IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ エフ イー アイ カンパニの特許一覧

<>
  • 特許-時間分解された荷電粒子顕微鏡法 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-16
(45)【発行日】2022-11-25
(54)【発明の名称】時間分解された荷電粒子顕微鏡法
(51)【国際特許分類】
   H01J 37/244 20060101AFI20221117BHJP
   H01J 37/22 20060101ALI20221117BHJP
   H01J 37/147 20060101ALI20221117BHJP
【FI】
H01J37/244
H01J37/22 501Z
H01J37/147 A
【請求項の数】 9
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2017224315
(22)【出願日】2017-11-22
(65)【公開番号】P2018088402
(43)【公開日】2018-06-07
【審査請求日】2020-10-22
(31)【優先権主張番号】16200898.1
(32)【優先日】2016-11-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】501233536
【氏名又は名称】エフ イー アイ カンパニ
【氏名又は名称原語表記】FEI COMPANY
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100091214
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 進介
(72)【発明者】
【氏名】エーリク レネ キーフト
【審査官】後藤 大思
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2016/0005566(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0235800(US,A1)
【文献】R. Beacham et al,Medipix2/Timepix detector for time resolved Transmission Electron Microscopy,13th International workshop on radiation imaging detectors,2011年12月20日,p.1-5,2011 JINST 6 C12052
【文献】A.Lassise ,Miniaturized RF technology for femtosecond electron microscopy,Technische Universiteit Eindhoven,2012年01月01日,p.78-80,https://doi.org/10.6100/IR739203
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 37/00-37/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷電粒子顕微鏡法を使用して試料を調査する方法であって、
- ビーム経路に沿って伝播する荷電粒子のパルスビームを生成するために一次ソースを使用するステップと、
- 前記ビーム経路内の照射位置に試料を提供するステップと、
- 前記試料の繰り返し励起を生成するために二次ソースを使用するステップと、
- 各前記励起の後に前記試料を横切る前記ビームの荷電粒子を登録するために検出器を使用するステップと、
を備え
- 前記一次ソースは、前記二次ソースによる励起当たりに一連の複数のパルスを生成するように構成され、
- 前記検出器は、それぞれ個別の読み出し回路を有する複数ピクセルの集積アレイを含み、前記一連のうちの個別の粒子の到着時間を登録する、ように構成されており、
- 前記一連の複数のパルスは、隣接するパルス間にブランク領域を有し、前記一連の複数のパルスの位相を、前記繰り返し励起の間で、前記一連の複数のパルスの1周期未満だけシフトするように調整することによって、前記ブランク領域内がサンプリングされて、前記ブランク領域が拡張された試料挙動の短いサンプリング窓を表す、
方法。
【請求項2】
前記検出器は、Timepix検出チップを含む。
請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記一次ソースは振動電磁ビーム偏向器を含む。
請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
前記偏向器は、TM110RFキャビティ・ビームチョッパを含む。
請求項3記載の方法。
【請求項5】
- 前記一次ソースは、RFキャビティ・ビームチョッパ及び振動電磁ビーム偏向器の直列配置を含み、
- 前記振動電磁ビーム偏向器の作動周波数は、前記励起の周波数に適合する、
請求項3又は4記載の方法。
【請求項6】
前記二次ソースはレーザを含む。
請求項1乃至5いずれか1項記載の方法。
【請求項7】
前記試料に与えられるべき繰り返し励起の回数に基づいて前記ブランク領域が等間隔でサンプリングされるように前記一連の複数のパルスの位相をシフトさせる、請求項1乃至6いずれか1項記載の方法。
【請求項8】
前記一次ソースに対して、パルス持続期間d及びパルス繰り返しレートrの値が以下を含む群から選択される、
・d<1ns及びr>50MHz、
・d<100ps及びr>300MHz、
・d≦1ps及びr≧1GHz、
請求項1乃至7いずれか1項記載の方法。
【請求項9】
荷電粒子顕微鏡であって、
- ビーム経路に沿って伝播する荷電粒子のパルスビームを生成するための一次ソースと、
- 前記ビーム経路内の照射位置で試料を保持するための試料ホルダと、
- 前記試料の繰り返し励起のための二次ソースと、
- 各前記励起の後に前記試料を横切る前記ビーム内の荷電粒子を登録するための検出器と、
- 前記顕微鏡の光学特性を管理するための電子制御器と、
を備える荷電粒子顕微鏡であって、
- 前記制御器は、前記二次ソースによる励起ごとの一連の複数のパルスを生成するように前記一次ソースを作動させるように構成されており、
-前記検出器は、それぞれ個別の読み出し回路を有する複数ピクセルの集積アレイを含み、前記一連のうちの個別の粒子の到着時間を登録する、ように構成されており、
前記一連の複数のパルスは、隣接するパルス間にブランク領域を有し、前記一連の複数のパルスの位相を、前記繰り返し励起の間で、前記一連の複数のパルスの1周期未満だけシフトするように調整することによって、前記ブランク領域内がサンプリングされて、前記ブランク領域が拡張された試料挙動の短いサンプリング窓を表す、
荷電粒子顕微鏡。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、荷電粒子顕微鏡法を使用して試料を調査する方法であって、
- ビーム経路に沿って伝播する荷電粒子のパルスビームを生成するために一次ソースを使用するステップと、
- 前記ビーム経路内の照射位置に試料を提供するステップと、
- 前記試料の繰り返し励起を生成するために二次ソースを使用するステップと、
- 各前記励起の後に前記試料を横切る前記ビームの荷電粒子を登録するために検出器を使用するステップと、
を含む方法に関する。
本発明は、このような方法が実行される荷電粒子顕微鏡にも関する。
【背景技術】
【0002】
荷電粒子顕微鏡法は、特に電子顕微鏡の形態で、顕微鏡の対象物を画像化するための周知かつますます重要な技術である。歴史的に、電子顕微鏡の基本的な分類は、透過型電子顕微鏡(TEM)、走査型電子顕微鏡(SEM)、及び走査型透過電子顕微鏡(STEM)のような多くの周知の装置種へと進化しており、また、例えば、所謂「デュアルビーム」ツール(例えばFIB-SEM)などの、イオンビームミリング又はイオンビーム誘導堆積(IBID)などの補助作業を可能にする、「機械加工」集束イオンビーム(FIB)を追加的に採用する種々のサブ種へも進化している。より詳しくは、
- SEMにおいて、走査電子ビームによる試料の照射は、例えば、二次電子、後方散乱電子、X線及び陰極ルミネッセンス(赤外線、可視及び/又は紫外光子)の形態で、試料からの「補助」放射線の放出を引き起こす。この放出放射線の1つ以上の成分が検出され、イメージ集積の目的で使用される。
- TEMでは、試料を照射するのに用いられる電子ビームは、試料を貫通するのに十分なエネルギを有するように選択される(そのために、一般に、通常SEM試料の場合よりも試料が薄い)。試料から放出される透過電子は、その後画像を生成するために用いられる。このようなTEMを走査モードで作動させると(STEMになり)、照射電子ビームの走査動作中に当該のイメージが集積される。
ここで説明した事項のさらなる情報は、たとえば、次のWikipediaのリンクから得ることができる。
http://en.wikipedia.org/wiki/Electron_microscope
http://en.wikipedia.org/wiki/Scanning_electron_microscope
http://en.wikipedia.org/wiki/Transmission_electron_microscopy
http://en.wikipedia.org/wiki/
照射ビームとして電子を使用する代わりに、荷電粒子顕微鏡法は他の種の荷電粒子を用いて行うこともできる。この点に関して、「荷電粒子」という用語は、例えば、電子、正イオン(例えば、Ga又はHeイオン)、負イオン、陽子及び陽電子を含むものとして広く解釈されるべきである。非電子ベースの荷電粒子顕微鏡法に関しては、例えば、以下のような参考文献からいくつかのさらなる情報を得ることができる。
https://en.wikipedia.org/wiki/Focused_ion_beam
http://en.wikipedia.org/wiki/Scanning_Helium_Ion_Microscope
W.H. Escovitz, T.R. Fox and R. Levi-Setti, Scanning
Transmission Ion Microscope with a Field Ion Source, Proc. Nat. Acad. Sci. USA
72(5), pp 1826-1828 (1975)
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22472444
荷電粒子顕微鏡は、イメージング及び(局所的な)表面改質の実施(例えば、ミリング、エッチング、堆積など)に加えて、分光法の実施、ディフラクトグラムの検査などの他の機能も有することに留意すべきである。
【0003】
すべての場合において、荷電粒子顕微鏡(CPM)は、少なくとも以下の構成を含む。
- ショットキー電子源又はイオンガンなどの放射源。
- 光源からの「生の」放射ビームを操作する働きをし、それを用いて、収束、収差軽減、トリミング(開口によって、)、フィルタリングなどの特定の操作を実行する照射器。原則的に1以上の(荷電粒子)レンズが含まれ、他のタイプの(粒子)光学構成要素も含まれうる。必要な場合には、照射器は、その出射ビームが調査される試料を横切って走査動作を行うように呼び出されうる偏向器システムを備えることができる。
- 検査中の試料が保持され、位置決めされる(例えば、傾斜され、回転される)、試料ホルダ。必要な場合には、このホルダは、試料に対してビームの走査動作を行わせるように移動されうる。一般に、そのような試料ホルダは、機械式ステージのような位置決めシステムに接続される。
- (照射を受けている試料からの放射の放出を検出するための)検出器。実質的に一体型又は複合型/分散型でありえ、検出される放射に依存して種々の異なる形態をとりうる。例えば、フォトダイオード、CMOS検出器、CCD検出器、光電池、(シリコンドリフト検出器及びSi(Li)検出器のような)X線検出器などが含まれる。
一般に、CPMはいくつかの異なる種類の検出器を含み、それらから選択されたものが異なる状況で呼び出される。(例えば(S)TEMのような)透過型顕微鏡の場合、CPMは、具体的には、以下のものを含む。
- 試料(面)を透過した荷電粒子を実質的に取り込み、それらを、検出/画像装置、(EELSデバイスのような、EELS=電子エネルギ損失分光法)分光装置などの分析機器上へ導く(集束させる)結像系。
上述の照射器と同様に、結像系は、収差軽減、トリミング(cropping)、フィルタリングなどの他の機能も実行することができ、一般に、1つ又は複数の荷電粒子レンズ及び/又は他の種類の粒子光学部品が含まれうる。以下では、本発明は、例として、電子顕微鏡の特定の状況において、説明されるときがある。しかしながら、そのような単純化は、専ら明瞭性/説明のしやすさの目的を意図したものであり、限定的に解釈されるべきではない。
【0004】
上記の冒頭の段落に記載された方法の特定の実施例は、調査中の試料内で繰り返し可能/再現可能な時間的プロセスをトリガするためにレーザパルスが使用される、いわゆるレーザポンプパルス顕微鏡法である。この文脈における時間的プロセスの実施例は、相転移、プラズモン励起、機械的振動、アブレーションプロセス、熱流、化学反応などを含む。この種の試料調査の特定の説明のために、D.R. Cremons他による下記の雑誌論文を参照されたい。
D.R. Cremons et al., Femtosecond electron imaging of
defect-modulated phonon dynamics, Nature Communications 7, article # 11230
(2016):
http://www.nature.com/articles/ncomms11230
【0005】
先行技術のX線イメージング技術はこれまでに許容可能な結果をもたらしたが、本発明者らは、従来の手法の革新的な変化を提供するために広範囲に研究を行った。そのような努力の結果が、本発明の対象である。
【発明の概要】
【0006】
本発明の1つの目的は、上記の冒頭の段落に記載された方法の革新的な改良を提供することである。より具体的には、本発明の1つの目的は、この技術が、従来技術のアプローチと比較して、大幅に改善された時間分解能で試料調査を可能にすべきであるということである。さらに、この新規な方法がこの領域の既存の技術より汎用性を有すべきであることは、本発明の1つの目的である。
【0007】
これらの及び他の目的は、以下の特徴を備える上記の冒頭の段落に記載された方法において、達成される:
- 前記一次ソースは、前記二次ソースによる励起当たりに一連の複数のパルスを生成するように構成され、
- 前記検出器は、それぞれ個別の読み出し回路を有する複数ピクセルの集積アレイを含み、前記一連のうちの個別の粒子の到着時間を登録する、ように構成されている。
使用される二次ソースからの励起は、例えば、(例えば、パルスレーザ又はパルス化X線ソースの場合として)光子ビーム、(例えば、(微小)粒子加速器から誘導された)(二次)荷電粒子ビーム、(例えば、電極又は電磁石により生成される)電磁場、(例えば、圧電アクチュエータからの)機械的刺激、並びにそれらの組合せ及びハイブリッドを含むことに留意されるべきである。
【0008】
本質的には、そのような構成の作動は、なかでも、以下の洞察を引き出す。
- 時間分解された荷電粒子顕微鏡法の多くの試料は、損傷を受けるか、破壊されるか、又はさらなる意味のある調査を阻害する範囲に特性が変化する前に、(二次ソースからの)一定数の励起に耐えうるだけである。従って、試料のあらゆる励起からできるだけ多くの信号を集めることは、重要である。他の例では、例えば、(前記の励起から生じる)導入された熱を試料から遠ざけるように移動させることの難しさのために、1秒当たり一定数の励起のみが許容され得る。
他方で、良好な時間分解能を達成する必要性は、非常に短い一次ソースパルスを使用する方向に向かうが、そのようなパルスは、それぞれわずかな荷電粒子しか含まないことがある。その結果、許容可能な累積信号対雑音比を達成するためには、一般に、いくつかの繰り返し測定が必要となる。時間分解能とパルス当たりの信号との間のこの矛盾は、時間分解イメージングにおける悩ましいジレンマである。
- 本発明は、各試料励起からより多くの信号(及び同時に、より良好な時間分解能)を抽出し、それにより、全捕捉時間を低減し及び/又はより大きな累積信号量(より長い「ムービー」)を収集できる方法を提供する。これは、以下により達成される:
○ 一次励ソースを実施するために、試料励起期間よりもはるかに短い期間で超短パルスを生成し、それにより、励起ごとに複数の一次パルス列を生成する。
○ 検出器を、超短時間分解能(理想的には一次ソースの周期よりも短い)を有するように実施することは、とりわけ、各検出器ピクセルにそれ自身の個別の読み出し電子回路を提供することにより達成される。
そのような構成において、ピクセル・アレイの従来の行/列ポーリング(row/column polling)によって、生じる読取り遅延は取り除かれ、その結果、検出器上の荷電粒子の各衝突は極めて精密な個々のタイムスタンプを割り当てられることが可能である。
【0009】
本発明の有利な実施態様において、使用される検出器は、Timepix検出チップを含む。Timepixデバイスは、CERN(European Center for Nuclear Research)が率いる国際コンソーシアムにより開発された光子カウンティング/粒子トラッキング検出器の系統である、Medipix検出デバイスのハイブリッドとみなすことができる。より具体的には、Timepixデバイスは、高度な閾値超過時間(Time-over-Threshold)/到着時間(Time-Of-Arrival)機能を基本的なMedipixの概念に追加し、本発明の検出器としての使用に理想的にするものである。これらの検出器は、Amsterdam Scientific Instruments(オランダ)やAdvacam(チェコ共和国)などの企業から市販されている。現在の最高速Timepixデバイス(Timepix3)は、1.56nsの時間分解能を持ち、~0.6GHzの一次パルス周波数と互換性がある。後続世代の装置(Timepix4)は、数百ピコ秒の仕様時間分解能を持ち、~3GHz(標準的なヨーロッパのsバンド周波数=2.998GHz)の一次パルス周波数に適合する。Timepixデバイスに関する更なる情報は、例えば、以下の情報源から収集されることができる。
https://medipix.web.cern.ch/medipix/pages/medipix2/timepix.php
https://en.wikipedia.org/wiki/Medipix
https://ardent.web.cern.ch/ardent/dl/dissemination/erikfrojdh_timepix3_v2.pdf
https://indico.cern.ch/event/363327/contributions/860768/attachments/722760/992018/Jan_Visser_Medipix.pdf
【0010】
本発明の一実施形態では、一次ソースは、(例えば、ショットキーガン又は液体金属イオン源などの)連続的なソースからのビームをチョップするために使用される振動電磁ビーム偏向器を備える。そのような偏向器の一例は、荷電粒子ビームを名目上の伝搬軸から/へ横方向に周期的に偏向させるために使用される静電/容量偏向器である。このような偏向器は、1ns未満のパルス長を達成することができ、(例えば、SEMで典型的に見られるような)比較的低いビームエネルギーのための比較的直接的なチョッピングソリューションであるが、(例えば、TEMで典型的に見られるような)より高いビームエネルギーのためにはより大きな駆動電圧が必要となるであろう。とりわけ、この後者の場合、ビームチョッパのより効率的な選択は、RF(無線周波数)キャビティ・ビームチョッパ、より詳細にはTM110キャビティ・ビームチョッパとすることができる。電磁気の分野の標準的な使用法によれば、記号「TM」は横磁場、すなわち縦方向磁場成分を有さない電磁場(その結果z軸に沿ってB=0である)を示し、3桁の下付き添字「110」は、キャビティのマクスウェルの方程式に関連する境界条件を満たすために必要な波動ベクトルkの整数固有値を意味する。TM110モードは、(z軸から外側に測定される)半径r=0において、強い横磁場を有し、r=0において、ゼロ電界を有する双極子モードである。連続ビームをチョップするためにTM110キャビティを使用することは、高コヒーレンスパルスを生成する点で有利である。さらに、一般に、容量性偏向器よりも実質的に高い繰り返しレートを達成することができ、上述の2.998GHzのSバンド周波数で容易に動作する。これは、二次励起当たり比較的大きい多数の一次パルスへの可能性をつくる。
【0011】
本発明のさらなる実施形態では、
- 一次ソースは、RFキャビティ・ビームチョッパと振動電磁ビーム偏向器との直列配置を含む。
- 前記振動電磁ビーム偏向器の作動周波数は、使用された試料の(前記二次ソースからの)励起周波数と適合する。
このような構成は、さもなければ(RFキャビティからの)パルスの連続的な流れを、一連の離散的なパルス列に変換するために使用され、各パルス列は試料励起と一致するようにタイミングがとられる。
偏向器は、所与の状況の選択/詳細に従って、キャビティの上流又は下流に位置してもよい。
【0012】
上述したような振動電磁ビーム偏向器/RFキャビティを使用する代わりに、例えば、金属箔やディスク、LaB6フィラメント、ショットキーフィラメントなどのターゲットからの(電子又は陽イオンの)レーザ誘起光電子出の場合のように、例えばパルスレーザトリガを一次ソースに使用できる。しかしながら、そのようなアプローチは、(例えば約1μs(マイクロ秒)の相互分離で~190fs(フェムト秒)パルスの)より低いパルスレートを生成するという点で、現状において、(特定の状況では)幾分有利ではない。
【0013】
本発明の他の一実施例において、一次パルス列の位相は、前記試料の2つの励起連続の間で調整される。一次列のパルスは、隣接するパルス間の「ブランク」(すなわち、未サンプリング)領域を有する、拡張された試料挙動の短い「サンプリング窓」を表すものとして考えることができる。これらのブランク領域は、連続する励起間のパルス列(の位相)を(1周期未満だけ)シフトすることによって、「探索」されうる。例えば、試料に10の励起を与えることが計画されている場合、連続した励起の間に(例えば)2π/10だけ主パルス列位相をシフトすることができる。連続する励起の各対の間で位相をずらす必要はないことに留意されたい。例えば、第1主相において、第1励起群を、その後主相シフト、及びその後第2主相において、第2励起群を有することが可能である。当業者はこの点を理解し、彼が採用したい位相シフト(もしあれば、そ)のタイミング、大きさ及びサイズを選択できるであろう。
【0014】
本発明は、一次ソースパルス持続期間(d)<1ns(ナノ秒)及び一次ソース繰り返しレート(r)>50MHzに対して特に有利である。d<100ps(ピコ秒)及びr>300MHzの場合にはさらに有用であり、d~1ps(又はそれ以下)及びr~1GHz(例えば600MHz)(又はそれ以上)の非常に革新的な可能性を提供する。典型的には、二次ソースの繰り返し周波数はkHz-MHzの範囲にあるが、これは限定的なものとみなすべきではない。
【0015】
完全のために、前の2つの段落で言及したTM110モードは、例えば、(z軸から遠位の)キャビティの壁の近くに配置されたヘルツ双極子ループアンテナの助けを借りてキャビティ内で励起され得ることに留意すべきである。この種類のアンテナは、例えば、以下のステップにより達成され得る。
- キャビティの壁に小さい孔を作製するステップ、
- この孔を介してキャビティの内部に同軸ケーブルの内導体を供給するステップであって、内導体が前記(導体)壁に接触しないようにする、ステップ、
- 壁の近位に内部導体内にループを作製するステップ、
- (例えば、ループの平面がy軸に対して垂直であり、yに平行な磁場を励起するように、)ループを適切に配向させるステップ、
- 前記同軸ケーブルを振動無線周波数(RF)発振励起ソース(電源/増幅段)に接続するステップ。
キャビティの振動の挙動は、種々の方法で調整されることができる。例えば、前記発振励起ソースの周波数は、可変であり得る。代替的に、小さい伝導性(例えば金属)又は誘電性「プランジャ」(同調素子)は、例えば上述のアンテナの反対側の小さい孔を介して、キャビティに部分的に挿入されることができる。その場合、上記のプランジャの挿入の範囲は、キャビティの共振振動数に影響する。なぜなら、
- 導電性プランジャを挿入すると、キャビティの有効半径が局所的に減少し、共振周波数が増加し、
- 誘電体プランジャを挿入すると、キャビティの実効誘電率が増加し、共振周波数が低下する、からである。
言うまでもなく、キャビティが共振励起されるとき(すなわち、発振励起ソースの周波数がキャビティの共振周波数に一致するとき)、結果として得られるキャビティ内の電磁場は最大になる。当業者は、そのような概念に精通しており、特定の構成の詳細/要件に従ってそれらを実装し最適化できる。当業者は特に、アンテナ(又は他の励振手段)の他のタイプ及び/又は位置、並びに同調素子/プランジャの他のタイプ及び/又は位置を使用できることを理解するであろう。本発明で使用される共振キャビティの形状に関して、これは、例えば、いわゆる「ピルボックス・キャビティ」(本質的に円筒形である)であってもよいが、他の形状も可能である。TM110キャビティの効率は、キャビティを適切な誘電材料で(部分的に)充填することによって、改善できることに留意されたい。
【0016】
当業者であれば、本発明の方法論/装置は、原則として、調査中の試料から1つ以上の、画像、(EELSスペクトルなどの)スペクトル、又はディフラクトグラムを収集するために使用できることを理解するであろう。
【図面の簡単な説明】
【0017】
本発明は、ここで、例示的な実施形態及び添付の概略的な図面に基づいてより詳細に説明される。
図1】本発明の実施形態が実施される特定のタイプのCPMの縦断面の立面を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図において、対応する特徴は、対応する参照符号を使用して表示されることができる。
【0019】
実施形態1
図1は、現在の本発明の実施態様が実施されるCPM Mの実施態様を極めて模式的に示す図であり、この場合、CPMは(S)TEMであるが、本発明との関連では、例えば、イオンベース顕微鏡又はプロトン顕微鏡であっても、同様に有用であり得る。図において、真空エンクロージャ2の中で、(例えばショットキー・エミッタのような)連続電子ソース4は、電子光学照射器6を通過する電子ビーム(B)を生成し、その後それらを(例えば、(局所的に)薄くされ/平坦化された)試料Sの選択された部分へ方向付け/集束させるのに役立つ。この照射器6は、電子-光軸B’を有し、一般的に様々な静電/磁気レンズ、(走査)偏向器8、補正器(例えば非点収差補正器)等を備える。典型的に、コンデンサシステムを備えることもできる(実際は、部材6の全体が、しばしばコンデンサシステムとも呼ばれる)。
【0020】
試料Sは、試料ホルダHに保持される。ここでは例示されるように、このホルダH(内側エンクロージャ2)の部分は、位置決め装置(ステージ)によって、多自由度で位置決め/移動されることができる架台A’に取り付けられる。例えば、架台A’は、(とりわけ)X、Y及びZ方向(図示のデカルト座標系参照)において、移動可能であってもよく、Xに平行な長手軸周りに回転できる。そのような運動は、軸B’に沿って伝搬する電子ビームによって、試料Sの異なる部分部が照射され/イメージングされ/検査されることができるようにする(及び/又は、(複数の)偏向器8を用いて)ビーム走査の代わりに実行されるべき走査動作を可能にするか、及び/又は、例えば集束イオンビーム(図示せず)によって、試料Sの選択された部分を機械加工されるようにする)。
【0021】
軸B’に沿って伝搬する(集束)電子ビームBは、(例えば、)二次電子、後方散乱電子、X線及び光学放射(カソードルミネッセンス)を含む、様々な種類の「励起された」放射が試料Sから放出されるように、試料Sと相互作用する。必要に応じて、これらの放射種類の1つ以上は、例えば、複合シンチレータ/光電子増倍管又はEDX(エネルギ分散X線分光法)モジュールでありうるセンサ22を用いて、検出されることができる。このような場合には、画像/スペクトルは、基本的にSEMと同じ原則を使用して構成されることができる。しかしながら、(S)TEMの基本的な重要性に代えて/加えて、試料Sを通過し(通り抜け)、そこから発生し(放出し)、軸B’に沿って(実質的には、一般にいくらかの偏向/散乱をともなって)伝搬し続ける電子を調査できる。そのような伝送された電子束は、通常、様々な静電/磁気レンズ、偏向器、(非点収差補正器のような)補正器等を含む、(対物レンズ/投影レンズが組み合わされた)結像系24に入射する。通常の(非走査)TEMモードにおいて、この結像系24は伝送された電子束を蛍光面26上に集束させることができ、必要に応じて、(矢印26’によって、模式的に示されるように)軸B’の経路の外へ出るように、格納され/引き出されることができる。試料S(の一部)の画像(又はディフラクトグラム)は、結像系24によって、スクリーン26上に形成され、これは、エンクロージャ2の適切な部位に位置するビューポート28を介して視認されることができる。スクリーン26の引き込み機構は、例えば、事実上、機械的及び/又は電気的でありえ、ここには図示されていない。
【0022】
スクリーン26上のイメージを視認する代わりに、イメージングシステム24から発生される電子束の焦点深度が一般に非常に大きい(例えば、1メートルのオーダー)という事実を利用できる。従って、例えば以下のような、様々な種類のセンシング/分析装置が、スクリーン26の下流で使用されることができる。
- TEMカメラ30。カメラ30では、電子束は、静的画像(又はディフラクトグラム)を形成することができ、それはコントローラ10により処理されることができ、例えば、フラットパネルディスプレイのような表示装置(図示せず)に表示されることができる。必要でないときに、カメラ30は、(矢印30’によって、模式的に示されるように)軸B’の経路の外へ出るように、格納され/引き出されることができる。
- STEM検出器32。検出器32からの出力は、試料S上のビームBの(X,Y)走査位置の関数として、記録されることができ、X,Yの関数として検出器32からの出力の「マップ」である画像が構築されることができる。
一般に、検出器32(例えば、毎秒10ポイント)は、カメラ30(例えば、毎秒10画像)よりもはるかに高い取得レートを有する。従来のツールでは、カメラ30内に特徴的に存在する画素のマトリクスとは対照的に、検出器32は、カメラ30内にある例えば20mmの直径を有する単一ピクセルを含むことができる。再び、必要ないときに、検出器32は(矢印32’によって、模式的に示されるように)軸B’の経路の外へ出るように、格納され/引き出されることができる(そのような格納は、例えば、ドーナツ型環状暗視野検出器32の場合には必要ではない。このような検出器では、中心穴は、検出器が使用されていないときにビーム通過を可能にする)。
- カメラ30又は検出器32を用いたイメージングに代わるものとして、本発明に関する高時間分解能(HTR)検出器34が起動されることもできる。
部材30、32及び34の順序/位置は厳密ではない点に留意する必要があり、多くの可能な変形が考えられる。部材30、32、34により提供される機能も必ずしも網羅的ではない。例えば、顕微鏡Mは、例えば、EELSモジュールを含んでもよい。
【0023】
コントローラ/コンピュータプロセッサ10は、制御ライン(バス)10’を介して様々な図示された構成要素に接続されていることに留意されたい。このコントローラ10は、動作の同期、設定値の提供、信号の処理、計算の実行及び表示装置(図示せず)上へのメッセージ/情報の表示などの様々な機能を提供できる。言うまでもなく、(概略的に図示された)コントローラ10は、(部分的に)エンクロージャ2の内側又は外側にあってもよく、所望に応じて単一又は複合構造を有することができる。当業者は、エンクロージャ2の内部が厳密な真空に保たれる必要がないことを、理解するであろう。例えば、いわゆる「環境(S)TEM」で、所与のガスの背景雰囲気は、故意に導かれて/エンクロージャ2の中で維持される。また、実際には、可能であれば、基本的に軸B’に沿って延在し、使用される電子ビームが通る(例えば1cmのオーダーの直径の)小さい管の形態をとるように、エンクロージャ2の容積を制限することが有利であり得るが、しかし、エンクロージャ2は ソース4、試料ホルダH、スクリーン26、カメラ30、検出器32、分光検出器34等のような構造を収容するために拡張していることが、当業者には理解されよう。
【0024】
本発明の状況において、顕微鏡Mは、以下を含む。:
- ビームチョッパとして配置され、連続/静的ソース4から出てくるビームをパルス化するのに役立つTM110キャビティ12。
キャビティ12は、電気的励起ソース16に接続される。
- キャビティ12の発振周波数よりも低い発振周波数で作動するように意図され、キャビティ12からのパルスの連続流を一連のパルス列に変換する静電(例えば容量性)偏向器14。偏向器14は、電気的励起ソース18に接続される。連続ソース4、キャビティ12及び偏向器14により形成される複合構造は、本発明の状況において、一次ソース4’を形成するものとみなすことができる。
必要に応じて、部材14は、キャビティ12よりも低い周波数で動作するように構成されたRFキャビティであってもよい。部材14は、必要に応じて、下流側(図に示すようにキャビティの後)ではなく、キャビティ12の上流(その前に)に置くことができる。
‐ 試料Sの繰り返し励起20’を起こさせる、二次ソース20。
この特定のケースにおいて、ソース20はパルス化されたレーザであり、励起20’はレーザ光線パルスである。二次ソース20と偏向器14の動作周波数は互いに一致しているので、試料Sは、二次励振20’当たり上記の一次パルス列の一つを受光する。この問題で試料励起のために使用されるパルスレーザ20は、典型的には~75‐80MHzの周波数で、~1フェムト秒のオーダーのパルス持続期間を有するパルスを生成する。
- 検出器34は、それぞれが個別の読み出し回路を有する画素の集積アレイを含むTimepix検出器を含む。
キャビティ12の振動周波数は、検出器34の最小限の時間的分解能に合致するように選択される。キャビティ12又は偏向器14は、ビーム経路B’上に配置され、ビームBによって、横切られるようにするための、入口開口及び出口開口(例えば、対向する位置にある一対の、小さい、軸方向穴(キャビティ用)、又はスリット(容量性偏向器用)をそれぞれ備える。これらのキャビティが必要でない場合(例えば、CPM Mが「時間分解」モードではなく「通常」モードで使用されているため)、これらのキャビティは単にオフにすることができる。代替的に/付加的に、それらのうちの1以上は、それらをビーム経路Bの外へ出すように移動させる(かつ、必要なときに元の位置に戻す)ために用いられる格納機構に搭載されうる。
図1