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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-14
(45)【発行日】2022-11-22
(54)【発明の名称】樹脂組成物及び樹脂膜
(51)【国際特許分類】
   C08L 101/08 20060101AFI20221115BHJP
   C08K 5/3475 20060101ALI20221115BHJP
   C08L 63/00 20060101ALI20221115BHJP
   C08F 277/00 20060101ALI20221115BHJP
   C08K 5/06 20060101ALI20221115BHJP
   C08L 65/00 20060101ALI20221115BHJP
【FI】
C08L101/08
C08K5/3475
C08L63/00 Z
C08F277/00
C08K5/06
C08L65/00
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019544552
(86)(22)【出願日】2018-09-12
(86)【国際出願番号】 JP2018033829
(87)【国際公開番号】W WO2019065246
(87)【国際公開日】2019-04-04
【審査請求日】2021-08-05
(31)【優先権主張番号】P 2017188833
(32)【優先日】2017-09-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100150360
【弁理士】
【氏名又は名称】寺嶋 勇太
(74)【代理人】
【識別番号】100174001
【弁理士】
【氏名又は名称】結城 仁美
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 隆覚
【審査官】岩田 行剛
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-075610(JP,A)
【文献】特開2013-087165(JP,A)
【文献】特開昭60-179479(JP,A)
【文献】国際公開第2015/053223(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 101/08
C08K 5/3475
C08L 63/00
C08L 65/00
C08F 277/00
C08K 5/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルボキシル基含有樹脂と、多官能ビニルエーテル化合物と、窒素原子数が3の含窒素縮合複素環化合物と、を含み、
前記窒素原子数が3の含窒素縮合複素環化合物の含有量が、前記カルボキシル基含有樹脂100質量部に対して20質量部未満であり、
前記含窒素縮合複素環化合物がベンゾトリアゾール系化合物であり、
前記多官能ビニルエーテル化合物が、(-C=C-O-)で表されるビニルエーテル構造を、1分子中に2つ以上有する化合物である、
樹脂組成物。
【請求項2】
多官能エポキシ化合物を更に含む、請求項に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記多官能エポキシ化合物が、脂環式エポキシ基を有する、請求項に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記カルボキシル基含有樹脂が、環状オレフィン単量体単位を含む樹脂である、請求項1~の何れかに記載の樹脂組成物。
【請求項5】
前記カルボキシル基含有樹脂100質量部に対して、前記含窒素縮合複素環化合物を1質量部以上の割合で含有する、請求項1~の何れかに記載の樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1~の何れかに記載の樹脂組成物を用いて形成した、樹脂膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物及び樹脂膜に関するものであり、特に、カルボキシル基含有樹脂を含む樹脂組成物及び樹脂膜に関するものである。
【背景技術】
【0002】
有機EL素子及び液晶表示素子等の各種表示素子、集積回路素子、固体撮像素子、並びに、カラーフィルター及びブラックマトリックス等の電子部品には、その劣化や損傷を防止するための保護膜、素子表面や配線を有する基板表面を平坦化するための平坦化膜、及び電気絶縁性を保つための電気絶縁膜等として種々の樹脂膜が設けられている。また、例えば、有機EL素子には、発光体部を分離するために画素分離膜としての樹脂膜が設けられている。さらにまた、例えば、薄膜トランジスタ型液晶用の表示素子や集積回路素子等の素子には、層状に配置される配線の間を絶縁するために層間絶縁膜としての樹脂膜が設けられている。
【0003】
従来、上記のような樹脂膜を形成するための樹脂組成物としては、種々の樹脂組成物が提案されてきた。例えば、特許文献1では、プロトン性極性基を有する環状オレフィン重合体、不飽和基含有化合物、及びラジカル発生型光重合開始剤を含有してなるネガ型感光性樹脂組成物が提案されている。かかる樹脂組成物によれば、現像によるパターン形成性、透明性、及び耐熱性に優れ、且つアウトガスの発生が抑制された樹脂膜を形成することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015-25892号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで従来、表示素子の基板としては、ガラス等の材料が一般的に用いられてきた。ガラス基板上に樹脂膜を形成する場合には、樹脂膜を硬化するにあたり、例えば200℃以上といった高い硬化温度にて硬化することで、硬化反応を促進して、耐薬品性に富む樹脂膜を形成することが可能であった。しかし、近年、表示素子のフレキシブル化に伴い、ガラス基板に代えて、柔軟性を有するプラスチックフィルム等を基板として使用することが求められている。ここで、プラスチック基板の耐熱性は、ガラス基板の耐熱性よりも低い。従って、プラスチック基板上に樹脂膜を形成するためには、樹脂膜を硬化する際の硬化温度を低くすることが必要とされている。このため、低温硬化条件でも高い耐薬品性を有する樹脂膜を形成可能な、樹脂組成物の開発が求められている。
【0006】
また、電子部品の製造時に基板上に種々の膜を積層する工程では、種々の薬液等を使用することが一般的である。ここで、種々の薬液への耐薬品性を高めうる組成とすると、樹脂組成物の保存安定性が悪くなり、得られる樹脂膜の耐薬品性を高めることと、樹脂組成物自体の保存安定性を維持することを両立させるのが難しいという課題があった。
【0007】
上記のような状況に鑑みて、本発明は、樹脂組成物自体の保存安定性を確保することと、得られる樹脂膜の耐薬品性を高めることとを両立可能な、樹脂組成物を提供することを目的とする。
また、本発明は、耐薬品性に優れる樹脂膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決することを目的として鋭意検討を行った。そして、本発明者は、樹脂組成物中に、所定の官能基を有する樹脂と、多官能ビニルエーテル化合物と、所定の含窒素縮合複素環化合物とを併存させた場合に、樹脂組成物自体の保存安定性を確保することと、かかる樹脂組成物を用いて得られる樹脂膜の耐薬品性を高めることと、を両立可能であることを新たに見出し、本発明を完成させた。
【0009】
即ち、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の樹脂組成物は、カルボキシル基含有樹脂と、多官能ビニルエーテル化合物と、窒素原子数が3の含窒素縮合複素環化合物と、を含むことを特徴とする。樹脂組成物の配合をかかる特定の配合とすることで、樹脂組成物自体の保存安定性を確保することと、得られる樹脂膜の耐薬品性を高めることと、を両立することができる。
【0010】
さらに、本発明の樹脂組成物にて、前記含窒素縮合複素環化合物がベンゾトリアゾール系化合物であることが好ましい。樹脂組成物がベンゾトリアゾール系化合物を含んでいれば、一層良好に、樹脂組成物自体の保存安定性を確保することと、得られる樹脂膜の耐薬品性を高めることとを両立することができる。
【0011】
また、本発明の樹脂組成物が、多官能エポキシ化合物を更に含むことが好ましい。樹脂組成物が多官能エポキシ化合物を更に含んでいれば、得られる樹脂膜の耐クラック性を一層向上させることができる。
【0012】
また、本発明の樹脂組成物は、前記多官能エポキシ化合物が、脂環式エポキシ基を有することが好ましい。樹脂組成物に含まれる多官能エポキシ化合物が脂環式エポキシ基を有していれば、得られる樹脂膜の耐クラック性を一層向上させることができる。
【0013】
また、本発明の樹脂組成物は、前記カルボキシル基含有樹脂が、環状オレフィン単量体単位を含む樹脂である、ことが好ましい。樹脂組成物が環状オレフィン単量体単位を含む樹脂であれば、得られる樹脂膜からのアウトガス量を抑制するとともに、得られる樹脂膜の吸水性を低減することができる。
【0014】
また、本発明の樹脂組成物が、前記カルボキシル基含有樹脂100質量部に対して、前記含窒素縮合複素環化合物を1質量部以上の割合で含有することが好ましい。窒素原子数が3の含窒素縮合複素環化合物の含有割合が上記下限値以上であれば、得られる樹脂膜の耐クラック性を一層向上させることができる。
【0015】
ここで、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の樹脂膜は、上記何れかの樹脂組成物を用いて形成されてなることを特徴とする。本発明の樹脂膜は、本発明の樹脂組成物を用いて形成されてなるため、耐薬品性に優れる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、樹脂組成物自体の保存安定性を確保することと、得られる樹脂膜の耐薬品性を高めることとを両立可能な、樹脂組成物を提供することができる。
また、本発明によれば、耐薬品性に優れる樹脂膜を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。本発明の樹脂組成物は、各種素子や部品等に適用されて、保護膜、平坦化膜、及び絶縁膜等として機能し得る樹脂膜を形成するために好適に用いられうる。
【0018】
(樹脂組成物)
本発明の樹脂組成物は、カルボキシル基含有樹脂と、多官能ビニルエーテル化合物と、窒素原子数が3の含窒素縮合複素環化合物と、を含むことを特徴とする。樹脂組成物に、カルボキシル基含有樹脂と、多官能ビニルエーテル化合物と、窒素原子数が3の含窒素縮合複素環化合物とを配合することで、樹脂組成物自体の保存安定性を確保することと、かかる樹脂組成物を用いて得られる樹脂膜の耐薬品性を高めることとを両立することができる。ここで、カルボキシル基含有樹脂に含まれるカルボキシル基と、多官能ビニルエーテル化合物との間における反応性が良好であることと、窒素原子数が3の含窒素縮合複素環化合物が適度な塩基性を呈し得ることに起因して、上記のような効果が奏され得ると推察される。特に、耐薬品性に関しては、樹脂に含まれるカルボキシル基と多官能ビニルエーテル化合物とが、低温で反応を開始可能であること、及び塩基性である含窒素縮合複素環化合物が、かかる反応を促進するように作用することが有利に働くと考えられる。このような理由により、本発明の樹脂組成物によれば、耐薬品性の良好な樹脂膜を形成することができると推察される。さらに、本発明の樹脂組成物は、多官能エポキシ化合物を更に含むことが好ましい。
以下、樹脂組成物に含有される各成分について説明する。
【0019】
<カルボキシル基含有樹脂>
カルボキシル基含有樹脂としては、カルボキシル基を有する重合体により構成される限りにおいて特に限定されることなく、あらゆる樹脂を用いることができる。かかるカルボキシル基含有樹脂としては、例えば、カルボキシル基を含有する単量体単位(以下、「カルボキシル基含有単量体単位」とも称する)を含む(共)重合体が挙げられる。なお、本明細書において、「(共)重合体」とは重合体又は共重合体を意味する。
【0020】
カルボキシル基含有単量体単位を含む(共)重合体としては、例えば、エチレン性不飽和カルボン酸単量体及びその誘導体や、カルボキシル基含有環状オレフィン単量体及びその誘導体を用いて形成した(共)重合体が挙げられる。エチレン性不飽和カルボン酸単量体としては、エチレン性不飽和モノカルボン酸及びその誘導体、エチレン性不飽和ジカルボン酸及びその酸無水物並びにそれらの誘導体が挙げられる。エチレン性不飽和モノカルボン酸の例としては、(メタ)アクリル酸及びクロトン酸が挙げられる。なお、本明細書において、「(メタ)アクリル酸」とは、アクリル酸又はメタクリル酸を意味する。エチレン性不飽和モノカルボン酸の誘導体の例としては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、2-エチルヘキシルアクリレート等のアクリル酸エステル等が挙げられる。エチレン性不飽和ジカルボン酸の例としては、マレイン酸、フマル酸及びイタコン酸が挙げられる。カルボキシル基含有環状オレフィン単量体としては、例えば、5-ヒドロキシカルボニルビシクロ[2.2.1]ヘプト‐2‐エン、5‐メチル‐5‐ヒドロキシカルボニルビシクロ[2.2.1]ヘプト‐2‐エン、5‐カルボキシメチル‐5‐ヒドロキシカルボニルビシクロ[2.2.1]ヘプト‐2‐エン、5,6‐ジヒドロキシカルボニルビシクロ[2.2.1]ヘプト‐2‐エン、4‐ヒドロキシカルボニルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ‐9‐エン、9‐メチル‐9‐ヒドロキシカルボニルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ‐4‐エン、及び9,10‐ジヒドロキシカルボニルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ‐4‐エン等が挙げられる。
【0021】
そして、カルボキシル基含有単量体単位を含む(共)重合体は、上記のような単量体のうちの一種からなる重合体であっても良いし、上記のような単量体と、これらと共重合可能な他の単量体との共重合体であっても良い。例えば、上記の単量体と共重合可能な他の単量体としては、既知のアミド基含有単量体、ヒドロキシル基含有単量体、イソシアネート基含有単量体、カルボキシル基含有環状オレフィン単量体以外のオレフィン単量体、シラン単量体、及び、上記のカルボキシル基含有環状オレフィン単量体以外の環状オレフィン単量体等が挙げられる。特に、上記カルボキシル基含有環状オレフィン単量体以外の環状オレフィン単量体としては、特開2015-25892号に開示されたような、下式(A)にて表されうるN-置換イミド基を有する環状オレフィン単量体、エステル基や酸無水物基等の酸素含有基を有する環状オレフィン単量体、シアノ基等の窒素含有基を有する環状オレフィン単量体、スルホニル基を有する環状オレフィン単量体、シリル基を有する環状オレフィン単量体、又はハロゲン原子を有する環状オレフィン単量体等が挙げられる。
【化1】
[上記式(A)中、Xは水素原子もしくは炭素数1~16の直鎖、環状、若しくは分岐状アルキル基又はベンジル基等のアリール基を表し、nは1又は2である。]
【0022】
なお、カルボキシル基含有単量体単位を含む(共)重合体は、(共)重合体を構成する全単量体単位を100質量%として、カルボキシル基含有単量体単位の割合が、10質量%以上であることが好ましく、15質量%以上であることがより好ましく、100質量%であってもよい。なお、(共)重合体中におけるカルボキシル基含有単量体単位の割合は、H-NMR等により測定することができる。
【0023】
より具体的には、カルボキシル基含有単量体単位を含む(共)重合体は、例えば、上記のようなアクリル酸エステル単量体を用いて得られた重合体により構成されるアクリル樹脂;並びに、上記のようなカルボキシル基含有単量体と、任意の他の単量体とを用いて得られうる(共)重合体により構成される、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリシクロオレフィン樹脂、及びポリシロキサン樹脂等でありうる。
【0024】
中でも、アウトガス量を抑制することができ、且つ、吸水性が低いため、カルボキシル基含有樹脂としては、ポリシクロオレフィン樹脂が好ましい。ポリシクロオレフィン樹脂とは、環状オレフィン単量体単位を含む樹脂である。環状オレフィン単量体単位には、上記したようなカルボキシル基含有環状オレフィン単量体単位、及びそれ以外の環状オレフィン単量体単位が含まれる。中でも、カルボキシル基含有樹脂であるポリシクロオレフィン樹脂としては、カルボキシル基含有環状オレフィン単量体単位を含む樹脂がより好ましく、カルボキシル基含有環状オレフィン単量体単位と、上述した式(A)にて表されるN-置換イミド基を有する環状オレフィン単量体単位とを含む樹脂がさらに好ましい。特に、カルボキシル基含有環状オレフィン単量体として4‐ヒドロキシカルボニルテトラシクロ[6.2.1.1 3 , 6.0 2 , 7 ] ドデカ‐9‐エン(TCDC)を、N-置換イミド基を有する環状オレフィン単量体としてN‐フェニルビシクロ[2.2.1]ヘプト‐5‐エン‐2,3‐ジカルボキシイミド(NBPI)を用いて形成された共重合体であるポリシクロオレフィン樹脂が好ましい。
【0025】
環状オレフィン単量体単位を含む樹脂における環状オレフィン単量体単位の含有割合(カルボキシル基含有環状オレフィン単量体単位の割合とそれ以外の環状オレフィン単量体単位の合計割合)は、樹脂を構成する全単量体単位を100質量%として、50質量%超であることが好ましく、70質量%超であることがより好ましく、90質量%超であることが更に好ましく、100質量%が環状オレフィン単量体単位であっても良い。
特に、「環状オレフィン単量体単位を含む樹脂」がカルボキシル基含有環状オレフィン単量体単位を含む場合には、カルボキシル基含有環状オレフィン単量体単位の含有割合は、樹脂を構成する全単量体単位を100質量%として、40質量%超であることが好ましく、55%質量超であることがより好ましく、100質量%未満が好ましい。
なお、環状オレフィン単量体単位を含む樹脂中における各単量体単位の割合は、H-NMRにより測定することができる。
【0026】
カルボキシル基含有単量体単位を含む(共)重合体としては、市販品、或いは、既知の製造方法に従って製造された(共)重合体を用いることができる。製造方法は特に限定はされず、例えば、溶液重合法、懸濁重合法、塊状重合法、乳化重合法などのいずれの方法も用いることができる。また、重合様式としては、イオン重合、ラジカル重合、リビングラジカル重合などの付加重合及び開環重合を採用することができる。また、重合開始剤としては、既知の重合開始剤を用いることができる。特に、ポリシクロオレフィン樹脂の製造に際して、例えば、特開2015-25892号に記載されたような既知の開環重合触媒及び添加剤を用いた方法に従って各種環状オレフィン単量体を重合させて(共)重合体を得た後に、既知の水素化触媒の存在下で(共)重合体を水素化しても良い。
【0027】
<多官能ビニルエーテル化合物>
多官能ビニルエーテル化合物としては、官能基数が2以上のビニルエーテル化合物を用いることができる。官能基数が2以上のビニルエーテル化合物としては、(-C=C-O-)で表されうるビニルエーテル構造を、1分子中に2つ以上有する化合物が挙げられる。多官能ビニルエーテル化合物の官能基数、即ち、1分子中に含まれるビニルエーテル構造の数は、2以上であることが好ましく、2以上5以下であることがより好ましい。多官能ビニルエーテルの官能基数を上記範囲内とすることで、得られる樹脂膜の耐クラック性を一層向上させることができる。
【0028】
官能基数が2のビニルエーテル化合物としては、例えば、1,4‐ブタンジオールジビニルエーテル、ネオペンチルグリコールジビニルエーテル、1,4‐シクロヘキサンジメタノールジビニルエーテル、ジエチレングリコールジビニルエーテル、トリエチレングリコールジビニルエーテル、ジプロピレングリコールジビニルエーテル、及びシクロヘキサンジオールジビニルエーテルが挙げられる。中でも、1,4‐ブタンジオールジビニルエーテル、1,4‐シクロヘキサンジメタノールジビニルエーテル、ジエチレングリコールジビニルエーテル、及び、シクロヘキサンジオールジビニルエーテルが好ましい。また、官能基数が3のビニルエーテル化合物としては、トリメチロールプロパントリビニルエーテル、及びトリメチロールプロパンエトキシレートトリビニルエーテルが好ましい。
【0029】
<窒素原子数が3の含窒素縮合複素環化合物>
窒素原子数が3の含窒素縮合複素環化合物とは、縮合複素環の構成原子に3つの窒素原子を含む化合物である。換言すると、「窒素原子数が3の含窒素縮合複素環化合物」は、一つの縮合複素環の構成原子に3つの窒素原子を含む限りにおいて特に限定されることなく、あらゆる化合物を含みうる。より具体的には、「窒素原子数が3の含窒素縮合複素環化合物」は、一つの化合物中に、構成原子に3つの窒素原子を含む縮合複素環を2つ以上含んでいても良いし、化合物を構成する含窒素縮合複素環構造以外の構造に窒素原子を含んでいても良い。
窒素原子数が3の含窒素縮合複素環化合物としては、例えば、下記一般式(1)で表されうる化合物、及び下記一般式(1)で表されうる構造を有する化合物が挙げられる。
【化2】
[上記式(1)中、G~Gのうちの何れか3つが窒素原子であり、その他は炭素原子であり、Rは水素原子又は有機基であり、Rは水素原子、ハロゲン基、カルボキシル基、又は炭素数1~5のアルキル基である。]
【0030】
また、式(1)に含まれるRでありうる有機基は、1つ又は複数の置換基を有していても良いフェノール基、1つ又は複数の置換基を有していても良い炭素数1~10の直鎖又は分岐アルキル基であり得る。ここで、1つ又は複数の置換基を有していても良いフェノール基の置換基としては、炭素数1~10のアルキル基、3,4,5,6‐テトラヒドロ‐N‐メチルフタルイミド基、及び1‐メチル‐1‐フェニルエチル基等が挙げられる。ここで、1つ又は複数の置換基を有していても良いフェノール基が複数の置換基を有する場合には、これらは同一であっても相異なっていても良い。また、1つ又は複数の置換基を有していても良い炭素数1~10の直鎖又は分岐アルキル基の置換基としては、水酸基等が挙げられる。
【0031】
また、窒素原子数が3の含窒素縮合複素環化合物であり得る化合物は、上記式(1)で表されうる構造[1]及び[1]’を有する化合物であっても良い。具体的には、かかる化合物は、2つの構造[1]及び[1]’(ここで、構造[1]及び[1]’は、共に、上記式(1)で表されうる限りにおいて特に限定されることなく、同一であっても相異なっていても良い。)が、連結基としての炭素数1~10のアルキレン基(-C2m-;ここで、mは1~10の整数)により相互に連結されてなる、一般式(2):[1]-C2m-[1]’で表されうる化合物であっても良い。ここで、連結基である上記炭素数1~10のアルキレン基は、構造[1]及び[1]’に含まれる各Rに対して結合する。
【0032】
中でも、窒素原子数が3の含窒素縮合複素環化合物としては、上記式(1)(2)中、G~Gが窒素原子であり、G~Gが炭素原子であるベンゾトリアゾール系化合物が好ましい。樹脂組成物がベンゾトリアゾール系化合物を含んでいれば、一層効果的に、樹脂組成物自体の保存安定性を確保することと、得られる樹脂膜の耐薬品性を高めることとを両立させることができる。
【0033】
上記式(1)を満たすベンゾトリアゾール系化合物としては、例えば、1H‐ベンゾトリアゾール‐1‐メタノール、1,2,3-ベンゾトリアゾール(城北化学社製、「BT‐120」)、2-(2’-ヒドロキシ-5’-メチルフェニル)ベンゾトリアゾール(城北化学社製、「JF-77」)、2-(2’-ヒドロキシ-3’-tert-ブチル-5’-メチルフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾール(城北化学社製、「JF‐79」)、2-(2’-ヒドロキシ-3’,5’-ジ-tert-アミルフェニル)ベンゾトリアゾール(城北化学社製、「JF‐80」)、2-(2’-ヒドロキシ-5’-tert-オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール(城北化学社製、「JF‐83」)、2-[2-ヒドロキシ-3-(3,4,5,6,7-テトラヒドロ-1,3-ジオキソ-1H-イソインドール-2-イルメチル)-5-メチルフェニル]-2H-ベンゾトリアゾール(住化ケムテックス社製、「Sumisorb 250」)、及び2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4,6-ビス(1-メチル-1-フェニルエチル)フェノール(アデカ社製「アデカスタブLA-24」)等が挙げられる。また、上記式(2)を満たすベンゾトリアゾール系化合物としては、2,2’-メチレンビス[6-(2H‐ベンゾトリアゾール‐2‐イル)‐4‐(1,1,3,3‐テトラメチルブチル)フェノール](アデカ社製、「アデカスタブLA-31」)が挙げられる。
中でも、カルボキシル基含有樹脂との相溶性、及び後述する溶剤への溶解性を向上させて、樹脂組成物の保存安定性を一層良好に確保する観点から、ベンゾトリアゾール系化合物としては、1H‐ベンゾトリアゾール‐1‐メタノールが好ましい。
【0034】
[窒素原子数が3の含窒素縮合複素環化合物の含有量]
樹脂組成物中における含窒素縮合複素環化合物の含有量は、カルボキシル基含有樹脂100質量部に対して、1質量部以上であることが好ましく、2質量部以上であることがより好ましく、好ましくは20質量部未満であり、15質量部以下であることがより好ましく、10質量部以下であることがさらに好ましく、7質量部以下であることが特に好ましい。窒素原子数が3の含窒素縮合複素環化合物の含有割合が上記下限値以上であれば、得られる樹脂膜の耐クラック性を一層向上させることができる。また、窒素原子数が3の含窒素縮合複素環化合物の含有割合が上記上限値以下であれば、樹脂組成物の粘度が過度に高まることを抑制して、樹脂膜を良好に形成することができる。
【0035】
<多官能エポキシ化合物>
多官能エポキシ化合物としては、特に限定されることなく、1分子中にエポキシ基を2個以上有する化合物が挙げられる。樹脂組成物に多官能エポキシ化合物を含有させることで、得られる樹脂膜の耐クラック性を一層向上させることができる。これは、樹脂組成物中に存在する多官能エポキシ化合物が、樹脂膜内のカルボン酸と多官能ビニルエーテルによる内部応力の上昇を適度に抑制しうることに起因すると推察される。
【0036】
1分子中にエポキシ基を2個以上有する化合物としては、エポキシ化ブタンテトラカルボン酸テトラキス(3‐シクロヘキセニルメチル)修飾ε‐カプロラクトン、トリス(2,3-エポキシプロピル)イソシアヌレート、1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテル、1,2-エポキシ-4-(エポキシエチル)シクロヘキサン、グリセロールトリグリシジルエーテル、ジエチレングリコールジグリシジルエーテル、2,6-ジグリシジルフェニルグリシジルエーテル、1,1,3-トリス[p-(2,3-エポキシプロポキシ)フェニル]プロパン、1,2-シクロヘキサンジカルボン酸ジグリシジルエステル、4,4’-メチレンビス(N,N-ジグリシジルアニリン)、3,4-エポキシシクロヘキシルメチル-3,4-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、トリメチロールエタントリグリシジルエーテル及びビスフェノール-A-ジグリシジルエーテル、及びペンタエリスリトールポリグリシジルエーテルが挙げられる。市販品では、例えば、エポリードGT-401、同GT-403、同GT-301、同GT-302、セロキサイド2021、セロキサイド3000(以上、ダイセル社製);jER1001、jER1002、jER1003、jER1004、jER1007、jER1009、jER1010、jER828、jER871、jER872、jER180S75、jER807、jER152、jER154(以上、三菱化学社製);EPPN201、EPPN202、EOCN-102、EOCN-103S、EOCN-104S、EOCN-1020、EOCN-1025、EOCN-1027(以上、日本化薬社製)、エピクロン200、エピクロン400(以上、DIC社製)、デナコールEX-611、EX-612、EX-614、EX-622、EX-411、EX-512、EX-522、EX-421、EX-313、EX-314、EX-321(以上、ナガセケムテックス社製)等が挙げられる。中でも、得られる樹脂膜の耐クラック性を一層向上させる観点から、多官能エポキシ化合物が、脂環式エポキシ基を有することが好ましい。さらに、多官能エポキシ化合物に含まれる脂環式エポキシ基数は、2つ以上であることが好ましく、3つ以上であることがより好ましく、4つ以上であることがさらに好ましく、通常、6個以下である。特に、エポキシ化ブタンテトラカルボン酸テトラキス(3‐シクロヘキセニルメチル)修飾ε‐カプロラクトン(脂環式エポキシ基数:4)が好ましい。なお、「多官能エポキシ化合物に含まれる脂環式エポキシ基数」は、多官能エポキシ化合物が脂環式エポキシ基を含む繰り返し構造単位よりなる高分子である場合には、単位構造(1分子)あたりの脂環式エポキシ基数を意味する。
【0037】
<任意成分>
上記各種成分以外に、本発明の樹脂組成物は、シランカップリング剤、酸化防止剤、及び界面活性剤等の任意成分を含有していても良い。かかる任意成分としては、既知のものを使用することができる(例えば、国際公開第2015/033901号及び特開2015-25892号参照)。そして、これらの添加剤の含有量も、本発明の効果を損なわない限りにおいて、一般的な範囲内で適宜調節することができる。
【0038】
<溶媒>
本発明の樹脂組成物に含有されうる溶媒としては、樹脂組成物の調製に用いられる既知の有機溶媒を用いることができる(例えば、国際公開第2015/033901号参照)。中でも、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールエチルメチルエーテルなどのジエチレングリコール類を含有する溶媒が好適に用いられうる。
【0039】
<樹脂組成物の調製方法>
本発明の樹脂組成物の調製方法は、特に限定されず、樹脂組成物を構成する各成分を公知の方法により混合すればよい。混合の方法は、特に限定されず、樹脂組成物を構成する各成分を溶媒に対して添加し混合することにより、各成分が溶媒中に溶解又は分散されてなる溶液又は分散液を得ることができる。
【0040】
具体的な混合方法としては、例えば、攪拌子等を使用した攪拌、高速ホモジナイザー、ディスパー、遊星攪拌機、二軸攪拌機、ボールミル、及び三本ロール等を使用した混合方法が挙げられる。また、混合により得られた溶液又は分散液を、例えば、孔径が0.45μm程度のフィルター等を用いて濾過してもよい。
【0041】
(樹脂膜)
本発明の樹脂膜は、本発明の樹脂組成物を用いて形成されたことを特徴とする。本発明の樹脂膜は、本発明の樹脂組成物を用いて形成されているので、耐薬品性に優れる。本発明の樹脂膜は、本発明の樹脂組成物を所望の基板上に適用することにより形成することができる。即ち、本発明の樹脂膜は、上述した本発明の樹脂組成物の乾燥物よりなり、通常、少なくとも、カルボキシル基含有樹脂、多官能ビニルエーテル化合物、及び窒素原子数が3の含窒素縮合複素環化合物を含有する。さらに、本発明の樹脂膜は、多官能エポキシ化合物を含むことが好ましい。なお、樹脂膜中に含まれる各成分は、上記樹脂組成物に含まれていたものであるため、それらの各成分の好適な存在比は、樹脂組成物中の各成分の好適な存在比と同じである。また、例えば、樹脂膜中に含まれる多官能ビニルエーテル化合物、及び、任意で含有されうる多官能エポキシ化合物等は、任意で実施されうる架橋処理時等により、架橋されていても良い。換言すれば、樹脂膜は、上述した多官能ビニルエーテル化合物、及び、多官能エポキシ化合物の架橋物を含んでいても良い。
【0042】
基板としては、例えば、プリント配線基板、シリコンウエハ基板、ガラス基板、プラスチック基板等を用いることができる。また、ディスプレイ分野において使用される、ガラス基材やプラスチック基材上に、薄型トランジスタ型液晶表示素子、カラーフィルター、又はブラックマトリックス等が形成されてなる基板も好適に用いられる。中でも、本発明の樹脂組成物は低温にて硬化可能であるため、かかる樹脂組成物を用いて形成される本発明の樹脂膜は、プラスチック基板上に好適に設けられ得る。
【0043】
樹脂膜を基板上に適用する方法としては、特に限定されず、例えば、塗布法やフィルム積層法等の方法を用いることができる。
【0044】
塗布法は、例えば、プラスチック基板等の基板上に樹脂組成物を塗布した後、溶媒を除去する方法である。樹脂組成物を塗布する方法としては、例えば、スプレー法、スピンコート法、ロールコート法、ダイコート法、ドクターブレード法、回転塗布法、バー塗布法、及びスクリーン印刷法等の各種の方法を採用することができる。溶媒は、例えば、乾燥により除去することができる。乾燥条件は、各成分の種類、配合割合、及びプラスチック基板等の基板の耐熱温度等に応じて異なるが、通常、30℃以上150℃以下、好ましくは60℃以上120℃以下の温度条件下、0.5分以上90分以下、好ましくは1分以上60分以下、より好ましくは1分以上30分以下とすることができる。本発明の樹脂組成物によれば、乾燥時の温度が上記上限値以下であっても、耐薬品性に優れる樹脂膜を得ることができる。また、乾燥時の温度を上記下限値以上にすれば、樹脂膜の耐薬品性を十分に向上させることができる。
【0045】
フィルム積層法は、樹脂フィルム形成用基材上に樹脂組成物を塗布した後に、溶媒を除去して樹脂フィルムを得て、得られた樹脂フィルムを基板上に積層して樹脂膜を有する基板を形成する方法である。溶媒は、例えば、乾燥により除去することができる。乾燥条件は、各成分の種類や配合割合に応じて適宜選択することができる。乾燥条件は、通常、30℃以上150℃以下の温度条件下、0.5分以上90分以内とすることができる。また、樹脂フィルムを基板上に積層する際には、加圧ラミネータ、プレス、真空ラミネータ、真空プレス、ロールラミネータ等の圧着機を用いることができる。
【0046】
樹脂膜の厚さとしては、特に限定されず、用途に応じて適宜設定することができる。例えば、樹脂膜の厚さは、好ましくは0.1μm以上100μm以下、より好ましくは0.5μm以上50μm以下、さらに好ましくは0.5μm以上30μm以下、特に好ましくは0.5μm以上10μm以下とすることができる。本発明の樹脂組成物によれば、樹脂膜の厚みを比較的薄厚とした場合であっても、耐薬品性を十分に高めることができる。
【0047】
また、必要に応じて、上記した塗布法又はフィルム積層法により形成した樹脂膜について、架橋処理を行なうことができる。架橋処理は、特に限定されることなく、例えば、特開2015-25892号に開示されたような、一般的な方法にて進行させることができる。
【0048】
本発明の樹脂膜は、ブリーチング露光工程を経ずに測定した場合の、波長400nmにおける光線透過率が95%以上となることが好ましい。ここで、光線透過率は、例えば、実施例に記載した方法に従って測定することができる。
【0049】
そして、本発明の樹脂膜は、所謂ブリーチング露光工程を行うことなく、上記のような高い光線透過率を達成することができる。なお、ブリーチング露光工程とは、樹脂組成物を乾燥して樹脂膜を形成した後等に、かかる樹脂膜を過露光条件下に曝して有色の樹脂膜を退色させるための操作を意味する。例えば、かかるブリーチング露光工程は、所与の条件下で形成された樹脂膜を、g線(波長436nm)、h線(波長405nm)、又はi線(波長365nm)の露光量換算で、100J/m2~20,000J/m2の範囲の光量の光に曝す工程を意味する。
【実施例
【0050】
以下、本発明について実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、以下の説明において、量を表す「%」及び「部」は、特に断らない限り、質量基準である。
実施例及び比較例において、樹脂組成物の保存安定性、並びに、樹脂膜の耐薬品性、耐クラック性、及び絶縁信頼性は、以下のようにして評価した。また、実施例で得られた樹脂膜の光線透過率は、以下のようにして評価した。
【0051】
<樹脂組成物の保存安定性>
実施例、比較例で調製した樹脂組成物について、JIS Z 8803:2011に記載されている「10 円すい-平板形回転粘度計による粘度測定方法」に従ってE型粘度計により粘度を測定した。調製直後の樹脂組成物の粘度をV0とした。また、樹脂組成物を遮光瓶に封入し、クリーンルーム(温度23℃、湿度45%)にて1週間保管した後の樹脂組成物の粘度V1を、同様にして測定した。そして、式:|(V1-V0)/V0|×100に従って粘度変化率(%)を算出した。算出した粘度変化率について、下記基準に従って評価した。
A:粘度変化率が5%以内
B:粘度変化率が5%超
【0052】
<樹脂膜の耐薬品性>
実施例、比較例で調製した樹脂組成物を、スピンコート法によりシリコンウエハ基板上に塗布し、ホットプレートを用いて90℃で2分間加熱乾燥(プリベーク)して、膜厚2.0μmのプリベーク済樹脂膜を形成した。次いで、この樹脂膜について、オーブンを用いて、大気雰囲気下、130℃で20分間加熱するポストベークを行うことで、ポストベーク済樹脂膜を表面に有するシリコンウエハ基板からなる積層体を得た。
上述のようにして得られた積層体を試験体として、薬品200mlに対して5分間浸漬し、浸漬前の膜厚を100%とした場合の、浸漬後の膜厚の割合である(%)を算出した。薬品としては、
(i)恒温槽にて25℃に保持したアセトン溶液;
(ii)恒温槽にて25℃に保持したレジスト剥離液(東京応化工業社製、「ST-106」、組成:モノエタノールアミン(MEA)/ジメチルスルホキシド(DMSO)=体積比7/3);及び
(iii)恒温槽にて60℃に保持したレジスト剥離液(東京応化工業社製、「ST-106」)
の3種類を準備し、各溶液に対して、それぞれ試験体を浸漬した。
なお、膜厚は、光干渉式膜厚測定装置(SCREEN社製、「ラムダエース」)を用いて測定した。
【0053】
<樹脂膜の耐クラック性>
[プリベーク済樹脂膜の耐クラック性]
実施例、比較例で調製した樹脂組成物を、スピンコート法によりシリコンウエハ基板上に塗布し、ホットプレートを用いて90℃で2分間加熱乾燥(プリベーク)して、膜厚2.0μmのプリベーク済樹脂膜を形成し、表面にプリベーク済樹脂膜を有するシリコンウエハ基板からなる積層体を得た。積層体の表面を目視観察して、以下の基準に従って耐クラック性を評価した。
A:積層体の表面にクラックが無い。
B:積層体の表面にクラックが確認された。
[樹脂膜の耐アセトンクラック性]
上記<樹脂膜の耐薬品性>の項目にて説明した手順に従ってアセトン溶液に対して浸漬した試験体について、上記[プリベーク済樹脂膜の耐クラック性]と同様の基準に従って耐クラック性を評価した。
【0054】
<樹脂膜の絶縁信頼性>
ガラス基材(コーニング社、製品名:コーニング1737)上に、スパッタ装置を用いて膜厚100nmのCu薄膜を形成した。次いで、フォトレジストを用いてCu薄膜のパターニングを行い、Cu配線幅7μm、配線間距離7μmの櫛形電極基板を作製した。かかる櫛形電極基板上に、実施例、比較例で調製した樹脂組成物をスピンコート法により塗布し、ホットプレートを用いて90℃で2分間加熱乾燥(プリベーク)して、膜厚2.0μmの樹脂膜を形成した。次いでこの樹脂膜についてオーブンを用いて、大気雰囲気下、130℃で20分間加熱するポストベークを行うことで、試験体である、樹脂膜-Cu配線-ガラス基材の順に積層されてなる積層体を得た。そして得られた試験体を15Vの電圧が印加された状態で温度85℃、湿度85%の高温恒湿槽に入れた。その後、500時間後に試験体を高温恒湿槽から取り出し、デジタルマイクロスコープ(ハイロックス社製、KH-1300)によって試験体に設けられたCu配線を観察し、樹脂膜の絶縁信頼性を以下の基準に従って評価した。
A:500時間後のCu配線に腐食が確認されない。
B:500時間後のCu配線に腐食が確認された。
【0055】
<樹脂膜の光線透過率>
ガラス基板(コーニング社、製品名コーニング1737)上に実施例で得られた樹脂組成物をスピンコート法により塗布し、ホットプレートを用いて90℃で2分間加熱乾燥(プリベーク)して、膜厚2.0μmの樹脂膜を形成した。次いで、オーブンを用いて、大気雰囲気下、130℃で20分間加熱するポストベークを行うことで、樹脂膜とガラス基板とからなる積層体を得た。
得られた積層体について、分光光度計V‐560(日本分光社製)を用いて400nmから800nmの波長で測定を行った。測定結果から、400nmでの光線透過率(%)を算出した。なお、樹脂膜の光線透過率(%)は、樹脂膜が付いていないガラス基板をブランクとして、樹脂膜の厚みを2.0μmとした場合の換算値で算出した。
【0056】
(実施例1)
<カルボキシル基含有樹脂の調製>
N-置換イミド基を有する環状オレフィン単量体であるN‐フェニルビシクロ[2.2.1]ヘプト‐5‐エン‐2,3‐ジカルボキシイミド(NBPI)31.5モル%、及び、カルボキシル基含有環状オレフィン単量体である4‐ヒドロキシカルボニルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ‐9‐エン(TCDC)68.5モル%からなる単量体混合物100部、1,5‐ヘキサジエン6.9部、開環重合触媒である(1,3‐ジメシチルイミダゾリン‐2‐イリデン)(トリシクロへキシルホスフィン)ベンジリデンルテニウムジクロリド(Org.Lett.,第1巻,953頁,1999年に記載された方法で合成した)0.01部、及びジエチレングリコールエチルメチルエーテル200部を窒素置換したガラス製耐圧反応器に充填し、撹拌しながら80℃にて4時間反応させて重合反応液を得た。
得られた重合反応液をオートクレーブに入れて、150℃、水素圧4MPaの条件にて、5時間撹拌して水素化反応を実施し、脂環式オレフィン共重合体により構成される、カルボキシル基含有ポリオレフィン樹脂を含む溶液を得た。上記脂環式オレフィン共重合体の重合転化率は99.9%、ポリスチレン換算重量平均分子量は5,280、数平均分子量は3,490、分子量分布は1.51、水素添加率は99.9%であった。また、カルボキシル基含有ポリオレフィン樹脂を含む溶液の固形分濃度は32.0質量%であった。
【0057】
<樹脂組成物の調製>
上記で得られた、カルボキシル基含有ポリオレフィン樹脂100部、多官能ビニルエーテル化合物としての1,4-シクロヘキサンジメタノールジビニルエーテル(日本カーバイド社製、「CHDVE」)40部、多官能エポキシ化合物としてのエポキシ化ブタンテトラカルボン酸テトラキス(3‐シクロヘキセニルメチル)修飾ε‐カプロラクトン(ダイセル化学工業製:エポリードGT401)40部、窒素原子数が3の含窒素縮合複素環化合物であるベンゾトリアゾール系化合物としての1H‐ベンゾトリアゾール‐1‐メタノール(東京化成製)5部、シランカップリング剤としてグリシドキシプロピルトリメトキシシラン(XIAMETER社製:OFS6040)2部、酸化防止剤としてペンタエリスリトール‐テトラキス[3‐(3,5‐ジ‐tert‐ブチル‐4‐ヒドロキシフェニル)プロピオナート(BASF社製:Irganox1010)2部、界面活性剤としてオルガノシロキサンポリマー(信越化学製:KP341)300ppm、及び溶剤としてジエチレングリコールエチルメチルエーテル(東邦化学製:EDM)100部を混合し、溶解させた後、孔径0.45μmのポリテトラフルオロエチレン製フィルターでろ過して樹脂組成物を調製した。
得られた樹脂組成物について上記に従って保存安定性を評価し、また、得られた樹脂組成物を用いて樹脂膜を形成して上記に従って各種評価を行った。結果を表1に示す。
【0058】
(実施例2)
ベンゾトリアゾール系化合物の配合量を5部に変更した以外は、実施例1と同様にして樹脂組成物を調製し、各種評価等を行った。結果を表1に示す。
【0059】
(実施例3~7)
実施例3では、多官能ビニルエーテル化合物として、1,4-ブタンジオールジビニルエーテル(BDVE)を用いた。
実施例4では、多官能ビニルエーテル化合物として、ジエチレングリコールジビニルエーテル(DEGDVE)を用いた。
実施例5では、多官能ビニルエーテル化合物として、トリメチロールプロパンエトキシレートトリビニルエーテルを用いた。
実施例6では、多官能ビニルエーテル化合物として、トリメチロールプロパントリビニルエーテルを用いた。
実施例7では、多官能ビニルエーテル化合物として、シクロヘキサンジオールジビニルエーテル(CHODVE)を用いた。
これらの点以外は実施例2と同様にして、それぞれ樹脂組成物を調製し、各種評価等を行った。結果を表1に示す。
【0060】
(実施例8)
多官能エポキシ化合物を配合しなかった以外は実施例2と同様にして、それぞれ樹脂組成物を調製し、各種評価等を行った。結果を表1に示す。
【0061】
(比較例1~4)
窒素原子数が3の含窒素縮合複素環化合物を配合しなかった以外は、それぞれ、実施例2~5と同様にして、それぞれ樹脂組成物を調製し、各種評価等を行った。結果を表1に示す。なお、これらの例では得られた樹脂膜の耐薬品性が低かったため、絶縁信頼性の評価は行わなかった。
【0062】
(比較例5~7)
窒素原子数が3の含窒素縮合複素環化合物を配合せず、代わりに、複素環式化合物ではないホモフタル酸(比較例5)、窒素原子数が3の複素環化合物である5-メルカプト-1H-テトラゾール(比較例6)を、窒素原子数が2の含窒素縮合複素環化合物であるベンゾイミダゾール(比較例7)を、各5部配合した以外は、実施例3と同様にして、それぞれ樹脂組成物を調製し、各種評価等を行った。結果を表1に示す。
【0063】
(比較例8~10)
多官能ビニルエーテル化合物に代えて、表1に示した単官能のモノビニルエーテル化合物をそれぞれ配合した以外は、実施例2と同様にして、それぞれ樹脂組成物を調製し、各種評価等を行った。結果を表1に示す。なお、これらの例では得られた樹脂膜の耐薬品性が低く、且つ、アセトン浸漬によりクラックも生じたため、絶縁信頼性の評価は行わなかった。
【0064】
(比較例11)
多官能ビニルエーテル化合物及び窒素原子数が3の含窒素縮合複素環化合物を配合せず、感光剤である4,4’-[1-[4-[1-[4-ヒドロキシフェニル]-1-メチルエチル]フェニル]エチリデン]ビスフェノールと6-ジアゾ-5,6-ジヒドロ-5-オキソ-ナフタレン-1-スルホン酸(1,2-ナフトキノンジアジド-5-スルホン酸クロライド)とのエステル体(2.0モル体)(美源商事社製、「TPA-520」)を配合した以外は、実施例1と同様にして、それぞれ樹脂組成物を調製し、各種評価等を行った。結果を表1に示す。なお、本例に従って得られた樹脂膜は、赤褐色であった。また、本例では、耐薬品性及び耐アセトンクラック性以外についての評価は行わなかった。
【0065】
表1中、
「GT401」は、エポキシ化ブタンテトラカルボン酸テトラキス(3‐シクロヘキセニルメチル)修飾ε‐カプロラクトン(ダイセル化学工業製:エポリードGT401)を、
「TPA520」は、4,4’-[1-[4-[1-[4-ヒドロキシフェニル]-1-メチルエチル]フェニル]エチリデン]ビスフェノールと6-ジアゾ-5,6-ジヒドロ-5-オキソ-ナフタレン-1-スルホン酸(1,2-ナフトキノンジアジド-5-スルホン酸クロライド )とのエステル体(2.0モル体)を、
「OFS6040」は、グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(XIAMETER社製:OFS6040)を、
「Irg1010」は、ペンタエリスリトール‐テトラキス[3‐(3,5‐ジ‐tert‐ブチル‐4‐ヒドロキシフェニル)プロピオナート(BASF社製:Irganox1010)を、
「KP341」は、オルガノシロキサンポリマー(信越化学製:KP341)を、
「EDM」は、ジエチレングリコールエチルメチルエーテルを、
それぞれ示す。
【表1】
【0066】
表1より、カルボキシル基含有樹脂と、多官能ビニルエーテル化合物と、窒素原子数が3の含窒素縮合複素環化合物とを含む樹脂組成物を用いた実施例1~8では、樹脂組成物自体の保存安定性を確保することができ、且つ、得られた樹脂膜の耐薬品性が高かったことが分かる。一方、窒素原子数が3の含窒素縮合複素環化合物であるベンゾトリアゾール系化合物を配合しなかった比較例1~7では、樹脂組成物自体の保存安定性を確保することと、得られる樹脂膜の耐薬品性を高めることとを両立できなかったことが分かる。中でも、含窒素縮合複素環化合物に代えて、ホモフタル酸を配合した比較例5では、樹脂組成物の保存安定性が低下するとともに、樹脂膜の絶縁信頼性が得られなかった。これは、樹脂組成物中に含有される多官能ビニルエーテル化合物及び多官能エポキシ化合物の間で架橋反応が生じて粘度上昇して保存安定性が低下し、さらには得られた樹脂膜中に含まれるホモフタル酸がCu配線を腐食させるように作用するためであると推察される。また、多官能ビニルエーテル化合物を配合しなかった比較例8~10では、得られる樹脂膜の耐薬品性を高めることができなかったことが分かる。更にまた、多官能ビニルエーテル化合物も窒素原子数が3の含窒素縮合複素環化合物も配合しなかった比較例11では、得られる樹脂膜の耐薬品性を高めることができなかったことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明によれば、樹脂組成物自体の保存安定性を確保することと、得られる樹脂膜の耐薬品性を高めることとを両立可能な、樹脂組成物を提供することができる。
また、本発明によれば、耐薬品性に優れる樹脂膜を提供することができる。