(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-17
(45)【発行日】2022-11-28
(54)【発明の名称】吸収性物品
(51)【国際特許分類】
A61F 13/511 20060101AFI20221118BHJP
A61F 13/15 20060101ALI20221118BHJP
【FI】
A61F13/511 200
A61F13/15 144
A61F13/511 110
(21)【出願番号】P 2019080547
(22)【出願日】2019-04-19
【審査請求日】2020-10-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000115108
【氏名又は名称】ユニ・チャーム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100139022
【氏名又は名称】小野田 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100192463
【氏名又は名称】奥野 剛規
(74)【代理人】
【識別番号】100169328
【氏名又は名称】藤本 健治
(72)【発明者】
【氏名】和田 一郎
【審査官】冨江 耕太郎
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/086476(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/100650(WO,A1)
【文献】特開2013-121556(JP,A)
【文献】国際公開第2011/065247(WO,A1)
【文献】特開2011-110122(JP,A)
【文献】特開2017-153915(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F13/15-13/84
A61L15/16-15/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸収体と、前記吸収体よりも肌側に配置された、繊維を含む布帛シートとを備えている吸収性物品であって、
前記布帛シートが、スチレン系エラストマーと、炭化水素と、界面活性剤とを含むゲルローションを含み、
前記ゲルローションの少なくとも一部が、前記繊維を構成する複数の繊維部分に沿って延びている、複数の薄膜部として配置されて
おり、
前記吸収性物品が、肌側面及び非肌側面を有する液透過性シートを含み、前記布帛シートが、前記液透過性シートを構成し、
前記非肌側面に配置された前記ゲルローションの量が、前記肌側面に配置されたゲルローションの量よりも多い、
ことを特徴とする、前記吸収性物品。
【請求項2】
前記複数の薄膜部のそれぞれが、前記布帛シートの平面方向に沿って延びている、請求項1に記載の吸収性物品。
【請求項3】
前記複数の薄膜部のそれぞれが、前記繊維と同一又は前記繊維よりも薄い厚さを有する、請求項1又は2に記載の吸収性物品。
【請求項4】
前記布帛シートが、前記複数の繊維部分を構成する第1繊維部分及び第2繊維部分であって、それらの交点において互いに交差しているものを備えており、前記複数の薄膜部の少なくとも一部が、前記第1繊維部分、前記交点及び前記第2繊維部分にわたって配置されている、請求項1~3のいずれか一項に記載の吸収性物品。
【請求項5】
前記複数の薄膜部の少なくとも一部が、前記第1繊維部分と接する長さaと、前記第2繊維部分と接する長さbと、前記第1繊維部分及び前記第2繊維部分の仮想二等分線と接する長さcとの間に、以下の式(1)及び式(2):
0.5a<c ・・・(1)
0.5b<c ・・・(2)
の関係を有する、請求項4に記載の吸収性物品。
【請求項6】
前記複数の薄膜部の少なくとも一部において、その周縁部の全体が、前記複数の繊維部分上に配置されている、請求項1~5のいずれか一項に記載の吸収性物品。
【請求項7】
前記液透過性シートが、複数の凸部と、複数の凹部とを備えており、前記複数の薄膜部の少なくとも一部が、前記複数の凸部のそれぞれに配置されている、請求項
1に記載の吸収性物品。
【請求項8】
前記複数の凸部のそれぞれに配置された前記ゲルローションの量が、前記複数の凹部のそれぞれに配置された前記ゲルローションの量よりも多い、請求項
7に記載の吸収性物品。
【請求項9】
前記複数の凹部のそれぞれの繊維密度が、前記複数の凸部のそれぞれの繊維密度よりも高い、請求項
7又は
8に記載の吸収性物品。
【請求項10】
前記複数の凸部のそれぞれと、前記複数の凹部のそれぞれとが、所定の方向に交互に配置されている、請求項
7~
9のいずれか一項に記載の吸収性物品。
【請求項11】
前記複数の凸部と前記複数の凹部とが、それぞれ第1の方向に延び、かつ、前記第1の方向と交差する第2の方向に交互に配置されている、請求項
7~
10のいずれか一項に記載の吸収性物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸収性物品に関する。
【背景技術】
【0002】
トップシートの肌側面にゲルローション塗布部を備える吸収性物品が知られている。
例えば、特許文献1には、トップシートと、バックシートと、これらのシートの間に配置された吸収層とを備える吸収性物品であって、着用者の肌と接する領域の少なくとも一部に、スチレン系エラストマー等のゲル化剤と、炭化水素等のローションとを含むゲルローションを有する吸収性物品が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この特許文献1に開示された吸収性物品では、ゲルローションが疎水性を有することから、液体の吸収を阻害しないように配置されているものの、液体の移行性や液戻り抑制の点では依然として改善の余地があった。
そこで、本発明は、ローション機能を発揮することができるとともに、液体移行機能及び液戻り抑制機能に優れる吸収性物品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様(態様1)は、吸収体と、前記吸収体よりも肌側に配置された、繊維を含む布帛シートとを備えている吸収性物品であって、前記布帛シートが、スチレン系エラストマーと、炭化水素と、界面活性剤とを含むゲルローションを含み、前記ゲルローションの少なくとも一部が、前記繊維を構成する複数の繊維部分に沿って延びている、複数の薄膜部として配置されていることを特徴とする、前記吸収性物品である。
【0006】
本態様の吸収性物品は、ゲルローションの少なくとも一部が所定の薄膜部として配置されている。さらに、ゲルローションを構成する炭化水素は、着用者の肌にローション機能を付与するものであり、ゲルローションを構成する界面活性剤は、ゲルローションの薄膜化に寄与し、また、ゲルローションを親水化するものである。そして、親水化されたゲルローションは、体液等の液体との親和性を有し、液体がゲルローションからなる薄膜部に接触しやすくなるとともに、薄膜部に接触した液体に界面活性剤が一部溶解して、液体を吸収体に移行させやすくする液体移行機能を発揮する。
一方、液体が吸収体に移行した後は、ゲルローションからなる薄膜部が、吸収体の液体が着用者側に戻ることを抑制する液戻り抑制機能を発揮する。この液戻り抑制機能は、吸収性物品が液体を繰り返し吸収することにより、薄膜部内の界面活性剤が液体に移動し、薄膜部が疎水化するほど高くなる傾向がある。
以上より、本態様の吸収性物品は、ゲルローションからなる薄膜部によって、着用者の肌にローション機能を付与することができるとともに、液体移行機能及び液戻り抑制機能を発揮することができる。
【0007】
また、本発明の別の態様(態様2)では、上記態様1の吸収性物品において、前記複数の薄膜部のそれぞれが、前記布帛シートの平面方向に沿って延びている。
【0008】
本態様の吸収性物品は、複数の薄膜部のそれぞれが布帛シートの平面方向に沿って延びているので、ゲルローションによるローション機能及び液戻り抑制機能を効率よく発揮することができる。
【0009】
本発明の更に別の態様(態様3)では、上記態様1又は2の吸収性物品において、前記複数の薄膜部のそれぞれが、前記繊維と同一又は前記繊維よりも薄い厚さを有する。
【0010】
本態様の吸収性物品は、複数の薄膜部のそれぞれが所定の厚さを有するので、ゲルローションによるローション機能、液体移行機能及び液戻り抑制機能を効率よく発揮することができる。
【0011】
本発明の更に別の態様(態様4)では、上記態様1~3のいずれかの吸収性物品において、前記布帛シートが、前記複数の繊維部分を構成する第1繊維部分及び第2繊維部分であって、それらの交点において互いに交差しているものを備えており、前記複数の薄膜部の少なくとも一部が、前記第1繊維部分、前記交点及び前記第2繊維部分にわたって配置されている。
【0012】
本態様の吸収性物品は、複数の薄膜部の少なくとも一部が繊維部分と上記所定の関係を持って配置されているため、液戻り抑制機能をより発揮することができる。
【0013】
本発明の更に別の態様(態様5)では、上記態様4の吸収性物品において、前記複数の薄膜部の少なくとも一部が、前記第1繊維部分と接する長さaと、前記第2繊維部分と接する長さbと、前記第1繊維部分及び前記第2繊維部分の仮想二等分線と接する長さcとの間に、以下の式(1)及び式(2):
0.5a<c ・・・(1)
0.5b<c ・・・(2)
の関係を有する。
【0014】
本態様の吸収性物品は、複数の薄膜部の少なくとも一部が繊維部分と上記所定の関係を持って配置されているため、液戻り抑制機能をより発揮することができる。
【0015】
本発明の更に別の態様(態様6)では、上記態様1~5のいずれかの吸収性物品において、前記複数の薄膜部の少なくとも一部においてその周縁部の全体が、前記複数の繊維部分上に配置されている。
【0016】
本態様の吸収性物品は、複数の薄膜部の少なくとも一部において、繊維部分と上記所定の関係を持って配置されているため、液戻り抑制機能をより発揮することができる。
【0017】
本発明の更に別の態様(態様7)では、上記態様1~6のいずれかの吸収性物品において、前記吸収性物品が、肌側面及び非肌側面を有する液透過性シートを含み、前記布帛シートが、前記液透過性シートを構成する。
【0018】
本態様の吸収性物品は、布帛シートが液透過性シートを構成しているため、ゲルローションによるローション機能をより発揮することができる。また、本態様の吸収性物品では、布帛シートが液透過性シートを構成しているため、吸収性物品、すなわち、液透過性シートに到達した液体に対して、液体移行機能を迅速に機能させることができる。さらに、本態様の吸収性物品では、布帛シートが液透過性シートを構成しているため、液体の戻りを、着用者により近い位置で抑制することができるため、液戻り抑制機能をより発揮することができる。
【0019】
本発明の更に別の態様(態様8)では、上記態様7の吸収性物品において、前記非肌側面に配置されたゲルローションの量が、前記肌側面に配置されたゲルローションの量よりも多い。
【0020】
本態様の吸収性物品は、非肌側面に配置されたゲルローションの量が、肌側面に配置されたゲルローションの量よりも多いので、ゲルローションによって、液透過性シートに到達した液体が液透過性シート内に浸透するのを阻害しにくく、液体移行機能をより発揮することができる。また、本態様の吸収性物品では、非肌側面に配置されたゲルローションが、着用者よりも遠い位置において、液戻り抑制機能を発揮することができるので、過度の体圧が加わって、吸収体に吸収された液体が着用者側に戻った場合であっても、戻った液体に着用者が接しにくくなる。
【0021】
本発明の更に別の態様(態様9)では、上記態様7又は8の吸収性物品において、前記液透過性シートが、複数の凸部と、複数の凹部とを備えており、前記複数の薄膜部の少なくとも一部が、前記複数の凸部のそれぞれに配置されている。
【0022】
本態様の吸収性物品は、ゲルローションからなる薄膜部が凸部に配置されているため、液透過性シートに到達した液体に最初に接触する凸部が、上述の液体移行機能を迅速に発揮することができる。また、凸部に配置されている薄膜部が、液体の戻りを、着用者により近い位置で抑制することができるため、液戻り抑制機能をより発揮することができる。
【0023】
本発明の更に別の態様(態様10)では、上記態様9の吸収性物品において、前記複数の凸部のそれぞれに配置された前記ゲルローションの量が、前記複数の凹部のそれぞれに配置された前記ゲルローションの量よりも多い。
【0024】
本態様の吸収性物品は、凸部に配置されたゲルローションの量が、凹部に配置されたゲルローションの量よりも多いので、液透過性シートに到達した液体に最初に接触する凸部において、薄膜部中に存在する界面活性剤を液体に溶解させ、液体を凹部に迅速に移行させるとともに、凸部から凹部に移行した液体が、ゲルローションの量の少ない凹部を迅速に通過して、吸収体に移行することができ、上述の液体移行機能をより発揮することができる。また、凸部に多く配置されている薄膜部が、液体の戻りを、着用者により近い位置で抑制することができるため、液戻り抑制機能をより発揮することができる。
【0025】
本発明の更に別の態様(態様11)では、上記態様9又は10の吸収性物品において、前記複数の凹部のそれぞれの繊維密度が、前記複数の凸部のそれぞれの繊維密度よりも高い。
【0026】
本態様の吸収性物品は、凹部の繊維密度が凸部の繊維密度よりも高いので、凹部が凸部に存在する液体を引き込みやすく、液体移行機能をより発揮することができる。また、吸収体から戻った液体が、凸部よりも凹部に存在しやすくなるため、液戻り抑制機能をより発揮することができる。
【0027】
本発明の更に別の態様(態様12)では、上記態様9~11のいずれかの吸収性物品において、前記複数の凸部のそれぞれと、前記複数の凹部のそれぞれとが、所定の方向に交互に配置されている。
【0028】
本態様の吸収性物品は、凸部と凹部とが、所定の方向に交互に配置されているので、上述の液体移行機能及び液戻り抑制機能をより発揮しやすくなる。
【0029】
本発明の更に別の態様(態様13)では、上記態様9~12のいずれかの吸収性物品において、前記複数の凸部と前記複数の凹部とが、それぞれ第1の方向に延び、かつ、前記第1の方向と交差する第2の方向に交互に配置されている。
【0030】
本態様の吸収性物品は、凸部と凹部とが、所定の方向に交互に配置されているので、上述の液体移行機能及び液戻り抑制機能をより発揮しやすくなる。
【発明の効果】
【0031】
本発明の吸収性物品は、ローション機能を発揮することができるとともに、液体移行機能及び液戻り抑制機能に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係る生理用ナプキン1の平面図である。
【
図2】
図2は、生理用ナプキン1の
図1におけるII-II線に沿った断面の端面図である。
【
図3】
図3は、生理用ナプキン1における液透過性シート2の要部拡大斜視図である。
【
図4】
図4は、液透過性シート2におけるゲルローション6の塗布部分を模式的に示す要部拡大平面図である。
【
図5】
図5は、ゲルローション6からなる薄膜部61を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
(各種定義)
以下、本発明の吸収性物品の好適な実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、本明細書においては、特に断りのない限り、「展開した状態で水平面上に置いた対象物(例えば、吸収性物品、布帛シート等)を、垂直方向の上方側から対象物の厚さ方向に見ること」を、単に「平面視」という。
【0034】
本明細書において用いられる各種方向等については、特に断りのない限り、以下のとおりである。
本明細書において、「長手方向」は、「平面視における縦長の対象物(例えば、吸収性物品等)の長さの長い方向」を指し、「幅方向」は、「平面視における縦長の対象物の長さの短い方向」を指し、「厚さ方向」は、「展開した状態で水平面上に置いた対象物に対して垂直方向」を指し、これらの長手方向、幅方向及び厚さ方向は、それぞれ互いに直交する関係にある。また、本明細書において、「平面方向」は、「平面視における略シート状の対象物(例えば、布帛シート等)の平面が延びる方向」を指し、当該平面方向と厚さ方向とは、互いに直交する関係にある。
さらに、本明細書では、「縦長の対象物の長手方向において、該対象物の長手方向の中央に位置し且つ幅方向に延びる中央軸線CWに対して相対的に近位側」を「長手方向の内方側」といい、「前記縦長の対象物の長手方向において、前記中央軸線CWに対して相対的に遠位側」を「長手方向の外方側」という。同様に、「縦長の対象物の幅方向において、該幅方向の中央に位置し且つ長手方向に延びる中央軸線CLに対して相対的に近位側」を「幅方向の内方側」といい、「前記縦長の対象物の幅方向において、前記中央軸線CLに対して相対的に遠位側」を「幅方向の外方側」という。
また、本明細書では、特に断りのない限り、吸収性物品の厚さ方向において、「吸収性物品の着用時に、着用者の肌面に対して相対的に近位側」を「肌側」といい、「吸収性物品の着用時に、着用者の肌面に対して相対的に遠位側」を「非肌側」という。
【0035】
[吸収性物品]
本発明の吸収性物品は、吸収体と、該吸収体よりも肌側に配置された、繊維を含む布帛シートとを備えている吸収性物品であり、布帛シートが、スチレン系エラストマーと、炭化水素と、界面活性剤とを含むゲルローションを含み、さらに、該ゲルローションの少なくとも一部が、上記繊維を構成する複数の繊維部分に沿って延びている、複数の薄膜部として配置されている。
【0036】
本発明において、ゲルローションを構成する炭化水素は、着用者の肌にローション機能を付与するものであり、ゲルローションを構成する界面活性剤は、ゲルローションの薄膜化に寄与し、また、ゲルローションを親水化するものである。そして、この界面活性剤によって親水化されたゲルローションは、体液等の液体との親和性を有し、液体がゲルローションからなる薄膜部に接触しやすくなるとともに、薄膜部に接触した液体に界面活性剤が一部溶解して、液体を吸収体に移行させやすくする液体移行機能を発揮することができる。
一方、液体が吸収体に移行した後は、ゲルローションからなる薄膜部が、吸収体の液体が着用者側に戻ることを抑制する液戻り抑制機能を発揮することができる。
以上より、本発明の吸収性物品は、ゲルローションからなる薄膜部によって、着用者の肌にローション機能を付与することができるとともに、液体移行機能及び液戻り抑制機能を発揮することができる。
【0037】
本発明において、布帛シートは、吸収体よりも肌側に配置されるものであれば特に限定されず、例えば、一般的な吸収性物品に用いられているトップシートやセカンドシートなどの液透過性シートが挙げられる。なお、布帛の種類も特に限定されず、例えば、不織布や織布、編布等が挙げられる。
【0038】
また、本発明が適用される吸収性物品の種類も特に限定されず、後述する実施形態の生理用ナプキンのほか、パンティーライナー、(軽)失禁パッド、使い捨ておむつ等の様々な吸収性物品に適用することができる。
【0039】
以下、本発明の一実施形態として、生理用ナプキンに適用した例を用いて、本発明の吸収性物品を更に詳細に説明する。
【0040】
本発明の「吸収性物品」の一例である生理用ナプキン1は、
図1に示すように、平面視にて、長手方向L及び幅方向Wを有し、さらに、長手方向Lの両端部が長手方向Lの外方側に向かって円弧を描くように突出する縦長の外形形状を有していて、さらに、長手方向Lの略中央部には、生理用ナプキン1の幅方向Wの両端部がそれぞれ幅方向Wの外方側に向かって略台形状に延出してなる、一対のフラップ部を有している。
【0041】
さらに、生理用ナプキン1は、
図2に示すように、厚さ方向Tにおいて、相対的に肌側T
1に位置し且つ後述する凸部21及び凹部22を有する特定の凹凸構造を備えた不織布からなる液透過性シート2と;相対的に非肌側T
2に位置する疎水性不織布又は樹脂フィルムからなる液不透過性シート3と;これら両シートの間に位置する吸液性及び液保持性を有する吸収体4と;を主な構成部材として備えている。
なお、生理用ナプキン1は、液透過性シート2の肌側T
1において幅方向Wの両端部に位置する一対のサイドシート5、5と;液不透過性シート3の非肌側T
2の表面に配置された着衣固定用粘着部(不図示)と;を構成部材として更に備えている。
【0042】
そして、本実施形態の生理用ナプキン1は、
図2~
図4に示すように、液透過性シート2が、スチレン系エラストマーと、炭化水素と、界面活性剤とを含むゲルローション6を含み、さらに、そのゲルローション6の少なくとも一部は、液透過性シート2の構成繊維2Fの複数の繊維部分に沿って延びる複数の薄膜部61として、配置されている。
すなわち、本実施形態では、上述の布帛シートが液透過性シート2を構成している。このように、上述の布帛シートが液透過性シート2を構成していると、ゲルローション6によるローション機能をより効果的に発揮することができる上、液透過性シート2に供給された体液等の液体に対して、液体移行機能を迅速に機能させることができる。さらに、本実施形態では、吸収体4に移行された液体の戻りを、液透過性シート2におけるゲルローション6の薄膜部61によって、着用者により近い位置で抑制することができるため、液戻り抑制機能をより効果的に発揮することができる。
【0043】
以下、本発明の吸収性物品に用い得る各種部材について、上述の生理用ナプキン1を用いて更に詳細に説明する。
【0044】
[液透過性シート]
生理用ナプキン1において、液透過性シート2は、
図1及び
図2に示すように、一対のサイドシート5、5と厚さ方向Tに重複する部分以外は、着用者の肌に直に接触し得る位置に配置されており、着用者から排出された経血等の体液が透過し得る液透過性のシート状部材によって構成されている。
【0045】
液透過性シート2は、
図1及び
図2に示すように、少なくとも吸収体4の肌側T
1の表面の全体を覆うように、長手方向L及び幅方向Wに延在しており、生理用ナプキン1の外形形状と同様の縦長の外形形状を有している。なお、本発明において、液透過性シートの外形形状及びサイズは、吸収体の肌側の表面が露出しないものであれば、各種用途等に応じた任意の外形形状及びサイズのものを採用することができる。
【0046】
本発明において、液透過性シートとして用い得るシート状部材は、吸収性物品の液透過性シートとして用い得る諸特性(例えば、液透過性や肌触り、柔軟性、強度等)を有するものであれば特に制限されず、例えば、エアスルー不織布、スパンボンド不織布、ポイントボンド不織布などの不織布を好適に用いることができる。なお、不織布は、親水化処理が施されていてもよい。
【0047】
また、不織布の構成繊維も特に制限されず、例えば、セルロース系繊維や親水化処理を施した熱可塑性樹脂繊維(例えば、親水化処理を施したオレフィン系樹脂やポリエステル系樹脂等)などの親水性繊維が挙げられる。これらの繊維は単独で用いても、2種類以上の繊維を併用してもよい。
【0048】
さらに、不織布の坪量や厚みも特に制限されず、例えば、25g/m2~50g/m2の坪量や0.5mm~3.0mmの厚みが挙げられる。
なお、不織布の坪量は、JIS L 1906の5.2に従って測定することができ、また、不織布の厚みは、レーザー変位計(例えば、キーエンス株式会社製 高精度2次元レーザー変位計LJ-Gシリーズ(型式:LJ-G030))を使用して、非接触方式で測定することができる。なお、不織布の厚みの測定は、異なる5箇所の測定対象部分について測定し、その平均値を採用する。
【0049】
そして、上述の実施形態においては、液透過性シート2は、
図1~
図3に示すように、厚さ方向Tにおいて肌側T
1に突出し且つ第1の方向(本実施形態においては、生理用ナプキン1の長手方向Lに対応する方向)に延びる複数の凸部21と、厚さ方向Tにおいて非肌側T
2に窪み且つ上記凸部21と並行して第1の方向に延びる複数の凹部22とが、上記第1の方向と交差する第2の方向(本実施形態においては、生理用ナプキン1の幅方向Wに対応する方向)に沿って交互に配置された凹凸構造を有している。
液透過性シート2がこのような凹凸構造を有していると、液透過性シート2上に供給された体液を上述の凹部22に沿って第1の方向(すなわち、生理用ナプキン1の長手方向L)へ拡散させながら、液透過性シート2の非肌側T
2へ浸透させることができる。さらに、本実施形態においては、ゲルローション6が上記凸部21おいて生理用ナプキン1の長手方向Lに沿って配置されているため、当該ゲルローション6の作用により体液が長手方向Lに沿って拡散しやすく、さらに、凹部22において、凸部21から移動した体液が厚さ方向Tに透過しやすくなっている。
【0050】
なお、本発明において、液透過性シートの凸部及び凹部が延びる第1の方向は、上述の実施形態の態様(すなわち、吸収性物品の長手方向に対応する方向)に限定されず、吸収性物品の幅方向に対応する方向等の任意の方向を採用することができる。また、上述の実施形態では、凸部及び凹部が液透過性シートの全体に配置されているが、本発明においてはこのような配置形態に限定されず、凸部及び凹部は、液透過性シートの所定部分のみに配置されていてもよい。この場合、凸部及び凹部は、少なくとも吸収体と厚さ方向に重複する領域に配置されることが好ましい。
【0051】
本明細書において、液透過性シートの凸部と凹部は、次のようにして区画することができる。すなわち、液透過性シートを非肌側の表面が下方側となるようにして水平面上に置いたときに、水平面からの高さが最も高くなる部分を凸部の頂部とし、水平面からの高さが最も低くなる部分を凹部の底部として、液透過性シート全体の厚みdを2等分する位置(すなわち、頂部及び底部からの厚さ方向の距離がそれぞれd/2となる位置)に広がる仮想基準水平面よりも上方側に突出する部分が「凸部」であり、下方側に窪む部分が「凹部」である。
【0052】
なお、これら凸部及び凹部は、液透過性シートの第2の方向に沿った断面を走査型電子顕微鏡等の拡大観察手段により拡大観察して、その写真又は画像から判別することができる。
【0053】
また、上述の実施形態においては、液透過性シート2は、
図2及び
図3に示すように、非肌側T
2の表面が肌側T
1の凸部21及び凹部22に対応した凹部及び凸部を備えた凹凸構造を有しており、凸部21の内部構造が中空となる構造を有している。本発明の吸収性物品において、液透過性シートの非肌側の表面構造は、このような構造に限定されず、例えば、凹凸のない平坦な構造(すなわち、凸部の内部構造が中実となる構造)を有していてもよいが、液透過性(特に、繰り返し供給される体液の透過性)等の点から、液透過性シートの非肌側の表面構造は、上述の実施形態のように、肌側の凸部及び凹部に対応した凹部及び凸部を備えた凹凸構造(すなわち、凸部の内部構造が中空となる構造)を有していることが好ましい。
【0054】
さらに、上述の実施形態においては、液透過性シート2は、凹部22において相対的に凸部21よりも繊維密度が高い高密度部(不図示)を有している。液透過性シートが凹部にこのような高密度部を有していると、液透過性シートに供給された体液が毛細管現象によって高密度部に引き込まれやすくなるため、体液を吸収体に移行させやすくすることができる。
【0055】
ここで、液透過性シートの各部分(凸部、凹部等)における密度(繊維密度)の大小の判断は、当該密度の大小を比較する対象部分(例えば、1mm×1mmのサイズ)のそれぞれを走査型電子顕微鏡等の拡大観察手段により20倍~100倍程度の倍率で拡大観察し、単位面積当たりの繊維の本数等から目視で判断することができる。
【0056】
液透過性シートの凸部及び凹部の具体的な構造は特に制限されず、例えば、凸部の高さ(すなわち、上記の仮想基準水平面から頂部までの厚さ方向の距離)は0.1mm~3.0mmの範囲内であり、凹部の深さ(すなわち、上記の仮想基準水平面から底部までの厚さ方向の距離)は0.1mm~3.0mmの範囲内であり、さらに、複数の凸部のピッチ(すなわち、第2の方向に隣り合う2つの凸部の頂部中心同士の間隔)は1.0mm~10.0mmの範囲内である。
【0057】
また、凸部の幅(すなわち、凸部の第2の方向の長さが最大となる部分の第2の方向の長さ)は、例えば0.5mm~5.0mmの範囲内であり、凹部の幅(すなわち、凹部の第2の方向の長さが最大となる部分の第2の方向の長さ)は、例えば0.5mm~5.0mmの範囲内である。なお、これら凸部の幅及び凹部の幅は、凸部及び凹部のそれぞれにおいて同じ幅であっても異なる幅であってもよい。
【0058】
なお、凸部及び凹部のピッチや幅は、無加圧状態における不織布を走査型電子顕微鏡等の拡大観察手段により拡大観察して、その平面画像又は断面画像から測定することができる。さらに、凸部及び凹部の高さや深さ、厚み等は、上述のピッチや幅と同様に走査型電子顕微鏡等の拡大観察手段により拡大観察して測定してもよいが、レーザー変位計を用いて非接触方式で測定してもよい。
【0059】
液透過性シートに上記のような凹凸構造を形成する方法は、特に制限されず、例えば、不織布を形成する前の繊維ウェブの一方の面に対して、連続的に気体(例えば、エア等)を吹き付ける気体吹付け法や、上下に配置された一対の賦形ロールを用いるギア加工法、エンボス加工法、真空成形又は圧縮成形を利用する方法などの任意の賦形方法を採用することができる。中でも、凹凸構造を賦形しつつ、凹部に繊維密度の高い高密度部を形成しやすいという点から、気体吹付け法やギア加工法、エンボス加工法が好ましい。
【0060】
なお、液透過性シートは、一対のサイドシートの非肌側面と接合されていても、吸収体の肌側面又は非肌側面と接合されていても、液不透過性シートの肌側面と接合されていても、或いは、そのいずれとも接合されていてもよい。なお、接合方法も、特に制限されず、ホットメルト型接着剤や熱融着等の任意の接合手段を採用することができる。
【0061】
そして、上述の実施形態に係る生理用ナプキン1においては、液透過性シート2が、スチレン系エラストマーと、炭化水素と、界面活性剤とを含むゲルローション6を含み、さらに、そのゲルローション6の少なくとも一部が、
図3に示すように、液透過性シート2の構成繊維2Fを構成する複数の繊維部分に沿って延びている、複数の薄膜部61を形成するように配置されている。
【0062】
[ゲルローション]
上述のとおり、スチレン系エラストマーと、炭化水素と、界面活性剤とを含むゲルローション6は、吸収体4よりも肌側T1に位置する液透過性シート2に配置されて、その少なくとも一部が液透過性シート2の構成繊維2Fの複数の繊維部分に沿って延びる複数の薄膜部61を形成することにより、液透過性シート2に上述のローション機能、液体移行機能及び液戻り抑制機能を付与するものである。
【0063】
かかるゲルローション6は、液透過性シート2の表面(本実施形態においては非肌側面)から内部に浸透しており、その浸透した部分において、液透過性シート2の複数の構成繊維間に
図4に示すようなゲルローション6からなる薄膜部61が形成されている。
【0064】
ゲルローション6は、当該ゲルローション6に含まれる界面活性化剤が炭化水素に作用してその表面に配列することで、炭化水素の表面張力が低下するとともに、粘度が増加するため、液透過性シート2の構成繊維間に薄膜部61を形成しやすくなっている。
【0065】
そして、液透過性シート2には複数の薄膜部61が形成されており、その形態は、薄膜部61の形成に関与する構成繊維の本数や配置、繊維間距離等に応じて様々である。
【0066】
例えば、本実施形態では、
図4に示すように、複数の薄膜部61のうちの一部の薄膜部61は、その周縁部の全体が複数の繊維部分上に配置されており、また、別の一部の薄膜部61は、その周縁部の一部が複数の繊維部分上に配置されている。複数の薄膜部の少なくとも一部が前者のように配置されていると、薄膜部の周縁部の全体が複数の繊維部分上に配置されることによって、上述の液戻り抑制機能をより効果的に発揮することができる。
【0067】
このように、本発明においては、
図5に示すように、液透過性シート(布帛シート)が、構成繊維の複数の繊維部分を構成する第1繊維部分2F
1及び第2繊維部分2F
2であって、それらの交点CPにおいて互いに交差しているものを備えていて、上記複数の薄膜部61の少なくとも一部が、第1繊維部分2F
1、交点CP及び第2繊維部分2F
2にわたって配置されていることが好ましく、さらに、第1繊維部分2F
1と接する長さaと、第2繊維部分2F
2と接する長さbと、第1繊維部分2F
1及び第2繊維部分2F
2の仮想二等分線L
Fと接する長さcとの間に、以下の式(1)及び式(2)の関係を有していることが好ましい。
0.5a<c ・・・(1)
0.5b<c ・・・(2)
複数の薄膜部61の少なくとも一部が繊維部分とこのような所定の関係を持って配置されていると、上述の液戻り抑制機能をより効果的に発揮することができる。
【0068】
また、複数の薄膜部は、それぞれ液透過性シート(布帛シート)の構成繊維と同一又は構成繊維よりも薄い厚さを有していることが好ましい。複数の薄膜部のそれぞれがこのような厚さを有していると、ゲルローションによるローション機能、液体移行機能及び液戻り抑制機能を効率よく発揮することができる。
【0069】
上述の実施形態では、ゲルローション6は、
図2及び
図3に示すように、液透過性シート2の非肌側面に配置されて厚さ方向Tに浸透しており、液透過性シート2の非肌側面に配置されたゲルローションの量が、肌側面に配置されたゲルローションの量よりも多くなっている。本発明の吸収性物品においては、ゲルローションは、液透過性シート(布帛シート)の肌側面及び非肌側面のいずれの面に配置されていてもよいが、上述の実施形態のように、液透過性シートの非肌側面に配置されたゲルローションの量が、肌側面に配置されたゲルローションの量よりも多いと、ゲルローションによって、液透過性シートに到達した体液が液透過性シート内に浸透するのを阻害しにくく、上述の液体移行機能をより確実に発揮することができる上、液透過性シートの非肌側面に配置されたゲルローションが、着用者よりも遠い位置において上述の液戻り抑制機能を発揮することができるので、過度の体圧が加わって、吸収体に吸収された液体が着用者側に戻った場合であっても、戻った体液を着用者に接しにくくすることができる。
【0070】
また、上述の実施形態では、
図2及び
図3に示すように、液透過性シート2が、複数の凸部21と、複数の凹部22とを備えていて、複数の薄膜部61の少なくとも一部が、複数の凸部21のそれぞれに配置されている。このようにゲルローション6からなる薄膜部61が液透過性シート2の凸部21に配置されていると、液透過性シート2に到達した体液に最初に接触する凸部21が、上述の液体移行機能を迅速に発揮することができる。さらに、凸部21に配置されている薄膜部61が、体液の戻りを着用者により近い位置で抑制することができるため、上述の液戻り抑制機能をより効果的に発揮することができる。
【0071】
さらに、上述の実施形態では、
図2及び
図3に示すように、ゲルローション6が液透過性シート2における複数の凸部21のそれぞれに配置されており、当該複数の凸部21のそれぞれに配置されたゲルローション6の量が、複数の凹部22のそれぞれに配置されたゲルローション6の量よりも多くなっている。本発明の吸収性物品においては、ゲルローションは、液透過性シート(布帛シート)の複数の凸部及び凹部のいずれに配置されていてもよいが、上述の実施形態のように、複数の凸部のそれぞれに配置されたゲルローションの量が複数の凹部のそれぞれに配置されたゲルローションの量よりも多くなっていると、液透過性シートに到達した体液に最初に接触する凸部において、薄膜部中に存在する界面活性剤を体液に溶解させて、当該体液を凹部に迅速に移行させることができるとともに、凸部から凹部に移行した体液がゲルローションの量の少ない凹部を迅速に通過して、吸収体に移行することができるので、上述の液体移行機能をより確実に発揮することができる。また、凸部に多く配置されている薄膜部が、体液の戻りを着用者により近い位置で抑制することができるので、上述の液戻り抑制機能をより効果的に発揮することができる。
【0072】
また、上述の実施形態では、液透過性シート2は、複数の凹部22のそれぞれの繊維密度が、複数の凸部21のそれぞれの繊維密度よりも高くなっており、複数の凹部22のそれぞれに上述の高密度部が形成されている。このように凹部22の繊維密度が凸部21の繊維密度よりも高くなっていると、凹部22が毛細管現象により凸部21に存在する液体を引き込みやすく、上述の液体移行機能をより確実に発揮することができる。また、吸収体4から戻った体液が、凸部21よりも凹部22に存在しやすくなるため、上述の液戻り抑制機能をより効果的に発揮することができる。
【0073】
また、上述の実施形態では、液透過性シート2は、複数の凸部21のそれぞれと、複数の凹部22のそれぞれとが所定の方向(すなわち、第2の方向)に交互に配置されているので、上述の液体移行機能及び液戻り抑制機能をより発揮しやすくなっている。
さらに、複数の凸部21と複数の凹部22とが、それぞれ第1の方向(生理用ナプキン1の長手方向Lに対応する方向)に延びているので、液透過性シート2に供給された体液を上記第1の方向に拡散させやすく、特に、繰り返し供給される体液の拡散性に優れ、上述の液体移行機能及び液戻り抑制機能をより一層発揮しやすくなっている。
【0074】
なお、本発明において、ゲルローションからなる複数の薄膜部の配置形態は、特に制限されないが、複数の薄膜部は、それぞれ液透過性シート(布帛シート)の平面方向に沿って延びていることが好ましい。複数の薄膜部のそれぞれが液透過性シート(布帛シート)の平面方向に沿って延びていると、ゲルローションによるローション機能及び液戻り抑制機能を効率よく発揮することができる。
【0075】
以下、本発明に用い得る、スチレン系エラストマーと、炭化水素と、界面活性剤とを含むゲルローションの各種構成分について詳細に説明する。
【0076】
(スチレン系エラストマー)
ゲルローションに用いられるスチレン系エラストマーとしては、例えば、ハードセグメントとソフトセグメントとを有するものが挙げられる。上記ハードセグメントとしては、例えばスチレン系のハードセグメントが挙げられ、上記ソフトセグメントとしては、例えばオレフィン系のソフトセグメントが挙げられる。
【0077】
さらに、上記スチレン系のハードセグメントとしては、例えば、ポリスチレンやポリα-メチルスチレン、スチレンとα-メチルスチレンとのコポリマーなどが挙げられる。
【0078】
さらに、上記オレフィン系のソフトセグメントとしては、例えば、ポリオレフィン(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブチレン、ポリブタジエン等)のホモポリマーやポリオレフィンのコポリマー、これらの水素付加物などが挙げられる。
【0079】
また、スチレン系エラストマーにおけるハードセグメントとソフトセグメントの配置形態は、特に限定されないが、1種又は複数種のソフトセグメントからなる分子鎖の両末端に、それぞれ上記のハードセグメントが配置されていることが好ましい。
【0080】
なお、スチレン系エラストマーは、ハードセグメントの相互作用により形成される複数の凝集ドメインと、該複数の凝集ドメインを連結するソフトセグメントとによって網目状のネットワーク構造が形成されるため、弾性体としての機能を発現するとともに、体温付近(約35℃~約40℃)の温度条件下においてもゲル状態を維持することができる。また、このような網目状のネットワーク構造は、炭化水素及び界面活性剤を放出し得るように保持する機能を併せ持つ。
【0081】
かかるスチレン系エラストマーの具体例としては、例えば、スチレン-エチレン-プロピレンブロック共重合体(SEP)、スチレン-エチレン-プロピレン-スチレンブロック共重合体(SEPS)、スチレン-エチレン-ブチレン-スチレンブロック共重合体(SEBS)、スチレン-エチレン-エチレン-プロピレン-スチレンブロック共重合体(SEEPS)などのスチレン系ブロック共重合体が挙げられる。
【0082】
スチレン系エラストマーの重量平均分子量(MW)は、特に限定されないが、好ましくは5,000以上500,000以下、より好ましくは10,000以上400,000以下、更に好ましくは50,000以上300,000以下である。重量平均分子量が5,000以上であると、スチレン系エラストマーがゲル構造を保持しやすくなり、重量平均分子量が500,000以下であると、ゲルローションが固くなりすぎず、吸収性物品の着用時に、着用者に違和感や不快感を引き起こしにくくすることができる。
【0083】
なお、重量平均分子量は、テトラヒドロフラン(THF)を移動相として、以下の条件でゲル濾過クロマトグラフィー(GPC)測定を行い、ポリスチレン換算により求めることができる。
<GPC測定条件>
機種:(株)日立ハイテクノロジーズ製 高速液体クロマトグラム Lachrom Elite
カラム:昭和電工(株)製 SHODEX KF-804
溶媒:THF
流量:1.0mL/分
打込み量:100μL
検出:RI(示差屈折計)
【0084】
また、スチレン系エラストマーは、好ましくは10質量%以上50質量%以下のスチレン系ブロック成分と、50質量%以上90質量%以下のオレフィン系ブロック成分とを含み、より好ましくは15質量%以上40質量%以下のスチレン系ブロック成分と、60質量%以上85質量%以下のオレフィン系ブロック成分とを含み、更に好ましくは18質量%以上35質量%以下のスチレン系ブロック成分と、65質量%以上82質量%以下のオレフィン系ブロック成分とを含む。
【0085】
スチレン系ブロック成分の量が10質量%以上であると、上述の凝集ドメインを形成するハードセグメント(すなわち、スチレン系ブロック成分)の量を一定以上確保できるので、スチレン系エラストマーが網目状のネットワーク構造を形成しやすくなる。一方、スチレン系ブロック成分の量が50質量%以下であると、炭化水素等を保持するオレフィン系ブロック成分の量を一定以上確保できるので、保持できる炭化水素等の量を多くすることができ、また、ハードセグメント(スチレン系ブロック成分)により形成される凝集ドメインの量を一定以下に制限できるので、液透過性シート(布帛シート)に適用した後のゲルが硬くなりすぎず、吸収性物品の着用時に、着用者に違和感や不快感を引き起こしにくくすることができる。
【0086】
ゲルローションに含まれるスチレン系エラストマーの配合量は、特に限定されないが、スチレン系エラストマーと炭化水素との合計100質量部に対して、好ましくは1質量部以上30質量部以下であり、より好ましくは2質量部以上20質量部以下であり、更に好ましくは3質量部以上15質量部以下である。スチレン系エラストマーの配合量が1質量部以上であると、ゲルローションが十分な弾性を有するものとなるため、吸収性物品の着用時に体圧が掛かっても、ゲルローションの形状が維持しやすくなる。また、スチレン系エラストマーの配合量が30質量部以下であると、ゲルローションの弾性が高くなりすぎず、着用者に違和感や不快感を引き起こしにくくすることができる。
【0087】
(炭化水素)
ゲルローションに用いられる炭化水素は、常温において一定の流動性を有するものであり、吸収性物品の着用者の肌に接することで、着用者の肌にローション機能を付与するものである。
かかる炭化水素は、特に限定されず、直鎖、分岐又は環状の構造を有していてもよく、飽和又は不飽和結合を有していてもよい。そのような炭化水素の例としては、オレフィン系炭化水素(二重結合を1つ含むアルケン)、パラフィン系炭化水素(二重結合も三重結合も含まないアルカン)、アセチレン系炭化水素(三重結合を1つ含むアルキン)、二重結合及び/又は三重結合を2つ以上含む炭化水素などの鎖状炭化水素;芳香族炭化水素、脂環式炭化水素などの環状炭化水素が挙げられる。
【0088】
このような炭化水素の中でも、鎖状炭化水素や脂環式炭化水素を用いることが好ましく、鎖状炭化水素を用いることがより好ましく、パラフィン系炭化水素、オレフィン系炭化水素又は二重結合を2つ以上含む炭化水素(但し、三重結合を含まない)を用いることが更に好ましく、パラフィン系炭化水素を用いることが特に好ましい。なお、上記鎖状炭化水素には、直鎖状炭化水素及び分岐鎖状炭化水素が含まれる。
【0089】
また、炭化水素は、40℃における動粘度が、0.01mm2/s以上80mm2/s以下であることが好ましく、重量平均分子量が1,000未満であることが好ましい。
なお、動粘度は、JIS K 2283:2000の「5.動粘度試験方法」に従って、キャノンフェンスケ逆流形粘度計を用いて、40℃の試験温度で測定する。
【0090】
なお、ゲルローションに含まれる炭化水素は、界面活性剤とともに、一定量、ゲルローションの表面にブリードアウトする。このゲルローションの表面にブリードアウトした炭化水素が、体液とともに移行して吸収体に吸収されると、ゲルローションの表面には新たな一定量の炭化水素がブリードアウトする。このようにして、ゲルローションは、一定量の炭化水素を継続的に放出することができる。
【0091】
ゲルローションに含まれる炭化水素の配合量は、特に限定されないが、スチレン系エラストマーと炭化水素との合計100質量部に対して、好ましくは70質量部以上99質量部以下、より好ましくは80質量部以上98質量部以下、更に好ましくは85質量部以上97質量部以下である。
【0092】
また、ゲルローションが炭化水素以外のローション成分を含む場合は、全ローション成分(すなわち、炭化水素及びその他のローション成分)の合計質量に対して、炭化水素を、好ましくは50質量%以上100質量%以下、より好ましくは60質量%以上100質量%以下、更に好ましくは70質量%以上100質量%以下の割合で含み得る。
【0093】
(界面活性剤)
ゲルローションに用いられる界面活性剤は、上述のゲルローションの薄膜化に寄与し、また、ゲルローションを親水化するものである。特に、この界面活性化剤は、炭化水素に作用してその表面に配列することで、炭化水素の表面張力を低下させるとともに、粘度を増加させるため、液透過性シート(布帛シート)の構成繊維間にゲルローションの薄膜部を形成しやすくすることができる。
【0094】
かかる界面活性化剤としては、例えば、カチオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤などが挙げられる。これらの界面活性剤の中でも、ノニオン系界面活性剤を用いることが好ましい。このようなノニオン系界面活性剤を用いると、界面活性剤がゲルローションから持続的に徐放しやすくなるとともに、ゲルローションの肌への刺激性も低減することができるという利点がある。
【0095】
ノニオン系界面活性剤としては、特に限定されないが、例えば、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルアリールエーテル等のエーテル系界面活性剤;ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレン脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレンポリオール脂肪酸エステル等のエステル系界面活性剤などが挙げられる。これらのノニオン系界面活性剤の中でも、薄膜部の形成のしやすさ等の点から、エステル系界面活性剤を用いることが好ましい。
【0096】
また、ゲルローションに用いられる界面活性剤は、7以上20以下のHLB値を有するものが好ましく、10以上18以下のHLB値を有するものがより好ましい。界面活性剤が7以上20以下のHLB値を有していると、ブリードアウトした界面活性剤が液透過性シート(布帛シート)の液拡散性(特に、体液が繰り返し供給された時の液拡散性)を向上させることができるという利点がある。
【0097】
このような7以上20以下のHLB値を有する界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル等のエーテル系界面活性剤;ポリグリセリン脂肪酸エスエル、ショ糖脂肪酸エステル、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル(例えば、ポリオキシエチレングリセリンモノステアリン酸エステル、ポリオキシエチレングリセリントリイソステアリン酸エステル等)、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル(例えば、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウリン酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレイン酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタンテトラオレイン酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタンテトラオレイン酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタンテトラステアリン酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタンテトライソステアリン酸エステル等)、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル等のエステル系界面活性剤などが挙げられる。
また、上記に例示したエステル系界面活性剤以外のエステル系界面活性剤としては、例えば、東洋紡(株)製のセラメーラ(マンノシルエリスリトールの水酸基に脂肪酸がエステル結合した糖脂質構造を有するバイオサーファクタント)などを用いることもできる。
なお、エステル系界面活性剤が脂肪酸エステル構造を有する場合、7以上20以下のHLB値を実現するためには、脂肪酸の炭素数が、8以上20以下であることが好ましく、10以上18以下であることがより好ましく、12以上16以下であることが更に好ましい。
【0098】
なお、本明細書において、HLB値は、界面活性剤の水と油への親和性の程度を表す値であり、「界面活性剤の合成と其応用」(小田,寺村,槙書店(1957),501頁)による次式を用いて算出される値をいう。
HLB値=[(Σ無機性値)/(Σ有機性値)]×10
HLB値は0から20までの値を取り、0に近いほど親油性が高く、20に近いほど親水性が高くなる。
【0099】
ゲルローションに含まれる界面活性剤の配合量は、特に限定されないが、薄膜部の形成のしやすさや液拡散性などの点から、ゲルローションの質量(100質量%)に対して、好ましくは1質量%以上20質量%以下、より好ましくは2質量%以上15質量%以下、更に好ましくは2質量%以上10質量%以下である。
【0100】
(その他の成分)
本発明に用いられるゲルローションは、本発明の効果を阻害しない範囲内で、スチレン系エラストマー、炭化水素及び界面活性化剤以外の、その他の成分を含んでいてもよい。
そのようなその他の成分としては、例えば、2,6-ジ-t-ブチル-p-クレゾール(BHT)、ブチル化ヒドロキシアニソール(BHA)、没食子酸プロピル等の酸化防止剤;方沸石、菱沸石、輝沸石、ナトロライト、束沸石、ソモソナイト等の天然ゼオライト;合成ゼオライトなどが挙げられる。
【0101】
[吸収体]
上述の実施形態に係る生理用ナプキン1において、吸収体4は、
図2に示すように、液透過性シート2と液不透過性シート3の間に配置されて、液透過性シート2を厚さ方向Tに透過してきた体液を吸収して保持し得る、所定の吸液性及び液保持性を備えた吸収性部材によって形成されている。
かかる吸収体4は、
図1に示すように、平面視にて、生理用ナプキン1における長手方向Lの広範囲にわたって延在し、さらに、長手方向Lの略中央部分が幅方向Wの内方側に向かって細く括れた縦長の外形形状を有している。なお、吸収体の外形形状は、このような態様のものに限定されず、各種用途等に応じた任意の外形形状(例えば、長方形、楕円形、砂時計形等)及びサイズのものを採用することができる。
【0102】
本発明において、吸収体として用い得る吸収性部材は、少なくとも体液等の液体を吸収して保持し得るものであれば特に制限されず、当分野において公知の任意の吸収性部材を採用することができる。そのような吸収性部材の例としては、吸収性材料によって構成される少なくとも一つの吸収コアを、親水性を有するティッシュ等のコアラップシートで覆ったものなどが挙げられる。ここで、吸収コアを構成する吸収性材料としては、例えば、親水性繊維や高吸収性ポリマーなどが挙げられ、更に具体的には、粉砕パルプ、コットン、レーヨン、アセテート等のセルロース系繊維;アクリル酸ナトリウムコポリマー等の高吸収性ポリマーからなる粒状物;及びこれらを任意に組み合わせた混合物などが挙げられる。
【0103】
吸収体の厚みや坪量等も特に制限されず、所望の吸収性能や柔軟性等に応じた任意の厚みや坪量等を採用することができる。
【0104】
なお、上述の生理用ナプキン1においては、吸収体4は、肌側面において液透過性シート2と、非肌側面において液不透過性シート3と、それぞれホットメルト型接着剤等の任意の接合手段により接合されている。
【0105】
[液不透過性シート]
上述の実施形態に係る生理用ナプキン1において、液不透過性シート3は、
図2に示すように、吸収体4の非肌側T
2に配置されて、着用者から排出された体液の透過を防止し、当該体液が着用者の下着等に漏れ出ないように機能する、液不透過性のシート状部材によって形成されている。
かかる液不透過性シートは、体液等の液体を透過しないものの、所定の通気性を備えていることが好ましい。液不透過性シートがこのような通気性を備えていると、吸収体から放出される湿気(具体的には、吸収体に吸収及び保持された体液等に由来する湿気)を、液不透過性シートを介して吸収性物品の外部へ放出しやすくなるため、吸収性物品の内部或いは吸収性物品と着用者の肌面との間に湿気を溜まりにくくすることができる。
【0106】
本発明において、液不透過性シートとして用い得る液不透過性のシート状部材は、吸収性物品の液不透過性シートとして用い得る諸特性(例えば、液不透過性、柔軟性、強度等)を有するものであれば特に制限されず、例えば、任意の疎水性の熱可塑性樹脂繊維(例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)等のポリオレフィン系繊維、ポリエチレンテレフタレート(PET)等のポリエステル系繊維、芯鞘型等の各種複合繊維など)によって形成された疎水性不織布;PEやPP等の疎水性の熱可塑性樹脂によって形成された有孔又は無孔の樹脂フィルム;該樹脂フィルムに不織布を貼り合わせた積層体;SMS不織布等の積層不織布などの任意の液不透過性シートを用いることができる。
【0107】
液不透過性シートの厚みや坪量、外形形状等も特に制限されず、所望の防漏性能や通気性、強度等に応じた任意の厚みや坪量、外形形状等を採用することができる。
【0108】
本発明の吸収性物品は、上述した実施形態等に限定されることなく、本発明の目的、趣旨を逸脱しない範囲内において、適宜組み合わせや代替、変更等が可能である。なお、本明細書において、「第1」、「第2」等の序数は、当該序数が付された事項を区別するためのものであり、各事項の順序や優先度、重要度等を意味するものではない。
【符号の説明】
【0109】
1 生理用ナプキン
2 液透過性シート
21 凸部
22 凹部
3 液不透過性シート
4 吸収体
5 サイドシート
6 ゲルローション
61 薄膜部