IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社明治の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-17
(45)【発行日】2022-11-28
(54)【発明の名称】発酵乳及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23C 9/123 20060101AFI20221118BHJP
【FI】
A23C9/123
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018063138
(22)【出願日】2018-03-28
(65)【公開番号】P2019170274
(43)【公開日】2019-10-10
【審査請求日】2021-03-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000006138
【氏名又は名称】株式会社明治
(74)【代理人】
【識別番号】110002675
【氏名又は名称】弁理士法人ドライト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】河合 良尚
(72)【発明者】
【氏名】伊澤 佳久平
(72)【発明者】
【氏名】阿部 朋美
【審査官】戸来 幸男
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-000104(JP,A)
【文献】国際公開第2006/057265(WO,A1)
【文献】国際公開第2006/057266(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/068276(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23C 9/00-9/20
FSTA/CAplus/AGRICOLA/BIOSIS/
MEDLINE/EMBASE(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Google
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳たんぱく質を6.0%以上、前記乳たんぱく質中に乳清たんぱく質を25%以上35%以下含み、発酵乳の平均粒子径が3μm以上30μm以下で、10℃における粘度が3000mPa・s以上である、発酵乳。
【請求項2】
前記粘度が4200mPa・s以上である、請求項1に記載の発酵乳。
【請求項3】
乳清たんぱく質を含む乳たんぱく質を含有した発酵乳ベースを作製する作製工程と、
前記発酵乳ベースに乳酸菌スタータを添加した後に発酵させ、発酵乳のカードを生成する発酵工程と、
均質機を用いて前記カードを破砕し、前記発酵乳の平均粒子径を1μm以上20μm以下にする破砕工程と、
破砕された前記発酵乳を容器内で保持して前記発酵乳を再セット化することで発酵乳を製造する保持工程と、を含み、
前記発酵乳が、前記乳たんぱく質を6.0%以上、前記乳たんぱく質中に前記乳清たんぱく質を25%以上35%以下含み、前記発酵乳の平均粒子径が3μm以上30μm以下で、10℃における粘度が3000mPa・s以上である、発酵乳の製造方法。
【請求項4】
前記粘度が4200mPa・s以上である、請求項3に記載の発酵乳の製造方法。
【請求項5】
前記破砕工程は、
前記カードを、1MPa以上20MPa以下の圧力で均質化する、請求項3又は4に記載の発酵乳の製造方法。
【請求項6】
前記保持工程は、
前記発酵乳を前記容器内で、20℃以上50℃以下で1時間以上、又は、0.5℃以上20℃未満で2時間以上保持する、請求項3~5のいずれか1項に記載の発酵乳の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発酵乳及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発酵乳は、ハード(固形)ヨーグルト、ドリンク(液状)ヨーグルト及びその中間に位置するソフトヨーグルトに分類される。また、発酵乳の製造方法として、乳酸菌スタータを添加した発酵乳ベースを、容器内に充填する前に発酵させる前発酵型の製造方法と、乳酸菌スタータを添加した発酵乳ベースを容器に充填した後に発酵させる後発酵型の製造方法、がある。
【0003】
上述したソフトヨーグルトは、一般的に、乳酸菌スタータを添加した発酵乳ベースを容器内に充填する前に発酵させる、前発酵型の製造方法により製造される。前発酵型の製造方法では、乳酸菌スタータを添加した発酵乳ベースを発酵させて、発酵乳がゲル状になったカードを得、得られたカードを容器内で破砕し、発酵乳の平均粒子径を調整している。
【0004】
この際、食べごたえを重視し、フィルタを用いてカードの破砕強度を低く抑えると、発酵乳の平均粒子径が大きくなり、食感のザラツキの原因となる。発酵乳の組織を滑らかにするためには、カードの破砕強度を高くして、発酵乳の平均粒子径を小さくすることが有効になるが、この場合、発酵乳の粘度が低下してしまい、濃厚な食感等、食べごたえが低下してしまうという問題がある。
【0005】
このような問題点を考慮し、特許文献1では、所定量のゼラチン及びスターチを発酵乳に添加して、ソフトヨーグルトの食感を調整する製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第3811631号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、ゼラチン等の安定剤・増粘剤を添加すると、発酵乳の風味に影響を与える恐れがある。そのため、安定剤・増粘剤を使用せずに、緻密でなめらかな粘性と濃厚な食感を両立した新規な発酵乳の開発が望まれている。
【0008】
そこで、本発明は、安定剤・増粘剤を使用せずに、緻密でなめらかな粘性と濃厚な食感を両立した新規な発酵乳及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る発酵乳は、乳たんぱく質を5.0%以上、前記乳たんぱく質中に乳清たんぱく質を25%以上含み、発酵乳の平均粒子径が3μm以上30μm以下で、10℃における粘度が1000mPa・s以上である。
【0010】
また、本発明に係る発酵乳の製造方法は、乳清たんぱく質を含む乳たんぱく質を含有した発酵乳ベースを作製する作製工程と、前記発酵乳ベースに乳酸菌スタータを添加した後に発酵させ、発酵乳のカードを生成する発酵工程と、前記カードを破砕し、前記発酵乳の平均粒子径を1μm以上20μm以下にする破砕工程と、破砕された前記発酵乳を容器内で保持して前記発酵乳を再セット化することで発酵乳を製造する保持工程と、を含み、
前記発酵乳が、前記乳たんぱく質を5.0%以上、前記乳たんぱく質中に前記乳清たんぱく質を25%以上含み、前記発酵乳の平均粒子径が3μm以上30μm以下で、10℃における粘度が1000mPa・s以上である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の方法によれば、製造過程で所定量の乳清たんぱく質を含有させ、破砕工程及び保持工程を得ることで、発酵乳の平均粒子径が3μm以上30μm以下、10℃における粘度が1000mPa・s以上になり、安定剤・増粘剤を使用せずに、緻密でなめらかな粘性と濃厚な食感を両立した発酵乳を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0013】
<本発明の発酵乳の概要>
本発明の発酵乳は、ハード(固形)ヨーグルトと、ドリンク(液状)ヨーグルトと、の中間に位置するソフトヨーグルトであり、前発酵型の発酵乳である。本発明の発酵乳は、最終製品時に、発酵乳全体に対して乳たんぱく質を5.0%以上含み、かつ、乳たんぱく質中に乳清(ホエイ)たんぱく質を25%以上含む。
【0014】
ここで、本実施形態による乳たんぱく質は、カゼインたんぱく質と乳清たんぱく質を含む。カゼインたんぱく質としては、例えば、α-カゼインや、β-カゼイン等が挙げられ、乳清たんぱく質としては、例えば、α-ラクトアルブミンや、β-ラクトグロブリン、血清アルブミン等が挙げられる。
【0015】
乳たんぱく質は、最終製品である発酵乳内に5.0%以上含有させることで、濃厚な食感を実現させることができ、また、10.0%以下とすることで、風味を良好にすることができる。よって、発酵乳には、乳たんぱく質が、5.0%以上10.0%以下含まれていることが望ましい。
【0016】
より好ましくは、発酵乳全体に対して乳たんぱく質が6.0%以上8.0%以下含まれていることが望ましい。乳たんぱく質を6.0%以上8.0%以下とすることで、一段と濃厚な食感が得られ、かつ風味も一段と良好となり、濃厚な食感と、良好な風味とを両立させることができる。
【0017】
乳清たんぱく質は、最終製品である発酵乳内において、乳たんぱく質中に25%以上含有させることで、発酵乳カード(以下、単にカードとも称する)の硬度を高めることができる。また、乳たんぱく質中の乳清たんぱく質を35%以下とすることで、耐熱性に優れ、かつ風味を良好にすることができる。よって、発酵乳には、乳清たんぱく質が、乳たんぱく質中に25%以上35%以下含まれていることが望ましい。
【0018】
発酵乳内の乳たんぱく質の含有量(質量%)と、乳たんぱく質中における乳清たんぱく質の含有量(質量%)の測定は、ケルダール法により行うことができる。なお、ケルダール法を用いた場合は、窒素・たんぱく質換算係数は6.38とする。
【0019】
また、本発明の発酵乳の平均粒子径は3μm以上30μm以下であることが望ましい。発酵乳の平均粒子径を3μm以上30μm以下とすることで、ザラつきが少なく滑らかな食感にすることができる。
【0020】
より好ましくは、発酵乳の平均粒子径は、5μm以上20μm以下であることが望ましい。最終製品時の発酵乳における平均粒子径を5μm以上20μm以下とすることで、ザラつきが一段と少なく、さらに滑らかな食感を実現できる。
【0021】
さらに、本発明の発酵乳は、10℃における粘度が1000mPa・s以上であることが望ましい。発酵乳の10℃における粘度を1000mPa・s以上とすることで、濃厚でボディ感のある食感を得ることができる。また、発酵乳の10℃における粘度を20000mPa・s以下とすることで、硬すぎず食べやすい食感にすることができる。
【0022】
より好ましくは、発酵乳の10℃における粘度は、3000mPa・s以上10000mPa・s以下であることが望ましい。最終製品時の発酵乳の10℃における粘度を、3000mPa・s以上10000mPa・sとすることで、濃厚な食感と、硬すぎない食べやすい食感とを実現できる。
【0023】
なお、上述した発酵乳には、砂糖、果肉、果汁等が添加されてもよい。発酵乳内に果肉等の固形物が添加されている場合には、上述した平均粒子径及び粘度は、果肉等の固形物を除いた発酵乳部分の平均粒子径及び粘度となる。
【0024】
<本発明の発酵乳の製造方法>
本発明の発酵乳は前発酵型のソフト発酵乳であり、以下の製造方法により製造することができる。まず、原料乳である発酵乳ベースを調製する。発酵乳ベースは、例えば、生乳に、脱脂粉乳や、脱脂濃縮乳、生クリーム、バター、乳たんぱく質濃縮物、原料水等を加え、さらに乳清たんぱく質を所定量加えて混合することにより調製される。本発明において使用される発酵乳ベースは、制限されないものの、無脂乳固形分(SNF)として、好ましくは、発酵乳ベース全体に対するSNFの割合が、10~18%、より好ましくは11~16%であることが望ましい。また、脂肪分(FAT)として、好ましくは、発酵乳ベース全体に対するFATの割合が、0~5.0%、より好ましくは2.0~4.0%であることが望ましい。但し、これらSNF及びFATの含有量は、これらに限定されるものではない。なお、発酵乳ベースに砂糖や、果汁等を添加してもよい。
【0025】
この際、脱脂粉乳や、脱脂濃縮乳、生クリーム、バター、乳たんぱく質濃縮物等の含有量を調整することで、最終製品時の発酵乳における乳たんぱく質の含有量を調整することができる。
【0026】
乳清たんぱく質は、乳清パウダーや、乳清たんぱく質濃縮物(WPC)、乳清たんぱく質分離物(WPI)等を、発酵乳ベースに加えることで含有させることができる。この際、乳清たんぱく質濃縮物等の含有量を調整することで、最終製品時の発酵乳における乳清たんぱく質の含有量(乳たんぱく質中における乳清たんぱく質の割合(%))を調整できる。
【0027】
次いで、作製した発酵乳ベースを、約90℃~120℃の間で60秒以上、加熱殺菌した後、乳酸菌スタータを添加して発酵させ、発酵乳がゲル状になったカードを生成する。乳酸菌スタータとしては、例えば、ブルガリア菌や、サーモフィラス菌等の乳酸菌が用いることができる。なお、発酵条件については従来と同じ条件でよく、例えば、発酵乳ベースを、40℃前後で3~5時間発酵させる。
【0028】
次いで、生成されたカードを破砕することで、平均粒子径が1μm以上20μm以下、10℃における粘度が100mPa・s以上3000mPa・s以下である発酵乳を製造することができる。カード破砕は、例えば、均質機を用いて行われることが望ましい。均質機による破砕は、1MPa以上20MPa以下の圧力でカードを均質化することが望ましい。1MPa以上でカードを均質化することで、ザラツキの少ない滑らかな食感を得ることができ、20MPa以下とすることで、カードに与える過剰なダメージを抑えることができる。
【0029】
本実施形態の場合、均質機を用いて高い破砕強度でカードを破砕することにより、フィルタを用いて破砕する場合に比べて、発酵乳の平均粒子径を一段と小さくすることができ、最終製品時の発酵乳の組織を緻密でなめらかにすることができる。
【0030】
次いで、破砕した発酵乳を容器に充填した後、20℃以上50℃以下で1時間以上、又は、0.5℃以上20℃未満で2時間以上保持する。なお、破砕した発酵乳を充填する容器としては、タンクの他、箱型容器等その他種々の容器を適用できる。乳清たんぱく質が強化された発酵乳を、上記条件で保持することで、熱変性の誘導によりカゼインミセルの表面疎水度が上昇し、カード破砕後に、粒子間距離が縮まり、乳たんぱく質間の疎水性相互作用の発現効果(再セット化)を高めることができる。なお、ここで再セット化とは、破砕された発酵乳の平均粒子径が増大(増径)するとともに、粘度が増大(増粘)して、再びゲル状化する現象をいう。
【0031】
このようにして、本発明による製造方法では、カードを破砕して均質化した後に所定条件で保持することで、再セット化による増径・増粘を誘導することができる。よって、カードを細かく破砕した後でも、平均粒子径が3μm以上30μm以下であって、かつ10℃における粘度が1000mPa・s以上の発酵乳を製造できる。
【0032】
<作用および効果>
以上の構成において、本発明による製造方法では、乳たんぱく質を5%含み、かつ乳たんぱく質中に乳清たんぱく質を25%以上含んだ発酵乳ベースを発酵させることで得られたカードを、均質機により均質化するようにした。これにより、発酵乳の平均粒子径を1μm以上20μm以下とする。そして、破砕された発酵乳を20℃以上50℃以下で1時間以上、又は、0.5℃以上20℃未満で2時間以上保持するようにした。
【0033】
これにより、この製造方法では、均質化後の保持工程によって再セット化による増径・増粘を誘導し、乳たんぱく質を5.0%以上、乳たんぱく質中に乳清たんぱく質を25%以上含み、発酵乳の平均粒子径が3μm以上30μm以下で、10℃における粘度が1000mPa・s以上の発酵乳を製造できる。本発明では、安定剤・増粘剤を使用せずに、緻密でなめらかな粘性と濃厚な食感を両立した発酵乳を実現することができる。
【実施例
【0034】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0035】
<実施例1>
実施例1では、生乳630g、生クリーム10g、脱脂濃縮乳230g、乳たんぱく質濃縮物30g、乳清たんぱく質分離物(WPI)6g、原料水64gを混合し、発酵乳ベース(SNF 15.5%、FAT 3.0%)を調製した。
【0036】
次いで、調製した発酵乳ベースを95℃で、5分間殺菌した後、明治ブルガリアヨーグルトLB81から分離した乳酸菌を10%脱脂粉乳培地で培養した乳酸菌スタータを30g添加して、43℃で3~5時間、pHが4.4になるまで発酵させた。
【0037】
得られた発酵乳のカードを、均質機(イズミフードマシナリ社製)を用いて、135L/hの流量、5MPaの圧力で破砕し、均質化した。次いで、破砕した発酵乳を容器に充填して25℃で1時間保持することで再セット化し、実施例1の発酵乳を製造した。
【0038】
<実施例2>
実施例2は、上述した実施例1と乳たんぱく質の含有量を変えるため、生クリーム、脱脂濃縮乳、及び原料水の含有量を変えた。具体的には、実施例2では、生乳630g、生クリーム13g、脱脂濃縮乳80g、乳たんぱく質濃縮物30g、乳清たんぱく質分離物(WPI)6g、原料水211gを混合し、発酵乳ベース(SNF 11.4%、FAT 3.0%)を調製した。
【0039】
次いで、調製した発酵乳ベースを95℃で、5分間殺菌した後、乳酸菌スタータを30g添加して、43℃で3~5時間、pHが4.4になるまで発酵させた。
【0040】
得られた発酵乳のカードを、上記と同じ均質機を用いて、135L/hの流量、5MPaの圧力で破砕し、均質化した。次いで、破砕した発酵乳を容器に充填して25℃で1時間保持することで再セット化し、実施例2の発酵乳を製造した。
【0041】
<比較例1>
比較例1は、上述した実施例1と同じ発酵乳ベースを用い、上述した実施例1とは破砕の手法を変えた。具体的には、実施例1と同じ発酵乳ベースを用意し、95℃で5分間殺菌した後、乳酸菌スタータを30g添加して、43℃で3~5時間、pHが4.4になるまで発酵させた。
【0042】
そして、得られた発酵乳のカードを、60メッシュのフィルタを用いて破砕した。その後、フィルタを通した発酵乳を容器内において25℃で1時間保持することで再セット化し、比較例1の発酵乳を製造した。
【0043】
<比較例2>
比較例2は、乳清たんぱく質分離物を含有していない発酵乳ベースを用意した。具体的には、生乳630g、生クリーム13g、脱脂濃縮乳80g、乳たんぱく質濃縮物30g、原料水217gを混合し、発酵乳ベース(SNF 11.4%、FAT 3.0%)を調製した。
【0044】
次いで、調製した発酵乳ベースを、95℃で5分間殺菌した後、乳酸菌スタータを30g添加して、43℃で3~5時間、pHが4.4になるまで発酵させた。
【0045】
そして、得られた発酵乳のカードを、上記と同じ均質機を用いて、135L/hの流量、5MPaの圧力で破砕し、均質化した。次いで、粉砕した発酵乳を容器に充填して25℃で1時間保持することで再セット化し、比較例2の発酵乳を調製した。
【0046】
<乳たんぱく質及び乳清たんぱく質の含有量>
実施例1、2及び比較例1、2においてそれぞれ得られた発酵乳について、発酵乳全体に対して乳たんぱく質が占める割合(%)(表1中、「乳たんぱく質」と表記)と、発酵乳全体に対して乳清たんぱく質が占める割合(%)(表1中、「乳清たんぱく質」と表記)と、乳たんぱく質全体に対して乳清たんぱく質が占める割合(%)(表1中、「乳清たんぱく質/乳たんぱく質」と表記)と、をケルダール法により調べたところ、下記の表1に示すような結果が得られた。なお、ケルダール法を用いる際、窒素・たんぱく質換算係数は6.38とした。
【0047】
<平均粒子径>
次に、上述した実施例1、2及び比較例1、2について平均粒子径を測定した。ここで、発酵乳の平均粒子径は、レーザー回折式の粒度分布測定装置SALD-2200(島津製作所製)を用いて測定した。具体的には、発酵乳をイオン交換水で希釈し、この回折・散乱の光強度の分布の最大値が35~75%(絶対値:700~1500)になるように調整した。そして、粒度分布測定装置用のソフトウェアWingSALD IIを用いて、この光強度の分布を解析し、発酵乳中の固形分を構成する粒子の粒度分布を求め、平均粒子径を特定した。その結果、下記の表1に示すような結果が得られた。
【0048】
【表1】
【0049】
表1に示すように、破砕にフィルタを用いた比較例1では、発酵乳の平均粒子径が55μmとなり、20μm以上となった。一方、破砕に均質機を用いた実施例1、2及び比較例2では、発酵乳の平均粒子が20μm以下となり、フィルタを用いた場合よりも細かな粒子となることが確認できた。
【0050】
<粘度>
次に、上述した実施例1、2及び比較例1、2について粘度を測定したところ、上記の表1に示すような結果が得られた。本明細書中、発酵乳の粘度は、回転式B型粘度計(例えば、東機産業社製の「TVB10形粘度計」)を用いて、測定温度10℃で、No.4ローター(コードM23)を測定対象物中に侵入及び回転(60rpm、30秒間)させた後の測定値である。
【0051】
表1の比較例2から、乳たんぱく質全体に対して乳清たんぱく質が占める割合を25%未満にすると、均質機を用いてカードを均質化した後に、再セット化し難く、10℃における粘度が460mPa・sとなり、ほぼ液状になってしまうことが確認できた。一方、実施例1、2に示すように、乳たんぱく質全体に対して乳清たんぱく質が占める割合を25%以上にすることで、均質機を用いても、発酵乳が再セット化されて、10℃のときに1000mPa・s以上の高い粘度が得られることが確認できた。
【0052】
<官能評価試験>
次に、上述した実施例1、2及び比較例1、2の各発酵乳について、10人による官能評価検査を行い、食感について評価を行った。この官能評価試験では、実施例1、2及び比較例1、2の各発酵乳について、それぞれ70gずつ食し、そのときの舌先や口腔内での食感について評価した。その結果を表1に示す。
【0053】
表1に示すように、平均粒子径が55μm、10℃における粘度が3300mPa・sである比較例1の発酵乳の食感は、平均粒子径が30μm超と大きいため、強いザラツキが感じられた。このことから、カード破砕にフィルタを用い、破砕強度を低く抑えると、粘度が高く食べごたえがあるものの、平均粒子径も大きくなるため、食感のザラツキがあることが確認された。
【0054】
一方、カード破砕に均質機を用いてカードに高い破砕強度を与えた比較例2では、平均粒子径が小さく、食感にザラツキを感じず、滑らかさが増すものの、粘度が1000mPa・s未満に低下してしまっているため濃厚感等の食べごたえについて低下してしまった。
【0055】
これに対して、平均粒子径が5μm、10℃における粘度が5690mPa・sの実施例1の発酵乳では、平均粒子径が小さく、食感にザラツキを感じず滑らかであった。さらには、食感が滑らかであるにもかかわらず、粘度も高く、濃厚感等の食べごたえを感じた。平均粒子径が10μm、10℃における粘度が4200mPa・sの実施例2の発酵乳でも、食感は滑らかで、かつ濃厚感等の食べごたえがあった。
【0056】
実施例1、2では、カード破砕について、均質機を用いて高い破砕強度で実施しているものの、乳清たんぱく質を含有させていることで、破砕後の保持工程で再セット化が起こり、増径・増粘を誘発させることができた。その結果、緻密でなめらかな粘性と、濃厚でボディ感のある食感との両立を実現できた。
【0057】
以上より、安定剤・増粘剤を使用せずに、乳清たんぱく質の添加と、高い破砕強度でカード破砕とを行うことによって、緻密で滑らかな粘性と濃厚感を両立した発酵乳を実現できることが確認できた。