(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-18
(45)【発行日】2022-11-29
(54)【発明の名称】粉末の製造方法、溶融成形体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08J 3/12 20060101AFI20221121BHJP
C08J 5/00 20060101ALI20221121BHJP
【FI】
C08J3/12 Z CER
C08J5/00 CEZ
(21)【出願番号】P 2018146909
(22)【出願日】2018-08-03
【審査請求日】2021-03-01
(73)【特許権者】
【識別番号】320011650
【氏名又は名称】大陽日酸株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】弁理士法人志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】幸田 祥人
(72)【発明者】
【氏名】高田 克則
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 弘
【審査官】横山 敏志
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/066706(WO,A1)
【文献】特開2014-034591(JP,A)
【文献】国際公開第2012/107991(WO,A1)
【文献】特開2015-214450(JP,A)
【文献】国際公開第2006/132254(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J3/00-5/02
5/12-5/22
99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱溶融性樹脂と導電性フィラーとを有する複合樹脂を含む粉末の製造方法であって、
前記熱溶融性樹脂を含む原料粉末と前記導電性フィラーと前記原料粉末及び前記導電性フィラーが分散される分散媒と前記導電性フィラーを前記分散媒に分散させる分散剤とを混合して分散液を調製し、
前記分散液から前記分散媒を除去し、前記複合樹脂と前記分散剤とを含む中間粉末を回収し、
前記中間粉末から前記分散剤を除去する、粉末の製造方法
であって、
前記中間粉末から前記分散剤を除去する際に、前記分散剤を溶解する溶媒に前記中間粉末を浸漬し、
前記溶媒の表面張力と前記中間粉末の表面張力との差が、前記分散媒の表面張力と前記原料粉末の表面張力との差以上である、粉末の製造方法。
【請求項2】
熱溶融性樹脂と導電性フィラーとを有する複合樹脂を含む粉末の製造方法であって、
前記熱溶融性樹脂を含む原料粉末と前記導電性フィラーと前記原料粉末及び前記導電性フィラーが分散される分散媒と前記導電性フィラーを前記分散媒に分散させる分散剤とを混合して分散液を調製し、
前記分散液から前記分散媒を除去し、前記複合樹脂と前記分散剤とを含む中間粉末を回収し、
前記中間粉末から前記分散剤を除去する、粉末の製造方法
であって、
前記中間粉末から前記分散剤を除去する際に、前記中間粉末に前記分散剤を溶解する超臨界流体を供給する、粉末の製造方法。
【請求項3】
前記超臨界流体は、温度が31.1℃以上であり、圧力が72.8気圧以上である二酸化炭素であり、前記超臨界流体の供給量が、前記中間粉末に含まれる前記分散剤1mgに対して0.25g/min以下である、請求項
2に記載の粉末の製造方法。
【請求項4】
熱溶融性樹脂と導電性フィラーとを有する複合樹脂を含む粉末の製造方法であって、
前記熱溶融性樹脂を含む原料粉末と前記導電性フィラーと前記原料粉末及び前記導電性フィラーが分散される分散媒と前記導電性フィラーを前記分散媒に分散させる分散剤とを混合して分散液を調製し、
前記分散液から前記分散媒を除去し、前記複合樹脂と前記分散剤とを含む中間粉末を回収し、
前記中間粉末から前記分散剤を除去する、粉末の製造方法
であって、
前記中間粉末から前記分散剤を除去する際に、前記中間粉末を熱処理する、粉末の製造方法。
【請求項5】
前記中間粉末を熱処理する際の圧力が、大気圧以下である、請求項
4に記載の粉末の製造方法。
【請求項6】
請求項1~
5のいずれか一項に記載の製造方法で前記複合樹脂を含む粉末を製造し、
前記複合樹脂を含む粉末を溶融成形する、溶融成形体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粉末の製造方法、溶融成形体の製造方法、粉末、圧縮成形体、溶融成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂材料に導電性を付与する技術が知られている。一例として、カーボンナノチューブ等の導電性フィラーと熱溶融性フッ素樹脂等の樹脂材料とを有する複合樹脂が知られている(特許文献1)。
特許文献1には、樹脂材料粒子とカーボンナノ材料とケトン系溶媒と分散剤とを含む複合樹脂分散液を乾燥させて複合樹脂を得る方法が記載されている。特許文献1の方法では、分散剤を用いてカーボンナノ材料をケトン系溶媒に分散させることができるため、樹脂材料粒子の表面にカーボンナノ材料が分散した状態で固着され、複合樹脂に均一な導電性を付与できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の方法で得られる複合樹脂にあっては、溶融成形の際に溶融物が発泡することがある。そのため成形体の表面に細孔、凹凸等ができ、外観のよさが損なわれるおそれがある。
一方で、カーボンナノ材料と樹脂材料とを有する複合樹脂にあっては、複合樹脂の溶融成形物の導電性を確保するために、カーボンナノ材料によって付与された導電性を保持することが重要である。
【0005】
本発明は、溶融物の発泡を抑制でき、導電性及び外観が良好である成形体を溶融成形によって製造できる粉末が得られる、粉末の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明は以下の構成を備える。
[1] 熱溶融性樹脂と導電性フィラーとを有する複合樹脂を含む粉末の製造方法であって、前記熱溶融性樹脂を含む原料粉末と前記導電性フィラーと前記原料粉末及び前記導電性フィラーが分散される分散媒と前記導電性フィラーを前記分散媒に分散させる分散剤とを混合して分散液を調製し、前記分散液から前記分散媒を除去し、前記複合樹脂と前記分散剤とを含む中間粉末を回収し、前記中間粉末から前記分散剤を除去する、粉末の製造方法。
[2] 前記中間粉末から前記分散剤を除去する際に、前記分散剤を溶解する溶媒に前記中間粉末を浸漬する、[1]の粉末の製造方法。
[3] 前記溶媒の表面張力と前記中間粉末の表面張力との差が、前記分散媒の表面張力と前記原料粉末の表面張力との差以上である、[2]の粉末の製造方法。
[4] 前記中間粉末から前記分散剤を除去する際に、前記中間粉末に前記分散剤を溶解する超臨界流体を供給する、[1]~[3]のいずれかの粉末の製造方法。
[5] 前記超臨界流体は、温度が31.1℃以上であり、圧力が72.8気圧以上である二酸化炭素であり、前記超臨界流体の供給量が、前記中間粉末に含まれる前記分散剤1mgに対して0.25g/min以下である、[4]の粉末の製造方法。
[6] 前記中間粉末から前記分散剤を除去する際に、前記中間粉末を熱処理する、[1]~[5]のいずれかの粉末の製造方法。
[7] 前記中間粉末を熱処理する際の圧力が、大気圧以下である、[6]の粉末の製造方法。
[8] [1]~[7]のいずれかの製造方法で前記複合樹脂を含む粉末を製造し、前記複合樹脂を含む粉末を溶融成形する、溶融成形体の製造方法。
[9] 熱溶融性樹脂と前記熱溶融性樹脂の表面の一部に付着して固定された導電性フィラーとを有する複合樹脂と、前記複合樹脂の表面に配位する分散剤と、を含み、前記分散剤の含有量が、前記熱溶融性樹脂と前記導電性フィラーと前記分散剤との合計100質量%に対し、0.5質量%以下である、粉末。
[10] [9]の粉末の圧縮成形物である、圧縮成形体。
[11] 体積抵抗率が10-1~105Ω・cmである、[10]の圧縮成形体。
[12] [9]の粉末の溶融成形物である、溶融成形体。
[13] 前記導電性フィラーの含有量が0.1~0.5質量%であり、体積抵抗率Yが下式(1)を満たす、[12]の溶融成形体。
3×104×exp(-11.51×C)≦Y≦3×107×exp(-11.51×C) ・・・(1)
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、溶融物の発泡を抑制でき、導電性及び外観が良好である成形体を溶融成形によって製造できる粉末が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明を適用した一実施形態を説明するための模式図である。
【
図2】本発明を適用した一実施形態を説明するための模式図である。
【
図3】本発明を適用した一実施形態を説明するための模式図である。
【
図4】本発明を適用した一実施形態を説明するためのフロー図である。
【
図5】実施例及び比較例で得られた粉末を熱重量分析した結果を示すグラフである。
【
図6】実施例において、カーボンナノチューブ含有量:C(質量%)と溶融成形体の体積抵抗率との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本明細書において下記用語の意味は以下の通りである。
「熱溶融性樹脂」とは加熱により溶融し、溶融成形を実行可能な程度の流動性を示す樹脂を意味する。
熱溶融性樹脂の「平均粒子径」とは、粒度分布計を用いて測定される値である。
導電性フィラーの「平均長さ」とは、例えば、走査型電子顕微鏡を用いた観察によって測定される値である。
数値範囲を示す「~」は、その前後に記載された数値が下限値及び上限値として含まれることを意味する。
【0010】
<粉末の製造方法>
以下、本発明を適用した一実施形態の粉末の製造方法について詳細に説明する。本実施形態の粉末の製造方法(以下、「本製造方法」と記載する。)では、複合樹脂を含む粉末を製造する。そして、複合樹脂は熱溶融性樹脂と導電性フィラーとを有する。複合樹脂においては、熱溶融性樹脂の表面の少なくとも一部に導電性フィラーが分散した状態に付着して固定されている。
【0011】
まず、本製造方法では、原料粉末と導電性フィラーと分散媒と分散剤とを混合して第1の分散液を調製する。
原料粉末は、熱溶融性樹脂を含む。原料粉末は本発明の効果を損なわない範囲であれば、熱溶融性樹脂以外の成分を含んでもよい。
【0012】
熱溶融性樹脂は、加熱により流動性を示す樹脂であれば特に限定されない。熱溶融性樹脂の具体例としては、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアミド、ポリエーテルエーテルケトン樹脂等が挙げられる。ただし、熱溶融性樹脂はこれらの例示に限定されない。熱溶融性樹脂は合成したものでも市販品でもよい。
【0013】
熱溶融性樹脂としては、成形体が耐薬品性、耐熱性等に優れることから、熱溶融性フッ素樹脂が好ましい。
熱溶融性フッ素樹脂の具体例としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニル、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体が挙げられる。ただし、熱溶融性フッ素樹脂はこれらの例示に限定されない。
市販の熱溶融性フッ素樹脂の具体例としては、例えば、フルオン PFA(AGC株式会社製)、ネオフロンPFA(ダイキン工業株式会社製)が挙げられる。ただし、市販の熱溶融性フッ素樹脂はこれらの例示に限定されない。
フッ素樹脂は1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0014】
導電性フィラーは、熱溶融性樹脂の表面に付着して固定可能であれば特に限定されない。
導電性フィラーの具体例としては、例えば、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、カーボンナノホーン、カーボンナノコイル、グラフェンが挙げられる。ただし、導電性フィラーはこれらの例示に限定されない。導電性フィラーは1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
これらの中でも導電性フィラーとしては、粉末の成形性がさらに優れ、粉末の導電性がさらに優れる傾向にあることから、カーボンナノチューブが好ましい。
【0015】
導電性フィラーがカーボンナノチューブである場合、カーボンナノチューブの平均長さは、特に限定されない。カーボンナノチューブの平均長さは例えば、1~600μmとすることができる。例えば、カーボンナノチューブの平均長さが、3μm以上であると、粉末の成形体の導電性がさらに優れる。カーボンナノチューブの平均長さが100μm以下であると、熱溶融性樹脂にカーボンナノチューブが均一に付着しやすくなる。
【0016】
分散媒は原料粉末及び導電性フィラーが分散される液状媒体である。そして分散媒は常温で液体である。
分散媒としては、熱溶融性樹脂等の固体と親和性が高い液状媒体が好ましい。熱溶融性樹脂と親和性が高い液状媒体を分散媒として用いると、原料粉末の表面を分散媒で容易に濡らすことができる。
分散媒の具体例としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、n-ブチルアルコール、エチレングリコール、プロプレングリコール等のエタノール系媒体;アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、メチルプロピルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系媒体;ジエチルエーテル、ジメチルエーテル、エチルメチルエーテル等のエーテル系媒体;ジクロロメタン、クロロホルム、ジメチルホルムアミド、n-ヘキサン、酢酸、酢酸エチル、シクロヘキサン等の脂肪族系媒体;ベンゼン、トルエン等の芳香族系媒体等が挙げられる。分散媒は1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
これらの中でも、分散媒としては、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、メチルプロピルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系媒体が好ましく、ケトン系媒体の中でもメチルエチルケトンが特に好ましい。
【0017】
分散剤は、導電性フィラーを分散媒に分散させる化合物である。分散剤は原料粉末、導電性フィラー、分散媒の種類に応じて選択可能である。
分散剤の具体例としては、アクリルモノマーに由来する構成単位を有するアクリル重合体、ポリアリルアミン、ポリスチレンイミン、セルロース誘導体等のポリマーが挙げられる。ただし、分散剤はこれらの例示に限定されない。
【0018】
第1の分散液を調製する際には、熱溶融性樹脂と導電性フィラーとを分散媒に分散させる。
第1の分散液を調製する際には、あらかじめ導電性フィラーを分散媒に分散させ、導電性フィラーが分散媒に分散されている第2の分散液を用いることが好ましい。
第2の分散液を用いる場合、導電性フィラーの含有量は、第2の分散液100質量%に対し、0.01~2質量%が好ましく、0.01~0.5質量%がより好ましい。導電性フィラーの含有量が0.01質量%以上であると、粉末の成形体が導電性にさらに優れる。導電性フィラーの含有量が2質量%以下であると、粉末が成形性にさらに優れ、粉末の成形体が機械物性にさらに優れる。
【0019】
熱溶融性樹脂と導電性フィラーとを分散媒に分散させる方法としては、熱溶融性樹脂の粒子にかかるせん断力を抑制できる方法が好ましい。具体例としては、スターラーを用いた撹拌が好ましい。
熱溶融性樹脂と導電性フィラーとを分散媒に分散させる際には、分散媒の温度は室温が好ましい。
【0020】
熱溶融性樹脂と導電性フィラーとを分散媒に分散させることで、導電性フィラーが熱溶融性樹脂の表面に付着し、分散媒中に複合樹脂が生成する。その結果、本製造方法では、複合樹脂と分散媒と分散剤とを含む第1の分散液が得られる。
【0021】
第1の分散液中の熱溶融性樹脂の含有量は、熱溶融性樹脂と導電性フィラーと分散剤との合計100質量%に対し94.5~99.97質量%が好ましい。
第1の分散液中の導電性フィラーの含有量は、熱溶融性樹脂と導電性フィラーと分散剤との合計100質量%に対し0.01~0.5質量%が好ましい。
第1の分散液中の分散剤の含有量は、熱溶融性樹脂と導電性フィラーと分散剤との合計100質量%に対し0.02~5質量%が好ましい。
第1の分散液中の分散媒の含有量は、熱溶融性樹脂と導電性フィラーと分散剤との合計100質量%に対し200~1000質量%が好ましい。
第1の分散液中の各成分の含有量が、前記の数値範囲内であると、粉末が成形性にさらに優れ、粉末の成形体の外観及び導電性がさらに良好である。
【0022】
半導体分野ではフィラーの発塵及びアウトガスを低減することが強く求められる。本製造方法において、導電性フィラーの含有量が熱溶融性樹脂と導電性フィラーと分散剤との合計100質量%に対し0.5質量%以下であると、製造工程における導電性フィラーによるコンタミの発生リスクを低減できる。
【0023】
第1の分散液を調製する際には、熱溶融性樹脂と導電性フィラーと分散剤とを分散媒の存在下で混合してもよい。
熱溶融性樹脂の平均粒子径は5~100μmが好ましい。熱溶融性樹脂の平均粒子径が5μm以上であると、粉末の成形体の導電性がさらに良好となる。熱溶融性樹脂の平均粒子径が100μm以下であると、粉末の成形体の外観の均一性がさらに良好となる。
【0024】
次いで、本製造方法では、第1の分散液から分散媒を除去し、複合樹脂と分散剤とを含む中間粉末を回収する。第1の分散液から分散媒を除去することで、熱溶融性樹脂の表面が乾き、導電性フィラーが熱溶融性樹脂の表面に固定化される。
【0025】
第1の分散液から分散媒を除去する方法は特に限定されない。例えば、固液分離を行うことで固形分と液体を分離してもよい。固液分離を行う場合、固液分離後の固形分を自然乾燥により室温、大気圧の条件下で静置することが好ましい。
【0026】
次いで、本製造方法では、中間粉末から分散剤を除去する。分散剤を除去する方法としては以下の除去方法(1)~(3)が挙げられる。
除去方法(1):分散剤を溶解する溶媒に中間粉末を浸漬する方法。
除去方法(2):中間粉末に分散剤を溶解する超臨界流体を供給する方法。
除去方法(3):中間粉末を熱処理する方法。
除去方法(1)~(3)は、一種単独で使用してもよく、それぞれを組み合わせて使用してもよい。
【0027】
除去方法(1)について説明する。
中間粉末から分散剤を除去する際に除去方法(1)を適用する場合、容器に貯留された溶媒に中間粉末を浸漬してもよい。この際、中間粉末を溶媒中で攪拌してもよい。これにより、溶媒中に分散媒を溶出させることができる。その後、溶媒を除去することで粉末が製造される。
【0028】
溶媒は分散剤を溶解できる液体の化合物である。ただし、溶媒としては、複合樹脂の導電性を保持する観点から分散媒以外の化合物が好ましい。
除去方法(1)を適用する場合、溶媒は、溶媒の表面張力と中間粉末の表面張力との差が、分散媒の表面張力と原料粉末の表面張力との差以上となるように選択することが好ましい。これにより、溶媒と中間粉末との親和性が分散媒と原料粉末との親和性より相対的に低くなる。その結果、溶媒への浸漬により中間粉末が再び濡れてしまうことを抑制しやすくなり、導電性フィラーが熱溶融性樹脂の表面から脱離しにくくなる。
【0029】
例えば、熱溶融性樹脂粉末として、ポリテトラフルオロエチレンを、分散媒としてメチルエチルケトンを用いた場合、ポリテトラフルオロエチレンの表面張力は18mN/mであり、メチルエチルケトンの表面張力は24.5mN/mである。この場合、分散媒と熱溶融性樹脂との間の表面張力の差は6.5mN/mである。よって、分散剤の除去に使用する溶媒は、中間粉末の表面張力との差が6.5mN/mよりも大きくなるような溶媒、例えばトルエン(表面張力:29mN/m)を選択するのが好適である。
表面張力は、例えば、表面張力計(協和界面科学株式会社製「高機能表面張力計 DY-500」)によって測定できる。
【0030】
図1は、除去方法(1)を説明するための模式図である。
図1に示すように中間粉末1は複合樹脂2と分散剤3とを含む。複合樹脂2は熱溶融性樹脂2aと導電性フィラー2bとを有する。中間粉末1において分散剤3は、導電性フィラー2bに付着して存在する付着分散剤3aと複合樹脂2同士の間に存在する第1の遊離分散剤3bと付着分散剤3aに付着することで複合樹脂2の表面の付近に存在する第2の遊離分散剤3cとからなる。
【0031】
図1に示すように、中間粉末1に除去方法(1)を適用すると複合樹脂21を含む粉末4aが得られる。このように除去方法(1)を適用すると、付着分散剤3a、第1の遊離分散剤3b、第2の遊離分散剤3cの中でも、第1の遊離分散剤3b及び第2の遊離分散剤3cを効果的に除去できる。そのため、複合樹脂21を含む粉末4aにおいては、第1の遊離分散剤3b及び第2の遊離分散剤3cの含有量が相対的に少なくなる。
【0032】
除去方法(1)を適用する場合、適用対象である中間粉末の全量を一括で溶媒に浸漬してもよく、中間粉末の一部を複数回に分けて分割して溶媒に浸漬してもよい。ただし、導電性フィラーの脱離及び凝集を抑制する観点から、中間粉末の一部を複数回に分けて分割して溶媒に浸漬する方が好ましい。
【0033】
除去方法(2)について説明する。
中間粉末から分散剤を除去する際に除去方法(2)を適用する場合、容器に貯留された中間粉末に超臨界流体を供給してもよい。これにより、中間粉末に超臨界流体を含侵させることができる。その後、超臨界流体を除去することで粉末が製造される。
【0034】
超臨界流体の好ましい具体例としては、二酸化炭素の超臨界流体が挙げられる。
二酸化炭素の超臨界流体は、温度:31.1℃以上、圧力:72.8気圧以上の条件下で発生させることができる。
【0035】
二酸化炭素の超臨界流体の供給量は、導電性フィラーの凝集を低減しやすくなることから、中間粉末に含まれる分散剤1mgに対して0.25g/min以下が好ましく、0.20g/min以下がより好ましく、0.15g/min以下がさらに好ましい。二酸化炭素の超臨界流体の供給量の下限値は、特に限定されないが、例えば、0.05g/min以上とすることができる。二酸化炭素の超臨界流体の供給量が0.25g/min以下であると、導電性フィラーの凝集をさらに低減しやすくなる。
これらの二酸化炭素の超臨界流体の温度、圧力、供給量に関する条件は、除去方法(2)に単独で適用してもよく、それぞれを組み合わせて適用してもよい。
【0036】
除去方法(2)を適用する場合、本製造方法の好ましい態様では、超臨界流体は、温度が31.1℃以上であり、圧力が72.8気圧以上である二酸化炭素であり、超臨界流体の供給量が、中間粉末に含まれる分散剤1mgに対して0.25g/min以下である。
除去方法(2)を適用する場合、本製造方法のより好ましい態様では、超臨界流体は、温度が31.1℃以上であり、圧力が72.8気圧以上である二酸化炭素であり、超臨界流体の供給量が、中間粉末に含まれる分散剤1mgに対して0.20g/min以下である。
除去方法(2)を適用する場合、本製造方法のさらに好ましい態様では、超臨界流体は、温度が31.1℃以上であり、圧力が72.8気圧以上である二酸化炭素であり、超臨界流体の供給量が、中間粉末に含まれる分散剤1mgに対して0.15g/min以下である。
【0037】
図2は、除去方法(2)を説明するための模式図である。
図2に示すように中間粉末1は複合樹脂2と分散剤3とを含む。
図2に示すように、中間粉末1に除去方法(2)を適用すると、複合樹脂22を含む粉末4bが得られる。そして、除去方法(1)の場合と比較して除去方法(2)では、第1の遊離分散剤3bをさらに効果的に除去でき、付着分散剤3aの一部をも除去できる(
図1,2参照)。そのため、複合樹脂22を含む粉末4bにおいては、除去方法(1)を適用した場合より付着分散剤3a及び第1の遊離分散剤3bの含有量がさらに相対的に少なくなる。
【0038】
除去方法(2)を適用する場合、中間粉末の全量に一括で超臨界流体を供給してもよく、中間粉末の一部を複数回に分けて分割して超臨界流体を供給してもよい。ただし、導電性フィラーの脱離及び凝集を抑制する観点から、中間粉末の一部を複数回に分けて分割して超臨界流体を供給する方が好ましい。
【0039】
除去方法(3)について説明する。
中間粉末から分散剤を除去する際に除去方法(3)を適用する場合、中間粉末を例えば、200~250℃に加熱してもよい。中間粉末の加熱温度は、分散剤の分解温度又は沸点以上の温度であれば特に限定されない。そのため中間粉末の加熱温度は、分散剤の種類によって適宜設定される。例えば、分散剤がアクリルモノマーの共重合体又はセルロース誘導体である場合、加熱温度は200℃以上とすることができる。例えば、分散剤がポリアリルアミン又はポリスチレンイミンである場合、加熱温度は250℃以上とすることができる。
【0040】
中間粉末を熱処理する場合、熱処理の際の圧力は、1気圧以下(すなわち、大気圧以下)が好ましく、0.5気圧以下がより好ましく、0.3気圧以下がさらに好ましく、0.1気圧以下の真空状態とすることが特に好ましい。熱処理の際の圧力が、1気圧以下であると、分散剤の揮発速度がさらに高くなる。そして、処理容器内から揮発した分散剤が排出されやすくなり、脱離した分散剤が粉末に再度付着しにくくなる。
中間粉末を熱処理する場合、熱処理の時間は、特に限定されない。熱処理の時間は、例えば、24時間とすることができる。
【0041】
図3は、除去方法(3)を説明するための模式図である。
図3に示すように中間粉末1は複合樹脂2と分散剤3とを含む。
図3に示すように、中間粉末1に除去方法(3)を適用すると、複合樹脂23を含む粉末4cが得られる。このように除去方法(3)を適用すると、付着分散剤3a、第1の遊離分散剤3b、第2の遊離分散剤3cのすべてを効果的に除去できる。そのため、複合樹脂23を含む粉末4cにおいては、除去方法(1)又は除去方法(2)を適用した場合より、付着分散剤3a、第1の遊離分散剤3b及び第2の遊離分散剤3cの含有量がさらに相対的に少なくなる。
【0042】
除去方法(3)を適用する場合、中間粉末の全量を一括で熱処理してもよく、中間粉末の一部を複数回に分けて分割して熱処理をしてもよい。ただし、除去方法(3)においては、除去方法(1)又は除去方法(2)を適用した場合より導電性フィラーの熱力学的な自由度が相対的に低い。そのため導電性フィラーが脱離しにくく、導電性フィラーの凝集も起きにくい。よって、除去方法(3)においては、生産効率の観点から中間粉末を一括で熱処理することが好ましい。
【0043】
図4は、中間粉末を回収した後の本製造方法の好ましい態様を説明するフロー図である。
図4に示すように、中間粉末を回収し、分散剤を除去する。分散剤を除去する際には、除去方法(1)~(3)のいずれかを単独で使用してもよく、それぞれを組み合わせて使用してもよい。
次いで、除去後の粉末において分散剤の含有量が中間粉末に含まれている分散剤の合計100質量%に対し、50質量%以下であるかどうかを判定する。分散剤の含有量が中間粉末に含まれている分散剤の合計100質量%に対し、50質量%以下である場合、粉末の製造が完了する。
分散剤の含有量が中間粉末に含まれている分散剤の合計100質量%に対し、50質量%以下でない場合、再度分散剤の除去を繰り返す。2回目以降の分散剤の除去の際にも、除去方法(1)~(3)のいずれかを単独で使用してもよく、それぞれを組み合わせて使用してもよい。
【0044】
(作用効果)
以上説明した本製造方法によれば、中間粉末から分散剤を除去するため、溶融成形の際に複合樹脂の溶融物が発泡しにくくなり、成形体の導電性及び表面の外観がよくなる。そして粉末から分散剤が除去されているため、溶融成形によって糸状の成形体を容易に製造できる。
【0045】
<溶融成形体の製造方法>
以下、本実施形態の溶融成形体の製造方法について説明する。
本実施形態の溶融成形体の製造方法では、まず、上述の本製造方法で複合樹脂を含む粉末を製造する。次いで、複合樹脂を含む粉末を溶融成形する。溶融成形する際には、溶融成形機を使用してもよい。
本実施形態の溶融成形体の製造方法は、導電性チューブの等の糸状の溶融成形体の製造に好適に適用できる。そして、得られた糸状の溶融成形体は導電性ペレットの製造に好適に適用できる。例えば、糸状の溶融成形体を複数に分割する方法等によって、導電性ペレットを製造できる。
【0046】
(作用効果)
以上説明した溶融成形体の製造方法によれば、上述の本製造方法で複合樹脂を含む粉末を製造し、粉末を溶融成形するため、溶融成形の際に複合樹脂の溶融物が発泡しにくくなる。また、表面の外観がよい溶融成形体が得られる。そして、糸状の溶融成形体を容易に製造できる。
【0047】
<粉末>
以下、本実施形態の粉末(以下、「本粉末」と記載する。)について説明する。
本粉末は、複合樹脂と分散剤とを含む。本粉末は、本発明の効果を損なわない範囲であれば、複合樹脂及び分散剤以外の任意成分を含んでもよい。
【0048】
複合樹脂は、熱溶融性樹脂と導電性フィラーとを有する。導電性フィラーは、熱溶融性樹脂の表面の一部に付着して固定されている。本粉末においては、分散剤は、複合樹脂の間同士の間に存在してもよい。
【0049】
分散剤は、複合樹脂の表面に配位する化合物である。分散剤としては、導電性フィラーと化学的に相互作用することで導電性フィラーの表面に配位可能な化合物であれば特に限定されない。分散剤の具体例としては、上述の「<粉末の製造方法>」の項で説明したものと同じものが例示できる。
【0050】
分散剤の含有量は、熱溶融性樹脂と導電性フィラーと分散剤との合計100質量%に対し、0.5質量%以下であり、0.3質量%以下が好ましく、0.1質量%以下がより好ましい。
【0051】
本粉末は、上述の「<粉末の製造方法>」の項の記載にしたがって製造できる。
【0052】
(作用効果)
以上説明した本粉末にあっては、分散剤の含有量が0.5質量%以下であるから、溶融成形の際に複合樹脂の溶融物が発泡しにくくなり、成形体の表面の外観がよくなる。そして、分散剤の含有量が0.5質量%以下であるから導電性がよくなる。
【0053】
<圧縮成形体>
以下、本実施形態の圧縮成形体(以下、「本圧縮成形体」と記載する。)について説明する。
本圧縮成形体は、上述の本粉末の圧縮成形物である。
本圧縮成形体の体積抵抗率は10-1~105Ω・cmが好ましく、101~102Ω・cmがより好ましい。本圧縮成形体の体積抵抗率は、例えば、抵抗率計(三菱化学アナリテック社製「ロレスタGP MCP-T160型」)によって測定できる。
【0054】
本圧縮成形体を作製した粉末の表面抵抗率は、108~1014Ω/□程度と推測される。本圧縮成形体を作製した粉末の表面抵抗率は、表面高抵抗測定器(シシド静電気社製「型式:H0709」)で測定される。
【0055】
本圧縮成形体の製造方法は特に限定されない。例えば、上述の本粉末を圧縮成形することで製造できる。圧縮成形する際には、圧縮成形機を使用してもよい。
圧縮成形の際の圧力は、例えば、10~60MPaとすることができる。
圧縮成形の際の温度は、例えば、10~40℃とすることができる。
【0056】
(作用効果)
以上説明した本圧縮成形体は、本粉末の圧縮成形物であるから導電性がよくなる。
【0057】
<溶融成形体>
以下、本実施形態の溶融成形体(以下、「本溶融成形体」と記載する。)について説明する。
本溶融成形体は、上述の本粉末の溶融成形物である。
本溶融成形体の体積抵抗率は104~107Ω・cmが好ましい。本溶融成形体の体積抵抗率は、例えば、抵抗率計(三菱化学アナリテック社製「ロレスタGP MCP-T160型」)によって測定できる。
【0058】
本溶融成形体の製造方法は特に限定されない。例えば、上述の本粉末を溶融成形することで製造できる。
溶融成形の際の温度は、例えば、320~400℃とすることができる。
溶融成形の際の溶融物の押出速度は、例えば、5~40rpmとすることができる。
【0059】
(作用効果)
以上説明した本溶融成形体は、本粉末又は本圧縮成形体の溶融成形物であるから導電性がよく、表面の外観がよい。
【0060】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、本発明はかかる特定の実施の形態に限定されない。また、本発明は特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内で、構成の付加、省略、置換及びその他の変更が加えられてよい。
【0061】
<実施例>
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の記載によっては限定されない。
【0062】
(熱重量分析)
熱重量/示差熱分析計(ブルカー・エイエックス社製「TG-DTA2000SATG-DTA」)を用いて、20℃から250℃の範囲で粉末を加熱し、揮発成分及び分解成分の発生量を計測した。測定の際の雰囲気ガスは空気とした。
【0063】
(評価1)
後述の実施例及び比較例の各例で得られた粉末を試料とした。単軸押出成形機を使用して試料を320℃の条件下で溶融成形する際に、粉末の溶融物の発泡の有無を目視で観察した。溶融物の発泡が無い場合、「〇」と判定した。溶融物の発泡があった場合、「×」と判定した。ここで、押出成形機は樹脂を入れ装置内部で加熱溶融し、ダイス部分で押出することで溶融成形体を作製する機器である。そして、単軸押出成形機においては樹脂を装置内部で移送する際に使用するスクリューの本数が1本(単軸)である。
【0064】
(評価2)
後述の実施例及び比較例の各例で得られた粉末を試料とした。上述の単軸押出成形機を使用して、試料を320℃の条件下で溶融成形を行った。溶融成形によって試料から糸状の溶融成形体(ストランド)を製造する際に、ダイス部分からストランドが出てくるかどうか目視で観察し、糸状の溶融成形体の製造の可否を評価した。ストランドが出てきた場合、「〇」と判定した。ストランドが出てこない場合、「×」と判定した。
【0065】
(評価3)
後述の実施例及び比較例の各例で得られた粉末を試料とした。上述の単軸押出成形機を使用して320℃の条件下で溶融成形し、直径:3mmのストランドを製造した。各例で得られたストランドの外観を目視で観察した。ストランドの長さ1mの範囲において表面の凹凸が1個以下である場合、「〇」と判定した。ストランドの長さ1mの範囲において表面の凹凸が1個超である場合、「×」と判定した。
【0066】
(評価4)
後述の実施例及び比較例の各例で得られた粉末を320℃、12MPaの条件下で5分間、溶融成形して得られるペレット状の溶融成形体(150mm×75mm)を試料とした。溶融成形の際には、溶融成形機として(神藤金属工業所社製「単動圧縮成形機」)を使用した。試料について、抵抗率計(三菱化学アナリテック社製「ロレスタGP MCP-T160型」)を用いて、体積抵抗率を測定した。溶融成形体の体積抵抗率が検出限界値である1010Ω・cm以下である場合、「〇」と判定した。溶融成形体の体積抵抗率が検出限界値である1010Ω・cm超である場合、「×」と判定した。
【0067】
(評価5)
後述の実施例及び比較例の各例で得られた粉末を試料とした。まず、試料5gを金型に均等な高さになるように入れた。次いで、圧縮成形機(三庄インダストリー株式会社製「手動式5tonテーブルプレス」)によって徐々に加圧し、40MPaの圧力で1分間保ち、圧縮成形体を作製した。圧縮成形体(φ30mm、厚み3mm)を測定サンプルとし、圧縮成形体の体積抵抗率を測定した。圧縮成形体の体積抵抗率は、抵抗率計(三菱化学アナリテック株式会社製、ロレスタGP MCP-T610型)を使用し、四端子法で測定した。
【0068】
(実施例1)
熱溶融性樹脂を含む原料粉末として(ダイキン工業株式会社製「ネオフロン PFA」)を使用した。導電性フィラーとしてカーボンナノチューブ(大陽日酸社製「長尺カーボンナノチューブ」)を使用した。分散剤としてアクリル系ポリマーを使用した。
まず、カーボンナノチューブ:10gとメチルエチルケトン:5kgと分散剤:30gとを混合し、CNT分散液(カーボンナノチューブの含有量:0.2質量%)を調製した。次いで、原料粉末:10kgとCNT分散液:5kgとを撹拌容器に入れ、撹拌モーター(新東科学株式会社製「スリーワンモーターBLh600」)を用いて10分間撹拌し、複合樹脂スラリーを調製した。ここで、複合樹脂スラリー中の熱溶融性樹脂の含有量は、熱溶融性樹脂とカーボンナノチューブと分散剤との合計100質量%に対し、99.6質量%とした。また、複合樹脂スラリー中のカーボンナノチューブの含有量は、熱溶融性樹脂とカーボンナノチューブと分散剤との合計100質量%に対し、0.1質量%とした。そして複合樹脂スラリー中の分散剤の含有量は、熱溶融性樹脂とカーボンナノチューブと分散剤との合計100質量%に対し、0.3質量%とした。
次いで、複合樹脂スラリーからメチルエチルケトンを除去し、中間粉末を回収した。
次いで、撹拌容器に中間粉末と溶媒(トルエン)を入れ、溶媒に中間粉末を浸漬した。次いで、撹拌モーターを用いて20℃、1時間の条件下で撹拌し、溶媒中に分散剤を溶出させスラリー状態とした。次いで、再び溶媒を80℃、24時間の条件下で乾燥して除去し粉末を得た。このように実施例1では上述の実施形態における除去方法(1)を適用して分散剤を除去した。得られた粉末について上述の記載に従って評価1~評価5を実施した。結果を表1に示す。
【0069】
(実施例2)
溶媒に中間粉末を浸漬する代わりに中間粉末を熱処理した以外は実施例1と同様にして粉末を製造した。熱処理の際には中間粉末を角型真空乾燥機(ヤマト科学株式会社製「角型真空乾燥機ADP300型」)にて、圧力:0.1kPa以下、温度:200℃、24時間の条件下で処理を行い、中間粉末に含まれる分散剤を除去した。このように実施例2では上述の実施形態における除去方法(3)を適用して分散剤を除去した。得られた粉末について上述の記載に従って評価1~評価5を実施した。結果を表1に示す。
【0070】
(実施例3)
複合樹脂スラリー中のカーボンナノチューブの含有量が0.3質量%になるようにカーボンナノチューブの使用量を変更した以外は、実施例1と同様にして中間粉末を製造し、次いで、実施例2と同様の条件で除去方法(3)を適用して分散剤を除去した。得られた粉末について上述の記載に従って評価1~評価5を実施した。結果を表2に示す。なお、表2には実施例2の結果を再掲した。
【0071】
(実施例4)
複合樹脂スラリー中のカーボンナノチューブの含有量が0.5質量%になるようにカーボンナノチューブの使用量を変更した以外は、実施例1と同様にして中間粉末を製造し、次いで、実施例2と同様の条件で除去方法(3)を適用して分散剤を除去した。得られた粉末について上述の記載に従って評価1~評価5を実施した。結果を表2に示す。
【0072】
(比較例1)
溶媒に中間粉末を浸漬せず、分散剤を除去しなかった以外は実施例1と同様にして比較例1の粉末を製造した。
得られた比較例1の粉末について上述の記載に従って評価1~評価5を実施した。結果を表1に示す。
【0073】
【0074】
【0075】
図5は、実施例及び比較例で得られた粉末を熱重量分析した結果を示すグラフである。なお、
図5に示すように、ケトン系溶媒(メチルエチルケトン)のピークは実施例1,2及び比較例1で観測されなかった。
図5に示すように、実施例1,2の粉末では分散剤由来のピークが観測されなかったのに対し、比較例1では分散剤由来のピークが観測された。このことから、実施例1,2では中間粉末から分散剤を除去できたことが確認できた。
さらに、ピークの大きさを比較することで、実施例1,2の粉末では中間粉末に含まれていた分散剤のうち95%以上が除去できたと判断できた。そのため、実施例1,2の粉末に残留している分散剤の含有量は、粉末100質量%に対し、0.015質量%(=0.3質量%×0.05)以下であると推測され、溶融成形の際に、分散剤による発泡がなく、外観及び導電性が良好な成形体を製造できると予想された。
【0076】
表1に示すように、分散剤の除去を実施した実施例1、2では溶融成形の際に溶融物の発泡が観察されず、ストランドの表面は滑らかであった。そして、実施例1、2で得られた溶融成形体の体積抵抗率はいずれも106~107Ω・cm程度であり、導電性に優れていた。
実施例1、2で得られた粉末の圧縮成形体の体積抵抗率は10~102Ω・cmであった。このように、溶融前の粉末の導電性は十分であった。なお、実施例1、2で得られた粉末については、表面抵抗率は108~1014Ω/□程度であると推測される。
【0077】
表1、2に示すように、除去方法(3)を用いた実施例2~4では、溶融成形の際に溶融物の発泡が観察されず、ストランドの表面は滑らかであった。そして、実施例3で得られた溶融成形体の体積抵抗率は103~106Ω・cm程度であり、実施例4で得られた溶融成形体の体積抵抗率は101~104Ω・cm程度であり、いずれの溶融成形体も導電性に優れていた。
【0078】
図6はカーボンナノチューブ含有量:C(質量%)と溶融成形体の体積抵抗率との関係を示すグラフである。
図6中、「E」はべき乗を表す。例えば、「1.00E+04」は「1.00×10
4」であり、「1.00E+07」は「1.00×10
7」である。そして、「e」はネイピア数(2.71)を示す。
図6に示すように、カーボンナノチューブ含有量:Cが0.1~0.5質量%の範囲において、溶融成形体の体積抵抗率の最小値mは、下式(2)で算出できる。
m=3×10
4×exp(-11.51×C) ・・・(2)
【0079】
カーボンナノチューブ含有量:Cが0.1~0.5質量%の範囲において、溶融成形体の体積抵抗率の最大値Mは、下式(3)で算出できる。
M=3×107×exp(-11.51×C) ・・・(3)
【0080】
このように、カーボンナノチューブ含有量:Cが0.1~0.5質量%の範囲において、溶融成形体の体積抵抗率Yは、下式(1)を満たすことが特徴である。
3×104×exp(-11.51×C)≦Y≦3×107×exp(-11.51×C) ・・・(1)
【0081】
分散剤の除去を実施しなかった比較例1では、溶融成形の際に溶融物の発泡が観察され、ストランドの表面には多くの細孔があり、粗悪な表面状態であった。そして、溶融成形体の体積抵抗率は検出限界である1010Ω・cmを超えており、導電性は十分でなかった。
【0082】
以上実施例の結果から、分散剤を除去して得られる粉末では、溶融成形の際に溶融物の発泡を抑制でき、安定してストランドを製造でき、得られるストランドが導電性に優れることが判った。
【符号の説明】
【0083】
1…中間粉末、2…複合樹脂、3…分散剤、4a,4b,4c…粉末