(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-14
(45)【発行日】2022-11-22
(54)【発明の名称】PSA装置用消音器の先端部構造及びPSA装置用消音器
(51)【国際特許分類】
F01N 1/10 20060101AFI20221115BHJP
F01N 13/20 20100101ALI20221115BHJP
【FI】
F01N1/10 E
F01N13/20 Z
(21)【出願番号】P 2018208010
(22)【出願日】2018-11-05
【審査請求日】2021-07-12
(73)【特許権者】
【識別番号】320011650
【氏名又は名称】大陽日酸株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100127845
【氏名又は名称】石川 壽彦
(72)【発明者】
【氏名】大盛 幹士
(72)【発明者】
【氏名】山田 貞弘
【審査官】鷲巣 直哉
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-136134(JP,A)
【文献】特開2003-293726(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0058802(US,A1)
【文献】特開2015-091305(JP,A)
【文献】米国特許第03957133(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01N 1/10
F01N 13/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
PSA装置用消音器の先端部に設けられて、大気放出時の排気音を低減するためのPSA装置用消音器の先端部構造であって、
基端側が開口すると共に該基端側に前記消音器における上流側の消音部と着脱可能に接続できる接続部を有し、先端側が閉塞した有底筒体と、
該有底筒体内に充填された吸音材と、有底筒体における基端側の周面に形成された排気口とを有することを特徴とするPSA装置用消音器の先端部構造。
【請求項2】
前記吸音材は、前記有底筒体に底部に向かって積層された積層吸音材を有することを特徴とする請求項1記載のPSA装置用消音器の先端部構造。
【請求項3】
前記排気口からの排気を水平方向又は上方にガイドするガイド部材を有することを特徴とする請求項1又は2に記載のPSA装置用消音器の先端部構造。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか一項に記載の先端部構造を有することを特徴とするPSA装置用消音器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、PSA装置(Pressure Swing Adsorption)の排気管に設けられて排気音を消音するPSA装置用消音器の先端部構造及び該先端部構造を有するPSA装置用消音器に関する。
【背景技術】
【0002】
空気中の酸素、窒素を分離する装置の一つに、吸着速度、吸着量の差を利用するPSA装置(Pressure Swing Adsorption)がある。PSA装置は、複数の塔を有し、各々の塔が(i)吸着→(ii)均圧→(iii)脱着→(ii)均圧→(i)吸着のサイクルの繰り返しで常に酸素ガス又は窒素ガスを発生させている。
【0003】
特に(iii)脱着サイクルにおいては、吸着塔に充圧された空気を一気に排気する為、非常に大きな排気音が発生する。このため吸着塔の排気ラインには消音器が取り付けられており、この消音器によって排気音を低減しているが、近年作業環境の快適化などの観点から、更なる騒音値の低減を要求されている。
【0004】
ところで、一般的に、装置等からの排ガス放出時の騒音防止のための消音器(サイレンサ)には、その用途に応じて多種多様のものがある。例えば、換気ダクト用サイレンサの構造の例として、特許文献1に開示の「換気ダクト用サイレンサ」がある。
また、自動車の内燃機関の排気系に設置され、排気騒音を低減する消音器として、特許文献2に開示がある。この特許文献2に開示の消音器は、同公報の
図1、
図2に示される様に、排ガスが流れる内管に小孔を有し、その外部に外管を有する構造である。
【0005】
このように、排気ガスの消音という点では共通するが、その用途によって種々のものがあり、上記の2例は、排ガスの流れ方向に直線的な筒体からなり、端部がそのまま開口するような形状であり、多量の排ガスを運転タイミングによって間欠的に勢いよく排気するPSA装置からの排ガスの消音には必ずしも適切なものではない。
【0006】
PSA装置の消音器として、例えば
図7に示すように、消音部41の先端に曲がり管43を設けた吸音ダクト式消音器45が知られている。この曲がり管43は、消音部41の下流側の先端に接続されるものであり、略90°屈曲して、先端部が開口している。そして、先端部は、消音器内に雨水が入らない様に、下向きに開放されている。
図7に示す従来の吸音ダクト式消音器45の先端部構造は、曲がり管43を有するものの、排ガスは、配管軸方向に放出されるため、排ガスの有する運動エネルギーによって生じる大きな騒音の発生は回避できなかった。
【0007】
そこで、間欠的に勢いよく排出されるPSA装置の排ガスの消音対策に特化したものとして、特許文献3には「PSA法によるガス分離装置の排気消音器」が開示されている。この特許文献3に開示のものは、PSA装置本体が設置される架体を空洞行動とし、間欠的に発生する排ガスを、前記架体内に導入することで、運転時の騒音の低減を図るというものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特許第5713957号公報
【文献】特開2017-160870号公報
【文献】特開平11-57374号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
確かに、特許文献3に開示のものは、PSA装置に特化したものであり、消音効果は期待できる。しかしながら、特許文献3のものは、大掛かりな構造であるため、新設時には設置可能であるが、既設装置の改造に適用するには困難が伴う。
また、架台の内部が排気路となっていることから、メンテナンスにも困難が伴う。
【0010】
本発明はかかる課題を解決するためになされたものであり、PSA装置の排気のように間欠的に多量の排ガスが勢いよく排気されるものにおいて、既設の装置にも適用可能で、かつメンテナンスも容易でありながら、消音効果の高いPSA装置用消音器の先端部構造、及び該先端部構造を有するPSA装置用消音器を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
(1)本発明に係るPSA装置用消音器の先端部構造は、PSA装置用消音器の先端部に設けられて、大気放出時の排気音を低減するためのものであって、
基端側が開口すると共に該基端側に前記消音器における上流側の消音部と着脱可能に接続できる接続部を有し、先端側が閉塞した有底筒体と、
該有底筒体内に充填された吸音材と、有底筒体における基端側の周面に形成された排気口とを有することを特徴とするものである。
【0012】
(2)また、上記(1)に記載のものにおいて、前記吸音材は、前記有底筒体に底部に向かって積層された積層吸音材を有することを特徴とするものである。
【0013】
(3)また、上記(1)又は(2)に記載のものにおいて、前記排気口からの排気を水平方向又は上方にガイドするガイド部材を有することを特徴とするものである。
【0014】
(4)また、本発明に係るPSA装置用消音器は、上記(1)乃至(3)のいずれかに記載の先端部構造を有することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係るPSA装置用消音器の先端部構造は、PSA装置用消音器の先端部に設けられて、大気放出時の排気音を低減するためのものであって、基端側が開口すると共に該基端側に前記消音器における上流側の消音部と着脱可能に接続できる接続部を有し、先端側が閉塞した有底筒体と、該有底筒体内に充填された吸音材と、有底筒体における基端側の周面に形成された排気口とを有することにより、間欠的に勢いよく排出される排気の運動エネルギーを吸音材によって効果的に減衰することで、排気音を効果的に低減することができる。また、上流側の消音部と着脱可能に接続できる接続部を有していることから、既設の消音器に適用する場合にも、簡易的な改造を行うだけで済むので好適である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本実施の形態に係るPSA装置用消音器の外観を斜め下方から見た状態を示す図である。
【
図2】
図1に示したPSA装置用消音器の内部構造の説明図である。
【
図3】PSA装置用消音器の構成要素である第1消音部の上端の構造の説明図である。
【
図4】
図1に示したPSA装置用消音器の先端部構造の内部の拡大図である。
【
図5】
図4に示した先端部構造の外観の説明図である。
【
図6】
図1に示したPSA装置用消音器の先端部構造の基端側の内部の構造の説明図である。
【
図7】従来のPSA装置用消音器の先端部の構造の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本実施の形態に係るPSA装置用消音器1は、PSA装置からの排気ガスを排気する排気管3に設けられて、大気放出時の排気音を低減するためのものであって、
図1に示すように、排気管3に接続されて第1の消音部となる第1消音部5(図中A部)と、第1消音部5の先端に接続されて第2の消音部となる先端部構造7(図中B部)とを有するものである。
以下、各構成部分について詳細に説明する。
【0018】
<第1消音部>
第1消音部5は、
図2に示すように、排気管3と下部フランジ9によって接続される筒状の内管11と、内管11を覆うように設けられた外筒管13とを備えている。
内管11は、周面に複数の小孔15を有すると共に先端部は開口している。なお、
図2において小孔15は内管11の周面の一部に記載しているが、これは図面が煩雑になるのを防止するために記載を省略したものであり、実際には小孔15は内管11の全周面に設けられている。
【0019】
内管11の上端は、
図2、
図3に示すように、上部フランジ17よりも上方に突出している。これは、後述するように、内管11の先端部を先端部構造7内に挿入するためである。
外筒管13の内周面には吸音材19が配設されており、吸音材19と内管11との間には隙間が設けられていない。
【0020】
<先端部構造>
先端部構造7は、
図4、
図5に示すように、基端側が開口すると共に該基端側に第1消音部5と着脱可能に接続できる接続部21を有し、先端側が閉塞した有底筒体23と、有底筒体23内に充填された吸音材29と、有底筒体23における基端側の周面に形成された排気口25とを有している。
【0021】
接続部21は、外筒管13の上部フランジ17にボルト接合によって外筒管13と着脱可能になっている(
図5参照)。
有底筒体23は、先端部が閉塞した円筒体であり、その基端側の周面には、排気口25が設けられている。排気口25には、
図5に示すように、網体27が設けられている。
【0022】
有底筒体23内には、吸音材29が配設されている。この吸音材29は、有底筒体23の内周面(排気口25の部分を含む)を覆うように配設された円筒状の円筒吸音材29aと、円筒吸音材29aの内側に有底筒体23の底部(先端部)に向かって積層するように配設された積層吸音材29bを備えている。
積層吸音材29bは、
図4に示すように、有底筒体23の基端から少し上方にずれた位置から上端に向かって積層されているので、基端側には、円形の凹陥部31が形成されている(
図6参照)。
【0023】
前述したように、第1消音部5の内管11の上端は上方に突出しており(
図3参照)、先端部構造7を第1消音部5に接続した状態では、内管11の先端が先端部構造7側に突出するように配置される。このため、内管11の先端は、
図4に示すように、円筒吸音材29aに囲まれた凹陥部31に挿入されることになる。内管11の先端を突出させた理由は、屋外の雨や雪が内部の排ガスの経路に入り込まないようにするためである。
【0024】
上記のように構成された本実施の形態のPSA装置用消音器1の作用効果について説明する。
排気管3から排出された排気が第1消音部5を通過して先端部構造7に至る。
先端部構造7の内部は、吸音材29が配設された有底筒体23によって、先端が行き止まりとなっているため、排気は先端側に向かって排出されるが、行き止まりになることでその向きを変えて、側方の排気口25から排気されることになる。
すなわち、排気は有底筒体23内において、積層吸音材29bに衝突し、この衝突によって、吸音材29が変形して排ガスの運動エネルギーが低減し、さらに向きを変えて排気口25から排気される。
排気が積層吸音材29bに衝突する際の音は、積層吸音材29bの周囲に配設されている円筒吸音材29aによって吸音される。
【0025】
なお、吸音材29は、排ガスによって鉛直上部方向に押し上げられるため、経年によって、押し上げられた吸音材29が圧縮されて気体に対する抵抗が増加することが考えられるが、排気は側方の排気口25から排出されるので、吸音材29の圧縮によって排気抵抗が増すことはなく、長期間使用してもPSA装置の排気不良が発生しにくく性能低下は生じない。
【0026】
以上のように、本実施の形態の先端部構造7を有するPSA装置用消音器1によれば、間欠的に勢いよく排出される排気の運動エネルギーを先端部構造7によって効果的に減衰することで、排気音を効果的に低減することができる。
また、本実施の形態の先端部構造7は、その上流側の第1消音部5に対して着脱可能に設けられているので、仮に第1消音部5の先端が
図7に示すような曲がり管43のものであれば、曲がり管43に代えて先端部構造7を取り付けることが可能であり、既設のPSA装置の消音器の改造に簡単に適用することができる。
【0027】
また、上記の例では、先端部構造7の内部に、積層吸音材29bと、この回りを囲むように設けられた円筒吸音材29aを有する例を示した。
しかし、放出される排ガス量に対して消音器出口構造の口径が比較的大きい場合、円筒吸音材29aを設置しなくても、騒音低減の効果を得ることが出来る。
【0028】
また、本実施の形態の先端部構造7において、吸音材29は、それ自身が変形することで、排ガスが有するエネルギーを低減することを目的として設置されているので、吸音材29は一般的な吸音材の他に断熱材等を本発明の吸音材29として利用することもできる。
【0029】
また、上記の例では、先端部構造7における有底筒体23は円筒形のものを示したが、本発明の有底筒体23は円筒形のものに限られず、例えば、断面が三角形、四角形、多角形等でもよい。
【0030】
上述したように、実施の形態の先端部構造7においては、排気は行き止まりになった先端から向きを変えて側方の排気口25から排気される。このため、排気口25からの排気の向きは必ずしも水平方向ではなく、斜め下方に向かうものもある。しかし、排気口25の下方には上部フランジ17が張り出しているため、この上部フランジ17によって真下に向かう排気はその向きが水平方向に変えられるので、真下に排気されることはない。
【0031】
もっとも、排気口25の下方は作業者が作業するスペースにもなっていることから、より作業者に対する騒音低減の観点から、排気口25からの排気の向きを水平方向、あるいは上方(斜め上方、真上を含む)にガイドするようなガイド部材を設けるようにしてもよい。
このようなガイド部材としては、例えば上部フランジ17の上面に上部フランジ17よりもさらに外方に張り出すように配設した円形板や、排気口25の下端を囲んで斜め上方に張り出すように配設したメガホン状の部材等が考えられる。
また、上部フランジ17の外径を大きく設定することで、同様の効果を奏することもでき、この場合には、上部フランジがガイド部材として機能する。
【0032】
ガイド部材を設けることで、排気口25からの排気の向きを水平方向あるいは上方にガイドすることができ、排気が装置周囲にいる作業者や他の装置等へ当ることを防止でき、地上における最大騒音値を低減することができる。
【実施例】
【0033】
消音器の先端部を、
図7に示すような、曲がり管43にしたものと、本発明の先端部構造7にしたものとの消音効果の比較を行ったので、これについて以下説明する。
図7に示した従来の出口構造の場合、排気は1か所から1方向に一気に放出させ、圧力0.35MPaの排ガスを圧力0.1MPaまで約3秒放出させたとき、計測点(地上高さ:1.5m、消音器出口距離:1.5m)における最大騒音値は96dB(A)であった。
一方、同一条件で、本発明の先端部構造7を有する消音器の場合、計測点(地上高さ:1.5m、消音器出口距離:1.5m)における最大騒音値は91dB(A)であり、
図7のものと比較して約5dBの騒音値低減を達成した。
以上から、本発明の先端部構造7には高い消音効果があることが実証された。
【符号の説明】
【0034】
1 PSA装置用消音器
3 排気管
5 第1消音部
7 先端部構造
9 下部フランジ
11 内管
13 外筒管
15 小孔
17 上部フランジ
19 吸音材(外筒管)
21 接続部
23 有底筒体
25 排気口
27 網体
29 吸音材(有底筒体)
29a 円筒吸音材
29b 積層吸音材
31 凹陥部
<従来例>
41 消音部
43 曲がり管
45 吸音ダクト式消音器