IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社アルバックの特許一覧

<>
  • 特許-蒸着源、真空処理装置、及び蒸着方法 図1
  • 特許-蒸着源、真空処理装置、及び蒸着方法 図2
  • 特許-蒸着源、真空処理装置、及び蒸着方法 図3
  • 特許-蒸着源、真空処理装置、及び蒸着方法 図4
  • 特許-蒸着源、真空処理装置、及び蒸着方法 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-18
(45)【発行日】2022-11-29
(54)【発明の名称】蒸着源、真空処理装置、及び蒸着方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/24 20060101AFI20221121BHJP
   H05B 33/10 20060101ALI20221121BHJP
   H01L 51/50 20060101ALI20221121BHJP
【FI】
C23C14/24 A
H05B33/10
H05B33/14 A
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019022380
(22)【出願日】2019-02-12
(65)【公開番号】P2020128585
(43)【公開日】2020-08-27
【審査請求日】2021-11-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000231464
【氏名又は名称】株式会社アルバック
(74)【代理人】
【識別番号】110003339
【氏名又は名称】弁理士法人南青山国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100104215
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100196575
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 満
(74)【代理人】
【識別番号】100168181
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 哲平
(74)【代理人】
【識別番号】100144211
【弁理士】
【氏名又は名称】日比野 幸信
(72)【発明者】
【氏名】梅原 政司
(72)【発明者】
【氏名】倉田 敬臣
【審査官】末松 佳記
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-017059(JP,A)
【文献】特開2017-025347(JP,A)
【文献】国際公開第2012/086453(WO,A1)
【文献】特開2004-137583(JP,A)
【文献】特開2018-003122(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/24
H05B 33/10
H01L 51/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
蒸着材料が収容される第1室と、加熱機構が設けられ前記第1室の上に設けられ前記蒸着材料が噴出する噴出ノズルに連通する第2室とを有する蒸発容器と、
前記蒸発容器内において前記第1室と前記第2室とを画定し、前記第1室と前記第2室とが連通する複数の孔部を有し、前記複数の孔部の少なくとも1つが前記第1室から前記第2室に向かう第1方向に対して傾いて配置された分散板と
を具備し、
前記分散板は、0.5mm以上200mm以下の厚みを有する一枚の金属板から構成され、
前記分散板を上面視した場合、前記第1方向に対して傾いて配置された孔部において、前記第1室に対面する第1開口部と、前記第2室に対面する第2開口部とが前記第1方向において重複してない
蒸着源。
【請求項2】
請求項1に記載の蒸着源であって、
前記蒸発容器は、第1方向に直交する第2方向における長さよりも、前記第1方向及び第2方向と直交する第3方向における長さのほうが長く構成され、
前記第3方向に、前記複数の孔部が並設されている
蒸着源。
【請求項3】
請求項1または2に記載の蒸着源であって、
前記分散板を上面視した場合、前記複数の孔部の開口部は、円状、楕円状、または前記第2方向に延在するスリット状に構成されている
蒸着源。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1つに記載の蒸着源であって、
前記分散板は、前記蒸発容器内の前記第2室において前記第1方向に対して傾いた方向に前記蒸着材料を分散させる
蒸着源。
【請求項5】
蒸着材料が収容される第1室と、加熱機構が設けられ前記第1室の上に設けられ前記蒸着材料が噴出する噴出ノズルが設けられた第2室とを有する蒸発容器と、前記蒸発容器内において前記第1室と前記第2室とを画定し、前記第1室と前記第2室とが連通する複数の孔部を有し、前記複数の孔部の少なくとも1つが前記第1室から前記第2室に向かう第1方向に対して傾いて配置された分散板とを有する蒸着源と、
前記蒸着源を収容する真空容器と
を具備し、
前記分散板は、0.5mm以上200mm以下の厚みを有する一枚の金属板から構成され、
前記分散板を上面視した場合、前記第1方向に対して傾いて配置された孔部において、前記第1室に対面する第1開口部と、前記第2室に対面する第2開口部とが前記第1方向において重複してない
真空処理装置。
【請求項6】
請求項5に記載の真空処理装置であって、
前記分散板は、前記蒸発容器内の前記第2室において前記第1方向に対して傾いた方向に前記蒸着材料を分散させる
真空処理装置。
【請求項7】
蒸着材料が収容される第1室と、加熱機構が設けられ前記第1室の上に設けられ前記蒸着材料が噴出する噴出ノズルが設けられた第2室とを有する蒸発容器と、前記蒸発容器内において前記第1室と前記第2室とを画定し、前記第1室と前記第2室とが連通する複数の孔部を有し、前記複数の孔部の少なくとも1つが前記第1室から前記第2室に向かう第1方向に対して傾いて配置され、0.5mm以上200mm以下の厚みを有する一枚の金属板から構成され、上面視した場合、前記第1方向に対して傾いて配置された孔部において、前記第1室に対面する第1開口部と、前記第2室に対面する第2開口部とが前記第1方向において重複してない分散板とを具備する蒸着源を用い、
前記蒸着材料を基板に蒸着する
蒸着方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蒸着源、真空処理装置、及び蒸着方法に関する。
【背景技術】
【0002】
真空処理装置の中には、蒸着源と基板とを対向させ、蒸着源の噴出ノズルから蒸着材料を噴出させて、蒸着材料を基板に蒸着するタイプのものがある。
【0003】
このような真空処理装置では、蒸着源内における蒸着材料の蒸気圧を均一にするために、蒸着源の底部に滞留する蒸着材料と噴出ノズルとの間に複数枚の分散板を配置する場合がある。
【0004】
複数枚の分散板が蒸着材料と噴出ノズルとの間に介在することにより、例えば、蒸着源内での蒸着材料の蒸気の整流性が良好になり、噴出ノズル直下での蒸着源内における蒸着材料の蒸気圧分布が均一になる。これにより、基板には均一な厚みの蒸着材料が形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開2018/025637号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、蒸着源内に複数枚の分散板を配置して蒸着材料の蒸気圧分布の均一化を図る構成は複雑になり、さらに、複数の分散板が幾重にも重なるため、複数の分散板を通過する蒸着材料のコンダクタンスを高めることができなくなる。このため、蒸着源の温度を高く設定しても蒸着材料の蒸着速度が頭打ちになる場合がある。特に、蒸着材料が有機物である場合には、なるべく低温度で所望の蒸着速度が得られることが望ましい。
【0007】
以上のような事情に鑑み、本発明の目的は、簡便な構成で良好な蒸着材料の整流性を生み出し、蒸着材料のコンダクタンスがより増加する蒸着源、真空処理装置、及び蒸着方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係る蒸着源は、蒸発容器と、分散板とを具備する。
上記蒸発容器は、蒸着材料が収容される第1室と、上記第1室の上に設けられ上記蒸着材料が噴出する噴出ノズルに連通する第2室とを有する。
上記分散板は、上記蒸発容器内において上記第1室と上記第2室とを画定し、上記第1室と上記第2室とを連通させる複数の孔部を有し、上記複数の孔部の少なくとも1つが上記第1室から上記第2室に向かう第1方向に対して傾いて配置される。
【0009】
このような蒸着源によれば、分散板が蒸発容器内を第1室と第2室とに画定し、分散板が第1室と第2室とを連通させる複数の孔部を有し、複数の孔部の少なくとも1つが第1室から第2室に向かう第1方向に対して傾いて配置される。これにより、簡便な構成の分散板によって良好な蒸着材料の整流性が生み出され、分散板を通過する蒸着材料のコンダクタンスが向上する。
【0010】
蒸着源においては、上記蒸発容器は、第1方向に直交する第2方向における長さよりも、上記第1方向及び第2方向と直交する第3方向における長さのほうが長く構成され、上記第3方向に、上記複数の孔部が並設されてもよい。
【0011】
このような蒸着源によれば、簡便な構成の分散板によって良好な蒸着材料の整流性が生み出され、分散板を通過する蒸着材料のコンダクタンスが向上する。
【0012】
蒸着源においては、上記分散板を上面視した場合、上記複数の孔部の開口部は、円状、楕円状、または上記第2方向に延在するスリット状に構成されてもよい。
【0013】
このような蒸着源によれば、簡便な構成の分散板によって良好な蒸着材料の整流性が生み出され、分散板を通過する蒸着材料のコンダクタンスが向上する。
【0014】
蒸着源においては、上記分散板を上面視した場合、上記第1方向に対して傾いて配置された孔部において、上記第1室に対面する第1開口部と、上記第2室に対面する第2開口部とが上記第1方向において重複してなくてもよい。
【0015】
このような蒸着源によれば、簡便な構成の分散板によって良好な蒸着材料の整流性が生み出され、分散板を通過する蒸着材料のコンダクタンスが向上する。
【0016】
蒸着源においては、上記分散板は、一枚の金属板により構成されてもよい。
【0017】
このような蒸着源によれば、簡便な構成の分散板によって良好な蒸着材料の整流性が生み出され、分散板を通過する蒸着材料のコンダクタンスが向上する。
【0018】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係る真空処理装置は、上記蒸着源と、真空容器とを具備する。
上記真空容器は、上記蒸着源を収容する。
【0019】
このような真空処理装置によれば、簡便な構成の分散板によって良好な蒸着材料の整流性が生み出され、分散板を通過する蒸着材料のコンダクタンスが向上する。
【0020】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係る蒸着方法では、上記蒸着源が用いられ、上記蒸着材料が基板に蒸着される。
【0021】
このような蒸着方法によれば、簡便な構成の分散板によって良好な蒸着材料の整流性が生み出され、分散板を通過する蒸着材料のコンダクタンスが向上する。
【発明の効果】
【0022】
以上述べたように、本発明によれば、簡便な構成で良好な蒸着材料の整流性を生み出し、蒸着材料のコンダクタンスがより増加する蒸着源、真空処理装置、及び蒸着方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本実施形態に係る真空処理装置の模式的断面図である。
図2】図(a)は、蒸着源の模式的断面図である。図(b)は、蒸着源の模式的上面図である。
図3】図(a)は、分散板の変形例の模式的断面図である。図(b)は、分散板の変形例の模式的上面図である。
図4】分散板の別の変形例の模式的上面図である。
図5】蒸着源の変形例の模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。各図面には、XYZ軸座標が導入される場合がある。また、同一の部材または同一の機能を有する部材には同一の符号を付す場合があり、その部材を説明した後には適宜説明を省略する場合がある。
【0025】
図1は、本実施形態に係る真空処理装置の模式的断面図である。
【0026】
真空処理装置1は、真空容器10と、基板搬送機構20と、蒸着源30とを具備する。真空処理装置1は、蒸着材料30mを基板90に蒸着する蒸着装置である。
【0027】
真空容器10は、減圧状態を維持できる容器である。真空容器10は、排気機構70によって、その内部の気体が排気される。真空容器10を基板搬送機構20から蒸着源30に向かう方向(以下、Z軸方向)に上面視したときの平面形状は、例えば、矩形状である。
【0028】
真空容器10は、基板搬送機構20、蒸着源30等を収容する。真空容器10には、ガスを供給することが可能なガス供給機構が取り付けられてもよい。また、真空容器10には、その内部の圧力を計測する圧力計が取り付けられてもよい。また、真空容器10には、基板90に形成された膜の蒸着速度等を間接的に計測する膜厚計が設けられてもよい。
【0029】
基板搬送機構20は、真空容器10の上部に位置する。基板搬送機構20は、Z軸方向において蒸着源30に対向する。基板搬送機構20は、基板90を保持する基板ホルダ91を支持しつつ、基板90及び基板ホルダ91をY軸方向に搬送する。すなわち、基板90と蒸着源30との相対位置が変化しながら、基板90に蒸着材料30mが蒸着される。基板90は、例えば、矩形状の大型ガラス基板である。また、基板90と蒸着源30との間には、マスク部材92が設けられてもよい。例えば、図1の例では、基板90の蒸着源30と対向する面(蒸着面)にマスク部材92が設けられる。
【0030】
なお、基板搬送機構20は、蒸着源30の側に設けられていてもよい。この場合、固定された基板90に対して、蒸着源30を搬送する搬送機構とを走査することにより、基板90と蒸着源30との相対位置が変化して、基板90に蒸着材料30mが蒸着される。
【0031】
蒸着源30は、真空容器10の下部に位置する。蒸着源30は、蒸発容器31(坩堝)と、噴出ノズル32と、加熱機構33と、分散板34Aと、カバー35とを有する。蒸着源30は、Z軸方向において基板90に対向する。蒸着源30は、例えば、図示しない支持台に固定されている。
【0032】
蒸発容器31は、基板90が搬送される方向と直交する方向(X軸方向)に延在する。蒸発容器31をZ軸方向から上面視した場合、その外形は、例えば、長方形である。X軸方向における蒸発容器31の長さは、Y軸方向の長さよりも長い。蒸発容器31は、1つに限らず、例えば、Y軸方向に複数並設されてもよい。この場合、複数の蒸発容器31のそれぞれは、互いに平行になってY軸方向に並ぶことになる。
【0033】
複数の蒸発容器31が真空容器10に配置された場合、複数の蒸発容器31のそれぞれには、種類が異なる蒸着材料30mを充填することができる。これにより、基板90に、層によって材料が異なる積層膜、層において異種の材料が混合した混合膜等を形成することができる。なお、蒸着材料30mは、例えば、有機物、金属等である。
【0034】
また、蒸発容器31の上面部には、複数の噴出ノズル32が設けられている。複数の噴出ノズル32のそれぞれは、所定の間隔を隔てて、X軸方向に並設されている。複数の噴出ノズル32は、基板90に対向する。一例として、複数の噴出ノズル32は、例えば、X軸方向における基板90の幅よりも狭い領域に配置されている。
【0035】
また、X軸方向に並ぶ複数の噴出ノズル32においては、例えば、両側または両側近傍に配置された噴出ノズル32は、基板90に背くように傾斜している。図1の例では、両側に配置された噴出ノズルを噴出ノズル321と表記している。例えば、噴出ノズル321の中心軸32cは、Z軸方向と交差している。なお、本実施形態では、噴出ノズル321を含めた複数の噴出ノズルのそれぞれを総括的に"噴出ノズル32"と呼称する。
【0036】
加熱機構33は、蒸発容器31の外側に配置されている。加熱機構33は、蒸発容器31の底部及び側部を囲んでいる。加熱機構33は、誘導加熱方式または抵抗加熱方式の加熱機構である。蒸発容器31に収容された蒸着材料30mが加熱機構33によって加熱されると、蒸着材料30mが複数の噴出ノズル32から基板90に向けて噴出する。また、加熱機構33は、カバー35に覆われている。これにより、加熱機構33によって蒸発容器31に効率よく加熱される。
【0037】
また、蒸着源30には、複数の噴出ノズル32のそれぞれを加熱する加熱機構を設けてもよい。これにより、複数の噴出ノズル32が所定の温度となり、蒸着材料30mの噴出ノズル32における目詰まりが抑制される。
【0038】
分散板34Aは、蒸発容器31の内部に配置される。分散板34Aは、例えば、一枚の厚い金属板により構成される。分散板34Aを含めた蒸着源30の詳細を図2(a)、(b)を用いて説明する。
【0039】
図2(a)は、蒸着源の模式的断面図である。図2(b)は、蒸着源の模式的上面図である。図2(a)は、図2(b)のA-A'断面図である。また、図2(b)では、蒸着源30の内部を示すために、図2(a)に図示された蒸発容器31を覆う防着板36(天板36とも言う。)が図示されていない。
【0040】
蒸発容器31は、蒸着材料30mが収容される第1室311(下部室)と、第1室311の上に設けられた第2室312(上部室)とを有する。第1室311から第2室312に向かう方向をZ軸方向(第1方向)とした場合、蒸発容器31は、例えば、Z軸方向に直交するY軸方向(第2方向)における長さよりも、Z軸方向及びY軸方向と直交するX軸方向(第3方向)における長さのほうが長く構成されている。
【0041】
分散板34Aは、蒸発容器31の内部に設けられる。分散板34Aは、蒸発容器31内に設けられた固定部37により、蒸発容器31内に固定される。分散板34Aは、蒸発容器31内において第1室311と、第2室312とを画定(区分)する。第1室311には、蒸着材料30mが充填される。第2室312の上部には、蒸着材料30mが噴出する噴出ノズル32が設けられる。第2室312は、複数の噴出ノズル32に連通する。複数の噴出ノズル32は、防着板36に配置される。
【0042】
また、分散板34Aには、第1室311と第2室312とが連通する複数の孔部341、342が設けられている。複数の孔部341、342は、X軸方向に並設されている。複数の孔部341、342の少なくとも1つは、Z軸方向に対して傾いて配置されている。図2(a)の例では、複数の孔部341のそれぞれが下から上に基板90の外側に向かって傾き、複数の孔部342のそれぞれが下から上に基板90の外側に向かって傾いている。また、複数の孔部342は、複数の孔部341とは反対側に傾いている。複数の孔部341、342が分散板34Aに設けられたことにより、第1室311で蒸発した蒸着材料30mの蒸気が複数の孔部341、342を介して第2部屋312に進行し、さらに噴出ノズル32を介して蒸着源30外に飛び出ていく。
【0043】
例えば、X軸方向に蒸発容器31を2分する中心線Cxに対して、複数の孔部341と複数の孔部342とは、線対称に配置されている。例えば、噴出ノズル32が中心線Cxに対して線対称に配置されていない場合、複数の孔部341と、複数の孔部342とは、非対称に配置されてもよい。孔部341の中心軸と中心線Cxとがなす角は、複数の孔部341において同じであってもよく、中心線Cxから離れるほど、より広角となってもよく、中心線Cxから離れるほど、より狭角となってもよい。孔部342の中心軸と中心線Cxとがなす角は、複数の孔部342において同じであってもよく、中心線Cxから離れるほど、より広角となってもよく、中心線Cxから離れるほど、より狭角となってもよい。また、該なす角は、複数個の孔部ごとに、中心線Cxから離れるほどより広角またはより狭角になってもよい。
【0044】
一例として、図2(a)には、該なす角が中心線Cxから離れるほどより広角になる例が示されている。
【0045】
分散板34Aを上面視した場合、孔部341の上下の開口部341a、341bは、Y軸方向に延在する。また、分散板34Aを上面視した場合、孔部342の上下の開口部342a、342bは、Y軸方向に延在する。すなわち、開口部341a、341b、342a、342bは、スリット状に構成されている。
【0046】
孔部341の幅は、複数の孔部341において同じであってもよく、中心線Cxから離れるほど、より広くなってもよく、中心線Cxから離れるほど、より狭くなってもよい。孔部342の幅は、複数の孔部342において同じであってもよく、中心線Cxから離れるほど、より広くなってもよく、中心線Cxから離れるほど、より狭くなってもよい。また、該幅は、複数個の孔部ごとに、中心線Cxから離れるほどより広くなったり、狭くなったりしてもよい。
【0047】
ここで、本実施形態では、第1室311に対面する開口部341a、342aを総括的に第1開口部とし、第2室312に対面する開口部341b、342bを総括的に第2開口部とする。
【0048】
分散板34Aを上面視した場合、Z軸方向に対して傾いた孔部341においては、第1室311に対面する開口部341aと、第2室312に対面する開口部341bとがZ軸方向において重複してない。すなわち、開口部341aと、開口部341bとは、X軸方向においてオフセットの関係にある。
【0049】
分散板34Aを上面視した場合、Z軸方向に対して傾いた孔部342においては、第1室311に対面する開口部342aと、第2室312に対面する開口部342bとがZ軸方向において重複してない。すなわち、開口部342aと、開口部342bとは、X軸方向においてオフセットの関係にある。
【0050】
例えば、分散板34Aの厚みは、特に限ることなく、例えば、0.5mm以上200mm以下である。また、孔部341、342のそれぞれにおける中心軸のZ軸方向からの傾きは、例えば、10°以上80°以下である。
【0051】
分散板34Aの材料は、例えば、ステンレス鋼、タンタル、モリブデン、チタン、チタンアルミニウム合金等のいずれかである。蒸発容器31の材料は、例えば、銅、タンタル、モリブデン、チタン、チタンアルミニウム合金等のいずれかである。防着板36は、例えば、ステンレス鋼、銅、アルミニウム等の材料により構成される。
【0052】
本実施形態では、このような蒸着源30を用いて、蒸着材料30mを基板90に蒸着する方法が提供される。
【0053】
蒸着源の中には、幾重にも薄い分散板を複数枚重ね、複数の噴出ノズル32のそれぞれから噴出させる蒸着材料30mの蒸気圧(蒸着源30内における蒸着材料30mの蒸気圧)を略均一にする手法がある。また、この手法によれば、蒸着材料30mの上方に複数枚の分散板が位置することから、蒸着材料30mが加熱機構33以外の加熱機構からの熱輻射の影響を受けにくくなる。ここで、加熱機構33以外の加熱機構からの熱輻射を「上部からの熱輻射」と呼ぶ。上部からの熱輻射としては、例えば、複数の噴出ノズル32を加熱する加熱機構等からの熱輻射がある。
【0054】
しかしながら、幾重にも分散板を重ね、蒸着源30内における蒸着材料30mの蒸気圧を均一にする手法では、分散板の構造が複雑になってしまう。また、複数の分散板がZ軸方向に重なることから、複数の分散板を通過する蒸着材料のコンダクタンスが必然的に低くなってしまう。これにより、高い蒸着速度で、蒸着材料を蒸発させるには、高パワーの電力を蒸発容器31に投入することになる。但し、蒸着材料が有機物の場合、蒸発容器31に投入する電力には限界がある。
【0055】
これに対して、本実施形態の蒸着源30では、分散板34Aが一体の金属板で構成されている。このため、分散板34Aの構造は、より簡便になる。さらに、一体の金属板に、複数の孔部341、342が設けられていることから、分散板34Aを通過する蒸着材料30mのコンダクタンスがより高くなる。
【0056】
これにより、低パワーであっても、高い蒸着速度で、蒸着材料30mを蒸発させることができ、蒸着時間の短縮化、すなわち、蒸着工程の生産性が向上する。
【0057】
さらに、孔部341、342は、斜めに傾いている。このため、蒸着材料30mの蒸気は、Z軸方向に進行する垂直成分のほか、強制的に斜めに進行する成分も有する。
【0058】
つまり、分散板34Aを通過する蒸着材料30mにおいては、Z軸方向のほか、X軸方向でも整流性が向上する。特に、X軸方向に長く延在する蒸発容器31を用いた蒸着源30において蒸着材料30mの蒸気の整流性を高めるためには、分散板34Aが有効に働く。
【0059】
このように、蒸着源30では、分散板34Aを通過する蒸着材料30mの整流性が向上し、蒸着材料30mの蒸気圧は、第2室312において略均一になる。
【0060】
また、分散板34Aは、所定の厚みを有している。このため、分散板34Aが1枚の金属板で構成されても、蒸着材料30mは、上部からの熱輻射の影響を受けにくくなる。
【0061】
特に、分散板34Aが熱伝導度が高い金属で構成された場合、上部からの熱輻射は、分散板34Aによって吸収されやすくなる。このため、上部からの熱輻射は、蒸着材料30mに影響を与えにくくなる。また、分散板34Aが熱伝導度が高い金属で構成された場合、熱輻射を受容した分散板34Aの温度は、その面内で略均一になり、蒸発容器31内では、温度斑が生じにくくなる。
【0062】
また、開口部341aと開口部341bとは、X軸方向においてオフセットの関係にある。このため、分散板34Aが1枚で構成されても、上部から熱輻射は孔部341、342を通過しにくい。すなわち、上部からの輻射熱は、直接的に蒸着材料30mに当たらないことになる。
【0063】
さらに、加熱機構33によって蒸着材料30mが突沸したとしても、開口部341aと開口部341bとがX軸方向においてオフセットの関係にあることから、第1室311で突沸した蒸着材料30mは、孔部341、342を経由して第2室312まで通過しにくくなる。
【0064】
(変形例1)
【0065】
図3(a)は、分散板の変形例の模式的断面図である。図3(b)は、分散板の変形例の模式的上面図である。図3(a)は、図3(b)のB-B'断面図である。
【0066】
分散板34Bにおいては、複数の孔部341、342がX軸方向に並設されているほか、孔部345、346がY軸方向に並設されている。さらに、Y軸方向に並ぶ、一組の孔部345、346は、X軸方向に並設されている。
【0067】
孔部345、346は、Z軸方向に対して傾いて配置されている。図3(a)の例では、孔部345が下から上に向かって傾き、孔部346が下から上に向かって傾いている。孔部345は、孔部346とは反対側に傾いている。
【0068】
例えば、Y軸方向に分散板34Bを2分する中心線Cyに対して、孔部345と孔部346とは、線対称に配置されている。例えば、孔部345の中心軸と中心線Cyとがなす角は、孔部346の中心軸と中心線Cyとがなす角と同じである。
【0069】
分散板34Bを上面視した場合、孔部345の上下の開口部345a、345bは、X軸方向に延在する。また、分散板34Bを上面視した場合、孔部346の上下の開口部346a、346bは、X軸方向に延在する。すなわち、開口部345a、345b、346a、346bは、スリット状に構成されている。なお、開口部345a、345b、346a、346bは、スリット状に限らず、円状、楕円状であってもよい。
【0070】
また、分散板34Bを上面視した場合、孔部345においては、第1室311に対面する開口部345aと、第2室312に対面する開口部345bとがZ軸方向において重複してない。すなわち、開口部345aと、開口部345bとは、Y軸方向においてオフセットの関係にある。
【0071】
また、分散板34Bを上面視した場合、孔部346において、第1室311に対面する開口部346aと、第2室312に対面する開口部346bとがZ軸方向において重複してない。すなわち、開口部346aと、開口部346bとは、X軸方向においてオフセットの関係にある。
【0072】
このような構成によれば、孔部341、342のほかに、孔部345、346が設けられているため、分散板34Bを通過する蒸着材料30mの整流性は、X軸方向のほかにY軸方向でも調整可能になる。これにより、第2室312における蒸着材料30mの蒸気圧は、さらに均一になる。
【0073】
(変形例2)
【0074】
図4は、分散板の別の変形例の模式的上面図である。
【0075】
複数の孔部341の開口部341a、341bは、円状、楕円状に構成されてもよい。複数の孔部342の開口部342a、342bは、円状、楕円状に構成されてもよい。
【0076】
例えば、分散板34Cの例では、分散板34CをZ軸方向から上面視した場合、複数の孔部341の開口部341a、342aは、円状に構成され、複数の孔部342の開口部342a、342aは、円状に構成されている。
【0077】
この場合、孔部341は、X軸方向に並設されるともに、Y軸方向に並設される。また、孔部342は、X軸方向に並設されるともに、Y軸方向に並設される。また、孔部341及び孔部342のそれぞれは、分散板34CをX軸方向において2分する中心線Cxから離れるほど、孔径が大きくなってもよく、小さくなってもよい。また、該孔径は、複数個の孔部ごとに、中心線Cxから離れるほどより広くなったり、狭くなったりしてもよい。また、Y軸方向に並ぶ孔部の個数は、中心線Cxから離れるほどより多くなったり、少なくなったりしてもよい。
【0078】
このような構成であっても、分散板34Aを用いた場合と同様の効果が得られる。特に、X軸方向のほかにY軸方向にも孔部が並設されているので、分散板34Cを通過する蒸着材料30mの整流性がX軸方向のほかに、Y軸方向でも調整可能になる。これにより、第2室312における蒸着材料30mの蒸気圧がさらに均一になる。
【0079】
(変形例3)
【0080】
図5は、蒸着源の変形例の模式的断面図である。
【0081】
図5に示すように、分散板34Aは、蒸発容器31内に複数枚配置してもよい。例えば、図5の例では、Z軸方向に2枚の分散板34Aが配置されている。ここで、孔部341、341の個数は、上下の分散板34Aにおいて変えてよい。例えば、図5の例では、下部の分散板34Aよりも上部の分散板34Aにおいて該個数が多く構成されている。なお、分散板34Aに代えて、分散板34Bまたは分散板34Cを用いてもよい。
【0082】
このような構成によれば、第1室311に充填された蒸着材料30mにとっては、上部からの輻射熱が2枚の分散板34Aによってより確実に遮蔽される。これにより、蒸着材料30mは、上部からの輻射熱の影響をさらに受けにくくなる。また、2枚の分散板34Aを配置したことにより、1枚の分散板34Aを配置した場合に比べて、蒸着材料30mの整流性が向上し、第2室312における蒸着材料30mの蒸気圧がより均一になる。
【0083】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態にのみ限定されるものではなく種々変更を加え得ることは勿論である。各実施形態は、独立の形態とは限らず、技術的に可能な限り複合することができる。
【符号の説明】
【0084】
1…真空処理装置
10…真空容器
20…基板搬送機構
30…蒸着源
30m…蒸着材料
31…蒸発容器
32、321…噴出ノズル
32c…中心軸
33…加熱機構
34A、34B、34C…分散板
35…カバー
36…防着板
37…固定部
70…排気機構
90…基板
91…基板ホルダ
92…マスク部材
311…第1室
312…第2室
341、342、345、346…孔部
341a、341b、342a、342b、345a、345b、346a、346b…開口部
図1
図2
図3
図4
図5