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特許7176733脊髄オピオイドμ受容体を介した新規腹圧性尿失禁薬剤
<図1>
  • 特許-脊髄オピオイドμ受容体を介した新規腹圧性尿失禁薬剤 図1
  • 特許-脊髄オピオイドμ受容体を介した新規腹圧性尿失禁薬剤 図2
  • 特許-脊髄オピオイドμ受容体を介した新規腹圧性尿失禁薬剤 図3
  • 特許-脊髄オピオイドμ受容体を介した新規腹圧性尿失禁薬剤 図4
  • 特許-脊髄オピオイドμ受容体を介した新規腹圧性尿失禁薬剤 図5
  • 特許-脊髄オピオイドμ受容体を介した新規腹圧性尿失禁薬剤 図6
  • 特許-脊髄オピオイドμ受容体を介した新規腹圧性尿失禁薬剤 図7
  • 特許-脊髄オピオイドμ受容体を介した新規腹圧性尿失禁薬剤 図8
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-14
(45)【発行日】2022-11-22
(54)【発明の名称】脊髄オピオイドμ受容体を介した新規腹圧性尿失禁薬剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/08 20190101AFI20221115BHJP
   A61P 13/00 20060101ALI20221115BHJP
【FI】
A61K38/08
A61P13/00
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2018229643
(22)【出願日】2018-12-07
(65)【公開番号】P2019104728
(43)【公開日】2019-06-27
【審査請求日】2021-09-06
(31)【優先権主張番号】P 2017235701
(32)【優先日】2017-12-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 1.論文の掲載による公開 Neurourology and Urodynamics(URL:https://onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1002/nau.23518) 上記URL内の次のタイトルの論文『The effect of tramadol on sneeze-induced urethral continence reflex through μ-opioid receptors in the spinal cord in rats.』 公開日:平成30年2月10日 (前記論文は「Neurourology and Urodynamics(June 2018,Volume 37,Issue 5)Pages 1605-1611」の電子版に掲載されてオンライン上で公開され、さらに平成30年7月27日に発行された雑誌版に掲載されて公開)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 学会での発表による公開 学会名:第70回西日本泌尿器科学会総会 公開日:平成30年11月3日 開催日:平成30年11月1~4日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 学会でのポスター掲示による公開 学会名:第70回西日本泌尿器科学会総会 公開日:平成30年11月2~3日 開催日:平成30年11月1~4日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 抄録集の頒布による公開 雑誌名:西日本泌尿器科 西日本泌尿器科学会総会特集号(第80巻増刊号)頒布日:平成30年10月20日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 プログラム・抄録集の頒布による公開 学会名:第24回日本排尿機能学会 頒布日:平成29年9月12日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 学会での発表による公開 学会名:第24回日本排尿機能学会 公開日:平成29年9月29日 開催日:平成29年9月28~30日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 学会でのポスター掲示による公開 学会名:第24回日本排尿機能学会 公開日:平成29年9月28~29日 開催日:平成29年9月28~30日
(73)【特許権者】
【識別番号】504145308
【氏名又は名称】国立大学法人 琉球大学
(74)【代理人】
【識別番号】100152180
【弁理士】
【氏名又は名称】大久保 秀人
(72)【発明者】
【氏名】宮里 実
(72)【発明者】
【氏名】芦刈 明日香
【審査官】福山 則明
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2007/018234(WO,A1)
【文献】ASHIKARI, Asuka et al.,A POTENTIAL NEW TARGET FOR STRESS URINARY INCONTINENCE: A μ-OPIOID RECEPTOR IN THE SPINAL CORD BY TRAMADOL, IN RATS,THE JOURNAL OF UROLOGY,2017年05月15日,Vol. 197, No. 4S, Supplement,pp. e982-e983,PD50-09
【文献】FEBS Letters,1995年,Vol. 357,pp. 93-97
【文献】Neurourology and Urodynamics,2013年,Vol. 32,pp. 98-103
【文献】芦刈 明日香 ほか,腹圧性尿失禁薬物治療の新たなターゲットの可能性:tramadolによるラット脊髄内オピオイドμ受容体と尿道機能との関連,第24回日本排尿機能学会プログラム・抄録集(日本排尿機能学会誌),2017年09月28日,Vol. 28, No. 1,p. 186,G-3
【文献】尾山 達哉,トラマドール塩酸塩の下部尿路機能に関する薬理学的研究,熊本大学学位論文,2012年,pp. 1-63
【文献】薬局,2002年,Vol. 53, No. 8,pp. 2-10 (2136-2144)
【文献】日薬理誌,2003年,Vol. 121,pp. 290-298
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 38/00-38/58
A61K 31/00-31/80
A61K 45/00
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
D-Ala2, NMe-Phe4, Gly-ol5]-enkephalinを有効成分とする腹圧性尿失禁治療薬
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,脊髄オピオイドμ受容体を介した腹圧性尿失禁薬剤に関する。
【背景技術】
【0002】
尿失禁とは,自分の意思とは関係なく尿が漏れてしまい,これにより,社会的・衛生的に支障を生じる疾患として定義される。尿失禁は,切迫性尿失禁,腹圧性尿失禁,機能性尿失禁,反射性尿失禁,溢流性尿失禁,真性尿失禁,及び,それらが混在している混合型尿失禁などが知られている。
これらのうち腹圧性尿失禁(stress urinary incontinence;SUI)は,急に立ち上がった時や重い荷物を持ち上げた時,咳やくしゃみをした時などの腹圧上昇時に尿が漏れてしまう疾患である。
【0003】
腹圧性尿失禁の原因は,主として,尿道過可動(urethral hypermobility;UH),内因性尿道括約筋不全(instrinsic sphincter deficiency;ISD),これらが混在したものに分けられる。
尿道過可動(urethral hypermobility;UH)は,骨盤内臓器を支える骨盤底筋群が緩み(骨盤底弛緩),膀胱頸部が下垂し,腹圧の尿道への伝搬が阻害され尿漏れが生じるものである。
一方,内因性尿道括約筋不全(instrinsic sphincter deficiency;ISD)は,内因性括約筋不全による括約筋機能の低下により,平常時においても尿道が開大し,腹圧上昇などによる軽度の膀胱内圧上昇で尿漏れを生じるものである。
これらのうちISDは,妊娠や経膣出産による骨盤の外傷により生じうるため,腹圧性尿失禁は,女性尿失禁の中で最も多いタイプである。
【0004】
腹圧性尿失禁の治療は,UHの修正である尿道スリング手術がgold standardとなっており,ISDに対する治療方法は確立していないのが現状である。そのため,ISDをターゲットとした治療薬等の研究が行われている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開番号2006/022420パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1には,セロトニン5-HT2c受容体を活性化する物質を有効成分とする腹圧性尿失禁の予防・治療剤に関する技術が開示されている。
しかるに,ガイドライン上,腹圧性尿失禁においては行動療法または外科的治療が第一選択とされており,薬物治療は腹圧性尿失禁の主治療となるとは考えにくいとされている。すなわち,先行技術記載の薬剤をはじめ,腹圧性尿失禁において有用な治療薬が存在しないのが現状である。
【0007】
発明者らは,腹圧性尿失禁の薬剤開発の研究にあたり,tramadolを用いた研究を行ってきた。
tramadolは,鎮痛剤として広く使用され,オピオイドμ受容体を介した作用とセロトニン/ノルアドレナリン再吸収阻害作用を併せ持つ薬剤である。このtramadolが,排尿筋過活動を抑制することを実験的に確認したものの,尿道機能に関する効果は未だ明らかではなかった。
【0008】
上記事情から,本発明は,腹圧性尿失禁の治療薬の開発を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
発明者らは,鋭意研究の結果,脊髄前角細胞にオピオイドμ受容体が存在することを明らかにした。加えて発明者は,オピオイドμ受容体選択的作動薬である[D-Ala2, NMe-Phe4, Gly-ol5]-enkephalin(DAMGO)が,脊髄前角細胞におけるオピオイドμ受容体を介してくしゃみ時の尿道反射圧を上昇させることにより,尿失禁が改善されることを見出し,発明を完成させたものである。
【0010】
本発明は,以下の構成からなる。
本発明の第一の構成は,選択的オピオイドμ受容体作動薬を有効成分とする腹圧性尿失禁治療薬である。
本発明の第二の構成は,前記選択的オピオイドμ受容体作動薬が,[D-Ala2, NMe-Phe4, Gly-ol5]-enkephalinである第一の構成に記載の腹圧性尿失禁治療薬である。
【発明の効果】
【0011】
本発明により,腹圧性尿失禁の治療薬の提供が可能となった。
すなわち,本発明の腹圧性尿失禁治療薬によれば,選択的オピオイドμ受容体作動薬により脊髄オピオイドμ受容体へのアゴニスト作用を介して,尿道反射圧を増加させるものであり,これにより,腹圧性尿失禁を予防ないし治療するものである。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】tramadol投与による,A-URSとUBPへの影響を調べた結果を示した図
図2】tramadol投与において,cyprodimeの投与により,A-URSとUBPへの影響を調べた結果を示した図
図3】tramadol投与によるtiltLPPへの影響を調べた結果を示した図
図4】腹圧性尿失禁モデルにDAMGOを脊髄髄腔内投与し,尿道反射圧を指標として尿失禁に対する治療効果を調べた結果を示した図
図5】腹圧性尿失禁モデルにDAMGOを静脈内投与し,尿道反射圧を指標として尿失禁に対する治療効果を調べた結果を示した図
図6】選択的オピオイドμ受容体作動薬の作用メカニズムを説明した図
図7】ラット脊髄(L6/S1)を薄切した断面を撮影した写真
図8図7の脊髄前角部分を拡大して撮影した写真
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の腹圧性尿失禁治療薬について,説明を行う。
【0014】
本発明の腹圧性尿失禁治療薬は,オピオイドμ受容体作動薬を有効成分とし,腹圧性尿失禁を治療することを特徴とする。
【0015】
本発明において選択的オピオイドμ受容体作動薬とは,オピオイドμ受容体に対してアゴニスト活性を有する化合物であって,他のサブタイプ(オピオイドσ,オピオイドκ)に結合しない,もしくは結合能が極めて低い化合物として定義される。
【0016】
本発明において選択的オピオイドμ受容体作動薬は,かかる性能を有し,かつ,有効性や安全性など薬剤として必要な種々の観点を考慮して選択することができる。このような選択的オピオイドμ受容体作動薬にかかる化合物として,例えば,コデイン,トラマドール,オキシコドン,フェンタニル,メサドン,ダペンタドール,[D-Ala2, NMe-Phe4, Gly-ol5]-enkephalin(DAMGO)などを用いることができる。
本発明の選択的オピオイドμ受容体作動薬として,DAMGOを用いることが好ましい。DAMGOは,選択的オピオイドμ受容体作動薬として古くから知られており,高いオピオイドμ受容体への結合能と選択性を有することから,高い治療効果と安全性が期待できる。
【0017】
本発明の選択的オピオイドμ受容体作動薬は,有効成分により,脊髄前角細胞に存在する脊髄オピオイドμ受容体へのアゴニスト作用を介して,尿道反射圧を増加させ,腹圧性尿失禁を予防ないし治療することをメカニズムとするものである。このメカニズムに鑑み,本発明の選択的オピオイドμ受容体作動薬は,そのままの化学構造で脊髄オピオイドμ受容体へのアゴニスト作用を発揮してもよいし,生体内における代謝等を受けて化合物の構造を変化させ,患部において脊髄オピオイドμ受容体へのアゴニスト作用を発揮する,いわゆるDDS化された化合物とすることもできる。
【0018】
本発明の腹圧性尿失禁治療薬の剤形について,特に限定する必要はなく,種々の剤形を用いることができる。典型的には,錠剤やカプセル剤,散剤などの経口摂取用製剤,注射用製剤,経皮吸収型製剤などの形態をとることもできる。また,剤形や薬物動態など種々の観点から必要性に応じ,賦形剤,基剤,乳化剤,溶剤,安定剤等の添加剤などを用いてもよい。
【実施例
【0019】
<<実験例1.tramadolの薬効メカニズムの検討>>
OAB治療薬として可能性が示唆されているtramadolの薬効メカニズムを明らかにすることを目的に検討を行った。
【0020】
<実験方法>
1.8-12週齢雌性SDラットを使用し,4mLバルーンによる膣急性拡張(3hr)により出産疑似ラット(VDラット)を作製した。合わせて,膀胱排尿反射を予防するために,VDラットの両側骨盤神経の切断を行った。同様に,両側骨盤神経の切断を行ったSDラットを腹圧性尿失禁モデルとして用いた。
2.VDラットならびにSDラットの尿道に,3.5Frマイクロチップカテーテルを挿入し,通常時の尿道反射圧(尿道基線圧,UBP)の測定を行った。また,ひげを利用してくしゃみを誘発し,くしゃみ時の尿道反射圧(A-URS)の測定を行った。
3.合わせて,SDラットならびにVDラット,これらについて,立位リークポイント圧(tiltLPP)の測定を行った。
4.tramadolないしcyprodimeは,麻酔下,脊髄髄腔内もしくは静注により投与を行い,各パラメーターの変化を調べた。
【0021】
<実験結果>
1.図1に,tramadol投与による各パラメーターの変化を示す。
(1) 腹圧性尿失禁モデルにおいて,tramadol投与により,UBPの有意な上昇(42.6→50.9cmH2O)が確認された。これより,tramadolが,交感神経の反応を増強していると考えられた。
(2) 腹圧性尿失禁モデルにおいて,A-URS(43.1→57.4cmH2O)の有意な上昇が確認された。これより,tramadolが,尿禁制反射を増強しているものと考えられた。
(3) VDラットにおいて,tramadol投与により,UBPは有意に上昇したがA-URSの変化は認められなかった。A-URSの上昇が起きなかった原因として,陰部神経が障害されているためと考えられた。
【0022】
2.図2に,tramadol投与において,cyprodimeを髄腔内投与した場合の各パラメーターの変化を示す。なお,cyprodimeについては,予備的検討を行い,内因性のμオピオイド作用を遮断しない範囲で投与量の設定を行った(不図示)。
(1) Cyprodimeの脊髄髄腔投与によりUBPは有意に低下したが,tramadol投与で回復した。
(2) A-URSはcyprodimeの投与により,tramadolによる上昇が抑制された。
(3) これらの結果から,tramadolの尿道反射圧の増強が,脊髄μオピオイド受容体を介した反応であることが明らかとなった。また,脊髄μオピオイド受容体と交感神経とが何らかの関連を有すると考えられた。
【0023】
3.図3に,tramadol投与によるtiltLPPの変化を示す。SDラットならびにVDラット,いずれにおいても,tramadolの投与により,tiltLPPの有意な上昇が確認された。
【0024】
<<実験例2.DAMGOの薬剤効果の確認>>
腹圧性尿失禁モデルにDAMGOを投与し,尿道反射圧を指標として尿失禁に対する治療効果を調べることを目的に実験を行った。
【0025】
<実験方法>
1.腹圧性尿失禁モデルとして,両側骨盤神経の切断を行った8-12週齢雌性SDラットを使用した。
2.このSDラットの尿道に,3.5Frマイクロチップカテーテルを挿入し,通常時の尿道反射圧(尿道基線圧,UBP)の測定を行った。
3.合わせて,ひげを利用してくしゃみを誘発し,くしゃみ時の尿道反射圧(A-URS)の測定を行った。
4.DAMGOは,麻酔下,脊髄髄腔内もしくは静注により投与を行い,UBPとA-URSの変化を調べた。
【0026】
<実験結果>
1.脊髄髄腔内にDAMGO(0.1μg)を投与した結果を図4に示す。
(1) DAMGO投与により,UBP,Pabd,いずれも変化はなかった。
(2) 一方,A-URSについては,58.0cmH2O(投与前)から71.0cmH2O(投与後)と,22%の増加が確認された。
【0027】
2.静脈内にDAMGO(100μg)を投与した結果を図5に示す。
(1) DAMGO投与により,UBPは55.0cmH2O(投与前)から56.4cmH2O(投与後)と,2.4%の増加が確認された。なお,Pabdには変化はなかった。
(2) 一方,A-URSについては,28.0cmH2O(投与前)から37.0cmH2O(投与後)と,32%の増加が確認された。
【0028】
3.これらの結果から,DAMGOの脊髄髄腔内投与ならびに静脈内投与は,通常時の尿道反射圧にはほとんど影響を及ぼさず,くしゃみ時の尿道反射圧を増加させることから,特に,内因性尿道括約筋不全による腹圧性尿失禁に有用と考えられた。
4.このDAMGOの効果は,脊髄オピオイドμ受容体の刺激を介すると考えられる(図6)。
【0029】
<<実験例3.脊髄前角細胞にオピオイドμ受容体が存在することの確認>>
ラット脊髄(L6/S1)前角細胞にオピオイドμ受容体が存在することを確認するため,次の実験を行った。
【0030】
<実験手順>
1.12週齢雌性SDラットを使用し,外尿道括約筋収縮に関与する陰部神経核(オヌフ核)を標識するため,両側陰部神経に,その切断端から,陰部神経核(オヌフ核)を標識するためのトレーサーとしてHRP(Horseradish peroxidase)2μL(1μg/mL)を注入した。
2.ラットを4%パラホルムアルデヒドで灌流固定したのち,脊髄を摘出・凍結包埋し,陰部神経核のあるL6/S1レベルで薄切した。
3.オピオイドμ受容体とHRPを,それぞれ一次抗体(抗μ受容体抗体100倍希釈,抗HRP抗体濃度80μg/mL)で標識した。
4.オピオイドμ受容体とHRPを,それぞれ二次抗体で標識したのち,アルカリフォスファターゼ(赤),ジアミノベンジジン(茶)で着色した。
【0031】
<結果と考察>
1.図7は,ラット脊髄(L6/S1)を薄切した断面(プレパラート標本画像)を撮影した写真(倍率100倍,NanoZoomer-XR バーチャルスライドスキャナ:浜松ホトニクス社製)である。
図7から,一次感覚神経が入力する脊髄後角部分がオピオイドμ受容体染色に染まっており,脊髄後角にオピオイドμ受容体が豊富に存在していることが確認できた。
2.図8は,図7の脊髄前角部分を拡大して撮影した写真(倍率200倍,NanoZoomer-XR バーチャルスライドスキャナ:浜松ホトニクス社製)である。
図8から,HRPが集積した脊髄前角細胞(陰部神経細胞)部分には,オピオイドμ受容体染色に染まる細胞が見られ,その他の運動神経由来の脊髄前角細胞には,オピオイドμ受容体染色に染まる細胞は見られなかった。
3.これらのことから,静脈内・脊髄髄腔内に投与したDAMGOは,L6/S1レベルの脊髄前角細胞(陰部神経細胞)のオピオイドμ受容体に作用して尿失禁を改善することが明らかになった。







図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8