(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-16
(45)【発行日】2022-11-25
(54)【発明の名称】吸着筒
(51)【国際特許分類】
B01D 53/04 20060101AFI20221117BHJP
B23K 31/00 20060101ALI20221117BHJP
【FI】
B01D53/04 110
B23K31/00 F
(21)【出願番号】P 2019009439
(22)【出願日】2019-01-23
【審査請求日】2021-11-11
(73)【特許権者】
【識別番号】320011650
【氏名又は名称】大陽日酸株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100128358
【氏名又は名称】木戸 良彦
(72)【発明者】
【氏名】関原 章司
(72)【発明者】
【氏名】山田 貞弘
【審査官】佐々木 典子
(56)【参考文献】
【文献】中国実用新案第207076292(CN,U)
【文献】特開2008-000662(JP,A)
【文献】特開昭57-050522(JP,A)
【文献】特開2012-000609(JP,A)
【文献】特開2005-132690(JP,A)
【文献】特開2020-116512(JP,A)
【文献】米国特許第5779773(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 53/02-53/12
B01J 3/00- 3/08
8/00- 8/46、
10/00-12/02、
14/00-19/32
B23K 31/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒体の内部に吸着剤を充填した吸着筒において、ガス流通性を備えた円形の目皿が前記筒体の下部内周面に溶接され、前記目皿に敷設した円形の金網の上面に円環状の押え板が配置されるとともに、前記金網及び前記押え板のそれぞれが前記筒体の下部内周面及び前記目皿の周縁部上面のうちの少なくとも一方の面に溶接されることにより、前記目皿と前記金網と前記押え板とを上下に積み重ねて一体的に形成してなり、前記押え板は、複数個に分割された分割体を組み合わせたもので、各分割体が互いの継ぎ目を当接あるいは離間させ、全体として円環状をなすように配置されていることを特徴とする吸着筒。
【請求項2】
前記筒体は、上下端に鏡板をそれぞれ有し、下部鏡板に形成された下端開口部の周縁部には、ベースプレートの上面に設けられた円筒部材の上端周縁部が溶接され、前記目皿が前記円筒部材の内周面に設けられた支持部材で前記円筒部材の内側に支持され、前記目皿と前記金網と前記押え板とのそれぞれの周縁と、前記円筒部材の内周面との間に径方向の環状隙間部が設けられ、該環状隙間部を溶接ビードで埋めるようにして溶接されていることを特徴とする請求項1記載の吸着筒。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、混合ガス中の目的ガスを選択的に分離する吸着剤を用いた圧力スイング吸着法(PSA法)や温度スイング吸着法(TSA法)等に用いられる吸着筒の内部構造に関する。
【背景技術】
【0002】
圧力スイング吸着法、いわゆるPSA法は、吸着筒内を加圧状態とし、混合ガス中の特定成分を吸着剤に吸着させ、又は、特定成分以外のガス成分を吸着剤に吸着させることにより、目的とするガス成分を製品ガスとして取り出すものである。PSA法を実行するには、一般に、複数の吸着筒からなるPSA装置が用いられている。吸着筒は、縦円筒型の筒体の上下端が鏡板によってそれぞれ絞り込まれ、内部下方に脚部で支持された格子板を備えており、該格子板に敷設した金網(スクリーン)の上に吸着剤が充填されている。このため、筒体内部の構造は、吸着剤の重量に対して充分な支持強度を得られる溶接構造が採用されている(例えば、特許文献1及び2参照。)。また、ベースプレートの上面に設けた円筒部(スカート)上端を下部の鏡板下端に接続することにより、床面に縦置きに安定した状態で設置可能な吸着筒も提案されている(例えば、特許文献3参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平8-99012号公報
【文献】特開平8-103621号公報
【文献】特開2008-662号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、扱いやすさ及び収納性の観点から、PSA装置やTSA装置のコンパクト化のニーズが高まっており、吸着筒の構造の改良が試されている。そこで、従来構造では吸着剤が充填できない空隙(デッドスペース)であった下部の鏡板内に対しても吸着剤の充填を行うことで、吸着筒の高さ寸法を低く抑えた構造が検討されている。しかしながら、下部の鏡板内において吸着剤の充填性を高めるには、格子板やスクリーンなどの各部材を極力低い位置に設けることが望ましいが、急激なガスの出入りから受ける圧力に耐えられる強度を得るには、これら部材の配置や溶接方法などに関する製作上の課題があり、未だ具体化されていないのが実情である。
【0005】
特に、筒体内部の溶接施工は、各部材間に設けた溶接箇所に対して、円を描くように周溶接がなされることから、施工後、高温に熱せられた溶接部は次第に冷却されて収縮し、溶接ビードには常時引張方向の残留応力が作用する。これに加えて、圧力差によるガスの急激な出入りを受けて繰り返し応力も作用する。そのため、これらの複合的な応力が作用することに起因して、溶接ビードが割れるなどの不具合を生じるおそれがある。
【0006】
そこで本発明は、PSA装置やTSA装置の運転に伴う筒内へのガスの出入りに対して、溶接ビードの割れなどの不具合を生じることなく、しかも容易かつ安価に製作可能な筒体内部の溶接構造を備えた吸着筒を提供するを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の吸着筒は、筒体の内部に吸着剤を充填した吸着筒において、ガス流通性を備えた円形の目皿が前記筒体の下部内周面に溶接され、前記目皿に敷設した円形の金網の上面に円環状の押え板が配置されるとともに、前記金網及び前記押え板のそれぞれが前記筒体の下部内周面及び前記目皿の周縁部上面のうちの少なくとも一方の面に溶接されることにより、前記目皿と前記金網と前記押え板とを上下に積み重ねて一体的に形成してなり、前記押え板は、複数個に分割された分割体を組み合わせたもので、各分割体が互いの継ぎ目を当接あるいは離間させ、全体として円環状をなすように配置されていることを特徴としている。
【0008】
また、前記筒体は、上下端に鏡板をそれぞれ有し、下部鏡板に形成された下端開口部の周縁部には、ベースプレートの上面に設けられた円筒部材の上端周縁部が溶接され、前記目皿が前記円筒部材の内周面に設けられた支持部材で前記円筒部材の内側に支持され、前記目皿と前記金網と前記押え板とのそれぞれの周縁と、前記円筒部材の内周面との間に径方向の環状隙間部が設けられ、該環状隙間部を溶接ビードで埋めるようにして溶接されていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、円環状の押え板が、複数個に分割された分割体を組み合わせたものであり、各分割体が互いの継ぎ目を当接あるいは離間させ、全体として円環状をなすように配置されているので、押え板の溶接施工後、溶接部の収縮に伴って生じる分割体同士の相対的な移動(離反)を許容して、該溶接部における残留応力の低減を図ることができる。すなわち、押え板を分割しただけの極めて簡単な構成で、溶接部の耐久性を容易に向上させることができる。
【0010】
また、下部鏡板に形成された下端開口部に円筒部材が設けられ、該円筒部材の内側に目皿を配置するとともに、該目皿に敷設した金網の上面に押え板を配置して、これらを上下に積み重ねてそれぞれを固着可能な構成としているので、下部鏡板内への吸着剤の充填を最大にして、吸着筒の高さ寸法を低く抑えることが可能となり、製品のコンパクト化のニーズに応えることができる。その上、円筒部材と目皿と押え板との互いの径差に基づいて、円筒構造物の溶接に適した継手部である環状隙間部を設けることが可能となる。これにより、PSA装置やTSA装置の運転に伴って必要となる溶接部の強度を確保しつつ、容易かつ安価に製作可能な筒体の内部構造を得ることができ、しいてはPSA装置やTSA装置の製作性及び信頼性の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一形態例を示す吸着筒の断面正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1乃至
図3は、本発明における吸着筒の一形態例を示すものである。吸着筒11は、
図1に示すように、内部に吸着剤12が充填された縦円筒型の筒体13の上下端が、上部鏡板13aと下部鏡板13bとによってそれぞれ絞り込まれ、上部鏡板13aの上端(中央)の開口部には上部円筒部材(上部スカート)14の下端周縁部14aが、下部鏡板13bの下端(中央)の開口部には下部円筒部材(下部スカート)15の上端周縁部15aがそれぞれ内嵌され、各部材の継ぎ目においてそれぞれ溶接がなされた金属製の円筒構造物である。
【0013】
上部円筒部材14は、その上端部外周面にフランジ部14bを有しており、該フランジ部14bには、ボルト・ナットで螺合することによって開口部を閉塞する円形の閉塞板16が設けられている。また、閉塞板16の中央に備わるガス流通孔16aには、筒体13の内部に対してガスを導入又は排出するためのノズル17が接続されている。
【0014】
下部円筒部材15は、据付時に吸着筒本体を安定させるためのベースプレート18の上面に設けられ、下部周面に備わる挿通孔15bに、先端部を上方に折り曲げた屈曲部19aを有するノズル19が挿通され、該ノズル19の先端開口19bから筒体13の内部に対してガスが導入又は排出されるようになっている。また、下部円筒部材15の上部内周面には、内周側に突出する複数のブロック状の支持部材20が設けられ、該支持部材20の上に、下部側から、目皿21と、金網(スクリーン)22と、押え板23とが上下に積み重ねられ、それぞれを仮組みした状態で、後述する突合せ全周溶接によって一体的に固着可能に構成されている。また、この固着状態で、押え板23の上面は、下部円筒部材15の上端周縁部15aと略同一の高さ位置に、言い換えると、下部鏡板13bの下端開口部と略同一の高さ位置に配置されている。ここで、目皿21とノズル19との関係では、目皿21の下面とノズル19の先端開口19bとの間に、上下方向に一定の隙間が設けられている。
【0015】
目皿21は、下部円筒部材15の内径よりも小さい外径の金属製の円板に、例えば直径10mm程度の通孔21aを多数設けたもので、充填される吸着剤12の重量を支持しつつ、これら通孔21aを介して対象ガスを流通させる。金網22は、吸着剤12が自重で落下しないようにしたり、ガスに同伴して噴出しないようにするもので、目皿21と略同一径の円形に形成され、吸着剤12の大きさにより、そのメッシュサイズを適宜選択して用いられる。この金網22には、メッシュサイズが異なるものを複数枚重ねて用いることもできる。
【0016】
押え板23は、目皿21に敷設した金網22の上面に配置され、ガスの流通に伴う金網22の浮き上がりを防止するもので、外径が目皿21と略同一径に形成された円環状の板部材である。この押え板23は、
図2に示すように、円周に対し、均等に3分割した略C字状の分割体23aの互いの継ぎ目(両端面)をそれぞれ周方向に離間させることにより、3箇所の隙間部24が設けられ、金網22の上面において、全体として円環状をなすように配置されている。
【0017】
ここで、下部円筒部材15の内側において、目皿21と金網22と押え板23とを積み重ねて仮組みした状態では、
図3に示すように、目皿21と金網22と押え板23とのそれぞれの周縁と、下部円筒部材15の上端部内周面との間に径方向の環状隙間部25が設けられ、該環状隙間部25を溶接ビード26で埋めるようにして突合せ全周溶接がなされる。このとき、環状隙間部25の隙間寸法は、例えば10mmに設定され、突合せ全周溶接におけるルートギャップRとなる。また、溶接ビード26の形成は、溶接トーチを環状隙間部25に沿って複数回、例えば4回移動させて溶接操作を繰り返す多層溶接による。これにより、環状隙間部25において、目皿21と金網22と押え板23とが、それぞれの周縁部の板厚全域に亘って溶け込む、いわゆる完全溶込み溶接によって一体的に溶着される。
【0018】
このように、円環状の押え板23が、複数個に分割されたC字状の分割体23aを組み合わせたものであり、各分割体23aが互いの継ぎ目を当接あるいは離間させ、全体として円環状をなすように配置されているので、押え板23の溶接施工後、溶接ビード26の収縮に伴って生じる分割体23a同士の相対的な移動(離反)を許容して、溶接ビード26における残留応力の低減を図ることができる。すなわち、押え板23を分割しただけの極めて簡単な構成で、溶接部の耐久性を容易に向上させることができる。
【0019】
また、下部鏡板13bに形成された下端開口部に下部円筒部材15が設けられ、該下部円筒部材15の内側上部に目皿21を配置するとともに、該目皿21に敷設した金網22の上面に押え板23を配置して、これらを上下に積み重ねてそれぞれを固着可能な構成としているので、下部鏡板13b内への吸着剤12の充填を最大にして、吸着筒11の高さ寸法を低く抑えることが可能となり、製品のコンパクト化のニーズに応えることができる。その上、下部円筒部材15と目皿21と押え板23との互いの径差に基づいて、円筒構造物の溶接に適した継手部である環状隙間部25を設けることが可能となる。これにより、PSA装置やTSA装置の運転に伴って必要となる溶接部の強度を確保しつつ、容易かつ安価に製作可能な筒体13の内部構造を得ることができ、しいてはPSA装置やTSA装置の製作性及び信頼性の向上を図ることができる。
【0020】
特に、円形で取り扱いが容易な目皿21と金網22と押え板23とを、下部円筒部材15内に積み重ねるだけの簡単な作業で仮組みが行えることから、これら部材の位置決めや、部材同士の重ねがずれないように溶接するための特別な冶具を必要としないので、製造コストの低減が図れ、さらには、溶接施工時に、環状隙間部25に対して溶接トーチの狙い位置も定まり易く、作業姿勢も良好に保てるので、ビード形状や溶込み形状が安定した溶接品質の高い構造となる。
【0021】
なお、上述の形態例は、筒体の上下部に鏡板を有する吸着筒を用いて説明したが、本発明はこれに限らず、鏡板を備えずに、筒体の上下部の径が筒体の胴径と等しい略円柱状の吸着筒においても有効である。また、各部材の配置は、適宜に変更することができ、例えば、支持部材は、ガスの流通を考慮して高さ位置を設定できればよく、突合せ全周溶接(本溶接)を施工する際に取り除くことが可能な治具も含まれる。また、押え板を円環状に形成する分割体は2分割や4分割としてもよく、分割体同士の継ぎ目を当接させて隙間部を設けないように構成してもよい。さらに、円形の各部材の径差を利用して環状隙間部が得られれば、突合せ全周溶接において、ルートギャップの大きさは任意であり、必要に応じて、各部材の周縁部に開先加工を施してもよい。加えて、押え板の径を目皿の径よりも小さく異ならせることで、押え板の外周面を垂直周面とする環状段差部を設け、目皿の周縁部上面において、該環状段差部に対して隅肉全周溶接を施してもよい。この場合、押え板の外周面側の一方のみだけでなく、内周面側も併せて溶接を施すことができる。
【0022】
また、前記形態例では、特定の不純物成分(窒素、酸素、メタン、二酸化炭素、一酸化炭素、水分、水素等)を除去して目的ガスを取り出す窒素PSAや酸素PSA等のPSA装置を例に挙げたが、空気分離装置の前処理吸着器等に用いられるTSA装置に適用してもよい。
【符号の説明】
【0023】
11…吸着筒、12…吸着剤、13…筒体、13a…上部鏡板、13b…下部鏡板、14…上部円筒部材、14a…下端周縁部、14b…フランジ部、15…下部円筒部材、15a…上端周縁部、15b…挿通孔、16…閉塞板、16a…ガス流通孔、17…ノズル、18…ベースプレート、19…ノズル、19a…屈曲部、19b…先端開口、20…支持部材、21…目皿、21a…通孔、22…金網、23…押え板、23a…分割体、24…隙間部、25…環状隙間部、26…溶接ビード