(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-15
(45)【発行日】2022-11-24
(54)【発明の名称】抗菌剤組成物
(51)【国際特許分類】
A01N 59/16 20060101AFI20221116BHJP
A01P 3/00 20060101ALI20221116BHJP
A01P 1/00 20060101ALI20221116BHJP
C02F 1/50 20060101ALI20221116BHJP
C01B 32/198 20170101ALI20221116BHJP
C01B 32/192 20170101ALI20221116BHJP
【FI】
A01N59/16 Z
A01P3/00
A01P1/00
C02F1/50 510A
C02F1/50 520K
C02F1/50 520J
C02F1/50 531J
C02F1/50 531U
C02F1/50 540Z
C02F1/50 531T
C02F1/50 531S
C01B32/198
C01B32/192
(21)【出願番号】P 2018207371
(22)【出願日】2018-11-02
【審査請求日】2021-08-19
(73)【特許権者】
【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000004628
【氏名又は名称】株式会社日本触媒
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】宮治 裕史
(72)【発明者】
【氏名】西田 絵利香
(72)【発明者】
【氏名】蔀 佳奈子
(72)【発明者】
【氏名】小野 博信
(72)【発明者】
【氏名】郷田 隼
【審査官】奥谷 暢子
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-018075(JP,A)
【文献】特開2008-001950(JP,A)
【文献】特開2007-212125(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N
A01P
C02F
C01B
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化グラフェンと亜鉛成分とを含有することを特徴とする抗菌剤組成物。
【請求項2】
前記
酸化グラフェンと亜鉛成分との質量比(
酸化グラフェン/亜鉛)が、1/30~300/1であることを特徴とする請求項
1に記載の抗菌剤組成物。
【請求項3】
請求項1
又は2に記載の抗菌剤組成物と基材とを含むことを特徴とする抗菌材料。
【請求項4】
前記亜鉛成分の含有割合が、抗菌材料100質量%に対して0.01~1質量%であることを特徴とする請求項
3に記載の抗菌材料。
【請求項5】
前記基材は、多孔質スキャフォールドであることを特徴とする請求項
3又は
4に記載の抗菌材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗菌剤組成物に関する。より詳しくは、生体材料、洗浄剤、化粧料、塗料、樹脂、木材防腐剤、セメント混和剤、水処理剤、工業用水、紙パルプ、プラスチック、繊維、食品添加物、医療機器、光学機器、モジュール、電子製品等に有用な抗菌剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
O157等の細菌による感染症は、人間の生命を脅かすことから、細菌等に対する対策が世界的に求められている。近年、我が国では、消費者の清潔志向等から、医療や衛生分野にとどまらず、様々な分野において抗菌加工が施された種々のものが市販されている。抗菌加工に用いられる抗菌剤としては、有機系薬剤、無機系薬剤に分類することができ、無機系薬剤に関して、非特許文献1には、無機系抗菌剤の分類と抗菌機構について記載され、種々の金属イオンの抗菌性能が開示されている。金属化合物を用いた抗菌剤に関して、例えば特許文献1には、水難溶性の亜鉛含有無機化合物を有効成分として含有することを特徴とする、抗菌殺菌剤が開示されている。特許文献2には、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、マンガン、ニッケル、銅、及び、亜鉛からなる群の中から選ばれた2種以上の金属の難溶性オルトリン酸複塩に、0.1~5.0重量%の銀を担持させたことを特徴とする抗菌・抗カビ性リン酸複塩が開示されている。また、炭素材料を用いた抗菌剤に関して、特許文献3には、酸化グラフェン粒子を水及びN-メチル-2-ピロリドンの混合溶液に分散した分散液からなる、歯表面に塗布して持続的に抗菌性を付与するために用いる歯科用コーティング組成物であって、前記水及びN-メチル-2-ピロリドンの混合溶液は、N-メチル-2-ピロリドンの濃度が0.1~20質量%の範囲である、前記組成物が開示されている。特許文献4には、多孔質スキャフォールドからなる基材、及び前記基材の表面の少なくとも一部へのコーティングである酸化グラフェンを含み、前記酸化グラフェンのコーティング量は、前記基材の質量基準で0.1~2.5質量%の範囲である、骨再生用又は皮膚再生用スキャフォールドが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2007-314478号公報
【文献】特開平05-294808号公報
【文献】特開2016-074636号公報
【文献】特開2016-158680号公報
【非特許文献】
【0004】
【文献】山本則幸(Noriyuki Yamamoto)「無機マテリアル」(日本)1999年、第6巻、p468-473
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述のとおり、従来、種々の抗菌剤が開示されているものの、抗菌性能において充分ではなく、従来の抗菌剤よりも抗菌性能に優れる抗菌剤が求められていた。
【0006】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、従来の抗菌剤よりも抗菌性能に優れる抗菌剤組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、抗菌性を発揮する化合物について種々検討したところ、特定の構造の炭素材料と亜鉛成分とを組み合わせることにより、従来の抗菌剤よりも抗菌性能に優れることを見いだし、上記課題をみごとに解決することができることに想到し、本発明に到達したものである。
【0008】
すなわち本発明は、ラマンスペクトルにおいてGバンドを有する炭素材料と亜鉛成分とを含有する抗菌剤組成物である。
【0009】
上記炭素材料は、酸化グラフェンであることが好ましい。
【0010】
上記炭素材料と亜鉛成分との質量比(炭素材料/亜鉛)が、1/30~300/1であることが好ましい。
【0011】
本発明はまた、上記抗菌剤組成物と基材を含む抗菌材料でもある。
【0012】
上記亜鉛成分の含有割合が、抗菌材料100質量%に対して0.01~1質量%であることが好ましい。
【0013】
上記基材は、多孔質スキャフォールドであることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明の抗菌剤組成物は、上述の構成よりなり、従来の抗菌剤よりも抗菌性能に優れるため、生体材料、洗浄剤、化粧料、塗料、樹脂、木材防腐剤、セメント混和剤、水処理剤、工業用水、紙パルプ、プラスチック、繊維、食品添加物、医療機器、光学機器、モジュール、電子製品等に好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】実施例6の抗菌材料(2)のラマンスペクトルを示すチャートである。
【
図2】比較例1の比較抗菌材料(1)のラマンスペクトルを示すチャートである。
【
図3】比較例2の比較抗菌材料(2)のラマンスペクトルを示すチャートである。
【
図4】比較例3の比較抗菌材料(3)のラマンスペクトルを示すチャートである。
【
図5】実施例6の抗菌材料(2)のXRD測定結果を示すチャートである。
【
図6】実施例7の抗菌材料(3)のXRD測定結果を示すチャートである。
【
図7】比較例1の比較抗菌材料(1)のXRD測定結果を示すチャートである。
【
図8】比較例2の比較抗菌材料(2)のXRD測定結果を示すチャートである。
【
図9】比較例3の比較抗菌材料(3)のXRD測定結果を示すチャートである。
【
図10】比較例4の比較抗菌材料(4)のXRD測定結果を示すチャートである。
【
図11】実施例6の抗菌材料(2)のSEM写真(倍率:1万倍)である。
【
図12】比較例1の比較抗菌材料(1)のSEM写真(倍率:5000倍)である。
【
図13】比較例2の比較抗菌材料(2)のSEM写真(倍率:5000倍)である。
【
図14】比較例3の比較抗菌材料(3)のSEM写真(倍率:5000倍)である。
【
図15】実施例6の抗菌材料(2)のSEM写真(倍率:2万倍)である。
【
図16】比較例3の比較抗菌材料(3)のSEM写真(倍率:2万倍)である。
【
図17】実施例5~8の抗菌材料(1)~(4)、比較例1、2の比較抗菌材料(1)、(2)についてのS. mutansに対する抗菌性評価(1)の結果を示すグラフである。
【
図18】実施例6の抗菌材料(2)、比較例1~3の比較抗菌材料(1)~(3)についてのS. mutansに対する抗菌性評価(2)の結果を示すグラフである。
【
図19】実施例6の抗菌材料(2)、比較例1~3の比較抗菌材料(1)~(3)についてのA.naeslundiiに対する抗菌性評価(2)の結果を示すグラフである。
【
図20】実施例5~8の抗菌材料(1)~(4)、比較例1、2の比較抗菌材料(1)、(2)についての細胞増殖評価結果を示すグラフである。
【
図21】実施例5~8の抗菌材料(1)~(4)、比較例1、2の比較抗菌材料(1)、(2)についての細胞毒性評価結果を示すグラフである。
【
図22】実施例6の抗菌材料(2)、比較例1~3の比較抗菌材料(1)~(3)についての細胞増殖評価結果を示すグラフである。
【
図23】実施例6の抗菌材料(2)、比較例1~3の比較抗菌材料(1)~(3)についての細胞毒性評価結果を示すグラフである。
【
図24】実施例10の抗菌材料(5)のラマンスペクトルを示すチャートである。
【
図25】比較例6の比較抗菌材料(6)のラマンスペクトルを示すチャートである。
【
図26】比較例7の比較抗菌材料(7)のラマンスペクトルを示すチャートである。
【
図27】比較例8の比較抗菌材料(8)のラマンスペクトルを示すチャートである。
【
図28】実施例10の抗菌材料(5)、比較例5、6、8の比較抗菌材料(5)、(6)、(8)についてのS. mutansに対する抗菌性評価(3)の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に本発明の好ましい形態について具体的に説明するが、本発明は以下の記載のみに限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において適宜変更して適用することができる。なお、以下に記載される本発明の個々の好ましい形態を2又は3以上組み合わせた形態も、本発明の好ましい形態に該当する。
【0017】
<抗菌剤組成物>
本発明の抗菌剤組成物は、ラマンスペクトルにおいてGバンドを有する炭素材料(以下、本発明の炭素材料ともいう。)と亜鉛成分とを含有する。上記特定の炭素材料と亜鉛成分とを組み合わせることにより、亜鉛成分の分散性が高まり、従来の亜鉛成分を含む抗菌剤よりも抗菌性能に優れると考えられる。従来、種々の金属が抗菌成分として用いられているが、亜鉛成分を含む本発明の抗菌剤組成物は、亜鉛濃度を低くした場合にも、充分な抗菌性能を発揮することができる。更に、亜鉛は細胞毒性が低いため、安全性にも優れる。
【0018】
ここで、抗菌剤とは抗菌性能を有する剤のことをいう。抗菌性能とは、殺菌(微生物を殺す)、静菌(微生物の繁殖を抑える)、滅菌、消毒、制菌、除菌、防腐、防カビ等の性能を有することをいい、対象となる微生物は、細菌、真菌である。
対象となる微生物として具体的には、S. mutans、S. sobrinus、Lactobacillus、P. gingivalis、T. forsythia、P. intermedia、T. denticola、A. actinomycetemcomitans、A.naeslundii、E. corrodens、Spirochetes、Fusobacterium、及び、C. albicans等が挙げられる。
【0019】
本発明の抗菌剤組成物は、本発明の炭素材料と亜鉛成分との質量比(炭素材料/亜鉛)が、1/30~300/1であることが好ましい。これにより抗菌性能がより向上することとなる。上記質量比を算出する際の亜鉛成分の質量は、亜鉛原子に換算して算出するものとする。例えば亜鉛成分として亜鉛元素含有化合物を含む場合、亜鉛元素含有化合物中の亜鉛原子の質量として計算する。上記質量比としてより好ましくは1/15~150/1であり、更に好ましくは1/5~100/1であり、特に好ましくは1/1~50/1である。
【0020】
本発明の抗菌剤組成物は、亜鉛成分の亜鉛原子換算含有割合が、抗菌剤組成物100質量%に対して0.0001~20質量%であることが好ましい。より好ましくは0.0002~10質量%であり、更に好ましくは0.001~5質量%であり、特に好ましくは0.005~1質量%である。
【0021】
本発明の抗菌剤組成物は、本発明の炭素材料の含有割合が、抗菌剤組成物100質量%に対して0.0001~10質量%であることが好ましい。より好ましくは0.0005~5 質量%であり、更に好ましくは0.001~2質量%であり、特に好ましくは0.005~1質量%である。
【0022】
(炭素材料)
本発明の抗菌剤組成物に含まれる炭素材料は、ラマンスペクトルにおけるGバンドを有するものであればよい。Gバンドとは、ラマンスペクトルにおいて、ラマンシフト1580cm-1付近に出現するピークである。
ラマンスペクトルの測定は、実施例に記載の条件により行うことができる。
上記炭素材料は、ラマンスペクトルにおけるGバンドを有するものであり、グラフェン骨格を有するものであることを意味する。上記グラフェン骨格を有する炭素材料は、sp2結合で結合した炭素(C)を有し、該炭素が平面的に並んだものである。より好ましくは酸素(O)と結合した炭素を有するものであり、更に好ましくは、グラフェンの炭素に酸素が結合した酸化グラフェンである。
なお、一般的にグラフェンとは、sp2結合で結合した炭素原子が平面的に並んだ1層からなるシートをいい、グラフェンシートが多数積層されたものはグラファイトといわれるが、本発明におけるグラフェン骨格を有する炭素材料や、本発明における酸化グラフェンには、1層のみからなるシートのみではなく、数層~100層程度積層した構造を有するものも含まれる。
このような積層した構造を有する酸化グラフェンは、例えば、グラファイトを公知の酸化剤で処理して得ることができる。
上記炭素材料は、更に、カルボキシル基、水酸基、硫黄含有基等の官能基を有していてもよいが、全構成元素に対する炭素、水素、及び、酸素の構成元素としての含有率が97モル%以上であることが好ましく、99モル%以上であることがより好ましく、炭素、水素、及び、酸素のみを構成元素とするものであることが更に好ましい。
【0023】
本発明の炭素材料が酸素(O)と結合した炭素を有する場合、酸素原子数に対する炭素原子数の比(C/O)が0.5~20であることが好ましい。該比は、1以上であることがより好ましく、1.2以上であることが更に好ましい。また、該比は、10以下であることがより好ましく、6以下であることが更に好ましく、4以下であることが一層好ましく、3以下であることが特に好ましい。酸素原子数に対する炭素原子数の比は、XPS測定で得られるO1s領域の全ピーク面積とC1s領域の全ピーク面積との比率により確認することができる。
【0024】
本発明の炭素材料は、厚さが0.4~10nmであることが好ましい。これにより、抗菌加工を施すものの表面の微細な凹凸形状に沿って密着することで密着性がより向上し、抗菌性能をより長時間発揮することができる。より好ましくは厚さが0.4~5nmであり、更に好ましくは0.4~3nmである。
【0025】
本発明の炭素材料は、平面方向の大きさが20nm以上であることが好ましい。炭素材料が、厚さが0.4~10nmであって、平面方向の大きさが20nm以上である薄膜状粒子である形態もまた、本発明の好ましい実施形態の1つである。平面方向の大きさとしてより好ましくは100nm~100μmであり、更に好ましくは1μm~30μmである。
【0026】
本発明の炭素材料が酸素(O)と結合した炭素を有する場合、その製造方法としては、黒鉛を酸溶媒中で強力な酸化剤と作用させる方法が一般的であり、酸化剤として硫酸と過マンガン酸カリウムを用いるHummers法を使用できる。またその他の方法として、硝酸と塩素酸カリウムを用いるBrodie法、酸化剤として硫酸、硝酸と塩素酸カリウムを用いるStaudenmaier法等を使用できる。Hummers法における酸化方法を採用した場合、黒鉛と硫酸とを含む混合液に過マンガン酸塩を添加する方法であってもよい。このようにして得られた炭素材料は、通常、ろ過、デカンテーション、遠心分離、分液抽出、水洗等の手法により精製されるものである。精製は、空気中で行ってもよく、窒素、ヘリウム、アルゴン等の不活性ガス雰囲気中で行ってもよい。また、加圧条件下、常圧条件下、減圧条件下のいずれで行ってもよい。
【0027】
(亜鉛成分)
本発明の抗菌剤組成物に含まれる亜鉛成分は、亜鉛元素を含み、イオン化できるものであれば特に制限されず、例えば、亜鉛金属、亜鉛元素含有化合物、亜鉛イオン等が挙げられる。中でも亜鉛元素含有化合物が好ましく、より好ましくは亜鉛元素を含む塩である。
亜鉛元素を含む塩としては、亜鉛イオンと陰イオンとがイオン結合した化合物であれば特に制限されないが、陰イオンとしては、例えば、硝酸イオン、亜硝酸イオン、硫酸イオン、亜硫酸イオン、亜硫酸水素イオン、酢酸イオン、炭酸イオン、炭酸水素イオン、リン酸イオン、ケイ酸イオン、ホウ酸イオン、ハロゲンイオン、水酸化物イオン等が挙げられる。好ましくは、硝酸イオン、亜硝酸イオン、硫酸イオン、亜硫酸イオン、亜硫酸水素イオン、酢酸イオンである。亜鉛含有塩としては、酢酸亜鉛、硫酸亜鉛、硝酸亜鉛、リン酸亜鉛等が好ましく、より好ましくは硫酸亜鉛、酢酸亜鉛である。
また、上記亜鉛元素含有化合物が塩である場合、組成物中で塩が電離した形態であってもよく、例えば電離した亜鉛イオンが、亜鉛元素を含む塩由来の陰イオン以外の、組成物の中の他の陰イオンと結合していてもよい。
【0028】
(その他の成分)
本発明の抗菌剤組成物は、上記炭素材料と亜鉛成分以外のその他の成分を含んでいてもよい。上記その他の成分としては、本発明の抗菌性能を阻害するものでない限り特に制限されないが、例えば、溶媒;浸透圧調整物質、pH緩衝剤、増粘剤、バインダー等が挙げられる。
上記抗菌剤組成物は、抗菌性を向上させる観点から、上記亜鉛成分以外の金属塩や金属酸化物、金属水酸化物などを含んでいてもよい。金属塩又は酸化物、金属水酸化物における金属としては、銅や、銀、チタン等の遷移金属が好ましい。
【0029】
上記溶媒としては、水;N-メチル-2-ピロリドン、N,N’-ジメチルホルムアミド、N,N’-ジメチルアセトアミド等のアミド類;メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール類等の極性溶媒が好ましい。上記抗菌剤組成物が極性溶媒を含むことにより、炭素材料の分散性がより向上し、抗菌加工をより均一に行うことができる。
上記抗菌剤組成物と、後述する基材として多孔性基材とを用いて抗菌材料を形成する場合、溶媒として好ましくはアミド類である。これにより、基材に対して抗菌剤組成物をより充分に浸透させることができる。より好ましくはN-メチル-2-ピロリドンである。また、水と水以外の上記溶媒との混合溶媒を用いることもできる。
【0030】
上記浸透圧調整物質としては特に制限されないが、例えば、ナトリウムイオン、カリウムイオン等のアルカリ金属イオン、塩化物イオン等のハロゲン化物イオン等が挙げられる。
上記pH緩衝剤としては特に制限されないが、例えば、リン酸系緩衝剤、酢酸系緩衝剤、クエン酸系緩衝剤等が挙げられる。
【0031】
<抗菌材料>
本発明はまた、本発明の抗菌剤組成物と基材とを含む抗菌材料でもある。
本発明の抗菌剤組成物を基材に担持させて使用することにより、抗菌性能をより効果的に発揮させることができる。
【0032】
上記抗菌材料は、亜鉛成分の含有割合が、抗菌材料100質量%に対して0.01~5質量%であることが好ましい。これにより、抗菌性能をより充分に発揮させることができる。より好ましくは0.01~1質量%であり、更に好ましくは0.02~1質量%であり、特に好ましくは0.02~0.5質量%である。
【0033】
上記抗菌材料は、ラマンスペクトルにおいてGバンドを有する炭素材料の含有割合が、抗菌材料100質量%に対して0.01~5質量%であることが好ましい。これにより、抗菌性能をより充分に発揮させることができる。より好ましくは0.01~1質量%であり、更に好ましくは0.02~1質量%であり、特に好ましくは0.02~0.5質量%である。
【0034】
(基材)
上記基材としては、抗菌剤組成物を担持することができる限り特に制限されないが、紙、繊維基材、木材、樹脂フォーム、多孔性基材、フィルム状基材、粒子状基材等が挙げられる。
上記繊維基材としては、例えば、ガーゼ等の織物、編物、組み物、レース、網、不織布等が挙げられる。
上記樹脂フォームは、特に制限されないが、例えば発砲ポリウレタン、発砲ポリスチレン等が挙げられる。
【0035】
上記基材を構成する材料としては特に制限されず、用途に応じて適宜選択すればよいが、例えば、コラーゲン、ゼラチン、フィブリン、キトサン、ヒアルロン酸、ポリ乳酸;絹、羊毛等の動物繊維;ポリエステル、ポリプロピレン;綿、麻、レーヨン、キュプラ、リヨセル、ポリノジック、アセテート、トリアセテート等のセルロース系繊維;等の高分子材料や、ハイドロキシアパタイト、三リン酸カルシウム等の無機材料等が挙げられる。
基材を構成する材料として、これらのうち1種のみを用いても2種以上を複合して用いてもよい。
基材を構成する材料として好ましくはコラーゲン、ゼラチン、フィブリン、キトサン、ヒアルロン酸、ポリ乳酸、ハイドロキシアパタイト、三リン酸カルシウムから成る群から選ばれる少なくとも1種の材料である。より好ましくはコラーゲンである。
【0036】
上記基材として好ましくは繊維基材、多孔性基材であり、より好ましくは多孔性基材である。
多孔性基材は、細孔を有するものであれば特に制限されないが、気孔率が50~99%であることが好ましい。上記気孔率は、下記式(1);
気孔率(%)=100×(1-ρ1/ρ2) (1)
(式中、ρ1は、多孔性基材の密度を表す。ρ2は、多孔性基材を構成する材料の真密度を表す。)により算出することができる。
また、多孔質の構造は、好ましくは連続した気孔構造であることが好ましく、連続した気孔構造とは、多孔性基材内の気孔の少なくとも一部が、連通した構造であり、孤立した気孔を有さないことが好ましい。
【0037】
上記多孔性基材として好ましくは、細胞や組織等の再生の足場として機能するスキャフォールドである。基材としてスキャフォールドを用いることにより、本発明の抗菌材料を組織再生等の用途に好適に用いることができる。上記基材が、多孔質スキャフォールドである形態は、本発明の好ましい実施形態の1つである。上記抗菌材料の基材として多孔質スキャフォールドを用いることにより、スキャフォールドが上記炭素材料及び亜鉛成分でコーティングされることとなる。このような抗菌材料を組織再生等に用いることにより、細菌等による感染症等をより効果的に防ぐことができる。
【0038】
多孔質スキャフォールドは、コラーゲン、ゼラチン、フィブリン、キトサン、ヒアルロン酸、ポリ乳酸、ハイドロキシアパタイト、三リン酸カルシウムから成る群から選ばれる少なくとも1種の材料を主成分として構成されたものであることが好ましい。
多孔質スキャフォールドとしてはコラーゲンを主成分とするコラーゲンスキャフォールドが好ましい。多孔質スキャフォールドは、上記材料以外の成分を含んでいてもよく、例えば、上述の浸透圧調整物質、pH緩衝剤等を含んでいてもよい。
【0039】
上記抗菌材料は、上述のとおり、浸透圧調整物質、pH緩衝剤等を含んでいてもよく、これらに含まれる成分としては例えば、アルカリ金属成分、ハロゲン成分、オキソ酸やオキソ酸に由来するアニオン等が挙げられる。
アルカリ金属成分、ハロゲン成分は、それぞれ、アルカリ金属元素、ハロゲン元素を含むものであればよい。
上記オキソ酸としては、リン酸、亜リン酸、ピロリン酸、炭酸、オルト炭酸、カルボン酸、ケイ酸、亜硝酸、硝酸、ヒ酸、亜硫酸、硫酸、スルホン酸、スルフィン酸、クロム酸、二クロム酸、過マンガン酸等が挙げられる。好ましくは、リン酸、亜リン酸、ピロリン酸であり、より好ましくはリン酸である。
【0040】
上記抗菌材料がアルカリ金属成分やリン酸成分を含む形態は本発明の好ましい実施形態の1つである。
上記抗菌材料におけるアルカリ金属元素の含有割合は、抗菌材料100質量%に対して、0.005~2質量%であることが好ましい。より好ましくは0.02~1質量%である。
上記抗菌材料におけるリン元素の含有割合は、抗菌材料100質量%に対して、0.005~2質量%であることが好ましい。より好ましくは0.03~1質量%である。
【0041】
上記抗菌材料がアルカリ金属成分やリン酸成分を含む場合、抗菌材料におけるこれらの形態は特に制限されず、イオン化していても、塩を形成していてもよい。
上記抗菌材料がアルカリ金属成分やリン酸成分を含む場合、亜鉛成分とアルカリ金属成分とリン酸成分とが複塩を形成している形態が好ましい。
これらの元素の含有割合は、実施例に記載の蛍光X線(XRF)分析により測定することができる。
【0042】
上記複塩の構造は特に制限されないが、下記式(2);
MxHy(ZnPO4)z・mH2O (2)
(式中、Mは、アルカリ金属元素を表す。xは、0より大きい数を表す。yは、0以上の数を表す。zは、1~10の数を表す。ただし、x、y及びzは、x+y=zを満たす。mは、0~16の数を表す。)で表される構造を有するものであることが好ましい。
なお、化合物等の組成式における各組成比は、最も小さい整数比で表すことが一般的であるが、最小の整数比で表された組成比で表される構造が、結晶構造における単位構造として存在しない場合があり、本発明ではそのような結晶構造を有する化合物も上記式(1)では、組成比を最小の整数比で表すものとする。したがって、上記式(1)は、複塩の実際に存在する単位構造を必ずしも表すものではない。xとして好ましくは1~10であり、更に好ましくは1~6である。
yとして好ましくは0~5であり、更に好ましくは0~3であり、最も好ましくは0である。
zとして好ましくは1~8であり、更に好ましくは1~6である。
mとして好ましくは0~12であり、更に好ましくは0~8である。
x、y、z、mの組合せとして好ましくは、(x、y、z、m)=(3、0、3、6)、(1、0、1、1)であり、より好ましくは、(x、y、z、m)=(3、0、3、6)である。
【0043】
上記複塩としてより好ましくは下記式(3);
M6(ZnPO4)6・8H2O (3)
(式中、Mは、アルカリ金属元素を表す)で表される構造を有するものである。上記式(3)で表される複塩は、結晶中に水分子が水和水として入り込んでいるのではなく、上記式(3)で表される構造が最少の単位構造(単位格子)となるため、上記式(3)中の組成比は、最小の整数比ではなく、実際の単位格子の組成比で表している。
上記複塩として最も好ましくはNa6(ZnPO4)6・8H2Oである。
【0044】
<抗菌材料の製造方法>
本発明の抗菌材料の製造方法は、基材に炭素材料及び亜鉛成分とを含む抗菌剤組成物を担持させることができる限り制限されないが、基材を炭素材料及び亜鉛成分と溶媒とを含む抗菌剤組成物に浸漬させる工程、及び/又は、基材に炭素材料及び亜鉛成分と溶媒とを含む抗菌剤組成物を注入する工程を含むものであることが好ましい。
上記溶媒は、上述のとおりである。
上記注入工程では、基材に炭素材料及び亜鉛成分と溶媒とを含む抗菌剤組成物を注入することができる限り注入方法は特に制限されないが、例えば、注射針等を用いて基材の内部に注入することができる。
【0045】
上記抗菌材料の製造において、上記浸漬工程、及び/又は、注入工程の後に、得られた抗菌材料を洗浄、乾燥する工程を行ってもよい。洗浄、乾燥の方法は、通常用いられる方法により行うことができる。
【0046】
本発明の抗菌剤組成物及び抗菌材料は、上述の構成よりなり、従来の亜鉛元素を含む抗菌剤よりも抗菌性能に優れるため、骨や皮膚等の組織再生等に用いられる生体材料用途;洗濯洗浄剤、柔軟剤、住居用洗剤、食器洗浄剤、硬質表面用洗浄剤等の洗浄剤用途;シャンプー、リンス、化粧水、乳液、クリーム、日焼け止め、ファンデーション、アイメイク製品等の化粧品、制汗剤等の化粧料用途;塗料、木材防腐剤、セメント混和剤、工業用水(製紙工程における抄紙工程水、各種工業用の冷却水や洗浄水)等の工業用途;マスク、眼帯、包帯、絆創膏、ガーゼ等の衛生用品;医療器具;衣類等の繊維製品;食品添加物、太陽電池モジュールや有機素子デバイス、熱線遮蔽フィルムなどの電子機器用途等に好適に用いることができる。特に本発明の抗菌材料は、生体材料用途により好適に用いることができる。
【実施例】
【0047】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は「質量部」を、「%」は「質量%」を意味するものとする。
【0048】
各種物性の測定を以下の方法により行った。
<ラマンスペクトルの測定>
ラマン分光分析は以下の装置、条件により行った。
測定装置:顕微ラマン(日本分光NRS-3100)
測定条件:532nmレーザー使用、対物レンズ20倍、CCD取り込み時間1秒、積算32回(分解能=4cm-1)
【0049】
<蛍光X線(XRF)の測定>
XRF測定は、蛍光X線分析装置(リガク社製、ZSX Primus2)、Rh(4kW)X線管球を用い、検量線法にて測定を行った。
【0050】
<X線回折(XRD)の測定>
XRD測定は、全自動水平型X線回折装置(リガク社製、SMART LAB)を用いて、以下の条件により行った。
CuKα1線:0.15406nm
走査範囲:10°-90°
X線出力設定:45kV-200mA
ステップサイズ:0.020°
スキャン速度:0.5°min-1-4°min-1
なお、XRD測定は、試料をグローブボックス中にて気密試料台に装填することにより、不活性雰囲気を保った状態で行った。
【0051】
<SEM観察>
SEM観察は走査型電子顕微鏡(日本電子株式会社製、JSM-7600F)を用いて、加速電子5.0keVで行い、二次電子像を観察した。
【0052】
<抗菌性評価(1)>
各試料を48穴プレートに静置しStreptococcus mutans (ATCC35668)(5.5×106CFU/well)懸濁液を播種して37℃で24時間嫌気培養した後、培地の濁度を測定した。濁度が小さいほど抗菌性が高いことを示す。
【0053】
<抗菌性評価(2)>
各試料を48穴プレートに静置しStreptococcus mutans(ATCC35668)(6.0×106CFU/well)、 Actinomyces naeslundii(ATCC 27039)(6.0×106CFU/well)懸濁液を播種して37℃で24時間嫌気培養した後、培地の濁度を測定した。濁度が小さいほど抗菌性が高いことを示す。なお、Controlとして試料を用いないものについても同様に試験を行った。
【0054】
<抗菌性評価(3)>
各試料を48穴プレートに静置しStreptococcus mutans(ATCC35668)(5.5×106CFU/well)懸濁液を播種して37℃で24時間嫌気培養した後、培地の濁度を測定した。濁度が小さいほど抗菌性が高いことを示す。
【0055】
<細胞増殖評価>
各試料を48穴プレートに静置し、MC3T3-E1細胞(1.0×104個/0.5ml,well)を播種して、37℃、CO2濃度5%の条件下で培養した。培養開始から1、3、5、7日目に、WST-8(Cell Countting Kit-8、同仁化学研究所製)を用いて、生細胞に由来する酵素活性に基づき細胞増殖評価を行った。細胞増殖評価において、吸光度が高いほど生細胞由来の酵素活性が高いことを示す。
【0056】
<細胞毒性評価>
各試料を48穴プレートに静置し、MC3T3-E1細胞(1.0×104個/0.5ml,well)を播種して,37℃、CO2濃度5%の条件で培養した。培養開始から1、3、5、7日目に、Cytotoxicity LDH Assay Kit-WST(同仁化学研究所製)を用いて、死細胞に由来する乳酸脱水素酵素(LDH)活性に基づき、細胞毒性を評価した。細胞毒性評価において、吸光度が高いほどLDH活性が高いことを示す。
【0057】
<調製例1>酸化グラフェン分散液(1)の調製
酸化グラフェン分散液を以下の工程で合成した。反応容器にあらかじめ黒鉛(伊藤黒鉛株式会社製Z-25)15g、硫酸(富士フイルム和光純薬株式会社製)640gを入れ、30℃に調整しながら過マンガン酸カリウム(富士フイルム和光純薬株式会社製)45gを入れた。投入後、30分、35℃に昇温し2時間反応させた。反応後反応液を水1070ml、30%過酸化水素水(富士フイルム和光純薬株式会社製)42mlを加え反応停止させた。得られた反応液は静置沈降により、上澄みの除去とイオン交換水による再分散を繰り返し精製した。精製後、ホモジナイザーにより剥離操作を行い、酸化グラフェン分散液(1)を調製した。
【0058】
<実施例1>抗菌剤組成物(1)の調製
調製例1で得た酸化グラフェン分散液(1)と試薬の酢酸亜鉛を用いて、酸化グラフェン(以下、GOとも記載する。)及び酢酸亜鉛(以下、Znとも記載する。)の濃度がそれぞれ0.01質量%、0.001質量%となるようにN-メチルピロリドンを用いて分散液を調製し、抗菌剤組成物(1)とした。
【0059】
<実施例2>抗菌剤組成物(2)の調製
酢酸亜鉛の濃度を0.01質量%とした以外は、実施例1と同様にして分散液を調製し、抗菌剤組成物(2)とした。
【0060】
<実施例3>抗菌剤組成物(3)の調製
酢酸亜鉛の濃度を0.1質量%とした以外は、実施例1と同様にして分散液を調製し、抗菌剤組成物(3)とした。
【0061】
<実施例4>抗菌剤組成物(4)の調製
酢酸亜鉛の濃度を1質量%とした以外は、実施例1と同様にして分散液を調製し、抗菌剤組成物(4)とした。
【0062】
<実施例5~8>抗菌材料(1)~(4)の作成
6×6×3mmに成形したスキャフォールド(テルダーミス(登録商標)、オリンパステルモバイオマテリアル)(以下、Terとも記載する。)を、それぞれ実施例1~4で得られた抗菌剤組成物(1)~(4)5mLに浸漬し、エタノールで洗浄、乾燥し、抗菌材料(1)~(4)を得た。
【0063】
<比較例1>比較抗菌材料(1)の作成
抗菌剤組成物の代わりにN-メチルピロリドンを用いた以外は、実施例5~8と同様にして、比較抗菌材料(1)を得た。
【0064】
<比較例2>比較抗菌材料(2)の作成
抗菌剤組成物の代わりに酸化グラフェン0.01質量%のN-メチルピロリドン分散液を用いた以外は、実施例5~8と同様にして、比較抗菌材料(2)を得た。
【0065】
<比較例3>比較抗菌材料(3)の作成
抗菌剤組成物の代わりに酢酸亜鉛0.01質量%のN-メチルピロリドン溶液を用いた以外は、実施例5~8と同様にして、比較抗菌材料(3)を得た。
【0066】
<比較例4>比較抗菌材料(4)の作成
抗菌剤組成物の代わりに酢酸亜鉛0.1質量%のN-メチルピロリドン溶液を用いた以外は、実施例5~8と同様にして、比較抗菌材料(4)を得た。
【0067】
実施例6で得られた抗菌材料(2)、比較例1~3で得られた比較抗菌材料(1)~(3)について、ラマンスペクトル測定を行った。結果を
図1~4に示した。
図1より、実施例6の抗菌材料(2)がGバンドを有し、Gバンドを有する炭素材料を含むことが明らかとなった。
【0068】
実施例6、7で得られた抗菌材料(2)、(3)、比較例1~4で得られた比較抗菌材料(1)~(4)について、XRF測定を行った。結果を表1に示した。
表1より、抗菌材料(2)、(3)には、亜鉛が担持されていることが明らかとなった。
【0069】
【0070】
実施例6、7で得られた抗菌材料(2)、(3)、比較例1~4で得られた比較抗菌材料(1)~(4)について、XRD測定を行った。結果を
図5~10に示した。
図5、6、9、10において、Na
6(ZnPO
4)
6・8H
2Oで表される構造に由来するピークが観測され、抗菌材料(2)、(3)及び比較抗菌材料(3)、(4)には、Na
6(ZnPO
4)
6・8H
2Oで表される複塩が含まれることが明らかとなった。
【0071】
実施例6で得られた抗菌材料(2)、比較例1~3で得られた比較抗菌材料(1)~(3)について、SEM観察を行った。SEM写真を
図11~16に示した。
図15と
図16の比較より、GO及びZnとを含むことにより、Znのみの場合よりも細かい粒子が多く存在することが明らかであり、Znの分散性が高いことがわかる。
【0072】
実施例5~8で得られた抗菌材料(1)~(4)、比較例1、2で得られた比較抗菌材料(1)、(2)について、S. mutansに対する抗菌性評価(1)を行った。結果を
図17に示した。
実施例6で得られた抗菌材料(2)、比較例1~3で得られた比較抗菌材料(1)~(3)について、S. mutansに対する抗菌性評価(2)を行った。結果を
図18に示した。
実施例6で得られた抗菌材料(2)、比較例1~3で得られた比較抗菌材料(1)~(3)について、A.naeslundiiに対する抗菌性評価(2)を行った。結果を
図19に示した。
図17~19の結果より、ラマンスペクトルにおいてGバンドを有する炭素材料と亜鉛成分とを含む本発明の抗菌材料が、炭素材料と亜鉛成分のいずれも含まない比較抗菌材料(1)、いずれか一方のみを含む比較抗菌材料(2)、(3)よりも抗菌性能に優れることが明らかとなった。なお、
図17において実施例7、8の抗菌材料(3)、(4)の結果は、検出限界以下であった。
【0073】
実施例5~8で得られた抗菌材料(1)~(4)、比較例1~3で得られた比較抗菌材料(1)~(3)について、細胞増殖評価及び細胞毒性評価を行った。結果を
図20~23に示した。
図20~23の結果より、本発明の抗菌材料(1)~(4)は、亜鉛濃度が上昇しても、細胞増殖にほとんど影響がなく、細胞毒性もほとんどないことが明らかとなった。
【0074】
<実施例9>抗菌剤組成物(5)の調製
調製例1で得た酸化グラフェン分散液(1)と試薬の硫酸亜鉛を用いて、酸化グラフェン及び硫酸亜鉛の濃度がそれぞれ0.01質量%となるように水を用いて分散液を調製し、抗菌剤組成物(5)とした。
【0075】
<実施例10>抗菌材料(5)の作成
10×10mmに切断したガーゼを、実施例9で得られた抗菌剤組成物(5)0.1mLに浸漬し、乾燥し、抗菌材料(5)を得た。
【0076】
<比較例5>比較抗菌材料(5)の作成
抗菌剤組成物の代わりに酸化グラフェン0.001質量%の水分散液を用いた以外は、実施例10と同様にして、比較抗菌材料(5)を得た。
【0077】
<比較例6>比較抗菌材料(6)の作成
抗菌剤組成物の代わりに酸化グラフェン0.01質量%の水分散液を用いた以外は、実施例10と同様にして、比較抗菌材料(6)を得た。
【0078】
<比較例7>比較抗菌材料(7)の作成
抗菌剤組成物の代わりに硫酸亜鉛の0.01質量%水溶液を用いた以外は、実施例10と同様にして、比較抗菌材料(7)を得た。
【0079】
実施例10で得られた抗菌材料(5)、比較例6、7で得られた比較抗菌材料(6)、(7)及び比較抗菌材料(8)(比較例8)として未加工のガーゼについて、ラマンスペクトル測定を行った。結果を
図24~27に示した。
図24より、実施例10の抗菌材料(5)がGバンドを有し、Gバンドを有する炭素材料を含むことが明らかとなった。
【0080】
実施例10で得られた抗菌材料(5)、比較例6、7で得られた比較抗菌材料(6)、(7)及び比較抗菌材料(8)について、XRF測定を行った。結果を表2に示した。
表2より、抗菌材料(5)には、亜鉛が担持されていることが明らかとなった。
【0081】
【0082】
実施例10で得られた抗菌材料(5)、比較例5、6で得られた比較抗菌材料(5)、(6)及び比較抗菌材料(8)について、S. mutansに対する抗菌性評価(3)を行った。結果を
図28に示した。
図28の結果より、ラマンスペクトルにおいてGバンドを有する炭素材料と亜鉛成分とを含む本発明の抗菌材料(5)が、比較抗菌材料(5)、(6)、(8)よりも抗菌性能に優れることが明らかとなった。