IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社ディスコの特許一覧

<>
  • 特許-研削装置 図1
  • 特許-研削装置 図2
  • 特許-研削装置 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-15
(45)【発行日】2022-11-24
(54)【発明の名称】研削装置
(51)【国際特許分類】
   B24B 49/16 20060101AFI20221116BHJP
   B24B 49/04 20060101ALI20221116BHJP
   H01L 21/304 20060101ALI20221116BHJP
【FI】
B24B49/16
B24B49/04 Z
H01L21/304 631
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019044718
(22)【出願日】2019-03-12
(65)【公開番号】P2020146779
(43)【公開日】2020-09-17
【審査請求日】2022-01-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000134051
【氏名又は名称】株式会社ディスコ
(74)【代理人】
【識別番号】110001014
【氏名又は名称】弁理士法人東京アルパ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】桑名 一孝
(72)【発明者】
【氏名】久保 徹雄
(72)【発明者】
【氏名】松原 壮一
(72)【発明者】
【氏名】山下 真司
【審査官】城野 祐希
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-178139(JP,A)
【文献】特開2013-129027(JP,A)
【文献】特開平7-299744(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24B 49/16
B24B 49/04
H01L 21/304
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加工物を保持する保持手段と、
研削砥石を環状に配置した研削ホイールを装着したスピンドルを回転させ該保持手段に保持された被加工物を該研削砥石で研削する研削手段と、
該保持手段と該研削手段とを相対的に接近および離間する方向に移動させる研削送り手段と、
被加工物の厚みを測定する厚み測定手段と、
該研削砥石が該保持手段に保持された被加工物に接近させる方向に移動し該研削砥石が被加工物を押したときの荷重値を検知する荷重値検知手段と、
制御手段と、を備える研削装置であって、
該研削送り手段は、
第1研削送り速度で予め設定した仕上げ厚みよりも厚い第1厚みまで被加工物を研削する第1研削送り部と、該第1研削送り速度より遅い第2の研削送り速度で仕上げ厚みまで被加工物を研削する第2研削送り部とを備え、
該制御手段は、
過去の研削加工で測定した測定結果を基に、該第1研削送り速度で研削する際および該第2研削送り速度で研削する際のそれぞれの研削送り速度に対して該荷重値検知手段が検知する荷重値の上限値を設定する上限値設定部と、
該第1研削送り速度および該第2研削送り速度で研削加工している際に、該荷重値検知手段が検知した荷重値がそれぞれの該上限値を超えたことを認識する認識部と、を備える研削装置。
【請求項2】
被加工物を保持する保持手段と、
研削砥石を環状に配置した研削ホイールを装着したスピンドルを回転させ該保持手段に保持された被加工物を該研削砥石で研削する研削手段と、
該保持手段と該研削手段とを相対的に接近および離間する方向に移動させる研削送り手段と、
該保持手段に保持された被加工物の上面高さを測定する上面高さ測定手段と、
該研削砥石が該保持手段に保持された被加工物に接近させる方向に移動し該研削砥石が被加工物を押したときの荷重値を検知する荷重値検知手段と、
制御手段と、を備える研削装置であって、
該研削送り手段は、
該上面高さを測定しながら、該上面が予め設定した第1研削量だけ下がった上面高さに到達するまで第1研削送り速度で被加工物を研削する第1研削送り部と、該上面高さを測定しながら、該第1研削量だけ下がった上面高さからさらに予め設定した第2研削量だけ該上面が下がった仕上げ高さに到達するまで該第1研削送り速度より遅い第2研削送り速度で被加工物を研削する第2研削送り部とを備え、
該制御手段は、
過去の研削加工で測定した測定結果を基に、該第1研削送り速度で研削する際および該第2研削送り速度で研削する際のそれぞれの研削送り速度に対して該荷重値検知手段が検知する荷重値の上限値を設定する上限値設定部と、
該第1研削送り速度および該第2研削送り速度で研削加工している際に、該荷重値検知手段が検知した荷重値がそれぞれの該上限値を超えたことを認識する認識部と、を備える研削装置。
【請求項3】
該制御手段は、過去の研削加工で設定した測定結果を基に、該第1研削送り速度で研削する際および該第2研削送り速度で研削する際のそれぞれの送り速度に対して該荷重値検知手段が検知する荷重値の下限値を設定する下限値設定部と、
該第1研削送り速度および該第2研削送り速度で研削加工している際に、該荷重値検知手段が検知した荷重値がそれぞれの該下限値を超えたことを認識する第2認識部と、
を備える請求項1又は2記載の研削装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、研削装置に関する。
【背景技術】
【0002】
研削砥石で被加工物を研削する研削装置は、被加工物を所定の厚みに研削するため、厚みを測定しながら、仕上げ厚みより少し厚い厚みまで早い研削送り速度で研削して、その後、研削送り速度を遅くして設定した仕上げ厚みまで研削している(特許文献1、特許文献2、及び特許文献3)。このように遅い研削送り速度で研削することで、被加工物に研削砥石を押し付ける荷重を小さくして機械歪みを小さくした状態で研削することになり被加工物は均一な厚みに仕上げられる。
【0003】
また、研削加工中に、研削砥石が目詰まりまたは目つぶれを起こして正常に研削できなくなることを防止する目的で、事前に研削砥石が被加工物を押すときの荷重値の上限値(閾値)を設定し、研削加工中に荷重値検知手段が検知した荷重値がその上限値を超えたらアラームを発報させるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2012-151409号公報
【文献】特開2013-226625号公報
【文献】特開2014-024145号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のように、研削送り速度に関係なく設定されている荷重値の上限値を、研削加工中に測定された研削砥石にかかる荷重値が超えた場合に、そのことが認識されるようになっている。しかし、研削加工における速い研削送り速度のときと遅い研削送り速度のときとの、それぞれの荷重値は異なり、一つの上限値を設定するだけでは、被加工物の正常な研削加工を実施するのに不十分であるという問題がある。
そのため、研削装置には、各々の研削送り速度に応じてスピンドルモータの負荷電流値を監視し、研削加工に異常が発生したことを検知するという解決すべき課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、被加工物を保持する保持手段と、研削砥石を環状に配置した研削ホイールを装着したスピンドルを回転させ該保持手段に保持された被加工物を該研削砥石で研削する研削手段と、該保持手段と該研削手段とを相対的に接近および離間する方向に移動させる研削送り手段と、被加工物の厚みを測定する厚み測定手段と、該研削砥石を該保持面に保持された被加工物に接近させる方向に移動させ該研削砥石が被加工物を押したときの荷重値を検知する荷重値検知手段と、制御手段と、を備える研削磨装置であって、該研削送り手段は、第1研削送り速度で予め設定した仕上げ厚みよりも厚い第1厚みまで被加工物を研削する第1研削送り部と、該第1研削送り速度より遅い第2の研削送り速度で仕上げ厚みまで被加工物を研削する第2研削送り部とを備え、該制御手段は、過去の研削加工で測定した測定結果を基に、該第1研削送り速度で研削する際および該第2研削送り速度で研削する際のそれぞれの研削送り速度に対して該荷重値検知手段が検知する荷重値の上限値を設定する上限値設定部と、該第1研削送り速度および該第2研削送り速度で研削加工している際に、該荷重値検知手段が検知した荷重値がそれぞれの該上限値を超えたことを認識する認識部と、を備える研削装置である。
また、本発明は、被加工物を保持する保持手段と、研削砥石を環状に配置した研削ホイールを装着したスピンドルを回転させ該保持手段に保持された被加工物を該研削砥石で研削する研削手段と、該保持手段と該研削手段とを相対的に接近および離間する方向に移動させる研削送り手段と、該保持手段に保持された被加工物の上面高さを測定する上面高さ測定手段と、該研削砥石が該保持手段に保持された被加工物に接近させる方向に移動し該研削砥石が被加工物を押したときの荷重値を検知する荷重値検知手段と、制御手段と、を備える研削装置であって、該研削送り手段は、該上面高さを測定しながら、該上面が予め設定した第1の研削量だけ下がった上面高さに到達するまで第1研削送り速度で被加工物を研削する第1研削送り部と、該上面高さを測定しながら、被研削面が予め設定した第2研削量だけ下がった仕上げ高さに到達するまで該第1研削送り速度より遅い第2の研削送り速度で被加工物を研削する第2研削送り部とを備え、該制御手段は、過去の研削加工で測定した測定結果を基に、該第1研削送り速度で研削する際および該第2研削送り速度で研削する際のそれぞれの研削送り速度に対して該荷重値検知手段が検知する荷重値の上限値を設定する上限値設定部と、該第1研削送り速度および該第2研削送り速度で研削加工している際に、該荷重値検知手段が検知した荷重値がそれぞれの該上限値を超えたことを認識する認識部と、を備える研削装置。
【0007】
上記の研削装置に備える該制御手段は、過去の研削加工で設定した測定結果を基に、該第1研削送り速度で研削する際および該第2研削送り速度で研削する際のそれぞれの送り速度に対して該荷重値検知手段が検知する荷重値の下限値を設定する下限値設定部と、該第1研削送り速度および該第2研削送り速度で研削加工している際に、該荷重値検知手段が検知した荷重値がそれぞれの該下限値を超えたことを認識する第2認識部と、を備えていることが好ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明では、研削加工中に、第1研削送り速度と第2研削送り速度との、各々の研削送り速度の上限値との関係において研削砥石にかかる荷重値を監視するため、被加工物と研削砥石とに無理な負荷がかかるのを防止できる。また、研削送り速度が第2研削送り速度であるときの荷重値の上限値を従来より低い値にすることが可能となり、研削不良が発生したことを検知できるようになる。
【0009】
また、荷重値の下限値を設定することで、砥石の欠けや、異常摩耗といった異常が研削砥石に発生したことを検知することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】研削装置の全体を表した斜視図である。
図2】被加工物を研削する様子を表す側面図である。
図3】(a)は、第1研削送り速度と第2研削送り速度とのそれぞれの研削送り速度で被加工物を研削する際の荷重値を示したグラフであり、(b)は、(a)に示した荷重値の時間特性グラフの上にさらに荷重値の上限値を描き入れたグラフであり、(c)は、さらに荷重値の下限値を描き入れたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
1 研削装置の構成
図1に示す研削装置1は、保持手段2に保持された半導体ウェーハ等の被加工物Wを、研削手段3を用いて研削する研削装置である。以下、研削装置1の構成について説明する。
【0012】
研削装置1には、研削装置1に備える各種の機構を電気的に制御するCPU等を有する制御手段8が備えられている。研削装置1の各種の機構は図示しない電源に接続されており、電源から供給される電力を動力源として作動する。
【0013】
図1に示すように、研削装置1には、Y軸方向に延設されたベース10と、ベース10の上における+Y方向側に立設されたコラム11とが備えられている。
【0014】
図1に示すように、研削装置1のベース10の上には、保持手段2が備えられている。保持手段2は、被加工物Wを保持する円板形状のテーブルであり、例えば、保持面20aを有する吸引部20と吸引部20を囲繞する枠体21とを備えている。また、保持手段2は、吸引路22を介して吸引源23に接続されている。例えば、図1及び図2に示すように、被加工物Wの下面Wbの保護等を目的としたテープTが被加工物Wの下面Wbに貼着された被加工物Wを保持面20aの上に載置した状態で、吸引源23によって発揮される吸引力を、吸引路22を通じて保持面20aに伝達することによって、保持面20aの上に被加工物Wを吸引保持することができる。
また、保持手段2には、保持手段2をZ軸方向の回転軸25を軸として回転させる回転手段24が配設されている。
加えて、保持手段2の周囲にはカバー12が配設されており、カバー12には蛇腹13が伸縮自在に連結されている。カバー12と保持手段2とは、被加工物Wの研削加工の際に、ベース10の内部に配設されている図示しないY軸方向への移動手段によって駆動されて、Y軸方向に一体的に往復移動する。このとき、カバー12のY軸方向の移動に伴って蛇腹13が伸縮することとなる。
【0015】
また、図1に示すように、コラム11の-Y方向側の側面には、研削手段3と研削送り手段4とが備えられている。
図1及び図2に示すように、研削手段3には、Z軸方向の回転軸35を有するスピンドル30と、スピンドル30を回転軸35を軸として回転駆動するスピンドルモータ32と、スピンドル30を回転可能に支持するハウジング31とが備えられている。ハウジング31は、例えば、図2に示すように、小径部310と大径部311とから構成されている。ハウジング31の下面31aには、マウント33が接続されており、マウント33の下端には、研削ホイール34が着脱可能に配設されている。研削ホイール34は、基台341と基台341の下面に環状に配列された直方体形状の複数の研削砥石340とから構成されている。研削砥石340は、例えば、レジンボンドやメタルボンド等によって固着されたダイヤモンド砥粒等によって形成されており、その下面340aは被加工物Wを研削する研削面となっている。
【0016】
研削送り手段4には、Z軸方向の回転軸45を有するボールネジ40と、ボールネジ40に対して平行に配設された一対のガイドレール41と、ボールネジ40の上端に連結されボールネジ40を回転軸45を軸として回動させるZ軸モータ42と、内部のナットがボールネジ40に螺合して側部がガイドレール41に摺接する昇降板43と、を備えている。また、昇降板43にはハウジング31を保持するホルダ44が接続されている。
図1及び図2に示すように、ホルダ44は、例えば、有底筒形状を有しており、その底面は孔441dが形成された円環形状となっている。ホルダ44の有底筒は、例えば、図2に示すように、側板440と底板441とに分離されている。
図2に示すように、ハウジング31の大径部311の下面311bとホルダ44の底板441の上面441aとが接触する形で、ホルダ44の底板441とハウジング31の大径部311が連結しており、これによってハウジング31がホルダ44に保持されている。このとき、ハウジング31の小径部310の下部が孔441dを貫通している。
なお、ホルダ44の側板440と底板441とは互いに分離していなくてもよい。
【0017】
Z軸モータ42によってボールネジ40が駆動されて、回転軸45を軸として回転すると、これに伴い、昇降板43がガイドレール41に案内されてZ軸方向に昇降移動して、ホルダ44に保持されている研削手段3がZ軸方向に昇降移動する構成となっている。研削送り手段4を用いて研削手段3を駆動することによって、研削砥石340を保持手段2に保持されている被加工物Wに対して接近及び離間させることができる。
【0018】
また、研削送り手段4には、第1研削送り部46と第2研削送り部47とが配設されている。第1研削送り部46は、第1研削送り速度で研削手段3を-Z方向に降下させる機能を有しており、第2研削送り部47は、第1研削送り速度よりも遅い第2研削送り速度で研削手段3を-Z方向に降下させる機能を有している。
【0019】
図2に示すように、ホルダ44の側板440と底板441との間の円環状の隙間には、側板440と底板441とに上下方向から挟まれる形で、3つの荷重値検知手段6が等間隔に配設されている。
荷重値検知手段6は、図示しない圧電素子を備えており、研削加工中に圧電素子に圧縮力がかかることによってその力に応じた電圧を発生する。荷重値検知手段6では、発生した電圧の値を基にして荷重値を測定することができる。
ただし、上記のように、ホルダ44の側板440と底板441とは互いに分離していない構成も考えられ、かかる場合においては、荷重値検知手段6はハウジング31の大径部311とホルダ44の底板441との間に配設されることとなる。
そして、荷重値検知手段6は予め圧縮する力が加えられた状態で取り付けられていて、圧電素子は、研削荷重によって伸ばされる力がかかることによって、その力に応じた電圧を発生する。つまり、スピンドル30、スピンドルモータ32、マウント33、研削ホイール34の総重量以上の研削荷重を検出することができる。
【0020】
上記の制御手段8には、過去の研削加工において測定された荷重値を基にして、研削手段3を第1研削送り速度で-Z方向に降下させて被加工物Wを研削加工する際の荷重値の上限値と、同じく研削手段3を第2研削送り速度で-Z方向に降下させて被加工物Wを研削加工する際の荷重値の上限値とを、それぞれ設定する上限値設定部80が備えられている。また、制御手段8には、第1研削送り速度または第2研削送り速度で研削加工しているときに、荷重値検知手段6によって測定された荷重値が、上限値設定部80によって設定された上記の上限値を上回った場合にそのことを認識する認識部81が備えられている。
【0021】
同様に、制御手段8には、過去の研削加工において測定された荷重値の測定結果を基にして、研削手段3を第1研削送り速度で-Z方向に降下させて被加工物Wを研削加工する際の荷重値の下限値と、同じく研削手段3を第2研削送り速度で-Z方向に降下させて被加工物Wを研削加工する際の荷重値の下限値とを、それぞれ設定する下限値設定部82が備えられている。また、第1研削送り速度または第2研削送り速度で研削加工しているときに、荷重値検知手段6によって測定された荷重値が、下限値設定部82によって設定された下限値を下回ったことを認識する第2認識部83が備えられている。
【0022】
図1に示すように、研削装置1のベース10の上には、ウェーハ上面ハイトゲージ50、保持面ハイトゲージ51、及び算出手段52を備えた厚み測定手段5が配設されている。厚み測定手段5は、研削加工中、ウェーハ上面ハイトゲージ50を被加工物Wの上面Waに当接させつつ、保持面ハイトゲージ51を保持手段2の保持面20aに当接させることによって、被加工物Wの上面Wa及び保持手段2の保持面20aの高さを測定して、測定された両者の高さの差を基に、算出手段52において被加工物Wの厚みを算出することができる。
【0023】
2 研削装置の動作
上記の構成の研削装置1を用いて被加工物Wを研削する際の研削装置1の動作について、図1図3を参照して説明する。
【0024】
研削加工の実施前に、予め、過去の研削加工において荷重値検知手段6を用いて測定された荷重値を基にして、第1研削送り速度及び第2研削送り速度で被加工物Wを研削加工する際に荷重値検知手段6によって測定される荷重値の上限値を上限値設定部80において設定するとともに、第1研削送り速度及び第2研削送り速度で被加工物Wを研削加工する際に荷重値検知手段6によって測定される荷重値の下限値を下限値設定部82において設定する。
【0025】
上限値及び下限値の設定方法としては、例えば、25枚の被加工物Wを研削したときの荷重値の測定データを大きさの順に並べて、それらの測定データの中央値から予め設定された範囲(例えば、統計学上の四分位範囲等)に含まれる測定データのうちの最も大きな値を上限値、そして、最も小さな値を下限値として設定する。これにより、中央値から大きく外れたデータを排除した有用な測定データの中から上限値及び下限値を設定することができる。
【0026】
上記のように、上限値及び下限値を設定した後、研削加工を開始する。まず、図1及び図2に示すように、テープTが貼着された被加工物Wをその上面Waが上になるように保持手段2の保持面20aの上に被加工物Wを載置する。
そして、吸引源23により生み出された吸引力を、吸引路22を通じて保持手段2の保持面20aに伝達して、保持手段2の保持面20aの上に被加工物Wを吸引保持する。
【0027】
次いで、図2に示すように、被加工物Wが保持された保持手段2を図示しない移動手段を用いてY軸方向に移動させて、回転する研削砥石340が被加工物Wの中心を通るように位置合わせする。その後、回転手段24を用いて、保持手段2及び保持手段2の保持面20aに保持されている被加工物Wを回転軸25を軸として回転させる。
【0028】
次に、スピンドルモータ32を用いてスピンドル30を駆動して、スピンドル30を回転軸35を軸として回転させる。これにより、スピンドル30の下端に配設されたマウント33及び、マウント33の下面に装着された研削ホイール34が回転する。
【0029】
そして、制御手段8から第1研削送り部46に電気信号が送られると、該電気信号を受信した第1研削送り部46によってZ軸モータ42が回転制御される。Z軸モータ42が、ボールネジ40を第1研削送り速度に対応した回転速度で回転軸45を軸として回動することによって、昇降板43がガイドレール41に案内されながら第1研削送り速度で-Z方向に降下していき、これに伴って、昇降板43にホルダ44を介して支持されている研削砥石340が回転軸35を軸として回転している状態で、同じく第1研削送り速度で-Z方向に降下して、保持手段2の上に保持されている被加工物Wに接近していく。これにより、図2に示すように、研削砥石340の下面340aが被加工物Wの上面Waに当接して被加工物Wが研削される。
【0030】
研削加工中、厚み測定手段5を用いて被加工物Wの厚みの測定を行う。ウェーハ上面ハイトゲージ50を被加工物Wの上面Waに接触させつつ、保持面ハイトゲージ51を保持面20aに接触させることにより読み取られた両者の高さの差を基にして、算出手段52において被加工物Wの厚みが測定される。被加工物Wの厚みが、予め設定された仕上げ厚みよりも厚い厚みである第1厚みになるまで、第1研削送り速度での研削が行われる。この制御は、第1研削送り部46によって行われる。
【0031】
そして、被加工物Wが第1厚みになるまで研削した後、制御手段8から第2研削送り部47に研削送り速度を変更するための電気信号が送られると、該電気信号を受信した第2研削送り部47によってZ軸モータ42の回転速度が制御されて、研削手段3の降下速度が第1研削送り速度から第1研削送り速度よりも遅い第2研削送り速度に切り替わる。研削手段3の降下速度を第2研削送り速度に切り替えた後、被加工物Wの上面Waに当接している研削砥石340をさらに-Z方向へと押し下げていき、第2研削送り速度で被加工物Wを仕上げ厚みまで研削する。この制御は、第2研削送り部47によって行われる。
なお、第1研削送り部46は、被研削面である上面Waの高さを測定しながら、上面Waが研削開始時から予め設定した第1研削量だけ下がった上面高さに到達するまで、第1研削送り速度で被加工物を研削するようにしてもよい。同様に、第2研削送り部47は、
研削された上面Waの高さを測定しながら、上面Waが、上記第1研削量だけ下がった上面高さからさらに予め設定した第2研削量だけ下がった仕上げ高さに到達するまで、第1研削送り速度より遅い第2研削送り速度で被加工物を研削するようにしてもよい。
【0032】
被加工物Wの研削加工中には、回転する研削砥石340の下面340aと被加工物Wの上面Waとの当接によって生じる回転方向の負荷によって、スピンドルモータ32の回転速度が研削開始時に比べて減速していくおそれがある。そのため、研削加工中には、スピンドルモータ32の回転速度を図示しないエンコーダ等を用いて測定して、その測定結果に基づいたスピンドルモータ32に供給する電力を制御するフィードバック制御を行うことにより、スピンドルモータ32の回転速度を一定の値に保っていてもよい。
【0033】
また、被加工物Wの研削加工中には、研削砥石340の状態の変化に応じて研削砥石340にかかる荷重値が変化する。例えば、研削砥石340に目詰まりや目つぶれ等が起きているときには、研削砥石340にかかる荷重値は大きくなる。一方で、研削砥石340に欠けや異常摩耗が起きているときには、研削砥石340にかかる荷重値は小さくなる。
そこで、図2に示すように、研削加工中、ホルダ44の側板440と底板441との間に配設された荷重値検知手段6を用いて荷重値を測定することによって、研削砥石340にかかる荷重値を調べて、研削加工の際に発生する異常を検知する。
【0034】
研削加工中、荷重値検知手段6には研削砥石340にかかる荷重が以下のように伝達される。図2に示すように、昇降板43に連結されているホルダ44の側板440が昇降板43とともに-Z方向に降下している。一方で、研削砥石340が被加工物Wに当接しながら-Z方向に降下する際に、研削砥石340により被加工物Wに加えられる-Z方向の力の反作用として、研削砥石340は被加工物Wから+Z方向の力を受けており、これに伴って研削砥石340に接続されているハウジング31が+Z方向に押されて、ハウジング31の大径部311に連結されているホルダ44の底板441が、大径部311によって+Z方向に引き上げられるように力を受けている。
上記のようにホルダ44の底板441と側板440とに挟まれている荷重値検知手段6に上下方向から圧縮力が加えられることにより、荷重値検知手段6の圧電素子が電圧を生じて、生じた電圧が適宜、荷重値へと変換される。このようにして、荷重値検知手段6によって荷重値が測定される。
【0035】
なお、荷重値検知手段6がハウジング31の大径部311の下面311bとホルダ44の底板411の上面411aとの間に配設されている場合にも、同様に、荷重値検知手段6に対して大径部311とホルダ44の底板411とから上下方向の圧縮力が加えられることによって圧電素子が電圧を発生する。この電圧を基にして、荷重値を測定することができる。
【0036】
図3(a)は、荷重値検知手段6によって測定された荷重値の時間変化を表すグラフの一例であり、左部分が第1研削加工速度での研削加工における荷重値の時間変化、そして、右部分が第2研削加工速度での研削加工における荷重値の時間変化を表している。
【0037】
図3(b)は、図3(a)において描画されている荷重値の時間変化のグラフに、第1研削送り速度での研削加工及び第2研削送り速度での研削加工において許容される荷重値の上限値I1、I3をそれぞれ描き入れたグラフである。図3(b)に示すように、第1研削送り速度での研削加工中に測定された荷重値がP1において上限値I1を上回っており、認識部81においてそのことが認識される。
【0038】
図3(c)は、図3(b)に示すグラフに、さらに、第1研削送り速度での研削加工及び第2研削送り速度での研削加工において許容される荷重値の下限値I2、I4をそれぞれ描き入れたグラフである。図3(c)に示すように、第2研削送り速度での研削加工中に測定された荷重値がP2において下限値I4を下回っており、第2認識部83においてそのことが認識される。
【0039】
上記のように、荷重値検知手段6によって測定された荷重値が上限値を上回り、そのことが認識部81によって認識された場合(測定された荷重値が下限値を下回って第2認識部83に認識された場合も同様)、例えば、研削装置1に備えられた図示しない報知手段によってアラームが発報されることにより、オペレータに研削加工に異常が発生した旨が通知される。または、例えば、図示しないディスプレイ等に、研削加工異常が発生したことを通知する表示が表示されることにより、オペレータにその旨が通知される。
その後、例えば、制御手段8から研削送り手段4に電気信号が送信されて、電気信号を受信した研削送り手段4によって研削手段3が駆動されることにより、研削手段3の-Z方向への降下が停止し、さらに+Z方向に上昇させられて、被加工物Wと当接していた研削砥石340が一旦上方に退避して研削加工が中断される等の構成が考えられる。
【0040】
以上のように、研削装置1を作動させることによって、第1研削送り速度での研削加工における荷重値の上限値及び下限値、並びに第2研削送り速度での研削加工における荷重値の上限値及び下限値を、それぞれ設定して荷重値を監視することができ、これによって研削加工に発生する異常をより精度良く検知することが可能となる。
つまり、第2研削送り速度は第1研削送り速度より遅いので、第2研削送り速度に対して設定される上限値および下限値は、第1研削送り速度で設定される上限値および下限値より小さい値が設定されている。
【0041】
なお、本発明を実施するための形態は、上述のような、第1研削送り速度と第2研削送り速度とからなる二つの研削送り速度に対応した荷重値の上限値及び下限値をそれぞれ設定して、設定された上限値及び下限値を用いて、研削加工に発生する異常を検知するという構成に限定されない。
例えば、第3の研削送り速度、第4の研削送り速度・・・といった具合に、一枚の被加工物Wを研削する際に、さらに多くの種類の研削送り速度を組み合わせて研削加工を実施する場合においても、同様に各々の研削送り速度に対応した荷重値の上限値及び下限値を過去の加工経験を基に設定して、研削加工中に研削砥石340にかかる荷重値を監視することにより、各々の研削送り速度での研削加工において発生する異常を検知することが可能となる。
【符号の説明】
【0042】
1:研削装置 10:ベース 11:コラム 12:カバー 13:蛇腹
2:保持手段 20:吸引部 20a:保持面 21:枠体 22:吸引路
23:吸引源 24:回転手段 25:回転軸
3:研削手段 30:スピンドル
31:ハウジング 310:小径部 311:大径部 311b:大径部の下面
32:スピンドルモータ
33:マウント 34:研削ホイール 340:研削砥石 340a:研削砥石の下面
341:基台 35:回転軸
4:研削送り手段 40:ボールネジ 41:ガイドレール 42:Z軸モータ
43:昇降板 44:ホルダ 440:ホルダの側板 441:ホルダの底板
441a:底板の上面 441d:孔 45:回転軸
46:第1研削送り部 47:第2研削送り部
5:厚み測定手段 50:ウェーハ上面ハイトゲージ 51:保持面ハイトゲージ
52:算出手段 6:荷重値検知手段 6b:荷重値検知手段の下面 8:制御手段
80:上限値設定部 81:認識部 82:下限値設定部 83:第2認識部
W:被加工物 Wa:被加工物の上面 Wb:被加工物の下面
T:テープ
I1:第1研削送り速度での研削加工時における荷重値の上限値
I2:第1研削送り速度での研削加工時における荷重値の下限値
I3:第2研削送り速度での研削加工時における荷重値の上限値
I4:第2研削送り速度での研削加工時における荷重値の下限値
P1:第1研削送り速度での研削加工時に荷重値の上限値を上回った点
P2:第2研削送り速度での研削加工時に荷重値の下限値を下回った点
図1
図2
図3