(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-14
(45)【発行日】2022-11-22
(54)【発明の名称】ポリエーテル変性シロキサン、塗料添加剤、塗料組成物、コーティング剤、コーティング層、及びポリエーテル変性シロキサンの製造方法
(51)【国際特許分類】
C08G 81/00 20060101AFI20221115BHJP
C09D 201/00 20060101ALI20221115BHJP
C09D 133/00 20060101ALI20221115BHJP
C09D 163/00 20060101ALI20221115BHJP
C09D 175/04 20060101ALI20221115BHJP
C09D 5/16 20060101ALI20221115BHJP
C09D 7/65 20180101ALI20221115BHJP
C09K 3/00 20060101ALI20221115BHJP
C08G 65/336 20060101ALI20221115BHJP
C08G 77/46 20060101ALI20221115BHJP
【FI】
C08G81/00
C09D201/00
C09D133/00
C09D163/00
C09D175/04
C09D5/16
C09D7/65
C09K3/00 R
C09K3/00 112F
C08G65/336
C08G77/46
(21)【出願番号】P 2019206973
(22)【出願日】2019-11-15
【審査請求日】2021-12-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(74)【代理人】
【識別番号】100194881
【氏名又は名称】小林 俊弘
(72)【発明者】
【氏名】後藤 智幸
【審査官】岡部 佐知子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/045831(WO,A1)
【文献】特表2018-535081(JP,A)
【文献】特表2010-532413(JP,A)
【文献】特開2016-053107(JP,A)
【文献】特開2017-088808(JP,A)
【文献】特開2018-080275(JP,A)
【文献】特開2010-013591(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 81/00
C09D 201/00
C09D 133/00
C09D 163/00
C09D 175/04
C09D 5/16
C09D 7/65
C09K 3/00
C08G 65/336
C08G 77/46
C08K 3/00-13/08
C08L 1/00-101/16
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均組成式(1)
(R
3SiO
1/2)
a(R
2R’SiO
1/2)
a’(R
2SiO
2/2)
b(RR’SiO
2/2)
b’(RSiO
3/2)
c(SiO
4/2)
d (1)
で表されるものであることを特徴とするポリエーテル変性シロキサン。
(上記式(1)中、Rは、それぞれ独立であり、互いに同一でも異なっても良く、水素原子、水酸基、炭素数が1~18の一価炭化水素基、又は炭素数が1~10のアルコキシ基であり、
全Rのうち、98%以上が炭素数が1~12のアルキル基であり、R’は、それぞれ独立であり、互いに同一でも異なっても良く、-C
qH
2q-O-(C
2H
4O)
e(C
3H
6O)
f-R
1で表される基から選択される有機基であり、R
1は、それぞれ独立であり、互いに同一でも異なっても良く、水素原子、炭素数が1~30の炭化水素基又はR
6-(CO)-で示される有機基であり、R
6は炭素数が1~30の炭化水素基である。また、a、a’、b、b’、c、dはそれぞれ0≦a≦15、0≦a’≦15、5≦b≦1000、0≦b’≦50、1≦c≦10、0≦d≦5、かつ2≦a’+b’≦50であり、eおよびfはそれぞれ2≦e≦200、0≦f≦200、qは2≦q≦10であって、かつ2≦e+f≦200である。)
【請求項2】
前記式(1)中のRがメトキシ基及びエトキシ基を含まないものであることを特徴とする請求項1に記載のポリエーテル変性シロキサン。
【請求項3】
前記式(1)において、d=0のものであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のポリエーテル変性シロキサン。
【請求項4】
ポリスチレン換算のゲル浸透クロマトグラフィー測定において、分散度(Mw/Mn)が1.70~2.70のものであることを特徴とする請求項1~請求項3のいずれか1項に記載のポリエーテル変性シロキサン。
【請求項5】
前記式(1)中のRがメチル基またはエチル基であることを特徴とする請求項1~請求項4のいずれか1項に記載のポリエーテル変性シロキサン。
【請求項6】
請求項1~請求項
5のいずれか1項に記載のポリエーテル変性シロキサンを含むものであることを特徴とする塗料添加剤。
【請求項7】
請求項
6に記載の塗料添加剤を含むものであることを特徴とする塗料組成物。
【請求項8】
ウレタン樹脂、アクリル樹脂、アミド樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、アルキド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアルキレン樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリ酢酸ビニルならびに上記樹脂のアロイからなる群から選択される樹脂を含むものであることを特徴とする請求項
7に記載の塗料組成物。
【請求項9】
前記樹脂が、ウレタン樹脂、アクリル樹脂あるいはエポキシ樹脂であることを特徴とする請求項
8に記載の塗料組成物。
【請求項10】
防汚塗料用のものであることを特徴とする請求項
7~請求項
9のいずれか1項に記載の塗料組成物。
【請求項11】
請求項
7~請求項
10のいずれか1項に記載の塗料組成物を含むものであることを特徴とするコーティング剤。
【請求項12】
請求項
11に記載のコーティング剤から形成されたものであることを特徴とするコーティング層。
【請求項13】
下記工程(I)及び(II)を備えることを特徴とする、平均組成式(1)
(R
3SiO
1/2)
a(R
2R’SiO
1/2)
a’(R
2SiO
2/2)
b(RR’SiO
2/2)
b’(RSiO
3/2)
c(SiO
4/2)
d (1)
(上記式(1)中、Rは、それぞれ独立であり、互いに同一でも異なっても良く、水素原子、水酸基、炭素数が1~18の一価炭化水素基、又は炭素数が1~10のアルコキシ基であり、
全Rのうち、98%以上が炭素数が1~12のアルキル基であり、R’は、それぞれ独立であり、互いに同一でも異なっても良く、-C
qH
2q-O-(C
2H
4O)
e(C
3H
6O)
f-R
1で表される基から選択される有機基であり、R
1は、それぞれ独立であり、互いに同一でも異なっても良く、水素原子、炭素数1~30の炭化水素基又はR
6-(CO)-で示される有機基であり、R
6は炭素数が1~30の炭化水素基である。また、a、a’、b、b’、c、dはそれぞれ0≦a≦15、0≦a’≦15、5≦b≦1000、0≦b’≦50、1≦c≦10、0≦d≦5、かつ2≦a’+b’≦50であり、eおよびfはそれぞれ2≦e≦200、0≦f≦200、qは2≦q≦10であって、かつ2≦e+f≦200である。)
で表されるポリエーテル変性シロキサンの製造方法:
工程(I)は:
平均組成式(2)
(R”
3SiO
1/2)
g(R”
2SiO
2/2)
h(R”SiO
3/2)
i(SiO
4/2)
j (2)
(上記式(2)中、R”は、それぞれ独立であり、互いに同一でも異なっても良く、
炭素数が1~12のアルキル基であって、0≦g≦10、0≦h≦100、1≦i≦30、0≦j≦8である。)
で示される化合物と、
平均組成式(3)
(R”
2SiO
2/2)
k(R”HSiO
2/2)
l (3)
で示される化合物及び/又は
平均組成式(4)
(R”
3SiO
1/2)
m(R”
2HSiO
1/2)
n(R”
2SiO
2/2)
o(R”HSiO
2/2)
p (4)
で示される化合物
(上記式(3)及び(4)中、R”は前記の通りであり、0≦k≦6、0≦l≦6、0≦m≦2、0≦n≦2、0≦o≦500、0≦p≦100であって、かつ3≦k+l≦8、n+m=2、0≦o+p≦500である。)
とを用いて、
平均組成式(5)
(R”
3SiO
1/2)
a(R”
2HSiO
1/2)
a’(R”
2SiO
2/2)
b(R”HSiO
2/2)
b’(R”SiO
3/2)
c(SiO
4/2)
d (5)
(上記式(5)中、R”、a,a’,b,b’,c,dは前記と同様である。)
で示される化合物を合成する工程であり、
工程(II)は:
前記式(5)の化合物と、
平均組成式(6)
CH
2=CX-C
rH
2r-O-(C
2H
4O)
e(C
3H
6O)
f-R
1 (6)
(上記式(6)中、R
1、e及びfは前記の通りである。Xは水素原子もしくは炭素数が1~5の一価炭化水素基であって、0≦r≦8である。)
で示される化合物と
を反応させる工程である。
【請求項14】
前記工程(II)において、前記式(5)で示される化合物と、前記式(6)で示される化合物との比を、[前記式(6)成分中のアルケニル基のモル数]/[前記式(5)成分中のSi-H基のモル数]で1.00~2.00とすることを特徴とする請求項
13に記載のポリエーテル変性シロキサンの製造方法。
【請求項15】
前記式(1)中のRがメチル基またはエチル基であり、前記式(2)~(5)中のR”がメチル基またはエチル基であることを特徴とする請求項13又は請求項14に記載のポリエーテル変性シロキサンの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なポリエーテル変性シロキサン(シロキサン分岐型ポリエーテル変性シリコーン)および該ポリエーテル変性シロキサンを含む塗料添加剤に関する。また、該塗料添加剤を含んだ塗料組成物、コーティング剤及びコーティング層に関し、更に詳述すると、汚れ防止性能をもった塗料組成物、コーティング剤及びコーティング層に関する。さらに、本発明は、ポリエーテル変性シロキサンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年では、携帯電話、パソコン、テレビ、プラズマディスプレイ等の電化製品、自動車、電車等の輸送機器、また各種日常品に至るまで、様々な用途において汚れの防止を目的として塗料によるコーティングがなされている。
【0003】
汚れ防止性に優れた塗料としては、一般的に分子中にフッ素を含む添加剤を用いた組成物(特許文献1)が知られているが、材料が高価である上に、環境問題の観点からフッ素不含有の添加剤が求められている。
【0004】
フッ素不含有の塗料添加剤としては、ポリエーテル変性シリコーンが表面のレベリング性や消泡性等を目的に、塗料添加剤として広く用いられている(特許文献2)。しかしながら、優れた汚れ防止性能を付与するポリエーテル変性シリコーンは知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2018-070683号公報
【文献】特開2013-166830号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、環境負荷が少なく、優れた防汚性能を付与する新規なポリエーテル変性シロキサン、塗料添加剤、塗料組成物、コーティング剤、及びコーティング層を提供することを目的とする。また、本発明は、環境負荷が少なく、優れた防汚性能を付与する新規なポリエーテル変性シロキサンの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を達成するために、本発明では、平均組成式(1)
(R3SiO1/2)a(R2R’SiO1/2)a’(R2SiO2/2)b(RR’SiO2/2)b’(RSiO3/2)c(SiO4/2)d (1)
で表されるものであることを特徴とするポリエーテル変性シロキサンを提供する。
(上記式(1)中、Rは、それぞれ独立であり、互いに同一でも異なっても良く、水素原子、水酸基、炭素数が1~18の一価炭化水素基、又は炭素数が1~10のアルコキシ基であり、R’は、それぞれ独立であり、互いに同一でも異なっても良く、-CqH2q-O-(C2H4O)e(C3H6O)f-R1で表される基から選択される有機基であり、R1は、それぞれ独立であり、互いに同一でも異なっても良く、水素原子、炭素数が1~30の炭化水素基又はR6-(CO)-で示される有機基であり、R6は炭素数が1~30の炭化水素基である。また、a、a’、b、b’、c、dはそれぞれ0≦a≦15、0≦a’≦15、5≦b≦1000、0≦b’≦50、1≦c≦10、0≦d≦5、かつ2≦a’+b’≦50であり、eおよびfはそれぞれ2≦e≦200、0≦f≦200、qは2≦q≦10であって、かつ2≦e+f≦200である。)
【0008】
このようなポリエーテル変性シロキサンは、環境負荷が少なく、優れた防汚性能を付与することができる。
【0009】
式(1)中のRがメトキシ基及びエトキシ基を含まないことが好ましい。
【0010】
このようなものであれば、より優れた経時安定性を付与することができる。
【0011】
式(1)において、d=0であることが好ましい。
【0012】
このようなポリエーテル変性シロキサンは、塗料組成物にした際、優れた相溶性を付与することができる。
【0013】
ポリエーテル変性シロキサンは、ポリスチレン換算のゲル浸透クロマトグラフィー測定において、分散度(Mw/Mn)が1.70~2.70であることが好ましい。
【0014】
このようなポリエーテル変性シロキサンは、より優れた防汚性能を付与することができる。また、このようなポリエーテル変性シロキサンは、好ましい相溶性を有し、高い合成容易性を示すことができる。
【0015】
また、本発明では、上記のポリエーテル変性シロキサンを含むものである塗料添加剤を提供する。
【0016】
このようなものであれば、環境負荷が少なく、優れた防汚性能を付与する塗料添加剤とすることができる。
【0017】
また、本発明では、上記の塗料添加剤を含むものである塗料組成物を提供する。
【0018】
このようなものであれば、環境負荷が少なく、優れた防汚性能を付与する塗料添加剤を含む塗料組成物とすることができる。
【0019】
また、本発明の塗料組成物は、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、アミド樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、アルキド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアルキレン樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリ酢酸ビニルならびに上記樹脂のアロイからなる群から選択される樹脂を含むものであることが好ましい。
【0020】
本発明の塗料組成物には、このように種々の樹脂を適用することができる。
【0021】
このとき、前記樹脂が、ウレタン樹脂、アクリル樹脂あるいはエポキシ樹脂であることが好ましい。
【0022】
これらの樹脂は、上記のポリエーテル変性シロキサンを含む塗料添加剤と相溶性が良いため好ましい。
【0023】
本発明の塗料組成物は、防汚塗料用とすることが好ましい。
【0024】
本発明の塗料組成物は、消泡性やレベリング性等の種々の塗料性能を損なうことなく、良好な防汚性を発揮することができる。
【0025】
また、本発明では、上記の塗料組成物を含むコーティング剤を提供する。
【0026】
本発明のコーティング剤は、消泡性やレベリング性等の種々の塗料性能を損なうことなく、良好な防汚性を発揮することができる。
【0027】
また、本発明では、上記のコーティング剤から形成されたコーティング層を提供する。
【0028】
本発明のコーティング層は、種々の基材に適用することができ、良好な防汚性を発揮することができる。
【0029】
また、本発明では、下記工程(I)及び(II)を備えることを特徴とする、平均組成式(1)(R3SiO1/2)a(R2R’SiO1/2)a’(R2SiO2/2)b(RR’SiO2/2)b’(RSiO3/2)c(SiO4/2)dで表されるポリエーテル変性シロキサンの製造方法を提供する。
上記式(1)中、R、R’、a、a’、b、b’、c、dは前記の通りである。
工程(I)は:
平均組成式(2)(R”3SiO1/2)g(R”2SiO2/2)h(R”SiO3/2)i(SiO4/2)j(上記式(2)中、R”は、それぞれ独立であり、互いに同一でも異なっても良く、水酸基、又は炭素数1~18の一価炭化水素基であって、0≦g≦10、0≦h≦100、1≦i≦30、0≦j≦8である)で示される化合物と、
平均組成式(3)(R”2SiO2/2)k(R”HSiO2/2)lで示される化合物及び/又は平均組成式(4)(R”3SiO1/2)m(R”2HSiO1/2)n(R”2SiO2/2)o(R”HSiO2/2)pで示される化合物(上記式(3)及び(4)中、R”は前記の通りであり、0≦k≦6、0≦l≦6、0≦m≦2、0≦n≦2、0≦o≦500、0≦p≦100であって、かつ3≦k+l≦8、n+m=2、0≦o+p≦500である。)とを用いて、
平均組成式(R”3SiO1/2)a(R”2HSiO1/2)a’(R”2SiO2/2)b(R”HSiO2/2)b’(R”SiO3/2)c(SiO4/2)d(上記式(5)中、R”、a,a’,b,b’,c,dは前記と同様である。)
で示される化合物を合成する工程であり、
工程(II)は:
上記式(5)の化合物と
平均組成式(6)CH2=CX-CrH2r-O-(C2H4O)e(C3H6O)f-R1(上記式(6)中、R1、e、fは前記の通りである。Xは水素原子もしくは炭素数が1~5の一価炭化水素基であって、0≦r≦8である。)で示される化合物と
を反応させる工程である。
【0030】
このようなポリエーテル変性シロキサンの製造方法は、環境負荷が少なく、優れた防汚性能を付与することができるポリエーテル変性シロキサンを製造できる。
【0031】
本発明のポリエーテル変性シロキサンの製造方法では、工程(II)において、式(5)で示される化合物と、式(6)で示される化合物との比を、[式(6)成分中のアルケニル基のモル数]/[式(5)成分中のSi-H基のモル数]で1.00~2.00とすることが好ましい。
【0032】
このような製造方法では、付加反応が進行しやすく、環境負荷が少なく、優れた防汚性能を付与する本発明のポリエーテル変性シロキサンを容易に製造することができる。また、SiHが多く残存する事が無い為、経時で多量の水素ガスが発生する心配もない。
【発明の効果】
【0033】
本発明のポリエーテル変性シロキサンは、環境負荷が少なく、優れた防汚性能を提供できる。また、本発明のポリエーテル変性シロキサンを含む塗料添加剤は、塗料組成物ならびにコーティング剤として有用である。さらに、本発明の塗料添加剤から形成されたコーティング層は、環境負荷が少なく、優れた防汚性能を発揮できる。そして、本発明のポリエーテル変性シロキサンの製造方法は、環境負荷が少なく、優れた防汚性能を付与することができるポリエーテル変性シロキサンを簡単に製造できる。
【発明を実施するための形態】
【0034】
上述のように、環境負荷が少なく、優れた防汚性能を付与する塗料添加剤ならびに塗料組成物の開発が求められていた。
【0035】
本発明者は、上記目的を達成するため鋭意検討を行った結果、新たに合成した特定の構造を有するポリエーテル変性シロキサンが優れた防汚性能を塗料に付与する事を見出し、本発明を完成した。
【0036】
即ち、本発明は、平均組成式(1)
(R3SiO1/2)a(R2R’SiO1/2)a’(R2SiO2/2)b(RR’SiO2/2)b’(RSiO3/2)c(SiO4/2)d (1)
で表されるものであることを特徴とするポリエーテル変性シロキサンである。
(上記式(1)中、Rは、それぞれ独立であり、互いに同一でも異なっても良く、水素原子、水酸基、炭素数が1~18の一価炭化水素基、又は炭素数が1~10のアルコキシ基であり、R’は、それぞれ独立であり、互いに同一でも異なっても良く、-CqH2q-O-(C2H4O)e(C3H6O)f-R1で表される基から選択される有機基であり、R1は、それぞれ独立であり、互いに同一でも異なっても良く、水素原子、炭素数が1~30の炭化水素基又はR6-(CO)-で示される有機基であり、R6は炭素数が1~30の炭化水素基である。また、a、a’、b、b’、c、dはそれぞれ0≦a≦15、0≦a’≦15、5≦b≦1000、0≦b’≦50、1≦c≦10、0≦d≦5、かつ2≦a’+b’≦50であり、eおよびfはそれぞれ2≦e≦200、0≦f≦200、qは2≦q≦10であって、かつ2≦e+f≦200である。)
【0037】
以下、本発明について更に詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0038】
<ポリエーテル変性シロキサン>
本発明のポリエーテル変性シロキサン(シロキサン分岐型ポリエーテル変性シリコーン)は、平均組成式(1)(R3SiO1/2)a(R2R’SiO1/2)a’(R2SiO2/2)b(RR’SiO2/2)b’(RSiO3/2)c(SiO4/2)dで表される。
【0039】
上記式(1)中、Rは、それぞれ独立であり、互いに同一でも異なっても良く、水素原子、水酸基、炭素数が1~18の一価炭化水素基、炭素数が1~10のアルコキシ基である。炭素数が1~18の一価炭化水素基の例としては、アルキル基、アリール基及びアラルキル基を挙げることができ、好ましい例は炭素数が1~12のアルキル基、アリール基及びアラルキル基であり、特に好ましい例はメチル基、エチル基、プロピル基、ヘキシル基、オクチル基、ドデシル基及びフェニル基であり、メチル基、エチル基又はフェニル基である事が最も好ましい。炭素数が1~10のアルコキシ基としては、直鎖状、分岐状又は環状の脂肪族アルコキシ基や、置換又は非置換の芳香族アルコキシ基(アリールオキシ基)が挙げられるが、プロポキシ基、イソプロポキシ基が好ましく、特に経時安定性の面からメトキシ基やエトキシ基が含まれない事が好ましい。すなわち、式(1)中のRがメトキシ基及びエトキシ基を含まないものであることが特に好ましい。また、式(1)中の全Rのうち、98%以上が炭素数が1~18の一価炭化水素基である事が好ましく、99%以上が炭素数が1~18の一価炭化水素基である事が特に好ましく、99.5%以上が炭素数が1~18の一価炭化水素基である事が最も好ましい。
【0040】
上記式(1)中、R’は、それぞれ独立であり、互いに同一でも異なっても良く、-CqH2q-O-(C2H4O)e(C3H6O)f-R1で表される基から選択される有機基である。R1は、それぞれ独立であり、互いに同一でも異なっても良く、水素原子、炭素数が1~30の炭化水素基、又はR6-(CO)-で示される有機基である。炭素数が1~30の炭化水素基としては、入手のし易さから炭素数が1~10の炭化水素基が好ましい。R6は、入手のし易さから炭素数が1~10の炭化水素基であることが好ましい。e、f及びqは、2≦e≦200、0≦f≦200、qは2≦q≦10であり、2≦e+f≦200である。入手のし易さから、好ましくは2≦e≦50、0≦f≦50、qは2≦q≦5であり、かつe及びfは、3≦e+f≦100を満たす整数であり、e>fである事が好ましい。e+fが2よりも小さいと、防汚性が低下する。また、e+fが200よりも大きいと合成が難しくなる。e>fであると、より優れた防汚性を発揮できる。尚、R’基が、エチレンオキサイド単位とプロピレンオキサイド単位の両方を含む場合には、これら両単位はブロック重合体を構成しても良いし、ランダム重合体を構成しても良い。
【0041】
a、a’、b、b’、c、dは、それぞれ0≦a≦15、0≦a’≦15、5≦b≦1000、0≦b’≦50、1≦c≦10、0≦d≦5、かつ2≦a’+b’≦50である。a、a’、b及びb’が上記範囲を外れると、塗料組成物にした際の特性(防汚性、相溶性、消泡性、レベリング性)が不安的になる。cが10を越えると消泡性が低下し、1未満だと防汚性が低下する。dが上記範囲より多くなると塗料組成物にした際の相溶性が低下する。好ましくは1≦c≦8、d=0、特に好ましくは1≦c≦6である。
【0042】
式(1)で表されるポリエーテル変性シロキサン(シロキサン分岐型ポリエーテル変性シリコーン)は、ポリスチレン換算のゲル浸透クロマトグラフィー測定において、分散度(Mw/Mn)が1.70~2.70である事が好ましく、特に好ましくは1.80~2.60であり、更に好ましくは1.85~2.50である。分散度が1.70~2.70であると、より優れた防汚性を付与することができる。また、分散度が1.70~2.70であるポリエーテル変性シロキサンは、高い合成容易性を示すことができる。
【0043】
更に、式(1)で表されるポリエーテル変性シロキサン(シロキサン分岐型ポリエーテル変性シリコーン)のGPCにおけるポリスチレン換算の重量平均分子量は1000~100,000であり、好ましく2,000~80,000であり、特に好ましくは4,000~40,000である。重量平均分子量が1000~100,000であるポリエーテル変性シロキサンは、より優れた防汚性を付与することができる。また、重量平均分子量が1000~100,000であるポリエーテル変性シロキサンは、取り扱いに適した粘度を示すことができ、樹脂との相溶性の問題を防ぐことができる。
【0044】
以上に説明したポリエーテル変性シロキサンは、環境負荷が少なく、優れた防汚性能を付与することができる。
【0045】
<ポリエーテル変性シロキサンの製造方法>
また、本発明は式(1)で表されるポリエーテル変性シロキサン(シロキサン分岐型ポリエーテル変性シリコーン)の製造方法に関する。
【0046】
式(1)のポリエーテル変性シロキサンの製造方法は、下記工程(I)及び(II)を備えることを特徴とする。
【0047】
工程(I)は:
平均組成式(2)(R”3SiO1/2)g(R”2SiO2/2)h(R”SiO3/2)i(SiO4/2)j(上記式(2)中、R”は、それぞれ独立であり、互いに同一でも異なっても良く、水酸基、又は炭素数が1~18の一価炭化水素基であって、0≦g≦10、0≦h≦100、1≦i≦30、0≦j≦8である。)で示される化合物と、
平均組成式(3)(R”2SiO2/2)k(R”HSiO2/2)lで示される化合物及び/又は
平均組成式(4)(R”3SiO1/2)m(R”2HSiO1/2)n(R”2SiO2/2)o(R”HSiO2/2)p (4)
で示される化合物
(上記式(3)及び(4)中、R”は前記の通りであり、0≦k≦6、0≦l≦6、0≦m≦2、0≦n≦2、0≦o≦500、0≦p≦100であって、かつ3≦k+l≦8、n+m=2、0≦o+p≦500である。)
とを用いて、
平均組成式(5)(R”3SiO1/2)a(R”2HSiO1/2)a’(R”2SiO2/2)b(R”HSiO2/2)b’(R”SiO3/2)c(SiO4/2)d(上記式(5)中、R”、a,a’,b,b’,c,dは前記と同様である。)で示される化合物を合成する工程であり、
工程(II)は:
上記式(5)の化合物と、
平均組成式(6)CH2=CX-CrH2r-O-(C2H4O)e(C3H6O)f-R1(上記式(6)中、R1、e、fは前記の通りである。Xは水素原子もしくは炭素数が1~5の一価炭化水素基であって、0≦r≦8である。)で示される化合物と
を反応させる工程である。
【0048】
上記式(2)~(5)中、R”は、それぞれ独立であり、互いに同一でも異なっても良く、水酸基、又は炭素数が1~18の一価炭化水素基であって、好ましくは炭素数が1~12のアルキル基、アリール基、又はアラルキル基であり、特に好ましくはメチル基、エチル基、プロピル基、ヘキシル基、オクチル基、ドデシル基、又はフェニル基であり、メチル基、エチル基、又はフェニル基である事が最も好ましい。
【0049】
g、h、i、j、k、l、m、n、o及びpは、それぞれ0≦g≦10、0≦h≦100、1≦i≦30、0≦j≦8、0≦k≦6、0≦l≦6、0≦m≦2、0≦n≦2、0≦o≦500、0≦p≦100であって、かつ3≦k+l≦8、n+m=2、0≦o+p≦500である。
【0050】
Xは水素原子もしくは炭素数が1~5の一価炭化水素基であり、また0≦r≦8である。入手のし易さから、Xは水素原子かメチル基が好ましく、rは0≦r≦2が好ましい。
【0051】
R”、a、a’、b、b’、c及びdは前記と同様である。
【0052】
式(2)で表される化合物は、例えば、オルガノポリシロキサンと呼ぶことができる。また、式(3)で表される化合物は、例えば、環状オルガノポリシロキサンと呼ぶことができる。また、式(4)で表される化合物は、例えば、直鎖状オルガノポリシロキサンと呼ぶことができる。
【0053】
工程(I)は、例えば、式(2)で表されるオルガノポリシロキサンと、式(3)で表される環状オルガノポリシロキサン、及び/又は式(4)で表される直鎖状オルガノポリシロキサンとを酸触媒下で開環・平衡化する反応である。触媒としてはメタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、硫酸、塩酸等が挙げられるが、この中では特にトリフルオロメタンスルホン酸が好ましい。
【0054】
工程(I)において、式(2)で表されるオルガノポリシロキサンと、式(3)で表される環状オルガノポリシロキサン及び/又は式(4)で表される直鎖状オルガノポリシロキサンとを、[式(2)で表される化合物の質量]/[式(3)で表される化合物の質量及び式(4)で表される化合物の質量の和]の比が0.01~1.00となるように仕込むことが好ましく、より好ましい比は、0.02~0.50である。上記範囲で仕込むことにより、目的とする構造体を得ることが容易になる。
【0055】
上記触媒の量は触媒量であればよく、例えば、トリフルオロメタンスルホン酸を用いた際の触媒量としては、式(2)、式(3)ならびに式(4)の化合物の合計質量に対し50~10000ppmが好ましく、100~5000ppmが特に好ましく、200~2000ppmが最も好ましい。触媒量を好ましい範囲内とすることにより、十分な反応スピードを実現することができるとともに、触媒の除去が煩雑になることを防ぐことができる。
【0056】
工程(I)の反応温度は特に限定されないが、好ましくは0~100℃、更に好ましくは20~50℃である。工程(I)の反応温度が0~100℃であれば、原料の揮発を防ぎながら、十分な反応スピードを達成できる。
【0057】
工程(I)は、無溶媒系ならびに溶媒系のどちらでも行うことができる。用いる溶媒としては、具体的には、ペンタン、ヘキサン、シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン等のアルカン類、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等の芳香族類ならびにジエチルエーテル、エチルプロピルエーテル、グライム、ジグライム等のエーテル類等が挙げられる。
【0058】
工程(I)で得られる式(5)で表される化合物は、例えば、オルガノハイドロジェンシロキサン又はオルガノハイドロジェンポリシロキサンと呼ぶことができる。また、工程(II)で用いる式(6)で表される化合物は、例えば、アルケニル基含有ポリエーテル又はポリオキシアルキレン化合物と呼ぶことができる。
【0059】
工程(II)は、例えば、式(5)で表されるオルガノハイドロジェンポリシロキサンと式(6)で表されるアルケニル基含有ポリエーテルとの付加反応であり、付加反応触媒の存在下で行われる。該付加反応触媒は、一般に付加反応に使用されている触媒を使用することができる。例えば、白金族金属系化合物等の貴金属触媒を使用することができ、白金系、パラジウム系、ロジウム系、ルテニウム系等の触媒が挙げられる。これらの中で特に白金系触媒が好ましく用いられる。また白金系触媒は、例えば塩化白金酸、塩化白金酸のアルコール溶液又はアルデヒド溶液、塩化白金酸の各種オレフィン又はビニルシロキサンとの錯体などを使用してもよい。中でも、塩化白金酸重曹中和-ビニルシロキサン錯体触媒(カルステッド触媒)溶液が好適に使用できる。
【0060】
工程(II)において、式(5)で表されるオルガノハイドロジェンポリシロキサンと式(6)で表されるアルケニル基含有ポリエーテルとの比は、[式(6)成分中のアルケニル基のモル数]/[式(5)成分中のSi-H基のモル数]で1.00~2.00が好ましく、1.05~1.50がより好ましく、1.02~1.10がより一層好ましい。
【0061】
付加反応触媒の量は触媒量であればよい。特には式(5)の化合物と式(6)の化合物との合計量に対して、金属換算量で0.1~100ppmが好ましく、0.5~50ppmが特に好ましく、1~20ppmが最も好ましい。上記好ましい範囲内の量の付加反応触媒を用いることにより、副反応を抑えながら、十分な反応スピードを達成できる。
【0062】
工程(II)の反応温度は特に限定されないが、好ましくは0~150℃、更に好ましくは20~100℃である。工程(II)の反応温度が0~150℃であれば、副反応を防ぎながら、十分な反応スピードを達成できる。
【0063】
工程(II)には、必要に応じて反応溶剤を使用してもよい。該溶剤としては、たとえば、トルエン、キシレンのような芳香族炭化水素溶剤、ヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン等の脂肪族炭化水素溶剤、ジオキサン、ジブチルエーテル、ジメトキシエタン等のエーテル系溶剤、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶剤、アセトニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル系溶剤、エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコール、ブタノール等のアルコール系溶剤などが挙げられる。特に、反応基質との相溶性の観点から、イソプロピルアルコール、トルエンが好ましい。エタノール、プロピルアルコール、及びブタノール等の一級アルコール以外の溶剤は、水酸基とSiH基との脱水素反応を防ぐことができる為、好ましい。
【0064】
以上に説明したポリエーテル変性シロキサンの製造方法によると、先に説明した、環境負荷が少なく、優れた防汚性能を付与することができる、ポリエーテル変性シロキサンを製造することができる。
【0065】
<塗料添加剤>
更に、本発明は、式(1)で表されるポリエーテル変性シロキサン(シロキサン分岐型ポリエーテル変性シリコーン)を含むものである塗料添加剤に関する。
【0066】
本発明の塗料添加剤は、上述のポリエーテル変性シロキサン単独からなるものでもよいし、上述のポリエーテル変性シロキサンに加え、さらに溶剤を含むものであってもよい。溶剤を含むものであれば、本発明の塗料添加剤を塗料組成物に添加する際、撹拌して均一化するのがより容易になる。また、必要に応じて、その他の成分を含んでもよい。
【0067】
本発明の塗料添加剤に配合できる溶剤としては、例えば、後述の塗料組成物のところで説明するものを使用することができるが、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ブチルアセテートが好ましい。また溶剤を含むものである場合、本発明の塗料添加剤は、例えば、上述のポリエーテル変性シロキサンの10~90%溶液、好ましくは10~50%溶液、さらに好ましくは15~30%溶液とすることができる。
【0068】
本発明の塗料添加剤は、上述のポリエーテル変性シロキサンを含んでいるので、環境負荷が少なく、優れた防汚性能を付与することができる。
【0069】
<塗料組成物>
また、本発明は上述の塗料添加剤を含む塗料組成物、特には防汚塗料用である塗料組成物に関する。
【0070】
上記ポリエーテル変性シロキサンの添加量は、例えば、上記塗料組成物100質量部中0.01~10質量部であり、好ましくは0.1~5質量部である。ポリエーテル変性シロキサンの添加量を0.01~10質量部とすることにより、コストを抑えながら、十分な汚れ防止性(防汚性)を発現できる。
【0071】
当該塗料組成物は、樹脂を含む事が好ましい。樹脂は特に限定されないが、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、アミド樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、アルキド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアルキレン樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリ酢酸ビニルならびに上記樹脂のアロイからなる群から選択され、相溶性の観点からウレタン樹脂、アクリル樹脂又はエポキシ樹脂が好ましい。本発明の塗料組成物には、このように種々の樹脂を適用することができる。樹脂のアロイは、複数のポリマーを混合することで新しい特性を持たせた高分子である。樹脂のアロイは、ポリマーアロイと呼ぶこともできる。
【0072】
上記樹脂の添加量は、例えば、上記塗料組成物100質量部中10~99.5質量部であり、好ましくは30~90質量部である。樹脂分が10質量部以上である塗料組成物は、十分な機械強度を有するコーティング層(塗膜)を提供できる。
【0073】
また、本発明の塗料組成物には、必要に応じて硬化剤、希釈溶剤、紫外線吸収剤、重合開始剤、重合禁止剤、中和剤、安定剤(耐光安定剤、耐候安定剤、耐熱安定剤)、酸化防止剤、レベリング剤、消泡剤、粘度調整剤、沈降防止剤、顔料、染料、分散剤、帯電防止剤、防曇剤、ゴム類などの当該業界でよく知られている他の成分を適宜配合しても良い。
【0074】
硬化剤としては多官能性化合物が有用であり、例えば脂肪族ポリイソシアネート(ヘキサメチレンジイソシアネート三量体)(Covestro社製、DESMODUR N 3390 BA/SN)などが挙げられる。硬化剤の量は特に制限されるものでないが、例えば上記塗料組成物100質量部中1~30質量部、好ましくは3~15質量部である。
【0075】
希釈溶剤としては、エステル、脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素、ケトン、アルコールなどが挙げられ、特にプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ブチルアセテートやメチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンならびにトルエン、キシレンが好ましい。希釈溶剤の量は特に制限されるものでないが、例えば上記塗料組成物100質量部中10~90質量部、好ましくは20~70質量部である。
【0076】
本発明の塗料組成物の粘度(25℃、B型粘度計)は、塗工性・膜厚などを考慮すると、例えば1~10000mPa・s、好ましくは10~5000mPa・sである。
【0077】
本発明の塗料組成物は、上述の塗料添加剤を含んでいるので、環境負荷が少なく、優れた防汚性能を付与することができる。従って、本発明の塗料組成物は、特に、防汚塗料用として有用である。また、本発明の塗料組成物は、消泡性やレベリング性等の種々の塗料性能を損なうことなく、良好な防汚性を発揮することができる。
【0078】
<コーティング剤>
加えて、本発明は上記塗料組成物を用いたコーティング剤に関する。
【0079】
本発明のコーティング剤は、上述の塗料組成物単独からなるものでもよいし、上述の塗料組成物に加え、さらに溶剤を含むものであってもよい。すなわち、本発明のコーティング剤は、上述の塗料組成物を含むものである。本発明のコーティング剤が含む溶剤としては、例えば、塗料組成物のところで挙げた希釈溶剤を用いることができる。
【0080】
本発明のコーティング剤は、上述の塗料組成物を含んでいるので、環境負荷が少なく、優れた防汚性能を示すコーティング層を実現できる。また、本発明のコーティング剤は、消泡性やレベリング性等の種々の塗料性能を損なうことなく、良好な防汚性を発揮することができる。
【0081】
<コーティング層>
更に、本発明は、上述のコーティング剤から形成されたものであるコーティング層に関する。
【0082】
本発明のコーティング層を得るためのコーティング剤の塗装方法としては、一般の塗料に適用される種々の方法が使用出来る。すなわち、スプレーコート、スピンコート、ロールコート、カーテンコート、刷毛塗り、静電塗装、アニオン、カチオン電着塗装、ディッピング等が例示できる。また、塗装後の硬化方法は特に限定されないが、特には0~200℃、より好ましくは40~180℃下での(加熱)硬化が挙げられる。
【0083】
また、上記コーティング層を適用できる基材(被塗物)としては、ポリスチレン樹脂、アクリル樹脂、アクリロニトリル-スチレン-ブタジエン樹脂(ABS)、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ノリル樹脂、ナイロン樹脂、ポリエステル樹脂、およびこれらやポリオレフィン、フィラー、ガラスや炭素繊維などの補強材等のブレンド物(アロイ)等のプラスチック類、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂等の熱硬化性樹脂、ガラス、モルタル、石綿セメントスレート、岩石等の無機物、鉄(および合金)、銅(および合金)、アルミニウム(および合金)、マグネシウム(および合金)等の金属類、紙、ビニールクロス等の可燃物等を例示することができる。
【0084】
このように、本発明のコーティング層は、種々の基材に適用することができる。また、本発明のコーティング層は、上述のコーティング剤から形成されるものなので、良好な防汚性を発揮することができる。
【実施例】
【0085】
以下、実施例及び比較例を用いて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0086】
[重量平均分子量(Mw)、分散度(Mw/Mn)]
本発明のポリエーテル変性シロキサンの重量平均分子量(Mw)ならびに分散度(Mw/Mn)は、ポリスチレン換算のゲル浸透クロマトグラフィー(Gel Permeation Chromatography:GPC)測定を用いて求めることができる。Mnは数平均分子量を示す。以下の実施例では、下記の条件のもと、各化合物の重量平均分子量及び分散度を測定した。
機器名:HLC-8320GPC(TOSOH社製)
展開溶媒:THF(テトラヒドロフラン)
カラム:下記カラムを直列に繋いで使用。
TSKgel Guardcolumn SuperH-H(TOSOH社製)
TSKgel SuperHM-N(TOSOH社製)
TSKgel SuperH2500(TOSOH社製)
TSKgel SuperH―RC(TOSOH社製)
カラム温度:40℃
流速:0.6mL/min
検出器:RI(HLC-8320附属)
注入濃度:0.3%
注入量:50μL
検量線:ポリスチレン標準(PStQuick Kit-L、 TSKstandard F-288)
【0087】
[構造解析]
本発明のポリエーテル変性シロキサンの構造は、1H NMR測定および29Si NMR測定により求めることができる。以下の実施例では、下記の条件のもと、各化合物の構造を同定した。
機器名:ECX5000II(JEOL社製)
測定溶媒:CDCL3(クロロホルム)
【0088】
[実施例1]
反応器に、トリス(トリメチルシロキシ)メチルシラン(化合物(2-1))311g、1,1,3,3,5,5,7,7-オクタメチルシクロテトラシロキサン(化合物(3-1))4190gならびに1,3,5,7-テトラメチルシクロテトラシロキサン(化合物(3-2))331gを仕込んだ後、トリフルオロメタンスルホン酸3.86gを加え、50℃下にて8時間反応させた。反応後、液温を40℃まで下げ、キョーワードSH-500(協和化学工業社製、ハイドロタルサイト)23.2gを加えて1時間撹拌し、ろ過にて固形分を除去した。更にその後、窒素をバブリングしながら150℃/2torrにて5時間かけて低沸成分を除去し、下記平均組成式(5-1)で表されるオルガノハイドロジェンシロキサンを収率87%で合成した(工程(I))。
【0089】
次に、工程(I)で得られた平均組成式(5-1)で表されるオルガノハイドロジェンシロキサン97.1gと下記平均組成式(6-1)のポリオキシアルキレン化合物79.7gとイソプロピルアルコール79.7gとを反応器内で混合し、得られた混合物に塩化白金酸3質量%のイソプロピルアルコール溶液0.03gを加えて、80℃下にて3時間反応させた(工程(II))。
【0090】
((CH
3)
3SiO
1/2)
3((CH
3)
2SiO
2/2)
55.5((CH
3)HSiO
2/2)
5.5((CH
3)SiO
3/2)
1 ・・・平均組成式(5-1)
【化1】
【0091】
反応終了後、得られた溶液から120℃/2torrにて2時間かけて溶剤を留去させた後、下記平均組成式で表されるオルガノポリシロキサンの化合物(ポリエーテル変性シロキサン)(A)を収率95%で得た。
【0092】
((CH
3)
3SiO
1/2)
3((CH
3)
2SiO
2/2)
55.5((CH
3)R
aSiO
2/2)
5.5((CH
3)SiO
3/2)
1 ・・・化合物(A)
【化2】
【0093】
化合物(A)をGPCにより解析したところ、重量平均分子量Mwは14,900であり、分散度(Mw/Mn)は1.97であった。
【0094】
[実施例2]
工程(I)において、化合物(2-1)163g、化合物(3-1)4320gならびに化合物(3-2)350gを用いた以外は実施例1と同様にして、平均組成式(5-2)で表されるオルガノハイドロジェンシロキサンを収率87%で合成した。
【0095】
次に、工程(II)において、工程(I)で得られた平均組成式(5-2)で表されるオルガノハイドロジェンシロキサン195gと前記平均組成式(6-1)のポリオキシアルキレン化合物169gとイソプロピルアルコール169gとを反応器内で混合し、得られた混合物に塩化白金酸3質量%のイソプロピルアルコール溶液0.06gを加えて、80℃下にて4時間反応させた。
【0096】
((CH3)3SiO1/2)3((CH3)2SiO2/2)109((CH3)HSiO2/2)10((CH3)SiO3/2)1 ・・・平均組成式(5-2)
【0097】
反応終了後、得られた溶液を減圧下で加熱して溶剤を留去させた後、下記平均組成式で表されるオルガノポリシロキサンの化合物(ポリエーテル変性シロキサン)(B)を収率96%で得た。
【0098】
((CH
3)
3SiO
1/2)
3((CH
3)
2SiO
2/2)
109((CH
3)R
aSiO
2/2)
10((CH
3)SiO
3/2)
1 ・・・化合物(B)
【化3】
【0099】
化合物(B)をGPCにより解析したところ、重量平均分子量Mwは24,700であり、分散度(Mw/Mn)は1.96であった。
【0100】
[実施例3]
実施例2の工程(I)で合成した平均組成式(5-2)で表されるオルガノハイドロジェンシロキサン275gと、下記平均組成式(6-2)のポリオキシアルキレン化合物183gと、イソプロピルアルコール183gとを反応器内で混合し、得られた混合物に塩化白金酸3質量%のイソプロピルアルコール溶液0.05gを加えて、80℃下にて4時間反応させた。
【化4】
【0101】
反応終了後、得られた溶液を減圧下で加熱して溶剤を留去させた後、下記平均組成式で表されるオルガノポリシロキサンの化合物(ポリエーテル変性シロキサン)(C)を収率96%で得た。
【0102】
((CH
3)
3SiO
1/2)
3((CH
3)
2SiO
2/2)
109((CH
3)R
bSiO
2/2)
9.9((CH
3)HSiO
2/2)
0.1((CH
3)SiO
3/2)
1 ・・・化合物(C)
【化5】
【0103】
化合物(C)をGPCにより解析したところ、重量平均分子量Mwは24,800であり、分散度(Mw/Mn)は2.06であった。
【0104】
[実施例4]
工程(I)において、化合物(2-1)の代わりに下記平均組成式(2-2)で表されるオルガノシロキサン478gを用い、これと、化合物(3-1)2846gならびに化合物(3-2)340gと、更に平均組成式(4-1)で表されるジメチルシロキサン1178gとを用いた以外は実施例1と同様にして、平均組成式(5-3)で表されるオルガノハイドロジェンシロキサンを収率87%で合成した。
【0105】
次に、工程(I)で得られた平均組成式(5-3)で表されるオルガノハイドロジェンシロキサン180gと前記平均組成式(6-1)のポリオキシアルキレン化合物145gとイソプロピルアルコール145gとを反応器内で混合し、得られた混合物に塩化白金酸3質量%のイソプロピルアルコール溶液0.05gを加えて、80℃下にて4時間反応させた。
【0106】
((CH3)3SiO1/2)6((CH3)2SiO2/2)73.2((CH3)SiO3/2)24 ・・・平均組成式(2-2)
((CH3)3SiO1/2)2((CH3)2SiO2/2)12.5 ・・・平均組成式(4-1)
((CH3)3SiO1/2)5((CH3)2SiO2/2)109((CH3)HSiO2/2)10((CH3)SiO3/2)3 ・・・平均組成式(5-3)
【0107】
反応終了後、得られた溶液を減圧下で加熱して溶剤を留去させた後、下記平均組成式で表されるオルガノポリシロキサンの化合物(ポリエーテル変性シロキサン)(D)を収率95%で得た。
【0108】
((CH
3)
3SiO
1/2)
5((CH
3)
2SiO
2/2)
109((CH
3)R
aSiO
2/2)
10((CH
3)SiO
3/2)
3 ・・・化合物(D)
【化6】
【0109】
化合物(D)をGPCにより解析したところ、重量平均分子量Mwは27,100であり、分散度(Mw/Mn)は2.46であった。
【0110】
[実施例5]
ヒドロキシ官能性アクリル樹脂60%溶液(Allnex社製、MACRYNAL SM 510n/60LG)20g、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート10gおよびブチルアセテート10gに、塗料添加剤として実施例1で得た化合物(A)の25%プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート溶液0.4gを加えた後、更に硬化剤として脂肪族ポリイソシアネート(ヘキサメチレンジイソシアネート三量体)(Covestro社製、DESMODUR N 3390 BA/SN)4.0gを加え、ディスパーを用いて均一になるまで混合して塗料組成物を作成した。30分間静地させた後、得られた塗料組成物を厚みが30μmになるようにアプリケーターを用いてガラス上にコートし、80℃×40分間にて加熱硬化させる事によりコーティング層(1)を形成した。得られたコーティング層(1)については、下記に従って種々の評価を実施した。
【0111】
・消泡性 … ディスパーで塗料組成物を均一混合し、10分間静置した後の塗料組成物の状態を観察した。
○:泡なし。
△:若干細かい泡あり。
×:多量の泡あり。
【0112】
・レベリング性 … ガラス上のコーティング層の表面状態を目視により観察した。
○:平滑な表面状態。
△:表面の所々に細かい痘痕あり。
×:表面に大きな痘痕やうねりあり。
【0113】
・防汚性 … ガラス上のコーティング層に油性ペンで線を引き、ティッシュで拭き取った際の線の消えやすさを評価した。
○:線が容易に消える。
△:力を入れて繰り返して拭く事により、線が消える。
×:線が消えない。
【0114】
[実施例6~8]
化合物(A)の25%プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート溶液の代わりに、化合物(B)、(C)又は(D)の25%プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート溶液を用いた以外は実施例5と同様にして、コーティング層(2)、(3)又は(4)を形成し、各種特性を評価した。
【0115】
[比較例1]
化合物(A)の25%プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート溶液を加えなかった以外は実施例5と同様にして、コーティング層(5)を形成し、各種特性を評価した。
【0116】
[比較例2、3]
化合物(A)の25%プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート溶液代わりに、下記式の化合物(E)または(F)の25%プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート溶液を用いた以外は実施例5と同様にして、コーティング層(6)又は(7)を形成し、各種特性を評価した。尚、化合物(E)ならびに(F)の分散度(Mw/Mn)は、それぞれ1.56ならびに1.59であった
【0117】
((CH
3)
3SiO
1/2)
2((CH
3)
2SiO
2/2)
60((CH
3)R
bSiO
2/2)
3・・・化合物(E)
((CH
3)
3SiO
1/2)
2((CH
3)
2SiO
2/2)
75((CH
3)R
bSiO
2/2)
5・・・化合物(F)
【化7】
【0118】
実施例5~8ならびに比較例1~3の結果を下記表1に示す。
【0119】
【0120】
表1に示す通り、本発明のポリエーテル変性シロキサンを含んだ塗料組成物から形成されたコーティング層(1)~(4)は消泡性、レベリング性を損なうことなく、良好な防汚性が発現している事が明らかとなった。
【0121】
一方、ポリエーテル変性シロキサンを含まない塗料組成物を用いた比較例1では、消泡性、レベリング性、防汚性のいずれにおいても良好な結果を得られなかった。また、比較例2及び3においては、ポリエーテル変性シロキサンを含む塗料組成物によりコーティング層を形成した。しかし、これらのポリエーテル変性シロキサンは、上記平均組成式(1)におけるcが0であり、直鎖状であるため、本発明のポリエーテル変性シロキサンとは異なっていた。そのため、比較例2及び3では、良好な防汚性を得ることはできなかった。
【0122】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。