℃以上、又は250℃以上であってもよく、380℃以下、又は250℃以下であってもよい。このような加熱温度にすることで、効率的に焼結材を焼結させることができる。この加熱温度は、通常、ステージ又は圧着ヘッドの温度である。
【0036】
積層体を加圧する圧力は、特に制限されないが、例えば、10MPa以上、又は2MPa以上であってもよく、50MPa以下、又は10MPa以下であってもよい。このような圧力で積層体を加圧することで、空隙の少ない焼結金属層を効率的に形成できる傾向がある。
【0037】
積層体を加熱及び加圧する際の雰囲気は、特に制限されないが、水素、ギ酸を含んだ還元雰囲気、又は窒素などの非酸化雰囲気でもよい。
【0038】
熱プレス用シート
図5は、一実施形態に係る熱プレス用シートを示す断面図である。
図5に示す熱プレス用シート3は、熱硬化性樹脂層31と、熱硬化性樹脂層31の両面上に設けられた離型シート33a,33bとを有する。熱硬化性樹脂層31は、熱硬化性樹脂を含有する熱硬化性樹脂組成物をシート状に成形したものである。熱硬化性樹脂層31又はこれを形成するための熱硬化性樹脂組成物は、熱硬化性樹脂の硬化のための重合開始剤、硬化剤又はこれらの両方を含有していてもよい。熱硬化性樹脂組成物が、必要によりその他の成分を更に含んでいてもよい。離型シートが熱硬化性樹脂層31の片面上に設けられていてもよい。
【0039】
熱硬化性樹脂層31の厚みは、高さの異なるパワー半導体素子に追従できる厚みの観点から、例えば、20μm以上、又は40μm以上であってもよい。熱硬化性樹脂層31の厚みは、成膜性の観点から、例えば、300μm以下、又は200μm以下であってもよい。離型シート33a,33bを含む熱プレス用シート3の厚みは、例えば、50μm~400μmであってもよい。
【0040】
熱硬化性樹脂
熱硬化性樹脂は、架橋構造体を形成して熱硬化性樹脂層を硬化させる反応性の官能基を有する化合物である。熱硬化性樹脂の例としては、(メタ)アクリレート化合物、エポキシ化合物、ビスマレイミド化合物、シアネート化合物、及びフェノール化合物が挙げられる。熱硬化性樹脂層の粘度及び熱硬化性樹脂組成物の硬化物の熱膨張率の観点から、熱硬化性樹脂が(メタ)アクリレート化合物、エポキシ化合物、ビスマレイミド化合物、及びフェノール化合物からなる群より選択される少なくとも1種を含んでもよく、(メタ)アクリレート化合物、エポキシ化合物、及びビスマレイミド化合物からなる群より選択される少なくとも1種を含んでもよい。硬化速度の観点から、熱硬化性樹脂が(メタ)アクリレート化合物及びエポキシ化合物からなる群より選択される少なくとも1種を含んでもよい。これらの熱硬化性樹脂は、1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0041】
熱硬化性樹脂組成物における熱硬化性樹脂の含有量は、特に制限されない。充分な硬化性を得る観点からは、熱硬化性樹脂の含有量は、例えば、熱硬化性樹脂組成物の質量を基準として、5質量%以上、又は10質量%以上であってもよい。熱硬化性樹脂組成物の流動性の観点からは、熱硬化性樹脂の含有量は、例えば、熱硬化性樹脂組成物の質量を基準として、70質量%以下、又は60質量%以下であってもよい。
【0042】
本明細書において、熱硬化性樹脂組成物の質量又は体積を基準として決定される各成分の含有量は、熱硬化性樹脂組成物が溶剤を含む場合であっても、固形分の質量、又は、熱硬化性樹脂組成物に含まれる溶剤以外の成分の合計の質量を基準として計算される値である。
【0043】
ここで、熱硬化性樹脂組成物の固形分とは、水分及び後述する溶剤等の揮発分以外の成分を指す。固形分は、25℃付近の室温で液状、又はワックス状のものも含み、必ずしも固体ではない。本明細書において、揮発分(すなわち水分及び溶剤)とは、沸点が大気圧下200℃以下である物質を意味する。
【0044】
熱硬化性樹脂層31及びこれを形成するための熱硬化性樹脂組成物は、熱硬化性樹脂として(メタ)アクリレート化合物を含有してもよい。(メタ)アクリレート化合物は、アクリレート基、メタクリレート基又はこれらの両方を有する。(メタ)アクリレート化合物は、特に制限はなく、通常用いられる(メタ)アクリレート化合物から適宜選択することができる。(メタ)アクリレート化合物は、(メタ)アクリレート基を1個有する単官能(メタ)アクリレート、(メタ)アクリレート基を2個以上有する多官能(メタ)アクリレート化合物、又はこれらの組み合わせであることができる。「(メタ)アクリレート基」は、メタクリレート基又はアクリレート基を意味する。
【0045】
(メタ)アクリレート化合物の例としては、エリスリトールポリ(メタ)アクリレート、グリシジルエーテル基を有する(メタ)アクリレート化合物、ビスフェノールAに由来するジオール単位を有するジ(メタ)アクリレート化合物、シクロデカン基を有するジ(メタ)アクリレート化合物、メチロール(メタ)アクリレート、グリコールジ(メタ)アクリレート、ジオキサン基を有するジ(メタ)アクリレート化合物、ビスフェノールFに由来するジオール単位を有する(メタ)アクリレート化合物、ジメチロール(メタ)アクリレート、イソシアヌル酸ジ(メタ)アクリレート、及びトリメチロールトリ(メタ)アクリレートが挙げられる。(メタ)アクリレート化合物が、トリメチロールトリ(メタ)アクリレート、イソシアヌル酸ジ(メタ)アクリレート化合物、ビスフェノールFに由来するジオール単位を有する(メタ)アクリレート化合物、シクロデカン基を有するジ(メタ)アクリレート化合物、及びグリシジルエーテル基を有する(メタ)アクリレート化合物からなる群より選択される少なくとも1種を含んでもよい。これらの(メタ)アクリレート化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0046】
熱硬化性樹脂層及びこれを形成するための熱硬化性樹脂組成物における(メタ)アクリレート化合物の含有量は、特に制限されないが、充分な硬化性を得る観点からは、熱硬化性樹脂層の質量、又は熱硬化性樹脂組成物の固形分の質量に対して、例えば、5質量%以上、又は10質量%以上であってもよい。(メタ)アクリレート化合物の含有量は、熱硬化性樹脂層の流動性の観点からは、熱硬化性樹脂層の質量、又は熱硬化性樹脂組成物の固形分の質量に対して、例えば、70質量%以下、又は60質量%以下であってもよい。
【0047】
熱硬化性樹脂の硬化開始温度は、焼結材の焼結温度よりも低くてもよい。熱硬化性樹脂の硬化開始温度が焼結材の焼結温度よりも低いと、積層体を加熱及び加圧する際の、パワー半導体素子と配線基板に加わる圧力の偏りが抑制され易い傾向がある。
【0048】
熱プレス用シートがステージ及び圧着ヘッドによる熱プレスに用いられる前に、熱硬化性樹脂層に含まれる熱硬化性樹脂(例えば(メタ)アクリレート化合物)の硬化反応がある程度進行していてもよい。これにより、パワー半導体素子の厚み等のばらつきが大きくなった場合にも、荷重不均一性の解消の点でより一層顕著な効果が得られる。例えば、熱硬化性樹脂層を形成するための乾燥条件の調整、又は、熱処理若しくは紫外線照射により、熱硬化性樹脂層の硬化反応をある程度進行させることができる。
【0049】
熱硬化性樹脂層の硬化反応の進行の程度は、熱硬化性樹脂層の溶融粘度に基づいて見積もることができる。具体的には、熱硬化性樹脂層の25℃から180℃の領域における最低溶融粘度が1000~100000Pa・sであってもよい。最低溶融粘度が1000以上であると、荷重不均一性を解消するために変形した熱プレス用シートにおいて、熱硬化性樹脂層が過度に流動せずに形状を保持し易い。最低溶融粘度が100000以下であると、熱プレス用シートが荷重の不均一性を解消するように変形し易い傾向がある。同様の観点から、熱硬化性樹脂層の25℃から180℃の領域における最低溶融粘度が5000~50000Pa・s、又は10000~30000Pa・sであってもよい。熱硬化性樹脂層の最低溶融粘度は、5%の振り角、周波数1Hz、昇温速度10℃/分の条件で熱硬化性樹脂層の粘度(複素粘性率)を測定したときの、粘度(複素粘性率)の最小値である。粘度(複素粘性率)は、例えばレオメータ(動的粘弾性測定装置、装置名:MCR301、(株)アントンパール・ジャパン製)を用いて測定することができる。
【0050】
重合開始剤(ラジカル重合開始剤)
熱硬化性樹脂層及びこれを形成するための熱硬化性樹脂組成物が、熱硬化性樹脂として(メタ)アクリレート化合物を含む場合、(メタ)アクリレート化合物の重合反応を促進するため、熱硬化性樹脂層及び熱硬化性樹脂組成物がラジカル重合開始剤を含有してもよい。ラジカル重合開始剤は、典型的には熱ラジカル重合開始剤であるが、光ラジカル重合開始剤であってもよい。ラジカル重合開始剤が、熱ラジカル重合開始剤と光ラジカル重合開始剤との組み合わせであってもよい。
【0051】
熱ラジカル重合開始剤としては、例えば、ケトンパーオキサイド、ハイドロパーオキサイド、ジアシルパーオキサイド、ジアルキルパーオキサイド、パーオキシケタール、アルキルパーエステル(パーオキシエステル)、及びパーオキシカーボネートが挙げられる。これらのラジカル重合開始剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0052】
ケトンパーオキサイドの具体例としては、メチルエチルケトンパーオキサイド、メチルイソブチルケトンパーオキサイド、アセチルアセトンパーオキサイド、シクロヘキサノンパーオキサイド、及びメチルシクロヘキサノンパーオキサイドが挙げられる。
【0053】
ハイドロパーオキサイドの具体例としては、1,1,3,3-テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、t-ブチルハイドロパーオキサイド、p-メンタンハイドロパーオキサイド、及びジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイドが挙げられる。
【0054】
ジアシルパーオキサイドの具体例としては、ジイソブチリルパーオキサイド、ビス-3,5,5-トリメチルヘキサノールパーオキサイド、ジラウロイルパーオキサイド、ジベンゾイルパーオキサイド、m-トルイルベンゾイルパーオキサイド、及びコハク酸パーオキサイドが挙げられる。
【0055】
ジアルキルパーオキサイドの具体例としては、ジクミルパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ビス(t-ブチルペルオキシ)ヘキサン、1,3-ビス(t-ブチルペルオキシイソプロピル)ヘキサン、t-ブチルクミルパーオキサイド、ジ-t-ブチルパーオキサイド、ジ-t-ヘキシルパーオキサイド、及び2,5-ジメチル-2,5-ビス(t-ブチルペルオキシ)ヘキシン-3が挙げられる。
【0056】
パーオキシケタールの具体例としては、1,1-ビス(t-ヘキシルパーオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、1,1-ビス(t-ヘキシルパーオキシ)シクロヘキサン、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)-2-メチルシクロヘキサン、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、2,2-ビス(t-ブチルパーオキシ)ブタン、及び4,4-ビス(t-ブチルパーオキシ)ペンタン酸ブチルが挙げられる。
【0057】
アルキルパーエステル(パーオキシエステル)の具体例としては、1,1,3,3-テトラメチルブチルペルオキシネオデカノエート、α-クミルペルオキシネオデカノエート、t-ブチルペルオキシネオデカノエート、t-ヘキシルペルオキシネオデカノエート、t-ブチルペルオキシネオヘプタノエート、t-ヘキシルペルオキシピバレート、t-ブチルペルオキシピバレート、1,1,3,3-テトラメチルブチルペルオキシ-2-エチルヘキサノエート、t-アミルペルオキシ-2-エチルヘキサノエート、t-ブチルペルオキシ-2-エチルヘキサノエート、t-ブチルペルオキシイソブチレート、ジ-t-ブチルペルオキシヘキサヒドロテレフタレート、1,1,3,3-テトラメチルブチルペルオキシ-3,5,5-トリメチルヘキサネート、t-アミルペルオキシ3,5,5-トリメチルヘキサノエート、t-ブチルペルオキシ-3,5,5-トリメチルヘキサノエート、t-ブチルペルオキシアセテート、t-ブチルペルオキシベンゾエート、ジブチルペルオキシトリメチルアジペート、2,5-ジメチル-2,5-ジ-2-エチルヘキサノイルペルオキシヘキサン、t-ヘキシルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、t-ヘキシルペルオキシイソプロピルモノカーボネート、t-ブチルペルオキシラウレート、t-ブチルペルオキシイソプロピルモノカーボネート、t-ブチルペルオキシ-2-エチルヘキシルモノカーボネート、及び2,5-ジメチル-2,5-ジ-ベンゾイルペルオキシヘキサンが挙げられる。
【0058】
パーオキシカーボネートの具体例としては、ジ-n-プロピルパーオキシジカーボネート、ジイソプロピルパーオキシカーボネート、ジ-4-t-ブチルシクロヘキシルパーオキシカーボネート、ジ-2-エチルヘキシルパーオキシカーボネート、ジ-sec-ブチルパーオキシカーボネート、ジ-3-メトキシブチルパーオキシジカーボネート、ジ-2-エチルヘキシルパーオキシジカーボネート、ジイソプロピルオキシジカーボネート、t-アミルパーオキシイソプロピルカーボネート、t-ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキシルカーボネート、及び1,6-ビス(t-ブチルパーオキシカルボキシロキシ)ヘキサンが挙げられる。
【0059】
熱ラジカル重合開始剤は、硬化性の観点から、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)シクロヘキサン等のシクロヘキサン型の過酸化物を含んでもよい。
【0060】
光ラジカル重合開始剤は、アルキルフェノン構造を有する化合物であってもよい。その市販品の例として、IRGACURE 651、IRGACURE 184、IRGACURE 1173、IRGACURE 2959、IRGACURE 127、IRGACURE 907、IRGACURE 369、IRGACURE 379EGが挙げられる。分子内にオキシムエステルを有する化合物のIRGACURE OXE01、IRGACURE OXE02(いずれもBASF社製、商品名(「IRGACURE」は登録商標))、N-1919((株)ADEKA製)、リン元素を含有するIRGACURE 819、LUCIRIN TPO(いずれもBASF社製、商品名(「LUCIRIN」は登録商標))も使用することが可能である。光ラジカル重合開始剤は、単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。光ラジカル重合開始剤は、増感剤と組み合わせて使用してもよい。
【0061】
ラジカル重合開始剤の含有量は、熱硬化性樹脂層又は熱硬化性樹脂組成物100質量部に対して、0.01~10質量部、又は0.1~5質量部であってもよい。
【0062】
熱硬化性樹脂層及びこれを形成するための熱硬化性樹脂組成物におけるラジカル重合開始剤の含有量は、(メタ)アクリレート化合物の含有量100質量部に対して、0.0~10質量部、又は0.1~5質量部であってもよい。
【0063】
重合禁止剤
熱硬化性樹脂層及びこれを形成するための熱硬化性樹脂組成物が、熱硬化性樹脂として(メタ)アクリレート化合物を含む場合、熱硬化性樹脂層及び熱硬化性樹脂組成物が重合禁止剤を更に含有してもよい。熱硬化性樹脂層及び熱硬化性樹脂組成物が、(メタ)アクリレート化合物。ラジカル重合開始剤及び重合禁止剤を含有してもよい。(メタ)アクリレート化合物は、後述のラジカル重合開始剤の有無にかかわらず、保存時に熱、酸素等の影響によりラジカル重合することがあり、これがパワー半導体装置製造の安定性に影響する可能性がある。(メタ)アクリレート化合物に重合禁止剤を組み合わせることにより、パワー半導体装置製造の安定性が向上すると考えられる。重合禁止剤は、ラジカル重合に対して重合禁止効果があればよく、特に制限はない。重合禁止剤は、例えば、フェノール系、リン系、若しくはチオエーテル系の重合禁止剤、又はこれらの組み合わせであってもよい。
【0064】
フェノール系の重合禁止剤としては、例えばペンタエリスリチル-テトラキス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、3,9-ビス{2-[3-(3-t-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオニルオキシ]-1,1-ジメチルエチル}2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン、オクタデシル-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、1,6-ヘキサンジオール-ビス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,3,5-トリメチル-2,4,6-トリス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)ベンゼン、2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール、2,6-ジ-t-ブチル-4-エチルフェノール、2,6-ジフェニル-4-オクタデシロキシフェノール、ステアリル(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、ジステアリル(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)ホスホネート、チオジエチレングリコールビス[(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、4,4’-チオビス(6-t-ブチル-m-クレゾール)、2-オクチルチオ-4,6-ジ(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェノキシ)-s-トリアジン、2,2’-メチレンビス(4-メチル-6-t-ブチル-6-ブチルフェノール)、2,-2’-メチレンビス(4-エチル-6-t-ブチルフェノール)、ビス[3,3-ビス(4-ヒドロキシ-3-t-ブチルフェニル)ブチリックアシッド]グリコールエステル、4,4’-ブチリデンビス(6-t-ブチル-m-クレゾール)、2,2’-エチリデンビス(4,6-ジ-t-ブチルフェノール)、2,2’-エチリデンビス(4-s-ブチル-6-t-ブチルフェノール)、1,1,3-トリス(2-メチル-4-ヒドロキシ-5-t-ブチルフェニル)ブタン、ビス[2-t-ブチル-4-メチル-6-(2-ヒドロキシ-3-t-ブチル-5-メチルベンジル)フェニル]テレフタレート、1.3.5-トリス(2,6-ジメチル-3-ヒドロキシ-4-t-ブチルベンジル)イソシアヌレート、1,3,5-トリス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)-2,4,6-トリメチルベンゼン、1,3,5-トリス[(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシエチル]イソシアヌレート、テトラキス[メチレン-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、2-t-ブチル-4-メチル-6-(2-アクリロイルオキシ-3-t-ブチル-5-メチルベンジル)フェノール、3,9-ビス(1,1-ジメチル-2-ヒドロキシエチル)-2,4-8,10-テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン-ビス[β-(3-t-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオネート]、トリエチレングリコールビス[β-(3-t-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオネート]、1,1’-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、2,2’-メチレンビス(4-メチルー6-t-ブチルフェノール)、2,2’-メチレンビス(4-エチルー6-t-ブチルフェノール)、2,2’-メチレンビス(6-(1-メチルシクロヘキシル)-4-メチルフェノール)、4,4’-ブチリデンビス(3-メチルー6-t-ブチルフェノール)、3,9-ビス(2-(3-t-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニルプロピオニロキシ)1,1-ジメチルエチル)-2,4,8,10-テトラオキサスピロ(5,5)ウンデカン、4,4’-チオビス(3-メチルー6-t-ブチルフェノール)、4,4’-ビス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)サルファイド、4,4’-チオビス(6-t-ブチル-2-メチルフェノール)、2,5-ジ-t-ブチルヒドロキノン、2,5-ジ-t-アミルヒドロキノン、2-t-ブチル-6-(3-t-ブチル-2-ヒドロキシ-5-メチルベンジル)―4-メチルフェニルアクリレート、2,4-ジメチルー6-(1-メチルシクロヘキシル、スチレネイティッドフェノール、及び2,4-ビス((オクチルチオ)メチル)-5-メチルフェノールが挙げられる。フェノール系の重合禁止剤は、ヒンダードフェノール系の重合禁止剤であってもよい。
【0065】
リン系の重合禁止剤としては、例えば、ビス-(2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェニル)ペンタペンタエリスリトールジホスファイト、トリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニルホスファイト)、テトラキス(2,4-ジ-t-ブチル-5-メチルフェニル)-4,4’-ビフェニレンジホスホナイト、3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジルホスホネート-ジエチルエステル、ビス-(2,6-ジクミルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、2,2-メチレンビス(4,6-ジ-t-ブチルフェニル)オクチルホスファイト、トリス(モノ又はジ-ノニルフェニルホスファイト)、ビス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ペンタペンタエリスリトール-ジ、-ホスファイト、ビス(2,6-ジ-t-ブチル-4-メトキシカルボニルエチル-フェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、及びビス(2,6-ジ-t-ブチル-4-オクタデシルオキシカルボニルエチル-フェニル)ペンタエリスリトールジホスファイトが挙げられる。
【0066】
チオエーテル系の重合禁止剤としては、例えば、ジラウリル3,3’-チオジプロピオネート、ビス(2-メチルー4-(3-n-ドデシル)チオプロピオニルオキシ)-5-t-ブチルフェニル)スルフィド、ジステアリル-3,3’-チオジプロピオネート、及びペンタエリスリトール-テトラキス(3-ラウリル)チオプロピオネートが挙げられる。
【0067】
以上例示された重合禁止剤から選ばれる1種又は2種以上を組みわせて用いることができる。
【0068】
熱硬化性樹脂層及びこれを形成するための熱硬化性樹脂組成物における重合禁止剤の含有量は、(メタ)アクリレート化合物の含有量100質量部に対して、0.01~10質量部、又は0.1~5質量部であってもよい。重合禁止剤の含有量が、(メタ)アクリレート化合物の含有量100質量部に対して、0.01質量部以上、又は0.1質量部以上であってもよく、10質量部以下、又は5質量部以下であってもよい。重合禁止剤の含有量がこの範囲にあると、重合反応速度を確保しながら、熱プレス用シートの十分な保存安定性が得られ易い。
【0069】
エポキシ化合物
熱硬化性樹脂層及びこれを形成するための熱硬化性樹脂組成物が、熱硬化性樹脂としてエポキシ化合物を含有してもよい。エポキシ化合物は、1分子中に2個以上のエポキシ基を有する化合物である。例えば、電子部品の製造のために一般的に使用されているエポキシ化合物を用いることができる。エポキシ化合物としては、例えば、ビスフェノール化合物のジグリシジルエーテルであるビスフェノール型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、線状脂肪族エポキシ樹脂、及び脂環族エポキシ樹脂が挙げられる。これらのエポキシ樹脂は、1種単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。反応性及び耐熱性の観点からは、エポキシ化合物が、ビスフェノール型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂又はこれらの組み合わせを含んでもよい。
【0070】
ビスフェノール型エポキシ樹脂を誘導するビスフェノール化合物の例としては、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールAD、ビスフェノールS、ナフタレンジオール、及び水添ビスフェノールAが挙げられる。ビスフェノール型エポキシ樹脂は、これらビスフェノール化合物とエピクロルヒドリンとの反応により得られる化合物であってもよい。
【0071】
ノボラック型エポキシ樹脂は、ノボラック樹脂のグリシジルエーテルであってもよい。ノボラック樹脂は、例えば、フェノール化合物とアルデヒド化合物とを縮合又は共重合させて得られる。ノボラック型エポキシ樹脂は、オルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂であってもよい。
【0072】
グリシジルエステル型エポキシ樹脂は、フタル酸、ダイマー酸等の多塩基酸のグリシジルエステルである。グリシジルエステル型エポキシ樹脂は、例えば多塩基酸とエピクロルヒドリンとの反応により得られる。
【0073】
グリシジルアミン型エポキシ樹脂は、p-アミノフェノール、ジアミノジフェニルメタン、イソシアヌル酸等のアミン化合物のアミノ基に結合したグリシジル基を有する化合物である。グリシジルアミン型エポキシ樹脂は、例えば、アミン化合物とエピクロルヒドリンとの反応により得られる。
【0074】
線状脂肪族エポキシ樹脂は、直鎖又は分岐オレフィン化合物のオレフィン結合の酸化により形成されたエポキシ基を有する化合物であってもよい。オレフィン結合は、過酢酸等の過酸で酸化され得る。
【0075】
エポキシ化合物は、25℃で固体又は液体であってもよい。固体のエポキシ化合物と液体のエポキシ化合物とを併用してもよい。熱硬化性樹脂組成物の粘度を低くする観点からは、エポキシ化合物が液状のエポキシ化合物であってもよい。
【0076】
硬化剤
熱硬化性樹脂層及びこれを形成するための熱硬化性樹脂組成物が、熱硬化性樹脂としてエポキシ化合物を含有する場合、熱硬化性樹脂層及び熱硬化性樹脂組成物が、エポキシ化合物を硬化させる硬化剤を含有してもよい。硬化剤は、特に制限されず、通常用いられる硬化剤から選択することができる。硬化剤は25℃で固体又は液体であってもよい。固体の硬化剤と液体の硬化剤とを併用してもよい。短時間での硬化の観点からは、硬化剤が少なくとも1種の酸無水物を含んでもよい。
【0077】
エポキシ化合物と硬化剤との当量比(エポキシ基と反応する官能基当量)は特に制限されない。各成分の未反応分を少なくする観点からは、例えば、エポキシ化合物に対して硬化剤が0.1当量~2.0当量、0.5当量~1.25当量、又は0.8当量~1.2当量であってもよい。
【0078】
硬化促進剤
熱硬化性樹脂層及びこれを形成するための熱硬化性樹脂組成物が、熱硬化性樹脂としてエポキシ化合物を含む場合、熱硬化性樹脂層及び熱硬化性樹脂組成物が、エポキシ化合物と硬化剤との硬化反応を促進する硬化促進剤を更に含有してもよい。硬化促進剤としては、例えば、リン系硬化促進剤、アミン系硬化促進剤、イミダゾール系硬化促進剤、及びグアニジン系硬化促進剤が挙げられる。硬化促進剤が、リン系硬化促進剤、アミン系硬化促進剤、及びイミダゾール系硬化促進剤から選ばれる少なくとも1種であってもよい。硬化促進剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0079】
硬化促進剤の含有量は、エポキシ化合物と硬化剤の固形分(又は溶剤以外の成分)の合計を100質量%としたとき、0.05~3質量%であってもよい。
【0080】
熱可塑性樹脂
熱硬化性樹脂層及びこれを形成するための熱硬化性樹脂組成物は、熱可塑性樹脂を含有していてもよい。熱可塑性樹脂としては、例えば、アクリル樹脂、スチレン樹脂、ブタジエン樹脂、イミド樹脂、及びアミド樹脂が挙げられる。これらの熱可塑性樹脂は、1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0081】
熱可塑性樹脂は、例えば、重合性単量体をラジカル重合によって生成する重合体であることができる。この熱硬化性樹脂は、重合性単量体に由来する単量体単位を含む。重合性単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ベンジル等の(メタ)アクリル酸エステル;ジアセトン(メタ)アクリルアミド等の(メタ)アクリルアミド;スチレン、ビニルトルエン、α-メチルスチレン等のスチレン又はスチレン誘導体;ビニル-n-ブチルエーテル等のビニルアルコールのエーテル;マレイン酸;マレイン酸モノメチル、マレイン酸モノエチル等のマレイン酸モノエステル;フマル酸;ケイ皮酸;イタコン酸;及びクロトン酸が挙げられる。これらの重合性単量体は、1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。熱可塑性樹脂は、(メタ)アクリレート化合物として例示された少なくとも1種の化合物のブロック共重合により形成されたアクリル系ブロック共重合体であってもよい。
【0082】
熱可塑性樹脂として、市販品を用いてもよい。その例としては、(株)クラレ製の「クラリティのLAシリーズ(LA-2140、LA-2250、LA-2330、LA-4285」が挙げられる。
【0083】
本明細書において「(メタ)アクリル酸」とは、アクリル酸又はメタクリル酸を意味し、「(メタ)アクリルアミド」とは、アクリルアミド又はメタクリルアミドを意味する。
【0084】
熱可塑性樹脂の重量平均分子量は、成膜性及び流動性の観点から、例えば、5000~1000000、又は20000~500000であってもよい。
【0085】
本明細書における重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により測定され、標準ポリスチレンを用いて作成した検量線により換算された値を意味する。GPCの条件を以下に示す。
ポンプ:L-6000型((株)日立製作所製、商品名)
カラム:Gelpack GL-R420+Gelpack GL-R430+Gelpack GL-R440(計3本)(日立化成(株)製、商品名)
溶離液:テトラヒドロフラン(THF)
測定温度:40℃
流速:2.05mL/分
検出器:L-3300型RI((株)日立製作所製、商品名)
【0086】
熱硬化性樹脂組成物が熱可塑性樹脂を含有する場合、熱可塑性樹脂の含有量は、例えば、熱硬化性樹脂組成物の質量に対して1~70質量%、又は5~50質量%であってもよい。熱可塑性樹脂の含有量が1質量%以上であると、熱硬化性樹脂組成物の成膜性が向上する傾向にある。熱可塑性樹脂の含有量が70質量%以下であると、硬化性が向上し、パワー半導体素子と配線基板との接合性が向上する傾向にある。
【0087】
無機充填材
熱硬化性樹脂層及びこれを形成するための熱硬化性樹脂組成物は、少なくとも1種の無機充填材を含有していてもよい。無機充填材は、例えば、シリカ(溶融シリカ、結晶シリカ等)、炭酸カルシウム、クレー、アルミナ(酸化アルミナ等)、窒化珪素、炭化珪素、窒化ホウ素、珪酸カルシウム、チタン酸カリウム、窒化アルミニウム、ベリリア、ジルコニア、ジルコン、フォステライト、ステアタイト、スピネル、ムライト、及びチタニア等から選ばれる無機材料を含む、粒子又は球形粒子を含んでもよい。無機充填材がガラス繊維を含んでもよい。これらの無機充填材は、1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0088】
無機充填材の体積平均粒径は、例えば、0.01~15.0μm、又は0.3~5.0μmであってもよい。体積平均粒径が0.01μm以上であると、無機充填材の添加量に基づいて、熱硬化性樹脂組成物の粘度を容易に調整できる。体積平均粒径が15.0μm以下であると、熱プレス用シートの凹凸追従性を損なうことなく、硬化性の調整及び硬化物の弾性率を制御できる傾向にある。
【0089】
本明細書において「体積平均粒径」とは、レーザー回折式粒度分布測定装置を用いて得られる体積累積分布曲線において、小径側から累積50%となる粒子径(D50)を意味する。
【0090】
熱硬化性樹脂層及びこれを形成するための熱硬化性樹脂組成物が無機充填材を含有する場合、無機充填材の含有量は、例えば、熱硬化性樹脂層、又はこれを形成するための熱硬化性樹脂組成物の質量を基準として、5~90質量%、20~85質量%、又は60~85質量%であってもよい。無機充填材の含有量が30質量%以上であると、熱膨張係数の低減効果が大きくなる傾向にあり、且つ、耐湿信頼性が向上する傾向にある。無機充填材の含有量が80質量%以下であると、無機充填材の添加による、熱硬化性樹脂層の成形性及び粉落ちなどの影響を抑えることができる傾向にある。
【0091】
無機充填材の含有量は、熱硬化性樹脂層、又はこれを形成するための熱硬化性樹脂組成物の体積を基準として、1~80体積%、又は30~70体積%であってもよい。熱硬化性樹脂組成物中における無機充填材の体積基準の含有率は、以下の(i)、(ii)、(iii)、及び(iv)を含む方法によって測定される。
(i)25℃における熱硬化性樹脂組成物の質量(Wc)を測定する。その熱硬化性樹脂組成物を空気中400℃で2時間、次いで700℃で3時間熱処理し、樹脂分を燃焼して除去する。残存した無機充填材の25℃における質量(Wf)を測定する。
(ii)電子比重計又は比重瓶を用いて、無機充填材の25℃における比重(df)を求める。
(iii)電子比重計又は比重瓶を用いて、熱硬化性樹脂組成物の25℃における比重(dc)を測定する。
(iv)(式1)により、熱硬化性樹脂組成物の体積(Vc)及び残存した無機充填材の体積(Vf)を求める。これらから無機充填材の体積比率(Vr)を求める。
(式1)
Vc=Wc/dc
Vf=Wf/df
Vr=Vf/Vc
Vc:熱硬化性樹脂組成物の体積(cm3)、Wc:熱硬化性樹脂組成物の質量(g)
dc:熱硬化性樹脂組成物の密度(g/cm3)
Vf:無機充填材の体積(cm3)、Wf:無機充填材の質量(g)
df:無機充填材の密度(g/cm3)
Vr:無機充填材の体積比率
【0092】
その他の成分
熱硬化性樹脂層及びこれを形成するための熱硬化性樹脂組成物は、必要に応じてその他の成分を含有していてもよい。その他の成分としては、カップリング剤、着色剤、溶剤、界面活性剤、イオントラップ剤等を挙げることができる。熱硬化性樹脂層及び熱硬化性樹脂組成物が、光カチオン重合開始剤又は光アニオン重合開始剤を含有してもよい。
【0093】
熱硬化性樹脂組成物は、少なくとも1種の溶剤を含有してもよい。溶剤を含む熱硬化性樹脂組成物は、熱硬化性樹脂層を形成するためのワニスとして用いることができる。熱硬化性樹脂組成物のワニスを用いることで、良好な作業性で熱硬化性樹脂層を形成することができる。この溶剤としては、例えば、メチルエチルケトン、キシレン、トルエン、アセトン、エチレングリコールモノエチルエーテル、シクロヘキサノン、エチルエトキシプロピオネート、N,N-ジメチルホルムアミド、及びN,N-ジメチルアセトアミドが挙げられる。これらの溶剤は、1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0094】
熱硬化性樹脂組成物における溶剤の含有量は特に制限されない。例えば、樹脂シートを作製する設備に合わせてその含有量が調整される。
【0095】
熱硬化性樹脂組成物のワニスは、例えば、熱硬化性樹脂組成物の成分を前述の溶剤中で混合して、得ることができる。ワニスを離型シート上に塗工し、塗膜から溶剤を除去する、又は塗膜を乾燥する方法によって、熱硬化性樹脂層を形成してもよい。
【0096】
離型シート
離型シート33a,33bは、積層体の加熱及び加圧の後、圧着ヘッド及び積層体に貼りつかない程度の離型性を有するシートである。離型シート33a,33bは、容易な離型のためには設けられる。ただし、例えば熱硬化性樹脂層31自体が硬化後に離型性を有する場合、離型シート33a,33bが設けられていなくてもよい。離型シート33a,33bとしては、例えば、ポリエチレンフィルム、ポリ塩化ビニル等のポリオレフィンフィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリイミドフィルム等の有機樹脂フィルム;離型紙;銅箔、アルミニウム箔等の金属箔が挙げられる。離型層付き有機樹脂フィルム、離型層付き金属箔も使用できる。離型シート33a,33bは、耐熱性の観点からポリイミドフィルム、又は、銅箔及びアルミニウム箔等の金属箔であってもよい。
【0097】
熱プレスシートの作製方法
熱プレス用シート3は、例えば、上述した熱硬化性樹脂を含む熱硬化性樹脂組成物のワニスを離型シート33a上に塗工し、塗工された熱硬化性樹脂組成物のワニスを乾燥して熱硬化性樹脂層31を形成することと、熱硬化性樹脂層31上に離型シート33bを積層することとを含む方法により、得ることができる。
【0098】
離型シート33aへのワニスの塗工は、通常の方法により実施することができる。具体的には、コンマコート、ダイコート、リップコート、グラビアコート等の方法が挙げられる。
【0099】
離型シート33aに塗工されたワニスの乾燥は、ワニスに含まれる溶剤の少なくとも一部を除去できれば特に制限されず、通常用いられる乾燥方法から適宜選択することができる。ワニスを用いる方法に代えて、光反応によって流動性が低下する熱硬化性樹脂組成物を離型シート33aに塗工し、塗工された熱硬化性樹脂組成物に紫外線を照射してもよい。
【実施例】
【0100】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0101】
実施例1-1
(1)熱硬化性樹脂組成物の調製
攪拌機を備えたフラスコに、熱可塑性樹脂としてアクリル系ブロック共重合体((株)クラレ製、商品名「LA4285」)を196.6g、熱硬化性樹脂としてトリメチロールプロパントリアクリレート(日立化成(株)製、商品名「TMPT21」)を98.32g入れた。次いで、重合開始剤として1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)シクロヘキサン(日油(株)製、商品名「パーヘキサC」)1.5g、無機充填材としてシリカ粒子((株)アドマテックス製、商品名「SE2050」、体積平均粒径:0.5μm)を843.6g、溶剤としてメチルエチルケトン288.5gを加え、これらを攪拌して混合し、熱硬化性樹脂組成物のワニスを得た。
【0102】
(2)熱プレス用シートの作製
得られた熱硬化性樹脂組成物のワニスを、離型シートとしてのポリイミドフィルム(東レ・デュポン(株)製、商品名「カプトン100H」、平均厚み:25μm)に塗工した。塗工された熱硬化性樹脂組成物を70℃の乾燥機で10分間の加熱により乾燥して、ポリイミドフィルム上に平均厚み40μmの熱硬化性樹脂層を形成させた。熱硬化性樹脂層上に上記と同じポリイミドフィルムを重ね、ホットロールラミネーターを用いて100℃、0.5MPa、1.0m/分の条件で貼り合わせた。以上の手順により、ポリイミドフィルム、熱硬化性樹脂層及びポリイミドフィルムを有し、これらがこの順に積層された熱プレス用シートAを得た。
【0103】
(3)焼結材の作製
ジプロピレングリコールメチルエーテルアセテート((株)ダイセル工業製、略称「DPMA」)12質量部、イソボルニルシクロヘキサノール(日本テルペン化学(株)製、略称「MTPH」)12質量部、及びステアリン酸0.88質量部を、らいかい機を用いて10分間混練し、液状成分を得た。得られた液状成分に、リン片状銀粒子(福田金属箔粉工業(株)製、商品名「AgC-239」)44質量部と球状銀粒子(メタロー・テクノロジー社製、商品名「K-0082P」)44質量部を加えた。混合物をらいかい機を用いて15分間混練し、銀ペーストを得た。
【0104】
(4)接続性評価用の半導体素子搭載基板
銀めっきが施された銅板上にメタルマスクを設置した。メタルマスクの上から、銀ペーストをスキージにより塗り広げ、それにより1つの銅板上に3箇所、厚み100μmの銀ペーストを印刷した。3箇所の銀ペーストは、それぞれ3mm×3mmの正方形状の範囲に印刷された。印刷された3箇所の銀ペーストそれぞれに、厚み200μmの銀めっきを電極として有するパワー半導体素子を、電極が銀ペーストに接する向きで1つずつ載せた。このようにして、1つの銅板上に銀ペーストを介して3つのパワー半導体素子が配置された積層体を得た。得られた積層体をステージ上に配置し、その上に3つのパワー半導体素子を覆うように熱プレス用シートAを1枚重ねた。その後、該ステージに対向して配置され170℃に加熱された圧着ヘッドとステージとにより、積層体を200Nの荷重で60秒間、加熱及び加圧した。その後、圧着ヘッドを300℃まで昇温してから、圧着ヘッドとステージとにより、積層体を2700Nの荷重で150秒間、加熱及び加圧した。これにより、銀ペーストを焼結して焼結金属層を形成し、接続性評価用の半導体素子搭載基板を得た。得られた半導体素子搭載基板において、銅板と3つのパワー半導体素子の電極とが焼結金属層を介して電気的に接続されていた。
【0105】
(比較例1-1)
熱プレス用シートAの代わりに、ポリイミドフィルム(東レ・デュポン(株)製、商品名「カプトン100H」、平均厚み:25μm)を用いたこと以外は実施例1-1と同様にして、3つのパワー半導体素子の電極を一括で銅板に電気的に接続させて、接続性評価用の半導体素子搭載基板を得た。
【0106】
<接続性の評価>
接続評価用の半導体素子搭載基板の内部を、超音波観察装置(インサイト(株)製、商品名「INSIGHT-300」)を用いて観察した。銅板に焼結金属層を介して接続されている3つのパワー半導体素子のうち、銅板と焼結金属層との間の剥離、焼結金属層の内部の剥離、焼結金属層とパワー半導体素子との間の剥離、又は、焼結金属層が疎になったことが観察されたものの個数(NG数)を数えた。結果を表1に示す。
図6は実施例1-1の半導体素子搭載基板の超音波観察により得られた断面像であり、
図7は比較例1-1の半導体素子搭載基板の超音波観察により得られた断面像である。
図6に示されるように、実施例1-1の半導体素子搭載基板では剥離が観察されなかったのに対して、
図7に示されるように、比較例1-1の半導体素子搭載基板では、3つのパワー半導体素子のうち枠A内の2つに関して、接続部分周縁部における剥離が観察された。
【0107】
【0108】
(実施例2-1)
攪拌機を備えたフラスコに、熱可塑性樹脂として196.6gのアクリル系ブロック共重合体((株)クラレ製、商品名「LA4285」)と、(メタ)アクリレート化合物として98.32gのトリス(2-アクリロイルオキシエチル)イソシアヌレート(日立化成(株)製、商品名「FA731A」)とを入れた。次いで、重合開始剤として1.5gのジクミルパーオキサイド(日油(株)製、商品名「パークミルD」)と、無機充填材として843.6gのシリカ粒子((株)アドマテックス製、商品名「SE2050」、体積平均粒径:0.5μm)と、重合禁止剤として0.075gのヒンダードフェノール系重合禁止剤((株)ADEKA製、商品名「AO-60」)と、溶剤として288.5gのメチルエチルケトンとを加え、これらを攪拌して混合し、熱硬化性樹脂組成物のワニスを得た。重合禁止剤の含有量は、(メタ)アクリレート化合物100質量部に対して0.08質量部であった。
得られた熱硬化性樹脂組成物のワニスを用いて、実施例1-1と同様にして熱プレス用シートを作製した。作製された熱プレ用シートを用いて、実施例1-1と同様に接続評価用の半導体素子搭載基板を作製した。作製した当日の熱プレス用シート、又は作製から冷蔵で2週間若しくは4週間保存された熱プレス用シートを用いて、半導体素子搭載基板を作製した。
【0109】
(実施例2-2)
重合禁止剤をp-メトキシフェノール(東京化成工業(株)製)に代えたこと以外は実施例2-1と同様にして、ワニス及び熱プレス用シートを作製した。得られた熱プレス用シートを用いて、実施例2-1と同様にして接続性評価用の半導体素子搭載基板を作製した。
【0110】
(実施例2-3)
重合禁止剤を添加しなかったこと以外は実施例2-1と同様にして、ワニス及び熱プレス用シートを作製した。得られた熱プレス用シートを用いて、実施例2-1と同様にして接続性評価用の半導体素子搭載基板を作製した。
【0111】
(比較例2-1)
ポリイミドフィルム(東レ・デュポン(株)製、商品名「カプトン100H」、平均厚み:25μm)を熱プレス用シートとして用いて、実施例2-1と同様にして、接続性評価用の半導体素子搭載基板を得た。
【0112】
<接続性の評価>
接続評価用の半導体素子搭載基板の内部を、超音波観察装置(インサイト(株)製、商品名「INSIGHT-300」)を用いて観察した。銅板に焼結金属層を介して接続されている3つのパワー半導体素子のうち、銅板と焼結金属層との間の剥離、燒結金属層の内部の剥離、又は焼結金属層とパワー半導体素子との間の剥離、又は、焼結金属層が疎になったことが観察されたものの個数(NG数)を数えた。結果を表2に示す。実施例2-1、2-2及び2-3において作製当日の熱プレス用シートを用いて得た半導体素子搭載基板では、剥離が観察されなかった。加えて、実施例2-1及び2-2の半導体素子搭載基板では、熱プレス用シートを4週間保存した後でも剥離が観察されなかった。実施例2-3の半導体素子搭載基板では、2週間以上保存した熱プレス用シートを用いた場合に、3つのパワー半導体素子のうち1つに関して、接続部分周縁部における剥離が観察された。
【0113】
【符号の説明】
【0114】
1…パワー半導体装置、1A…積層体、3…熱プレス用シート、10…配線基板、11…絶縁基板、13…配線層、20…パワー半導体素子、21…素子本体、23…電極、50A…焼結材、50…焼結金属層、41…ステージ、43…圧着ヘッド、31…熱硬化性樹脂層、33a、33b…離型シート。