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特許7177394複合構造体、その製造方法及びその複合構造体を含む濾材
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-15
(45)【発行日】2022-11-24
(54)【発明の名称】複合構造体、その製造方法及びその複合構造体を含む濾材
(51)【国際特許分類】
   D01F 6/12 20060101AFI20221116BHJP
   B01D 39/16 20060101ALI20221116BHJP
   D01D 5/04 20060101ALI20221116BHJP
   D04H 1/413 20120101ALI20221116BHJP
   D04H 1/4382 20120101ALI20221116BHJP
   D04H 1/728 20120101ALI20221116BHJP
【FI】
D01F6/12 Z
B01D39/16 A
D01D5/04
D04H1/413
D04H1/4382
D04H1/728
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019064343
(22)【出願日】2019-03-28
(65)【公開番号】P2020165010
(43)【公開日】2020-10-08
【審査請求日】2021-09-08
(73)【特許権者】
【識別番号】311002067
【氏名又は名称】JNC株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】399120660
【氏名又は名称】JNCファイバーズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000475
【氏名又は名称】特許業務法人みのり特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】梅林 陽
(72)【発明者】
【氏名】平本 晋平
(72)【発明者】
【氏名】伊東 秀実
【審査官】横山 敏志
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-044282(JP,A)
【文献】国際公開第2013/051185(WO,A1)
【文献】特開2010-247035(JP,A)
【文献】国際公開第2013/047264(WO,A1)
【文献】国際公開第2009/031334(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D04H1/00-18/04
B01D39/14-39/20
D01D1/00-13/02
D01F1/00-6/96
9/00-9/04
D06M13/00-15/715
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維径が500nm未満である極細繊維とビーズとを含む複合構造体であって、
前記極細繊維と前記ビーズとが同一の成分であり、
当該複合構造体を、走査型電子顕微鏡を使用して観察したとき、直径5μm以上であるビーズ500個/mm以上である、複合構造体。
【請求項2】
繊維径が200nm以下である極細繊維を、繊維全体に対して50重量%以上含む、請求項1に記載の複合構造体。
【請求項3】
繊維径が500nm以上である細繊維を、繊維全体に対して5重量%以上さらに含む、請求項1または2に記載の複合構造体。
【請求項4】
請求項1~のいずれか1項に記載の複合構造体を含む濾材。
【請求項5】
ポリフッ化ビニリデン、ポリアミド、ポリウレタン、及びポリ乳酸からなる群から選ばれるいずれか少なくとも1種の樹脂を溶媒に溶解させた紡糸溶液を調製する工程と、
当該紡糸溶液を、静電紡糸法によって紡糸し、繊維径が500nm未満である極細繊維とビーズとを含む複合構造体を得る工程と、を含む、
請求項1~のいずれか1項に記載の複合構造体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合構造体、その製造方法及びその複合構造体を含む濾材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、花粉や粉塵などの微細なダストを除去するためのエアフィルター用の濾材として、不織布製シートが多く用いられている。このようなフィルター用の濾材には、ダストを高効率で捕集する性能(高い捕集効率)と、濾材を流体が通過する際の抵抗が少ない性能(低い圧力損失)とが求められている。
【0003】
高い捕集効率と低い圧力損失を達成する方法として、極細繊維を用いた濾材が提案されている。例えば、特許文献1には、平均繊維径が170nm以下である極細繊維層を備えた濾材が提案されている。しかしながら、このような濾材は、極細繊維が緻密なマトリクスを形成するため、得られるフィルターの圧力損失が大きくなる傾向にあった。
【0004】
極細繊維を用いた濾材における低圧力損失化、長寿命化の課題を解決する方法として、極細繊維と、極細繊維よりも太い繊維とを混合させた混繊濾材が提案されている。例えば特許文献2には、静電紡糸により形成された極細繊維とメルトブロー法により形成されたメルトブロー繊維とが混在する不織布が提案されている。しかしながら、特許文献2の濾材は、異なる原理を用いた繊維製造方法を組み合わせているため、製造装置が煩雑になり製造効率の点では必ずしも好ましいものではなかった。
【0005】
また、例えば、特許文献3には、ナノファイバーとビーズとが一体化された数珠状繊維からなるナノファイバー製の濾材が提案されている。特許文献3の濾材はエアフィルター用であり、数珠状繊維の平均繊維径は0.001~0.13μmである。また、数珠状繊維のビーズ径はその平均繊維径の2~10倍であると記載されており、実施例に示された数珠状繊維のビーズ径は数百nm程度である。特許文献3には、このような数珠状繊維からなるエアフィルター濾材によれば、繊維径を細くできると同時に、必要な繊維間距離も確保でき、このような数珠状繊維を用いた濾材からなるエアフィルターは高性能化を図れることが開示されている。しかしながら、特許文献3のエアフィルター濾材にも、エアフィルターの低圧力損失化と長寿命化にさらなる改善の余地があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2006-341233号公報
【文献】特開2009-057655号公報
【文献】特開2010-247035号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、上記のような問題点を解決し、ダストの捕集効率が高く、圧力損失が低く、長い寿命を兼ね備えた濾材、また、その濾材に用いられるフィルター材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記した課題を解決すべく鋭意研究を重ね、極細繊維とビーズとを含む複合構造体のフィルター材において、ビーズの大きさに着目し、ビーズが小さすぎるとエアフィルターの高性能化に十分な効果が得られないことを見出した。そして、ビーズの大きさ、さらにはビーズの含有率が、フィルターの性能に大きな影響を与えることを確認した。そして、さらなる検討の結果、極細繊維のマトリクス中に、特定範囲の大きさのビーズを特定範囲の密度で含む複合構造体は、ダストの捕集効率が高く、圧力損失が低く、長い寿命を兼ね備えた濾材を提供できることを見出し、さらに、かかる複合構造体は、静電紡糸の材料および条件の調整によって、合理的な工程およびコストで製造可能であることを確認し、本発明を完成した。
【0009】
本発明は、下記の構成を有する。
[1]繊維径が500nm未満である極細繊維とビーズとを含む複合構造体であって、当該複合構造体の最表面に、直径5μm以上であるビーズを500個/mm以上含む、複合構造体。
[2]前記極細繊維と前記ビーズとが同一の成分である、[1]に記載の複合構造体。
[3]繊維径が200nm以下である極細繊維を、繊維全体に対して50%以上含む、[1]または[2]に記載の複合構造体。
[4]繊維径が500nm以上である細繊維を、繊維全体に対して5%以上さらに含む、[1]~[3]のいずれか1項に記載の複合構造体。
[5][1]~[4]のいずれか1項に記載の複合構造体を含む濾材。
[6]ポリフッ化ビニリデン、ポリアミド、ポリウレタン、およびポリ乳酸からなる群から選ばれる少なくとも1種の樹脂を溶媒に溶解させた紡糸溶液を調製する工程と、
当該紡糸溶液を、静電紡糸法によって紡糸し、繊維径が500nm未満である極細繊維とビーズとを含む複合構造体を得る工程と、を含む、[1]~[4]のいずれか1項に記載の複合構造体の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の複合構造体を用いることで、ダストの捕集効率が高く、圧力損失が低く、長い寿命を備えた濾材を、合理的なコストで製造し、提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の複合構造体(実施例1)の走査型電子顕微鏡画像である。
図2】本発明の複合構造体(実施例2)の走査型電子顕微鏡画像である。
図3】本発明の複合構造体(実施例3)の走査型電子顕微鏡画像である。
図4】本発明の複合構造体(実施例4)の走査型電子顕微鏡画像である。
図5】本発明の複合構造体(実施例5)の走査型電子顕微鏡画像である。
図6】本発明の範囲外である繊維層(比較例1)の走査型電子顕微鏡画像である。
図7】本発明の範囲外である繊維層(比較例2)の走査型電子顕微鏡画像である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0013】
本発明の複合構造体は、繊維径が500nm未満である極細繊維とビーズとを含み、当該複合構造体の最表面に直径が5μm以上であるビーズを500個/mm以上含むことを特徴とする。本発明の複合構造体は、極細繊維のマトリクス中に、直径5μm以上という比較的大きなサイズのビーズが多量に存在することによって、極細繊維間の距離を適切に維持することができるため、ダストの捕集効率が高く、圧力損失が低く、長い寿命を備えた濾材を提供することが可能となると考えられている。このような観点から、直径5μm以上のビーズ数としては、1000個/mm以上であることがより好ましく、1500個/mm以上であることがさらに好ましい。本発明の複合構造体は、肉眼視では、大略的に、不透明で平滑な表面を有する薄いフィルム状の物体であり、電子顕微鏡等で拡大視すると、極細繊維のマトリクス中に多数のビーズが分散して存在する構造であることが観察できる。なお、本明細書において極細繊維とは、繊維径が500nm未満である繊維を意味し、以下、特に説明のない限り、「極細繊維」とは繊維径が500nm未満である繊維を意味している。
【0014】
本発明の複合構造体に含まれる極細繊維は、本発明の効果を有する限り特に限定されないが、繊維径が200nm以下である繊維を、繊維全体に対して50%以上含むことが好ましく、70%以上含むことがより好ましく、80%以上含むことがさらに好ましい。繊維径が200nm以下の繊維の割合が50%以上であれば、極細繊維の比表面積が大きくなり、複合構造体を濾材として用いた場合、低い圧力損失を有し、かつ高い捕集効率を有するといった高いフィルター性能が得ることが可能である。なお、ここでいう繊維の割合は、すべての繊維の総数(本数)に対する、所定の繊維径を有する繊維の本数の割合(%)である。
【0015】
本発明の複合構造体に含まれるすべての繊維に対する平均繊維径は、本発明の効果を有する限り特に限定されないが、10~500nmの範囲であることが好ましく、20~300nmの範囲であることがより好ましく、30~100nmの範囲であることがさらに好ましい。平均繊維径が500nm以下であれば、比表面積が大きくなり、複合構造体を濾材として用いた場合、低い圧力損失を有し、かつ高い捕集効率を有するといった高いフィルター性能を得ることが可能である。一方、繊維径の減少とともに繊維1本当たりの強度が低下してフィルターへの加工時や使用時における繊維の破断を引き起こす可能性があるが、平均繊維径が10nm以上であれば十分な単糸強度が得られる。複合構造体に含まれるすべての繊維に対する繊維径の変動係数は、特に限定されず、0.5未満であっても、0.5以上であってもよい。繊維径の変動係数が0.5未満であれば、ダストの捕集に有効に作用する繊維の割合が増え、少ない繊維量で高い捕集効率が得られる。繊維径の変動係数が0.5以上であれば、繊維同士の間隔が拡がり、フィルターの寿命を向上させることができる。本発明の複合構造体は、目的の用途や性能等に応じて、繊維径の変動係数が小さい(例えば0.5未満、好ましくは0.3未満である)繊維を用いてもよいし、異なる繊維径を有する繊維を含むようにすることも好ましい。
【0016】
本願発明の複合構造体は、その最表面に直径が5μm以上であるビーズを500個/mm以上含むという特徴を有するところ、複合構造体に含まれるビーズの平均直径としては、特に限定されないが、3~30μmの範囲であることが好ましく、5~20μmの範囲であることがより好ましい。平均直径が3μm以上であれば、複合構造体を濾材として用いた場合、低い圧力損失を有し、かつ長い寿命を有するといった高いフィルター性能が得られるため好ましく、平均直径が30μm以下であれば、極細繊維間の距離が拡がりすぎないため、複合構造体が高い強度を維持することができ、フィルターへの加工の際に破断しにくくなるため好ましい。なお、ビーズの直径の測定ないし算出は、走査型電子顕微鏡を用いて、複合構造体の最表面に存在するビーズの直径を画像解析ソフトで測定することによって行うことができる。より具体的なビーズの直径の測定方法は、実施例の項で説明される。
【0017】
本発明の複合構造体に含まれるビーズは、球形ないし紡錘形、あるいはそれらに類似する形態の塊状物であり、例えば電子顕微鏡で観察可能である。ビーズは、それ自体が一つのビーズから形成されていても、より微小な粒子が多数凝集して一体化した、表面に凹凸のある略球状の塊状体であってもよい。比較的サイズの大きいビーズを得るためには、微小な粒子が多数凝集して一体化した形状であることが好ましい。ビーズが紡錘形である場合、紡錘の短軸長をビーズの直径とする。また、ビーズの含有率は、複合構造体の最表面に存在する単位面積当たりのビーズの個数によって算出される。本発明の複合構造体は、極細繊維によって形成される繊維の三次元マトリクス中に、多数のビーズが分散して存在する構造であるところ、ビーズの含有率の算出に際しては、最表面に存在するビーズの個数のみを数えて、面積あたりの含有個数を算出する。
【0018】
本発明の複合構造体において、極細繊維とビーズとは、それぞれが独立に存在し、極細繊維で形成されるマトリクスの空隙部にビーズが入り込むことで保持されている形態であってもよいし、また、極細繊維の一部が膨出することでビーズを形成している、すなわち、繊維とビーズとが一体に(数珠状に)連なっている形態であってもよく、両方の形態が混在していてもよい。典型的には、極細繊維のマトリクス中にビーズが混在している形態と、数珠状に連なっている形態が混在している状態である。
【0019】
極細繊維及びビーズは、同一成分であっても、異種成分であってもよいが、複合構造体の均一性、製造時の安定性などの観点から、同一成分であることが好ましく、具体的には、同一成分の樹脂であることが好ましい。このような樹脂としては、特に限定されないが、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキシド、ポリビニルピロリドン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリ乳酸、ポリアミド、ポリウレタン、ポリスチレン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフッ化ビニリデン、ポリアクリロニトリル、ポリメタクリル酸メチル、ポリグリコール酸、ポリカプロラクトン、ポリ酢酸ビニル、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリエーテルイミド、セルロース、セルロース誘導体、キチン、キトサン、コラーゲン、ゼラチン及びこれらの共重合体などの高分子材料を例示できる。ビーズの形成しやすさの観点から、ポリフッ化ビニリデン、ポリアミド、ポリウレタン、ポリ乳酸であることが好ましく、ポリフッ化ビニリデンであることがより好ましい。樹脂の重量平均分子量としては、特に限定されないが、10,000~10,000,000の範囲であることが好ましく、50,000~1,000,000の範囲であることがより好ましく、300,000~600,000であることがさらに好ましい。重量平均分子量が10,000以上であれば、極細繊維およびビーズの形成性に優れるため好ましく、10,000,000以下であれば、溶解性や熱可塑性に優れ、加工が容易になるため好ましい。
【0020】
本発明の複合構造体は、前述の極細繊維およびビーズに加えて、極細繊維の平均繊維径よりも大きい平均繊維径を有する細繊維をさらに含んでもよい。細繊維を含む場合、極細繊維とビーズとを含む複合構造体に、細繊維が積層されていてもよいし、混繊されていてもよい。細繊維を含むことで、複合構造体の強度が高くなり、フィルターへの加工の際に破断しにくくすることが可能となる。このような観点から、細繊維は複合構造体中に混繊されている方が、複合構造体としての強度が向上するため好ましい。細繊維の平均繊維径としては、特に限定されないが、500~5000nmの範囲であることが好ましく、600~2000nmの範囲であることがより好ましい。細繊維の平均繊維径が500nm以上であれば、複合構造体布の強度が高まり、加工性が向上するだけでなく、極細繊維同士の繊維間の距離を大きくし、フィルターの濾材として用いた場合に、捕集されたダストによって目詰まりしにくく、フィルターを長寿命化させることができる。細繊維の平均繊維径が5000nm以下であれば、比較的低目付でも使用に見合う効果が得られ、フィルターの薄型化や生産性向上が可能となる。繊維径が500nm以上の細繊維を、繊維全体に対して5%以上含むことが好ましく、10%以上含むことがより好ましい。細繊維の繊維径の変動係数は、特に限定されないが、0.5以下であることが好ましく、0.3以下であればさらに好ましい。細繊維の変動係数が0.5以下であれば低目付でも複合体の強度向上といった使用に見合う効果が得られるため、フィルターの薄型化、小型化が可能となる。
【0021】
細繊維の樹脂としては、特に限定されないが、極細繊維と同一成分の樹脂を用いてもよいし、異種成分であってもよい。異種の樹脂の組み合わせとしては特に限定されないが、非エラストマー樹脂/エラストマー樹脂、高融点樹脂/低融点樹脂、高結晶性樹脂/低結晶性樹脂、親水性樹脂/撥水性樹脂などを例示できる。例えば、非エラストマー樹脂からなる極細繊維と、エラストマー樹脂からなる細繊維を組み合わせることで、複合構造体に伸縮性を付与することが可能であり、エアフィルター用としてプリーツ加工する際に、曲げによる破断が抑制されるという効果を奏する。エラストマー樹脂としては、特に限定されないが、ポリオレフィン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリウレタン系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、フッ素系エラストマーなどを例示できる。また、高融点樹脂からなる極細繊維と低融点樹脂からなる細繊維とを組み合わせ、極細繊維の融点未満、細繊維の融点以上の温度で熱処理し、極細繊維と細繊維、または細繊維同士を融着させることにより、得られる複合構造体の捕集効率を維持しつつ、加工強度を高めることが可能となる。さらに、基材や他の層と一体化する際には、細繊維と基材や他の層とが互いに融着させることができるため、一体化した積層体の強度をさらに高めることが可能となる。高融点樹脂/低融点樹脂の組み合わせとしては、特に限定されないが、融点差が10℃以上あることが好ましく、20℃以上あることがさらに好ましい。このような樹脂の組み合わせとして特に限定されず、例えば、ポリフッ化ビニリデン/フッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンとの共重合体、ナイロン66/ナイロン6、ポリ-L-乳酸/ポリ-D,L-乳酸、ポリプロピレン/ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート/ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート/ポリプロピレンなどを例示できる。また、高結晶性樹脂からなる極細繊維と低結晶性樹脂からなる細繊維とを組み合わせることで、複合構造体に寸法安定性を付与することが可能であり、フィルター用の濾材として用いた場合、幅広い温度や湿度環境でもフィルター性能を維持することができる。高結晶性樹脂としては特に限定されず、ポリフッ化ビニリデン、ナイロン6、ナイロン66、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリ乳酸、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコールなどを例示できる。低結晶性樹脂としては特に限定されず、フッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンとの共重合体、エチレンとプロピレンとの共重合体、ポリ-D,L-乳酸、ポリスチレン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリカーボネート、ポリメタクリル酸メチル、ポリウレタン、ポリ酢酸ビニルなどを例示できる。
【0022】
本発明の複合構造体の目付は、特に限定されないが、0.1~20g/mの範囲であることが好ましく、1~15g/mの範囲であることがより好ましく、3~10g/mの範囲であることがさらに好ましい。目付が0.1g/m以上であれば、フィルターの濾材として、長寿命で、捕集効率が高く、フィルターへの加工強度を高くすることが可能となり、目付が20g/m以下であれば、フィルターの濾材として、圧力損失を低くすることが可能である。
【0023】
本発明の複合構造体の平均流量細孔径は、特に限定されないが、1.0~10.0μmの範囲であることが好ましく、1.5~5.0μmの範囲であることがより好ましい。平均流量細孔径が1.0μm以上であれば、フィルターの濾材として、ダストの目詰まりがしにくく、長寿命のフィルターが得られる。また、平均流量細孔径が10.0μm以下であれば、高い捕集効率が得られるため好ましい。
【0024】
本発明の複合構造体は、特に限定されないが、他の不織布、織布、ネットまたは微多孔フィルムなどの基材と積層一体化されていてもよい。基材と積層一体化させることで、複合構造体と基材の特性を複合化した積層体を得ることができる。エアフィルターの濾材として用いる場合、加工性や通気性の観点から、基材は不織布であることが好ましい。基材と一体化された複合構造体は、ダストの高い捕集効率、高い通気・通液特性、ダストが捕集されても高い通気・通液特性を維持する長寿命特性といった複合構造体に由来するフィルター特性だけでなく、複合構造体の表面が非常に細かい凹凸形状を有し、かつ高い空隙構造を有することから生じる、非常に優れた撥水、撥油特性なども発揮できる。複合構造体と組み合わせる基材の特性としては、例えば、力学強度、耐摩耗性、プリーツ加工性、接着特性、フィルター特性などを例示でき、複合構造体の用途や形態に応じて、このような特性の基材を適宜選択することができる。複合構造体と基材とを積層一体化させる方法としては特に限定されず、別々に製造された複合構造体と基材とを接着剤や熱融着により一体化してもよいし、基材上に複合構造体を直接形成することにより一体化してもよく、基材上に複合構造体を直接形成した後に、さらに熱処理により一体化してもよい。
【0025】
本発明の複合構造体にさらに基材が積層される場合、基材の目付は特に限定されず、例えば、5~200g/mの範囲を例示できる。基材の目付が5g/m以上であれば、複合構造体の収縮、皺入り、カール等を抑制し、加工強度を付与することが可能となり、200g/m以下であればエアフィルターの薄型化や生産性向上が可能となる。60~120g/mの範囲であれば十分な加工強度の付与と薄型化が可能であるためより好ましい。基材の比容積は特に限定されないが、基材と複合構造体との密着性の向上、基材と複合構造体との摩擦の低減という観点から、5cm/g以下であることが好ましく、3cm/g以下であることがさらに好ましい。
【0026】
基材を構成する素材は、必要に応じて適宜選定すればよく特に限定されない。素材として、例えば、ポリプロピレンやポリエチレンなどのポリオレフィン系素材を用いた場合には、耐薬品性に優れるという特徴があり、耐薬品性が必要な液体フィルターなどの用途で好適に使用できる。また、素材として、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ乳酸、またはこれらを主成分とする共重合体などのポリエステル系素材を用いた場合には、プリーツ特性に優れるので、プリーツ加工が必要なエアフィルターなどの用途で好適に使用できる。ポリエステル系素材は、ホットメルトなどの接着成分との濡れ性が高く、ホットメルト接着によって製品を加工する場合に好適に使用することができる。ポリプロピレン系やポリエステル系の素材が表面を構成する基材は、超音波による接着が可能となるので、好適に使用することができる。
【0027】
熱処理による複合構造体と基材との一体化を実施する場合には、特に限定されないが、低融点成分と高融点成分で構成される熱融着性複合繊維からなる不織布を基材として使用することが好ましい。熱融着性複合繊維の素材の組み合わせ、複合形態、断面形状は特に限定されず、公知のものを使用できる。素材の組み合わせとしては、共重合ポリエチレンテレフタレートとポリエチレンテレフタレート、共重合ポリエチレンテレフタレートとポリプロピレン、高密度ポリエチレンとポリプロピレン、高密度ポリエチレンとポリエチレンテレフタレート、共重合ポリプロピレンとポリプロピレン、共重合ポリプロピレンとポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンとポリエチレンテレフタレートなどが例示できる。さらに素材の入手の容易性などを考慮すると、好ましくは、共重合ポリエチレンテレフタレートとポリエチレンテレフタレート、高密度ポリエチレンとポリプロピレン、高密度ポリエチレンとポリエチレンテレフタレートなどが例示できる。また、熱融着性複合繊維の繊維断面の複合形態としては、例えば、鞘芯型、偏心鞘芯型、または並列型などが例示できる。繊維の断面形状も特に限定されず、一般的な丸形の他に、楕円形、中空形、三角形、四角形、八用形などの異型断面など、あらゆる断面形状を採用することができる。
【0028】
複合構造体と基材が積層された積層体は、その少なくとも片面、もしくは両面に、不織布、織布、ネットおよび微多孔フィルムからなる群から選ばれる少なくとも1つの層を、さらに積層してもよい。積層体の複合構造体面に、不織布、織布、ネットおよび微多孔フィルムからなる群から選ばれる少なくとも1つの層が積層されることで、複合構造体面が表面に露出しなくなることから、加工性がさらに向上する。また、積層体の少なくとも一方の面に、プレ捕集層として、不織布、織布、ネットおよび微多孔フィルムからなる群から選ばれる少なくとも1つの層が積層されることで、フィルター寿命をさらに向上させることが可能である。積層体に、さらに不織布、織布、ネットおよび微多孔フィルムからなる群から選ばれる少なくとも1つの層を積層するための製造方法は特に限定されないが、複合構造体を基材上に直接形成して積層体を作製し、後工程において、不織布、織布、ネットおよび微多孔フィルムからなる群から選ばれる少なくとも1種類の層を、積層体の上にさらに積層し一体化する方法や、不織布、織布、ネットおよび微多孔フィルムからなる群から選ばれる少なくとも1種類の層と基材とを一体化したシート上に複合構造体を直接形成して一体化する方法などを例示できる。これらの一体化の方法は、特に限定されるわけではなく、加熱したフラットロールやエンボスロールによる熱圧着処理、ホットメルト剤や化学接着剤による接着処理、循環熱風もしくは輻射熱による熱接着処理などを採用することができる。
【0029】
本発明の複合構造体は、本発明の効果を著しく損なわない範囲であれば、エレクトレット加工、制電加工、撥水加工、親水加工、抗菌加工、紫外線吸収加工、近赤外吸収加工、防汚加工などを目的に応じて施されていてもよい。
【0030】
本発明の複合構造体は、特に限定されないが、フィルター用の濾材として好適に使用することができる。本発明の複合構造体を濾材として用いる場合、その用途は、特に限定されず、エアコンやクリーンルームなどに使用されるエアフィルターであってもよく、排水や塗料、研磨粒子などの濾過に使用される液体フィルターであってもよい。フィルターの形状も特に限定されず、平膜型フィルター、プリーツ加工したプリーツフィルター、または円筒状に巻き上げたデプスフィルターであってもよい。本発明の複合構造体は、極細繊維と、多数のビーズとを含むため、フィルターの濾材として、ダストの捕集効率が高く、圧力損失が低く、長い寿命を備えた濾材を提供することが可能となる。
【0031】
本発明の複合構造体及び積層体をエアフィルターの濾材として用いる場合、空気を流速5.3cm/秒で通過させたときの圧力損失が、10~300Paの範囲であることが好ましく、20~200Paの範囲であることがより好ましく、30~150Paの範囲であることがさらに好ましい。圧力損失が10Pa以上であれば十分な捕集効率が得られ、300Pa以下では、エアフィルターの濾材として用いた際の消費電力の低減、ファンへの負荷低減などの効果を奏する。また、粒子径0.3μm程度の粒子を含む空気を5.3cm/秒で通過させたときの該粒子の捕集効率が、90%以上であることが好ましく、99%以上であることがより好ましい。さらに、PF値(=log(1-捕集効率/100)/圧力損失×1000)は、20以上であることが好ましく、25以上であることがさらに好ましい。PF値はエアフィルター濾材の捕集性能の大小を示す指標とし使用されている値であり、性能がよいほどPF値が大きくなる。エアフィルターとしての寿命は、特に限定されないが、例えば、粒子径0.3μm程度の粒子を含む空気を流速5.3cm/秒で連続通風し、圧力損失が250Pa分だけ上昇したときの粒子の付着重量で評価可能である。付着重量が多いほど、長寿命のエアフィルター濾材として使用できることを意味する。捕捉粒子としては、塩化ナトリウムなどの固体粒子であってもよいし、ポリアルファオレフィンやジオクチルフタレート液状粒子であってよい。ポリアルファオレフィンを用いた場合の付着重量としては、特に限定されないが、50mg/100cm以上であることが好ましく、100mg/cm以上であることがさらに好ましい。捕集効率、圧力損失、PF値および付着重量は、極細繊維の平均繊維径、ビーズの平均直径や含有率、細繊維を含有する場合にはその平均繊維径や割合、複合構造体の目付などを適宜変更して調整することが可能である。
【0032】
本発明の複合構造体は、特に限定されないが、静電紡糸法で製造されることが好ましい。静電紡糸法を用いることで、非常に細い極細繊維とビーズとを一度に製造することが可能であり、特別な装置や特殊な条件を必要としない合理的な工程によって、優れたフィルター特性を発揮する複合構造体を得ることができる。静電紡糸法とは、紡糸溶液を吐出させるとともに、電界を作用させて、吐出された紡溶液を繊維化し、コレクター上にサブミクロンオーダーの極細繊維を不織布状に捕集する方法である。静電紡糸の方式は特に限定されず、一般的に知られている方式、例えば、1本もしくは複数のニードルを使用するニードル方式、ニードル先端に気流を噴き付けることでニードル1本あたりの生産性を向上させるエアブロー方式、1つのスピナレットに複数の溶液吐出孔を設けた多孔スピナレット方式、溶液槽に半浸漬させた円柱状や螺旋ワイヤ状の回転電極を用いるフリーサーフェス方式、供給エアによってポリマー溶液表面に発生したバブルを起点に静電紡糸するエレクトロバブル方式などが挙げられ、求める極細繊維や第一のビーズの品質、生産性、または操業性を考慮して、適宜選択することができる。本発明における複合構造体の静電紡糸方法としては、ビーズを良好に形成させるために、紡糸ジェット1本あたりの吐出量を制御可能なニードル方式、エアブロー方式、多孔スピナレット方式が特に好ましい。
【0033】
紡糸溶液としては、曳糸性を有するものであれば特に限定されないが、樹脂を溶媒に分散させたもの、樹脂を溶媒に溶解させたもの、樹脂を熱やレーザー照射によって溶融させたものなどを用いることができる。非常に細く均一な繊維を得るために、樹脂を溶媒に溶解させたものを紡糸溶液として用いることが好ましい。
【0034】
樹脂を分散または溶解させる溶媒としては、例えば、水、メタノール、エタノール、プロパノール、アセトン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、N-メチル-2-ピロリドン、トルエン、キシレン、ピリジン、蟻酸、酢酸、テトラヒドロフラン、ジクロロメタン、クロロホルム、1,1,2,2-テトラクロロエタン、1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロパノール、トリフルオロ酢酸及びこれらの混合物などを挙げることができる。混合して使用する場合の混合率は、特に限定されるものではなく、求める曳糸性や分散性、得られる繊維の物性を鑑みて、適宜設定することができる。
【0035】
静電紡糸の安定性や繊維形成性を向上させる目的で、紡糸溶液中にさらに界面活性剤を含有させてもよい。界面活性剤は、例えば、ドデシル硫酸ナトリウムなどの陰イオン性界面活性剤、臭化テトラブチルアンモニウムなどの陽イオン界面活性剤、ポリオキシエチレンソルビタモンモノラウレートなどの非イオン性界面活性剤などを挙げることができる。界面活性剤の濃度は、紡糸溶液に対して5重量%以下の範囲であることが好ましい。5重量%以下であれば、使用に見合う効果の向上が得られるため好ましい。本発明の複合構造体を得るためには、界面活性剤を含有しない紡糸溶液を作製し、静電紡糸を行うことも好ましい。
【0036】
本発明の効果を著しく損なわない範囲であれば、紡糸溶液の成分として、親水化剤、撥水化剤、耐候剤、安定剤などの上記以外の成分も含んでもよい。特に、複合構造体の素材が撥水撥油成分を含む場合、その表面は水滴の付着エネルギーが非常に低くなり、付着したダストを水などで容易に洗浄できるようになる。撥水撥油剤としては、付着エネルギーを下げる効果を奏するものであれば、特に限定されず、シリコン系シラン化合物、フッ素系シラン化合物、フルオロオクチルシルセルキオキサン、フッ素変性ポリウレタン、シリコン変性ポリウレタン樹脂を例示できる。撥水撥油剤の濃度は、樹脂に対して0.1~20重量%の範囲であることが好ましく、1~15重量%の範囲であることがより好ましく。撥水撥油剤の濃度が、0.1重量%以上であれば、撥水撥油特性が向上するため好ましく、20重量%以下であれば、使用に見合う効果の向上が得られるため好ましい。
【0037】
紡糸溶液の調製方法は、特に限定されず、撹拌や超音波処理などの方法を挙げることができる。また、混合の順序も特に限定されず、同時に混合しても、逐次に混合してもよい。撹拌により紡糸溶液を調製する場合の撹拌時間は、樹脂が溶媒に均一に溶解または分散していれば特に限定されず、例えば、1~24時間程度撹拌してもよい。
【0038】
静電紡糸により極細繊維およびビーズを含む複合構造体を得るためには、紡糸溶液の粘度を、10~10,000cPの範囲に調製することが好ましく、50~8,000cPの範囲であることがより好ましい。粘度が10cP以上であると、極細繊維やビーズを形成するための曳糸性、形成性が得られ、10,000cP以下であると、紡糸溶液を調製、吐出させるのが容易となる。紡糸溶液の粘度は、樹脂の分子量や濃度、溶媒の種類や混合率を適宜変更することで、調整することができる。
【0039】
紡糸溶液の温度は、特に制限はなく、常温であっても、加熱・冷却し、常温よりも高温または低温であってもよい。紡糸溶液を吐出させる方法としては、例えば、ポンプを用いてシリンジに充填した紡糸溶液をノズルから吐出させる方法などが挙げられる。ノズルの内径としては、特に限定されないが、0.1~1.5mmの範囲であるのが好ましい。また吐出量としては、特に限定されないが、0.1~10mL/hrであるのが好ましい。
【0040】
紡糸溶液に電界を作用させる方法としては、ノズルとコレクターに電界を形成させることができれば特に限定されるものではなく、例えば、ノズルに高電圧を印加し、コレクターを接地してもよい。印加する電圧は、繊維が形成されれば特に限定されないが、5~100kVの範囲であるのが好ましい。また、ノズルとコレクターとの距離は、極細繊維と第一のビーズが形成されれば特に限定されないが、5~50cmの範囲であるのが好ましい。コレクターは、紡糸された複合構造体を捕集できるものであればよく、その素材や形状などは特に限定させるものではない。コレクターの素材としては、金属等の導電性材料が好適に用いられる。コレクターの形状としては、特に限定されないが、例えば、平板状、ドラム状、シャフト状、コンベア状などを挙げることができる。コレクターが平板状やドラム状であると、シート状に繊維集合体を捕集することができ、シャフト状であると、チューブ状に繊維集合体を捕集することができる。コンベア状であれば、シート状に捕集された繊維集合体を連続的に製造することができる。
【実施例
【0041】
下記の実施例は、例示を目的としたものに過ぎない。本発明の範囲は、本実施例に限定されない。
【0042】
実施例中に示した物性値の測定方法と定義を以下に示す。
<極細繊維の繊維径>
日立株式会社製の走査型電子顕微鏡(SU-8000)を使用して、複合構造体を10,000~30,000倍で観察し、画像解析ソフトを用いて繊維500本以上の直径(繊維径)を測定し、その平均値を平均繊維径とした。また、その標準偏差を平均値で除することで変動係数を算出した。また、繊維径が200nm以下である繊維の本数を、繊維の総数で除し、100を乗じることで、繊維径が200nm以下である繊維の割合(%)を算出し、繊維径が500nm以上である繊維の本数を、繊維の総数で除し、100を乗じることで、繊維径が500nm以上の繊維の割合(%)を算出した。
<ビーズの直径>
日立株式会社製の走査型電子顕微鏡(SU-8000)を使用して、加速電圧3kVで複合構造体の表面を200~2,000倍で観察し、画像解析ソフトを用いて最表面に存在するビーズ50個以上の直径を測定し、その平均値を平均直径とした。また、直径が5μm以上であるビーズの個数を、画像面積で除することで、直径が5μm以上であるビーズ含有率を算出した。なお、紡錘状のビーズの直径は、その短軸長を直径とした。
<平均流量細孔径>
POROUS MATERIAL社製Capillary FlowPorometer(CFP-1200-A)を使用して、平均流量細孔径を測定(JIS K 3822)した。
<フィルター性能>
TSI社製のフィルター効率自動検出装置(Model8130)を使用して、ポリアルファオレフィン(粒子径:0.3μm(個数中央径)、粒子濃度:150mg/m)を測定流速5.3cm/秒で基材上に複合構造体を積層させた積層体を通過させたときの圧力損失および捕集効率を測定した。
また、TSI社製のフィルター効率自動検出装置(Model8130)を使用して、ポリアルファオレフィン(粒子径:0.3μm(個数中央径)、粒子濃度:150mg/m)を測定流速5.3cm/秒で連続通風し、圧力損失が250Pa分、上昇したときの粒子の付着重量を測定し、フィルターの寿命を判断した。圧力損失が250Pa上昇するまでの粒子の付着重量が多いほど、フィルター寿命が長いことを示す。
【0043】
[実施例1]
アルケマ社製のポリフッ化ビニリデン(Kynar761;融点165℃)16重量部、N,N-ジメチルホルムアミド84重量部からなる紡糸溶液1を調製した。捕集部として、直径200mmのドラム状回転コレクターを用い、コレクター表面に基材としてポリエチレンテレフタレート製不織布(目付:80g/m)を取りつけた。次いで、回転コレクターの回転方向と水平方向に、内径0.22mmのニードルを1本取り付けた。紡糸溶液1を2.0mL/hrでニードル先端に供給するとともに、ニードルに35kVの電圧を印加し、静電紡糸を行った。ニードル先端と接地されたコレクター間の距離は20cmとした。ドラム状回転コレクターの回転速度を50rpm、ニードルを200mm幅、100mm/秒の速度で回転方向に対して垂直方向にトラバースさせ、90分間紡糸を行うことで、基材上に、目付が3.4g/mの複合構造体を積層させた。この積層体を、フィルター性能試験に供した。複合構造体における繊維は、平均繊維径が90nm、繊維径の変動係数が0.47、200nm以下の極細繊維の割合が98.3%、500nm以上の細繊維の割合が0%であった。また、複合構造体におけるビーズは、平均直径が5.6μm、5μm以上のビーズ数が2709個/mmであった。得られた積層体の平均流量細孔径は2.1μmであり、フィルター性能は、圧力損失が69.7Pa、捕集効率が99.67%、PF値が35.5、ダスト保持量は、57mg/100cmであった。得られた複合構造体の走査型電子顕微鏡画像を図1に示す。
【0044】
[実施例2]
アルケマ社製のポリフッ化ビニリデン(Kynar761;融点165℃)16重量部、N,N-ジメチルホルムアミド67.2重量部、アセトン16.8重量部からなる紡糸溶液2を調製した。紡糸溶液2を用いた以外は実施例1と同様にして、基材上に、目付が3.4g/mの複合構造体を積層させた。この積層体を、フィルター性能試験に供した。複合構造体における繊維は、平均繊維径が200nm、繊維径の変動係数が0.41、200nm以下の極細繊維の割合が51.1%、500nm以上の細繊維の割合が0%であった。また、複合構造体におけるビーズは、平均直径が6.1μm、5μm以上のビーズ数が1696個/mmであった。得られた積層体の平均流量細孔径は2.4μmであり、フィルター性能は、圧力損失が74.7Pa、捕集効率が95.22%、PF値が17.7、ダスト保持量は、121mg/100cmであった。得られた複合構造体の走査型電子顕微鏡画像を図2に示す。
【0045】
[実施例3]
アルケマ社製のポリフッ化ビニリデン(Kynar2500-20;融点125℃)を25重量部、N,N-ジメチルホルムアミド37.5重量部、テトラヒドロフラン37.5重量部からなる細繊維形成用の紡糸溶液3を調製した。捕集部として、直径200mmのドラム状回転コレクターを用い、コレクター表面に基材としてポリエチレンテレフタレート製不織布(目付:80g/m)を取りつけた。次いで、回転コレクターの回転方向と水平方向に、内径0.22mmのニードルを2本取り付けた。紡糸溶液1及び3を、それぞれ2.0mL/hrでニードル先端に供給するとともに、ニードルに35kVの電圧を印加し、静電紡糸を行った。ニードル先端と接地されたコレクター間の距離は20cmとした。ドラム状回転コレクターの回転速度を50rpm、ニードルを200mm幅、100mm/秒の速度で回転方向に対して垂直方向にトラバースさせ、90分間紡糸を行うことで、基材上に、目付が8.8g/mの複合構造体を積層させた。この積層体を、フィルター性能試験に供した。複合構造体における繊維は、平均繊維径が250nm、繊維径の変動係数が1.14、200nm以下の極細繊維の割合が72.6%、500nm以上の細繊維の割合が16.7%であった。また、複合構造体におけるビーズは、平均直径が5.6μm、5μm以上のビーズ数が2709個/mmであった。得られた積層体の平均流量細孔径は1.8μmであり、フィルター性能は、圧力損失が145.8Pa、捕集効率が99.96%、PF値が23.0、ダスト保持量は、91mg/100cmであった。積層体の複合構造体側の面を擦っても毛羽立ちが発生せず、耐摩耗性や加工性に非常に優れているものであった。得られた複合構造体の走査型電子顕微鏡画像を図3に示す。
【0046】
[実施例4]
アルケマ社製のポリフッ化ビニリデン(Kynar2500-20;融点125℃)を30重量部、N,N-ジメチルホルムアミド17.5重量部、テトラヒドロフラン52.5重量部からなる細繊維形成用の紡糸溶液4を調製した。次いで、紡糸溶液3の代わりに紡糸溶液4を用いた以外は、実施例3と同様にして、基材上に、目付が9.9g/mの複合構造体を積層させた。この積層体を、フィルター性能試験に供した。複合構造体における繊維は、平均繊維径が300nm、繊維径の変動係数が1.89、200nm以下の極細繊維の割合が85.7%、500nm以上の細繊維の割合が10.1%であった。また、複合構造体におけるビーズは、平均直径が5.6μm、5μm以上のビーズ数が2709個/mmであった。得られた積層体の平均流量細孔径は2.2μmであり、フィルター性能は、圧力損失が114.3Pa、捕集効率が99.89%、PF値が25.8、ダスト保持量は、113mg/100cmであった。積層体の複合構造体側の面を擦っても毛羽立ちが発生せず、耐摩耗性や加工性に非常に優れているものであった。得られた複合構造体の走査型電子顕微鏡画像を図4に示す。
【0047】
[実施例5]
ソルベイスペシャルティポリマーズ社製のポリフッ化ビニリデン(Sоlef6010;融点171℃)20重量部、N,N-ジメチルホルムアミド80重量部からなる紡糸溶液5を調製した。紡糸溶液5を用いた以外は実施例1と同様にして、基材上に、目付が4.3g/mの複合構造体を積層させた。この積層体を、フィルター性能試験に供した。複合構造体における繊維は、平均繊維径が60nm、繊維径の変動係数が0.45、200nm以下の極細繊維の割合が97.3%、500nm以上の細繊維の割合が0%であった。また、複合構造体におけるビーズは、平均直径が8.5μm、5μm以上のビーズ数が1773個/mmであった。得られた積層体の平均流量細孔径は3.6μmであり、フィルター性能は、圧力損失が44.0Pa、捕集効率が99.85%、PF値が64.2、ダスト保持量は、150mg/100cmであった。得られた複合構造体の走査型電子顕微鏡画像を図5に示す。
【0048】
[比較例1]
アルケマ社製のポリフッ化ビニリデン(Kynar761;融点165℃)16重量部、N,N-ジメチルホルムアミド84重量部、ドデシル硫酸ナトリウム0.05重量部からなる紡糸溶液6を調製した。次いで、紡糸溶液6を用いて、ニードル先端と接地されたコレクター間の距離を15cm、紡糸時間を39分間とした以外は実施例1と同様にして、基材上に、目付が1.5g/mの繊維層を積層させた。この積層体を、フィルター性能試験に供した。繊維層における繊維は、平均繊維径が90nm、繊維径の変動係数が0.49、200nm以下の繊維の割合が86.2%、500nm以上の繊維の割合が0.7%であった。また、繊維層におけるビーズは、平均直径が2.5μm、5μm以上のビーズ数が397個/mmであった。得られた積層体の平均流量細孔径は0.9μmであり、フィルター性能は、圧力損失が126.3Pa、捕集効率が99.55%、PF値が18.6、ダスト保持量は、16mg/100cmであり、PF値が低く、寿命が短いものであった。得られた繊維層の走査型電子顕微鏡画像を図6に示す。
【0049】
[比較例2]
宇部興産製のポリアミド6(1011FB;融点220℃)を15重量部、ギ酸42.5重量部、酢酸42.5重量部からなる紡糸溶液7を調製した。次いで、紡糸溶液7を用いて、溶液供給量を0.5mL/hr、ニードル先端と接地されたコレクター間の距離を7.5cm、紡糸時間を24分間とした以外は実施例1と同様にして、基材上に、目付が0.2g/mの繊維層を積層させた。この積層体を、フィルター性能試験に供した。繊維層における繊維は、平均繊維径が70nm、繊維径の変動係数が0.25、200nm以下の繊維の割合が100%、500nm以上の繊維の割合が0%であり、ビーズは存在しなかった。得られた積層体の平均流量細孔径は0.6μmであり、フィルター性能は、圧力損失が125.0Pa、捕集効率が99.81%、PF値が21.8、ダスト保持量は、5mg/100cmであり、PF値はやや高いものの、寿命が非常に短いものであった。得られた繊維層の走査型電子顕微鏡画像を図7に示す。
【0050】
実施例1~5の複合構造体、比較例1及び2の繊維層について、繊維の平均繊維径、200nm以下の繊維の割合、500nm以上の繊維の割合、ビーズの平均直径、5μm以上のビーズ数、目付、圧力損失、捕集効率、PF値及びフィルター寿命を表1に示す。
【0051】
【表1】
【0052】
表1から明らかなように、直径5μm以上のビーズを500個/mm以上含まない比較例1及び2と比較して、直径5μm以上のビーズを500個/mm含む実施例1~5は、PF値が大きく、ダスト保持量が大きくフィルター寿命が長いものである。また、繊維径が200nm以下の極細繊維に加えて、繊維径が500nm以上である細繊維を含む実施例3及び4は、複合構造体面を擦っても毛羽立ちが発生せず、プリーツ加工等のフィルターへの加工性に優れているものであった。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明の複合構造体は、およびこれを用いた濾材は、ダストの捕集効率が高く、圧力損失が低く、長寿命であるか、またはこれらの効果のバランスに優れ、フィルターへの加工強度に優れるため、エアフィルター用濾材や液体フィルター用濾材として好適に用いることが可能である。特に、掃除機や空気清浄機などの家電用エアフィルター、ビル空調用のエアフィルター、産業用の中・高性能フィルター、クリーンルーム用のHEPAフィルターやULPAフィルターに好適なフィルター濾材を提供することが可能となる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7