(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-18
(45)【発行日】2022-11-29
(54)【発明の名称】ビタミンD高含有食品、ビタミンD含量を増加する方法およびビタミンD高含有食品の製造方法
(51)【国際特許分類】
A23C 19/068 20060101AFI20221121BHJP
A23C 20/00 20060101ALI20221121BHJP
A23L 33/00 20160101ALI20221121BHJP
【FI】
A23C19/068
A23C20/00
A23L33/00
(21)【出願番号】P 2018564592
(86)(22)【出願日】2018-01-23
(86)【国際出願番号】 JP2018002031
(87)【国際公開番号】W WO2018139467
(87)【国際公開日】2018-08-02
【審査請求日】2021-01-22
(31)【優先権主張番号】P 2017010043
(32)【優先日】2017-01-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006138
【氏名又は名称】株式会社明治
(74)【代理人】
【識別番号】100150142
【氏名又は名称】相原 礼路
(72)【発明者】
【氏名】高杉 諭
(72)【発明者】
【氏名】小西 信行
(72)【発明者】
【氏名】塩山 美穂
(72)【発明者】
【氏名】森川 裕美
【審査官】安田 周史
(56)【参考文献】
【文献】特表2010-507375(JP,A)
【文献】特開2000-157045(JP,A)
【文献】実開平06-017496(JP,U)
【文献】特開2014-171456(JP,A)
【文献】特開2014-087265(JP,A)
【文献】特開2006-075012(JP,A)
【文献】日畜会報,1961年,Vol.32, No.2,pp.109-113
【文献】日畜会報,1953年,Vol.24, No.1,pp.15-17
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23C 19/068
A23C 20/00
A23L 33/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
チーズまたはチーズ様食品に、露光量0.51kJ/m
2以下、418秒間以下の条件で紫外線を照射する工程を含む、ビタミンD高含有食品の製造方法。
【請求項2】
前記チーズまたはチーズ様食品が、表面に真菌類が存在するチーズまたはチーズ様食品である、請求項1に記載のビタミンD高含有食品
の製造方法。
【請求項3】
前記ビタミンD高含有食品の過酸化物価が10meq/kg以下である、請求項1または2に記載のビタミンD高含有食品
の製造方法。
【請求項4】
熟成前、熟成中または熟成後のチーズまたはチーズ様食品に紫外線を照射してなる、請求項1~3のいずれか1項に記載のビタミンD高含有食品
の製造方法。
【請求項5】
前記ビタミンDがビタミンD2である、請求項1~4のいずれか1項に記載のビタミンD高含有食品
の製造方法。
【請求項6】
前記ビタミンD高含有食品が、前記ビタミンD2として、25(OH)D
2および/または1,25(OH)
2D
2を含有する、請求項5に記載のビタミンD高含有食品
の製造方法。
【請求項7】
前記紫外線の照射の後、さらにレトルト殺菌
する、請求項1~6のいずれか1項に記載のビタミンD高含有食品
の製造方法。
【請求項8】
チーズまたはチーズ様食品中のビタミンD含量を増加する方法であって、
前記チーズまたはチーズ様食品に、露光量0.51kJ/m
2以下、418秒間以下の条件で紫外線を照射する工程を含む、方法。
【請求項9】
前記紫外線を照射する工程において、37℃以下で紫外線を照射する、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記紫外線を照射する工程において、熟成前、熟成中または熟成後のチーズまたはチーズ様食品に紫外線を照射する、請求項8または9に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビタミンD高含有食品、食品におけるビタミンD含量を増加する方法およびビタミンD高含有食品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ビタミンDは、特に高齢者で不足しがちな栄養素であり、従来から腸管でのカルシウム吸収促進を介した骨への作用がよく知られている。近年では、ビタミンDの不足が、認知症、心血管疾患、糖尿病、サルコペニア、フレイル、転倒およびがん、甲状腺機能亢進症、多発性硬化症、関節リウマチ、クローン病、細菌感染、ウィルス感染並びにぜんそくなどのリスクと関係していることが明らかになり、注目を集めている。
【0003】
ところで、ビタミンDは魚介類およびキノコ類には含まれるものの、他の食品にはほとんど含まれない。たとえばチーズでは、ビタミンDの含有量が0.3μg/100g以下といわれており、ほとんど含まれていない。したがって、食品中のビタミンDを強化するためには、ビタミンDを添加する必要があった。
【0004】
特許文献1には、きのこ等のエルゴステロール含有食品に対して、紫外線照射を行うことによりビタミンD2を強化させるエルゴステロール含有食品の処理方法が開示されている。特許文献1に記載の処理方法は、紫外線照射の前にエルゴステロール含有食品に対し凍結乾燥を施すものである。
【0005】
特許文献1では、きのこを乾燥させた粉末に対して紫外線を照射している。しかし、一般に食品に紫外線を照射すると、タンパク質が壊れ、風味が悪くなるおそれが高い。特許文献1には、水分、脂質およびタンパク質の含量が多い食品に対して紫外線照射した場合のビタミンD含量および風味に対する影響は開示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【非特許文献】
【0007】
【文献】Taylor et al., The Journal of Nutrition, 2014, Vol.144, p.654-659
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、水分を含有する食品に対して、外部からビタミンDを添加せず、かつ風味を損なわずに、ビタミンD含量を効率よく増加させる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を行い、水分を含有する食品である、カマンベールチーズおよびブルーチーズに紫外線を短時間照射するだけで、風味を損なわずにビタミンD(ビタミンD2)を多く含有したチーズを効率的に作製(製造)できることを見出した。また、本発明者らは、風味を損なわず、ビタミンD含量を効率よく増加させることができる紫外線の露光量について検討し、本発明を完成させた。
【0010】
本発明は、真菌類および/または原生生物を含み、かつ水分含有量が10質量%以上の食品に紫外線を照射してなる、ビタミンD高含有食品を提供する。
【0011】
また本発明は、上記食品の脂質が3質量%以上である、ビタミンD高含有食品を提供する。
【0012】
また本発明は、過酸化物価が10meq/kg以下である、ビタミンD高含有食品を提供する。
【0013】
また本発明は、上記紫外線の露光量が10kJ/m2以下である、ビタミンD高含有食品を提供する。
【0014】
また本発明は、上記食品がチーズまたはチーズ様食品であり、熟成前、熟成中または熟成後のチーズまたはチーズ様食品に紫外線を照射してなる、ビタミンD高含有食品を提供する。
【0015】
また本発明は、上記ビタミンDがビタミンD2である、ビタミンD高含有食品を提供する。
【0016】
また本発明は、上記ビタミンD2として、25(OH)D2および/または1,25(OH)2D2を含有する、ビタミンD高含有食品を提供する。
【0017】
また本発明は、真菌類および/または原生生物を含み、かつ水分含有量が10質量%以上の食品中のビタミンD含量を増加する方法であって、上記食品に紫外線を照射する工程を含む、方法を提供する。
【0018】
また本発明は、上記食品の脂質が3質量%以上である、上記方法を提供する。
【0019】
また本発明は、上記紫外線の露光量が10kJ/m2以下である、上記方法を提供する。
【0020】
また本発明は、上記食品がチーズまたはチーズ様食品であり、上記紫外線を照射する工程において、熟成前、熟成中または熟成後のチーズまたはチーズ様食品に紫外線を照射する、上記方法を提供する。
【0021】
また本発明は、真菌類および/または原生生物を含み、かつ水分含有量が10質量%以上の食品に紫外線を照射する工程を含む、ビタミンD高含有食品の製造方法を提供する。
【0022】
また本発明は、真菌類および/または原生生物を含み、かつ水分含有量が10質量%以上の食品中のビタミンD含量を増加するための装置であって、食品を搬送するための手段と、食品を搬送するための手段により搬送される食品に紫外線を照射するための手段とを備える、装置を提供する。
【0023】
また本発明は、上記装置において、紫外線を照射するための手段は、紫外線LEDによって紫外線を照射する、装置を提供する。
【0024】
また本発明は、上記装置において、紫外線を照射するための手段は、紫外線を照射する複数のパネルを含み、パネルのそれぞれは、食品を搬送するための手段により搬送される食品までの距離が略一定となるように設置されている、装置を提供する。
【0025】
また本発明は、真菌類および/または原生生物を含み、かつ水分含有量が10質量%以上の食品中のビタミンD含量を増加する方法であって、上記装置のいずれかを用いて食品に紫外線を照射する工程を含む、方法を提供する。
【発明の効果】
【0026】
本発明であれば、真菌類および/または原生生物を含む食品に紫外線を極短時間照射することで、ビタミンDを高含有した食品を、異物の混入がなく、かつ風味を損なわずに効率的に製造できる。また、本発明の食品は、ビタミンDを多く含有するため、認知症、心血管疾患、転倒および骨折、がん、甲状腺機能亢進症、多発性硬化症、関節リウマチ、クローン病、細菌感染、ウィルス感染並びにぜんそくなどの予防に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】UV照射前後でのカマンベールチーズ中25(OH)D2検出の有無を示す図。
【
図2】本発明の一実施形態に係る装置を食品の搬送方向から見た断面図。
【
図3】本発明の一実施形態に係る装置を上から見た平面図。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明は、真菌類および/または原生生物を含み、かつ水分含有量が10質量%以上の食品に紫外線を照射してなる、ビタミンD高含有食品を提供する。
【0029】
真菌類および原生生物には、ビタミンD2の前駆体であるエルゴステロールが含まれる。すなわち、本発明における真菌類および/または原生生物を含む食品は、エルゴステロールを含む。エルゴステロールは、紫外線を受けてエルゴカルシフェロール(ビタミンD2)となる。
【0030】
真菌類には、アオカビ(いわゆる白カビを含む)およびコウジカビなどのカビ、出芽酵母および分裂酵母などの酵母並びにキノコなどが含まれる。真菌類を含む食品には、たとえば発酵食品およびキノコなどが含まれる。発酵食品には、たとえば、発酵乳、チーズ、チーズ様食品、節類(鰹節など)、味噌、醤油、テンペ、豆腐よう、漬物、日本酒、焼酎、みりん、塩辛、納豆およびパンなどが含まれる。
【0031】
原生生物には、褐藻類、紅藻類および緑藻類などの藻類、並びにミドリムシなどが含まれる。原生生物を含む食品には、たとえばコンブ、ヒジキ、ワカメ、モズク、テングサ、フノリ、アオサ、アオノリ、クロレラおよびミドリムシなどが含まれる。
【0032】
本発明における食品は、チーズまたはチーズ様食品でもよい。チーズには、ナチュラルチーズとして、クリームチーズ、モッツァレラチーズ、プティ・スイス、カッテージ、リコッタ、マスカルポーネおよびストリングチーズなどのフレッシュチーズ、カマンベールチーズ、ブリー、ブルーチーズ、ゴーダチーズ、チェダーチーズ、パルミジャーノ・レッジャーノ、エダムおよびエメンタールなどの熟成チーズなどが含まれる。チーズ様食品は、プロセスチーズおよびチーズフードなどを含む。プロセスチーズは、ナチュラルチーズを加熱溶融させたものであり、クリーム、バター、バターオイルおよびその他の食品を添加したものであってもよい。チーズフードは、乳または乳製品を主原料とし、1種以上のナチュラルチーズまたはプロセスチーズを加熱溶融させたものであり、チーズの重量を50%以上含むものである。チーズフードは、種々の添加物、他の食品並びに乳に由来しない脂肪、タンパク質および炭水化物を含んでもよい。チーズ様食品は、たとえば原料チーズの含有量が少ないか、あるいは原料チーズを使用していないが、チーズに類似した風味および食感等を有する食品を含む。チーズ様食品として、たとえば豆乳を乳酸菌で発酵させた食品などを用いてもよい。
【0033】
本明細書において「食品」は、最終製品としての食品だけでなく、製造過程における食品をも含む。本明細書において「真菌類および/または原生生物を含む食品」は、最終製品に真菌類および/または原生生物が含まれる食品だけでなく、製造過程において真菌類および/または原生生物が含まれる食品を含む。たとえば、食品がチーズまたはチーズ様食品である場合、チーズまたはチーズ様食品は熟成前、熟成中および熟成後のいずれであってもよい。チーズまたはチーズ様食品の熟成とは、チーズまたはチーズ様食品に含まれる乳酸菌、カビおよび酵素などによって乳等のタンパク質および脂肪などを分解し、チーズまたはチーズ様食品の組織を形成する工程をいう。また、食品がプロセスチーズである場合、プロセスチーズは、チーズの加熱溶融前、加熱溶融中および加熱溶融後のいずれであってもよい。すなわち、食品がプロセスチーズである場合、チーズの加熱溶融前、加熱溶融中および加熱溶融後のいずれにおいてUV照射してもよい。プロセスチーズの製造工程において、チーズの加熱溶融前にUV照射しても、その後の加熱工程においてビタミンD含有量がほとんど変化しないため、ビタミンD含有量を高くすることができる。
【0034】
本発明における食品は、水分含有量が10質量%以上である。本発明における食品は、紫外線照射時に水分含有量が10質量%以上でもよい。本発明では、食品が水分を10質量%以上含んでいても、UV照射によって風味が損なわれることがない。
【0035】
本発明に用いる食品は、紫外線照射時に脂質および/またはタンパク質を含んでいてもよい。本発明に用いる食品は、紫外線照射時にタンパク質の含有量が湿重量あたり3質量%以上、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上、さらに好ましくは18質量%以上であってもよい。また、本発明に用いる食品は、紫外線照射時に、脂質が湿重量あたり1質量%以上、好ましくは3質量%以上、より好ましくは5質量%以上さらに好ましくは10質量%以上であってもよい。本発明では、食品が脂質および/またはタンパク質を多く含んでいても、UV照射によって風味が損なわれることがない。
【0036】
紫外線は、特に限定されないが、通常使用される紫外線ランプなどを用いて照射してもよいし、日光を当てることによって照射してもよい。紫外線ランプを用いて照射することにより、照度をコントロールでき、短時間で実施でき、また細菌や異物などによる汚染を防止することができる。また、紫外線は、後述する本発明の装置を用いて食品に照射してもよい。紫外線は、食品の表面もしくは断面またはその両方に照射してもよい。また、紫外線は、食品を製造する過程において照射してもよい。紫外線は、好ましくは真菌類および/または原生生物に直接照射される。たとえば、カマンベールチーズ、ブリーおよび鰹節など、表面に真菌類および/または原生生物が存在する食品の場合、紫外線は食品の表面に照射してもよい。また、ブルーチーズ、エダム、ゴーダ、チェダーおよびパルメザンなど、内部に真菌類および/または原生生物が存在する食品の場合、食品を切断または粉砕して真菌類および/または原生生物が露出した断面および/または表面に紫外線を照射してもよい。本明細書において「表面」および「断面」とは、表面または断面から3mm未満の深さを有する領域を指す。すなわち、食品の表面または断面から3mm以上の深さを持つ領域は、食品の内部とする。
【0037】
本発明において、紫外線は、特に限定されないが、たとえば露光量50kJ/m2以下で照射することにより、真菌類および/または原生生物を含み、かつ水分含有量が10質量%以上の食品のビタミンD含有量を高めることができる。また、紫外線の露光量は、好ましくは10kJ/m2以下である。露光量10kJ/m2以下で紫外線を照射することにより、少ないエネルギーで、すなわち短い照射時間で、食品のビタミンD含量を効率よく増加させることができる。また、紫外線の露光量が10kJ/m2以下であれば、食品の過酸化物価を低くすることができ、食品の風味をより良好に保つことができる。また、紫外線の露光量は、もっと少なくてもよく、たとえば8kJ/m2以下、5kJ/m2以下または2kJ/m2以下であってもよい。
【0038】
本発明の食品に含有されるビタミンDには、ビタミンD2およびビタミンD3が含まれる。本発明の食品は、特にビタミンD2を多く含む。本発明の食品に含まれるビタミンD2は、好ましくは1μg/100g以上であり、より好ましくは5μg/100g以上、さらに好ましくは10μg/100g以上、さらに好ましくは30μg/100g以上、さらに好ましくは50μg/100g以上、さらに好ましくは100μg/100g以上、さらにより好ましくは200μg/100g以上である。
【0039】
また、本発明の食品に含有されるビタミンDは、ビタミンDが水酸化を受けた25-ヒドロキシビタミンD(25(OH)D;カルシジオール)および/または1,25-ジヒドロキシビタミンD(1,25(OH)2D;カルシトリオール)であってもよい。たとえば、本発明の食品に含有されるビタミンDは、水酸化を受けたビタミンD2、すなわち25(OH)D2および/または1,25(OH)2D2であってもよい。25(OH)Dおよび1,25(OH)2Dは、ビタミンDよりも生体利用性が高いことが報告されている(非特許文献1)。
【0040】
本発明のビタミンD高含有食品は、ビタミンDが強化されているため、認知症、心血管疾患、糖尿病、サルコペニア、フレイル、転倒および骨折、がん、甲状腺機能亢進症、多発性硬化症、関節リウマチ、クローン病、細菌感染、ウィルス感染並びにぜんそくなどの予防に有用である。また、本発明の食品がチーズ様食品またはチーズである場合、チーズ様食品またはチーズに含まれるたんぱく質およびカルシウムなどの不足しがちな栄養素をも同時に摂取することができる。そのため、本発明の食品は、認知症、心血管疾患、糖尿病、サルコペニア、フレイル、転倒および骨折、がん、甲状腺機能亢進症、多発性硬化症、関節リウマチ、クローン病、細菌感染、ウィルス感染並びにぜんそくなどの予防だけでなく、室内の競技者、トレーニングを行う者およびリハビリテーションを行う患者などにおける筋肉量の減少抑制、筋肉量の増加、骨密度の減少抑制および骨塩量の増加などの観点で有用である。
【0041】
本発明のビタミンD高含有食品のビタミンD含有量は、対象者および用途などに合わせて適宜設定することができる。たとえば、1日当たりのビタミンD摂取量の目安は、一般的には、健常な成人(18歳以上)で5.5μg、幼児(1-2歳)2.0μg、幼児(3-5歳)2.5μg、小児(6-7歳)3.0μg、小児(8-9歳)3.5μg、小児(10-11歳)4.5μg、小児(12-14歳)5.5μg、小児(15-17歳)6μg、並びに妊産婦および授乳婦であれば7μgおよび8μgが好ましいと言われている。一方、骨粗しょう症などの疾病を予防するためには、1日当たり10~20μgのビタミンDを摂取することが好ましいと言われている。本発明のビタミンD高含有食品におけるビタミンD含有量は、上述した目安を参考にして適宜設定することができ、たとえば、1日当たりのビタミンD摂取量が1.5μg以上となるように設定してもよい。
【0042】
本発明のビタミンD高含有食品は、好ましくは過酸化物価が10meq/kg以下であり、より好ましくは5meq/kg以下、さらに好ましくは3meq/kg以下である。本明細書において「過酸化物価」とは、油脂が酸化して生じたヒドロペルオキシドの量を、油脂1kgあたりのミリ当量で表したものである。過酸化物価は、たとえば酸性条件下で油脂に飽和ヨウ化カリウムを作用させ、指示薬としてデンプン溶液を入れて遊離したヨウ素をチオ硫酸ナトリウム溶液にて滴定により測定することにより求めることができる。
【0043】
本発明はまた、真菌類および/または原生生物を含み、かつ水分含有量が10質量%以上の食品中のビタミンD含量を増加する方法を提供する。本発明の方法は、真菌類および/または原生生物を含み、かつ水分含有量が10質量%以上の食品に紫外線を照射する工程を含む。
【0044】
本発明はまた、真菌類および/または原生生物を含み、かつ水分含有量が10質量%以上の食品に紫外線を照射する工程を含む、ビタミンD高含有食品の製造方法を提供する。
【0045】
本発明の方法および製造方法において、真菌類および/または原生生物を含み、かつ水分含有量が10質量%以上の食品には、本発明のビタミンD高含有食品について例示した食品を用いることができる。また、本発明の食品および製造方法において、紫外線を照射する工程には、本発明のビタミンD高含有食品について説明した紫外線を照射する方法を用いることができる。
【0046】
紫外線を照射する工程は、食品の製造過程において行ってもよいし、食品の製造後に行ってもよい。たとえば、食品がチーズまたはチーズ様食品である場合、紫外線を照射する工程は、チーズまたはチーズ様食品を熟成する工程前に行ってもよいし、チーズまたはチーズ様食品を熟成する工程と同時に行ってもよいし、チーズまたはチーズ様食品を熟成する工程後に行ってもよい。
【0047】
本発明の一態様として、紫外線を照射したナチュラルチーズを溶融乳化させた後、副原料などを添加してプロセスチーズを製造してもよい。本発明の一態様として、プロセスチーズおよびチーズフードなどを製造する場合には、上述したナチュラルチーズに、溶融塩、pH調整剤、乳製品、香料、香辛料、乳製品以外の食品、調味食品、色素および安定剤などを加えてもよい。また、クリームなどの脂肪が多い原料では均質化工程を加えてもよい。また、加熱する工程では、加熱、減圧加熱および直接または間接蒸気による加熱などを行ってもよい。
【0048】
本発明の一態様として、紫外線を照射する工程は、紫外線を透過するフィルムまたは容器で食品を包装してから行ってもよい。紫外線を透過するフィルムまたは容器の素材は、ポリエチレン、エチレン・酢酸ビニル共重合フィルム、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニリデンコート、ポリエステル、ビニロン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニルデン、セロハン、ゼクロンおよびポリスチレンなどが挙げられる。また、紫外線照射後に食品を包装する場合には、食品を包装するためのフィルムまたは容器として、アルミニウム箔、アルミ蒸着フィルムおよび紙などを用いてもよく、また上で例示したフィルムまたは容器の素材を積層させたフィルムまたは容器を利用してもよい。
【0049】
本発明の方法であれば、真菌類および/または原生生物を含み、かつ水分含有量が10質量%以上の食品に対して紫外線を照射することにより、ビタミンD含量を効率よく増加させることができる。また、本発明の方法であれば、水分含有量が多い食品、特に水分、脂質およびタンパク質の含有量が多い食品であっても、風味を損なわずにビタミンD高含有食品を効率的に製造することができる。
【0050】
本発明はまた、食品中のビタミンD含量を増加するための装置を提供する。本発明の装置は、特に真菌類および/または原生生物を含み、かつ水分含有量が10質量%以上の食品中のビタミンD含量を増加することができる。本発明の装置は、食品を搬送するための手段(食品搬送部)と、食品を搬送するための手段により搬送される食品に紫外線を照射するための手段(紫外線照射部)とを備える。本発明の装置は、食品の表面に紫外線を連続的かつ安定的に照射することができるため、食品中のビタミンD含量を効率よく増加させることができる。
【0051】
本発明の装置において、食品を搬送するための手段には、食品を搬送可能な任意の機械、装置および設備等を用いることができ、たとえばベルトコンベアおよびローラーコンベアなどを用いることができる。食品を搬送するための手段は、食品の搬送を一時的に停止させることが可能であってもよい。また、食品を搬送するための手段は、食品の搬送方向を反転(正転および逆転)させることが可能であってもよい。たとえば、食品は、紫外線を照射するための手段によって紫外線が照射される間、一定方向に搬送され続けてもよい。また、食品は、紫外線が照射される場所(たとえば、照射パネルの下)まで搬送された後に停止し、静止状態において紫外線を照射されてもよい。また、食品は、紫外線が照射される領域(たとえば、照射パネルの下)における滞留時間を延ばすために、搬送中に搬送方向が逆転および正転してもよい。
【0052】
本発明の装置において、紫外線を照射するための手段は、たとえば紫外線を発光する光源によって食品に紫外線を照射することができる。紫外線を発光する光源には、紫外線を発光するランプ、蛍光灯、電球およびLEDなどを用いることができる。本発明の装置に用いる光源としては、紫外線LEDを好適に用いることができる。紫外線LEDの寿命は長いため、光源として紫外線LEDを用いることにより、経年劣化による光源の交換の頻度を少なくすることができる。また、紫外線LEDは、一般的に割れにくいため、ガラス製のUV灯などを用いる場合と比較して、破損によるガラス片などの異物混入を避けることができる。また、光源として紫外線LEDを用いることにより、長期間安定した照射量を維持することができるとともに、光源の電気代や定期交換のためのコストを削減することができる。
【0053】
本発明の装置において、紫外線を照射するための手段は、紫外線を照射するパネルを含んでもよい。本発明に用いるパネルは、食品に対して紫外線を照射することが可能な板状の部材であることができる。パネルの少なくとも一方の面(照射面)が照射面となっていてもよい。本発明におけるパネルの形状は、三角形、四角形、長方形、多角形および円形などの任意の形状であることができる。紫外線を照射するパネルは、搬送される食品の上、斜め上または横などの任意の方向から食品に対して紫外線を照射するように設置されることができる。パネルの照射面上には、紫外線を発光可能な1個または複数の光源が設けられてもよい。光源には、上述したような種類の光源を用いることができる。複数の光源は、照射面上に等間隔に配置されてもよいし、ランダムに配置されてもよい。
【0054】
本発明の装置において、紫外線を照射するための手段は、紫外線を照射する複数のパネルを含んでもよい。複数のパネルのそれぞれは、搬送される食品までの距離が略一定となるように設置されてもよいし、異なるように設置されてもよい。複数のパネルは、食品に対し一定の方向から紫外線を照射するように設置されてもよい。たとえば、複数のパネルは、搬送される食品の上、斜め上または横などの一定の方向から紫外線を連続的に照射できるように、搬送方向に沿って一列に並べられてもよい。また、複数のパネルは、複数の方向から同時に紫外線を照射するように設置されてもよい。たとえば、複数のパネルは、搬送される食品の上、斜め上および横などの複数の方向から同時に食品に紫外線を照射できるように設置されることができる。このようなパネルを用いることにより、食品の表面に紫外線を均一かつ連続的に照射することができるため、食品中のビタミンD含量をより効率よく、かつ安定的に増加させることができる。
【0055】
紫外線を照射するための手段による食品1個当たりの紫外線露光量は、たとえば、照射する紫外線の強度、照射パネルから食品までの距離および照射する時間などによって決定される。紫外線の強度が強いほど、紫外線露光量は多くなる。また、照射パネルから食品までの距離が短いほど、紫外線露光量は多くなる。また、照射する時間が長いほど、たとえば食品に対して紫外線を照射する領域の長さが長いほど、あるいは食品の搬送速度が遅いほど、紫外線露光量は多くなる。利用者は、紫外線を照射する対象物に必要な露光量に基づき、これらの条件を決定することができる。
【0056】
紫外線を照射するパネルには、パネルを冷却するための手段(冷却部)が設けられてもよい。パネルを冷却するための手段は、たとえばパネルの照射面とは反対側(裏側)の面またはパネルの内部などに設けることができる。パネルを冷却するための手段として、たとえばパネルの裏側に設けられた冷却水の流路などを用いることができる。冷却水を流路に循環させることにより、パネルを常時冷却することができる。冷却水の温度および流量は、パネルにおける発熱量により任意に設定することができる。パネルを冷却するための手段を備えることにより、光源からの熱による光源の劣化を抑制し、光源の寿命を長くすることができる。紫外線を照射するパネルは、交換を容易にするため、本発明の装置に着脱可能に設けられてもよい。また、パネルは、電源部および冷却部などの部材と分離可能に構成されてもよい。
【0057】
本発明の装置は、食品を搬送するための手段と紫外線を照射するための手段とを覆う、遮光するための手段(遮光部)をさらに備えてもよい。遮光するための手段は、食品の搬送経路において、少なくとも食品に紫外線を照射する領域全体を覆うことにより、外部への紫外線の漏出を遮断する。遮光するための手段に用いる部材は、紫外線を遮光することができる部材であればよく、特に限定されない。遮光するための手段は、食品の搬送経路において、食品に紫外線を照射する領域の入り口および出口を除く全ての面を覆うトンネル構造であってもよい。
【0058】
本発明の装置は、食品の搬送方向(進行方向)に直交する方向に対する食品の位置を規制する手段(規制ガイド)をさらに備えてもよい。食品の位置を規制する手段は、たとえば、搬送される食品の両側に、搬送方向と平行に設けられた2本のガイドであってもよい。2本のガイドが設けられることにより、連続的に搬送されるそれぞれの食品は、搬送経路からずれることなく、2本のガイドの間を適切に搬送されることができる。すなわち、位置を規制する手段を備えることにより、連続的に搬送されるそれぞれの食品と、紫外線を照射するための手段との位置関係を絶えず一定とすることができる。そのため、全ての食品に均一に紫外線を照射することができる。したがって、品質の安定したビタミンD高含有食品を大量に生産することができる。
【0059】
本発明の装置は、紫外線照射対象である食品の搬送経路中に設置することができる。本発明の装置は、たとえば、食品の製造ラインにおける搬送経路中に容易に設置することができる。したがって、本発明の装置を用いれば、簡便かつ低コストにて、品質の安定したビタミンD高含有食品を大量に生産することが可能である。
【0060】
本発明の装置の一実施形態を
図2および
図3に示す。
図2は、本発明の一実施形態に係る装置を食品の搬送方向から見た断面図である。
図3は、本発明の一実施形態に係る装置を上から見た平面図である。
【0061】
本実施形態に係る装置は、
図2および
図3に示すように、食品搬送部1(食品を搬送するための手段)、紫外線照射パネル2(紫外線を照射するための手段)および遮光カバー3(遮光するための手段)を備える。
【0062】
紫外線照射対象である食品4は、食品搬送部1によって搬送方向に運ばれる。食品4の搬送方向は、
図2では手前に向かう方向であり、
図3では右方向である。紫外線照射パネル2は、食品搬送部1の上部に配置され、食品搬送部1によって搬送される食品4に紫外線を照射する。本実施形態において、紫外線照射パネル2は、
図2に示すように、食品4の真上および左右斜め上の3つの方向に配置され、3方向から同時に食品4に紫外線を照射する。また、紫外線照射パネル2は、
図3に示すように、食品4の搬送方向に沿って複数個並べられている。それぞれの紫外線照射パネル2は、搬送される食品4までの距離が略一定となっている。紫外線照射パネル2が上述したように配置されることにより、食品4の表面に紫外線を均一かつ連続的に照射することができる。
【0063】
遮光カバー3は、食品搬送部1および紫外線照射パネル2を覆う、紫外線を遮断可能なカバーである。遮光カバー3は、紫外線照射領域における食品4の入り口および出口を除く各面を覆うトンネル構造を有する。遮光カバー3により、紫外線の外部への漏えいを防止することができるとともに、内部において紫外線を拡散反射させることができる。
【0064】
図4は、紫外線照射パネル2の一例を示す図である。紫外線照射パネル2の照射面上には、複数の紫外線LED5が等間隔に設けられている。紫外線LED5は、紫外線照射パネル2の照射面上に、可能な限り密に配列されてもよい。
図4に示すように紫外線LED5を等間隔に配列させることによって、紫外線を均一に照射することができる。装置に設けられる紫外線照射パネル2の数は、所望の紫外線露光量および照射対象物の搬送速度などに基づき、適宜決定することができる。
【0065】
本発明はまた、上述した本発明の装置を用いて食品に紫外線を照射する工程を含む、食品中のビタミンD含量を増加する方法を提供する。本発明の方法は、特に真菌類および/または原生生物を含み、かつ水分含有量が10質量%以上の食品中のビタミンD含量を増加することができる。本発明の装置を用いれば、簡便かつ低コストにて、品質の安定したビタミンD高含有食品を大量に生産することが可能である。
【実施例】
【0066】
以下に実施例を示し、本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0067】
(ビタミンD2およびビタミンD3の分析方法)
以下の実施例において、ビタミンD2およびビタミンD3は以下のように分析した。
【0068】
試料(チーズ)を60ml容遠沈管に入れ、3mlの1%(W/V)塩化ナトリウム溶液、10mlの3%(W/V)ピロガロールーエタノール溶液、2mlの60%(W/V)水酸化カリウム溶液および3gの水酸化カリウムを添加し、70℃の水浴中で60分間保持してけん化した後、19mlの1%(W/V)塩化ナトリウム溶液を添加した。ヘキサンおよび酢酸エチルの混液(9:1 V/V)を15ml加え、5分間振盪し、遠心分離(1500rpm、5分)して抽出した。この抽出は3回繰り返した。ここまでの工程を2点並行で行い、得られた抽出物を合わせて以降の処理を行った。
【0069】
溶媒を留去し、ヘキサンで0.5mlまで定容を行った。150μlを分取HPLCに注入した(ポンプ:LC-20AT(島津製作所);検出器:SPD-20A(島津製作所);カラム:POLYGOSIL 60-5μm、φ4.6mm×25cm(ケムコプラス);移動相:ヘキサンおよび2-プロパノールの混液(99:1 V/V);流量:1.5ml/min;波長:265nm;カラム温度:40℃)。得られたビタミンD画分の溶媒を留去し、アセトニトリルで定容後、1/2量を分析HPLCに注入した(ポンプ:LC-20AD(島津製作所);検出器:SPD-20A(島津製作所);カラム:YMC-Pack ODS-AL、φ4.6mm×25cm(ワイエムシィ)およびCadenza CL-C18、φ4.6mm×15cm;移動相:アセトニトリルおよび水の混液(9:1 V/V);流量:1.5ml/min;波長:265nm;カラム温度:50℃または35℃)。
【0070】
〔実験例1〕
白カビを含み、かつ水分、脂質およびタンパク質を含む食品として、カマンベールチーズを選択した。カマンベールチーズへの紫外線照射がビタミンD(ビタミンD2およびビタミンD3)含量に及ぼす影響を検討した。
【0071】
「明治北海道十勝カマンベールチーズ」(以下、「カマンベールチーズ」と称する)を内包装のフィルムから取り出し、室温条件下で、UVBランプ(GL20SE、三共電気)2本を用いて、UVランプからカマンベールチーズまでの距離を11cmとして、90または180分間UV照射を行った。UV照度はUVRADIOMETER UVR-2(トプコンテクノハウス)を用いてモニタリングした。それぞれ半分の時間が経過した時点でチーズを反転させた。UV照射後にビタミンD(ビタミンD2およびビタミンD3)含量をHPLC法にて測定した。対照として、UV照射前のカマンベールチーズ中ビタミンD含量を同時に測定した。
【0072】
カマンベールチーズへの紫外線(UV)照射前のビタミンD含量を表1に、UV照射後のビタミンD含量を表2に示す。UV照射前のカマンベールチーズ中には、ビタミンDはほとんど含まれていなかった(表1)。一方、UV照射後のカマンベールチーズ中のビタミンD含量は、UV照射前と比較して顕著に増加した(表2)。カマンベールチーズなど、食品の表面に真菌類を含む食品にUV照射することにより、ビタミンDの含有量が多い食品(ビタミンD高含有食品)を製造できることが示唆された。
【0073】
【0074】
【0075】
〔実験例2〕
温度制御下で、カマンベールチーズへの紫外線照射がビタミンD2含量に及ぼす影響を検討した。
【0076】
カマンベールチーズとして、実験例1と同じものを使用した。紫外線照射時の温度を15℃、27℃または37℃に制御しながら、UVBランプ(GL20SE、三共電気)2本を用いて、UVランプからカマンベールチーズ(内包装のフィルムから取り出した状態)までの距離を4.4cmとして、UV照射を行った。UV露光量を3水準設け、異なる温度条件下でのUV露光量が同じになるようにUV露光時間を調整した。それぞれUV露光時間が半分経過した時点でカマンベールチーズを反転した。UV照度はUVRADIOMETER UVR-2(トプコンテクノハウス)を用いてモニタリングした。UV照射後、カマンベールチーズ中ビタミンD2含量をHPLC法で測定した。対照として、UV照射前のカマンベールチーズ中ビタミンD2含量も同時に測定した。
【0077】
15℃、27℃または37℃にてカマンベールチーズにUV照射したときのビタミンD2含量を表3に示す。15℃、27℃および37℃に温度制御した場合のいずれにおいても、ビタミンD2含量は同等の値を示した。したがって、幅広い温度条件下で、カマンベールチーズへのUV照射によるビタミンD2含量の増加が確認できた。
【0078】
【0079】
〔実験例3〕
白カビを含み、かつ水分、脂質およびタンパク質を含む食品として、カマンベールチーズを選択した。カマンベールチーズへの短時間の紫外線照射が、ビタミンD2含量、風味および脂質の過酸化物価に及ぼす影響を検討した。
【0080】
カマンベールチーズとして、実験例1と同じものを使用した。内包装のフィルムから取り出したカマンベールチーズに27℃の条件下で、UVBランプ(GL20SE、三共電気)2本を用いて、UVランプからチーズまでの距離を4.4cmとして、1、5、10、20、30、40、50、60または80分間、UV照射を行った。それぞれ半分の時間が経過した時点でチーズを反転させた。UV照度はUVRADIOMETER UVR-2(トプコンテクノハウス)を用いてモニタリングした。UV照射終了後、ビタミンD2含量をHPLC法にて測定した。なお、UV照射5分および30分のサンプルに関しては、酢酸-クロロホルム法による過酸化物価の測定を行った。対照として、UV照射前のカマンベールチーズ中ビタミンD2含量および過酸化物価について測定した。
【0081】
UV露光時間(UV露光量)を変化させたときのビタミンD2含量および脂質の過酸化物価を表4に示す。カマンベールチーズへのUV照射時間が極めて短い(1分)場合でも、ビタミンD2含量が333μg/100gであり、非常に多かった。また、少なくともUV照射30分(UV露光量:10.0kJ/m2)までは、過酸化物価に対して影響を及ぼさないことが明らかとなった。このように、食品に脂質が含まれているにも関わらず、UV照射による過酸化物価および風味への影響がほぼ見られなかった。
【0082】
【0083】
〔実験例4〕
肉などの動物性食品中には、ビタミンDの25位が水酸化を受けた25-ヒドロキシビタミンD(25(OH)D)が存在し、25(OH)Dの生体利用性は、ビタミンDよりも高いことが報告されている(非特許文献1)。そこで、UV照射したカマンベールチーズ中の25(OH)D2濃度を測定した。
【0084】
UV照射なしのカマンベールチーズならびに実験例2における27℃およびUV露光量41.3kJ/m2の条件で処理したカマンベールチーズ中の25(OH)D2および25(OH)D3の有無をHPLC法で検討した。
【0085】
図1は、UV照射前後でのカマンベールチーズ中25(OH)D2検出の有無を示す図である。
図1に示すように、カマンベールチーズへのUV照射により、25(OH)D2が産生されることが確認された。
【0086】
〔実験例5〕
カマンベールチーズ製造工程内でのUV照射がビタミンD2含量および製造適性に及ぼす影響を検討した。
【0087】
以下の工程を経て作製したカマンベールチーズのビタミンD2含量、風味、外観、物性およびpHを測定した。
【0088】
一般的なカマンベールチーズの製造方法に従って製造し、高温熟成を終えたカマンベールチーズを内包装フィルムに包装し、UV照射(片面:1、2、4、8、16または32秒、両面:2、4、8、16、32または64秒、その他は実験例3と同条件)した後、低温熟成を行い、レトルト殺菌した。このとき、カマンベールチーズの水分含量、たんぱく質含量、脂質含量はそれぞれ、51質量%、19質量%、26質量%であった。内包装フィルムからカマンベールチーズを取り出し、ビタミンD2含量の測定、風味(食感含む)の評価、外観(色沢およびチーズの形状)の評価およびpH測定を実施した。
【0089】
風味および外観(色沢、チーズ形状、組織・食感)は、専門パネラー4人で、良、可および不可の三段階で判定した。pHは希釈法で測定した。pHは、試料(チーズ)を10g精秤して、60℃に加温した水30gをいれてブレンダ―(10000rpm、2分間)で混合した後、pHメーター(東亜ディ-ケーケー株式会社pH METER HM-30G)を用いてpHを測定した
【0090】
その結果、本実施例の全てのカマンベールチーズについて、色沢、チーズの形状、風味および組織・食感の評価はいずれも「良」であった。また、pHは、UV照射しなかった群との間に差が認められなかった(参考:UV照射なしのpH:6.52、両側64秒間UV照射のpH(n=3、平均値±標準偏差):6.55±0.04)。
【0091】
表5は、本実施例において製造したカマンベールチーズのビタミンD2含量を示す。表5に示すように、製造工程内において低温熟成前にUV照射した本実施例のカマンベールチーズは、最終商品にUV照射した場合(たとえば実験例3)と比較すると、ビタミンD2含有量が低かった。また、UV照射時間1秒間から64秒間まで(UV露光量:0.0079から0.5100kJ/m2まで)ビタミンD2が直線的に増加することが明らかとなった
【0092】
【0093】
〔実験例6〕
UVランプとチーズとの間の距離がビタミンD2含量に及ぼす影響を検討した。
【0094】
チーズには、「明治北海道十勝カマンベールチーズ100g」(内包装フィルム有)を使用した。室温条件下、UVランプからチーズまでの距離を4.4、13.3または31.3cmとし、UV露光量が全て同じ(約0.48kJ/m2)となるようにUV照射時間を調整した。半分の時間経過時にチーズを反転した。UV照射後、ビタミンD2濃度を測定した(HPLC法)。
【0095】
その結果を表6に示す。表6に示すように、UVランプとチーズとの間の距離を変更しても、UV露光量が同じであればビタミンD2含量はほぼ同量であった
【0096】
【0097】
〔実験例7〕
青かびチーズへの短時間の紫外線照射が、ビタミンD2含量に及ぼす影響を検討した。
【0098】
ブルー・ド・オーヴェルニュ(フランス、販売:株式会社サンブリッジ)およびブルーチーズ(デンマーク、販売:株式会社サンブリッジ)に、27℃の条件下で、UVBランプ(GL20SE、三共電気)2本を用いて、UVランプからチーズまでの距離を4.4cmとして、60秒間(UV露光量:それぞれ、0.49、0.50kJ/m2)、UV照射を行った。それぞれ半分の時間が経過した時点でチーズを反転させた。UV照度はUVRADIOMETER UVR-2(トプコンテクノハウス)を用いてモニタリングした。UV照射終了後、ビタミンD2含量をHPLC法にて測定した。
【0099】
UV照射する前のブルー・ド・オーヴェルニュおよびブルーチーズのビタミンD2含量は、どちらも検出限界(<0.1μg/100g)であり、非常に少なかった。各青かびチーズのUV照射後のビタミンD2含量を表7に示す。ブルー・ド・オーヴェルニュおよびブルーチーズのUV照射後のビタミンD2含量はそれぞれ、44.5μg/100gおよび7.9μg/100gであった。いずれも短時間(60秒間)のUV照射によってビタミンD2含量が増加したことが確認された。
【0100】
【0101】
〔実施例8〕
図2および
図3に示すように、食品搬送部1、紫外線照射パネル2および遮光カバー3を備えた装置を作製した。紫外線照射対象としては、直径約76mmのカマンベールチーズを想定した。紫外線照射パネル2は、
図2に示すように、搬送される食品4の真上および左右斜め上の3つの方向に配置した。また、紫外線照射パネル2は、
図3に示すように、食品4の搬送方向に沿って複数個配置した。それぞれの紫外線照射パネル2は、搬送される食品4までの距離が略一定となるように配置した。
【0102】
紫外線照射パネル2のサイズは、120×120mmとした。紫外線照射パネル2の照射面上には、
図4に示すように、紫外線LED5を等間隔で配置した。紫外線LED5は、照射面上に95~100個実装した。
【0103】
本実施例の装置を用いて、カマンベールチーズに紫外線を照射したところ、ビタミンD高含有カマンベールチーズを安定的に効率よく製造することができた。
【産業上の利用可能性】
【0104】
本発明は、ビタミンDが強化された食品およびその製造方法に好適に利用することができる。