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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-15
(45)【発行日】2022-11-24
(54)【発明の名称】磁気テープおよび磁気記録再生装置
(51)【国際特許分類】
   G11B 5/708 20060101AFI20221116BHJP
   G11B 5/70 20060101ALI20221116BHJP
   G11B 5/706 20060101ALI20221116BHJP
   G11B 5/735 20060101ALI20221116BHJP
   G11B 5/78 20060101ALI20221116BHJP
   G11B 5/84 20060101ALI20221116BHJP
   G11B 5/738 20060101ALI20221116BHJP
   G11B 5/716 20060101ALI20221116BHJP
【FI】
G11B5/708
G11B5/70
G11B5/706
G11B5/735
G11B5/78
G11B5/84 C
G11B5/738
G11B5/716
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021141382
(22)【出願日】2021-08-31
(62)【分割の表示】P 2021080991の分割
【原出願日】2018-09-11
(65)【公開番号】P2021192329
(43)【公開日】2021-12-16
【審査請求日】2021-08-31
(31)【優先権主張番号】P 2017191659
(32)【優先日】2017-09-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018159512
(32)【優先日】2018-08-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】岩本 崇裕
(72)【発明者】
【氏名】細田 英正
(72)【発明者】
【氏名】笠田 成人
(72)【発明者】
【氏名】黒川 拓都
【審査官】川中 龍太
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-177851(JP,A)
【文献】国際公開第2019/065199(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/065200(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G11B 5/62 - 5/82
G11B 5/84 - 5/858
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非磁性支持体上に強磁性粉末を含む磁性層を有する磁気テープであって、
前記磁性層の厚みは10nm以上100nm以下であり、
前記磁性層は酸化物研磨剤を含み、
前記磁性層の表面に集束イオンビームを照射して取得される2次イオン像から求められる前記酸化物研磨剤の平均粒子直径は0.04μm以上0.08μm以下であり、かつ
前記磁性層の面内方向について測定される屈折率Nxyと前記磁性層の厚み方向について測定される屈折率Nzとの差分、Nxy-Nz、は0.25以上0.40以下である磁気テープ。
【請求項2】
前記酸化物研磨剤は、アルミナ粉末である、請求項1に記載の磁気テープ。
【請求項3】
前記強磁性粉末は、強磁性六方晶フェライト粉末である、請求項1または2に記載の磁気テープ。
【請求項4】
前記非磁性支持体と前記磁性層との間に、非磁性粉末を含む非磁性層を有する、請求項1~のいずれか1項に記載の磁気テープ。
【請求項5】
前記非磁性支持体の前記磁性層を有する表面側とは反対の表面側に、非磁性粉末を含むバックコート層を有する、請求項1~のいずれか1項に記載の磁気テープ。
【請求項6】
前記磁性層の厚みは20nm以上90nm以下である、請求項1~のいずれか1項に記載の磁気テープ。
【請求項7】
前記磁性層の厚みは30nm以上70nm以下である、請求項1~のいずれか1項に記載の磁気テープ。
【請求項8】
請求項1~のいずれか1項に記載の磁気テープと、
磁気ヘッドと、
を含む磁気記録再生装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気テープおよび磁気記録再生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気記録媒体にはテープ状のものとディスク状のものがあり、データストレージ用途には、テープ状の磁気記録媒体、即ち磁気テープが主に用いられている。磁気テープへの情報の記録および/または再生は、通常、磁気テープの表面(磁性層表面)と磁気ヘッド(以下、単に「ヘッド」とも記載する。)とを接触させ摺動させることにより行われる。磁気テープとしては、強磁性粉末および結合剤に加えて研磨剤を含む磁性層が非磁性支持体上に設けられた構成のものが広く用いられている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2005-243162号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
磁気テープに求められる性能の1つとしては、磁気テープに記録された情報を再生する際に優れた電磁変換特性を発揮できることが挙げられる。しかし、磁性層表面とヘッドとの摺動を繰り返すうちに磁性層表面および/またはヘッドが削れてしまうと、磁性層表面とヘッドの再生素子との距離が広がる現象(いわゆるスペーシングロス)が発生してしまう。この点に関し、例えば特許文献1に記載されているように、磁性層に研磨剤を含有させることは、研磨剤により磁性層表面にヘッドクリーニング性をもたらすことに寄与し得る。磁性層表面にヘッドクリーニング性がもたらされることにより、磁性層表面が削れて生じた異物が磁性層表面とヘッドとの間に介在してスペーシングロスが発生することを抑制することができる。しかし他方で、磁性層表面のヘッドクリーニング性を高めるほど、磁性層表面との摺動によりヘッドが削れ易くなり、やはりスペーシングロスが発生してしまう。かかるスペーシングロスは、磁気テープに記録された情報の再生を繰り返すうちに電磁変換特性が低下する現象(以下、「繰り返し再生における電磁変換特性の低下」ともいう。)の原因となる。
【0005】
ところで、近年、データストレージ用途に用いられる磁気テープは、温度および湿度が管理されたデータセンター等の低温低湿環境下(例えば温度10~15℃かつ相対湿度10~20%程度の環境下)で使用されることがある。しかるに、温度および湿度の管理のための空調コストの低減の観点からは、使用時の温度および湿度の管理条件を現在より緩和できるか、または管理を不要にできることが望ましい。
【0006】
以上に鑑み本発明者らは、磁気テープの使用時の温度および湿度の管理条件を緩和または管理を不要にすることを検討した。その結果、温度および湿度の管理条件を緩和または管理を不要とした環境下(以下、「高温高湿環境下」と記載する。)では、繰り返し再生における電磁変換特性の低下が発生しやすいことが判明した。なお高温高湿環境下とは、例えば、雰囲気温度30~45℃かつ相対湿度65%以上(例えば65~90%)の環境下である。
【0007】
そこで本発明の目的は、高温高湿環境下での繰り返し再生における電磁変換特性の低下が抑制された磁気テープを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様は、
非磁性支持体上に強磁性粉末および結合剤を含む磁性層を有する磁気テープであって、
上記磁性層は酸化物研磨剤を含み、
上記磁性層の表面に集束イオンビーム(FIB;Focused Ion Beam)を照射して取得される2次イオン像から求められる上記酸化物研磨剤の平均粒子直径(以下、「FIB研磨剤径」とも記載する。)は0.04μm以上0.08μm以下であり、かつ
上記磁性層の面内方向について測定される屈折率Nxyと上記磁性層の厚み方向について測定される屈折率Nzとの差分の絶対値ΔN(以下、「(磁性層の)ΔN」とも記載する。)は0.25以上0.40以下である磁気テープ、
に関する。
【0009】
一態様では、上記酸化物研磨剤は、アルミナ粉末であることができる。
【0010】
一態様では、上記屈折率Nxyと上記屈折率Nzとの差分(Nxy-Nz)は、0.25以上0.40以下であることができる。
【0011】
一態様では、上記強磁性粉末は、強磁性六方晶フェライト粉末であることができる。
【0012】
一態様では、上記磁気テープは、上記非磁性支持体と上記磁性層との間に、非磁性粉末および結合剤を含む非磁性層を有することができる。
【0013】
一態様では、上記磁気テープは、上記非磁性支持体の上記磁性層を有する表面側とは反対の表面側に、非磁性粉末および結合剤を含むバックコート層を有することができる。
【0014】
本発明の更なる態様は、上記磁気テープと、磁気ヘッドと、を含む磁気記録再生装置に関する。
【発明の効果】
【0015】
本発明の一態様によれば、高温高湿環境下での繰り返し再生における電磁変換特性の低下の抑制が可能な磁気テープを提供することができる。また、本発明の一態様によれば、上記磁気テープを含む磁気記録再生装置を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
[磁気テープ]
本発明の一態様は、非磁性支持体上に強磁性粉末および結合剤を含む磁性層を有する磁気テープであって、上記磁性層は酸化物研磨剤を含み、上記磁性層の表面に集束イオンビームを照射して取得される2次イオン像から求められる上記酸化物研磨剤の平均粒子直径(FIB研磨剤径)は0.04μm以上0.08μm以下であり、かつ上記磁性層の面内方向について測定される屈折率Nxyと上記磁性層の厚み方向について測定される屈折率Nzとの差分の絶対値ΔNは0.25以上0.40以下である磁気テープに関する。
【0017】
本発明および本明細書において、「磁性層(の)表面」とは、磁気テープの磁性層側表面と同義である。また、本発明および本明細書において、「強磁性粉末」とは、複数の強磁性粒子の集合を意味するものとする。「集合」とは、集合を構成する粒子が直接接触している態様に限定されず、結合剤、添加剤等が、粒子同士の間に介在している態様も包含される。以上の点は、本発明および本明細書における非磁性粉末等の各種粉末についても同様とする。
【0018】
本発明および本明細書において、「酸化物研磨剤」とは、モース硬度8超の非磁性酸化物粉末を意味する。
【0019】
本発明および本明細書において、FIB研磨剤径は、以下の方法によって求められる値とする。
(1)2次イオン像の取得
集束イオンビーム装置により、FIB研磨剤径を求める対象の磁気テープの磁性層表面の25μm角(25μm×25μm)の領域の2次イオン像を取得する。集束イオンビーム装置としては、日立ハイテクノロジーズ社製MI4050を使用することができる。
2次イオン像を取得する際の集束イオンビーム装置のビーム照射条件として、加速電圧30kV、電流値133pA(ピコアンペア)、BeamSize30nmおよびBrightness50%に設定する。磁性層表面への撮像前のコーティング処理は行わない。2次イオン検出器によって、2次イオン(SI;secondary ion)信号を検出し、2次イオン像を撮像する。2次イオン像の撮像条件は、以下の方法により決定する。磁性層表面の未撮像領域3箇所において、ACB(Auto Contrast Brightess)を実施する(即ち、ACBを3回実施する)ことにより画像の色味を安定させ、コントラスト基準値およびブライトネス基準値を決定する。本ACBにより決定されたコントラスト基準値から1%下げたコントラスト値および上記のブライトネス基準値を、撮像条件とする。磁性層表面の未撮像領域を選択し、上記で決定された撮像条件下で2次イオン像を撮像する。撮像された画像からサイズ等を表示する部分(ミクロンバー、クロスマーク等)を消し、2000pixel×2000pixelの画素数の2次イオン像を取得する。撮像条件の具体例については、後述の実施例を参照できる。
(2)FIB研磨剤径の算出
上記(1)で取得した2次イオン像を、画像処理ソフトに取り込み、以下の手順により2値化処理を行う。画像解析ソフトとしては、例えば、フリーソフトのImageJを使用することができる。
上記(1)で取得した2次イオン像を8bitに色調変更する。2値化処理するための閾値は、下限値を250諧調、上限値を255諧調とし、これら2つの閾値により2値化処理を実行する。2値化処理後に画像解析ソフトによりノイズ成分除去処理を行う。ノイズ成分除去処理は、例えば以下の方法により行うことができる。画像解析ソフトImageJにおいて、ノイズカット処理Despeckleを選択し、AnalyzeParticleでSize 4.0-Infinityを設定してノイズ成分の除去を行う。
こうして得られた2値化処理画像において白く光る各部分を酸化物研磨剤と判断し、画像解析ソフトにより、白く光る部分の個数を求め、かつ白く光る各部分の面積を求める。ここで求められた白く光る各部分の面積から、各部分の円相当径を求める。具体的には、求められた面積Aから、(A/π)^(1/2)×2=Lにより、円相当径Lを算出する。
以上の工程を、FIB研磨剤径を求める対象の磁気テープの磁性層表面の異なる箇所(25μm角)において4回実施し、得られた結果から、FIB研磨剤径を、FIB研磨剤径=Σ(Li)/Σiにより算出する。Σiは、4回の実施により得られた2値化処理画像において観察された白く光る部分の総数である。Σ(Li)は、4回の実施により得られた2値化処理画像において観察された白く光る各部分について求めた円相当径Lの合計である。白く光る部分について、その部分の一部のみが2値化処理画像に含まれている場合もあり得る。そのような場合には、その部分は含めずにΣiおよびΣ(Li)を求める。
【0020】
また、本発明および本明細書において、磁性層の面内方向について測定される屈折率Nxyと磁性層の厚み方向について測定される屈折率Nzとの差分の絶対値ΔNは、以下の方法によって求められる値とする。
磁性層の各方向についての屈折率は、分光エリプソメトリーにより2層モデルを用いて求めるものとする。分光エリプソメトリーにより2層モデルを用いて磁性層の屈折率を求めるためには、磁性層と隣接する部分の屈折率の値が用いられる。以下では、非磁性支持体上に非磁性層と磁性層とがこの順に積層された層構成を有する磁気テープについて、磁性層の屈折率NxyおよびNzを求める場合を例に説明する。ただし、本発明の一態様にかかる磁気テープは、非磁性支持体上に非磁性層を介さずに磁性層が直接積層された層構成の磁気テープであることもできる。かかる構成の磁気テープについては、磁性層と非磁性支持体との2層モデルを用いて、以下の方法と同様に磁性層の各方向についての屈折率を求める。また、以下に記載の入射角度は、垂直入射の場合の入射角度を0°としたときの入射角度である。
(1)測定用試料の準備
非磁性支持体の磁性層を有する表面とは反対側の表面上にバックコート層を有する磁気テープについては、磁気テープから切り出した測定用試料のバックコート層を除去した後に測定を行う。バックコート層の除去は、バックコート層を溶媒を用いて溶解する等の公知の方法により行うことができる。溶媒としては、例えばメチルエチルケトンを用いることができる。ただし、バックコート層を除去できる溶媒であればよい。バックコート層除去後の非磁性支持体表面は、エリプソメーターでの測定において、この表面での反射光が検出されないように公知の方法により粗面化する。粗面化は、例えばバックコート層除去後の非磁性支持体表面をサンドペーパーを用いて研磨する方法等によって行うことができる。バックコート層を持たない磁気テープから切り出した測定用試料については、磁性層表面を有する表面とは反対側の非磁性支持体表面について、粗面化を行う。
また、下記の非磁性層の屈折率測定のためには、更に磁性層を除去して非磁性層表面を露出させる。下記の非磁性支持体の屈折率測定のためには、更に非磁性層も除去して非磁性支持体の磁性層側の表面を露出させる。各層の除去は、バックコート層の除去について記載したように、公知の方法により行うことができる。なお以下に記載の長手方向とは、測定用試料が切り出される前に磁気テープに含まれていたときに、磁気テープの長手方向であった方向をいうものとする。この点は、以下に記載のその他の方向についても、同様である。
(2)磁性層の屈折率測定
エリプソメーターを用いて、入射角度を65°、70°および75°とし、長手方向から磁性層表面にビーム径300μmの入射光を照射することにより、Δ(s偏光とp偏光の位相差)およびΨ(s偏光とp偏光の振幅比)を測定する。測定は入射光の波長を400~700nmの範囲で1.5nm刻みで変化させて行い、各波長について測定値を求める。
各波長における磁性層のΔおよびΨの測定値、下記方法により求められる各方向における非磁性層の屈折率、ならびに磁性層の厚みを用いて、以下のように2層モデルによって各波長における磁性層の屈折率を求める。
2層モデルの基板である第0層を非磁性層とし、第1層を磁性層とする。空気/磁性層と磁性層/非磁性層の界面の反射のみを考慮し非磁性層の裏面反射の影響はないものと見做して2層モデルを作成する。得られた測定値に最も整合する第1層の屈折率を最小二乗法によってフィッティングにより求める。フィッティングの結果から得られた波長600nmにおける値として、長手方向における磁性層の屈折率Nx、および長手方向から入射光を入射させて測定した磁性層の厚み方向における屈折率Nz1を求める。
入射光を入射させる方向を磁気テープの幅方向とする点以外は上記と同様として、フィッティングの結果から得られた波長600nmにおける値として、幅方向における磁性層の屈折率Ny、および幅方向から入射光を入射させて測定した磁性層の厚み方向における屈折率Nz2を求める。
フィッティングは、以下の手法により行う。
一般的に「複素屈折率n=η+iκ」である。ここで、ηは屈折率の実数部であり、κは消光係数であり、iは虚数である。複素誘電率ε=ε1+iε2 (ε1とε2はクラマース・クローニッヒの関係を満たしている)とε1=η2-κ2 ε2=2ηκの関係にあり、NxおよびNz1算出の際は、Nxの複素誘電率をεx=εx1+iεx2、Nz1の複素誘電率をεz1=εz11+iεz12とする。
εx2を1つのガウシアンとし、ピーク位置が5.8~5.1eV、σが4~3.5 eVの任意の点を出発点とし、測定波長域(400~700nm)の外に誘電率にオフセットとなるパラメータを置き、測定値を最小二乗フィッティングすることによりNxを求める。同様に、εz12はピーク位置が3.2~2.9eV、σが1.5~1.2eVの任意の点を出発点とし、オフセットパラメータを置き、測定値を最小二乗フィッティングすることによりNz1を求める。NyおよびNz2も同様に求める。磁性層の面内方向について測定される屈折率Nxyは、「Nxy=(Nx+Ny)/2」として求める。磁性層の厚み方向について測定される屈折率Nzは、「Nz=(Nz1+Nz2)/2」として求める。求められたNxyとNzから、これらの差分の絶対値ΔNを求める。
(3)非磁性層の屈折率測定
以下の点を除き、上記方法と同様に非磁性層の波長600nmにおける屈折率(長手方向における屈折率、幅方向における屈折率、長手方向から入射光を入射させて測定される厚み方向における屈折率、および幅方向から入射光を入射させて測定される厚み方向における屈折率)を求める。
入射光の波長は、250~700nmの範囲で1.5nm刻みで変化させる。
非磁性層と非磁性支持体の2層モデルを用いて、2層モデルの基板である第0層を非磁性支持体とし、第1層を非磁性層とする。空気/非磁性層と非磁性層/非磁性支持体の界面の反射のみを考慮し非磁性支持体の裏面反射の影響はないものと見做して2層モデルを作成する。
フィッティングにおいて、複素誘電率の虚部(ε2)に、7か所のピーク(0.6eV、2.3eV、2.9eV、3.6eV、4.6eV、5.0eV、6.0eV)を仮定し、測定波長域(250~700nm)の外に誘電率にオフセットとなるパラメータを置く。
(4)非磁性支持体の屈折率測定
2層モデルにより非磁性層の屈折率を求めるために用いられる非磁性支持体の波長600nmにおける屈折率(長手方向における屈折率、幅方向における屈折率、長手方向から入射光を入射させて測定される厚み方向における屈折率、および幅方向から入射光を入射させて測定される厚み方向における屈折率)は、以下の点を除き、磁性層の屈折率測定のための上記方法と同様に求める。
2層モデルを用いず、表面反射のみの1層モデルを用いる。
フィッティングは、コーシーモデル(n=An+Bn/λ2、nは屈折率、AnおよびBnはそれぞれフィッティングにより定まる定数、λは波長)により行う。
【0021】
本発明者らは、上記磁気テープが、高温高湿環境下での繰り返し再生における電磁変換特性の低下を抑制することができる理由について、以下のように推察している。
【0022】
上記FIB研磨剤径は、磁性層における酸化物研磨剤の存在状態の指標とすることができる値であり、磁性層表面に集束イオンビーム(FIB)を照射して取得される2次イオン像から求められる。この2次イオン像は、FIBが照射された磁性層表面から発生する2次イオンを捕捉することにより生成される。一方、磁性層における研磨剤の存在状態の観察方法としては、従来、例えば特開2005-243162号公報(特許文献1)の段落0109に記載されているように、走査型電子顕微鏡(SEM;Scanning Electron Microscope)を用いる方法が提案されていた。SEMでは、電子線を磁性層表面に照射し、磁性層表面から放出される2次電子を捕捉して画像(SEM像)が生成される。このような画像生成原理の違いから、同じ磁性層を観察したとしても、2次イオン像から求められる酸化物研磨剤のサイズと、SEM像から求められる酸化物研磨剤のサイズとは、異なるものとなる。本発明者らは鋭意検討を重ねた結果、上記2次イオン像から先に記載した方法によって求められるFIB研磨剤径を磁性層における酸化物研磨剤の存在状態の新たな指標として、FIB研磨剤径が0.04μm以上0.08μm以下となるように磁性層における酸化物研磨剤の存在状態を制御することに至った。このように磁性層における酸化物研磨剤の存在状態を制御することが、高温高湿環境下での繰り返し再生における電磁変換特性の低下を抑制することができることに寄与すると本発明者らは考えている。詳しくは、FIB研磨剤径が0.08μm以下であることがヘッド削れの抑制に寄与し、FIB研磨剤径が0.04μm以上であることが、高温高湿環境下においてヘッド削れを抑制しつつ磁性層表面にヘッドクリーニング性を付与することに寄与すると本発明者らは推察している。
【0023】
上記FIB研磨剤径が0.04μm以上0.08μm以下となるように酸化物研磨剤が存在している磁性層は、FIB研磨剤径が上記範囲を超える磁性層と比べて、ヘッドクリーニング性が低いと考えられる。そのため、何ら対策を施さなければ、ヘッドに付着した異物が十分除去されずにスペーシングロスが発生し、ヘッド削れが抑制できたとしても電磁変換特性は低下してしまうと推察される。この点に関して本発明者らは、上記方法により求められるΔNは、磁性層の表層領域における強磁性粉末の存在状態の指標となり得る値と考えている。このΔNは、磁性層における強磁性粉末の配向状態に加えて、結合剤の存在状態、強磁性粉末の密度分布等の各種要因の影響を受ける値と推察され、各種要因を制御することによってΔNを0.25以上0.40以下とした磁性層は、磁性層表面の強度が高くヘッドとの摺動によって削れ難いと考えられる。このことが、FIB研磨剤径を上記範囲とした磁性層において、磁性層表面が削れることを抑制することに寄与し、結果的に高温高湿環境下での繰り返し再生における電磁変換特性の低下を抑制することにつながると本発明者らは推察している。
【0024】
ただし以上は本発明者らの推察であって、本発明を何ら限定するものではない。
【0025】
以下、上記磁気テープについて、更に詳細に説明する。また、以下において、高温高湿環境下での繰り返し再生における電磁変換特性の低下を、単に「電磁変換特性の低下」とも記載する。
【0026】
<FIB研磨剤径>
上記磁気テープの磁性層の表面にFIBを照射して取得される2次イオン像から求められるFIB研磨剤径は、0.04μm以上0.08μm以下である。FIB研磨剤径が0.08μm以下であることは、高温高湿環境下での繰り返し再生においてヘッドが削られることを抑制することに寄与すると考えられる。また、FIB研磨剤径が0.04μm以上であることは、磁性層表面がヘッドクリーニング性を発揮することによって高温高湿環境下での繰り返し再生において磁性層表面が削れて発生した異物を除去することに寄与すると推察される。電磁変換特性の低下をより一層抑制する観点からは、FIB研磨剤径は、0.05μm以上であることが好ましく、0.06μm以上であることがより好ましい。また、同様の観点から、FIB研磨剤径は、0.07μm以下であることが好ましい。FIB研磨剤径を調整するための手段の具体的態様は、後述する。
【0027】
<磁性層のΔN>
上記磁気テープの磁性層のΔNは、0.25以上0.40以下である。高温高湿環境下では、磁性層表面とヘッドとの摺動時に摩擦係数が上昇し易く磁性層表面の削れが生じ易いと考えられる。このことが、高温高湿環境下での繰り返し再生において電磁変換特性が低下し易い理由と考えられる。これに対し、先に記載したように、ΔNが0.25以上0.40以下である磁性層は、磁性層表面の強度が高くヘッドとの摺動によって削れ難いと推察される。そのため、ΔNが上記範囲である磁性層は、磁性層に記録された情報を再生することを高温高湿環境下で繰り返しても磁性層表面の削れが生じ難いと考えられ、このことが電磁変換特性の低下を抑制することに寄与すると推察される。電磁変換特性の低下をより一層抑制する観点からは、ΔNは0.25以上0.35以下であることが好ましい。ΔNを調整するための手段の具体的態様は、後述する。
【0028】
ΔNは、NxyとNzとの差分の絶対値である。Nxyは磁性層の面内方向について測定される屈折率であり、Nzは磁性層の厚み方向について測定される屈折率である。一態様では、Nxy>Nzであることができ、他の一態様ではNxy<Nzであることができる。磁気テープの電磁変換特性の観点からは、Nxy>Nzであることが好ましく、したがってNxyとNzとの差分(Nxy-Nz)が0.25以上0.40以下であることが好ましい。
【0029】
以下、上記磁気テープについて、更により詳細に説明する。
【0030】
<磁性層>
(強磁性粉末)
磁性層に含まれる強磁性粉末としては、各種磁気記録媒体の磁性層において通常用いられる強磁性粉末を使用することができる。強磁性粉末として平均粒子サイズの小さいものを使用することは、磁気記録媒体の記録密度向上の観点から好ましい。この点から、強磁性粉末としては、平均粒子サイズが50nm以下の強磁性粉末を用いることが好ましい。一方、磁化の安定性の観点からは、強磁性粉末の平均粒子サイズは10nm以上であることが好ましい。
【0031】
強磁性粉末の好ましい具体例としては、強磁性六方晶フェライト粉末を挙げることができる。強磁性六方晶フェライト粉末の平均粒子サイズは、記録密度向上と磁化の安定性の観点から、10nm以上50nm以下であることが好ましく、20nm以上50nm以下であることがより好ましい。強磁性六方晶フェライト粉末の詳細については、例えば、特開2011-225417号公報の段落0012~0030、特開2011-216149号公報の段落0134~0136、および特開2012-204726号公報の段落0013~0030を参照できる。
【0032】
強磁性粉末の好ましい具体例としては、強磁性金属粉末を挙げることもできる。強磁性金属粉末の平均粒子サイズは、記録密度向上と磁化の安定性の観点から、10nm以上50nm以下であることが好ましく、20nm以上50nm以下であることがより好ましい。強磁性金属粉末の詳細については、例えば特開2011-216149号公報の段落0137~0141および特開2005-251351号公報の段落0009~0023を参照できる。
【0033】
本発明および本明細書において、特記しない限り、各種粉末の平均粒子サイズは、透過型電子顕微鏡を用いて、以下の方法により測定される値とする。
粉末を、透過型電子顕微鏡を用いて撮影倍率100000倍で撮影し、総倍率500000倍になるように印画紙にプリントして粉末を構成する粒子の写真を得る。得られた粒子の写真から目的の粒子を選びデジタイザーで粒子の輪郭をトレースし粒子(一次粒子)のサイズを測定する。一次粒子とは、凝集のない独立した粒子をいう。
以上の測定を、無作為に抽出した500個の粒子について行う。こうして得られた500個の粒子の粒子サイズの算術平均を、粉末の平均粒子サイズとする。上記透過型電子顕微鏡としては、例えば日立製透過型電子顕微鏡H-9000型を用いることができる。また、粒子サイズの測定は、公知の画像解析ソフト、例えばカールツァイス製画像解析ソフトKS-400を用いて行うことができる。後述の実施例に示す平均粒子サイズ等の粉末のサイズに関する値は、特記しない限り、透過型電子顕微鏡として日立製透過型電子顕微鏡H-9000型、画像解析ソフトとしてカールツァイス製画像解析ソフトKS-400を用いて測定された値である。
【0034】
粒子サイズ測定のために磁気記録媒体から試料粉末を採取する方法としては、例えば特開2011-048878号公報の段落0015に記載の方法を採用することができる。
【0035】
本発明および本明細書において、特記しない限り、粉末を構成する粒子のサイズ(粒子サイズ)は、上記の粒子写真において観察される粒子の形状が、
(1)針状、紡錘状、柱状(ただし、高さが底面の最大長径より大きい)等の場合は、粒子を構成する長軸の長さ、即ち長軸長で表され、
(2)板状または柱状(ただし、厚みまたは高さが板面または底面の最大長径より小さい)の場合は、その板面または底面の最大長径で表され、
(3)球形、多面体状、不特定形等であって、かつ形状から粒子を構成する長軸を特定できない場合は、円相当径で表される。円相当径とは、円投影法で求められるものを言う。
【0036】
また、粉末の平均針状比は、上記測定において粒子の短軸の長さ、即ち短軸長を測定し、各粒子の(長軸長/短軸長)の値を求め、上記500個の粒子について得た値の算術平均を指す。ここで、特記しない限り、短軸長とは、上記粒子サイズの定義で(1)の場合は、粒子を構成する短軸の長さを、同じく(2)の場合は、厚みまたは高さを各々指し、(3)の場合は、長軸と短軸の区別がないから、(長軸長/短軸長)は、便宜上1とみなす。
そして、特記しない限り、粒子の形状が特定の場合、例えば、上記粒子サイズの定義(1)の場合、平均粒子サイズは平均長軸長であり、同定義(2)の場合、平均粒子サイズは平均板径である。平均板状比とは、(最大長径/厚みまたは高さ)の算術平均である。同定義(3)の場合、平均粒子サイズは、平均直径(平均粒径、平均粒子径ともいう)である。
【0037】
一態様では、磁性層に含まれる強磁性粉末を構成する強磁性粒子の形状は板状であることができる。以下において、板状の強磁性粒子から構成される強磁性粉末を、板状強磁性粉末と記載する。板状強磁性粉末の平均板状比は、好ましくは2.5~5.0の範囲であることができる。平均板状比が大きいほど、配向処理によって、板状強磁性粉末を構成する強磁性粒子の配向状態の均一性が高まり易い傾向があり、ΔNの値は大きくなる傾向がある。
【0038】
また、強磁性粉末の粒子サイズの指標としては、活性化体積を用いることもできる。「活性化体積」とは、磁化反転の単位である。本発明および本明細書に記載の活性化体積は、振動試料型磁束計を用いて保磁力Hc測定部の磁場スイープ速度3分と30分とで雰囲気温度23℃±1℃の環境下で測定し、以下のHcと活性化体積Vとの関係式から求められる値である。
Hc=2Ku/Ms{1-[(kT/KuV)ln(At/0.693)]1/2
[上記式中、Ku:異方性定数、Ms:飽和磁化、k:ボルツマン定数、T:絶対温度、V:活性化体積、A:スピン歳差周波数、t:磁界反転時間]
記録密度向上の観点からは、強磁性粉末の活性化体積は、2500nm3以下であることが好ましく、2300nm3以下であることがより好ましく、2000nm3以下であることが更に好ましい。一方、磁化の安定性の観点からは、強磁性粉末の活性化体積は、例えば800nm3以上であることが好ましく、1000nm3以上であることがより好ましく、1200nm3以上であることが更に好ましい。
【0039】
磁性層における強磁性粉末の含有量(充填率)は、好ましくは50~90質量%の範囲であり、より好ましくは60~90質量%の範囲である。磁性層の強磁性粉末以外の成分は、少なくとも結合剤および酸化物研磨剤であり、任意に一種以上の更なる添加剤が含まれ得る。磁性層において強磁性粉末の充填率が高いことは、記録密度向上の観点から好ましい。
【0040】
(結合剤、硬化剤)
上記磁気テープは塗布型磁気テープであって、磁性層に結合剤を含む。結合剤とは、一種以上の樹脂である。樹脂はホモポリマーであってもコポリマー(共重合体)であってもよい。磁性層に含まれる結合剤としては、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、塩化ビニル樹脂、スチレン、アクリロニトリル、メチルメタクリレート等を共重合したアクリル樹脂、ニトロセルロース等のセルロース樹脂、エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂、ポリビニルアセタール、ポリビニルブチラール等のポリビニルアルキラール樹脂等から選択したものを単独で用いることができ、または複数の樹脂を混合して用いることができる。これらの中で好ましいものはポリウレタン樹脂、アクリル樹脂、セルロース樹脂および塩化ビニル樹脂である。これらの樹脂は、後述する非磁性層および/またはバックコート層においても結合剤として使用することができる。以上の結合剤については、特開2010-24113号公報の段落0029~0031を参照できる。また、結合剤は、電子線硬化型樹脂等の放射線硬化型樹脂であってもよい。放射線硬化型樹脂については、特開2011-048878号公報の段落0044~0045を参照できる。
結合剤として使用される樹脂の平均分子量は、重量平均分子量として、例えば10,000以上200,000以下であることができる。本発明および本明細書における重量平均分子量とは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって測定された値をポリスチレン換算して求められる値である。測定条件としては、下記条件を挙げることができる。後述の実施例に示す重量平均分子量は、下記測定条件によって測定された値をポリスチレン換算して求めた値である。
GPC装置:HLC-8120(東ソー社製)
カラム:TSK gel Multipore HXL-M(東ソー社製、7.8mmID(Inner Diameter)×30.0cm)
溶離液:テトラヒドロフラン(THF)
【0041】
一態様では、結合剤として、酸性基を含む結合剤を用いることができる。本発明および本明細書における酸性基とは、水中または水を含む溶媒(水性溶媒)中でH+を放出してアニオンに解離可能な基およびその塩の形態を包含する意味で用いるものとする。酸性基の具体例としては、例えば、スルホン酸基、硫酸基、カルボキシ基、リン酸基、それらの塩の形態等を挙げることができる。例えば、スルホン酸基(-SO3H)の塩の形態とは、-SO3Mで表され、Mが水中または水性溶媒中でカチオンになり得る原子(例えばアルカリ金属原子等)を表す基を意味する。この点は、上記の各種の基の塩の形態についても同様である。酸性基を含む結合剤の一例としては、例えば、スルホン酸基およびその塩からなる群から選ばれる少なくとも一種の酸性基を含む樹脂(例えばポリウレタン樹脂、塩化ビニル樹脂等)を挙げることができる。ただし、磁性層に含まれる樹脂は、これらの樹脂に限定されるものではない。また、酸性基を含む結合剤において、酸性基量は、例えば20~500eq/tonの範囲であることができる。なおeqは当量(equivalent)であり、SI単位に換算不可の単位である。樹脂に含まれる酸性基等の各種官能基の含有量は、官能基の種類に応じて公知の方法で求めることができる。酸性基量が多い結合剤を使用するほど、ΔNの値は大きくなる傾向がある。結合剤は、磁性層形成用組成物中に、強磁性粉末100.0質量部に対して、例えば1.0~30.0質量部の量で使用することができ、好ましくは1.0~20.0質量部の量で使用することができる。強磁性粉末に対する結合剤の使用量を多くするほど、ΔNの値は大きくなる傾向がある。
【0042】
また、結合剤として使用可能な樹脂とともに硬化剤を使用することもできる。硬化剤は、一態様では加熱により硬化反応(架橋反応)が進行する化合物である熱硬化性化合物であることができ、他の一態様では光照射により硬化反応(架橋反応)が進行する光硬化性化合物であることができる。硬化剤は、磁性層形成工程の中で硬化反応が進行することにより、少なくとも一部は、結合剤等の他の成分と反応(架橋)した状態で磁性層に含まれ得る。この点は、他の層を形成するために用いられる組成物が硬化剤を含む場合に、この組成物を用いて形成される層についても同様である。好ましい硬化剤は、熱硬化性化合物であり、ポリイソシアネートが好適である。ポリイソシアネートの詳細については、特開2011-216149号公報の段落0124~0125を参照できる。硬化剤は、磁性層形成用組成物中に、結合剤100.0質量部に対して例えば0~80.0質量部、磁性層の強度向上の観点からは好ましくは50.0~80.0質量部の量で使用することができる。
【0043】
(酸化物研磨剤)
上記磁気テープは、磁性層に酸化物研磨剤を含む。酸化物研磨剤は、モース硬度8超の非磁性酸化物粉末であり、モース硬度9以上の非磁性酸化物粉末であることが好ましい。なおモース硬度の最大値は10である。酸化物研磨剤は、無機酸化物粉末であっても有機酸化物粉末であってもよく、無機酸化物粉末であることが好ましい。具体的には、研磨剤としては、アルミナ(Al23)、酸化チタン(TiO2)、酸化セリウム(CeO2)、酸化ジルコニウム(ZrO2)等の粉末を挙げることができ、中でもアルミナ粉末が好ましい。なおアルミナのモース硬度は約9である。アルミナ粉末については、特開2013-229090号公報の段落0021も参照できる。また、酸化物研磨剤の粒子サイズの指標としては、比表面積を用いることができる。比表面積が大きいほど酸化物研磨剤を構成する粒子の一次粒子の粒子サイズが小さいと考えることができる。酸化物研磨剤としては、BET(Brunauer-Emmett-Teller)法によって測定された比表面積(以下、「BET比表面積」と記載する。)が14m2/g以上の酸化物研磨剤を使用することが好ましい。また、分散性の観点からは、BET比表面積が40m2/g以下の酸化物研磨剤を使用することが好ましい。磁性層における酸化物研磨剤の含有量は、強磁性六方晶粉末100.0質量部に対して1.0~20.0質量部であることが好ましく、1.0~10.0質量部であることがより好ましい。
【0044】
(添加剤)
磁性層には、強磁性粉末、結合剤および酸化物研磨剤が含まれ、必要に応じて一種以上の添加剤が更に含まれていてもよい。添加剤としては、一例として、上記の硬化剤が挙げられる。また、磁性層に含まれ得る添加剤としては、酸化物研磨剤以外の非磁性粉末、潤滑剤、分散剤、分散助剤、防黴剤、帯電防止剤、酸化防止剤等を挙げることができる。添加剤は、所望の性質に応じて市販品を適宜選択して、または公知の方法で製造して、任意の量で使用することができる。例えば、潤滑剤については、特開2016-126817号公報の段落0030~0033、0035および0036を参照できる。非磁性層に潤滑剤が含まれていてもよい。非磁性層に含まれ得る潤滑剤については、特開2016-126817号公報の段落0030~0031、0034、0035および0036を参照できる。分散剤については、特開2012-133837号公報の段落0061および0071を参照できる。分散剤は、非磁性層に含まれていてもよい。非磁性層に含まれ得る分散剤については、特開2012-133837号公報の段落0061を参照できる。
【0045】
また、分散剤としては、酸化物研磨剤の分散性を高めるための分散剤を挙げることができる。そのような分散剤として機能し得る化合物としては、フェノール性ヒドロキシ基を有する芳香族炭化水素化合物を挙げることができる。「フェノール性ヒドロキシ基」とは、芳香環に直接結合したヒドロキシ基をいう。上記芳香族炭化水素化合物に含まれる芳香環は、単環であってもよく、多環構造であってもよく、縮合環であってもよい。研磨剤の分散性向上の観点からは、ベンゼン環またはナフタレン環を含む芳香族炭化水素化合物が好ましい。また、上記芳香族炭化水素化合物は、フェノール性ヒドロキシ基以外の置換基を有していてもよい。フェノール性ヒドロキシ基以外の置換基としては、例えば、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、アミノ基、アシル基、ニトロ基、ニトロソ基、ヒドロキシアルキル基等を挙げることができ、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、アミノ基、ヒドロキシアルキル基が好ましい。上記芳香族炭化水素化合物1分子中に含まれるフェノール性ヒドロキシ基は、1つであってもよく、2つ、3つ、またはそれ以上であってもよい。
【0046】
フェノール性ヒドロキシ基を有する芳香族炭化水素化合物の好ましい一態様としては、下記一般式100で表される化合物を挙げることができる。
【0047】
【化1】
[一般式100中、X101~X108のうちの2つはヒドロキシ基であり、他の6つはそれぞれ独立に水素原子または置換基を表す。]
【0048】
一般式100で表される化合物において、2つのヒドロキシ基(フェノール性ヒドロキシ基)の置換位置は特に限定されるものではない。
【0049】
一般式100で表される化合物は、X101~X108のうちの2つがヒドロキシ基(フェノール性ヒドロキシ基)であり、他の6つはそれぞれ独立に水素原子または置換基を表す。また、X101~X108のうち、2つのヒドロキシ基以外の部分がすべて水素原子であってもよく、一部またはすべてが置換基であってもよい。置換基としては、先に記載した置換基を例示することができる。2つのヒドロキシ基以外の置換基として、1つ以上のフェノール性ヒドロキシ基が含まれていてもよい。研磨剤の分散性向上の観点からは、X101~X108のうちの2つのヒドロキシ基以外はフェノール性ヒドロキシ基ではないことが好ましい。即ち、一般式100で表される化合物は、ジヒドロキシナフタレンまたはその誘導体であることが好ましく、2,3-ジヒドロキシナフタレンまたはその誘導体であることがより好ましい。X101~X108で表される置換基として好ましい置換基としては、ハロゲン原子(例えば塩素原子、臭素原子)、アミノ基、炭素数1~6(好ましくは1~4)のアルキル基、メトキシ基およびエトキシ基、アシル基、ニトロ基およびニトロソ基、ならびに-CH2OH基を挙げることができる。
【0050】
また、酸化物研磨剤の分散性を高めるための分散剤については、特開2014-179149号公報の段落0024~0028も参照できる。
【0051】
酸化物研磨剤の分散性を高めるための分散剤は、磁性層形成用組成物の調製時(好ましくは後述するように研磨剤液の調製時)、研磨剤100.0質量部に対して、例えば0.5~20.0質量部の割合で使用することができ、1.0~10.0質量部の割合で使用することが好ましい。
【0052】
磁性層に含まれ得る酸化物研磨剤以外の非磁性粉末としては、磁性層表面に突起を形成して摩擦特性制御に寄与し得る非磁性粉末(以下、「突起形成剤」とも記載する。)を挙げることができる。突起形成剤としては、一般に磁性層に突起形成剤として使用される各種非磁性粉末を用いることができる。これらは、無機物質の粉末(無機粉末)であっても有機物質の粉末(有機粉末)であってもよい。一態様では、摩擦特性の均一化の観点からは、突起形成剤の粒度分布は、分布中に複数のピークを有する多分散ではなく、単一ピークを示す単分散であることが好ましい。単分散粒子の入手容易性の点からは、突起形成剤は無機粉末であることが好ましい。無機粉末としては、金属酸化物、金属炭酸塩、金属硫酸塩、金属窒化物、金属炭化物、金属硫化物等の粉末を挙げることができる。突起形成剤(酸化物研磨剤以外の非磁性粉末)を構成する粒子は、コロイド粒子であることが好ましく、無機酸化物コロイド粒子であることがより好ましい。また、単分散粒子の入手容易性の観点からは、無機酸化物コロイド粒子を構成する無機酸化物は二酸化ケイ素(シリカ)であることが好ましい。無機酸化物コロイド粒子は、コロイダルシリカ(シリカコロイド粒子)であることがより好ましい。本発明および本明細書において、「コロイド粒子」とは、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、トルエンもしくは酢酸エチル、または上記溶媒の二種以上を任意の混合比で含む混合溶媒の少なくとも1つの有機溶媒100mLあたり1g添加した際に、沈降せず分散しコロイド分散体をもたらすことのできる粒子をいうものとする。他の一態様では、突起形成剤は、カーボンブラックであることも好ましい。突起形成剤の平均粒子サイズは、例えば30~300nmであることができ、40~200nmであることが好ましい。また、突起形成剤がその機能をより良好に発揮し得るという観点から、磁性層における突起形成剤の含有量は、強磁性粉末100.0質量部に対して、1.0~4.0質量部であることが好ましく、1.5~3.5質量部であることがより好ましい。
【0053】
以上説明した磁性層は、非磁性支持体表面上に直接、または非磁性層を介して間接的に設けることができる。
【0054】
<非磁性層>
次に非磁性層について説明する。
上記磁気テープは、非磁性支持体表面上に直接磁性層を有していてもよく、非磁性支持体と磁性層との間に非磁性粉末と結合剤を含む非磁性層を有していてもよい。非磁性層に含まれる非磁性粉末は、無機粉末でも有機粉末でもよい。また、カーボンブラック等も使用できる。無機粉末としては、例えば金属、金属酸化物、金属炭酸塩、金属硫酸塩、金属窒化物、金属炭化物、金属硫化物等の粉末が挙げられる。これらの非磁性粉末は、市販品として入手可能であり、公知の方法で製造することもできる。その詳細については、特開2010-24113号公報の段落0036~0039を参照できる。非磁性層における非磁性粉末の含有量(充填率)は、好ましくは50~90質量%の範囲であり、より好ましくは60~90質量%の範囲である。
【0055】
非磁性層の結合剤、添加剤等のその他詳細は、非磁性層に関する公知技術が適用できる。また、例えば、結合剤の種類および含有量、添加剤の種類および含有量等に関しては、磁性層に関する公知技術も適用できる。
【0056】
本発明および本明細書における非磁性層には、非磁性粉末とともに、例えば不純物として、または意図的に、少量の強磁性粉末を含む実質的に非磁性な層も包含されるものとする。ここで実質的に非磁性な層とは、この層の残留磁束密度が10mT以下であるか、保磁力が7.96kA/m(100Oe)以下であるか、または、残留磁束密度が10mT以下であり、かつ保磁力が7.96kA/m(100Oe)以下である層をいうものとする。非磁性層は、残留磁束密度および保磁力を持たないことが好ましい。
【0057】
<非磁性支持体>
次に、非磁性支持体(以下、単に「支持体」とも記載する。)について説明する。
非磁性支持体としては、二軸延伸を行ったポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアミド、ポリアミドイミド、芳香族ポリアミド等の公知のものが挙げられる。これらの中でもポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアミドが好ましい。これらの支持体はあらかじめコロナ放電、プラズマ処理、易接着処理、熱処理等を行ってもよい。
【0058】
<バックコート層>
上記磁気テープは、非磁性支持体の磁性層を有する表面側とは反対の表面側に、非磁性粉末および結合剤を含むバックコート層を有することもできる。バックコート層には、カーボンブラックおよび無機粉末の一方または両方が含有されていることが好ましい。バックコート層に含まれる結合剤、任意に含まれ得る各種添加剤については、バックコート層に関する公知技術を適用することができ、磁性層および/または非磁性層の処方に関する公知技術を適用することもできる。例えば、特開2006-331625号公報の段落0018~0020および米国特許第7,029,774号明細書の第4欄65行目~第5欄38行目の記載を、バックコート層について参照できる。
【0059】
<各種厚み>
上記磁気記録媒体における非磁性支持体および各層の厚みについて、以下に説明する。
非磁性支持体の厚みは、例えば3.0~80.0μmであり、好ましくは3.0~50.0μmであり、より好ましくは3.0~10.0μmである。
【0060】
磁性層の厚みは、用いる磁気ヘッドの飽和磁化、ヘッドギャップ長、記録信号の帯域等に応じて最適化することができる。磁性層の厚みは、一般には10nm~100nmであり、高密度記録化の観点から、好ましくは20~90nmであり、より好ましくは30~70nmである。磁性層は少なくとも一層あればよく、磁性層を異なる磁気特性を有する2層以上に分離してもかまわず、公知の重層磁性層に関する構成が適用できる。2層以上に分離する場合の磁性層の厚みとは、これらの層の合計厚みとする。
【0061】
非磁性層の厚みは、例えば0.1~1.5μmであり、0.1~1.0μmであることが好ましい。
【0062】
バックコート層の厚みは、0.9μm以下であることが好ましく、0.1~0.7μmであることが更に好ましい。
【0063】
各層および非磁性支持体の厚みは、磁気テープの厚み方向の断面を、イオンビーム、ミクロトーム等の公知の手法により露出させた後、露出した断面において走査型透過電子顕微鏡(STEM;Scanning Transmission Electron Microscope)により断面観察を行い求めるものとする。厚みの測定方法の具体例については、後述の実施例における厚みの測定方法に関する記載を参照できる。
【0064】
<製造工程>
(各層形成用組成物の調製)
磁性層、非磁性層またはバックコート層を形成するための組成物を調製する工程は、通常、少なくとも混練工程、分散工程、およびこれらの工程の前後に必要に応じて設けた混合工程を含む。個々の工程はそれぞれ二段階以上に分かれていてもかまわない。各層形成用組成物の調製に用いられる成分は、どの工程の最初または途中で添加してもかまわない。溶媒としては、塗布型磁気記録媒体の製造に通常用いられる各種溶媒の一種または二種以上を用いることができる。溶媒については、例えば特開2011-216149号公報の段落0153を参照できる。また、個々の成分を2つ以上の工程で分割して添加してもかまわない。例えば、結合剤を混練工程、分散工程および分散後の粘度調整のための混合工程で分割して投入してもよい。上記磁気テープを製造するためには、従来の公知の製造技術を各種工程において用いることができる。混練工程ではオープンニーダ、連続ニーダ、加圧ニーダ、エクストルーダ等の強い混練力をもつものを使用することが好ましい。これらの混練処理の詳細については特開平1-106338号公報および特開平1-79274号公報を参照できる。分散機は公知のものを使用することができる。各層形成用組成物を調製する任意の段階において、公知の方法によってろ過を行ってもよい。ろ過は、例えばフィルタろ過によって行うことができる。ろ過に用いるフィルタとしては、例えば孔径0.01~3μmのフィルタ(例えばガラス繊維製フィルタ、ポリプロピレン製フィルタ等)を用いることができる。
【0065】
FIB研磨剤径は、磁性層において酸化物研磨剤をより微細な状態で存在させることによって値が小さくなる傾向がある。磁性層において酸化物研磨剤をより微細な状態で存在させるための手段の1つとしては、先に記載したように酸化物研磨剤の分散性を高めることができる分散剤の使用を挙げることができる。また、磁性層において酸化物研磨剤をより微細な状態で存在させるためには、粒子サイズの小さな研磨剤を使用し、研磨剤の凝集を抑制し、かつ偏在を抑制して均一に磁性層に分散させることが好ましい。そのための手段の1つとしては、磁性層形成用組成物調製時の酸化物研磨剤の分散条件を強化することが挙げられる。例えば、酸化物研磨剤を強磁性粉末と別分散することは、分散条件強化の一態様である。別分散とは、より詳しくは、酸化物研磨剤および溶媒を含む研磨剤液(但し、強磁性粉末を実質的に含まない)を強磁性粉末、溶媒および結合剤を含む磁性液と混合する工程を経て磁性層形成用組成物を調製する方法である。このように酸化物研磨剤と強磁性粉末とを別分散した後に混合することにより、磁性層形成用組成物における酸化物研磨剤の分散性を高めることができる。上記の「強磁性粉末を実質的に含まない」とは、研磨剤液の構成成分として強磁性粉末を添加しないことを意味するものであって、意図せず混入した不純物として微量の強磁性粉末が存在することは許容されるものとする。また、別分散のほかに、または別分散とともに、長時間の分散処理、サイズの小さな分散メディアの使用(例えばビーズ分散における分散ビーズの小径化)、分散機における分散メディアの高充填化等の手段を任意に組み合わせることにより、分散条件を強化することができる。分散機および分散メディアは市販のものを使用できる。また、研磨剤液の遠心分離処理を行うことは、酸化物研磨剤を構成する粒子の中で平均的な粒子サイズより大きい粒子および/または凝集した粒子を除去することにより、磁性層において酸化物研磨剤をより微細な状態で存在させることに寄与し得る。遠心分離処理は、市販の遠心分離機を用いて行うことができる。また、研磨剤液をフィルタろ過等によってろ過することは、酸化物研磨剤を構成する粒子が凝集した粗大な凝集体を除去するために好ましい。そのような粗大な凝集体を除去することも、磁性層において酸化物研磨剤をより微細な状態で存在させることに寄与し得る。例えば、より孔径の小さなフィルタを用いてフィルタろ過することは、磁性層において酸化物研磨剤をより微細な状態で存在させることに寄与し得る。また、研磨剤液を強磁性粉末等の磁性層形成用組成物を調製するための成分と混合した後の各種処理条件(例えば撹拌条件、分散処理条件、ろ過条件等)を調整することにより、磁性層形成用組成物における酸化物研磨剤の分散性を高めることができる。このことも、磁性層において酸化物研磨剤をより微細な状態で存在させることに寄与し得る。ただし、磁性層において酸化物研磨剤を極めて微細な状態で存在させるとFIB研磨剤径が0.04μmを下回ってしまうため、研磨剤液調製のための各種条件は、0.04μm以上0.08μm以下のFIB研磨剤径を実現できるように調整することが好ましい。
【0066】
また、ΔNに関しては、上記磁性液の分散時間を長くするほど、ΔNの値が大きくなる傾向がある。これは、磁性液の分散時間を長くするほど、磁性層形成用組成物の塗布層における強磁性粉末の分散性が高まり、配向処理によって強磁性粉末を構成する強磁性粒子の配向状態の均一性が高まり易い傾向があるためと考えられる。
また、非磁性層形成用組成物の各種成分を混合し分散する際の分散時間を長くするほど、ΔNの値は大きくなる傾向がある。
以上の磁性液の分散時間および非磁性層形成用組成物の分散時間は、0.25以上0.40以下のΔNが実現できるように設定すればよい。
【0067】
(塗布工程)
非磁性層および磁性層は、非磁性層形成用組成物および磁性層形成用組成物を、逐次または同時に重層塗布することにより形成することができる。バックコート層は、バックコート層形成用組成物を、非磁性支持体の非磁性層および磁性層を有する(または非磁性層および/または磁性層が追って設けられる)表面とは反対側の表面に塗布することにより形成することができる。また、各層を形成するための塗布工程は、2段階以上の工程に分けて行うこともできる。例えば一態様では、磁性層形成用組成物を2段階以上の工程に分けて塗布することができる。この場合、2つの段階の塗布工程の間に乾燥処理を施してもよく、施さなくてもよい。また、2つの段階の塗布工程の間に配向処理を施してもよく、施さなくてもよい。各層形成のための塗布の詳細については、特開2010-231843号公報の段落0066も参照できる。また、各層形成用組成物を塗布した後の乾燥工程については、公知技術を適用できる。磁性層形成用組成物に関しては、磁性層形成用組成物を塗布して形成された塗布層(以下、「磁性層形成用組成物の塗布層」または単に「塗布層」とも記載する。)の乾燥温度を低くするほど、ΔNの値は大きくなる傾向がある。乾燥温度は、例えば乾燥工程を行う雰囲気温度であることができ、0.25以上0.40以下のΔNが実現できるように設定すればよい。
【0068】
(その他の工程)
磁気テープ製造のためのその他の各種工程については、公知技術を適用できる。各種工程については、例えば特開2010-231843号公報の段落0067~0070を参照できる。
例えば、磁性層形成用組成物の塗布層には、この塗布層が湿潤状態にあるうちに配向処理を施すことが好ましい。0.25以上0.40以下のΔNを実現する容易性の観点からは、配向処理は、磁性層形成用組成物の塗布層の表面に対して垂直に磁場が印加されるように磁石を配置して行うこと(即ち垂直配向処理)が好ましい。配向処理時の磁場の強度は、0.25以上0.40以下のΔNが実現できるように設定すればよい。また、磁性層形成用組成物の塗布工程を2段階以上の塗布工程により行う場合には、少なくとも最後の塗布工程の後に配向処理を行うことが好ましく、垂直配向処理を行うことがより好ましい。例えば2段階の塗布工程によって磁性層を形成する場合、1段階目の塗布工程の後には配向処理を行うことなく乾燥工程を行い、その後に2段階目の塗布工程で形成された塗布層に対して配向処理を施すことができる。
また、磁性層形成用組成物の塗布層を乾燥させた後の任意の段階でカレンダ処理を行うことが好ましい。カレンダ処理の条件については、例えば特開2010-231843号公報の段落0026を参照できる。カレンダ温度(カレンダロールの表面温度)を高くするほど、ΔNの値は大きくなる傾向がある。カレンダ温度は、0.25以上0.40以下のΔNが実現できるように設定すればよい。
【0069】
以上により、本発明の一態様にかかる磁気テープを得ることができる。磁気テープは、通常、磁気テープカートリッジに収容され、磁気テープカートリッジが磁気記録再生装置に装着される。磁気テープには、磁気記録再生装置においてヘッドトラッキングサーボを行うことを可能とするために、公知の方法によってサーボパターンを形成することもできる。磁気記録再生装置において磁気テープに記録された情報を再生する際、磁気記録再生装置が置かれた環境の温度および湿度の管理条件を緩和または管理を不要にして高温高湿環境下で再生が行われても、本発明の一態様にかかる磁気テープであれば、再生を繰り返すうちに電磁変換特性が低下することを抑制することができる。
【0070】
[磁気記録再生装置]
本発明の一態様は、上記磁気テープと、磁気ヘッドと、を含む磁気記録再生装置に関する。
【0071】
本発明および本明細書において、「磁気記録再生装置」とは、磁気テープへの情報の記録および磁気テープに記録された情報の再生の少なくとも一方を行うことができる装置を意味するものとする。かかる装置は、一般にドライブと呼ばれる。上記磁気記録再生装置に含まれる磁気ヘッドは、磁気テープへの情報の記録を行うことができる記録ヘッドであることができ、磁気テープに記録された情報の再生を行うことができる再生ヘッドであることもできる。また、上記磁気記録再生装置は、一態様では、別々の磁気ヘッドとして、記録ヘッドと再生ヘッドの両方を含むことができる。他の一態様では、上記磁気記録再生装置に含まれる磁気ヘッドは、記録素子と再生素子の両方を1つの磁気ヘッドに備えた構成を有することもできる。再生ヘッドとしては、磁気テープに記録された情報を感度よく読み取ることができる磁気抵抗効果型(MR;Magnetoresistive)素子を再生素子として含む磁気ヘッド(MRヘッド)が好ましい。MRヘッドとしては、公知の各種MRヘッドを用いることができる。また、情報の記録および/または情報の再生を行う磁気ヘッドには、サーボパターン読み取り素子が含まれていてもよい。または、情報の記録および/または情報の再生を行う磁気ヘッドとは別のヘッドとして、サーボパターン読み取り素子を備えた磁気ヘッド(サーボヘッド)が上記磁気記録再生装置に含まれていてもよい。
【0072】
上記磁気記録再生装置において、磁気テープへの情報の記録および磁気テープに記録された情報の再生は、磁気テープの磁性層表面と磁気ヘッドとを接触させて摺動させることにより行うことができる。上記磁気記録再生装置は、本発明の一態様にかかる磁気テープを含むものであればよく、その他については公知技術を適用することができる。
【0073】
上記磁気記録再生装置は、本発明の一態様にかかる磁気テープを含む。したがって、高温高湿環境下で磁気テープに記録された情報の再生を繰り返すうちに電磁変換特性が低下することを抑制することができる。また、高温高湿環境下で磁気テープへの情報の記録のために磁性層表面とヘッドとが摺動する際に磁性層表面および/またはヘッドが削れることを抑制すること等も可能と考えられる。
【実施例
【0074】
以下に、本発明を実施例に基づき説明する。ただし本発明は実施例に示す態様に限定されるものではない。以下に記載の「部」および「%」は、質量基準である。
【0075】
[実施例1]
<研磨剤液の調製>
表1に示す酸化物研磨剤(アルミナ粉末)100.0部に対し、表1に示す量の2,3-ジヒドロキシナフタレン(東京化成社製)、極性基としてSO3Na基を有するポリエステルポリウレタン樹脂(東洋紡社製UR-4800(極性基量:80meq/kg))の32%溶液(溶媒はメチルエチルケトンとトルエンの混合溶媒)31.3部、溶媒としてメチルエチルケトンとシクロヘキサノン1:1(質量比)の混合液570.0部を混合し、ジルコニアビーズ(ビーズ径:0.1mm)存在下で、ペイントシェーカーにより、表1に示す時間(ビーズ分散時間)、分散させた。分散後、メッシュにより分散液とビーズとを分離して得られた分散液の遠心分離処理を実施した。遠心分離処理は、遠心分離機として日立工機社製CS150GXL(使用ローターは同社製S100AT6)を使用し、表1に示す回転数(rpm;rotation per minute)で表1に示す時間(遠心分離時間)、実施した。その後、表1に示す孔径のフィルタでろ過を行い、アルミナ分散物(研磨剤液)を得た。
【0076】
<磁性層形成用組成物の調製>
(磁性液)
板状強磁性六方晶バリウムフェライト粉末 100.0部
(活性化体積および平均板状比:表1参照)
SO3Na基含有ポリウレタン樹脂 表1参照
(重量平均分子量:70,000、SO3Na基量:表1参照)
シクロヘキサノン 150.0部
メチルエチルケトン 150.0部
(研磨剤液)
上記で調製したアルミナ分散物 6.0部
(シリカゾル(突起形成剤液))
コロイダルシリカ(平均粒子サイズ:100nm) 2.0部
メチルエチルケトン 1.4部
(その他成分)
ステアリン酸 2.0部
ブチルステアレート 2.0部
ポリイソシアネート(東ソー社製コロネート(登録商標)) 2.5部
(仕上げ添加溶媒)
シクロヘキサノン 200.0部
メチルエチルケトン 200.0部
【0077】
(調製方法)
上記磁性液の各種成分を、バッチ式縦型サンドミルにおいて分散メディアとしてビーズを用いてビーズ分散することにより、磁性液を調製した。ビーズとしてはジルコニアビーズ(ビーズ径:表1参照)を用いて、表1に記載の時間(磁性液ビーズ分散時間)、ビーズ分散を行った。
こうして得られた磁性液、上記の研磨剤液、シリカゾル、その他成分および仕上げ添加溶媒をディゾルバー撹拌機に導入し、周速10m/秒で表1に示す時間(撹拌時間)、撹拌した。その後、フロー式超音波分散機により流量7.5kg/分で表1に示す時間(超音波処理時間)、超音波分散処理を行った後に、表1に示す孔径のフィルタで表1に示す回数ろ過して磁性層形成用組成物を調製した。
【0078】
<非磁性層形成用組成物の調製>
下記の非磁性層形成用組成物の各種成分のうち、ステアリン酸、ブチルステアレート、シクロヘキサノンおよびメチルエチルケトンを除いた成分を、バッチ式縦型サンドミルを用いてビーズ分散(分散メディア:ジルコニアビーズ(ビーズ径:0.1mm)、分散時間:表1参照)して分散液を得た。その後、得られた分散液に残りの成分を添加し、ディゾルバー撹拌機により撹拌した。次いで、得られた分散液をフィルタ(孔径0.5μm)を用いてろ過し、非磁性層形成用組成物を調製した。
【0079】
非磁性無機粉末:α-酸化鉄 100.0部
平均粒子サイズ(平均長軸長):0.15μm
平均針状比:7
BET比表面積:52m2/g
カーボンブラック 20.0部
平均粒子サイズ:20nm
電子線硬化型塩化ビニル共重合体 13.0部
電子線硬化型ポリウレタン樹脂 6.0部
ステアリン酸 1.0部
ブチルステアレート 1.0部
シクロヘキサノン 300.0部
メチルエチルケトン 300.0部
【0080】
<バックコート層形成用組成物の調製>
下記のバックコート層形成用組成物の各種成分のうち、ステアリン酸、ブチルステアレート、ポリイソシアネートおよびシクロヘキサノンを除いた成分をオープンニーダにより混練および希釈して混合液を得た。その後、得られた混合液に対して横型ビーズミルにより、ビーズ径1.0mmのジルコニアビーズを用い、ビーズ充填率80体積%およびローター先端周速10m/秒で、1パスあたりの滞留時間を2分とし、12パスの分散処理を行った。その後、得られた分散液に残りの成分を添加し、ディゾルバー撹拌機により撹拌した。次いで、得られた分散液をフィルタ(孔径:1.0μm)を用いてろ過し、バックコート層形成用組成物を調製した。
【0081】
非磁性無機粉末:α-酸化鉄 80.0部
平均粒子サイズ(平均長軸長):0.15μm
平均針状比:7
BET比表面積:52m2/g
カーボンブラック 20.0部
平均粒子サイズ:20nm
塩化ビニル共重合体 13.0部
スルホン酸塩基含有ポリウレタン樹脂 6.0部
フェニルホスホン酸 3.0部
メチルエチルケトン 155.0部
ステアリン酸 3.0部
ブチルステアレート 3.0部
ポリイソシアネート 5.0部
シクロヘキサノン 355.0部
【0082】
<磁気テープの作製>
ポリエチレンナフタレート支持体上に、非磁性層形成用組成物を塗布し乾燥させた後、125kVの加速電圧で40kGyのエネルギーとなるように電子線を照射して非磁性層を形成した。
形成した非磁性層の表面上に磁性層形成用組成物を塗布して塗布層を形成した。この塗布層が湿潤状態にあるうちに、表1に示す雰囲気温度(乾燥温度)の雰囲気中で対向磁石を用いて表1に示す強度の磁場を塗布層の表面に対して垂直方向に印加して垂直配向処理および乾燥処理を行い、磁性層を形成した。
その後、上記支持体の、非磁性層および磁性層を形成した表面とは反対側の表面上に、バックコート層形成用組成物を塗布し乾燥させた。
その後、金属ロールのみから構成されるカレンダロールを用いて、カレンダ処理速度80m/min、線圧300kg/cm(294kN/m)、およびカレンダ温度(カレンダロールの表面温度)を表1に示す温度にして、表面平滑化処理(カレンダ処理)を行った。
その後、雰囲気温度70℃の環境で36時間熱処理を行った。熱処理後、1/2インチ(0.0127メートル)幅にスリットし、スリット品の送り出しおよび巻き取り装置を持った装置に不織布とカミソリブレードが磁性層表面に押し当たるように取り付けたテープクリーニング装置で磁性層の表面のクリーニングを行った。その後、市販のサーボライターによって磁性層にサーボパターンを形成した。
以上により、実施例1の磁気テープを作製した。
【0083】
[実施例2、3、5、比較例1~8]
表1に示す各種項目を表1に示すように変更した点以外、実施例1と同様に磁気テープを作製した。表1に記載されている酸化物研磨剤は、いずれもアルミナ粉末である。
表1中、「磁性層の形成と配向」欄に「配向処理なし」と記載されている比較例は、磁性層形成用組成物の塗布層について配向処理を行わずに磁気テープを作製した。
【0084】
[実施例4]
非磁性層形成後、非磁性層の表面上に乾燥後の厚みが25nmになるように磁性層形成用組成物を塗布して第一の塗布層を形成した。この第一の塗布層を、磁場の印加なしに表1に示す雰囲気温度(乾燥温度)の雰囲気中を通過させて第一の磁性層(配向処理なし)を形成した。
その後、第一の磁性層の表面上に乾燥後の厚みが25nmになるように磁性層形成用組成物を塗布して第二の塗布層を形成した。この第二の塗布層が湿潤状態にあるうちに、表1に示す雰囲気温度(乾燥温度)の雰囲気中で対向磁石を用いて表1に示す強度の磁場を第二の塗布層の表面に対して垂直方向に印加して垂直配向処理および乾燥処理を行い、第二の磁性層を形成した。
以上のように重層磁性層を形成した点以外、実施例1と同様にして磁気テープを作製した。
【0085】
[比較例9]
非磁性層形成後、非磁性層の表面上に乾燥後の厚みが25nmになるように磁性層形成用組成物を塗布して第一の塗布層を形成した。この第一の塗布層が湿潤状態にあるうちに、表1に示す雰囲気温度(乾燥温度)の雰囲気中で対向磁石を用いて表1に示す強度の磁場を第一の塗布層の表面に対して垂直方向に印加して垂直配向処理および乾燥処理を行い、第一の磁性層を形成した。
その後、第一の磁性層の表面上に乾燥後の厚みが25nmになるように磁性層形成用組成物を塗布して第二の塗布層を形成した。この第二の塗布層を、磁場の印加なしに表1に示す雰囲気温度(乾燥温度)の雰囲気中を通過させて第二の磁性層(配向処理なし)を形成した。
以上のように重層磁性層を形成した点以外、実施例1と同様にして磁気テープを作製した。
【0086】
[比較例10]
非磁性層形成後、非磁性層の表面上に乾燥後の厚みが25nmになるように磁性層形成用組成物を塗布して第一の塗布層を形成した。この第一の塗布層が湿潤状態にあるうちに、表1に示す雰囲気温度(乾燥温度)の雰囲気中で対向磁石を用いて表1に示す強度の磁場を第一の塗布層の表面に対して垂直方向に印加して垂直配向処理および乾燥処理を行い、第一の磁性層を形成した。
その後、第一の磁性層の表面上に乾燥後の厚みが25nmになるように磁性層形成用組成物を塗布して第二の塗布層を形成した。この第二の塗布層を、磁場の印加なしに表1に示す雰囲気温度(乾燥温度)の雰囲気中を通過させて第二の磁性層(配向処理なし)を形成した。
以上のように重層磁性層を形成した点以外、比較例8と同様にして磁気テープを作製した。
【0087】
[比較例11]
非磁性層形成後、非磁性層の表面上に乾燥後の厚みが25nmになるように磁性層形成用組成物を塗布して第一の塗布層を形成した。この第一の塗布層を磁場の印加なしに表1に示す雰囲気温度(乾燥温度)の雰囲気中を通過させて第一の磁性層(配向処理なし)を形成した。
その後、第一の磁性層の表面上に乾燥後の厚みが25nmになるように磁性層形成用組成物を塗布して第二の塗布層を形成した。この第二の塗布層が湿潤状態にあるうちに、表1に示す雰囲気温度(乾燥温度)の雰囲気中で対向磁石を用いて表1に示す強度の磁場を第二の塗布層の表面に対して垂直方向に印加して垂直配向処理および乾燥処理を行い、第二の磁性層を形成した。
以上のように重層磁性層を形成した点以外、比較例6と同様にして磁気テープを作製した。
【0088】
[磁気テープの物性評価]
(1)FIB研磨剤径
作製した各磁気テープのFIB研磨剤径を、以下の方法により求めた。集束イオンビーム装置としては、日立ハイテクノロジーズ社製MI4050を使用し、画像解析ソフトとしては、フリーソフトのImageJを使用した。
(i)2次イオン像の取得
作製した各磁気テープから切り出した測定用サンプルのバックコート層表面を、市販のSEM測定用カーボン両面テープ(アルミニウム製基材上にカーボン膜が形成された両面テープ)の粘着層に貼り付けた。この両面テープのバックコート層表面と貼り付けた表面とは反対の表面上の粘着層を、集束イオンビーム装置の試料台に貼り付けた。こうして、測定用サンプルを、磁性層表面を上方に向けて集束イオンビーム装置の試料台上に配置した。
撮像前コーティング処理を行わず、集束イオンビーム装置のビーム設定を、加速電圧30kV、電流値133pA、BeamSize30nmおよびBrightness50%に設定し、2次イオン検出器によりSI信号を検出した。磁性層表面の未撮像領域3箇所においてACBを実施することにより画像の色味を安定させ、コントラスト基準値およびブライトネス基準値を決定した。本ACBにより決定されたコントラスト基準値から1%下げたコントラスト値および上記のブライトネス基準値を、撮像条件として決定した。磁性層表面の未撮像領域を選択し、上記で決定された撮像条件下で、Pixel distance=25.0(nm/pixel)にて撮像を実施した。画像取り込み方式は、PhotoScan Dot×4_Dwell Time 15μsec(取り込み時間:1分)とし、取り込みサイズは25μm角とした。こうして、磁性層表面の25μm角の領域の2次イオン像を得た。得られた2次イオン像は、スキャン終了後、取り込み画面上でマウスを右クリックし、ExportImageでファイル形式をJPEGとして保存した。画像の画素数が2000pixel×2100pixelであることを確認し、取り込み画像のクロスマークおよびミクロンバーを消し、2000pixel×2000pixel画像とした。
(ii)FIB研磨剤径の算出
上記(i)で取得した2次イオン像の画像データを、画像解析ソフトImageJにドラッグおよびドロップした。
画像解析ソフトを用いて、画像データを8bitに色調変更した。具体的には、画像解析ソフトの操作メニューのImageを押し、Typeの8bitを選択した。
2値化処理するために、下限値250諧調、上限値255諧調を選択し、これら2つの閾値による2値化処理を実行した。具体的には、画像解析ソフトの操作メニュー上、Imageを押し、AdjustのThresholdを選択し、下限値250、上限値255を選択した後にapplyを選択した。得られた画像について、画像解析ソフトの操作メニューのProcessを押し、NoiseからDespeckleを選択し、AnalyzeParticleでSize 4.0-Infinityを設定してノイズ成分の除去を行った。
こうして得られた2値化処理画像について、画像解析ソフトの操作メニューからAnalyzeParticleを選択し、画像上の白く光る部分の個数およびArea(単位:Pixel)を求めた。面積は、画像解析ソフトにより画面上の白く光る各部分について、Area(単位:Pixel)を面積に変換して求めた。具体的には、上記撮像条件により得られた画像において、1pixelは0.0125μmに相当するため、面積A=Area pixel×0.0125^2により、面積A[μm2]を算出した。こうして算出された面積を用いて、円相当径L=(A/π)^(1/2)×2=Lにより、白く光る各部分について円相当径Lを求めた。
以上の工程を、測定用サンプルの磁性層表面の異なる箇所(25μm角)において4回実施し、得られた結果から、FIB研磨剤径を、FIB研磨剤径=Σ(Li)/Σiにより算出した。
【0089】
(2)非磁性支持体および各層の厚み
作製した各磁気テープの磁性層、非磁性層、非磁性支持体およびバックコート層の厚みを以下の方法によって測定した。測定の結果、いずれの磁気テープにおいても、磁性層の厚みは50nm、非磁性層の厚みは0.7μm、非磁性支持体の厚みは5.0μm、バックコート層の厚みは0.5μmであった。
ここで測定された磁性層、非磁性層および非磁性支持体の厚みを、以下の屈折率の算出のために用いた。
(i)断面観察用試料の作製
特開2016-177851号公報の段落0193~0194に記載の方法にしたがい、磁気テープの磁性層側表面からバックコート層側表面までの厚み方向の全領域を含む断面観察用試料を作製した。
(ii)厚み測定
作製した試料をSTEM観察し、STEM像を撮像した。このSTEM像は、加速電圧300kVおよび撮像倍率450000倍で撮像したSTEM -HAADF(High-Angle Annular Dark Field)像であり、1画像に、磁気テープの磁性層側表面からバックコート層側表面までの厚み方向の全領域が含まれるように撮像した。こうして得られたSTEM像において、磁性層表面を表す線分の両端を結ぶ直線を、磁気テープの磁性層側表面を表す基準線として定めた。上記の線分の両端を結ぶ直線とは、例えば、STEM像を、断面観察用試料の磁性層側が画像の上方に位置しバックコート層側が下方に位置するように撮像した場合には、STEM像の画像(形状は長方形または正方形)の左辺と上記線分との交点とSTEM像の右辺と上記線分との交点とを結ぶ直線である。同様に磁性層と非磁性層との界面を表す基準線、非磁性層と非磁性支持体との界面を表す基準線、非磁性支持体とバックコート層との界面を表す基準線、磁気テープのバックコート層側表面を表す基準線を定めた。
磁性層の厚みは、磁気テープの磁性層側表面を表す基準線上の無作為に選んだ1箇所から、磁性層と非磁性層との界面を表す基準線までの最短距離として求めた。同様に、非磁性層、非磁性支持体およびバックコート層の厚みを求めた。
【0090】
(3)磁性層のΔN
以下では、エリプソメーターとしてウーラム社製M-2000Uを使用した。2層モデルまたは1層モデルの作成およびフィッティングは、解析ソフトとしてウーラム社製WVASE32を使用して行った。
(i)非磁性支持体の屈折率測定
各磁気テープから測定用試料を切り出し、メチルエチルケトンを染み込ませた布を用いて測定用試料のバックコート層をふき取り除去して非磁性支持体表面を露出させた後、露出した表面の反射光がこの後に行われるエリプソメーターでの測定において検出されないように、この表面をサンドペーパーにより粗面化した。
その後、メチルエチルケトンを染み込ませた布を用いて測定用試料の磁性層および非磁性層をふき取り除去した後、シリコンウェハー表面と粗面化した表面とを静電気を利用して貼り付けることにより、測定用試料を、磁性層および非磁性層を除去して露出した非磁性支持体表面(以下、「非磁性支持体の磁性層側表面」と記載する。)を上方に向けてシリコンウェハー上に配置した。
エリプソメーターを用いて、このシリコンウェハー上の測定用試料の非磁性支持体の磁性層側表面に先に記載したように入射光を入射させてΔおよびΨを測定した。得られた測定値および上記(2)で求めた非磁性支持体の厚みを用いて、先に記載した方法によって非磁性支持体の屈折率(長手方向における屈折率、幅方向における屈折率、長手方向から入射光を入射させて測定される厚み方向における屈折率、および幅方向から入射光を入射させて測定される厚み方向における屈折率)を求めた。
(ii)非磁性層の屈折率測定
各磁気テープから測定用試料を切り出し、メチルエチルケトンを染み込ませた布を用いて測定用試料のバックコート層をふき取り除去して非磁性支持体表面を露出させた後、露出した表面の反射光がこの後に行われる分光エリプソメーターでの測定において検出されないように、この表面をサンドペーパーにより粗面化した。
その後、メチルエチルケトンを染み込ませた布を用いて測定用試料の磁性層表面を軽くふき取り磁性層を除去して非磁性層表面を露出させた後、上記(i)と同様にシリコンウェハー上に測定用試料を配置した。
このシリコンウェハー上の測定用試料の非磁性層表面について、エリプソメーターを用いて測定を行い、分光エリプソメトリーにより、先に記載した方法によって非磁性層の屈折率(長手方向における屈折率、幅方向における屈折率、長手方向から入射光を入射させて測定される厚み方向における屈折率、および幅方向から入射光を入射させて測定される厚み方向における屈折率)を求めた。
(iii)磁性層の屈折率測定
各磁気テープから測定用試料を切り出し、メチルエチルケトンを染み込ませた布を用いて測定用試料のバックコート層をふき取り除去して非磁性支持体表面を露出させた後、露出した表面の反射光がこの後に行われる分光エリプソメーターでの測定において検出されないように、この表面をサンドペーパーにより粗面化した。
その後、測定用試料を、上記(i)と同様にシリコンウェハー上に測定用試料を配置した。
このシリコンウェハー上の測定用試料の磁性層表面について、エリプソメーターを用いて測定を行い、分光エリプソメトリーにより、先に記載した方法によって磁性層の屈折率(長手方向における屈折率Nx、幅方向における屈折率Ny、長手方向から入射光を入射させて測定される厚み方向における屈折率Nz1、および幅方向から入射光を入射させて測定される厚み方向における屈折率Nz2)を求めた。求められた値から、Nxy、Nzを求め、更にこれらの差分の絶対値ΔNを求めた。実施例および比較例のいずれの磁気テープについても、求められたNxyは、Nzより大きな値(即ちNxy>Nz)であった。
【0091】
(4)垂直方向角型比(SQ;Squareness Ratio)
磁気テープの垂直方向角型比とは、磁気テープの垂直方向において測定される角型比である。角型比に関して記載する「垂直方向」とは、磁性層表面と直交する方向をいう。作製した各磁気テープについて、振動試料型磁束計(東英工業社製)を用いて、23℃±1℃の測定温度において、磁気テープに外部磁場を最大外部磁場1194kA/m(15kOe)かつスキャン速度4.8kA/m/秒(60Oe/秒)の条件で掃引して垂直方向角型比を求めた。測定値は反磁界補正後の値であり、振動試料型磁束計のサンプルプローブの磁化をバックグラウンドノイズとして差し引いた値として得るものとする。一態様では、磁気テープの垂直方向角型比は0.60以上1.00以下であることが好ましく、0.65以上1.00以下であることがより好ましい。また、一態様では、磁気テープの垂直方向角型比は、例えば0.90以下、0.85以下、または0.80以下であることもでき、これらの値を上回ることもできる。
【0092】
[高温高湿環境下での繰り返し再生後の電磁変換特性(SNR;Signal-to-Noise-Ratio)の変化(SNR低下量)]
電磁変換特性(SNR)は、ヘッドを固定した1/2インチ(0.0127メートル)リールテスターを用いて以下の方法により測定した。
記録は、ヘッド/テープ相対速度を5.5m/秒とし、MIG(Metal-In-Gap)ヘッド(ギャップ長0.15μm、トラック幅1.0μm)を使い、記録電流は各磁気テープの最適記録電流に設定して行った。
再生ヘッドには素子厚み15nm、シールド間隔0.1μmおよびリード幅0.5μmのGMR(Giant-Magnetoresistive)ヘッドを用いた。270kfciの線記録密度で信号の記録を行い、再生信号をシバソク社製のスペクトラムアナライザーで測定した。なお単位kfciとは、線記録密度の単位(SI単位系に換算不可)である。信号は、磁気テープの走行開始後に信号が十分に安定した部分を使用した。キャリア信号の出力値と、スペクトル全帯域の積分ノイズとの比をSNRとした。
以上の条件で、1パスあたりのテープ長を1,000mとして、雰囲気温度32℃相対湿度80%の環境において5,000パス往復走行させて再生(ヘッド/テープ相対速度:6.0m/秒)を行いSNRを測定した。1パス目のSNRと5,000パス目のSNRとの差分(5,000パス目のSNR-1パス目のSNR)を求めた。差分が-2.0dB未満であれば、データバックアップテープに望まれる優れた電磁変換特性を示す磁気テープと判断することができる。
【0093】
以上の結果を、表1(表1-1および表1-2)に示す。
【0094】
【表1-1】
【表1-2】
【0095】
表1に示す結果から、磁性層のΔNおよびFIB研磨剤径がそれぞれ先に記載した範囲である実施例1~5の磁気テープでは、高温高湿環境下での繰り返し再生における電磁変換特性の低下が抑制されていることが確認できる。
なお一般に、角型比は磁性層における強磁性粉末の存在状態の指標として知られている。ただし、表1に示すように、垂直方向角型比が同じ磁気テープであってもΔNは相違している(例えば実施例1~3および比較例10)。このことは、ΔNは、磁性層における強磁性粉末の存在状態に加えて他の要因の影響も受ける値であることを示していると本発明者らは考えている。
【産業上の利用可能性】
【0096】
本発明の一態様は、データストレージ用磁気テープ等の各種磁気記録媒体の技術分野において有用である。