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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-16
(45)【発行日】2022-11-25
(54)【発明の名称】微生物燃料電池及び汚泥分解処理方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/16 20060101AFI20221117BHJP
   C02F 11/02 20060101ALI20221117BHJP
【FI】
H01M8/16
C02F11/02 ZAB
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2018216420
(22)【出願日】2018-11-19
(65)【公開番号】P2020087558
(43)【公開日】2020-06-04
【審査請求日】2021-10-14
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成30年2月21日に、広島大学 大学院先端物質科学研究科分子生命機能科学専攻 平成29年度修士論文発表会にて発表
(73)【特許権者】
【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】柿薗 俊英
(72)【発明者】
【氏名】高垣 俊宏
【審査官】山本 雄一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/073284(WO,A1)
【文献】特表2004-517437(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/00- 8/0297
H01M 8/08- 8/2495
C02F 11/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
微生物を含む汚泥を燃料として発電する微生物燃料電池であって、
上記汚泥を収容する第1槽及び第2槽と、
上記第1槽と上記第2槽とを接続するためのセパレータと、
上記第1槽内の上記汚泥中に配置された負極と、
上記第2槽内の上記汚泥中に配置された正極とを備え
上記セパレータはプロトン交換膜であり、
上記第1槽は嫌気性微生物又は通性嫌気性微生物による汚泥の嫌気性分解処理を行なう槽であり、かつ上記第2槽は空気が供給されて汚泥中に酸素が通気され、好気性微生物又は通性好気性微生物による汚泥の好気性分解処理を行なう槽であり、
上記第1槽及び上記第2槽における汚泥の初期濃度は1g/L~10g/Lであり、
発電中の上記第1槽及び上記第2槽における汚泥のpHは5~10であることを特徴とする微生物燃料電池。
【請求項2】
微生物を含む汚泥を分解して減少させる処理方法であって、
セパレータを介して接続された第1槽及び第2槽を準備し、
上記第1槽に上記汚泥を投入して、該汚泥中に負極を配置し、
上記第2槽に上記汚泥を投入して、該汚泥中に正極を配置し、
上記負極と上記正極とを電気的に接続することで、上記第1槽及び上記第2槽内の汚泥を分解して減少させる処理において、
上記セパレータとしてプロトン交換膜を用い、
上記第1槽において嫌気性微生物又は通性嫌気性微生物による汚泥の嫌気性分解処理を行ない、かつ上記第2槽において空気を供給し汚泥中に酸素を通気して、好気性微生物又は通性好気性微生物による汚泥の好気性分解処理を行ない、
上記第1槽及び上記第2槽に投入する汚泥の初期濃度を1g/L~10g/Lに調整し、
発電中の上記第1槽及び上記第2槽における汚泥のpHを5~10に維持することを特徴とする汚泥分解処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微生物燃料電池及び汚泥分解処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
下水や工場等から排出される廃水を処理する方法として、活性汚泥法が知られている。この活性汚泥法では、図1に示すように、曝気装置を有する曝気槽(浄化槽)に廃水が投入され、活性汚泥と呼ばれる微生物群集により廃水の有機分が資化されて、二酸化炭素まで分解される。その後、浄化槽内の内容物は沈殿槽に移され、重力沈降により分離された上清分は処理水として河川に放流され、沈殿した汚泥は返送汚泥として浄化槽に返送される。
【0003】
この方法では、廃水が微生物により処理される一方、この廃水の有機分を栄養源として微生物が増殖するため、一定量の活性汚泥を系外に引き抜かなければならず、引き抜かれた活性汚泥は余剰汚泥と呼ばれる産業廃棄物となる。この余剰汚泥は、一部が堆肥やメタンガス等に利用されるものの、その半分以上が建設資材等に利用するために焼却処分されており、そのために助燃剤や人件費等のコストが多くかかっている。
【0004】
そこで、余剰汚泥(以下、単に汚泥ともいう)等を有効利用する方法が種々検討されており、その1つに、汚泥等を燃料に微生物を含む反応器を燃料電池として稼働させる微生物燃料電池がある(例えば、特許文献1等を参照)。この微生物燃料電池は、微生物に有機物を分解させて、電子及びプロトンを発生させる。発生した電子を負極により捕集し、回路を通じて正極に移動させ、プロトン及び酸素と反応させて水を生成する。このサイクルを回すことにより、電力を取り出すことができる。同時に、微生物による有機物の分解が進むため、汚泥を減少させることもできる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2007-227216号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の微生物燃料電池では、水の生成反応を促進させてより多くの電力を取り出すために、メディエータと呼ばれる酸化還元反応を仲介する物質が正極溶液に添加されている。メディエータとしては、フェリシアン化カリウム(KFe(CN))等の鉄触媒等が一般に使用されている。このフェリシアン化カリウムは、負極から正極に移動した電子を受け取り、正極溶液に溶けている酸素に電子を伝達する。
【0007】
しかし、フェリシアン化カリウムが劣化して酸化還元反応の効率が低下すると、発電効率が低下するため、正極溶液の交換が必要となる。また、フェリシアン化カリウムはシアンを有するため、正極溶液の廃液処理も別途必要となる。
【0008】
さらに、従来の微生物燃料電池では、微生物による汚泥の分解処理が進むにつれて、汚泥中のプロトンが増加して汚泥のpHが低下する。この場合、発電効率が低下するため、汚泥のpHを調整する必要がある。
【0009】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、正極溶液の交換、廃液処理等の作業や汚泥のpH調整等の作業が不要であり、作業性に優れた微生物燃料電池を実現できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するために、本発明では、負極側のみならず、正極側においても汚泥を分解して減少させるようにした。
【0011】
ここに開示する微生物燃料電池は、微生物を含む汚泥を燃料として発電する微生物燃料電池であって、上記汚泥を収容する第1槽及び第2槽と、上記第1槽と上記第2槽とを接続するためのセパレータと、上記第1槽内の上記汚泥中に配置された負極と、上記第2槽内の上記汚泥中に配置された正極とを備えたことを特徴とする。
【0012】
この微生物燃料電池によれば、第1槽及び第2槽のいずれにも、フェリシアン化カリウム溶液等の正極溶液ではなく、汚泥が投入されるため、正極溶液の交換、廃液処理等の作業が不要となる。また、第1槽内の汚泥中に負極が配置されるとともに、第2槽内の汚泥中に正極が配置され、両極で汚泥が分解処理されることで、pHの調整が不要となる。従って、作業性に優れた微生物燃料電池を実現できる。
【0013】
さらに、この微生物燃料電池によれば、負極側のみならず、正極側においても汚泥を分解して減少させることができるため、多くの量の汚泥を一度に分解処理することができ、作業性のみならず、汚泥の分解処理性能にも優れた微生物燃料電池を実現できる。
【0014】
上記微生物燃料電池の一実施形態では、上記セパレータはプロトン交換膜である。これにより、第1槽及び第2槽間におけるプロトンの移動が可能となるため、プロトンが過剰になり難く、pHの調整がより一層不要となる。
【0015】
上記微生物燃料電池の一実施形態では、上記第1槽は嫌気性処理を行なう槽であり、かつ上記第2槽は空気が供給可能な構造を有する。このように構成することで、第1槽では、微生物による嫌気性処理が行なわれて電子及びプロトンを発生させる一方、第2槽では、空気が供給可能な状態、即ち酸素が通気可能な状態になっているため、酸素と電子及びプロトンとを反応させて水を生成する反応を促進できる。その結果、より多くの電流・電力を取り出すことができる。
【0016】
上記微生物燃料電池の一実施形態では、上記第2槽に空気が供給されている。このように構成することで、第2槽内の汚泥中に空気が供給される、即ち酸素が通気される。その結果、水の生成反応がより一層促進され、より一層多くの電流・電力を取り出すことができる。
【0017】
ここに開示する汚泥分解処理方法は、微生物を含む汚泥を分解して減少させる処理方法であって、セパレータを介して接続された第1槽及び第2槽を準備し、上記第1槽に上記汚泥を投入して、該汚泥中に負極を配置し、上記第2槽に上記汚泥を投入して、該汚泥中に正極を配置し、上記負極と上記正極とを電気的に接続することで、上記第1槽及び上記第2槽内の汚泥を分解して減少させることを特徴とする。
【0018】
この汚泥分解処理方法によれば、第1槽及び第2槽のいずれにも、フェリシアン化カリウム溶液等の正極溶液ではなく、汚泥を投入するため、正極溶液の交換、廃液処理等の作業が不要となる。また、第1槽内の汚泥中に負極を配置するとともに、第2槽内の汚泥中に正極を配置し、負極と正極とを電気的に接続し、両極で汚泥が分解処理されることで、pHの調整が不要となる。従って、作業性に優れる。
【0019】
さらに、この汚泥分解処理方法によれば、負極側のみならず、正極側においても汚泥を分解して減少させることができるため、多くの量の汚泥を一度に分解処理することができ、作業性のみならず、汚泥の分解処理性能にも優れる。
【0020】
上記汚泥分解処理方法の一実施形態では、上記セパレータはプロトン交換膜である。これにより、第1槽及び第2槽間におけるプロトンの移動が可能となるため、プロトンが過剰になり難く、pHの調整がより一層不要となる。
【0021】
上記汚泥分解処理方法の一実施形態では、上記第1槽において嫌気性処理を行ない、かつ上記第2槽を空気が供給可能な状態にする。これにより、第1槽では、微生物による嫌気性処理により電子及びプロトンを発生させる一方、第2槽では、酸素が通気可能な状態になっているため、酸素と電子及びプロトンとを反応させて水を生成する反応を促進できる。その結果、より多くの電流・電力を取り出すことができる。
【0022】
上記汚泥分解処理方法の一実施形態では、上記第2槽に空気を供給する。このように、第2槽内の汚泥中に空気を供給する、即ち酸素を通気することにより、水の生成反応がより一層促進され、より一層多くの電流・電力を取り出すことができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明に係る微生物燃料電池によれば、作業性に優れた微生物燃料電池を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】活性汚泥法による廃水処理フローを示す図である。
図2】本発明の実施形態に係る微生物燃料電池による発電の原理を示す図である。
図3】本発明の実施形態に係る微生物燃料電池の概略構成を示す図である。
図4】発生電流の経時変化を示し、(a)は本発明の実施形態に係る微生物燃料電池(実施例1)のグラフであり、(b)は従来の微生物燃料電池(比較例1)のグラフである。
図5】第1槽(負極槽)における総汚泥量及び汚泥分解率の経時変化を示し、(a)は本発明の実施形態に係る微生物燃料電池(実施例1)のグラフであり、(b)は従来の微生物燃料電池(比較例1)のグラフである。
図6】本発明の実施形態に係る微生物燃料電池(実施例1)の第2槽(正極槽)における総汚泥量及び汚泥分解率の経時変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明を実施するための形態を図面に基づいて説明する。以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0026】
[微生物燃料電池]
図2乃至図3に本実施形態に係る微生物燃料電池1を示す。この微生物燃料電池1は、微生物を含む汚泥を燃料として発電するものであり、同時に、微生物により汚泥を分解処理するものである。
【0027】
なお、本明細書において、汚泥とは、微生物を含む汚泥をいう。より具体的には、例えば、図1に示す下水処理場の活性汚泥、返送汚泥、余剰汚泥等と呼ばれる微生物群集のほか、河川、沼、池、湖及び海等の底に堆積しているヘドロ等も含む。泥とは、主に粘土及びシルト等の粒子や細かい土が水を含んだ状態となっているものをいう。
【0028】
汚泥に含まれている微生物としては、例えば、体外に電子を放出しながら生きる電子生成菌(発電菌)と呼ばれる微生物等が挙げられ、嫌気性か好気性かは問わない。好気性条件下でも嫌気性条件下でも生存可能な通性好気性微生物(又は通性嫌気性微生物)等であってもよい。
【0029】
また、汚泥には有機物が含まれていてもよい。汚泥に含まれている有機物としては、例えば、工場や家庭から排出される廃水等である。
【0030】
図2及び図3に示すように、微生物燃料電池1は、汚泥Sを収容する第1槽2及び第2槽3と、第1槽2と第2槽3とを接続するためのセパレータとしてのプロトン交換膜4と、電極としての負極(アノード)5及び正極(カソード)6とを有している。
【0031】
汚泥Sは、上述のごとく、例えば、下水処理場の返送汚泥等である。汚泥Sの濃度は、第1槽2及び第2槽3内において汚泥Sを均一に撹拌できる濃度であることが好ましく、例えば、1g/L~10g/L程度である。また、上述のごとく、汚泥SのpHが低下すると、発電効率が低下するため、汚泥SのpHは、発電効率の観点から、5~10程度が好ましい。
【0032】
第1槽2は、汚泥Sが収容され、その汚泥S中に負極5が配置された槽、換言すると、負極槽である。また、第1槽2は、嫌気性処理を行なう槽であり、第1槽2の汚泥S内では、微生物(例えば、嫌気性微生物等)による嫌気的な生物学的処理が行なわれ、電子(e)及びプロトン(H)が発生する。その結果、第1槽2内の汚泥Sが分解されて減少する。
【0033】
一方、第2槽3は、第1槽2と同様に、汚泥Sが収容され、その汚泥S中に正極6が配置された槽、換言すると、正極槽である。また、第2槽3は、空気が供給可能な構造としての曝気装置7を有していて、第2槽3内に空気が供給される。これにより、第2槽3は、空気が供給可能な状態、即ち酸素(O)が通気可能な状態になっており、第2槽3内の汚泥S中に空気が供給される、即ち酸素が通気される。このように、第2槽3は、その汚泥S中に酸素が通気されるため、好気性処理を行なう槽ともいえる。換言すると、第2槽3の汚泥S内では、微生物(例えば、好気性微生物、通性好気性微生物等)による好気的な生物学的処理が行なわれるものと考えられる。その結果、第2槽3内の汚泥Sも分解されて減少する。
【0034】
第1槽2及び第2槽3は、絶縁性、かつ微生物の分解を受けない材料であればどのようなものでもよく、例えば、塩化ビニール、アクリル、ポリエチレン、ポリプロピレン等の樹脂パイプとすればよい。特に塩化ビニールパイプは耐久性があり、かつ価格も安いため好ましい。
【0035】
プロトン交換膜4は、第1槽2と第2槽3とを接続するためのものであり、第1槽2内で発生したプロトンがプロトン交換膜4を透過して第2槽3内に移動可能になっている。また、その逆も可能である。これにより、第2槽3において、第1槽2から移動したプロトンと、負極5から回路を通じて正極6に移動した電子と、汚泥S中の酸素とが反応して水(HO)が生成される。
【0036】
プロトン交換膜4を介して第1槽2と第2槽3とを接続する構造としては、例えば、図2に示すように、1つの槽がプロトン交換膜4により第1槽2と第2槽3とに区画された構造、図3に示すように、2つの槽(第1槽2及び第2槽3)がプロトン交換膜4を介して接続された構造等が挙げられる。
【0037】
プロトン交換膜4は、プロトンを選択的に透過する高分子膜であればよく、一般に市販されている陽イオン交換膜等を使用することができる。プロトン交換膜4の直径は、第1槽2及び第2槽3の形状、大きさ等によって決定すればよく、例えば、φ50mm~φ200mm程度である。また、プロトン交換膜4は、発生電流を安定化させて発電効率を向上させる観点から、表面積が大きいものが好ましい。
【0038】
電極としての負極5及び正極6は、上述のごとく、いずれも汚泥S中に配置され、負荷8を介して導線9に各々接続されている。微生物燃料電池1により発生させた電力は、導線9と接続された負荷8において利用することができる。導線9は、例えば、チタン、ニッケル、白金等とすればよく、また汎用のエナメル線等を用いてもよい。
【0039】
負極5及び正極6は、導電性の材料により形成すればよいが、電子を捕集する効果が高く、低コスト化を図ることができるため炭素が好ましい。炭素を電極として用いる場合、表面積を大きくすることが容易であるため、例えば、細かい炭素繊維がモール状に加工された生物膜処理用ひも状接触材〔ティビーアール(株)製、品名:バイオコード(登録商標)〕、炭素繊維からなるカーボンクロス、カーボンフェルト等とすればよい。この場合、導線9を電極に縫い込むことができ、電極との接続が容易となるという利点もある。
【0040】
[汚泥分解処理方法]
本実施形態に係る汚泥分解処理方法は、汚泥Sを分解して減少させる処理方法であり、例えば、上記微生物燃料電池1を用いることにより、容易に実施が可能となる。
【0041】
図2乃至図3に示すように、まず、プロトン交換膜4を介して接続された第1槽2及び第2槽3を準備する。次いで、第1槽2に汚泥Sを投入し、この汚泥S中に負極5を配置する。同様に、第2槽3にも汚泥Sを投入し、汚泥S中に正極6を配置する。そして、負極5と正極6とを電気的に接続する。これにより、第1槽2及び第2槽3内の汚泥Sを分解して減少させることが可能となる。
【0042】
より具体的には、第1槽2において、嫌気性処理を行なう。即ち、第1槽2では、微生物による嫌気性処理により、汚泥Sを分解させて、電子及びプロトンを発生させる。この電子は、負極5から負荷8及び導線9を通じて正極6に移動する。また、プロトンは、第1槽2からプロトン交換膜4を透過して第2槽3に移動する。
【0043】
一方、第2槽3は、空気が供給可能な状態、即ち酸素が通気可能な状態にすることにより、第2槽3内の汚泥S中に空気を供給する、即ち酸素を通気する。これにより、第2槽3では、この酸素と、正極6側に移動した電子及びプロトンとが反応して水が生成される。また、第2槽3の汚泥S中に酸素を通気して、微生物による好気性処理を行なうため、第2槽3、即ち正極6側においても汚泥Sを分解することができる。
【0044】
以上に説明したように、このサイクルを回すことにより、電力を取り出すことができ、同時に、第1槽2(負極5側)及び第2槽3(正極6側)内の汚泥Sを分解して減少させることができる。
【実施例
【0045】
以下に、実施例によって本発明を詳細に説明する。以下の実施例は例示であり、本発明を限定することを意図するものではない。
【0046】
[微生物燃料電池の作製]
図3に示す微生物燃料電池1を作製した。より具体的には、まず、プロトン交換膜4を介して接続された1.8L容の第1槽2(負極槽)と、0.5L容の第2槽3(正極槽)とを準備した。次いで、第1槽2に初期濃度4g/Lの汚泥Sを1.8L投入し、この汚泥S中に負極5を1本配置した。第2槽3にも初期濃度4g/Lの汚泥Sを0.5L投入し、この汚泥S中に正極6を1本配置した。負極5と正極6とを10Ωの金属皮膜抵抗(負荷8)を介して導線9に各々接続させ、電気的に接続させた。
【0047】
また、第1槽2及び第2槽3の底部に設置したマグネットスターラー(図示省略)により、汚泥Sを各々撹拌させた。さらに、曝気装置7により第2槽3内に空気を曝気し、第2槽3内の汚泥S中に酸素を通気するようにした。
【0048】
なお、プロトン交換膜4は、φ75mmの一価陽イオン交換膜〔(株)アストム製、品名:ネオセプタ(登録商標)CMS〕を用いた。負極5は、長さ30cmのモール状炭素電極〔ティビーアール(株)製、品名:バイオコード〕を用いた。正極6は、長さ10cmのモール状炭素電極(同上)を用いた。また、汚泥Sは、東広島浄化センターの返送汚泥を用いた。
【0049】
以上のようにして得られた微生物燃料電池1を用い、約30日間、汚泥Sを燃料として発電させ、同時に、微生物による汚泥Sの分解処理を行なった。
【0050】
[発生電流の測定]
発生電流として、10Ωの金属皮膜抵抗に流れた電流をマルチメータ〔三和電気計器(株)製、品名:デジタルマルチメータPC20〕により3分毎に計測し、計測した電流値をパソコンで記録した。その結果を図4(a)に示す。
【0051】
[総汚泥量の測定]
まず、実験前に規定量の汚泥試料を第1槽2又は第2槽3から抜き取り、それを乾燥させた乾燥重量(初期乾燥重量)を測定する。次いで、所定期間毎に同量の汚泥試料を第1槽2又は第2槽3から抜き取り、上記と同様にして、乾燥重量(経時乾燥重量)を測定する。測定した初期乾燥重量と経時乾燥重量と、実験前の総汚泥量(初期総汚泥量:第1槽2は7.2g、第2槽3は2.0g)とから、残存する総汚泥量(経時総汚泥量)を求めた。第1槽2の結果を図5(a)に示し、第2槽3の結果を図6に示す。
【0052】
[汚泥分解率の測定]
汚泥分解率は、以下の式に基づいて求めた。第1槽2の結果を図5(a)に示し、第2槽3の結果を図6に示す。
[数1]
汚泥の分解率(%)=〔初期総汚泥量(g)-経時総汚泥量(g)〕/初期総汚泥量(g)×100 (式)
【0053】
(実施例1)
図4(a)に示すように、25日間における発生電流の平均値は1.68mAであった。なお、図4(a)において、第1槽(負極槽)における汚泥のpHの変動幅は7.5~6.1であり、第2槽(正極槽)における汚泥のpHの変動幅は8.5~5.8であった。実施例1では、後述する比較例1と異なり、第1槽(負極槽)及び第2槽(正極槽)のいずれにも水酸化ナトリウム(NaOH)溶液を添加していない。
【0054】
図5(a)に示すように、25日経過後において、第1槽(負極槽)における汚泥分解率は41.3%であった。また、図6に示すように、25日経過後において、第2槽(正極槽)における汚泥分解率は63.9%であった。
【0055】
また、図5(a)及び図6に示す初期総汚泥量から経時総汚泥量(処理日数:25)を減算することにより、25日経過後における汚泥の分解量を求めた。その結果、第1槽(負極槽)における汚泥の分解量は3.0gであり、第2槽(正極槽)における汚泥の分解量は1.3gであった。従って、微生物燃料電池全体における汚泥の分解量は4.3gであった。
【0056】
(比較例1)
第2槽(正極槽)に、初期濃度4g/Lの汚泥Sを0.5L投入する代わりに、20mMのフェリシアン化カリウム(KFe(CN))溶液を0.5L投入したこと以外は、実施例1と同様にして微生物燃料電池を作製した。なお、比較例1では、上述のごとく、第2槽に汚泥が収容されていないため、第2槽における総汚泥量及び汚泥分解率の測定は行なっていない。
【0057】
図4(b)に示すように、約30日間における発生電流の平均値は1.67mAであった。なお、図4(b)において、pHと記載の矢印は、第1槽(負極槽)における汚泥のpHの低下により、発生電流が著しく低下したため、第1槽(負極槽)に水酸化ナトリウム(NaOH)溶液を添加し、汚泥のpHが7近傍になるように調整した時点を示す。また、交換と記載の矢印は、第2槽(正極槽)内のフェリシアン化カリウム溶液を交換した時点を示す。
【0058】
図5(b)に示すように、30日経過後において、第1槽(負極槽)における汚泥分解率は48.2%であった。
【0059】
また、実施例1と同様にして、30日経過後における汚泥の分解量を求めた結果、第1槽(負極槽)における汚泥の分解量は3.5gであった。
【0060】
図4に示された結果から、実施例1は、比較例1と対比して、発生電流が比較的安定しており、汚泥のpHを調整する必要がないことが分かる。また、第2槽(正極槽)にも汚泥が投入され、フェリシアン化カリウム溶液が使用されていないため、当該溶液を交換する必要もない。従って、実施例1の微生物燃料電池は、比較例1の微生物燃料電池と対比して、作業性に優れることが分かる。
【0061】
図5及び図6に示された結果から、実施例1は、比較例1と対比して、第1槽(負極槽)のみならず、第2槽(正極槽)においても汚泥を分解して減少させることができるため、一度に処理可能な汚泥の分解量が多いことが分かる。従って、実施例1の微生物燃料電池は、比較例1の微生物燃料電池と対比して、多くの量の汚泥を一度に分解処理できることが分かる。
【0062】
以上のことから、実施例1の微生物燃料電池は、比較例1の微生物燃料電池と対比して、作業性及び汚泥の分解処理性能に優れている。
【0063】
[その他の実施形態]
第1槽2及び第2槽3には、発生した二酸化炭素や水等を排出するための排気口や排気装置を設けてもよい。また、汚泥Sを投入するための投入口を設けてもよい。
【0064】
上記実施形態では、電極は、負極5及び正極6ともに1本ずつ用いているが、電極表面に付着する微生物を増やすことにより発生電流を増やすことができるため、複数本用いてもよい。例えば、負極5どうし又は正極6どうしを並列に接続した場合、電流を加算して高電流化が可能となる。また、負極5と正極6とを順次直列に接続して、複数台の微生物燃料電池1を直列接続することもできる。この場合、電圧を加算して高電圧化が可能となる。
【0065】
上記実施形態の微生物燃料電池1は、回分式(バッチ式)であるが、例えば、微生物により分解されて減少した分と同量の汚泥Sを第1槽2又は第2槽3に再度投入する連続式で構成することもできる。また、回分式と連続式とを組み合わせて構成してもよい(半回分式、半連続式)。
【0066】
上記実施形態では、第1槽2と第2槽3とはプロトン交換膜4を介して接続されているが、第1槽2内で発生したプロトンが第2槽3内に移動可能に構成されていればよい。より具体的には、プロトン交換膜4の代わりに、イオンが移動でき、かつ汚泥Sを負極5側と正極6側に分離できるもの、例えば、化学電池等に用いられる塩橋等を用いてもよい。この場合、例えば、図1に示す下水処理場の沈殿槽を負極槽として沈殿槽内に負極5を配置し、浄化槽を正極槽として浄化槽内に正極6を配置し、負極5と正極6とを電気的に接続する。そして、負極槽と正極槽とを塩橋により接続することで、上記実施形態に係る汚泥分解処理方法を使用して、汚泥Sを分解して減少させることが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明の微生物燃料電池及び汚泥分解処理方法は、例えば、下水処理場の余剰汚泥を有効利用できるため、極めて有用である。
【符号の説明】
【0068】
1 微生物燃料電池
2 第1槽
3 第2槽
4 プロトン交換膜(セパレータ)
5 負極
6 正極
7 曝気装置
8 負荷
9 導線
S 汚泥
図1
図2
図3
図4
図5
図6