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特許7178692DNA損傷剤のスクリーニング方法及びDNA損傷剤のスクリーニング用キット
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-17
(45)【発行日】2022-11-28
(54)【発明の名称】DNA損傷剤のスクリーニング方法及びDNA損傷剤のスクリーニング用キット
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/68 20180101AFI20221118BHJP
   G01N 33/50 20060101ALI20221118BHJP
   C12N 15/10 20060101ALN20221118BHJP
【FI】
C12Q1/68 ZNA
G01N33/50 Z
C12N15/10 200Z
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018159028
(22)【出願日】2018-08-28
(65)【公開番号】P2020031549
(43)【公開日】2020-03-05
【審査請求日】2021-08-04
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 第67回(2018年)高分子学会年次大会予稿集(2J04及び2J05)(平成30年5月8日発行)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 第67回(2018年)高分子学会年次大会(平成30年5月24日開催)にて公開したスライド(題目:核酸親和性薬物の目視スクリーニングを可能にするDNA修飾金ナノ粒子の界面設計)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 第67回(2018年)高分子学会年次大会(平成30年5月24日開催)にて公開したスライド(題目:二重鎖DNA固定化金ナノ粒子を用いたDNA損傷剤の目視薬物探索)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 Joint Event on 6th World Congress and Expo on Breast Pathology and Cancer Diagnosis & 20th International Conference on Medicinal Chemistry and Rational Drugs学会誌(ウェブサイトの公開日:平成30年6月27日、ウェブサイトのアドレス:https://www.omicsonline.org/conference-proceedings/2161-0681-C3-050-004.pdf)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 Joint Event on 6th World Congress and Expo on Breast Pathology and Cancer Diagnosis & 20th International Conference on Medicinal Chemistry and Rational Drug(平成30年7月26日開催)のプログラム及び公開したスライド
(73)【特許権者】
【識別番号】000125370
【氏名又は名称】学校法人東京理科大学
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(72)【発明者】
【氏名】秋山 好嗣
(72)【発明者】
【氏名】菊池 明彦
(72)【発明者】
【氏名】木村 和徳
【審査官】鈴木 崇之
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2009/0155785(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0134609(US,A1)
【文献】Angewandte Chemie,2007年05月04日,Vol. 46, No. 19,pp. 3538-3540
【文献】ChemistryOpen,2016年11月23日,Vol. 5, Issue 6,pp. 508-512
【文献】ChemBioChem,2009年08月12日,Vol. 10, Issue 12,pp. 1973-1977
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/00-3/00
C12N 15/00-15/90
G01N 33/48-33/98
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
二本鎖DNAに突出構造を形成させるDNA切断活性を有するDNA損傷剤のスクリーニング方法であって、
一本鎖DNAと、該一本鎖DNAと同じ塩基長である一本鎖DNAとから構成される二本鎖DNAを有し、複数の該二本鎖DNAが表面から伸びるように形成されたナノ粒子が分散した分散液中で、前記ナノ粒子と、被検物質とを接触させる工程と、
前記被検物質の非存在下において前記ナノ粒子が凝集する量の塩を、前記被検物質を含む前記分散液に混合する工程と、
前記塩を混合した分散液中での前記ナノ粒子の分散状態を評価し、前記被検物質を接触させない場合と比較して前記ナノ粒子の凝集が抑制された場合に、前記被検物質をDNA損傷剤として選別する工程と、を含むスクリーニング方法。
【請求項2】
前記ナノ粒子が、金属ナノ粒子である請求項1に記載のスクリーニング方法。
【請求項3】
前記金属ナノ粒子が、金ナノ粒子である請求項2に記載のスクリーニング方法。
【請求項4】
前記ナノ粒子の分散状態を、色調変化を確認することにより評価する請求項1~のいずれか1項に記載のスクリーニング方法。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載のスクリーニング方法に用いられるDNA損傷剤のスクリーニング用キットであって、
複数の一本鎖又は二本鎖DNAが表面から伸びるように形成されたナノ粒子の分散液を含み、
前記二本鎖DNAが、一本鎖DNAと該一本鎖DNAと同じ塩基長である一本鎖DNAとから構成されるスクリーニング用キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、DNA損傷剤のスクリーニング方法及びDNA損傷剤のスクリーニング用キットに関する。
【背景技術】
【0002】
DNA損傷剤には、DNAの切断、アルキル化等のDNA損傷作用を有する様々なタイプの薬剤が存在する。DNAの切断作用を有するDNA損傷剤として、例えば、ブレオマイシンが挙げられる。ブレオマイシンは、鉄等の金属と錯体を形成することにより、そのDNA切断作用が活性化されることが知られている。
【0003】
ブレオマイシンのDNA切断活性の評価方法として、例えば、非特許文献1には、放射性同位元素である32Pで標識化した基質DNAにブレオマイシンを接触させた後、ゲル電気泳動法を用いてDNAを解析する方法が記載されている。また、非特許文献2には、DNAにブレオマイシンを接触させた後に、高速液体クロマトグラフを用いてDNA断片を分離して解析する方法が記載されている。これらの評価方法は、DNA損傷剤のスクリーニングにも応用することができる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】Q.Ma,et al.,J.Am.Chem.Soc.,2009,131,pp.2013-2022
【文献】H.Sugiyama,et al.,J.Am.Chem.Soc.,1985,107,4104-4105
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、非特許文献1、2に記載の方法では、前処理を含めた煩雑な工程や測定に手間と時間を要する。これらの方法をDNA損傷剤のスクリーニングに用いた場合、より多くの時間及び労力が必要となる。
【0006】
本発明は上記に鑑みてなされたものであり、短時間で簡便に候補化合物を選別することができる、DNA損傷剤のスクリーニング方法及びDNA損傷剤のスクリーニング用キットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための具体的な手段には、以下の実施態様が含まれる。
<1> 二本鎖DNAに突出構造を形成させるDNA切断活性を有するDNA損傷剤のスクリーニング方法であって、一本鎖DNAと、該一本鎖DNAと同じ塩基長である一本鎖DNAとから構成される二本鎖DNAを有し、複数の該二本鎖DNAが表面から伸びるように形成されたナノ粒子が分散した分散液中で、前記ナノ粒子と、被検物質とを接触させる工程と、前記被検物質の非存在下において前記ナノ粒子が凝集する量の塩を、前記被検物質を含む前記分散液に混合する工程と、前記塩を混合した分散液中での前記ナノ粒子の分散状態を評価し、前記被検物質を接触させない場合と比較して前記ナノ粒子の凝集が抑制された場合に、前記被検物質をDNA損傷剤として選別する工程と、を含むスクリーニング方法。
【0008】
<2> 前記ナノ粒子が、金属ナノ粒子である<1>に記載のスクリーニング方法。
【0009】
<3> 前記金属ナノ粒子が、金ナノ粒子である<2>に記載のスクリーニング方法。
【0011】
> 前記ナノ粒子の分散状態を、色調変化を確認することにより評価する<1>~<>のいずれかに記載のスクリーニング方法。
【0012】
<1>~<4>のいずれかに記載のスクリーニング方法に用いられるDNA損傷剤のスクリーニング用キットであって、複数の一本鎖又は二本鎖DNAが表面から伸びるように形成されたナノ粒子の分散液を含み、前記二本鎖DNAが、一本鎖DNAと該一本鎖DNAと同じ塩基長である一本鎖DNAとから構成されるスクリーニング用キット。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、短時間で簡便に候補化合物を選別することができる、DNA損傷剤のスクリーニング方法及びDNA損傷剤のスクリーニング用キットを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】複数の二本鎖DNAが表面から伸びるように形成されたナノ粒子の分散、凝集の原理を説明するための概略図である。
図2】試験例1のBLMによるDNA切断活性評価試験において目視により評価した分散液の色調を示す図である。
図3】試験例1のBLMによるDNA切断活性評価結果を示す吸収スペクトルである。
図4】試験例2のBLMによるDNA切断活性評価試験において目視により評価した分散液の色調を示す図である。
図5】試験例3のDNA損傷剤によるDNA損傷作用評価試験において目視により評価した分散液の色調を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0016】
<DNA損傷剤のスクリーニング方法>
本実施形態に係るDNA損傷剤のスクリーニング方法は、一本鎖DNAと、該一本鎖DNAと同じ塩基長である一本鎖DNAとから構成される二本鎖DNAを有し、複数の該二本鎖DNAが表面から伸びるように形成されたナノ粒子(以下、「dsDNAナノ粒子」という)が分散した分散液中で、dsDNAナノ粒子と被検物質とを接触させる工程(以下、「接触工程」という)と、被検物質の非存在下においてdsDNAナノ粒子が凝集する量の塩を、被検物質を含む分散液に混合する工程(以下、「塩混合工程」という)と、塩を混合した分散液中でのdsDNAナノ粒子の分散状態を評価し、被検物質を接触させない場合と比較してdsDNAナノ粒子の凝集が抑制された場合に、被検物質をDNA損傷剤として選別する工程(以下、「選別工程」という)と、を含む。
【0017】
「DNA損傷剤」とは、DNAの切断、アルキル化等のDNA損傷作用を有する薬剤を意味する。公知の薬剤を例に挙げると、ブレオマイシン(BLM)、メトロニダゾール(MTZ)、シスプラチン(CDDP)、シクロホスファミド(CPA)等の薬剤が挙げられる。
【0018】
ここで、図1を参照しながら、本実施形態に係るスクリーニング方法の原理について説明する。通常、分散液中のdsDNAナノ粒子は、表面が電荷で覆われているため、お互いに反発して分散した状態を維持している。所定の量の塩を添加すると、dsDNAナノ粒子の表面の電荷が中和されて凝集するようになる。しかし、特定の塩基配列が切断されて一本鎖DNAが突出した構造又はDNAの一部がアルキル化等された構造の二本鎖DNAを有するdsDNAナノ粒子は、高塩濃度下においても分散した状態を維持する。この現象を利用して、被検物質を接触させたdsDNAナノ粒子の凝集が被検物質を接触させない場合と比較して抑制された場合に、該被検物質をdsDNAナノ粒子に形成されたDNAに損傷を与えることができる有望なDNA損傷剤として選別することができる。
【0019】
(接触工程)
まず、接触工程では、dsDNAナノ粒子が分散した分散液中で、dsDNAナノ粒子と被検物質とを接触させる。
【0020】
dsDNAナノ粒子と被検物質とを接触させる方法としては特に制限されず、例えば、dsDNAナノ粒子が分散した分散液に被検物質を添加する方法が挙げられる。
【0021】
dsDNAナノ粒子が分散した分散液とは、dsDNAナノ粒子が液中に分散しているコロイド溶液である。
分散液中のdsDNAナノ粒子の濃度は特に限定されないが、例えば、0.5~500nmol/Lであることが好ましい。ナノ粒子の濃度が0.5nmol/L以上であれば、上記分散液の分散状態をより容易に判別することができ、500nmol/L以下であれば、該ナノ粒子の液中の分散安定性が向上するためである。
【0022】
dsDNAナノ粒子と接触させる被検物質としては、特に限定されるものではなく、天然由来の物質であっても、合成化合物であってもよい。天然由来の被検物質としては、例えば、アミノ酸、ペプチド、核酸、糖類等が挙げられる。合成化合物としては、例えば、コンビナトリアルケミストリー技術等を用いて作成される無機及び有機化合物等が挙げられる。
【0023】
接触工程におけるdsDNAナノ粒子の二本鎖DNAは、一本鎖DNAと、該一本鎖DNAと同じ塩基長である相補鎖とから構成される。二本鎖DNAは、DNA損傷剤が作用することを期待する特定の塩基配列を含んでもよい。DNA上の該特定の塩基配列の位置については特に制限されていないが、被検物質との接触が容易になるように、dsDNAナノ粒子の最表層に位置することが好ましい。
【0024】
dsDNAナノ粒子に形成されるDNAの塩基長は、10bp~50bpであることが好ましい。DNAの塩基長を10bp以上とすることにより、dsDNAナノ粒子の分散安定性がより向上する。また、DNAの塩基長を50bp以下とすることにより、二本鎖DNAの運動性が下がり、dsDNAナノ粒子間のそれぞれの二本鎖DNA同士で形成されるπ-π相互作用が強められるため、塩を添加した際に粒子がより凝集し易くなる。
【0025】
dsDNAナノ粒子に形成される二本鎖DNAの密度は、0.3×1013本/cm~3.5×1013本/cm程度であることが好ましい。
【0026】
dsDNAナノ粒子の種類については特に制限されず、例えば、表面に二本鎖DNAが担持された金属の担体であっても、表面に二本鎖DNAが担持された高分子の担体であってもよい。
【0027】
上記担体の形状については特に制限されず、球状、プレート状、ロッド状等であってもよい。
【0028】
金属の担体である金属ナノ粒子としては、金ナノ粒子、銀ナノ粒子、カドミウムナノ粒子等が挙げられる。この中では、長期保存という観点から、酸化安定性が高い金ナノ粒子が好ましい。
【0029】
金属ナノ粒子のサイズは、5nm~500nmであることが好ましい。特に、金ナノ粒子の場合、5nm~250nmであることがより好ましい。金ナノ粒子の直径が5nm以上では分散液がより赤みを帯び、直径が250nm以下では粒子自体の分散安定性が向上し沈殿しにくくなり、金ナノ粒子の分散状態を色調により評価することがより容易になるためである。
【0030】
金属ナノ粒子へ二本鎖DNAを担持する方法としては特に制限されず、例えば、以下の方法が挙げられる。
まず、一本鎖DNAの末端をチオール化してナノ粒子に担持する。次いで、一本鎖DNAが担持されたナノ粒子を含む分散液に、該一本鎖DNAの相補鎖を混合してアニールする。これにより、二本鎖DNAを有する金属ナノ粒子の分散液を調製できる。この方法以外にも、従来公知の方法を適宜選択できる。
【0031】
高分子の担体である高分子ナノ粒子としては、ラテックス粒子等が挙げられる。ラテックス粒子を構成する高分子としては特に限定されないが、例えば、ポリスチレン、ポリメタクリル酸メチル、スチレン-アクリル酸共重合体、スチレン-メタクリル酸共重合体、等が挙げられる。ラテックス粒子のサイズは、10~500nmであることが好ましい。ラテックス粒子のサイズを10nm以上にすると、分散液に塩を添加した場合、ラテックス粒子が凝集し易くなり、500nm以下にすると、粒子の液中の分散安定性が向上するためである。
【0032】
ラテックス粒子へ二本鎖DNAを担持する方法としては特に制限されず、例えば、以下の方法が挙げられる。
まず、ラテックス粒子表面に存在するカルボキシ基、エポキシ基等の官能基と一本鎖DNAのアミノ基等を反応させ結合させる。次いで、一本鎖DNAが担持されたラテックス粒子を含む分散液に、該一本鎖DNAの相補鎖を混合してアニールする。これにより、二本鎖DNAを有するラテックス粒子の分散液を調製できる。この方法以外にも、従来公知の方法を適宜選択できる。
【0033】
ナノ粒子に担持された一本鎖DNAを二本鎖DNAにする方法としては、上述した方法以外に、一本鎖DNAが担持されたナノ粒子の分散液に、一端側が一本鎖であり、他端側が二本鎖であるDNA鎖を混合してアニールする方法が挙げられる。該DNA鎖の一端側の一本鎖DNAは、ナノ粒子に担持された一本鎖DNAの相補鎖である。これにより、ナノ粒子に担持された一本鎖DNAを二本鎖DNAにすることができる。
【0034】
ナノ粒子へ二本鎖DNAを担持する方法としては、上述した方法以外に、既報(N.Kanayama,et al.,Langmuir,2016,32,13296-13304)に記載のステム-ループ構造を有するヘアピン型DNAを用いる方法も挙げられる。具体的には、ステム-ループ構造を有するヘアピン型DNAのループ部位に存在するDNA塩基にアルキレン基等のスペーサーを介してカルボキシ基やチオール基を導入し、ナノ粒子に担持させる方法である。この方法によれば、一本鎖DNAが混在することなく、二本鎖DNAをナノ粒子上に担持することができる。
【0035】
(塩混合工程)
次いで、塩混合工程では、dsDNAナノ粒子と被検物質とを含む分散液に塩を混合する。塩の混合は、被検物質とDNAとの反応時間を考慮して、被検物質とdsDNAナノ粒子との接触後、5分以上経過後とすることが好ましい。塩の種類は特に限定されないが、NaCl、MgCl等の金属塩が好ましい。
【0036】
混合する塩の量は、被検物質の非存在下においてdsDNAナノ粒子が凝集する量である。つまり、被検物質によるDNA損傷作用を受けておらず、突出末端やアルキル化した二本鎖DNAを有さないdsDNAナノ粒子が凝集する塩濃度となるように混合する。金属塩の場合は、金属カチオンの価数によって、分散液中でdsDNAナノ粒子が凝集する塩濃度が異なる。具体的には、一価の金属カチオンの場合、分散液中の金属カチオンの最終濃度が、0.5~2mol/Lになるように混合することが好ましい。分散液中のナノ粒子の濃度にもよるが、金属カチオンの濃度が0.5mol/L以上であれば、突出末端やアルキル化した二本鎖DNAを有さないdsDNAナノ粒子が凝集しやすくなる。二価の金属カチオンの場合は、分散液中の金属カチオンの最終濃度が、0.05~0.2mol/Lになるように混合することが好ましい。
【0037】
(選別工程)
選択工程では、後述する評価方法により、塩を混合した分散液中でのdsDNAナノ粒子の分散状態を評価し、被検物質を接触させない場合と比較してdsDNAナノ粒子の凝集が抑制された場合に、被検物質をDNA損傷剤として選択する。
【0038】
評価方法としては、dsDNAナノ粒子の分散及び凝集状態を確認できる方法であれば特に制限されず、例えば、目視により分散液の色調、濁り、沈殿等を確認する方法、紫外可視分光光度計を用いてスペクトルを確認する方法、濁度計を用いて濁度を確認する方法等が挙げられる。この中でもより迅速かつ簡便に評価できるという点で、目視により分散液の色調を確認する方法が好ましい。また、使用するナノ粒子の種類によって、適宜評価方法を選択することが好ましい。
【0039】
例えば、金属ナノ粒子の場合、より迅速かつ簡便に評価するという観点から、目視により分散液の色調を確認する方法が好ましい。
ラテックス粒子の場合は、目視により分散液の濁りを確認する方法又は濁度計を用いて濁度を確認する方法が好ましい。
【0040】
ここで、金属ナノ粒子の分散液の色調の変化について、金ナノ粒子の分散液を例に挙げて説明する。
金ナノ粒子は、液中に分散した状態では表面プラズモン共鳴により赤みを帯びた色に発色するが、この共鳴エネルギーは粒子径に依存し、液中で凝集して粒子径が大きくなると、吸収バンドが長波長側へシフトする。このため、液中で分散した状態の金ナノ粒子の凝集が進むと、分散液の色調は赤みを帯びた色から青みを帯びた色に変化する。しかし、二本鎖DNAの切断、アルキル化等が起こると、高塩濃度下においてもdsDNAナノ粒子が分散した状態を維持するため、色調変化は抑制される。この現象を利用することにより、dsDNAナノ粒子のDNAの損傷の有無を迅速かつ簡便に見分けることができる。
【0041】
本実施形態に係るDNA損傷剤のスクリーニング方法によれば、上記のように、被検物質と接触させたdsDNAナノ粒子の分散状態を評価することにより、被検物質によるDNA損傷作用の有無を確認することができる。これにより、短時間で簡便にDNA損傷剤を選別することができる。
【0042】
以上、本発明の実施形態に係るDNA損傷剤のスクリーニング方法について説明したが、本発明は上述の実施形態に制限されるものではなく、適宜変更が可能である。
例えば、dsDNAナノ粒子は、DNAと高分子との複合体から構成されるナノミセルであってもよい。DNAと高分子との複合体としては、ナノミセルを形成するものであれば特に制限されず、例えば、DNAとポリチオフェン等の導電性高分子との複合体等が挙げられる。該複合体のナノミセルのサイズは、特に制限されないが、5~500nmであることが好ましい。
【0043】
DNAと高分子との複合体から構成されるナノミセルの分散液の調製方法としては、例えば、DNAと高分子との複合体を水等の液体に投入して、液中で高分子が内側、DNAが外側に向いたナノミセルを形成させる方法等が挙げられる。
【0044】
<DNA損傷剤のスクリーニング用キット>
本実施形態に係るDNA損傷剤のスクリーニング用キットは、DNA損傷剤のスクリーニングに使用するものであり、上述した複数の一本鎖又は二本鎖DNAが表面から伸びるように形成されたナノ粒子の分散液を含む。
【0045】
本実施形態に係るスクリーニング用キットによれば、予めナノ粒子にDNAが形成されているため、ナノ粒子上へDNAを担持する工程又はDNAと高分子との複合体からナノミセルを形成させる工程が不要であり、より迅速かつ簡便にスクリーニングすることができる。
【0046】
上記分散液は、複数の一本鎖DNAが形成されたナノ粒子の分散液であっても、複数の二本鎖DNAが形成されたナノ粒子の分散液であってもよい。
【0047】
複数の一本鎖DNAが形成されたナノ粒子の分散液を含むスクリーニング用キットによれば、スクリーニングにより得ようとするDNA損傷剤に合わせて、ナノ粒子の表層部に形成される二本鎖DNAの塩基配列を適宜選択することができる。
所望の塩基配列を有する二本鎖DNAを形成させる具体的な方法としては、一端側が一本鎖であって上記一本鎖DNAの相補鎖であり、他端側が二本鎖であるDNA鎖を上記分散液に混合してアニールする方法が挙げられる。このとき、該DNA鎖の他端側の二本鎖DNAにDNA損傷剤の標的となる塩基配列を含ませる。この方法により、ナノ粒子の表層部に標的となる塩基配列を有する二本鎖DNAを形成させることができる。
【0048】
また、上記分散液は、鉄イオン、コバルトイオン等の金属イオンを含んでいてもよい。
これにより、例えば、BLMのような活性化に金属イオンを必要とするDNA損傷剤のスクリーニングをより簡便に実施することができる。
【実施例
【0049】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0050】
<調製例1:二本鎖DNAが担持された金ナノ粒子の分散液の調製>
二本鎖DNAが担持された金ナノ粒子(以下、「dsDNA-GNP」という)の分散液は、既報を参照して以下のように調製した(K.Sato,et al.,J.Am.Chem.Soc.,2003,125,8102-8103)。
まず、直径15nmの金ナノ粒子を1.4×1012個/mL含む分散液(British Biocell International社)に、3’末端に-(CH-SH基を有する後述する一本鎖DNAを3nmol加えて、50℃で24時間インキュベートした。次いで、上記分散液に0.1MのNaClと、10mMのリン酸緩衝液(pH7)とを添加して、50℃で48時間静置した。未反応の一本鎖DNAを取り除くため、10℃、14000rpmの条件で20分間遠心し、上澄を除去し、1mLの上記リン酸緩衝液を添加して、再び上記の条件で遠心した後、得られた沈殿物に上記リン酸緩衝液を添加して、20nMの一本鎖DNAが担持された金ナノ粒子を含むストック分散液を調製した。そして、上記ストック分散液に、一本鎖DNAの相補鎖(最終濃度500nmol/L)と、1% Tween 20とを添加し、室温で10分静置することにより、5nmol/LのdsDNA-GNPの分散液を調製した。上記の一本鎖DNAが担持された金ナノ粒子には、粒子1個あたり100本程度の一本鎖DNAが担持された。そして、相補鎖を添加後は、一本鎖DNAのうち約40%に二本鎖DNAが形成された。つまり、dsDNA-GNPには、約60本の一本鎖DNAと約40本の二本鎖DNAとが混在する。
金ナノ粒子の表面に結合させる一本鎖DNA及び該一本鎖DNAの相補鎖の塩基配列は以下の通りである。
一本鎖DNA:5’-CGCTTTTTTTTTTTTTTT-3’(配列番号1)
相補鎖:5’-AAAAAAAAAAAAAAAGCG-3’(配列番号2)
ここで、後述する試験例1~3におけるBLMは、塩基配列5’-GC-3’のGとCとの間で特異的にDNAを切断する。このBLMの切断活性を評価するため、dsDNA-GNPのDNAの末端付近が5’-GC-3’である上記塩基配列の一本鎖DNAを用いた。
【0051】
<試験例1:BLMによるDNA切断活性評価>
試験例1では、調製例1で調製したdsDNA-GNPの分散液を用いて、BLMによるDNA切断活性を評価した。
まず、dsDNA-GNPの分散液に、BLM及びFe(NH(SOをそれぞれの最終濃度が62.5μmol/Lとなるように添加して、室温で30分間静置し、全量20μLのサンプルAを調製した。
【0052】
次いで、対照サンプルとして、以下のサンプルB~Dを調製した。
サンプルB:BLM及びFe(NH(SOの代わりに水を添加した以外はサンプルAと同様の方法でサンプルを調製した。
サンプルC:BLMを添加しない以外はサンプルAと同様の方法でサンプルを調製した。
サンプルD:Fe(NH(SOを添加しない以外はサンプルAと同様の方法でサンプルを調製した。
【0053】
上記のサンプルA~Dに、最終濃度が0.5mol/LとなるようにNaClを添加し、室温で10分間静置した後、目視により各サンプルの色調の変化を評価した。また、目視による評価とともに、紫外可視分光光度計を使用して、各サンプルの吸収スペクトルを測定した。目視による評価時の各サンプルの分散液を図2に、各サンプルの吸収スペクトルを図3に示す。
【0054】
図2に示すとおり、BLM又はFe(NH(SOの一方のみを含むか、どちらも含まないサンプルB~Dの場合は、塩の添加により、分散液中のdsDNA-GNPが凝集し、分散液の色調が赤色から紫色に変化した。一方、BLM及びFe(NH(SOの両方が含まれるサンプルAは、塩を添加した後も、分散液の色調が赤色のままであった。これは、dsDNA-GNPの末端塩基(5’-GC-3’)がGとCの間で切断された結果、粒子表層部に突出構造が形成され、高塩濃度下における粒子の凝集が抑制されたためであると考えられる。これにより、BLMのようなDNA損傷剤のDNA切断活性を目視により評価できることが分かった。
【0055】
BLMのDNA切断活性は、図3に示す各サンプルの吸収スペクトルからも確認することができる。図3に示すように、サンプルB~Dは、金ナノ粒子が凝集し粒子径が大きくなることにより、吸収バンドが長波長側へシフトしたが、サンプルAの吸収バンドは長波長側へシフトしなかった。この結果から、サンプルAのdsDNA-GNPの末端塩基が切断され、金ナノ粒子の凝集が抑制されたことが確認された。
【0056】
<試験例2:目視によるDNA切断活性評価結果に対するBLMの濃度依存性の評価>
試験例2では、目視によるDNA切断活性評価結果に対するdsDNA-GNP分散液中のBLM濃度の影響について確認した。
【0057】
評価用サンプルとして、以下のサンプルを調製した。
サンプルE~K:BLM及びFe(NH(SOをそれぞれの最終濃度が、0.5μmol/L、2.0μmol/L、3.9μmol/L、7.8μmol/L、16μmol/L、31μmol/L、62μmol/Lとなるように添加した以外は、サンプルAと同様の方法でサンプルを調製した。
サンプルL~R:Fe(NH(SOを添加せず、BLMの最終濃度を、0.5μmol/L、2.0μmol/L、3.9μmol/L、7.8μmol/L、16μmol/L、31μmol/L、62μmol/Lとした以外は、サンプルAと同様の方法でサンプルを調製した。
【0058】
次いで、サンプルE~Rに、最終濃度が0.5mol/LとなるようにNaClを添加して、室温で10分間静置した後、目視により各サンプルの色調の変化を評価した。目視による評価時の各サンプルの分散液を図4に示す。
【0059】
図4に示すように、BLMの最終濃度が7.8μmol/L以上であるサンプルH~Kの場合、高塩濃度下においてもdsDNA-GNPの分散状態に由来する赤色を保持した。しかし、BLMの最終濃度が3.9μmol/L以下であるサンプルE~Gは、Fe(NH(SOを含まないサンプルL~Rと同様に、塩を添加した後、分散液の色調が赤色から紫色に変化した。これにより、BLMの濃度が3.9μmol/L以下では、dsDNA-GNPの凝集の抑制が目視により評価できる程度まで、DNAが切断されていないことが示唆される。
【0060】
<試験例3:BLM及びその他のDNA損傷剤によるDNA損傷作用の評価>
試験例3では、BLM及びその他のDNA損傷剤によるDNA損傷作用を目視により評価した。
【0061】
評価用サンプルとして、サンプルHと、以下のサンプルを調製した。
サンプルS:BLM及びFe(NH(SOの代わりに、最終濃度が7.8μmol/LとなるようにMTZを添加した以外は、サンプルAと同様の方法でサンプルを調製した。
サンプルT:BLM及びFe(NH(SOの代わりに、最終濃度が7.8μmol/LとなるようにCDDPを添加した以外は、サンプルAと同様の方法でサンプルを調製した。
サンプルU:BLM及びFe(NH(SOの代わりに、最終濃度が7.8μmol/LとなるようにCPAを添加した以外は、サンプルAと同様の方法でサンプルを調製した。
【0062】
次いで、サンプルH、S~Uに、最終濃度が0.5mol/LとなるようにNaClを添加して、室温で10分間静置した後、目視により各サンプルの色調の変化を評価した。目視による評価時の各サンプルの分散液を図5に示す。
【0063】
図5に示すように、BLM以外のDNA損傷剤を添加したサンプルS~Uにおいては、溶液の色調が赤色から紫色に変化し、dsDNA-GNPの凝集を抑制することができなかった。この理由として、MTZについては、BLMと異なり不活性な状態であり、DNA損傷作用を発揮しなかったためであると考えられる。
また、CDDP及びCPAについては、濃度が低いため、二本鎖DNAのアルキル化が効率的に進行せず、dsDNA-GNPの凝集を抑制するまでの効果が発揮されなかったことが理由であると考えられる。
図1
図2
図3
図4
図5
【配列表】
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