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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-14
(45)【発行日】2022-11-22
(54)【発明の名称】硬化性樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08F 222/40 20060101AFI20221115BHJP
   C08F 212/34 20060101ALI20221115BHJP
   C08J 5/24 20060101ALI20221115BHJP
   H05K 1/03 20060101ALI20221115BHJP
   H01L 23/29 20060101ALI20221115BHJP
   H01L 23/31 20060101ALI20221115BHJP
【FI】
C08F222/40
C08F212/34
C08J5/24 CER
H05K1/03 610J
H05K1/03 630H
H01L23/30 R
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021515830
(86)(22)【出願日】2020-02-20
(86)【国際出願番号】 JP2020006776
(87)【国際公開番号】W WO2020217675
(87)【国際公開日】2020-10-29
【審査請求日】2021-07-13
(31)【優先権主張番号】P 2019086499
(32)【優先日】2019-04-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】特許業務法人 ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】下野 智弘
(72)【発明者】
【氏名】岡本 竜也
【審査官】中村 英司
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-247202(JP,A)
【文献】特開2012-140010(JP,A)
【文献】特開2004-182850(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 220/00
C08F 212/00
H05K 1/03
H01L 23/29
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インダン骨格を有するマレイミド(A)、及び、反応性二重結合を有するポリフェニレンエーテル化合物(B)を含有する硬化性樹脂組成物であって、
前記マレイミド(A)が、下記一般式(1)で示され、
前記インダン骨格を有するマレイミド(A)、及び、前記反応性二重結合を有するポリフェニレンエーテル化合物(B)の配合比(質量部)が、55:45~20:80であることを特徴とする硬化性樹脂組成物。
【化1】
(式(1)中、Raは、それぞれ独立に、炭素数1~10のアルキル基を表し、Raは同一環内で同じであってもよいし異なっていてもよい。Rbはそれぞれ独立に、炭素数1~10のアルキル基、アルキルオキシ基もしくはアルキルチオ基、炭素数6~10のアリール基、アリールオキシ基もしくはアリールチオ基、炭素数3~10のシクロアルキル基、ハロゲン原子、水酸基またはメルカプト基を表し、rは0の整数値を示す。nは平均繰り返し単位数であり、0.95~10.0の数値を示す。)
【請求項2】
請求項1に記載の硬化性樹脂組成物を硬化反応させてなることを特徴とする硬化物。
【請求項3】
補強基材、及び、前記補強基材に含浸した請求項1に記載の硬化性樹脂組成物の半硬化物を有することを特徴とするプリプレグ。
【請求項4】
請求項に記載のプリプレグ、及び、銅箔を積層し、加熱圧着成型して得られることを特徴とする回路基板。
【請求項5】
請求項1に記載の硬化性樹脂組成物を含有することを特徴とするビルドアップフィルム。
【請求項6】
請求項1に記載の硬化性樹脂組成物を含有することを特徴とする半導体封止材。
【請求項7】
請求項に記載の半導体封止材を加熱硬化した硬化物を含むことを特徴とする半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬化性樹脂組成物、前記硬化性樹脂組成物より得られる硬化物、プリプレグ、回路基板、ビルドアップフィルム、半導体封止材、及び、半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器用の回路基板の材料として、ガラスクロスに、エポキシ樹脂系やBT(ビスマレイミド-トリアジン)樹脂系などの熱硬化性樹脂を含浸、加熱乾燥して得られるプリプレグ、該プリプレグを加熱硬化した積層板、該積層板と該プリプレグとを組み合わせ、加熱硬化した多層板が広く使用されている。中でも半導体パッケージ基板は薄型化が進み、実装時のパッケージ基板の反りが問題となることから、これを抑制するため、高耐熱性を発現する材料が求められている。
【0003】
また近年、信号の高速化、高周波数化が進み、これらの環境下で十分に低い誘電率を維持しつつ、十分に低い誘電正接を発現する硬化物を与える熱硬化性樹脂組成物の提供が望まれている。
【0004】
特に最近では各種電材用途、とりわけ先端材料用途においては、耐熱性、誘電特性に代表される性能の一層の向上、及びこれらを兼備する材料、組成物が求められている。
【0005】
これらの要求に対し、耐熱性と低誘電率・低誘電正接を兼備する材料としてマレイミド樹脂が注目されている。しかしながら、従来のマレイミド樹脂は高耐熱性を示すものの、その誘電率・誘電正接値が先端材料用途に要求されるレベルには達しておらず、加えて難溶剤溶解性でハンドリング性に劣ることから、耐熱性を維持しつつ更なる低誘電率・低誘電正接を示し、かつ、溶剤溶解性にも優れる樹脂の開発が強く望まれている。
【0006】
このような中、高度な誘電特性、及び、耐熱性を兼備したシアン酸エステル系材料として、フェノールノボラック型シアン酸エステル樹脂と、ビスフェノールAシアン酸エステル樹脂と、非ハロゲン系エポキシ樹脂とを配合してなる樹脂組成物が知られている(特許文献1参照)。
【0007】
しかしながら、前記特許文献1記載の樹脂組成物は、硬化物における耐熱性と誘電特性はある程度改善されるものの、耐熱性については、近年要求されている水準には未だ、及ばないものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2004-182850号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って、本発明が解決しようとする課題は、その硬化物において優れた耐熱性、及び、誘電特性を兼備した硬化性樹脂組成物及びその硬化物、これらの性能を兼備したプリプレグ、回路基板、ビルドアップフィルム、半導体封止材、並びに、半導体装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
そこで、本発明者らは、上記課題を解決するため、鋭意検討した結果、インダン骨格を有するマレイミド(A)、及び、反応性二重結合を有するポリフェニレンエーテル化合物(B)を含有する硬化性樹脂組成物が、その硬化物において、低誘電率、及び、低誘電正接を有しつつ、かつ、優れた耐熱性を兼備させることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
即ち、本発明は、インダン骨格を有するマレイミド(A)、及び、反応性二重結合を有するポリフェニレンエーテル化合物(B)を含有することを特徴とする硬化性樹脂組成物に関する。
【0012】
本発明の硬化性樹脂組成物は、前記マレイミド(A)が、下記一般式(1)で示されることが好ましい。
【化1】
(式(1)中、Raは、それぞれ独立に、炭素数1~10のアルキル基、アルキルオキシ基もしくはアルキルチオ基、炭素数6~10のアリール基、アリールオキシ基もしくはアリールチオ基、炭素数3~10のシクロアルキル基、ハロゲン原子、ニトロ基、水酸基またはメルカプト基を表し、qは0~4の整数値を示す。qが2~4の場合、Raは同一環内で同じであってもよいし異なっていてもよい。Rbはそれぞれ独立に、炭素数1~10のアルキル基、アルキルオキシ基もしくはアルキルチオ基、炭素数6~10のアリール基、アリールオキシ基もしくはアリールチオ基、炭素数3~10のシクロアルキル基、ハロゲン原子、水酸基またはメルカプト基を表し、rは0~3の整数値を示す。rが2~3の場合、Rbは同一環内で同じであってもよいし異なっていてもよい。nは平均繰り返し単位数であり、0.5~20の数値を示す。)
【0013】
本発明の硬化物は、前記硬化性樹脂組成物を硬化反応させてなることが好ましい。
【0014】
本発明のプリプレグは、補強基材、及び、前記補強基材に含浸した前記硬化性樹脂組成物の半硬化物を有することが好ましい。
【0015】
本発明の回路基板は、前記プリプレグ、及び、銅箔を積層し、加熱圧着成型して得られることが好ましい。
【0016】
本発明のビルドアップフィルムは、前記硬化性樹脂組成物を含有することが好ましい。
【0017】
本発明の半導体封止材は、前記硬化性樹脂組成物を含有することが好ましい。
【0018】
本発明の半導体装置は、前記半導体封止材を加熱硬化した硬化物を含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明の硬化性樹脂組成物によれば、前記硬化性樹脂組成物より得られる硬化物において、優れた耐熱性、および、誘電特性を兼備し、これらの性能を兼備した硬化性樹脂組成物、前記硬化性樹脂組成物より得られる硬化物、プリプレグ、回路基板、ビルドアップフィルム、半導体封止材、及び、半導体装置を提供することができ、有用である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0021】
本発明は、インダン骨格を有するマレイミド(A)、及び、反応性二重結合を有するポリフェニレンエーテル化合物(B)を含有することを特徴とする硬化性樹脂組成物に関する。中でも、前記マレイミド(A)が、下記一般式(1)で示されることが好ましい。前記マレイミド(A)がインダン骨格を有することにより、これまでのマレイミドと比較して、前記マレイミド(A)の構造中に極性官能基の割合が少ないため、誘電特性に優れるため、好ましい。また、従来のマレイミド樹脂を使用した硬化物は脆い傾向にあり、耐脆性に劣ることが懸念されるが、前記マレイミド(A)はインダン骨格を有することで、可撓性に優れ、耐脆性の改善も見込まれ、好ましい。
【化2】
【0022】
上記一般式(1)中、Raは、それぞれ独立に、炭素数1~10のアルキル基、アルキルオキシ基もしくはアルキルチオ基、炭素数6~10のアリール基、アリールオキシ基もしくはアリールチオ基、炭素数3~10(好ましくは5~10)のシクロアルキル基、ハロゲン原子、ニトロ基、水酸基またはメルカプト基を表し、qは0~4の整数値を示す。qが2~4の場合、Raは同一環内で同じであってもよいし異なっていてもよい。Rbはそれぞれ独立に、炭素数1~10のアルキル基、アルキルオキシ基もしくはアルキルチオ基、炭素数6~10のアリール基、アリールオキシ基もしくはアリールチオ基、炭素数3~10のシクロアルキル基、ハロゲン原子、水酸基またはメルカプト基を表し、rは0~3の整数値を示す。rが2~3の場合、Rbは同一環内で同じであってもよいし異なっていてもよい。nは平均繰り返し単位数であり、0.5~20の数値を示す。なお、前記r及び前記qが0の場合は、Ra及びRbは、それぞれ水素原子を指す。
【0023】
上記一般式(1)中のRaが、炭素数1~4のアルキル基、炭素数3~6のシクロアルキル基、炭素数6~10のアリール基のいずれかであることが好ましく、前記炭素数1~4のアルキル基等であることで、マレイミド基近傍の平面性の低下、結晶性低下により、溶剤溶解性が向上するとともに、マレイミド基の反応性が損なわれることなく、硬化物を得ることが可能な好ましい態様となる。
【0024】
上記一般式(1)中のqが、2~3であることが好ましく、2であることがより好ましい。前記qが2の場合、立体障害の影響が小さく、芳香環上の電子密度が向上し、マレイミドの製造(合成)において、好ましい態様となる。
【0025】
上記一般式(1)中のrが0であり、Rbが、水素原子であることが好ましく、また、rが1~3であり、Rbが、炭素数1~4のアルキル基、炭素数3~6のシクロアルキル基、及び、炭素数6~10のアリール基からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましく、特に前記rが0であって、Rbが、水素原子であることで、マレイミド中のインダン骨格の形成の際に、立体障害が少なくなり、マレイミドの製造(合成)にとって、有利となり、好ましい態様となる。
【0026】
<インダン骨格を有するマレイミド(A)の製造方法>
前記マレイミド(A)の製造方法について、以下に説明する。
【0027】
下記一般式(2)は、Rcはそれぞれ独立に下記一般式(3)及び(4)よりなる群から選択される一価の官能基を示しており、2つのRcの少なくとも一方のRcのオルト位が水素原子で、Rb及びrは、上記と同様のものを示す化合物である。
【0028】
【化3】
【化4】
【化5】
【0029】
下記一般式(5)は、アミノ基のオルト位、パラ位のうち、少なくとも1つは水素原子であって、Ra及びqは、それぞれ前記と同様のものを示すアニリンまたはその誘導体であり、上記一般式(2)の化合物と、下記一般式(5)の化合物を、酸触媒存在下に反応させることにより、下記一般式(6)で示される中間体アミン化合物を得ることができる。なお、下記一般式(6)中のRa、Rb、q、及び、rは上記と同様のものを示す。
【化6】
【化7】
【0030】
上記一般式(6)で表される中間体アミン化合物において、インダン骨格を有する下記一般式(7)を構造中に含むが、上記一般式(5)で表されるアニリンまたはその誘導体中、qは3以下で、かつアミノ基のオルト位とパラ位のうち少なくとも2つが水素原子である場合には、下記一般式(8)で表される構造となる。但し、下記一般式(8)中のRa、Rb、qおよびrは前記と同じであり、mは繰り返し単位数であり、1~20の整数値を示す。また、下記一般式(8)で示される構造も、上記一般式(6)の構造中に含まれることがある。
【化8】
【化9】
【0031】
本発明で用いられるマレイミド(A)の特徴であるインダン骨格(上記一般式(7)参照)において、平均繰り返し単位数nは、低い融点(低軟化点)で、かつ溶融粘度が低く、ハンドリング性に優れたものとするため、平均繰り返し単位数n(平均値)として0.5~20であり、好ましくは0.7~10.0であり、より好ましくは0.95~10.0であり、更に好ましくは0.98~9.0であり、更に好ましくは0.99~8.0であり、更に好ましくは1.0~7.0であり、更に好ましくは1.0~6.0である。前記マレイミド(A)の構造中に、インダン骨格を有することで、これまでに使用されてきたマレイミドと比較して、溶剤溶解性に優れ、好ましい態様となる。なお、前記nは0.5未満であれば、前記マレイミド(A)の構造中の高融点物質の含有割合が高くなり、溶剤溶解性に劣り、更に、可撓性に寄与する高分子量成分の割合が低くなるため、得られる硬化物の耐脆性が低下し、更に、可撓性や柔軟性も低下する恐れがあり好ましくない。また、前記nが20を越えると、耐熱性が劣ることが懸念され、更に、高分子量成分が多くなりすぎ、硬化物を成形する際に、流動性が低下し、ハンドリング性に劣ることが懸念され、好ましくない。また、前記nの値としては、高熱変形温度、高ガラス転移温度等の観点から、0.5~10.0が好ましく、より好ましくは、0.95~10.0である。
【0032】
本発明において用いる上記一般式(2)で表される化合物(以下、「化合物(a)」)は、特に限定されないが、典型的には、p-及びm-ジイソプロペニルベンゼン、p-及びm-ビス(α-ヒドロキシイソプロピル)ベンゼン、1-(α-ヒドロキシイソプロピル)-3-イソプロペニルベンゼン、1-(α-ヒドロキシイソプロピル)-4-イソプロペニルベンゼンあるいはこれらの混合物を用いる。またこれらの化合物の核アルキル基置換体、例えば、ジイソプロペニルトルエン及びビス(α-ヒドロキシイソプロピル)トルエン等も用いることができ、さらに核ハロゲン置換体、例えば、クロロジイソプロペニルベンゼン及びクロロビス(α-ヒドロキシイソプロピル)ベンゼン等も用いることができる。
【0033】
その他、前記化合物(a)として、例えば、2-クロロ-1,4-ジイソプロペニルベンゼン、2-クロロ-1,4-ビス(α-ヒドロキシイソプロピル)ベンゼン、2-ブロモ-1,4-ジイソプロペニルベンゼン、2-ブロモ-1,4-ビス(α-ヒドロキシイソプロピル)ベンゼン、2-ブロモ-1,3-ジイソプロペニルベンゼン、2-ブロモ-1,3-ビス(α-ヒドロキシイソプロピル)ベンゼン、4-ブロモ-1,3-ジイソプロピルベンゼン、4-ブロモ-1,3-ビス(α-ヒドロキシイソプロピル)ベンゼン、5-ブロモ-1,3-ジイソプロペニルベンゼン、5-ブロモ-1,3-ビス(α-ヒドロキシイソプロピル)ベンゼン、2-メトキシ-1,4-ジイソプロペニルベンゼン、2-メトキシ-1,4-ビス(α-ヒドロキシイソプロピル)ベンゼン、5-エトキシ-1,3-ジイソプロペニルベンゼン、5-エトキシ-1,3-ビス(α-ヒドロキシイソプロピル)ベンゼン、2-フェノキシ-1,4-ジイソプロペニルベンゼン、2-フェノキシ-1,4-ビス(α-ヒドロキシイソプロピル)ベンゼン、2,4-ジイソプロペニルベンゼンチオール、2,4-ビス(α-ヒドロキシイソプロピル)ベンゼンチオール、2,5-ジイソプロペニルベンゼンチオール、2,5-ビス(αヒドロキシイソプロピル)ベンゼンチオール、2-メチルチオ-1,4-ジイソプロペニルベンゼン、2-メチルチオ-1,4-ビス(α-ヒドロキシイソプロピル)ベンゼン、2-フェニルチオ-1,3-ジイソプロペニルベンゼン、2-フェニルチオ-1,3-ビス(α-ヒドロキシイソプロピル)ベンゼン、2-フェニル-1,4-ジイソプロペニルベンゼン、2-フェニル-1,4-ビス(α-ヒドロキシイソプロピル)ベンゼン、2-シクロペンチル-1,4-ジイソプロペニルベンゼン、2-シクロペンチル-1,4-ビス(α-ヒドロキシイソプロピル)ベンゼン、5-ナフチル-1,3-ジイソプロペニルベンゼン、5-ナフチル-1,3-ビス(α-ヒドロキシイソプロピル)ベンゼン、2-メチル-1,4-ジイソプロペニルベンゼン、2-メチル-1,4-ビス(α-ヒドロキシイソプロピル)ベンゼン、5-ブチル-1,3-ジイソプロペニルベンゼン、5-ブチル-1,3-ビス(α-ヒドロキシイソプロピル)ベンゼン、5-シクロヘキシル-1,3-ジイソプロペニルベンゼン、5-シクロヘキシル-1,3-ビス(α-ヒドロキシイソプロピル)ベンゼンなどを例示することができる。
【0034】
なお、前記化合物(a)中に含まれる置換基としては、特に限定はされず、上記例示の化合物を使用できるが、立体障害の大きな置換基の場合、立体障害の小さな置換基に比べて、得られるマレイミド同士のスタッキングが生じにくく、マレイミド同士の結晶化が起こりにくく、つまり、マレイミドの溶剤溶解性が向上し、好ましい態様となる。
【0035】
また上記一般式(5)で表される化合物(以下、「化合物(b)」)としては、典型的にはアニリンの他に、例えば、ジメチルアニリン、ジエチルアニリン、ジイソプロピルアニリン、エチルメチルアニリン、クロロアニリン、ジクロロアニリン、トルイジン、キシリジン、フェニルアニリン、ニトロアニリン、アミノフェノール及びシクロヘキシルアニリン等を用いることができる。また、メトキシアニリン、エトキシアニリン、フェノキシアニリン、ナフトキシアニリン、アミノチオール、メチルチオアニリン、エチルチオアニリン及びフェニルチオアニリンを例示することができる。
【0036】
なお、従来のマレイミド(例えば、N-フェニルマレイミド)のように、ベンゼン環にマレイミド基が直接結合している場合、ベンゼン環とマレイミドの5員環が、同一平面上に並んだ状態が安定なため、スタッキングしやすくなり、高い結晶性が発現してしまう。そのため、溶剤溶解性が劣る原因となる。これに対して、本発明の場合、前記化合物(b)としては、特に限定はされず、上記例示の化合物を使用できるほか、例えば、2,6-ジメチルアニリンのように、置換基として、メチル基を有する場合、メチル基の立体障害からベンゼン環とマレイミドの5員環がねじれた配座をとり、スタッキングしにくくなることから結晶性が低下し、溶剤溶解性が向上し、好ましい態様となる。但し、立体障害が大きすぎると、マレイミドの合成時における反応性を阻害する場合も懸念されるため、例えば、炭素数2~4のアルキル基を有する化合物(b)を使用することが好ましい。
【0037】
本発明に用いる上記一般式(6)で表される中間体アミン化合物の製造方法においては、前記化合物(a)と前記化合物(b)を、前記化合物(a)に対する前記化合物(b)のモル比(化合物(b)/化合物(a))を、好ましくは0.1~2.0、より好ましくは0.2~1.0で仕込み反応(1段階目)させた後、さらに前記化合物(b)を、先に加えた前記化合物(a)に対するモル比で好ましくは0.5~20.0、より好ましくは0.7~5.0の量をさらに加え、反応させる(2段階目)ことにより、インダン骨格を有するマレイミド(A)を得ることができる。また、この2段階の反応は反応を完結させるため、あるいはハンドリング性等の点からも好ましい結果を与える。なお、1段階目の反応において、前記化合物(b)を、先に加えた前記化合物(a)に対するモル比(化合物(b)/化合物(a))として、好ましくは0.10~0.49、より好ましくは、0.15~0.40、更に好ましくは、0.20~0.39にすることにより、広い分子量分布であって、低分子量の高融点物質の含有割合が低くなり、高分子量成分の割合が高くなるため、溶剤溶解性に優れ、更に、可撓性や耐脆性に寄与できる中間体アミン化合物、及び、マレイミドを得ることができ、好ましい。
【0038】
前記反応に用いる酸触媒には、例えば、リン酸、塩酸、硫酸のような無機酸、シュウ酸、ベンゼンスルホン酸、トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、フルオロメタンスルホン酸等の有機酸、活性白土、酸性白土、シリカアルミナ、ゼオライト、強酸性イオン交換樹脂のような固体酸、ヘテロポリ塩酸等を挙げることができるが、反応後、ろ過により簡便に触媒除去が可能な固体酸がハンドリンク性の観点からも好ましく、他の酸を用いるときは、反応後、塩基による中和と水による洗浄を行うことが好ましい。
【0039】
前記酸触媒の配合量は、最初に仕込む原料の前記化合物(a)、及び、前記化合物(b)の総量100質量部に対して、酸触媒を5~40質量部の範囲で配合されるが、ハンドリング性と経済性の点から、5~30質量部が好ましい。反応温度は、通常100~300℃の範囲であればよいが、異性体構造の生成を抑制し、熱分解等の副反応を避けるためには150~230℃が好ましい。
【0040】
前記反応の時間としては、短時間では反応が完全に進行せず、また長時間にすると生成物の熱分解反応等の副反応が起こることから、前記反応温度条件下で、通常は、のべ2~48時間の範囲であるが、好ましくは、のべ2~24時間であり、より好ましくは、のべ4~24時間であり、更に好ましくは、のべ4~12時間の範囲であり、低分子量成分の減少、高分子量成分の増加のためには、のべ8~12時間がより好ましい。
【0041】
前記中間体アミン化合物の製造方法においては、アニリンまたはその誘導体が溶剤を兼ねるため、必ずしも他の溶剤は用いなくても良いが、溶剤を用いることも可能である。例えば、脱水反応を兼ねた反応系の場合、具体的には、α-ヒドロキシプロピル基を有する化合物を原料として反応させる場合には、トルエン、キシレン、又はクロロベンゼン等の共沸脱水可能な溶剤を用いて、脱水反応を完結させた後、溶媒を留去してから、上記反応温度の範囲で反応を行う方法を採用してもよい。
【0042】
本発明で用いられるマレイミド(A)は、上記方法により得られた上記一般式(6)で表される中間体アミン化合物を反応器に仕込み、適当な溶媒に溶解した後、無水マレイン酸、触媒の存在下で反応させ、反応後、水洗等により未反応の無水マレイン酸や他の不純物を除去し、減圧によって溶媒を除くことにより得ることができる。また、反応時に脱水剤を用いてもよい。
【0043】
本発明で用いられるマレイミド(A)は、上記一般式(1)の骨格を有し、インダン骨格を有する上記一般式(7)で表される構造を含むが、qが3以下でかつアミノ基のオルト位とパラ位のうち少なくとも2つが水素原子である場合、上記一般式(8)に対応する構造、すなわち下記一般式(9)で表される構造も、上記一般式(1)で表される構造として含まれる。
【0044】
【化10】
上記一般式(9)中のRa、Rb、q、r及びmは上記と同様のものを示す。
【0045】
前記マレイミド(A)を合成するためのマレイミド化反応で使用される有機溶媒としては、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、アセトフェノン等のケトン類、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、N-メチル-2-ピロリドン、アセトニトリル、スルホラン等の非プロトン性溶媒、ジオキサン、テトラヒドロフラン等の環状エーテル類、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族系溶媒等が挙げられ、またこれらは単独で用いても混合して用いてもよい。
【0046】
前記マレイミド化反応においては、前記中間体アミン化合物と無水マレイン酸を、中間体アミン化合物のアミノ当量に対する無水マレイン酸の当量比を、1~1.5の範囲に配合することが好ましく、より好ましくは1.1~1.2で仕込み、中間体アミン化合物と無水マレイン酸の合計量に対して、0.5~50の質量比、好ましくは1~5の質量比の有機溶媒中で反応させることが好ましい態様となる。
【0047】
前記マレイミド化反応で使用される触媒としては、ニッケル、コバルト、ナトリウム、カルシウム、鉄、リチウム、マンガン等の酢酸塩、塩化物、臭化物、硫酸塩、硝酸塩等の無機塩、リン酸、塩酸、硫酸のような無機酸、シュウ酸、ベンゼンスルホン酸、トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、フルオロメタンスルホン酸等の有機酸、活性白土、酸性白土、シリカアルミナ、ゼオライト、強酸性イオン交換樹脂のような固体酸、ヘテロポリ塩酸等を挙げることができるが、特にトルエンスルホン酸が好ましく用いられる。
【0048】
前記マレイミド化反応に用いる脱水剤としては、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水酪酸のような低級脂肪族カルボン酸無水物、五酸化リン、酸化カルシウム、酸化バリウム等の酸化物、硫酸等の無機酸、モレキュラーシーブ等の多孔性セラミック等が挙げられるが、好ましくは無水酢酸を用いることができる。
【0049】
前記マレイミド化反応で使用される触媒、脱水剤の使用量の制限は特にないが、通常、中間体アミン化合物のアミノ基1当量に対し、触媒は0.0001~1.0モル、好ましくは0.001~0.5モル、より好ましくは0.01~0.3モル、脱水剤は1~3モル、好ましくは1~1.5モルで使用することができる。
【0050】
前記マレイミド化の反応条件としては、上記中間体アミン化合物と無水マレイン酸を仕込み、10~100℃、好ましくは30~50℃の温度範囲で、0.5~12時間、好ましくは1~8時間反応させた後、前記触媒を加えて、90~130℃、好ましくは105~120℃の温度範囲で、2~24時間、好ましくは4~10時間反応させることができ、低分子量成分の減少、高分子量成分の増加のためには、6~10時間がより好ましい。また反応後、水洗等により未反応の無水マレイン酸や他の不純物を除去し、加熱エージングすることによっても低分子量成分は減少し、高分子量成分は増加する。
【0051】
前記マレイミド(A)は、低誘電率及び低誘電正接に優れる点から、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定から算出される分子量分布(重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn))が1.0~10.0の範囲であることが好ましく、より好ましくは1.1~9.0、更に好ましくは1.1~8.0であり、更に好ましくは、1.2~5.0であり、更に好ましくは、1.2~4.0であり、更に好ましくは1.3~3.8であり、特に好ましくは1.3~3.6であり、最も好ましくは1.3~3.4である。なお、前記GPC測定から得られるGPCチャートより、分子量分布が広範囲にわたり、高分子量成分が多い場合には、可撓性に寄与する高分子量成分の割合が多くなるため、従来のマレイミドを使用した硬化物と比較して、脆性が抑えられ、可撓性や柔軟性に優れた硬化物を得ることができ、好ましい態様となる。
【0052】
<GPC測定>
以下の条件により、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)に基づき、マレイミド(A)の分子量分布(Mw/Mn)を測定した。
測定装置 :東ソー株式会社製「HLC-8320 GPC」、
カラム:東ソー株式会社製ガードカラム「HXL-L」+東ソー株式会社製「TSK-GEL G2000HXL」+東ソー株式会社製「TSK-GEL G2000HXL」+東ソー株式会社製「TSK-GEL G3000HXL」+東ソー株式会社製「TSK-GEL G4000HXL」
検出器:RI(示差屈折計)
データ処理:東ソー株式会社製「GPCワークステーション EcoSEC-WorkStation」
測定条件:カラム温度 40℃
展開溶媒 テトラヒドロフラン
流速 1.0ml/分
標準:前記「GPCワークステーション EcoSEC-WorkStation」の測定マニュアルに準拠して、分子量が既知の下記の単分散ポリスチレンを用いた。
(使用ポリスチレン)
東ソー株式会社製「A-500」
東ソー株式会社製「A-1000」
東ソー株式会社製「A-2500」
東ソー株式会社製「A-5000」
東ソー株式会社製「F-1」
東ソー株式会社製「F-2」
東ソー株式会社製「F-4」
東ソー株式会社製「F-10」
東ソー株式会社製「F-20」
東ソー株式会社製「F-40」
東ソー株式会社製「F-80」
東ソー株式会社製「F-128」
試料:合成例で得られたマレイミドの樹脂固形分換算で1.0質量%のテトラヒドロフラン溶液をマイクロフィルターでろ過したもの(50μl)。
【0053】
<反応性二重結合を有するポリフェニレンエーテル化合物(B)>
本発明の硬化性樹脂組成物は、前記インダン骨格を有するマレイミド(A)に加えて、反応性二重結合を有するポリフェニレンエーテル化合物(B)を含有することを特徴とする。前記反応性二重結合を有するポリフェニレンエーテル化合物(B)の構造中に含まれるポリフェニレンエーテル(PPE)は、誘電率や誘電正接等の誘電特性に優れるため、MHz帯からGHz帯という高周波数帯(高周波領域)においても、十分に低い誘電率を維持しつつ、十分に低い誘電正接を発現する硬化物を得ることができる硬化性樹脂組成物を調製することができるため、高周波用成形材料として用いることができ、有用である。また、前記インダン骨格を有するマレイミド(A)との反応により、硬化剤として作用し、三次元架橋を生じることができ、耐熱性にも優れた硬化物を得ることができ、好ましい態様となる。
【0054】
前記反応性二重結合を有するポリフェニレンエーテル化合物(B)としては、分子内に反応性二重結合を有するポリフェニレンエーテル化合物であれば、特に限定されないが、例えば、下記一般式(10)または(11)で表される構造を有する。
【化11】
【0055】
上記一般式(10)及び(11)中のRdは、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1~5のアルキル基、炭素数1~5のアルケニル基、炭素数3~5のシクロアルキル基、炭素数1~5のアルコキシ基、炭素数1~5のチオエーテル基、炭素数2~5のアルキルカルボニル基、炭素数2~5のアルキルオキシカルボニル基、炭素数2~5のアルキルカルボニルオキシ基、炭素数1~5のアルキルスルホニル基等が挙げられる。上記一般式(10)及び(11)は、その構造の末端構造に、反応性二重結合含有基を有するものであり、前記反応性二重結合含有基としては、例えば、炭素数1~5のアルケニル基、(メタ)アクリロイル基、スチリル基、スチリルメチル基等が挙げられる。また、sは1~30の整数値であり、tおよびuも1~30の整数値である。
【0056】
前記炭素数1~5のアルキル基としては、特に制限されないが、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、プロピル基等が挙げられる。
【0057】
前記炭素数1~5のアルケニル基としては、特に制限されないが、ビニル基、1-プロぺニル基、1-ブテニル基、1-ペンテニル基、イソプロペニル基等が挙げられる。
【0058】
前記炭素数3~5のシクロアルキル基としては、特に制限されないが、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、メチルシクロブチル基等が挙げられる。
【0059】
前記炭素数1~5のアルコキシ基としては、特に制限されないが、メトキシ基、エトキシ基、プロピルオキシ基、イソプロピルオキシ基、ブトキシ基、ペンチルオキシ基等が挙げられる。
【0060】
前記炭素数1~5のチオエーテル基としては、特に制限されないが、メチルチオ基、エチルチオ基、プロピルチオ基、イソプロピルチオ基、ブチルチオ基、ペンチルチオ基等が挙げられる。
【0061】
前記炭素数2~5のアルキルカルボニル基としては、特に制限されないが、メチルカルボニル基、エチルカルボニル基、プロピルカルボニル基、イソプロピルカルボニル基、ブチルカルボニル基等が挙げられる。
【0062】
前記炭素数2~5のアルキルオキシカルボニル基としては、特に制限されないが、メチルオキシカルボニル基、エチルオキシカルボニル基、プロピルオキシカルボニル基、イソプロピルオキシカルボニル基、ブチルオキシカルボニル基等が挙げられる。
【0063】
前記炭素数2~5のアルキルカルボニルオキシ基としては、特に制限されないが、メチルカルボニルオキシ基、エチルカルボニルオキシ基、プロピルカルボニルオキシ基、イソプロピルカルボニルオキシ基、ブチルカルボニルオキシ基等が挙げられる。
【0064】
前記炭素数1~5のアルキルスルホニル基としては、特に制限されないが、メチルスルホニル基、エチルスルホニル基、プロピルスルホニル基、イソプロピルスルホニル基、ブチルスルホニル基、ペンチルスルホニル基等が挙げられる。
【0065】
これらのうち、前記Rdは、水素原子、炭素数1~5のアルキル基、炭素数3~5のシクロアルキル基であることが好ましく、水素原子、炭素数1~5のアルキル基であることがより好ましく、水素原子、メチル基、エチル基であることがさらに好ましく、水素原子、メチル基であることが特に好ましい。
【0066】
前記(11)中のYは、フェノール性水酸基を2つ有する芳香族化合物由来の2価の芳香族基が挙げられる。
【0067】
前記フェノール性水酸基を2つ有する芳香族化合物としては、特に制限されないが、カテコール、レゾルシノール、ヒドロキノン、1,4-ジヒドロキシナフタレン、1,5-ジヒドロキシナフタレン、2,6-ジヒドロキシナフタレン、2,7-ジヒドロキシナフタレン、4,4’-ビフェノール、ビスフェノールA、ビスフェノールB、ビスフェノールBP、ビスフェノールC、ビスフェノールF、テトラメチルビスフェノールA等が挙げられる。これらのうち、ヒドロキノン、2,6-ジヒドロキシナフタレン、2,7-ジヒドロキシナフタレン、4,4’-ビフェノール、ビスフェノールA、ビスフェノールE、ビスフェノールFであることが好ましく、4,4’-ビフェノール、ビスフェノールA、テトラメチルビスフェノールAであることがより好ましい。
【0068】
前記フェノール性水酸基を2つ有する芳香族化合物の2つのフェノール性水酸基は、フェニレンエーテル結合(Yと結合する2つの酸素原子)を形成することとなるため、Yはフェノール性水酸基を2つ有する芳香族化合物由来の2価の芳香族基となる。
【0069】
前記反応性二重結合を有するポリフェニレンエーテル化合物(B)の重量平均分子量(Mw)としては、好ましくは、1000~5000であり、より好ましくは、1200~4000であり、更に好ましくは、1400~3000である。前記範囲内であれば、より確実に優れた誘電特性、及び、耐熱性のバランスの取れた硬化物を得ることができ、好ましい態様となる。なお、ここでの重量平均分子量(Mw)は、一般的な分子量測定方法で測定したものであればよく、具体的には、上述したGPCを用いて測定した値等が挙げられる。
【0070】
本発明の硬化性樹脂組成物には、反応性二重結合を有するポリフェニレンエーテル化合物(B)以外の硬化剤を本発明の硬化を損なわない範囲で加えることもできる。なお、硬化剤全量100質量%に対して、前記反応性二重結合を有するポリフェニレンエーテル化合物(B)は、50質量%以上が好ましく、60質量%以上がより好ましく、70質量%以上がさらに好ましく、80質量%以上が特に好ましく、90質量%以上が最も好ましい。
【0071】
前記反応性二重結合を有するポリフェニレンエーテル化合物(B)以外の硬化剤としては、例えば、アミン系化合物、アミド系化合物、酸無水物系化合物、フェノ-ル系化合物、シアネートエステル化合物、不飽和二重結合含有置換基を有する化合物、ジエン系ポリマーなどが挙げられる。これらの硬化剤は、単独でも2種類以上の併用でも構わない。
【0072】
前記アミン系化合物としてはジアミノジフェニルメタン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、ジアミノジフェニルスルホン、イソホロンジアミン、イミダゾ-ル、BF3-アミン錯体、グアニジン誘導体等が挙げられる。
【0073】
前記アミド系化合物としては、例えば、ジシアンジアミド、リノレン酸の2量体とエチレンジアミンとより合成されるポリアミド樹脂等が挙げられる。
【0074】
前記酸無水物系化合物としては、例えば、無水フタル酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸、無水マレイン酸、テトラヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、無水メチルナジック酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸等が挙げられる。
【0075】
前記フェノール系化合物としては、例えば、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、芳香族炭化水素ホルムアルデヒド樹脂変性フェノール樹脂、ジシクロペンタジエンフェノール付加型樹脂、フェノールアラルキル樹脂(ザイロック樹脂)、レゾルシンノボラック樹脂に代表される多価ヒドロキシ化合物とホルムアルデヒドから合成される多価フェノールノボラック樹脂、ナフトールアラルキル樹脂、トリメチロールメタン樹脂、テトラフェニロールエタン樹脂、ナフトールノボラック樹脂、ナフトール-フェノール共縮ノボラック樹脂、ナフトール-クレゾール共縮ノボラック樹脂、ビフェニル変性フェノール樹脂(ビスメチレン基でフェノール核が連結された多価フェノール化合物)、ビフェニル変性ナフトール樹脂(ビスメチレン基でフェノール核が連結された多価ナフトール化合物)、アミノトリアジン変性フェノール樹脂(メラミン、ベンゾグアナミンなどでフェノール核が連結された多価フェノール化合物)やアルコキシ基含有芳香環変性ノボラック樹脂(ホルムアルデヒドでフェノール核及びアルコキシ基含有芳香環が連結された多価フェノール化合物)等の多価フェノール化合物が挙げられる。
【0076】
前記シアネートエステル化合物としては、例えば、ビスフェノールA型シアネートエステル樹脂、ビスフェノールF型シアネートエステル樹脂、ビスフェノールE型シアネートエステル樹脂、ビスフェノールS型シアネートエステル樹脂、ビスフェノールスルフィド型シアネートエステル樹脂、フェニレンエーテル型シアネートエステル樹脂、ナフチレンエーテル型シアネートエステル樹脂、ビフェニル型シアネートエステル樹脂、テトラメチルビフェニル型シアネートエステル樹脂、ポリヒドロキシナフタレン型シアネートエステル樹脂、フェノールノボラック型シアネートエステル樹脂、クレゾールノボラック型シアネートエステル樹脂、トリフェニルメタン型シアネートエステル樹脂、テトラフェニルエタン型シアネートエステル樹脂、ジシクロペンタジエン-フェノール付加反応型シアネートエステル樹脂、フェノールアラルキル型シアネートエステル樹脂、ナフトールノボラック型シアネートエステル樹脂、ナフトールアラルキル型シアネートエステル樹脂、ナフトール-フェノール共縮ノボラック型シアネートエステル樹脂、ナフトール-クレゾール共縮ノボラック型シアネートエステル樹脂、芳香族炭化水素ホルムアルデヒド樹脂変性フェノール樹脂型シアネートエステル樹脂、ビフェニル変性ノボラック型シアネートエステル樹脂、アントラセン型シアネートエステル樹脂等が挙げられる。
【0077】
前記不飽和二重結合含有置換基を有する化合物としては、例えば、分子中に2個以上の不飽和結合含有置換基を有する化合物であれば特に限定されないが、前記不飽和結合含有置換基として、アリル基、イソプロペニル基、1-プロぺニル基、アクリロイル基、メタクリロイル基、スチリル基、スチリルメチル基などを有する化合物が挙げられる。
【0078】
前記ジエン系ポリマーとしては、例えば、極性基により変性されていない非変性ジエン系ポリマーが挙げられる。ここで、極性基とは、誘電特性に影響を及ぼす官能基であり、例えば、フェノール基、アミノ基、エポキシ基等が挙げられる。前記ジエン系ポリマーとしては、特に限定されず、例えば、1,2-ポリブタジエンや1,4-ポリブタジエン等を用いることができる。
【0079】
前記ジエン系ポリマーとして、ポリマー鎖中のブタジエン単位の50%以上が1,2-結合であるブタジエンのホモポリマー及びその誘導体を用いることもできる。
【0080】
<硬化性樹脂組成物の調製>
本発明の硬化性樹脂組成物は、インダン骨格を有するマレイミド(A)(以下、「(A)成分」という場合がある。)、及び、反応性二重結合を有するポリフェニレンエーテル化合物(B)(以下、「(B)成分」という場合がある。)を含有することを特徴とする。前記(B)成分は、前記(A)成分との反応により、三次元架橋を生じることができ、誘電特性、及び、耐熱性に優れた硬化物を得ることができ、好ましい態様となる。
【0081】
前記(A)成分、及び、前記(B)成分の配合比(質量部)としては、(A)成分:(B)成分が、90:10~10:90であることが好ましく、より好ましくは、80:20~20:80であり、更に好ましくは、65:35~35:65であり、特に好ましくは、55:45~45:55である。前記範囲に配合比を調製することにより、耐熱性、低誘電率、低誘電正接に優れ、また、可撓性を発現することができるため、好ましい。
【0082】
本発明の硬化性樹脂組成物には、目的を損なわない範囲でアルケニル基含有化合物、例えば、前記マレイミド(A)以外のビスマレイミド類、アリルエーテル系化合物、アリルアミン系化合物、トリアリルシアヌレート、アルケニルフェノール系化合物、ビニル基含有ポリオレフィン化合物等を添加することもできる。また、その他の熱硬化性樹脂、例えば、熱硬化性ポリイミド樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、活性エステル樹脂、ベンゾオキサジン樹脂、シアネート樹脂等も目的に応じて適宜配合することも可能である。
【0083】
本発明の硬化性樹脂組成物には、目的を損なわない範囲で、難燃性を発揮させるために、実質的にハロゲン原子を含有しない非ハロゲン系難燃剤を配合することができる。前記非ハロゲン系難燃剤として、例えば、リン系難燃剤、窒素系難燃剤、シリコーン系難燃剤、無機系難燃剤、有機金属塩系難燃剤等が挙げられ、これらを単独、あるいは、組み合わせて用いることができる。
【0084】
本発明の硬化性樹脂組成物には、必要に応じて、無機質充填材を配合することができる。前記無機質充填材として、例えば、溶融シリカ、結晶シリカ、アルミナ、窒化珪素、水酸化アルミ等が挙げられる。前記無機充填材の配合量を特に大きくする場合は溶融シリカを用いることが好ましい。前記溶融シリカは破砕状、球状のいずれでも使用可能であるが、溶融シリカの配合量を高め且つ成形材料の溶融粘度の上昇を抑制するためには、球状のものを主に用いる方が好ましい。更に球状シリカの配合量を高めるためには、球状シリカの粒度分布を適当に調整することが好ましい。その充填率は難燃性を考慮して、高い方が好ましく、硬化性樹脂組成物の全体量に対して20質量%以上が特に好ましい。また、前記硬化性樹脂組成物を以下に詳述する導電ペーストなどの用途に使用する場合は、銀粉や銅粉等の導電性充填剤を用いることができる。
【0085】
本発明の硬化性樹脂組成物は、必要に応じて、硬化促進剤、シランカップリング剤、離型剤、顔料、乳化剤等の種々の配合剤を添加することができる。
【0086】
<硬化物>
本発明の硬化物は、前記硬化性樹脂組成物を硬化反応させてなることが好ましい。前記硬化性樹脂組成物は、上述した各成分を均一に混合することにより得られ、従来知られている方法と同様の方法で容易に硬化物とすることができる。前記硬化物としては、積層物、注型物、接着層、塗膜、フィルム等の成形硬化物が挙げられる。
【0087】
前記硬化(熱硬化)反応としては、無触媒下でも容易に行われるが、さらに速く反応させたい場合には、有機過酸化物、アゾ化合物のような重合開始剤やホスフィン系化合物、三級アミンの様な塩基性触媒の添加が効果的である。例えば、ベンゾイルパーオキシド、ジクミルパーオキシド、アゾビスイソブチロニトリル、トリフェニルホスフィン、トリエチルアミン、イミダゾール類等があり、配合量としては、硬化性樹脂組成物全体の0.05~5質量%が好ましい。
【0088】
<プリプレグ>
本発明のプリプレグは、補強基材、及び、前記補強基材に含浸した前記硬化性樹脂組成物の半硬化物を有することが好ましい。前記プリプレグの作製方法としては、公知の方法を使用できるが、前記硬化性樹脂組成物を、有機溶剤に溶解(希釈)した樹脂ワニスを補強基材に含浸させ、樹脂ワニスを含浸させた補強基材を熱処理することにより、前記硬化性樹脂組成物を半硬化(あるいは未硬化)させることで、プリプレグとすることができる。
【0089】
前記有機溶剤としては、例えば、トルエン、キシレン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン、ジオキサン、テトラヒドロフラン等の中から、単独、あるいは、2種以上の混合溶媒として用いることができる。
【0090】
前記樹脂ワニスを含浸させる補強基材としては、ガラス繊維、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維等の無機繊維、有機繊維からなる織布や不織布、またはマット、紙等であり、これらを単独、あるいは、組み合わせて用いることができる。
【0091】
前記プリプレグ中の硬化性樹脂組成物と補強基材の質量割合としては、特に限定されないが、通常、プリプレグ中の硬化性樹脂組成物(中の樹脂分)が20~60質量%となるように調製することが好ましい。
【0092】
前記プリプレグの熱処理の条件としては、使用する有機溶剤、触媒、各種添加剤の種類や使用量などに応じて、適宜選択されるが、通常、80~220℃の温度で、3分~30分といった条件で行われる。
【0093】
<耐熱材料および電子材料>
本発明の硬化性樹脂組成物により得られる硬化物が、耐熱性、及び、誘電特性に優れることから、耐熱部材や電子部材に好適に使用可能である。特に、回路基板、半導体封止材、半導体装置、ビルドアップフィルム、ビルドアップ基板、接着剤やレジスト材料などに好適に使用できる。また、繊維強化樹脂のマトリクス樹脂にも好適に使用でき、高耐熱性のプリプレグとして特に適している。また、前記硬化性樹脂組成物に含まれる前記インダン骨格を有するマレイミド(A)は、各種溶剤への優れた溶解性を示すことから塗料化が可能である。こうして得られる耐熱部材や電子部材は、各種用途に好適に使用可能であり、例えば、産業用機械部品、一般機械部品、自動車・鉄道・車両等部品、宇宙・航空関連部品、電子・電気部品、建築材料、容器・包装部材、生活用品、スポーツ・レジャー用品、風力発電用筐体部材等が挙げられるが、これらに限定される物ではない。
【0094】
以下、本発明の硬化性樹脂組成物を用いて製造される代表的な製品について例を挙げて説明する。
【0095】
<回路基板>
本発明において、回路基板としては、前記プリプレグ、及び、銅箔を積層し、加熱圧着成型して得られることが好ましい。具体的には、本発明の硬化性樹脂組成物から回路基板を得る方法としては、上記プリプレグを、常法により積層し、適宜銅箔を重ねて、1~10MPaの加圧下に170~300℃で10分~3時間、加熱圧着成型させる方法が挙げられる。
【0096】
<半導体封止材>
本発明において、半導体封止材としては、前記硬化性樹脂組成物を含有することが好ましい。具体的には、本発明の硬化性樹脂組成物から半導体封止材を得る方法としては、前記硬化性樹脂組成物に、更に任意成分である硬化促進剤、および無機充填剤等の配合剤とを必要に応じて押出機、ニ-ダ、ロ-ル等を用いて均一になるまで充分に溶融混合する方法が挙げられる。その際、無機充填剤としては、通常、溶融シリカが用いられるが、パワートランジスタ、パワーIC用高熱伝導半導体封止材として用いる場合は、溶融シリカよりも熱伝導率の高い結晶シリカ,アルミナ,窒化ケイ素などの高充填化、または溶融シリカ、結晶性シリカ、アルミナ、窒化ケイ素などを用いるとよい。その充填率は、硬化性樹脂組成物100質量部当たり、無機充填剤を30~95質量部の範囲で用いることが好ましく、中でも、難燃性や耐湿性や耐ハンダクラック性の向上、線膨張係数の低下を図るためには、70質量部以上がより好ましく、80質量部以上であることがさらに好ましい。
【0097】
<半導体装置>
本発明において、半導体装置としては、前記半導体封止材を加熱硬化した硬化物を含むことが好ましい。具体的には、本発明の硬化性樹脂組成物から半導体装置を得る半導体パッケージ成形としては、上記半導体封止材を注型、または、トランスファー成形機、射出成形機などを用いて成形し、さらに50~250℃で、2~10時間の間、加熱硬化する方法が挙げられる。
【0098】
<ビルドアップ基板>
本発明の硬化性樹脂組成物からビルドアップ基板を得る方法としては、工程1~3を経由する方法が挙げられる。工程1では、まず、ゴム、フィラーなどを適宜配合した前記硬化性樹脂組成物を、回路を形成した回路基板にスプレーコーティング法、カーテンコーティング法等を用いて塗布した後、硬化させる。工程2では、必要に応じて、硬化性樹脂組成物が塗布された回路基板に所定のスルーホール部等の穴あけを行った後、粗化剤により処理し、その表面を湯洗することによって、前記基板に凹凸を形成させ、銅などの金属をめっき処理する。工程3では、工程1~2の操作を所望に応じて順次繰り返し、樹脂絶縁層及び所定の回路パターンの導体層を交互にビルドアップしてビルドアップ基板を成形する。なお、前記工程において、スルーホール部の穴あけは、最外層の樹脂絶縁層の形成後に行うとよい。また、本発明におけるビルドアップ基板は、銅箔上で当該樹脂組成物を半硬化させた樹脂付き銅箔を、回路を形成した配線基板上に、170~300℃で加熱圧着することで、粗化面を形成、メッキ処理の工程を省き、ビルドアップ基板を作製することも可能である。
【0099】
<ビルドアップフィルム>
本発明のビルドアップフィルムは、前記硬化性樹脂組成物を含有することが好ましい。本発明の硬化性樹脂組成物からビルドアップフィルムを得る方法としては、例えば、支持フィルム上に硬化性樹脂組成物を塗布したのち、乾燥させて、支持フィルムの上に樹脂組成物層を形成する方法が挙げられる。本発明の硬化性樹脂組成物をビルドアップフィルムに用いる場合、該フィルムは、真空ラミネート法におけるラミネートの温度条件(通常70℃~140℃)で軟化し、回路基板のラミネートと同時に、回路基板に存在するビアホール或いはスルーホール内の樹脂充填が可能な流動性(樹脂流れ)を示すことが肝要であり、このような特性を発現するよう前記各成分を配合することが好ましい。なお、得られるビルドアップフィルムや回路基板(銅張積層板等)においては、相分離などに起因する、局所的に異なる特性値を示すといった現象を生じさせず、任意の部位において、一定の性能を発現させるため、外観均一性が要求される。
【0100】
ここで、回路基板のスルーホールの直径は通常0.1~0.5mm、深さは通常0.1~1.2mmであり、通常この範囲で樹脂充填を可能とするのが好ましい。なお回路基板の両面をラミネートする場合はスルーホールの1/2程度充填されることが望ましい。
【0101】
前記したビルドアップフィルムを製造する具体的な方法としては、有機溶剤を配合してワニス化した樹脂組成物を調製した後、支持フィルム(Y)の表面に、前記ワニス化した樹脂組成物を塗布し、更に加熱、あるいは熱風吹きつけ等により有機溶剤を乾燥して、樹脂組成物層(X)を形成する方法が挙げられる。
【0102】
ここで用いる有機溶剤としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類、酢酸エチル、酢酸ブチル、セロソルブアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、カルビトールアセテート等の酢酸エステル類、セロソルブ、ブチルカルビトール等のカルビトール類、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン等を用いることが好ましく、また、不揮発分30~60質量%となる割合で使用することが好ましい。
【0103】
なお、形成される前記樹脂組成物層(X)の厚さは、通常、導体層の厚さ以上とする必要がある。回路基板が有する導体層の厚さは通常5~70μmの範囲であるので、前記樹脂組成物層(X)の厚さは10~100μmの厚みを有するのが好ましい。なお、本発明における前記樹脂組成物層(X)は、後述する保護フィルムで保護されていてもよい。保護フィルムで保護することにより、樹脂組成物層表面へのゴミ等の付着やキズを防止することができる。
【0104】
前記した支持フィルム及び保護フィルムは、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル等のポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル、ポリカーボネート、ポリイミド、更には離型紙や銅箔、アルミニウム箔等の金属箔などを挙げることができる。なお、支持フィルム及び保護フィルムはマッド処理、コロナ処理の他、離型処理を施してあってもよい。支持フィルムの厚さは特に限定されないが、通常10~150μmであり、好ましくは25~50μmの範囲で用いられる。また保護フィルムの厚さは1~40μmとするのが好ましい。
【0105】
前記支持フィルム(Y)は、回路基板にラミネートした後に、あるいは、加熱硬化することにより、絶縁層を形成した後に、剥離される。ビルドアップフィルムを構成する樹脂組成物層が加熱硬化した後に支持フィルム(Y)を剥離すれば、硬化工程でのゴミ等の付着を防ぐことができる。硬化後に剥離する場合、通常、支持フィルムには予め離型処理が施される。
【0106】
なお、前記のようにして得られたビルドアップフィルムから多層プリント回路基板を製造することができる。例えば、前記樹脂組成物層(X)が保護フィルムで保護されている場合はこれらを剥離した後、前記樹脂組成物の層(X)を回路基板に直接接するように回路基板の片面又は両面に、例えば真空ラミネート法によりラミネートする。ラミネートの方法はバッチ式であってもロールでの連続式であってもよい。また必要により、ラミネートを行う前にビルドアップフィルム及び回路基板を必要により加熱(プレヒート)しておいてもよい。ラミネートの条件は、圧着温度(ラミネート温度)を70~140℃とすることが好ましく、圧着圧力を1~11kgf/cm(9.8×10~107.9×10N/m)とすることが好ましく、空気圧を20mmHg(26.7hPa)以下の減圧下でラミネートすることが好ましい。
【0107】
<導電ペースト>
本発明の硬化性樹脂組成物から導電ペーストを得る方法としては、例えば、導電性粒子を該組成物中に分散させる方法が挙げられる。上記導電ペーストは、用いる導電性粒子の種類によって、回路接続用ペースト樹脂組成物や異方性導電接着剤とすることができる。
【実施例
【0108】
次に本発明を実施例、比較例により具体的に説明するが、以下において「部」及び「%」は特に断わりのない限り質量基準である。なお、軟化点、アミン当量、GPC、及び、FD-MSスペクトルは、以下の条件にて測定し、評価を行った。
【0109】
1)軟化点
測定法:JIS K7234(環球法)に準拠して、以下に示す合成例で得られた中間アミン化合物の軟化点(℃)を測定した。
【0110】
2)アミン当量
以下の測定法により、中間体アミン化合物のアミン当量を測定した。
500mL共栓付き三角フラスコに、試料である中間体アミン化合物を約2.5g、ピリジン7.5g、無水酢酸2.5g、トリフェニルホスフィン7.5gを精秤後、冷却管を装着し120℃に設定したオイルバスにて150分加熱還流する。
冷却後、蒸留水5.0mL、プロピレングリコールモノメチルエーテル100mL、テトラヒドロフラン75mLを加え、0.5mol/L水酸化カリウム-エタノール溶液で電位差滴定法により滴定した。同様の方法で空試験を行なって補正した。
アミン当量(g/eq.)=(S×2,000)/(Blank-A)
S:試料の量(g)
A:0.5mol/L水酸化カリウム-エタノール溶液の消費量(mL)
Blank:空試験における0.5mol/L水酸化カリウム-エタノール溶液の消費量(mL)
【0111】
3)GPC測定
以下の測定装置、測定条件を用いて測定し、以下に示す合成例で得られたマレイミドのGPCチャート(図1図9)を得た。前記GPCチャートの結果より、分子量分布(重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn))、及び、マレイミド中のインダン骨格に寄与する平均繰り返し単位数「n」を数平均分子量(Mn)に基づき、測定・算出した。具体的にはn=0~4の化合物について、理論分子量とGPCにおけるそれぞれの実測値分子量とで散布図上にプロット、近似直線を引き、直線上の実測値Mn(1)が示す点より数平均分子量(Mn)を求め、nを算出した。
測定装置 :東ソー株式会社製「HLC-8320 GPC」
カラム:東ソー株式会社製ガードカラム「HXL-L」+東ソー株式会社製「TSK-GEL G2000HXL」+東ソー株式会社製「TSK-GEL G2000HXL」+東ソー株式会社製「TSK-GEL G3000HXL」+東ソー株式会社製「TSK-GEL G4000HXL」
検出器:RI(示差屈折計)
データ処理:東ソー株式会社製「GPCワークステーション EcoSEC-WorkStation」
測定条件:カラム温度 40℃
展開溶媒 テトラヒドロフラン
流速 1.0ml/分
標準:前記「GPCワークステーション EcoSEC-WorkStation」の測定マニュアルに準拠して、分子量が既知の下記の単分散ポリスチレンを用いた。
(使用ポリスチレン)
東ソー株式会社製「A-500」
東ソー株式会社製「A-1000」
東ソー株式会社製「A-2500」
東ソー株式会社製「A-5000」
東ソー株式会社製「F-1」
東ソー株式会社製「F-2」
東ソー株式会社製「F-4」
東ソー株式会社製「F-10」
東ソー株式会社製「F-20」
東ソー株式会社製「F-40」
東ソー株式会社製「F-80」
東ソー株式会社製「F-128」
試料:合成例で得られたマレイミドの樹脂固形分換算で1.0質量%のテトラヒドロフラン溶液をマイクロフィルターでろ過したもの(50μl)。
【0112】
4)FD-MSスペクトル
FD-MSスペクトルは、以下の測定装置、測定条件を用いて測定した。
測定装置:JMS-T100GC AccuTOF
測定条件
測定範囲:m/z=4.00~2000.00
変化率:51.2mA/min
最終電流値:45mA
カソード電圧:-10kV
記録間隔:0.07sec
【0113】
〔合成例1〕マレイミド化合物A-1の合成
(1)中間体アミン化合物の合成
温度計、冷却管、ディーンスタークトラップ、攪拌機を取り付けた1Lフラスコに2,6-ジメチルアニリン48.5g(0.4mol)、α,α’-ジヒドロキシ-1,3-ジイソプロピルベンゼン272.0g(1.4mol)、キシレン280gおよび活性白土70gを仕込み、攪拌しながら120℃まで加熱した。さらに留出水をディーンスターク管で取り除きながら210℃になるまで昇温し、3時間反応させた。その後140℃まで冷却し、2,6-ジメチルアニリン145.4g(1.2mol)を仕込んだ後、220℃まで昇温し、3時間反応させた。反応後、100℃まで空冷し、トルエン300gで希釈して、ろ過により活性白土を除き、減圧下で溶剤及び未反応物等の低分子量物を留去することにより、下記一般式(A-1)で表される中間体アミン化合物364.1gを得た。アミン当量は298であり、軟化点は70℃であった。
【化12】
【0114】
(2)マレイミド化
温度計、冷却管、ディーンスタークトラップ、攪拌機を取り付けた2Lフラスコに無水マレイン酸131.8g(1.3mol)、トルエン700gを仕込み室温で攪拌した。次に反応物(A-1)を364.1gとDMF175gの混合溶液を1時間かけて滴下した。
滴下終了後、室温でさらに2時間反応させた。p-トルエンスルホン酸一水和物37.1gを加え、反応液を加熱し還流下で共沸してくる水とトルエンを冷却・分離した後、トルエンだけを系内に戻して脱水反応を8時間行った。室温まで空冷後、減圧濃縮し褐色溶液を酢酸エチル600gに溶解させイオン交換水150gで3回、2%炭酸水素ナトリウム水溶液150gで3回洗浄し、硫酸ナトリウムを加え乾燥後、減圧濃縮し得られた反応物を80℃で4時間真空乾燥を行い、マレイミド化合物A-1を含有する生成物を413.0g得た。このマレイミド化合物A-1のFD-MSスペクトルにて、M+=560、718、876のピークが確認され、それぞれのピークは、nが0、1、2の場合に相当する。なお、前記マレイミドA-1中のインダン骨格部分における繰り返し単位数nの値(数平均分子量に基づく)をGPCで求めたところ、そのGPCチャートが図1であり、n=1.47であり、分子量分布(Mw/Mn)=1.81であった。
【化13】
【0115】
〔合成例2〕マレイミド化合物A-2の合成
(1)中間体アミン化合物の合成
温度計、冷却管、ディーンスタークトラップ、攪拌機を取り付けた1Lフラスコに2,6-ジメチルアニリン48.5g(0.4mol)、α,α’-ジヒドロキシ-1,3-ジイソプロピルベンゼン233.2g(1.2mol)、キシレン230gおよび活性白土66gを仕込み、攪拌しながら120℃まで加熱した。さらに留出水をディーンスターク管で取り除きながら210℃になるまで昇温し、3時間反応させた。その後140℃まで冷却し、2,6-ジメチルアニリン145.4g(1.2mol)を仕込んだ後、220℃まで昇温し、3時間反応させた。反応後、100℃まで空冷し、トルエン300gで希釈して、ろ過により活性白土を除き、減圧下で溶剤及び未反応物等の低分子量物を留去することにより、下記一般式(A-2)で表される中間体アミン化合物278.4gを得た。アミン当量は294であり、軟化点は65℃であった。
【化14】
【0116】
(2)マレイミド化
温度計、冷却管、ディーンスタークトラップ、攪拌機を取り付けた2Lフラスコに無水マレイン酸107.9g(1.1mol)、トルエン600gを仕込み室温で攪拌した。次に反応物(A-2)を278.4gとDMF150gの混合溶液を1時間かけて滴下した。
滴下終了後、室温でさらに2時間反応させた。p-トルエンスルホン酸一水和物27.0gを加え、反応液を加熱し還流下で共沸してくる水とトルエンを冷却・分離した後、トルエンだけを系内に戻して脱水反応を8時間行った。室温まで空冷後、減圧濃縮し褐色溶液を酢酸エチル500gに溶解させイオン交換水120gで3回、2%炭酸水素ナトリウム水溶液120gで3回洗浄し、硫酸ナトリウムを加え乾燥後、減圧濃縮し得られた反応物を80℃で4時間真空乾燥を行い、マレイミド化合物A-2を含有する生成物を336.8g得た。このマレイミド化合物A-2のFD-MSスペクトルにて、M+=560、718、876のピークが確認され、それぞれ、nが0、1、2の場合に相当する。なお、前記マレイミドA-2中のインダン骨格部分における繰り返し単位数nの値(数平均分子量に基づく)をGPCで求めたところ、そのGPCチャートが図2であり、n=1.25であり、分子量分布(Mw/Mn)=3.29であった。
【化15】
【0117】
〔合成例3〕マレイミド化合物A-3の合成
(1)中間体アミン化合物の合成
温度計、冷却管、ディーンスタークトラップ、攪拌機を取り付けた2Lフラスコに2,6-ジメチルアニリン48.5g(0.4mol)、α,α’-ジヒドロキシ-1,3-ジイソプロピルベンゼン388.6g(2.0mol)、キシレン350gおよび活性白土123gを仕込み、攪拌しながら120℃まで加熱した。さらに留出水をディーンスターク管で取り除きながら210℃になるまで昇温し、3時間反応させた。その後140℃まで冷却し、2,6-ジメチルアニリン145.4g(1.2mol)を仕込んだ後、220℃まで昇温し、3時間反応させた。反応後、100℃まで空冷し、トルエン500gで希釈して、ろ過により活性白土を除き、減圧下で溶剤及び未反応物等の低分子量物を留去することにより、下記一般式(A-3)で表される中間体アミン化合物402.1gを得た。アミン当量は306であり、軟化点は65℃であった。
【化16】
【0118】
(2)マレイミド化
温度計、冷却管、ディーンスタークトラップ、攪拌機を取り付けた2Lフラスコに無水マレイン酸152.1g(1.5mol)、トルエン700gを仕込み室温で攪拌した。次に反応物(A-3)を402.1gとDMF200gの混合溶液を1時間かけて滴下した。
滴下終了後、室温でさらに2時間反応させた。p-トルエンスルホン酸一水和物37.5gを加え、反応液を加熱し還流下で共沸してくる水とトルエンを冷却・分離した後、トルエンだけを系内に戻して脱水反応を8時間行った。室温まで空冷後、減圧濃縮し褐色溶液を酢酸エチル800gに溶解させイオン交換水200gで3回、2%炭酸水素ナトリウム水溶液200gで3回洗浄し、硫酸ナトリウムを加え乾燥後、減圧濃縮し得られた反応物を80℃で4時間真空乾燥を行い、マレイミド化合物A-3を含有する生成物を486.9g得た。このマレイミド化合物A-3のFD-MSスペクトルにて、M+=560、718、876のピークが確認され、それぞれ、nが0、1、2の場合に相当する。なお、前記マレイミドA-3中のインダン骨格部分における繰り返し単位数nの値(数平均分子量に基づく)をGPCで求めたところ、そのGPCチャートが図3であり、n=1.96であり、分子量分布(Mw/Mn)=1.52であった。
【化17】
【0119】
〔合成例4〕マレイミド化合物A-4の合成
(1)中間体アミン化合物の合成
温度計、冷却管、ディーンスタークトラップ、攪拌機を取り付けた2Lフラスコに2,6-ジエチルアニリン59.7g(0.4mol)、α,α’-ジヒドロキシ-1,3-ジイソプロピルベンゼン272.0g(1.4mol)、キシレン350gおよび活性白土94gを仕込み、攪拌しながら120℃まで加熱した。さらに留出水をディーンスターク管で取り除きながら210℃になるまで昇温し、3時間反応させた。その後140℃まで冷却し、2,6-ジエチルアニリン179.1g(1.2mol)を仕込んだ後、220℃まで昇温し、3時間反応させた。反応後、100℃まで空冷し、トルエン500gで希釈して、ろ過により活性白土を除き、減圧下で溶剤及び未反応物等の低分子量物を留去することにより、下記一般式(A-4)で表される中間体アミン化合物342.1gを得た。アミン当量は364であり、軟化点は47℃であった。
【化18】
【0120】
(2)マレイミド化
温度計、冷却管、ディーンスタークトラップ、攪拌機を取り付けた2Lフラスコに無水マレイン酸107.9g(1.1mol)、トルエン600gを仕込み室温で攪拌した。次に反応物(A-4)を342.1gとDMF180gの混合溶液を1時間かけて滴下した。
滴下終了後、室温でさらに2時間反応させた。p-トルエンスルホン酸一水和物26.8gを加え、反応液を加熱し還流下で共沸してくる水とトルエンを冷却・分離した後、トルエンだけを系内に戻して脱水反応を8時間行った。室温まで空冷後、減圧濃縮し褐色溶液を酢酸エチル500gに溶解させイオン交換水200gで3回、2%炭酸水素ナトリウム水溶液200gで3回洗浄し、硫酸ナトリウムを加え乾燥後、減圧濃縮し得られた反応物を80℃で4時間真空乾燥を行い、マレイミド化合物A-4を含有する生成物を388.1g得た。このマレイミド化合物A-4のFD-MSスペクトルにて、M+=616、774、932のピークが確認され、それぞれ、nが0、1、2の場合に相当する。なお、前記マレイミドA-4中のインダン骨格部分における繰り返し単位数nの値(数平均分子量に基づく)をGPCで求めたところ、そのGPCチャートが図4であり、n=1.64であり、分子量分布(Mw/Mn)=1.40であった。
【化19】
【0121】
〔合成例5〕マレイミド化合物A-5の合成
(1)中間体アミン化合物の合成
温度計、冷却管、ディーンスタークトラップ、攪拌機を取り付けた1Lフラスコに2,6-ジイソプロピルアニリン70.9g(0.4mol)、α,α’-ジヒドロキシ-1,3-ジイソプロピルベンゼン272.0g(1.4mol)、キシレン350gおよび活性白土97gを仕込み、攪拌しながら120℃まで加熱した。さらに留出水をディーンスターク管で取り除きながら210℃になるまで昇温し、3時間反応させた。その後140℃まで冷却し、2,6-ジイソプロピルアニリン212.7g(1.2mol)を仕込んだ後、220℃まで昇温し、3時間反応させた。反応後、100℃まで空冷し、トルエン500gで希釈して、ろ過により活性白土を除き、減圧下で溶剤及び未反応物等の低分子量物を留去することにより、下記一般式(A-5)で表される中間体アミン化合物317.5gを得た。アミン当量は366であり、軟化点は55℃であった。
【化20】
【0122】
(2)マレイミド化
温度計、冷却管、ディーンスタークトラップ、攪拌機を取り付けた2Lフラスコに無水マレイン酸107.9g(1.1mol)、トルエン600gを仕込み室温で攪拌した。次に反応物(A-5)を317.5gとDMF175gの混合溶液を1時間かけて滴下した。
滴下終了後、室温でさらに2時間反応させた。p-トルエンスルホン酸一水和物24.8gを加え、反応液を加熱し還流下で共沸してくる水とトルエンを冷却・分離した後、トルエンだけを系内に戻して脱水反応を8時間行った。室温まで空冷後、減圧濃縮し褐色溶液を酢酸エチル600gに溶解させイオン交換水200gで3回、2%炭酸水素ナトリウム水溶液200gで3回洗浄し、硫酸ナトリウムを加え乾燥後、減圧濃縮し得られた反応物を80℃で4時間真空乾燥を行い、マレイミド化合物A-5を含有する生成物を355.9g得た。このマレイミド化合物A-5のFD-MSスペクトルにて、M+=672、830、988のピークが確認され、それぞれ、nが0、1、2の場合に相当する。なお、前記マレイミドA-5中のインダン骨格部分における繰り返し単位数nの値(数平均分子量に基づく)をGPCで求めたところ、そのGPCチャートが図5であり、n=1.56であり、分子量分布(Mw/Mn)=1.24であった。
【化21】
【0123】
〔合成例6〕マレイミド化合物A-8の合成
(1)中間体アミン化合物の合成
前記中間体アミン化合物A-1の合成法において、210℃の反応時間を6時間、220℃の反応時間を3時間に変えて同様の操作を行い、下記一般式(A-8)で表される中間体アミン化合物345.2gを得た。アミン当量は348であり、軟化点は71℃であった。
【化22】
【0124】
(2)マレイミド化
前記マレイミド化合物A-1の合成法から中間体をA-8に代えて同様に操作を行い、マレイミド化合物A-8を含有する生成物を407.6g得た。このマレイミド化合物A-8のFD-MSスペクトルにて、M+=560、718、876のピークが確認され、それぞれのピークは、nが0、1、2の場合に相当する。なお、前記マレイミドA-8中のインダン骨格部分における繰り返し単位数nの値(数平均分子量に基づく)をGPCで求めたところ、そのGPCチャートが図6であり、n=2.59であり、分子量分布(Mw/Mn)=1.49であった。
【化23】
【0125】
〔合成例7〕マレイミド化合物A-9の合成
前記中間体アミン化合物A-1の合成法において、210℃の反応時間を6時間、220℃の反応時間を3時間に変えて同様の操作を行い、合成した中間体アミン化合物(アミン当量は347、軟化点は71℃)に対し、マレイミド化反応における還流下の脱水反応を10時間とする以外は、前記マレイミド化合物A-1の合成法と同様の条件に付すことで、マレイミド化合物A-9を含有する生成物を415.6g得た。このマレイミド化合物A-9のFD-MSスペクトルにて、M+=560、718、876のピークが確認され、それぞれのピークは、nが0、1、2の場合に相当する。なお、前記マレイミドA-9中のインダン骨格部分における繰り返し単位数nの値(数平均分子量に基づく)をGPCで求めたところ、そのGPCチャートが図7であり、n=2.91であり、分子量分布(Mw/Mn)=1.64であった。
【化24】
【0126】
〔合成例8〕マレイミド化合物A-10の合成
前記中間体アミン化合物A-1の合成法において、210℃の反応時間を9時間、220℃の反応時間を3時間に変えて同様の操作を行い、合成した中間体アミン化合物(アミン当量は342、軟化点は69℃)に対し、マレイミド化反応における還流下の脱水反応を10時間とする以外は、前記マレイミド化合物A-1の合成法と同様の条件に付すことで、マレイミド化合物A-10を含有する生成物を398.7g得た。このマレイミド化合物A-10のFD-MSスペクトルにて、M+=560、718、876のピークが確認され、それぞれのピークは、nが0、1、2の場合に相当する。なお、前記マレイミドA-10中のインダン骨格部分における繰り返し単位数nの値(数平均分子量に基づく)をGPCで求めたところ、そのGPCチャートが図8であり、n=3.68であり、分子量分布(Mw/Mn)=2.09であった。
【化25】
【0127】
〔合成例9〕マレイミド化合物A-11の合成
前記中間体アミン化合物A-1の合成法において、210℃の反応時間を9時間、220℃の反応時間を3時間に変えて同様の操作を行い、合成した中間体アミン化合物(アミン当量は347、軟化点は70℃)に対し、マレイミド化反応における還流下の脱水反応を12時間とする以外は、前記マレイミド化合物A-1の合成法と同様の条件に付すことで、マレイミド化合物A-11を含有する生成物を422.7g得た。このマレイミド化合物A-11のFD-MSスペクトルにて、M+=560、718、876のピークが確認され、それぞれのピークは、nが0、1、2の場合に相当する。なお、前記マレイミドA-11中のインダン骨格部分における繰り返し単位数nの値(数平均分子量に基づく)をGPCで求めたところ、そのGPCチャートが図9であり、n=4.29であり、分子量分布(Mw/Mn)=3.02であった。
【化26】
【0128】
〔実施例1~9、及び、比較例1〕
<マレイミドの溶剤溶解性>
合成例1~9で得られたマレイミド(A-1)~(A-5)、(A-8)~(A-11)、及び、比較用の市販のマレイミド(A-6)(4,4'-ジフェニルメタンビスマレイミド、「BMI-1000」大和化成工業株式会社製)のトルエン、メチルエチルケトン(MEK)に対する溶解性の評価を行い、評価結果を表1に示した。
溶剤溶解性の評価方法としては、上記合成例及び比較例で得られた各マレイミドを用いて、不揮発分が10、20、30、40、50、60、及び、70質量%になるようにトルエン溶液、及び、メチルエチルケトン(MEK)溶液を調製した。
具体的には、上記合成例及び比較例で得られた各マレイミドを入れたバイアルを室温(25℃)で60日間放置し、各不揮発分組成における各溶液中において、均一に溶解した場合(不溶物なし)を〇、溶解しなかった場合(不溶物あり)を×と評価(目視)した。なお、不揮発分が20質量%以上の場合に、溶剤に溶解することができれば、実用上、好ましい。
【0129】
〔実施例10~18、及び、比較例2〕
<硬化性樹脂組成物の調製>
合成例1~9で得られたマレイミド(A-1)~(A-5)、(A-8)~(A-11)、比較用マレイミド(A-6)(4,4'-ジフェニルメタンビスマレイミド、「BMI-1000」大和化成工業株式会社製)、反応性二重結合を有するポリフェニレンエーテル化合物(B-1)(「SA-9000」、SABIC社製、Mw:1700)を表2に示す割合で配合し、硬化性樹脂組成物を調製した。
【0130】
<硬化物(成型物)の調製>
上記硬化性樹脂組成物を以下の条件に付すことで硬化物(成型物)を作製した。
硬化条件:200℃で2時間加熱後、更に、250℃で2時間加熱硬化させた。
成型後の硬化物(成型物)の板厚:2.4mm
得られた硬化物について、下記の方法で種々の物性・特性の評価を行った。評価結果を表3に示した。
【0131】
〔実施例19~24、及び、比較例3~4〕
<硬化性樹脂組成物の調製>
合成例1、合成例6~9で得られたマレイミド(A-1)、(A-8)~(A-11)、比較用マレイミド(A-7)(3,3'-ジメチル-5,5'-ジエチル-4,4'-ジフェニルメタンビスマレイミド、「BMI-5100」大和化成工業株式会社製)、反応性二重結合を有するポリフェニレンエーテル化合物(B-1)(「SA-9000」、SABIC社製、Mw:1700)、ビニルベンジル化ポリフェニレンエーテル化合物(B-2)、メチルエチルケトン(MEK)を表4に示す割合で配合し、硬化性樹脂組成物を調製した。
なお、前記化合物(B-2)については、特許第6147538号公報の実施例1に準拠して合成した。
【0132】
<ワニス溶解性、及び、フィルム外観の均一性>
実施例19~24、及び、比較例3~4の各硬化性樹脂組成物においては、均一に溶解しているか目視にて確認した(ワニス溶解性の確認)。均一に溶解している場合を〇、均一に溶解していない、又は、全く溶解していない場合を×(例えば、不溶物が存在する場合など)と評価した。
また、各硬化性樹脂組成物5gを離型PETフィルム状に塗布(乾燥後の厚み:295μm)し、80℃で1時間乾燥(加熱)後、更に、120℃で1時間乾燥(加熱)することにより、フィルム成形物を作製し、得られたフィルム成形物の外観を目視にて、確認した。フィルム外観が均一の場合を〇、フィルム外観が不均一な場合を×(例えば、濁りや不溶物などが確認できる場合)と評価した。評価結果を表4に示した。
【0133】
<ガラス転移温度(Tg)>
厚さ2.4mmの硬化物を幅5mm、長さ54mmのサイズに切り出し、これを試験片とした。この試験片を粘弾性測定装置(DMA:日立ハイテクサイエンス社製固体粘弾性測定装置「DMS6100」、変形モード:両持ち曲げ、測定モード:正弦波振動、周波数1Hz、昇温速度3℃/分)を用いて、弾性率変化が最大となる(tanδ変化率が最も大きい)温度をガラス転移温度Tg(℃)として評価した。なお、耐熱性の観点から、ガラス転移温度Tgとしては、250℃以上(高Tg化)が好ましく、より好ましくは、260℃以上である。
【0134】
<耐熱分解性>
厚さ2.4mmの硬化物を細かく裁断し、熱重量分析装置(METTLER TOREDO社製熱重量測定装置「TGA/DSC1」)を用いて、昇温速度を5℃/分として窒素雰囲気下で測定を行い、5%重量減少する温度を耐熱分解温度(Td5)(℃) として評価した。
【0135】
<熱膨張性>
厚さ2.4mmの硬化物を幅5mm、長さ5mmのサイズに切り出し、これを試験片とした。この試験片を熱分析装置(SIIナノテクノロジー社製「TMA/SS6100」、昇温速度3℃/分)を用いて40~60℃の範囲の熱膨張係数CTE(ppm)を測定した。なお、耐熱性や反りの防止等の観点から、熱膨張係数としては、60ppm以下が好ましく、より好ましくは、55ppm以下である。
【0136】
<誘電特性>
JIS-C-6481に準拠し、アジレント・テクノロジー株式会社製ネットワークアナライザ「E8362C」を用い空洞共振法にて、絶乾後23℃、湿度50%の室内に24時間保管した後の試験片の1GHzでの誘電率及び誘電正接を測定した。なお、誘電率及び誘電正接としては、電子材料としての伝送損失低減の観点から、誘電率は、2.60以下が好ましく、2.55以下がより好ましい。また、誘電正接は、0.0020以下が好ましく、0.0015以下がより好ましい。
【0137】
【表1】
【0138】
【表2】
【0139】
【表3】
【0140】
【表4】
【0141】
上記表1の評価結果より、実施例1~9においては、インダン骨格を有するマレイミドを使用したため、トルエン溶液を調製した際には、不揮発分が20質量%であっても溶解することができ、MEK溶液を調製した際には、不揮発分が50質量%であっても溶解することができ、溶剤溶解性に優れることが確認できた。一方、比較例1で使用した市販のマレイミドは、インダン骨格を構造中に有さず、溶剤溶解性に劣ることが確認された。
【0142】
上記表3の評価結果より、実施例10~18においては、インダン骨格を有するマレイミドに加えて、誘電特性にも寄与するポリフェニレンエーテルを構造中に含む反応性二重結合を有するポリフェニレンエーテル化合物(B)を使用したことで、ガラス転移温度や耐熱分解温度が高く、熱膨張係数が小さく抑えられていることから、耐熱性や耐熱分解性に優れることが確認できた。更に、誘電率及び誘電正接も低く抑えられ、誘電特性に優れることも確認できた。一方、比較例2においては、実施例に対して、ガラス転移温度や耐熱分解温度が低く、熱膨張係数が高いことから、耐熱性や耐熱分解性に劣ることが確認され、誘電率及び誘電正接も実施例に対して、低く抑えることができず、誘電特性についても劣ることが確認された。
【0143】
上記表4の評価結果より、実施例19~24では、インダン骨格を有するマレイミドを含有する硬化性樹脂組成物溶液(ワニス)は均一に溶解していることが確認され、更に前記硬化性樹脂組成物溶液(ワニス)を塗布・乾燥して得られるフィルムは、外観が均一であり、特に得られるフィルムの外観均一性が要求されるビルドアップフィルムをはじめ、回路基板(銅張積層板等)等の用途にも使用できることが確認できた。一方、比較例3~4では、市販品で、インダン骨格を有さないマレイミドを使用したため、フィルムの外観は不均一であり、ビルドアップフィルムや回路基板(銅張積層板等)等の用途に使用することが難しいことが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0144】
本発明の硬化性樹脂組成物は、その硬化物が耐熱性、及び、誘電特性に優れることから、耐熱部材や電子部材に好適に使用可能であり、特に、半導体封止材、回路基板、ビルドアップフィルム、ビルドアップ基板等や、接着剤やレジスト材料に好適に使用可能である。また、繊維強化樹脂のマトリクス樹脂にも好適に使用可能であり、高耐熱性のプリプレグとして適している。
【図面の簡単な説明】
【0145】
図1】合成例1で得られたマレイミド化合物(A-1)のGPCチャート図である。
図2】合成例2で得られたマレイミド化合物(A-2)のGPCチャート図である。
図3】合成例3で得られたマレイミド化合物(A-3)のGPCチャート図である。
図4】合成例4で得られたマレイミド化合物(A-4)のGPCチャート図である。
図5】合成例5で得られたマレイミド化合物(A-5)のGPCチャート図である。
図6】合成例6で得られたマレイミド化合物(A-8)のGPCチャート図である。
図7】合成例7で得られたマレイミド化合物(A-9)のGPCチャート図である。
図8】合成例8で得られたマレイミド化合物(A-10)のGPCチャート図である。
図9】合成例9で得られたマレイミド化合物(A-11)のGPCチャート図である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9