(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-17
(45)【発行日】2022-11-28
(54)【発明の名称】繊維複合強化材料用のパルプ繊維原料を製造する方法、繊維複合強化材料用のパルプ繊維原料、繊維複合強化材料、ペレット、フィルム、繊維、不織布
(51)【国際特許分類】
D21C 5/02 20060101AFI20221118BHJP
D21H 11/18 20060101ALI20221118BHJP
【FI】
D21C5/02
D21H11/18
(21)【出願番号】P 2020547025
(86)(22)【出願日】2020-08-31
(86)【国際出願番号】 JP2020032925
(87)【国際公開番号】W WO2021040046
(87)【国際公開日】2021-03-04
【審査請求日】2021-02-10
(31)【優先権主張番号】P 2019158853
(32)【優先日】2019-08-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000115108
【氏名又は名称】ユニ・チャーム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100139022
【氏名又は名称】小野田 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100192463
【氏名又は名称】奥野 剛規
(74)【代理人】
【識別番号】100169328
【氏名又は名称】藤本 健治
(72)【発明者】
【氏名】小西 孝義
(72)【発明者】
【氏名】大橋 直人
(72)【発明者】
【氏名】八巻 孝一
(72)【発明者】
【氏名】栗田 範朋
【審査官】川口 裕美子
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-005733(JP,A)
【文献】国際公開第2018/131352(WO,A1)
【文献】特開2018-168513(JP,A)
【文献】特開2012-207133(JP,A)
【文献】特開2019-131725(JP,A)
【文献】特開2017-066273(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0146701(US,A1)
【文献】特開2012-193353(JP,A)
【文献】特開2014-101604(JP,A)
【文献】国際公開第2020/141589(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/096013(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D21C 5/02
D21H 11/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
処理すべきパルプ繊維から、セルロースナノファイバーを含む繊維複合強化材料用のパルプ繊維原料を製造する方法であって、
前記処理すべきパルプ繊維を含む処理液にオゾン含有ガスを供給することにより、前記処理すべきパルプ繊維から、8.0質量%未満のヘミセルロース含有率を有する前記パルプ繊維原料を形成する、パルプ繊維原料形成ステップ、
を含むことを特徴とする、前記方法。
【請求項2】
前記パルプ繊維原料が、0.10質量%以下のリグニン含有率を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記処理すべきパルプ繊維が、使用済の衛生用品に含まれるパルプ繊維である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記パルプ繊維原料及び樹脂から前記繊維複合強化材料を製造する、繊維複合強化材料製造ステップをさらに含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記繊維複合強化材料製造ステップにおいて、前記パルプ繊維原料と、前記樹脂とを混合し、前記パルプ繊維原料に由来するセルロースナノファイバーを、前記樹脂中に分散させる、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記パルプ繊維原料と、前記樹脂とを乾式で混合する、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
セルロースナノファイバーを含む繊維複合強化材料用のパルプ繊維原料であって、
前記パルプ繊維原料が、パルプ繊維を含む使用済の衛生用品に由来し、
前記パルプ繊維原料が、8.0質量%未満のヘミセルロース含有率を有する、
ことを特徴とする、前記パルプ繊維原料。
【請求項8】
前記パルプ繊維原料が、0.10質量%以下のリグニン含有率を有する、請求項7に記載のパルプ繊維原料。
【請求項9】
請求項7
又は8のいずれか一項に記載のパルプ繊維原料に由来するセルロースナノファイバーと、樹脂とを含む繊維複合強化材料。
【請求項10】
請求項
9に記載の繊維複合強化材料を含むペレット。
【請求項11】
請求項
9に記載の繊維複合強化材料を含むフィルム。
【請求項12】
請求項
9に記載の繊維複合強化材料を含む繊維。
【請求項13】
請求項
9に記載の繊維複合強化材料を含む不織布。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、処理すべきパルプ繊維から、セルロースナノファイバーを含む繊維複合強化材料用のパルプ繊維原料を製造する方法、セルロースナノファイバーを含む繊維複合強化材料用のパルプ繊維原料、並びパルプ繊維原料に由来するセルロースナノファイバーを含む繊維複合強化材料、当該繊維複合強化材料を含むペレット、フィルム、繊維及び不織布に関する。
【背景技術】
【0002】
使用済の使い捨ておむつ等の衛生用品をリサイクルするための技術が検討されている。
例えば、特許文献1には、主に衛生用品として再利用可能なリサイクルパルプを製造する方法が開示されている。具体的には、特許文献1には、パルプ繊維及び高吸収性ポリマーを含む使用済の衛生用品からパルプ繊維を回収し、衛生用品として再利用可能なリサイクルパルプを製造する方法であって、該方法が、使用済の衛生用品を、多価金属イオンを含む水溶液又はpHが2.5以下の酸性水溶液中で、使用済の衛生用品に物理的な力を作用させることによって、使用済み衛生物品をパルプ繊維とその他の素材に分解する工程、分解工程において生成したパルプ繊維とその他の素材の混合物からパルプ繊維を分離する工程、及び分離されたパルプ繊維をpHが2.5以下のオゾン含有水溶液で処理する工程を含むことを特徴とする方法が記載されている。
【0003】
特許文献1において、パルプ繊維をオゾン含有水溶液で処理する理由は、分離されたパルプ繊維には少なからず高吸収性ポリマーが残存しており、当該高吸収性ポリマーを酸化分解し、可溶化させることにより、パルプ繊維から除去するためである。特許文献1では、パルプ繊維をオゾン含有水溶液で処理する方法として、処理槽にオゾン含有水溶液を入れ、そのオゾン含有水溶液の中に分離されたパルプ繊維を入れる方法が開示されている。上記方法では、処理の際、オゾン含有水溶液を適度に攪拌して水流を作り出すことが好ましく、容器に入れた水溶液の中にオゾンガスを吹き込み、オゾンガスの泡の上昇によって、オゾン含有水溶液中に水流を発生させてもよい。
【0004】
また、セルロース系繊維を含む繊維複合強化材料が検討されている。例えば、特許文献2には、成形機にて成形される成形品の原料として用いられる樹脂組成物において、主剤樹脂と繊維状フィラーとを含有し、前記繊維状フィラーの繊維長方向の端部が解繊されており、その解繊部位は、前記繊維状フィラー全体の繊維長の5%以上、50%以下であって、前記繊維状フィラーの解繊部位における繊維径は、解繊されていない部位における繊維径の1/1000以上、1/10以下であって、前記繊維状フィラーの解繊されていない部位におけるアスペクト比は、5以上、1000以下であって、かつ、前記繊維状フィラーの弾性率は、前記主剤樹脂の弾性率よりも大きく、その差は、20GPa以内であることを特徴とする複合樹脂組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2016-881号公報
【文献】特開2018-115254号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1では、「リサイクルパルプ繊維」を『パルプ繊維』そのものとして再利用することは記載されているが、特許文献1には、リサイクルパルプ繊維を原料、特に、セルロースナノファイバーを含む繊維複合強化材料用のパルプ繊維原料として用いることは記載されていない。
【0007】
衛生用品には、吸収体等にパルプ繊維が用いられることが多く、当該パルプ繊維は、針葉樹に由来するものが多く使われている。針葉樹に由来するパルプ繊維には、約50~約60質量%のセルロースに加え、約10~約25質量%のヘミセルロースが含まれていることが知られている。ヘミセルロースは、植物の細胞壁に多く含まれている。従って、パルプ繊維を、そのまま、セルロースナノファイバーを含む繊維複合強化材料用のパルプ繊維原料として用いると、パルプ繊維からセルロースナノファイバーが形成されず、繊維複合強化材料の性能が不十分である場合があった。
【0008】
なお、衛生用品の分野では、パルプ繊維は、吸収体等に用いられており、パルプ繊維に含まれるヘミセルロースは、(i)衛生用品の機能(例えば、吸収性)を阻害しにくい、(ii)パルプ繊維に弾性を付与する、(iii)製造されるパルプ繊維の収率に寄与する等の観点から、ヘミセルロースは、パルプ繊維から除去されていないのが一般的である。
【0009】
また、特許文献2に記載の複合樹脂組成物では、繊維状フィラーの繊維長方向の端部が解繊されているものであるが、逆に言えば、繊維状フィラーの全体が開繊、例えば、セルロースナノファイバー化されているものではなく、繊維複合強化材料として改良の余地があった。
従って、本開示は、ヘミセルロース含有率が低く、セルロースナノファイバーを含む繊維複合強化材料を簡易に形成することができるパルプ繊維原料を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本開示者らは、処理すべきパルプ繊維から、セルロースナノファイバーを含む繊維複合強化材料用のパルプ繊維原料を製造する方法であって、上記処理すべきパルプ繊維を含む処理液にオゾン含有ガスを供給することにより、上記処理すべきパルプ繊維から、8.0質量%未満のヘミセルロース含有率を有する上記パルプ繊維原料を形成する、パルプ繊維原料形成ステップを含むことを特徴とする方法を見出した。
【発明の効果】
【0011】
本開示のパルプ繊維原料を製造する方法は、ヘミセルロース含有率が低く、セルロースナノファイバーを含む繊維複合強化材料を簡易に形成することができるパルプ繊維原料を製造可能である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本開示の方法に係る実施の形態を示すフローチャートである。
【
図2】
図1のオゾン処理工程の装置の構成例を示す概略図である。
【
図3】
図1のオゾン処理工程の装置の他の構成例を示す概略図である。
【
図4】
図1のオゾン処理工程の装置のさらに他の構成例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本開示は、具体的には以下の態様に関する。
[態様1]
処理すべきパルプ繊維から、セルロースナノファイバーを含む繊維複合強化材料用のパルプ繊維原料を製造する方法であって、
上記処理すべきパルプ繊維を含む処理液にオゾン含有ガスを供給することにより、上記処理すべきパルプ繊維から、8.0質量%未満のヘミセルロース含有率を有する上記パルプ繊維原料を形成する、パルプ繊維原料形成ステップ、
を含むことを特徴とする、上記方法。
【0014】
上記製造方法では、処理すべきパルプ繊維から、所定のヘミセルロース含有率を有するパルプ繊維原料を製造するので、パルプ繊維原料に含まれるヘミセルロースが、パルプ繊維原料から、セルロースナノファイバーを形成することを阻害しにくい。従って、上記製造方法は、セルロースナノファイバーを含む繊維複合強化材料を簡易に形成することができるパルプ繊維原料を製造することができる。
【0015】
また、上記製造方法により製造される、所定のヘミセルロース含有率を有するパルプ繊維原料は、当該パルプ繊維原料と、溶融した樹脂とを混合する際に、ヘミセルロースが熱変性しにくく、ひいては上記パルプ繊維原料から形成される繊維複合強化材料が、ヘミセルロースの熱変性物に由来する着色を含みにくい。
【0016】
[態様2]
上記パルプ繊維原料が、0.10質量%以下のリグニン含有率を有する、態様1に記載の方法。
【0017】
パルプ繊維には、セルロースに加え、リグニンが含まれている場合があることが知られている。例えば、衛生用品に用いられることが多い針葉樹には、20~30質量%のリグニンが含まれていることが知られている。
上記製造方法では、処理すべきパルプ繊維から、所定のリグニン含有率を有するパルプ繊維原料を製造するので、パルプ繊維原料に含まれるリグニンが、パルプ繊維原料から、セルロースナノファイバーを形成することを阻害しにくい。従って、上記製造方法は、セルロースナノファイバーを含む繊維複合強化材料を簡易に形成することができるパルプ繊維原料を製造することができる。
【0018】
また、上記製造方法により製造される、所定のリグニン含有率を有するパルプ繊維原料は、当該パルプ繊維原料と、溶融した樹脂とを混合する際に、リグニンが熱変性しにくく、ひいては上記パルプ繊維原料から形成される繊維複合強化材料が、リグニンの熱変性物に由来する着色を含みにくい。
【0019】
[態様3]
上記処理すべきパルプ繊維が、使用済の衛生用品に含まれるパルプ繊維である、態様1又は2に記載の方法。
上記製造方法では、処理すべきパルプ繊維が、使用済の衛生用品に含まれるパルプ繊維であるため、パルプ繊維原料形成ステップにおいて、使用済の衛生用品に含まれるパルプ繊維を、洗浄、殺菌、漂白等しつつ、そして上記処理液が高吸水性ポリマーを含む場合には、高吸水性ポリマーを分解し、可溶化させつつ、セルロースナノファイバーを含む繊維複合強化材料を簡易に形成することができるパルプ繊維原料を製造することができる。
【0020】
[態様4]
上記パルプ繊維原料及び樹脂から上記繊維複合強化材料を製造する、繊維複合強化材料製造ステップをさらに含む、態様1~3のいずれか一項に記載の方法。
上記製造方法では、処理すべきパルプ繊維から、繊維複合教科材料を効率よく製造することができる。
上記製造方法には、(i)処理すべきパルプ繊維からセルロースナノファイバーを形成し、当該セルロースナノファイバーを樹脂と混合する方法、(ii)パルプ繊維原料と、樹脂とを混合し、パルプ繊維原料に由来するセルロースナノファイバーを、樹脂中に分散させる方法、(iii)処理すべきパルプ繊維からセルロースファイバーを形成し、当該セルロースファイバーと、樹脂とを混合し、パルプ繊維原料に由来するセルロースナノファイバーを、樹脂中に分散させる方法等が含まれる。
【0021】
[態様5]
上記繊維複合強化材料製造ステップにおいて、上記パルプ繊維原料と、上記樹脂とを混合し、上記パルプ繊維原料に由来するセルロースナノファイバーを、上記樹脂中に分散させる、態様4に記載の方法。
【0022】
上記製造方法では、繊維複合強化材料製造ステップにおいて、パルプ繊維原料と、樹脂とを混合し、パルプ繊維原料に由来するセルロースナノファイバーを、樹脂中に分散させるので、処理すべきパルプ繊維から、繊維複合教科材料を効率よく製造することができる。
【0023】
[態様6]
上記パルプ繊維原料と、上記樹脂とを乾式で混合する、態様5に記載の方法。
上記製造方法では、パルプ繊維原料と、樹脂とを乾式で混合する。従って、湿式法等の公知の方法に従って、パルプ繊維原料から、一度、セルロースナノファイバーを形成し、次いで、セルロースナノファイバーと、樹脂とを混合する方法等と比較し、処理すべきパルプ繊維から、繊維複合教科材料を効率よく製造することができる。
【0024】
[態様7]
セルロースナノファイバーを含む繊維複合強化材料用のパルプ繊維原料であって、
上記パルプ繊維原料が、8.0質量%未満のヘミセルロース含有率を有する、
ことを特徴とする、上記パルプ繊維原料。
【0025】
上記パルプ繊維原料は、所定のヘミセルロース含有率を有するので、パルプ繊維原料と、溶融した樹脂とを混合し、繊維複合強化材料を形成する際にヘミセルロースが熱変性しにくく、ひいては上記パルプ繊維原料から形成される繊維複合強化材料が、ヘミセルロースの熱変性物に由来する着色を含みにくい。
【0026】
[態様8]
上記パルプ繊維原料が、0.10質量%以下のリグニン含有率を有する、態様7に記載のパルプ繊維原料。
上記パルプ繊維原料は、所定のリグニン含有率を有するので、パルプ繊維原料と、溶融した樹脂とを混合し、繊維複合強化材料を形成する際にリグニンが熱変性しにくく、ひいては上記パルプ繊維原料から形成される繊維複合強化材料が、リグニンの熱変性物に由来する着色を含みにくい。
【0027】
[態様9]
上記パルプ繊維原料が、パルプ繊維を含む使用済の衛生用品に由来する、態様7又は8のいずれか一項に記載のパルプ繊維原料。
上記パルプ繊維原料は、パルプ繊維を含む使用済の衛生用品に由来するので、セルロースナノファイバーを含む繊維複合強化材料を簡易に形成することができる。
【0028】
[態様10]
態様7~9のいずれか一項に記載のパルプ繊維原料に由来するセルロースナノファイバーと、樹脂とを含む繊維複合強化材料。
上記繊維複合強化材料は、セルロースナノファイバーの分散性が高く、その性能、例えば、強度に優れる。
【0029】
[態様11]
態様10に記載の繊維複合強化材料を含むペレット。
上記ペレットは、セルロースナノファイバーを含む繊維複合強化材料を簡易に形成することができる。
【0030】
[態様12]
態様10に記載の繊維複合強化材料を含むフィルム。
上記フィルムは、上記繊維複合強化材料を含むので、その性能、例えば、強度に優れる。
【0031】
[態様13]
態様10に記載の繊維複合強化材料を含む繊維。
上記繊維は、上記繊維複合強化材料を含むので、その性能、例えば、強度に優れる。
【0032】
[態様14]
態様10に記載の繊維複合強化材料を含む不織布。
上記不織布は、上記繊維複合強化材料を含むので、その性能、例えば、強度に優れる。
【0033】
処理すべきパルプ繊維から、セルロースナノファイバーを含む繊維複合強化材料用のパルプ繊維原料を製造する方法(以下、単に「パルプ繊維原料の製造方法」と称する場合がある)について説明する。
【0034】
本開示では、処理すべきパルプ繊維は、ヘミセルロースを8.0質量%以上含むものであれば、特に制限されず、例えば、ヘミセルロースを、好ましくは8.5質量%以上、より好ましくは9.0質量%以上、さらに好ましくは9.5質量%以上、そしてさらにいっそう好ましくは10.0質量%以上含む。
本開示では、処理すべきパルプ繊維は、リグニンを、好ましくは0.5質量%以上、より好ましくは1.0質量%以上、さらに好ましくは2.0質量%以上、さらにいっそう好ましくは3.0質量%以上、そしてさらにいっそう好ましくは4.0質量%以上含む。
【0035】
上記処理すべきパルプ繊維の例としては、例えば、木材パルプ(例えば、針葉樹パルプ、広葉樹パルプ)、架橋パルプ、非木材パルプ等が挙げられる。
また、上記処理すべきパルプ繊維は、使用済の衛生用品に含まれるパルプ繊維であってもよい。
【0036】
上記使用済の衛生用品とは、使用者によって使用された衛生用品であって、使用者の液体の排泄物を吸収した状態の衛生用品、使用されたが排泄物を吸収していない衛生用品、未使用で廃棄された衛生用品等を含む。
【0037】
なお、本明細書では、処理すべきパルプ繊維における「処理すべき」の用語は、処理前のパルプ繊維と、処理後のパルプ繊維原料とを区別するための修飾語で有り、それ以外の意図を有するものではない。
また、本明細書では、「処理すべきパルプ繊維」として、使用済のパルプ繊維、特に、使用済の衛生用品に由来するパルプ繊維の実施形態を挙げており、そこでは、「処理すべきパルプ繊維」を、単に『パルプ繊維』と称する場合が有る。
【0038】
衛生用品の構成例について説明する。衛生用品は、例えば、液透過性シートと、液不透過性シートと、液透過性シートと液不透過性シートとの間に配置された吸収体とを備える。衛生用品としては、例えば、紙おむつ、尿取りパッド、生理用ナプキン、ベッドシート、ペットシート等が挙げられる。
【0039】
液透過性シートの構成部材としては、例えば、不織布又はフィルムが挙げられ、具体的には、液透過性の不織布、液透過孔を有する合成樹脂フィルム、それらの複合シート等が挙げられる。液不透過性シートの構成部材としては、例えば、不織布又はフィルムが挙げられ、具体的には、液不透過性の不織布、液不透過性の合成樹脂フィルム、それらの複合シート等が挙げられる。
【0040】
吸収体の構成部材としては、吸収コア(例えば、パルプ繊維及び高吸水性ポリマー)と、コアラップとが挙げられる。パルプ繊維としては、衛生用品として使用可能であれば特に制限はないが、例えば、セルロース系繊維が挙げられる。セルロース系繊維としては、例えば、木材パルプ(例えば、針葉樹パルプ、広葉樹パルプ)、架橋パルプ、非木材パルプ等が挙げられる。高吸水性ポリマー(Super Absorbent Polymer:SAP)としては、衛生用品として使用可能であれば特に制限はないが、例えば、ポリアクリル酸塩系、ポリスルホン酸塩系、無水マレイン酸塩系のものが挙げられる。
【0041】
吸収体の一方の面及び他方の面は、それぞれ液透過性シート及び液不透過性シートに接着剤を介して接合されている。平面視で、液透過性シートのうちの、吸収体を囲むように、吸収体の外側に延出した部分(周縁部分)は、液不透過性シートのうちの、吸収体を囲むように、吸収体の外側に延出した部分(周縁部分)と接着剤を介して接合されている。従って、吸収体は液透過性シートと液不透過性シートとの接合体の内部に包み込まれている。接着剤としては、衛生用品として使用可能であり、後述の温水により軟化等して接合力が低下するものであれば特に制限はないが、例えば、ホットメルト型接着剤が挙げられる。ホットメルト型接着剤としては、例えば、スチレン-エチレン-ブタジエン-スチレン、スチレン-ブタジエン-スチレン、スチレン-イソプレン-スチレン等のゴム系主体、又はポリエチレン等のオレフィン系主体の感圧型接着剤又は感熱型接着剤が挙げられる。
【0042】
図1は、使用済の衛生用品を構成材料に分離する材料分離方法を示すフローチャートである。この材料分離方法は、使用済の衛生用品を、フィルムと、不織布と、パルプ繊維と、高吸水性ポリマーとに分離する方法である。この材料分離方法は、前処理工程S11と、分解工程S12と、分離工程S13とを備える。
前処理工程S11は、使用済の衛生用品を水で膨潤させる。分解工程S12は、膨潤した使用済の衛生用品に物理的な衝撃を与えて、使用済の衛生用品を、フィルム、不織布、コアラップ等と、吸収コア(例えば、パルプ繊維及び高吸水性ポリマー)とに分解する。分離工程S13は、フィルムと、不織布と、パルプ繊維と、高吸水性ポリマーとを分離する。
【0043】
なお、パルプ繊維及び高吸水性ポリマーの混合物(パルプ繊維含有物)を、何らかの方法で予め取得している場合には、前処理工程S11、分解工程S12及び分離工程S13におけるパルプ繊維原料の製造方法より前の工程は不要である。以下、各工程について説明する。
【0044】
前処理工程S11は、複数の使用済の衛生用品を、外部から回収等したときの状態のまま、すなわち、破壊、切断等を行なわず、丸められた状態又は折り畳まれた状態であればその状態のまま、かつ吸収体の高吸水性ポリマーの不活化もせず、水を吸収させて膨潤させる。本実施の形態では、使用済の衛生用品に温水を吸収させて膨潤させるか、又は、水を吸収させ膨張させた後に吸収された水を加熱して温水にする。温水とは、常温(20℃±15℃(5~35℃):JIS Z 8703)よりも高い温度の水をいう。
【0045】
通常、使用済の衛生用品に実際に吸収されている液状の排泄物の量は、衛生用品が吸収可能な最大吸収量と比べて非常に小さい(例えば、最大吸収量の約10~20質量%)。本実施の形態では、前処理工程S11において、使用済の衛生用品を温水に浸すことで、使用済の衛生用品の最大吸収量に近い量(例えば、最大吸収量の80質量%以上)まで水を吸収させる。又は、使用済の衛生用品を常温の水に浸し、使用済の衛生用品の最大吸収量に近い量まで水を吸収させた後、温水の温度まで使用済の衛生用品全体を加熱する。それにより、使用済の衛生用品を、温水又は常温の水(以下、単に「温水」ともいう。)で非常に膨張した状態にできる。その結果、使用済の衛生用品には非常に高い内圧が生じることになる。なお、水を温水にする目的は、主に、後述されるように接着剤の接着力を弱めるためである。
【0046】
ここで、使用済の衛生用品は、当初、液不透過性シートを外側にして(液透過性シートを内側に隠して)丸められた状態又は折り畳まれた状態にある場合、温水に浸されることで、使用済の衛生用品の吸収体が温水中で温水を吸収して膨張する。その結果、使用済の衛生用品の内圧が高まり、使用済の衛生用品に外側へ向かって開こうとする力が働いて、丸められた状態又は折り畳まれた状態の使用済の衛生用品が外側へ向かって開いて、概ね平らな状態になる。すなわち、使用済の衛生用品を温水中において平坦に展開された状態にできる。このとき、使用済の衛生用品は、吸収体が多量の温水を吸収して非常に膨張しているので、その表面、すなわち、吸収体を包み込んでいる液透過性シート及び液不透過性シートのいずれかの箇所が容易にはち切れそうな状態になっている。すなわち、前処理工程S11により、使用済の衛生用品を、いずれかの表面が裂けて切れそうな状態にできる。なお使用済の衛生用品が、当初から平坦に展開された状態の場合、その状態のまま表面のいずれかの箇所が容易にはち切れそうな状態になる。この状態は、使用済の衛生用品が破断等されている場合には生じ得ない。
【0047】
さらに、使用済の衛生用品が温水に浸され、及び/又は温水を吸収することで、各構成部材間の接合に使用されている接着剤(例えば、ホットメルト接着剤)を温水の熱により軟化させ、接着剤の接合力を低下できる。例えば、液透過性シートの周縁部分と液不透過性シートの周縁部分とを接合する接着剤を、温水の熱で軟化させ、その接着剤の接合力を低下できる。さらに、液透過性シートと吸収体とを接合する接着剤及び液不透過性シートと吸収体とを接合する接着剤を、温水の熱で軟化させ、それらの接着剤の接合力を低下できる。
【0048】
このように前処理工程S11では、使用済の衛生用品の吸収体の膨張により、使用済の衛生用品の表面のいずれかの箇所がはち切れそうな状態、かつ、接着剤の接合力が低下された状態、を生じさせることができる。使用済の衛生用品がこのような状態になることで、後述の分解工程において、使用済の衛生用品を確実に分解することができる。
【0049】
前処理工程S11における温水の温度は、使用済の衛生用品の接着剤が軟化できる限り特に限定されないが、例えば、60℃以上が挙げられ、好ましくは70℃以上且つ98℃以下である。温水の温度を70℃以上とすることで、構成部材間を接合する接着剤を温水の熱でより軟化でき、接着剤の接合力をより低下できる。温水の温度を98℃以下とすることで、温水が確実に液体として存在するので、使用済の衛生用品に温水をより確実に吸収させることができる。吸収体の膨張及び温水の熱により、使用済の衛生用品の表面がはち切れそうな状態かつ接着剤の接合力が低下された状態をより確実に発生させることができる。温度の測定については、使用済の衛生用品を浸した状態の温水の温度を測定するか、又は、最大吸収量に近い量まで水を吸収した使用済の衛生用品の表面から5mm内側の温度(温度センサの先端を挿入)を測定する。
【0050】
また、使用済の衛生用品の再利用においては、構成材料の殺菌は極めて重要である。温水の温度を70℃以上とすることで、使用済の衛生用品を殺菌(消毒)する効果を奏することも可能となるので好ましい。
【0051】
前処理工程S11における処理時間、すなわち、使用済の衛生用品を温水に浸している時間は、使用済の衛生用品の吸収体が膨張できる限り特に限定されないが、例えば、2~60分であり、好ましくは4~30分である。時間が短すぎると吸収体が十分に膨張できず、長すぎると時間が無駄になり処理コストが不必要に増加する。
【0052】
また、前処理工程S11における吸収体の温水の吸収量は、後述の分解工程にて使用済の衛生用品を分解できる程度に吸収体が膨張できれば特に制限はないが、例えば、使用済の衛生用品の最大吸収量の80質量%以上が挙げられ、好ましくは90質量%以上である。それにより、使用済の衛生用品を、水で目一杯に膨張した状態にすることができる。その結果、使用済の衛生用品の吸収体に極めて高い内圧を生じさせることができる。
【0053】
ただし、最大吸収量は、以下の手順で測定する。
(1)未使用の衛生用品を100℃以上の雰囲気で乾燥処理し、その衛生用品の質量を測定する。
(2)水が吸収体に達し難くなるようなポケットを形成しうる伸縮材料(例えば、脚周り、ウエスト周り等の伸縮部材)が衛生用品に配置されている場合には、その伸縮部材に切り込みを入れることで、衛生用品を平らにする。
(3)十分な水道水で満たされた水浴に、液透過性シートを下にして衛生用品を浸し、30分間放置する。
(4)放置後、衛生用品を網の上に、液透過性シートを下にして載置し、20分水切りした後に、衛生用品の質量を測定する。
そして、水道水に浸す前後の質量差を最大吸収量と定義する。
【0054】
次いで、分解工程S12は、前処理工程S11により展開され膨潤した複数の使用済の衛生用品に物理的な衝撃を与えて、複数の使用済の衛生用品を、フィルム(液不透過性シート)、不織布(液透過性シート)及びコアラップと、吸収コア(例えば、吸収体及び高吸水性ポリマー)とに分解する。
【0055】
使用済の衛生用品は、前処理工程S11により、展開されて平坦で、膨張により表面のいずれかの箇所がはち切れそうになっており、本実施の形態では、特に、温水の熱により、接着剤の接合力が低下された状態になっている。従って、分解工程S12において、その状態の使用済の衛生用品に物理的な衝撃を加えることで、表面のいずれかの箇所のうち、特に接合力が低下された液透過性シート(不織布)と液不透過性シート(フィルム)との接合部分がはち切れる。それにより、その接合部分を裂く(剥がす)ことができる。物理的な衝撃としては、特に制限はないが、例えば、使用済の衛生用品よりも硬い素材でできた面に、使用済の衛生用品を叩きつける方法、使用済の衛生用品を互いに対面配置された一対のロールの間に挟んで通過させつつ両側から押圧する方法等が挙げられる。
【0056】
本実施の形態では、分解工程S12は、回転軸が水平な回転ドラムの底部に、膨潤した複数の使用済の衛生用品を投入する投入する工程と、回転ドラムを回転軸周りに回転させて、複数の使用済の衛生用品を回転ドラムの上部に引き上げては、底部に叩きつける工程とを含んでいる。それにより、複数の使用済の衛生用品に物理的な衝撃を、安定的、継続的(連続的)かつ容易に加えることができる。回転ドラムとしては、例えば、横型洗濯機の洗濯槽の回転ドラムが挙げられ、よって分解工程S12は既存の横型洗濯機(例えば、株式会社稲本製作所製、ECO-22B)を用いて実施できる。回転ドラムの大きさは、上記衝撃が実現可能であれば特に制限はないが、内径及び奥行は、例えば、50~150cm及び30~120cmが挙げられる。回転ドラムの回転速度は、上記衝撃が実現可能であれば特に制限はないが、例えば、30回/分~100回/分、が挙げられる。
【0057】
また、使用済の衛生用品内に吸収された温水により、使用済の衛生用品の温度は比較的高温に保たれるが、接着剤の温度低下の抑制、並びに殺菌の効果の維持の観点から、回転ドラム内の雰囲気の温度は70℃以上が好ましく、75℃以上がより好ましい。回転ドラム内の温度は使用済の衛生用品の取り扱いの観点から、98℃以下が好ましく、90℃以下がより好ましい。回転ドラム内の水はできるだけ少ないことが好ましく、少なくとも底部にて使用済の衛生用品が水面よりも下にならない程度に少ないことが好ましい。使用済の衛生用品が水面よりも下になると、使用済の衛生用品への衝撃が水に吸収され、所望の衝撃を使用済の衛生用品へ与え難くなる。回転ドラムを回転させている時間は、液透過性シート、液不透過性シート、コアラップ等と、吸収コアとを分解することができる限り特に限定されないが、例えば、2~40分であり、好ましくは4~20分である。
【0058】
使用済の衛生用品は、物理的な衝撃により、液透過性シート(不織布)と液不透過性シート(フィルム)との接合部分がはち切れて、裂ける。それと同時に、その裂け目を介して、吸収体の内圧によって、使用済の衛生用品内の吸収コア(例えば、パルプ繊維及び高吸水性ポリマー)が外へ噴出してくる(飛び出してくる)。それにより、使用済の衛生用品を、液透過性シート(不織布)、液不透過性シート(フィルム)、コアラップ等と、吸収コア(例えば、パルプ繊維及び高吸水性ポリマーを含むパルプ繊維含有物)とに、より確実に分解することができる。
【0059】
次いで、分離工程S13は、複数のフィルム(液不透過性シート)及び複数の不織布(液透過性シート)、コアラップ等と、吸収コア(例えば、パルプ繊維及び高吸水性ポリマー)とを分離する。ただし、不織布はフィルムに接合したままでもよい。上記分離方法としては、特に限定されないが、例えば、液透過性シート、液不透過性シート、コアラップ等を通さず、吸収コアを通すふるいを用いる方法が挙げられる。
【0060】
本実施の形態では、分離工程S13は、フィルム、不織布、コアラップ等と、吸収コアとを分離する前に、不活化剤を含む水溶液で高吸水性ポリマーを不活化する不活化工程S31と、フィルム及び不織布と、パルプ繊維、不活化された高吸水性ポリマー及び不活化により高吸水性ポリマーから排出された汚水を含む混合物とを分離する第1の分離工程S32とを含んでもよい。
【0061】
不活化工程S31では、第1の分離工程S32の前に、液透過性シート(不織布)、液不透過性シート(フィルム)及び吸収体(パルプ繊維及び高吸水性ポリマー)を、高吸水性ポリマーを不活化可能な不活化剤を含む水溶液に浸す。それにより、液透過性シート、液不透過性シート及びパルプ繊維に付着していた高吸水性ポリマーを不活化することができる。それにより、不活化の前には粘度の高い状態の高吸水性ポリマーを、不活化による脱水により、粘度の低い状態の高吸水性ポリマーにすることができる。
【0062】
ここで、不活化剤は、特に限定するものではないが、酸(例えば、無機酸及び有機酸)、石灰、塩化カルシウム、硫酸マグネシウム、塩化マグネシウム、硫酸アルミニウム、塩化アルミニウム等が挙げられる。上記酸は、パルプ繊維に灰分を残留させないことから、好ましい。不活化剤として酸を用いる場合は、pHが、好ましくは2.5以下であり、そしてより好ましくは1.3~2.4である。pHが高すぎると、高吸水性ポリマーの吸水能力を十分に低下させることができない。また、殺菌能力が低下するおそれもある。pHが低すぎると、設備の腐食のおそれがあり、排水処理時の中和処理に多くのアルカリ薬品が必要となる。
【0063】
上記無機酸としては、例えば、硫酸、塩酸、硝酸が挙げられるが、塩素を含まないこと、コスト等の観点から硫酸が好ましい。一方、上記有機酸としては、クエン酸、酒石酸、グリコール酸、リンゴ酸、コハク酸、酢酸、アスコルビン酸等が挙げられるが、排泄物に含まれる金属イオンと錯体を形成可能な酸、例えば、クエン酸、酒石酸、グルコン酸等のヒドロキシカーボネート系有機酸が特に好ましい。なお、排泄物に含まれる金属イオンとしては、カルシウムイオンが挙げられる。排泄物に含まれる金属イオンと錯体を形成可能な酸のキレート効果により、排泄物中の金属イオンがトラップされ除去可能であるためである。また、クエン酸は、その洗浄効果により、高い汚れ成分除去効果が期待できる。
なお、pHは水温により変化するため、本開示におけるpHは、水溶液温度20℃で測定したpHをいうものとする。
【0064】
不活化工程S31の処理温度、すなわち、不活化剤を含む水溶液の温度は、不活化の反応が進む限り、特に限定されない。その処理温度は、室温でもよいし、室温よりも高くしてもよいが、例えば、15~30℃が挙げられる。また、不活化工程S31の処理時間、すなわち、不活化剤を含む水溶液に液透過性シート、液不透過性シート及び吸収体を浸す時間は、高吸水性ポリマーが不活化され、脱水される限り、特に限定されないが、例えば、2~60分が挙げられ、好ましくは5~30分である。また、不活化工程S31の水溶液の量、すなわち、不活化剤を含む水溶液の量は、不活化の反応が進む限り、特に限定されない。水溶液の量は、例えば、使用済の衛生用品100質量部に対し、好ましくは300~3000質量部であり、より好ましくは500~2500質量部であり、さらに好ましくは1000~2000質量部である。
【0065】
第1の分離工程S32では、液透過性シート(不織布)、液不透過性シート(フィルム)及びコアラップと、パルプ繊維、不活化された高吸水性ポリマー及び不活化により高吸水性ポリマーから排出された汚水を含む混合物とを分離する。ただし、汚水は、不活化工程S31において、不活化剤を含む水溶液による脱水により、高吸水性ポリマーから放出された水分、すなわち、排泄物由来の液体及び温水由来の水を含む汚水である。
【0066】
第1の分離工程S32において、液透過性シート及び液不透過性シートと、パルプ繊維、高吸水性ポリマー及び汚水(パルプ繊維含有物)とを分離する方法は、特に限定するものではない。例えば、不活化工程により生成した生成物(液透過性シート、液不透過性シート、パルプ繊維、高吸水性ポリマー、汚水等)を、目開き5~100mm、好ましくは目開き10~60mmのスクリーンを通しながら排出する。それにより、パルプ繊維、高吸水性ポリマー及び汚水は排水中に、液透過性シート及び液不透過性シートはスクリーン上に残ることで、それら生成物を分離することができる。なお、スクリーン上にはその他の不織布、フィルム等の大きな形状物が残存してもよい。特に、不活化の前には、高吸水性ポリマーは粘度の高い状態にあるため、液透過性シート、液不透過性シート及びパルプ繊維に付着した高吸水性ポリマーを分離することは容易とまではいえない。しかし、不活化の後には、脱水により、高吸水性ポリマーは粘度の低い状態になるので、液透過性シート、液不透過性シート及びパルプ繊維に付着した高吸水性ポリマーを、液透過性シート、液不透過性シート及びパルプ繊維から容易に分離することができる。従って、衛生用品の構成部材を効率よく分離・回収することができる。
【0067】
本実施の形態では、分離工程S13はフィルムと他の部材との接合部分の接着剤を溶かす溶剤により、接合部分の接着剤を除去する第2の分離工程S33をさらに含んでもよい。本実施の形態では、フィルムと不織布と吸収体との各接合部分の接着剤を溶解する溶剤により、各接合部分の接着剤を除去する。
【0068】
第2の分離工程S33では、フィルム(液不透過性シート)と他の部材(液透過性シートの不織布、液透過性シート、液不透過性シートの表面に残存する吸収体等)との接合部分の接着剤を溶剤により除去する。それにより、フィルムと他の部材とを、破断等せずにそのままの形状を維持したまま、互いに分離することができる。従って、衛生用品のフィルムのような構成部材を効率よく回収することができる。また、フィルムに接着剤を残さずに、フィルムと他の部材とを分離することができるので、フィルムを純度の高い樹脂として再利用可能にできる。それにより、フィルムの再利用のときに接着剤が悪影響を及ぼすことを抑制できる。不織布についてもフィルムと同様である。
【0069】
第2の分離工程S33に用いる溶剤としては、接着剤を溶解することが可能であれば特に制限はないが、例えば、テルペン炭化水素、テルペンアルデヒド及びテルペンケトンのうちの少なくとも一つを含むテルペンが挙げられる。この工程では、テルペンを含む水溶液が用いられ、水溶液中のテルペンの濃度は、例えば、0.05質量%以上2質量%以下が挙げられる。好ましくは0.075~1質量%である。テルペンの濃度が低すぎると、接合部分の接着剤を溶解することができないおそれがある。テルペンの濃度が高すぎると、コストが高くなるおそれがある。また、テルペンは、ホットメルト接着剤のような接着剤を溶解するだけでなく、油汚れ洗浄効果も有する。そのため、例えば、液不透過性シート等の衛生用品の構成部材に印刷がある場合、テルペンはその印刷インクも分解除去できる。
【0070】
テルペン炭化水素としては、例えば、ミルセン、リモネン、ピネン、カンファー、サピネン、フェランドレン、パラシメン、オシメン、テルピネン、カレン、ジンギベレン、カリオフィレン、ビサボレン、セドレンが挙げられる。中でも、リモネン、ピネン、テルピネン、カレンが好ましい。また、テルペンアルデヒドとしては、例えば、シトロネラール、シトラール、シクロシトラール、サフラナール、フェランドラール、ペリルアルデヒド、ゲラニアール、ネラールが挙げられる。テルペンケトンとしては、例えば、ショウノウ、ツヨシが挙げられる。テルペンの中でもテルペン炭化水素が好ましく、リモネンが特に好ましい。リモネンには、d-リモネン、l-リモネン、ジペンテン(dl-リモネン)の3種類があるが、いずれも好ましく用いることができる。テルペンは1種単独で使用することもできるし、2種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0071】
第2の分離工程S33の処理温度、すなわち、溶剤を含む水溶液の温度は、接着剤の溶解が進み、使用済の衛生用品を構成部材に分解する限り、特に限定されない。その処理温度は、室温でもよいし、室温よりも高くしてもよいが、例えば、15~30℃が挙げられる。また、第2の分離工程S33の処理時間、すなわち、溶剤を含む水溶液に液透過性シート、液不透過性シート及び吸収体を浸す時間は、接着剤の溶解が進み、使用済の衛生用品を構成部材に分解する限り、特に限定されない。その処理時間は、例えば、2~60分が挙げられ、好ましくは5~30分である。第2の分離工程S33の水溶液の量、すなわち、溶剤を含む水溶液の量は、接着剤の溶解が進み、使用済の衛生用品を構成部材に分解する限り特に限定されない。水溶液の量は、例えば、使用済の衛生用品100質量部に対し、好ましくは300~3000質量部であり、より好ましくは500~2500質量部である。第2の分離工程S33により、フィルム、不織布、吸収体等に残存する接着剤の量を、フィルム、不織布、吸収体等に対して1質量%以下にできる。
【0072】
なお、本実施の形態では、他の態様の1つとして、上記不活化工程S31において、上記第2の分離工程S33を併せて行ってもよい。すなわち、液透過性シート、液不透過性シート及びパルプ繊維に付着した高吸水性ポリマーを不活化させつつ、液透過性シート、液不透過性シート及びパルプ繊維に付着した接着剤を溶解させてもよい。この場合、液透過性シート、液不透過性シート、パルプ繊維及び高吸水性ポリマーを浸漬させる水溶液としては、不活化剤及び溶剤の両方を含む水溶液を用いる。それにより、上記不活化工程S31において、液不透過性シート(フィルム)と、液透過性シート(不織布)と、吸収体(パルプ繊維及び高吸水性ポリマー)とを水溶液中で概ね分離した状態にできる。そして、その後の第1の分離工程において、液不透過性シート(フィルム)及び液透過性シート(不織布)と、吸収体(パルプ繊維及び高吸水性ポリマー)とを分離でき、第2の分離工程S33を省略できる。この場合、液不透過性シート(フィルム)と液透過性シート(不織布)とは、接着剤の除去により、実質的に分離される。
【0073】
本実施の形態では、分離工程S13は、接合部分の接着剤を除去する工程の後に、フィルムを室温よりも高い温度の雰囲気又は熱風により乾燥させ、溶剤を除去する第1の乾燥工程S34をさらに含んでもよい。本実施の形態では、本工程にて不織布をも乾燥させる。
【0074】
使用済の衛生用品の再利用においては、殺菌は極めて重要である。第1の乾燥工程S34では、分離されたフィルム(液不透過性シート)及び不織布(液透過性シート)を、高温の雰囲気又は熱風等で乾燥させる工程を行う。乾燥温度は、例えば、105~210℃が挙げられ、好ましくは110~190℃である。乾燥時間は、乾燥温度にもよるが、例えば、10~120分が挙げられ、好ましくは15~100分である。それにより、フィルム及び不織布の表面に残存する溶剤を蒸発させて除去するだけでなく、フィルム及び不織布を高温の雰囲気又は熱風等で殺菌することができる。それにより、溶剤を除去しつつ、殺菌(消毒)の効果を奏することも可能となる。
【0075】
一方、本実施の形態では、分離工程S13は、分離された混合物からパルプ繊維を分離する第3の分離工程S35を含んでもよい。第3の分離工程S35では、分離された混合物(パルプ繊維、高吸水性ポリマー及び汚水を含む)からパルプ繊維を分離する方法としては、特に限定されないが、例えば、分離された混合物を目開き0.1~4mm、好ましくは目開き0.15~2mmのスクリーンを通しながら排出する。それにより、高吸水性ポリマー及び汚水は排水中に、パルプ繊維(主に表面に高吸水性ポリマーが残存)はスクリーン上に残ることで、混合物からパルプ繊維を分離できる。このパルプ繊維は不純物を多く含むが、用途によっては、この状態で再利用可能である。
分離されたパルプ繊維には、高吸水性ポリマーが付着しており、分離されたパルプ繊維と、当該パルプ繊維に付着している高吸水性ポリマーとは、水と、所定の割合で混合されて、パルプ繊維含有物として、オゾン処理工程S36に進む。
【0076】
本実施の形態では、分離工程S13は、高吸水性ポリマー及びパルプ繊維と、それらの連結構造体と、水とを含むパルプ繊維含有物を、オゾンを含む水溶液で処理し、パルプ繊維付着する高吸水性ポリマーを低分子量化し、可溶化して除去するオゾン処理工程S36を含んでいる。
【0077】
使用済の衛生用品においては、パルプ繊維及び高吸水性ポリマーを含む吸収体等において、(i)高吸水性ポリマーが体液等の液体を吸収するにつれて肥大化し、パルプ繊維を巻き込む、(ii)肥大化した高吸水性ポリマー同士が、パルプ繊維を巻き込みつつゲルブロッキングを生じさせる等により、複数の高吸水性ポリマーと、複数のパルプ繊維とが、連結構造体を形成する場合が多い。上記パルプ繊維含有物には、遊離のパルプ繊維及び遊離の高吸水性ポリマーに加え、複数の高吸水性ポリマー及び複数のパルプ繊維により構成される連結構造体が含まれる。
【0078】
オゾン処理工程S36では、パルプ繊維含有物(処理液)に含まれる高吸水性ポリマーを、水溶液中のオゾンにより酸化分解して、水溶液に可溶化させることにより除去する。
高吸水性ポリマーが酸化分解し、水溶液に可溶化した状態とは、高吸水性ポリマー、並びに連結構造体が、2mmのスクリーンを通過する状態をいう。それにより、高吸水性ポリマー等の不純物を、パルプ繊維含有物(処理液)から除去し、純度の高いパルプ繊維を生成できる。また、オゾン処理により、パルプ繊維の二次殺菌、漂白並びに消臭を行うことができる。
【0079】
図2は、オゾン処理工程S36を実行する装置2の構成の一例を示す概略図である。装置2は、水と、第3の分離工程S35で分離されたパルプ繊維と、高吸水性ポリマーとを含むパルプ繊維含有物51を貯蔵するパルプ繊維含有物貯蔵部3と、パルプ繊維含有物51中に含まれる高吸水性ポリマーを、酸化分解してパルプ繊維から除去するオゾン処理部4とを備えている。
【0080】
パルプ繊維含有物貯蔵部3は、パルプ繊維含有物タンク12と攪拌機13とを含む。パルプ繊維含有物タンク12は、配管61を介して供給された、パルプ繊維含有物51を貯蔵する。攪拌機13は、パルプ繊維含有物51中のパルプ繊維及び高吸水性ポリマーが水と分離してパルプ繊維含有物51の下方へ沈まないように、パルプ繊維含有物タンク12中のパルプ繊維含有物51を撹拌する。
【0081】
一方、オゾン処理部4は、供給ポンプ21と処理槽31とオゾン供給装置41と送出ポンプ22とオゾン分解装置34とを含む。処理槽31は、処理液52として酸性水溶液を有する。処理槽31は、パルプ繊維含有物供給口32と、処理液排出口33と、オゾン含有ガス供給口43とを備えている。パルプ繊維含有物供給口32は、処理槽31の上部に配置され、パルプ繊維含有物51を処理槽31に供給する。処理液排出口33は、処理槽31の下部に配置されており、処理液52を排出する。オゾン含有ガス供給口43は、処理槽31の下部、具体的には、処理液排出口33よりも上部に配置されており、オゾン含有ガス53を処理槽31内に送出する。
【0082】
具体的には、供給ポンプ21は、配管62を介してパルプ繊維含有物タンク12のパルプ繊維含有物51を、パルプ繊維含有物供給口32から、処理槽31の中に第1の流量で連続的に供給する。オゾン供給装置41は処理槽31に、オゾン含有ガス53を供給する。オゾン供給装置41のオゾン発生装置42としては、例えば、エコデザイン株式会社製オゾン水曝露試験機ED-OWX-2、三菱電機株式会社製オゾン発生装置OS-25V等が挙げられる。オゾン含有ガス53は、オゾンを含んだ他の種類ガスであり、例えば、オゾンを含んだ酸素ガスが挙げられる。オゾン含有ガス供給口43は、配管65を介して処理槽31に供給されるオゾン含有ガス53を処理槽31内に送出し、処理槽31の下部(好ましくは底部)に配置される。オゾン含有ガス供給口43は、オゾン含有ガス53を複数の細かい気泡として処理液52中に処理液52(処理槽31)の下部から上部へ向かって連続的に供給する。送出ポンプ22は、配管63を介して処理槽31内の処理液52を、処理液排出口33から処理槽31の外に第2の流量で連続的に排出する。オゾン分解装置34は、処理槽31の上部に蓄積したオゾン含有ガス53を配管64経由で受け取り、オゾンを無害化して外部へ放出する。なお、処理槽31内の処理液52は、オゾン処理工程S36の開始前には処理液52のみであり、開始後は処理液52とパルプ繊維含有物51とが混合された液となるが、本実施の形態では処理液52とパルプ繊維含有物51とが混合された液も含めて、処理槽31内の液を処理液52とする。
【0083】
次に、オゾン処理工程S36の具体的方法について説明する。
第3の分離工程S35にて分離されたパルプ繊維及び高吸水性ポリマーは、予め設定された濃度になるように水と混合されてパルプ繊維含有物51となる。パルプ繊維含有物51のパルプ繊維の濃度は、処理槽31に投入され、処理液52と混合された状態で、予め設定された濃度になるように設定される。パルプ繊維含有物51は、配管61を介してパルプ繊維含有物タンク12に供給され、貯蔵される。パルプ繊維及び高吸水性ポリマーの比重は1より大きいので、パルプ繊維及び高吸水性ポリマーが、水と分離しないように、パルプ繊維含有物51はパルプ繊維含有物タンク12内で攪拌機13により撹拌される。
【0084】
そして、パルプ繊維含有物タンク12内のパルプ繊維含有物51は、供給ポンプ21により流量が制御され、配管62を介して、パルプ繊維含有物供給口32から処理槽31に、第1の流量で連続的に供給される。処理液52は酸性水溶液であり、比重は概ね1である。従って、パルプ繊維及び高吸水性ポリマーは、処理液52の上部から下部へ向かって沈降してゆく。
【0085】
一方、オゾン発生装置42で生成されたオゾン含有ガス53は、配管65を介して処理槽31に供給され、処理槽31のオゾン含有ガス供給口43から処理液52内に細かい気泡(例えば、マイクロバブル又はナノバブル)の状態で放出される。すなわち、オゾン含有ガス53は、処理液52の下部から上部へ向かって上昇してゆく。
【0086】
そして、処理液52内を、下方に向かって移動する、すなわち、下降するパルプ繊維及び高吸水性ポリマーと、上方に向かって移動する、すなわち、上昇するオゾン含有ガス53とが、対向して進みつつ衝突し合う。そして、オゾン含有ガス53は、パルプ繊維及び高吸水性ポリマー、並びに連結構造体の表面に付着する。オゾン含有ガス53中のオゾンが、遊離の高吸水性ポリマーを酸化分解して、処理液52に溶解させる。それにより、パルプ繊維上の高吸水性ポリマーがパルプ繊維から除去される。そして、パルプ繊維は、処理槽31の底部へ下降し、オゾン含有ガス53は、処理槽31の上部の空間へ抜ける。
【0087】
遊離の高吸水性ポリマー及び遊離のパルプ繊維、並びに連結構造体では、相対的に浮力の低い遊離の高吸水性ポリマーと、高吸水性ポリマーを含む連結構造体とが、相対的に浮力の高い遊離のパルプ繊維よりも沈降性が高い傾向にある。一方、オゾン含有ガスは、オゾンを消費して、高吸水性ポリマー及びパルプ繊維を処理しながら上昇するため、下方の位置に存在するオゾン含有ガスは、上方の位置に存在するオゾン含有ガスよりも、オゾンの含有率が高い(すなわち、フレッシュである)傾向にある。
【0088】
従って、下方への移動が相対的に速い、遊離の高吸水性ポリマー及び連結構造体を、よりフレッシュなオゾン含有ガスで的確に酸化分解して遊離のパルプ繊維を形成することができる。一方、遊離のパルプ繊維は、下方への移動が相対的に遅いので、オゾン含有ガスが、時間をかけて遊離のパルプ繊維を処理することができる。具体的には、オゾン含有ガス中のオゾンが、パルプ繊維と対向しつつ衝突することにより、パルプ繊維の、ヘミセルロース、リグニン等を分解することができる。
【0089】
その後、処理槽31の底部の処理液52(パルプ繊維原料を含む)は、送出ポンプ22の流量制御により、配管63を介して処理槽31の処理液排出口33から処理槽31の外に第2の流量で連続的に排出される。処理槽31の上部に蓄積したオゾン含有ガス53のオゾンはオゾン分解装置34で無害化されて外部へ放出される。
【0090】
このように、パルプ繊維含有物51が処理槽31の上部から処理槽31の中に第1の流量で連続的に供給され、処理液52が処理槽31の下部(底部)から処理槽31の外に第2の流量で連続的に排出される。それにより、処理槽31内に上部から下部への連続的かつ安定的な流体(パルプ繊維原料を含む)の流れを強制的に生じさせることができる。
【0091】
処理槽31から排出される処理液52は、高吸水性ポリマー、ヘミセルロース、リグニン等を除去された、パルプ繊維原料を含み、かつ、高吸水性ポリマーが酸化分解されて生成した低分子量の有機物を含んでいる。パルプ繊維原料は、送出ポンプ22より下流側の工程、例えば、後述される第4の分離工程S37にて回収される。
【0092】
本方法は、少なくとも、パルプ繊維及び高吸水性ポリマーを含むパルプ繊維含有物51を、高吸水性ポリマーを溶解可能な処理液52を有する処理槽31の中に、第1の流量で連続的に供給しつつ、高吸水性ポリマーが除去されたパルプ繊維原料を含み、かつ、高吸水性ポリマーが酸化分解されて生成した低分子量の有機物を含む処理液52を、処理槽31の外に、第2の流量で連続的に排出する。このような構成を有することにより、処理槽31におけるパルプ繊維含有物51を供給するパルプ繊維含有物供給口32から処理液52を排出する処理液排出口33へ向かって連続的かつ安定的な流体(パルプ繊維を含む)の流れを強制的に発生させることができる。その流体の流れ、すなわち、水流により、パルプ繊維及び高吸水性ポリマーの処理量を多くしても、高吸水性ポリマーを処理(可溶化)し、そしてパルプ繊維を処理することができる。
【0093】
ここで、第1の流量と第2の流量は同一であることが好ましい。第1の流量及び第2の流量を同一にすることにより、処理槽31内の処理液52の量を一定に保つことができ、安定的に連続的な処理が可能である。ただし、処理槽31内の処理液52の量を略一定に保つことができると、すなわち、処理槽31内の処理液52の量が大幅に増加又は減少しなければ、第1の流量と第2の流量とは経時的に変動してもよい。すなわち、第1の流量と第2の流量とは、常時、完全に同一である必要はなく、経時的に平均して略同一であればよい。ここで、略同一とは、第1の流量と第2の流量との差が5質量%以内であることをいう。この場合にも、安定的に連続的な処理が可能である。
【0094】
処理液52にオゾン含有ガス53を供給する場合、処理液52中のオゾン濃度は、高吸水性ポリマーを酸化分解することができる濃度であれば、特に限定されないが、例えば、1~50質量ppmが挙げられ、好ましくは2~40質量ppmであり、さらに好ましくは3~30質量ppmである。処理液52中のオゾン濃度が低過ぎると、高吸水性ポリマーを完全に可溶化できず、パルプ繊維に高吸水性ポリマーが残存するおそれがある。逆に、処理液52中のオゾン濃度が高過ぎると、酸化力も高まるため、パルプ繊維に損傷を与えるおそれがあるとともに、安全性にも問題を生じる可能性がある。オゾン処理温度は、高吸水性ポリマーを酸化分解できる温度であれば、特に限定されないが、例えば、室温のままでもよいし、室温より高くしてもよい。
【0095】
処理液52(水溶液)中のオゾン濃度は以下の方法で測定される。
(1)ヨウ化カリウム約0.15g及び10%のクエン酸溶液5mLを入れた100mLメスシリンダーに、オゾンが溶解した処理液52を85mL入れて反応させる。
(2)反応後の処理液52を、200mLの三角フラスコに移動し、三角フラスコ内にデンプン溶液を加え、紫色に着色させた後、0.01mol/Lのチオ硫酸ナトリウムで無色になるまで撹拌しながら滴定し、添加量a(mL)を記録する。
(3)以下の式を用いて、水溶液中のオゾン濃度を算出する。
水溶液中のオゾン濃度(質量ppm)を以下の式:
水溶液中のオゾン濃度(質量ppm)
=a(mL)×0.24×0.85(mL)
により算出する。
【0096】
オゾン含有ガス53中のオゾン濃度は、好ましくは40~200g/m3であり、より好ましくは80~200g/m3であり、さらに好ましくは100~200g/m3である。オゾン含有ガス53中のオゾン濃度が低過ぎると高吸水性ポリマーを完全に可溶化できず、高吸水性ポリマーが残存するおそれがある。オゾン含有ガス53中の濃度が高過ぎるとパルプ繊維の損傷、安全性の低下、製造原価の増加につながるおそれがある。なお、オゾン含有ガス53中のオゾン濃度は、例えば、紫外線吸収式のオゾン濃度計(例えば、エコデザイン株式会社製:オゾンモニタOZM-5000G)により測定することができる。
【0097】
処理液52中のパルプ繊維含有物(例えば、パルプ繊維及び高吸水性ポリマー)の濃度は、処理液52中のオゾンにより高吸水性ポリマーを酸化分解することができる濃度であれば、特に限定されないが、例えば、0.1~20質量%が挙げられ、好ましくは0.2~10質量%であり、さらに好ましくは0.3~5質量%である。パルプ繊維の濃度が高過ぎると、高吸水性ポリマーを完全に可溶化できず、パルプ繊維に高吸水性ポリマーが残存するおそれがある。逆に、パルプ繊維の濃度が低過ぎると、酸化力も高まるため、パルプ繊維に損傷を与えるおそれがあるとともに、安全性にも問題を生じる可能性がある。パルプ繊維含有物51中のパルプ繊維及び高吸水性ポリマーの濃度は、上記処理液52中のパルプ繊維及び高吸水性ポリマーの濃度と、処理液52の量とに基づいて適宜設定される。
【0098】
パルプ繊維及び高吸水性ポリマーを含む処理液52にオゾンを供給する場合、処理液52は酸性(具体的には、pH0.0超且つpH3.0未満、好ましくはpH2.5以上且つpH3.0未満)、弱酸性(具体的には、pH3.0以上且つpH6.0未満)、又は中性(具体的には、pH6.0以上且つpH8.0以下、好ましくはpH6.0以上且つpH7.0以下)であることが好ましい。より好ましくは、処理液52のpHは0.0超且つ7.0以下であり、さらに好ましくは2.5~6.0である。酸性の状態で処理することで、オゾンの失活が抑制され、オゾンによる高吸水性ポリマーの酸化分解効果が向上し、短時間で高吸水性ポリマーを酸化分解できる。処理液のpHを保つためには、パルプ繊維含有物51のpHを処理液52のpHと同じにして、パルプ繊維含有物51を処理槽31に供給してもよい。あるいは、処理液52のpHをpHセンサで監視し、pHが中性側に変動したときには、所定の酸性溶液を変動幅に応じた量だけ処理液52に付加してもよい。
【0099】
処理槽31中の処理液52(パルプ繊維含有物51を含む)の量は、高吸水性ポリマーを酸化分解することができる量であれば、特に限定されないが、処理槽31中の処理液52の体積V(単位:L)とパルプ繊維の質量W(単位:kg)が、30≦V/W≦1000、を満たすことが好ましい。より好ましくは、50≦V/W≦400であり、さらに好ましくは、100≦V/W≦200である。V/Wが小さ過ぎると、高吸水性ポリマーを完全に可溶化できず高吸水性ポリマーが残存するおそれがある。V/Wが大き過ぎると、製造原価が増加するおそれがある。なお、処理槽31の体積Vとしては、特に制限はないが、例えば、50~80Lが挙げられる。
【0100】
オゾン含有ガスの流量RO(単位:L/分)と処理槽31中の処理液52の体積V(単位:L)は、0.01≦RO/V≦1.25、を満たすことが好ましい。より好ましくは、0.03≦RO/V≦1.0であり、さらに好ましくは、0.06≦RO/V≦0.75である。RO/Vが小さすぎると高吸水性ポリマーを完全に可溶化できずパルプ繊維に高吸水性ポリマーが残存するおそれがある。RO/Vが大きすぎるとパルプ繊維の損傷、安全性の低下、製造原価の増加につながるおそれがある。なお、オゾン含有ガスの流量ROとしては、特に制限はないが、例えば、3~6L/分が挙げられる。
【0101】
パルプ繊維含有物が処理槽31内に存在する時間、すなわち、パルプ繊維含有物が処理液52中で処理される時間(以下、「槽内処理時間」ともいう。)は、パルプ繊維中のヘミセルロースの分解、リグニンの分解、高吸水性ポリマーの酸化分解等の目的によって変わり、特に限定されない。槽内処理時間は、処理液52のオゾン濃度が高ければ短くてよく、処理液52のオゾン濃度が低ければ長い時間を要する。槽内処理時間としては、例えば、15分~180分が挙げられ、好ましくは30分~60分である。
【0102】
オゾン含有ガスと、パルプ繊維含有物とは、オゾン含有ガス中のオゾン濃度(g/m
3
)と、槽内処理時間(分)との積であるCT値に基づいて接触させることができる。CT値は、好ましくは6,000g/m
3
・分以上、より好ましくは7,000g/m
3
・分以上、さらに好ましくは8,000g/m
3
・分以上、そしてさらにいっそう好ましくは9,000g/m
3
・分以上である。
【0103】
上記CT値は、好ましくは12,000g/m
3
・分以下、より好ましくは11,000g/m
3
・分以下、さらに好ましくは10,000g/m
3
・分以下、そしてさらにいっそう好ましくは9,000g/m
3
・分以下である。
【0104】
CT値が上記範囲にあることにより、所定のヘミセルロース含有率を有するパルプ繊維原料を形成しやすくなる。なお、上記CT値が小さ過ぎると、ヘミセルロースの分解、リグニンの分解、高吸水性ポリマーの分解、特にヘミセルロースの分解が不十分となる場合が有る。上記CT値が大き過ぎると、パルプ繊維の損傷、安全性の低下、製造原価の増加につながるおそれがある。
【0105】
なお、CT値における、オゾン含有ガス中のオゾン濃度の測定方法は、上述の通りである。
また、CT値における、槽内処理時間は、いわゆる、バッチ式の場合には、オゾン含有ガスを供給している時間(分)を意味する。いわゆる、連続式の場合には、槽内処理時間は、処理槽内の処理液の容量(L)を、時間当たりの排出量(L/分)で除した値を意味する。
【0106】
パルプ繊維が処理槽31内に存在する間に、オゾンにより、高吸水性ポリマーは低分子量成分に酸化分解され、処理液52に溶解する。また、オゾンにより、パルプ繊維中のヘミセルロースが分解され、その一部が処理液52に溶解する。また、オゾンにより、パルプ繊維中のリグニンが分解され、処理液52に溶解する。処理液52中に溶解した、高吸水性ポリマーの低分子量成分、ヘミセルロースの分解物、リグニンの分解物等は、処理液52と共に排出される。さらに、この工程では、オゾンの殺菌作用により、使用済の衛生用品が一次消毒される。以上のように、パルプ繊維原料が形成される。
【0107】
本開示のパルプ繊維原料の製造方法は、以下のステップを含む。
・上記処理すべきパルプ繊維を含む処理液にオゾン含有ガスを供給することにより、上記処理すべきパルプ繊維から、8.0質量%未満のヘミセルロース含有率を有する上記パルプ繊維原料を形成する、パルプ繊維原料形成ステップ
パルプ繊維原料形成ステップは、処理すべきパルプ繊維を含む処理液にオゾン含有ガスを供給することにより、処理すべきパルプ繊維から、8.0質量%未満のヘミセルロース含有率を有するパルプ繊維原料を形成するものであれば、特に制限されず、例えば、いわゆる、バッチ式、連続式等で行うことができる。
【0108】
上記処理液は、パルプ繊維含有物として、少なくとも処理すべきパルプ繊維を含み、パルプ繊維単体を含んでもよい。また、処理すべきパルプ繊維が、使用済の衛生用品に含まれるパルプ繊維である場合には、上記処理液は、処理すべきパルプ繊維としてのパルプ繊維と、その他の成分とを含むパルプ繊維含有物、例えば、パルプ繊維及び高吸水性ポリマーを含むことができる。また、上記処理液は、パルプ繊維含有物として、複数の高吸水性ポリマーと、複数のパルプ繊維とが連結した連結構造体、衛生用品を構成する資材(例えば、コアラップ、液透過性シート、液不透過性シート等)等をさらに含んでもよい。
上記オゾン含有ガスは、例えば、処理槽内の処理液中に供給してもよく、そして処理槽内の処理液上の空間に供給してもよい。
【0109】
本開示のパルプ繊維原料の製造方法は、以下の準備ステップ、パルプ繊維含有物供給ステップ、オゾン含有ガス供給ステップ、パルプ繊維原料形成ステップ及び処理液排出ステップを含むことができる。
・パルプ繊維含有物供給口と、上記パルプ繊維含有物供給口よりも下方に配置された処理液排出口及びオゾン含有ガス供給口とを備える上記処理槽を準備する、準備ステップ
・上記パルプ繊維含有物を、上記パルプ繊維含有物供給口から上記処理槽に供給する、パルプ繊維含有物供給ステップ
・上記オゾン含有ガスを、上記オゾン含有ガス供給口から上記処理槽内の上記処理液に供給する、オゾン含有ガス供給ステップ
・上記処理槽内で、上記パルプ繊維含有物を下降させながら、上記オゾン含有ガスを上昇させることにより、上記パルプ繊維含有物を、上記オゾン含有ガスと接触させ、上記処理すべきパルプ繊維から上記パルプ繊維原料を形成する、上記パルプ繊維原料形成ステップ
・上記パルプ繊維原料を含む上記処理液を、上記処理液排出口から排出する、処理液排出ステップ
【0110】
ヘミセルロースは、セルロースより比重が低いことから、ヘミセルロース含有率が相対的に低いパルプ繊維(セルロース含有率が相対的に高いパルプ繊維)は、ヘミセルロース含有率が相対的に高いパルプ繊維(セルロース含有率が相対的に低いパルプ繊維)よりも、比重が相対的に高い傾向がある。一方、溶液中では、オゾン含有ガスは、オゾンを消費しながら上昇するため、下方の位置に存在するオゾン含有ガスは、上方の位置に存在するオゾン含有ガスよりも、オゾンの含有率が高い(すなわち、フレッシュである)傾向にある。
【0111】
上記製造方法では、所定の準備ステップ、パルプ繊維含有物供給ステップ、オゾン含有ガス供給ステップ、パルプ繊維原料形成ステップ及び処理液排出ステップを含む。上記パルプ繊維原料形成ステップでは、オゾン含有ガスを上昇させながら、パルプ繊維含有物と、オゾン含有ガスとを接触させる。
【0112】
上記製造方法では、ヘミセルロース含有率が相対的に低い、処理すべきパルプ繊維(セルロース含有率が相対的に高い、処理すべきパルプ繊維)が、ヘミセルロース含有率が相対的に高い、処理すべきパルプ繊維(セルロース含有率が相対的に低い、処理すべきパルプ繊維)よりも沈降性が相対的に高く(又は浮上性が相対的に低く)、フレッシュなオゾン含有ガスが、ヘミセルロース含有率が相対的に低い、処理すべきパルプ繊維と接触し、そこに含まれるヘミセルロースをさらに分解しやすくなる。従って、上記製造方法は、セルロースナノファイバーを含む繊維複合強化材料を簡易に形成することができるパルプ繊維原料を製造することができる。
【0113】
なお、一般的に、パルプ繊維は、リグニン含有率が高いほど、比重が低い傾向があることから、上記製造方法では、リグニン含有率が相対的に低い、処理すべきパルプ繊維が、リグニン含有率が相対的に高い、処理すべきパルプ繊維よりも相対的に沈降性が高いため、よりフレッシュなオゾン含有ガスが、リグニン含有率が相対的に高い、処理すべきパルプ繊維と接触し、そこに含まれるリグニンをさらに分解することができる。
【0114】
なお、上記オゾン含有ガス供給口は、処理槽の下方の位置、具体的には、処理槽の底から、処理槽の高さの好ましくは30%、より好ましくは20%、そしてさらに好ましくは10%の範囲を意味する。
また、上記パルプ繊維含有物供給口は、上記オゾン含有ガス供給口よりも下方に配置されていてもよく、そして上方に配置されていてもよく、上記処理液排出口は、上記オゾン含有ガス供給口よりも下方に配置されていてもよく、そして上方に配置されていてもよい。
【0115】
なお、上記製造方法には、いわゆる、連続式及びバッチ式の両方の製造方法が含まれる。また、「オゾン含有ガスを上昇させ」ることには、オゾン含有ガスが、全体として、上昇していることを意味し、処理槽内の処理液を撹拌等している場合に、オゾン含有ガスが水平方向に撹拌されながらも、全体として垂直方向に上昇することが含まれる。
【0116】
上記処理液排出口は、上記パルプ繊維含有物供給口よりも下方に配置されており、上記パルプ繊維原料形成ステップにおいて、上記パルプ繊維含有物を下降させながら、上記パルプ繊維含有物を、上記オゾン含有ガスと接触させてもよい。それにより、パルプ繊維含有物がオゾン含有ガスと接触する頻度が増え、処理液に含まれるパルプ繊維原料のヘミセルロース含有率の分布が狭くなる(ばらつきが少なくなる)。また、フレッシュなオゾン含有ガスが、ヘミセルロース含有率が相対的に低い、処理すべきパルプ繊維と接触することができるので、処理液に含まれるパルプ繊維原料のヘミセルロース含有率が低くなりやすい。さらに、上記処理液排出口が、上記パルプ繊維含有物供給口よりも下方に配置されていることから、処理液排出口から、ヘミセルロース含有率が相対的に低い、処理すべきパルプ繊維(セルロース含有率が相対的に高い、処理すべきパルプ繊維)が排出されやすくなる。
【0117】
なお、上記製造方法には、いわゆる、連続式及びバッチ式の両方の製造方法が含まれる。また、「パルプ繊維含有物を下降させ」ることには、パルプ繊維含有物の少なくとも一部が下降していることを意味し、例えば、処理槽内の処理液全体が下降している場合のその全体、処理槽内の処理液が上下に対流等している場合のパルプ繊維含有物の下降している部分等が含まれる。
【0118】
上記処理液排出口は、上記パルプ繊維含有物供給口よりも上方に配置されており、上記パルプ繊維原料形成ステップにおいて、上記パルプ繊維含有物を上昇させながら、上記パルプ繊維含有物を、上記オゾン含有ガスと接触させてもよい。それにより、パルプ繊維含有物がオゾン含有ガスと接触している時間が長くなり、処理すべきパルプ繊維中のヘミセルロース含有率を下げやすくなる。
【0119】
なお、上記製造方法には、いわゆる、連続式及びバッチ式の両方の製造方法が含まれる。また、「パルプ繊維含有物を上昇させ」ることには、パルプ繊維含有物の少なくとも一部が上昇していることを意味し、例えば、処理槽内の処理液全体が上昇している場合のその全体、処理槽内の処理液が上下に対流等している場合のパルプ繊維含有物の上昇している部分等が含まれる。
【0120】
上記パルプ繊維含有物供給ステップにおいて、上記パルプ繊維含有物を、上記パルプ繊維含有物供給口から上記処理槽に第1の流量で連続的に供給し、上記処理液排出ステップにおいて、上記処理液を、上記処理液排出口から第2の流量で連続的に排出してもよい。それにより、処理すべきパルプ繊維含有物の処理時間が均一化され、処理液に含まれるパルプ繊維原料のヘミセルロース含有率の分布が狭くなる(ばらつきが少なくなる)。
【0121】
上記使用済の衛生用品が高吸水性ポリマーを含む場合には、上記パルプ繊維含有物供給ステップ及び上記パルプ繊維原料形成ステップにおける上記パルプ繊維含有物が、上記高吸水性ポリマーをさらに含み、上記パルプ繊維原料形成ステップにおいて、上記高吸水性ポリマーの少なくとも一部を上記処理液に溶解させてもよい。
【0122】
使用済の衛生用品においては、パルプ繊維及び高吸水性ポリマーを含む吸収体等において、(i)高吸水性ポリマーが体液等の液体を吸収するにつれて肥大化し、パルプ繊維を巻き込む、(ii)肥大化した高吸水性ポリマー同士が、パルプ繊維を巻き込みつつゲルブロッキングを生じさせる等により、複数の高吸水性ポリマーと、複数のパルプ繊維とが、連結構造体を形成する場合が多い。
【0123】
パルプ繊維原料形成ステップにおいて、オゾン含有ガスを上昇させながら、パルプ繊維含有物と、オゾン含有ガスとを接触させる。遊離の高吸水性ポリマー及び遊離のパルプ繊維、並びに連結構造体では、相対的に浮力の低い遊離の高吸水性ポリマー及び連結構造体が、相対的に浮力の高い遊離のパルプ繊維よりも沈降性が高い傾向にある。一方、オゾン含有ガスは、オゾンを消費して、パルプ繊維含有物を処理しながら上昇するため、下方の位置に存在するオゾン含有ガスは、上方の位置に存在するオゾン含有ガスよりも、オゾンの含有率が高い(すなわち、フレッシュである)傾向にある。
【0124】
従って、沈降性が相対的に高い、遊離の高吸水性ポリマー及び連結構造体中の高吸水性ポリマーを、よりフレッシュなオゾン含有ガスで的確に酸化分解し、連結構造体を構成していたパルプ繊維を遊離させることができるとともに、沈降性が相対的に低く、処理液排出口に到達するまでに相対的に時間のかかる遊離のパルプ繊維を、オゾン含有ガスが時間をかけて処理し、遊離のパルプ繊維に含まれるヘミセルロースを分解することができる。
【0125】
また、上述の通り、ヘミセルロース含有率が相対的に低いパルプ繊維(セルロース含有率が相対的に高いパルプ繊維)は、ヘミセルロース含有率が相対的に高いパルプ繊維(セルロース含有率が相対的に低いパルプ繊維)よりも沈降性が高く、上記製造方法では、よりフレッシュなオゾン含有ガスが、ヘミセルロース含有率が相対的に低いパルプ繊維と接触し、そこに含まれるヘミセルロースをさらに分解することができる。
【0126】
図1に示される実施の形態では、態様の1つとして、オゾン処理工程S36(連続処理工程)が、パルプ繊維含有物51を、処理槽31の上部から連続的に供給しつつ、処理液52を、処理槽31の下部から連続的に排出する工程を含んでいる。パルプ繊維含有物51中のパルプ繊維及び高吸水性ポリマーは浮力が小さく、パルプ繊維及び高吸水性ポリマー、並びに連結構造体は、自然に沈降する。
【0127】
本実施の形態では、態様の1つとして、高吸水性ポリマーを溶解可能な処理液52が、高吸水性ポリマーを溶解可能に酸化分解するオゾン含有ガスを含有する水溶液である。オゾン処理工程S36(連続処理工程)は、オゾン含有ガスの複数の気泡を処理液52の下部から上部へ向かって連続的に送出する送出工程、をさらに含んでいる。このような、本方法の態様の1つでは、処理液52において、オゾン含有ガスが上昇し、パルプ繊維及び高吸水性ポリマーが下降する、すなわち、対向流になっている。それにより、パルプ繊維及び高吸水性ポリマーと、オゾン含有ガスとの接触確率を高めることができる。また、パルプ繊維及び高吸水性ポリマーがより深く沈降するほど、より高い濃度のオゾン含有ガスと接触することができる。従って、処理液52における浅いところで接触したオゾン含有ガスだけでは処理液52中に溶解し切れなかった高吸水性ポリマー、ヘミセルロース、リグニン等を、処理液52における深いところで高濃度のオゾン含有ガスと接触させることができる。それにより、高吸水性ポリマー、ヘミセルロース、リグニン等を分解させて、処理液52に溶解させ、パルプ繊維から除去することができる。
【0128】
本実施の形態では、態様の1つとして、上述の送出工程が、オゾン含有ガスを、マイクロバブル又はナノバブルの状態で送出する工程を含んでいる。ただし、マイクロバブルとは、直径が1~1000μm程度、好ましくは10~500μm程度の気泡であり、ナノバブルとは、直径が100~1000nm程度、好ましくは100~500nm程度の気泡をいう。マイクロバブル又はナノバブルは、このように微細な気泡であり、単位体積当たりの表面積が大きく、液中の上昇速度が遅い、という性質を有する。そこで本方法では、態様の1つとして、そのような微細な気泡のオゾン含有ガスを処理槽31の処理液52の下部から上部に向けて送出する。
【0129】
微細な気泡は、パルプ繊維の表面での占有領域が狭いため、より多くの気泡がパルプ繊維の表面に接触できる。それにより、パルプ繊維及び高吸水性ポリマー、並びに連結構造体を微細な気泡で満遍なく包み込むことができ、それらとオゾン含有ガスとの接触面積をより増加させることができる。また、オゾン処理ステップにおいて、パルプ繊維含有物を下降させる場合には、より多くの気泡がパルプ繊維の表面に接触することで、気泡の浮力により、パルプ繊維及び高吸水性ポリマー、並びに連結構造体の沈降性を低下させ、それらとオゾン含有ガスとの接触時間をより増加させることができる。それにより、高吸水性ポリマー、ヘミセルロース、リグニン等を分解させて、処理液52に溶解させ、パルプ繊維から除去することができる。
【0130】
本実施の形態では、態様の1つとして、処理液52は酸性水溶液であり、例えば、pH2.5以下の酸性水溶液である。その場合、パルプ繊維含有物51中の高吸水性ポリマーに部分的に吸水能力が残存していた場合でも、高吸水性ポリマーの吸水膨張を抑制することができる。それにより、高吸水性ポリマーを処理液52に短時間で溶解できて、高吸水性ポリマーをより確実に除去できる。特に、処理液52がオゾン含有水溶液の場合には、オゾン含有水溶液中のオゾンを失活し難くできるので、高吸水性ポリマーをより短時間で酸化分解することができ、ひいてはヘミセルロース、リグニン等を分解させることができる。
【0131】
また、他の好ましい実施の形態として、処理槽31の構成は、
図2以外の他の構成であってもよい。
図3は、
図1のオゾン処理工程の装置2の他の構成例を示す概略図である。
図3の装置2は、
図2の装置2と比較して、オゾン処理部4の配管63が、二つのU字管を互いに逆様かつ連続的に接続した連続U字管構造を有し、送出ポンプ22を省略している点で相違する。その場合、配管63が処理液52で満たされ、かつ、処理槽31内の処理液52の液面の高さが配管63で接続された次工程の槽内の液の液面の高さよりも高い場合、サイフォンの原理により処理液52は配管63を介して次工程の槽へ排出される。従って、処理の開始前に初期的に、処理槽31内の処理液52の液面の高さと次工程の槽内液の液面の高さとを同じにしておくと、処理の開始により、処理槽31内にパルプ繊維含有物51を連続的に第1の流量で供給すると、サイフォンの原理で処理液52は第2の流量=第1の流量で配管63を介して次工程の槽へ排出されることになる。ただし、次工程の槽内の液の液面の高さについては、処理中も処理の開始前の高さを維持するようにする。この場合、送出ポンプ22が不要であり、かつ送出ポンプ22の第2の流量の制御が不要となる。
【0132】
本実施の形態では、分離工程S13は、さらに、処理槽31から排出された処理液52からパルプ繊維原料を分離する第4の分離工程S37と、分離されたパルプ繊維原料を乾燥する第2の乾燥工程S38とを含んでいてもよい。
【0133】
第4の分離工程S37では、処理槽31から排出された処理液52からパルプ繊維原料を分離する方法としては、特に限定されないが、例えば、パルプ繊維原料を含む処理液52を、例えば、目開き0.15~2mmのスクリーンメッシュを通過させる方法が挙げられる。パルプ繊維原料を含む処理液52を目開き0.15~2mmのスクリーンメッシュを通過させると、高吸水性ポリマーの酸化分解物、ヘミセルロースの分解物、リグニンの分解物等を含む排水はスクリーンを通過する。一方、パルプ繊維原料はスクリーン上に残る。
【0134】
続く、第2の乾燥工程S38では、分離されたパルプ繊維原料を、高温の雰囲気又は熱風等で乾燥させる。上記乾燥温度は、例えば、105~210℃が挙げられ、好ましくは110~190℃である。乾燥時間は、乾燥温度にもよるが、例えば、10~120分が挙げられ、好ましくは15~100分である。それにより、パルプ繊維原料の表面に残存する水分が蒸発して除去されて、高吸水性ポリマー混率の極めて低い、純度の高いパルプ繊維原料を回収できる。また、パルプ繊維原料を高温の雰囲気又は熱風等で殺菌(消毒)できる。
なお、続く、繊維複合強化材料製造ステップにおいて、パルプ繊維原料を湿潤状態で用いる場合には、第2の乾燥工程S38を省略することができる。
【0135】
本開示では、パルプ繊維原料は、好ましくは8.0質量%未満、より好ましくは6.0質量%未満、さらに好ましくは5.0質量%未満、さらにいっそう好ましくは4.0質量%未満、そしてさらにいっそう好ましくは3.0質量%未満のヘミセルロース含有率を有する。それにより、繊維複合強化材料が、ヘミセルロースの熱変性物に由来する着色を含みにくくなる。なお、ヘミセルロース含有率の下限は、0.0質量%である。
【0136】
なお、本明細書では、セルロースナノファイバーは、当技術分野でセルロースナノファイバーと称されるものを含むことができる。例えば、上記セルロールナノファイバーの平均繊維径は、好ましくは1~1,000nm、より好ましくは1~300nm、さらに好ましくは1~200nm、そしてさらにいっそう好ましくは1~100nmの平均繊維径を有する。また、上記セルロースナノファイバーは、セルロースミクロフィブリルであってもよい。
上記平均繊維径は、セルロースナノファイバーを電子顕微鏡により撮影し、撮影した画像から無作為に100本のセルロースナノファイバーの直径を測定し、相加平均することにより測定される。
【0137】
本開示では、パルプ繊維原料は、好ましくは0.10質量%以下、より好ましくは0.08質量%以下、そしてさらに好ましくは0.06質量%以下のリグニン含有率を有する。それにより、繊維複合強化材料が、リグニンの熱変性物に由来する着色を含みにくくなる。なお、リグニン含有率の下限は、0.00質量%である。
【0138】
本開示では、パルプ繊維原料は、好ましくは87.0質量%以上、より好ましくは90質量%以上、そしてさらに好ましくは93質量%以上のセルロース含有率を有する。それにより、パルプ繊維原料から、セルロースナノファイバーを含む繊維複合強化材料を簡易に形成しやすくなる。なお、パルプ繊維原料のセルロース含有率の上限は、100.0質量%である。
【0139】
本開示では、パルプ繊維原料における、セルロース含有率、ヘミセルロース含有率及びリグニン含有率は、公知のデタージェント分析法に従って測定することができる。
【0140】
本開示では、パルプ繊維原料は、好ましくは、パルプ繊維原料を構成するセルロースの1級水酸基(-CH2OH基)の少なくとも一部(好ましくは20モル%以上、より好ましくは40モル%以上、さらに好ましくは60モル%以上、そしてさらにいっそう好ましくは80モル%以上)が、好ましくは酸化されておらず、より好ましくはカルボキシル基に酸化されていない。それにより、繊維複合強化材料内において、セルロースナノファイバーが、他のセルロースナノファイバーと、又は樹脂中の極性基と水素結合を形成しやすくなり、繊維複合強化材料の特性、例えば、強度が高くなる傾向にある。
また、上記パルプ繊維原料は、ニトロキシラジカル種、例えば、TEMPO(2,2,6,6-テトラメチルピペリジン1-オキシル)、その酸化物、還元物等を含まないものであることが好ましい。安全性の観点からである。
【0141】
本開示では、パルプ繊維原料が、好ましくは300mL以上、より好ましくは320mL以上、さらに好ましくは340mL以上、そしてさらにいっそう好ましくは360mL以上の叩解度低下速度を有する。それにより、パルプ繊維原料が、続く繊維複合強化材料製造ステップ等において、毛羽立ちやすく、セルロースナノファイバー化しやすくなる。
【0142】
本開示のパルプ繊維原料の製造方法では、パルプ繊維原料が、好ましくは990mL以下、より好ましくは800mL以下、さらに好ましくは700mL以下、そしてさらにいっそう好ましくは600mL以下の叩解度低下速度を有する。そうすることにより、パルプ繊維原料、並びにパルプ繊維原料から形成されるセルロースナノファイバーが損傷することを抑制することができる。
なお、上記叩解度低下速度は、パルプ繊維原料中のヘミセルロース含有率の低さ、リグニン含有率の低さ等により得られるものである。
【0143】
上記叩解度低下速度は、以下の叩解度低下試験に従って測定される。
<叩解度低下試験>
(1)パルプ繊維原料を、JIS P 8221-1:1998のパルプ-叩解方法-第1部:ビーター法に従って、1時間以上、好ましくは2時間叩解する。
(2)叩解開始後、20分毎にサンプルを採取し、JIS P 8121-2:2012のパルプ-ろ水度試験方法-第2部:カナダ標準ろ水度法に従って、各サンプルの叩解度(カナダ標準ろ水度,Canadian Standard freeness)を測定する。なお、サンプルの叩解度が100mLを切った時点で試験をやめてもよい。
(3)横軸に時間(h)、縦軸に叩解度(mL)をプロットし、最小二乗法で一次関数に近似し、その傾きの絶対値を、叩解度低下速度(mL/m)として採用する。
なお、叩解度低下速度は、その値が大きいほど、単位時間当たりの叩解度の低下が速い、すなわち、パルプ繊維原料が、叩解されやすい(毛羽立ちやすい)ことを意味する。
【0144】
上記パルプ繊維原料を、湿式法等によりセルロースナノファイバー化する場合には、上記パルプ繊維原料は、好ましくは20°以下の水接触角を有し、より好ましくは15°以下、そしてさらに好ましくは10°以下の水接触角を有する。それにより、上記製造方法により製造されるパルプ繊維原料を、乾燥させて保管した後、水溶液に簡易に分散させることができる。なお、上記観点からは、上記パルプ繊維原料の水接触角は、0°であってもよい。
【0145】
パルプ繊維原料の水接触角は、以下の通り測定することができる。
(1)温度:20±5℃及び湿度:65±5%RHの恒温恒湿室に、アルミ製リング(外径:43mm,内径:40mm,高さ:5mm)と、120℃で60分乾燥したパルプ繊維原料とを準備し、24時間静置する。
(2)パルプ繊維原料1.5gを、アルミ製リング内に均等に充填し、パルプ繊維原料を、アルミ製リングごと、底面の平滑なプレス機を用いて、3Mpaの圧力で1分間圧縮し、パルプ繊維原料の表面を平滑化する。
(3)圧縮されたパルプ繊維原料の水接触角を、JIS R 3257:1999の「基板ガラス表面のぬれ性試験方法」の6.静滴法に準拠して測定する。接触角測定装置としては、協和界面科学株式会社製自動接触角計CA-V型が挙げられる。上記水接触角は、脱イオン水を滴下後、200ms後の値を意味する。
(4)異なる20のサンプルにおいて水接触角を測定し、それらの平均値を採用する。
【0146】
本開示では、パルプ繊維原料が、好ましくは0.65質量%以下、より好ましくは0.50質量%以下、さらに好ましくは0.30質量%、さらにいっそう好ましくは0.20質量%以下、そしてさらにいっそう好ましくは0.10質量%以下の灰分率を有する。そうすることにより、パルプ繊維原料をセルロースナノファイバー化する際に、金属イオン及びその析出物が設備を痛めにくく、そして金属イオン及びその析出物が、パルプ繊維原料の微細化を阻害しにくくなる。
上記灰分率は、高吸水性ポリマーを不活化する不活化工程S31において、不活化剤として排泄物に含まれる金属イオンと錯体を形成可能な酸、特にクエン酸を選択することにより下げることができる。
【0147】
本明細書では、灰分は、有機質が灰化されてあとに残った無機質又は不燃性残留物の量を意味し、灰分率は、促成すべき資料に含まれる灰分の比率(質量比)を意味する。上記灰分率は、生理処理用品材料規格の「2.一般試験法」の「5.灰分試験法」に従って測定する。具体的には、灰分率は、以下の通り測定される。
(1)あらかじめ白金製、石英製又は磁製のるつぼを、500~550℃で1時間強熱し、放冷後、その質量を精密に量る。
(2)120℃で60分乾燥したパルプ繊維原料2~4gを採取し、るつぼに入れ、その質量を精密に量り、必要ならばるつぼのふたをとるか、またはずらし、初めは弱く加熱し、徐々に温度を上げて500~550℃で4時間以上強熱して、炭化物が残らなくなるまで灰化する。
(3)放冷後、その質量を精密に量る。再び残留物を恒量になるまで灰化し、放冷後、その質量を精密に量り、灰分率(質量%)とする。
【0148】
本実施の形態では、態様の1つとして、オゾン処理工程S36(連続処理工程)の前に、高吸水性ポリマーの吸水性能を不活化可能な水溶液を用いて混合物を処理して、混合物中の高吸水性ポリマーの吸水性能を不活化する不活化工程S31と、オゾン処理工程S36(連続処理工程)の前に、不活化された高吸水性ポリマーと、パルプ繊維とを水溶液から分離する第1の分離工程S32とをさらに備える。このように、本方法では、態様の1つとして、不活化工程S31において、高吸水性ポリマーの吸水性能を不活化可能な水溶液で、高吸水性ポリマーの吸水性能を抑制するので、後工程のオゾン処理工程S36(連続処理工程)の段階で、より容易に、高吸水性ポリマーを処理液52により短時間で溶解できる。
【0149】
本実施の形態では、態様の1つとして、不活化工程S31において、高吸水性ポリマーの吸水性能を不活化可能な水溶液は、酸性水溶液であり、例えば、pH2.5以下の酸性水溶液である。このように、本方法では、態様の1つとして、高吸水性ポリマーの吸水性能を不活化可能な水溶液が酸性水溶液なので、高吸水性ポリマーがより不活化され易く、それにより不活化工程S31の段階で、高吸水性ポリマーの吸水性能をより確実に抑制することができる。それにより、後工程のオゾン処理工程S36(連続処理工程)の段階で、より容易に、高吸水性ポリマーを処理液により短時間溶解できる。
【0150】
また、他の態様の1つとして、処理槽31は、少なくとも互いに直列に連結された第1の処理槽31-1と第2の処理槽31-2とを含んでもよい。
図4は、
図1のオゾン処理工程の装置2の他の構成例を示す概略図である。
図4の装置2は、
図2の装置2と比較して、オゾン処理部4が2個直列に接合されている点、言い換えると、第1の処理槽31-1と第2の処理槽31-2とが直列に接合されている点で相違する。その場合、例えば、第1の処理槽31-1はパルプ繊維含有物51を供給され、第1の処理済み液(第1の処理槽31-1の処理液52-1)を排出し、第2の処理槽31-2は、第1の処理済み液を供給され、第2の処理済み液(第2の処理槽31-2の処理液52-2)を排出する、というようにパルプ繊維含有物51が多段階に処理される。その場合、容量の大きな処理槽31を一個備える場合と比較して、第1、第2の処理槽31-1、31-2ごとに新しい処理液52-1、52-2で処理が行われるので、例えば、第1の処理槽(初段の処理槽)31-1において溶解し切れなかった高吸水性ポリマーを、第2の処理槽(次段の処理槽)31-2において容易に溶解できる等、高吸水性ポリマーをより確実に溶解できて、繊維から除去できる。
【0151】
また、他の態様の1つとして、処理槽31が、エジェクタを備えていてもよい。例えば、上記エジェクタが、駆動流体供給口と、上記処理槽に連接される混合流体吐出口と、それらの間の吸引流体供給口とを備えており、パルプ繊維含有物51をエジェクタの駆動流体供給口に供給しつつ、オゾンを上記吸引流体供給口に供給し、上記エジェクタ内で上記パルプ繊維含有物51及びオゾンを混合されることにより形成された混合液を、上記混合流体吐出口から、上記処理槽内の処理液中に吐出させる。
【0152】
駆動流体としてのパルプ繊維含有物51と、吸引流体としてのオゾンとをエジェクタに供給し、エジェクタ内で混合することで、パルプ繊維含有物51と、オゾンとが非常によく混合された混合流体としての混合液を効率的に形成できる。すなわち、パルプ繊維含有物51と、オゾンとが極めて密接した混合液を形成できる。そして、その混合液を、処理槽内の処理液中に吐出することで、処理液を撹拌することができる。さらに、オゾンは、処理液に吐出されるとき、細かい気泡の状態で連続的に吐出されるので、処理液内で極めて広く拡散できる。それらにより、エジェクタから吐出される混合液中のパルプ繊維含有物51だけでなく、処理槽内の処理液中の高吸水性ポリマーを含むパルプ繊維の両方において、高吸水性ポリマーとガス状物質との反応を極めて効率的に進行させることができる。
【0153】
本実施の形態では、態様の1つとして、さらに材料分離工程S1において、前処理工程S11にて、使用済の衛生用品を、破断等せずにそのままの形状で、かつ高吸水性ポリマーの不活化もせずに水で非常に膨張した状態にできる。それにより、使用済の衛生用品内に非常に高い内圧を生じさせ、その表面のいずれかの箇所がはち切れそうな状態にすることができる。そして、分解工程S12にて、このような状態の使用済の衛生用品に、物理的な衝撃を加えることで、その表面のいずれかの箇所を裂けさせて、内部の吸収コアを外部へ噴出させることができる。それにより、使用済の衛生用品を、少なくともフィルム(液不透過性シート)と、吸収コアとに分解できる。このとき、フィルムは概ね元の形状を維持しているので、その後の分離工程S13において、吸収コアから容易に分離できる。それにより、フィルムのような構成部材を、破断等せずにそのままの形状を維持したまま、他の構成部材から分離できる。従って、衛生用品のフィルムのような構成部材を効率よく回収できる。
【0154】
本実施の形態では好ましい形態として、接着剤の除去にテルペンを用いることで、衛生用品の構成部材を接着するホットメルト接着剤を常温で溶解可能となる。それにより、衛生用品を簡単かつ綺麗にばらけ易くでき、衛生用品から、パルプ繊維及び高吸水性ポリマーを分離し、不織布及びフィルムを、それぞれ別々に部材形態を残したまま分離できる。すなわち、衛生用品を破砕したり、複雑な分離工程を経由したりしなくても容易にパルプ繊維、フィルム、不織布を別々に回収できる。テルペンとしてリモネンを用いた場合、リモネンの副次効果として、柑橘系の爽やかな臭気があるため、排泄物由来の臭気をある程度覆い隠し、作業者の臭気負担、近隣への臭気影響等を低減できる。リモネンは、モノテルペンでスチレンと構造が似ているため、衛生用品に一般的に使用されているスチレン系のホットメルト接着剤を溶解できる。常温で衛生用品の洗浄処理が可能なため、エネルギーコストを低減でき、臭気の発生拡散を抑制できる。テルペンは油汚れ洗浄効果が高く、ホットメルト接着剤の溶解効果以外にも、フィルムに印刷がある場合、その印刷インクも分解除去可能であり、印刷されたフィルムも純度の高いプラスチック素材として回収可能である。
【0155】
また、高吸水性ポリマーの不活化にpH2.5以下の有機酸水溶液を用いた場合には、パルプ繊維を劣化させ難い。また、有機酸としてクエン酸を用いたときは、クエン酸のキレート効果と洗浄力により、排泄物由来の汚れ成分除去効果が期待できる。また、除菌効果とアルカリ性臭気に対する消臭効果も期待できる。
【0156】
さらに、高吸水性ポリマーをオゾンで酸化分解することにより、パルプ繊維へのコンタミ、高吸水性ポリマー吸水による汚水の急激な増加等を防止することが可能である。オゾン濃度を調整することにより、高吸水性ポリマーの酸化分解と殺菌を同時に行うことが可能である。また、オゾンを使用した場合、塩素系薬剤を一切使用しないため、回収されたプラスチックの部材から、燃焼炉を痛め難い高品質のRPFの製造も可能である。処理工程中に塩類を使用していないため、パルプ繊維への残存が無く、低灰分で高品質のパルプ繊維原料が回収可能である。
【0157】
上記繊維複合強化材料製造ステップは、
図1に示されるように、第2の乾燥工程S38において得られた、乾燥したパルプ繊維原料を繊維複合強化材料製造工程に供し、繊維複合強化材料を製造することができ、あるいは第4の分離工程S37において得られた、未乾燥(湿潤状態)のパルプ繊維原料を繊維複合強化材料製造工程に供し、繊維複合強化材料を製造してもよく、あるいはオゾン処理工程S36において得られた、パルプ繊維原料を含む処理液52を繊維複合強化材料製造工程に供し、繊維複合強化材料を製造することができる。
【0158】
上記繊維複合強化材料製造工程は、例えば、上記パルプ繊維原料と、樹脂とを、当技術分野で公知の方法に従って混合することによって実施することができる。上記公知の方法としては、例えば、特許文献2に記載の乾式混合方法が挙げられる。
【0159】
また、上記繊維複合強化材料製造ステップは、
図1に示されるように、パルプ繊維原料、オゾン処理工程S36において得られた、パルプ繊維原料を含む処理液52、オゾン処理工程S36において得られた、パルプ繊維原料を含む処理液52等からセルロースナノファイバーを公知の方法で形成し、当該セルロースナノファイバー及び樹脂を公知の方法で混合し、セルロースナノファイバーを含む繊維複合強化材料を形成することができる。
【0160】
なお、上記セルロースナノファイバーを形成する公知の方法としては、例えば、特開2010-235681号公報、特開2010-254726号公報等に記載の方法、特開2008-248093号公報等に記載されるような、上記パルプ繊維原料を機械的に開繊する方法等が挙げられる。
上記セルロースナノファイバー及び樹脂を混合する公知の方法としては、例えば、特開2012-229350号公報に記載の方法、溶融混練法が挙げられる。
【0161】
上記樹脂としては、当技術分野で維複合強化材料用の樹脂として用いられている物を特に制限なく採用することができ、例えば、合成樹脂(例えば、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂)、非生分解性樹脂、天然樹脂等が挙げられる。
上記熱硬化性樹脂としては、エポキシ、変性エポキシ、不飽和ポリエステル、ポリイミド、ビスマレイミド、メラミン、ユリア等が挙げられる。
上記熱可塑性樹脂としては、ポリオレフィン、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルエーテルケトン等が挙げられる。
【0162】
上記樹脂は、生分解性樹脂であってもよく、そして海洋生分解性樹脂であってもよい。
上記生分解性樹脂としては、ポリ乳酸、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンアジペートテレフタレート、変性ポリエチレンテレフタレート、ポリカプロラクトン、ポリグリコール酸、ポリビニルアルコール、ポリヒドロキシアルカノエート、バクテリアセルロース、キトサン/セルロース/デンプン、酢酸セルロース、エステル化デンプン等が挙げられる。
上記海洋生分解性樹脂としては、例えば、特開2017-132967号公報に記載のポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-co-3-ヒドロキシヘキサノエート)等が挙げられる。
【0163】
上記繊維複合強化材料は、任意の形態、例えば、ペレット、フィルム、繊維、布帛(例えば、不織布、織布、編み物)等でありうる。
【実施例】
【0164】
[製造例1]
介護施設から回収した、使用済の複数種の使い捨ておむつから、
図1及び
図2に示される方法に従って、パルプ繊維原料を製造した。オゾン処理工程S36に関連する条件は、以下の通りであった。
(i)パルプ繊維含有物51
・濃度:1質量%(パルプ繊維及び高吸水性ポリマーの濃度)
・pH:2.4
(ii)処理槽31
・容量:60L
・高さ:2.6m
・第1の流量:2L/分
・第2の流量:2L/分
・槽内処理時間:30分
・V/W:100
・R
O/V:0.033
(iii)オゾン含有ガス
・オゾン濃度:200g/m
3
・形態:ナノバブル
【0165】
不活化工程S31を、pH2.0のクエン酸で行い、上述の条件でオゾン処理工程S36を行い、得られたパルプ繊維原料を120℃で60分乾燥し、パルプ繊維原料No.1を得た。
【0166】
[参考製造例1]
槽内処理時間を、15分に変更した以外は、製造例1と同様にして、パルプ繊維原料No.2を得た。
[比較製造例1]
NBKPのバージンパルプ繊維を、パルプ繊維原料No.3とした。
【0167】
[実施例1,参考例1,及び比較例1]
パルプ繊維原料No.1~No.3のセルロース含有率、ヘミセルロース含有率、リグニン含有率(質量%)、水接触角(°)、灰分率(質量%)、叩解度低下速度(mL/h)、当該叩解度低下試験において所定時間叩解した後の叩解度(mL)とを、本明細書に記載される叩解度低下試験に従って測定した。結果を表1に示す。
【0168】
【符号の説明】
【0169】
31 処理槽
32 パルプ繊維含有物供給口
33 処理液排出口
43 オゾン含有ガス供給口
51 パルプ繊維含有物
52 処理液
53 オゾン含有ガス
S36 オゾン処理工程