IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日産化学工業株式会社の特許一覧

特許7177416炭化水素に分散した無機酸化物ゾル及びその製造方法
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-15
(45)【発行日】2022-11-24
(54)【発明の名称】炭化水素に分散した無機酸化物ゾル及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 33/145 20060101AFI20221116BHJP
   B01J 13/00 20060101ALI20221116BHJP
   C01G 23/047 20060101ALI20221116BHJP
   C01G 25/02 20060101ALI20221116BHJP
【FI】
C01B33/145
B01J13/00 C
C01G23/047
C01G25/02
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2021565842
(86)(22)【出願日】2021-07-06
(86)【国際出願番号】 JP2021025482
(87)【国際公開番号】W WO2022009889
(87)【国際公開日】2022-01-13
【審査請求日】2021-11-04
(31)【優先権主張番号】P 2020117406
(32)【優先日】2020-07-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003986
【氏名又は名称】日産化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001999
【氏名又は名称】弁理士法人はなぶさ特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】前田 智也
(72)【発明者】
【氏名】末村 尚彦
(72)【発明者】
【氏名】吉武 桂子
【審査官】青木 千歌子
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-314197(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 33/145
B01J 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素原子数6~18のパラフィン系炭化水素、炭素原子数6~18のナフテン系炭化水素又はそれらの混合物を含む有機溶媒及び炭素原子数4~8の炭素-炭素結合を分子中に含むアルコールを分散媒とし、無機酸化物粒子を分散質とするゾルであって、
該アルコールは、全分散媒中に0.1~5質量%含み、該無機酸化物粒子は、動的光散乱法による平均粒子径が5~200nmであり、炭素原子数1~3のアルキル基に結合したケイ素原子及び炭素原子数4~18のアルキル基に結合したケイ素原子を含み、
該無機酸化物粒子が、前記炭素原子数4~18のアルキル基がケイ素原子に結合したシラン化合物と、炭素原子数1~3のアルキル基がケイ素原子に結合したシラン化合物とを、ケイ素原子のモル比で1:0.1~30の割合で含み、
該無機酸化物粒子が、式(1):
【化1】
(式(1)中、Rはアルキル基、ハロゲン化アルキル基、アルケニル基、又はエポキシ基、(メタ)アクリロイル基、メルカプト基、アミノ基、ウレイド基、もしくはシアノ基を有する有機基で且つSi-C結合によりケイ素原子と結合しているものであって、該Rは少なくとも一つが炭素原子数4~18のアルキル基であってSi-C結合によりケイ素原子と結合しているものであり、Rはアルコキシ基、アシルオキシ基、又はハロゲン基を示し、aは1~3の整数を示す。)
で示されるシラン化合物で被覆され、
該無機酸化物粒子が、式(1)に加え、更に式(2)及び式(3):
【化2】
(式(2)及び式(3)中、R及びRは炭素原子数1~3のアルキル基で且つSi-C結合によりケイ素原子と結合しているものであり、R及びRはアルコキシ基、アシルオキシ基、又はハロゲン基を示し、Yはアルキレン基、NH基、又は酸素原子を示し、該R及びRは少なくとも一つが炭素原子数1~3のアルキル基であってSi-C結合によりケイ素原子と結合しているものであり、bは1~3の整数であり、cは0又は1の整数であり、dは1~3の整数である。)
からなる群より選ばれた少なくとも1種のシラン化合物で被覆されている、無機酸化物粒子からなるゾル。
【請求項2】
前記パラフィン系炭化水素が、ノルマルパラフィン系炭化水素、又はイソパラフィン系炭化水素である請求項1に記載のゾル。
【請求項3】
前記ナフテン系炭化水素が、炭素原子数1~10のアルキル基で置換されていても良い飽和脂肪族環状炭化水素である請求項1又は請求項2に記載のゾル。
【請求項4】
前記アルコールがn-ブタノール、n-ペンタノール、又はn-ヘキサノールである請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載のゾル。
【請求項5】
前記無機酸化物粒子が、Si、Ti、Fe、Cu、Zn、Y、Zr、Nb、Mo、In、Sn、Sb、Ta、W、Pb、Bi及びCeからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属の酸化物粒子である請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載のゾル。
【請求項6】
前記無機酸化物粒子が、シリカ粒子、ジルコニア粒子、又はチタニア粒子である請求項5に記載のゾル。
【請求項7】
前記無機酸化物粒子が、酸化スズ、酸化ジルコニウム、及び酸化チタンからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属の酸化物を核粒子として、その表面をシリカに加え酸化スズ、酸化アンチモン、及び酸化タングステンから選ばれる少なくとも1種で被覆されたコアシェル構造の金属の酸化物粒子である請求項5に記載のゾル。
【請求項8】
前記ゾルの粘度が、20℃で前記無機酸化物粒子の濃度が50質量%以下のとき、分散媒である前記炭素原子数6~18のパラフィン系炭化水素、前記炭素原子数6~18のナフテン系炭化水素、又はそれらの混合物からなる有機溶媒の20℃での粘度に対して1.0~10.0倍の範囲である請求項1乃至請求項7のいずれか1項に記載のゾル。
【請求項9】
前記ゾルの粘度が、20℃で前記無機酸化物粒子の濃度が5~50質量%のとき、分散媒である前記炭素原子数6~18のパラフィン系炭化水素、前記炭素原子数6~18のナフテン系炭化水素、又はそれらの混合物からなる有機溶媒の20℃での粘度に対して1.0~10.0倍の範囲である請求項8に記載のゾル。
【請求項10】
下記(A)工程~(D)工程を含む請求項1乃至請求項9のいずれか1項に記載のゾルの製造方法。
(A)工程:動的光散乱法による平均粒子径が5~200nmである前記無機酸化物粒子を分散質とし、水性溶媒又は炭素原子数1~3のアルコールを分散媒とするゾルから、炭素原子数4~8の炭素-炭素結合を分子中に含むアルコールを全分散媒中に15質量%以上含有するゾルを得る工程、
(B)工程:(A)工程で得られたゾルに式(1)で示されるシラン化合物を添加し、2
0℃~分散媒の沸点以下の温度で0.1~6時間反応を行う工程、
(C)工程:(B)工程で得られたゾルに、前記炭素原子数6~18のパラフィン系炭化水素、前記炭素原子数6~18のナフテン系炭化水素、又はそれらの混合物を添加し、水及び/又はアルコールを系外に除去する工程、
(D)工程:場合により(C)工程で得られたゾルに式(2)及び式(3)からなる群より選ばれた少なくとも1種のシラン化合物を添加し、20℃~分散媒の沸点以下の温度で0.1~6時間反応を行う工程。
【化3】
(式(1)中、Rはアルキル基、ハロゲン化アルキル基、アルケニル基、又はエポキシ基、(メタ)アクリロイル基、メルカプト基、アミノ基、ウレイド基、もしくはシアノ基を有する有機基で且つSi-C結合によりケイ素原子と結合しているものであって、該Rは少なくとも一つが炭素原子数4~18のアルキル基であってSi-C結合によりケイ素原子と結合しているものであり、Rはアルコキシ基、アシルオキシ基、又はハロゲン基を示し、aは1~3の整数を示す。式(2)及び式(3)中、R及びRは炭素原子数1~3のアルキル基で且つSi-C結合によりケイ素原子と結合しているものであり、R及びRはアルコキシ基、アシルオキシ基、又はハロゲン基を示し、Yはアルキレン基、NH基、又は酸素原子を示し、該R及びRは少なくとも一つが炭素原子数1~3のアルキル基であってSi-C結合によりケイ素原子と結合しているものであり、bは1~3の整数であり、cは0又は1の整数であり、dは1~3の整数である。)
【請求項11】
更に(D)工程の後に次の(E)工程を加える請求項10に記載の製造方法。
(E)工程:前記炭素原子数~18のパラフィン系炭化水素、前記炭素原子数~18のナフテン系炭化水素、又はそれらの混合物を添加し、アルコールを除去する工程。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はアルキル基で粒子表面を修飾した無機酸化物粒子が炭化水素系溶媒に分散した無機酸化物ゾルとその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機溶媒分散無機酸化物ゾルについては、プラスチックやワニス等の樹脂組成物に分散する場合に有用である。
例えば水性分散シリカゾルをpH1~5に調整した後、非極性有機溶媒と界面活性剤を加えエマルションを形成し、共沸脱水して非極性有機溶媒に分散したシリカゾルを得る方法や、アルコール分散シリカゾルに非極性有機溶媒を添加して溶媒置換を行うことで非極性有機溶媒に分散したシリカゾルを得る方法が開示されている(特許文献1参照)。この方法では非極性有機溶媒としてベンゼン、トルエン、ヘプタン、オクタン等の炭化水素、灯油等の石油系溶剤、石油化学系溶剤が記載されている。上記方法ではその行程中でオクタデシルメチルジメトキシシラン等のアルキル置換シランでシリカ粒子の表面を被覆して疎水性シリカゾルを得ることが記載されている。
【0003】
また水性シリカゾルをイソプロピルアルコールシリカゾルに溶媒置換して、さらに高沸点アルコールに溶媒置換するとともに、トリメチルクロルシラン等のシリル化剤を添加しトリメチルシリル化したシリカゾルを得たのち、溶媒を除去して粉末状のシリカを得たことが記載されている(特許文献2参照)。
また親水性溶媒分散シリカゾルをブチルアルコール等の1級アルコールの存在下にアルキルアルコキシドシランでシリカ粒子の表面をシラン処理するとともに、ケトン類、エステル類、エーテル類、炭化水素類等の溶媒で溶媒置換を行う有機溶媒シリカゾルの製造方法が開示されている(特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平4-108606
【文献】特開昭58-145614
【文献】特開2005-200294
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明はパラフィン系炭化水素や、ナフテン系炭化水素等の炭化水素を含む疎水系有機溶媒に安定に分散した無機酸化物粒子のゾルを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願発明は第1観点として、炭素原子数6~18のパラフィン系炭化水素、炭素原子数6~18のナフテン系炭化水素又はそれらの混合物を含む有機溶媒及び炭素原子数4~8の炭素-炭素結合を分子中に含むアルコールを分散媒とし、無機酸化物粒子を分散質とするゾルであって、
該アルコールは、全分散媒中に0.1~5質量%含み、該無機酸化物粒子は、動的光散乱法による平均粒子径が5~200nmであり、炭素原子数1~3のアルキル基に結合したケイ素原子及び炭素原子数4~18のアルキル基に結合したケイ素原子を含む無機酸化物
粒子からなるゾル、
第2観点として、無機酸化物粒子が、炭素原子数4~18のアルキル基がケイ素原子に結合したシラン化合物と、炭素原子数1~3のアルキル基がケイ素原子に結合したシラン化合物とを、ケイ素原子のモル比で1:0.1~30の割合で含む無機酸化物粒子を含む第1観点に記載のゾル、
第3観点として、パラフィン系炭化水素が、ノルマルパラフィン系炭化水素、又はイソパラフィン系炭化水素である第1観点又は第2観点に記載のゾル、
第4観点として、ナフテン系炭化水素が、炭素原子数1~10のアルキル基で置換されていても良い飽和脂肪族環状炭化水素である第1観点乃至第3観点のいずれか一つに記載のゾル、
第5観点として、上記アルコールがn-ブタノール、n-ペンタノール、又はn-ヘキサノールである第1観点乃至第4観点のいずれか一つに記載のゾル、
第6観点として、無機酸化物粒子が、Si、Ti、Fe、Cu、Zn、Y、Zr、Nb、Mo、In、Sn、Sb、Ta、W、Pb、Bi及びCeからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属の酸化物粒子である第1観点乃至第5観点のいずれか一つに記載のゾル、第7観点として、無機酸化物粒子が、シリカ粒子、ジルコニア粒子、又はチタニア粒子である第6観点に記載のゾル、
第8観点として、無機酸化物粒子が、酸化スズ、酸化ジルコニウム、及び酸化チタンからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属の酸化物を核粒子として、その表面をシリカ、酸化スズ、酸化アンチモン、及び酸化タングステンから選ばれる少なくとも1種で被覆されたコアシェル構造の金属の酸化物粒子である第6観点に記載のゾル、
第9観点として、無機酸化物粒子が、式(1):
【化1】
(式(1)中、Rはアルキル基、ハロゲン化アルキル基、アルケニル基、又はエポキシ基、(メタ)アクリロイル基、メルカプト基、アミノ基、ウレイド基、もしくはシアノ基を有する有機基で且つSi-C結合によりケイ素原子と結合しているものであって、該Rは少なくとも一つが炭素原子数4~18のアルキル基であってSi-C結合によりケイ素原子と結合しているものであり、Rはアルコキシ基、アシルオキシ基、又はハロゲン基を示し、aは1~3の整数を示す。)で示されるシラン化合物で被覆されている第1観点乃至第8観点のいずれか一つに記載のゾル、
第10観点として、無機酸化物粒子が、式(1)に加え、更に式(2)及び式(3):
【化2】
(式(2)及び式(3)中、R及びRは炭素原子数1~3のアルキル基で且つSi-C結合によりケイ素原子と結合しているものであり、R及びRはアルコキシ基、アシルオキシ基、又はハロゲン基を示し、Yはアルキレン基、NH基、又は酸素原子を示し、該R及びRは少なくとも一つが炭素原子数1~3のアルキル基であってSi-C結合
によりケイ素原子と結合しているものであり、bは1~3の整数であり、cは0又は1の整数であり、dは1~3の整数である。)
からなる群より選ばれた少なくとも1種のシラン化合物で被覆されている第9観点記載のゾル、
第11観点として、ゾルの粘度が、20℃で無機酸化物粒子の濃度が50質量%以下のとき、分散媒である炭素原子数6~18のパラフィン系炭化水素、炭素原子数6~18のナフテン系炭化水素、又はそれらの混合物からなる有機溶媒の20℃での粘度に対して1.0~10.0倍の範囲である第1観点乃至第10観点のいずれか一つに記載のゾル、
第12観点として、ゾルの粘度が、20℃で無機酸化物粒子の濃度が5~50質量%のとき、分散媒である炭素原子数6~18のパラフィン系炭化水素、炭素原子数6~18のナフテン系炭化水素、又はそれらの混合物からなる有機溶媒の20℃での粘度に対して1.0~10.0倍の範囲である第11観点に記載のゾル、
第13観点として、下記(A)工程~(D)工程を含む第9観点乃至第12観点のいずれか一つに記載のゾルの製造方法、
(A)工程:動的光散乱法による平均粒子径が5~200nmである無機酸化物粒子を分散質とし、水性溶媒又は炭素原子数1~3のアルコールを分散媒とするゾルから、炭素原子数4~8の炭素-炭素結合を分子中に含むアルコールを全分散媒中に15質量%以上含有するゾルを得る工程、
(B)工程:(A)工程で得られたゾルに式(1)で示されるシラン化合物を添加し、20℃~分散媒の沸点以下の温度で0.1~6時間反応を行う工程、
(C)工程:(B)工程で得られたゾルに、炭素原子数6~18のパラフィン系炭化水素、前記炭素原子数6~18のナフテン系炭化水素、又はそれらの混合物を添加し、水及び/又はアルコールを系外に除去する工程、
(D)工程:場合により(C)工程で得られたゾルに式(2)及び式(3)からなる群より選ばれた少なくとも1種のシラン化合物を添加し、20℃~分散媒の沸点以下の温度で0.1~6時間反応を行う工程、及び
第14観点として、更に(D)工程の後に次の(E)工程を加える第13観点に記載の製造方法、
(E)工程:炭素原子数~18のパラフィン系炭化水素、炭素原子数~18のナフテン系炭化水素、又はそれらの混合物を添加し、アルコールを除去する工程。

【発明の効果】
【0007】
本発明では炭素原子数4~18のアルキル基等の長鎖アルキル基の間隙に、炭素原子数1~3のアルキル基等の短鎖アルキル基でシリル化させることにより、疎水性官能基の密度が高い無機酸化物粒子を作製し、パラフィン系炭化水素及びナフテン系炭化水素の炭化水素系有機溶媒に安定に分散した無機酸化物ゾルを得ることができるという効果を奏する。
また、炭素原子数4~18のアルキル基がケイ素原子に結合したシラン化合物と、炭素原子数1~3のアルキル基がケイ素原子に結合したシラン化合物との比が、ケイ素原子のモル比で1:0.1~30の割合である場合には、より炭化水素系有機溶媒に安定に分散した無機酸化物ゾルを得ることができるという効果を奏する。
また、無機酸化物粒子が、Si、Ti、Fe、Cu、Zn、Y、Zr、Nb、Mo、In、Sn、Sb、Ta、W、Pb、Bi及びCeからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属の酸化物であるか、酸化スズ、酸化ジルコニウム、及び酸化チタンからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属の酸化物を核粒子として、その表面をシリカ、酸化スズ、酸化アンチモン、及び酸化タングステンから選ばれる少なくとも1種の金属の酸化物で被覆されたコアシェル構造の金属の酸化物であれば炭化水素系有機溶媒に安定に分散した無機酸化物ゾルを得ることができるという効果を奏する。
【0008】
また、無機酸化物粒子が、前記式(1)、式(2)及び式(3)からなる群より選ばれた少なくとも1種のシラン化合物で被覆されていれば、炭化水素系有機溶媒に安定に分散した無機酸化物ゾルを得ることができるという効果を奏する。
炭化水素系有機溶媒に安定に分散した無機酸化物ゾルを得るためには、親水性有機溶媒から炭化水素系有機溶媒に溶媒置換するときに、段階的に溶媒を変えてゆく必要がある。 本発明の炭素原子数4~6のアルコールを用い、さらに上記(A)工程~(D)工程及び(E)工程による製造方法を用いれば親水性有機溶媒から炭化水素系有機溶媒に完全に置き換わる工程で系外に除去することができ、炭化水素系有機溶媒に安定に分散した無機酸化物ゾルを得ることができるという効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0009】
水性媒体や親水性有機溶媒に分散した無機酸化物ゾル(例えばシリカゾル)から、パラフィン系炭化水素やナフテン系炭化水素等の疎水性の高い炭化水素系の有機溶媒に分散したシリカゾルを得ようとする場合に、無機酸化物粒子の表面を反応性シランで疎水化する必要がある。無機酸化物粒子の表面はシリカであればシラノールが存在するが、粒子表面の面積と、表面に存在するシラノールはその存在量が限定されている。そのため反応性シランを用いて効率的に表面を疎水化するためには、反応性シランを選択して無機酸化物粒子表面の疎水基の密度を向上させる事が必要である。シラン化合物はケイ素原子に結合した長鎖アルキル基は粒子表面からアルキル基が外側に向かって存在しているが、バルクの大きな官能基であるため粒子表面部分はバルキーなアルキル基とアルキル基が間隔を置いて存在している。その間隔が存在する部分は粒子自体のシラノールにより十分に疎水化されることはなく、まだ親水性の部分が存在する。本発明は粒子表面でバルク性の高い長鎖アルキル基と長鎖アルキル基の間隙に、短鎖アルキル基でシリル化させることにより、疎水性官能基の密度が高い無機酸化物粒子を作製し、炭化水素系有機溶媒に安定に分散した無機酸化物ゾルを得ることができる。
【0010】
親水性有機溶媒から炭化水素系有機溶媒に溶媒置換するときに、上述の通り無機酸化物粒子表面を長鎖アルキル基やシリル化剤で疎水化するが、段階的に溶媒を変えてゆく必要があり、親水性有機溶媒と炭化水素系有機溶媒との仲立ちを行う例えば相溶化作用を示す物質を用いることにより、凝集による粒子径の変化や増粘等のゲル化する事がなく、溶媒置換を行うことができる。これら相溶化作用を示す物質としては、親水性有機溶媒と炭化水素系有機溶媒の中間的な性質を持つ物質が好ましく、親水性有機溶媒とも炭化水素系有機溶媒とも馴染みが良く、また徐々に疎水化されてゆく無機酸化物粒子を親水性有機溶媒にも炭化水素系有機溶媒にも良く馴染むことができる物質である。それらは例えば炭素原子数4~6のアルコールが好ましく用いられ、これらの物質は親水性有機溶媒から炭化水素系有機溶媒に完全に置き換わる工程で系外に除去することができる。
【0011】
本発明は炭素原子数6~18で且つパラフィン系炭化水素、ナフテン系炭化水素、又はそれらの混合物を含む炭化水素を含む有機溶媒を分散媒として、全分散媒中に炭素原子数4~8の炭素-炭素結合を有する炭素鎖を分子中に含むアルコールを0.1~5質量%含み、動的光散乱法による平均粒子径が5~200nmである無機酸化物粒子を分散質として含み、該無機酸化物粒子はケイ素原子に結合した炭素原子数1~3のアルキル基と、炭素原子数4~18のアルキル基とを含んでいるゾルである。
炭素原子数4~6のアルコールは例えば下記記載のn-ブタノール、n-ペンタノール、又はn-ヘキサノール等のアルコールを用いる事ができる。
炭素原子数4~18のアルキル基は式(1)のシラン化合物に由来するものであり、炭素原子数1~3のアルキル基は式(2)や式(3)のシラン化合物に由来するものであり、それぞれのシラン化合物が無機酸化物粒子、例えばシリカ粒子の表面のシラノール基と反応しシラン化合物がシリカ粒子の表面を修飾したことによるものである。
【0012】
本発明のゾルは固形分として0.1~60質量%、又は1~55質量%、10~55質量%である。ここで固形分とはゾルの全成分から溶媒成分を除いたものである。
本発明のゾルは無機酸化物粒子の動的光散乱法(DLS法)による平均粒子径が5~200nm、又は5~150nmの範囲で得られ、無機酸化物粒子の透過型電子顕微鏡観察による平均一次粒子径が5~200nm、又は5~150nm、又は5~100nmの範囲で得られる。
【0013】
本発明で得られるゾルは粘度が、20℃で無機酸化物粒子濃度が20~50質量%の時に、分散媒である炭素原子数6~18で且つパラフィン系炭化水素、ナフテン系炭化水素、又はそれらの混合物を含む炭化水素からなる有機溶媒の20℃の粘度に対して1.0~10.0倍、又は1.1~10.0倍、又は1.2~10.0倍、又は1.2~8.0倍、又は1.3~8.0倍の範囲である。
20℃で無機酸化物粒子濃度が5~50質量%、又は10~50質量%、又は20~50質量%の時に、分散媒である炭素原子数6~18で且つパラフィン系炭化水素、ナフテン系炭化水素、又はそれらの混合物を含む炭化水素からなる有機溶媒の20℃の粘度に対して1.0~10.0倍の範囲である。
上記粘度はオストワルド粘度計、B型回転粘度計を用いて測定する事ができる。
上記粘度測定において10mPa・s以下はオストワルド粘度計を用い、それ以上の値ではB型回転粘度計を用いる事ができる。
【0014】
上記溶媒置換とは、水性溶媒又は炭素原子数1~3のアルコールを分散媒とするゾルに炭素原子数4~6のアルコールが添加されたゾルの分散媒を、炭素原子数6~18で且つパラフィン系炭化水素、ナフテン系炭化水素、又はそれらの混合物を含む炭化水素を含む有機溶媒を主成分とする分散媒へ溶媒置換するものである。
本発明に原料として用いられる無機酸化物ゾルは、無機酸化物粒子が水性媒体又は炭素原子数1~3のアルコールを分散媒とするゾルを用いる事ができる。上記無機酸化物粒子は、Si、Ti、Fe、Cu、Zn、Y、Zr、Nb、Mo、In、Sn、Sb、Ta、W、Pb、Bi及びCeからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属の酸化物があげられる。例えばTiO、Fe、CuO、ZnO、Y、ZrO、Nb、NbO、Nb、MoO、MoO、In、SnO、Sb、Sb、Ta、W、WO、WO、PbO、Pb、PbO、Bi、CeO、Ce等を単独で用いる事が挙げられる。またこれらの金属の酸化物は、2種又は3種又はそれ以上を組み合わせ用いる事ができる。例えばZrO-SnOの組み合わせ、SnO-SiOの組み合わせ、TiO-SnO-ZrOの組み合わせが挙げられる。
【0015】
上記無機酸化物粒子は例えばシリカ、ジルコニア、及びチタニアを単独で用いることや、組み合わせて用いる事を好ましく例示することができる。特に無機酸化物粒子はシリカが好ましい。
また上記無機酸化物粒子は、コアシェル型の酸化物粒子を用いる事ができる。例えば酸化スズ、酸化ジルコニウム、及び酸化チタンからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属の酸化物を核粒子として、その表面をシリカ、酸化スズ、酸化アンチモン、及び酸化タングステンから選ばれる少なくとも1種の金属の酸化物で被覆されたコアシェル構造の金属の酸化物を用いることもできる。
上記の原料として用いるゾルは、無機酸化物粒子の動的光散乱法による平均粒子径が5~200nm、又は5~150nm、又は5~100nmの範囲で得られ、無機酸化物粒子の透過型電子顕微鏡観察による平均一次粒子径が5~200nm、又は5~150nm、又は5~100nmの範囲で用いる事ができる。
【0016】
本発明では下記(A)工程~(D)工程を経て得られる。
(A)工程は動的光散乱法による平均粒子径が5~200nmである無機酸化物粒子を分散質として、水性溶媒又は炭素原子数1~3のアルコールを分散媒とするゾルを、全分散媒中に炭素原子数4~8の炭素と炭素の結合を有する炭素鎖を分子中に含むアルコールが15質量%以上に含有するゾルを得る工程である。
水性溶媒又は炭素原子数1~3のアルコールを分散媒とするゾルとは、出発原料とするゾルである。
上記炭素原子数1~3のアルコールは、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノールがあげられる。特にメタノールを分散媒とするシリカゾルがあげられる。メタノールを分散媒とするシリカゾルは、pH1~6の酸性水性シリカゾルの水性媒体をメタノールに置換して得られる。ゾルの固形分は0.1~60質量%、又は1~55質量%、10~55質量%である。
【0017】
(A)工程に用いられる炭素原子数4~8の炭素-炭素結合を有する炭素鎖を分子中に含むアルコールは、相溶化剤として機能することができる。これらアルコールは例えばn-ブタノール、n-ペンタノール、n-ヘキサノール、n-オクタノール等があげられるが、これらに限定されない。特にn-ブタノールは好ましい。(A)工程では炭素原子数4~8の炭素-炭素結合を有する炭素鎖を分子中に含むアルコールを全分散媒中に15質量%以上の割合で含有する事ができる。例えば15~99質量%、又は15~80質量%、又は30~80質量%の範囲に設定することができる。水性溶媒又は炭素原子数1~3のアルコールを分散媒とするゾルに、炭素原子数4~8の炭素-炭素結合を有する炭素鎖を分子中に含むアルコールを添加することで上記割合に設定することも、さらに添加した後にエバポレーター等を用いて水性溶媒又は炭素原子数1~3のアルコールを除去することで上述の割合にすることができる。
【0018】
(B)工程は(A)工程で得られたゾルに上記式(1)のシラン化合物を添加し、20℃~分散媒の沸点(常温常圧下)以下の温度で0.1~6時間の反応を行う工程である。
式(1)で示されるシラン化合物において、Rはアルキル基、ハロゲン化アルキル基、アルケニル基、又はエポキシ基、(メタ)アクリロイル基、メルカプト基、アミノ基、ウレイド基、もしくはシアノ基を有する有機基で且つSi-C結合によりケイ素原子と結合しているものであって、該Rは少なくとも一つが炭素原子数4~18のアルキル基であってSi-C結合によりケイ素原子と結合しているものであり、Rはアルコキシ基、アシルオキシ基、又はハロゲン基を示し、aは1~3の整数を示す。
上記アルキル基は炭素原子数1~18のアルキル基であり、例えばメチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、シクロプロピル基、n-ブチル基、i-ブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、シクロブチル基、1-メチル-シクロプロピル基、2-メチル-シクロプロピル基、n-ペンチル基、1-メチル-n-ブチル基、2-メチル-n-ブチル基、3-メチル-n-ブチル基、1,1-ジメチル-n-プロピル基、1,2-ジメチル-n-プロピル基、2,2-ジメチル-n-プロピル基、1-エチル-n-プロピル基、シクロペンチル基、1-メチル-シクロブチル基、2-メチル-シクロブチル基、3-メチル-シクロブチル基、1,2-ジメチル-シクロプロピル基、2,3-ジメチル-シクロプロピル基、1-エチル-シクロプロピル基、2-エチル-シクロプロピル基、n-ヘキシル基、1-メチル-n-ペンチル基、2-メチル-n-ペンチル基、3-メチル-n-ペンチル基、4-メチル-n-ペンチル基、1,1-ジメチル-n-ブチル基、1,2-ジメチル-n-ブチル基、1,3-ジメチル-n-ブチル基、2,2-ジメチル-n-ブチル基、2,3-ジメチル-n-ブチル基、3,3-ジメチル-n-ブチル基、1-エチル-n-ブチル基、2-エチル-n-ブチル基、1,1,2-トリメチル-n-プロピル基、1,2,2-トリメチル-n-プロピル基、1-エチル-1-メチル-n-プロピル基、1-エチル-2-メチル-n-プロピル基、シクロヘキシル基、1-メチル-シクロペンチル基、2-メチル-シクロペンチル基、3-メチル-シクロペンチル基、1-エチル-シクロブチル基、2-エチル-シクロブチル基、3-エチル-シクロブチル基、1,2-ジメチル-シクロブチル基、1,3-ジメチル-シクロブチル基、2,2-ジメチル-シクロブチル基、2,3-ジメチル-シクロブチル基、2,4-ジメチル-シクロブチル基、3,3-ジメチル-シクロブチル基、1-n-プロピル-シクロプロピル基、2-n-プロピル-シクロプロピル基、1-i-プロピル-シクロプロピル基、2-i-プロピル-シクロプロピル基、1,2,2-トリメチル-シクロプロピル基、1,2,3-トリメチル-シクロプロピル基、2,2,3-トリメチル-シクロプロピル基、1-エチル-2-メチル-シクロプロピル基、2-エチル-1-メチル-シクロプロピル基、2-エチル-2-メチル-シクロプロピル基及び2-エチル-3-メチル-シクロプロピル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基等があげられるが、これらに限定されない。
【0019】
炭素原子数4~18のアルキル基は上記の炭素原子数が1~18のアルキル基の記載の中で、炭素原子数4~18、又は炭素原子数6~18のアルキル基が例示される。それらは例えばヘキシル基、デシル基、オクタデシル基が挙げられる。
また、アルキレン基は上述のアルキル基から誘導されるアルキレン基を上げる事ができる。
【0020】
アルケニル基としては炭素数2~10のアルケニル基であり、エテニル基、1-プロペニル基、2-プロペニル基、1-メチル-1-エテニル基、1-ブテニル基、2-ブテニル基、3-ブテニル基、2-メチル-1-プロペニル基、2-メチル-2-プロペニル基、1-エチルエテニル基、1-メチル-1-プロペニル基、1-メチル-2-プロペニル基、1-ペンテニル基、2-ペンテニル基、3-ペンテニル基、4-ペンテニル基、1-n-プロピルエテニル基、1-メチル-1-ブテニル基、1-メチル-2-ブテニル基、1-メチル-3-ブテニル基、2-エチル-2-プロペニル基、2-メチル-1-ブテニル基、2-メチル-2-ブテニル基、2-メチル-3-ブテニル基、3-メチル-1-ブテニル基、3-メチル-2-ブテニル基、3-メチル-3-ブテニル基、1,1-ジメチル-2-プロペニル基、1-i-プロピルエテニル基、1,2-ジメチル-1-プロペニル基、1,2-ジメチル-2-プロペニル基、1-シクロペンテニル基、2-シクロペンテニル基、3-シクロペンテニル基、1-ヘキセニル基、2-ヘキセニル基、3-ヘキセニル基、4-ヘキセニル基、5-ヘキセニル基、1-メチル-1-ペンテニル基、1-メチル-2-ペンテニル基、1-メチル-3-ペンテニル基、1-メチル-4-ペンテニル基、1-n-ブチルエテニル基、2-メチル-1-ペンテニル基、2-メチル-2-ペンテニル基等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0021】
上記アルコキシ基は炭素原子数1~10のアルコキシ基が挙げられ、例えばメトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、i-プロポキシ基、n-ブトキシ基、i-ブトキシ基、s-ブトキシ基、t-ブトキシ基、n-ペンチロキシ基、1-メチル-n-ブトキシ基、2-メチル-n-ブトキシ基、3-メチル-n-ブトキシ基、1,1-ジメチル-n-プロポキシ基、1,2-ジメチル-n-プロポキシ基、2,2-ジメチル-n-プロポキシ基、1-エチル-n-プロポキシ基、n-ヘキシロキシ基等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0022】
上記アシルオキシ基は炭素原子数2~10のアシルオキシ基は、例えばメチルカルボニルオキシ基、エチルカルボニルオキシ基、n-プロピルカルボニルオキシ基、i-プロピルカルボニルオキシ基、n-ブチルカルボニルオキシ基、i-ブチルカルボニルオキシ基、s-ブチルカルボニルオキシ基、t-ブチルカルボニルオキシ基、n-ペンチルカルボニルオキシ基、1-メチル-n-ブチルカルボニルオキシ基、2-メチル-n-ブチルカルボニルオキシ基、3-メチル-n-ブチルカルボニルオキシ基、1,1-ジメチル-n-プロピルカルボニルオキシ基、1,2-ジメチル-n-プロピルカルボニルオキシ基、2,2-ジメチル-n-プロピルカルボニルオキシ基、1-エチル-n-プロピルカルボニルオキシ基、n-ヘキシルカルボニルオキシ基、1-メチル-n-ペンチルカルボニルオキシ基、2-メチル-n-ペンチルカルボニルオキシ基等が挙げられるが、これらに限定されない。
上記ハロゲン基としてはフッ素、塩素、臭素、ヨウ素等が挙げられる。
上記(メタ)アクリロイル基とは、アクリロイル基とメタクリロイル基の双方をあらわす。
【0023】
式(1)の化合物は以下に例示することができる。
【化3】
上記式中、R11はアルコキシ基であり、例えばメトキシ基、エトキシ基が挙げられる。
(B)工程中では、(A)工程で得られたゾルに式(1)のシラン化合物を攪拌下に添加し、無機酸化物粒子の表面のヒドロキシル基、例えばシリカ粒子であればシラノール基と、式(1)のシラン化合物の加水分解基、例えばアルコキシ基と反応してシロキサン結合により無機酸化物粒子の表面に式(1)のシラン化合物を被覆する工程である。反応温度は20℃から用いる分散媒の沸点の温度で行うことができるが、例えば20℃~100℃の範囲で行うことができる。反応時間は0.1~6時間程度で行うことができる。
【0024】
上記式(1)のシラン化合物の加水分解には水が必要であるが、水性溶媒のゾルであればそれら水性溶媒が用いられ、炭素原子数1~3のアルコール溶媒のゾルであればアルコール溶媒中に残存する水分を用いる事ができる。残存する水分は水性媒体のゾルを、炭素原子数1~3のアルコール溶媒のゾルに溶媒置換するときに残存する水分であり、例えば上記アルコール中に1質量%以下、例えば0.01~1質量%に存在する水分を用いる事ができる。また、加水分解は触媒を用いて行うことも、触媒なしで行う事もできる。触媒を用いる場合は、加水分解触媒として金属キレート化合物、有機酸、無機酸、有機塩基、無機塩基を挙げることができる。加水分解触媒としての金属キレート化合物は、例えばトリエトキシ・モノ(アセチルアセトナート)チタン、トリエトキシ・モノ(アセチルアセトナート)ジルコニウム等が挙げられる。加水分解触媒としての有機酸は、例えば酢酸、シュウ酸等が挙げられる。加水分解触媒としての無機酸は、例えば塩酸、硝酸、硫酸、フッ酸、リン酸等を挙げられる。加水分解触媒としての有機塩基は、例えばピリジン、ピロール、ピペラジン、第4級アンモニウム塩が挙げられる。加水分解触媒としての無機塩基としては、例えばアンモニア、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムが挙げられる。
【0025】
(C)工程は(B)工程で得られたゾルに、炭素原子数6~18で且つパラフィン系炭化水素、ナフテン系炭化水素、又はそれらの混合物を含む炭化水素を添加し、アルコールを除去する工程である。
パラフィン系炭化水素はC2n+2で示される飽和炭化水素であり、本発明ではnが6~18の範囲の炭化水素を含むものである。分岐のないn-パラフィン(ノルマルパラフィン)や、分岐したi-パラフィン(イソパラフィン)が挙げられ、それらの混合物として用いる事ができる。これらの炭化水素は石油から得られることができ、熱分解や接触分解の過程で生じたオレフィン類(例えばリモネン、ジイソブチレン等の不飽和含有化合物)を微量含んでいてもよい。
【0026】
n-パラフィンとしては、n-ヘキサン、n-ヘプタン、n-オクタン、n-ノナン、n-デカン等が挙げられるが、これらに限定されない。
i-パラフィンとしては、i-オクタン、i-ノナン、i-デカン等が挙げられるが、これらに限定されない。
ナフテン系炭化水素はC2nで示される飽和単環の単環ナフテン及びそのアルキル基付加体、及びC2n―2で示される飽和二環の二環ナフテン及びそのアルキル基付加体が挙げられる。これらは芳香族成分がほぼ取り除かれていて、芳香族含有量が0.6質量%以下、又は0.1質量%以下、又は0.01質量%以下、又は0.001質量%以下の割合で含有する事ができる。本発明ではnが6~18の範囲の炭化水素を含むことができる。
【0027】
単環ナフテン類としてはシクロヘプタン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、ノニルシクロヘキサン等が挙げられるが、これらに限定されない。
二環ナフテン類としては、デカヒドロナフタレン等が挙げられるが、これらに限定されない。
炭素原子数6~18で且つパラフィン系炭化水素、ナフテン系炭化水素、又はそれらの混合物を含む溶媒は石油系炭化水素であり、例えば商品名エクソールヘキサン、商品名エクソールヘプタン、商品名エクソールDSP80/100、商品名エクソールDSP100/140、商品名エクソールDSP145/160、商品名エクソールD40、商品名エクソールD60、商品名エクソールD80、商品名エクソールD110、商品名エクソールD130、商品名アイソパーG等が挙げられ、エクソンモービル社から入手することができる。
【0028】
(C)工程は(B)工程で得られたゾルに、炭素原子数6~18で且つパラフィン系炭化水素、ナフテン系炭化水素、又はそれらの混合物を含む炭化水素を添加し、水性溶媒又は炭素原子数1~3のアルコールと、炭素原子数4~8の炭素-炭素結合を有する炭素鎖を分子中に含むアルコールを除去するが、この状態の分散媒は(水性溶媒又は炭素原子数1~3のアルコール)と(炭素原子数4~8の炭素-炭素結合を有する炭素鎖を分子中に含むアルコール)と(炭素原子数6~18で且つパラフィン系炭化水素、ナフテン系炭化水素、又はそれらの混合物を含む炭化水素)との混合溶媒であり、例えばその割合は質量比として(水性溶媒又は炭素原子数1~3のアルコール):(炭素原子数4~8の炭素-炭素結合を有する炭素鎖を分子中に含むアルコール):(炭素原子数6~18で且つパラフィン系炭化水素、ナフテン系炭化水素、又はそれらの混合物を含む炭化水素)=1:4~10:4~10、又は1:5~8:5~10の割合に含有する事ができる。これら混合分散媒に分散する無機酸化物粒子(例えばシリカ粒子)は、0.1~60質量%、又は1~55質量%、10~55質量%である。
【0029】
(D)工程は(C)工程で得られたゾルに、上記式(2)及び式(3)からなる群より選ばれた少なくとも1種のシラン化合物を添加し、20℃~分散媒の沸点以下の温度で0.1~6時間の反応を行う。
式(2)及び式(3)のシラン化合物において、R及びRは炭素原子数1~3のアルキル基で且つSi-C結合によりケイ素原子と結合しているものであり、R及びRはアルコキシ基、アシルオキシ基、又はハロゲン基を示し、Yはアルキレン基、NH基、又は酸素原子を示し、該R及びRは少なくとも一つが炭素原子数1~3のアルキル基であってりSi-C結合によりケイ素原子と結合しているものであり、bは1~3の整数であり、cは0又は1の整数であり、dは1~3の整数である。
【0030】
上記式(2)及び式(3)はトリメチルシリル基を無機酸化物粒子の表面に形成できる化合物が好ましい。
それら化合物としては以下に例示することができる。
【化4】
上記式中、R12はアルコキシ基であり、例えばメトキシ基、エトキシ基が挙げられる。
(D)工程中では無機酸化物粒子の表面にヒドロキシル基、例えばシリカ粒子であればシラノール基と式(2)又は式(3)のシラン化合物が反応してシロキサン結合により無機酸化物粒子の表面に式(2)又は式(3)のシラン化合物を被覆する工程である。反応温度は20℃からその分散媒の沸点の範囲までの温度で行うことができるが、例えば20℃~100℃の範囲で行うことができる。反応時間は0.1~6時間程度で行うことができる。
上記式(2)及び式(3)のシラン化合物の加水分解には水が必要であるが、水性溶媒のゾルであればそれら水性溶媒が用いられ、炭素原子数1~3のアルコール溶媒のゾルであればアルコール溶媒中に残存する水分を用いる事ができる。残存する水分は水性媒体のゾルを、炭素原子数1~3のアルコール溶媒のゾルに溶媒置換するときに残存する水分であり、例えば上記アルコール中に1質量%以下、例えば0.01~1質量%に存在する水分を用いる事ができる。
【0031】
上記(B)工程で式(1)のシラン化合物の加水分解に上記水が使われるが、加水分解した式(1)のシラン化合物が、無機酸化物粒子表面のOH基と反応し脱水縮合したことにより、再び水が生成するため、それらの水が式(2)及び式(3)のシラン化合物の加水分解に使用することができる。
また、加水分解は触媒を用いて行うことも、触媒なしで行う事もできる。触媒を用いる場合は、加水分解触媒として金属キレート化合物、有機酸、無機酸、有機塩基、無機塩基を挙げることができる。加水分解触媒としての金属キレート化合物は、例えばトリエトキシ・モノ(アセチルアセトナート)チタン、トリエトキシ・モノ(アセチルアセトナート)ジルコニウム等が挙げられる。加水分解触媒としての有機酸は、例えば酢酸、シュウ酸等が挙げられる。加水分解触媒としての無機酸は、例えば塩酸、硝酸、硫酸、フッ酸、リン酸等を挙げられる。加水分解触媒としての有機塩基は、例えばピリジン、ピロール、ピペラジン、第4級アンモニウム塩が挙げられる。加水分解触媒としての無機塩基としては、例えばアンモニア、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムが挙げられる。
【0032】
上記式(1)のシラン化合物と式(2)及び/又は式(3)のシラン化合物は、先に式(1)のシラン化合物により無機酸化物粒子表面に反応して、次に式(2)及び/又は式(3)のシラン化合物により無機酸化物粒子表面に反応させることが好ましい。式(2)及び式(3)のシラン化合物は比較的低分子のシラン化合物であるため、式(1)のシラン化合物との同時反応では式(2)及び式(3)のシラン化合物が優先されることであるため、立体的に大きな分子構造を有する式(1)のシラン化合物を先に無機酸化物粒子表面に結合させておくことが好ましい。その結果、式(1)のシラン化合物が結合した間隙に式(2)及び/又は式(3)のシラン化合物が結合し、高度に疎水化された無機酸化物粒子の表面が得られる。
無機酸化物粒子(例えばシリカ粒子)を含有するゾルは、式(1)のシラン化合物に由来する炭素原子数4~18のアルキル基がケイ素原子に結合したシラン化合物と、式(2)及び/又は式(3)のシラン化合物に由来する炭素原子数1~3のアルキル基がケイ素原子に結合したシラン化合物が、ケイ素原子のモル比で1:0.1~30、又は1:0.1~20の割合で存在する。無機酸化物粒子の表面上には、式(1)のシラン化合物に由来する炭素原子数4~18のアルキル基がケイ素原子に結合したシラン原子と、式(2)及び/又は式(3)のシラン化合物に由来する炭素原子数1~3のアルキル基がケイ素原子に結合したシラン原子とが、1個/nm:0.1~10個/nmの割合で存在する。
【0033】
本発明では(E)工程として、ゾルの分散媒中で、炭素原子数6~18で且つパラフィン系炭化水素、ナフテン系炭化水素、又はそれらの混合物を含む炭化水素の割合を更に上昇させるために、水性溶媒又は炭素原子数1~3のアルコールと、炭素原子数4~8の炭素-炭素結合を有する炭素鎖を分子中に含むアルコールを、ゾルから除去する工程を行う事ができる。これらの除去はエバポレーターを用いた蒸留法で行う事ができる。
この状態の分散媒は質量比として(水性溶媒又は炭素原子数1~3のアルコール):(炭素原子数4~8の炭素-炭素結合を有する炭素鎖を分子中に含むアルコール):(炭素原子数6~18で且つパラフィン系炭化水素、ナフテン系炭化水素、又はそれらの混合物を含む炭化水素)=0~1.0:0.1~5.0:100の割合に含有する事ができる。これら混合分散媒に分散する無機酸化物粒子(例えばシリカ粒子)は、0.1~60質量%、又は1~55質量%、10~55質量%である。
本発明の無機酸化物ゾルは石油系溶剤に分散した疎水性のゾルであり、例えば接着剤、離型剤、半導体封止材、LED封止材、塗料、フィルム内添材、ハードコート剤、フォトレジスト材、印刷インキ、洗浄剤、クリーナー、各種樹脂用添加剤、絶縁用組成物、防錆剤、潤滑油、金属加工油、フィルム用塗布剤、剥離剤等に使用する事ができる。
【実施例
【0034】
(実施例1)
(A)工程:1リットルの3口丸底フラスコにメタノール分散シリカゾル(製品名:MA-ST-ZL-IP、透過型電子顕微鏡観察による平均一次粒子径85nm、シリカ濃度40質量%、日産化学株式会社製)500gを入れ、ロータリーエバポレーターを用いてn-ブタノール(特級 関東化学株式会社製)に置換することで、メタノールとn-ブタノールの混合比率が4:6の溶媒に分散したシリカゾル(平均一次粒子径85nm、シリカ濃度40質量%)を得た。
(B)工程:このシリカゾルに、上記シランカップリング剤のデシルトリメトキシシラン(製品名KBM-3103C、信越化学工業株式会社製)を2.52g添加し、攪拌下に65℃で3時間保持した。
(C)工程:次いで、再びロータリーエバポレーターを用いて、エクソールDSP145/160に置換し、メタノールとn-ブタノールとエクソールDSP145/160の混合比率が2:13:15の溶媒に分散したシリカゾル(平均一次粒子径85nm、シリカ濃度40質量%)を得た。
(D)工程:その後、トリメチルシリル基としてヘキサメチルジシラザン(製品名SZ-31、信越化学工業株式会社製)を10.3g添加し、65℃で5時間加熱した。上記シリカゾルにはデシル基含有ケイ素原子とメチル基含有ケイ素原子が、ケイ素原子のモル比で1:13.3の割合で含有するシリカ粒子を含んでいた。
(E)工程:反応後、1リットルのナスフラスコにシリカゾルを移液し、エクソールDSP145/160に置換し、エクソールDSP145/160分散シリカゾル(SiOとしての固形分50質量%、動的光散乱法での平均粒子径が102nm、20℃のオストワルド粘度(比重0.880、固形分20質量%)が1.06mPa・s、20℃のオストワルド粘度(比重0.958、固形分30質量%)が1.35mPa・s、20℃のオストワルド粘度(比重1.144、固形分50質量%)が2.97mPa・s、分散媒中のn-ブタノール含有量は1.0質量%、残部はエクソールDSP145/160であった。)を得た。
【0035】
エクソールDSP145/160溶媒の20℃のオストワルド粘度(比重0.760)は0.81mPa・sであった。
得られたゾルの粘度は、エクソールDSP145/160の粘度に対して20℃で固形分20質量%の時に1.31倍、固形分30質量%の時に1.67倍、固形分50質量%の時に3.67倍であった。
【0036】
(実施例2)
(B)工程でシランカップリング剤のデシルトリメトキシシランを2.52gの代わりにヘキシルトリメトキシシラン(製品名KBM-3063、信越化学工業株式会社製)を1.98g用いたこと以外は、実施例1と同様にしてエクソールDSP145/160分散シリカゾルを得た。上記シリカゾルにはヘキシル基含有ケイ素原子とメチル基含有ケイ素原子が、ケイ素原子のモル比で1:13.3の割合で含有するシリカ粒子を含んでいた。
エクソールDSP145/160分散シリカゾル(SiOとしての固形分50質量%、動的光散乱法での平均粒子径が117nm、20℃のオストワルド粘度(比重1.143、固形分50質量%)が6.00mPa・s、分散媒中のn-ブタノール含有量は1.0質量%、残部はエクソールDSP145/160であった。)を得た。
エクソールDSP145/160溶媒の20℃のオストワルド粘度(比重0.760)は0.81mPa・sであった。
得られたゾルの粘度は、エクソールDSP145/160の粘度に対して20℃で固形分50質量%の時に7.40倍であった。
【0037】
(実施例3)
(B)工程でシランカップリング剤のデシルトリメトキシシランを2.52gの代わりにオクタデシルトリメトキシシラン(東京化成工業株式会社製)を3.60g用いたこと以外は、実施例1と同様にしてエクソールDSP145/160分散シリカゾルを得た。上記シリカゾルにはオクタデシル基含有ケイ素原子とメチル基含有ケイ素原子が、ケイ素原子のモル比で1:13.3の割合で含有するシリカ粒子を含んでいた。
エクソールDSP145/160分散シリカゾル(SiOとしての固形分50質量%、動的光散乱法での平均粒子径が99nm、20℃のオストワルド粘度(比重1.148、固形分50質量%)が3.04mPa・s、分散媒中のn-ブタノール含有量は1.0質量%、残部はエクソールDSP145/160であった。)を得た。
エクソールDSP145/160溶媒の20℃のオストワルド粘度(比重0.760)は0.81mPa・sであった。
得られたゾルの粘度は、エクソールDSP145/160の粘度に対して20℃で固形分50質量%の時に3.75倍であった。
【0038】
(実施例4)
(D)工程でトリメチルシリル基のヘキサメチルジシラザンを17.3gの代わりにヘキサメチルジシロキサン(製品名KF-96L、信越化学工業株式会社製)を10.4g用いたこと以外は実施例1と同様にしてエクソールDSP145/160分散シリカゾルを得た。上記シリカゾルにはデシル基含有ケイ素原子とメチル基含有ケイ素原子が、ケイ素原子のモル比で1:13.3の割合で含有するシリカ粒子を含んでいた。
エクソールDSP145/160分散シリカゾル(SiOとしての固形分50質量%、動的光散乱法での平均粒子径が110nm、20℃のオストワルド粘度(比重1.142、固形分50質量%)が2.86mPa・s、分散媒中のn-ブタノール含有量は1.0質量%、残部はエクソールDSP145/160であった。)を得た。
エクソールDSP145/160溶媒の20℃のオストワルド粘度(比重0.760)は0.81mPa・sであった。
得られたゾルの粘度は、エクソールDSP145/160の粘度に対して20℃で固形分50質量%の時に3.53倍であった。
【0039】
(実施例5)
(D)工程でトリメチルシリル基のヘキサメチルジシラザンを17.3gの代わりにトリメチルメトキシシラン(製品名Z-6013、東レダウコーニング株式会社)を13.4g用いたこと以外は実施例1と同様にしてエクソールDSP145/160分散シリカゾルを得た。上記シリカゾルにはデシル基含有ケイ素原子とメチル基含有ケイ素原子が、ケイ素原子のモル比で1:13.3の割合で含有するシリカ粒子を含んでいた。
エクソールDSP145/160分散シリカゾル(SiOとしての固形分50質量%、動的光散乱法での平均粒子径が107nm、20℃のオストワルド粘度(比重1.143、固形分50質量%)が2.86mPa・s、分散媒中のn-ブタノール含有量は1.0質量%、残部はエクソールDSP145/160であった。)を得た。
エクソールDSP145/160溶媒の20℃のオストワルド粘度(比重0.760)は0.81mPa・sであった。
得られたゾルの粘度は、エクソールDSP145/160の粘度に対して20℃で固形分50質量%の時に3.53倍であった。
【0040】
(実施例6)
(A)工程で相溶化剤であるn-ブタノールの代わりに1-ヘキサノール(東京化成工業株式会社製)を用いたこと以外は、実施例1と同様にしてエクソールDSP145/160分散シリカゾルを得た。上記シリカゾルにはデシル基含有ケイ素原子とメチル基含有ケイ素原子が、ケイ素原子のモル比で1:13.3の割合で含有するシリカ粒子を含んでいた。
エクソールDSP145/160分散シリカゾル(SiOとしての固形分50質量%、動的光散乱法での平均粒子径が101nm、20℃のオストワルド粘度(比重1.141、固形分50質量%)が2.94mPa・s、分散媒中の1-ヘキサノール含有量は1.0質量%、残部はエクソールDSP145/160であった。)を得た。
エクソールDSP145/160溶媒の20℃のオストワルド粘度(比重0.760)は0.81mPa・sであった。
得られたゾルの粘度は、エクソールDSP145/160の粘度に対して20℃で固形分50質量%の時に3.63倍であった。
【0041】
(実施例7)
(A)工程:500ミリリットルの3口丸底フラスコにメタノール分散シリカゾル(製品名:MT-ST、透過型電子顕微鏡観察による平均一次粒子径12nm、シリカ濃度30質量%、日産化学株式会社製)300gを入れ、ロータリーエバポレーターを用いてn-ブタノール溶媒に置換することで、メタノールとn-ブタノールの混合比率が4:6の溶媒に分散したシリカゾル(平均一次粒子径12nm、シリカ濃度30質量%)を得た。
(B)工程:このシリカゾルに、上記シランカップリング剤のデシルトリメトキシシラン(製品名KBM-3103C、信越化学工業株式会社製)を13.8g添加し、攪拌下に65℃で3時間保持した。
(C)工程:次いで、再びロータリーエバポレーターを用いて、エクソールDSP145/160に置換し、メタノールとn-ブタノールとエクソールDSP145/160の混合比率が2:13:15の溶媒に分散したシリカゾル(平均一次粒子径12nm、シリカ濃度30質量%)を得た。
(D)工程:その後、トリメチルシリル基としてヘキサメチルジシラザン(製品名SZ-31、信越化学工業株式会社製)を56.7g添加し、65℃で5時間加熱した。上記シリカゾルにはデシル基含有ケイ素原子とメチル基含有ケイ素原子が、ケイ素原子のモル比で1:13.3の割合で含有するシリカ粒子を含んでいた。
(E)工程:反応後、500ミリリットルのナスフラスコにシリカゾルを移液し、エクソールDSP145/160に置換し、エクソールDSP145/160分散シリカゾル(SiOとしての固形分50質量%、動的光散乱法での平均粒子径が18nm、20℃のオストワルド粘度(比重0.876、固形分20質量%)が1.57mPa・s、20℃のオストワルド粘度(比重0.950、固形分30質量%)が1.69mPa・s、20℃のオストワルド粘度(比重1.131、固形分50質量%)が6.29mPa・s、分散媒中のn-ブタノール含有量は1.0質量%、残部はエクソールDSP145/160であった。)を得た。
【0042】
エクソールDSP145/160溶媒の20℃のオストワルド粘度(比重0.760)は0.81mPa・sであった。
得られたゾルの粘度は、エクソールDSP145/160の粘度に対して20℃で固形分20質量%の時に1.94倍、固形分30質量%の時に2.09倍、固形分50質量%の時に7.77倍であった。
【0043】
(実施例8)
(A)工程:1リットルの3口丸底フラスコにメタノール分散ジルコニアゾル(製品名:HZ-400M7、比表面積190~200m/g、透過型電子顕微鏡観察による平均一次粒子径15nm、固形分濃度40質量%、日産化学株式会社製)500gを入れ、ロータリーエバポレーターを用いてn-ブタノール(特級 関東化学株式会社製)に置換することで、メタノールとn-ブタノールの混合比率が4:6の溶媒に分散したジルコニアゾル(比表面積190~200m/g、固形分濃度40質量%)を得た。
(B)工程:このジルコニアゾルに、上記シランカップリング剤のデシルトリメトキシシラン(製品名KBM-3103C、信越化学工業株式会社製)を26.2g添加し、攪拌下に65℃で3時間保持した。
(C)工程:次いで、再びロータリーエバポレーターを用いて、エクソールDSP145/160に置換し、メタノールとn-ブタノールとエクソールDSP145/160の混合比率が1:9:5の溶媒に分散したジルコニアゾル(比表面積190~200m/g、固形分濃度40質量%)を得た。
(D)工程:その後、トリメチルシリル基としてヘキサメチルジシラザン(製品名SZ-31、信越化学工業株式会社製)を107.3g添加し、65℃で5時間加熱した。上記ジルコニアゾルにはデシル基含有ケイ素原子とメチル基含有ケイ素原子が、ケイ素原子のモル比で1:13.3の割合で含有するシリカ粒子を含んでいた。
(E)工程:反応後、1リットルのナスフラスコにジルコニアゾルを移液し、エクソールDSP145/160に置換し、エクソールDSP145/160分散ジルコニアゾルを得た。
【0044】
エクソールDSP145/160分散ジルコニアゾル(ZrOとしての固形分30質量%、動的光散乱法での平均粒子径が44nm、20℃のオストワルド粘度(比重1.024、固形分30質量%)が3.06mPa・s、分散媒中のn-ブタノール含有量は1.0質量%、残部はエクソールDSP145/160であった。)を得た。
エクソールDSP145/160溶媒の20℃のオストワルド粘度(比重0.760)は0.81mPa・sであった。
得られたゾルの粘度は、エクソールDSP145/160の粘度に対して20℃で固形分30質量%の時に3.78倍であった。
【0045】
(実施例9)
(A)工程:1リットルの3口丸底フラスコにメタノール分散シリカゾル(製品名:MA-ST-L、透過型電子顕微鏡観察による平均一次粒子径45nm、シリカ濃度40質量%、日産化学株式会社製)500gを入れ、ロータリーエバポレーターを用いてn-ブタノール(特級 関東化学株式会社製)に置換することで、メタノールとn-ブタノールの混合比率が4:6の溶媒に分散したシリカゾル(平均一次粒子径45nm、シリカ濃度40質量%)を得た。
(B)工程:このシリカゾルに、上記シランカップリング剤のデシルトリメトキシシラン(製品名KBM-3103C、信越化学工業株式会社製)を7.90g添加し、攪拌下に65℃で3時間保持した。
(C)工程:次いで、再びロータリーエバポレーターを用いて、アイソパーGに置換し、メタノールとn-ブタノールとアイソパーGの混合比率が2:13:15の溶媒に分散したシリカゾル(平均一次粒子径85nm、シリカ濃度40質量%)を得た。
(D)工程:その後、トリメチルシリル基としてヘキサメチルジシラザン(製品名SZ-31、信越化学工業株式会社製)を32.4g添加し、65℃で5時間加熱した。上記シリカゾルにはデシル基含有ケイ素原子とメチル基含有ケイ素原子が、ケイ素原子のモル比で1:13.3の割合で含有するシリカ粒子を含んでいた。
(E)工程:反応後、1リットルのナスフラスコにシリカゾルを移液し、アイソパーGに置換し、アイソパーG分散シリカゾル(SiOとしての固形分50質量%、動的光散乱法での平均粒子径が58nm、20℃のオストワルド粘度(比重0.866、固形分20質量%)が1.49mPa・s、20℃のオストワルド粘度(比重1.034、固形分30質量%)が2.04mPa・s、20℃のオストワルド粘度(比重1.132、固形分50質量%)が4.08mPa・s、分散媒中のn-ブタノール含有量は1.0質量%、残部はアイソパーGであった。)を得た。
アイソパーG溶媒の20℃のオストワルド粘度(比重0.743)は1.12mPa・sであった。得られたゾルの粘度は、アイソパーGの粘度に対して、固形分20質量%の時に1.33倍、固形分30質量%の時に1.82倍、50質量%の時に3.64倍であった。
【0046】
(比較例1)
(A)工程:500ミリリットルの3口丸底フラスコにイソプロパノール分散シリカゾル(製品名:IPA-ST、透過型電子顕微鏡観察による平均一次粒子径12nm、シリカ濃度30質量%、日産化学株式会社製)300gを入れ、
(B)工程:上記シランカップリング剤のデシルトリメトキシシラン(製品名KBM-3103C、信越化学工業株式会社製)を13.8g添加し、攪拌下に65℃で3時間保持した。
(C)工程:次いで、ロータリーエバポレーターを用いて、エクソールDSP145/160に置換し、イソプロパノールとエクソールDSP145/160の混合比率が3:2の溶媒に分散したシリカゾル(平均一次粒子径12nm、シリカ濃度30質量%)を得た。
(D)工程:その後、トリメチルシリル基としてヘキサメチルジシラザン(製品名SZ-31、信越化学工業株式会社製)を56.7g添加し、65℃で5時間加熱した。上記シリカゾルにはデシル基含有ケイ素原子とメチル基含有ケイ素原子が、ケイ素原子のモル比で1:13.3の割合で含有するシリカ粒子を含んでいた。
(E)工程:反応後、500ミリリットルのナスフラスコにシリカゾルを移液し、エクソールDSP145/160に置換し、エクソールDSP145/160分散シリカゾルを得た。
【0047】
エクソールDSP145/160分散シリカゾル(SiOとしての固形分50質量%、動的光散乱法での平均粒子径が39nm、20℃のB型粘度計の粘度(比重1.140、固形分50質量%)が41mPa・s、分散媒中のイソプロパノール含有量は1.0質量%、残部はエクソールDSP145/160であった。)を得た。
エクソールDSP145/160溶媒の20℃のオストワルド粘度(比重0.760)は0.81mPa・sであった。
得られたゾルの粘度は、エクソールDSP145/160の粘度に対して20℃で固形分50質量%の時に50.6倍であった。物性的に十分ではなかった。
【0048】
(比較例2)
実施例1において(A)工程でn-ブタノール(特級 関東化学株式会社製)を用いて置換しないこと以外は、同様の手順で操作を行ったが、(C)工程でメタノール溶媒をエクソールDSP145/160に置換する事が困難であった。
【0049】
(比較例3)
実施例1において(B)工程でデシルトリメトキシシラン(製品名KBM-3103C、信越化学工業株式会社製)を添加しないこと以外は、同様の手順で操作を行った。
エクソールDSP145/160分散シリカゾル(SiOとしての固形分50質量%、動的光散乱法での平均粒子径が4283nm、20℃のB型粘度計の粘度(比重1.14、固形分50質量%)が13640mPa・s、分散媒中のn-ブタノール含有量は1.0質量%、残部はエクソールDSP145/160であった。)を得た。
エクソールDSP145/160溶媒の20℃のオストワルド粘度(比重0.760)は0.81mPa・sであった。
得られたゾルの粘度は、エクソールDSP145/160の粘度に対して20℃で固形分50質量%の時に16840倍であった。物性的に十分ではなかった。
【0050】
(比較例4)
実施例1において(D)工程でヘキサメチルジシラザン(製品名SZ-31、信越化学工業株式会社製)を添加しないこと以外は、同様の手順で操作を行った。
エクソールDSP145/160分散シリカゾル(SiOとしての固形分50質量%、動的光散乱法での平均粒子径が1469nm、20℃のB型粘度計の粘度(比重1.14、固形分50質量%)が113mPa・s、分散媒中のn-ブタノール含有量は1.0質量%、残部はエクソールDSP145/160であった。)を得た。
エクソールDSP145/160溶媒の20℃のオストワルド粘度(比重0.760)は0.81mPa・sであった。
得られたゾルの粘度は、エクソールDSP145/160の粘度に対して20℃で固形分50質量%の時に140倍であった。物性的に十分ではなかった。
【0051】
上記実施例1~9、比較例1~4で得られたシリカゾルの物性を以下に示した。
【表1】
【0052】
表1中で(Ost)はオストワルド粘度計での測定結果を示し、(B)はB型粘度計での測定結果を示す。オストワルド粘度は、材質が硼珪酸ガラスで毛細管内径がφ0.75のものを使用して測定した。B型粘度は、東機産業株式会社製のVISCOMETER(BM型)を使用して測定した。上記粘度測定において10mPa・s以下はオストワルド粘度計を用い、それ以上の値ではB型回転粘度計を用いて測定した。
DLS粒子径は動的光散乱法による粒子径測定結果を示す。DLS粒子径は、Malvern Panalytical社製のZETASIZER NANOを使用して測定した。
固形分の測定は、材質がアルミナのるつぼに上記ゾルを所定量測り採り、山田電機株式会社製の電気炉に入れて1000℃まで昇温し30分間保持した。その後、電気炉からるつぼを取り出して、焼成残分から固形分を算出した。シリカゾルの比重は、アズワン株式会社が販売する標準比重計を用いて測定した。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明の無機酸化物ゾルは石油系溶剤に分散した疎水性のゾルであり、例えば接着剤、離型剤、半導体封止材、LED封止材、塗料、フィルム内添材、ハードコート剤、フォトレジスト材、印刷インキ、洗浄剤、クリーナー、各種樹脂用添加剤、絶縁用組成物、防錆剤、潤滑油、金属加工油、フィルム用塗布剤、剥離剤等に使用する事ができる。