(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-15
(45)【発行日】2022-11-24
(54)【発明の名称】アジルサルタンA型結晶の製造方法
(51)【国際特許分類】
C07D 413/10 20060101AFI20221116BHJP
【FI】
C07D413/10
(21)【出願番号】P 2019570681
(86)(22)【出願日】2019-01-25
(86)【国際出願番号】 JP2019002595
(87)【国際公開番号】W WO2019155922
(87)【国際公開日】2019-08-15
【審査請求日】2021-07-10
(31)【優先権主張番号】P 2018021631
(32)【優先日】2018-02-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003182
【氏名又は名称】株式会社トクヤマ
(74)【代理人】
【識別番号】100163120
【氏名又は名称】木村 嘉弘
(72)【発明者】
【氏名】森 博志
【審査官】吉海 周
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第102766139(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第106749216(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第104262334(CN,A)
【文献】特表2014-530805(JP,A)
【文献】国際公開第2017/131218(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/147210(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第103664921(CN,A)
【文献】GE, Yuhua et al.,Crystal Type Iof Azilsartan Polymorphs: Preparation and Analysis,Journal of Crystallization Process and Technology,2016年,Vol.6, No.1,pp.1-10,ISSN Online: 2161-7686, DOI: 10.4236/jcpt.2016.61001
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D
A61K
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Cu-Kα線を用いるX線回折により、少なくとも2θ=9.2°、12.1°、21.6°、23.7°に特徴的なピークを有するアジルサルタンA型結晶の製造方法であって、
少なくとも2θ=9.4°、11.5°、13.3°、14.8°、26.0°に特徴的なピークを有するアジルサルタン結晶
と、プロトン性溶媒、エステル類、アセトニトリルの中から選択される少なくとも一つの溶媒と
、を温度0℃以上45℃以下で、且つ前記アジルサルタン結晶1gに対して前記溶媒を1mL以上50mL以下の量で接触させることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記溶媒がプロトン性溶媒である請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記プロトン性溶媒がアルコール類である請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
前記アジルサルタン結晶を溶媒に対して分割して接触させる請求項1~3の何れか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記アジルサルタン結晶1gに対する前記溶媒の使用量が1mL以上15mL以下である請求項1~4の何れか1項に記載の方法。
【請求項6】
アジルサルタンA型結晶における、下記式(3)
【化1】
で示されるデスエチル体の含有率が0.02%以下である請求項1~5の何れか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高純度のアジルサルタン(化学名称:1-[[2′-(4,5-ジヒドロ-5-オキソ-1,2,4-オキサジアゾール-3-イル)[1,1′-ビフェニル-4-イル]メチル]-2-エトキシ-1H-ベンゾイミダゾール-7-カルボン酸)A型結晶の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
下記式(1)
【0003】
【0004】
で示されるアジルサルタン(化学名称:1-[[2′-(4,5-ジヒドロ-5-オキソ-1,2,4-オキサジアゾール-3-イル)[1,1′-ビフェニル-4-イル]メチル]-2-エトキシ-1H-ベンゾイミダゾール-7-カルボン酸)は、アンジオテンシンII受容体拮抗薬として優れた効果を示す治療薬として非常に有用な化合物である(特許文献1)。以下、単に、「アジルサルタン」と称する場合もある。
【0005】
アジルサルタンは、通常、下記式(2)
【0006】
【0007】
で示されるアジルサルタンメチルエステル(化学名称:メチル-1-[[2′-(5-オキソ-4,5-ジヒドロ-1,2,4-オキサジアゾール-3-イル)ビフェニル-4-イル]メチル]-2-エトキシ-1H-ベンゾイミダゾール-7-カルボキシレート)をアルカリ性水溶液中で加水分解することによって合成される(特許文献1、非特許文献1、2参照)。
【0008】
このような治療薬として有用なアジルサルタンは、非常に高純度のものが望まれており、かつ安定である必要がある。アジルサルタンには、種々の結晶形が存在することが知られている(特許文献1~3、非特許文献1参照)。これら文献(具体的には、特許文献2)には、A型結晶として融点が200℃以上214℃以下である結晶が記載されている。そして、このA型結晶のアジルサルタンが、最も融点が高く、安定形であることが知られており、通常はA型結晶が原薬として使用されている。
【0009】
このA型結晶のアジルサルタンの製造方法として、例えば、特許文献1(実施例5参照)、および非特許文献1には、加水分解後の反応溶液を中和処理し、得られた結晶をエタノールで洗浄することで、A型結晶のアジルサルタンを合成する方法が記載されている。しかしながら、本発明者がエタノールを溶媒として再結晶を試みたところ、高い精製効果が得られるものの、多量の溶媒が必要であり、さらにアルコール中でアジルサルタンを加熱すると経時的に加水分解が進行し、下記式(3)
【0010】
【0011】
で示されるデスエチル体(化学名称:1-[[2′-(4,5-ジヒドロ-5-オキソ-1,2,4-オキサジアゾール-3-イル)[1,1′-ビフェニル-4-イル]メチル]-2-ヒドロキシ-1H-ベンゾイミダゾール-7-カルボン酸)が不純物として増加してしまうことが分かった。従って、当該方法においては、安定してA型結晶が合成できるものの、加熱中に分解されてしまい、高純度化が困難であるという問題があった。
【0012】
また、非特許文献2には、アセトンに懸濁させたアジルサルタンを還流条件下で1時間撹拌することで、A型結晶のアジルサルタンを合成する方法が記載されている。しかしながら、当該方法においては十分な精製効果が得られず、高純度のアジルサルタンを取得する為には、該精製操作を繰り返して行う必要があり、工程が煩雑になる点で改善の余地があった。さらに、本発明者がアセトンを溶媒として再結晶を試みたところ、一定の精製効果が認められたが、得られるアジルサルタンはH型結晶となることが分かった。また、アジルサルタンはアセトンに対しても溶解度が低いため、再結晶操作を行う場合には多量の溶媒が必要であった。つまり、当該方法においては一定の精製効果が得られるものの、安定的にA型結晶のアジルサルタンを取得できないという問題があった。
【0013】
以上のように、精製効果が高く、さらにA型結晶を安定的に合成できる簡便な方法は確立されておらず、操作性の面で大きな課題があった。アジルサルタンは、上記のように多くの有機溶媒に対して溶解性が低いことから、溶解性を改善した結晶形の検討も行われている(特許文献2、3)。
【0014】
具体的には、特許文献2では、より優れた物理化学的性質を有し、特に相対的に高い溶解度、バイオアベイラビリティー及び/又は有効性を有するアジルサルタンの結晶形A~Kの製造方法が記載されている。しかしながら、本発明者が特許文献2に記載の方法でアジルサルタンの結晶形の一部を合成したところ、有機溶媒に対する溶解度は低いままであり、精製効果の高い有機溶媒を用いた精製操作を行う場合には、従来のアジルサルタンの結晶と同様に多量の溶媒が必要となる。そのため、アジルサルタンの精製を工業的に行う場合には大きな問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【文献】特許2645962号公報
【文献】特表2014-530805号公報
【文献】特開2017-132719号公報
【非特許文献】
【0016】
【文献】ジャーナル オブ メディシナル ケミストリー、(米国)、19 96年、vol.39、p.5228-5235
【文献】オーガニック プロセス リサーチ アンド ディベロップメント、(米国)2013年、Vol.17、p.77-86
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
したがって、本発明の目的は、安定して高純度、かつ安定なアジルサルタンの結晶を簡便に製造できる方法を提供することにある。特にアジルサルタンの分解物であるデスエチル体の含有量が低減されたアジルサルタンA型結晶を安定的、且つ効率的に製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者らは、上記課題に対して鋭意検討を行った。本発明者らは、アジルサルタンの他結晶形として、Cu-Kα線を用いるX線回折により、少なくとも2θ=9.4°、11.5°、13.3°、14.8°、26.0°に特徴的なピークを有するアジルサルタン結晶(以下、「アジルサルタンM型結晶」とも言う)を見出し、該結晶形でデスエチル体が効率的に低減できることを既に提案している(WO2017/131218)。そこで、このアジルサルタンM型結晶をA型結晶に転換する方法について検討を行った。その結果、上記アジルサルタンM型結晶をプロトン性溶媒、エステル類、アセトニトリルから選択される少なくとも一つの溶媒中で混合撹拌すると溶媒媒介転移を起こし、安定なアジルサルタンA型結晶として析出することを見出した。さらに、得られるアジルサルタンA型結晶はデスエチル体が低減された高純度のアジルサルタンとなることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0019】
即ち、本発明は、Cu-Kα線を用いるX線回折により、少なくとも2θ=9.2°、12.1°、21.6°、23.7°に特徴的なピークを有するアジルサルタンA型結晶の製造方法であって、少なくとも2θ=9.4°、11.5°、13.3°、14.8°、26.0°に特徴的なピークを有するアジルサルタンM型結晶をプロトン性溶媒、エステル類、アセトニトリルの中から選択される少なくとも一つの溶媒と接触させることを特徴とする方法である。
【0020】
なお、本発明においては、前記プロトン性溶媒がアルコール類であることが好ましい。
また、本発明においては、前記アジルサルタンM型結晶を溶媒に対して分割して接触させることがより好ましい。
【発明の効果】
【0021】
本発明の方法によれば、特に、不純物であるデスエチル体の含有量が低減された、高純度のアジルサルタンA型結晶を、精製操作を繰り返すことなく、安定的かつ簡便な方法によって製造することができるため、その工業的利用価値は高い。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】製造例3において製造された本発明のアジルサルタンM型結晶のX線回折チャートである。
【
図2】実施例1において製造された本発明のアジルサルタンA型結晶のX線回折チャートである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明のアジルサルタンA型結晶の製造方法について、順を追って説明する。
【0024】
(アジルサルタンM型結晶)
本発明の製造方法において、原料となるアジルサルタンM型結晶は、Cu-Kα線を用いるX線回折により、少なくとも2θ=9.4°、11.5°、13.3°、14.8°、26.0°に特徴的なピークを有する化合物である。この場合、X線回折角の測定誤差は、±0.2°まで許容される。このアジルサルタンM型結晶のX線回折測定結果を
図1に示した。
【0025】
本発明におけるアジルサルタンM型結晶は、特許文献1、2、非特許文献1、2に記載されている既知のアジルサルタン結晶と比較して、メタノールやエタノールなどのアルコール類、酢酸エチルなどのエステル類、アセトンなどのケトン類などの有機溶媒に対する溶解性が改善されたアジルサルタン結晶である。また、アジルサルタンM型結晶は既知のアジルサルタン結晶と比較して最も低い融点を示し、示差走査熱量(DSC)測定で決定される融点が115℃以上135℃以下である。なお、本発明において、示差走査熱量(DSC)測定で決定される融点は、測定により得られた吸熱ピークのピークトップ温度を指す。
【0026】
上記アジルサルタンM型結晶は、WO2017/131218に記載のとおり、粗アジルサルタンをジメチルホルムアミドに溶解することで得た溶液に、ケトン類、或いはエステル類の溶媒を加えてアジルサルタンM型結晶を析出させることで取得することが出来る。
【0027】
(粗アジルサルタン)
前記アジルサルタンM型結晶の製造において使用される粗アジルサルタンは、特に制限されず、公知の方法で製造されたものを使用することができる。例えば、特許文献1に記載の方法、すなわち、アジルサルタンメチルエステル(化学名称:メチル-1-[[2′-(5-オキソ-4,5-ジヒドロ-1,2,4- オキサジアゾール-3-イル)ビフェニル-4-イル]メチル]-2-エトキシ-1H-ベンゾイミダゾール-7-カルボキシレート)をメタノールと水酸化リチウム水溶液の混合溶液中で3時間、加熱還流しながら反応させることによって製造することができる(特許文献1、実施例1eを参照)。
【0028】
前記アジルサルタンM型結晶の製造において使用される粗アジルサルタンは、一旦溶液状態とするため、その結晶形などは特に限定されない。例えば、非特許文献1、2および特許文献1、2に記載の結晶形、アモルファス、有機アミン塩またはこれらが混合した形態であってもよく、粉末、塊状物、またはこれらが混合した形状であってもよく、無水物、水和物、溶媒和物またはこれらが混合した形態であってもよい。水和物または溶媒和物であるときの水または溶媒の分子数は特に制限されない。また、アジルサルタンM型結晶の製造時にジメチルホルムアミドとケトン類、或いはエステル類の溶媒を用いることから、当該有機溶媒を含む湿体であってもよく、その他の溶媒についても、結晶化の際に影響を及ぼさない範囲、具体的には、当該アジルサルタンの50質量%以下の量で残留していてもよいが、当該有機溶媒以外の溶媒を含まないことが最も好ましい。また、使用する粗アジルサルタンの純度は特に制限されず、上記製造方法によって得られたものをそのまま使用することができる。ただし、最終的に得られるアジルサルタンの結晶の純度をより高くするために、一般的な精製方法、例えば再結晶やリスラリー、カラムクロマトグラフィーなどの方法により、必要に応じて1回以上精製したものを、アジルサルタンとして利用することもできる。本発明における粗アジルサルタンは、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)分析で95.0%以上99.9%以下の純度のアジルサルタンであってもよい(以下、本発明において、純度、不純物の割合(%)は、HPLCで測定した際の面積%の値である。)。また、本発明による方法を用いることで、アジルサルタンA型結晶を安定的に製造することができる。そのため、A型結晶のアジルサルタンを得ることを目的として、A型結晶以外の結晶形を有する純度100%のアジルサルタンを粗アジルサルタンとすることもできる。
【0029】
また、粗アジルサルタンには、下記式(4)
【0030】
【0031】
で示されるアジルサルタン二量体が不純物として含まれる場合がある。そのため、当該不純物の除去を目的としてWO2017/131218に記載のとおり、活性炭処理を施したアジルサルタンを粗アジルサルタンとすることがより好ましい。活性炭処理を行うことでアジルサルタン二量体の不純物量を低減し、より高純度のアジルサルタンM型結晶を得ることができ、さらに本発明の製造方法により、高純度のアジルサルタンA型結晶を取得することができる。
【0032】
(アジルサルタンA型結晶の製造方法)
本発明のアジルサルタンA型結晶の製造方法は、前述のアジルサルタンM型結晶と、プロトン性溶媒、エステル類、アセトニトリルの中から選択される少なくとも一つの溶媒と、を接触させることを特徴とする。かかる方法によって、アジルサルタンM型結晶は、溶媒媒介転移によってアジルサルタンA型結晶へと変化しているものと推測される。ここで、溶媒媒介転移現象とは、溶液中で溶質が溶解度の差に基づき転移する現象であり、準安定形結晶(本発明においてはアジルサルタンM型結晶を指す)が溶解すると共に安定形結晶(本発明においてはアジルサルタンA型結晶を指す)の結晶核が発生して成長することにより転移が進行する現象である。
【0033】
具体的には、有機溶媒に溶解し易いアジルサルタンM型結晶と、プロトン性溶媒、エステル類、アセトニトリルの中から選択される少なくとも一つの溶媒と、を接触させると、アジルサルタンM型結晶が上記溶媒に一度溶解した後、該溶媒に対する溶解度が低く且つ、該溶媒中で安定なアジサルタンA型結晶が析出してくるものと推測される。従って、アジルサルタンM型結晶を得る際に十分な精製処理を行って高純度のアジルサルタンM型結晶を得、次いで該M型結晶をアジルサルタンA型結晶と変換することで、高純度のアジルサルタンA型結晶を効率的に得ることができる。
【0034】
(アジルサルタンM型結晶を接触させる溶媒)
本発明において使用する溶媒は、プロトン性溶媒、エステル類、アセトニトリルの中から選択される。当該溶媒を選択することで安定してA型結晶への転移を起こすことが可能となる。具体的には、メタノール、エタノール、1-プロパノール、イソプロパノール、1-ブタノール、2-メチル-1-プロパノール、2-ブタノール、2-メチル-2-プロパノール、1-ペンタノール、3-メチル-1-ブタノール、1-ヘキサノール、2-メチル-1-ペンタノール、3-メチル-1-ペンタノール、2-メチル-2-ペンタノール、2,4-ジメチル-3-ペンタノール、3-エチル-3-ペンタノール等のアルコール類や、酢酸、ギ酸等の有機酸溶液、水などを含むプロトン性溶媒; 酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル等のエステル類; アセトニトリルが挙げられる。この中でも、得られるアジルサルタンA型結晶の収率、純度、およびデスエチル体の除去効果という点から、プロトン性溶媒を選択することが好ましく、中でもアルコール類を選択することが特に好ましい。具体的には、メタノール、エタノール、1-プロパノール、イソプロパノール、水が好ましく、メタノール、エタノール、1-プロパノールが特に好ましい。当該溶媒を選択することで、効率的にデスエチル体を除去することが出来、より高純度化されたアジルサルタンA型結晶を取得することができる。
【0035】
以上例示した溶媒は、1種類で使用することもできるし、2種類以上の混合物を使用することもできる。混合物として使用した場合には、使用する量の基準は、混合物の全量を対象とすればよい。なお、本発明において使用する溶媒は、プロトン性溶媒、エステル類、アセトニトリルの中から選択されるのであって、他の溶媒は実質的に含まない。実質的に含まないとは、全溶媒量に対して10体積%以上の量で含まないことを意味する。
【0036】
本発明における、溶媒の使用量は、選択する溶媒の種類やアジルサルタンM型結晶の添加方法等により適宜決定すればよく、通常、上記アジルサルタンM型結晶1gに対して1mL以上50mL以下とすればよく、収率、操作性を考慮すると5mL以上30mL以下とすることが好ましい。使用する溶媒の種類にもよるが、通常使用する溶媒の量が多くなるとアジルサルタンA型結晶の溶解度が増加するため収率が低下してしまう。また、使用する溶媒の量が少ないとアジサルタンM型結晶からアジルサルタンA型結晶への転移速度が速くなるため、析出したアジルサルタンA型結晶の結晶内部に溶媒を取り込みやすくなる。
【0037】
(アジルサルタンM型結晶と溶媒とを接触させる方法)
本発明において、アジルサルタンM型結晶と溶媒とを接触させる方法は特に制限されず、添加順序や添加方法も制限されるものではない。さらに、本発明におけるアジルサルタンM型結晶と溶媒とを接触させる温度は、選択した溶媒の種類や使用量によって適宜決定すればよく、アジルサルタンM型結晶がA型結晶に十分変換される条件下で行えば良い。また、接触させる時間も同様である。通常、接触させる温度が低い場合には、アジルサルタンM型結晶からアジルサルタンA型結晶への転移速度が遅くなるため、接触させる時間は長くなる。一方で、接触させる温度が高い場合には、転移速度は速くなる。しかし、接触させる温度が高すぎる場合には、加水分解物である前述のデスエチル体の含有量が増加する。そのため、0℃以上45℃以下で行うことが好ましく、5℃以上35℃以下で行うことが特に好ましい。接触させる時間は、通常1時間以上である。
【0038】
本発明は結晶形間の溶解度差を利用したアジサルタンの精製法である。つまり、溶媒に対して溶解度が高いアジルサルタンM型結晶が溶媒に溶解した後、該溶媒に対する溶解度が低く且つ、該溶媒中で安定なアジサルタンA型結晶が溶媒媒介転移によって析出すると推測される。この際に、アジルサルタンA型結晶への転移速度が速い場合には、析出するアジルサルタンA型結晶の結晶内部に溶媒を取り込みやすくなる。そのため、得られるアジルサルタンA型結晶中の残留溶媒量を低減するためには、溶媒に対してアジサルタンM型結晶を数回に分割して接触させて、アジルサルタンA型結晶に転移させる方法を採用することがより好ましい。アジルサルタンM型結晶を溶媒に対して分割して接触させることで、アジルサルタンA型結晶への転移速度を抑制し、残留溶媒量が低減されたアジルサルタンA型結晶を取得することができる。アジサルタンM型結晶を分割して接触させる方法は特に制限されるものではないが、操作性を考慮すると6分割以内とすることが好ましい。また、分割して接触させる場合には、接触間隔を10分以上空けることが好ましく、30分以上空けることがより好ましく、効率性を考慮すると3時間以内とすることが適当である。当該時間の間隔は毎回同じで時間であっても良いし、毎回異なる時間であっても良い。また、分割して接触させるアジルサルタンM型結晶の量についても同様である。分割してアジルサルタンM型結晶を接触させることで、溶媒の使用量を低減し、さらに残留溶媒量が低減されたアジルサルタンA型結晶を取得することができる。
【0039】
本発明では、アジサルタンM型結晶を溶媒と接触させた後、さらに低温で一定時間保持することが好ましい。低温条件下で保持することで、より収率を高めることができる。この際に保持する温度は-5℃以上30℃以下とすればよく、より高収率にてアジルサルタンA型結晶を取得するためには、0℃以上10℃以下で保持することが好ましい。また、保持する時間は、保持する温度により適宜決定すればよいが、通常3時間以上とすることが好ましい。
【0040】
このようにして析出したアジルサルタンA型結晶は、ろ過や遠心分離などにより固液分離した後、自然乾燥、送風乾燥、真空乾燥などの方法で乾燥することにより単離することができる。
【0041】
(アジルサルタンA型結晶)
本発明の方法において、得られるアジルサルタンA型結晶は、Cu-Kα線を用いるX線回折により、少なくとも2θ=9.2°、12.1°、21.6°、23.7°に特徴的なピークを有する化合物である。この場合、X線回折角の測定誤差は、±0.2°まで許容される。このアジルサルタンA型結晶のX線回折測定結果を
図2に示した。また、本発明におけるアジルサルタンA型結晶は、アジルサルタンの結晶形の中でも最も高い融点を示す。示差走査熱量(DSC)測定で決定される融点は、200℃以上214℃以下である。本発明において、示差走査熱量(DSC)測定で決定される融点は、測定により得られた吸熱ピークのピークトップ温度を指す。
【0042】
本発明の方法で取得されるアジルサルタンは、デスエチル体が低減された高純度のアジルサルタンである。さらに、得られるアジルサルタンは安定なA型結晶となる。本発明の方法を用いれば、安定して高純度のアジルサルタンA型結晶を取得することができる。
【実施例】
【0043】
以下、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何等制限されることはない。
【0044】
先ず、アジルサルタンの純度、およびデスエチル体含有量の測定(高速液体クロマトグラフィー測定)、残留溶媒量の測定(ガスクロマトグラフィー測定)、結晶形の確認(粉末X線回折の測定)、融点の測定(示差走査熱量計の測定)は以下の方法でおこなった。
【0045】
<アジルサルタンの定量、および純度、デスエチル体含有量の測定>
装置:高速液体クロマトグラフィー(HPLC)
機種:2695-2489-2998(Waters社製)
検出器:紫外吸光光度計(測定波長:210nm)
カラム:Kromasil C18、内径4.6mm、長さ15cm(粒子径5μm)
(AkzoNobel社製)
カラム温度:30℃一定
サンプル温度:25℃一定
移動相A:アセトニトリル
移動相B:15mMリン酸二水素カリウム水溶液(pH=2.5 リン酸にて調整)
移動相の送液:移動相A,Bの混合比を下記表1のように変えて濃度勾配制御する。
流速:1.0mL/min
測定時間:40分
【0046】
【0047】
上記条件において、アジルサルタンは約7.3分、不純物であるデスエチル体は約3.3分にピークが確認される。以下の実施例、比較例において、アジルサルタンの純度、並びに、デスエチル体の含有量は、すべて、上記条件で測定される全ピークの面積値(溶媒由来のピークを除く)の合計に対する各化合物のピーク面積値の割合である。
【0048】
<アジルサルタンの残留溶媒量の測定>
試料に含まれる各溶媒の残留溶媒量は、下記の条件にて、ガスクロマトグラフィー(GC)による測定をして求められた各溶媒のピーク面積値から、検量線法により算出した。ここで、各溶媒の残留溶媒量は、試料の質量に対する各溶媒の質量の割合を示したものである。
【0049】
測定方法:ガスクロマトグラフィー(GC)
装置:島津製作所製 GC-2010 Plus
検出器:水素炎イオン化検出器(FID)
カラム:アジレント・テクノロジー社製 DB-WAX(長さ30m、内径0.530mm、膜厚:1.00μm)
カラム温度:40℃付近の一定温度で注入後、5分間維持し、次いで毎分10℃で230℃まで昇温し、230℃で10分間維持した。
注入口温度:180℃
検出器温度:260℃
キャリアーガス:He
カラム圧力:3.071psi
上記条件において、メタノールは約5.5分にピークが確認される。
【0050】
<アジルサルタンの結晶形の測定>
装置:X線回折装置(XRD)
機種:SmartLab(株式会社リガク製)
測定方法:ASC6 BB Dtex
X線出力:40kV-30mA
波長:CuKa/1.541882Å
【0051】
<アジルサルタンの融点の測定>
装置:示差走査熱量計(DSC)
機種:DSC6200(エスアイアイ・ナノテクノロジー社製)
昇温条件:5℃/分
ガス:アルゴン
【0052】
製造例1(粗アジルサルタンの製造:活性炭処理なし)
直径7.5cmの2枚撹拌翼を備えた1000mL四つ口フラスコにアジルサルタンメチルエステル(アジルサルタンメチルエステル純度:99.1%)50gを量りとり、1.25M水酸化ナトリウム水溶液400mLを加え、70℃まで加熱した後、同温度にて2時間反応を行った。反応後の粗アジルサルタン溶液に含まれるアジルサルタンは、アジルサルタン純度:99.62%、アジルサルタンデスエチル体:0.06%、アジルサルタン二量体:0.08%であった。反応後の溶液を40℃まで冷却した後、同温度でアセトン250mL、酢酸170mL、水170mLを加えて、粗アジルサルタンの結晶を析出させた。反応液を-20℃/時間の速度で20℃まで冷却した後、同温度で6時間撹拌した。次いで、得られたスラリー液を減圧濾過して析出した結晶を分取し、40℃で乾燥して、47gの粗アジルサルタンの結晶を得た(収率:96.4%)。この粗アジルサルタンは、アジルサルタン純度:99.71%、アジルサルタンデスエチル体:0.06%、アジルサルタン二量体:0.06%であった。また、この粗アジルサルタンを試料として、XRDを測定すると2θ=9.2°、12.1°、21.7°、23.7°に特徴的なピークを有するA型結晶構造のアジルサルタンであることが分かった。
【0053】
製造例2(粗アジルサルタンの製造:活性炭処理あり)
直径15cmの2枚撹拌翼を備えた5000mL四つ口フラスコにアジルサルタンメチルエステル(アジルサルタンメチルエステル純度:99.1%)250gを量りとり、1.25M水酸化ナトリウム水溶液2000mLを加え、70℃まで加熱した後、同温度にて2時間反応を行った。反応後の粗アジルサルタン溶液に含まれるアジルサルタンは、アジルサルタン純度:99.61%、アジルサルタンデスエチル体:0.06%、アジルサルタン二量体:0.08%であった。反応後の溶液を30℃まで冷却した後、精製白鷺(大阪ガスケミカル製、比表面積:1430m2/g、累計細孔容積:1.17mL/g)12.5gを加えて、20~30℃で1時間撹拌を行った。活性炭処理後の溶液に含まれるアジルサルタンは、アジルサルタン純度:99.85%、アジルサルタンデスエチル体:0.05%、アジルサルタン二量体:0.01%であった。次いで、減圧濾過して精製白鷺を除去し、得られたろ液を40℃まで加温した後、同温度でアセトン1250mL、酢酸850mL、水850mLを加えて、粗アジルサルタンの結晶を析出させた。反応液を-20℃/時間の速度で20℃まで冷却した後、同温度で6時間撹拌した。次いで、得られたスラリー液を減圧濾過して析出した結晶を分取し、40℃で乾燥して、231gの粗アジルサルタンの結晶を得た(収率:95.4%)。この粗アジルサルタンは、アジルサルタン純度:99.89%、アジルサルタンデスエチル体:0.04%、アジルサルタン二量体:未検出であった。また、この粗アジルサルタンを試料として、XRDを測定すると2θ=9.2°、12.0°、21.6°、23.6°に特徴的なピークを有するA型結晶構造のアジルサルタンであることが分かった。
【0054】
製造例3(アジルサルタンM型結晶の製造)
直径7.5cmの2枚撹拌翼を備えた1000mL三つ口フラスコに製造例2で得られた粗アジルサルタン70gを量りとり、ジメチルホルムアミド140mLを加えて、35℃で加熱溶解した。得られたアジルサルタン溶液を30℃以下まで冷却した後、酢酸エチル700mLを加え、さらに冷却し、5℃で終夜撹拌した。次いで、減圧濾過して析出した結晶を分取し、50℃で乾燥して、69gのアジルサルタンの結晶を得た(アジルサルタン純度:99.92%、デスエチル体:0.03%)。このアジルサルタンを試料として、XRDを測定すると、
図1に示すX線回折チャートが得られ、この結晶は2θ=9.3°、11.5°、13.3°、14.8°、26.0°に特徴的なピークを有するM型結晶構造のアジルサルタンであることが分かった。また、DSC測定による融点は128℃であった。
【0055】
実施例1(アジルサルタンA型結晶の製造)
直径2.5cmの2枚撹拌翼を備えた100mL三つ口フラスコに製造例3で得られたアジルサルタンM型結晶4gを量りとり、メタノール40mLを加えて、35℃で撹拌しながら溶解した。35℃で1時間保持するとアジルサルタンの結晶が析出してきた。その後、5℃まで冷却し、終夜撹拌した。次いで、減圧濾過して析出した結晶を分取し、50℃で乾燥して、3.2gのアジルサルタンの結晶を得た(収率:80%)。得られたアジルサルタンは、アジルサルタン純度:99.96%、デスエチル体:0.01%であった。また、残留溶媒を測定すると、メタノールが949ppm検出された。さらに、このアジルサルタンを試料として、XRDを測定すると、
図2に示すX線回折チャートが得られ、この結晶は2θ=9.2°、12.1°、21.6°、23.7°に特徴的なピークを有するA型結晶構造のアジルサルタンであることが分かった。また、DSC測定による融点は202℃であった。
【0056】
実施例2(アジルサルタンA型結晶の製造;分割添加)
直径2.5cmの2枚撹拌翼を備えた100mL三つ口フラスコにメタノール30mLを加えて、35℃に昇温して撹拌した。製造例3で得られたアジルサルタンM型結晶3gを3回に分けて1時間毎に添加して撹拌した。アジルサルタンM型結晶を全量添加した後、35℃で1時間保持した。その後、5℃まで冷却し、終夜撹拌した。次いで、減圧濾過して析出した結晶を分取し、50℃で乾燥して、2.4gのアジルサルタンの結晶を得た(収率:80%)。得られたアジルサルタンは、アジルサルタン純度:99.96%、デスエチル体:0.01%であった。また、残留溶媒を測定すると、メタノールが257ppm検出された。さらに、このアジルサルタンを試料として、XRDを測定すると、2θ=9.2°、12.1°、21.6°、23.6°に特徴的なピークを有するA型結晶構造のアジルサルタンであることが分かった。また、DSC測定による融点は203℃であった。
【0057】
実施例3~9(アジルサルタンA型結晶の製造)
実施例1において、使用する有機溶媒の種類、使用量を変更した以外は同様の操作を行い、得られたアジルサルタンについてHPLC純度測定、およびXRDによる結晶形の確認を行った。結果を表2に示した。
【0058】
比較例1(ジメチルホルムアミド)
実施例1において、使用する有機溶媒をジメチルホルムアミドに変更した以外は同様の操作を行い、得られたアジルサルタンについてHPLC純度測定、およびXRDによる結晶形の確認を行った。XRDを測定すると、2θ=9.3°、11.5°、13.4°、14.8°、26.0°に特徴的なピークを有するM型結晶構造のアジルサルタンであることが分かった。また、DSC測定による融点は126℃であった。結果を表2に示した。
【0059】
比較例2(ヘプタン)
実施例1において、使用する有機溶媒をヘプタンに変更した以外は同様の操作を行い、得られたアジルサルタンについてHPLC純度測定、およびXRDによる結晶形の確認を行った。XRDを測定すると、2θ=9.3°、11.5°、13.3°、14.8°、26.1°に特徴的なピークを有するM型結晶構造のアジルサルタンであることが分かった。また、DSC測定による融点は128℃であった。結果を表2に示した。
【0060】
比較例3(アセトン)
実施例1において、使用する有機溶媒をアセトンに変更した以外は同様の操作を行い、得られたアジルサルタンについてHPLC純度測定、およびXRDによる結晶形の確認を行った。XRDを測定すると、2θ=7.6°、8.6°、11.1°、19.0°、21.1°に特徴的なピークを有するH型結晶構造のアジルサルタンであることが分かった。また、DSC測定による融点は177℃であった。結果を表2に示した。
【0061】
実施例10
直径5.5cmの2枚撹拌翼を備えた100mL三つ口フラスコに製造例2で得られた粗アジルサルタン6gを量りとり、ジメチルホルムアミド12mLを加えて、35℃で加熱溶解した。得られたアジルサルタン溶液を30℃以下まで冷却した後、酢酸エチル60mLを加え、さらに冷却し、5℃で終夜撹拌した。次いで、減圧濾過して析出したアジルサルタンM型結晶を湿体として得た。
直径5.5cmの2枚撹拌翼を備えた100mL三つ口フラスコにメタノール60mLを加えて、20℃で撹拌した。上記アジルサルタンM型結晶の湿体を6分割して1時間毎に添加した。全量添加した後、20℃でさらに1時間保持した。その後、5℃まで冷却し、6時間撹拌した。次いで、減圧濾過して析出した結晶を分取し、50℃で乾燥して、4.8gのアジルサルタンの結晶を得た(収率:80%)。得られたアジルサルタンは、アジルサルタン純度:99.97%、デスエチル体:0.01%であった。また、残留溶媒を測定すると、メタノールが180ppm検出された。さらに、このアジルサルタンを試料として、XRDを測定すると、2θ=9.2°、12.1°、21.6°、23.6°に特徴的なピークを有するA型結晶構造のアジルサルタンであることが分かった。
【0062】
実施例11
直径5.5cmの2枚撹拌翼を備えた100mL三つ口フラスコに製造例2で得られた粗アジルサルタン6gを量りとり、ジメチルホルムアミド12mLを加えて、35℃で加熱溶解した。得られたアジルサルタン溶液を30℃以下まで冷却した後、酢酸エチル60mLを加え、さらに冷却し、5℃で終夜撹拌した。次いで、減圧濾過して析出したアジルサルタンM型結晶を湿体として得た。
直径5.5cmの2枚撹拌翼を備えた100mL三つ口フラスコにエタノール30mL、水30mLを加えて、20℃で撹拌した。上記アジルサルタンM型結晶の湿体を6分割して1時間毎に添加した。全量添加した後、20℃でさらに1時間保持した。その後、5℃まで冷却し、7時間撹拌した。次いで、減圧濾過して析出した結晶を分取し、50℃で乾燥して、5.3gのアジルサルタンの結晶を得た(収率:88%)。得られたアジルサルタンは、アジルサルタン純度:99.94%、デスエチル体:0.02%であった。また、残留溶媒を測定すると、エタノールが309ppm検出された。さらに、このアジルサルタンを試料として、XRDを測定すると、2θ=9.2°、12.1°、21.6°、23.7°に特徴的なピークを与えるA型結晶構造を有するアジルサルタンであることが分かった。
【0063】