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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-14
(45)【発行日】2022-11-22
(54)【発明の名称】電子検出のためのセンサ
(51)【国際特許分類】
   G01T 1/20 20060101AFI20221115BHJP
   H01J 37/244 20060101ALI20221115BHJP
【FI】
G01T1/20 L
H01J37/244
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2021505385
(86)(22)【出願日】2019-08-01
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-12-02
(86)【国際出願番号】 IL2019050872
(87)【国際公開番号】W WO2020026249
(87)【国際公開日】2020-02-06
【審査請求日】2022-04-01
(31)【優先権主張番号】260956
(32)【優先日】2018-08-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IL
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】504144253
【氏名又は名称】アプライド マテリアルズ イスラエル リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100067013
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 文昭
(74)【代理人】
【識別番号】100086771
【弁理士】
【氏名又は名称】西島 孝喜
(74)【代理人】
【識別番号】100109335
【弁理士】
【氏名又は名称】上杉 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120525
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100139712
【弁理士】
【氏名又は名称】那須 威夫
(74)【代理人】
【識別番号】100176418
【弁理士】
【氏名又は名称】工藤 嘉晃
(72)【発明者】
【氏名】アスリン イタイ
(72)【発明者】
【氏名】レヴィン ヤコブ
(72)【発明者】
【氏名】エイタン ガイ
【審査官】右▲高▼ 孝幸
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-298603(JP,A)
【文献】特開2015-230195(JP,A)
【文献】特開2017-120192(JP,A)
【文献】特開平7-142022(JP,A)
【文献】特開平2-152153(JP,A)
【文献】特開平2-155157(JP,A)
【文献】特開2010-135293(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01T 1/20
H01J 37/244
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
物体から放出された電子を検出するためのセンサであって、前記センサが、
活性区域および特定の寿命を有するシンチレータ構造であり、前記シンチレータ構造が、陰極ルミネセンスによっておよび特定の衝突エネルギーでの電子の衝突時に特定の波長範囲の光子を放出するように構成され動作可能である高速シンチレータ材料を含む、シンチレータ構造と、
前記シンチレータ構造とインターフェースし、前記物体から放出された前記電子にさらされる2つ以上の金属層を含む被覆構造であり、前記被覆構造が、前記活性区域と前記被覆構造との間のインターフェースの全域で均一な電位を維持するように構成され動作可能であり、前記被覆構造が、前記活性区域によって放出された光子を前記活性区域の方に反射して戻すように選択された前記2つ以上の金属層の特定の材料組成と、前記被覆構造との衝突時の電子エネルギー損失を最小限に抑えながら前記活性区域との負イオンの相互作用を少なくとも低減するように選択された特定の厚さとを有し、前記被覆構造が、金属の少なくとも第1および第2の反射材料を含み、第1の反射材料が3nmから20nmの間の厚さを有する、被覆構造と
を含む、センサ。
【請求項2】
前記シンチレータ構造が、半導体III-V多重量子井戸構造を含む、請求項1に記載のセンサ。
【請求項3】
前記センサが、特定のカラムおよびウエハ電圧で動作する荷電粒子ビームカラムとともに使用され、前記特定の厚さは、前記負イオンが前記特定のカラムおよびウエハの電圧に応じて前記活性区域と相互作用するエネルギーによって決定される、請求項1または2に記載のセンサ。
【請求項4】
前記厚さが、前記活性区域を損傷する負イオンのタイプに応じて選択される、請求項3に記載のセンサ。
【請求項5】
前記被覆が、少なくとも200nmの厚さを有する、請求項1~4のいずれか1項に記載のセンサ。
【請求項6】
前記特定の材料組成は、前記被覆構造が、二次電子および後方散乱電子を前記センサの方に加速するために電位を印加する電極として構成され動作可能であるような導電性材料を含む、請求項1~5のいずれか1項に記載のセンサ。
【請求項7】
前記被覆構造が、その深さに沿って異なる物理的および化学的性質を有する多重被覆構造を含む、請求項1~6のいずれか1項に記載のセンサ。
【請求項8】
前記多重被覆構造が、前記放出された光子の前記特定の波長範囲において異なる反射係数を有する少なくとも2つの異なる被覆材料を含む、請求項7に記載のセンサ。
【請求項9】
前記多重被覆構造が、少なくとも2つの層で製作される、請求項7または8に記載のセンサ。
【請求項10】
前記2つの層が、異なる厚さを有する、請求項9に記載のセンサ。
【請求項11】
前記多重被覆構造が、前記活性区域とインターフェースする第1の反射材料と、前記物体からの電子放出とインターフェースする第2の反射材料とを含み、前記第1の反射材料が、前記第2の反射材料よりも低い反射係数を有する、請求項7~10のいずれか1項に記載のセンサ。
【請求項12】
前記活性区域とインターフェースする前記第1の反射材料が、表面状態、欠陥、および電子トラップのうちの少なくとも1つの影響を緩和するために、良好なオーミックコンタクトを可能にするように選択される、請求項11に記載のセンサ。
【請求項13】
前記多重被覆構造が、前記活性区域の陰極ルミネセンス効率の緩やかな劣化と、前記センサの動作中に発生され、前記シンチレータの寿命の全体にわたって漸進的に変化する陰極ルミネセンスの動的変化との両方を最小限に抑えるように選択された特定の材料組成および特定の厚さを有する、請求項7~12のいずれか1項に記載のセンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線シンチレーション検出器の分野に関する。より詳細には、本発明は、電子検出に有用なシンチレーションベースセンサ構造に関する。
【背景技術】
【0002】
シンチレータは、アルファ線、ベータ線、ガンマ線、X線、または中性子などの放射線がぶつかったとき、放射線を吸収して蛍光を発生する物質である。シンチレータは、光電子増倍管などの光検出器と組み合わせて、放射線検出器を構成することができる。ルミネセンス材料は、入来粒子が打ち当たると、そのエネルギーを吸収し、閃光を放つ(すなわち、吸収したエネルギーを光の形態で再放出する)。走査電子顕微鏡(SEM)および電子ビーム検査ツールなどの様々なシステムは、シンチレータおよび導光体を含むことができる。信頼性が高く高速で長寿命のシンチレータを提供する必要性が高まってきている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
物体は、電子で物体を照明することによって評価する(測定する、検査する、および/または調査する)ことができる。そのとき、物体から反射および/または散乱された二次電子または後方散乱電子(BSE)が検出される。その結果、シンチレータは、特定の加速電圧の下で二次電子または後方散乱電子により衝撃を与えられ、それに応じて、検出可能な光を陰極ルミネセンス(CL)によって放出する。光は、導光体によって実質的に収集される。シンチレータの内部で発生される光子は、すべての方向に放出され、再吸収と、シンチレータおよび基板屈折率による全反射とを受ける。シンチレータ導光体方式が検出器として使用される場合、設計で考慮されるべきタスクの1つは、導光体への光子の移送を最大化することである。この目的のために、被覆をシンチレータの表面に施して、光子を反射させてシンチレータに戻す。
【0004】
本発明者らは、驚いたことに、シンチレータが、さらに、負イオンにより衝撃を受けることを見出した。これらの負イオンは、シンチレータの方に実質的に加速され、その結果として、シンチレータの効率の劣化がもたらされる。この損傷機構は、非常に効率がよく、極めて短い期間内に生じ、緩和されなければ、シンチレータの即時で不可逆な劣化を引き起こす。負イオンの発生源は、シンチレータ上ではなく画像化サンプルまたはウエハ上の汚染物質および炭化水素である。負イオンは電子刺激脱離(ESD)として知られるプロセスによって形成され、したがって、負イオンの存在は、サンプルの走査電子顕微鏡(SEM)イメージングに固有である。負イオンは、SEMにおける場の分布が原因でシンチレータに到達する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
負イオンの衝撃に関連するこの問題を解決するために、本発明は、とりわけ、物体から放出される電子にさらされる、シンチレータ構造とインターフェースする被覆構造を有するセンサを提供する。被覆構造は、被覆構造との衝突時の電子エネルギー損失を最小限に抑えながら活性区域との負イオンの相互作用を少なくとも低減するように選択された特定の厚さを有するように構成される。「負イオンの相互作用を少なくとも低減する」という用語は、負イオンがシンチレータ活性区域に到達しないように被覆構造内の負イオン経路を減速させ抑制することを指す。このようにして、被覆構造は、シンチレータ構造との負イオンの相互作用を少なくとも減少させる(例えば、完全に除去する)ことによって、負イオンがシンチレータ材料(すなわち、活性区域)を損傷するのを防止する。
【0006】
被覆構造はまた、バイアス電極へのコンタクトを生成するように意図される。これは、二次電子およびBSE電子に加速電圧を与え、入射ビームならびに二次電子によって搬送される電流の電気ループを閉じる。被覆構造は、電気コンタクトを改善し、および/またはシンチレータ構造の活性区域と被覆構造との間のインターフェースの全域で均一な電位を維持する(すなわち、センサの全域で電位を均質化する)ように構成され動作可能である。被覆構造は、連続的である場合もあり、ない場合もある平面形状を有することができる。例えば、グリッド形状を有する構造を使用することができる。その上、被覆構造は、活性区域によって放出された光子を活性区域の方に反射して戻す(すなわち、シンチレータにその背面側で接続された導光体への光子の出力を最大にするために、シンチレータの内部で生成された光子を反射して戻す)ように選択された特定の材料組成を有する。
【0007】
それゆえに、本発明の広範な態様によれば、特定のカラムおよびウエハ電圧で動作する荷電粒子ビームカラムとともに使用される、物体から放出された電子を検出するためのセンサが提供される。センサは、活性区域および特定の寿命を有するシンチレータ構造を含む。シンチレータ構造は、陰極ルミネセンスによっておよび特定の衝突エネルギーでの電子の衝突時に特定の波長領域の光子を放出するように構成され動作可能である高速シンチレータ材料(例えば、nsの程度の減衰時間を有する)と、シンチレータ構造とインターフェースし、物体から放出された電子にさらされる被覆構造とを含む。被覆構造は、活性区域と被覆構造との間のインターフェースの全域で均一な電位を維持するように構成され動作可能である。被覆構造は、活性区域によって放出された光子を活性区域の方に反射して戻すように選択された特定の材料組成を有する。被覆構造は、さらに、被覆構造との衝突時の電子エネルギー損失を最小限に抑えながら活性区域との負イオンの相互作用を少なくとも低減するように選択された特定の厚さを有する。
【0008】
いくつかの実施形態では、シンチレータ構造は、半導体III-V多重量子井戸構造を含む。
【0009】
いくつかの実施形態では、特定の厚さは、負イオンが特定のカラムおよびウエハの電圧に応じて活性区域と相互作用するエネルギーによって決定される。
【0010】
いくつかの実施形態では、厚さは、活性区域を損傷する負イオンのタイプに応じて選択される。
【0011】
いくつかの実施形態では、被覆は、少なくとも200nmの厚さを有する。
【0012】
いくつかの実施形態では、特定の材料組成は、被覆構造が、二次電子および後方散乱電子をセンサの方に加速するために電位を印加する電極として構成され動作可能であるような導電性材料を含む。
【0013】
残念なことに、シンチレータ構造の損傷は、負イオンの衝撃のみに関係していない。二次電子または後方散乱電子によるシンチレータの直接的な衝撃は、特定の線量の後にシンチレータのルミネセンスの効率の劣化を引き起こす。これは、さらに、短期間(画像取込みのスケール)の間にシンチレータ光出力を変化させる動的影響を引き起こす。例えば、シンチレータの効率の劣化は、0.3C/cm2の線量の後に最大50%、場合によっては、90%にもなる場合がある。
【0014】
活性区域の陰極ルミネセンス効率の緩やかな劣化と、センサの動作中に発生され、シンチレータの寿命の全体にわたって漸進的に変化する陰極ルミネセンスの動的変化に関連する上記の問題を解決するために、本発明は、多重被覆構造を含む被覆構造を提供する。多重被覆構造は、その深さに沿って異なる物理的および化学的性質を有するプロファイルを規定する。その深さに沿った異なる物理的および化学的性質は、特定の材料組成および特定の厚さを含む。上記の性質は、活性区域の陰極ルミネセンス効率の緩やかな劣化と、センサの動作中に発生され、シンチレータの寿命の全体にわたって漸進的に変化する陰極ルミネセンスの動的変化との両方を最小限に抑えるように選択される。2つの要因、すなわち、被覆構造を通る二次電子および後方散乱電子の透過(実効励起準位)と、被覆構造における、またはシンチレータ構造と被覆構造との間のインターフェースにおける吸収による光学モードの損失とは、陰極ルミネセンスの光強度に影響を与える。被覆構造の材料組成は、被覆材料と、それが堆積されるシンチレータ材料との間のインターフェースの化学的性質に応じて選択される。動作波長に対する被覆構造材料の反射率/吸収が考慮される。放出波長での被覆の反射率が高い場合、シンチレータ効率は改善され、逆の場合には逆の結果になる。被覆構造は、表面状態をパッシベートし、表面電位を均質化して、良好な等電位インターフェースを形成することができる。異なる材料を使用することにより、コンタクトと、被覆構造とシンチレータ構造との間のインターフェースの化学的性質と、表面電位の均質化の程度およびシンチレータ構造表面で終了する欠陥のパッシベーションに影響を及ぼす中間層の形成とを適切に制御することが可能になる。
【0015】
いくつかの実施形態では、多重被覆構造は、放出された光子の特定の波長範囲において異なる反射係数を有する少なくとも2つの異なる被覆材料を含むことができる。多重被覆構造は、少なくとも2つの層で製作することができる。2つの層は、異なる厚さを有することができる。
【0016】
いくつかの実施形態では、多重被覆構造は、活性区域とインターフェースする第1の反射材料と、物体からの電子放出とインターフェースする第2の反射材料とを含むことができる。第1の反射材料は、第2の反射材料よりも低い反射係数を有する。活性区域とインターフェースする第1の反射材料は、表面状態、欠陥、および電子トラップのうちの少なくとも1つの影響を緩和するために、良好なオーミックコンタクト(すなわち、低い抵抗)を可能にするように選択することができる。第2の反射層は、シンチレータ構造を損傷する負イオンのタイプに応じて選択された厚さを有することができる。したがって、本発明は、寿命を延ばすように構成された、物体から放出された電子を検出するためのセンサを提供する。「寿命」または「耐用年数」という用語は、シンチレータの効率の低下率と効率/出力の安定性(すなわち、上述の動的な過渡の影響)の両方を指す。十分に長い寿命(特定の使用条件ごとに蓄積することになる線量に関連して)と、過渡の影響のないシンチレータ出力の安定性とは、走査電子顕微鏡の性能の重要なパラメータである。
【0017】
本発明の別の広範な態様によれば、特定のカラムおよびウエハ電圧で動作する荷電粒子ビームカラムとともに使用される、物体から放出された電子を検出するためのセンサが提供される。センサは、活性区域および特定の寿命を有するシンチレータ構造を含む。シンチレータ構造は、陰極ルミネセンスによっておよび特定の衝突エネルギーでの電子の衝突時に特定の波長範囲の光子を放出するように構成され動作可能である高速シンチレータ材料と、シンチレータ構造とインターフェースする多重被覆構造とを含む。「多重被覆構造」という用語は、材料、反射係数、厚さ、化学的性質、コンダクタンスなどのような深さに沿って異なる物理的および化学的性質を有する構造を指す。特に、多重被覆構造の厚さと材料の両方は、具体的には、上述の寿命問題を解決し、効率を最適化するように構成される。反射の性質の変化は、連続的であってもよく、または多重被覆構造が、異なる反射の性質を有する2つの幾何学的領域を画定してもよい。言い換えれば、多重被覆構造は、放出された光子の特定の波長範囲において異なる反射係数を有する少なくとも2つの異なる被覆材料を含むことができる。
【0018】
多重被覆構造インターフェースの上面、シンチレータ構造、および底面はすべて物体からの電子荷電粒子放出を受け取る。それゆえに、多重被覆構造の底面(シンチレータ構造とインターフェースする面の反対側である)は、物体からの電子荷電粒子放出を受け取るために環境(例えば、真空)に直接にさらされるように構成される。多重被覆構造/層は、2つ以上の異なる被覆材料で製作するか、または異なる物理的および化学的な特定の性質を有する1つの複合材料で製作することができる。多重被覆構造(例えば、特定の材料組成)は、シンチレータ構造によって放出された光子をシンチレータ構造の方に反射して戻し、活性区域の方にシンチレータ構造の活性区域とのインターフェースの性質を制御するように構成され動作可能である。特定の厚さは、活性区域の陰極ルミネセンス効率の緩やかな劣化と、動的影響(例えば、センサの動作中に発生され、シンチレータの寿命の全体にわたって漸進的に変化する陰極ルミネセンスの動的変化)との両方を最小限に抑えるように選択される。
【0019】
いくつかの実施形態では、本発明は、物体から放出された電子を検出するためのセンサに関する。センサは、電子の衝突時に光子を放出するように構成され動作可能であるシンチレータ材料を含むシンチレータと、シンチレータ構造とインターフェースする多重被覆構造とから構成される。これに関連して、本発明のセンサを動作させるのに、センサはさらなる層を含む必要がないことを理解されたい。
【0020】
いくつかの実施形態では、シンチレータ構造は、半導体III-V多重量子井戸構造を含む。
【0021】
いくつかの実施形態では、多重被覆構造は、少なくとも2つの層で製作される。2つの層は、異なる厚さを有することができる。
【0022】
いくつかの実施形態では、多重被覆構造は、2つの異なる被覆材料、すなわち、活性区域とインターフェースする第1の反射材料と、物体からの電子荷電粒子放出とインターフェースする第2の反射材料とを含む。第1の反射材料(すなわち、追加の被覆材料)は、光子を半導体シンチレータ構造の方に反射して戻すように構成された第2の反射材料よりも低い反射係数を有する。活性区域とインターフェースする第1の反射材料は、表面状態、欠陥、および電子トラップのうちの少なくとも1つの影響を緩和するために、良好なオーミックコンタクトを可能にするように選択することができる。
【0023】
いくつかの実施形態では、被覆材料のうちの少なくとも1つは、多重被覆構造が電位をセンサに印加する電極として構成され動作可能であるような導電性材料である。実施形態によっては、両方の材料が導電性である。
【0024】
第1の反射材料の厚さと第2の反射材料の厚さの比は、1:10または1:20を超えることがある。第1の反射材料の厚さは、約2~50ナノメートルの範囲とすることができる。第2の反射材料の厚さは、約20~600ナノメートルの範囲とすることができる。
【0025】
本発明の別の広範な態様によれば、物体から放出された電子を検出するための方法が提供される。この方法は、シンチレータによって電子を受け取ることと、シンチレータによっておよび電子の受け取りにより光子を放出することとを含む。光子を放出することは、導光体の方に光子を放出することと、シンチレータとインターフェースする多重被覆構造の方に光子を放出することとを含む。それは、追加として、多重被覆構造を通過した光子を、多重被覆構造によってシンチレータの方に反射させることを含む。したがって、シンチレータと多重被覆構造との間のインターフェースは、制御されるように構成され動作可能である。
【0026】
本発明の別の広範な態様によれば、特定のカラムおよびウエハ電圧で動作する荷電粒子ビームカラムとともに使用される、物体から放出された電子を検出するためのセンサの寿命を延ばす方法が提供される。この方法は、高速シンチレータ材料を含む活性区域を有するシンチレータ構造を用意することを含む。この方法には、シンチレータ材料によって放出された光子を反射して戻すように構成され、深さに沿って異なる物理的および化学的性質を規定している多重被覆構造と、シンチレータ構造とをインターフェースすることがさらに含まれる。追加として、この方法は、インターフェースの性質を制御すること(例えば、活性区域の陰極ルミネセンス効率の緩やかな劣化と、センサの動作中に発生され、シンチレータの寿命の全体にわたって漸進的に変化する陰極ルミネセンスの動的変化との両方を最小限に抑えること)と、センサの寿命を延ばすこととを含む。
【0027】
いくつかの実施形態では、この方法は、多重被覆構造の材料を選択すること(例えば、多重被覆構造の少なくとも2つの材料を選択すること)と、その特定の厚さを選択することとをさらに含む。
【0028】
いくつかの実施形態では、この方法は、シンチレータ構造との負イオンの相互作用を除去することをさらに含む。シンチレータ材料との負イオンの相互作用を除去することは、多重被覆構造の厚さを選択することをさらに含むことができる。
【0029】
本明細書で開示される主題をよりよく理解し、それを実際にどのように実行することができるかを例示するために、実施形態が、次に、単に非限定の例として、添付図面を参照して説明される。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1A】損傷がなく均一な検出器区域の典型的な陰極ルミネセンス画像を示す図である。
図1B】損傷がなく均一な検出器区域の典型的な陰極ルミネセンス画像を示す図である。
図1C】シンチレータのイオン損傷区域の陰極ルミネセンス画像を示す図である。
図1D】シンチレータのイオン損傷区域の陰極ルミネセンス画像を示す図である。
図1E】本発明のいくつかの実施形態による、物体から放出された電子を検出するためのセンサと、センサ内の光子の伝搬とを表す一例の概略図である。
図2A】非劣化区域と、標準の使用条件でシンチレータにぶつかる線量電子を蓄積することによって劣化された区域とを示すシンチレータの区域の陰極ルミネセンス画像を示す写真である。
図2B】劣化およびその動的影響を示す図である。
図2C】劣化およびその動的影響を示す図である。
図2D】本発明のいくつかの実施形態による、物体から放出された電子を検出するためのセンサと、センサ内の光子の伝搬とを表す一例の概略図である。
図3】本発明のセンサとともに使用されるシステムを表す一例の概略図である。
図4】物体から放出された電子を検出するための技法を例示する流れ図である。
図5】本発明の教示に基づいて、センサの寿命を延ばすための技法を例示する流れ図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
上述のように、本発明者らは、驚いたことに、動作中に、シンチレータが負イオンによってさらに衝撃を与えられることを見出した。図1Aおよび図1Bは、それぞれ、損傷を与えるイオンビームが存在する場合および存在しない場合の物体の画像化領域を示す。そのような負イオンは、電子が衝撃を与えた物体の表面の近くで形成され、電子刺激脱離プロセスによって発生される。図1C図1Dに示されるように、負イオンは、検査される物体の表面で作り出され、カラムによって発生された電界によって荷電粒子ビームカラムに引き込まれる。そのイオンは、特定の電位によって加速され、検出器と衝突し、それを損傷する。シンチレータ構造との負イオンの相互作用を除去することにより、動作中の安定した陰極ルミネセンスと高速動作とが可能になる。
【0032】
本発明は、現在の性能を損うことなく、イオン損傷に対して十分に耐性がある検出器シンチレータを提供することを可能にする。これは、被覆構造の厚さおよび/または材料を適切に選択することによって実現することができる。被覆構造は、物体の表面で生じたイオンがシンチレータ構造に到達するのを防止するように構成され動作可能である。それにより、シンチレータ構造の寿命が延び、同様に、センサの寿命も延びる。図1Eを参照すると、物体から放出された電子を検出するように構成され動作可能である本発明のセンサ10が概略図によって示される。センサ10は、陰極ルミネセンスによっておよび電子e-の衝突時に特定の波長領域の光子を放出するように構成され動作可能である高速シンチレータ材料で製作されたシンチレータ構造12(例えば、シンチレータ膜)と、シンチレータ構造12とインターフェースし、物体から放出された電子e-にさらされる被覆構造14とを含む。シンチレータ材料によって発生された光子は、様々な方向に伝搬し得る。例えば、シンチレータ構造12によって放出された光子73は、荷電粒子ビームカラム(図3に示される)に組み込まれている導光体50の方に伝搬する。しかしながら、71で示されるような一部の光子は、導光体50に向かう方向とは異なる方向にシンチレータ構造12によって放出される。したがって、被覆構造14は、被覆構造14の方に伝搬するシンチレータ構造12によって放出された光子をシンチレータ構造12の方に向け直して戻すように選択された特定の反射の性質を有するように構成される。言い換えれば、被覆構造は、シンチレータ材料によって放出された光子をシンチレータ構造の活性区域の方に反射して戻すように選択された特定の材料組成を有する。「活性区域」という用語は、シンチレータ構造が放射線感受性を示す区域を指す。被覆構造14は、さらに、被覆構造14との衝突時の電子エネルギー損失を最小限に抑えながら、活性区域との負イオンの相互作用を少なくとも低減させる(例えば、完全に除去する)ように選択された特定の厚さTを有するように構成される。被覆構造14は、電子(二次電子および/または後方散乱電子など)がシンチレータ構造12に到達するのを可能にしながら、負イオンがシンチレータ構造12に到達するのを実質的に防止するのに十分な厚さに(例えば、数百ナノメートルに(例えば、約200ナノメートル~600ナノメートルの範囲で))製作される。これに関連して、被覆構造14を厚くしすぎると被覆構造14を通過する電子のエネルギーが減少する可能性があることに留意されたい。しかしながら、被覆構造14はイオン損傷を防止するので、被覆構造14の厚さTは、センサの感度と寿命との間のトレードオフをもたらす可能性がある。被覆構造14の厚さTは、センサを含むシステムの1つまたは複数のパラメータに基づいて決定することができる。例えば、低いエネルギーの負電子を停止させる場合、必要とされる要素は薄くすることができる。システムに沿って異なる電位方式を使用する場合、センサに衝突する負イオンの得られるエネルギーは低い場合もあり高い場合もある。システムの1つまたは複数のパラメータは、動作条件、照明パラメータ、収集パラメータ、シンチレータの事前定義された必要な寿命、およびシンチレータに到達する可能性がある負イオンの許容量を含むことができる。パラメータは、シンチレータに到達する可能性がある負イオンの許容パーセンテージ、負イオンに関連するパラメータおよび/またはセンサによって検出される電子に関連するパラメータ、負イオンの素性(例えば、負水素イオン)、センサに到達したときの負イオンのエネルギー、センサに到達したときの負イオンの分布、負イオンをセンサの方に導く加速電圧、センサの近傍の静電界のパラメータ、センサの近傍の磁界のパラメータ、センサに到達したときの電子のエネルギー、センサに到達したときの電子の分布、などをさらに含むことができる。被覆構造14の厚さTは、活性区域を損傷する負イオンのタイプに応じて選択することができる。具体的には、イオンは重いことも軽いこともあり、したがって、それに応じて、被覆構成を変えることができる。負イオンが異なる素性(例えば、水素)であると決定した後、被覆構造14内の負イオンの経路を測定および/またはシミュレートすることができ、被覆構造14は、経路の深さよりも厚くなるように設計することができる。シンチレータ構造12とインターフェースする被覆構造14は、シンチレータ構造に印加される電圧バイアス(すなわち、特定のカラムおよびウエハ電圧)をシンチレータの表面にわたって均一に分散させる機能を有する。したがって、被覆構造14は、活性区域と被覆構造との間のインターフェースの全域で均一な電位を維持するように構成され動作可能である。
【0033】
これに関連して、一方では、被覆構造14の厚さTは負イオンの伝搬を停止するように適切に選択されるべきであることに留意されたい。他方では、被覆構造14は、シンチレータ構造14の方に移動する電子を過度に減速させるべきでない。言い換えれば、コーティング厚さTは、一方では、イオンが活性区域に到達するのを阻止するように調整される。他方では、そのように調整は、効率を最大化するために電子エネルギー損失を最小限に抑える。被覆構造の反射の有効性は、排出される能力を電子に与え、電子のトラッピングを最小限に抑えることができる。その上、厚さTは、イオンがセンサにぶつかるエネルギーによって決定することができる。このエネルギーは、シンチレータおよび物体の電位によって決定される。言い換えれば、特定の厚さTは、特定のカラムおよびウエハの電圧に応じて、負イオンが活性区域と相互作用するエネルギーによって決定することができる。厚さTは、さらに、活性区域を損傷する負イオンのタイプに応じて選択することができる。被覆構造14の正確な厚さTは、使用条件およびセンサ構成ごとに決定され、依然として上記のガイドライン内のこれらの条件を考慮して、イオンの問題を緩和するように変えることができる。特定のおよび非限定の例では、被覆は、約9~15kVの範囲の衝突エネルギーを有する電子に対して少なくとも200nmの厚さを有する。
【0034】
その上、負イオンの相互作用に関連する問題は、高速シンチレータ材料が使用される場合に特に重要であることを理解されたい。それゆえに、例えば、シンチレータ構造は、半導体III-V多重量子井戸構造を含む。例えば、シンチレータ材料は、ヘテロ構造とすることができる。例えば、シンチレータ材料は、紫外線、青色、または黄色のスペクトルで放出することができる。例えば、半導体III-V多重量子井戸構造は、III族元素として、Ga、In、およびAlのうちの少なくとも1つを含み、主要なV族元素としてNを含む化合物を指す窒化物半導体層を含むことができる。
【0035】
図では、シンチレータ構造12および被覆構造14は、平面形状を有するように示されているが、これは単に一例であることに留意されたい。図を簡単および明確にするために、図に示された要素は必ずしも一定の縮尺で描かれていないことが理解されるであろう。被覆構造14は、任意の堆積方法によって(例えば、熱蒸発によって)シンチレータ構造12に堆積させることができる。被覆技術は十分に研究されており、本発明に含まれ得る多数の適切な被覆および層が存在する。追加として、本発明で必要とされる光学および/または保護の性質を有する当技術分野で知られている被覆を形成する多数の方法がある。
【0036】
被覆構造14は、材料の単層で形成されてもよく、または具体的に示されていないが複数の層を含んでもよい。いくつかの実施形態では、被覆構造14は、その深さに沿って異なる物理的および化学的性質を有する多重被覆構造を含む。多重被覆構造は、特定の材料組成および特定の厚さを有するように構成される。これらは、活性区域の陰極ルミネセンス効率の緩やかな劣化と、センサの動作中に発生され、シンチレータの寿命の全体にわたって漸進的に変化する陰極ルミネセンスの動的変化との両方を最小限に抑えるように選択される。この被覆およびセンサの異なる厚さおよび構成は、同じ走査電子顕微鏡でさえ使用することができる。
【0037】
いくつかの実施形態では、多重被覆構造は、放出された光子の特定の波長範囲において異なる反射係数を有する少なくとも2つの異なる被覆材料を含むことができる。多重被覆構造は、少なくとも2つの層で製作することができる。2つの層は、異なる厚さを有することができる。
【0038】
いくつかの実施形態では、多重被覆構造は、活性区域とインターフェースする第1の反射材料と、物体からの電子放出とインターフェースする第2の反射材料とを含むことができる。第1の反射材料は、第2の反射材料よりも低い反射係数を有することができる。活性区域の表面とインターフェースする第1の反射材料は、シンチレータ構造の表面との良好なオーミックコンタクトを可能にして、表面状態、欠陥、および電子トラップのうちの少なくとも1つの影響を緩和するように選択することができる。第2の反射層は、シンチレータ構造を損傷する負イオンのタイプに応じて選択された厚さを有することができる。したがって、第1の反射材料および第2の反射材料は、異なる厚さを有することができる。特定のおよび非限定の例では、第1の反射材料は、低い反射係数ために、比較的薄く(例えば、約3~20ナノメートルの範囲に(例えば、15ナノメートルに))することができる。しかしながら、第1の反射材料の厚さは、寿命問題を緩和し、低い反射係数に起因する効率の低減を最小限に抑えるように構成されるべきである。さらに、第2の反射材料は、電子(二次電子および/または後方散乱電子など)がシンチレータに到達するのを可能にしながら、負イオンがシンチレータ構造に到達するのを実質的に防止するのに十分な厚さに(例えば、数百ナノメートルに(例えば、約200ナノメートル~600ナノメートルの範囲に))される。これに関連して、第2の反射材料を十分に厚くすることにより、第2の反射材料を通過する電子のエネルギーを減少させることがあることに留意されたい。しかしながら、第2の反射材料はイオン損傷を防止するので、第2の反射材料の厚さは、センサの感度と寿命との間のトレードオフをもたらす可能性がある。第1の反射材料、または第1の反射材料と第2の反射材料の組合せは、負イオンがシンチレータ構造に到達するのを実質的に防止するように構成することができることに留意されたい。第1の反射材料の厚さを増加させると、負イオンがシンチレータ構造に到達するのを実質的に防止する際の第1の反射材料の役割を増加させることができる。例えば、第1の反射材料が、負イオンがシンチレータに到達するのを実質的に防止する主要な役割(または排他的な役割)を担うと予想される場合、第1の反射材料は、第2の反射材料よりも厚くすることができる。第1の反射材料の厚さおよび/または第2の反射材料の厚さはセンサを含むシステムの1つまたは複数のパラメータに基づいて決定することができることに留意されたい。いくつかの実施形態では、第2の反射層は、シンチレータ構造を損傷する負イオンのタイプに応じて選択された厚さおよび/または材料を有する。
【0039】
上述のように、シンチレータのルミネセンスの効率の劣化に関連する別の問題が、二次電子または後方散乱電子によって引き起こされるシンチレータ構造の損傷にある。劣化区域と、劣化区域を囲む非劣化区域とを有するシンチレータ構造の陰極ルミネセンス画像を示す図2Aを参照する。シンチレータの効率の劣化は、累積電子線量とともに経時的に増加する。電子衝撃は、シンチレータ構造に追加の欠陥を作り出し(または既存の欠陥のまわりの低効率領域を拡大し)、それゆえに、陰極ルミネセンス効率を低減させる。より具体的には、物体によって放出された電子の蓄積線量は、線量の増加によるシンチレータ効率の劣化(すなわち、陰極ルミネセンスの劣化)と、動的な/一時的な/過渡的な影響(以下、動的影響と呼ぶ)とを引き起こし、それにより、動作中に陰極ルミネセンスの変化が引き起こされる。これらの2つの影響は、シンチレータベース検出器の寿命を縮める。動的な挙動は、2つの影響、すなわち、効率回復および効率減衰の戻り(efficiency decay-back)に起因する。シンチレータが電子束にさらされると、回復が生じ、最初の露出時間フレーム(例えば、多数フレームの画像取込みにおける最初のフレーム)は、上述の劣化を示すが、連続する時間フレームではより明るくなる。回復の後、電子が検出器にぶつからない場合、効率はゆっくりと(例えば、数分の程度で)減衰して劣化した値に戻る。このプロセスは、減衰の戻りを指すことができる。減衰の戻りのプロセスは、内部欠陥をもつ材料のキャリア励起からの緩和がキャリアを欠陥に戻すことに関係する。劣化の影響を示す図2B図2Cを参照する。より具体的には、任意単位のシンチレータ出力対蓄積線量が、蓄積線量のスケールで図2Bに表される。任意単位の時間の関数としての異なる電流密度でのシンチレータ出力が、画像取得のスケールで図2Cに表される。シンチレータを電子にさらしたときの不要な動的影響が、図に明確に示されている。回復レートおよび飽和値は電流密度に依存する。電流密度が高いほど、効率の飽和が高いレベルになる。電流密度が高いほど、回復が速くなる。したがって、動的影響は、蓄積線量とともに増加し、動作中にシンチレータに影響を与える電流密度と、この電流密度の短期間履歴とに高度に依存する。より具体的には、動的影響は、現在の評価反復の特定の照明および/または収集条件に応じて変化する可能性があり、以前の評価反復によっても影響を受ける。シンチレータの効率の一定で安定した低下は、緩和または補正することができる。それとは反対に、動的影響は、上記の影響の依存性ために補償することがより困難である。この動的影響を蓄積する時間スケールは、シンチレータを含むシステムの動作条件の関数である場合があり、例えば、動作の数カ月~1年にわたることがある。動的影響の原因は、シンチレータ構造の表面の表面状態であることが見出された。これらの表面状態は、シンチレータ材料の物理的性質およびその成長方法から生じており、シンチレータ材料の固有の性質である。これに関連して、上述のようなシンチレータベース検出器の寿命を縮める影響は、特に、高速シンチレータで観察されることに留意されたい。
【0040】
図2Dを参照すると、物体から放出された電子を検出するように構成され動作可能である本発明のセンサ10’が、概略図によって示される。本発明のこの広範な態様によれば、センサ10’は、高速シンチレータ材料で製作されているシンチレータ構造12(例えば、シンチレータ膜)を含む。シンチレータ構造12は、陰極ルミネセンスによっておよび電子e-の衝突時に特定の波長範囲の光子を放出するように構成され動作可能であり、多重被覆構造14が、シンチレータ構造とインターフェースする。本発明は、特定のカラムおよびウエハ(すなわち、加速)電圧で動作する荷電粒子ビームカラムとともに使用され、寿命を延ばすように構成された、物体から放出された電子を検出するためのセンサを提供する。
【0041】
本発明者らは、異なる材料および異なる厚さが、異なる劣化および異なる回復をもたらすことを見出した。ある材料は、効率が最も高いが、寿命が最も短く、ある材料は、効率が低いが、寿命が最も長い。それゆえに、本発明は、深さに沿って異なる物理的および化学的性質を有する多重被覆構造を提供する。選択された材料を選択された厚さで独自に組み合わせて、寿命を延ばし効率を最適化したセンサを提供する。これらの性質の変化は、連続的であってもよく、または多重被覆構造が、異なる性質を有する2つの幾何学的領域を画定してもよい。多重被覆構造は、2つの異なる被覆材料で、または特定の性質を有する1つの複合材料(例えば、上記の性質を有する単一の材料)で製作することができる。
【0042】
これに関連して、量子井戸は、励起下で、光子を放出することを理解されたい。これらの光子は広がって、シンチレータ構造全体によって形成される体積を満たし、光子は、この体積を出る前に内部「モード」を形成する。シンチレータ構造内の光学モードは、境界での全反射によって部分的に閉じ込められるが、さらに、インターフェースを越えてわずかに広がり、シンチレータ構造と被覆構造との間のインターフェースにエバネッセント部分を含む。このインターフェースは、透明であることもあり吸収性であることもある。インターフェースが透明である場合、それは、誘電体クラッド(損失なし)として働く。しかしながら、インターフェースが吸収性である場合、ルミネセンスの一部はセンサによって収集されず、インターフェースで吸収される。それゆえに、本発明の多重被覆構造の材料組成は、インターフェースの性質を制御して光損失を最小限に抑えるように適切に選択される。その上、上述のように、自然酸化物層、ならびに炭化水素および他の汚染が、被覆の前にシンチレータ表面を覆っていることがあることにも留意されたい。酸化されたシンチレータ表面は、センサの電気的性質を変更することがある。この目的のために、本発明では、シンチレータ表面とインターフェースする被覆材料の材料組成は、下層から酸素を吸い取るO2スカベンジャとなるように選択することができる。このようにして、センサの光効率の劣化は、最小限に抑えられる。
【0043】
動的影響のそのような最小化により、ある期間にわたってセンサの均一な非劣化効率が提供される。シンチレータ材料の物理的性質およびその成長方法のために、半導体シンチレータ材料(例えば、単結晶または多重量子井戸)は、電子トラップを発生する欠陥および表面状態を含む。以下は、そのような影響の原因の物理的説明とすることができる。欠陥は、帯電すると、電荷に対する局所電位バリアを生成することがあり、非発光再結合サイト(加熱中心)になることがある。欠陥は、トラップ、空乏体積、非発光再結合中心、および局所加熱として振る舞うことがあり、強力な励起(例えば、e-ビーム照射)下で拡大または増殖しやすい。これらの電子トラップは、局所電位を発生することがあり(すなわち、伝導帯と価電子帯の両方の電位を上昇させ)、自由電子に対する反発作用を生成し、その結果として、局所空乏層を発生する。空乏層は、キャリア密度を局所的に低減させ、それにより、発光再結合および総合効率を低減させ、さらに、上述の動的影響を促進することがある。上述のように、表面状態は、陰極ルミネセンス強度の変化の動的影響を作り出し、センサの寿命を縮めることがある。本発明の技法は、これらの影響を緩和し(例えば、これらの表面状態を中和することによって)、それによって、センサの効率および効率の均一性と、センサの寿命とを向上させる。多重被覆構造は、異なる物理的性質を有する少なくとも2つの材料で製作することができる。これに関連して、単一の被覆層を使用して、放出された光子をシンチレータ構造の方に反射する場合、この単一の被覆層は、光子を効率的に反射して戻すのに十分に高い反射係数を有する材料で製作されなければならないことを理解されたい。しかしながら、高い反射係数を有する材料は、上述の寿命の影響を緩和するための所望の物理的および化学的性質を有していない。その上、そのような材料は、シンチレータ材料との良好な電気コンタクトを有していないことがあり、その結果、シンチレータ材料の表面に作り出される表面状態は中和されない。したがって、実施形態によっては、選択される材料は、シンチレータ材料の表面に延びる欠陥コアとの良好なオーミックコンタクトを有し、それにより、欠陥コアの電荷を中和しなければならない。その結果として、これは、欠陥のまわりの電位を平坦化し、新しいトラップの形成を防止するかまたは低下させる。
【0044】
その上、シンチレータ半導体材料とともに使用される被覆材料は、被覆材料と半導体材料との間のインターフェースで化学反応を引き起こす。そのとき、通常は非導電性である中間層が作り出され、センサの効率を低下させることがある。本発明者らは、驚いたことに、半導体シンチレータ材料とのインターフェースに追加の被覆材料を導入すると、センサの寿命が延びることを見出した。本発明のセンサは、センサ効率への影響を最小限にしながら、寿命を延ばし、動作中の陰極ルミネセンスを安定化させる。
【0045】
図2Dのこの特定のおよび非限定の例では、多重被覆構造14は、少なくとも2つの層で製作される。多重被覆構造14は、活性層によって放出された光子をシンチレータ構造12の方に反射して戻すように構成され動作可能である。多重被覆構造14は、さらに、寿命の影響を緩和するように構成され動作可能である。具体的には、多重被覆構造14は、上記の発光再結合の低減および関連する動的影響を避けるように構成することができる。被覆とシンチレータ構造との間のインターフェースの品質および性質を制御することにより、動作中の安定した均一な陰極ルミネセンスが提供される。例えば、これは、シンチレータ材料との良好な電気(例えば、オーミック)コンタクトを有する材料を設けることによって実現され、表面状態、欠陥、および電子トラップの影響を緩和する(例えば、シンチレータ構造の表面の表面状態を中和する)ことができる。したがって、多重被覆構造14は、シンチレータ構造12の陰極ルミネセンスの緩やかな劣化と、センサ10’の動作中の陰極ルミネセンスの動的変化との両方を最小限に抑えるように構成され動作可能にすることができる。いくつかの実施形態では、多重被覆構造14は、センサに電位を印加する電極として機能できるように少なくとも1つの導電性材料で製作される。この特定のおよび非限定の例では、多重被覆構造14は、放出された光子の特定の波長範囲での反射係数、コンダクタンス、および他の化学的性質などの異なる物理的および化学的性質を有する少なくとも2つの異なる被覆材料14Aおよび14Bを含む。特定のおよび非限定の例では、1つの被覆材料の反射係数は、シンチレータから放出された特定の波長に対して約0.5であり、第2の被覆材料に対して>0.9である。寿命問題およびイオン問題を緩和する同じ性質を提供する他の材料では、これらの値は異なることがある(例えば、第1の被覆材料に対して0.8および第2の被覆材料に対して>0.9)。第1の反射材料14Aは、シンチレータ構造12とインターフェースし、第2の反射材料14Bは、物体からの電子放出とインターフェースする。第1の反射材料14Aは、第2の反射材料14Bよりも低い反射係数を有する。これに関連して、第2の反射材料14Bは、シンチレータ構造12によって放出された光子を、効率的な方法で、反射して戻すように選択されることを理解されたい。それに応じて、第1の反射材料14Aは、光子(シンチレータからの)の一部を反射してシンチレータ構造12に戻す。例えば、シンチレータ構造12によって放出された光子73は、荷電粒子ビームカラム(図3に示される)に組み込まれている導光体50の方に伝搬する。この図はまた、光子71が、シンチレータ構造12によって第1の反射材料14Aの方に放出され、さらに、第1の反射材料14Aからシンチレータ構造12の方に向け直されることを示している。第2の反射材料14Bは、第1の反射材料14Aから第2の反射材料14Aの方に通る光子を反射してシンチレータ構造12の方に戻すように構成される。説明のために、光子72は、シンチレータ構造12から第1の反射材料14Aの方に放出され、第2の反射材料14Bの方に伝搬する。第2の反射材料14Bは、光子72を第1の反射材料14Aを通してシンチレータ構造12(および導光体50)の方に向け直す。第2の反射材料14Bのより高い反射係数により、光子の大部分がシンチレータ構造12の方に反射されて戻る。しかしながら、高い反射係数を有する反射材料は、上記の寿命の問題を緩和または解決しない。反射材料14Aは、反射材料14Aとシンチレータ構造12との間のインターフェースにおいて、上述のように導電性の低い中間層を作り出した可能性がある反射材料14Bとシンチレータ構造12との間の架空のインターフェースにおける反射材料14Bよりも良好な電気(例えば、オーミック)コンタクトを有する。シンチレータ構造12の特定の物理的性質(例えば、コンタクトの性質)は、実際には、シンチレータの劣化および動的影響を引き起こす物理的機構を中和する。このようにして、センサの動作中の陰極ルミネセンスの動的変化が最小限に抑えられるとともに、センサの寿命が延ばされ、センサの均一な効率が、ある期間にわたって、提供される。上述のように、シンチレータ材料の劣化に起因して、例えば、6カ月後、当技術分野で知られているシンチレータ材料に基づく従来のセンサの効率は、初日に撮影された第1のフレームと比較して非常に低いことに留意されたい。したがって、シンチレータ材料に基づく従来のセンサの効率は、不均一であり、正確に予測することができず、それゆえに、その結果、補償することができない。しかしながら、驚いたことに、本発明のセンサを使用することにより、上記の動的影響の最小化は光子放射の増加をもたらす。本発明のセンサの効率は、多重被覆構造のおかげで、均一である。
【0046】
例えば、少なくとも1つの被覆材料は、金属材料で製作することができる。特定のおよび非限定の例では、多重被覆構造14は、チタン、アルミニウム、窒化物、金、銀、モリブデン、チタンアルミナイド、パラジウム、タングステン、インジウムスズ酸化物、ホウ化ジルコニウム、クロム、白金、バナジウム、およびハフニウムのうちの少なくとも2つで製作することができる。
【0047】
いくつかの実施形態では、第1の反射材料14Aおよび第2の反射材料14Bは、同じ厚さを有する層である。特定のおよび非限定の例では、第1の反射材料14Aは、低い反射係数のために、比較的薄く(例えば、約3~20ナノメートルの範囲に(例えば、15ナノメートルに))することができる。第2の反射材料14Bは、同様に、比較的薄く(例えば、約3~20ナノメートルの範囲に(例えば、15ナノメートルに))することができる。しかしながら、第1および第2の反射材料の厚さは、シンチレータからの光子の一部をシンチレータに反射して戻すのに十分な大きさにすべきである。代替として、第1の反射材料14Aおよび第2の反射材料14Bは、異なる厚さを有する層である。
【0048】
物体から放出された電子を検出するための本発明のセンサとともに使用されるシステム100を示す図3を参照する。例えば、システム100は、走査電子顕微鏡(SEM)または他の電子ビーム検査ツールの少なくとも一部分とすることができる。システム100は、物体200を支持し移動させるための機械ユニット130を含む。システム100は、特定のカラムおよびウエハ電圧で動作する荷電粒子ビームカラム120などの荷電粒子ユニットをさらに含む。荷電粒子ビームカラム120は、光子で物体を照射し、物体200から放出された荷電粒子を検出するように構成される。荷電粒子ビームカラム120は、図1Dのセンサ10または図2Dのセンサ10’によって実現することができる本発明のセンサSを含む。システム100の構成は、特定のおよび非限定の例であり、センサSは、システム要件に応じて任意の適切な場所に配置することができる。本発明は、この構成に限定されない。センサSは、物体200から放出された荷電粒子にさらされ、陰極ルミネセンスによっておよび特定の衝撃エネルギーでの荷電粒子の衝突時に特定の波長範囲の光子を放出する。センサSは、荷電粒子ビームカラム120に組み込まれた導光体50および光電子増倍管60に関連付けることができる。導光体50は、センサSと光電子増倍管60との間に位置付けられる。荷電粒子ビームカラム120は、特定のカラムおよびウエハ電圧で動作して、シンチレータ構造によって放出された光子の導光体50の方への伝搬を可能にする。導光体50に向かうのとは異なる方向に放出された光子は、導光体50の方に向け直されるべきである。それゆえに、センサSはまた、シンチレーティング構造の方に、さらに導光体50の方に光子を反射するように構成される。
【0049】
図4は、物体から放出された電子を検出するための方法300の一例である。方法300は、310においてシンチレータ構造によって電子を受け取ることと、電子の受け取りにより320において光子を放出することとを含む。320において光子を放出することは、その後に、330において、シンチレータ構造の方に、被覆構造を通過した光子を反射することが続く。シンチレータ構造と被覆構造との間のインターフェースは、インターフェースの性質を制御するように構成され動作可能である。方法300は、340において負イオンがシンチレータに到達するのを実質的に防止することを含むことができる。そのような実質的な防止は、すべての負イオンがシンチレータに到達するのを防止すること、または負イオンの大部分(例えば、80%、90%、95%、99%など)に限ってシンチレータに到達するのを防止することを含むことができる。
【0050】
図5は、物体から放出された電子を検出するためのセンサの寿命を延ばすための方法400の一例である。方法400は、410において、活性区域によって放出された光子を反射して戻すように構成された多重被覆構造とインターフェースする活性区域を有するシンチレータ構造を用意することと、420において、活性区域と多重被覆構造との間のインターフェースの性質を制御することと、430において、活性区域の陰極ルミネセンス効率の緩やかな劣化と、センサの動作中に発生され、シンチレータの寿命の全体にわたって漸進的に変化する陰極ルミネセンスの動的変化との両方を最小限に抑え、それによって、センサの寿命を延ばすことと含む。方法400は、422において、多重被覆構造の材料を選択して、シンチレータ材料との良好な電気コンタクト(オーミックコンタクト)を設けることをさらに含むことができる。方法400は、さらに、432において、シンチレータ構造との負イオンの相互作用を除去することから成ることができる。この目的のために、方法400は、さらに、434において、多重被覆構造の厚さを選択することから成ることができる。例えば、多重被覆構造の厚さは、増加させることができる。
図1A
図1B
図1C
図1D
図1E
図2A
図2B
図2C
図2D
図3
図4
図5