(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-14
(45)【発行日】2022-11-22
(54)【発明の名称】マンガンの除去方法
(51)【国際特許分類】
C02F 3/34 20060101AFI20221115BHJP
C22B 3/18 20060101ALI20221115BHJP
C22B 3/08 20060101ALI20221115BHJP
C22B 3/44 20060101ALI20221115BHJP
C02F 1/70 20060101ALI20221115BHJP
C02F 3/10 20060101ALI20221115BHJP
【FI】
C02F3/34 Z
C22B3/18
C22B3/08
C22B3/44 101B
C02F1/70 Z
C02F3/10 Z
(21)【出願番号】P 2018197763
(22)【出願日】2018-10-19
【審査請求日】2021-06-03
(73)【特許権者】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】沖部 奈緒子
(72)【発明者】
【氏名】サンティサック ギッチャーヌギット
(72)【発明者】
【氏名】中西 次郎
(72)【発明者】
【氏名】加地 伸行
(72)【発明者】
【氏名】浅野 聡
【審査官】池田 周士郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-170688(JP,A)
【文献】特開2007-061809(JP,A)
【文献】特開2016-175006(JP,A)
【文献】特開2001-113297(JP,A)
【文献】特開2014-087731(JP,A)
【文献】特開2013-059705(JP,A)
【文献】特開2014-240050(JP,A)
【文献】特開2016-168029(JP,A)
【文献】特開2017-042727(JP,A)
【文献】特開2015-116521(JP,A)
【文献】特開2003-290784(JP,A)
【文献】特開2004-275871(JP,A)
【文献】用水・排水の高度処理-技術レポート,食品と開発,1993年07月01日,Vol.28, No.7,pp.7-14
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 3/00- 3/34
C02F 1/70
C22B 3/00- 3/46
C22B 23/00-23/06
C22B 47/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マンガンを含有する水溶液から、マンガン酸化細菌によりマンガンを除去するマンガンの除去方法であって、
前記マンガンを含有する水溶液は、少なくともニッケルとマンガンとを含むニッケル酸化鉱石を酸浸出して生成した浸出液に還元剤を添加して処理し、ニッケルを沈殿物として回収するニッケル酸化鉱石の湿式製錬プロセスを経て得られた、該ニッケルの沈殿物を回収した後の溶液であり、
前記水溶液中
に、前記湿式製錬プロセスにおける排水の排水路配管の表面に付着するスラッジから採取したマンガン酸化細菌と、多孔質体と
を添加し、
前記多孔質体の細孔内に前記マンガン酸化細菌を付着かつ担持させて、増殖させ、増殖した前記マンガン酸化細菌によりマンガンを酸化物として除去する、
マンガンの除去方法。
【請求項2】
前記多孔質体として、水銀圧入法により測定したLog微分細孔容積分布曲線において、直径0.5μm~20μmの範囲におけるLog微分細孔容積dV/dlog(d)[cc/g]が0.1を超える値となるものを用いる
請求項1に記載のマンガンの除去方法。
【請求項3】
前記多孔質体は、燻炭又は活性炭である
請求項1又は2に記載のマンガンの除去方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マンガンの除去方法に関するものであり、例えばニッケル酸化鉱石の湿式製錬プロセスで生じた排水等のマンガンを含有する水溶液からマンガンを効率的に除去する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ニッケルやコバルト等の有価金属を低ニッケル品位の酸化鉱石から効率よく回収する方法として、例えば高圧酸浸出(High Pressure Acid Leach:HPAL)プロセスと呼ばれる湿式製錬プロセスがある。
【0003】
HPALプロセスでは、酸化鉱石を硫酸と共にスラリーとして高温高圧下で加熱し、ニッケルやコバルトを含む酸浸出液と浸出残渣とに分離する。そして、酸浸出液からは不純物を分離し、ニッケルやコバルトを硫化してニッケルコバルト中間原料として回収し、残液は排水処理を経て放流する等のプロセスを経る。
【0004】
一方、原料の酸化鉱石には、マンガン等の不純物も多量に含まれていることが知られている。特にマンガンの場合は、多くが排水処理の工程にまで達し、そのまま放流することはできない。このため、酸化鉱石に含有されていたマンガンを、放流に先立って除去する処理が必要となる。
【0005】
マンガンを除去する方法として、一般的には、マンガンを含有する排水等のpHを調整し、空気を吹き込む等してマンガンを酸化して除去する方法がある。例えば、特許文献1には、マグネシウムを含有するマンガン酸性溶液から、マンガンを優先的に除去する方法が示されている。具体的に、特許文献1には、マグネシウムを含有するマンガン酸性溶液からマンガンを沈殿物として除去するにあたり、マグネシウム含有マンガン酸性溶液のpHを8.2~8.8に調整するとともに、溶液の酸化還元電位が10mV~500mVとなるように空気、酸素、オゾン又は過酸化物を用いて調整し、マンガンを優先的に沈殿除去することを特徴とする、マンガンの優先的除去方法が開示されている。
【0006】
しかしながら、このような方法の場合、多量の液のpHを調整するために中和剤を多く必要とし、空気等を吹き込んで酸化するための動力も多く必要となる。さらに、沈殿生成する固体には、マンガンの他にも中和剤が反応して生成した石膏等も含まれているため、沈殿物量が増加するといった問題がある。
【0007】
そこで、自然界に存在するマンガン酸化細菌をうまく利用し、そのマンガン酸化細菌の力を利用してマンガンを酸化して除去する方法も考えられてきた。
【0008】
例えば、特許文献2には、マンガンを含有する排水から、中和剤等の薬剤の使用量を抑えながら、効率的にマンガンを除去する方法が提案されている。具体的に、この方法は、ニッケル酸化鉱石に酸を添加し加圧浸出してニッケルを回収する湿式製錬プロセスにおいて排出される排水からマンガンを除去する方法であって、排水のpHを8.0以上9.2以下の範囲に調整し、得られたpH調整後の液を、マンガン酸化細菌が存在する長さ3km以上の排水路に供給して、1時間以上の滞留時間をかけて通液させる方法である。
【0009】
このようなマンガン酸化細菌を利用したマンガン除去方法では、少ないエネルギーと手間でマンガンを除去することができる。しかしながら、マンガン酸化細菌を処理に必要な量まで増殖させるのに時間を要したり、長大な距離が必要となる等、立地条件に影響されるといった問題がある。
【0010】
また、特許文献3には、マンガン酸化細菌を用いて排水中に含まれるマンガンを酸化して除去する方法の一つとして、90以上の分子量をもつアミノ酸と、グルコースを添加する方法が示されている。アミノ酸の添加量は、排水中のマンガンのモル濃度の1.6倍~2.2倍のモル濃度となる量であり、グルコースの添加量は、排水中のマンガンのモル濃度の0.2倍~0.6倍のモル濃度となる量が好ましいとしている。このようにして、マンガン酸化細菌を増殖させるとともに、細胞構成成分としての炭素源及びエネルギー源を供給することで、多大なアルカリを投入することなく、マンガン酸化細菌によってマンガンを十分に酸化させて、これを沈殿させて除去することができるとされている。
【0011】
しかしながら、このような方法を用いた場合でも、マンガン酸化細菌の育成場所の影響が除去処理において大きく寄与し、効率的なマンガン除去が実現し難かった。すなわち、マンガン酸化細菌を生息させ、増殖させるには育成場所が必要であり、通常は反応槽や配管の表面に付着するスラッジがその場所になる。例えば、そのスラッジを採取し、反応用に入れた排水に添加してスラリーとした場合、添加後2週間程度の時間が経過してもマンガン酸化細菌が十分には育成しておらず、マンガン酸化細菌によるマンガン除去能は十分とはならない。
【0012】
このように、マンガン酸化細菌を用いたマンガン除去方法は、少ないエネルギーと手間でマンガンを除去することができる方法ではあるものの、マンガン酸化細菌を安定して育成させることは難しく、効率的に排水中のマンガンを除去することは容易ではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【文献】特開平9-248576号公報
【文献】特開2017-42727号公報
【文献】特開2018-86643号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、このような実情に鑑みて提案されたものであり、マンガン酸化細菌を用いたマンガンの除去方法において、安定的にかつ効率的に、排水等のマンガンを含有する水溶液からマンガンを除去することできる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、上述した課題を解決するため鋭意検討を重ねた。その結果、マンガンを含有する排水等の水溶液中に、マンガン酸化細菌と共に多孔質体を存在させておくことにより、安定的にかつ効率的にマンガンを酸化させて除去できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0016】
(1)本発明の第1の発明は、マンガンを含有する水溶液から、マンガン酸化細菌によりマンガンを除去するマンガンの除去方法であって、前記水溶液中において、マンガン酸化細菌と、多孔質体とを共存させる、マンガンの除去方法である。
【0017】
(2)本発明の第2の発明は、第1の発明において、前記多孔質体として、水銀圧入法により測定したLog微分細孔容積分布曲線において、直径0.5μm~20μmの範囲におけるLog微分細孔容積dV/dlog(d)[cc/g]が0.1を超える値となるものを用いる、マンガンの除去方法である。
【0018】
(3)本発明の第3の発明は、第1又は第2の発明において、前記多孔質体は、燻炭又は活性炭である、マンガンの除去方法である。
【0019】
(4)本発明の第4の発明は、第1乃至第3のいずれかの発明において、前記マンガンを含有する水溶液は、少なくともニッケルとマンガンとを含むニッケル酸化鉱石を酸浸出して生成した浸出液に還元剤を添加して処理し、ニッケルを沈殿物として回収した後の溶液である、マンガンの除去方法である。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、マンガン酸化細菌を用いたマンガンの除去方法において、安定的にかつ効率的に排水中のマンガンを除去することできる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】実施例1にて用いた燻炭のLog微分細孔容積分布のグラフ図である。
【
図2】実施例2にて用いた活性炭のLog微分細孔容積分布のグラフ図である。
【
図3】比較例1にて用いた天然ゼオライトのLog微分細孔容積分布のグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の具体的な実施形態(以下、「本実施の形態」という)について詳細に説明する。本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲で種々の変更が可能である。また、本明細書において、「X~Y」(X、Yは任意の数値)との表記は、「X以上Y以下」の意味である。
【0023】
本実施の形態に係るマンガンの除去方法は、マンガンを含有する排水等の水溶液から、マンガン酸化細菌によりマンガンを酸化して除去する方法である。具体的に、このマンガンの除去方法は、マンガンを含有する水溶液中において、マンガン酸化細菌と、多孔質体とを共存させることを特徴としている。
【0024】
処理対象となる、マンガンを含有する水溶液としては、例えばマンガンが1mg/L~1000mg/L程度の濃度範囲で含むものである。例えば、少なくともニッケルとマンガンとを含有するニッケル酸化鉱石に硫酸等の酸を添加して高温高圧下で浸出処理を施してニッケルを回収する湿式製錬プロセス(HPALプロセス)にて排出される排水が挙げられる。より具体的には、HPALプロセスにおける浸出処理により得られた浸出液に対して還元剤を添加して処理し、ニッケルを沈殿物として回収した後の溶液(浸出液に硫化水素ガス等の還元剤を添加して硫化処理を施し、処理により生成したニッケル硫化物を分離回収した後に排出される硫化後液)が挙げられる。
【0025】
ニッケル酸化鉱石に対するHPALプロセスにおいて排出される硫化後液には、マンガンをはじめとして、マグネシウムやアルミニウム等の不純物成分が含まれており、河川や海洋に排水するにあたっては、中和処理を施して不純物成分を除去する必要がある。ところが、硫化後液は、硫化剤を添加して硫化処理が施されて得られた溶液であることから、比較的還元性の強い溶液であり、従来のように酸化剤を添加して二酸化マンガンの形態の沈殿物としてマンガンを分離除去する場合には、酸化のための酸化剤の使用量が多くなり、処理コストが多大となる。また、アルカリ等の中和剤でpHを調整する中和処理のみでは、アルカリがマグネシウム等のマンガン以外の水酸化物化に優先的に使用されてしまい、最終的にマンガンの全量を分離除去するためには多大な中和剤が必要となる。
【0026】
この点において、マンガン酸化細菌を利用したマンガンの除去方法によれば、マンガンを選択的に除去することができ、しかも多量の中和剤を使用することなく、少ないエネルギーと手間により、マンガンを酸化させて除去することができる。
【0027】
マンガン酸化細菌とは、マンガンを酸化する能力を有する微生物の総称である。具体的に、マンガン酸化細菌としては、特に限定されず、例えば、Hyphomicrobium属、Magnetospirillum属、Geobacter属、Bacillus属、Pseudomonas属等が挙げられる。なお、後述する実施例では、明示するように、フィリピン国パラワン島で操業する製錬所の排水処理設備の排水路配管から採取したスラッジに含まれるマンガン酸化細菌を用いているが、マンガン酸化細菌としては特定の産出地に限定されるものではない。
【0028】
マンガンを含有する水溶液に対してマンガン除去処理を行うに際しては、上述したマンガン酸化細菌を、その水溶液中に添加する。あるいは、マンガン酸化細菌が存在する配管等から採取できるスラッジを、水溶液中に添加するようにしてもよい。
【0029】
上述したHPALプロセスを経て排出された硫化後液等の排水には、種々の塩類が含まれており、そのような排水が排水路配管内を通過することで、排水路配管内はマンガン酸化細菌が良好に増殖し得る環境になっている。したがって、その排水路配管に生成しているスラッジには、マンガン酸化細菌が有効に存在している。
【0030】
さて、マンガン酸化細菌による除去方法の効率性や有効性は、マンガン酸化細菌の増殖性に大きく依存するところがあり、マンガン酸化細菌を用いた従来の除去方法では、安定的にかつ効率的にマンガンを除去することができなかった。
【0031】
そこで、本発明者らにより鋭意研究を重ねたところ、マンガンを含有する排水等の水溶液中に、マンガン酸化細菌を添加するとともに、所定の多孔質体を添加して共存させることによって、マンガン酸化細菌によるマンガン酸化除去能が高まることを見出した。
【0032】
すなわち、マンガンを含有する水溶液中において、マンガン酸化細菌と、多孔質体とを共存させて処理することによって、その共存させた多孔質体が、マンガン酸化細菌を担持する担体となり、安定的に細菌が増殖(育成)できる場となる。このように、マンガン酸化細菌が存在する環境に、所定の多孔質体を配置するようにすることで、そのマンガン酸化細菌を安定的にかつ急速に増殖させることができ、マンガン酸化除去能を有効に高めることができる。
【0033】
ここで、多孔質体としては、マンガン酸化細菌と同等のサイズの直径の細孔を一定量以上含むものであることが好ましい。また、その種類としては、特に限定されず、例えば、活性炭や燻炭、ゼオライト、多孔質セラミックス、軽石等が挙げられる。その中でも、活性炭又は燻炭の少なくともいずれかを用いることが、後述するようにより好適な細孔を有している点において好ましい。なお、多孔質体としては、マンガン酸化細菌と同等サイズの直径の細孔を有するものであれば市販のものも好適に用いることができる。
【0034】
より具体的に、多孔質体としては、水銀圧入法により測定したLog微分細孔容積分布曲線において、直径0.5μm~20μmの範囲におけるLog微分細孔容積dV/dlog(d)[cc/g]が0.1を超える値となるものを用いることが好ましい。Log微分細孔容積分布曲線とは、水銀圧入法により測定される多孔質体の細孔容積の測定ポイント間の差分細孔容積dVを、細孔径の対数扱いの差分値d(logD)で割った値(Log微分細孔容積)を求め、これを各測定ポイント間の区間の平均細孔径に対してプロットしたグラフである。
【0035】
なお、上述のように、直径0.5μm~20μmの範囲におけるLog微分細孔容積が0.1を超える値となる多孔質体であることが好ましいが、そのLog微分細孔容積が0.1を超える区間は、直径0.5μm~20μmの範囲で存在すればよく、必ずしも全範囲で超えている必要はない。
【0036】
マンガン酸化細菌は、その大きさ(長さ)が概ね0.5μm~2μm程度であるものが多く、最大でも20μm程度のものである。したがって、マンガン酸化細菌の大きさに匹敵する0.5μm~20μmの大きさの細孔を有する多孔質体を用いることによって、マンガン酸化細菌を担持させて増殖させる担体として有効に機能させることができる。すなわち、そのような多孔質体を用いることで、マンガン酸化細菌が安定して育成できる場所を提供することができ、その結果として高いマンガン除去率を得ることができる。
【0037】
多孔質体において、細孔の直径が0.5μm未満であると、マンガン酸化細菌が細孔内に入り込むことが困難となり、その多孔質体に付着して有効に増殖することができない可能性がある。一方で、細孔の直径が20μmを超えると、細孔の表面積が細孔容積に対して小さくなり、効率的にマンガン酸化細菌が付着して増殖し難くなる可能性がある。
【0038】
なお、多孔質体は、例えばカラム等の反応容器に収めて利用することができる。ただし、使用に支障のない程度のサイズであればよく、過剰に粉砕する必要はない。
【0039】
上述したように、本実施の形態に係るマンガンの除去方法が適用される、マンガンを含有する水溶液としては、HPALプロセスにおいてニッケル酸化鉱石を酸で浸出し、得られた浸出液に対して還元剤(硫化水素等の硫化剤)によりニッケル等の有価物を沈殿させた後に得られる排水(硫化後液)が挙げられ、その排水に対して特に好適に適用することができる。
【0040】
すなわち、HPALプロセスにて浸出された浸出液は、硫酸等の酸の添加と空気の吹き込みによって酸化された状態となっており、その浸出処理により得られる浸出液中に存在するマンガンイオンも、例えば3価~4価の形態に酸化されている。その後の処理により有価物を回収するために還元剤が使用されることで、有価物だけでなくマンガンイオンも2価の還元状態に戻ることから、これに対して酸化剤(薬剤)を用いて再度酸化して沈殿物を生成しようとするには、多量の酸化剤が必要となり不経済となる。その点において、マンガン酸化細菌を用い、多孔質体が共存した状態で処理する方法によれば、多量の薬剤の使用が不要となり、極めて効率的にマンガンを除去することが可能となる。
【実施例】
【0041】
以下、本発明の実施例を示してより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0042】
[実施例1]
ニッケル酸化鉱石を原料として公知のHPAL法によりニッケル等の有価物を浸出し、得られた浸出液に対して中和処理を施して不純物を除去し、その後、硫化水素ガスを吹き込むことで硫化処理を施してニッケルを硫化物として分離回収した。そして、ニッケル硫化物を回収した後の溶液(硫化後液)を排水(800ml)として用意した。なお、その排水中のマンガン濃度は100mg/L、カルシウム濃度は400mg/L、マグネシウム濃度は500mg/L、pHは8.2であった。
【0043】
次に、用意した排水を容器に入れ、フィリピン国パラワン島にあるHPALプロセスを用いたニッケル製錬所(コーラルベイニッケル社)の排水放流配管から採取したマンガン酸化細菌を含むスラッジ0.2gを添加するとともに、市販の燻炭50mlも添加した。このようにして、排水中にマンガン酸化細菌と多孔質体である燻炭とが共存する状態にして、30℃の温度条件に維持し撹拌した。
【0044】
採取したマンガン酸化細菌を電子顕微鏡で観察して大きさを測定したところ、概ね0.5μm~20μmの範囲の大きさであった。
【0045】
また、多孔質体である燻炭(使用前)について、水銀圧入法によりLog微分細孔容積分布を測定した。
図1は燻炭のLog微分細孔容積分布のグラフ図である。
図1中に示す囲み部X(上端は0.1cc/g)に示すように、細孔直径0.5μm~20μmの範囲において、Log微分細孔容積dV/dlog(d)の値が0.1を超える範囲が認められた。なお、Log微分細孔容積分布のグラフ図において、横軸は細孔直径(μm)であり、縦軸はLog微分細孔容積dv/dlog(d)[cc/g]である。
【0046】
マンガン酸化細菌を含むスラッジと燻炭とを排水に添加してから15日間が経過後、排水を採取してICPを用いてマンガン濃度を分析した。その結果、処理前の排水中のマンガン濃度に基づいて算出されるマンガン除去率は、80%以上となった。
【0047】
[実施例2]
実施例2では、実施例1と同じ設備及び同じマンガン酸化細菌を用いて、排水からマンガンを除去する処理を行った。そのとき、実施例2では、多孔質体として活性炭(クラレ社製)50mlを用い、排水中にマンガン酸化細菌と多孔質体である活性炭とが共存する状態とした。なお、その他の処理条件は実施例1と同じとした。
【0048】
多孔質体である活性炭(使用前)について、水銀圧入法によりLog微分細孔容積分布を測定した。
図2は活性炭のLog微分細孔容積分布のグラフ図である。
図2中に示す囲み部Y(上端は0.1cc/g)に示すように、細孔直径が0.5μm~20μmの範囲において、Log微分細孔容積dV/dlog(d)の値が0.1を超える範囲が認められた。
【0049】
マンガン酸化細菌を含むスラッジと活性炭とを排水を添加してから15日間が経過後、排水を採取してICPを用いてマンガン濃度を分析した。その結果、処理前の排水中のマンガン濃度に基づいて算出されるマンガン除去率は、80%以上となった。
【0050】
[比較例1]
比較例1では、実施例1と同じ設備及び同じマンガン酸化細菌を用いて、排水からマンガンを除去する処理を行った。そのとき、比較例1では、
図3に示すLog微分細孔容積分布を有する天然ゼオライト50mlを用いた。なお、その他の処理条件は実施例1と同じとした。
【0051】
使用した天然ゼオライトは、使用前の水銀圧入法によるLog微分細孔容積分布の測定の結果、
図3に示すように、細孔直径が0.5μm~20μmの範囲において、Log微分細孔容積dV/dlog(d)の値が0.1を超える範囲は存在しなかった。なお、
図3中に示す囲み部Zの上端は0.1cc/gである。
【0052】
マンガン酸化細菌を含むスラッジと、上記のようなLog微分細孔容積分布を有する天然ゼオライトとを排水を添加してから15日間が経過後、排水を採取してICPを用いてマンガン濃度を分析した。その結果、処理前の排水中のマンガン濃度に基づいて算出されるマンガン除去率は、60%以下にとどまった。