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  • 特許-電子装置、レーダ装置、および、筐体 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-16
(45)【発行日】2022-11-25
(54)【発明の名称】電子装置、レーダ装置、および、筐体
(51)【国際特許分類】
   G01S 7/03 20060101AFI20221117BHJP
   H01Q 1/52 20060101ALI20221117BHJP
【FI】
G01S7/03 220
H01Q1/52
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019055742
(22)【出願日】2019-03-22
(65)【公開番号】P2020153959
(43)【公開日】2020-09-24
【審査請求日】2021-11-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】391045897
【氏名又は名称】古河AS株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114292
【弁理士】
【氏名又は名称】来間 清志
(74)【代理人】
【識別番号】100205659
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 拓也
(74)【代理人】
【識別番号】100130247
【弁理士】
【氏名又は名称】江村 美彦
(74)【代理人】
【識別番号】100167863
【弁理士】
【氏名又は名称】大久保 恵
(72)【発明者】
【氏名】堀 俊彦
(72)【発明者】
【氏名】若菱 忠高
(72)【発明者】
【氏名】松嶋 禎央
(72)【発明者】
【氏名】小林 洋幸
【審査官】藤田 都志行
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-184857(JP,A)
【文献】特開2014-197811(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0006363(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0168136(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/00- 7/42
G01S 13/00-13/95
H01Q 1/00- 1/10
H01Q 1/27- 1/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
筐体と前記筐体内に収容される回路基板とを有する電子装置において、
前記回路基板に配置され、信号を入力または出力する少なくとも2つの端子を有する半導体回路と、
2つの前記端子にそれぞれ接続される2つの線路と、
を有し、
前記筐体は、
2つの前記線路上を横断する壁部と、
前記壁部において構成されるとともに、2つの前記線路の近傍にそれぞれ配され、前記線路を伝送する信号の一部を分岐する2つの分岐部と、
前記壁部において2つの前記分岐部の間に配置され、前記分岐部間に流れる信号を所定の位相遅延する遅延部と、を有し、
一方の前記線路を伝送される信号を一方の前記分岐部により分岐し、他方の前記分岐部で他方の前記線路に流れる信号と略逆位相になるように前記遅延部で位相を反転して合成するように構成されている、
ことを特徴とする電子装置。
【請求項2】
前記分岐部は、2つの前記線路が前記壁部を横切る部分に設けられた貫通孔であり、
前記遅延部は、前記壁部に設けられた信号の線路長を変化させるための構造である、
ことを特徴する請求項1に記載の電子装置。
【請求項3】
前記遅延部は、前記壁部の2つの前記分岐部の間に設けられた切り欠きであることを特徴とする請求項2に記載の電子装置。
【請求項4】
前記切り欠きは、前記壁部の底面を分断するように設けられていることを特徴とする請求項3に記載の電子装置。
【請求項5】
前記切り欠きは、長辺の長さが信号の波長のλ/2未満に設定されていることを特徴とする請求項3または4に記載の電子装置。
【請求項6】
前記遅延部は、前記壁部の2つの前記分岐部の間に設けられた凹部または凸部であることを特徴とする請求項2に記載の電子装置。
【請求項7】
筐体と前記筐体内に収容される回路基板とを有し、電波を送信して対象物を検出するレーダ装置において、
前記回路基板に配置され、信号を入力または出力する少なくとも2つの端子を有する半導体回路と、
2つの前記端子にそれぞれ接続される2つの線路と、
を有し、
前記筐体は、
2つの前記線路上を横断する壁部と、
前記壁部において構成されるとともに、2つの前記線路の近傍にそれぞれ配され、前記線路を伝送する信号の一部を分岐する2つの分岐部と、
前記壁部において2つの前記分岐部の間に配置され、前記分岐部間に流れる信号を所定の位相遅延する遅延部と、を有し、
一方の前記線路を伝送される信号を一方の前記分岐部により分岐し、他方の前記分岐部で他方の前記線路に流れる信号と略逆位相になるように前記遅延部で位相を反転して合成するように構成されている、
ことを特徴とするレーダ装置。
【請求項8】
信号を入力または出力する少なくとも2つの端子を有する半導体回路と、2つの前記端子にそれぞれ接続される2つの線路とを有する回路基板を収容する筐体において、
2つの前記線路上を横断する壁部と、
前記壁部において構成されるとともに、2つの前記線路の近傍にそれぞれ配され、前記線路を伝送する信号の一部を分岐する2つの分岐部と、
前記壁部において2つの前記分岐部の間に配置され、前記分岐部間に流れる信号を所定の位相遅延する遅延部と、を有し、
一方の前記線路を伝送される信号を一方の前記分岐部により分岐し、他方の前記分岐部で他方の前記線路に流れる信号と略逆位相になるように前記遅延部で位相を反転して合成するように構成されている、
ことを特徴とする筐体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子装置、レーダ装置、および、筐体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、送信アンテナおよび受信アンテナと、ミクサ、低雑音増幅器等の受信回路を基板の同一面に設けたアンテナ装置において、電波吸収体を用いることなく、送信アンテナから受信回路への送信電波の漏洩を抑制する技術が開示されている。
【0003】
より詳細には、特許文献1では、送信アンテナ給電線により送信アンテナに接続された送信回路と、受信アンテナ給電線により受信アンテナに接続されるとともに、ローカル信号線により送信回路に接続された受信回路を有するアンテナ装置において、送信アンテナ、受信アンテナ、送信回路、および受信回路を囲むように導体膜が実装された樹脂基板と、送信回路を収納する第1の隔室、および、受信回路を収納する第2の隔室を形成し、第1の隔室と第2の隔室の間の隔壁に導体膜を形成するとともに、第1の隔室と第2の隔室を連通し、かつローカル信号線が配置される導体膜で囲まれた溝が形成されたレドームを備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-184857号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1に開示された技術は、隔離したい回路をそれぞれ別室に設け、信号の漏洩を抑制できるように、互いを接続する線路が配置される溝を形成し、その幅を半波長以下としている。しかしながら、このような構成では、回路を別室に設ける必要があることから、回路の小型化が困難になるとともに、部品点数が増えてコストが増加するという問題点がある。
【0006】
本発明は、以上の点に鑑みてなされたものであり、小型化のために一体的または近接して構成された回路同士であっても、安価な構成で漏洩信号を低減することが可能な電子装置、レーダ装置、および、筐体を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明は、筐体と前記筐体内に収容される回路基板とを有する電子装置において、前記回路基板に配置され、信号を入力または出力する少なくとも2つの端子を有する半導体回路と、2つの前記端子にそれぞれ接続される2つの線路と、を有し、前記筐体は、2つの前記線路上を横断する壁部と、前記壁部において構成されるとともに、2つの前記線路の近傍にそれぞれ配され、前記線路を伝送する信号の一部を分岐する2つの分岐部と、前記壁部において2つの前記分岐部の間に配置され、前記分岐部間に流れる信号を所定の位相遅延する遅延部と、を有し、一方の前記線路を伝送される信号を一方の前記分岐部により分岐し、他方の前記分岐部で他方の前記線路に流れる信号と略逆位相になるように前記遅延部で位相を反転して合成するように構成されている、ことを特徴とする。
このような構成によれば、小型化のために一体的または近接して構成された回路同士であっても、安価な構成で漏洩信号を低減することが可能となる。
【0008】
また、本発明は、前記分岐部は、2つの前記線路が前記壁部を横切る部分に設けられた貫通孔であり、前記遅延部は、前記壁部に設けられた信号の線路長を変化させるための構造である、ことを特徴する。
このような構成によれば、信号の漏洩を防ぐ壁部を流用することで、余分なコストをかけることなく、回路内部における信号の漏洩を低減することが可能となる。
【0009】
また、本発明は、前記遅延部は、前記壁部の2つの前記分岐部の間に設けられた切り欠きであることを特徴とする。
このような構成によれば、信号の漏洩を防ぐ壁部を流用し、簡単な構造を追加することで、余分なコストをかけることなく、回路内部における信号の漏洩を低減することが可能となる。
【0010】
また、本発明は、前記切り欠きは、前記壁部の底面を分断するように設けられていることを特徴とする。
このような構成によれば、表皮効果によって漏洩信号の位相を確実に調整することができる。
【0011】
また、本発明は、前記切り欠きは、長辺の長さが信号の波長のλ/2未満に設定されていることを特徴とする。
このような構成によれば、回路内部における信号の漏洩を低減しつつ、壁部からの信号の漏洩を防ぐことができる。
【0012】
また、本発明は、前記遅延部は、前記壁部の2つの前記分岐部の間に設けられた凹部または凸部であることを特徴とする。
このような構成によれば、回路内部における信号の漏洩を低減しつつ、壁部からの信号の漏洩を防ぐことができる。
【0013】
また、本発明は、筐体と前記筐体内に収容される回路基板とを有し、電波を送信して対象物を検出するレーダ装置において、前記回路基板に配置され、信号を入力または出力する少なくとも2つの端子を有する半導体回路と、2つの前記端子にそれぞれ接続される2つの線路と、を有し、前記筐体は、2つの前記線路上を横断する壁部と、前記壁部において構成されるとともに、2つの前記線路の近傍にそれぞれ配され、前記線路を伝送する信号の一部を分岐する2つの分岐部と、前記壁部において2つの前記分岐部の間に配置され、前記分岐部間に流れる信号を所定の位相遅延する遅延部と、を有し、一方の前記線路を伝送される信号を一方の前記分岐部により分岐し、他方の前記分岐部で他方の前記線路に流れる信号と略逆位相になるように前記遅延部で位相を反転して合成するように構成されている、ことを特徴とする。
このような構成によれば、小型化のために一体的または近接して構成された回路同士であっても、安価な構成で漏洩信号を低減することが可能となる。
【0014】
また、本発明は、信号を入力または出力する少なくとも2つの端子を有する半導体回路と、2つの前記端子にそれぞれ接続される2つの線路とを有する回路基板を収容する筐体において、2つの前記線路上を横断する壁部と、前記壁部において構成されるとともに、2つの前記線路の近傍にそれぞれ配され、前記線路を伝送する信号の一部を分岐する2つの分岐部と、前記壁部において2つの前記分岐部の間に配置され、前記分岐部間に流れる信号を所定の位相遅延する遅延部と、を有し、一方の前記線路を伝送される信号を一方の前記分岐部により分岐し、他方の前記分岐部で他方の前記線路に流れる信号と略逆位相になるように前記遅延部で位相を反転して合成するように構成されている、ことを特徴とする。
このような構成によれば、小型化のために一体的または近接して構成された回路同士であっても、安価な構成で漏洩信号を低減することが可能となる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、小型化のために一体的または近接して構成された回路同士であっても、安価な構成で漏洩信号を低減することが可能な電子装置、レーダ装置、および、筐体を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の実施形態に係るレーダ装置と内壁の構成例を示す図である。
図2】本発明の実施形態に係るレーダ装置と回路基板の構成例を示す図である。
図3】本発明の実施形態に係るレーダ装置と貫通孔の構成例を示す図である。
図4】本発明の実施形態の動作を説明するための図である。
図5】本発明の実施形態の動作を説明するための図である。
図6】本発明の変形実施形態に係るレーダ装置と内壁の構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
次に、本発明の実施形態について説明する。
【0018】
(A)本発明の実施形態の構成例の説明
図1図3は、本発明の実施形態に係る電子装置の構成例を示す図である。なお、図1図3の構成例は、電子装置として、レーダ装置を例に挙げて説明する。
【0019】
図1図3の例では、レーダ装置10は、筐体11、および、回路基板20を主要な構成要素としている。
【0020】
筐体11は、例えば、導電性の金属(例えば、アルミニウム)、または、導電性被膜が表面に形成された樹脂等によって構成され、その内部に回路基板20を収容している。
【0021】
回路基板20は、例えば、板状形状を有する紙エポキシ、フッ素樹脂、ガラス・コンポジット、または、ガラスエポキシ等によって構成される。図2の下段に拡大して示すように、回路基板20の表(おもて)面20aには、半導体回路としてのIC(Integrated Circuit)チップ21および線路22,23が配置されている。なお、図2では、図面を簡略化するために、ICチップ21と線路22,23のみを図示しているが、実際には、これら以外にも、能動素子(例えば、トランジスタ等)および受動素子(抵抗、コイル、コンデンサ等)が配置され、これらを相互に結ぶ線路が複数存在する。なお、図2の例では、ICチップ21は、レーダ装置から電波として送信する信号を生成し、出力端子21a,21bおよび線路22,23を介して、回路基板20の裏面20bに形成されている送信アンテナ(不図示)に給電する。また、図2の例では、図面を簡略化するためにICチップ21は出力端子21a,21bのみを有する構成としているが、実際にはこれら以外の端子(入力端子、電源端子、制御端子等)も有している。
【0022】
なお、回路基板20の裏面20bには、ICチップ21から出力され、線路22,23を介して伝送される信号を電波として送信する送信アンテナと、送信アンテナから送信され、対象物によって反射された信号を受信する受信アンテナが配置されている。図面の簡略化のために、図1等では省略しているが、回路基板20の裏面20b側には、筐体11と嵌合するレドームが存在し、送信アンテナから送信された電波はレドームを介して送信されるとともに、レドームを介して受信アンテナに受信される。
【0023】
筐体11の内部には、図1の下段に抜き出して示すように、壁部12が形成されている。壁部12は、筐体11の内部を区分するとともに、区分された一方の隔室から他方の隔室に電磁波等が漏洩することを防止する。壁部12の上面12aおよび側面12b,12cは筐体11の内面と接触している。あるいは、上面12aおよび側面12b,12cは筐体11と一体に形成される。なお、筐体11および壁部12は、電気的に接続されているので同電位であり、より詳細にはグランド電位に保たれる。
【0024】
壁部12の底面12dは、回路基板20の表面20aと当接するように配置されている。壁部12の底面12dの略中央には、壁部12を構成する導電性の金属または導電性被膜が部分的に除去される等によって切り欠き121が形成されている。なお、当該切り欠きの長辺(図1の例では、紙面上下方向に延びる辺)の長さLは、線路22,23を伝送される信号の波長をλとするとき、λ/2未満となるように構成される。このように構成することで、隔室から電磁波等が漏洩することを防止できる。
【0025】
底面12dの線路22と交差する部分には、図3の下段に拡大して示すように、半円形状を有する貫通孔122が形成されている。同様に、底面12dの線路23と交差する部分には、貫通孔123が形成されている。貫通孔122,123は、線路22,23とはそれぞれが電気的には接触していないが、後述するように、貫通孔122,123と線路22,23とは、例えば、これらの間のキャパシタンス成分を通じて、一方から他方に信号の一部が分岐するように形成されている。
【0026】
(B)本発明の実施形態の動作の説明
つぎに、図4および図5を参照して、本発明の実施形態の動作について説明する。ICチップ21の出力端子21a,21bには、ICチップ21の内部において、出力トランジスタ(例えば、FET(Field Effect Transistor)等)の出力段がそれぞれ接続されている。ICチップ21のサイズが小さい場合、出力端子21a,21bが近接して配置されることから、ICチップ21の内部またはその外部において、一方の出力端子から他方の出力端子に対して信号の漏洩が発生する。図4の例では、出力端子21bから出力端子21aに対して破線の矢印で示す漏洩信号がICチップ21の内部で発生している。もちろん、出力端子21aから出力端子21bに対しても信号の漏洩が発生するが、以下では、出力端子21bから出力端子21aに対する信号の漏洩を例に挙げて説明する。
【0027】
より詳細には、例えば、出力端子21bから出力される信号が、例えば、図5(A)のような正弦波であるとする。この場合、出力端子21aと出力端子21bは近接して配置されることから、出力端子21bから出力される信号の一部が、出力端子21aに対して漏洩し、図5(B)に示すような漏洩信号となる。なお、漏洩信号は、図5(B)に示すように、出力端子21bから出力される信号よりも振幅が小さく(例えば、1/10程度の振幅を有し)、位相は略同じである。このような漏洩信号は、漏洩信号が発生した場合には、レーダ装置に対してノイズとなる。
【0028】
そこで、本実施形態では、壁部12に貫通孔122,123および切り欠き121を設けることで、このような漏洩信号を減衰させ、レーダ装置への影響を低減する。
【0029】
より詳細には、出力端子21bから出力された信号は、線路23を介して伝送される。線路23は、壁部12の貫通孔123を通過するが、線路23を伝送される信号は、所定の分岐率(<1)で貫通孔123に分岐されることから、線路23を伝送する信号は、貫通孔123を介して壁部12に一部が漏洩する。
【0030】
ところで、壁部12には切り欠き121が形成されていることから、壁部12に漏洩した信号は、切り欠き121を迂回して伝播する。切り欠き121を迂回した信号は、貫通孔122まで伝送される。貫通孔122を伝送される信号は所定の分岐率(<1)で、線路22に分岐することから、壁部12を伝送する信号の一部は線路22に漏洩する。
【0031】
切り欠き121のサイズを適切に設定することで、壁部12を伝播して貫通孔122から線路22に漏洩する信号の位相が、線路22を伝送する漏洩信号と逆位相になるようにすることができる。また、貫通孔122,123のサイズ等を調整することで、壁部12を伝播して貫通孔122から線路22に漏洩する信号の振幅が、線路22を伝送する漏洩信号の振幅と同じになるようにすることができる。この結果、壁部12を伝播して貫通孔122から線路22に漏洩する信号によって、線路22を伝送する漏洩信号をキャンセルすることができる。
【0032】
例えば、ICチップ21の内部において出力端子21bから出力端子21aに信号が漏洩し、線路22を伝送する漏洩信号が図5(B)である場合に、線路23から貫通孔123、切り欠き121の周囲、および、貫通孔122を介して線路22に漏洩する信号が図5(C)である場合、これらは、振幅が略同じで、位相が逆である(180°ずれている)ことから、これらを合成すると、図5(D)に示すように、相互にキャンセルされて振幅が小さくなる。
【0033】
なお、漏洩信号を確実に抑制するためには、貫通孔122,123の分岐率と、切り欠き121の遅延量とを適切に設定する必要がある。すなわち、対象となる漏洩信号が、図5(B)および図5(C)に示すように、振幅が同じで、位相が180°ずれる関係を有するように貫通孔122,123の分岐率と、切り欠き121の遅延量とを適切に設定する必要がある。
【0034】
以上の動作によって、ICチップ21の内部において、出力端子21bから出力端子21aに漏洩する信号を、線路23、貫通孔123、切り欠き121の周囲、および、貫通孔122を介して線路22に漏洩する信号によって相殺するようにしたので、簡易な構成によって、ICチップ21(回路)の内部において生じる漏洩信号を低減することができる。
【0035】
なお、以上では、出力端子21bから出力端子21aに漏洩する信号をキャンセルする場合を例に挙げて説明したが、出力端子21aから出力端子21bに対して漏洩する信号についても、同様の動作によって、低減することができる。
【0036】
すなわち、出力端子21aから出力端子21bに対して漏洩する信号は、線路23を介して伝送される。一方、出力端子21aから出力される信号は、線路22を介して伝送される。線路22を介して伝送される信号は、貫通孔122を介して壁部12に分岐し、切り欠き121を迂回して貫通孔123から線路23に漏洩する。このとき、貫通孔123から線路23に漏洩する信号と、出力端子21aから出力端子21bへ漏洩し、線路23を伝送される信号とが振幅が略同じで、位相が略180°異なるように設定することで、これらを相殺することができる。
【0037】
ここで、仮に、出力端子21aから貫通孔122までの線路長と、出力端子21bから貫通孔123までの線路長とが同じであるとすると、これらの線路における位相の回転は同じであるので、壁部12における位相の回転が180°になるように設定する、すなわち、出力端子21aから出力され線路22を伝送された信号の貫通孔123の位置における位相と、当該信号が壁部12および貫通孔122を介し線路23に到達する際の位相とが、互いに略180°異なるように切り欠き121による遅延量を設定することで、出力端子21bから出力端子21aに漏洩し、線路22を伝送する信号を、線路23から壁部12を伝送する信号によって減衰するとともに、出力端子21aから出力端子21bに漏洩し、線路23を伝送する信号を、線路22から壁部12を伝送する信号によって減衰することができる。
【0038】
なお、出力端子21aから貫通孔122までの線路長と、出力端子21bから貫通孔123までの線路長とが異なる場合であっても、線路23および壁部12を伝送する信号と、線路22を伝送する信号の貫通孔122における振幅が略同じで位相の差が略180°であり、かつ、線路22および壁部12を伝送する信号と、線路23を伝送する信号の貫通孔123における振幅が略同じで位相の差が180°となるように設定することで、出力端子21aから出力端子21bに対して漏洩する信号および出力端子21bから出力端子21aに対して漏洩する信号の双方を減衰させることができる。
【0039】
より詳細には、線路22において、出力端子21aから貫通孔122までの移相量をθ22とし、線路23において、出力端子21bから貫通孔123までの移相量をθ23とし、壁部12の切り欠き121の周囲を伝送する際の移相量をθ12とするとき、以下の式(1)および式(2)を満たすように、線路22、線路23、および、切り欠き121を設定することで、出力端子21aから出力端子21bに対して漏洩する信号および出力端子21bから出力端子21aに対して漏洩する信号の双方を減衰させることができる。
【0040】
θ22+θ12-θ23=π+2π×n (n=0,1,2,・・・)
・・・(1)
【0041】
θ23+θ12-θ22=π+2π×n (n=0,1,2,・・・)
・・・(2)
【0042】
以上に説明したように、本発明の実施形態では、ICチップ21の内部における漏洩信号を、切り欠き121を有する壁部12を用いて減衰させるようにしたので、ICチップ21のように回路同士が一体的または近接して構成されている場合であっても、簡単な構成により、当該回路同士の漏洩信号を減衰させることができる。
【0043】
また、切り欠き121を用いて遅延するようにしたので、切り欠き部の上端部を、例えば、削ることにより、個体毎の調整を簡易に行うことができる。なお、本実施形態では、底面12dを、貫通孔122側と、貫通孔123側とに分断するように切り欠き121を設けている。一般に、貫通孔122と貫通孔123との間を伝送される信号の径路は多様に存在しうるが、この様な切り欠き121を設けることで、表皮効果により切り欠き121を形成する各辺および底面12dに伝送される信号に対して確実に位相を調整することができるので、貫通孔122と貫通孔123サイズ等と合わせて信号の振幅をより確実に調整することができるので好ましい。
【0044】
(C)変形実施形態の説明
以上の各実施形態は一例であって、本発明が上述した場合のみに限定されるものでないことはいうまでもない。
【0045】
例えば、図1図4に示す構成例では、切り欠き121を用いて信号を遅延するようにしたが、本発明の「遅延部」は、切り欠き121のみには限定されない。例えば、図6に示すように、貫通孔122および貫通孔123の間に凸部124を有する壁部12Aを用いるようにしてもよい。凸部124は、紙面の手前方向に信号の経路が突出していることから、この突出に係る経路だけ信号に遅延を生じる。このため、凸部124が突出する長さを調整することで、遅延量を設定することができる。
【0046】
また、図1図4に示す構成例では、切り欠き121は、矩形形状を有するようにしたが、矩形形状以外の形状(例えば、半円形状、楕円形状、三角形状、多角形状)を有するようにしてもよい。
【0047】
また、図1図4に示す構成例では、貫通孔122および貫通孔123は、半円形状を有するようにしたが、本発明は半円形状のみに限定されるものではなく、例えば、楕円形状、三角形状、矩形形状、多角形状等としてもよい。
【0048】
また、以上の実施形態では、出力端子21a,21bを例に挙げて説明したが、本発明は出力端子に限定されるものではなく、例えば、入力端子に対して本発明を適用することも可能である。
【0049】
また、以上の実施形態では、レーダ装置を例に挙げて説明したが、本発明は、レーダ装置のみに限定されるものではなく、その他の電子装置に適用することも可能である。
【0050】
また、図3図4に示す回路パターンや回路素子の配置は一例であって、本発明が図3図5に示す配置に限定されるものではないことはいうまでもない。
【符号の説明】
【0051】
10 レーダ装置
11 筐体
12 壁部
12A 壁部
12a 上面
12b,12c 側面
12d 底面
20 回路基板
20a 表面
20b 裏面
21 ICチップ
21a 出力端子
21b 出力端子
22,23 線路
121 切り欠き
122,123 貫通孔
124 凸部
図1
図2
図3
図4
図5
図6