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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-16
(45)【発行日】2022-11-25
(54)【発明の名称】塗料組成物及び塗膜
(51)【国際特許分類】
   C09D 201/00 20060101AFI20221117BHJP
   C09D 5/33 20060101ALI20221117BHJP
   C09D 7/40 20180101ALI20221117BHJP
   C09D 7/41 20180101ALI20221117BHJP
   G01S 7/481 20060101ALI20221117BHJP
   G01S 17/32 20200101ALI20221117BHJP
   G01S 17/10 20200101ALI20221117BHJP
   G01S 17/93 20200101ALI20221117BHJP
【FI】
C09D201/00
C09D5/33
C09D7/40
C09D7/41
G01S7/481 A
G01S17/32
G01S17/10
G01S17/93
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2021091500
(22)【出願日】2021-05-31
【審査請求日】2022-04-21
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】522184121
【氏名又は名称】日本ペイントコーポレートソリューションズ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100132252
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 環
(74)【代理人】
【識別番号】100088801
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 宗雄
(72)【発明者】
【氏名】吉田 奨
(72)【発明者】
【氏名】張 貴博
(72)【発明者】
【氏名】ジャン ジャック ドロネー
【審査官】横山 敏志
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-075454(JP,A)
【文献】特開2006-213095(JP,A)
【文献】特開2013-159496(JP,A)
【文献】国際公開第2018/168596(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/160678(WO,A1)
【文献】特開2014-227530(JP,A)
【文献】特開2019-131791(JP,A)
【文献】国際公開第2019/065788(WO,A1)
【文献】国際公開第2004/065984(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/081613(WO,A1)
【文献】HAN, Aijun et al.,Estimating thermal performance of cool coatings colored with high near-infrared reflective inorganic pigments: Iron doped La2Mo2O7 compounds,Energy and Buildings,2014年09月01日,Vol.84,pp.698-703
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 201/00
C09D 5/33
C09D 7/40
C09D 7/41
G01S 7/481
G01S 17/32
G01S 17/10
G01S 17/93
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
塗膜形成樹脂(A)及び着色顔料(B)を含む近赤外光を用いたセンシングの検出対象物用塗料組成物であって、
前記着色顔料(B)は、近赤外線を反射しうる顔料(B1)を含み、
800~2,500nmの波長域における反射率を近赤外線反射率としたとき、前記顔料(B1)は、近赤外線反射率が60%以上である白色系顔料、近赤外線反射率が50%以上である有彩色顔料、及び、近赤外線反射率が30%以上である黒色系顔料からなる群より選ばれる少なくとも1種を含むものであって、且つ、近赤外線反射率が60%以上である白色系顔料及び近赤外線反射率が50%以上である有彩色顔料から選ばれる1種を含み、
前記顔料(B1)は、有機顔料を含み、該有機顔料の含有率は、前記顔料(B1)の総量中、3質量%以上である ことを特徴とする、近赤外光を用いたセンシングの検出対象物用塗料組成物。
【請求項2】
前記有彩色顔料が赤色系顔料、黄色系顔料及び青色系顔料からなる群より選択される少なくとも1種を含むことを特徴とする、請求項1に記載の近赤外光を用いたセンシングの検出対象物用塗料組成物。
【請求項3】
前記赤色系顔料及び黄色系顔料が、それぞれ有機顔料及び/又は無機顔料を含むことを特徴とする、請求項1又は2に記載の近赤外光を用いたセンシングの検出対象物用塗料組成物。
【請求項4】
前記着色顔料(B)は、波長905nm及び/又は1,550nmにおける分光反射率が70%以上である白色系顔料、
前記波長における分光反射率が50%以上である有機赤色系顔料、
前記波長における分光反射率が20%以上である無機赤色系顔料、
前記波長における分光反射率が60%以上である有機黄色系顔料、
前記波長における分光反射率が20%以上である無機黄色系顔料、
前記波長における分光反射率が40%以上である青色系顔料、
前記波長における分光反射率が30%以上である有機黒色系顔料
及び前記波長における分光反射率が15%以上である無機黒色系顔料
からなる群より選ばれる少なくとも1種を含むことを特徴とする、請求項1~3のいずれか1項に記載の近赤外光を用いたセンシングの検出対象物用塗料組成物。
【請求項5】
形成される塗膜の明度をL*としたとき、L*と前記白色系顔料、有機赤色系顔料、無機赤色系顔料、有機黄色系顔料、無機黄色系顔料、青色系顔料、有機黒色系顔料および無機黒色系顔料の顔料質量濃度との関係が、以下の式(1):
L*=0.7(W)-0.6(IR)-5.5(OR)+0.4(IY)-3.2(OY)-5.7(OB)-0.2(IBL)-0.3(OBL)+48.5 …式(1)
[式(1)中、
(W)は白色系顔料の顔料質量濃度(質量%)を表し、
(OR)は有機赤色系顔料の顔料質量濃度(質量%)を表し、
(IR)は無機赤色系顔料の顔料質量濃度(質量%)を表し、
(OY)は有機黄色系顔料の顔料質量濃度(質量%)を表し、
(IY)は無機黄色系顔料の顔料質量濃度(質量%)を表し、
(OB)は青色系顔料の顔料質量濃度(質量%)を表し、
(OBL)は有機黒色系顔料の顔料質量濃度(質量%)を表し、
(IBL)は無機黒色系顔料の顔料質量濃度(質量%)を表す。]
で表される、請求項4に記載の近赤外光を用いたセンシングの検出対象物用塗料組成物。
【請求項6】
形成される塗膜の近赤外線反射率をX(%)としたとき、Xと前記白色系顔料、有機赤色系顔料、無機赤色系顔料、有機黄色系顔料、無機黄色系顔料、青色系顔料、有機黒色系顔料および無機黒色系顔料の顔料質量濃度との関係が、以下の式(2):
=0.5(W)-1.4(IR)+0.1(OR)-0.6(IY)-1.8(OY)-3.1(OB)-0.2(IBL)-13.2(OBL)+61.0 …式(2)
[式(2)中、
(W)は白色系顔料の顔料質量濃度(質量%)を表し、
(OR)は有機赤色系顔料の顔料質量濃度(質量%)を表し、
(IR)は無機赤色系顔料の顔料質量濃度(質量%)を表し、
(OY)は有機黄色系顔料の顔料質量濃度(質量%)を表し、
(IY)は無機黄色系顔料の顔料質量濃度(質量%)を表し、
(OB)は青色系顔料の顔料質量濃度(質量%)を表し、
(OBL)は有機黒色系顔料の顔料質量濃度(質量%)を表し、
(IBL)は無機黒色系顔料の顔料質量濃度(質量%)を表す。]
で表される、請求項4または5に記載の近赤外光を用いたセンシングの検出対象物用塗料組成物。
【請求項7】
形成される塗膜の波長905nmにおける分光反射率をY(%)としたとき、Y(%)と前記白色系顔料、有機赤色系顔料、無機赤色系顔料、有機黄色系顔料、無機黄色系顔料、青色系顔料、有機黒色系顔料および無機黒色系顔料の顔料質量濃度との関係が、以下の式(3):
=0.6(W)-2.9(IR)+3.5(OR)-1.2(IY)-0.9(OY)-3.0(OB)-0.8(IBL)-1.2(OBL)+68.0 …式(3)
[式(3)中、
(W)は白色系顔料の顔料質量濃度(質量%)を表し、
(OR)は有機赤色系顔料の顔料質量濃度(質量%)を表し、
(IR)は無機赤色系顔料の顔料質量濃度(質量%)を表し、
(OY)は有機黄色系顔料の顔料質量濃度(質量%)を表し、
(IY)は無機黄色系顔料の顔料質量濃度(質量%)を表し、
(OB)は青色系顔料の顔料質量濃度(質量%)を表し、
(OBL)は有機黒色系顔料の顔料質量濃度(質量%)を表し、
(IBL)は無機黒色系顔料の顔料質量濃度(質量%)を表す。]
で表される、請求項4~6のいずれか1項に記載の近赤外光を用いたセンシングの検出対象物用塗料組成物。
【請求項8】
形成される塗膜の波長1,550nmにおける分光反射率をZ(%)としたとき、Z(%)と前記白色系顔料、有機赤色系顔料、無機赤色系顔料、有機黄色系顔料、無機黄色系顔料、青色系顔料、有機黒色系顔料および無機黒色系顔料の顔料質量濃度との関係が、以下の式(4):
=0.3(W)-0.2(IR)-2.4(OR)-0.2(IY)-1.4(OY)-2.0(OB)+0.1(IBL)-8.5(OBL)+68.0 …式(4)
[式(4)中、
(W)は白色系顔料の顔料質量濃度(質量%)を表し、
(OR)は有機赤色系顔料の顔料質量濃度(質量%)を表し、
(IR)は無機赤色系顔料の顔料質量濃度(質量%)を表し、
(OY)は有機黄色系顔料の顔料質量濃度(質量%)を表し、
(IY)は無機黄色系顔料の顔料質量濃度(質量%)を表し、
(OB)は青色系顔料の顔料質量濃度(質量%)を表し、
(OBL)は有機黒色系顔料の顔料質量濃度(質量%)を表し、
(IBL)は無機黒色系顔料の顔料質量濃度(質量%)を表す。]
で表される、請求項4~7のいずれか1項に記載の近赤外光を用いたセンシングの検出対象物用塗料組成物。
【請求項9】
形成される塗膜の明度が、80以下であることを特徴とする、請求項1~のいずれか1項に記載の近赤外光を用いたセンシングの検出対象物用塗料組成物。
【請求項10】
顔料(B)を含む塗膜であって、
前記着色顔料(B)は、近赤外線を反射しうる顔料(B1)を含み、
800~2,500nmの波長域における反射率を近赤外線反射率としたとき、前記顔料(B1)は、近赤外線反射率が60%以上である白色系顔料、近赤外線反射率が50%以上である有彩色顔料、及び、近赤外線反射率が30%以上である黒色系顔料からなる群より選ばれる少なくとも1種を含むものであって、且つ、近赤外線反射率が60%以上である白色系顔料及び近赤外線反射率が50%以上である有彩色顔料から選ばれる1種を含み、
前記顔料(B1)は、有機顔料を含み、該有機顔料の含有率は、前記顔料(B1)の総量中、3質量%以上であり、
800~2,500nmの波長域における近赤外線反射率が15%以上であることを特徴とする、近赤外光を用いたセンシングの検出対象物用塗膜。
【請求項11】
請求項1~のいずれか1項に記載の塗料組成物から形成される、近赤外光を用いたセンシングの検出対象物用塗膜。
【請求項12】
800~2,500nmの波長域における近赤外線反射率が15%以上であることを特徴とする、請求項11に記載の近赤外光を用いたセンシングの検出対象物用塗膜。
【請求項13】
波長905nm及び/又は1,550nmにおける分光反射率が、20%以上であることを特徴とする、請求項10~12のいずれか1項に記載の近赤外光を用いたセンシングの検出対象物用塗膜。
【請求項14】
請求項1~のいずれか1項に記載のセンシングの検出対象物用塗料組成物を用いて形成された塗膜を有する検出対象物。
【請求項15】
走行する車両から特定波長の近赤外線を照射して、検出対象物にそれが反射し、その反射光を検出して、反射に掛かる時間に基づいて車両から検出対象物までの距離を算出する、車両と検出対象物との距離を測定するセンシング方法において、前記塗装物が請求項1~のいずれか1項に記載の塗料組成物を塗装することにより得られるものであることを特徴とする、センシング方法。
【請求項16】
走行する車両から特定波長の近赤外線を照射して、検出対象物にそれが反射し、その反射光を検出して、照射光と反射光との周波数差により、車両から検出対象物までの距離を算出する、車両と検出対象物との距離を測定するセンシング方法において、前記塗装物が請求項1~のいずれか1項に記載の塗料組成物を塗装することにより得られるものであることを特徴とする、センシング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗料組成物及び塗膜に関するものであり、特に、近赤外光を用いたセンシングの検出対象物用の塗料組成物及び塗膜に関する。
【背景技術】
【0002】
光を用いたリモートセンシング技術の一つに、対象物に対して近赤外光、可視光及び/又は紫外光を照射し、それらが対象物で反射及び/又は散乱した光を測定することにより、照射位置から対象物までの距離や方位を検出するLiDAR(Laser Imaging Detection and Ranging)がある。このようなLiDAR技術は、例えば、車両において、障害物を検知して自動でブレーキをかけたり、周辺車両の速度や車間距離を測定して自車の速度や車間距離を制御したりする高度自動運転システムに必要不可欠な技術である。前記高度自動運転システムを正常に動作させるには、LiDARの検出精度を高めることが必要である。
また、LiDARは、近赤外線が照射光として用いられる場合が多い。
【0003】
LiDAR技術に用いられる樹脂組成物としては、透明樹脂と、光吸収剤とを含む樹脂組成物であって、前記樹脂組成物を厚み1mmに成形した硬化体が、波長380nm以上700nm以下の範囲の平均光透過率が40%以下であり、LiDARで使用するレーザー光の波長における光透過率が70%以上である樹脂組成物が提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-167484号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
LiDAR技術の開発においては、そのほとんどがセンサや光源等のハード面を中心に行われている。前記特許文献1も、レーザー光の反射光を受光する素子の前に配置する波長選択フィルタに用いられる材料についての発明に関するものである。これに対して、本発明者らは、ハード面、すなわち信号(反射光、散乱光)を検出する側ではなく、ハード面に対するソフト面ともいえる、信号を発出する側、すなわち、検出対象物において発出される信号(反射光、散乱光)の強度を高めることに着目した。そして、検出精度を高めるために、検出対象物における近赤外線の反射及び/又は散乱強度を高めるとの課題を想起した。
【0006】
更に、近赤外線の反射強度及び/又は散乱強度が高い場合、近赤外線と近い波長域の可視光領域においても、反射強度及び/又は散乱強度が高くなる傾向があり、その結果、塗装物の明度も高くなる傾向がある。一方、LiDAR技術における検出対象物としては、舗装、歩道等に代表される、暗色(低明度色ともいう)の道路構造物等が挙げられる。そのため、LiDAR技術における検出対象物に用いられる塗料としては、可視光領域の光に対しては明度が低く、近赤外線領域の光に対しては高強度で反射及び/又は散乱可能なものが求められる。
【0007】
本発明は、LiDAR技術における近赤外線の検出精度を高めることが可能な塗料組成物及び塗膜の提供を課題とする。更に、本発明は、好ましくは、低明度でありながら、LiDAR技術における近赤外線の検出精度を高めることが可能な塗料組成物及び塗膜の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、以下の発明を含む。
[1] 塗膜形成樹脂(A)及び着色顔料(B)を含む近赤外光を用いたセンシングの検出対象物用塗料組成物であって、
前記着色顔料(B)は、800~2,500nmの波長域における反射率を近赤外線反射率としたとき、近赤外線反射率が60%以上である白色系顔料、近赤外線反射率が50%以上である有彩色顔料、及び、近赤外線反射率が30%以上である黒色系顔料からなる群より選ばれる少なくとも1種を含むことを特徴とする、近赤外光を用いたセンシングの検出対象物用塗料組成物。
[2] 前記有彩色顔料が赤色系顔料、黄色系顔料及び青色系顔料からなる群より選択される少なくとも1種を含むことを特徴とする、[1]に記載の近赤外光を用いたセンシングの検出対象物用塗料組成物。
[3] 前記赤色系顔料及び黄色系顔料が、それぞれ有機顔料及び/又は無機顔料を含むことを特徴とする、[1]又は[2]に記載の近赤外光を用いたセンシングの検出対象物用塗料組成物。
[4] 前記着色顔料(B)は、波長905nm及び/又は1,550nmにおける分光反射率が70%以上である白色系顔料、
前記波長における分光反射率が50%以上である有機赤色系顔料、
前記波長における分光反射率が20%以上である無機赤色系顔料、
前記波長における分光反射率が60%以上である有機黄色系顔料、
前記波長における分光反射率が20%以上である無機黄色系顔料、
前記波長における分光反射率が40%以上である青色系顔料、
前記波長における分光反射率が30%以上である有機黒色系顔料
及び前記波長における分光反射率が15%以上である無機黒色系顔料
からなる群より選ばれる少なくとも1種を含むことを特徴とする、[1]~[3]のいずれか1つに記載の近赤外光を用いたセンシングの検出対象物用塗料組成物。
[5] 形成される塗膜の明度が、80以下であることを特徴とする、[1]~[4]のいずれか1つに記載の近赤外光を用いたセンシングの検出対象物用塗料組成物。
[6] 800~2,500nmの波長域における近赤外線反射率が15%以上であることを特徴とする、近赤外光を用いたセンシングの検出対象物用塗膜。
[7] [1]~[5]のいずれか1つに記載の塗料組成物から形成される、近赤外光を用いたセンシングの検出対象物用塗膜。
[8] 800~2,500nmの波長域における近赤外線反射率が15%以上であることを特徴とする、[7]に記載の近赤外光を用いたセンシングの検出対象物用塗膜。
[9] 波長905nm及び/又は1,550nmにおける分光反射率が、20%以上であることを特徴とする、[6]~[8]のいずれか1つに記載の近赤外光を用いたセンシングの検出対象物用塗膜。
[10] [1]~[5]のいずれか1項に記載のセンシングの検出対象物用塗料組成物を用いて形成された塗膜を有する検出対象物。
[11] 走行する車両から特定波長の近赤外線を照射して、検出対象物にそれが反射し、その反射光を検出して、反射に掛かる時間に基づいて車両から検出対象物までの距離を算出する、車両と検出対象物との距離を測定するセンシング方法において、前記塗装物が[1]~[5]のいずれか1項に記載の塗料組成物を塗装することにより得られるものであることを特徴とする、センシング方法。
[12] 走行する車両から特定波長の近赤外線を照射して、検出対象物にそれが反射し、その反射光を検出して、照射光と反射光との周波数差により、車両から検出対象物までの距離を算出する、車両と検出対象物との距離を測定するセンシング方法において、前記塗装物が[1]~[5]のいずれか1項に記載の塗料組成物を塗装することにより得られるものであることを特徴とする、センシング方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の塗料組成物及び塗膜は、LiDAR技術における近赤外線の検出精度を高めることが可能であり、好ましくは、低明度でありながら、LiDAR技術における近赤外線の検出精度を高めることが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
前記塗料組成物は、近赤外光を用いたセンシングの検出対象物用であり、塗膜形成樹脂(A)及び顔料(B)を含む。前記センシングは、具体的には、リモートセンシング技術であり得、検出対象物に近赤外線を照射し、照射された位置からの反射光及び/又は散乱光を検出して、近赤外線の発射位置から照射位置までの距離や方位を特定する技術でありうる。
【0011】
前記センシングに用いられる近赤外光の波長は、好ましくは800nm以上、より好ましくは900nm以上であり、好ましくは2,500nm以下、より好ましくは2,000nm以下、更に好ましくは1,600nm以下である。近赤外光は、波長が短いほど直進性が高く、波長が長いほど太陽光の影響を排除することが容易である。現在、センシングにおいて用いられている波長は、主に905nm及び/又は1,550nmである。
【0012】
以下、近赤外光を用いたセンシングの検出対象物用塗料組成物を、単に「塗料組成物」という場合がある。
【0013】
[塗膜形成樹脂(A)]
前記塗膜形成樹脂(A)は、塗膜を形成しうる樹脂であり、塗料分野で通常用いられる樹脂を用いることができる。前記塗膜形成樹脂(A)としては、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、アルキド樹脂、ポリエーテル樹脂、フッ素樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂又はウレア樹脂等の熱硬化性樹脂、常温硬化性樹脂又は光硬化性樹脂等が挙げられる。また、前記塗膜形成樹脂(A)は、該塗膜形成樹脂(A)単独で塗膜を形成するものであってもよく、後述する架橋剤(C)の作用により塗膜を形成するものであってよい。前記塗膜形成樹脂(A)としては、1種を用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0014】
前記アクリル樹脂は、(メタ)アクリロイル基を有する単量体に由来する単位を有する重合体を表し、前記(メタ)アクリロイル基を有する単量体を含む単量体混合物を重合することにより調製することができる。前記単量体混合物は、更に、前記(メタ)アクリロイル基を有する単量体以外の、エチレン性不飽和結合を有する単量体を含んでいてもよい。本明細書において、(メタ)アクリル酸は、アクリル酸及びメタクリル酸を表すものとする。
【0015】
前記(メタ)アクリロイル基を有する単量体としては、(メタ)アクリル酸;炭素数1~20の直鎖状又は分岐鎖状態のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル;(メタ)アクリル酸ヒドロキシメチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシブチル、N-メチロール(メタ)アクリルアミド等のヒドロキシ基を有する(メタ)アクリル単量体;前記ヒドロキシ基を有する(メタ)アクリル単量体のラクトン付加物;(メタ)アクリロニトリル;等が挙げられる。
【0016】
エチレン性不飽和基を有する単量体としては、前記(メタ)アクリロイル基を有する単量体の他、クロトン酸、イタコン酸、フマル酸等のカルボキシ基を有する単量体;前記カルボキシ基を有する単量体の無水物;スチレン等のビニル単量体;等が挙げられる。
【0017】
前記ポリエステル樹脂は、複数のエステル結合を主鎖に有する重合体を表し、ポリオールとポリカルボン酸との反応物;環状エステルの付加重合物;前記ポリオール及びポリカルボン酸の反応物と、環状エステルとの反応物;等として得ることができる。
【0018】
前記ポリオールは、1分子中に2個以上のヒドロキシ基を有する化合物であり、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,4-ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,5-ヘキサンジオール等の脂肪族ポリオール;水添ビスフェノールA、1,4-シクロヘキサンジメタノール等の脂環式ポリオール;ビスフェノールA、ヒドロキシアルキル化ビスフェノールA等の芳香族ポリオール;グリセリン、アンニトール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリメチロールブタン、ヘキサントリオール、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール等の3官能以上のポリオール;ソルビトール等の糖アルコール;トリス(ヒドロキシエチル)イソシアネート;N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)ジメチルヒダントイン;等が挙げられる。
【0019】
前記ポリオールに含まれるヒドロキシ基は、1分子中、好ましくは2個以上であり、3個以上であってもよく、好ましくは6個以下、より好ましくは4個以下である。
【0020】
前記ポリオールとしては、1種を用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0021】
前記ポリカルボン酸は、1分子中に2個以上のカルボキシ基を有する化合物を意味する。前記ポリカルボン酸としては、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、トリメリット酸、ピロメリット酸等の芳香族ポリカルボン酸;テトラヒドロフタル酸、ヘキサヒドロフタル酸、メチルテトラヒドロフタル酸、シクロヘキサン-1,4-ジカルボン酸、5-ノルボルネン-2,3-ジカルボン酸、メチル-5-ノルボルネン-2,3-ジカルボン酸等の脂環式ポリカルボン酸;マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、アジピン酸、畔ライン酸、セバシン酸、コハク酸、ドデセニルコハク酸等の脂肪族ポリカルボン酸;乳酸糖のヒドロキシ酸;前記芳香族ポリカルボン酸、前記脂環式ポリカルボン酸、前記脂肪族ポリカルボン酸の無水物;等が挙げられる。前記ポリカルボン酸としては、1種を用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0022】
前記環状エステルとしては、ε-カプロラクトン等が挙げられる。
【0023】
前記ポリエステル樹脂には、前記したポリエステル樹脂の変性物も含まれる。樹脂の変性は、該樹脂を構成する主鎖の末端に変性剤を反応させることで行うことができる。前記変性剤としては、イソシアネート基、ヒドロキシ基、カルボキシ基等の反応性基や、シリコーン骨格等を有する化合物が挙げられる。前記ポリエステル樹脂の変性物としては、ウレタン変性ポリエステル樹脂、エポキシ変性ポリエステル樹脂、アクリル変性ポリエステル樹脂、シリコーン変性ポリエステル樹脂等を挙げることができる。
【0024】
前記ウレタン樹脂は、ポリオールとポリイソシアネートとの反応物;該反応物と、必要に応じて用いる鎖伸長剤との反応物;等が挙げられる。
【0025】
前記ポリオールは、1分子中に2個以上のヒドロキシ基を有する化合物を意味する。前記ポリオールとしては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,4-ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,5-ヘキサンジオール、1,6-ヘキサンジオール等の脂肪族ポリオール;水添ビスフェノールA、1,4-シクロヘキサンジメタノール等の脂環式ポリオール;ビスフェノールA、ヒドロキシアルキル化ビスフェノールA(特に、ビスフェノールヒドロキシプロピルエーテル)等の芳香族ポリオール;グリセリン、アンニトール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリメチロールブタン、ヘキサントリオール、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール等の3官能以上のポリオール;ポリエーテルポリオール、アクリルポリオール、ポリウレタンポリオール、ポリエステルポリオール、ポリエステルアミドポリオール等の高分子量のポリオール(例えば、重量平均分子量800以上のポリオール)等が挙げられる。前記ポリオールとしては、1種を用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0026】
前記ポリオールに含まれるヒドロキシ基の個数は、2個以上であり、3個以上であってもよく、好ましくは6個以下、より好ましくは4個以下である。
【0027】
前記ポリイソシアネートは、1分子中に2個以上のイソシアネート基を有する化合物を意味する。前記ポリイソシアネートとしては、ヘキサメチレンジイソシアネート等の脂肪族ポリイソシアネート;ジシクロへキシルメタンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、水素化キシリレンジイソシアネート等の脂環式ポリイソシアネート;トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ナフチレンジイソシアネート、3,3’-ジメチル-4,4’-ビフェニレンジイソシアネート等の芳香族ポリイソシアネート等が挙げられる。前記ポリイソシアネートとしては、1種を用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0028】
前記鎖伸長剤は、1分子中に、1個以上の活性水素原子を有する化合物を意味し、水又はアミン化合物を用いることができる。前記アミン化合物としては、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ジエチレントリアミン、ジプロピレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン等の脂肪族ポリアミン;トリレンジアミン、キシリレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン等の芳香族ポリアミン;ジアミノシクロヘキシルメタン、ピペラジン、2,5-ジメチルピペラジン、イソホロンジアミン等の脂環式ポリアミン;ヒドラジン、コハク酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、フタル酸ジヒドラジド等のヒドラジン化合物:ヒドロキシエチルジエチレントリアミン、2-[(2-アミノエチル)アミノ]エタノール、3-アミノプロパンジオール等のアルカノールアミン;等が挙げられる。
【0029】
一実施態様において、ウレタン樹脂として、エステル系ウレタン樹脂、エーテル系ウレタン樹脂及びカーボネート系ウレタン樹脂を用いることができる。
【0030】
前記エポキシ樹脂としては、例えば、1分子内に2個以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂が挙げられる。具体的には、グリシジルエステル樹脂;ビスフェノールAとエピクロロヒドリンとの縮合反応物、ビスフェノールFとエピクロロヒドリンとの縮合反応物等の、グリシジルエーテル型樹脂;及び、脂環式エポキシ樹脂、直鎖状脂肪族エポキシ樹脂、含ブロムエポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂;等が挙げられる。
【0031】
前記塗膜形成樹脂(A)は、アニオン性基、カチオン性基、ノニオン性基等の親水性基を有していてもよい。前記アニオン性基としては、カルボキシ基、スルホン酸基等が挙げられ、前記カチオン性基としては、アミノ基、第4級アンモニウム基等が挙げられる。ノニオン性基としては、ポリオキシアルキレン単位等が挙げられる。前記親水性基は、前記塗膜形成樹脂(A)の原料として、親水性基を有する化合物を用いること等により導入することができる。
【0032】
前記塗膜形成樹脂(A)が、アニオン性基を有する場合、前記塗料組成物は、該アニオン性基を中和しうる塩基性化合物を含んでいてもよく、前記塗膜形成樹脂(A)が、カチオン性基を有する場合、前記塗料組成物は、該カチオン性基を中和しうる酸性化合物を含んでいてもよい。
【0033】
前記塗膜形成樹脂(A)がアニオン性基を有する場合、前記塗膜形成樹脂(A)の酸価は、好ましくは5mgKOH/g以上であり、好ましくは50mgKOH/g以下、より好ましくは30mgKOH/g以下である。
【0034】
前記塗膜形成樹脂(A)がカチオン性基を有する場合、前記塗膜形成樹脂(A)のアミン価は、好ましくは5mgKOH/g以上であり、好ましくは50mgKOH/g以下、より好ましくは30mgKOH/g以下である。
【0035】
前記塗膜形成樹脂(A)は、ヒドロキシ基を有していてもよい。前記塗膜形成樹脂(A)がヒドロキシ基を有する場合、前記塗膜形成樹脂(A)の水酸基価は、5mgKOH/g以上であり、好ましくは7mgKOH/g以上、より好ましくは10mgKOH/g以上であり、35mgKOH/g以下であり、好ましくは30mgKOH/g以下、より好ましくは25mgKOH/g以下である。
【0036】
前記酸価及び水酸基価は、いずれも固形分基準であり、JIS K 0070:1999に準拠して測定することができる。また、前記アミン価は、固形分基準であり、JIS K 7237に準拠して測定することができる。
【0037】
前記塗膜形成樹脂(A)は、後述する有機溶剤に溶解しうる樹脂であってもよく、水性樹脂であってよい。前記水性樹脂としては、水性媒体に溶解しうる水溶性樹脂;コロイダルディスパージョン型、エマルション型(乳化重合型、強制乳化型)等の水性媒体に分散しうる水分散性樹脂等が挙げられる。
【0038】
前記塗膜形成樹脂(A)の重量平均分子要は、例えば、2,000以上であってよく、10,000以上であってよく、50,000以上であってよく、また、10,000,000以下であってよく、2,000,000以下であってよく、500,000以下であってよい。
前記塗膜形成樹脂(A)の重量平均分子量は、前記エマルション型水分散性樹脂の場合、例えば、50,000以上であってよく、100,000以上であってよく、150,000以上であってよい。また、10,000,000以下であってよく、2,000,000以下であってよく、500,000以下であってよい。
前記水性媒体又は有機溶剤に溶解しうる樹脂の場合、例えば、2,000以上であってよく、10,000以上であってよく、50,000以上であってよく、100,000以下であってよく、80,000以下であってよい。
なお、本明細書において、重量平均分子量は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィによる測定値をポリスチレン換算した値である。
【0039】
前記塗膜形成樹脂(A)の含有率は、前記塗料組成物の固形分中、好ましくは50質量%以上、より好ましくは60質量%以上、更に好ましくは65質量%以上であり、好ましくは90質量%以下、より好ましくは85質量%以下、更に好ましくは75質量%以下である。
【0040】
本明細書において、前記塗料組成物の固形分は、前記塗料組成物の全成分から、後述する溶媒(D)を除いた部分を意味するものとする。
【0041】
前記塗料組成物は、形成される塗膜物性に影響を及ぼさない範囲で、塗膜形成樹脂(A)に加えて、熱可塑性樹脂を用いることもできる。前記熱可塑性樹脂として、例えば、塩素化ポリエチレン、塩素化ポリプロピレン等の塩素化オレフィン系樹脂;塩化ビニル、酢酸ビニル、塩化ビニリデン等をモノマー成分とする単独重合体又は共重合体;セルロース系樹脂;アセタール樹脂;アルキド樹脂;塩化ゴム系樹脂;変性ポリプロピレン樹脂(酸無水物変性ポリプロピレン樹脂等);フッ素樹脂(例えば、フッ化ビニリデン樹脂、フッ化ビニル樹脂、フッ素化オレフィンとビニルエーテルとの共重合体、フッ素化オレフィンとビニルエステルとの共重合体)等を挙げることができる。前記熱可塑性樹脂は、1種を用いてもよく、2種以上を併用してもよい。熱可塑性樹脂を併用することで、形成される塗膜の塗膜物性を目的に応じ調整することが容易となる。
【0042】
[有機顔料(B)]
前記着色顔料(B)は、有彩色、無彩色等の色を有する顔料であり、近赤外線を反射しうる顔料(B1)を含む。前記顔料(B1)の近赤外線反射率は、好ましくは10%以上、より好ましくは15%以上、更に好ましくは20%以上であり、100%以下、90%以下、80%以下であることも許容される。前記顔料(B1)を含むことで、近赤外線を照射した場合に、照射光が高強度で反射及び/又は散乱され、LiDAR技術における検出精度の向上に寄与することができる。
【0043】
本明細書において、近赤外線反射率は、800~2,500nmの波長域において、JIS K 5602:2008に準拠し測定した分光反射率の算術平均値を意味する。前記分光反射率は、分光光度計を用いて測定することができる。
【0044】
本明細書において、顔料の近赤外線反射率は、該顔料を含む塗膜を形成し、該塗膜の反射率として測定することができる。詳細には、後述する顔料の近赤外線反射率及び分光反射率の測定例1に記載する顔料、樹脂及び溶媒を、以下の式に示す顔料質量濃度(PWCともいう)が3~50質量%となるように混合し、回転数1,800rpmで60分間、分散機を用いて分散し分散体とした後、下地として白黒隠ぺい率試験紙(日本テストパネル社製)を使用し、8milのドクターブレードを用いて、乾燥後の厚さが約50μmとなるように塗布し、60℃で20分間乾燥させて乾燥塗膜とする。JIS K 5602:2008に準拠し、分光光度計を用いて、前記乾燥塗膜の下地が白色の部分の分光反射率を800~2,500nmの波長域で測定し、その算術平均値を前記顔料の近赤外線反射率とする。また、後述する波長905nm及び1,550nmにおける分光反射率も、前記の分光反射率を測定する方法に準拠して測定することができる。前記分光光度計としては、例えば、分光光度計(島津製作所製、SHIMADZU-UV3600等)を用いて測定することができる。
顔料質量濃度(PWC:質量%)=(顔料の固形分量)/(顔料の固形分量+樹脂の固形分量)×100
【0045】
本明細書において、樹脂の固形分量は、JIS K 5601-1-2(2008)に準拠し、加熱残分(105℃で60分間加熱した後の残渣の質量)を測定することによって求めることができる。
【0046】
また、近赤外反射率及び分光反射率の測定の際、前記各顔料の顔料質量濃度は、前記白黒隠ぺい率試験紙に乾燥塗膜を形成させたとき、下地の白色及び黒色が透けて見えない状態となる濃度以上とする。本明細書中において、前記各顔料の顔料質量濃度は、有機赤色系顔料については25質量%、無機赤色系顔料については30質量%、有機黄色系顔料については25質量%、無機黄色系顔料については30質量%、青色系顔料については20質量%、白色系顔料については45質量%、有機黒色系顔料については3質量%、無機黒色系顔料については50質量%とする。
【0047】
前記顔料(B1)は、有彩色顔料及び無彩色顔料からなる群より選択される顔料を含むことが好ましい。前記有彩色顔料には、彩度が0を超える色の顔料がいずれも含まれるものとし、例えば、赤色系顔料、緑色系顔料、青色系顔料、黄色系顔料等が挙げられ、赤色系顔料、青色系顔料及び黄色系顔料からなる群より選択される1種以上を含むことが好ましく、赤色系顔料、青色系顔料及び黄色系顔料からなる群より選択される1種以上を含むことがより好ましい。
【0048】
また、前記顔料(B1)としては、有機顔料及び/又は無機顔料を用いることができる。前記有機顔料は、高い彩度や高い近赤外線反射率を有する傾向があり、無機顔料は、高い耐候性を有する傾向がある。
前記顔料(B1)中、有機顔料の含有率は、0質量%以上であってよく、0.5質量%以上であってよく、3質量%以上であってよい。また、100質量%以下であってよく、70質量%以下であってよく、20質量%以下であってよく、10質量%以下であってよく、8質量%以下であってよい。
前記顔料(B1)中、無機顔料の含有率は、0質量%以上であってよく、5質量%以上であってよく、10質量%以上であってよい。また、100質量%以下であってよく、99質量%以下であってよく、50質量%以下であってよく、40質量%以下であってよく、20質量%以下であってよい。
【0049】
前記顔料(B1)としての赤色系顔料の近赤外線反射率は、例えば、好ましくは40%以上、より好ましくは45%以上、更に好ましくは50%以上、一層好ましくは55%以上であり、例えば、80%以下、更には70%以下であることも許容される。
前記赤色系顔料の波長905nm及び/又は1,550nmにおける分光反射率は、好ましくは20%以上、より好ましくは25%以上、更に好ましくは30%以上、一層好ましくは35%以上であり、例えば、90%以下、更には85%以下であることも許容される。
【0050】
前記赤色系顔料としては、有機顔料及び/又は無機顔料を用いることができる。前記有機顔料の含有率は、前記赤色系顔料中、0質量%であってよく、1質量%以上であってよく、20質量%以上であってよい、また、50質量%以下であってよく、上限は100質量%である。
【0051】
前記有機赤色系顔料の近赤外線反射率は、好ましくは40%以上、より好ましくは45%以上、更に好ましくは50%以上、一層好ましくは55%以上であり、例えば、80%以下、更には70%以下であることも許容される。
【0052】
前記有機赤色系顔料の波長905nm及び/又は1,550nmにおける分光反射率は、好ましくは40%以上、より好ましくは50%以上、更に好ましくは55%以上、一層好ましくは60%以上であり、例えば、90%以下、更には85%以下であることも許容される。
【0053】
前記無機赤色系顔料の近赤外線反射率は、好ましくは40%以上、より好ましくは45%以上であり、例えば、80%以下、更には70%以下であることも許容される。
【0054】
前記無機赤色系顔料の波長905nm及び/又は1,550nmにおける分光反射率は、好ましくは20%以上、より好ましくは30%以上、例えば、90%以下、更には85%以下であることも許容される。
【0055】
前記顔料(B1)としての赤色系顔料としては、例えば、有機赤色系顔料として、Fastogen Super Magenta RH、Fastogen Red 7100Y、Fastogen Super Red 500RG、Fastogen Super Red ATY、Fastogen Super Blue Violet RVS、ルビクロンレッド 400RG、ルビクロンレッド 500RG(いずれもDIC社製)、CINILEX DPP RED SR1C(CINIC chemicals社製)、無機赤色系顔料として、トダカラー 120ED(戸田工業社製)、BAYFERROX 130M(ランクセス社製)等を挙げることができる。
【0056】
顔料(B1)としての青色系顔料の近赤外線反射率は、好ましくは40%以上、より好ましくは45%以上であり、例えば、80%以下、更には70%以下であることも許容される。
【0057】
前記青色系顔料の波長905nm及び/又は1,550nmにおける分光反射率は、好ましくは30%以上、より好ましくは35%以上であり、例えば、90%以下、更には85%以下であることも許容される。
【0058】
前記青色系顔料としては、例えば、ダイピロキサイドカラー ブルー 9453(大日精化工業社製)、FastogenBlue 9453、Fastogen Blue RS、Fastogen Blue 5380、Fastogen Super Blue 6070S(いずれもDIC社製)、シアニンブルー5240KB、シアニンブルー5050(いずれも大日精化工業社製)、HELIOGEN BLUE L7460(BASF社製)、ダイピロキサイドカラー グリーン 9310(大日精化工業社製)、FastogenGreen2 YK、FastogenGreen MY(いずれもDIC社製)、リオノールグリーン6YKP-N(トーヨーカラー社製)等を挙げることができる。
【0059】
前記黄色系顔料の近赤外線反射率は、好ましくは40%以上、より好ましくは45%以上、更に好ましくは50%以上、一層好ましくは55%以上であり、例えば、90%以下、更には85%以下であることも許容される。
【0060】
前記黄色系顔料の波長905nm及び/又は1,550nmにおける分光反射率は、好ましくは15%以上、より好ましくは20%以上、更に好ましくは25%以上、一層好ましくは30%以上であり、例えば、95%以下、更には90%以下であることも許容される。
【0061】
前記黄色系顔料としては、有機顔料及び/又は無機顔料を用いることができる。前記有機顔料の含有率は、前記黄色系顔料中、0質量%であってよく、1質量%以上であってよく、10質量%以上であってよい。また、50質量%以下であってよく、上限は100質量%である。
【0062】
前記有機黄色系顔料の近赤外線反射率は、好ましくは40%以上、より好ましくは45%以上、更に好ましくは50%以上、一層好ましくは55%以上であり、例えば、90%以下、更には85%以下であることも許容される。
【0063】
前記有機黄色系顔料の波長905nm及び/又は1,550nmにおける分光反射率は、好ましくは40%以上、より好ましくは45%以上、更に好ましくは50%以上、一層好ましくは55%以上であり、例えば、95%以下、更には90%以下であることも許容される。
【0064】
前記無機黄色系顔料の近赤外線反射率は、好ましくは40%以上、より好ましくは45%以上、更に好ましくは50%以上、一層好ましくは55%以上であり、例えば、90%以下、更には85%以下であることも許容される。
【0065】
前記無機黄色系顔料の波長905nm及び/又は1,550nmにおける分光反射率は、好ましくは20%以上、より好ましくは25%以上であり、例えば、90%以下、更には85%以下であることも許容される。
【0066】
前記黄色系顔料としては、例えば、有機黄色系顔料として、Symuler Fast Yellow 4192(DIC社製)、HOSTAPERM YELLOW H3G(クラリアントジャパン社製)等を挙げることができる。例えば、無機黄色顔料として、シコパールイエロー L-1110、シコパールイエロー L-1100(いずれもBASF社製)、TAROX 合成酸化鉄 YM1100(チタン工業社製)等を挙げることができる。
【0067】
前記顔料(B1)としての有彩色顔料としては、赤色系顔料、青色系顔料及び黄色系顔料を含むことが好ましい。例えば、黄色系顔料としてのSymuler Fast Yellow 4192(DIC社製)と、赤色系顔料としてのFastogen Red 7100Y(DIC社製)と、青色系顔料としてのリオノールブルー FG7980(トーヨーカラー社製)とを混合したもの等を挙げることができる。
【0068】
前記赤色系顔料、青色系顔料及び黄色系顔料の合計の含有率は、前記有彩色顔料中、例えば、20質量%以上、好ましくは30質量%以上であり、上限は100質量%である。
【0069】
前記有彩色顔料の含有率は、前記顔料(B1)中、例えば、0質量%以上であってよく、1質量%以上であってよく、5質量%以上であってよい。また、例えば、100質量%以下であってよく、70質量%以下であってよく、50質量%以下であってよく、25質量%以下であってよく、20質量%以下であってよく、18質量%以下であってよい。
【0070】
前記無彩色顔料は、彩度が0である顔料がいずれも含まれる。前記無彩色顔料としては、白色系顔料、灰色系顔料、黒色系顔料を挙げることができ、白色系顔料及び黒色系顔料を含む。
【0071】
前記顔料(B1)としての白色系顔料の近赤外線反射率は、好ましくは60%以上、より好ましくは65%以上、更に好ましくは70%以上、一層好ましくは75質量%以上であり、例えば、99%以下、更には90%以下であることも許容される。
【0072】
前記白色系顔料としては、例えば、酸化チタンであるTIPAQUE CR-97、TIPAQUE CR-95(いずれも石原産業社製)、タイピュアR-902(デュポン社製)等を挙げることができる。
【0073】
前記白色系顔料の波長905nm及び/又は1,550nmにおける分光反射率は、好ましくは60%以上、より好ましくは65%以上、更に好ましくは70%以上、一層好ましくは75質量%以上であり、例えば、99%以下、更には90%以下であることも許容される。
【0074】
前記白色系顔料の含有率は、前記顔料(B1)中、例えば、0質量%以上であってよく、1質量%以上であってよく、3質量%以上であってよい。また、100質量%以下であり、99質量%以下であってよく、90質量%以下であってよく、例えば、60質量%以下であってよく、55質量%以下であってよく、50質量%以下であってよい。
【0075】
前記顔料(B1)としての黒色系顔料の近赤外線反射率は、好ましくは5%以上、より好ましくは8%以上、更に好ましくは10%以上、一層好ましくは15%以上であり、例えば、90%以下、更には85%以下であることも許容される。
【0076】
前記黒色系顔料の波長905nm及び/又は1,550nmにおける分光反射率は、好ましくは5%以上、より好ましくは8%以上、更に好ましくは10%以上、一層好ましくは15%以上であり、例えば、90%以下、更には85%以下であることも許容される。
【0077】
前記黒色系顔料としては、有機顔料及び/又は無機顔料を用いることができる。前記有機顔料の含有率は、前記黒色系顔料中、0質量%であってよく、1質量%以上であってよく、20質量%以上であってよい、また、50質量%以下であってよく、上限は100質量%である。
【0078】
前記有機黒色系顔料の近赤外線反射率は、好ましくは20%以上、より好ましくは30%以上、更に好ましくは35%以上、一層好ましくは40%以上であり、例えば、80%以下、更には70%以下であることも許容される。
【0079】
前記有機黒色系顔料の波長905nm及び/又は1,550nmにおける分光反射率は、好ましくは40%以上、より好ましくは50%以上、更に好ましくは55%以上、一層好ましくは60%以上であり、例えば、90%以下、更には85%以下であることも許容される。
【0080】
前記無機黒色系顔料の近赤外線反射率は、好ましくは30%以上、より好ましくは40%以上であり、例えば、80%以下、更には70%以下であることも許容される。
【0081】
前記無機黒色系顔料の波長905nm及び/又は1,550nmにおける分光反射率は、好ましくは5%以上、より好ましくは10%以上、例えば、85%以下、更には80%以下であることも許容される。
【0082】
前記黒色系顔料としては、例えば、無機黒色系顔料として、ダイピロキサイドカラー ブラック 9590、ダイピロキサイドカラー ブラウン 9290、ダイピロキサイドカラー ブラウン 9211(いずれも大日精化工業社製)、Black 411(The Shepherd Color Company社製)、ブラック 6350(アサヒ化成工業)、有機黒色系顔料として、クロモファインブラックAー1103(大日精化工業社製)、Fastogen Super Black MX(DIC社製)、パリオゲン ブラック S0084、パリオトール ブラック L0080(いずれもBASF社製)、ホスターパームブラウン HFR-01(クラリアントジャパン社製)等を挙げることができる。
【0083】
前記黒色系顔料の含有率は、前記顔料(B1)中、0質量%以上であってよく、1質量%以上であってよく、5質量%以上であってよい。また、例えば、50質量%以下であってよく、45質量%以下であってよく、40質量%以下であってよい。
【0084】
前記白色系顔料及び黒色系顔料の合計の含有率は、前記無彩色顔料中、例えば、50質量%以上、好ましくは60質量%以上であり、上限は100質量%である。
【0085】
前記無彩色顔料の含有量は、前記有彩色顔料100質量部に対して、0質量部以上であってよく、10質量部以上であってよく、50質量部以上であってよい。また、例えば、20,000質量部以下であってよく、10,000質量部以下であってよく、5,000質量部以下であってよく、2,500質量部以下であってよい。
【0086】
前記顔料(B1)としては、1種を用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0087】
一実施態様において、前記顔料(B1)は、近赤外線反射率が60%以上である白色系顔料、近赤外線反射率が50%以上である有彩色顔料、及び、近赤外線反射率が5%以上である黒色系顔料からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む。前記顔料(B1)が、これらの顔料を含むことで、得られる塗膜のLiDAR技術における近赤外線の検出精度を高めることが可能であり、好ましくは、低明度でありながら、LiDAR技術における近赤外線の検出精度を高めることが可能である。
【0088】
前記顔料(B1)は、近赤外線反射率が60%以上である白色系顔料、近赤外線反射率が50%以上である青色系顔料、近赤外線反射率が50%以上である赤色系顔料、近赤外線反射率が50%以上である黄色系顔料及び近赤外線反射率が30%以上である黒色系顔料からなる群から選択される少なくとも1種を含むことが好ましく;波長905nm及び/又は1,550nmにおける分光反射率が70%以上である白色系顔料、波長905nm及び/又は1,550nmにおける分光反射率が40%以上である青色系顔料、波長905nm及び/又は1,550nmにおける分光反射率が50%以上である有機赤色系顔料、波長905nm及び/又は1,550nmにおける分光反射率が20%以上である無機赤色系顔料、波長905nm及び/又は1,550nmにおける分光反射率が60%以上である有機黄色系顔料、波長905nm及び/又は1,550nmにおける分光反射率が20%以上である無機黄色系顔料及び波長905nm及び/又は1,550nmにおける分光反射率が50%以上である有機黒色系顔料、波長905nm及び/又は1,550nmにおける分光反射率が15%以上である無機黒色系顔料からなる群より選択される少なくとも1種を含むことがより好ましい。
【0089】
前記顔料(B1)の合計の含有率は、前記着色顔料(B)中、20質量%以上であってよく、30質量%以上であってよく、50質量%以上であってよい。また、例えば、100質量%以下であってよく、98質量%以下であってよく、95質量%以下であってよい。
【0090】
前記着色顔料(B)は、前記塗料組成物から得られる塗膜の近赤外反射率及び分光反射率に影響を及ぼさない範囲で、前記顔料(B1)以外の着色顔料(b)を含んでいてもよい。前記着色顔料(b)としては、カラーインデックスでピグメントに分類される化合物のうち、前記顔料(B1)以外のものをいずれも用いることができる。前記着色顔料(b)としては、例えば、有機系黒色顔料等が挙げられ、例えば、カーボンブラック等が挙げられる。前記着色顔料(b)の含有率(顔料質量濃度)は、前記着色顔料(B)中、1質量%以下であってよく、0.5質量%以下であってよく、0.1質量%以下であってよい。
【0091】
前記顔料(B)の含有率(顔料質量濃度)は、前記塗膜形成樹脂(A)と前記顔料(B)の合計中、好ましくは10質量%以上、より好ましくは15質量%以上、更に好ましくは20質量%以上であり、好ましくは55質量%以下、より好ましくは50質量%以下、更に好ましくは45質量%以下である。
【0092】
前記塗料組成物により得られる塗膜の明度(L*値)が80以下であることが好ましく、例えば、5以上であってよい。また、例えば、70以下であってよく、15以上であってよい。本発明の塗料組成物を用いることで、塗膜の明度(L*値)が低い場合でも、LiDAR技術における視認性を維持できる。なお塗膜の明度(L*値)は、塗膜の厚さ(膜厚)により変化する場合がある。
【0093】
本明細書において、塗膜の明度は、前記顔料を含む塗膜の明度と同様の方法で測定することができる。詳細には、後述する顔料の近赤外反射率及び分光反射率の測定例1に記載する前記顔料、樹脂及び溶媒を、顔料質量濃度が3~50質量%となるように混合し、回転数1,800rpmで60分間、分散機を用いて分散し分散体とした後、下地として白黒隠ぺい率試験紙(日本テストパネル社製)を使用し、乾燥後の厚さが約100μmとなるように塗布し、60℃で20分間乾燥させて乾燥塗膜とする。得られた塗膜について、JIS K 5600-4-4の3.2及びJIS K 5600-4-5に準拠して得られた乾燥塗膜の下地が白色部分の明度を測定し、前記の明度とすることができる。前記明度は、例えば、色彩色差計CM-600d(コニカミノルタ社製)を用いて測定することができる。
【0094】
目的とする前記塗膜の明度をL*としたとき、前記L*と前記各顔料の顔料質量濃度との範囲の関係は次式で表される。すなわち、前記各顔料の顔料質量濃度は、以下の式を充足する範囲であってよい。また、L*は、塗膜の明度として前記した範囲の値を取り得る。
L*=0.7(W)-0.6(IR)-5.5(OR)+0.4(IY)-3.2(OY)-5.7(OB)-0.2(IBL)-0.3(OBL)+48.5 …式(1)
ここで、(W)は白色系顔料の顔料質量濃度(質量%)、(IR)は無機赤色系顔料の顔料質量濃度(質量%)、(OR)は有機赤色系顔料の顔料質量濃度(質量%)、(IY)は無機黄色系顔料の顔料質量濃度(質量%)、(OY)は有機黄色系顔料の顔料質量濃度(質量%)、(OB)は青色系顔料の顔料質量濃度(質量%)、(IBL)は無機黒色系顔料の顔料質量濃度(質量%)、(OBL)は有機黒色系顔料の顔料質量濃度(質量%)である。
【0095】
目的とする塗膜の近赤外反射率をX(%)としたとき、前記X(%)と前記各顔料の顔料質量濃度との関係は次式で表される。すなわち、前記各顔料の顔料質量濃度は、以下の式を充足する範囲であってよい。また、X(%)は、塗膜の近赤外線反射率として前記した範囲の値を取り得る。
=0.5(W)-1.4(IR)+0.1(OR)-0.6(IY)-1.8(OY)-3.1(OB)-0.2(IBL)-13.2(OBL)+61.0 …式(2)
【0096】
目的とする塗膜の波長905nmにおける分光反射率をY(%)としたとき、と前記各顔料の顔料質量濃度との関係は次式で表される。すなわち、前記各顔料の顔料質量濃度は、以下の式を充足する範囲であってよい。また、Y(%)は、塗膜の波長905nmにおける分光反射率として前記した範囲の値を取り得る。
=0.6(W)-2.9(IR)+3.5(OR)-1.2(IY)-0.9(OY)-3.0(OB)-0.8(IBL)-1.2(OBL)+68.0 …式(3)
【0097】
目的とする塗膜の波長1,550nmにおける分光反射率をZ(%)としたとき、前記Z(%)と前記各顔料の顔料質量濃度との関係は次式で表される。すなわち、前記各顔料の顔料質量濃度は、以下の式を充足する範囲であってよい。また、Z(%)は、塗膜の波長905nmにおける分光反射率として前記した範囲の値を取り得る。
=0.3(W)-0.2(IR)-2.4(OR)-0.2(IY)-1.4(OY)-2.0(OB)+0.1(IBL)-8.5(OBL)+68.0 …式(4)
【0098】
前記塗膜の明度は、80以下であってよい。その際の各顔料質量濃度の組み合わせは式(1)によって種々計算される。その組み合わせのうち、式(2)~式(4)により、近赤外線反射率、波長905nmにおける分光反射率及び波長1,550nmにおける分光反射率を所望の値以上(例えば、15%以上)とする各顔料濃度の組み合わせを算出することができる。
【0099】
[架橋剤(C)]
前記塗料組成物は、前記塗膜形成樹脂(A)及び前記顔料(B)に加えて、架橋剤(C)を含んでいてもよい。前記架橋剤(C)は、化学結合及び/又は物理結合を形成することにより、塗膜形成樹脂(A)中に架橋構造を形成しうる化合物であり、ヒドロキシ基、カルボキシ基、アミノ基等の活性水素原子を有する基を1分子中に2個以上有する化合物;或いは、前記活性水素原子を有する基と反応しうる基を1分子中に2個以上有する化合物;等を挙げることができる。前記塗膜形成樹脂(A)に、活性水素原子を有する基又は前記活性水素原子を有する基と反応しうる基を有する場合、架橋剤(C)と反応して、塗膜形成樹脂(A)中に、架橋構造が形成されうる。
【0100】
前記架橋剤(C)としては、ポリイソシアネート化合物;ブロックポリイソシアネート化合物;アミノ樹脂;フェノール樹脂;ポリカルボン酸等を挙げることができる。これらは、1種を用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0101】
前記ポリイソシアネート化合物は、1分子中に2個以上のイソシアネート基を有する化合物を意味する。前記ポリイソシアネートとしては、2,4-トリレンジイソシアネート、2,6-トリレンジイソシアネート、及びその混合物、ジフェニルメタン-4,4’-ジイソシアネート、ジフェニルメタン-2,4’-ジイソシアネート、及びその混合物、ナフチレン-1,5-ジイソシアネート、3,3’-ジメチル-4,4’-ビフェニレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート等の芳香族ポリイソシアネート;ジシクロへキシルメタンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、水素化キシリレンジイソシアネート等の脂環式ポリイソシアネート;へキサメチレンジイソシアネート等の脂肪族ポリイソシアネート等を挙げることができる。
【0102】
前記ブロックポリイソシアネート化合物(以下、「BI」ということもある)は、前記イソシアネート化合物のイソシアネート基をブロック化剤でブロックした化合物を意味する。
【0103】
前記ブロック化剤は、活性水素含有化合物を有する化合物であればよく、例えば、フェノール、クレゾール、キシレノール等のフェノール化合物;ε-カプロラクタム、δ-バレロラクタム、γ-ブチロラクタム等のラクタム化合物;メタノール、エタノール、n-,i-又はt-ブチルアルコール等の脂肪族アルコール化合物;エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル等のグリコールエーテル化合物;ベンジルアルコール等の芳香族アルコール化合物;ホルムアミドキシム、アセトアルドキシム、アセトキシム、メチルエチルケトキシム、ジアセチルモノオキシム、ベンゾフェノンオキシム、シクロヘキサンオキシム等のオキシム化合物;マロン酸ジメチル、マロン酸ジエチル、アセト酢酸エチル、アセチルアセトン等の活性メチレン化合物等を用いることができる。前記ポリイソシアネート化合物と前記ブロック化剤とを混合することで、前記ポリイソシアネート化合物のフリーのイソシアネート基をブロックすることができる。
【0104】
前記アミノ樹脂は、アミノ基を有する化合物にアルデヒドを付加重合することにより得られる樹脂を意味する。前記アミノ樹脂は、前記塗膜形成樹脂(A)との架橋反応性に優れ、特に無触媒下においても前記塗膜形成樹脂(A)との架橋反応性に優れており好ましい。
【0105】
前記アミノ樹脂としては、メラミン樹脂、尿素樹脂等を挙げることができ、メラミン樹脂が好ましい。
【0106】
前記メラミン樹脂は、メラミンとアルデヒドから合成される熱硬化性の樹脂を意味する。前記メラミン樹脂は、トリアジン核とトリアジン核1つあたり3つの反応性官能基(-NX)を有する。前記メラミン樹脂としては、反応性官能基として-N(CHOR)〔Rは炭素数1以上8以下のアルキル基を示す、以下同じ〕のみを含む完全アルキル化型;反応性官能基として-N(CHOR)(CHOH)を含むメチロール基型;反応性官能基として-N(CHOR)(H)を含むイミノ基型;反応性官能基として、-N(CHOR)(CHOH)と-N(CHOR)(H)とを含む、あるいは-N(CHOH)(H)を含むメチロール/イミノ基型の4種類が挙げられる。前記メラミン樹脂としては、1種を用いてもよく、2種以上を併用してもよい。前記架橋剤(C)として前記メラミン樹脂と前記ポリイソシアネート化合物を併用してもよい。また、必要に応じて、錫化合物、チタン化合物等の金属触媒を用いてもよい。
【0107】
前記フェノール化合物としては、例えば、ビスフェノールAとエピクロロヒドリンとの縮合反応物、ビスフェノールFとエピクロロヒドリンとの縮合反応物等のグリシジルエーテル型樹脂;脂環式エポキシ樹脂、直鎖状脂肪族エポキシ樹脂、含ブロムエポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂;等を挙げることができる。
【0108】
前記ポリカルボン酸は、1分子中に2個以上のカルボキシ基を有する化合物を意味する。前記ポリカルボン酸としては、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、トリメリット酸、ピロメリット酸等の芳香族ポリカルボン酸;テトラヒドロフタル酸、ヘキサヒドロフタル酸、メチルテトラヒドロフタル酸、シクロヘキサン-1,4-ジカルボン酸、5-ノルボルネン-2,3-ジカルボン酸、メチル-5-ノルボルネン-2,3-ジカルボン酸等の脂環式ポリカルボン酸;マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、コハク酸、ドデセニルコハク酸等の脂肪族ポリカルボン酸;乳酸糖のヒドロキシ酸;前記芳香族ポリカルボン酸、前記脂環式ポリカルボン酸、前記脂肪族ポリカルボン酸の無水物;等が挙げられる。
【0109】
一実施態様において、前記架橋剤(C)としては、ポリイソシアネート化合物、ブロックポリイソシアネート化合物及びアミノ樹脂からなる群より選択される1種以上が好ましい。
【0110】
前記架橋剤(C)の含有量は、前記塗膜形成樹脂(A)100質量部と前記架橋剤(C)の合計100質量部中、例えば、3質量部以上であってよく、10質量部以上であってよく、15質量部以上であってよく、20質量部以上であってよい。また、例えば、50質量部以下であってよく、40質量部以下であってよく、35質量部以下であってよく、30質量部以下であってよい。
【0111】
前記塗膜形成樹脂(A)と前記架橋剤(C)の合計の含有率は、前記塗料組成物の固形分中、好ましくは30質量%以上、より好ましくは40質量%以上、更に好ましくは50質量%以上であり、好ましくは95質量%以下、より好ましくは90質量%以下、更に好ましくは85質量%以下、一層好ましくは80質量%以下である。
【0112】
[溶媒(D)]
前記塗料組成物は、更に、溶媒(D)を含んでいてもよい。前記溶媒は、水性媒体(D1)及び/又は有機溶剤(D2)を含むことが好ましい。
【0113】
前記水性媒体(D1)としては、水、親水性溶媒及び水と親水性溶媒との混合物が挙げられる。
【0114】
前記親水性溶媒としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコール等のグリコール系溶剤;エチレングリコールモノブチルエーテル(ブチルセロソルブ)、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のグリコールエーテル系溶剤;メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール系溶剤;アセトン等のケトン系溶剤;並びに、N-メチル-2-ピロリドン等を挙げることができる。このような親水性溶媒を用いることで、得られる塗料組成物の基材との濡れ性が良好になるという利点がある。
【0115】
前記有機溶剤(D2)としては、例えば、ジオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル系溶剤;3-メトキシブチルアセテート、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル等のエステル系溶媒;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、イソホロン等のケトン系溶剤;並びに、トルエン、T-SOL 100、T-SOL 150(いずれもエクソン化学社製)等の芳香族炭化水素系溶剤;ペンタン、iso-ペンタン、ヘキサン、iso-ヘキサン、シクロヘキサン等の炭化水素系溶剤;ソルベントナフサ、ミネラルスピリット等の鉱油を挙げることができる。これらは、1種を用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0116】
前記塗料組成物は、溶媒(D)として主に水性媒体(D1)を含む水性塗料組成物であってもよく、溶媒(D)として主に有機溶剤(D2)を含む溶剤系塗料組成物であってよい。前記塗料組成物が水性塗料組成物である場合、前記水性媒体(D1)の含有率は、前記溶媒(D)中、好ましくは50質量%以上、より好ましくは70質量%以上であり、好ましくは100質量%以下である。前記塗料組成物が溶剤系塗料組成物である場合、前記有機溶剤(D2)の含有率は、前記溶媒(D)中、好ましくは50質量%以上、より好ましくは70質量%以上であり、好ましくは100質量%以下である。
【0117】
前記溶媒(D)の含有率は、前記塗料組成物中、好ましくは0質量%以上、より好ましくは10質量%以上、更に好ましくは30質量%以上であり、好ましくは70質量%以下、より好ましくは60質量%以下である。
【0118】
前記塗料組成物は、水系塗料であってもよく、有機溶剤系の塗料であってもよく、無溶剤系、例えば、粉体塗料であってよい。
【0119】
前記塗料組成物は、更に、その他の添加剤を含んでいてもよい。前記その他の添加剤としては、例えば、表面調整剤;体質顔料;染料等の着色剤;ワックス;光輝性顔料;充填剤(特に、微粒子状の充填剤等);紫外線吸収剤(ベンゾフェノン系紫外線吸収剤等);酸化防止剤(フェノール系、スルフォイド系、ヒンダードアミン系酸化防止剤等);可塑剤;カップリング剤(シラン系、チタン系、ジルコニウム系カップリング剤等);タレ止め剤;増粘剤;顔料分散剤;顔料湿潤剤;レベリング剤;色分かれ防止剤;沈殿防止剤;消泡剤;凍結防止剤;乳化剤;防腐剤;防かび剤;抗菌剤;安定剤等がある。これらの添加剤は、1種を用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0120】
前記光輝性顔料としては、例えば、マイカ、アルミニウム箔、スズ箔、金箔、銀箔、チタン金箔、ステンレススチール箔、ニッケル・銅等の金属箔等を挙げることができる。
【0121】
前記充填剤としては、例えば、SiO、TiO、Al、Cr、ZrO、Al・SiO、3Al・2SiO、ケイ酸ジルコニア、セラミックビーズ等の微粒子;繊維状又は粒状の微細ガラス;ガラスビーズ;樹脂ビーズ等を挙げることができる。前記樹脂ビーズを構成する樹脂としては、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリエチレン樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、フッ素樹脂、ポリアクリロニトリル樹脂等が挙げられる。また、前記微粒子状とは、粒子状、球状又は中空球状であることを表す。前記樹脂ビーズは、球状であることが好ましい。
【0122】
前記充填剤の平均粒子径は、例えば、100nm以上であってよく、500nm以上であってよい。また、500μm以下であってよく、200μm以下であってよい。なお、本明細書中において、平均粒子径は、体積平均粒子径(D50)を意味し、レーザードップラー式粒度分析計(例えば、日機装社製のマイクロトラックUPA150等)を用いて測定することができる。
【0123】
前記塗料組成物は、前記塗膜形成樹脂(A)及び前記顔料(B)並びに必要に応じて用いる架橋剤(C)及びその他の添加剤を、必要に応じて用いる前記溶媒(D)中に溶解又は分散させることによって調製することができる。また、用いる各種材料の混合順序は特に限定されず、例えば、前記顔料(B)と前記塗膜形成樹脂(A)の一部とを予め混合し顔料ペーストとした後、残りの成分及び必要に応じて用いるそれ以外の成分と混合して塗料組成物を製造してもよい。本明細書の塗料組成物は、例えば、サンドグラインドミル、ボールミル、ブレンダー、ペイントシェーカー又はディスパー等の混合機、分散機、混練機等を選択して使用し、各成分を混合することにより、調製することができる。
【0124】
前記塗料組成物により得られる塗膜においては、明度(L*値)が80以下であってよく、例えば、70以下であってよい。また、例えば、5以上であってよく、15以上であってよい。
【0125】
前記塗膜の明度は、例えば、JIS K 5600-4-4の3.2及びJIS K 5600-4-5に準拠して、色彩色差計を用いて測定することができる。色彩色差計としては、例えば、CM-600d(コニカミノルタ社製)を用いて測定することができる。
【0126】
本明細書において、明度、近赤外線反射率及び分光反射率を測定する際の塗膜は、例えば、以下の方法により形成することができる。
前記塗料組成物を、乾燥後の厚さが30μm以上2,000μm以下となるように、下地としての白黒隠ぺい率試験紙(日本テストパネル社製)に塗布し、20℃以上200℃以下の加熱温度で、10分以上24時間以下加熱して、乾燥塗膜を得る。明度(L*値)を測定する部分は、得られた乾燥塗膜の下地が白色である部分の明度としてよい。
【0127】
近赤外線の波長域は、可視光域と近いため、近赤外線反射率が高い塗料組成物は、可視光の反射率が高く、明度も高くなる傾向がある。一般的には、明度(L*値)が80を下回ると近赤外反射率が低下する傾向にあり、LiDAR視認性が低下する傾向にある。しかしながら、前記塗料組成物は、前記構成を有することで、明度を低くしつつ、近赤外線反射率を高めることが容易である。
【0128】
前記方法により測定される塗料組成物の明度は、例えば、90以下であってよく、80以下であってよい。また、3以上であってよく、5以上であってよい。
【0129】
前記塗料組成物により得られる塗膜においては、算術平均高さ(Sa)が1μm以上であるか、又は、二乗平均平方根高さ(Sq)が1μm以上であることが好ましい。さらに好ましくはSaが3μm以上であるか、又は、Sqが5μm以上、より好ましくはSaが5μm以上であるか、又は、Sqが10μm以上である。このような範囲内である場合、LiDAR視認性が良好となるという利点がある。
【0130】
前記塗膜の表面粗さは、JIS B 0601に準拠して測定することができる。表面粗さ測定に基づいて算術平均高さ、二乗平均平方根高さをそれぞれ算出して、前記塗膜の算術平均高さ(Sa)、二乗平均平方根高さ(Sq)とする。前記表面粗さは、例えば、レーザー顕微鏡(例えば、キーエンス社製のレーザー顕微鏡VK-X200等)を用いて測定することができる。
【0131】
なお、算術平均高さ(「Sa」ともいう)は、塗膜の表面の粗さを示すパラメータであり、塗膜の表面の平均面に対して、各点の高さの差の絶対値の平均を表す。Saが小さい場合には、塗膜表面はより平坦であることを意味し、Saが大きい場合には、塗膜表面はより凹凸が大きいことを意味する。また、二乗平均平方根高さ(「Sq」ともいう)は、塗膜の表面の平均面からの距離の標準偏差に相当するパラメータである。
【0132】
前記塗膜は、例えば、以下の方法により形成することができる。
前記塗料組成物を、乾燥後の厚さが30μm以上2,000μm以下となるようにブリキ板(TP技研社製)に塗布し、20℃以上200℃以下の加熱温度で、10分以上24時間以下加熱して、乾燥塗膜を得る。
【0133】
前記塗料組成物から形成される塗膜も本発明の技術的範囲に包含される。
【0134】
前記塗膜の近赤外線反射率は、好ましくは15%以上、より好ましくは30%以上、更に好ましくは35%以上であり、例えば、99%以下、更には90%以下であることも許容される。
【0135】
前記塗膜の波長905nm及び/又は1,550nmにおける分光反射率は、好ましくは20%以上、より好ましくは30%以上、更に好ましくは35%以上であり、例えば、99%以下、更には90%以下であることも許容される。
【0136】
前記塗膜の近赤外線反射率、波長950nm及び/又は1,550nmにおける分光反射率は、例えば、顔料の近赤外線反射率の測定に際し、顔料を含む塗膜について近赤外線反射率を測定する方法として記載した方法と同様の方法に従って測定することができる。
【0137】
前記塗膜は、例えば、以下の方法により形成することができる。
前記塗料組成物を、乾燥後の厚さが30μm以上2,000μm以下となるように、下地として白黒隠ぺい率試験紙(日本テストパネル社製)に塗布し、20℃以上200℃以下の加熱温度で、10分以上24時間以下加熱して、乾燥塗膜を得る。
【0138】
前記塗膜の被塗物としては、金属板及び金属板からなる部材並びにプラスチック部材、無機材料部材、木質部材、道路面等の舗装体等が挙げられる。
【0139】
前記金属板としては、例えば、溶融法又は電解法等により製造される亜鉛めっき鋼板、亜鉛-アルミニウム合金めっき鋼板、アルミニウム合金めっき鋼板、溶融亜鉛-アルミニウム-マグネシウム合金めっき鋼板、ステンレス鋼板、冷延鋼板等の金属板が挙げられる。また、これら鋼板又はめっき鋼板以外に、アルミニウム板(アルミニウム合金板を含む)等の金属板も塗装対象とすることができる。前記金属板は、表面処理されていることが好ましい。具体的には、前記金属板は、アルカリ脱脂処理、湯洗処理、水洗処理等の前処理が施された後に、化成処理が施されていることが好ましい。化成処理は公知の方法で行ってよく、その例にはクロメート処理、リン酸亜鉛処理等の非クロメート処理等が含まれる。前記表面処理としては、使用する鋼板に応じて適宜選択することができるが、重金属を含まない処理が好ましい。
【0140】
前記プラスチック部材としては、例えば、アクリル板、ポリ塩化ビニル板、ポリカーボネート板、ABS板、ポリエチレンテレフタレート板、ポリオレフィン板等を挙げることができる。
【0141】
前記無機質部材としては、例えば、JIS A 5422、JIS A 5430等に記載された窯業建材、ガラス基材等を挙げることができ、例えば、珪カル板、パルプセメント板、スラグ石膏板、炭酸マグネシウム板、石綿パーライト板、木片セメント板、硬質木質セメント板、コンクリート板、軽量気泡コンクリート板等を挙げることができる。
【0142】
前記木質部材としては、例えば、製材、集成材、合板、パーティクルボード、ファイバーボード、改良木材、薬剤処理木材、床板等を挙げることができる。
【0143】
前記道路面等の舗装体としては、例えば、アスファルト舗装、コンクリート舗装、レンガ舗装等を挙げることができる。
【0144】
前記被塗物の具体例としては、自動車の自動運転の際に障害となり得る構造物、物品等が挙げられる。例えば、販売される各種商品、走行路、道路構造物(例えば、舗装、路面標示、歩道、横断歩道、排水施設、平面交差構造、橋梁、土工、トンネル、待避所、交通安全施設(例えば、立体横断施設、ガードレール、ガードポール、防護柵、照明施設、視線誘導標、道路反射鏡等)、交通島、停留所、駐車帯、駐車場等)、各種建築構造物及びその内部設備、鉄道構造物、各種防護施設、各種車両及びその付属物、歩行者着用物、電柱、各建築構造物の内壁等が挙げられる。
【0145】
前記塗膜は、被塗物に前記塗料組成物を塗装して塗装膜を形成し、前記塗装膜を常温で、又は必要に応じて加熱して、乾燥及び/又は硬化させることで形成することができる。
【0146】
前記塗装は、例えば、スプレー塗装法、バーコーター塗装法、エアナイフ塗装法、グラビア塗装法、ハケ塗り法、エアーガン塗装法、エアー静電ガン塗装法、ディップ塗装法等の塗装方法によって実施することができる。
【0147】
前記塗膜の厚さは、例えば、10~100μmとすることができる。
【0148】
塗装膜を加熱して、乾燥及び/又は硬化させる場合、加熱温度は、例えば、70~180℃であるのが好ましく、80~140℃であるのがより好ましい。加熱時間は、例えば、10~60分間であるのが好ましく、15~45分間であるのがより好ましい。加熱手段はとしては、熱風加熱、赤外線加熱、誘導加熱等を採用することができる。
【0149】
更に、前記塗膜を用いる近赤外光を用いたセンシング方法も、本発明の技術的範囲に包含される。
例えば、走行する車両から特定波長の近赤外線を照射して、検出対象物にそれが反射し、その反射光を検出して、反射に掛かる時間に基づいて車両から塗装物検出対象物までの距離を算出する、車両と塗装物との距離を測定するセンシング方法(飛行時間測定方式:ToF(Time-of-Flight))において、前記塗装物を、前記塗料組成物を塗装することにより得られるものとすることができる。また、走行する車両から特定波長の近赤外線を照射して、検出対象物にそれが反射し、その反射光を検出して、照射光と反射光との周波数差変化により、車両から検出対象物までの距離を算出する、車両と塗装物との距離を測定するセンシング方法(周波数変調連続波方式:FMCW(Frequency Modulated Continuous Wave))において、前記塗装物を、前記塗料組成物を塗装することにより得られるものとすることができる。
【0150】
前記塗料組成物及び塗膜は、LiDAR技術における近赤外線の検出精度を高めることが可能であって、好ましくは、低明度でありながら、LiDAR技術における近赤外線の検出精度を高めることが可能なであり、近赤外光を用いたセンシングの検出対象物用の塗料及び塗膜として有用である。
【実施例
【0151】
以下の実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0152】
<顔料の近赤外線反射率及び分光反射率の測定例1>
無機赤色系顔料の近赤外線反射率、波長905nm及び/又は1,550nmにおける分光反射率の測定例
塗膜形成樹脂として(A-1)アロセット5534-SB60 21質量部、溶媒として(D2-1)T-SOL 100(エクソン化学社製)6質量部、無機赤色系顔料として(B21-1)トダカラー 120ED 22質量部を混合後、SGミル(媒体:ガラスビーズ)を用いて、顔料の分散粒度が10μm以下になるまで分散した。次に、(A-1)を51質量部加え、ディスパーを用いてかくはんしながら混合し、主剤を得た。
【0153】
架橋剤として(C-1)デュラネートTSA-100 62質量部及び溶媒(D2-1)としてT-SOL 100(エクソン化学社製)38質量部を、ディスパーでかくはんしながら混合し、硬化剤を得た。
【0154】
前記で得られた主剤及び硬化剤を、質量比9:1で混合し、塗料組成物を得た(顔料質量濃度:30質量%)。得られた塗料組成物を白黒隠ぺい率試験紙(日本テストパネル社製)上に、8milドクターブレードを用いて、乾燥膜厚が50μmとなるように塗装し、60℃で20分乾燥後、常温で1日静置し、塗膜を得た。
【0155】
得られた塗膜について、下地が白色の部分について、分光光度計(島津製作所製、SHIMADZU-UV3600)を用いて、JIS K-5602に準拠した方法で800~2,500nmの波長域における反射率を波長2nm毎に測定した。得られた各波長における反射率の算術平均値を無機赤色顔料の近赤外線反射率とした。また、905及び1,550nmの近赤外反射率は、各波長におけるそれぞれの分光反射率の値である。
【0156】
その他の顔料の近赤外線反射率は、各顔料の種類及び顔料質量濃度を表1に記載の量とした以外は、前記顔料の近赤外線反射率及び分光反射率の測定例1と同様にして、各顔料の近赤外線反射率及び分光反射率を測定した。
【0157】
【表1】
【0158】
<製造例1>
白色系顔料ペーストの製造例
塗膜形成樹脂として(A-1)アロセット5534-SB60 22質量部と、溶媒として(D2-1)T-SOL 100(エクソン化学社製) 7質量部、白色系顔料として(B1-1)TIPAQUE CR-97 34質量部を混合後、SGミル(媒体:ガラスビーズ)を用いて、顔料の分散粒度が10μm以下になるまで分散した。次に、(A-1)を37質量部加え、ディスパーを用いてかくはんしながら混合し、白色系顔料ペースト(W-1)を得た。
【0159】
<製造例2~9>
用いる塗膜形成樹脂、溶媒及び顔料の種類及び量を表2に記載のように変更したこと以外は、前記製造例1と同様にして、各顔料の顔料ペーストを得た。
【0160】
【表2】
【0161】
<PWC調整用クリヤーの製造例>
塗膜形成樹脂として(A-1)アロセット5534-SB60 83質量部と、溶媒として(D2-1)T-SOL 100(エクソン化学社製) 17質量部を、ディスパーを用いてかくはんしながら混合し、PWC調整用クリヤーを得た。
【0162】
<実施例1>
前記白色系顔料ペースト(W-1)126.1質量部、前記PWC調整用クリヤー23.8質量部を、ディスパーでかくはんしながら混合し、主剤(S-1)を得た。
【0163】
架橋剤としてデュラネートTSA-100(C-1) 62質量部にT-SOL 100(エクソン化学社製) 38質量部を、ディスパーでかくはんしながら混合し、硬化剤(K-1)を得た。
【0164】
<塗膜(試験片)の製造例1>
前記で得られた主剤(S-1)149.9質量部及び硬化剤(K-1)16.7質量部をディスパーでかくはんしながら混合し、塗料組成物1を得た(顔料質量濃度:42質量%)。得られた塗料組成物1を、白黒隠ぺい率試験紙(日本テストパネル社製)上に、乾燥膜厚が100μmとなるように塗装し、60℃で20分乾燥後、常温で1日静置し、試験片1を得た。なお、主剤(S-1)及び硬化剤(K-1)は、質量比で9:1となるようにした。
【0165】
用いる顔料ペースト、PWC調整用クリヤー、架橋剤及び溶剤の種類及び量を表3に記載のように示す通りに変更したこと以外は、前記塗膜(試験片)の製造例1と同様にして、各塗膜(試験片)を得た。
なお、塗料組成物としてその他の材料を含む場合、その他の材料は、前記主剤を製造する際に、各種顔料ペースト及びPWC調整用クリヤーと共に混合し、主剤を調製した。
【0166】
実施例、比較例に用いた下記表中に示される各成分の詳細は以下のとおりである。
塗膜形成樹脂(A)
(A-1)アロセット5534-SB60(アクリルポリオール樹脂、日本触媒社製):重量平均分子量:50,000、酸価:10mgKOH/g、水酸基価:38mgKOH/g、固形分濃度:60質量%
架橋剤(C)(C-1)デュラネートTSA-100(HDIイソシアヌレート型ポリイソシアネート、旭化成社製);NCO含有量:20.6%、固形分濃度:100質量%
溶媒(D)
(D2-1)T-SOL 100(芳香族炭化水素系溶剤、エクソン化学社製)
その他の材料:
充填剤:ガシルHP395(非晶質シリカ、PQコーポレーション社製);平均粒子径:14.5μm
【0167】
各成分の種類及び量を、表に記載のように変更した以外は、実施例1と同様にして、主剤及び硬化剤をそれぞれ調整し、試験片を得た。
【0168】
<評価方法>
1)塗膜明度
実施例及び比較例で得られた試験片の塗膜表面の明度(L*値)を、JIS K 5600-4-4の3.2及びJIS K 5600-4-5に準拠し、色彩色差計CM-500(コニカミノルタ社製)を用いて測定した。
【0169】
2)近赤外反射率及び分光反射率
実施例及び比較例で得られた試験片について、分光光度計(島津製作所製、SHIMADZU-UV3600)を用いて、JIS K-5602に準拠した方法で800~2,500nmの波長域における反射率を波長2nm毎に測定した。得られた各波長における反射率の算術平均値を塗膜の近赤外線反射率とした。また、905及び1,550nmの近赤外反射率は、各波長におけるそれぞれの分光反射率の値である。
【0170】
3)表面粗さ
実施例及び比較例で得られた試験片の塗膜表面の算術平均高さ(Sa:μm)及び二乗平均平方根高さ(Sq:μm)を、JIS B 0601に準拠し、レーザー顕微鏡VK-X200(キーエンス社製)を用いて測定した。
【0171】
4)LiDAR視認性
実施例及び比較例で得られた試験片を、3m離れた地点からLiDAR Mid-40(Livox社製、波長:905nm)を用いて観察した。イメージング画像で得られる試験片の状態を目視で観察するとともに、試験片全体から任意に選択した10か所の反射率を測定した。その算術平均値を試験片のLiDAR反射率とし、以下の基準により評価した。評点3以上を合格とした。
5:試験片のLiDAR反射率が100以上
4:試験片のLiDAR反射率が50以上100未満
3:試験片のLiDAR反射率が30以上50未満
2:試験片のLiDAR反射率が10以上30未満
1:試験片のLiDAR反射率が10未満
【0172】
【表3】
【0173】
実施例1~11は、本発明の実施例であり、LiDAR技術における検出精度が高く、特に、明度(L*値)が低い場合でも、LiDAR技術における検出精度が高かった。
【0174】
比較例1、2は、顔料として、近赤外線反射率が60%以上である白色系顔料、近赤外線反射率が50%以上である有彩色顔料、及び、近赤外線反射率が30%以上である黒色系顔料のいずれも含まない例であり、明度を低くすることは可能であったものの、LiDAR技術における検出精度が十分に満足できるものではなかった。
【産業上の利用可能性】
【0175】
本発明の塗料組成物及び塗膜は、LiDAR技術における近赤外線の検出精度を高めることが可能であって、好ましくは、低明度でありながら、LiDAR技術における近赤外線の検出精度を高めることが可能なであり、LiDAR技術の検出対象物用の塗料及び塗膜として有用である。
【要約】
【課題】本発明は、LiDAR技術における近赤外線の検出精度を高めることが可能な塗料組成物及び塗膜の提供を課題とする。更に、本発明は、好ましくは、低明度でありながら、LiDAR技術における近赤外線の検出精度を高めることが可能な塗料組成物及び塗膜の提供を課題とする。
【解決手段】本発明の塗料組成物は、近赤外光を用いたセンシングの検出対象物用であり、塗膜形成樹脂(A)及び着色顔料(B)を含む近赤外光を用いたセンシングの検出対象物用塗料組成物であって、前記着色顔料(B)は、800~2,500nmの波長域における反射率を近赤外線反射率としたとき、近赤外線反射率が60%以上である白色系顔料、近赤外線反射率が50%以上である有彩色顔料、及び、近赤外線反射率が30%以上である黒色系顔料からなる群より選ばれる少なくとも1種を含むことを特徴とする。
【選択図】なし