(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-14
(45)【発行日】2022-11-22
(54)【発明の名称】オルガノポリシロキサン組成物、並びに有機ケイ素化合物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C08L 83/06 20060101AFI20221115BHJP
C08K 5/5419 20060101ALI20221115BHJP
C07F 7/18 20060101ALI20221115BHJP
【FI】
C08L83/06
C08K5/5419
C07F7/18 K CSP
(21)【出願番号】P 2019550946
(86)(22)【出願日】2018-10-09
(86)【国際出願番号】 JP2018037526
(87)【国際公開番号】W WO2019087697
(87)【国際公開日】2019-05-09
【審査請求日】2020-04-25
(31)【優先権主張番号】P 2017210246
(32)【優先日】2017-10-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2017210283
(32)【優先日】2017-10-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】弁理士法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】打它 晃
(72)【発明者】
【氏名】坂本 隆文
【審査官】前田 孝泰
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第05405766(US,A)
【文献】特開平06-220313(JP,A)
【文献】特開2005-298558(JP,A)
【文献】特開2005-097173(JP,A)
【文献】特開2018-070480(JP,A)
【文献】特開平02-282389(JP,A)
【文献】生体材料,1997,第15巻,第3号,p.113-120
【文献】Journal of the American Chemical Society,1999,Vol.121,No.17,p.4147-4154
【文献】Zashchita Metallov,1990,Vol.26,No.5,p.759-765
【文献】Kauchuk i Rezina,1976,Vol.11,p.12-15
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 83/00- 83/16
C09D183/00-183/16
C09J183/00-183/16
C08K 3/00- 13/08
C07F 7/02- 7/21
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)下記一般式(1)及び/又は(2)で示されるオルガノポリシロキサン:100質量部、
HO(SiR
2O)
nH (1)
(式中、Rは同一又は異種の炭素数1~10の非置換もしくはハロゲン原子置換の一価炭化水素基であり、nは10
~2,000の整数である。)
【化1】
(式中、
Rは上記の通りであり、
nは10以上の整数であり、Yは酸素原子又は炭素数2~5のアルキレン基であり、mは独立に0又は1である。)
(B)一分子中にケイ素原子に結合した加水分解可能な基を少なくとも3個有する、(A)成分及び(C)成分以外の有機ケイ素化合物及び/又はその部分加水分解縮合物:0.1~50質量部、
(C)下記一般式(3)で示されるシランカップリング剤:0.1~15質量部
【化2】
(式中、R
1、R
2、R
3は同一又は異種の炭素数1~10の一価炭化水素基であり、kは3~14の整数であり、aは0~2の整数であり、bは0~3の整数である。
但し、R
3
が脂肪族飽和一価炭化水素基であり、かつb=3の場合、kは6~14の整数である。)
を含有してなるオルガノポリシロキサン組成物。
【請求項2】
(B)成分が、下記一般式(4)で示される加水分解性オルガノシラン化合物及び/又はその部分加水分解縮合物である請求項1に記載のオルガノポリシロキサン組成物。
R
4
cSiR
5
4-c (4)
(式中、R
4は一価炭化水素基であり、R
5は加水分解性基である。cは0又は1である。)
【請求項3】
さらに、(D)成分として少なくとも1種の充填剤を(A)成分100質量部に対して1~500質量部含有してなる請求項1又は2に記載のオルガノポリシロキサン組成物。
【請求項4】
マグネシウム合金接着用である請求項1~3のいずれか1項に記載のオルガノポリシロキサン組成物。
【請求項5】
大気中の湿気により硬化してマグネシウム合金に対して自己接着するシリコーンゴム硬化物を与えるものである請求項1~4のいずれか1項に記載のオルガノポリシロキサン組成物。
【請求項6】
下記一般式(3A)で示される有機ケイ素化合物。
【化3】
(式中、R
1、R
2、R
3は同一又は異種の炭素数1~10の一価炭化水素基であり、kは3~14の整数であり、aは0~2の整数であり、b’は0~2の整数である。)
【請求項7】
下記一般式(3B)で示される有機ケイ素化合物。
【化4】
(式中、R
1、R
2、R
3は同一又は異種の炭素数1~10の一価炭化水素基であり、kは3~14の整数であり、aは0~2の整数であり、b''は1~3の整数である。但し、少なくとも1個のR
3はアリール基である。)
【請求項8】
下記一般式(3C)で示される有機ケイ素化合物。
【化5】
(式中、R
1、R
2、R
3は同一又は異種の炭素数1~10の一価炭化水素基であり、kは3~14の整数であり、a’は
1であり、bは0~3の整数である。但し、R
3が脂肪族飽和一価炭化水素基であり、かつb=3の場合、kは6~14の整数である。)
【請求項9】
下記一般式(5A)
【化6】
(式中、R
3は同一又は異種の炭素数1~10の一価炭化水素基であり、b’は0~2の整数であり、kは3~14の整数である。)
で表される末端に脂肪族不飽和基を有するカルボン酸シリルエステル化合物と、下記一般式(8)
【化7】
(式中、R
1、R
2は同一又は異種の炭素数1~10の一価炭化水素基であり、aは0~2の整数である。)
で表されるアルコキシシランとを反応させる工程を含有する下記一般式(3A)
【化8】
(式中、R
1、R
2、R
3、a、b’、kは上記と同じである。)
で示される有機ケイ素化合物の製造方法。
【請求項10】
上記一般式(5A)で表される末端に脂肪族不飽和基を有するカルボン酸シリルエステル化合物が、下記一般式(6)
【化9】
(式中、kは上記と同じである。)
で表される末端に脂肪族不飽和基を有するカルボン酸と、下記一般式(7A)
【化10】
(式中、R
3、b’は上記と同じであり、Xはハロゲン原子を示す。)
で表されるハロシランとを反応させて得られるものである請求項9に記載の有機ケイ素化合物の製造方法。
【請求項11】
下記一般式(5B)
【化11】
(式中、R
3は同一又は異種の炭素数1~10の一価炭化水素基であり、b''は1~3の整数であり、kは3~14の整数であり、但し、少なくとも1個のR
3はアリール基である。)
で表される末端に脂肪族不飽和基を有するカルボン酸シリルエステル化合物と、下記一般式(8)
【化12】
(式中、R
1、R
2は同一又は異種の炭素数1~10の一価炭化水素基であり、aは0~2の整数である。)
で表されるアルコキシシランとを反応させる工程を含有する下記一般式(3B)
【化13】
(式中、R
1、R
2、R
3、a、b''、kは上記と同じである。但し、少なくとも1個のR
3はアリール基である。)
で示される有機ケイ素化合物の製造方法。
【請求項12】
上記一般式(5B)で表される末端に脂肪族不飽和基を有するカルボン酸シリルエステル化合物が、下記一般式(6)
【化14】
(式中、kは上記と同じである。)
で表される末端に脂肪族不飽和基を有するカルボン酸と、下記一般式(7B)
【化15】
(式中、R
3、b''は上記と同じであり、Xはハロゲン原子を示す。)
で表されるハロシランとを反応させて得られるものである請求項11に記載の有機ケイ素化合物の製造方法。
【請求項13】
下記一般式(5)
【化16】
(式中、R
3は同一又は異種の炭素数1~10の一価炭化水素基であり、bは0~3の整数であり、kは3~14の整数であり、但し、R
3が脂肪族飽和一価炭化水素基であり、かつb=3の場合、kは6~14の整数である。)
で表される末端に脂肪族不飽和基を有するカルボン酸シリルエステル化合物と、下記一般式(8C)
【化17】
(式中、R
1、R
2は同一又は異種の炭素数1~10の一価炭化水素基であり、a’は
1である。)
で表されるアルコキシシランとを反応させる工程を含有する下記一般式(3C)
【化18】
(式中、R
1、R
2、R
3、a’、b、kは上記と同じである。但し、R
3が脂肪族飽和一価炭化水素基であり、かつb=3の場合、kは6~14の整数である。)
で示される有機ケイ素化合物の製造方法。
【請求項14】
上記一般式(5)で表される末端に脂肪族不飽和基を有するカルボン酸シリルエステル化合物が、下記一般式(6)
【化19】
(式中、kは上記と同じである。)
で表される末端に脂肪族不飽和基を有するカルボン酸と、下記一般式(7)
【化20】
(式中、R
3、bは上記と同じであり、Xはハロゲン原子を示す。)
で表されるハロシランとを反応させて得られるものである請求項13に記載の有機ケイ素化合物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、常温硬化により優れたマグネシウム合金接着性を発現するシリコーンゴム硬化物を与えるオルガノポリシロキサン組成物に関する。
また、本発明は、新規な有機ケイ素化合物に関するものである。特にシランカップリング剤、シリル化剤、接着助剤などとして有用である新規カルボン酸シリルエステル基含有有機ケイ素化合物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物(いわゆるシリコーンゴム組成物)を硬化して得られるシリコーンゴムは、その安全性やゴムとしての耐久性、接着性に優れることから建築関係、輸送機関係、電気電子部品関係等幅広く使用されている。
室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物の硬化物(シリコーンゴム硬化物)の使用用途には高い接着性が要求されることが多く、接着性付与剤として、アミノ基やエポキシ基、メタクリル基、メルカプト基などの官能性基含有一価炭化水素基を持つ加水分解性オルガノシラン化合物(カーボンファンクショナルシラン又はシランカップリング剤)を室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物中に添加することで、基材との密着性や接着性を改善してきた。
【0003】
従来、アミノ基含有アルコキシシラン化合物としては、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ-アミノプロピルメチルジエトキシシラン、N-β-アミノエチル-γ-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-ベンジル-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-フェニル-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、β-アミノエチルアミノメチルフェネチルトリメトキシシラン、N-[m-アミノメチルフェニルメチル]-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン等が知られており(特許文献1:特開2008-163143号公報)、エポキシ基含有アルコキシシラン化合物としては、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン等が知られている(特許文献2:特開2004-307723号公報)。メタクリル基含有アルコキシシラン化合物としては、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン等が知られており(特許文献3:特開2006-156964号公報)、メルカプト基含有アルコキシシラン化合物としては、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン等が知られている(特許文献4:特開平9-12861号公報)。このように、すでに数多くのアルコキシシラン化合物が接着助剤として用いられているが、基材との密着・接着性の改善要求は年々高まってきている。
【0004】
一方、近年、AZ-91Dに代表されるマグネシウム合金は、その軽量高強度、耐食性、意匠性、リサイクル性という特徴から、携帯電話、デジタルビデオ、デジタルカメラ、液晶プロジェクター、プラズマディスプレイ、パソコン、MDプレーヤー、DVDレコーダー等の情報電子機器、電装部品、自動車オイルパン、インテークマニホールド、ロックハウジング部品、ステアリングアッパーブラケット、ステアリングホイール等の輸送機器部材に多く用いられており、これら部材に対して良好な自己接着性を有するマグネシウム合金接着用オルガノポリシロキサン組成物が必要とされている。
【0005】
しかしながら、これらマグネシウム合金は非常に難接着な被着体であるため、接着には化成処理が必須であり、処理なしで良好な自己接着性を示すシーリング材、接着剤については、これまであまり多くの検討がなされていなかった。即ち、マグネシウム合金に対する自己接着性を有するオルガノポリシロキサン組成物に関しては、これまで数例の手法が提案されているのみである。特表2003-535152号公報(特許文献5)では、硬化性シリコーン、充填剤にアミノ基含有シラン接着促進剤を用いた組成物が提案されている。また、特許第3818365号公報(特許文献6)には、シリコーンオイル、硬化剤にマグネシウムよりもイオン化傾向の小さい金属元素を含む無機化合物を用いた組成物が提案されている。また、特許第4553110号公報(特許文献7)では、シランカップリング剤5%水溶液のpHが7以下である酸性シランカップリング剤を使用することでマグネシウム合金への接着を達成している。さらに、特開2007-204575号公報(特許文献8)では、ベースオイルに末端シルエチレン結合を有するオルガノポリシロキサンと亜鉛化合物を充填剤として用いることでマグネシウム合金への接着を報告している。しかし、特許文献5では、γ-アミノプロピルトリアルコキシシラン、トリアルコキシプロピルエチレンジアミン等のアミノ基含有シラン接着促進剤の有効性が不十分であり、特許文献6、8については、使用される充填剤やベースオイルに制限されるため、材料設計の自由度に欠けるものである。特許文献7では例示されている酸性シランカップリング剤を用いると耐薬品試験後のマグネシウム合金接着が低下してしまうことが欠点である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2008-163143号公報
【文献】特開2004-307723号公報
【文献】特開2006-156964号公報
【文献】特開平9-12861号公報
【文献】特表2003-535152号公報
【文献】特許第3818365号公報
【文献】特許第4553110号公報
【文献】特開2007-204575号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、大気中の湿気(縮合反応による架橋)により常温硬化してマグネシウム合金に対して良好な自己接着性を有するシリコーンゴム硬化物を与えるオルガノポリシロキサン組成物、特には、マグネシウム合金接着用のオルガノポリシロキサン組成物を提供することを目的とする。
また、本発明は、さらに基材との密着・接着性を向上させるシランカップリング剤、シリル化剤、接着助剤などに有用である新規有機ケイ素化合物及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、後述する一般式(3)で示されるアルコキシシリル基とカルボン酸シリルエステル基を一分子中に併せ持つ化合物を使用することにより、加水分解された後のカルボン酸の効果によって基材との密着・接着性の改善が可能であることを知見した。
さらに、本発明者らは、マグネシウム合金被着体の特殊性に着目して鋭意検討を行った結果、(A)後述する一般式(1)及び/又は(2)で示されるオルガノポリシロキサン、(B)一分子中にケイ素原子に結合した加水分解可能な基を少なくとも3個有する、(A)成分及び(C)成分以外の有機ケイ素化合物及び/又はその部分加水分解縮合物、(C)後述する一般式(3)で示されるカルボン酸シリルエステル結合を有する特定分子構造のシランカップリング剤、及び好ましくは(D)少なくとも1種の充填剤を含有するオルガノポリシロキサン組成物が、大気中の湿気(縮合反応による架橋)により常温(23℃±10℃)で硬化してマグネシウム合金に対して良好な自己接着性を有するシリコーンゴム硬化物を与えることを見出した。
即ち、ガラス等に代表される一般の被着体に対しては、アミノ基含有シラン接着促進剤が有効であるが、マグネシウム合金に対しては、3-アミノプロピルトリメトキシシランを用いた後述の比較例の結果からも明らかな通り、接着性に劣るものであるが、カルボン酸シリルエステル結合を有する特定分子構造のシランカップリング剤を用いた場合、マグネシウム合金との接着性が飛躍的に向上し、かつ従来技術と比較しても耐薬品性にも優れることを見出し、本発明をなすに至ったものである。
【0009】
即ち、本発明は、下記のオルガノポリシロキサン組成物、並びに有機ケイ素化合物及びその製造方法を提供するものである。
[1]
(A)下記一般式(1)及び/又は(2)で示されるオルガノポリシロキサン:100質量部、
HO(SiR
2O)
nH (1)
(式中、Rは同一又は異種の炭素数1~10の非置換もしくはハロゲン原子置換の一価炭化水素基であり、nは10
~2,000の整数である。)
【化1】
(式中、
Rは上記の通りであり、
nは10以上の整数であり、Yは酸素原子又は炭素数2~5のアルキレン基であり、mは独立に0又は1である。)
(B)一分子中にケイ素原子に結合した加水分解可能な基を少なくとも3個有する、(A)成分及び(C)成分以外の有機ケイ素化合物及び/又はその部分加水分解縮合物:0.1~50質量部、
(C)下記一般式(3)で示されるシランカップリング剤:0.1~15質量部
【化2】
(式中、R
1、R
2、R
3は同一又は異種の炭素数1~10の一価炭化水素基であり、kは3~14の整数であり、aは0~2の整数であり、bは0~3の整数である。
但し、R
3
が脂肪族飽和一価炭化水素基であり、かつb=3の場合、kは6~14の整数である。)
を含有してなるオルガノポリシロキサン組成物。
[2]
(B)成分が、下記一般式(4)で示される加水分解性オルガノシラン化合物及び/又はその部分加水分解縮合物である[1]に記載のオルガノポリシロキサン組成物。
R
4
cSiR
5
4-c (4)
(式中、R
4は一価炭化水素基であり、R
5は加水分解性基である。cは0又は1である。)
[3]
さらに、(D)成分として少なくとも1種の充填剤を(A)成分100質量部に対して1~500質量部含有してなる[1]又は[2]に記載のオルガノポリシロキサン組成物。
[4]
マグネシウム合金接着用である[1]~[3]のいずれかに記載のオルガノポリシロキサン組成物。
[5]
大気中の湿気により硬化してマグネシウム合金に対して自己接着するシリコーンゴム硬化物を与えるものである[1]~[4]のいずれかに記載のオルガノポリシロキサン組成物。
[6]
下記一般式(3A)で示される有機ケイ素化合物。
【化3】
(式中、R
1、R
2、R
3は同一又は異種の炭素数1~10の一価炭化水素基であり、kは3~14の整数であり、aは0~2の整数であり、b’は0~2の整数である。)
[7]
下記一般式(3B)で示される有機ケイ素化合物。
【化4】
(式中、R
1、R
2、R
3は同一又は異種の炭素数1~10の一価炭化水素基であり、kは3~14の整数であり、aは0~2の整数であり、b''は1~3の整数である。但し、少なくとも1個のR
3はアリール基である。)
[8]
下記一般式(3C)で示される有機ケイ素化合物。
【化5】
(式中、R
1、R
2、R
3は同一又は異種の炭素数1~10の一価炭化水素基であり、kは3~14の整数であり、a’は
1であり、bは0~3の整数である。但し、R
3が脂肪族飽和一価炭化水素基であり、かつb=3の場合、kは6~14の整数である。)
[9]
下記一般式(5A)
【化6】
(式中、R
3は同一又は異種の炭素数1~10の一価炭化水素基であり、b’は0~2の整数であり、kは3~14の整数である。)
で表される末端に脂肪族不飽和基を有するカルボン酸シリルエステル化合物と、下記一般式(8)
【化7】
(式中、R
1、R
2は同一又は異種の炭素数1~10の一価炭化水素基であり、aは0~2の整数である。)
で表されるアルコキシシランとを反応させる工程を含有する下記一般式(3A)
【化8】
(式中、R
1、R
2、R
3、a、b’、kは上記と同じである。)
で示される有機ケイ素化合物の製造方法。
[10]
上記一般式(5A)で表される末端に脂肪族不飽和基を有するカルボン酸シリルエステル化合物が、下記一般式(6)
【化44】
(式中、kは上記と同じである。)
で表される末端に脂肪族不飽和基を有するカルボン酸と、下記一般式(7A)
【化45】
(式中、R
3、b’は上記と同じであり、Xはハロゲン原子を示す。)
で表されるハロシランとを反応させて得られるものである[9]に記載の有機ケイ素化合物の製造方法。
[11]
下記一般式(5B)
【化46】
(式中、R
3は同一又は異種の炭素数1~10の一価炭化水素基であり、b''は1~3の整数であり、kは3~14の整数であり、但し、少なくとも1個のR
3はアリール基である。)
で表される末端に脂肪族不飽和基を有するカルボン酸シリルエステル化合物と、下記一般式(8)
【化47】
(式中、R
1、R
2は同一又は異種の炭素数1~10の一価炭化水素基であり、aは0~2の整数である。)
で表されるアルコキシシランとを反応させる工程を含有する下記一般式(3B)
【化48】
(式中、R
1、R
2、R
3、a、b''、kは上記と同じである。但し、少なくとも1個のR
3はアリール基である。)
で示される有機ケイ素化合物の製造方法。
[12]
上記一般式(5B)で表される末端に脂肪族不飽和基を有するカルボン酸シリルエステル化合物が、下記一般式(6)
【化49】
(式中、kは上記と同じである。)
で表される末端に脂肪族不飽和基を有するカルボン酸と、下記一般式(7B)
【化50】
(式中、R
3、b''は上記と同じであり、Xはハロゲン原子を示す。)
で表されるハロシランとを反応させて得られるものである[11]に記載の有機ケイ素化合物の製造方法。
[13]
下記一般式(5)
【化51】
(式中、R
3は同一又は異種の炭素数1~10の一価炭化水素基であり、bは0~3の整数であり、kは3~14の整数であり、但し、R
3が脂肪族飽和一価炭化水素基であり、かつb=3の場合、kは6~14の整数である。)
で表される末端に脂肪族不飽和基を有するカルボン酸シリルエステル化合物と、下記一般式(8C)
【化52】
(式中、R
1、R
2は同一又は異種の炭素数1~10の一価炭化水素基であり、a’は
1である。)
で表されるアルコキシシランとを反応させる工程を含有する下記一般式(3C)
【化53】
(式中、R
1、R
2、R
3、a’、b、kは上記と同じである。但し、R
3が脂肪族飽和一価炭化水素基であり、かつb=3の場合、kは6~14の整数である。)
で示される有機ケイ素化合物の製造方法。
[14]
上記一般式(5)で表される末端に脂肪族不飽和基を有するカルボン酸シリルエステル化合物が、下記一般式(6)
【化54】
(式中、kは上記と同じである。)
で表される末端に脂肪族不飽和基を有するカルボン酸と、下記一般式(7)
【化55】
(式中、R
3、bは上記と同じであり、Xはハロゲン原子を示す。)
で表されるハロシランとを反応させて得られるものである[13]に記載の有機ケイ素化合物の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明のオルガノポリシロキサン組成物は、常温硬化により優れたマグネシウム合金接着性を発現するシリコーンゴム硬化物を与えるものであり、特に、マグネシウム合金接着用のオルガノポリシロキサン組成物として有用である。
また、本発明の新規有機ケイ素化合物は、アルコキシシリル基とカルボン酸シリルエステル基を一分子中に有しており、加水分解によって高活性なカルボキシル基が再生されることから、該有機ケイ素化合物を添加した室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物は、基材との高い密着・接着性を発現する。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のオルガノポリシロキサン組成物は、下記(A)~(C)成分を含有してなるものである。
(A)下記一般式(1)及び/又は(2)で示されるオルガノポリシロキサン、
HO(SiR
2O)
nH (1)
(式中、Rは同一又は異種の炭素数1~10の非置換もしくはハロゲン原子置換の一価炭化水素基であり、nは10以上の整数である。)
【化9】
(式中、R及びnは上記の通りであり、Yは酸素原子又は炭素数2~5のアルキレン基であり、mは独立に0又は1である。)
(B)一分子中にケイ素原子に結合した加水分解可能な基を少なくとも3個有する、(A)成分及び(C)成分以外の有機ケイ素化合物及び/又はその部分加水分解縮合物、
(C)下記一般式(3)で示されるシランカップリング剤。
【化10】
(式中、R
1、R
2、R
3は同一又は異種の炭素数1~10の一価炭化水素基であり、kは3~14の整数であり、aは0~2の整数であり、bは0~3の整数である。)
【0012】
[(A)成分]
本発明のオルガノポリシロキサン組成物に用いられる(A)成分のオルガノポリシロキサンは、本発明組成物の主剤(ベースポリマー)として作用するものであり、下記一般式(1)及び/又は(2)で示されるものである。
HO(SiR
2O)
nH (1)
(式中、Rは同一又は異種の炭素数1~10の非置換もしくはハロゲン原子置換の一価炭化水素基であり、nは10以上の整数である。)
【化11】
(式中、Rは同一又は異種の炭素数1~10の非置換もしくはハロゲン原子置換の一価炭化水素基であり、nは10以上の整数であり、Yは酸素原子又は炭素数2~5のアルキレン基であり、mは独立に0又は1である。)
【0013】
一般式(1)、(2)中、Rは炭素数1~10の非置換又はハロゲン原子置換の一価炭化水素基であり、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基などのアルキル基;シクロヘキシル基などのシクロアルキル基;ビニル基、アリル基などのアルケニル基;フェニル基、トリル基などのアリール基;及びこれらの基の炭素原子に結合している水素原子が部分的にハロゲン原子で置換された基、例えば3,3,3-トリフルオロプロピル基等が挙げられる。これらの中でも、メチル基、ビニル基、フェニル基、3,3,3-トリフルオロプロピル基が好ましく、メチル基が特に好ましい。一般式(1)、(2)中の複数のRは同一の基であっても異種の基であってもよい。
【0014】
またnは10以上の整数であり、特にこのジオルガノポリシロキサンの25℃における粘度が25~500,000mPa・sの範囲、好ましくは500~100,000mPa・sの範囲となる整数である。なお、本発明において、粘度は回転粘度計(例えば、BL型、BH型、BS型、コーンプレート型、レオメータ等)により測定した25℃における値である。このような粘度を与えるnの値としては、具体的には、通常、10~2,000、好ましくは20~1,500、より好ましくは50~1,000程度の整数であればよい。
【0015】
また、一般式(2)中、Yは酸素原子又は炭素数2~5のアルキレン基であり、炭素数2~5のアルキレン基としては、例えば、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基等が例示される。Yとしては、これらの中でも、酸素原子、エチレン基が好ましい。
mは独立に0又は1である。
【0016】
[(B)成分]
本発明のオルガノポリシロキサン組成物に用いる(B)成分は、架橋剤(硬化剤)として作用するものであり、一分子中にケイ素原子に結合した加水分解可能な基を少なくとも3個有する、(A)成分及び(C)成分以外の、加水分解性有機ケイ素化合物及び/又はその部分加水分解縮合物であり、該有機ケイ素化合物としては、下記一般式(4)で示される加水分解性オルガノシラン化合物及び/又はその部分加水分解縮合物(即ち、該オルガノシラン化合物を部分的に加水分解縮合して生成する分子中に残存加水分解性基を少なくとも2個、好ましくは3個以上有するオルガノシロキサンオリゴマー)が好ましい。
R4
cSiR5
4-c (4)
(式中、R4は一価炭化水素基であり、R5は加水分解性基である。cは0又は1であり、好ましくは1である。)
【0017】
一般式(4)中、加水分解性基R5としては、例えば、ケトオキシム基、アルコキシ基、アシロキシ基、アルケニルオキシ基等が挙げられる。具体的には、ジメチルケトオキシム基、メチルエチルケトオキシム基、メチルイソブチルケトオキシム基等の炭素数3~8のケトオキシム基、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基、sec-ブトキシ基、tert-ブトキシ基等の炭素数1~4、特に1又は2のアルコキシ基、アセトキシ基、プロピオノキシ基等の炭素数2~4のアシロキシ基、ビニルオキシ基、アリルオキシ基、プロペノキシ基、イソプロペノキシ基等の炭素数2~4のアルケニルオキシ基などが例示できる。
また、加水分解性基以外のケイ素原子に結合した残余の基R4は、一価炭化水素基であれば特に限定されるものではないが、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等のアルキル基、ビニル基等のアルケニル基、フェニル基等のアリール基などの炭素数1~10の一価炭化水素基が例示される。これらの中でも、メチル基、エチル基、ビニル基、フェニル基が好ましい。
【0018】
このような(B)成分の具体例としては、テトラキス(メチルエチルケトオキシム)シラン、メチルトリス(ジメチルケトオキシム)シラン、メチルトリス(メチルエチルケトオキシム)シラン、エチルトリス(メチルエチルケトオキシム)シラン、メチルトリス(メチルイソブチルケトオキシム)シラン、ビニルトリス(メチルエチルケトオキシム)シラン(別名:ビニルトリブタノキシムシラン)などのケトオキシムシラン類、メチルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、テトラメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、テトラエトキシシランなどのアルコキシシラン類、メチルトリアセトキシシラン、ビニルトリアセトキシシランなどのアセトキシシラン類、及びメチルトリイソプロペノキシシラン、ビニルトリイソプロペノキシシラン、フェニルトリイソプロペノキシシランなどのイソプロペノキシシラン類、並びにこれらシランの部分加水分解縮合物などが挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を併用してもよい。
【0019】
(B)成分の配合量は、(A)成分100質量部に対して0.1~50質量部の範囲、好ましくは5~30質量部の範囲で使用される。0.1質量部未満では十分な架橋が得られず、目的とするゴム弾性を有する組成物が得難く、50質量部を超えると得られる硬化物は機械特性が低下し易い。
【0020】
なお、(B)成分として式(4)で示されるものは、分子中に(SiR2O)nで示される2官能性のジオルガノシロキサン単位の繰り返し構造を有さないものである点において(A)成分とは明確に差別化されるものであり、また、(B)成分は、分子中にカルボン酸シリルエステル結合を有さないものである点において後述する(C)成分のシランカップリング剤とも明確に差別化されるものである。
【0021】
[(C)成分]
本発明のオルガノポリシロキサン組成物に用いる(C)成分のシランカップリング剤は、分子中に1~4個のカルボン酸シリルエステル結合を有するものであり、本発明の組成物を常温硬化して得られる硬化物(シリコーンゴム)に良好なマグネシウム合金接着性を付与するために必須のものである。特許文献7でも述べられているが、マグネシウム合金への接着性向上には酸系シランカップリング剤が有効である。本発明で使用するカルボン酸シリルエステル基を有するシランカップリング剤は、未硬化時にはカルボキシル基はシリル基で保護されているが、硬化時に加水分解によってシリル基が脱離することでカルボキシル基が再生することにより、マグネシウム合金への接着力向上を実現する。また、高活性のカルボキシル基をシリル基で保護することによって、保存安定性や耐薬品性の向上も達成している。
【0022】
本発明に係るカルボン酸シリルエステル基含有シランカップリング剤は、下記一般式(3)で示される構造である。
【化12】
(式中、R
1、R
2、R
3は同一又は異種の炭素数1~10の一価炭化水素基であり、kは3~14の整数であり、aは0~2の整数であり、bは0~3の整数である。)
【0023】
ここで、前記一般式(3)において、R1、R2、R3で示される炭素数1~10の一価炭化水素基は、好ましくは炭素数1~7の一価炭化水素基であり、これらのうち、R1O-として加水分解性基を構成するR1としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基などのアルキル基;シクロヘキシル基などのシクロアルキル基;ビニル基、アリル基などのアルケニル基等の飽和又は不飽和の脂肪族炭化水素基;フェニル基、トリル基などのアリール基;ベンジル基、フェニルエチル基などのアラルキル基等の芳香族炭化水素基などが挙げられる。これらの中でも、炭素数1~7の基が好ましく、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基等のアルキル基が好ましく、特にメチル基、エチル基が好ましい。
【0024】
また、R2としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基などのアルキル基;シクロヘキシル基などのシクロアルキル基;ビニル基、アリル基などのアルケニル基等の飽和又は不飽和の脂肪族炭化水素基;フェニル基、トリル基などのアリール基;ベンジル基、フェニルエチル基などのアラルキル基等の芳香族炭化水素基などが挙げられる。これらの中でも、炭素数1~7の基が好ましく、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基等のアルキル基、ビニル基等のアルケニル基、フェニル基等のアリール基が好ましく、特にメチル基、エチル基、フェニル基が好ましい。
【0025】
R3はカルボキシル基を保護するシリル基に由来するものであり、炭素数1~10の非置換又は置換の一価炭化水素基であり、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基などのアルキル基;シクロヘキシル基などのシクロアルキル基;ビニル基、アリル基などのアルケニル基等の飽和又は不飽和の脂肪族炭化水素基;フェニル基、トリル基などのアリール基;ベンジル基、フェニルエチル基などのアラルキル基等の芳香族炭化水素基などが挙げられる。これらの中でも、炭素数1~7の基が好ましく、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基等のアルキル基、ビニル基等のアルケニル基、フェニル基等のアリール基が好ましく、特にメチル基、エチル基、ビニル基、フェニル基が好ましい。
【0026】
前記一般式(3)において、kはシランカップリング剤の加水分解性アルコキシシリル基とカルボン酸シリルエステル基をつなぐスペーサーの飽和炭化水素基の繰り返し数を表す。スペーサーである-(CH2)k-で示されるアルキレン基中のメチレン基の繰り返し数kは3~14の整数が好ましく、より好ましくは5~13の整数であり、さらに好ましくは6~11の整数であり、特に好ましくは8~11の整数であり、とりわけ好ましくは8~10の整数である。スペーサーの数が3より小さいと合成が困難となり、スペーサーの数が14より大きいと分子量が大きくなりすぎて接着性が低下するおそれがある。
【0027】
式中aの値は0~2の整数であり、好ましくは0である。
また、式中bの値は0~3の整数であり、好ましくは1~3の整数であり、さらに好ましくは2又は3であり、bの値が2及び3の場合は、R3の構造は互いに同一でも異種であってもよい。
【0028】
なお、本発明においては、b=3であって、R3がアルキル基等の脂肪族飽和一価炭化水素基である場合、スペーサーである-(CH2)k-で示されるアルキレン基中のメチレン基の繰り返し数kは6~14の整数、好ましくは6~11の整数、より好ましくは8~10の整数であることが望ましい。
【0029】
また、一般式(3)の具体例としては以下の構造の化合物が例示できるが、これに限られたものではない。
【化13】
【化14】
【化15】
【化16】
【化17】
【化18】
【化19】
【化20】
【化21】
【化22】
【化23】
【化24】
【化25】
【化26】
【化27】
【化28】
【化29】
【化30】
【0030】
カルボン酸シリルエステル基を有するシランカップリング剤等として有用な本発明の有機ケイ素化合物は、例えば、まず、末端に脂肪族不飽和基(エチレン性不飽和基又はアルケニル基)を有するカルボン酸とハロシランとの脱ハロゲン化水素反応によって下記一般式(5)で表される末端に脂肪族不飽和基(エチレン性不飽和基又はアルケニル基)を有するカルボン酸シリルエステル化合物を調製した後、該カルボン酸シリルエステル化合物をSiH基(ヒドロシリル基)を有するアルコキシシランと触媒存在下で反応させることで製造することができる。
【化31】
(式中、R
3、b、kは上記と同じである。)
【0031】
上記式(5)において、b=3であって、R3がアルキル基等の脂肪族飽和一価炭化水素基である場合、kは6~14の整数、好ましくは6~11の整数、より好ましくは8~10の整数であることが望ましい。
【0032】
一般式(5)で表される末端に脂肪族不飽和基(エチレン性不飽和基又はアルケニル基)を有するカルボン酸シリルエステル化合物は、下記の方法により製造可能である。下記一般式(6)
【化32】
(式中、kは上記と同じである。)
で表される末端に脂肪族不飽和基(エチレン性不飽和基又はアルケニル基)を有するカルボン酸と、下記一般式(7)
【化33】
(式中、R
3、bは上記と同じであり、Xはハロゲン原子を示す。)
で表されるハロシランを、ハロゲン化水素捕捉剤存在下で、例えば、0℃~150℃、好ましくは0℃~60℃で、30分~10時間程度反応させることによって製造することができる。
【0033】
上記式(7)において、Xのハロゲン原子としては、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基、ヨード基が挙げられるが、入手の容易さからクロロ基が好ましい。
【0034】
式(6)で表される末端に脂肪族不飽和基(エチレン性不飽和基又はアルケニル基)を有するカルボン酸と式(7)で表されるハロシランとの反応割合は、末端に脂肪族不飽和基(エチレン性不飽和基又はアルケニル基)を有するカルボン酸中のカルボキシル基に対するハロシラン中のハロゲン原子のモル比(ハロゲン原子/カルボキシル基)を好ましくは1~2、さらに好ましくは1.0~1.4とすることが望ましい。
【0035】
ハロゲン化水素捕捉剤としては、例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、ピリジンなどの3級アミン化合物が挙げられる。
ハロゲン化水素捕捉剤の使用量は、式(7)で表されるハロシラン中のハロゲン原子1モルに対して0.8~3モル、特に1~2モルとすることが好ましい。
【0036】
このようにして得られた一般式(5)で表される末端に脂肪族不飽和基(エチレン性不飽和基又はアルケニル基)を有するカルボン酸シリルエステル化合物と、SiH基(ヒドロシリル基)を有するアルコキシシランとを、触媒存在下で反応させることで、本発明の有機ケイ素化合物を製造することができる。
【0037】
即ち、下記一般式(8)
【化34】
(式中、R
1、R
2及びaは上記と同じである。)
で表されるアルコキシシリル化合物(ヒドロシリル基含有(オルガノ)アルコキシシラン)と、下記一般式(5)
【化35】
(式中、R
3、b、kは上記と同じである。)
で表される末端に脂肪族不飽和基(エチレン性不飽和基又はアルケニル基)を有するカルボン酸シリルエステル化合物を、白金族金属触媒存在下で、例えば、40℃~200℃、好ましくは60℃~120℃で、30分~15時間程度反応させることによって得られる。
【0038】
この時、式(8)で表されるアルコキシシリル化合物(ヒドロシリル基含有(オルガノ)アルコキシシラン)と式(5)で表される末端に脂肪族不飽和基(エチレン性不飽和基又はアルケニル基)を有するカルボン酸シリルエステル化合物との反応割合は、末端に脂肪族不飽和基を有するカルボン酸シリルエステル化合物の末端脂肪族不飽和基に対するアルコキシシリル化合物のSiH基のモル比(SiH基/末端脂肪族不飽和基)が、好ましくは0.5~2、より好ましくは1~2、さらに好ましくは1.0~1.5とすることが望ましい。
【0039】
ここで用いる白金族金属触媒としては、塩化白金酸、塩化白金酸のアルコール溶液、塩化白金酸とアルコールとの反応物、白金オレフィン化合物錯体、白金ビニル基含有シロキサン錯体、白金担持カーボンなどが挙げられる。
白金族金属触媒の使用量は、所謂触媒量でよく、末端に脂肪族不飽和基を有するカルボン酸シリルエステル化合物とSiH基を有するアルコキシシラン類との合計質量に対して、白金族金属の質量換算で0.1~1,000ppmであることが好ましく、特に0.3~100ppmの量であることが好ましい。
【0040】
また、上記の製造方法はいずれも反応時に溶媒を添加してもよく、溶媒としては特に限定されないが、例えば、トルエン、キシレン、ベンゼンなどの芳香族炭化水素類、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、ノナン、オクタン、デカンなどの脂肪族炭化水素類、ジメチルエーテル、メチルエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどのエーテル類、パークロロエタン、パークロロエチレン、トリクロロエタン、クロロホルム、四塩化炭素などのハロゲン化炭化水素、ジメチルホルムアミドなどのアミド類、酢酸エチル、酢酸メチル、酢酸ブチルなどのエステル類等が挙げられる。
【0041】
本発明の有機ケイ素化合物は、アルコキシシリル基とカルボン酸シリルエステル基を一分子中に有しており、加水分解によって高活性なカルボキシル基が再生されることから、該有機ケイ素化合物を添加した室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物は、基材との高い密着・接着性を発現する。よって、本発明の有機ケイ素化合物は、シランカップリング剤、シリル化剤、接着助剤などとして有用である。
【0042】
(C)成分のカルボン酸シリルエステル基含有シランカップリング剤の配合量は、(A)成分100質量部に対して0.1~15質量部、好ましくは0.3~10質量部である。0.1質量部より少ないと十分なマグネシウム合金接着性が得られず、15質量部より多いと硬化物が硬くて脆いものとなり、さらにコスト的に不利となる。
【0043】
[(D)成分]
本発明のオルガノポリシロキサン組成物においては、(D)充填剤を配合することができ、該充填剤としては、本組成物にゴム物性を付与するための補強性、非補強性充填剤を用いることができる。このような充填剤として、具体的には、表面処理又は無処理の煙霧質シリカ、沈降性シリカ、湿式シリカ、カーボン粉、タルク、ベントナイト、表面処理又は無処理の炭酸カルシウム、炭酸亜鉛、炭酸マグネシウム、表面処理又は無処理の酸化カルシウム、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム等が例示され、これらは1種を単独で又は2種以上を併用することができる。
【0044】
充填剤の配合量は、(A)成分100質量部に対して1~500質量部の範囲で使用することが好ましく、より好ましくは5~450質量部の範囲である。1質量部未満ではゴム強度の不足から目的とするマグネシウム合金に対する十分な接着強度が得られない場合があり、500質量部を超えると材料の粘度が高くなり、作業性に劣る場合がある。
【0045】
[その他の成分]
また、本発明のオルガノポリシロキサン組成物には、室温での硬化性やマグネシウム合金への自己接着性等に悪影響を与えない限り、上記成分以外に一般に知られている添加剤、触媒(特に、縮合反応触媒)などを使用しても差し支えない。添加剤としては、チクソ性向上剤としてのポリエーテル、顔料、染料などの着色剤、ベンガラ及び酸化セリウムなどの耐熱性向上剤、耐寒性向上剤、防錆剤、可塑剤、メタクリル酸カリウムなどの耐油性向上剤等が挙げられ、必要に応じて防かび剤、抗菌剤なども添加される。触媒(縮合反応触媒)としては、有機スズエステル化合物、有機スズキレート化合物、アルコキシチタン化合物、チタンキレート化合物などの有機金属化合物やグアニジル基を有するケイ素化合物などが挙げられる。
【0046】
また、本発明のオルガノポリシロキサン組成物には、室温での硬化性やマグネシウム合金への自己接着性等に悪影響を与えない限り、上記成分以外に一般に知られているシランカップリング剤(即ち、分子中に官能性基含有一価炭化水素基と少なくとも2個の加水分解性基とを有する、いわゆるカーボンファンクショナルシラン化合物)を併用してもよい。2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン等のエポキシ基含有アルコキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン等のメタクリロキシ基含有アルコキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン等のメルカプト基含有アルコキシシラン、N-(1,3-ジメチルブチリデン)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(1,3-ジメチルブチリデン)-3-アミノプロピルトリエトキシシラン等のケチミン基含有アルコキシシランなどが例示できる。
【0047】
[オルガノポリシロキサン組成物の調製]
本発明のオルガノポリシロキサン組成物の調製方法は特に限定されず、上記各成分の所定量を常法に準じて混合することにより得ることができる。
本発明のオルガノポリシロキサン組成物は、マグネシウム合金接着用として用いた場合、常温(23℃±10℃)において大気中の湿気によって縮合反応により硬化(架橋)することによって、マグネシウム合金に対して化成処理なしでも良好な自己接着性を示すシリコーンゴム硬化物を与えるものである。
また、上記オルガノポリシロキサン組成物は、室温(23℃±10℃)で放置することにより硬化するが、その成形方法、硬化条件などは、組成物の種類に応じた公知の方法、条件を採用することができる。
【実施例】
【0048】
以下、合成例、合成実施例、合成参考例、実施例、参考例及び比較例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、後述する実施例8は参考例である。下記例において、部及び%はそれぞれ質量部と質量%を示す。粘度はJIS Z 8803に規定する方法に準じて回転粘度計により測定した25℃における値である。
【0049】
以下に、本発明の有機ケイ素化合物の合成に使用される末端脂肪族不飽和基含有カルボン酸シリルエステル化合物の合成例、及び本発明の有機ケイ素化合物の合成例(合成実施例)を示す。なお、合成された化合物は1H-NMRにて同定を行い、合成を確認した。
【0050】
[合成例1]
還流管、滴下ロート、撹拌機、温度計を備えた容量1,000mlのセパラブルフラスコに、10-ウンデシレン酸を184g(1モル)、トリメチルクロロシランを119g(1.1モル)、トルエンを500ml加え、氷浴下でトリエチルアミン111g(1.1モル)を1時間かけて滴下した。滴下終了後、6時間室温(23℃、以下同じ)で反応させたのち、濾過により発生したトリエチルアミン塩酸塩を除去し、さらに150℃、300Paでトルエン及び未反応物を除去(留去)することにより、目的物の10-ウンデシレン酸トリメチルシリルエステルを得た(収量226g、収率72%)。
1H-NMR(400MHz,CDCl3)δ5.46(m,3H),2.48(t,2H),1.88(m,2H),1.08(brs,16H),0.28(s,9H)
【0051】
[合成例2]
還流管、滴下ロート、撹拌機、温度計を備えた容量500mlのセパラブルフラスコに、10-ウンデシレン酸を50g(0.27モル)、ジフェニルジクロロシランを34g(0.135モル)、トルエンを300ml加え、氷浴下でトリエチルアミン30g(0.3モル)を30分かけて滴下した。滴下終了後、6時間室温で反応させたのち、濾過により発生したトリエチルアミン塩酸塩を除去し、さらに150℃、300Paでトルエン及び未反応物を除去(留去)することにより、目的物のビス(10-ウンデシレン酸)ジフェニルシリルエステルを得た(収量59g、収率79%)。
1H-NMR(400MHz,CDCl3)δ7.36(m,10H),2.51(t,4H),1.88(m,4H),1.08(brs,32H),0.28(s,18H)
【0052】
[合成例3]
還流管、滴下ロート、撹拌機、温度計を備えた容量500mlのセパラブルフラスコに、3-ブテン酸を43g(0.5モル)、フェニルジメチルクロロシランを94g(0.55モル)、トルエンを300ml加え、氷浴下でトリエチルアミン55g(0.55モル)を30分かけて滴下した。滴下終了後、6時間室温で反応させたのち、濾過により発生したトリエチルアミン塩酸塩を除去し、さらに100℃、300Paでトルエン及び未反応物を除去(留去)することにより、目的物の3-ブテン酸フェニルジメチルシリルエステルを得た(収量78g、収率71%)。
1H-NMR(400MHz,CDCl3)δ7.32(m,5H),5.72(m,3H),2.48(t,2H),0.31(s,6H)
【0053】
[合成例4]
還流管、滴下ロート、撹拌機、温度計を備えた容量500mlのセパラブルフラスコに、3-ブテン酸を52g(0.6モル)、メチルトリクロロシランを29g(0.2モル)、トルエンを300ml加え、氷浴下でトリエチルアミン60g(0.6モル)を30分かけて滴下した。滴下終了後、6時間室温で反応させたのち、濾過により発生したトリエチルアミン塩酸塩を除去し、さらに150℃、300Paでトルエン及び未反応物を除去(留去)することにより、目的物のトリス(3-ブテン酸)メチルシリルエステルを得た(収量52g、収率88%)。
1H-NMR(400MHz,CDCl3)δ5.72(m,9H),2.48(t,6H),0.29(s,3H)
【0054】
[合成例5]
還流管、滴下ロート、撹拌機、温度計を備えた容量500mlのセパラブルフラスコに、3-ブテン酸を69g(0.8モル)、テトラクロロシランを33g(0.2モル)、トルエンを300ml加え、氷浴下でトリエチルアミン80g(0.8モル)を30分かけて滴下した。滴下終了後、6時間室温で反応させたのち、濾過により発生したトリエチルアミン塩酸塩を除去し、さらに150℃、300Paでトルエン及び未反応物を除去(留去)することにより、目的物のテトラ(3-ブテン酸)シリルエステルを得た(収量61g、収率83%)。
1H-NMR(400MHz,CDCl3)δ5.72(m,12H),2.48(t,8H)
【0055】
[合成例6]
還流管、滴下ロート、撹拌機、温度計を備えた容量1,000mlのセパラブルフラスコに、3-ブテン酸を86g(1モル)、トリメチルクロロシランを119g(1.1モル)、トルエンを500ml加え、氷浴下でトリエチルアミン111g(1.1モル)を1時間かけて滴下した。滴下終了後、6時間室温(23℃、以下同じ)で反応させたのち、濾過により発生したトリエチルアミン塩酸塩を除去し、さらに120℃、2,000Paでトルエン及び未反応物を除去(留去)することにより、目的物の3-ブテン酸トリメチルシリルエステルを得た(収量108g、収率68%)。
1H-NMR(400MHz,CDCl3)δ5.72(m,3H),2.48(t,2H),0.28(s,9H)
【0056】
[合成実施例1]
還流管、滴下ロート、撹拌機、温度計を備えた容量500mlのセパラブルフラスコに、合成例1で得られた10-ウンデシレン酸トリメチルシリルエステルを128g(0.5モル)、0.5%カールステッド触媒(白金オレフィン化合物錯体)トルエン溶液を0.1g加え、80℃に加温した。次にトリメトキシシラン61g(0.5モル)を温度範囲が80~100℃になるよう調整しながら、2時間かけて滴下した。滴下終了後、80℃で8時間反応させたのち、150℃、300Paで未反応物を除去することにより、下記化学式(9)で示される、目的物11-トリメトキシシリルウンデカン酸トリメチルシリルエステルを得た(収量212g、収率91%)。
1H-NMR(400MHz,CDCl
3)δ3.82(s,9H),2.18(t,2H),1.51(m,2H),1.08(brs,14H),0.78(t,2H),0.28(s,9H)
【化36】
【0057】
[合成実施例2]
還流管、滴下ロート、撹拌機、温度計を備えた容量500mlのセパラブルフラスコに、合成例2で得られたビス(10-ウンデシレン酸)ジフェニルシリルエステルを25g(0.045モル)、0.5%カールステッド触媒(白金オレフィン化合物錯体)トルエン溶液を0.05g加え、80℃に加温した。次にトリメトキシシラン15g(0.12モル)を温度範囲が80~100℃になるよう調整しながら、2時間かけて滴下した。滴下終了後、80℃で8時間反応させたのち、150℃、300Paで未反応物を除去することにより、下記化学式(10)で示される、目的物ビス(11-トリメトキシシリルウンデカン酸)ジフェニルシリルエステルを得た(収量39g、収率93%)。
1H-NMR(400MHz,CDCl
3)δ7.36(m,10H),3.82(s,18H),2.18(t,4H),1.51(m,4H),1.08(brs,28H),0.78(t,4H),0.28(s,18H)
【化37】
【0058】
[合成実施例3]
還流管、滴下ロート、撹拌機、温度計を備えた容量500mlのセパラブルフラスコに、合成例3で得られた3-ブテン酸フェニルジメチルシリルエステルを66g(0.3モル)、0.5%カールステッド触媒(白金オレフィン化合物錯体)トルエン溶液を0.05g加え、80℃に加温した。次にトリメトキシシラン36g(0.3モル)を温度範囲が80~100℃になるよう調整しながら、2時間かけて滴下した。滴下終了後、80℃で8時間反応させたのち、100℃、300Paで未反応物を除去することにより、下記化学式(11)で示される、目的物4-トリメトキシシリルブタン酸フェニルジメチルシリルエステルを得た(収量79g、収率91%)。
1H-NMR(400MHz,CDCl
3)δ7.18(m,10H),3.82(s,9H),2.26(t,2H),1.86(m,2H),0.78(t,2H),0.31(s,6H)
【化38】
【0059】
[合成実施例4]
還流管、滴下ロート、撹拌機、温度計を備えた容量500mlのセパラブルフラスコに、合成例4で得られたトリス(3-ブテン酸)メチルシリルエステルを29g(0.1モル)、0.5%カールステッド触媒(白金オレフィン化合物錯体)トルエン溶液を0.05g加え、80℃に加温した。次にトリメトキシシラン36g(0.3モル)を温度範囲が80~100℃になるよう調整しながら、2時間かけて滴下した。滴下終了後、80℃で8時間反応させたのち、150℃、300Paで未反応物を除去することにより、下記化学式(12)で示される、目的物トリス(4-トリメトキシシリルブテン酸)メチルシリルエステルを得た(収量60g、収率93%)。
1H-NMR(400MHz,CDCl
3)δ3.82(s,27H),2.26(t,6H),1.86(m,6H),0.78(t,6H),0.29(s,3H)
【化39】
【0060】
[合成実施例5]
還流管、滴下ロート、撹拌機、温度計を備えた容量500mlのセパラブルフラスコに、合成例5で得られたテトラ(3-ブテン酸)シリルエステルを36g(0.1モル)、0.5%カールステッド触媒(白金オレフィン化合物錯体)トルエン溶液を0.05g加え、80℃に加温した。次にトリメトキシシラン48g(0.4モル)を温度範囲が80~100℃になるよう調整しながら、2時間かけて滴下した。滴下終了後、80℃で8時間反応させたのち、150℃、300Paで未反応物を除去することにより、下記化学式(13)で示される、目的物のテトラ(4-トリメトキシシリルブタン酸)シリルエステルを得た(収量75g、収率90%)。
1H-NMR(400MHz,CDCl
3)δ3.82(s,36H),2.26(t,8H),1.86(m,8H),0.78(t,8H)
【化40】
【0061】
[合成実施例6]
還流管、滴下ロート、撹拌機、温度計を備えた容量500mlのセパラブルフラスコに、合成例1で得られた10-ウンデシレン酸トリメチルシリルエステルを128g(0.5モル)、0.5%カールステッド触媒(白金オレフィン化合物錯体)トルエン溶液を0.1g加え、80℃に加温した。次にメチルジメトキシシラン53g(0.5モル)を温度範囲が80~100℃になるよう調整しながら、2時間かけて滴下した。滴下終了後、80℃で8時間反応させたのち、150℃、300Paで未反応物を除去することにより、下記化学式(14)で示される、目的物11-メチルジメトキシシリルウンデカン酸トリメチルシリルエステルを得た(収量196g、収率94%)。
1H-NMR(400MHz,CDCl
3)δ3.82(s,6H),2.18(t,2H),1.51(m,2H),1.08(brs,14H),0.78(t,2H),0.38(s,3H),0.28(s,9H)
【化41】
【0062】
[合成実施例7]
還流管、滴下ロート、撹拌機、温度計を備えた容量500mlのセパラブルフラスコに、合成例1で得られた10-ウンデシレン酸トリメチルシリルエステルを128g(0.5モル)、0.5%カールステッド触媒(白金オレフィン化合物錯体)トルエン溶液を0.1g加え、80℃に加温した。次にトリエトキシシラン82g(0.5モル)を温度範囲が80~100℃になるよう調整しながら、2時間かけて滴下した。滴下終了後、80℃で8時間反応させたのち、150℃、300Paで未反応物を除去することにより、下記化学式(15)で示される、目的物11-トリエトキシシリルウンデカン酸トリメチルシリルエステルを得た(収量219g、収率92%)。
1H-NMR(400MHz,CDCl
3)δ3.92(q,6H),2.18(t,2H),1.89(t,9H),1.51(m,2H),1.08(brs,14H),0.78(t,2H),0.28(s,9H)
【化42】
【0063】
[合成参考例1]
還流管、滴下ロート、撹拌機、温度計を備えた容量500mlのセパラブルフラスコに、合成例6で得られた3-ブテン酸トリメチルシリルエステルを79g(0.5モル)、0.5%カールステッド触媒(白金オレフィン化合物錯体)を0.1g加え、80℃に加温した。次にトリメトキシシラン61g(0.5モル)を温度範囲が80~100℃になるよう調整しながら、2時間かけて滴下した。滴下終了後、80℃で8時間反応させたのち、130℃、300Paで未反応物を除去することにより、下記式(16)で示される、目的物4-トリメトキシシリルブタン酸トリメチルシリルエステルを得た(収量124g、収率89%)。
1H-NMR(400MHz,CDCl
3)δ3.82(s,9H),2.26(t,2H),1.86(m,2H),0.78(t,2H),0.28(s,9H)
【化43】
【0064】
以下に、本発明の有機ケイ素化合物を用いたオルガノポリシロキサン組成物の調製例(実施例)を示す。
【0065】
[実施例1]
(A成分)粘度20,000mPa・sの分子鎖両末端がケイ素原子に結合した水酸基(シラノール基)で封鎖されたジメチルポリシロキサン(粘度20,000mPa・sから考えられる、ジメチルポリシロキサン単位のおおよその繰返数が900のものである。)100部と、表面をパラフィンで処理した(D成分)重質炭酸カルシウム100部を均一に混合し、これに(B成分)ビニルトリブタノキシムシラン9部、ジブチル錫ジラウレート0.6部、及び(C成分)合成実施例1で得られた11-トリメトキシシリルウンデカン酸トリメチルシリルエステル1部を加え、湿気遮断下で均一になるまで混合して組成物1を調製した。
【0066】
[実施例2]
実施例1において、(C成分)11-トリメトキシシリルウンデカン酸トリメチルシリルエステル1部の代わりに、(C成分)合成実施例2で得られたビス(11-トリメトキシシリルウンデカン酸)ジフェニルシリルエステル1部を用いた以外は同様に組成物2を調製した。
【0067】
[実施例3]
実施例1において、(C成分)11-トリメトキシシリルウンデカン酸トリメチルシリルエステル1部の代わりに、(C成分)合成実施例3で得られた4-トリメトキシシリルブタン酸フェニルジメチルシリルエステル1部を用いた以外は同様に組成物3を調製した。
【0068】
[実施例4]
実施例1において、(C成分)11-トリメトキシシリルウンデカン酸トリメチルシリルエステル1部の代わりに、(C成分)合成実施例4で得られたトリス(4-トリメトキシシリルブテン酸)メチルシリルエステル1部を用いた以外は同様に組成物4を調製した。
【0069】
[実施例5]
実施例1において、(C成分)11-トリメトキシシリルウンデカン酸トリメチルシリルエステル1部の代わりに、(C成分)合成実施例5で得られたテトラ(4-トリメトキシシリルブタン酸)シリルエステル1部を用いた以外は同様に組成物5を調製した。
【0070】
[実施例6]
実施例1において、(C成分)11-トリメトキシシリルウンデカン酸トリメチルシリルエステル1部の代わりに、(C成分)合成実施例6で得られた11-メチルジメトキシシリルウンデカン酸トリメチルシリルエステル1部を用いた以外は同様に組成物6を調製した。
【0071】
[実施例7]
実施例1において、(C成分)11-トリメトキシシリルウンデカン酸トリメチルシリルエステル1部の代わりに、(C成分)合成実施例7で得られた11-トリエトキシシリルウンデカン酸トリメチルシリルエステル1部を用いた以外は同様に組成物7を調製した。
【0072】
[比較例1]
実施例1において、(C成分)11-トリメトキシシリルウンデカン酸トリメチルシリルエステルの代わりに、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン1部を用いた以外は同様に組成物8を調製した。
【0073】
[比較例2]
実施例1において、(C成分)11-トリメトキシシリルウンデカン酸トリメチルシリルエステルの代わりに、3-アミノプロピルトリメトキシシラン1部を用いた以外は同様に組成物9を調製した。
【0074】
次に、上記実施例1~7及び比較例1、2で調製された調製直後の各組成物を、幅25mm、長さ50mmのマグネシウム合金板(AZ-91D)を用いて接着面積2.5mm2、接着厚さ1mmのせん断接着試験体を作製した。23℃,50%RHで7日間養生した後、せん断接着力と凝集破壊率をJIS K 6249に規定する方法に準じて測定し、凝集破壊率を比較した。結果を表1に示す。
【0075】
【0076】
本発明の有機ケイ素化合物は、室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物(シリコーンゴム組成物)中に配合することによって、該組成物の硬化物であるシリコーンゴム硬化物に対して難接着材料であるマグネシウム合金への優れた接着性を付与することが分かった。一方で、従来から汎用されているアミン系接着助剤ではマグネシウム合金接着は達成できなかった。よって、本発明の有機ケイ素化合物は、室温硬化性のオルガノポリシロキサン組成物に添加することで、従来の接着助剤と比較してより優れた接着性を付与することができる。
【0077】
以下に、本発明のオルガノポリシロキサン組成物の調製例(実施例)を示す。
【0078】
[実施例8(参考例)]
(A成分)粘度が5,000mPa・sで、分子鎖両末端がケイ素原子に結合した水酸基(シラノール基)で封鎖されたジメチルポリシロキサン(粘度5,000mPa・sから考えられる、ジメチルポリシロキサン単位のおおよその繰返数が600のものである。以下、実施例9~11及び比較例3~5において同じ。)100質量部に、表面を脂肪酸で処理した(D成分)重質炭酸カルシウム(製品名;MCコートP-20、丸尾カルシウム製)100質量部を加えて混合機で混合した後、(B成分)ビニルトリブタノキシムシラン10質量部、ジオクチルスズジラウレート0.1質量部、(C成分)合成参考例1で得られた4-トリメトキシシリルブタン酸トリメチルシリルエステル1質量部を加えて減圧下で完全に混合し、組成物10を得た。
【0079】
[実施例9]
(A成分)粘度が5,000mPa・sで、分子鎖両末端がケイ素原子に結合した水酸基(シラノール基)で封鎖されたジメチルポリシロキサン100質量部に、表面を脂肪酸で処理した(D成分)重質炭酸カルシウム(製品名;MCコートP-20、丸尾カルシウム製)100質量部を加えて混合機で混合した後、(B成分)ビニルトリブタノキシムシラン10質量部、ジオクチルスズジラウレート0.1質量部、(C成分)合成実施例1で得られた11-トリメトキシシリルウンデカン酸トリメチルシリルエステル1質量部を加えて減圧下で完全に混合し、組成物11を得た。
【0080】
[実施例10]
(A成分)粘度が5,000mPa・sで、分子鎖両末端がケイ素原子に結合した水酸基(シラノール基)で封鎖されたジメチルポリシロキサン100質量部に、表面を脂肪酸で処理した(D成分)重質炭酸カルシウム(製品名;MCコートP-20、丸尾カルシウム製)100質量部を加えて混合機で混合した後、(B成分)ビニルトリブタノキシムシラン10質量部、ジオクチルスズジラウレート0.1質量部、(C成分)合成実施例2で得られたビス(11-トリメトキシシリルウンデカン酸)ジフェニルシリルエステル1質量部を加えて減圧下で完全に混合し、組成物12を得た。
【0081】
[実施例11]
(A成分)粘度が5,000mPa・sで、分子鎖両末端がケイ素原子に結合した水酸基(シラノール基)で封鎖されたジメチルポリシロキサン100質量部に、表面を脂肪酸で処理した(D成分)重質炭酸カルシウム(製品名;MCコートP-20、丸尾カルシウム製)100質量部を加えて混合機で混合した後、(B成分)ビニルトリブタノキシムシラン10質量部、ジオクチルスズジラウレート0.1質量部、(C成分)合成実施例1で得られた11-トリメトキシシリルウンデカン酸トリメチルシリルエステル1質量部、N-(1,3-ジメチルブチリデン)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン(製品名;KBM-9103P、信越化学工業社製)1質量部を加えて減圧下で完全に混合し、組成物13を得た。
【0082】
[比較例3]
(A成分)粘度が5,000mPa・sで、分子鎖両末端がケイ素原子に結合した水酸基(シラノール基)で封鎖されたジメチルポリシロキサン100質量部に、表面を脂肪酸で処理した(D成分)重質炭酸カルシウム(製品名;MCコートP-20、丸尾カルシウム製)100質量部を加えて混合機で混合した後、(B成分)ビニルトリブタノキシムシラン10質量部、ジオクチルスズジラウレート0.1質量部、3-アミノプロピルトリメトキシシラン1質量部を加えて減圧下で完全に混合し、組成物14を得た。
【0083】
[比較例4]
(A成分)粘度が5,000mPa・sで、分子鎖両末端がケイ素原子に結合した水酸基(シラノール基)で封鎖されたジメチルポリシロキサン100質量部に、表面を脂肪酸で処理した(D成分)重質炭酸カルシウム(製品名;MCコートP-20、丸尾カルシウム製)100質量部を加えて混合機で混合した後、(B成分)ビニルトリブタノキシムシラン10質量部、ジオクチルスズジラウレート0.1質量部、アリルコハク酸無水物シラン(製品名;X-31-967C、信越化学工業社製)1質量部を加えて減圧下で完全に混合し、組成物15を得た。
【0084】
[比較例5]
(A成分)粘度が5,000mPa・sで、分子鎖両末端がケイ素原子に結合した水酸基(シラノール基)で封鎖されたジメチルポリシロキサン100質量部に、表面を脂肪酸で処理した(D成分)重質炭酸カルシウム(製品名;MCコートP-20、丸尾カルシウム製)100質量部を加えて混合機で混合した後、(B成分)ビニルトリブタノキシムシラン10質量部、ジオクチルスズジラウレート0.1質量部、合成例6で得られた3-ブテン酸トリメチルシリルエステル1質量部を加えて減圧下で完全に混合し、組成物16を得た。
【0085】
これら実施例8~11及び比較例3~5で調製された調製直後の各組成物を2mmの型枠に流し込み、23℃,50%RHで7日間養生して2mm厚のゴムシートを得た。JIS K6249に準じて2mm厚シートより、ゴム物性(硬さ、切断時伸び、引張り強度)を測定した。
また、これら実施例8~11及び比較例3~5で調製された調製直後の各組成物を、幅25mm、長さ50mmのマグネシウム合金板(AZ-91D)を用いて接着面積2.5mm2、接着厚さ1mmのせん断接着試験体を作製した。23℃,50%RHで7日間養生した後、せん断接着力と凝集破壊率をJIS K6249に規定する方法に準じて測定し、凝集破壊率を比較した。
【0086】
また、耐薬品性(耐CVTF性)能を確認するため、得られた硬化後のシリコーンゴムシート及びせん断接着試験体をCVTFオイル[商品名:ULTRA Honda Multi Matic Fluid]に浸漬し、150℃にて7日間劣化させて、その後製造初期と同様の試験を行うことで、耐薬品性の確認試験を行った。
【0087】
以上の結果を表2に示す。
【0088】
【0089】
本発明のカルボン酸シリルエステル基含有シランカップリング剤を有する、実施例8~11の組成物においては、製造初期、耐薬品試験後いずれもAZ-91Dに対して高い接着性を有していることが分かる。一方で、汎用のアミン系シランカップリング剤を使用した比較例3の組成物では、AZ-91Dに対して全く接着性(凝集破壊)が発現せず、耐薬品性も悪化した。アリルコハク酸無水物シランカップリング剤を使用した比較例4の組成物では、製造初期は良好な接着性を有するものの、耐薬品試験後はAZ-91Dから剥離してしまった。また、加水分解性アルコキシシランを分子中に含まない、カルボン酸シリルエステル化合物単体を使用した比較例5の組成物では、やはり接着性の発現は見られなかった。以上の結果から、本発明の組成物は、製造初期、耐薬品試験後のいずれもマグネシウム合金への高い接着性を有することが示された。