(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-17
(45)【発行日】2022-11-28
(54)【発明の名称】宿主生殖腺への生着能を有する生殖細胞識別マーカー
(51)【国際特許分類】
C12N 5/076 20100101AFI20221118BHJP
C12N 5/075 20100101ALI20221118BHJP
C12Q 1/6881 20180101ALI20221118BHJP
C12N 15/12 20060101ALN20221118BHJP
【FI】
C12N5/076
C12N5/075
C12Q1/6881 Z
C12N15/12 ZNA
(21)【出願番号】P 2018507455
(86)(22)【出願日】2017-03-24
(86)【国際出願番号】 JP2017012112
(87)【国際公開番号】W WO2017164391
(87)【国際公開日】2017-09-28
【審査請求日】2020-03-23
(31)【優先権主張番号】P 2016060914
(32)【優先日】2016-03-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(科学研究費補助金 新学術領域研究「動物における配偶子産生システムの制御」に係る研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
(73)【特許権者】
【識別番号】504196300
【氏名又は名称】国立大学法人東京海洋大学
(74)【代理人】
【識別番号】100091982
【氏名又は名称】永井 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100082991
【氏名又は名称】佐藤 泰和
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【氏名又は名称】浅野 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【氏名又は名称】反町 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100104617
【氏名又は名称】池田 伸美
(72)【発明者】
【氏名】林 誠
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 佳子
(72)【発明者】
【氏名】林 哲太郎
(72)【発明者】
【氏名】海老澤 昌史
(72)【発明者】
【氏名】笹川 洋平
(72)【発明者】
【氏名】芳村 美佳
(72)【発明者】
【氏名】二階堂 愛
(72)【発明者】
【氏名】市田 健介
(72)【発明者】
【氏名】吉崎 悟朗
【審査官】木原 啓一郎
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2009/118778(WO,A1)
【文献】DEFINITION: Salmo salar clone ssal-rgb2-654-235 Probable E3 ubiquitin-protein ligase RNF144A-A putative mRNA, complete cds, ACCESSION: BT049256,GenBank [online],2010年08月24日,[retrieved on 2018-03-12], <URL: https://www.ncbi.nlm.nih.gov/nuccore/BT049256>
【文献】DEFINITION: TSA: Salmo salar isotig10022.Sasaskin mRNA sequence, ACCESSION: JT823094,GenBank [online],2012年05月01日,[retrieved on 2018-03-12], <URL: https://www.ncbi.nlm.nih.gov/nuccore/jt823094>
【文献】DEFINITION: TSA: Oncorhynchus mykiss 1867.Onmycontig, mRNA sequence, ACCESSION: EZ765201,GenBank [online],2012年08月16日,[retrieved on 2018-03-12], <URL: https://www.ncbi.nlm.nih.gov/nuccore/ez765201>
【文献】林誠ほか,宿主生殖腺への高い生着能を有するニジマス精原細胞の濃縮,日本水産学会大会講演要旨集,2011年,p. 36
【文献】Biology of Reproduction,2014年,Vol. 91, Article 23
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C12Q
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(I)の宿主生殖腺への生着能を有する生殖細胞識別マーカ
ーのヌクレオチド配
列又はその相補配列
の連続する少なくとも100個の塩基配列を含
む、該宿主生殖腺への生着能を有する生殖細胞識別マーカー検出用プローブ;又は、
下記
(I)の宿主生殖腺への生着能を有する生殖細胞識別マーカーのヌクレオチド配
列又はその相補配列
の連続する少なくとも15個の塩基配列を含
む、該宿主生殖腺への生着能を有する生殖細胞識別マーカー検出用プライマー
を用いて、該宿主生殖腺への生着能を有する生殖細胞識別マーカーの遺伝子の発現の有無および/または程度を検出して、
サケ科魚類の精巣または卵巣から、発現が有るもしくは発現が高い細胞を分離する
ことを含んでなる、宿主生殖腺への生着能を有する生殖細胞生産方法:
(I)
(a)配列番号25、28および47のヌクレオチド配列から選択されるヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチド、
(b)配列願号25、28および47のヌクレオチド配列から選択されるヌクレオチド配列を含んでなるポリヌクレオチドであって、宿主生殖腺への生着能を有する生殖細胞識別機能を有するポリヌクレオチド、
(c)配列番号25、28および47のヌクレオチド配列から選択されるヌクレオチド配列において、1もしくは2個の塩基が欠失、付加、挿入または置換されたヌクレオチド配列、および/またはその一方または両末端へ、元のヌクレオチド配列に対して合計10%以下の塩基の付加がなされたヌクレオチド配列で表されるポリヌクレオチドであって、宿主生殖腺への生着能を有する生殖細胞識別機能を有するポリヌクレオチド、
(d)配列番号25、28および47のヌクレオチド配列から選択されるヌクレオチド配列と少なくとも90%の同一性を有するヌクレオチド配列で表されるポリヌクレオチドであって、宿主生殖腺への生着能を有する生殖細胞識別機能を有するポリヌクレオチ
ド。
【請求項2】
下記(II)の宿主生殖腺への生着能を有さない生殖細胞識別マーカーのヌクレオチド配列又はその相補配列の連続する少なくとも100個の塩基配列を含む、該宿主生殖腺への生着能を有さない生殖細胞識別マーカー検出用プローブ;又は、
下記(II)の宿主生殖腺への生着能を有さない生殖細胞識別マーカーのヌクレオチド配列又はその相補配列の連続する少なくとも15個の塩基配列を含む、該宿主生殖腺への生着能を有さない生殖細胞識別マーカー検出用プライマー
を用いて、該宿主生殖腺への生着能を有さない生殖細胞識別マーカーの遺伝子の発現の有無および/または程度を検出して、
サケ科魚類の精巣または卵巣から、発現があるもしくは発現が高い細胞を分離する
ことをさらに含んでなる、請求項1に記載の宿主生殖腺への生着能を有する生殖細胞生産方法:
(II)
(g)配列番号78および86のヌクレオチド配列から選択されるヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチド、
(h)配列願号78および86のヌクレオチド配列から選択されるヌクレオチド配列を含んでなるポリヌクレオチドであって、宿主生殖腺への生着能を有さない生殖細胞識別機能を有するポリヌクレオチド、
(i)配列番号78および86のヌクレオチド配列から選択されるヌクレオチド配列において、1もしくは2個の塩基が欠失、付加、挿入または置換されたヌクレオチド配列、および/またはその一方または両末端へ、元のヌクレオチド配列に対して合計10%以下の塩基の付加がなされたヌクレオチド配列で表されるポリヌクレオチドであって、宿主生殖腺への生着能を有さない生殖細胞識別機能を有するポリヌクレオチド、
(j)配列番号78および86のヌクレオチド配列から選択されるヌクレオチド配列と少なくとも90%の同一性を有する塩基配列で表されるポリヌクレオチドであって、宿主生殖腺への生着能を有さない生殖細胞識別機能を有するポリヌクレオチド。
【請求項3】
請求項1または2に記載の
プローブ又はプライマーを含む生殖細胞識別用ヌクレオチド組成物。
【請求項4】
前記プローブ又は前記プライマーが、精原幹細胞(SSC)
遺伝子検出用プローブ又はプライマーである、請求項3に記載の生殖細胞識別用ヌクレオチド組成物。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の参照】
【0001】
本特許出願は、先に出願された日本国特許出願である特願2016-60914(出願日:2016年3月24日)に基づくものであって、その優先権の利益を主張するものであり、その開示内容全体を参照することによりここに組み込まれる。
【発明の背景】
【0002】
技術分野
本発明は、代理親魚技法に関し、特に、代理親魚技法において、移植する分離生殖細胞の宿主生殖腺への生着能の有無を識別する生殖細胞識別マーカーに関する。また本発明は、本発明の生殖細胞識別マーカーを用いた、宿主生殖腺への生着能を有する生殖細胞生産方法に関する。
【0003】
背景技術
欧米での健康志向の高まりや中国等の経済発展により、世界の食用水産物消費量は年々増加を続け、その結果、天然水産資源量の減少が問題となっている。特に、高級魚として需要の高いウナギおよびクロマグロなどは、乱獲による天然資源量の減少が著しく、絶滅が危惧される状態にまで至っている。そのため、水産資源量の増加を目的とした種苗生産および人工種苗(稚魚)放流が検討されている。一般的に、種苗生産では、近親交配や特定疾病の発症による全滅を避けるために、親魚となる個体の遺伝的多様性が必要とされ、従って、多数の親魚を育成する必要がある。しかしながら、魚種によっては、種苗生産は難しい。例えば、クロマグロでは親魚は体重100kg以上と大型であり、遊泳方法から広い飼育環境を必要とする。また、チョウザメでは精子や卵の成熟に長い年月を要する。人為催熟が技術的に難しい魚種や、1対1交配が難しい魚種もいることから、多数の親魚を人為的な管理下で育成し、精子や卵を採取することは、コスト的および技術的に極めて難しい。
【0004】
魚類の種苗生産技術として、本発明者らは、宿主(レシピエント)魚類とは異なる異種の魚類(ドナー魚類)由来の生殖細胞を、孵化前後の宿主魚類個体の腹腔内へ移植することによって、生殖細胞を生殖細胞系列へ分化誘導することができることを見いだし、異種の宿主魚類での分離生殖細胞の生殖細胞系列への分化誘導に成功している(例えば、特許文献1参照)。この技術は、代理親魚技法または借り腹養殖技法とも呼ばれ、親魚の飼育に問題の多い魚類の精子や卵を、飼育しやすい異種の宿主魚類によって生産し、交配することにより低コストで簡便な種苗生産を可能にする技術であるとして期待されている。
【0005】
特許文献1では、移植する生殖細胞として始原生殖細胞を用いている。具体的には、始原生殖細胞に対して特異的に発現するvasa遺伝子の調節領域にGFP(Green Fluorescent Protein:緑色蛍光タンパク質)遺伝子を導入した遺伝子組換えニジマスの孵化胚から得た生殖隆起組織の懸濁液を原料に、緑色蛍光を指標としたフローサイトメトリー解析により蛍光強度の強い細胞集団を始原生殖細胞として分離している。しかしながら、始原生殖細胞は、孵化前後の極めて若い胚に由来し、その数は孵化稚魚1尾当たり60個程度と大変少ないものであるため、商業的な量産化には向かない。
【0006】
商業的な量産化を目的として、移植する分離生殖細胞の数を十分確保するために、例えば、非特許文献1には、ドナー魚類の生殖腺である精巣の細胞懸濁液から、生殖細胞を分離し、その分離生殖細胞を、代理親魚技法において、宿主魚類個体の腹腔内に移植する方法が開示されている。しかしながら、移植する分離生殖細胞として、精巣由来の分離生殖細胞を用いた場合の宿主生殖腺への移植細胞の生着した個体の割合は、始原生殖細胞を用いた場合より低かった。
【0007】
非特許文献2には、ニジマス精原細胞を孵化稚魚腹腔内に移植すると、一部のA型精原細胞(A-SG)のみが宿主生殖腺へと生着し、ドナー由来の機能的配偶子を生産することから、高い生着能を有しているA型精原細胞は、精原幹細胞(SSC)であるという考えのもと、精原幹細胞のSide Population(SP)に着目した、宿主生殖腺への高い生着能を有しているA型精原細胞の濃縮方法が開示されている。しかしながら、この方法では精原幹細胞の濃縮率が不十分であり、宿主生殖腺への生着能を有する生殖細胞識別マーカーを得るには至っていない。よって、代理親魚技法において、移植する分離生殖細胞の宿主生殖腺への生着能の有無を判断するためには、実際に孵化前後の宿主魚類個体に移植して確認する以外、識別する方法は存在しない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【非特許文献】
【0009】
【文献】Okutsu, T., Suzuki, K., Takeuchi, Y., Takeuchi, T., & Yoshizaki, G. (2006). Testicular germ cells can colonize sexually undifferentiated embryonic gonad and produce functional eggs in fish. Proceedings of the national academy of sciences of the United States of America, 103(8), 2725-2729.
【文献】Hayashi, M., Sato, M., Nagasaka, Y., Sadaie, S., Kobayashi, S., & Yoshizaki, G. (2014). Enrichment of spermatogonial stem cells using side population in teleost. Biology of reproduction, 91(1), 23.
【発明の概要】
【0010】
このように、魚類の宿主生殖腺への生着能の有無を識別できる生殖細胞マーカー、特に、代理親魚技法の実用化に必要な、宿主生殖腺への生着能を有する生殖細胞を、移植前に、検出、分離できる生殖細胞マーカーは、発明者らが知る限り報告されていない。
【0011】
本発明者らは今般、ドナー魚類の精巣由来の分離生殖細胞を宿主魚類個体の腹腔内に移植し、宿主生殖腺に生着したことが確認された、生着直後の、宿主生殖腺への生着能を有する生殖細胞(すなわち、生着細胞)を生きたまま回収し、この細胞での遺伝子発現を網羅的に解析したところ、宿主生殖腺への生着能を有する生殖細胞と、宿主生殖腺への生着能を有さない生殖細胞とをそれぞれ検出できる、生殖細胞識別マーカーの開発に成功した。本発明はこれらの知見に基づくものである。
【0012】
すなわち、本発明は、新規な生殖細胞識別マーカー、特に移植する分離生殖細胞の宿主生殖腺への生着能の有無を識別する生殖細胞識別マーカーを提供することをその目的とする。また、本発明の生殖細胞識別マーカーを用いた宿主生殖腺への生着能を有する生殖細胞生産方法を提供することもその目的とする。
【0013】
本発明によれば、以下の発明が提供される。
(1)下記(I)の宿主生殖腺への生着能を有する生殖細胞識別マーカーおよび/または(II)の宿主生殖腺への生着能を有さない生殖細胞識別マーカーを含んでなる、生殖細胞識別マーカー:
(I)下記(a)~(f)から選択される1または2以上のポリヌクレオチドからなる宿主生殖腺への生着能を有する生殖細胞識別マーカー:
(a)配列番号1~74のヌクレオチド配列から選択される1または2以上のヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチド、
(b)配列願号1~74のヌクレオチド配列から選択される1または2以上のヌクレオチド配列を含んでなるポリヌクレオチドであって、宿主生殖腺への生着能を有する生殖細胞識別機能を有するポリヌクレオチド、
(c)配列番号1~74のヌクレオチド配列から選択される1または2以上のヌクレオチド配列において、1もしくは数個の塩基が欠失、付加、挿入または置換されたヌクレオチド配列、および/またはその一方または両末端への塩基の付加がなされたヌクレオチド配列で表されるポリヌクレオチドであって、宿主生殖腺への生着能を有する生殖細胞識別機能を有するポリヌクレオチド、
(d)配列番号1~74のヌクレオチド配列から選択される1または2以上のヌクレオチド配列と少なくとも70%の同一性を有するヌクレオチド配列で表されるポリヌクレオチドであって、宿主生殖腺への生着能を有する生殖細胞識別機能を有するポリヌクレオチド、
(e)配列番号1~74のヌクレオチド配列から選択される1または2以上のヌクレオチド配列からなる遺伝子のオルソログ遺伝子をコードするポリヌクレオチド、および
(f)前記(b)~(e)のいずれかに示されるヌクレオチド配列を有するポリヌクレオチドの相補配列からなるポリヌクレオチドと高ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドであって、宿主生殖腺への生着能を有する生殖細胞識別機能を有するポリヌクレオチド、
(II)下記(g)~(l)から選択される1または2以上のポリヌクレオチドからなる宿主生殖腺への生着能を有さない分化生殖細胞識別マーカー:
(g)配列番号75~101のヌクレオチド配列から選択される1または2以上のヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチド、
(h)配列願号75~101のヌクレオチド配列から選択される1または2以上のヌクレオチド配列を含んでなるポリヌクレオチドであって、宿主生殖腺への生着能を有さない生殖細胞識別機能を有するポリヌクレオチド、
(i)配列番号75~101のヌクレオチド配列から選択される1または2以上のヌクレオチド配列において、1もしくは数個の塩基が欠失、付加、挿入または置換されたヌクレオチド配列、および/またはその一方または両末端への塩基の付加がなされたヌクレオチド配列で表されるポリヌクレオチドであって、宿主生殖腺への生着能を有さない生殖細胞識別機能を有するポリヌクレオチド、
(j)配列番号75~101のヌクレオチド配列から選択される1または2以上のヌクレオチド配列と少なくとも70%の同一性を有する塩基配列で表されるポリヌクレオチドであって、宿主生殖腺への生着能を有さない生殖細胞識別機能を有するポリヌクレオチド、
(k)配列番号75~101のヌクレオチド配列から選択される1または2以上のヌクレオチド配列からなる遺伝子のオルソログ遺伝子をコードするポリヌクレオチド、および
(l)前記(g)~(k)のいずれかに示されるヌクレオチド配列を有するポリヌクレオチドの相補配列からなるポリヌクレオチドと高ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドであって、宿主生殖腺への生着能を有さない生殖細胞識別機能を有するポリヌクレオチド。
(2)生殖細胞識別マーカーが、宿主生殖腺への生着能の有無を識別する生殖細胞識別マーカーである、(1)に記載のマーカー。
(3)(1)の(a)~(f)から選択される1または2以上のポリヌクレオチドからなる、生殖細胞識別マーカーが宿主生殖腺への生着能を有する生殖細胞識別マーカーである、(1)または(2)に記載のマーカー。
(4)宿主生殖腺への生着能を有する生殖細胞識別マーカーが、精原幹細胞(SSC)マーカーである、(1)~(3)のいずれかに記載のマーカー。
(5)(4)に記載のポリヌクレオチドまたは該ポリヌクレオチドの相補配列からなるポリヌクレオチドにハイブリダイズすることができる、SSC遺伝子検出用プライマーまたはプローブ。
(6)(1)の(g)~(l)から選択される1または2以上のポリヌクレオチドからなる、生殖細胞識別マーカーが宿主生殖腺への生着能を有さない生殖細胞識別マーカーである、(1)または(2)に記載のマーカー。
(7)(1)~(4)のいずれかに記載の宿主生殖腺への生着能を有する生殖細胞識別マーカーを用いて、該宿主生殖腺への生着能を有する生殖細胞識別マーカーの遺伝子の発現の有無および/または程度を検出して、
魚類の精巣または卵巣から、発現が有るもしくは発現が高い細胞を分離する
ことを含んでなる、宿主生殖腺への生着能を有する生殖細胞生産方法。
(8)(1)、(2)または(6)に記載の宿主生殖腺への生着能を有さない生殖細胞識別マーカーを用いて、該宿主生殖腺への生着能を有さない生殖細胞識別マーカーの遺伝子の発現の有無および/または程度を検出して、
魚類の精巣または卵巣から、発現があるもしくは発現が高い細胞を分離する
ことをさらに含んでなる、(7)に記載の未分化生殖細胞生産方法。
(9)魚類が、サケ科魚類である、(7)または(8)に記載の宿主生殖腺への生着能を有する生殖細胞生産方法。
(10)(1)~(4)のいずれかに記載の宿主生殖腺への生着能を有する生殖細胞識別マーカーがコードするタンパク質の一部に結合する、宿主生殖腺への生着能を有する生殖細胞識別抗体。
【0014】
本発明の生殖細胞識別マーカーを用いることにより、生殖細胞の状態、特に、代理親魚技法において、移植前に、移植する分離生殖細胞の宿主生殖腺への生着能の有無を識別することができる。また本発明の生殖細胞識別マーカーを用いることにより、宿主生殖腺への生着能を有する生殖細胞を効率良く生産することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】Quartz-seq解析で得られたシークエンス結果のデータ処理のスキームである。
【
図2】データ処理での、全サンプル(移植細胞94細胞と生着細胞14細胞)の全リード数の数を示す。
【
図3】データ処理での、全サンプル(移植細胞94細胞と生着細胞14細胞)のGC含有率を示す。
【
図4】データ処理での、全サンプル(移植細胞94細胞と生着細胞14細胞)のマッピング比を示す。
【
図5】PCA解析のPCA ペアプロットの結果を示す。
【
図6】PCA解析のファクターローディングのランキングを示す。
【
図7】SPアレイとQuartz-seq解析との比較を示す。
【
図8】Blast検索の結果を示す。a)生着細胞を特徴づけるトランスクリプト74個の配列のフグに対するBlast検索の結果。b)生着細胞を特徴づけるトランスクリプト74個の配列のティラピアに対するBlast検索の結果。c)生着細胞を特徴づけるトランスクリプト74個の配列のマグロに対するBlast検索の結果。d)非生着細胞を特徴づけるトランスクリプト27個の配列のフグに対するBlast検索の結果。e)非生着細胞を特徴づけるトランスクリプト27個の配列のティラピアに対するBlast検索の結果。f)非生着細胞を特徴づけるトランスクリプト27個の配列のマグロに対するBlast検索の結果。
【
図9】qRT-PCRのSP細胞および非SP細胞でのそれぞれのトランスクリプトの発現量の結果を示す。グラフの*および#は、Student’s t-testにより算出したP値を示し、*は、P値<0.05(SP細胞と非SP細胞に有意な差が認められる)、#は、P値>0.1(SP細胞と非SP細胞に有意な差が認められない)を示す。
【
図10】免疫組織化学染色の結果を示す。蛍光顕微鏡写真(左)、HE染色の写真(右)。
【発明の具体的説明】
【0016】
本発明によれば、宿主生殖腺への生着能を有する生殖細胞識別マーカーおよび/または宿主生殖腺への生着能を有さない生殖細胞識別マーカーを含んでなる、生殖細胞識別マーカーが提供される。本発明の好ましい態様によれば、生殖細胞識別マーカーは、宿主生殖腺への生着能の有無を識別する生殖細胞識別マーカーである。
【0017】
「代理親魚技法」とは、ドナー魚類から分離された分離生殖細胞を、孵化前後の宿主(レシピエント)魚類個体の腹腔内へ移植し、宿主魚類個体の生殖腺において、移植した生殖細胞を生殖細胞系列(配偶子)へ分化誘導することを意味する(特許文献1参照)。
【0018】
「生殖細胞」とは、有性生殖のための配偶子またそれらのもととなる細胞を意味する。生殖細胞は、魚類の場合、例えば、始原生殖細胞、卵原細胞、精原細胞、卵母細胞、精母細胞、精細胞、卵および精子が包含される。
【0019】
「宿主生殖腺への生着能を有する生殖細胞」とは、代理親魚技法において、宿主魚類個体の腹腔内へ移植するドナー魚類由来の分離生殖細胞であって、移植後、宿主生殖腺へ生着できる分離生殖細胞を意味し、生着生殖細胞ともいわれる。このような生殖細胞として、始原生殖細胞と、一部のA型精原細胞および一部の卵原細胞とが挙げられる。A型精原細胞の中でも、宿主生殖腺への生着能を有するA型精原細胞は、1%に満たないといわれている。生殖細胞が、宿主生殖腺への生着能を有する生殖細胞であるか否かは、本発明の、宿主生殖腺への生殖能を有する生殖細胞マーカーにより判断するか、あるいは、代理親魚技法において、宿主生殖腺に移植した際の生着能の有無により判断することができる。
【0020】
「A型精原細胞」とは、未分化精巣(未成熟精巣)において体細胞と共に存在する未分化生殖細胞であり、該A型精原細胞は、成熟を開始した精巣または成熟精巣において、B型精原細胞、精母細胞、精細胞、精子へと分化する細胞である。A型精原細胞には、精原細胞を複製し続ける精原幹細胞(SSC)が含まれる。さらに、SSCは、細胞膜透過性の核染色試薬であるHoechst33342で染色することにより染色性の薄い分画に濃縮される。本発明において、宿主生殖腺への生着能を有する生殖細胞としてのA型精原細胞は、好ましくは、精原幹細胞である。
【0021】
「卵原細胞」とは、未分化卵巣(未成熟卵巣)に体細胞と共に存在する未分化生殖細胞であり、成熟に従って卵母細胞、卵へと分化する細胞である。卵原細胞は、卵原細胞を複製し続ける卵原幹細胞(OSC)が含まれる。本発明において、宿主生殖腺への生着能を有する生殖細胞としての卵原細胞は、好ましくは、卵原幹細胞である。
【0022】
本発明の生殖細胞識別マーカーを用いることにより、代理親魚技法において、移植する分離生殖細胞の宿主生殖腺への生着能の有無を識別できる。すなわち、本発明の一つの態様によれば、宿主生殖腺への生着能を有する生殖細胞識別マーカーが提供される。またもう一つの態様によれば、宿主生殖腺への生着能を有さない生殖細胞識別マーカーが提供される。
【0023】
本発明の一つの態様によれば、本発明の宿主生殖腺への生着能を有する生殖細胞識別マーカーは、下記(a)~(f)から選択される1または2以上のポリヌクレオチドからなるものである:
(a)配列番号1~74のヌクレオチド配列から選択される1または2以上のヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチド、
(b)配列願号1~74のヌクレオチド配列から選択される1または2以上のヌクレオチド配列を含んでなるポリヌクレオチドであって、宿主生殖腺への生着能を有する生殖細胞識別機能を有するポリヌクレオチド、
(c)配列番号1~74のヌクレオチド配列から選択される1または2以上のヌクレオチド配列において、1もしくは数個の塩基が欠失、付加、挿入または置換されたヌクレオチド配列、および/またはその一方または両末端への塩基の付加がなされたヌクレオチド配列で表されるポリヌクレオチドであって、宿主生殖腺への生着能を有する生殖細胞識別機能を有するポリヌクレオチド、
(d)配列番号1~74のヌクレオチド配列から選択される1または2以上のヌクレオチド配列と少なくとも70%の同一性を有するヌクレオチド配列で表されるポリヌクレオチドであって、宿主生殖腺への生着能を有する生殖細胞識別機能を有するポリヌクレオチド、
(e)配列番号1~74のヌクレオチド配列から選択される1または2以上のヌクレオチド配列からなる遺伝子のオルソログ遺伝子をコードするポリヌクレオチド、および
(f)前記(a)~(e)のいずれかに示されるヌクレオチド配列を有するポリヌクレオチドの相補配列からなるポリヌクレオチドと高ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドであって、宿主生殖腺への生着能を有する生殖細胞識別機能を有するポリヌクレオチド。
【0024】
本発明の好ましい態様によれば、本発明の宿主生殖腺への生着能を有する生殖細胞識別マーカーは、配列番号1~74のヌクレオチド配列から選択される1または2以上のヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドである。また、本発明の好ましい態様によれば、本発明の宿主生殖腺への生着能を有する生殖細胞識別マーカーは、配列番号1~74のヌクレオチド配列から選択される1または2以上のヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドと実質的に同等な宿主生殖腺への生着能を有する生殖細胞識別機能を有するポリヌクレオチドである。
【0025】
配列番号1~74のヌクレオチド配列から選択される1または2以上のヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドと実質的に同等な宿主生殖腺への生着能を有する生殖細胞識別機能を有するポリヌクレオチドとしては、上記(b)~(f)から選択されるポリヌクレオチドが挙げられる。
【0026】
(b)のポリヌクレオチドにおいて、配列願号1~74のヌクレオチド配列から選択される1または2以上のヌクレオチド配列を含んでなるポリヌクレオチドは、配列願号1~74のヌクレオチド配列から選択される1または2以上のヌクレオチド配列の発現を妨げない限り、他のヌクレオチド配列を含んでいてもよく、他のヌクレオチド配列は当業者であれば適宜選択することができる。(b)のポリヌクレオチド配列の長さは、配列願号1~74のヌクレオチド配列から選択される1または2以上のヌクレオチド配列の長さに対して、好ましくは500%、より好ましくは400%、さらに好ましくは300%、さらに好ましくは200%、さらに好ましくは100%、さらに好ましくは70%、さらに好ましくは50%、さらに好ましくは30%、さらに好ましくは10%、さらに好ましくは5%、さらに好ましくは1%長いものであってもよい。
【0027】
(c)のポリヌクレオチドにおいて、「1もしくは数個の塩基が欠失、付加、挿入または置換されたヌクレオチド配列」とは、部位特異的突然変異誘発法等の周知の技術的方法により、または天然に生じ得る程度の1~複数個の数の塩基の置換等により改変がなされたことを意味する。塩基の改変の個数は、例えば、1~20個、好ましくは1~10個、より好ましくは1~5個、さらに好ましくは1~4個、さらに好ましくは1~3個、特に好ましくは1~2個である。(c)のポリヌクレオチドにおいて、「その一方または両末端への塩基の付加がなされた」とは、配列願号1~74のヌクレオチド配列から選択される1または2以上のヌクレオチド配列の発現を妨げない限り、そのヌクレオチド配列の一方または両末端へ、他のヌクレオチド配列が付加されていてもよく、他のヌクレオチド配列は当業者であれば適宜選択することができる。他のヌクレオチド配列は、配列願号1~74のヌクレオチド配列から選択される1または2以上のヌクレオチド配列の長さに対して、好ましくは500%、より好ましくは400%、さらに好ましくは300%、さらに好ましくは200%、さらに好ましくは100%、さらに好ましくは70%、さらに好ましくは50%、さらに好ましくは30%、さらに好ましくは10%、さらに好ましくは5%、さらに好ましくは1%の長さの配列であってもよい。
【0028】
(c)のポリヌクレオチドの改変は、
図8において、フグ、ティラピア、マグロのcDNA配列を比較した際の相違数が大きい部位で行われるものが好ましい。
【0029】
(d)のポリヌクレオチドは、配列番号1~74のヌクレオチド配列から選択される1または2以上のヌクレオチド配列と少なくとも70%の同一性を有するヌクレオチド配列からなるものでる。この配列同一性は、好ましくは少なくとも好ましくは75%以上、より好ましくは少なくとも85%以上、さらに好ましくは88%以上、さらに好ましくは89%以上、さらに好ましくは90%以上、さらに好ましくは91%以上、さらに好ましくは92%以上、さらに好ましくは93%以上、さらに好ましくは94%以上、さらに好ましくは95%以上、さらに好ましくは96%以上、さらに好ましくは97%以上、特に好ましくは98%以上、最も好ましくは99%以上である。
【0030】
上記配列同一性は、公知の手法によって決定されるものであり、かかる手法としては、例えば、実施例の例2に記載のBLAST検索(Altschul, S.F., Gish, W., Miller, W., Myers, E.W. & Lipman, D.J. (1990) "Basic local alignment search tool." J. Mol. Biol. 215:403-410.)等が挙げられる。また、このアルゴリズムBLASTに基づく、BLASTNやBLASTXを用いることもできる。
【0031】
(e)のポリヌクレオチドにおいて、「オルソログ遺伝子」とは、オーソログ遺伝子ともよばれ、祖先遺伝子が共通の他種間で同一機能を担うホモログ遺伝子である。配列願号1~74のヌクレオチド配列から選択される1または2以上のヌクレオチド配列からなる遺伝子のオルソログ遺伝子をコードするポリヌクレオチドは、配列願号1~74のヌクレオチド配列から選択される1または2以上のヌクレオチド配列と同等の機能を有する限り、特に制限されず、当業者であれば公知の手法によって容易に特定することができる。例えば、BLASTXやポリヌクレオチドがコードするアミノ酸配列を用いたBLASTP検索により特定されたホモログ遺伝子に対して、系統樹解析を行うことで特定することができる。
【0032】
好ましい態様によれば、(e)のポリヌクレオチドにおいて、「オルソログ遺伝子」は、好ましくは、配列願号1~74のヌクレオチド配列から選択される1または2以上のヌクレオチド配列と少なくとも70%、より好ましくは少なくとも75%以上、より好ましくは少なくとも85%以上、さらに好ましくは88%以上、さらに好ましくは89%以上、さらに好ましくは90%以上、さらに好ましくは91%以上、さらに好ましくは92%以上、さらに好ましくは93%以上、さらに好ましくは94%以上、さらに好ましくは95%以上、さらに好ましくは96%以上、さらに好ましくは97%以上、特に好ましくは98%以上、最も好ましくは99%以上の同一性を有するヌクレオチド配列からなるものでる。
【0033】
(f)のポリヌクオチドは、(a)~(f)のいずれかに示されるヌクレオチド配列を有するポリヌクレオチドの相補配列からなるポリヌクレオチドに高ストリンジェントな条件でハイブリダイズするものから選択することができる。ここで、「高ストリンジェントな条件でハイブリダイズする」とは、高ストリンジェントな条件下で標的ポリヌクレオチドにハイブリダイズし、標的ヌクレオチド以外のヌクレオチドにはハイブリダイズしないことを意味する。「高ストリンジェントな条件」は、ポリヌクレオチドと標的ヌクレオチドとの二本鎖の融解温度(℃)および溶液の塩濃度等に依存して決定できる。標的配列を選択した後にそれに応じたストリンジェントな条件を設定することは当業者に周知の技術である(例えば、Molecular Cloning 2nd edition, Cold Spring Harbor Laboratory(1989)等)。
【0034】
ハイブリダイゼーション法は、公知の方法に従って行うことができる。また、市販のライブラリーを使用する場合、添付の使用説明書に記載の方法に従って行うことができる。
【0035】
本発明の好ましい態様によれば、本発明の宿主生殖腺への生着能を有する生殖細胞識別マーカーは、下記(a)~(f)から選択される1または2以上のポリヌクレオチドからなるものである:
(a)配列番号1~7、9、11~13、18~28、31~33、35~39、42~49、51~60、63~66、70、73のヌクレオチド配列から選択される1または2以上のヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチド、
(b)配列願号1~7、9、11~13、18~28、31~33、35~39、42~49、51~60、63~66、70、73のヌクレオチド配列から選択される1または2以上のヌクレオチド配列を含んでなるポリヌクレオチドであって、宿主生殖腺への生着能を有する生殖細胞識別機能を有するポリヌクレオチド、
(c)配列番号1~7、9、11~13、18~28、31~33、35~39、42~49、51~60、63~66、70、73のヌクレオチド配列から選択される1または2以上のヌクレオチド配列において、1もしくは数個(例えば、1~20個、好ましくは1~10個、より好ましくは1~5個、さらに好ましくは1~4個、さらに好ましくは1~3個、特に好ましくは1~2個)の塩基が欠失、付加、挿入または置換されたヌクレオチド配列、および/またはその一方または両末端への塩基の付加がなされたヌクレオチド配列で表されるポリヌクレオチドであって、宿主生殖腺への生着能を有する生殖細胞識別機能を有するポリヌクレオチド、
(d)配列番号1~7、9、11~13、18~28、31~33、35~39、42~49、51~60、63~66、70、73のヌクレオチド配列から選択される1または2以上のヌクレオチド配列と少なくとも70%の同一性(好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%、さらに好ましくは少なくとも95%の同一性)を有するヌクレオチド配列で表されるポリヌクレオチドであって、宿主生殖腺への生着能を有する生殖細胞識別機能を有するポリヌクレオチド、
(e)配列番号1~7、9、11~13、18~28、31~33、35~39、42~49、51~60、63~66、70、73のヌクレオチド配列から選択される1または2以上のヌクレオチド配列からなる遺伝子のオルソログ遺伝子をコードするポリヌクレオチド、および
(f)前記(a)~(e)のいずれかに示されるヌクレオチド配列を有するポリヌクレオチドの相補配列からなるポリヌクレオチドと高ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドであって、宿主生殖腺への生着能を有する生殖細胞識別機能を有するポリヌクレオチド。
【0036】
本発明のさらに好ましい態様によれば、本発明の宿主生殖腺への生着能を有する生殖細胞識別マーカーは、下記(a)~(f)から選択される1または2以上のポリヌクレオチドからなるものである:
(a)配列番号1、3、4、6、9、11、12、18、21、22、24、25、26、27、28、31、32、33、35、37、38、43、44、45、46、47、49、51、52、53、54、56、57、58、60、63、65、70、73のヌクレオチド配列から選択される1または2以上のヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチド、
(b)配列願号1、3、4、6、9、11、12、18、21、22、24、25、26、27、28、31、32、33、35、37、38、43、44、45、46、47、49、51、52、53、54、56、57、58、60、63、65、70、73のヌクレオチド配列から選択される1または2以上のヌクレオチド配列を含んでなるポリヌクレオチドであって、宿主生殖腺への生着能を有する生殖細胞識別機能を有するポリヌクレオチド、
(c)配列番号1、3、4、6、9、11、12、18、21、22、24、25、26、27、28、31、32、33、35、37、38、43、44、45、46、47、49、51、52、53、54、56、57、58、60、63、65、70、73のヌクレオチド配列から選択される1または2以上のヌクレオチド配列において、1もしくは数個(例えば、1~20個、好ましくは1~10個、より好ましくは1~5個、さらに好ましくは1~4個、さらに好ましくは1~3個、特に好ましくは1~2個)の塩基が欠失、付加、挿入または置換されたヌクレオチド配列、および/またはその一方または両末端への塩基の付加がなされたヌクレオチド配列で表されるポリヌクレオチドであって、宿主生殖腺への生着能を有する生殖細胞識別機能を有するポリヌクレオチド、
(d)配列番号1、3、4、6、9、11、12、18、21、22、24、25、26、27、28、31、32、33、35、37、38、43、44、45、46、47、49、51、52、53、54、56、57、58、60、63、65、70、73のヌクレオチド配列から選択される1または2以上のヌクレオチド配列と少なくとも70%の同一性(好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%、さらに好ましくは少なくとも95%の同一性)を有するヌクレオチド配列で表されるポリヌクレオチドであって、宿主生殖腺への生着能を有する生殖細胞識別機能を有するポリヌクレオチド、
(e)配列番号1、3、4、6、9、11、12、18、21、22、24、25、26、27、28、31、32、33、35、37、38、43、44、45、46、47、49、51、52、53、54、56、57、58、60、63、65、70、73のヌクレオチド配列から選択される1または2以上のヌクレオチド配列からなる遺伝子のオルソログ遺伝子をコードするポリヌクレオチド、および
(f)前記(a)~(e)のいずれかに示されるヌクレオチド配列を有するポリヌクレオチドの相補配列からなるポリヌクレオチドと高ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドであって、宿主生殖腺への生着能を有する生殖細胞識別機能を有するポリヌクレオチド。
【0037】
本発明のさらに好ましい態様によれば、本発明の宿主生殖腺への生着能を有する生殖細胞識別マーカーは、下記(a)~(f)から選択される1または2以上のポリヌクレオチドからなるものである:
(a)配列番号9、11、18、25、28、32、35、37、38、44、47、49、52、65、70のヌクレオチド配列から選択される1または2以上のヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチド、
(b)配列願号9、11、18、25、28、32、35、37、38、44、47、49、52、65、70のヌクレオチド配列から選択される1または2以上のヌクレオチド配列を含んでなるポリヌクレオチドであって、宿主生殖腺への生着能を有する生殖細胞識別機能を有するポリヌクレオチド、
(c)配列番号9、11、18、25、28、32、35、37、38、44、47、49、52、65、70のヌクレオチド配列から選択される1または2以上のヌクレオチド配列において、1もしくは数個(例えば、1~20個、好ましくは1~10個、より好ましくは1~5個、さらに好ましくは1~4個、さらに好ましくは1~3個、特に好ましくは1~2個)の塩基が欠失、付加、挿入または置換されたヌクレオチド配列、および/またはその一方または両末端への塩基の付加がなされたヌクレオチド配列で表されるポリヌクレオチドであって、宿主生殖腺への生着能を有する生殖細胞識別機能を有するポリヌクレオチド、
(d)配列番号9、11、18、25、28、32、35、37、38、44、47、49、52、65、70のヌクレオチド配列から選択される1または2以上のヌクレオチド配列と少なくとも70%の同一性(好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%、さらに好ましくは少なくとも95%の同一性)を有するヌクレオチド配列で表されるポリヌクレオチドであって、宿主生殖腺への生着能を有する生殖細胞識別機能を有するポリヌクレオチド、
(e)配列番号9、11、18、25、28、32、35、37、38、44、47、49、52、65、70のヌクレオチド配列から選択される1または2以上のヌクレオチド配列からなる遺伝子のオルソログ遺伝子をコードするポリヌクレオチド、および
(f)前記(a)~(e)のいずれかに示されるヌクレオチド配列を有するポリヌクレオチドの相補配列からなるポリヌクレオチドと高ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドであって、宿主生殖腺への生着能を有する生殖細胞識別機能を有するポリヌクレオチド。
【0038】
本発明のさらに好ましい態様によれば、本発明の宿主生殖腺への生着能を有する生殖細胞識別マーカーは、下記(a)~(f)から選択される1または2以上のポリヌクレオチドからなるものである:
(a)配列番号9、11、25、28、35、37、44、47、49、52、65のヌクレオチド配列から選択される1または2以上のヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチド、
(b)配列願号9、11、25、28、35、37、44、47、49、52、65のヌクレオチド配列から選択される1または2以上のヌクレオチド配列を含んでなるポリヌクレオチドであって、宿主生殖腺への生着能を有する生殖細胞識別機能を有するポリヌクレオチド、
(c)配列番号9、11、25、28、35、37、44、47、49、52、65のヌクレオチド配列から選択される1または2以上のヌクレオチド配列において、1もしくは数個(例えば、1~20個、好ましくは1~10個、より好ましくは1~5個、さらに好ましくは1~4個、さらに好ましくは1~3個、特に好ましくは1~2個)の塩基が欠失、付加、挿入または置換されたヌクレオチド配列、および/またはその一方または両末端への塩基の付加がなされたヌクレオチド配列で表されるポリヌクレオチドであって、宿主生殖腺への生着能を有する生殖細胞識別機能を有するポリヌクレオチド、
(d)配列番号9、11、25、28、35、37、44、47、49、52、65のヌクレオチド配列から選択される1または2以上のヌクレオチド配列と少なくとも70%の同一性(好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%、さらに好ましくは少なくとも95%の同一性)を有するヌクレオチド配列で表されるポリヌクレオチドであって、宿主生殖腺への生着能を有する生殖細胞識別機能を有するポリヌクレオチド、
(e)配列番号9、11、25、28、35、37、44、47、49、52、65のヌクレオチド配列から選択される1または2以上のヌクレオチド配列からなる遺伝子のオルソログ遺伝子をコードするポリヌクレオチド、および
(f)前記(a)~(e)のいずれかに示されるヌクレオチド配列を有するポリヌクレオチドの相補配列からなるポリヌクレオチドと高ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドであって、宿主生殖腺への生着能を有する生殖細胞識別機能を有するポリヌクレオチド。
【0039】
本発明のさらに好ましい態様によれば、本発明の宿主生殖腺への生着能を有する生殖細胞識別マーカーは、下記(a)~(f)から選択される1または2以上のポリヌクレオチドからなるものである:
(a)配列番号25、28、47のヌクレオチド配列から選択される1または2以上のヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチド、
(b)配列願号25、28、47のヌクレオチド配列から選択される1または2以上のヌクレオチド配列を含んでなるポリヌクレオチドであって、宿主生殖腺への生着能を有する生殖細胞識別機能を有するポリヌクレオチド、
(c)配列番号25、28、47のヌクレオチド配列から選択される1または2以上のヌクレオチド配列において、1もしくは数個(例えば、1~20個、好ましくは1~10個、より好ましくは1~5個、さらに好ましくは1~4個、さらに好ましくは1~3個、特に好ましくは1~2個)の塩基が欠失、付加、挿入または置換されたヌクレオチド配列、および/またはその一方または両末端への塩基の付加がなされたヌクレオチド配列で表されるポリヌクレオチドであって、宿主生殖腺への生着能を有する生殖細胞識別機能を有するポリヌクレオチド、
(d)配列番号25、28、47のヌクレオチド配列から選択される1または2以上のヌクレオチド配列と少なくとも70%の同一性(好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%、さらに好ましくは少なくとも95%の同一性)を有するヌクレオチド配列で表されるポリヌクレオチドであって、宿主生殖腺への生着能を有する生殖細胞識別機能を有するポリヌクレオチド、
(e)配列番号25、28、47のヌクレオチド配列から選択される1または2以上のヌクレオチド配列からなる遺伝子のオルソログ遺伝子をコードするポリヌクレオチド、および
(f)前記(a)~(e)のいずれかに示されるヌクレオチド配列を有するポリヌクレオチドの相補配列からなるポリヌクレオチドと高ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドであって、宿主生殖腺への生着能を有する生殖細胞識別機能を有するポリヌクレオチド。
【0040】
本発明のより好ましい態様によれば、本発明の宿主生殖腺への生着能を有する生殖細胞識別マーカーは、配列番号1~7、9、11~13、18~28、31~33、35~39、42~49、51~60、63~66、70、73のヌクレオチド配列から選択される1または2以上のヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドであり、さらに好ましくは、配列番号1、3、4、6、9、11、12、18、21、22、24、25、26、27、28、31、32、33、35、37、38、43、44、45、46、47、49、51、52、53、54、56、57、58、60、63、65、70、73であり、さらに好ましくは、配列番号9、11、18、25、28、32、35、37、38、44、47、49、52、65、70であり、さらに好ましくは、配列番号9、11、25、28、35、37、44、47、49、52、65であり、特に好ましくは、配列番号25、28、47である。また、本発明の好ましい態様によれば、本発明の宿主生殖腺への生着能を有する生殖細胞識別マーカーは、上記配列番号のヌクレオチド配列から選択される1または2以上のヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドと実質的に同等な宿主生殖腺への生着能を有する生殖細胞識別機能を有するポリヌクレオチドである。上記配列番号のヌクレオチド配列から選択される1または2以上のヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドと実質的に同等な宿主生殖腺への生着能を有する生殖細胞識別機能を有するポリヌクレオチドの用語は、上記(b)~(f)のポリヌクレオチドの用語について説明された本明細書の内容において、ポリヌクレオチドの対象となる配列番号を、それぞれの配列番号に置き換えることにより理解することができる。
【0041】
本発明の宿主生殖腺への生着能を有する生殖細胞識別マーカーは、生着生殖細胞識別マーカーとも呼ばれる。本発明の宿主生殖腺への生着能を有する生殖細胞識別マーカーを用いることにより、代理親魚技法において、宿主生殖腺への生着能を有する生殖細胞を移植細胞として検出、分離することができる。また、本発明の宿主生殖腺への生着能を有する生殖細胞識別マーカーを用いることにより、宿主生殖腺への生着能を有する生殖細胞として、宿主生殖腺への生着能を有するA型精原細胞(精原幹細胞を含む)および宿主生殖腺への生着能を有する卵原細胞(卵原幹細胞を含む)を検出、分離することができる。すなわち、本発明の一つの態様によれば、宿主生殖腺への生着能を有するA型精原細胞識別マーカー(すなわち、A型精原細胞中で、宿主生殖腺への生着能を有するA型精原細胞を識別するためのマーカー)、精原幹細胞識別マーカー、宿主生殖腺への生着能を有する卵原細胞識別マーカー、卵原幹細胞識別マーカーが提供されうる。本発明の好ましい態様によれば、宿主生殖腺への生着能を有する生殖細胞識別マーカーは、宿主生殖腺への生着能を有するA型精原細胞識別マーカーである。
【0042】
本発明のもう一つの態様によれば、本発明の宿主生殖腺への生着能を有さない生殖細胞識別マーカーは、下記(g)~(l)から選択される1または2以上のポリヌクレオチドからなるものである:
(g)配列番号75~101のヌクレオチド配列から選択される1または2以上のヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチド、
(h)配列願号75~101のヌクレオチド配列から選択される1または2以上のヌクレオチド配列を含んでなるポリヌクレオチドであって、宿主生殖腺への生着能を有さない生殖細胞識別機能を有するポリヌクレオチド、
(i)配列番号75~101のヌクレオチド配列から選択される1または2以上のヌクレオチド配列において、1もしくは数個の塩基が欠失、付加、挿入または置換されたヌクレオチド配列、および/またはその一方または両末端への塩基の付加がなされたヌクレオチド配列で表されるポリヌクレオチドであって、宿主生殖腺への生着能を有さない生殖細胞識別機能を有するポリヌクレオチド、
(j)配列番号75~101のヌクレオチド配列から選択される1または2以上のヌクレオチド配列と少なくとも70%の同一性を有する塩基配列で表されるポリヌクレオチドであって、宿主生殖腺への生着能を有さない生殖細胞識別機能を有するポリヌクレオチド、
(k)配列番号75~101のヌクレオチド配列から選択される1または2以上のヌクレオチド配列からなる遺伝子のオルソログ遺伝子をコードするポリヌクレオチド、および (l)前記(g)~(k)のいずれかに示されるヌクレオチド配列を有するポリヌクレオチドの相補配列からなるポリヌクレオチドと高ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドであって、宿主生殖腺への生着能を有さない生殖細胞識別機能を有するポリヌクレオチド。
【0043】
本発明の好ましい態様によれば、本発明の宿主生殖腺への生着能を有さない生殖細胞識別マーカーは、配列番号75~101のヌクレオチド配列から選択される1または2以上のヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドである。また、本発明の好ましい態様によれば、本発明の宿主生殖腺への生着能を有さない生殖細胞識別マーカーは、配列番号75~101のヌクレオチド配列から選択される1または2以上のヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドと実質的に同等な宿主生殖腺への生着能を有さない生殖細胞識別機能を有するポリヌクレオチドである。
【0044】
配列番号75~101のヌクレオチド配列から選択される1または2以上のヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドと実質的に同等な宿主生殖腺への生着能を有さない生殖細胞識別機能を有するポリヌクレオチドとしては、上記(g)~(l)から選択されるポリヌクレオチドが挙げられる。
【0045】
(h)~(i)のポリヌクレオチドの用語は、上記(b)~(f)のポリヌクレオチドの用語について説明された本明細書の内容において、ポリヌクレオチドの対象となる配列番号および機能を、配列番号75~101および宿主生殖腺への生着能を有さない生殖細胞識別機能に置き換えることにより理解することができる。
【0046】
本発明の好ましい態様によれば、本発明の宿主生殖腺への生着能を有さない生殖細胞識別マーカーは、下記(g)~(l)から選択される1または2以上のポリヌクレオチドからなるものである:
(g)配列番号75~84、86、88、91~99のヌクレオチド配列から選択される1または2以上のヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチド、
(h)配列願号75~84、86、88、91~99のヌクレオチド配列から選択される1または2以上のヌクレオチド配列を含んでなるポリヌクレオチドであって、宿主生殖腺への生着能を有さない生殖細胞識別機能を有するポリヌクレオチド、
(i)配列番号75~84、86、88、91~99のヌクレオチド配列から選択される1または2以上のヌクレオチド配列において、1もしくは数個(例えば、1~20個、好ましくは1~10個、より好ましくは1~5個、さらに好ましくは1~4個、さらに好ましくは1~3個、特に好ましくは1~2個)の塩基が欠失、付加、挿入または置換されたヌクレオチド配列、および/またはその一方または両末端への塩基の付加がなされたヌクレオチド配列で表されるポリヌクレオチドであって、宿主生殖腺への生着能を有さない生殖細胞識別機能を有するポリヌクレオチド、
(j)配列番号75~84、86、88、91~99のヌクレオチド配列から選択される1または2以上のヌクレオチド配列と少なくとも70%の同一性(好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%、さらに好ましくは少なくとも95%の同一性)を有する塩基配列で表されるポリヌクレオチドであって、宿主生殖腺への生着能を有さない生殖細胞識別機能を有するポリヌクレオチド、
(k)配列番号75~84、86、88、91~99のヌクレオチド配列から選択される1または2以上のヌクレオチド配列からなる遺伝子のオルソログ遺伝子をコードするポリヌクレオチド、および
(l)前記(g)~(k)のいずれかに示されるヌクレオチド配列を有するポリヌクレオチドの相補配列からなるポリヌクレオチドと高ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドであって、宿主生殖腺への生着能を有さない生殖細胞識別機能を有するポリヌクレオチド。
【0047】
本発明のさらに好ましい態様によれば、本発明の宿主生殖腺への生着能を有さない生殖細胞識別マーカーは、下記(g)~(l)から選択される1または2以上のポリヌクレオチドからなるものである:
(g)配列番号75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、86、88、91、92、93、95、96、97、98のヌクレオチド配列から選択される1または2以上のヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチド、
(h)配列願号75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、86、88、91、92、93、95、96、97、98のヌクレオチド配列から選択される1または2以上のヌクレオチド配列を含んでなるポリヌクレオチドであって、宿主生殖腺への生着能を有さない生殖細胞識別機能を有するポリヌクレオチド、
(i)配列番号75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、86、88、91、92、93、95、96、97、98のヌクレオチド配列から選択される1または2以上のヌクレオチド配列において、1もしくは数個(例えば、1~20個、好ましくは1~10個、より好ましくは1~5個、さらに好ましくは1~4個、さらに好ましくは1~3個、特に好ましくは1~2個)の塩基が欠失、付加、挿入または置換されたヌクレオチド配列、および/またはその一方または両末端への塩基の付加がなされたヌクレオチド配列で表されるポリヌクレオチドであって、宿主生殖腺への生着能を有さない生殖細胞識別機能を有するポリヌクレオチド、
(j)配列番号75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、86、88、91、92、93、95、96、97、98のヌクレオチド配列から選択される1または2以上のヌクレオチド配列と少なくとも70%の同一性(好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%、さらに好ましくは少なくとも95%の同一性)を有する塩基配列で表されるポリヌクレオチドであって、宿主生殖腺への生着能を有さない生殖細胞識別機能を有するポリヌクレオチド、
(k)配列番号75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、86、88、91、92、93、95、96、97、98のヌクレオチド配列から選択される1または2以上のヌクレオチド配列からなる遺伝子のオルソログ遺伝子をコードするポリヌクレオチド、および
(l)前記(g)~(k)のいずれかに示されるヌクレオチド配列を有するポリヌクレオチドの相補配列からなるポリヌクレオチドと高ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドであって、宿主生殖腺への生着能を有さない生殖細胞識別機能を有するポリヌクレオチド。
【0048】
本発明のさらに好ましい態様によれば、本発明の宿主生殖腺への生着能を有さない生殖細胞識別マーカーは、下記(g)~(l)から選択される1または2以上のポリヌクレオチドからなるものである:
(g)配列番号75、78、81、83、86、88、98のヌクレオチド配列から選択される1または2以上のヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチド、
(h)配列願号75、78、81、83、86、88、98のヌクレオチド配列から選択される1または2以上のヌクレオチド配列を含んでなるポリヌクレオチドであって、宿主生殖腺への生着能を有さない生殖細胞識別機能を有するポリヌクレオチド、
(i)配列番号75、78、81、83、86、88、98のヌクレオチド配列から選択される1または2以上のヌクレオチド配列において、1もしくは数個(例えば、1~20個、好ましくは1~10個、より好ましくは1~5個、さらに好ましくは1~4個、さらに好ましくは1~3個、特に好ましくは1~2個)の塩基が欠失、付加、挿入または置換されたヌクレオチド配列、および/またはその一方または両末端への塩基の付加がなされたヌクレオチド配列で表されるポリヌクレオチドであって、宿主生殖腺への生着能を有さない生殖細胞識別機能を有するポリヌクレオチド、
(j)配列番号75、78、81、83、86、88、98のヌクレオチド配列から選択される1または2以上のヌクレオチド配列と少なくとも70%の同一性(好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%、さらに好ましくは少なくとも95%の同一性)を有する塩基配列で表されるポリヌクレオチドであって、宿主生殖腺への生着能を有さない生殖細胞識別機能を有するポリヌクレオチド、
(k)配列番号75、78、81、83、86、88、98のヌクレオチド配列から選択される1または2以上のヌクレオチド配列からなる遺伝子のオルソログ遺伝子をコードするポリヌクレオチド、および
(l)前記(g)~(k)のいずれかに示されるヌクレオチド配列を有するポリヌクレオチドの相補配列からなるポリヌクレオチドと高ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドであって、宿主生殖腺への生着能を有さない生殖細胞識別機能を有するポリヌクレオチド。
【0049】
本発明のさらに好ましい態様によれば、本発明の宿主生殖腺への生着能を有さない生殖細胞識別マーカーは、下記(g)~(l)から選択される1または2以上のポリヌクレオチドからなるものである:
(g)配列番号78、81、83、86、88のヌクレオチド配列から選択される1または2以上のヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチド、
(h)配列願号78、81、83、86、88のヌクレオチド配列から選択される1または2以上のヌクレオチド配列を含んでなるポリヌクレオチドであって、宿主生殖腺への生着能を有さない生殖細胞識別機能を有するポリヌクレオチド、
(i)配列番号78、81、83、86、88のヌクレオチド配列から選択される1または2以上のヌクレオチド配列において、1もしくは数個(例えば、1~20個、好ましくは1~10個、より好ましくは1~5個、さらに好ましくは1~4個、さらに好ましくは1~3個、特に好ましくは1~2個)の塩基が欠失、付加、挿入または置換されたヌクレオチド配列、および/またはその一方または両末端への塩基の付加がなされたヌクレオチド配列で表されるポリヌクレオチドであって、宿主生殖腺への生着能を有さない生殖細胞識別機能を有するポリヌクレオチド、
(j)配列番号78、81、83、86、88のヌクレオチド配列から選択される1または2以上のヌクレオチド配列と少なくとも70%の同一性(好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%、さらに好ましくは少なくとも95%の同一性)を有する塩基配列で表されるポリヌクレオチドであって、宿主生殖腺への生着能を有さない生殖細胞識別機能を有するポリヌクレオチド、
(k)配列番号78、81、83、86、88のヌクレオチド配列から選択される1または2以上のヌクレオチド配列からなる遺伝子のオルソログ遺伝子をコードするポリヌクレオチド、および
(l)前記(g)~(k)のいずれかに示されるヌクレオチド配列を有するポリヌクレオチドの相補配列からなるポリヌクレオチドと高ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドであって、宿主生殖腺への生着能を有さない生殖細胞識別機能を有するポリヌクレオチド。
【0050】
本発明のさらに好ましい態様によれば、本発明の宿主生殖腺への生着能を有さない生殖細胞識別マーカーは、下記(g)~(l)から選択される1または2以上のポリヌクレオチドからなるものである:
(g)配列番号78、86のヌクレオチド配列から選択される1または2以上のヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチド、
(h)配列願号78、86のヌクレオチド配列から選択される1または2以上のヌクレオチド配列を含んでなるポリヌクレオチドであって、宿主生殖腺への生着能を有さない生殖細胞識別機能を有するポリヌクレオチド、
(i)配列番号78、86のヌクレオチド配列から選択される1または2以上のヌクレオチド配列において、1もしくは数個(例えば、1~20個、好ましくは1~10個、より好ましくは1~5個、さらに好ましくは1~4個、さらに好ましくは1~3個、特に好ましくは1~2個)の塩基が欠失、付加、挿入または置換されたヌクレオチド配列、および/またはその一方または両末端への塩基の付加がなされたヌクレオチド配列で表されるポリヌクレオチドであって、宿主生殖腺への生着能を有さない生殖細胞識別機能を有するポリヌクレオチド、
(j)配列番号78、86のヌクレオチド配列から選択される1または2以上のヌクレオチド配列と少なくとも70%の同一性(好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%、さらに好ましくは少なくとも95%の同一性)を有する塩基配列で表されるポリヌクレオチドであって、宿主生殖腺への生着能を有さない生殖細胞識別機能を有するポリヌクレオチド、
(k)配列番号78、86のヌクレオチド配列から選択される1または2以上のヌクレオチド配列からなる遺伝子のオルソログ遺伝子をコードするポリヌクレオチド、および
(l)前記(g)~(k)のいずれかに示されるヌクレオチド配列を有するポリヌクレオチドの相補配列からなるポリヌクレオチドと高ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドであって、宿主生殖腺への生着能を有さない生殖細胞識別機能を有するポリヌクレオチド。
【0051】
本発明のより好ましい態様によれば、本発明の宿主生殖腺への生着能を有する生殖細胞識別マーカーは、配列番号75~84、86、88、91~99のヌクレオチド配列から選択される1または2以上のヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドであり、さらに好ましくは、配列番号75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、86、88、91、92、93、95、96、97、98であり、さらに好ましくは、配列番号75、78、81、83、86、88、98であり、さらに好ましくは、配列番号78、81、83、86、88であり、特に好ましくは、配列番号78、86である。また、本発明の好ましい態様によれば、本発明の宿主生殖腺への生着能を有する生殖細胞識別マーカーは、上記配列番号のヌクレオチド配列から選択される1または2以上のヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドと実質的に同等な宿主生殖腺への生着能を有する生殖細胞識別機能を有するポリヌクレオチドである。上記配列番号のヌクレオチド配列から選択される1または2以上のヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドと実質的に同等な宿主生殖腺への生着能を有する生殖細胞識別機能を有するポリヌクレオチドの用語は、上記(h)~(i)のポリヌクレオチドの用語について説明された本明細書の内容において、ポリヌクレオチドの対象となる配列番号を、それぞれの配列番号に置き換えることにより理解することができる。
【0052】
本発明の宿主生殖腺への生着能を有さない生殖細胞識別マーカーは、非生着生殖細胞識別マーカーとも呼ばれる。本発明の宿主生殖腺への生着能を有さない生殖細胞識別マーカーを用いることにより、代理親魚技法において、宿主生殖腺への生着能を有さない生殖細胞を移植細胞として検出、分離することができる。本発明の宿主生殖腺への生着能を有さない生殖細胞識別マーカーをネガティブマーカーとして用いることにより、宿主生殖腺への生着能を有する生殖細胞を移植細胞として分離することができる。
【0053】
本発明の別の態様によれば、生殖細胞識別マーカーとしてのプライマーおよびプローブが提供される。
【0054】
本発明によるプライマーおよびプローブは、本発明によるポリヌクレオチドまたは該ポリヌクレオチドの相補配列からなるポリヌクレオチドと特異的にハイブリダイズし、本発明の生殖細胞識別遺伝子の全部または一部を、核酸増幅法により増幅することができる。従って、本発明によるプライマーおよびプローブは、宿主生殖腺への生着能を有する生殖細胞遺伝子検出マーカーまたは宿主生殖腺への生着能を有さない生殖細胞遺伝子検出マーカー(ネガティブマーカー)としてのプライマーおよびプローブとして用いることができる。また、本発明によるプライマーおよびプローブは、宿主生殖腺への生着能を有するA型精原細胞遺伝子検出マーカー、精原幹細胞遺伝子検出マーカー、宿主生殖腺への生着能を有する卵原細胞遺伝子検出マーカーまたは卵原幹細胞遺伝子検出マーカーとして用いることができる。
【0055】
本発明によるプライマーおよびプローブは、デオキシリボ核酸(DNA)、リボ核酸(RNA)等からなるものを意味する。
【0056】
本発明によるプライマーは、本発明の生殖細胞識別遺伝子の全部または一部を核酸増幅法により増幅することができればよい。例えば、本発明によるポリヌクレオチドのヌクレオチド配列またはその相補配列の連続する少なくとも10個、好ましくは、少なくとも15個、より好ましくは、少なくとも20個、さらに好ましくは、少なくとも21個の塩基配列を含むポリヌクレオチドからなるものが挙げられる。本発明によるプライマーは、本発明によるポリヌクレオチドのヌクレオチド配列またはその相補配列の連続する10~30個、12~30個、15~30個、20~30個、または21~30個のヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドからなるものであってもよい。
【0057】
本発明によるプライマーの長さは、少なくとも10塩基であることができ、好ましくは少なくとも15塩基、より好ましくは少なくとも20塩基、さらに好ましくは少なくとも21塩基である。本発明によるプライマーの長さは、12~30塩基、20~30塩基、または21~30塩基であってもよい。
【0058】
本発明によるプライマーは、二種類以上の本発明によるプライマーを組み合わせてなるプライマーセットとして使用してもよい。
【0059】
本発明によるプライマーおよびプライマーセットは、PCR法(Saiki,R.K.,Bugawan,T.L.,et al.(1986)Nature,324,163-166) 、NASBA法(Comptom,J.(1991)Nature,650,91-92)、TMA法(Kacian,D.L.,and Fultz,T.J.(1995)US.Patent 5,399,491)、SDA法(Walker,G.T.,Little,M.C.,et al(1992)Proc.Natl.Acad.Sci.USA,89,392-396)、PCR-SSCP法(Orita,M.,Iwahara,H.,et al.(1989)Proc.Natl.Acad.Sci.USA,86,2776-2770 )等の公知の核酸増幅法において、常法に従ってプライマーおよびプライマーセットとして用いることができる。
【0060】
本発明によるプローブとしては、本発明によるポリヌクレオチドの塩基配列にハイブリダイズすることができるものが挙げられる。
【0061】
本発明によるプローブの長さは、少なくとも10塩基である。本発明によるプローブの長さは、そのプローブの用途により適宜調整することができ、in situハイブリダイゼーション法に用いる場合は、好ましくは100~500塩基である。
【0062】
本発明によるプローブは、ノーザンブロット法、サザンブロット法、in situハイブリダイゼーション等の公知の方法において、常法に従ってプローブとして使用することができる。
【0063】
本発明によるプライマーおよびプローブは、本明細書に開示した塩基配列に基づき、化学合成できる。プライマーの調製方法は周知であり、常法に従って実施できる。
【0064】
本発明の別の態様によれば、本発明の生殖細胞識別マーカーを用いた、生殖細胞、特に宿主生殖腺への生着能を有する生殖細胞に特異的に結合する抗体が提供される。抗体の調製方法は、周知であり、常法に従って実施できる。例えば、このような抗体として、本発明の生殖細胞識別マーカーがコードするタンパク質の一部に結合する、宿主生殖腺への生着能を有する生殖細胞識別抗体が挙げられ、このような抗体は、生殖細胞識別マーカーがコードするタンパク質の一部に対応するペプチドを合成し、そのペプチドを動物に免疫して抗血清として得ることができる。該ペプチドは、好ましくは、PKWETDSKISCEQT(配列番号:308)である。
【0065】
本発明の別の態様によれば、本発明の生殖細胞識別マーカーを含んでなる、生殖細胞識別キット、特に宿主生殖腺への生着能を有する生殖細胞識別キットが提供される。キットの調製方法は、周知であり、常法に従って実施できる。
【0066】
本発明の一つの態様によれば、本発明の宿主生殖腺への生着能を有する生殖細胞識別マーカーを用いて、該宿主生殖腺への生着能を有する生殖細胞識別マーカーの遺伝子の発現の有無および/または程度を検出して、魚類の精巣または卵巣から、発現が有るもしくは発現が高い細胞を分離することを含んでなる、宿主生殖腺への生着能を有する生殖細胞生産方法が提供される。すなわち、本発明の宿主生殖腺への生着能を有する生殖細胞識別マーカーを用いて、該宿主生殖腺への生着能を有する生殖細胞識別マーカーの遺伝子の発現の有無および/または程度を検出して、魚類の精巣または卵巣から、発現が有るもしくは発現が高い細胞を分離することを含んでなる、宿主生殖腺への生着能を有する生殖細胞濃縮方法が提供される。
【0067】
本発明の好ましい態様によれば、本発明の宿主生殖腺への生着能を有する生殖細胞生産方法は、本発明の宿主生殖腺への生着能を有さない生殖細胞識別マーカーを用いて、該宿主生殖腺への生着能を有さない生殖細胞識別マーカーの遺伝子の発現の有無および/または程度を検出して、魚類の精巣または卵巣から、発現があるもしくは発現が高い細胞を分離することをさらに含んでなる。このような方法として、例えば、本発明の宿主生殖腺への生着能を有さない生殖細胞識別マーカーをネガティブマーカーとして用いて、宿主生殖腺への生着能を有する生殖細胞から、宿主生殖腺への生着能を有さない細胞を分離し、除去することが挙げられる。
【0068】
本発明の宿主生殖腺への生着能を有する生殖細胞生産方法において、本発明の宿主生殖腺への生着能を有する生殖細胞識別マーカーをポジティブマーカーとして用いた分離と、本発明の宿主生殖腺への生着能を有さない生殖細胞識別マーカーをネガティブマーカーとして用いた分離は、分離方法に準じて、同時におこなってもよいし、別々におこなってもよく、あるいは連続におこなってもよく、その順番はいずれであってもよい。本発明の好ましい態様によれば、ネガティブマーカーで宿主生殖腺への生着能を有さない生殖細胞を除去した後に、ポジティブマーカーによる濃縮をする方法である。
【0069】
本発明において、本発明の生殖細胞マーカーを用いた生殖細胞の分離方法としては、フローサイトメトリー解析や、密度勾配遠心法、運動能や接着能など細胞の性質を利用した解析、細胞表面抗原に対する抗体を利用した解析による細胞分離が挙げられる。
【0070】
本発明の一つの態様によれば、本発明の宿主生殖腺への生着能を有する生殖細胞生産方法により得られた生殖細胞を、ドナー魚類由来の分離生殖細胞として、孵化前後の宿主魚類個体の腹腔内へ移植することを含んでなる、分離生殖細胞の生殖細胞系列への分化誘導方法が提供される。
【0071】
本発明の分化誘導方法における宿主魚類とドナー魚類の種類は、同種であってもよいし、異種であってもよい。異種の魚類としては同属異種の魚類や異属の魚類を挙げることができ、例えば、ドナー魚類がニジマスの場合、同属異種のレシピエント魚類としてヤマメを、異属のレシピエント魚類としてブラウントラウト、イワナを具体的に例示することができ、ドナー魚類がクロマグロの場合、同属異種のレシピエント魚類として、メバチマグロ、ビンナガマグロ、キハダマグロ、メバチマグロ等を、異属のレシピエント魚類としてスマ、マサバを具体的に例示することができ、ドナー魚類がブリやカンパチの場合、異属のレシピエント魚類として、マアジやニベを例示することができる。また、ドナー魚類がハタ、ウナギの場合は、近縁の飼育が容易な異種の魚類を用いることができる。異種の魚類を用いる場合、例えばドナー魚類由来の未成熟生殖細胞として、成魚までの育成が比較的高コスト、高労力である魚類(例えばレシピエント魚類より大型の魚類)の未成熟生殖細胞を用い、レシピエント魚類として、成魚までの育成が比較的低コスト、低労力である魚類(例えばドナー魚類より小型の魚類)を用いると、移植後のレシピエント魚類を育成することによって、ドナー魚類の卵や精子を、例えば比較的小型の水槽を用いて、比較的低コスト、低労力で分化誘導することが可能となる。このメリットを享受するために好ましいドナー魚類とレシピエント魚類の組み合わせとしては、クロマグロ(ドナー)とマサバ(レシピエント)の組み合わせを例示することができる。
【0072】
本発明において魚類は、本発明のポリヌクレオチドを特異的に発現する魚類である限り特に限定されず、例えば、サケ科魚類(例えば、ニジマス、サケ、ヒメマス、マスノスケ)、アジ科魚類(例えば、ブリ)、フグ科魚類(例えば、トラフグ)、サバ科魚類(例えば、クロマグロ、ミナミマグロ)、タイ科魚類(例えば、マダイ)、カワスズメ科魚類(例えば、ティラピア)、ウナギ科魚類、シーラカンス科魚類などが挙げられる。本発明において魚類は、海水魚であっても、淡水魚であってもよい。
【0073】
本発明の分化誘導方法によって、ドナー魚類由来の精子及び/又は卵を形成せしめることよりなる。すなわち、本発明の一つの態様によれば、本発明の宿主生殖腺への生着能を有する生殖細胞生産方法により得られた生殖細胞を、ドナー魚類由来の分離生殖細胞として、孵化前後の宿主魚類個体の腹腔内へ移植し、ドナー由来の精子または卵を得ることを含んでなる、ドナー魚類の精子または卵の生産方法が提供される。また、本発明の一つの態様によれば、本発明の宿主生殖腺への生着能を有する生殖細胞生産方法により得られた生殖細胞を、ドナー魚類由来の分離生殖細胞として、孵化前後の宿主魚類個体の腹腔内へ移植し、ドナー由来の精子または卵を得て、該卵または精子を用いて受精卵を作製し、これを孵化させてドナー魚類の新規個体を作製することを含んでなる、ドナー魚類の生産方法が提供される。
【0074】
本発明の分化誘導法の利用例として、魚類の遺伝子資源の保存への利用が考えられる。具体的には、希少種、絶滅危惧種の未成熟生殖細胞を凍結保存し、必要な時に飼育が容易な近縁種の宿主に移植すれば、これらの宿主は希少種、あるいは絶滅危惧種(場合によっては既に絶滅した種)に由来する卵や精子を作出することが可能となる。また、今後遺伝子導入等の技術により様々な有用系統・品種が作出された場合、個体の継代飼育を行わなくてもこれらの維持が可能であり、必要なときに宿主胚への移植により個体へ改変することが可能となる。
【実施例】
【0075】
本発明を以下の実施例によって詳細に説明するが、本発明は、これらに限定されるものではない。
【0076】
例1:生殖細胞識別マーカーの作製
宿主生殖腺への生着能の有無を識別できる生殖細胞識別マーカーを作製するために、宿主生殖腺への生着能を有する生殖細胞を単離し、この細胞で特異的に発現する遺伝子を網羅的に解析して、生殖細胞識別マーカーを得た。具体的には以下の通りである。
【0077】
(1)宿主生殖腺への生着能を有する生殖細胞(生着細胞)の単離
非特許文献1の方法に従って、ドナー魚類として、15個体のvasa-GFP遺伝子導入ニジマス(雄)から精巣を摘出し、トリプシン酵素(Worthington Biochemical Corpotaion製)処理による分散後、A型精原細胞を含む細胞集団を得た。得られた細胞集団を、代理親魚技法において、宿主魚類個体に移植する分離生殖細胞(移植細胞)として用いた。宿主魚類個体として、ニジマス仔魚(受精後29日目)を230尾用いた。
【0078】
得られた分離生殖細胞を、引用文献1の方法に従って、宿主魚類個体の腹腔内へ一定細胞数ずつ移植した。移植後14日目に、蛍光顕微鏡を用いて、移植したGFP陽性の生殖細胞の生着が確認できた宿主生殖腺を、ピンセットを用いて実体顕微鏡下で単離した。単離した生殖腺を、トリプシン酵素(Worthington Biochemical Corpotaion製)処理による分散後、GFP蛍光を指標に、生着した移植生殖細胞を単離、回収した。
【0079】
(2)Quartz-seq法による解析
単離された生着細胞から網羅的な遺伝子発現解析を行うために、1細胞から解析できるQuartz-seq法(Sasagawa et. al., Quartz-Seq: a highly reproducible and sensitive single-cell RNA sequencing method, reveals non-genetic gene-expression heterogeneity. Genome Biol. 2013 Apr 17;14 (4) 参照)に従って、解析を行った。具体的には、上記(1)により得られた生着細胞 14細胞と、移植に用いた精巣から得られた細胞集団に含まれる細胞(移植細胞)94細胞に対して、Quartz-seq法による遺伝子発現の比較を行った。
【0080】
Quartz-seq法とは、1細胞RNAシークエンス法の一つである。具体的には、得られた細胞を、細胞融解液として、最終濃度0.5%に希釈した10%NP-40(Thermo Scientific社製)と0.4unit(1unit/μl)のRNasin Plus RNase Inhibitor(Promega社製)とが含まれる溶液を用いて融解し、逆転写反応により該mRNAに相補的なcDNAを得て、逆転写されたcDNAの3’末端にターミナルトランスフェラーゼを用いてpoly-Aを付加し、poly-A鎖に結合されたタギングプライマーからの伸長反応により相補的な鎖(第2鎖)を合成し、抑制PCRにより目的のRNA由来のcDNAの増幅を行い、増幅されたcDNAを精製した。
【0081】
得られた精製cDNAについてシークエンスを行い、データ処理は
図1のスキームに従って行った。具体的には、シーケンスアダプター配列の除去、遺伝子発現量の定量の順にデータ処理を行った。結果を
図2~4に示す。
【0082】
図2に示されるように、生着細胞では、一部リード数にばらつきが見られた。
図3に示されるようシークエンスのGC含有率は、均一であった。
図4に示されるように、マッピング比は均一であった。
【0083】
これらの結果に基づいて、WTA(whole transcript amplification)および/または 細胞生存に影響が考えられる生着細胞1細胞は解析対象から除去し、遺伝子発現差を解析した。その結果、解析に用いたニジマスの全トランスクリプトは175,285個であり、移植細胞と生着細胞との間で発現に有意な差があったトランスクリプトは2,904個であることがわかった。
【0084】
その後、PCA(主成分分析)を行った。PCAとは、多変量を低次元に次元圧縮を行う解析であり、この解析を行うことにより細胞がどのように分類されるかがわかる。また分類された細胞に対して、機能的に寄与が大きな遺伝子を因子負荷量(factor loading)の大小から得ることができる。具体的には、移植細胞94細胞と生着細胞13細胞とを、あわせて107細胞について、移植細胞と生着細胞の間で発現に有意な差があった2904遺伝子の発現情報をもとにペアプロットを描画した。プロットの結果を
図5に示す。また、PCAでのファクターローディングのランキングを。
図6に示す。
図6に示されているように、第一主成分に寄与の大きな遺伝子がわかる。
【0085】
PCA解析の結果、生着細胞を特徴づけるトランスクリプト74個と、非生着細胞を特徴づけるトランスクリプト27個が得られた。
【0086】
(3)SPマイクロアレイとの比較
非特許文献1で開示されているように、高い生着能を有しているA型精原細胞は、精原幹細胞であると考えられる。上記(1)で得られた生着細胞は、宿主生殖腺に生着した直後の細胞であることから、精原幹細胞(SSC)そのものとしての遺伝子を発現していると考えられる。そこで、精原幹細胞で着目されるSP細胞で有意に発現するマイクロアレイおよび非SP細胞で有意に発現するマイクロアレイ解析の結果と、上記(2)で得られたQuartz-seq解析の結果とを比較した。
【0087】
SP細胞で有意に発現するマイクロアレイおよび非SP細胞で有意に発現するマイクロアレイ解析の結果は、非特許文献2に開示されているものを用いた。ここで、SP(Side Population)細胞とは、細胞膜透過性の核染色試薬であるHoechst33342で染色した際に、染色性の低い細胞集団であり、宿主生殖腺への生着能の高い細胞が濃縮されていることが知られている。これらのマイクロアレイは、具体的には、非特許文献2の濃縮方法に従って、フローサイトメトリー解析で、ヘキストブルーとヘキストレッド展開に基づいて、生着能が高いSP細胞集団と、生着能が低い非SP細胞集団とを分離し、SP細胞と非SP細胞間でのマイクロアレイによる遺伝子発現解析により得られたものである。SP細胞で有意に強く発現するマイクロアレイトランスクリプトは8350個、非SP細胞で有意に強く発現するマイクロアレイトランスクリプト7798個である。
【0088】
SP細胞を用いたマイクロアレイ解析と、Quartz-seq解析とを比較した結果を
図7に示す。その結果、Quartz-seq解析で得られた、生着細胞を特徴づけるトランスクリプトのうち14個がマイクロアレイ解析においてSP細胞で有意に発現する遺伝子と重複し、非生着細胞を特徴づけるトランスリプとのうち8個がマイクロアレイ解析において非SPで有意に発現する遺伝子と重複した。
【0089】
例2:他魚種との配列類似性の解析
上記例1(2)のQuartz-seq解析の結果得られた生着細胞を特徴づけるトランスクリプト74個、非生着細胞を特徴づけるトランスクリプト27個の配列について、ニジマス以外の魚種として、ティラピア、フグ、マグロのcDNA配列に対してBlast検索を行った。ティラピアのcDNA配列はEnsembleのデータベース(ftp://ftp.ensembl.org/pub/release-84/fasta/oreochromis_niloticus/)より、フグのcDNA配列はEnsembleのデータベース(ftp://ftp.ensembl.org/pub/release-84/fasta/tetraodon_nigroviridis/)より、マグロのcDNA配列は中央水産研究所のデータベース(http://nrifs.fra.affrc.go.jp/ResearchCenter/5_AG/genomes/Tuna_DNAmicroarray/index_j.html)より得た。Blast検索はblastn2.2.31を用いた。
【0090】
結果を
図8a~fに示し、まとめを下記表1および2に示す。
【0091】
【0092】
【0093】
表1および2に示されているように、生着細胞を特徴づけるトランスクリプト74個中Blast検索の結果ヒットしたものは約30%、非生着細胞を特徴づけるトランスクリプト27個中Blast検索の結果ヒットしたものは20%弱であった。ヒットした配列の同一性は70%以上であった。
【0094】
配列番号1~74および75~101と、対応するトランスクリプトのシークエンス名を、それぞれ下記表3および4に示す。
【0095】
【0096】
【0097】
例3:qRT-PCRによる解析
上記例1(2)のQuartz-seq解析の結果得られた生着細胞を特徴づけるトランスクリプト74個の配列(配列番号1~74)について、非生着細胞濃縮分画のA型精原細胞(nonSP細胞(非SP細胞))に比べ、生着細胞濃縮分画のA型精原細胞(SP細胞)で高発現しているか否かを確かめるために、また、非生着細胞を特徴づけるトランスクリプト27個の配列(配列番号75~101)について、生着細胞濃縮分画のA型精原細胞(SP細胞)に比べ、非生着細胞濃縮分画のA型精原細胞(非SP細胞)で高発現しているか否かを確かめるために、リアルタイム定量PCR(qRT-PCR、qPCR(quantitative real-time PCR))を行った。
【0098】
qRT-PCRは、以下の方法に従って行った。まず、10ヶ月齢、11ヶ月齢、15ヶ月齢の未成熟のニジマスからそれぞれ、フローサートメーターを用いて、Hayashi, Makoto, et al. "Enrichment of spermatogonial stem cells using side population in teleost." Biology of reproduction 91.1 (2014): 23.の方法に従い、SP細胞と非SP細胞を分取した。分取した細胞から、RNeasy mini Kit(Qiagen)をもちいてRNAを精製したのち、逆転写反応の供することにより、cDNAを合成した。cDNA合成には、oligo-(dT)プライマー(5’-d(T)25VN-3’)と、SuperScript III First-Strand Synthesis System(Thermo Fisher Scientific)を用いた。
【0099】
得られたcDNAを用いて、qRT-PCR法により、遺伝子の発現量を解析した。qRT-PCRは、LightCycler 480 System II(日本ジェネティクス株式会社)と、QuantiTect SYBR Green PCR Kit(Qiagen)を用いておこなった。qRT-PCRで使用した、生着細胞を特徴づけるトランスクリプト74個の配列(配列番号1~74)および非生着細胞を特徴づけるトランスクリプト27個の配列(配列番号75~101)に対応するプライマーを、下記表5および6に示す。また、全てのA型精原細胞で均一に発現することが知られており、発現量がA型精原細胞の生着能を相関がない遺伝子の代表としてvasaを用いた。サンプル間のRNA量の補正には、b-actin遺伝子を用いた。vasaおよびb-actinのプライマーを表7に示す。
【0100】
【0101】
【0102】
PCRの条件は、95℃で15分間処理したのち、「95℃で15秒、60℃で1分」の反応を45回おこなった。データの解析は、Microsoft Excel(Microsoft)を用いて、ΔΔCt法(Livak, Kenneth J., and Thomas D. Schmittgen. "Analysis of relative gene expression data using real-time quantitative PCR and the 2- ΔΔCT method." methods 25.4 (2001): 402-408.)によりおこなった。
【0103】
qRT-PCRの結果に基づいて、それぞれのトランスクリプトのSP細胞と非SP細胞での発現量を比較した。Student’s t-testにより、有意差検定もおこなった。このqRT-PCRでの比較は、blastでの対応付けを行う例1(3)SPマイクロアレイとの比較より、高い精度で解析することができる。また、例1(3)SPマイクロアレイでは、アレイ上にプロットされている限られた遺伝子しか解析できなかったのに対して、qTR-PCRでは、全ての候補遺伝子に対して解析を行うことができる。その結果、生着細胞を特徴づけるトランスクリプト74個の配列(配列番号1~74)に対して、SP細胞と非SP細胞との発現量に差が見られ、非SP細胞に比べてSP細胞で高発現する39個のトランスクリプト(配列番号1、3、4、6、9、11、12、18、21、22、24、25、26、27、28、31、32、33、35、37、38、43、44、45、46、47、49、51、52、53、54、56、57、58、60、63、65、70、73に対応する)が得られた。これらの中でも15個のトランスクリプト(配列番号9、11、18、25、28、32、35、37、38、44、47、49、52、65、70に対応する)では、発現量の差が2倍以上あることが確認されたか、あるいは、発現量の差は2倍以下ではあるがSP細胞で有意に高発現することが認められた。発現量の差が2倍以上あることが確認されたのは、11個のトランスクリプト(配列番号9、11、25、28、35、37、44、47、49、52、65に対応する)である。これらの中でも特に、3個のトランスクリプト(配列番号25、28、47に対応する)では、発現量の差が2倍以上あることが確認され、かつ、SP細胞で有意に高発現することも認められた。
【0104】
また、非生着細胞を特徴づけるトランスクリプト27個の配列(配列番号75~101)に対して、SP細胞と非SP細胞との発現量に差が見られ、SP細胞に比べて非SP細胞で高発現する19個のトランスクリプト(配列番号75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、86、88、91、92、93、95、96、97、98に対応する)が得られた。これらの中でも7個のトランスクリプト(配列番号75、78、81、83、86、88、98に対応する)では、発現量の差が2倍以上あることが確認されたか、あるいは、発現量の差は2倍以下ではあるが非SP細胞で有意に高発現することが認められた。発現量の差が2倍以上あることが確認されたのは、5個のトランスクリプト(配列番号78、81、83、86、88に対応する)である。これらの中でも特に、2個のトランスクリプト(配列番号78、86に対応する)では、発現量の差が2倍以上あることが確認され、かつ、非SP細胞で有意に高発現することも認められた。
【0105】
発現量の差が2倍以上あることが確認され、かつ、有意差も認められた、生着細胞を特徴づける、3個のトランスクリプト(配列番号25(TCONS_00162389)、配列番号28(TCONS_00095523)、配列番号47(TCONS_00101612))および非生着細胞を特徴づける、2個のトランスクリプト(TCONS_00173676、TCONS_00002882)およびvasaについての結果を
図9に示す。
【0106】
例4:免疫組織化学染色
例3のqRT-PCR法により、SP細胞と非SP細胞間で発現に有意な差が認められ、かつ、非SP細胞に比べSP細胞で最も高発現していた配列番号28に対応するトランスクリプトについて、未成熟精巣において、一部のA型精原細胞で高発現しているか否かを確かめるために、免疫組織化学染色をおこなった。まず、配列番号28がコードするタンパク質の一部に対する抗体を作成するために、ペプチド(PKWETDSKISCEQT(配列番号:308))を合成し、モルモットに免疫することで抗血清(GP8023)を得た。
【0107】
免疫組織化学染色を行うために、12.5ヶ月齢の未成熟ニジマスの精巣を4%パラホルムアルデヒドリン酸緩衝液(PFA)で固定し、常法に従って、パラフィン切片を作成した。作成したパラフィン切片を、脱パラフィン、親水処理、HistoVT ONE(ナカライテスク株式会社製)による抗原の賦活化、ブロックエース(雪印メグミルク株式会社製)によるブロッキングに供したのち、1次抗体反応をおこなった。1次抗体反応は、上記の抗体(GP8023)をCan Get Signal Solution B(TOYOBO)を用いて1000倍稀釈したものを用いて、4℃で16時間おこなった。2次抗体反応には、Alexa Fluor 488 conjugated anti-guinea pig IgGをCan Get Signal Solution A(TOYOBO)を用いて200倍稀釈したものを用いて、室温で1時間おこなった。
【0108】
蛍光顕微鏡(オリンパス社製)を用いて配列番号28に対応するトランスクリプトがコードするタンパク質の発現を観察したのち、ヘマトキシリンエオシン(HE)染色に供し、明視野観察により、細胞の形態を観察した。結果を
図10に示す。
【0109】
図10に示されるように、配列番号28がコードするタンパク質の一部に結合する抗体は、未成熟精巣において、一部のA型制限細胞で強いシグナルが認められた。すなわち、配列番号28に対応するトランスクリプトがコードするタンパク質が、未成熟精巣において、一部のA型精原細胞で強く発現することが確認された。この強い発現が認められたA型精原細胞は、宿主生殖腺への生着能を有する生殖細胞であると考えられる。
【配列表】