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特許7179289過硝酸の濃度検出方法および装置、並びに殺菌用過硝酸の生成装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-18
(45)【発行日】2022-11-29
(54)【発明の名称】過硝酸の濃度検出方法および装置、並びに殺菌用過硝酸の生成装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/48 20060101AFI20221121BHJP
   A61L 2/18 20060101ALI20221121BHJP
   C01B 15/00 20060101ALI20221121BHJP
   C01B 21/20 20060101ALI20221121BHJP
   G01N 27/416 20060101ALI20221121BHJP
【FI】
G01N27/48 311
A61L2/18 102
C01B15/00
C01B21/20
G01N27/416 302G
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2018225975
(22)【出願日】2018-11-30
(65)【公開番号】P2020085868
(43)【公開日】2020-06-04
【審査請求日】2021-10-15
(73)【特許権者】
【識別番号】517132810
【氏名又は名称】地方独立行政法人大阪産業技術研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】100086933
【弁理士】
【氏名又は名称】久保 幸雄
(74)【代理人】
【識別番号】100125117
【弁理士】
【氏名又は名称】坂田 泰弘
(72)【発明者】
【氏名】中島 陽一
(72)【発明者】
【氏名】井川 聡
(72)【発明者】
【氏名】北野 勝久
【審査官】小澤 理
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2018/0217087(US,A1)
【文献】特開2001-013102(JP,A)
【文献】国際公開第2016/035342(WO,A1)
【文献】特開平07-184983(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/48
A61L 2/18
C01B 15/00
C01B 21/20
G01N 27/416
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Scopus
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
過硝酸が金を用いた電極上で酸化されるときに流れる電流を検出し、検出した前記電流の大きさに基づいて当該過硝酸の濃度に関連した濃度信号を得る
ことを特徴とする過硝酸の濃度検出方法。
【請求項2】
前記電極に800~1400〔mV vs Ag/AgCl〕の範囲の電位を与えたときの電流値に基づいて、前記濃度信号を得る
請求項記載の過硝酸の濃度検出方法。
【請求項3】
前記電流の検出のためにポテンショスタットを用い、
前記電極を当該ポテンショスタットにおける作用電極とする、
請求項1または2記載の過硝酸の濃度検出方法。
【請求項4】
前記作用電極の電位の制御のために周期的なパルス電圧を用い、前記濃度信号を周期的に得る
請求項記載の過硝酸の濃度検出方法。
【請求項5】
過硝酸の濃度を検出するための装置であって、
過硝酸が金を用いた電極上で酸化されるときに流れる電流を検出する電流検出手段と、
検出した前記電流の大きさに基づいて当該過硝酸の濃度に関連した濃度信号を出力する濃度検出手段と、
を有することを特徴とする過硝酸の濃度検出装置。
【請求項6】
前記濃度検出手段は、前記電極に800~1400〔mV vs Ag/AgCl〕の範囲の電位を与えたときの電流値に基づいて、前記濃度信号を出力する、
請求項記載の過硝酸の濃度検出装置。
【請求項7】
前記濃度検出手段は、前記電流検出手段により得られる電流に基づき、検量線を用いて較正することにより前記濃度信号を生成して出力する、
請求項5または6記載の過硝酸の濃度検出装置。
【請求項8】
前記濃度検出手段において、前記電流検出手段により得られる電流と比較して過硝酸の濃度を制御するための目標値が設定される、
請求項5ないし7のいずれかに記載の過硝酸の濃度検出装置。
【請求項9】
前記濃度検出手段は、前記電流検出手段により得られる電流が時間経過によって前記目標値よりも低下したときに、濃度低下を検出する、
請求項8記載の過硝酸の濃度検出装置。
【請求項10】
殺菌対象物の殺菌に用いられる過硝酸の生成装置であって、
亜硝酸塩と過酸化物と酸とを混合することにより合成されるpH4.8以下の過硝酸を含んだ過硝酸溶液を収容する混合容器と、
前記混合容器に収容される過硝酸溶液と接触するように配置された金を用いた電極と、
前記過硝酸溶液の過硝酸が前記電極上で酸化されるときに流れる電流を検出する電流検出手段と、
検出した前記電流の大きさに基づいて前記過硝酸の濃度に関連した濃度信号を出力する濃度検出手段と、
前記濃度検出手段により出力された前記濃度信号に応じて前記混合容器内の過硝酸の濃度を調整する制御手段と、
を有することを特徴とする殺菌用過硝酸の生成装置。
【請求項11】
前記混合容器は、当該混合容器に収容される過硝酸溶液に前記殺菌対象物を浸した状態で収容可能である、
請求項10記載の殺菌用過硝酸の生成装置。
【請求項12】
濃度の高い過硝酸溶液を収容する高濃度過硝酸容器と、
前記高濃度過硝酸容器から前記混合容器への過硝酸溶液の流入を制御する第1の制御機構と、
希釈溶媒を供給するための希釈溶媒容器と、
前記希釈溶媒容器から前記混合容器への希釈溶媒の流入を制御する第2の制御機構と、
を有し、
前記制御手段は、前記濃度検出手段により出力された前記濃度信号に応じて、前記第1の制御機構および前記第2の制御機構を制御する、
請求項10または11記載の殺菌用過硝酸の生成装置。
【請求項13】
請求項10ないし12のいずれかに記載の殺菌用過硝酸の生成装置を用いた殺菌装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、過硝酸の濃度検出方法および装置、並びに殺菌用過硝酸の生成装置に関する。本発明の生成装置により生成された殺菌用過硝酸は、医療用器具、食品用容器、食品、その他の物品の殺菌または滅菌、歯科治療時の殺菌または滅菌、胃内の病原性微生物および創傷部位(傷口)の殺菌、滅菌、または消毒、汚水の処理、その他種々の対象物の殺菌のために利用される。
【背景技術】
【0002】
従来より、細菌やウイルスなど種々の微生物に対する殺菌方法として、物理的手法または化学的手法が用いられる。しかし、これらの手法では、殺菌の対象物が極端な物理条件下に曝されるため対象物が限定されたり、残留薬剤を無害化するためのプロセスが必要であるなどの問題があった。
【0003】
本発明の発明者らは、大気圧下において生成できる低温プラズマを用いた殺菌方法を先に提案した(特許文献1)。これは、pHが4.8以下となるように調整された液体の近辺でプラズマを生成し、プラズマにより発生したラジカルを液体に接触させることにより、液体の中に存在する菌を殺菌する方法である。この殺菌方法によると、プラズマ処理液に含まれるヒドロペルオキシラジカル(HOO ・)によって強力な殺菌力が得られる。
【0004】
しかし、例えば歯科治療や医療器具の殺菌消毒にプラズマを用いるためには、医療現場にプラズマ発生装置を設置しかつ種々のガスを導入する管路を設ける必要があり、コスト上およびスペース上の問題が生じる。
【0005】
この問題の解消のために、本発明者らは、殺菌活性が維持されたプラズマ処理液を冷凍状態に保存して医療現場などに運搬し、医療現場において解凍して殺菌活性が維持されたプラズマ処理液に戻して殺菌を行う方法を提案した(特許文献2)。
【0006】
さらに、本発明者らは、その後の実験と研究によって、ヒドロペルオキシラジカル(HOO ・)による強力な殺菌力がどのような物質によってもたらされるのかを明らかにすることに成功した。さらに、その物質を化学反応によって効率的に合成する方法、および合成された物質により強力な殺菌を行うための条件についても知見を得た。
【0007】
それにより、本発明者らは、化学反応によって得られた過硝酸(HOONO2)を含む液体を、pH4.8以下の酸性条件下で、殺菌対象に適用する殺菌方法を提案し、同時に、亜硝酸塩と過酸化物とを混合して過硝酸を合成することを提案した(特許文献3)。
【0008】
この方法によれば、プラズマ発生装置などを用いることなく、プラズマ処理液と同等またはそれ以上の強力な殺菌力を得ることができた。
【0009】
一方、本発明者らは過硝酸の濃度の測定方法について研究を重ね、吸光光度法を用い、過硝酸の酸化力を利用して過硝酸の濃度を測定する方法を、DPD比色定量法として日本分析化学会第77会討論会において発表した。これによると、吸光光度法において、発色試薬としてDPD(N,N-ジエチル-p-フェニレンジアミン) を用いる。
【0010】
さらに、発明者らは、過硝酸の濃度をイオンクロマトグラフ法によって測定することを発表した(非特許文献1)。これによると、カラムを冷却し、溶離液のpHを低くし、UV検出を行い、モル吸光係数の算出を行い、ピーク面積より濃度算出を行う。
【0011】
また、無電解金属または金属合金めっき電解質中の安定化添加剤を制御する方法として、ボルタメトリ方法により電解質中の安定化添加剤の濃度を測定することが提案されている(特許文献4)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】WO2009/041049公報
【文献】WO2013/161327公報
【文献】WO2016/035342公報
【文献】特表2012-510068号公報
【非特許文献】
【0013】
【文献】Y. Nakashima, S. Ikawa, A. Tani, K. Kitano, J. Chromatogr. A 1431 (2016) 89-93.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
さて、上に述べたように、化学反応によって合成した過硝酸を用いて殺菌を行うことにより、小型の簡易な装置によって強力な殺菌力が得られる。過硝酸によって殺菌を行うためには、過硝酸の濃度が所定以上であることが必要である。
【0015】
ところが、化学反応によって過硝酸を合成した場合に、合成された過硝酸はその濃度が急速に低下していく。そのため、高活性殺菌化学種である過硝酸を殺菌に適用するに当たって、殺菌効果を評価するために過硝酸の濃度を常に監視(モニタリング)しておく必要がある。
【0016】
しかし、非特許文献1などで提案された従来の濃度の検出方法では、適度な頻度で過硝酸の濃度を連続的(間欠的)に検出することは困難であり、しかも装置が大がかりとなって操作が複雑で自動化が困難であるので、殺菌を行う際の過硝酸の濃度の監視つまり連続モニタリングには適用できない。
【0017】
また、特許文献4には、電解質中の安定化添加剤の濃度を測定することは開示されているが、生成後に濃度が急速に低下する過硝酸に関しては記載も示唆もない。
【0018】
本発明は、上述の問題に鑑みてなされたもので、適度な頻度で過硝酸の濃度を連続的(間欠的)に検出することができ、殺菌を行う際の過硝酸の濃度の監視に適用できる、過硝酸の濃度検出方法および装置、そのような濃度検出装置を備えた殺菌用過硝酸の生成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明の過硝酸の濃度検出方法は、過硝酸が金を用いた電極上で酸化されるときに流れる電流を検出し、検出した前記電流の大きさに基づいて当該過硝酸の濃度に関連した濃度信号を得る
【0021】
そして、電極に800~1400〔mV vs Ag/AgCl〕の範囲の電位を与えたときの電流値に基づいて、濃度信号を得る。
【0022】
また、電流の検出のためにポテンショスタットを用い、前記電極を当該ポテンショスタットにおける作用電極とする。
【0023】
また、作用電極の電位の制御のために周期的なパルス電圧を用い、各パルス電圧におけるパルス幅の後半のタイミングにおいて前記電流を検出することにより、前記濃度信号を周期的に得る。
【0024】
本発明の過硝酸の濃度検出装置は、過硝酸が金を用いた電極上で酸化されるときに流れる電流を検出する電流検出手段と、検出した前記電流の大きさに基づいて当該過硝酸の
濃度に関連した濃度信号を出力する濃度検出手段と、を有する。
【0025】
本発明の殺菌用過硝酸の生成装置は、亜硝酸塩と過酸化物と酸とを混合することにより合成されるpH4.8以下の過硝酸を含んだ過硝酸溶液を収容する混合容器と、前記混合容器に収容される過硝酸溶液と接触するように配置された金を用いた電極と、前記過硝酸溶液の過硝酸が前記電極上で酸化されるときに流れる電流を検出する電流検出手段と、 検出した前記電流の大きさに基づいて前記過硝酸の濃度に関連した濃度信号を出力する濃度検出手段と、前記濃度検出手段により出力された前記濃度信号に応じて前記混合容器内の過硝酸の濃度を調整する制御手段と、を有する。
【発明の効果】
【0026】
本発明によると、適度な頻度で過硝酸の濃度を連続的(間欠的)に検出することができ、殺菌を行う際の過硝酸の濃度の監視に適用できる、過硝酸の濃度検出方法および装置、そのような濃度検出装置を備えた殺菌用過硝酸の生成装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本発明の実施形態に係る過硝酸の濃度検出装置の構成の例を示す図である。
図2】過硝酸のCV曲線の例を示す図である。
図3】過硝酸の時間経過にともなう電流の変化の例を示す図である。
図4】電位Eの印加方法の例を示す図である。
図5】電位Eの印加方法の他の例を示す図である。
図6】本実施形態の方法による過硝酸の濃度を吸光光度法と比較した図である。
図7】本発明の実施形態に係る殺菌用過硝酸の生成装置の構成の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明の過硝酸の濃度検出方法では、過硝酸の濃度の定量を電気化学的に行う。
【0029】
すなわち、過硝酸が電極上で酸化されるときに流れる電流を検出し、検出した電流の大きさに基づいて当該過硝酸の濃度を検出する。
【0030】
過硝酸が酸化されるときに流れる電流の値は、過硝酸の濃度に比例するので、この電流値を観測することにより、過硝酸の濃度を連続的に監視することが可能となる。つまり、過硝酸の濃度を電流値という電気信号で直接に取り出すことにより、容易に定量性の高い連続モニタリングを行うことが可能となる。
〔化学反応による過硝酸の生成〕
まず、化学反応によって過硝酸(ペルオキシ硝酸)を生成(合成)する方法について簡単に説明する。なお、詳しくは上に述べた特許文献3を参照のこと。
【0031】
すなわち、過酸化物と亜硝酸が反応することによりペルオキシナイトライト(ペルオキシ亜硝酸)が生成され、ペルオキシナイトライトが過酸化物と反応することにより過硝酸が生成される。その場合の化学反応(合成反応)は、過酸化物を過酸化水素とした場合に、次の(1)(2)(3)式で示される。
【0032】
HNO2 + H2 O2 → HOONO + H2 O ……(1)
HOONO + H+ → NO2 + + H2 O ……(2)
NO2 + + H2 O2 → HOONO2 + H+ ……(3)
つまり、(1)式で示されるように、過酸化水素(H2O2)と亜硝酸(HNO2)とが反応することにより、ペルオキシナイトライト(HOONO )が生成される。ペルオキシナイトライトは寿命が短く、(2)式で示されるように、酸性条件下でプロトン(H + )と反応してニトロニウムイオン(NO2 + )と水(H2O )を生成する。また、ニトロニウムイオン(NO2 + )は、寿命が非常に短く不安定であるので、(3)式で示されるように、すぐに過酸化水素と反応して過硝酸(HOONO2)とプロトンとを生成する。ニトロニウムイオン(NO2 + )の寿命は非常に短いので、ペルオキシナイトライトが過酸化水素と反応して過硝酸が生成されるとみることもできる。このような反応が強酸性条件下で進行する。
【0033】
ペルオキシナイトライトは、(1)式のように生成された後、(2)式のように分解される中間体である。これらの反応の過程において、過酸化水素は2回使われるので、過酸化水素は亜硝酸塩に対して2倍の量が必要である。
【0034】
また、過硝酸の分解反応は、次の(4)(5)式で示される。
【0035】
HOONO2 → HNO2 + O2 ……(4)
HOONO2 + HNO2 → 2HNO3 ……(5)
つまり、過硝酸は、(4)式で示されるように、自己分解して亜硝酸を生成する。また、(5)式で示されるように、自己分解して生成した亜硝酸と反応することによっても分解し、硝酸(HNO3)を生成する。このように、過硝酸は、最終的には全て硝酸と酸素とに分解される。
【0036】
このように、過硝酸は、生成された後、その濃度は時間の経過とともに減少して漸近線状に0に近づき、温度にもよるが数十分程度経過すると濃度はほぼ0となる。
【0037】
ところで、上の(1)式において、亜硝酸(HNO2)それ自体は不安定であり、生成されても数分から数時間で消滅するので、市場での入手が不可能である。そのため、実際に過硝酸(HOONO2)を化学合成するためには、亜硝酸塩の溶液を用い、溶液を酸性にすることでその中に亜硝酸を一時的に生成する。つまり、過硝酸の合成のために、亜硝酸塩と酸を用いる。亜硝酸塩と酸を用いることにより、低コストで過硝酸を合成できる。
【0038】
そのための亜硝酸塩の例として、亜硝酸ナトリウム(NaNO2)、亜硝酸カリウム(KNO2) 、亜硝酸カルシウム(Ca(NO2)2) などがある。亜硝酸塩であれば、カチオンの種類は問わない。
【0039】
また、亜硝酸(HNO2)を合成する方法として、二酸化窒素ガス(NO2 )を水溶液に溶解させる方法も用いることができる。また、事前に過酸化物を混合しておいた水溶液に二酸化窒素ガス(NO2 )を溶解させることで過硝酸(HOONO2)を合成することも可能である。
【0040】
また、亜硝酸と過酸化物からペルオキシナイトライトを合成して過硝酸の合成原料とする代わりに、市販のペルオキシナイトライトを用いてもよい。ペルオキシナイトライトは冷凍・塩基性状態で安定であり、冷凍状態での販売が行われているものの、高価なため、上に述べた亜硝酸塩と過酸化水素とを用いて合成する方法が好適である。
【0041】
また、過酸化物の例として、上に述べた過酸化水素(H2O2)の他に、過炭酸(Na2CO3・1.5H2O2 )などが用いられる。過炭酸(過炭酸ナトリウム)は、炭酸ナトリウム(Na2CO3)と過酸化水素(H2O2)とを2対3のモル比で混合した粉末状の物質である。過炭酸に水を加えることにより過酸化水素が生成される。つまり、過炭酸は過酸化水素の供給源であり、過硝酸を用いた場合でも、過硝酸の合成反応における過酸化物は過酸化水素である。しかし、過炭酸は粉末状であるので、実際の過硝酸の合成および合成された過硝酸による殺菌のためには使い勝手がよい。例えば、粉末状の過炭酸をシリンジなどに収容しておき、使用時に水を加えることによって、容易に過酸化水素を生成して使用することができる。
【0042】
また、このように加水分解により過酸化水素を生成することのできる粉末状の物質として、過炭酸の他に、過酸化ナトリウム(Na2O2 )、過酸化カリウム(K2O2)、または過酸化カルシウム(CaO2)などの過酸化物も同様に用いることが可能である。
【0043】
また、過酸化物と亜硝酸塩との反応により過硝酸を生成する際には、pHが2以下の強酸であることが必須条件であり、pHが低いほど過硝酸の合成効率は向上する。つまり、過硝酸の合成のためには、酸性条件がpH<2であることが必須であり、好ましくは、pH=1、pH=0.5、またはpH=0とする。pHが0まで低下すると、合成効率はそれ以上大きくならず、ほぼ一定となる。
【0044】
このような酸性条件を得るために、硝酸、塩酸、硫酸などの酸を用いることができる。これらの酸を、溶液のpHが2以下になるような必要量を混合すればよい。
【0045】
また、過酸化物と亜硝酸塩と酸とを混合する順序については、亜硝酸塩と酸とを先に混合することは避ける必要がある。したがって、過酸化物と亜硝酸塩とを先に混合しまたは過酸化物と酸とを先に混合し、その後に残りの物質を混合するか、全部を同時に混合すればよい。
【0046】
なお、過硝酸の工業的な合成のためには、pHを0に近づけて合成効率を高くすればよい。また、過硝酸はpHが低いほど安定であり、pHが高くなると早く分解してしまう。ただし、pHが0.5以下になると金属の腐食が問題になることがあるので、必要に応じてこの点を考慮すればよい。
【0047】
また、過硝酸を殺菌に使用するにはpHを4.8以下とする必要がある。pHは低いほど殺菌効果が高いが、pHを3程度以下に下げても殺菌効果は余り変わらないので、殺菌に使用する際にはpHを3~3.5程度とするのが実際的である。
【0048】
したがって、過硝酸の合成の際にはpHを2以下とし、例えばpHを0.5~1とし、その状態で保存し、合成された過硝酸を殺菌に使用する際にバッファ液を用いて希釈し、pHを3~3.5に調整することが好ましい。しかし、殺菌対象が材質的に許すのであれば、合成されたpH2以下の過硝酸を、希釈することなくそのまま殺菌に使用することも可能である。
【0049】
次に、本実施形態において、過硝酸の濃度の検出(測定)に用いる濃度検出装置3について説明する。
〔濃度検出装置の構成〕
図1には、本発明の実施形態に係る過硝酸の濃度検出装置3の構成の例が示されている。
【0050】
図1において、濃度検出装置3は、容器10、作用電極11、参照電極12、対極13、ポテンショスタット14、および濃度検出部15などを有する。
【0051】
容器10は、過硝酸溶液ES1を収容する。具体的には、例えば、亜硝酸塩と過酸化物と酸とを混合することにより合成された過硝酸、または合成後にpHを4.8以下にした過硝酸を、過硝酸溶液ES1として収容する。
【0052】
作用電極11、参照電極12、および対極13は、電気化学測定における三電極法で用いられる電極である。これらの電極は、容器10の内部に配置され、容器10に収容された過硝酸溶液ES1と接触する。
【0053】
ポテンショスタット14は、参照電極12に対する作用電極11の電位を制御する。後で述べる作用電極11の電位Eも、参照電極12に対する電位である。作用電極11に与える電位の波形として、連続波形、掃引波形、パルス波形などとすることができる(図4を参照)。ポテンショスタット14は、また、作用電極11の電位を測定する機能も有する。
【0054】
また、ポテンショスタット14は、作用電極11と対極13との間に流れる電流(ファラデー電流)Iを検出する機能を有する。ポテンショスタット14は、電流Iに基づいた電流検出信号S1を出力する。電流検出信号S1は、例えば、電流Iに比例した大きさの電圧信号であってもよい。
【0055】
濃度検出部15は、電流検出信号S1に基づいて過硝酸の濃度CTaを検出し、濃度CTaに関連した濃度信号S2として出力する。濃度信号S2として種々の形態が可能である。濃度検出部15は、本明細書で説明する機能および濃度CTaの検出方法または検出原理などに基づき、適当な電子回路、回路素子、機能部品、測定機器などを用い、種々の機能を有する構成とすることができる。
【0056】
例えば、濃度検出部15は、電流検出信号S1をそのまま濃度信号S2として出力する。つまり、電流検出信号S1は電流Iに基づいているので、電流Iと濃度CTaとの関係が分かっている場合には、電流検出信号S1によって濃度CTaに関する情報を得て必要な制御を行うことができる。
【0057】
これの一例として、過硝酸が所定の設定された濃度CTsとなるように制御したい場合に、そのような濃度CTsに対応する電流Iの値を目標値Isとして設定しておき、濃度信号S2である電流検出信号S1によって得られる電流Iと目標値Isとを比較して制御を行えばよい。
【0058】
また、電流Iが過硝酸による酸化電流Ipのみでなく、他の要因による電流成分が含まれており、他の要因による電流成分が分かっている場合には、電流Iから他の要因による電流成分を差し引いて、過硝酸による酸化電流Ipのみに基づいて濃度信号S2を生成し出力してもよい。この場合に、過硝酸による酸化電流Ipは、過硝酸の濃度CTaに比例するので、そのような濃度信号S2は過硝酸の濃度CTaに比例することとなる。
【0059】
また、例えば、濃度検出部15は、電流検出信号S1を適当な電圧レベルとなるよう増幅する増幅回路、電圧レベルを調整しまたは校正するための調整回路、適当な出力インピーダンスを持った出力回路などを備えてもよい。この場合は、濃度検出部15における総合利得Gに応じて、電流Iまたは電流検出信号S1が濃度信号S2に変換されるので、総合利得Gを考慮して制御を行えばよい。
【0060】
また、その場合に、調整回路において、電流Iと濃度CTaとの関係に基づいて、例えば検量線を用いて電流検出信号S1を較正するようにしておけばよい。検量線を用いて較正することにより、電流検出信号S1を濃度CTaに変換することが可能であり、濃度CTaそのものまたは濃度CTaに比例した値を示す濃度信号S2得ることができる。
【0061】
なお、過硝酸による酸化電流Ipは、過硝酸の温度、pHなど種々のパラメータの影響を受けるので、それらのパラメータを管理しておく必要がある。
【0062】
いずれの場合も、濃度信号S2に基づいて、過硝酸溶液ES1の濃度CTaの連続モニタリングを行うことが可能である。
【0063】
さて、作用電極11は、過硝酸溶液ES1と反応が行われる電極であり、電極20および絶縁材21からなる。電極20は、この電極上で過硝酸が酸化されるものであり、その材料として本実施形態では棒状の金が用いられる。金は、酸化され難く、また、酸化に対する触媒能を有する可能性がある。
【0064】
作用電極11の材料としての金は、発明者らの実験において、後で述べる過硝酸のCV曲線においてピークが得られた唯一の材料であった。作用電極11の材料として白金および黒鉛を試したが、CV曲線におけるピークは得られなかった。つまり、電気化学的に過硝酸の濃度を検出するための作用電極11の材料として、金が唯一の優れた材料であることが分かった。
【0065】
絶縁材21として、ガラスまたはエポキシ樹脂などが用いられる。
【0066】
参照電極(基準電極)12は、作用電極11の電位を測定・制御するためのものである。参照電極12として、ここでは、銀-塩化銀(Ag/AgCl)電極が用いられる。標準水素電極(SHE)、その他の電極を用いることも可能である。
【0067】
参照電極12は、連絡部31aを有した容器31、容器31の内部液32、および内極33からなる。内極33は、例えば銀線を塩化銀で覆ったものである。内部液32は、塩化物溶液である。
【0068】
対極(補助電極)13は、作用電極11との間で電流Iが流れる電極である。つまり、作用電極11において酸化反応が行われる場合に、対極13において還元反応が行われ、これらの間に電流Iが流れる。なお、参照電極12にはほとんど電流が流れない。対極13の材料として、十分な面積を有する白金が用いられる。
【0069】
なお、作用電極11、参照電極12、対極13として、上に述べた構成、構造、または形状以外のものを用いることも可能である。ポテンショスタット14として、公知のものを用いることが可能であり、また、同様の機能を有する電気回路を構成して用いてもよい。また、濃度検出装置3として、二電極系のものを用いることも可能である。
〔過硝酸の濃度の検出〕
次に、過硝酸の濃度の検出方法(測定方法)について説明する。
【0070】
電気化学的な測定法であるボルタンメトリー(Voltammetry )では、電位差を制御して電流を測定することにより、電極表面での電子移動つまり化学反応を観測する。これは電極表面と接しないバルクでの反応とは異なる。電子の移動量は物質量、ここでは過硝酸の濃度に比例する。したがって電流の測定によって濃度の定量が可能である。
【0071】
電極表面での電子の授受は、電極表面に存在する物質に依り、電流値は電極表面への物質輸送量に依存する。電極表面での電子の移動は、一般に拡散に比べ十分速く、一定電位である場合に電流値は拡散律速により一定値に収束する。掃引により電位を素早く変化させることにより、電極表面の物質が酸化され、無くなってしまう。そのため、電流値が減少し、これにより電流はピークを示す。
【0072】
なお、従来において、過硝酸の電気化学的性質はほとんど知られていなかった。前述のとおり、発明者らは過硝酸を電極酸化する上で必須である金電極を見いだし、過硝酸の酸化電位を初めて明らかにした。過硝酸が電極上で酸化されるときの化学反応は次の(6)式のようであると推測される。
【0073】
HOONO2 → NO2 + O2 + H+ + e ……(6)
つまり、過硝酸は二酸化窒素と酸素とに分解され、電子が放出される。これを酸化電流Ipとして検出する。
【0074】
なお、理論的には、電極反応にH+ が関与する場合、pHと反応電子数の比が1変わると、可逆な電極反応では酸化還元電位が約60mVずれる。不可逆な電極反応ではずれ幅はこれよりも小さくなる。上の(6)式のとおり、過硝酸の電極酸化ではH+ の関与が予測されるので、酸化電位はpHが低くなるほど高くなる。
【0075】
図2には濃度検出装置3で測定された過硝酸のCV曲線の例が、図3には過硝酸の時間経過にともなう電流の変化の例が、図4には本発明の実施形態における電位Eの印加方法の例が、それぞれ示されている。
【0076】
図2および図3は、過硝酸希釈液である過硝酸溶液ES1の濃度検出装置3による電気化学的分析結果を示している。ここでの過硝酸溶液ES1は、亜硝酸塩と過酸化物と酸とを混合して得られた過硝酸に、クエン酸をバッファ液として加えて希釈することにより、pHを3.4に調整し、温度を20℃に調整したものを用いている。
【0077】
図2において、横軸は作用電極11の電位E〔mV vs Ag/AgCl〕であり、縦軸は電流I〔mA〕である。作用電極11の電位Eとして、図4(B)に示す掃引波形を用いた。詳しくは、初期電位を700、折り返し電位を1600とし、この電位Eの間において、掃引速度(走査速度)を100〔mV/sec〕とし、増大方向を8secで、減少方向を8secで、それぞれ掃引(走査)したときのCV(Cyclic Voltmmogram)曲線が示されている。
【0078】
図2においては、電位Eの掃引を、過硝酸を合成した後、予め決めた設定時間Ts〔min〕が経過するごとに行った。設定時間Tsは、3、8、15、24、51とした。これによって、複数のCV曲線が得られた。図2において、各CV曲線についての設定時間Tsを、数字で示した。なお、時間の経過とともに電流Iは減少するので、掃引の増大方向および減少方向のCV曲線のそれぞれにおいて、設定時間Tsのより小さいものが縦軸方向の上方となり、設定時間Tsのより大きいものが縦軸方向の下方となるよう、それぞれ順に並んで現れている。
【0079】
図2において、作用電極11の電位Eが700近辺のときは、電流Iはほぼ0である。電位Eの増大にともなって電流Iが増大し、電位Eが1200~1300近辺で電流Iのピークが得られる。ピークの後、電流Iは減少し、電位Eが1400近辺のときから電流Iは再び増大に転じる。電位Eをその折り返し点から減少させると、電流Iは電位Eが低下するに応じて減少し、電位Eが1100近辺よりも低下すると電流Iはほぼ0となっている。
【0080】
このように、過硝酸の合成後の経過時間(設定時間Ts)のいずれにおいても、電位Eが1200~1300近辺であるときに電流Iのピークが得られる。この電流Iのピークは、作用電極11における過硝酸の酸化による電流であり、過硝酸の濃度CTaと相関する大きさを示すものである。
【0081】
ただし、設定時間Tsが51のときのCV曲線では、時間の経過によって過硝酸は既に消失しているはずであるので、このときの電流Iは作用電極11の金の酸化によるものと考えられる。また、電流Iには過酸化水素の酸化による電流など、他の要因による電流成分が含まれている可能性がある。ただし、過硝酸の酸化電流Ipと濃度CTaとは比例するので、電流Iには過硝酸の濃度CTaに比例する成分が含まれている。
【0082】
これらのCV曲線において、電位Eが1200~1300近辺であるときの設定時間Tsに応じた電流Iの変化の割合(比率)と、電位Eが800~900近辺であるときの設定時間Tsに応じた電流Iの変化の割合(比率)とは、互いに同じである。つまり、CV曲線における電位Eが800~1300近辺の範囲での設定時間Tsに応じた電流Iの変化の割合(比率)は、どのような電位Eであっても濃度CTaの変化と同じ割合(比率)で対応している。
【0083】
他方、電位Eが1200近辺では、電流Iの差が大きいので検出の感度が高いが、雑音の影響が大きい。また、電位Eが高いほど温度による影響が大きい。
【0084】
したがって、できるだけ過硝酸のみによって電流Iが流れる電位E、または電流Iに含まれる雑音の影響ができるだけ少ない電位Eを、過硝酸の濃度CTaの検出に用いるのが好ましいといえる。
【0085】
例えば、合成された過硝酸溶液には過酸化水素が共存する場合がある。過酸化水素による電流Iの影響は、電位Eが高いときに大きくなるので、できるだけ電位Eが低いときのCV曲線の電流Iを用いた方が、過硝酸の濃度CTaをより正確に検出できる。
【0086】
これらの点を勘案すると、電位Eが800~900近辺では、電流Iの差は小さいが、雑音が少なく安定している。温度による影響が小さく、過酸化水素による影響が少ない。また、電位Eが800以下では電流Iの有意な差がでてこない。このことから、電位Eが800~900で検出した電流Iを用いて過硝酸の濃度CTaを検出することが好ましいといえる。
【0087】
この場合に、例えば、電位Eを、800、810、820、850、または900などとして電流Iを検出する。また、例えば、電位Eを800~900の間で所定の速度で掃引し、その間の所定のタイミングで電流Iを検出する。また、例えば、次に述べるようなパルス電圧を用いる。
【0088】
なお、pHが低くなると酸化電位が高くなるので、図2の場合のpH3.4よりもpHが低くなると、濃度CTaの変化と同じ割合で対応する電位Eは高い方へずれる。そのため、pHによっては、電極に800~1400〔mV vs Ag/AgCl〕の範囲の電位を与えたときの電流値に基づいて濃度を検出することとなる。
【0089】
図3において、横軸は経過時間Time〔min〕であり、縦軸は電流I〔mA〕である。作用電極11の電位Eとして、図4(C)に示すような周期的なパルス電圧PD1を用いた。
【0090】
すなわち、パルス電圧PD1におけるローレベルを400とし、ハイレベルを800または1200の電位Eとし、それぞれの電位E(=800、1200)において、オン時間0.5sec、オフ時間4.5sec、周期5sec、デューティ比10パーセントのパルス電圧PDを繰り返して印加した。電流Iの検出は、例えば各パルス電圧PD1の中央のタイミングにおいて行った。これにより、電流Iを周期的に検出した。このようなパルス電圧PD1を用いることにより、5secごとに電流Iを検出できることとなる。つまり、5secごとに電流検出信号S1を出力することができる。
【0091】
また、図4(D)に示すような周期的なパルス電圧PD2を用いてもよい。
【0092】
すなわち、パルス電圧PDにおけるローレベルを400とし、それぞれの電位E(=800、1200)において、オン時間5sec、オフ時間5sec、周期10sec、デューティ比50パーセントのパルス電圧PD2を繰り返して印加する。電流Iの検出は、各パルス電圧PD2におけるパルス幅の後半のタイミングtsにおいて行えばよい。タイミングtsは、パルス電圧の立ち上がりから例えば4secである。短いパルス電圧であってもパルス幅の後半であれば電流Iが安定し易い。このようなパルス電圧PD2を用いた場合には、10secごとに電流Iを検出できることとなる。つまり、10secごとに電流検出信号S1を出力することができる。
【0093】
なお、パルス電圧PDのパルス幅として、5~1000msec、周期として0.5~10sec程度とすることも可能である。パルス電圧PDの周期を短くすることにより、電流Iを検出する周期、つまり検出間隔を短くすることができる。
【0094】
また、異なる電位Eの複数のパルス電圧PDを用いることも可能である。
【0095】
つまり、例えば図5(A)に示すように、電位Eが800のパルス電圧PD3と電位Eが1200のパルス電圧PD4とを、所定の周期で交互に印加する。図におけるパルス電圧PD3、4の周期は、それぞれ5secである。この場合には、5secごとに2つの電位Eについての電流Iを検出することができる。
【0096】
これによると、図5(B)に示すように、電位Eが800、1200のそれぞれの場合についての電流Iを同時に検出することができる。
【0097】
パルス波形を用いた場合は、電極20の表面に生成される酸化物がパルス電圧が出力されるごとにクリアされるので、長時間にわたって電極表面の清掃が不要となる利点がある。
【0098】
なお、図4(A)における連続波形の場合には、例えば電位Eを0から800に立ち上げ、その状態を維持する。この連続波形を用いた場合には、電流Iが連続的に検出できるが、電極表面に酸化物が徐々に溜まってくるので、適当な時間ごとに電極表面を清掃する必要がある。
【0099】
図3には、電位Eが800、1200のそれぞれの場合について、時間経過にともなって検出された電流Iがプロット図として示されている。図3によると、時間の経過とともに電流Iが減少していること、電流Iの値はある値に漸近線状に近づき、時間が十分に経過したらある値に収束することが読み取れる。電流Iが収束する値は、上に述べた他の要因による電流成分に相当するので、これを差し引いたものが過硝酸による正味の酸化電流Ipとなり、これが過硝酸の濃度CTaに比例する。
【0100】
これらのプロット図について、例えば適当なモデルを用いた回帰分析などを行うことにより、それぞれの電位Eにおける経過時間Timeと電流Iとの関係を求めることが可能である。例えば、曲線回帰により近似曲線または近似曲線の式を求めることが可能である。
〔本実施形態の電気化学的な濃度の検出方法と従来の検出方法との比較〕
次に、濃度検出装置3により電流Iを電気化学的に検出して過硝酸の濃度CTaを検出する本実施形態の検出方法と、従来の吸光光度法を用いた濃度の検出方法との比較について説明し、それらの方法による検出結果が一致することを示す。
【0101】
図6には本実施形態の検出方法による過硝酸の濃度CTaを吸光光度法と比較した図が示されている。
【0102】
図6において、横軸は経過時間Time〔min〕であり、右側の縦軸は吸光光度法による吸光度であり、左側の縦軸は濃度検出装置3で検出した電流Iの較正値である。ここでの過硝酸溶液ES1は、pHを3.2に調整し、温度を30℃に調整したものである。
【0103】
図6において、従来の検出方法である吸光光度法によって得られた吸光度が白丸によるプロット図Aaとして示され、その近似曲線が曲線Abで示されている。
【0104】
また、本実施形態の検出方法である、濃度検出装置3により検出された電流Iの較正値が較正電流Iaとして示され、その近似曲線が曲線Ibで示されている。なお、較正電流Iaは、電位Eを800としたときの電流Iに基づく。また、電極反応の濃度依存性が考慮されている。
【0105】
従来の検出方法での半減時間は1.5〔min〕であり、本実施形態の検出方法での半減時間は1.8〔min〕であった。
【0106】
図6において、プロット図Aaと較正電流Ia、および曲線Abと曲線Ibは、それぞれ概ねよく一致しており、本実施形態の検出方法によって過硝酸の濃度を検出し定量できることが分かる。
【0107】
なお、較正電流Iaの左端近辺は正しく検出されていないが、検出における条件を旨く設定することで正しく検出できる範囲を広げることが可能である。
【0108】
このように、電流Iを検出することにより、検出した電流Iの大きさに基づいて過硝酸の濃度CTaを検出し定量することができる。
【0109】
その場合に、統計学的な回帰分析などにより、電流Iから過硝酸による正味の酸化電流Ipを導くための関係式、電流Iまたは酸化電流Ipと濃度CTaとの関係式などを導いて、濃度検出部15がそれらの関係式に基づく演算を行うようにしておくことも可能である。また、検量線などを用いて電流Iと濃度CTaとの関係を示す換算表またはテーブルを作成し、検出された電流Iなどから換算表またはテーブルを参照して濃度CTaを求めるようにしておくことも可能である。
【0110】
なお、図6に関して、電極上での電子授受が遅い化合物は、電気化学的に不可逆であると呼ばれ、その濃度と電流値の関係が直線とならないことがほとんどである。過硝酸は電気化学的に不可逆な化合物である。したがって、過硝酸分解が遅い低温(5℃)で、過硝酸濃度とその電流値の関係を調べて求めた二次の回帰曲線を、図6の元データに適用して較正(補正)を行っている。
〔殺菌用過硝酸の生成装置の構成〕
次に、殺菌用過硝酸の生成装置1について説明する。
【0111】
図7には本発明の実施形態に係る殺菌用過硝酸の生成装置1の構成の例が示されている。
【0112】
図7において、殺菌用過硝酸の生成装置1は、濃度の高い過硝酸溶液ES2を収容する容器41、希釈溶媒を供給するための容器42、殺菌用の過硝酸溶液ES3を収容する容器(殺菌槽)43、管路を開閉するための制御弁51,52,53、ポテンショスタット14B、および制御装置5などを有する。
【0113】
また、図示は省略したが、生成装置1には、過硝酸溶液ES3の温度を調節するための加熱器または冷却器、過硝酸溶液ES3の温度、pH、量、液位などを検出するための種々のセンサーなどが設けられる。
【0114】
容器43には、作用電極11B、参照電極12B、対極13B、および攪拌機54が設けられ、殺菌用過硝酸である過硝酸溶液ES3が収容される。作用電極11B、参照電極12B、および対極13Bは、過硝酸溶液ES3と接触し、図1において説明した作用電極11、参照電極12、および対極13と同様な機能を果たす。
【0115】
また、容器43には、医療器具などの殺菌対象物TBが投入され、殺菌対象物TBが過硝酸溶液ES3に浸した状態で収容される。容器43の容量は、例えば医療器具などの殺菌のためには10~20リットル程度である。
【0116】
なお、容器41には、過硝酸溶液ES2として例えば化学反応によって合成された濃度の高い過硝酸を含む溶液が、容器42には、希釈溶媒として例えばクエン酸を含むバッファ液が、収容される。
【0117】
制御弁51,52,53として、電磁弁または電動弁を用いることができる。ここでは管路を開閉する2方向電磁弁が用いられる。また、単なる開閉制御弁ではなく、流量制御弁を用いてもよい。制御弁51,52,53は、適当な配管によって所定の機器と接続される。
【0118】
ポテンショスタット14Bは、図1で説明したポテンショスタット14と同様な機能を有し、電流検出信号S1を出力する。つまり、過硝酸溶液ES3の過硝酸が電極上で酸化されるときに流れる電流Iを検出する。
【0119】
攪拌機54は、容器43内において過硝酸溶液ES3の温度、pH、濃度が均一になるよう攪拌する。
【0120】
制御装置5は、濃度検出部16、濃度設定部17、表示部18、および制御部19を有する。
【0121】
濃度検出部16は、図1で説明した濃度検出部15と同様の機能を有し、ポテンショスタット14Bからの電流検出信号S1に基づいて濃度信号S2を出力する。つまり、検出された電流Iの大きさに基づいて、過硝酸溶液ES3における過硝酸の濃度CTaを検出する。
【0122】
また、濃度検出部16は、検出された濃度CTaが濃度設定部17で設定された設定濃度CTsよりも低下したときに、濃度低下を示す濃度低下信号S3を出力する。
【0123】
濃度設定部17は、過硝酸溶液ES3において目標とすべき過硝酸の濃度を設定濃度CTsとして設定する。設定濃度CTsは、例えば、過硝酸溶液ES3による殺菌を行う場合に、殺菌が有効に行われる限界の濃度、または、殺菌が効果的または効率的に行われる好ましい範囲の濃度である。具体的には、例えば0.5~20〔mmol/L〕の範囲の値を設定濃度CTsとして設定する。好ましくは、2〔mmol/L〕以上の値を設定濃度CTsとして設定する。
【0124】
表示部18は、電流検出信号S1および濃度信号S2の内容、目標濃度CTs、現在の濃度CTa、または濃度CTaの推移、電流I、電位E、過硝酸溶液ES3の温度、pH、その他必要な事項を表示する。濃度低下信号S3が出力された場合には、その旨を表示する。
【0125】
制御部19は、電流検出信号S1、濃度信号S2、濃度低下信号S3、各種センサーからの信号、その他の情報などに基づいて、制御弁51,52,53の開閉制御を始めとして、制御装置5および生成装置1の各部および全体を制御する。
【0126】
例えば、制御弁51を開状態とすることにより、容器41内の過硝酸溶液ES2が容器43内に流入する。制御弁52を開状態とすることにより、容器41内の希釈溶媒が容器43内に流入する。制御弁53を開状態とすることにより、容器43内の過硝酸溶液ES3が外部に排出される。
【0127】
したがって、例えば、過硝酸溶液ES3の濃度が低下したときに、制御弁53を開状態として濃度の低下した過硝酸溶液ES3の一部を外部に排出するとともに、制御弁51を開状態として濃度の高い過硝酸溶液ES2を容器43内に追加する。このようにして容器43内の過硝酸溶液ES3の濃度CTaを調整する。また、pHが4.8以下、例えばpHが3~3.5となるよう、制御弁52を開状態として希釈溶媒の量を調整する。
【0128】
このような調整および制御は、濃度信号S2に応じて、または濃度低下信号S3に基づいて、自動的に行うことが可能である。
【0129】
このような制御部19または制御装置5として、制御用コンピュータまたはパーソナルコンピュータなどを用いることができる。これらのコンピュータによって、必要な演算、信号処理、データ処理、画像処理、信号の生成、信号の入出力、表示のための制御などを行えばよい。
【0130】
次に、殺菌用過硝酸の生成装置1の動作について説明する。なお、生成装置1は、殺菌に適した過硝酸溶液ES3を生成し、過硝酸溶液ES3に浸した殺菌対象物TBを殺菌することができる。つまり、生成装置1は、殺菌対象物TBを対象とした殺菌装置でもある。
【0131】
制御弁51、52を開閉制御して過硝酸溶液ES2および希釈溶媒を容器43内に流入させ、容器43内の過硝酸溶液ES3が、所定の量、温度、pHとなるように制御する。また、濃度検出部16において、過硝酸溶液ES3における過硝酸の濃度CTaが設定濃度CTs以上であることを確認する。その後、殺菌対象物TBを過硝酸溶液ES3に浸るように容器43内に投入し、所定の時間の後、容器43から引き上げ、次の殺菌対象物TBを容器43内に投入する。この間において、制御装置5は、常に過硝酸溶液ES3における過硝酸の濃度CTaを監視する。
【0132】
もし濃度低下信号S3が出力された場合には、その旨を表示部18に表示し、警報音を鳴らし、回復のための必要な処理動作を行う。
【0133】
例えば、制御弁51を開いて過硝酸溶液ES2を追加し、過硝酸の濃度CTaを高める。この場合に、同時に制御弁53を開いて過硝酸溶液ES3の一部を排出してもよい。または、制御弁53を開いて過硝酸溶液ES3の全部を排出し、その後に制御弁51、52を開いて新たに過硝酸溶液ES2および希釈溶媒を容器43内に流入させてもよい。このようにして過硝酸溶液ES3の過硝酸の濃度CTaを調整する。
【0134】
このように、本実施形態の殺菌用過硝酸の生成装置1によると、殺菌に適した過硝酸溶液ES3が生成され、過硝酸の濃度CTaの連続モニタリングが行われる。つまり、適度な頻度で過硝酸の濃度を連続的に検出することができ、殺菌を行う際の過硝酸の濃度の監視が行える。
【0135】
上に述べた実施形態においては、電流検出手段としてポテンショスタットを用いたが、これに代えてガルバノスタットを用いてもよい。ガルバノスタットは、電流を設定し制御して電圧を出力する。例えば、電流Iを1.5〔mA〕に設定すると、1100〔mV〕近辺の電圧が出力され、電圧が時間の経過とともに増大する。所定以上の時間が経過すると、過硝酸の濃度が低下して過硝酸は消失し、過酸化水素による電圧が現れる。ガルバノスタットでの電流Iの検出は離散的となる。また、電流検出手段としてこれら以外の種々の機器または回路を用いてもよい。
【0136】
上に述べた実施形態において、図4(C)(D)または図5(A)に示すような周期的なパルス電圧を用いる場合に、1つのパルス電圧について電流Iの検出を複数回行ってもよい。これによって電流Iを検出する間隔を短くすることができる。その場合に、オフ時間を短くしオン時間を長くすることにより、電流Iの検出の間隔を均等にすることが可能である。
【0137】
上に述べた実施形態において、制御弁51、52を用いて容器43への過硝酸溶液ES2または希釈溶媒の流入を制御したが、これに代えて、流量可変形のポンプなどを用い、ポンプの吐出流量(流速)または駆動時間などを制御することによって過硝酸溶液ES2または希釈溶媒の流入を制御してもよい。つまり、第1または第2の制御機構としてポンプなどを用いてもよい。制御弁53についても同様である。なお、これらの他に、管路の流量を調整するための流量制御弁、絞り弁、圧力制御弁などを適所に用いてもよい。
【0138】
上に述べた実施形態において、作用電極11、参照電極12、対極13、ポテンショスタット14,14B、濃度検出部15,16、濃度設定部17、表示部18、制御部19、制御装置5、各種センサー、および濃度検出装置3や生成装置1などの全体または各部の構成、構造、形状、寸法、個数、材料、配置、タイミングなどは、本発明の主旨に沿って適宜変更しまたは組み合わせることができる。
【符号の説明】
【0139】
1 殺菌用過硝酸の生成装置(殺菌装置)
3 濃度検出装置
5 制御装置(制御手段)
11,11B 作用電極(電極)
14,14B ポテンショスタット(電流検出手段)
15,16 濃度検出部(濃度検出手段)
17 濃度設定部
19 制御部(制御手段)
43 容器
S1 電流検出信号
S2 濃度信号
S3 濃度低下信号
PD パルス電圧
E 電位
I 電流
Ip 酸化電流(電流)
CTa 濃度
CTs 設定濃度
TB 殺菌対象物
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7