(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-17
(45)【発行日】2022-11-28
(54)【発明の名称】電気測定型表面プラズモン共鳴センサ及びそれに用いる電気測定型表面プラズモン共鳴センサチップ
(51)【国際特許分類】
G01N 27/00 20060101AFI20221118BHJP
G01N 21/41 20060101ALI20221118BHJP
H01L 31/108 20060101ALI20221118BHJP
【FI】
G01N27/00 Z
G01N21/41 101
H01L31/10 C
(21)【出願番号】P 2019535720
(86)(22)【出願日】2018-08-09
(86)【国際出願番号】 JP2018029979
(87)【国際公開番号】W WO2019031591
(87)【国際公開日】2019-02-14
【審査請求日】2021-03-02
(31)【優先権主張番号】P 2017155187
(32)【優先日】2017-08-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(73)【特許権者】
【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001047
【氏名又は名称】弁理士法人セントクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 博紀
(72)【発明者】
【氏名】アリソン ジャイルズ
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 雅紀
(72)【発明者】
【氏名】林 弘毅
(72)【発明者】
【氏名】三澤 弘明
(72)【発明者】
【氏名】上野 貢生
【審査官】田中 洋介
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2010/0328671(US,A1)
【文献】特開2011-171519(JP,A)
【文献】特表2015-502658(JP,A)
【文献】特開2012-038541(JP,A)
【文献】特開2007-071877(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/00-27/24
G01N 21/00-21/74
H01L 31/0232
H01L 31/108
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明電極、n型透明半導体膜、及びプラズモン共鳴膜電極がこの順で配置されているセンサチップと、
前記プラズモン共鳴膜電極と前記n型透明半導体膜との間において入射光が全反射されるように前記入射光の角度を制御することが可能なプリズムとが、前記プリズム、前記透明電極、前記n型透明半導体膜、及び前記プラズモン共鳴膜電極の順で配置されたプラズモンポラリトン増強センサチップと、
前記透明電極及び前記プラズモン共鳴膜電極から電流又は電圧を直接測定する電気的測定装置と、
を備える電気測定型表面プラズモン共鳴センサ。
【請求項2】
前記センサチップにおいて、前記n型透明半導体膜と前記プラズモン共鳴膜電極との組み合わせが、ショットキー障壁を形成する組み合わせである、請求項1に記載の電気測定型表面プラズモン共鳴センサ。
【請求項3】
前記センサチップにおいて、前記プラズモン共鳴膜電極の厚さが200nm以下(ただし0を含まない)である、請求項1又は2に記載の電気測定型表面プラズモン共鳴センサ。
【請求項4】
前記センサチップにおいて、前記n型透明半導体膜が、TiO
2、ZnO、SnO
2、SrTiO
3、Fe
2O
3、TaON、WO
3、及びIn
2O
3からなる群から選択される少なくとも1種のn型半導体からなる膜である、請求項1~3のうちのいずれか一項に記載の電気測定型表面プラズモン共鳴センサ。
【請求項5】
前記センサチップにおいて、前記n型透明半導体膜と前記プラズモン共鳴膜電極との間に接着層を更に備える、請求項1~4のうちのいずれか一項に記載の電気測定型表面プラズモン共鳴センサ。
【請求項6】
前記センサチップにおいて、前記プラズモン共鳴膜電極の前記n型透明半導体膜と反対の面上に保護膜を更に備える、請求項1~5のうちのいずれか一項に記載の電気測定型表面プラズモン共鳴センサ。
【請求項7】
入射光を表面プラズモンポラリトンに変換可能なプラズモン共鳴膜電極、
前記プラズモン共鳴膜電極の前記入射光側に配置されており、前記入射光を透過し、かつ、該透過した入射光が前記プラズモン共鳴膜電極と相互作用することにより前記プラズモン共鳴膜電極から放出されるホットエレクトロンを受け取り可能なn型透明半導体膜、及び、
前記n型透明半導体膜から移動したホットエレクトロンを電気信号として取り出し可能な透明電極、
を備えるセンサチップと、
前記プラズモン共鳴膜電極と前記n型透明半導体膜との間において前記入射光が全反射されるように前記入射光の角度を制御することが可能なプリズムと、
を備えるプラズモンポラリトン増強センサチップ、並びに、
前記透明電極及び前記プラズモン共鳴膜電極から電流又は電圧を直接測定可能な電気的測定装置、
を備える電気測定型表面プラズモン共鳴センサ。
【請求項8】
請求項1~6のうちのいずれか一項に記載の電気測定型表面プラズモン共鳴センサに用いるセンサチップであり、かつ、透明電極、n型透明半導体膜、及びプラズモン共鳴膜電極がこの順で配置されている、電気測定型表面プラズモン共鳴センサチップ。
【請求項9】
請求項7に記載の電気測定型表面プラズモン共鳴センサに用いるセンサチップであり、かつ、透明電極、n型透明半導体膜、及びプラズモン共鳴膜電極がこの順で配置されている、電気測定型表面プラズモン共鳴センサチップ。
【請求項10】
透明電極、n型透明半導体膜、及びプラズモン共鳴膜電極がこの順で配置されているセンサチップと、
前記プラズモン共鳴膜電極と前記n型透明半導体膜との間において入射光が全反射されるように前記入射光の角度を制御することが可能なプリズムとが、前記プリズム、前記透明電極、前記n型透明半導体膜、及び前記プラズモン共鳴膜電極の順で配置されたプラズモンポラリトン増強センサチップと、
前記透明電極及び前記プラズモン共鳴膜電極から電流又は電圧を直接測定する電気的測定装置と、
を備える電気測定型表面プラズモン共鳴センサを用いて表面プラズモンポラリトンの変化を検出する方法であり、
前記プリズムの側から光を照射し、前記プリズム、前記透明電極、及び前記n型透明半導体を通過した光を、前記プラズモン共鳴膜電極と前記n型透明半導体膜との間で全反射させることで前記プラズモン共鳴膜電極と相互作用させて表面プラズモンポラリトンを発生せしめ、
前記表面プラズモンポラリトンによって生じ、前記n型透明半導体膜に移動したホットエレクトロンを前記透明電極から電気信号として取り出し、
前記透明電極と前記プラズモン共鳴膜電極との間の電流又は電圧の変化を前記電気的測定装置によって測定することで表面プラズモンポラリトンの変化を検出する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気測定型表面プラズモン共鳴センサ及びそれに用いる電気測定型表面プラズモン共鳴センサチップに関する。
【背景技術】
【0002】
表面プラズモン共鳴(SPR:Surface Plasmon Resonance)とは、金属の表面で自由電子が集団的振動運動(プラズマ振動)を起こしている状態であり、金属表面を伝搬する伝搬型表面プラズモン共鳴(PSPR:Propagating Surface Plasmon Resonance)と、ナノメートルサイズの金属構造に局在する局在型表面プラズモン共鳴(LSPR:Localized Surface Plasmon Resonance)とがある。伝搬型表面プラズモン共鳴は、プラズマ振動を起こした自由電子の周囲に発生した電場と入射した光との相互作用による共鳴が発生した状態であり、前記プラズマ振動と界面に沿って進む電磁波とが結合した電子疎密波(表面プラズモンポラリトン、SPP:Surface Plasmon Polariton)が金属表面に沿って伝搬する。他方、局在型表面プラズモン共鳴は、前記プラズマ振動によって前記金属ナノ粒子等の金属ナノ構造が分極・誘起されて電気双極子が生成した状態のことである。
【0003】
表面プラズモン共鳴は、標的物質の吸着の有無や前記相互作用の強さを検出するアフィニティセンサ等のセンサに利用されており、例えば、特開2011-141265号公報(特許文献1)には、平面部を有する基材と、前記平面部上に形成され、金属で形成された表面を有し、標的物質が配置される特定の突起を含む回折格子とを備えるセンサチップが記載されている。しかしながら、特許文献1に記載されているようなセンサチップでは、金属表面に存在する標的物質の濃度変化による表面プラズモン共鳴角の変化を光学系で検出する必要があるために装置が高額になったり大型化したりする傾向にあり、また、集積化や同時に多数のサンプルを処理するハイスループット化が困難であるといった問題を有していた。
【0004】
さらに、特開2000-356587号公報(特許文献2)には、基板と、前記基板の表面に凝集させずに互いに離隔した状態にある単膜として固定された金属微粒子とを有して構成されるセンサユニットを有する局在プラズモン共鳴センサが記載されている。しかしながら、特許文献2に記載の局在プラズモン共鳴センサは、前記金属微粒子への標的物質の吸着や堆積による該金属微粒子表面近傍の媒質の屈折率変化を前記金属微粒子間を透過した光の吸光度を測定することによって検出するため、前記金属微粒子のサイズや配列を厳密に制御する必要がある、検出信号が吸光度であるためにその強度を十分に増強させることが困難である、といった問題を有していた。
【0005】
また、表面プラズモン共鳴は、光電変換素子において、光電変換効率を向上させるためにも利用されており、例えば、例えば特開2012-38541号公報(特許文献3)には、透明基板、透明電極層、金属微粒子層、n型半導体からなる半導体薄膜、色素の吸着層が順に積層されたアノード電極と、これに酸化還元種を含む電解質を介して配置されたカソード電極と、を備えるプラズモン共鳴型光電変換素子が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2011-141265号公報
【文献】特開2000-356587号公報
【文献】特開2012-38541号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、本発明者らは、特許文献3に記載されているような光電変換素子をセンサに応用した場合には、金属微粒子の制御が必要であり、センサ感度を向上させることが困難であることに加えて、電解質の酸化・還元反応を介するため、測定対象であるサンプル自体を酸化還元してしまい、センサ精度に影響を与えてしまうという問題があることを見出した。
【0008】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、小型化やハイスループット化が容易であり、かつ、十分なセンサ精度を有する電気測定型表面プラズモン共鳴センサ及びそれに用いる電気測定型表面プラズモン共鳴センサチップを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、チップにおいて、プリズム、透明電極、n型透明半導体膜、及びプラズモン共鳴膜電極を組み合わせてこの順で配置させ、特定の範囲内の入射角度で、かつ、プリズムの側から入射させた入射光をプラズモン共鳴膜電極に到達させることにより、到達した光が前記プラズモン共鳴膜電極を伝搬する表面プラズモンポラリトンに変換され、これを前記透明電極及び前記プラズモン共鳴膜電極から電気信号として直接検出できることを見出した。また、検出される電気信号の大きさは、前記プラズモン共鳴膜電極近傍のサンプルの屈折率に応じて高い精度で変化することを見出した。さらに、前記サンプルの屈折率は該サンプルの濃度や状態に相当するため、前記構成のチップは、前記サンプルの濃度変化や状態変化を測定可能なセンサチップとして用いることが可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明の電気測定型表面プラズモン共鳴センサは、
透明電極、n型透明半導体膜、及びプラズモン共鳴膜電極がこの順で配置されているセンサチップと、前記プラズモン共鳴膜電極と前記n型透明半導体膜との間において入射光が全反射されるように前記入射光の角度を制御することが可能なプリズムとが、前記プリズム、前記透明電極、前記n型透明半導体膜、及び前記プラズモン共鳴膜電極の順で配置されたプラズモンポラリトン増強センサチップと、
前記透明電極及び前記プラズモン共鳴膜電極から電流又は電圧を直接測定する電気的測定装置と、
を備えるものである。
【0011】
また、本発明の電気測定型表面プラズモン共鳴センサは、
入射光を表面プラズモンポラリトンに変換可能なプラズモン共鳴膜電極、
前記プラズモン共鳴膜電極の前記入射光側に配置されており、前記入射光を透過し、かつ、該透過した入射光が前記プラズモン共鳴膜電極と相互作用することにより前記プラズモン共鳴膜電極から放出されるホットエレクトロンを受け取り可能なn型透明半導体膜、及び、
前記n型透明半導体膜から移動したホットエレクトロンを電気信号として取り出し可能な透明電極、
を備えるセンサチップと、
前記プラズモン共鳴膜電極と前記n型透明半導体膜との間において前記入射光が全反射されるように前記入射光の角度を制御することが可能なプリズムと、
を備えるプラズモンポラリトン増強センサチップ、並びに、
前記透明電極及び前記プラズモン共鳴膜電極から電流又は電圧を直接測定可能な電気的測定装置、
を備えるものである。
【0012】
上記の電気測定型表面プラズモン共鳴センサの好ましい一形態としては、前記センサチップにおいて、前記n型透明半導体膜と前記プラズモン共鳴膜電極との組み合わせが、ショットキー障壁を形成する組み合わせであることが好ましい。
【0013】
また、上記電気測定型表面プラズモン共鳴センサの好ましい一形態としては、前記センサチップにおいて、前記プラズモン共鳴膜電極の厚さが200nm以下(ただし0を含まない)であることが好ましい。
【0014】
さらに、上記電気測定型表面プラズモン共鳴センサの好ましい一形態としては、前記センサチップにおいて、前記n型透明半導体膜が、TiO2、ZnO、SnO2、SrTiO3、Fe2O3、TaON、WO3、及びIn2O3からなる群から選択される少なくとも1種のn型半導体からなる膜であることが好ましい。
【0015】
また、上記電気測定型表面プラズモン共鳴センサの好ましい一形態としては、前記センサチップにおいて、前記n型透明半導体膜と前記プラズモン共鳴膜電極との間に接着層を更に備えることが好ましく、前記プラズモン共鳴膜電極の前記n型透明半導体膜と反対の面上に保護膜を更に備えることも好ましい。
【0016】
本発明の電気測定型表面プラズモン共鳴センサチップは、上記の電気測定型表面プラズモン共鳴センサに用いるセンサチップであり、かつ、透明電極、n型透明半導体膜、及びプラズモン共鳴膜電極がこの順で配置されているものである。
【0017】
本発明の表面プラズモンポラリトンの変化を検出する方法は、透明電極、n型透明半導体膜、及びプラズモン共鳴膜電極がこの順で配置されているセンサチップと、前記プラズモン共鳴膜電極と前記n型透明半導体膜との間において入射光が全反射されるように前記入射光の角度を制御することが可能なプリズムとが、前記プリズム、前記透明電極、前記n型透明半導体膜、及び前記プラズモン共鳴膜電極の順で配置されたプラズモンポラリトン増強センサチップと、
前記透明電極及び前記プラズモン共鳴膜電極から電流又は電圧を直接測定する電気的測定装置と、
を備える電気測定型表面プラズモン共鳴センサを用いて表面プラズモンポラリトンの変化を検出する方法であり、
前記プリズムの側から光を照射し、前記プリズム、前記透明電極、及び前記n型透明半導体を通過した光を、前記プラズモン共鳴膜電極と前記n型透明半導体膜との間で全反射させることで前記プラズモン共鳴膜電極と相互作用させて表面プラズモンポラリトンを発生せしめ、
前記表面プラズモンポラリトンによって生じ、前記n型透明半導体膜に移動したホットエレクトロンを前記透明電極から電気信号として取り出し、
前記透明電極と前記プラズモン共鳴膜電極との間の電流又は電圧の変化を前記電気的測定装置によって測定することで表面プラズモンポラリトンの変化を検出する方法である。
【0018】
なお、本発明の構成によって前記目的が達成される理由は必ずしも定かではないが、本発明者らは以下のように推察する。すなわち、本発明の電気測定型表面プラズモン共鳴センサチップ(以下、場合により、単に「センサチップ」という)及びこれとプリズムとを組み合わせて用いた電気測定型表面プラズモン共鳴センサ(以下、場合により、単に「センサ」という)においては、プリズムの側からプラズモン共鳴膜電極に光を照射し、プリズムを通過した光が、前記プラズモン共鳴膜電極と前記n型透明半導体膜との間において全反射すると、全反射した面の裏側にエネルギーの染み出し(エバネッセント波)が生じる。そのため、光の前記界面に対する入射角度が臨界角(以下、「全反射角度」という)以上であると、全反射した場所において生じたエバネッセント波と、この裏側に接する前記プラズモン共鳴膜とが相互作用して上記の表面プラズモンポラリトンが励起される。このとき、プリズムによって、入射する光の入射角度を上記の全反射をする角度となるように制御することができるため、発生する表面プラズモンポラリトンが十分に増強される。
【0019】
次いで、この表面プラズモンポラリトンによって前記プラズモン共鳴膜電極が十分に分極することでホットエレクトロンが放出され、ホットホールが形成されるが、放出されたホットエレクトロンは前記プラズモン共鳴膜電極とショットキー障壁が形成されるn型透明半導体膜を経て対極である透明電極へとスムーズに移動することができる。そのため、本発明のセンサチップ及びこれとプリズムとを用いたセンサにおいては、前記表面プラズモンポラリトンを前記プラズモン共鳴膜電極及び前記透明電極から電気信号として十分に検出することができるものと本発明者らは推察する。
【0020】
さらに、本発明のセンサチップ及びこれとプリズムとを組み合わせて用いたセンサにおいては、前記プラズモン共鳴膜電極近傍における屈折率の変化が、上記の全反射する場所、すなわち、表面プラズモンポラリトンを生じさせる入射角度(プリズムの側から入射する光の入射角度)の範囲、並びに、生じる表面プラズモンポラリトンの強さを変化させる。また、光の入射により前記プラズモン共鳴膜電極に生じる電場は前記表面プラズモンポラリトンによって増強されるため、その電場変化に応じて変化する電流量は、表面プラズモンポラリトンの強さによって変化する。したがって、前記プラズモン共鳴膜電極近傍のサンプルの屈折率変化を十分な精度で測定することができるものと本発明者らは推察する。そのため、本発明のセンサチップ及びこれとプリズムとを用いたセンサによれば、前記サンプルの濃度変化や状態変化を高精度でモニタすることができ、また、検出信号が電気信号であるため、その強度を電気的に容易に増強することや電流として容易に測定することが可能となるものと本発明者らは推察する。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、小型化やハイスループット化が容易であり、かつ、十分なセンサ精度を有する電気測定型表面プラズモン共鳴センサ及びそれに用いる電気測定型表面プラズモン共鳴センサチップを提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1A】プラズモンポラリトン増強センサチップの好適な実施形態1を示す概略縦断面図である。
【
図1B】電気測定型表面プラズモン共鳴センサの好適な実施形態1を示す概略縦断面図である。
【
図2】プラズモンポラリトン増強センサチップの好適な実施形態2を示す概略縦断面図である。
【
図3】プラズモンポラリトン増強センサチップの好適な実施形態3を示す概略縦断面図である。
【
図4】プラズモンポラリトン増強センサチップの好適な実施形態4を示す概略縦断面図である。
【
図5】プラズモンポラリトン増強センサチップの好適な実施形態5を示す概略縦断面図である。
【
図6】プリズムの側から入射する光の入射角度(θ°)を示す模式図である。
【
図7】実施例1で得られたチップの縦断面の走査型電子顕微鏡写真である。
【
図8】実施例1で得られたチップについて試験例1を実施して得られた電圧値と電流値との関係を示すグラフである。
【
図9A】実施例1で得られたチップについて試験例2の電流測定方法を示す模式図である。
【
図9B】比較例1で得られたチップについて試験例2の電流測定方法を示す模式図である。
【
図10】実施例1及び比較例1で得られたチップについて試験例2を実施して得られた入射角度と電流値との関係を示すグラフである。
【
図11】実施例1で得られたチップについて試験例3を実施して得られた各溶液毎の入射角度と電流値との関係を示すグラフである。
【
図12】実施例1で得られたチップについて試験例3を実施して得られた溶液の屈折率と電流値との関係を示すグラフである。
【
図13】実施例2で得られたチップについて試験例4を実施して得られた溶液の屈折率と電流値との関係を示すグラフである。
【
図14】実施例3で得られたチップについて試験例4を実施して得られた溶液の屈折率と電流値との関係を示すグラフである。
【
図15】実施例2及び実施例3で得られたチップについて試験例4を実施して得られた溶液の屈折率と電流値との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。本発明の電気測定型表面プラズモン共鳴センサは、
透明電極、n型透明半導体膜、及びプラズモン共鳴膜電極がこの順で配置されているセンサチップと、プリズムとが、前記プリズム、前記透明電極、前記n型透明半導体膜、及び前記プラズモン共鳴膜電極の順で配置されたプラズモンポラリトン増強センサチップと、
前記透明電極及び前記プラズモン共鳴膜電極から電流又は電圧を直接測定する電気的測定装置と、
を備えるものである。また、本発明の電気測定型表面プラズモン共鳴センサは、
入射光を表面プラズモンポラリトンに変換可能なプラズモン共鳴膜電極、
前記プラズモン共鳴膜電極の前記入射光側に配置されており、前記入射光を透過し、かつ、該透過した入射光が前記プラズモン共鳴膜電極と相互作用することにより前記プラズモン共鳴膜電極から放出されるホットエレクトロンを受け取り可能なn型透明半導体膜、及び、
前記n型透明半導体膜から移動したホットエレクトロンを電気信号として取り出し可能な透明電極、
を備えるセンサチップと、
前記プラズモン共鳴膜電極と前記n型透明半導体膜との間において前記入射光を全反射させることが可能なプリズムと、
を備えるプラズモンポラリトン増強センサチップ、並びに、
前記透明電極及び前記プラズモン共鳴膜電極から電流又は電圧を直接測定可能な電気的測定装置、
を備えるものでもある。さらに、本発明の電気測定型表面プラズモン共鳴センサチップは、上記本発明の電気測定型表面プラズモン共鳴センサに用いるセンサチップであり、かつ、透明電極、n型透明半導体膜、及びプラズモン共鳴膜電極がこの順で配置されているものである。
【0024】
以下、図面を参照しながら電気測定型表面プラズモン共鳴センサ(以下、「センサ」)、プラズモンポラリトン増強センサチップ(以下、「増強センサチップ」)、及び電気測定型表面プラズモン共鳴センサチップ(以下、「センサチップ」)の好ましい形態を例に挙げてより具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。なお、以下の説明及び図面中、同一又は相当する要素には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0025】
図1Aには、増強センサチップの第1の好ましい形態(好適な実施形態1;増強センサチップ110)を示す。
図1Aに示すように、好適な実施形態1において、増強センサチップ110は、プリズム(以下、プリズム1)上に、透明電極(以下、透明電極2)、n型透明半導体膜(以下、n型透明半導体膜3)、及びプラズモン共鳴膜電極(以下、プラズモン共鳴膜電極4)からなるセンサチップ(光電変換部;好適な実施形態1ではセンサチップ11)が、プリズム1、透明電極2、n型透明半導体膜3、及びプラズモン共鳴膜電極4の順になるように積層されたものである。
【0026】
また、
図1Bには、センサの第1の好ましい形態(好適な実施形態1;センサ510)を示す。
図1Bに示すように、好適な実施形態1において、センサ510は、プリズム1及びセンサチップ11を備える増強センサチップ110と、センサチップ11の透明電極2及びプラズモン共鳴膜電極4と外部回路(外部回路31及び31’)を通じて電気的に接続された電気的測定装置(電気的測定装置21)と、を備える。
【0027】
(プリズム)
プリズム1は、n型透明半導体膜3とプラズモン共鳴膜電極4との間において入射光を全反射させる機能を有するものである。すなわち、本開示の実施形態においてプリズム1は、n型透明半導体膜3とプラズモン共鳴膜電極4との間における全反射条件を満たすように、入射光の角度を制御する。そして、プリズム1により角度が制御された入射光は、n型透明半導体膜3とプラズモン共鳴膜電極4との間、すなわち、プラズモン共鳴膜電極4とn型透明半導体膜3との界面において全反射する。なお、下記の接着層を更に備える場合には、プリズム1により角度が制御された入射光は、プラズモン共鳴膜電極4と接着層との界面、又は接着層とn型透明半導体膜3との界面において全反射する。さらに、下記の接着層が2層以上ある場合には、プリズム1により角度が制御された入射光は、プラズモン共鳴膜電極4と接着層との界面、又は接着層とn型半導体膜3との界面、又は隣接する2つの接着層の界面において全反射する。プリズム1としては、三角柱の形状をした三角プリズム(直角プリズム(45°の角を持つ直角二等辺三角形、60°及び30°の角を持つ直角三角形)、正三角形プリズム等);台形柱の形状をした台形プリズム;円柱の1側面が平面の形状をした円筒プリズム(前記平面(長方形)と円柱の上面及び底面とのなす辺(短辺)の長さは前記上面及び底面の円の直径未満であってよい);球体の1側面が平面の形状をした球プリズム(前記平面(円)の直径は前記球体の直径未満であってもよい);五角柱の形状をしたペンタプリズム等が挙げられる。これらの中でも、プリズム1としては、プリズムに入射した入射光がより効率よくプラズモン共鳴膜電極4に到達する傾向にあるという観点から、
図1Aに示すような三角プリズムの他、台形プリズム、前記円筒プリズム又は前記球プリズムであることが好ましく、直角プリズム;前記短辺の長さが前記上面及び底面の円の直径に等しい半円筒プリズム;又は前記平面の円の直径が前記球体の直径に等しい半球プリズムであることがより好ましい。
【0028】
センサとしては、1つのセンサチップ(光電変換部)に対して、1つのプリズム1が配置されていても2以上の複数のプリズム1がアレイ状に配置されていてもよく、また、2以上の複数の光電変換部に対して、1つのプリズム1が配置されていてもよい。
【0029】
プリズム1の大きさとしては、特に制限されず、センサチップに接する面が多角形である場合には最も長い辺、又は、それ以外の場合にはセンサチップに接する面の外接円の直径の長さが、10nm~10cmであることが好ましく、50nm~5cmであることがより好ましく、100nm~3cmであることが更に好ましい。なお、ナノメートルサイズ~マイクロメートルサイズのプリズムは、レーザーアブレーション、電子ビームリソグラフィ、ナノインプリントリソグラフィ、光学干渉リソグラフィ等のパターニング技術を利用して成形することが可能であり、マイクロメートル以上のサイズのプリズムは、切削の後に光学研磨をすることで得ることが可能である。プリズム1の大きさが前記下限未満であると、製造困難性が増してプリズムとしての性能が低下することにより、センサとしての性能が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超えると、センサとしての小型化が困難となる傾向にある。
【0030】
プリズム1が三角プリズムである場合には、
図1Aに示すように、前記三角柱の側面上に、透明電極2、n型透明半導体膜3、及びプラズモン共鳴膜電極4が配置されることが好ましく、光は前記斜面以外の面から入射されることが好ましい。また、プリズム1が台形プリズムである場合には、台形柱の側面のうち、台形の下底辺をなす面(下底面)の面上に、透明電極2、n型透明半導体膜3、及びプラズモン共鳴膜電極4が配置されることが好ましく、光は台形の斜辺をなす面から入射されることが好ましい。
【0031】
前記三角プリズム及び前記台形プリズムとしては、各プリズムの入射光が入射する面と、センサチップ(好適な実施形態1ではセンサチップ11)と接する面とがなす角度が、5~85°であることが好ましく、15~75°であることがより好ましく、25~65°であることが更に好ましい。
【0032】
さらに、プリズム1が円筒プリズム又は球プリズムである場合には、これらの有する前記平面上に、それぞれ、透明電極2、透明半導体膜3、及びプラズモン共鳴膜電極4が配置されることが好ましく、光は曲面から入射されることが好ましい。
【0033】
前記円筒プリズムとしては、円筒の直径を1とした場合において、前記平面を底面としたとき、該底面の中心から垂直方向に伸ばした直線と円弧との交点における前記底面の中心から前記円弧の交点までの距離(以下、「プリズム高さ」という)と前記円筒の直径との比率(プリズム高さ/円筒の直径)が、1未満(0を含まない)であることが好ましく、0.2以上0.8未満であることがより好ましく、0.4以上0.6未満であることが更に好ましい。
【0034】
前記球プリズムとしては、球の直径を1とした場合において、前記平面を底面としたとき、該底面の中心からの高さ(以下、「プリズム高さ」という)と前記球の直径との比率(プリズム高さ/球の直径)が、1未満(0を含まない)であることが好ましく、0.2以上0.8未満であることがより好ましく、0.4以上0.6未満であることが更に好ましい。
【0035】
前記三角プリズム、前記円筒プリズム、前記球プリズムにおいて、前記角度若しくは前記プリズム高さが前記下限未満、又は、前記上限を超えると、表面プラズモンポラリトンを励起し得る入射光角度で光を入射させることが困難となったり、プリズム内部で光が複数回反射することによってセンサの感度や精度が低下したりする傾向にある。
【0036】
また、プリズム1がペンタプリズムである場合には、五角柱の側面のうち、いずれかの側面上に、透明電極2、透明半導体膜3、及びプラズモン共鳴膜4が配置されることが好ましく、光は残りの4面のうちのいずれかの面から入射されることが好ましい。
【0037】
プリズム1の材質としては、特に制限されず、例えば、ガラス、高分子ポリマ(ポリメタクリル酸メチル、ポリスチレン、ポリエチレン、エポキシ、ポリエステル等)、硫黄、ルビー、サファイア、ダイヤモンド、セレン化亜鉛(ZnSe)、硫化亜鉛(ZnS)、ゲルマニウム(Ge)、ケイ素(Si)、ヨウ化セシウム(CsI)、臭化カリウム(KBr)、臭沃化タリウム、炭酸カルシウム(CaCO3)、フッ化バリウム(BaF2)、フッ化マグネシウム(MgF2)、フッ化リチウム(LiF)が挙げられる。また、プリズム1の材質としては、液体であってもよく、水、オイル、グリセロール、ジヨードメタン、α-ブロモナフタレン、トルエン、イソオクタン、シクロヘキサン、2,4-ジクロロトルエン、エチルベンゼン、ジベンジルエーテル、アニリン、スチレン、有機化合物溶液(ショ糖溶液等)、無機化合物溶液(塩化カリウム溶液、硫黄含有溶液)が挙げられ、これらのうちの1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0038】
なお、プリズム1の形状、材質に関わらず、プリズム1の内部に入射光の光源が配置されていてもよい。
【0039】
(透明電極)
透明電極2は、プラズモン共鳴膜電極4で生じた表面プラズモンポラリトンに伴って放出され、n型透明半導体膜3を移動してきたホットエレクトロン(電子)を電気信号として取り出す機能を有するものであり、プラズモン共鳴膜電極4の対極として機能し、プラズモン共鳴膜電極4と、電気的測定装置(好適な実施形態1では電気的測定装置21)及び必要に応じて外部回路(導線、電流計等;好適な実施形態1では外部回路31及び31’)を介して電気的に接続される。また、透明電極2は、光を透過できることが必要である。なお、本発明において、膜、電極、層及び基板などが「光を透過できる」とは、膜、電極、層又は基板などの一方の面に対して波長400~1500nmのうちの少なくともいずれかの波長の光を垂直に入射させたときの光透過率が40%以上であることをいい、前記光透過率は50%以上であることが好ましく、60%以上であることが更に好ましい。
【0040】
透明電極2の材質としては、半導体分野において透明電極として従来から用いられているものの中から適宜選択して用いることができ、例えば、銅(Cu)、金(Au)、銀(Ag)、白金(Pt)、亜鉛(Zn)、クロム(Cr)、アルミ(Al)、チタン(Ti)、窒化チタン(TiN)、ITO(Indium tin oxide)、FTO(Fluorine-doped tin oxide)、及び他元素(アルミニウムやガリウム等)をドープしたZnO等の金属酸化物などの透明導電性材料、及びこれらの積層体からなる薄膜や網状の形状が挙げられる。また、透明電極2の材質としては、下記のn型透明半導体膜を構成するn型半導体も挙げられ、センサチップにおいて、透明電極2とn型透明半導体膜3とは、互いに同一の材質からなる層であってもよい。
【0041】
透明電極2の厚さとしては、通常、1~1000nmである。なお、膜、電極、層及び基板などの厚さは、走査型電子顕微鏡(SEM)又は透過型電子顕微鏡(TEM)による観察で測定することができる。
【0042】
(n型透明半導体膜)
n型透明半導体膜3は、プラズモン共鳴膜電極4で励起された表面プラズモンポラリトンによって該プラズモン共鳴膜電極4が十分に分極されることで放出されるホットエレクトロンを受け取る機能を有するものであり、n型半導体からなる膜である。また、n型透明半導体膜3は、光を透過できることが必要である。
【0043】
前記n型半導体としては、例えば、無機酸化物半導体が挙げられ、これらのうちの1種を単独であっても2種以上の複合材料であってもよい。前記無機酸化物半導体としては、二酸化チタン(TiO2)、酸化亜鉛(ZnO)、二酸化スズ(SnO2)、窒化ガリウム(GaN)、酸化ガリウム(GaO)、酸化チタン酸ストロンチウム(SrTiO3)、酸化鉄(Fe2O3)、酸窒化タンタル(TaON)、酸化タングステン(WO3)、酸化インジウム(In2O3)及びこれらの複合酸化物等が挙げられる。中でも、n型半導体としては、透明性が高く、導電率が高いという観点からは、TiO2、ZnO、SnO2、SrTiO3、Fe2O3、TaON、WO3及びIn2O3からなる群から選択される少なくとも1種の半導体であることが好ましく、TiO2、ZnO、SnO2、SrTiO3、Fe2O3及びIn2O3からなる群から選択される少なくとも1種の半導体であることがより好ましい。
【0044】
n型透明半導体膜3の厚さとしては、1~1000nmであることが好ましく、5~500nmであることがより好ましく、10~300nmであることが更に好ましい。前記厚さが前記下限未満であると、前記n型透明半導体が膜として存在できず、半導体としての十分な機能を果たせなくなる傾向にある。他方、前記上限を超えると、光透過率が減少したり、抵抗が増大して電流が流れにくくなる傾向にある。
【0045】
(プラズモン共鳴膜電極)
プラズモン共鳴膜電極4は、入射してきた光(入射光)を表面プラズモンポラリトンに変換する機能を有するものであり、光との相互作用によって表面プラズモンポラリトンを発生可能なプラズモニック材料からなる膜である。また、前記表面プラズモンポラリトンを電気信号として取り出す機能を有するものであり、透明電極2の対極として機能し、透明電極2と、電気的測定装置(好適な実施形態1では電気的測定装置21)及び必要に応じて外部回路(導線、電流計等;好適な実施形態1では外部回路31及び31’)を介して電気的に接続される。
【0046】
前記プラズモニック材料としては、例えば、金属、金属窒化物、及び金属酸化物が挙げられ、これらのうちの1種を単独であっても2種以上の複合材料であってもよい。中でも、前記プラズモニック材料として好ましいものとしては、前記金属としては金(Au)、銀(Ag)、アルミニウム(Al)、銅(Cu)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、亜鉛(Zn)、及びナトリウム(Na)を挙げることができ、前記金属窒化物としては窒化チタン(TiN)を、前記金属酸化物としてはITO(Indium tin oxide)、FTO(Fluorine-doped tin oxide)、及び他元素(アルミニウムやガリウム等)をドープしたZnOを、それぞれ挙げることができる。中でも、前記プラズモニック材料としては、Au、Ag、Al、Cu、Pt、Pd、及びTiNからなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましく、Au、Ag、Al、Cu及びPtからなる群から選択される少なくとも1種であることがより好ましい。
【0047】
プラズモン共鳴膜電極4の厚さとしては、200nm以下(ただし0を含まない)であることが好ましく、1~150nmであることがより好ましく、5~100nmであることが更に好ましく、10~60nmであることが更により好ましい。前記厚さが前記下限未満であると、前記プラズモン共鳴膜電極が膜として存在できなくなる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、光が入射してきた面の反対側の面に到達するエバネッセント波が弱くなり、十分な表面プラズモンポラリトンを励起できなくなる傾向にある。また、プラズモン共鳴膜電極4の厚さとしては、測定対象であるサンプルの屈折率としてより広範囲の屈折率(好ましくは、1.33~1.40)を測定可能となる傾向にあるという観点からは、10~34nmであることが特に好ましく、屈折率の変化に対して電流値の変化率を大きくするという観点からは、35~60nmであることが特に好ましい。
【0048】
図2には、増強センサチップの第2の好ましい形態(好適な実施形態2)を示す。増強センサチップを構成するセンサチップとしては、本発明の効果を阻害しない範囲において、更に別の層を備えていてもよく、例えば、
図2に示すセンサチップ(光電変換部)12のように、プリズム1と透明電極2との間に、センサチップ12を支持することを主な目的として、透明基板5を更に備えていてもよい(増強センサチップ120)。透明基板5の材質としては、光を透過できるものであれば特に制限されず、例えば、ガラス;プラスチックやフィルム等の高分子有機化合物が挙げられ、透明基板5としては、これらのうちの1種を含む単層であってもかかる単層が2種以上積層された複層であってもよい。透明基板5を更に備える場合、その厚さとしては、通常、0.01~2mmである。
【0049】
また、透明基板5を更に備える場合、プリズム1と透明基板5との間には、透明基板5を密着させることを主な目的として、中間層(図示せず)を更に備えていてもよい。前記中間層の材質としては、光を透過できるものであれば特に制限されず、例えば、グリセロール、水、高分子ポリマ(ポリメタクリル酸メチル、ポリスチレン、ポリエチレン、エポキシ、ポリエステル等)、オイル、ジヨードメタン、α-ブロモナフタレン、トルエン、イソオクタン、シクロヘキサン、2,4-ジクロロトルエン、有機化合物溶液(ショ糖溶液等)、無機化合物溶液(塩化カリウム溶液、硫黄含有溶液)、エチルベンゼン、ジベンジルエーテル、アニリン、スチレンが挙げられ、これらのうちの1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0050】
図3には、増強センサチップの第3の好ましい形態(好適な実施形態3)を示す。増強センサチップを構成するセンサチップとしては、
図3に示すセンサチップ(光電変換部)13のように、n型透明半導体膜3とプラズモン共鳴膜電極4との間に、プラズモン共鳴膜電極4をより強固に固定することを主な目的として、接着層6を更に備えていてもよい(増強センサチップ130)。接着層6の材質としては、例えば、チタン(Ti)、クロム(Cr)、ニッケル(Ni)、窒化チタン(TiN)が挙げられ、前記接着層としては、これらのうちの1種を含む単層であってもかかる単層が2種以上積層された複層であってもよい。また、接着層6は、n型半導体膜3とプラズモン共鳴膜電極4との境界面を全て覆っていなくともよい。ただし、光が入射してきた面の反対側の面に到達するエバネッセント波が弱くなり、十分な強さの表面プラズモンポラリトンを励起できなくなる傾向にあることから、センサチップにおいては、n型透明半導体膜3とプラズモン共鳴膜電極4とが互いに近傍に配置されていることが好ましく、n型透明半導体膜3とプラズモン共鳴膜電極4との間の距離が25nm以下であることが好ましく、1~10nmであることがより好ましい。したがって、接着層6を更に備える場合、その厚さとしては、25nm以下であることが好ましく、1~10nmであることがより好ましい。
【0051】
図4には、増強センサチップの第4の好ましい形態(好適な実施形態4)を示す。増強センサチップにおいては、
図4に示すように、プラズモン共鳴膜電極4の露出面を保護することを主な目的として、当該露出面上(n型透明半導体膜3と反対の面上)に、保護膜7を更に備えていてもよい(増強センサチップ140)。保護膜7の材質としては、例えば、ガラス、プラスチック、酸化チタン(TiO
2)、フッ化マグネシウム(MgF
2)、五酸化タンタル(Ta
2O
5)、酸化アルミニウム(Al
2O
3)、ダイヤモンドライクカーボン、シリコンカーバイドが挙げられ、保護膜7としては、これらのうちの1種を含む単層であってもかかる単層が2種以上積層された複層であってもよい。ただし、前記プラズモン共鳴膜電極4において発生する表面プラズモンポラリトンが及ぶ範囲が該プラズモン共鳴膜電極表面から300nm程度以内であることから、保護膜7を更に備える場合、その厚さとしては、300nm以下であることが好ましく、200nm以下であることがより好ましく、100nm以下であることが更に好ましい。
【0052】
図5には、増強センサチップの第5の好ましい形態(好適な実施形態5)を示す。増強センサチップにおいては、
図5に示すように、測定対象であるサンプルを保持することを主な目的として、プラズモン共鳴膜電極4のn型透明半導体膜3と反対の面上、又は上記の保護膜7(
図5では示さず)上に、サンプル層8を更に備えていてもよい(増強センサチップ150)。なお、サンプル層8としては、前記サンプルが任意の流速で供給されるように配置されたものであっても、前記サンプルが一定容積で含まれるようにセル状に区分して配置されたものであってもよい。
【0053】
また、増強センサチップ及びセンサチップとしては、上記増強センサチップの実施形態1~5(増強センサチップ110~150、センサチップ11~13)に制限されるものではなく、例えば、透明基板5及びサンプル層8をいずれも備えるなど、これらの任意の組み合わせであってもよい(図示せず)。さらに、増強センサチップとしては、1つを単独で用いても、複数個を列又は平面に並べて配置して用いてもよい。
【0054】
増強センサチップを構成するセンサチップにおいては、n型透明半導体膜3とプラズモン共鳴膜電極4(接着層6を更に備える場合には該接着層6)との組み合わせが、ショットキー障壁を形成する組み合わせであることが好ましい。センサチップがショットキー障壁を形成することは、センサチップの透明電極2を半導体アナライザ等の電圧印加手段の作用極に、プラズモン共鳴膜電極4を前記電圧印加手段の対極及び参照電極に、それぞれ接続して、作用極に-1.5~+1.5Vの範囲で電圧を印加したときの電流値を測定することにより確認することができる。その電流値としては、0V以上+1.5V以下における電流値の絶対値のうちの最大値が-1.5V以上0V未満における電流値の絶対値のうちの最大値に対して5分の1以下であることが好ましく、10分の1以下であることがより好ましく、20分の1以下であることが更に好ましい。この比率が前記上限値を超えると、整流特性が減弱するため、測定時のノイズが大きくなり、センサの感度や精度が減少する傾向にある。
【0055】
このようなショットキー障壁を形成する組み合わせは、n型透明半導体膜3の仕事関数をφS、プラズモン共鳴膜電極4(又は接着層6)の仕事関数をφMとしたときに、次式:φS<φMで示される条件を満たす組み合わせである。
【0056】
各材質における仕事関数の値は公知であり、n型透明半導体膜3の仕事関数(φS)としては、例えば、(I)Akihito Imanishiら、J.Phys.Chem.C、2007年、111(5)、p.2128-2132;(II)Min Weiら、Energy Procedia、2012年、Volume 16、Part A、p.76-80;(III)David Ginleyら、「Handbook of Transparent Conductors」、2011年;(IV)L.F.Zagonelら、J.Phys.:Condens.Matter、2009年、21、31;(V)E.R.Batistaら、J.Phys.Chem.B、2002年、106(33)、p.8136-8141;(VI)Gy.Vidaら、2003年、Microsc.Microanal.、9(4)、p.337-342;(VII)W.J.Chuら、J.Phys.Chem.B、2003年、107(8)、p.1798-1803において、それぞれ、二酸化チタン(TiO2):4.0~4.2(I)、酸化亜鉛(ZnO):4.71~5.08(II)、二酸化スズ(SnO2):5.1(III)、チタン酸ストロンチウム(SrTiO3):4.2(IV)、三酸化二鉄(Fe2O3):5.6(V)、酸化タングステン(WO3):5.7(VI)、酸窒化タンタル(TaON):4.4(VII)、酸化インジウム(In2O3):4.3~5.4(III)であることが記載されている。また、プラズモン共鳴膜電極4(又は接着層6)の仕事関数(φM)としては、例えば、(VIII)日本化学会編、「化学便覧 基礎編 改訂4版」、II-489において、それぞれ、金(Au):5.1~5.47、銀(Ag):4.26~4.74、アルミニウム(Al):4.06~4.41、銅(Cu):4.48~4.94、白金(Pt):5.64~5.93、パラジウム(Pd):5.55であることが記載されており、また、(IX)Takashi Matsukawaら、Jpn.J.Appl.Phys.、2014年、53、04EC11において、窒化チタン(TiN):4.4~4.6であることが記載されている。
【0057】
したがって、ショットキー障壁を形成するn型透明半導体膜3とプラズモン共鳴膜電極4(又は接着層6)との組み合わせとしては、これらの仕事関数(φS、φM)の中から、上記条件を満たす組み合わせを選択して適宜採用することができる。これらの中でも、n型透明半導体膜3とプラズモン共鳴膜電極4(又は接着層6)との組み合わせとしては、TiO2とAu、Ag、Al、Cu、Pt、Pd、TiNのうちのいずれか一つとの組み合わせ、ZnOとAu、Pt、Pdのうちのいずれか一つとの組み合わせ、SnO2とAu、Pt、Pdのうちのいずれか一つとの組み合わせ、SrTiO3とAu、Ag、Al、Cu、Pt、Pd、TiNのうちのいずれか一つとの組み合わせ、Fe2O3とPtとの組み合わせ、WO3とPdとの組み合わせ、TaONとAu、Ag、Cu、Pt、Pd、TiNのうちのいずれか一つとの組み合わせ、In2O3とPt、Pdのうちのいずれか一つとの組み合わせが好ましく、TiO2とAu、Ag、Cu、Pt、Pdのうちのいずれか一つとの組み合わせ、ZnOとPtとの組み合わせ、SnO2とPtとの組み合わせ、SrTiO3とAu、Ag、Cu、Pt、Pdのうちのいずれか一つとの組み合わせ、TaONとAu、Cu、Pt、Pdのうちのいずれか一つとの組み合わせ、In2O3とPtとの組み合わせがより好ましい。
【0058】
(電気的測定装置(電気的測定手段))
本開示のセンサは、プリズム1及び前記センサチップ(例えば、好適な実施形態1ではセンサチップ11)を備える前記増強センサチップ(例えば、好適な実施形態1では増強センサチップ110)と、前記センサチップの透明電極2及びプラズモン共鳴膜電極4から電流又は電圧を直接測定する電気的測定装置(例えば、好適な実施形態1では電気的測定装置21)と、を備える。透明電極2及びプラズモン共鳴膜電極4と前記電気的測定装置とは、外部回路(例えば、好適な実施形態1では外部回路31及び31’)を通じて接続される。前記外部回路の材質としては、特に限定されず、導線の材質として公知のものを適宜利用することができ、例えば、白金、金、パラジウム、鉄、銅、アルミニウム等の金属が挙げられる。また、前記電気的測定装置としても、電圧値又は電流値を測定できるものであれば特に制限されず、例えば、半導体デバイス・アナライザ、電流測定器、電圧測定器が挙げられる。
【0059】
本開示のセンサにおいては、プリズム1の側から光が照射され、プリズム1、並びに、透明電極2及びn型透明半導体3を通過した光(入射光)が、前記プラズモン共鳴膜電極4とn型透明半導体膜3との間において全反射することにより、プラズモン共鳴膜電極4と相互作用して表面プラズモンポラリトンを発生する。より具体的には、n型透明半導体3を通過した光が、n型透明半導体3とプラズモン共鳴膜電極4との界面、又は接着層を備える場合にはプラズモン共鳴膜電極4と当該接着層との界面、若しくは当該接着層とn型透明半導体3との界面、又は接着層を2層以上備える場合には、プラズモン共鳴膜電極4と当該接着層との界面、若しくは当該接着層とn型透明半導体3との界面、若しくは当該接着層における隣接する2つの層の界面で全反射し、当該全反射により生じたエバネッセント波がプラズモン共鳴膜電極4と相互作用して表面プラズモンポラリトンが発生する。発生した表面プラズモンポラリトンによってプラズモン共鳴膜電極4が十分に分極されることでホットエレクトロンが生じ、該ホットエレクトロンはn型透明半導体膜3に移動し、透明電極2から電気信号として取り出される。このとき、透明電極2は前記外部回路を通じてプラズモン共鳴膜電極4と電気的に接続され、透明電極2とプラズモン共鳴膜電極4との間の電流変化を前記電気的測定装置によって測定することで表面プラズモンポラリトンの変化を検出することができる。このように電気信号として観測されるホットエレクトロンは、プラズモン共鳴膜電極4内部の前記界面近傍で生じたホットエレクトロンであると考えられ、このようにして電気信号として観測可能なホットエレクトロンは、プラズモン共鳴膜電極4内部におけるn型透明半導体膜3から距離にしてプラズモン共鳴膜電極4の厚さ20%程度の領域で生じたホットエレクトロンであると推察されている。また、プラズモン共鳴膜電極4の近傍(好ましくはプラズモン共鳴膜電極4の表面から300nm以内)に測定対象となるサンプルを配置することにより、前記サンプルの屈折率変化(濃度変化、状態変化)による表面プラズモンポラリトンの変化を電気信号として検出することができるため、前記電気信号を測定することで、サンプルの状態変化をモニタすることができる。
【0060】
プリズム1の側から入射する光の波長が長くなると、表面プラズモンポラリトンを生じさせる入射光の入射角度の範囲がより狭くなり、他方、生じる表面プラズモンポラリトンの強さが増強される。そのため、プリズム1に入射させる光としては、目的に応じて特に限定されないが、可視光の波長領域の光又は近赤外光の波長領域の光が挙げられ、400~1500nmの波長であることが好ましく、500~1000nmの波長であることがより好ましく、600~900nmの波長であることが更に好ましい。
【0061】
また、プリズム1の側から入射する光の強さが強くなると、表面プラズモンポラリトンにより生じる電流量が増大する。そのため、プリズム1に入射させる前記光の強さとしては、目的に応じて特に限定されないが、0.01~500mWであることが好ましく、0.1~50mWであることがより好ましく、0.1~5mWであることが更に好ましい。前記光の強さが前記下限未満であると、表面プラズモンポラリトンにより生じる電流量が少なくなりすぎて十分なセンサ精度が得られなくなる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、プラズモン共鳴膜電極4において熱が発生して測定感度を低下させる恐れが生じる傾向にある。
【0062】
本開示のセンサにおいては、測定するサンプルに応じて前記プリズム1の側から入射する光の入射角度を変えることで、センサ精度を更に十分に向上させることができる。なお、プリズム1の側から照射された光は、例えば、
図6の(a)に示すようにプリズム1の面に対して垂直に入射した場合には直進する(入射光400)が、
図6の(b)に示すように、垂直以外の角度で入射した場合にはプリズム1によって屈折する(入射光400)。そのため、本実施例においては、
図6の(a)、(b)に示すように、プリズムの側から入射する光の入射角度(θ°)を、プリズム1が無い場合の、光電変換部(
図6ではセンサチップ11)のプリズム1と接する面に対する入射角度として定義する。入射光の光源が前記プリズム内にある場合も同様である。
【0063】
センサは、プラズモン共鳴膜電極4のn型透明半導体膜3と反対の面上、又は保護膜7上、好ましくは、サンプル層8内に保持された、標的物質及び媒体を含むサンプルについて、前記標的物質の濃度変化や状態変化による表面プラズモンポラリトンの変化を電気信号として検出することができる。この場合、前記標的物質としては、特に制限されず、抗体、核酸(DNA、RNA等)、タンパク質、細菌、薬剤などの小分子化合物;イオン;気体状態にある小分子化合物や揮発性物質等が挙げられる。また、前記媒体としては、溶液及びガスが挙げられ、前記溶液としては水;緩衝液、強電解質溶液等の電解質溶液が、前記ガスとしては窒素ガスやヘリウムガス等の不活性ガスが、それぞれ挙げられる。
【0064】
本開示のセンサ、並びに、プリズム1及びセンサチップを備える前記増強センサチップの製造方法は特に制限されないが、好ましくは、プリズム1上に、透明電極2、n型透明半導体膜3、及びプラズモン共鳴膜電極膜4を、この順で順次形成して積層する方法が好ましい。前記形成方法としては、特に制限されないが、透明電極2、n型透明半導体膜3、及びプラズモン共鳴膜電極膜4を形成する方法としては、例えば、それぞれ独立に、スパッタリング法、イオンプレーティング法、電子ビーム蒸着法、真空蒸着法、化学蒸着法、及びメッキ法が挙げられる。また、センサの製造方法において、センサチップの透明電極2及びプラズモン共鳴膜電極4と前記電気的測定装置とを外部回路を通じて電気的に接続する方法としても特に制限されず、従来公知の方法を適宜採用して接続することができる。
【実施例】
【0065】
以下、実施例及び比較例をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0066】
(比較例1)
先ず、ガラス基板の一方の面上にITO膜(酸化インジウム・スズ)からなる透明電極が形成されたITO基板(ガラス基板:TEMPAX、ガラス基板厚さ:1.1mm、面積:19×19mm、ITO膜:高耐久透明導電膜 5Ω、ジオマテック株式会社製)を準備した。次いで、スパッタリング装置(QAM-4、株式会社ULVAC製)を用い、ターゲットとしてTiO2(Titanium Dioxide、99.9%、フルウチ化学株式会社製)を用いて、前記ITO膜上にTiO2からなる厚さ200nmの膜(TiO2膜)を形成した。次いで、前記スパッタリング装置を用い、ターゲットとしてAu(99.99%、株式会社高純度化学研究所製)を用いて、前記TiO2膜上に、Auからなる厚さ50nmの膜(Au膜)を形成し、ガラス基板、ITO膜、TiO2膜、Au膜がこの順に積層されたチップを得た。
【0067】
(実施例1)
比較例1と同様にして、ガラス基板、ITO膜、TiO
2膜、Au膜がこの順に積層されたチップ(光電変換部(センサチップ))を得た。次いで、得られた素子の前記ガラス基板のITO膜と反対の面上に1.5μLの80%グリセロールを塗布し、直角プリズム(BK-7直角プリズム PS908、直角二等辺三角形、Thorlabs社製、屈折率:1.51)の斜面を密着させ、プリズム、グリセロール、ガラス基板、ITO膜、TiO
2膜、Au膜がこの順に積層されたチップ(プリズム付きチップ)を得た。実施例1で得られたチップの縦断面(ガラス基板(透明基板5)、ITO膜(透明電極2)、TiO
2膜(n型透明半導体膜3)、Au膜(プラズモン共鳴膜電極4))を走査型電子顕微鏡(S-3400N、日立製作所社製)で観察して得られた走査型電子顕微鏡写真を
図7に示す。
【0068】
<試験例1>
実施例1で得られたチップにおいて、TiO
2膜とAu膜との間にショットキー障壁が形成されていることを確認した。すなわち、先ず、実施例1で得られたチップのITO膜と半導体デバイス・アナライザ(Semiconductor Device Analyzer B1500A、キーサイト・テクノロジー社製)の作用極とを、Au膜と前記半導体デバイス・アナライザの対極及び参照極とを、それぞれ、導線を介して電気的に接続した。次いで、電極間に-1.5~+1.5Vの間で電圧を印加し、ITO膜-Au膜間の電流値(A)を測定した。実施例1について得られた結果(印加電圧(電圧値(V))とITO膜-Au膜間の電流値(電流値(A))との関係を示すグラフ)を
図8に示す。
【0069】
図8に示した結果から明らかなように、チップ(実施例1)においては、-1.5V以上0V未満で電流値が15mA以上変化したのに対して0V以上+1.5V以下では電流値の絶対値が0.2mA未満であり、TiO
2膜とAu膜との間にショットキー障壁が形成されていることが確認された。また、比較例1においても同様に、TiO
2膜とAu膜との間にショットキー障壁が形成されていることが確認された。
【0070】
<試験例2>
実施例1及び比較例1で得られたチップのITO膜と電流測定器(Electrochemical Analyzer Model 802D、ALS/CH Instruments Inc.製)の作用極とを、Au膜と前記電流測定器の対極及び参照極とを、それぞれ、導線を介して電気的に接続した。
【0071】
次いで、半導体レーザー(光源200、S1FC675、Thorlabs社製)の675nmのレーザー光を、偏光子(偏光子300、CMM1-PBS251/M、Thorlabs社製)を通してp偏光のレーザー光とし、この強度をパワーメータ(Model843-R、Newport社製)で測定して1.2mWとなるように調整した。次いで、実施例1については
図9A、比較例1については
図9Bに示すように、p偏光のレーザー光(1.2mW)を得られたチップの光電変換部(センサチップ12)のプリズムの側(
図9A)又はガラス基板面のITO膜と反対の側(
図9B)からそれぞれ照射した。p偏光のレーザー光(入射光)のガラス基板面に対する入射角度(θ°)を35°~50°の間で変化させ、各入射角度におけるITO膜-Au膜間の電流値(A)を測定した。結果(入射角度(θ(°))とITO膜-Au膜間の電流値(電流値(A))との関係を示すグラフ)を
図10に示す。
【0072】
図10に示した結果から明らかなように、プリズムを備えるチップ(実施例1)においては、プリズムに入射するレーザー光の入射角度が特定の範囲内にあると(
図10では37~43°)、電流値が変化することが確認された。これは、レーザー光をプリズムに通過させたことにより、特定の入射角度以上において入射光がTiO
2膜のAu膜との間の界面において全反射してエバネッセント波を発生させ、これによって励起された表面プラズモンポラリトンによってTiO
2膜の近傍に配置されるAu膜で電場変化により発生する電流が変化したためであり、この変化をもたらす表面プラズモンポラリトンの強さが前記入射角度によって変化したためと本発明者らは推察する。
【0073】
<試験例3>
実施例1で得られたチップがセンサチップとして機能することを確認した。すなわち、先ず、実施例1で得られたチップのAu膜の表面(TiO2膜と反対の面)に接するようにサンプル層を配置し、前記サンプル層の中に超純水を満たした。また、試験例2と同様にして、実施例1で得られたチップのITO膜と前記電流測定器の作用極とを、Au膜と前記電流測定器の対極及び参照極とを、それぞれ、導線を介して電気的に接続した。
【0074】
次いで、試験例2と同様にして、強度が1.2mWとなるように調整したp偏光のレーザー光を得られたチップの光電変換部(センサチップ12)のプリズムの側から照射した。p偏光のレーザー光(入射光)のガラス基板面に対する入射角度(θ°)を75°~90°の間で変化させ、各入射角度におけるITO膜-Au膜間の電流値(A)を測定した。また、溶液として、前記超純水に代えて、12.5%エタノール(EtOH)、25.0%エタノール、37.5%エタノール、又は50.0%エタノールをそれぞれ用いたこと以外は上記と同様にして、各溶液について、各入射角度におけるITO膜-Au膜間の電流値(A)を測定した。結果(各溶液毎の入射角度(θ(°))とITO膜-Au膜間の電流値(電流値(A))との関係を示すグラフ)を
図11に示す。また、各溶液の22.1℃における屈折率を下記の表1に示す。さらに、各溶液の屈折率と、入射角度85°において測定されたITO膜-Au膜間の電流値(電流値(A))との関係を
図12に示す。
【0075】
【0076】
図11に示した結果から明らかなように、プリズム及びセンサチップを備える増強センサチップ(実施例1)においては、上記溶液をAu膜に接触させた場合、プリズムに入射する光の入射角度(θ°)が79°~85°の間で特に電流値の変化量が大きくなることが確認された。なお、
図11においては、試験例2の場合(
図10)と電流値の変化が観察される入射角度(θ°)が相違するが、これはAu膜表面に水溶液を接触させたことで表面プラズモンポラリトンを生じさせる入射角度が変化したためと本発明者らは推察する。さらに、表1及び
図12に示すように、前記電流値は、前記溶液の屈折率に応じて変化することが確認された。これは、TiO
2膜の近傍に配置されるAu膜で電場変化によって発生する電流量は、プリズムを用いたことで入射光がTiO
2膜のAu膜との間の界面において全反射して生じた表面プラズモンポラリトンによって変化するが、この変化をもたらす表面プラズモンポラリトンの強さが前記溶液の屈折率によって変化するため、その結果、前記電流量が変化したものと本発明者らは推察する。したがって、実施例1の増強センサチップを用いることにより、Au膜近傍のサンプルの屈折率変化を十分な精度で測定することができることが確認された。一般に、前記屈折率は該屈折率を有するサンプルの濃度や状態に相当するため、実施例1のセンサチップ及びこれとプリズムとを組み合わせて用いたセンサは、前記サンプルの濃度変化や状態変化を測定可能なセンサチップ及びセンサとして十分な精度を有することが確認された。
【0077】
(実施例2)
BK-7直角プリズムに代えてS-TIH11直角プリズム(株式会社オハラ製、屈折率:1.77)を用い、1.5μLの80%グリセロールに代えて0.5μLのジヨードメタン(一級、富士フイルム和光純薬株式会社製)を塗布したこと以外は実施例1と同様にして、プリズム、ジヨードメタン、ガラス基板、ITO膜、TiO2膜、Au膜(厚さ:50nm)がこの順に積層されたチップ(プリズム付きチップ)を得た。
【0078】
(実施例3)
ガラス基板、ITO膜、TiO2膜、Au膜がこの順に積層されたチップ(光電変換部(センサチップ))において、Au膜の厚さを30nmとしたこと以外は実施例2と同様にして、プリズム、ジヨードメタン、ガラス基板、ITO膜、TiO2膜、Au膜(厚さ:30nm)がこの順に積層されたチップ(プリズム付きチップ)を得た。
【0079】
<試験例4>
実施例2及び実施例3で得られたチップについて、それぞれ、試験例3と同様にして、入射光の各入射角度におけるITO膜-Au膜間の電流値を測定した。すなわち、先ず、各実施例で得られたチップのAu膜の表面(TiO2膜と反対の面)に接するようにサンプル層を配置し、前記サンプル層の中に超純水を満たした。また、試験例2と同様にして、各実施例で得られたチップのITO膜と前記電流測定器の作用極とを、Au膜と前記電流測定器の対極及び参照極とを、それぞれ、導線を介して電気的に接続した。
【0080】
次いで、半導体レーザー(光源、CPS670、Thorlabs社製)の670nmのレーザー光を、偏光子(CMM1-PBS251/M、Thorlabs社製)を通してp偏光のレーザー光とし、この強度をパワーメータ(Model843-R、Newport社製)で測定して強度が4.0mWとなるように調整した。次いで、試験例2と同様にして、p偏光のレーザー光(入射光)を得られたチップのプリズムの側から照射し、入射光のガラス基板面に対する入射角度(θ°)を40°~80°の間で変化させ、各入射角度におけるITO膜-Au膜間の電流値(μA)を測定した。また、溶液として、前記超純水に代えて、10%グリセロール、20%グリセロール、30%グリセロール、40%グリセロール、又は50%グリセロールをそれぞれ用いたこと以外は上記と同様にして、各溶液について、各入射角度におけるITO膜-Au膜間の電流値(μA)を測定した。結果(各溶液毎の入射角度(θ(°))とITO膜-Au膜間の電流値(電流値(μA))との関係を示すグラフ)を
図13(実施例2)及び
図14(実施例3)に示す。また、各溶液の22.0℃における屈折率を下記の表2に示す。さらに、各溶液の屈折率と、入射角度66.5°(実施例2)又は68.6°(実施例3)において測定されたITO膜-Au膜間の電流値(電流値(μA))との関係を
図15に示す。
【0081】
【0082】
図13~
図14に示した結果から明らかなように、プリズム及びセンサチップを備える増強センサチップにおいては、Au膜の厚さが50nm又は30nmであったり、また、プリズムとガラス基板との間に中間層としてジヨードメタンを用いた場合であったりしても、サンプルの濃度変化や状態変化を測定可能なセンサチップとして十分な精度を有することが確認された。さらに、
図15に示した結果から明らかなように、Au膜が50nmである場合(実施例2)に比べて、30nmである場合(実施例3)には特に、光の入射角度(θ°)の変化に対する電流値の変化が緩やかとなり、グリセロール濃度50%(屈折率:1.40程度)まで高い精度で測定できることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0083】
以上説明したように、本開示の電気測定型表面プラズモン共鳴センサ及びそれに用いるセンサチップによれば、十分なセンサ精度を有する電気測定型表面プラズモン共鳴センサ及びそれに用いるセンサチップを提供することが可能となる。また、本開示のセンサ及びセンサチップは表面プラズモンポラリトンを電気信号として検出することができるため、小型化やハイスループット化が容易である。さらに、本開示のセンサ及びセンサチップにおいては、サンプルに影響を与えないため、より正確な測定が可能となる。したがって、本開示のセンサ及びセンサチップは今後の医療や食品、環境技術の発展において非常に有用である。
【符号の説明】
【0084】
1…プリズム、2…透明電極、3…n型透明半導体膜、4…プラズモン共鳴膜電極、5…透明基板、6…接着層、7…保護膜、8…サンプル層、11、12、13…センサチップ(光電変換部)、21…電気的測定装置、31、31’…外部回路、110…増強センサチップ(実施形態1)、120…増強センサチップ(実施形態2)、130…増強センサチップ(実施形態3)、140…増強センサチップ(実施形態4)、150…増強センサチップ(実施形態5)、200…光源、300…偏光子、400…入射光、510…センサ(実施形態1)。