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特許7179959マグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体、電波吸収体、及びマグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体の共鳴周波数を制御する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-18
(45)【発行日】2022-11-29
(54)【発明の名称】マグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体、電波吸収体、及びマグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体の共鳴周波数を制御する方法
(51)【国際特許分類】
   C01G 49/00 20060101AFI20221121BHJP
   H01F 1/34 20060101ALI20221121BHJP
   H01F 1/11 20060101ALI20221121BHJP
   H01F 1/113 20060101ALI20221121BHJP
   H05K 9/00 20060101ALI20221121BHJP
【FI】
C01G49/00 C
H01F1/34 180
H01F1/11
H01F1/113
H05K9/00 M
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021506169
(86)(22)【出願日】2019-12-19
(86)【国際出願番号】 JP2019049902
(87)【国際公開番号】W WO2020188927
(87)【国際公開日】2020-09-24
【審査請求日】2021-04-23
(31)【優先権主張番号】P 2019051927
(32)【優先日】2019-03-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019117629
(32)【優先日】2019-06-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】橋本 浩一
【審査官】佐藤 慶明
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-250823(JP,A)
【文献】特開平02-066902(JP,A)
【文献】特開2004-104063(JP,A)
【文献】特開平06-150297(JP,A)
【文献】特開平11-354972(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第102030521(CN,A)
【文献】国際公開第2019/131675(WO,A1)
【文献】BASHKIROV, S. S. et al.,Synthesis of the Aluminum-Substituted Hexaferrite SrFe9.5Al2.5O19,Inorganic Materials,1999年,Vol.35,pp.1301-1305
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 49/00
H01F 1/10 - 1/117
H01F 1/34 - 1/38
H05K 9/00
CAplus/REGISTRY/WPIX(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の式(1)で表されるマグネトプランバイト型六方晶フェライトの粉体と、下記の式(2)で表される化合物の粉体と、を含み、
50kOeの外部磁場をかけたときの磁化量の90%となる磁場強度Hαが、19kOe≦Hα≦28kOeを満たし、
鉄原子100原子%に対するアルミニウム原子の割合x’(原子%)が1.80~2.65である、マグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体。
【化1】


式(1)中、Aは、Sr、Ba、Ca、及びPbからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属元素を表し、xは、1.5≦x≦8.0を満たす。
【化2】


式(2)中、Aは、Sr、Ba、Ca、及びPbからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属元素を表す。
【請求項2】
前記式(1)におけるAが、Srである請求項1に記載のマグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体。
【請求項3】
表面処理されている請求項1又は請求項2に記載のマグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体。
【請求項4】
請求項1~請求項3のいずれか1項に記載のマグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体と、バインダーと、を含み、かつ、平面形状を有する電波吸収体。
【請求項5】
請求項1~請求項3のいずれか1項に記載のマグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体と、バインダーと、を含み、かつ、立体形状を有する電波吸収体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、マグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体、電波吸収体、及びマグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体の共鳴周波数を制御する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子料金収受システム(ETC:Electronic Toll Collection System)、走行支援道路システム(AHS:Advanced Cruise-Assist Highway Systems)、衛星放送等、高周波数帯域における電波の利用形態の多様化に伴い、電波干渉による電子機器の誤作動、故障等が問題となっている。このような電波干渉が電子機器へ与える影響を低減するため、電波吸収体に不要な電波を吸収させ、電波の反射を防止することが行われている。
【0003】
電波吸収体としては、磁性体を使用したものが多用されている。磁性体を含む電波吸収体に入射した電波は、磁性体の中に磁場を発生させる。その発生した磁場が電波のエネルギーに還元される際、一部のエネルギーが失われて吸収される。そのため、磁性体を含む電波吸収体では、使用する磁性体の種類によって効果を奏する周波数帯域が異なる。
【0004】
例えば、特許第4674380号公報には、組成式AFe(12-x)Al19、但し、AはSr、Ba、Ca、及びPbの1種以上、x:1.0~2.2、で表されるマグネトプランバイト型六方晶フェライトの粉体において、レーザ回折散乱粒度分布のピーク粒径が10μm以上である電波吸収体用磁性粉体が記載されている。特許第4674380号公報に記載の電波吸収体用磁性粉体によれば、76GHz付近で優れた電波吸収性能を呈するとされている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年の情報通信技術の急速な発展に伴い、電波の利用形態は、今後、益々多様化するものと思われる。そのため、様々な周波数の電波に対応する観点から、ターゲットの周波数帯域(特に、60GHz~90GHz)において、優れた電波吸収性能を示し得る電波吸収体の開発が望まれる。
【0006】
本発明者は、電波吸収体に好適な磁性体として、鉄の一部がアルミニウムに置換されたマグネトプランバイト型六方晶フェライト(以下、「Al置換マグネトプランバイト型六方晶フェライト」ともいう。)に着目した。しかし、Al置換マグネトプランバイト型六方晶フェライトの共鳴周波数をターゲットの周波数帯域に合わせることは非常に困難である。
このような問題に対し、本発明者は、Al置換マグネトプランバイト型六方晶フェライトにおける鉄原子に対するアルミニウム原子の割合と、Al置換マグネトプランバイト型六方晶フェライトの共鳴周波数との間に相関性があり、Al置換マグネトプランバイト型六方晶フェライトにおける鉄原子に対するアルミニウム原子の割合を調整することにより、Al置換マグネトプランバイト型六方晶フェライトの共鳴周波数を所望の値に制御できることを見出した。
【0007】
しかし、本発明者が更に検討を進める過程で、Al置換マグネトプランバイト型六方晶フェライトの粉体を固相法(所謂、複数の固体原料から焼成により得る方法)により量産しようとしたところ、Alを含み、かつ、Feを含まない化合物が副生成物として一定量生成されること、また、上記化合物が存在すると、粉体の共鳴周波数が、Al置換マグネトプランバイト型六方晶フェライトにおける鉄原子に対するアルミニウム原子の割合を調整することにより予め設計した共鳴周波数とずれることがわかった。
【0008】
本発明の一実施形態が解決しようとする課題は、60GHz~90GHzの周波数帯域において、所望の共鳴周波数を有するマグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体を提供することである。
本発明の他の実施形態が解決しようとする課題は、上記マグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体を含む電波吸収体を提供することである。
また、本発明の他の実施形態が解決しようとする課題は、60GHz~90GHzの周波数帯域において、マグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体の共鳴周波数を良好に制御できる、マグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体の共鳴周波数を制御する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するための手段には、以下の態様が含まれる。
<1> 下記の式(1)で表されるマグネトプランバイト型六方晶フェライトの粉体と、下記の式(2)で表される化合物の粉体と、を含み、50kOeの外部磁場をかけたときの磁化量の90%となる磁場強度Hαが、19kOe≦Hα≦28kOeを満たすマグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体。
【0010】
【化1】
【0011】
式(1)中、Aは、Sr、Ba、Ca、及びPbからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属元素を表し、xは、1.5≦x≦8.0を満たす。
【0012】
【化2】
【0013】
式(2)中、Aは、Sr、Ba、Ca、及びPbからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属元素を表す。
【0014】
<2> 上記式(1)におけるAが、Srである<1>に記載のマグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体。
<3> 表面処理されている<1>又は<2>に記載のマグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体。
<4> <1>~<3>のいずれか1つに記載のマグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体と、バインダーと、を含み、かつ、平面形状を有する電波吸収体。
<5> <1>~<3>のいずれか1つに記載のマグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体と、バインダーと、を含み、かつ、立体形状を有する電波吸収体。
<6> 下記の式(1)で表されるマグネトプランバイト型六方晶フェライトの粉体を含むマグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体に対し、50kOeの外部磁場をかけたときの磁化量の90%となる磁場強度Hαを、19kOe≦Hα≦28kOeを満たす範囲内で調整することにより、マグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体の共鳴周波数を制御する方法。
【0015】
【化3】
【0016】
式(1)中、Aは、Sr、Ba、Ca、及びPbからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属元素を表し、xは、1.5≦x≦8.0を満たす。
【0017】
<7> 上記マグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体が、下記の式(2)で表される化合物を含む<6>に記載の方法。
【0018】
【化4】
【0019】
式(2)中、Aは、Sr、Ba、Ca、及びPbからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属元素を表す。
【発明の効果】
【0020】
本発明の一実施形態によれば、60GHz~90GHzの周波数帯域において、所望の共鳴周波数を有するマグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体が提供される。
本発明の他の実施形態によれば、上記マグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体を含む電波吸収体が提供される。
また、本発明の他の実施形態によれば、60GHz~90GHzの周波数帯域において、マグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体の共鳴周波数を良好に制御できる、マグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体の共鳴周波数を制御する方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】液相法により作製した粉体A1~粉体A7における、x’の値と共鳴周波数との関係、及び固相法により作製した粉体B1~粉体B6における、x’の値と共鳴周波数との関係を示すグラフである。
図2】液相法により作製した粉体A1~粉体A7における、Hαの値と共鳴周波数との関係、及び固相法により作製した粉体B1~粉体B6における、Hαの値と共鳴周波数との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を適用したマグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体の実施形態の一例について説明する。但し、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜、変更を加えて実施できる。
【0023】
本開示において「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を意味する。
本開示に段階的に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本開示に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
本開示において、2以上の好ましい態様の組み合わせは、より好ましい態様である。
本開示において、各成分の量は、各成分に該当する物質が複数種存在する場合には、特に断らない限り、複数種の物質の合計量を意味する。
【0024】
本開示において、「工程」の用語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であっても、その工程の所期の目的が達成されれば本用語に含まれる。
【0025】
本開示において、「x’」は、マグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体における鉄原子100原子%に対するアルミニウム原子の割合を指す。
【0026】
本開示において、非SI単位「Oe」からSI単位「A/m」への変換係数は、「10/4π」とする。ここで、「π」は、3.1416とする。
【0027】
本開示において、非SI単位「emu」からSI単位「A・m」への変換係数は、「10-3」とする。
【0028】
[マグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体]
本開示のマグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体は、式(1)で表されるマグネトプランバイト型六方晶フェライトの粉体と、式(2)で表される化合物の粉体と、を含み、50kOeの外部磁場をかけたときの磁化量の90%となる磁場強度Hαが、19kOe≦Hα≦28kOeを満たす。
以下、「50kOeの外部磁場をかけたときの磁化量の90%となる磁場強度Hα」を「磁場強度Hα」又は「Hα」ともいう。
【0029】
本発明者は、電波吸収体に好適な磁性体として、鉄の一部がアルミニウムに置換されたマグネトプランバイト型六方晶フェライト(即ち、Al置換マグネトプランバイト型六方晶フェライト)に着目した。しかし、Al置換マグネトプランバイト型六方晶フェライトの共鳴周波数をターゲットの周波数帯域に合わせることは非常に困難であった。
これに対し、本発明者は、鋭意検討を行い、Al置換マグネトプランバイト型六方晶フェライトにおける鉄原子に対するアルミニウム原子の割合と、Al置換マグネトプランバイト型六方晶フェライトの共鳴周波数との間に相関性があり、Al置換マグネトプランバイト型六方晶フェライトにおける鉄原子に対するアルミニウム原子の割合を調整することにより、Al置換マグネトプランバイト型六方晶フェライトの共鳴周波数を所望の値に制御できることを見出した。
その一方で、本発明者が、Al置換マグネトプランバイト型六方晶フェライトの粉体を固相法により量産しようとしたところ、Alを含み、かつ、Feを含まない化合物〔詳細には、本開示における式(2)で表される化合物〕が副生成物として一定量生成されることがわかった。Al置換マグネトプランバイト型六方晶フェライトの製造によって得られる粉体に、上記化合物が含まれると、粉体の共鳴周波数が、Al置換マグネトプランバイト型六方晶フェライトにおける鉄原子に対するアルミニウム原子の割合を調整することにより予め設計した共鳴周波数とずれる場合がある。
【0030】
これに対し、本開示のマグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体は、式(1)で表されるマグネトプランバイト型六方晶フェライトの粉体を含み、かつ、50kOeの外部磁場をかけたときの磁化量の90%となる磁場強度Hαが、19kOe≦Hα≦28kOeを満たすため、式(2)で表される化合物の粉体を含みながらも、60GHz~90GHzの周波数帯域において、所望の共鳴周波数を有する。50kOeの外部磁場をかけたときの磁化量の90%となる磁場強度Hαは、式(2)で表される化合物の粉体の存在の影響を受け難い。そのため、式(2)で表される化合物の粉体を含みながらも、60GHz~90GHzの周波数帯域において、所望の共鳴周波数を有すると推測される。
【0031】
上述の点に関し、特許第4674380号公報では、ターゲットの周波数帯域にマグネトプランバイト型六方晶フェライトの共鳴周波数を合わせることについては、何ら言及していない。また、特許第4674380号公報には、マグネトプランバイト型六方晶フェライトの粉体を固相法により量産しようとすると、式(2)で表される化合物の粉体が一定量生成されることについて、何ら記載されていない。
【0032】
なお、上記の推測は、本開示のマグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体を限定的に解釈するものではなく、一例として説明するものである。
【0033】
〔マグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体の磁気特性〕
本開示のマグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体は、50kOeの外部磁場をかけたときの磁化量の90%となる磁場強度Hαが、19kOe≦Hα≦28kOeを満たす。
本開示のマグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体では、磁場強度Hαと共鳴周波数とが相関性を示す。本開示において、「19kOe≦Hα≦28kOe」とは、「60GHz≦共鳴周波数≦90GHz」を意味する。本開示のマグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体は、例えば、周波数帯域60GHz~90GHzのミリ波レーダーに使用する態様を想定していることから、磁場強度Hαが、19kOe≦Hα≦28kOeを満たす。
【0034】
磁場強度Hαは、20kOe≦Hα≦27kOeを満たすことが好ましく、21kOe≦Hα≦26kOeを満たすことがより好ましく、22kOe≦Hα≦25kOeを満たすことが更に好ましい。
【0035】
本開示のマグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体の磁場強度Hαは、以下の方法により求めた値である。
振動試料型磁力計を用い、雰囲気温度23℃の環境下、最大印加磁界50kOe、及び磁界掃引速度25Oe/s(秒)の条件にて、印加した磁界に対するマグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体の磁化の強度を測定する。そして、測定結果に基づき、マグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体の磁界(H)-磁化(M)曲線を得る。得られた磁界(H)-磁化(M)曲線に基づき、印加磁場50kOeでの磁化量の90%となる磁場強度を求め、この磁場強度をHαとする。
振動試料型磁力計としては、例えば、(株)玉川製作所のTM-TRVSM5050-SMSL型(型番)を好適に用いることができる。但し、振動試料型磁力計は、これに限定されない。
【0036】
本開示のマグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体の保磁力(Hc)は、特に限定されないが、例えば、2.5kOe以上であることが好ましく、4.0kOe以上であることがより好ましく、5.0kOe以上であることが更に好ましい。
本開示のマグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体の保磁力(Hc)が2.5kOe以上であると、電波吸収性能により優れる電波吸収体を製造できる。
本開示のマグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体の保磁力(Hc)の上限は、特に限定されないが、例えば、18kOe以下であることが好ましい。
【0037】
本開示のマグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体の単位質量あたりの飽和磁化(δs)は、特に限定されないが、例えば、10emu/g以上であることが好ましく、20emu/g以上であることがより好ましく、30emu/g以上であることが更に好ましい。
本開示のマグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体の単位質量あたりの飽和磁化(δs)が10emu/g以上であると、電波吸収性能により優れる電波吸収体を製造できる。
本開示のマグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体の単位質量あたりの飽和磁化(δs)の上限は、特に限定されないが、例えば、60emu/g以下であることが好ましい。
【0038】
本開示のマグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体の保磁力(Hc)及び単位質量あたりの飽和磁化(δs)は、振動試料型磁力計を用いて、雰囲気温度23℃の環境下、最大印加磁界50kOe、及び磁界掃引速度25Oe/s(秒)の条件にて測定した値である。
振動試料型磁力計としては、例えば、(株)玉川製作所のTM-TRVSM5050-SMSL型(型番)を好適に用いることができる。但し、振動試料型磁力計は、これに限定されない。
【0039】
<式(1)で表されるマグネトプランバイト型六方晶フェライトの粉体>
本開示のマグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体は、下記の式(1)で表されるマグネトプランバイト型六方晶フェライト(以下、「特定マグネトプランバイト型六方晶フェライト」ともいう。)の粉体(所謂、粒子の集合体)を含む。
【0040】
【化5】
【0041】
式(1)中、Aは、Sr、Ba、Ca、及びPbからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属元素を表し、xは、1.5≦x≦8.0を満たす。
【0042】
式(1)におけるAは、Sr、Ba、Ca、及びPbからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属元素であれば、金属元素の種類及び数は、特に限定されない。
式(1)におけるAは、例えば、操作性及び取り扱い性の観点から、Sr、Ba、及びCaからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属元素であることが好ましい。
また、式(1)におけるAは、例えば、79GHz付近で優れた電波吸収性能を示し得る点で、Srを含むことが好ましく、Srであることがより好ましい。
【0043】
式(1)におけるxは、1.5≦x≦8.0を満たし、1.5≦x≦6.0を満たすことが好ましく、1.5≦x≦4.0を満たすことがより好ましく、1.5≦x≦3.0を満たすことが更に好ましい。
式(1)におけるxが1.5以上であると、60GHzよりも高い周波数帯域の電波を吸収できる。
式(1)におけるxが8.0以下であると、マグネトプランバイト型六方晶フェライトが磁性を有する。
【0044】
特定マグネトプランバイト型六方晶フェライトとしては、SrFe(10.44)Al(1.56)19、SrFe(10.26)Al(1.74)19、SrFe(10.10)Al(1.90)19、SrFe(10.04)Al(1.96)19、SrFe(10.00)Al(2.00)19、SrFe(9.95)Al(2.05)19、SrFe(9.94)Al(2.06)19、SrFe(9.88)Al(2.12)19、SrFe(9.85)Al(2.15)19、SrFe(9.79)Al(2.21)19、SrFe(9.74)Al(2.26)19、SrFe(9.71)Al(2.29)19、SrFe(9.58)Al(2.42)19、SrFe(9.37)Al(2.63)19、SrFe(9.33)Al(2.67)19、SrFe(9.27)Al(2.73)19、SrFe(7.88)Al(4.12)19、SrFe(7.71)Al(4.29)19、SrFe(7.37)Al(4.63)19、SrFe(7.04)Al(4.96)19、SrFe(6.25)Al(5.75)19、BaFe(9.50)Al(2.50)19、BaFe(10.05)Al(1.95)19、CaFe(10.00)Al(2.00)19、PbFe(9.00)Al(3.00)19、Sr(0.80)Ba(0.10)Ca(0.10)Fe(9.83)Al(2.17)19、Sr(0.80)Ba(0.10)Ca(0.10)Fe(8.85)Al(3.15)19等が挙げられる。
【0045】
特定マグネトプランバイト型六方晶フェライトの組成は、高周波誘導結合プラズマ(ICP:Inductively Coupled Plasma)発光分光分析法により確認する。
具体的には、試料粉体12mg及び4mol/L(リットル;以下、同じ。)の塩酸水溶液10mLを入れた耐圧容器を、設定温度120℃のオーブンで12時間保持し、溶解液を得る。次いで、得られた溶解液に純水30mLを加えた後、0.1μmのメンブレンフィルタを用いてろ過する。このようにして得られたろ液の元素分析を、高周波誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析装置を用いて行う。得られた元素分析の結果に基づき、鉄原子100原子%に対する各金属原子の含有率を求める。求めた含有率に基づき、組成を確認する。
ICP発光分光分析装置としては、例えば、(株)島津製作所のICPS-8100(型番)を好適に用いることができる。但し、ICP発光分光分析装置は、これに限定されない。
【0046】
特定マグネトプランバイト型六方晶フェライトの結晶相は、単相でもよいし、単相でなくてもよいが、好ましくは単相である。
結晶相が単相である特定マグネトプランバイト型六方晶フェライトは、アルミニウムの含有割合が同じである場合、結晶相が単相ではない(例えば、結晶相が二相である)特定マグネトプランバイト型六方晶フェライトと比較して、保磁力が高く、磁気特性により優れる傾向がある。
【0047】
本開示において、「結晶相が単相である」場合とは、粉末X線回折(XRD:X-Ray-Diffraction)測定において、任意の組成の特定マグネトプランバイト型六方晶フェライトの結晶構造を示す回折パターンが1種類のみ観察される場合をいう。
一方、本開示において、「結晶相が単相ではない」場合とは、任意の組成の特定マグネトプランバイト型六方晶フェライトが複数混在し、回折パターンが2種類以上観察されたり、特定マグネトプランバイト型六方晶フェライト以外の結晶の回折パターンが観察されたりする場合をいう。
【0048】
結晶相が単相ではない場合、主たるピークとそれ以外のピークとが存在する回折パターンが得られる。ここで、「主たるピーク」とは、観察される回折パターンにおいて、回折強度の値が最も高いピークを指す。
本開示のマグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体が、単相ではない特定マグネトプランバイト型六方晶フェライトの粉体を含む場合、粉末X線回折(XRD)測定により得られる、主たるピークの回折強度の値(以下、「Im」と称する。)に対する、それ以外のピークの回折強度の値(以下、「Is」と称する。)の比(Is/Im)は、例えば、電波吸収性能により優れる電波吸収体を製造できるという観点から、1/2以下であることが好ましく、1/5以下であることがより好ましい。
なお、2種以上の回折パターンが重なり、それぞれの回折パターンのピークが極大値を有している場合には、それぞれの極大値をIm及びIsと定義し、比を求める。また、2種以上の回折パターンが重なり、主たるピークの肩部として、それ以外のピークが観察される場合には、肩部の最大強度値をIsと定義し、比を求める。
また、それ以外のピークが2つ以上存在する場合には、それぞれの回折強度の合計値をIsと定義し、比を求める。
【0049】
回折パターンの帰属には、例えば、国際回折データセンター(ICDD:International Centre for Diffraction Data、登録商標)のデータベースを参照できる。
例えば、Srを含むマグネトプランバイト型六方晶フェライトの回折パターンは、国際回折データセンター(ICDD)の「00-033-1340」を参照できる。但し、鉄の一部がアルミニウムに置換されることで、ピーク位置については、シフトする。
【0050】
特定マグネトプランバイト型六方晶フェライトの結晶相が単相であることは、既述のとおり、粉末X線回折(XRD)測定により確認する。
具体的には、粉末X線回折装置を用い、下記の条件にて測定する。
粉末X線回折装置としては、例えば、PANalytical社のX’Pert Pro(製品名)を好適に用いることができる。但し、粉末X線回折装置は、これに限定されない。
【0051】
-条件-
X線源:CuKα線
〔波長:1.54Å(0.154nm)、出力:40mA,45kV〕
スキャン範囲:20°<2θ<70°
スキャン間隔:0.05°
スキャンスピード:0.75°/min
【0052】
特定マグネトプランバイト型六方晶フェライトの粒子の形状は、特に限定されない。
特定マグネトプランバイト型六方晶フェライトの粒子の形状としては、例えば、平板状、不定形状等である。
【0053】
特定マグネトプランバイト型六方晶フェライトの粒子の大きさは、特に限定されない。
特定マグネトプランバイト型六方晶フェライトの粉体は、例えば、レーザ回折散乱法により測定した個数基準の粒度分布における累積50%径(D50)が、2μm~100μmである。
【0054】
特定マグネトプランバイト型六方晶フェライトの粉体の累積50%径(D50)は、具体的には、以下の方法により測定される値である。
特定マグネトプランバイト型六方晶フェライトの粉体10mgにシクロヘキサノン500mLを加えて希釈した後、振とう機を用いて30秒間撹拌し、得られた液を粒度分布測定用サンプルとする。次いで、粒度分布測定用サンプルを用いて、レーザ回折散乱法により粒度分布を測定する。測定装置には、レーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置を用いる。
【0055】
レーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置としては、例えば、(株)堀場製作所のPartica LA-960(製品名)を好適に用いることができる。但し、レーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置は、これに限定されない。
【0056】
本開示のマグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体は、特定マグネトプランバイト型六方晶フェライトの粉体を1種のみ含んでいてもよく、2種以上含んでいてもよい。
【0057】
本開示のマグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体における特定マグネトプランバイト型六方晶フェライトの粉体の含有率は、特に限定されないが、例えば、電波吸収性能により優れる電波吸収体を製造できるという観点から、マグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体の全質量に対して、80質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましく、95質量%以上であることが更に好ましい。
本開示のマグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体における特定マグネトプランバイト型六方晶フェライトの粉体の含有率の上限は、特に限定されず、例えば、マグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体の全質量に対して、99質量%以下が挙げられる。
【0058】
<式(2)で表される化合物の粉体>
本開示のマグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体は、式(2)で表される化合物(以下、「特定化合物」ともいう。)の粉体(所謂、粒子の集合体)を含む。
本開示のマグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体に含まれる特定化合物の由来は、特に限定されない。
本発明者の検討によれば、特定化合物は、特定マグネトプランバイト型六方晶フェライトの粉体を製造する過程で、副生成物として一定量生成される化合物であることがわかっている。但し、特定化合物は、このような製法に由来するものに限定されない。
本開示のマグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体は、例えば、意図的な添加により特定化合物を含んでいてもよく、不可避的に特定化合物を含んでいてもよい。
【0059】
【化6】
【0060】
式(2)中、Aは、Sr、Ba、Ca、及びPbからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属元素を表す。
【0061】
式(2)におけるAは、Sr、Ba、Ca、及びPbからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属元素であれば、金属元素の種類及び数は、特に限定されない。
式(2)におけるAは、通常、式(1)におけるAの種類に対応する。
【0062】
特定化合物としては、例えば、SrAl、BaAl、CaAl、及びPbAlが挙げられる。
例えば、式(1)におけるAが、Sr、Ba、及びCaである場合には、特定化合物としては、SrAl、BaAl、及びCaAlからなる群より選ばれる少なくとも1種が挙げられる。
【0063】
特定化合物の粒子の形状は、特に限定されない。
特定化合物の粒子の形状としては、例えば、平板状、不定形状等である。
特定化合物の粒子の大きさは、特に限定されない。
特定化合物の粉体は、例えば、レーザ回折散乱法により測定した個数基準の粒度分布における累積50%径(D50)が、2μm~100μmである。
特定化合物の粉体の累積50%径(D50)は、既述の特定マグネトプランバイト型六方晶フェライトの粉体の累積50%径(D50)と同様の方法により測定されるため、ここでは、説明を省略する。
【0064】
本開示のマグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体は、特定化合物を1種のみ含んでいてもよく、2種以上含んでいてもよい。
【0065】
本開示のマグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体における特定化合物の含有率は、特に限定されないが、例えば、磁性を有さない特定化合物を含むことによるマグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体の磁気特性の低下をより抑制する観点から、マグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体の全質量に対して、20質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましく、5質量%以下であることが更に好ましい。
本開示のマグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体における特定化合物の含有率の下限は、特に限定されず、例えば、マグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体の全質量に対して、1質量%以上が挙げられる。
本開示のマグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体は、特定化合物を、例えば、マグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体の全質量に対して10質量%以上含んでいる場合であっても、60GHz~90GHzの周波数帯域において、所望の共鳴周波数を有する。
【0066】
本開示のマグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体における特定化合物の含有率は、特定化合物の標品を用いた粉末X線回折(XRD)法により測定される。
具体的には、後述の実施例に記載の方法により測定される。
【0067】
本開示のマグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体は、表面処理されていることが好ましい。
表面処理されている粉体によれば、電波吸収性能、中でも、反射減衰量と透過減衰量とのバランスに優れる電波吸収体を実現できる。表面処理されている粉体によれば、特に、電波吸収体の反射のピーク減衰量を大きくすることができる。
また、粉体が表面処理されていると、電波吸収体を形成するための組成物(所謂、電波吸収体形成用組成物)中に粉体を多く含有させた場合でも、ハンドリング性及び加工性が損なわれ難い。
さらに、電波吸収体形成用組成物が表面処理されている粉体を含むと、形成される電波吸収体の機械強度が向上し得る。
表面処理されている粉体によれば、上記のような効果が奏される理由は明らかではないが、発明者は、以下のように推測している。
粉体に対し、表面処理を施すと、粉体を構成する粒子間の凝集力が弱まり、粒子同士の凝集が抑制される。粒子同士の凝集が抑制されると、電波吸収体形成用組成物の粘度は、上昇し難くなる。そのため、電波吸収体形成用組成物は、粉体を多く含む場合でも、十分な流動性を示し、ハンドリング性及び加工性が損なわれ難いと考えられる。
また、粉体に対し、表面処理を施すと、粉体とバインダーとの親和性が高まる。粉体を構成する粒子間の凝集力が弱まったり、粉体とバインダーとの親和性が高まったりすることで、バインダー中に粉体がより均一に分散される。そのため、形成される電波吸収体は、電波吸収性能のバラツキが生じ難く、かつ、機械強度に優れると考えられる。
【0068】
本開示のマグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体に対しては、公知の表面処理技術を適用することができる。
表面処理の種類としては、炭化水素油、エステル油、ラノリン等による油剤処理;ジメチルポリシロキサン、メチルハイドロジェンポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン等によるシリコーン処理;パーフルオロアルキル基含有エステル、パーフルオロアルキルシラン、パーフルオロポリエーテル及びパーフルオロアルキル基を有する重合体等によるフッ素化合物処理;3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン等によるシランカップリング剤処理;イソプロピルトリイソステアロイルチタネート、イソプロピルトリス(ジオクチルピロホスフェート)チタネート等によるチタンカップリング剤処理;金属石鹸処理;アシルグルタミン酸等によるアミノ酸処理;水添卵黄レシチン等によるレシチン処理;ポリエチレン処理;メカノケミカル処理;リン酸、亜リン酸、リン酸塩、亜リン酸塩等によるリン酸化合物処理;などが挙げられる。
【0069】
これらの中でも、表面処理の種類としては、リン酸化合物処理が好ましい。
粉体に対し、リン酸化合物処理を施すと、粉体を構成する粒子の表面に、高極性の層を厚く形成することができる。
粒子の表面に高極性の層が形成されると、粒子同士の疎水的相互作用による凝集が抑制されるため、電波吸収体形成用組成物の粘度上昇をより効果的に抑制することができる。そのため、リン酸化合物処理されている粉体の場合、粉体を多く含むことによる電波吸収体形成用組成物の流動性の低下がより生じ難くなり、ハンドリング性及び加工性がより損なわれ難い傾向がある。
また、粒子の表面に高極性の層が形成されると、粒子同士の凝集が抑制されるのみならず、粉体とバインダーとの間の親和性がより高まるため、バインダー中に粉体がより均一に分散される。そのため、リン酸化合物処理されている粉体を含む電波吸収体形成用組成物により形成される電波吸収体は、電波吸収性能のバラツキがより生じ難く、かつ、機械強度により優れる傾向がある。
【0070】
リン酸化合物には、リン酸の他に、亜リン酸、次亜リン酸、ピロリン酸、直鎖状のポリリン酸、及び環状のメタリン酸、並びにこれらの塩が含まれる。
リン酸化合物が塩の形態の場合、リン酸化合物は、金属塩であることが好ましい。
金属塩としては、特に限定されず、例えば、アルカリ金属の塩、アルカリ土類金属の塩等が挙げられる。
また、リン酸化合物は、アンモニウム塩であってもよい。
【0071】
リン酸化合物処理では、リン酸化合物を、1種のみ用いてもよく、2種以上用いてもよい。
【0072】
リン酸化合物処理では、リン酸化合物は、通常、キレート剤、中和剤等と混合して表面処理剤とされる。
リン酸化合物処理では、表面処理剤として、一般に市販されているリン酸化合物を含む
水溶液を用いることもできる。
粉体のリン酸化合物処理は、例えば、粉体とリン酸化合物を含む表面処理剤とを混合することにより行うことができる。混合時間、温度等の条件は、目的に応じて、適宜設定すればよい。リン酸化合物処理では、リン酸化合物の解離(平衡)反応を利用して、不溶性のリン酸化合物を、粉体を構成する粒子表面に析出させる。
リン酸化合物処理については、例えば、「表面技術」,第61巻,第3号,p216,2010年、又は、「表面技術」,第64巻,第12号,p640,2013年の記載を参照することができる。
【0073】
また、表面処理の種類としては、シランカップリング剤処理が好ましい。
シランカップリング剤としては、加水分解性基を有するシランカップリング剤が好ましい。
加水分解性基を有するシランカップリング剤を用いたシランカップリング剤処理では、シランカップリング剤における加水分解性基が、水により加水分解されて水酸基となり、この水酸基がシリカ粒子表面の水酸基と脱水縮合反応することにより、粒子の表面が改質される。
加水分解性基としては、アルコキシ基、アシルオキシ基、ハロゲノ基等が挙げられる。
【0074】
シランカップリング剤は、官能基として疎水性基を有していてもよい。
官能基として疎水性基を有するシランカップリング剤としては、メチルトリメトキシシラン(MTMS)、ジメチルジメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、n-プロピルトリメトキシシラン、n-プロピルトリエトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、ヘキシルトリエトキシシラン、デシルトリメトキシシラン等のアルコキシシラン;メチルトリクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、トリメチルクロロシラン、フェニルトリクロロシラン等のクロロシラン;ヘキサメチルジシラザン(HMDS);などが挙げられる。
また、シランカップリング剤は、官能基としてビニル基を有していてもよい。
官能基としてビニル基を有するシランカップリング剤としては、メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン等のアルコキシシラン;ビニルトリクロロシラン、ビニルメチルジクロロシラン等のクロロシラン;ジビニルテトラメチルジシラザン;などが挙げられる。
【0075】
シランカップリング剤処理では、シランカップリング剤を、1種のみ用いてもよく、2種以上用いてもよい。
【0076】
表面処理の方法としては、特に限定されず、公知の方法を適用することができる。
表面処理の方法としては、粉体と表面処理剤等とをヘンシェルミキサー等の混合機を用いて混合する方法、粉体を構成する粒子に対し、表面処理剤等を噴霧する方法、表面処理剤等を適当な溶剤に溶解又は分散させた表面処理剤等を含む液と、粉体と、を混合した後、溶剤を除去する方法等が挙げられる。
【0077】
[マグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体の製造方法]
本開示のマグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体の製造方法は、特に限定されず、例えば、式(1)で表されるマグネトプランバイト型六方晶フェライト(即ち、特定マグネトプランバイト型六方晶フェライト)が主生成物として生成され、かつ、式(2)で表される化合物(即ち、特定化合物)が副生成物として生成される方法が挙げられる。
本発明者は、式(1)で表されるマグネトプランバイト型六方晶フェライト(即ち、特定マグネトプランバイト型六方晶フェライト)の粉体を固相法により量産しようとしたところ、式(2)で表される化合物(即ち、特定化合物)が、副生成物として一定量生成されることを確認している。
よって、本開示のマグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体の製造方法としては、固相法により製造する方法が好ましい。
【0078】
本開示のマグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体を固相法により製造する方法としては、特に限定されないが、例えば、以下で説明する方法(以下、「製造方法X」という。)が好ましい。
【0079】
製造方法Xは、Feを含む無機化合物と、Alを含む無機化合物と、Sr、Ba、Ca、及びPbからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属元素(以下、「特定金属元素」ともいう。)を含む無機化合物と、を混合して、混合物を得る工程Aと、工程Aにて得られた混合物を粉砕して粉砕物を得た後、得られた粉砕物を焼成する工程(以下、「b1工程」ともいう。)、又は、工程Aにて得られた混合物を焼成して焼成物を得た後、得られた焼成物を粉砕する工程(以下、「b2工程」ともいう。)のいずれか一方の工程Bと、を含む。
工程A及び工程Bは、それぞれ2段階以上に分かれていてもよい。
製造方法Xは、必要に応じて、工程A及び工程B以外の工程を含んでいてもよい。
以下、各工程について詳細に説明する。
【0080】
(工程A)
工程Aは、Feを含む無機化合物と、Alを含む無機化合物と、Sr、Ba、Ca、及びPbからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属元素(即ち、特定金属元素)を含む無機化合物と、を混合して、混合物を得る工程である。
Feを含む無機化合物としては、酸化鉄(III)〔α-Fe〕等のFeを含む酸化物、塩化鉄(III)、硝酸鉄(III)などが挙げられる。
Alを含む無機化合物としては、酸化アルミニウム〔Al〕等のAlを含む酸化物、水酸化アルミニウムなどが挙げられる。
特定金属元素を含む無機化合物としては、炭酸ストロンチウム〔SrCO〕、炭酸バリウム、炭酸カルシウム、炭酸鉛等の特定金属元素を含む炭酸塩、塩化ストロンチウム、塩化バリウム、塩化カルシウム等の特定金属元素を含む塩化物などが挙げられる。
【0081】
Feを含む無機化合物とAlを含む無機化合物と特定金属元素を含む無機化合物とは、単に混合すればよい。
以下、Feを含む無機化合物、Alを含む無機化合物、及び特定金属元素を含む無機化合物を「原料」ともいう。
原料は、全量を一度に混合してもよく、Feを含む無機化合物とAlを含む無機化合物と特定金属元素を含む無機化合物とを少しずつ徐々に混合してもよい。
例えば、特定化合物の生成量を低減する観点からは、Feを含む無機化合物とAlを含む無機化合物と特定金属元素を含む無機化合物とを少しずつ徐々に混合することが好ましい。
Feを含む無機化合物とAlを含む無機化合物と特定金属元素を含む無機化合物とを混合する方法は、特に限定されず、例えば、撹拌により混合する方法が挙げられる。
撹拌手段としては、特に限定されず、一般的な撹拌装置を用いることができる。
撹拌装置としては、パドルミキサー、インペラーミキサー等のミキサーが挙げられる。
撹拌時間は、特に限定されず、例えば、原料の配合量、撹拌装置の種類等に応じて、適宜設定できる。
【0082】
Feを含む無機化合物とAlを含む無機化合物と特定金属元素を含む無機化合物との混合比率は、特に限定されず、目的とする特定マグネトプランバイト型六方晶フェライトの組成に応じて、適宜設定できる。
【0083】
磁場強度Hαは、工程Aにおいて、例えば、マグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体の、原料の種類、原料の粒径、原料の使用量、原料の混合方法等を変更することで調整できる。
具体的には、例えば、原料として使用する、Feを含む無機化合物に対するAlを含む無機化合物の配合割合を高めることで、磁場強度Hαの値を高めることができる。また、例えば、原料として使用する、Alを含む無機化合物の粒径を小さくすることで、磁場強度Hαの値を高めることができる。
【0084】
(工程B)
工程Bは、工程Aにて得られた混合物を粉砕して粉砕物を得た後、得られた粉砕物を焼成する工程(即ち、b1工程)、又は、工程Aにて得られた混合物を焼成して焼成物を得た後、得られた焼成物を粉砕する工程(即ち、b2工程)のいずれか一方の工程である。
工程Aにて得られた混合物を焼成して焼成物を得た後、得られた焼成物を粉砕するか、或いは、工程Aにて得られた混合物を粉砕して粉砕物を得た後、得られた粉砕物を焼成することにより、マグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体を得ることができる。
【0085】
工程Bは、b1工程であってもよく、b2工程であってもよい。
例えば、焼成後の磁気特性をより均一にするという観点からは、工程Bは、b2工程であることが好ましい。
【0086】
焼成は、加熱装置を用いて行うことができる。
加熱装置は、目的の温度に加熱することができれば、特に限定されず、公知の加熱装置をいずれも用いることができる。加熱装置としては、例えば、電気炉の他、製造ラインに合わせて独自に作製した焼成装置を用いることができる。
焼成は、大気雰囲気下で行うことが好ましい。
焼成温度としては、特に限定されないが、例えば、900℃以上が好ましく、900℃~1400℃がより好ましく、1000℃~1200℃が更に好ましい。
焼成時間としては、特に限定されないが、例えば、1時間~10時間が好ましく、2時間~6時間がより好ましい。
【0087】
粉砕手段は、目的とする粒径のマグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体を得ることができれば、特に限定されない。
粉砕手段としては、乳鉢及び乳棒、粉砕機(カッターミル、ボールミル、ビーズミル、ローラーミル、ジェットミル、ハンマーミル、アトライター等)などが挙げられる。
【0088】
メディアを用いる粉砕の場合、メディアの粒径(所謂、メディア径)は、特に限定されないが、例えば、0.1mm~5.0mmであることが好ましく、0.5mm~3.0mmであることがより好ましい。
本開示において、「メディア径」とは、球状メディア(例えば、球状ビーズ)の場合は、メディア(例えば、ビーズ)の直径を意味し、非球状メディア(例えば、非球状ビーズ)の場合は、透過型電子顕微鏡(TEM)又は走査型電子顕微鏡(SEM)の観察像から複数個のメディア(例えば、ビーズ)の円相当径を測定し、測定値を算術平均して求められる直径を意味する。
【0089】
メディアの材質は、特に限定されず、例えば、ガラス製、アルミナ製、スチール製、ジルコニア製、セラミック製等のメディアを好ましく用いることができる。
【0090】
[電波吸収体]
本開示の電波吸収体は、本開示のマグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体と、バインダーと、を含む。
本開示のマグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体の磁場強度Hαと共鳴周波数とは相関性があり、磁場強度Hαの調整により、共鳴周波数の制御が可能である。そのため、本開示の電波吸収体は、本開示のマグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体を含むことで、所望の周波数の電波の吸収を効率良く高めることができ、所望の周波数において、優れた電波吸収性能を発揮し得る。
【0091】
本開示の電波吸収体の形状としては、特に制限はなく、平面形状を有していてもよく、立体形状を有していてもよく、線形状を有していてもよい。
平面形状としては、特に制限はなく、シート状、フィルム状等の形状が挙げられる。
立体形状としては、例えば、三角形以上の多角形の柱形状、円柱形状、角錐形状、円錐形状、及びハニカム形状が挙げられる。また、立体形状としては、上記平面形状と上記立体形状とを組み合わせた形状も挙げられる。
線形状としては、特に制限はなく、フィラメント状、ストランド状等の形状が挙げられる。
本開示の電波吸収体の電波吸収性能は、電波吸収体における本開示のマグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体の含有率のみならず、電波吸収体の形状によっても制御することが可能である。
【0092】
本開示の電波吸収体は、本開示のマグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体を1種のみ含んでいてもよく、2種以上含んでいてもよい。
本開示の電波吸収体は、例えば、組成の異なる2種以上の本開示のマグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体を含んでいてもよい。
【0093】
本開示の電波吸収体における本開示のマグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体の含有率は、特に限定されず、例えば、電波吸収体の電波吸収性能の観点から、電波吸収体中の全固形分量に対して、10質量%以上が好ましく、30質量%以上がより好ましく、50質量%以上が更に好ましい。
また、本開示の電波吸収体における本開示のマグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体の含有率は、例えば、電波吸収体の強度及び製造適性の観点から、電波吸収体中の全固形分量に対して、98質量%以下が好ましく、95質量%以下がより好ましく、92質量%以下が更に好ましい。
【0094】
本開示において、電波吸収体中の全固形分量とは、電波吸収体が溶剤を含まない場合には、電波吸収体の全質量を意味し、電波吸収体が溶剤を含む場合には、電波吸収体から溶剤を除いた全質量を意味する。
【0095】
本開示の電波吸収体は、バインダーを含む。
バインダーとしては、例えば、熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂が挙げられる。
熱可塑性樹脂としては、アクリル樹脂;ポリアセタール;ポリアミド;ポリエチレン;ポリプロピレン;ポリエチレンテレフタレート;ポリブチレンテレフタレート;ポリカーボネート;ポリスチレン;ポリフェニレンサルファイド;ポリ塩化ビニル;アクリロニトリルとブタジエンとスチレンとの共重合により得られるABS(acrylonitrile butadiene styrene)樹脂;アクリロニトリルとスチレンとの共重合により得られるAS(acrylonitrile styrene)樹脂等が挙げられる。
熱硬化性樹脂としては、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、不飽和ポリエステル、ジアリルフタレート樹脂、ウレタン樹脂、シリコン樹脂等が挙げられる。
【0096】
バインダーとしては、例えば、ゴムが挙げられる。
ゴムとしては、例えば、本開示のマグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体との混合性が良好であり、かつ、耐久性、耐候性、及び耐衝撃性により優れる電波吸収体を製造できるという観点から、ブタジエンゴム;イソプレンゴム;クロロプレンゴム;ハロゲン化ブチルゴム;フッ素ゴム;ウレタンゴム;アクリル酸エステル(例えば、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、及びアクリル酸2-エチルヘキシル)と他の単量体との共重合により得られるアクリルゴム(ACM);チーグラー触媒を用いたエチレンとプロピレンとの配位重合により得られるエチレン-プロピレンゴム;イソブチレンとイソプレンとの共重合により得られるブチルゴム(IIR);ブタジエンとスチレンとの共重合により得られるスチレンブタジエンゴム(SBR);アクリロニトリルとブタジエンとの共重合により得られるアクリロニトリルブタジエンゴム(NBR);シリコーンゴム等が好ましい。
【0097】
バインダーとしては、例えば、熱可塑性エラストマー(TPE)も挙げられる。
熱可塑性エラストマーとしては、オレフィン系熱可塑性エラストマー(TPO)、スチレン系熱可塑性エラストマー(TPS)、アミド系熱可塑性エラストマー(TPA)、ポリエステル系熱可塑性エラストマー(TPC)等が挙げられる。
【0098】
本開示の電波吸収体は、バインダーとしてゴムを含む場合、ゴムに加えて、加硫剤、加硫助剤、軟化剤、可塑剤等の各種添加剤を含んでいてもよい。
加硫剤としては、硫黄、有機硫黄化合物、金属酸化物等が挙げられる。
【0099】
バインダーのメルトマススローレイト(以下、「MFR」ともいう。)は、特に限定されないが、例えば、1g/10min~200g/10minであることが好ましく、3g/10min~100g/10minであることがより好ましく、5g/10min~80g/10minであることが更に好ましく、10g/10min~50g/10minであることが特に好ましい。
バインダーのMFRが1g/10min以上であると、流動性が十分に高く、外観不良がより生じ難い。
バインダーのMFRが200g/10min以下であると、成形体の強度等の機械特性をより高めやすい。
バインダーのMFRは、JIS K 7210:1999に準拠して、測定温度230℃及び荷重10kgの条件で測定される値である。
【0100】
バインダーの硬度は、特に限定されないが、例えば、成形適性の観点から、5g~150gであることが好ましく、10g~120gであることがより好ましく、30g~100gであることが更に好ましく、40g~90gであることが特に好ましい。
バインダーの硬度は、JIS K 6253-3:2012に準拠して測定される瞬間値である。
【0101】
バインダーの密度は、特に限定されないが、例えば、成形適性の観点から、600kg/m~1100kg/mであることが好ましく、700kg/m~1000kg/mであることがより好ましく、750kg/m~1050kg/mであることが更に好ましく、800kg/m~950kg/mであることが特に好ましい。
バインダーの密度は、JIS K 0061:2001に準拠して測定される値である。
【0102】
バインダーの100%引張応力は、特に限定されないが、例えば、成形適性の観点から、0.2MPa~20MPaであることが好ましく、0.5MPa~10MPaであることがより好ましく、1MPa~5MPaであることが更に好ましく、1.5MPa~3MPaであることが特に好ましい。
バインダーの引張強さは、特に限定されないが、例えば、成形適性の観点から、1MPa~20MPaであることが好ましく、2MPa~15MPaであることがより好ましく、3MPa~10MPaであることが更に好ましく、5MPa~8MPaであることが特に好ましい。
バインダーの切断時伸びは、特に限定されないが、例えば、成形適性の観点から、110%~1500%であることが好ましく、150%~1000%であることがより好ましく、200%~900%であることが更に好ましく、400%~800%であることが特に好ましい。
以上の引張特性は、JIS K 6251:2010に準拠して測定される値である。測定は、試験片としてJIS 3号ダンベルを用い、引張速度500mm/minの条件で行う。
【0103】
本開示の電波吸収体は、バインダーを1種のみ含んでいてもよく、2種以上含んでいてもよい。
【0104】
本開示の電波吸収体におけるバインダーの含有率は、特に限定されず、例えば、本開示のマグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体の分散性、並びに、電波吸収体の製造適性及び耐久性の観点から、電波吸収体中の全固形分量に対して、2質量%以上であることが好ましく、5質量%以上であることがより好ましく、8質量%以上であることが更に好ましい。
また、本開示の電波吸収体におけるバインダーの含有率は、例えば、電波吸収体の電波吸収性能の観点から、電波吸収体中の全固形分量に対して、50質量%以下であることが好ましく、40質量%以下であることがより好ましく、30質量%以下であることが更に好ましい。
【0105】
本開示の電波吸収体は、本開示のマグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体及びバインダー以外に、本開示の電波吸収体の効果を損なわない範囲において、必要に応じて、種々の添加剤(所謂、他の添加剤)を含んでいてもよい。
他の添加剤としては、酸化防止剤、光安定剤、分散剤、分散助剤、防黴剤、帯電防止剤、可塑剤、衝撃性向上剤、結晶核剤、滑剤、界面活性剤、顔料、染料、充填剤、離型剤(脂肪酸、脂肪酸金属塩、オキシ脂肪酸、脂肪酸エステル、脂肪族部分鹸化エステル、パラフィン、低分子量ポリオレフィン、脂肪酸アミド、アルキレンビス脂肪酸アミド、脂肪族ケトン、脂肪酸低級アルコールエステル、脂肪酸多価アルコールエステル、脂肪酸ポリグリコールエステル、変性シリコーン等)、加工助剤、防曇剤、ドリップ防止剤、防菌剤などが挙げられる。他の添加剤は、1つの成分が2つ以上の機能を担うものであってもよい。
【0106】
<酸化防止剤>
本開示の電波吸収体は、酸化防止剤を含むことが好ましい。
酸化防止剤としては、特に限定されず、公知の酸化防止剤を用いることができる。
酸化防止剤の例としては、例えば、シーエムシー発行の、大勝靖一監修“高分子安定化の総合技術-メカニズムと応用展開-”に記載がある。この記載は、参照により本明細書に取り込まれる。
酸化防止剤の種類としては、フェノール系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤等が挙げられる。
酸化防止剤は、フェノール系酸化防止剤及び/又はアミン系酸化防止剤と、リン系酸化防止剤及び/又はイオウ系酸化防止剤とを併用することが好ましい。
【0107】
フェノール系酸化防止剤としては、ADEKA社のアデカスタブ AO-20、アデカスタブ AO-30、アデカスタブ AO-40、アデカスタブ AO-50、アデカスタブ AO-60、アデカスタブ AO-80、アデカスタブ AO―330、BASFジャパン(株)のIRGANOX 1010、IRGANOX 1035、IRGANOX 1076、IRGANOX 1098、IRGANOX 1135、IRGANOX 1330、IRGANOX 1726、IRGANOX 245、IRGANOX 259、IRGANOX 3114、IRGANOX 565等が挙げられる。なお、上記の「アデカスタブ」及び「IRGANOX」は、いずれも登録商標である。
【0108】
アミン系酸化防止剤としては、三共ライフテック(株)のサノール LS-770、サノール LS-765、サノール LS-2626、ADEKA社のアデカスタブ LA-77、アデカスタブ LA-57、アデカスタブ LA-52、アデカスタブ LA-62、アデカスタブ LA-63、アデカスタブ LA-67、アデカスタブ LA-68、アデカスタブ LA-72、BASFジャパン(株)のTINUVIN 123、TINUVIN 144、TINUVIN 622、TINUVIN 765、TINUVIN 944等が挙げられる。なお、上記の「アデカスタブ」及び「TINUVIN」は、いずれも登録商標である。
また、本開示の電波吸収体は、酸化防止剤として、ラジカルをクエンチすることができるアミン系化合物を用いることもできる。このようなアミン系化合物としては、ポリエチレングリコールビスTEMPO〔シグマアルドリッチ社〕、セバシン酸ビスTEMPO等が挙げられる。なお、「TEMPO」は、テトラメチルピペリジン-1-オキシルの略称である。
【0109】
リン系酸化防止剤としては、ADEKA社のアデカスタブ PEP-8、アデカスタブ PEP-36、アデカスタブ HP-10、アデカスタブ 2112、BASFジャパン(株)のIRGAFOS 168等が挙げられる。なお、上記の「アデカスタブ」及び「IRGAFOS」は、いずれも登録商標である。
【0110】
イオウ系酸化防止剤としては、ADEKA社のアデカスタブ AO-412S、アデカスタブ AO-503S等が挙げられる。なお、上記の「アデカスタブ」は、登録商標である。
【0111】
上記の中でも、フェノール系酸化防止剤としては、アデカスタブ AO-20、アデカスタブ AO-60、アデカスタブ AO―80、及びIRGANOX 1010からなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましく、アミン系酸化防止剤としては、アデカスタブ LA-52が好ましく、リン系酸化防止剤としては、アデカスタブ PEP-36が好ましく、イオウ系酸化防止剤としては、アデカスタブ AO-412Sが好ましい。
【0112】
本開示の電波吸収体は、酸化防止剤を含む場合、酸化防止剤を1種のみ含んでいてもよく、2種以上含んでいてもよい。
【0113】
本開示の電波吸収体が酸化防止剤を含む場合、電波吸収体における酸化防止剤の含有量は、特に限定されないが、例えば、バインダーの分解抑止と酸化防止剤のブリード抑止との両立の観点から、バインダー100質量部に対して、0.1質量部~10質量部であることが好ましく、0.5質量部~5質量部であることがより好ましい。
【0114】
<光安定剤>
本開示の電波吸収体は、光安定剤を含むことが好ましい。
光安定剤としては、HALS(即ち、ヒンダードアミン系光安定剤)、紫外線吸収剤、一重項酸素クエンチャー等が挙げられる。
HALSは、高分子量のHALSであってもよく、低分子量のHALSであってもよく、高分子量のHALSと低分子量のHALSとの組み合わせであってもよい。
【0115】
本開示の電波吸収体は、光安定剤を含む場合、光安定剤を1種のみ含んでいてもよく、2種以上含んでいてもよい。
【0116】
-高分子量のHALS-
本開示において、「高分子量のHALS」とは、重量平均分子量が1000を超えるヒンダードアミン系光安定剤を意味する。
高分子量のHALSとしては、オリゴマー型のHALSであるポリ[6-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)イミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジイル][(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)イミノ]ヘキサメチレン[(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)イミノ]、コハク酸ジメチル-1-(2-ヒドロキシエチル)-4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン重縮合物等が挙げられる。
高分子量のHALSの市販品の例としては、BASFジャパン(株)のCHIMASSORB 944LD、TINUVIN 622LD等が挙げられる。なお、上記の「CHIMASSORB」及び「TINUVIN」は、いずれも登録商標である。
【0117】
本開示における重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定した値である。ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)による測定は、測定装置として、HLC(登録商標)-8220GPC〔東ソー(株)製〕を用い、カラムとして、TSKgel(登録商標)Super HZM-M〔4.6mmID×15cm、東ソー(株)製〕、Super HZ4000〔4.6mmID×15cm、東ソー(株)製〕、Super HZ3000〔4.6mmID×15cm、東ソー(株)製〕、Super HZ2000〔4.6mmID×15cm、東ソー(株)製〕をそれぞれ1本、直列に連結したものを用い、溶離液として、THF(テトラヒドロフラン)を使用できる。
測定条件としては、試料濃度を0.2質量%、流速を0.35mL/min、サンプル注入量を10μL、及び測定温度を40℃とし、示差屈折率(RI)検出器を用いて行うことができる。
検量線は、東ソー(株)製の「標準試料TSK standard,polystyrene」:「F-40」、「F-20」、「F-4」、「F-1」、「A-5000」、「A-2500」、及び「A-1000」を用いて作製できる。
【0118】
本開示の電波吸収体が高分子量のHALSを含む場合、電波吸収体における高分子量のHALSの含有率は、特に限定されないが、例えば、電波吸収体の全質量に対して、0.2質量%~10質量%であることが好ましい。
本開示の電波吸収体における高分子量のHALSの含有率が、電波吸収体の全質量に対して0.2質量%以上であると、目的とする耐候性をより十分に得ることができる。
本開示の電波吸収体における高分子量のHALSの含有率が電波吸収体の全質量に対して10質量%以下であると、機械的強度の低下、及び、ブルーミングの発生がより抑制される傾向がある。
【0119】
-低分子量のHALS-
本開示において、「低分子量のHALS」とは、分子量が1000以下(好ましくは900以下、より好ましくは600~900)であるヒンダードアミン系光安定剤を意味する。
低分子量のHALSとしては、トリス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)ベンゼン-1,3,5-トリカルボキシレート、トリス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)-2-アセトキシプロパン-1,2,3-トリカルボキシレート、トリス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)-2-ヒドロキシプロパン-1,2,3-トリカルボキシレート、トリス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)トリアジン-2,4,6-トリカルボキシレート、トリス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)ブタン-1,2,3-トリカルボキシレート、テトラキス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)プロパン-1,1,2,3-テトラカルボキシレート、テトラキス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)1,2,3,4-ブタンテトラカルボキシレート、テトラキス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)1,2,3,4-ブタンテトラカルボキシレート、2-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)-2-n-ブチルマロン酸ビス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)等が挙げられる。
低分子量のHALSの市販品の例としては、ADEKA社のアデカスタブ LA-57、アデカスタブ LA-52、BASFジャパン(株)のTINUVIN 144等が挙げられる。なお、上記の「アデカスタブ」及び「TINUVIN」は、いずれも登録商標である。
【0120】
本開示の電波吸収体が低分子量のHALSを含む場合、電波吸収体における低分子量のHALSの含有率は、特に限定されないが、例えば、電波吸収体の全質量に対して、0.2質量%~10質量%であることが好ましい。
本開示の電波吸収体における低分子量のHALSの含有率が、電波吸収体の全質量に対して0.2質量%以上であると、目的とする耐候性をより十分に得ることができる。
本開示の電波吸収体における低分子量のHALSの含有率が電波吸収体の全質量に対して10質量%以下であると、機械的強度の低下、及び、ブルーミングの発生がより抑制される傾向がある。
【0121】
-紫外線吸収剤-
紫外線吸収剤としては、2-(2’-ヒドロキシ-3’,5’-ジ-t-ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(3,5-ジ-t-アミル-2-ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-5’-メチル-フェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-5’-t-オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-3’,5’-ジ-t-アミルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-〔2’-ヒドロキシ-3’-(3’’,4’’,5’’,6’’-テトラヒドロ-フタルイミドメチル)-5’-メチルフェニル〕ベンゾトリアゾール、2,2’-メチレンビス〔4-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)-6-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)フェノール〕、2-〔2-ヒドロキシ-3,5-ビス(α,α-ジメチルベンジル)フェニル〕-2H-ベンゾトリアゾール、2-(2-ヒドロキシ-4-オクチルオキシフェニル)-2H-ベンゾトリアゾール、2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4-メチル-6-(3,4,5,6-テトラヒドロフタルイミジルメチル)フェノール等のベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン、2,4-ジヒドロキシベンゾフェノン、2,2’-ジヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン、2,2’-ジヒドロキシ-4,4’-ジメトキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-n-オクトキシベンゾフェノン、2,2’,4,4’-テトラヒドロキシベンゾフェノン、4-ドデシロキシ-2-ヒドロキシベンゾフェノン、3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンゾイル安息酸n-ヘクサデシルエステル、1,4-ビス(4-ベンゾイル-3-ヒドロキシフェノキシ)ブタン、1,6-ビス(4-ベンゾイル-3-ヒドロキシフェノキシ)ヘキサン等のベンゾフェノン系紫外線吸収剤、エチル-2-シアノ-3,3-ジフェニルアクリレートに代表されるシアノアクリレート系紫外線吸収剤などが挙げられる。
紫外線吸収剤の市販品の例としては、BASFジャパン(株)のTINUVIN 320、TINUVIN 328、TINUVIN 234、TINUVIN 1577、TINUVIN 622、IRGANOXシリーズ、ADEKA社のアデカスタブ LA31、シプロ化成(株)のSEESORB 102、SEESORB 103、SEESORB 501等が挙げられる。なお、上記の「TINUVIN」、「IRGANOX」、「アデカスタブ」、及び「SEESORB」は、いずれも登録商標である。
【0122】
本開示の電波吸収体が紫外線吸収剤を含む場合、電波吸収体における紫外線吸収剤の含有率は、特に限定されないが、例えば、電波吸収体の全質量に対して、0.2質量%~10質量%であることが好ましい。
本開示の電波吸収体における紫外線吸収剤の含有率が、電波吸収体の全質量に対して0.2質量%以上であると、目的とする耐候性をより十分に得ることができる。
本開示の電波吸収体における紫外線吸収剤の含有率が電波吸収体の全質量に対して10質量%以下であると、機械的強度の低下、及び、ブルーミングの発生がより抑制される傾向がある。
【0123】
-一重項酸素クエンチャー-
本開示の電波吸収体が一重項酸素クエンチャーを含む場合、電波吸収体における一重項酸素クエンチャーの含有率は、特に限定されないが、例えば、電波吸収体の全質量に対して、0.2質量%~10質量%であることが好ましい。
本開示の電波吸収体における一重項酸素クエンチャーの含有率が、電波吸収体の全質量に対して0.2質量%以上であると、目的とする耐候性をより十分に得ることができる。
本開示の電波吸収体における一重項酸素クエンチャーの含有率が電波吸収体の全質量に対して10質量%以下であると、機械的強度の低下、及び、ブルーミングの発生がより抑制される傾向がある。
【0124】
本開示の電波吸収体は、光安定剤を含む場合、光安定剤を1種のみ含んでいてもよく、2種以上含んでいてもよい。
【0125】
電波吸収体が特定マグネトプランバイト型六方晶フェライトの粉体を含んでいることは、例えば、以下の方法により確認できる。
電波吸収体を細かく切り刻んだ後、溶剤(例えば、アセトン)中に1日間~2日間浸漬した後、乾燥させる。乾燥後の電波吸収体を更に細かく磨り潰し、粉末X線回折(XRD)測定を行うことで、構造を確認できる。
また、電波吸収体の断面を切り出した後、例えば、エネルギー分散型X線分析装置を用いることで、組成を確認できる。
【0126】
電波吸収体に特定化合物の粉体が含まれているか否かは、例えば、以下の方法により確認できる。
電波吸収体を細かく切り刻んだ後、溶剤(例えば、アセトン)中に1日間~2日間浸漬した後、乾燥させる。次いで、乾燥後の電波吸収体を更に細かく磨り潰し、粉末X線回折(XRD)測定を行う。粉末X線回折(XRD)測定は、粉末X線回折装置を用い、下記の条件にて行う。そして、特定化合物に由来するピークの有無により、特定化合物の有無を確認できる。
【0127】
-条件-
X線源:CuKα線
〔波長:1.54Å(0.154nm)、出力:40mA,45kV〕
スキャン範囲:20°<2θ<70°
スキャン間隔:0.05°
スキャンスピード:0.33°/min
【0128】
なお、電波吸収体に含まれる特定化合物の含有量が極めて少ない場合には、粉末X線回折(XRD)測定による特定化合物の検出が困難となるが、例えば、以下の方法により確認できる。
電波吸収体の断面を切り出した後、エネルギー分散型X線分析装置を用いて、加速電圧5kVにて観察し、式(2)におけるA、Fe、Al、及びOの元素マッピングを行うことで、特定化合物の有無を確認できる。
【0129】
[電波吸収体の製造方法]
本開示の電波吸収体の製造方法は、特に限定されない。
本開示の電波吸収体は、本開示のマグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体と、バインダーと、必要に応じて、溶剤、他の添加剤等と、を用いて、公知の方法により製造できる。
【0130】
本開示の電波吸収体は、例えば、以下の方法により製造できる。
本開示のマグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体と、バインダーと、必要に応じて、溶剤、他の添加剤等と、を含む電波吸収体形成用組成物を、支持体上に塗布し、電波吸収体形成用組成物の塗布膜を形成する。次いで、形成された電波吸収体形成用組成物の塗布膜を乾燥させることにより製造できる。
【0131】
本開示のマグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体は、既述のとおりであるため、ここでは説明を省略する。
【0132】
電波吸収体形成用組成物における本開示のマグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体の含有率は、特に限定されず、例えば、最終的に得られる電波吸収体における含有率が、既述の電波吸収体における含有率になるように調整すればよい。
【0133】
本開示の電波吸収体の製造方法におけるバインダーは、「電波吸収体」の項において説明したバインダーと同義であり、好ましい態様も同様であるため、ここでは説明を省略する。
【0134】
電波吸収体形成用組成物におけるバインダーの含有率は、特に限定されず、例えば、最終的に得られる電波吸収体における含有率が、既述の電波吸収体における含有率になるように調整すればよい。
【0135】
本開示の電波吸収体の製造方法における他の添加剤は、「電波吸収体」の項において説明した他の添加剤と同義であり、好ましい態様も同様であるため、ここでは説明を省略する。
【0136】
電波吸収体形成用組成物が溶剤を含む場合、溶剤としては、特に限定されず、例えば、水、有機溶媒、又は、水と有機溶媒との混合溶媒が挙げられる。
有機溶媒としては、メタノール、エタノール、n-プロパノール、i-プロパノール、メトキシプロパノール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサン、シクロヘキサノン等のケトン類、テトラヒドロフラン、アセトニトリル、酢酸エチル、トルエンなどが挙げられる。
これらの中でも、溶剤としては、乾燥速度が適切であるという観点から、シクロヘキサノンが好ましい。
【0137】
電波吸収体形成用組成物が溶剤を含む場合、電波吸収体形成用組成物における溶剤の含有率は、特に限定されず、例えば、電波吸収体形成用組成物に配合される成分の種類、量等により、適宜設定できる。
また、電波吸収体形成用組成物における溶剤の含有率は、電波吸収体形成用組成物を、塗布するか、或いは、後述のように成形加工するかによって、適宜設定される。
【0138】
電波吸収体形成用組成物中において、本開示のマグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体とバインダーとは、単に混合されていればよい。
本開示のマグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体とバインダーとを混合する方法は、特に限定されず、例えば、撹拌により混合する方法が挙げられる。
撹拌手段としては、特に限定されず、一般的な撹拌装置を用いることができる。
撹拌装置としては、パドルミキサー、インペラーミキサー等のミキサーが挙げられる。
撹拌時間は、特に制限されず、例えば、撹拌装置の種類、電波吸収体形成用組成物の組成等に応じて、適宜設定できる。
【0139】
支持体としては、特に限定されず、公知の支持体を用いることができる。
支持体を構成する材料としては、例えば、金属板(アルミニウム、亜鉛、銅等の金属の板)、ガラス板、プラスチックシート〔ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート等)、ポリエチレン(直鎖状低密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン等)、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリスルホン、ポリ塩化ビニル、ポリアクリロニトリル、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルスルホン、ポリビニルアセタール、アクリル樹脂等のシート〕、上述した金属がラミネートされ又は蒸着されたプラスチックシートなどが挙げられる。
なお、プラスチックシートは、二軸延伸されていることが好ましい。
支持体は、電波吸収体の形態を保持するために機能し得る。
なお、電波吸収体がそれ自身の形態を保持できる場合には、支持体として、例えば、ガラス板、金属板、又は表面に離型処理が施されたプラスチックシートを用い、電波吸収体の製造後に電波吸収体から除去してもよい。
【0140】
支持体の形状、構造、大きさ等は、目的に応じて適宜選択できる。
支持体の形状としては、例えば、平板状が挙げられる。
支持体の構造は、単層構造であってもよいし、2層以上の積層構造であってもよい。
支持体の大きさは、電波吸収体の大きさ等に応じて、適宜選択できる。
【0141】
支持体の厚みは、特に限定されず、通常は0.01mm~10mm程度であり、例えば、取り扱い性の観点から、0.02mm~3mmであることが好ましく、0.05mm~1mmであることがより好ましい。
【0142】
支持体上に、電波吸収体用組成物を塗布する方法は、特に限定されず、例えば、ダイコーター、ナイフコーター、アプリケーター等を用いる方法が挙げられる。
【0143】
電波吸収体形成用組成物の塗布膜を乾燥させる方法としては、特に限定されず、例えば、オーブン等の加熱装置を用いる方法が挙げられる。
乾燥温度及び乾燥時間は、特に限定されず、電波吸収体形成用組成物の塗布膜に含まれる溶剤を揮発させることができればよい。
一例を挙げれば、70℃~90℃にて、1時間~3時間加熱する。
【0144】
また、本開示の電波吸収体は、例えば、以下の方法により製造できる。
特定マグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体と、バインダーと、必要に応じて、溶剤、他の添加剤等と、を含む電波吸収体形成用組成物を加熱しながら、混練機を用いて混練し、混練物を得る。次いで、得られた混練物を平面形状又は立体形状に成形加工することにより製造できる。
成形加工としては、例えば、プレス成形、押し出し成形、射出成形、インモールド成形等による加工が挙げられる。
【0145】
なお、本開示の電波吸収体は、例えば、以下の方法により製造してもよい。
特定マグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体と、バインダーと、必要に応じて、溶剤、他の添加剤等と、を含む電波吸収体形成用組成物をペレット状に成形加工し、得られたペレット状の成形体を原料として、平面形状、立体形状、又は線形状の電波吸収体を製造してもよい。
【0146】
ペレット状の成形体は、カーボンブラック等の着色剤、帯電防止性又は耐候性の向上を目的とした添加剤などを含んでいてもよい。
ペレット状の成形体の大きさ(所謂、直径)は、特に限定されないが、例えば、0.5mm~20mmであることが好ましく、1mm~10mmであることがより好ましく、2mm~8mmであることが更に好ましく、3mm~6mmであることが特に好ましい。
ペレット状の成形体の密度は、特に限定されないが、例えば、500kg/m~5000kg/mであることが好ましく、800kg/m~4000kg/mであることがより好ましく、1000kg/m~3500kg/mであることが更に好ましく、1200kg/m~3000kg/mであることが特に好ましい。
上記密度は、JIS K 0061:2001に準拠して測定される値である。
【0147】
[マグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体の共鳴周波数を制御する方法]
本開示の制御方法は、式(1)で表されるマグネトプランバイト型六方晶フェライトの粉体を含むマグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体に対し、50kOeの外部磁場をかけたときの磁化量の90%となる磁場強度Hαを、19kOe≦Hα≦28kOeを満たす範囲内で調整することにより、マグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体の共鳴周波数を制御する方法である。
本開示の制御方法によれば、特定化合物を含む場合でも、60GHz~90GHzの周波数帯域において、マグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体の共鳴周波数を良好に制御できる。
【0148】
本開示の制御方法における式(1)で表されるマグネトプランバイト型六方晶フェライトの粉体は、「マグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体」の項において説明した式(1)で表されるマグネトプランバイト型六方晶フェライト(即ち、特定マグネトプランバイト型六方晶フェライト)の粉体と同義であり、好ましい態様も同様であるため、ここでは説明を省略する。
【0149】
また、磁場強度Hαは、「マグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体」の項において説明した磁場強度Hαと同義であり、好ましい態様も同様であるため、ここでは説明を省略する。
【0150】
マグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体における式(1)で表されるマグネトプランバイト型六方晶フェライトの粉体の含有率は、特に限定されないが、例えば、マグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体の全質量に対して、80質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましく、95質量%以上であることが更に好ましい。
マグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体における式(1)で表されるマグネトプランバイト型六方晶フェライトの粉体の含有率の上限は、特に限定されず、例えば、マグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体の全質量に対して、99質量%以下が挙げられる。
【0151】
磁場強度Hαを調整する方法としては、特に限定されない。
磁場強度Hαは、例えば、マグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体の、原料の種類、原料の粒径、原料の使用量、原料の混合方法等を変更することにより調整できる。
具体的には、例えば、原料として使用する、Feを含む無機化合物に対するAlを含む無機化合物の配合割合を高めることで、磁場強度Hαの値を高めることができる。また、例えば、原料として使用する、Alを含む無機化合物の粒径を小さくすることで、磁場強度Hαの値を高めることができる。
【0152】
本開示の制御方法において、マグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体は、式(2)で表される化合物を含んでいてもよい。
本開示の制御方法は、式(2)で表される化合物を含む場合でも、60GHz~90GHzの周波数帯域において、マグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体の共鳴周波数を良好に制御できる。
【0153】
本開示の制御方法における式(2)で表される化合物の粉体は、「マグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体」の項において説明した式(2)で表される化合物(即ち、特定化合物)の粉体と同義であり、好ましい態様も同様であるため、ここでは説明を省略する。
【0154】
マグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体における式(2)で表される化合物の含有率は、特に限定されないが、例えば、マグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体の全質量に対して、20質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましく、5質量%以下であることが更に好ましい。
マグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体における式(2)で表される化合物の含有率の下限は、特に限定されず、例えば、マグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体の全質量に対して、1質量%以上が挙げられる。
本開示の制御方法によれば、式(2)で表される化合物を、例えば、マグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体の全質量に対して10質量%以上含んでいる場合であっても、60GHz~90GHzの周波数帯域において、マグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体の共鳴周波数を良好に制御できる。
【実施例
【0155】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はその主旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0156】
[マグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体の作製:液相法(スケール小)]
〔粉体A1〕
35℃に保温した水400.0gを撹拌し、撹拌中の水に、塩化鉄(III)六水和物〔FeCl・6HO〕57.0g、塩化ストロンチウム六水和物〔SrCl・6HO〕27.8g、及び塩化アルミニウム六水和物〔AlCl・6HO〕10.7gを水216.0gに溶解して調製した原料水溶液と、5mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液181.3gに水113.0gを加えて調製した溶液と、をそれぞれ10mL/minの流速にて、添加のタイミングを同じくして、全量添加し、第1の液を得た。
次いで、第1の液の温度を25℃に変更した後、温度を保持した状態で、1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液24.7gを添加し、第2の液を得た。得られた第2の液のpHは、9.0であった。なお、第2の液のpHは、(株)堀場製作所の卓上型pHメータ F-71(商品名)を用いて測定した。
次いで、第2の液を15分間撹拌し、反応を終了させて、マグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体の前駆体となる反応生成物を含む液(即ち、前駆体含有液)を得た。
次いで、前駆体含有液に対し、遠心分離処理〔回転数:3000rpm(revolutions per minute;以下、同じ。)、回転時間:10分間〕を3回行い、得られた沈殿物を回収した。
次いで、回収した沈殿物を内部雰囲気温度80℃のオーブン内で12時間乾燥させて、前駆体からなる粒子の集合体(即ち、前駆体の粉体)を得た。
次いで、前駆体の粉体をマッフル炉の中に入れ、大気雰囲気下において、炉内の温度を1100℃の温度条件に設定し、4時間焼成することにより、粉体A1を得た。
【0157】
〔粉体A2~粉体A7〕
第2液のpHを、表1に示すpHに調整したこと以外は、粉体A1の作製と同様の操作を行い、粉体A2~粉体A7を得た。
【0158】
【表1】
【0159】
〔粉体A8〕
粉体A5に対し、表面処理を施すことにより、粉体A8を作製した。具体的には、以下の操作を行った。
粉体A5を20gと、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン〔商品名:KBM-603、シランカップリング剤、信越化学工業(株)〕を0.2gとを、大阪ケミカル(株)のワンダークラッシャー WC-3(製品名)を用いて、可変速度ダイアルを「3」に設定して60秒間混合した。次いで、得られた粉体を設定温度90℃のオーブンに入れ、3時間乾燥させることにより、粉体A8を得た。
【0160】
[マグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体の作製:固相法(スケール大)]
〔粉体B1〕
炭酸ストロンチウム〔SrCO〕30g、α-酸化鉄(III)〔α-Fe〕147g、及び酸化アルミニウム〔Al〕24.9gを、アイリッヒインテンシブミキサー(型式:EL1、アイリッヒ社)を用いて、1000rpmにて30分間撹拌して十分に混合し、原料混合物を得た。
次いで、得られた原料混合物に対し、大阪ケミカル(株)のワンダークラッシャー WC-3(製品名)を用い、可変速度ダイアルを「3」に設定して60秒間粉砕処理を施し、粉体を得た。得られた粉体をマッフル炉の中に入れ、大気雰囲気下において、炉内の温度を1100℃の温度条件に設定し、4時間焼成することにより、粉体B1を得た。
【0161】
〔粉体B2~粉体B6〕
原料の使用量を、表2に示すとおりに変更したこと以外は、粉体B1の作製と同様の操作を行い、粉体B2~粉体B6を得た。
【0162】
【表2】
【0163】
[電波吸収体の作製]
〔電波吸収体A1〕
粉体A1 9.0g、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)〔グレード:JSR N215SL、JSR(株)、バインダー〕1.05g、及びシクロヘキサノン(溶剤)6.1を、撹拌装置〔製品名:あわとり練太郎 ARE-310、シンキー(株)〕を用い、回転数2000rpmにて5分間撹拌し、混合することにより、電波吸収体形成用組成物を調製した。
次いで、ガラス板(支持体)上に、調製した電波吸収体形成用組成物を、アプリケーターを用いて塗布し、電波吸収体形成用組成物の塗布膜を形成した。
次いで、形成した電波吸収体形成用組成物の塗布膜を、内部雰囲気温度80℃のオーブン内で2時間乾燥させることにより、ガラス板上に電波吸収層を形成した。
次いで、ガラス板から電波吸収層を剥離し、剥離した電波吸収層を電波吸収体A1(形状:シート状、厚み:0.3mm)とした。
【0164】
〔電波吸収体A2~電波吸収体A8〕
粉体A1の代わりに、粉体A2~粉体A8の各粉体を用いたこと以外は、電波吸収体A1の作製と同様の操作を行い、電波吸収体A2~電波吸収体A8の各電波吸収体を得た。
なお、電波吸収体A2~電波吸収体A8の電波吸収体は、いずれも形状がシート状であり、厚みが0.3mmであった。
【0165】
〔電波吸収体B1~電波吸収体B6〕
粉体A1の代わりに、粉体B1~粉体B6の各粉体を用いたこと以外は、電波吸収体A1の作製と同様の操作を行い、電波吸収体B1~電波吸収体B6の各電波吸収体を得た。
なお、電波吸収体B1~電波吸収体B6の電波吸収体は、いずれも形状がシート状であり、厚みが0.3mmであった。
【0166】
<特定化合物の有無及び組成の確認>
粉体A1~粉体A8及び粉体B1~粉体B6の各粉体に特定化合物が含まれているか否か、また、含まれている場合には、特定化合物の組成を、X線回折(XRD)法により確認した。
具体的には、以下のような方法により確認した。
各粉体の粉末X線回折(XRD)測定を、粉末X線回折装置(製品名:X’Pert Pro、PANalytical社)を用いて、下記の測定条件により行った。そして、特定化合物に由来するピークの有無及び組成を確認した。
【0167】
-測定条件-
X線源:CuKα線
〔波長:1.54Å(0.154nm)、出力:40mA、45kV〕
スキャン範囲:20°<2θ<70°
スキャン間隔:0.05°
スキャンスピード:0.33°/min
【0168】
その結果、粉体A1~粉体A8については、特定化合物に由来するピークが確認されず、特定化合物が含まれていないことが確認された。
一方、粉体B1~粉体B6については、特定化合物に由来するピークが確認され、特定化合物であるSrAlが含まれていることが確認された。
【0169】
<結晶構造の確認>
粉体A1~粉体A8及び粉体B1~粉体B6の各粉体を形成する磁性体(以下、それぞれ「磁性体A1~磁性体A8及び磁性体B1~磁性体B6」ともいう。)の結晶構造を、X線回折(XRD)法により確認した。
具体的には、以下のような方法により確認した。
各粉体の粉末X線回折(XRD)測定を、粉末X線回折装置(製品名:X’Pert Pro、PANalytical社)を用いて、下記の測定条件により行った。
【0170】
-測定条件-
X線源:CuKα線
〔波長:1.54Å(0.154nm)、出力:40mA、45kV〕
スキャン範囲:20°<2θ<70°
スキャン間隔:0.05°
スキャンスピード:0.75°/min
【0171】
その結果、磁性体A1~磁性体A8及び磁性体B1~磁性体B6は、いずれもマグネトプランバイト型の結晶構造を有していることが確認された。
【0172】
<組成の確認>
(1)粉体A1~粉体A8
粉体A1~粉体A8の各粉体の組成を、高周波誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析法により確認した。
具体的には、以下のような方法により確認した。
粉体12mg及び4mol/Lの塩酸水溶液10mLを入れたビーカーを、設定温度120℃のオーブンで12時間保持し、溶解液を得た。得られた溶解液に純水30mLを加えた後、0.1μmのメンブレンフィルタを用いて濾過した。このようにして得られた濾液の元素分析を、高周波誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析装置〔型番:ICPS-8100、(株)島津製作所〕を用いて行った。
得られた元素分析の結果に基づき、鉄原子100原子%に対する各金属原子の含有率を求めた。そして、得られた含有率に基づき、粉体の組成を確認した。各粉体の組成を以下に示す。
【0173】
(粉体の組成)
粉体A1:SrFe(9.65)Al(2.35)19
粉体A2:SrFe(9.72)Al(2.28)19
粉体A3:SrFe(9.79)Al(2.21)19
粉体A4:SrFe(9.86)Al(2.14)19
粉体A5:SrFe(10.00)Al(2.00)19
粉体A6:SrFe(10.13)Al(1.87)19
粉体A7:SrFe(10.20)Al(1.80)19
粉体A8:SrFe(10.00)Al(2.00)19
【0174】
粉体A1~粉体A8の各粉体における鉄原子100原子%に対するアルミニウム原子の割合x’(以下、「Ax’」ともいう。)を、表3に示す。
粉体A1~粉体A8の各粉体は、特定化合物を含まないため、各粉体における鉄原子100原子%に対するアルミニウム原子の割合x’(即ち、Ax’)は、いずれも式(1)におけるxと同じ値を示した。
粉体A1~粉体A8の各粉体は、いずれも特定マグネトプランバイト型六方晶フェライトの粉体であることが確認された。
【0175】
(2)粉体B1~粉体B6
粉体B1~粉体B6の各粉体の組成を、高周波誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析法により確認した。
具体的には、以下のような方法により確認した。
粉体12mg及び4mol/Lの塩酸水溶液10mLを入れたビーカーを、設定温度120℃のオーブンで12時間保持し、溶解液を得た。得られた溶解液に純水30mLを加えた後、0.1μmのメンブレンフィルタを用いて濾過した。このようにして得られた濾液の元素分析を、高周波誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析装置〔型番:ICPS-8100、(株)島津製作所〕を用いて行った。
得られた元素分析の結果に基づき、鉄原子100原子%に対する各金属原子の含有率を求めた。そして、得られた含有率に基づき、鉄原子100原子%に対するアルミニウム原子の割合x’(以下、「Bx’」ともいう。)を求めた。
次いで、図1に示す固相法の近似直線〔即ち、粉体B1~粉体B6(以下、総称して「粉体B」ともいう。)の各粉体における鉄原子100原子%に対するアルミニウム原子の割合x’の値に基づく近似直線〕から、Bx’の値に対応する共鳴周波数(以下、「共鳴周波数B」ともいう。)を求めた。
次いで、図1に示す液相法の近似直線〔即ち、粉体A1~粉体A7(以下、総称して「粉体A」ともいう。)の各粉体における鉄原子100原子%に対するアルミニウム原子の割合x’の値に基づく近似直線〕から、共鳴周波数Bに対応するAx’の値を求め、式(1)におけるxの値とみなした。各粉体の組成を以下に示す。
【0176】
(粉体の組成)
粉体B1:SrFe(9.71)Al(2.29)19、及び、SrAl
粉体B2:SrFe(9.88)Al(2.12)19、及び、SrAl
粉体B3:SrFe(9.94)Al(2.06)19、及び、SrAl
粉体B4:SrFe(10.04)Al(1.96)19、及び、SrAl
粉体B5:SrFe(10.10)Al(1.90)19、及び、SrAl
粉体B6:SrFe(10.26)Al(1.74)19、及び、SrAl
【0177】
粉体B1~粉体B6の各粉体における鉄原子100原子%に対するアルミニウム原子の割合x’を、表4に示す。
なお、粉体B1~粉体B6の各粉体は、特定化合物を含むため、各粉体における鉄原子100原子%に対するアルミニウム原子の割合x’は、いずれも式(1)におけるxと同じ値を示さなかった。
【0178】
粉体B1~粉体B6の各粉体に含まれる特定化合物であるSrAlの含有率を、以下の方法により測定した。
なお、以下の方法では、特定化合物であるSrAlが全て結晶であるとみなして測定した。
各粉体の粉末X線回折(XRD)測定を、粉末X線回折装置(製品名:X’Pert Pro、PANalytical社)を用いて、下記の測定条件により行った。
【0179】
-測定条件-
X線源:CuKα線
〔波長:1.54Å(0.154nm)、出力:40mA、45kV〕
スキャン範囲:20°<2θ<70°
スキャン間隔:0.05°
スキャンスピード:0.33°/min
【0180】
そして、SrAlの標品のピーク強度と、粉体B1~粉体B6の各粉体におけるSrAlのピーク強度とを対比することで、粉体B1~粉体B6の各粉体に含まれるSrAlの含有率を求めた。各粉体に含まれるSrAlの含有率を以下に示す。
【0181】
(SrAlの含有率)
粉体B1:8.8質量%
粉体B2:5.7質量%
粉体B3:3.7質量%
粉体B4:2.4質量%
粉体B5:1.3質量%
粉体B6:0.6質量%
【0182】
<電波吸収体の共鳴周波数>
電波吸収体A1~電波吸収体A8及び電波吸収体B1~電波吸収体B6の各電波吸収体について、透過減衰量のピーク周波数を求め、このピーク周波数を共鳴周波数とした。
具体的には、測定装置として、keysight社のベクトルネットワークアナライザ(製品名:N5225B)及びキーコム(株)のホーンアンテナ(製品名:RH12S23)を用い、自由空間法により、入射角度を0°とし、掃引周波数を60GHz~90GHzとして、Sパラメータを測定した。このSパラメータからニコルソンロスモデル法を用いて、虚部の透磁率μ’’のピーク周波数を算出し、このピーク周波数を共鳴周波数とした。結果を表3及び表4に示す。
【0183】
<粉体の磁場強度Hα>
粉体A1~粉体A8及び粉体B1~粉体B6の各粉体の磁場強度Hαを求めた。
具体的には、以下のようにして求めた。
測定装置として、振動試料型磁力計〔型番:TM-TRVSM5050-SMSL型、(株)玉川製作所〕を用い、雰囲気温度23℃の環境下、最大印加磁界50kOe、及び磁界掃引速度25Oe/s(秒)の条件にて、印加した磁界に対する粉体の磁化の強度を測定した。測定結果より、各粉体の磁界(H)-磁化(M)曲線を得た。得られた磁界(H)-磁化(M)曲線に基づき、印加磁場50kOeでの磁化量の90%となる磁場強度を求め、この磁場強度をHαとした。結果を表3及び表4に示す。
【0184】
【表3】
【0185】
【表4】
【0186】
<x’の値と共鳴周波数との関係>
液相法により作製したマグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体(即ち、粉体A1~粉体A7)における、x’(即ち、鉄原子100原子%に対するアルミニウム原子の割合)の値と共鳴周波数との関係、及び固相法により作製したマグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体(即ち、粉体B1~粉体B6)における、x’(即ち、鉄原子100原子%に対するアルミニウム原子の割合)の値と共鳴周波数との関係を、図1に示す。
【0187】
<Hαの値と共鳴周波数との関係>
液相法により作製したマグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体(即ち、粉体A1~粉体A7)における、Hα(即ち、50kOeの外部磁場をかけたときの磁化量の90%となる磁場強度)の値と共鳴周波数との関係、及び固相法により作製したマグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体(即ち、粉体B1~粉体B6)における、Hα(即ち、50kOeの外部磁場をかけたときの磁化量の90%となる磁場強度)の値と共鳴周波数との関係を、図2に示す。
【0188】
図1、表3、及び表4に示すように、固相法により作製した粉体におけるx’の値と共鳴周波数との関係は、液相法により作製した粉体におけるx’の値と共鳴周波数との関係と異なる傾向を示し、ずれが生じることが確認された。
このようなずれが生じる理由は、固相法により量産した粉体では、特定化合物が生成されているためと考えられる。
【0189】
一方、図2、表3、及び表4に示すように、固相法により作製した粉体におけるHαの値と共鳴周波数との関係は、液相法により作製した粉体におけるHαの値と共鳴周波数との関係と同様の傾向を示した。
【0190】
以上の結果から、マグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体におけるHαの値と共鳴周波数とは相関性があり、特定化合物を含む場合であっても、マグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体のHαの値を調整することで、マグネトプランバイト型六方晶フェライト粉体の共鳴周波数を良好に制御できることがわかった。
【0191】
2019年3月19日に出願された日本国特許出願2019-051927号の開示、及び2019年6月25日に出願された日本国特許出願2019-117629号の開示は、その全体が参照により本明細書に取り込まれる。
本明細書に記載された全ての文献、特許出願、及び技術規格は、個々の文献、特許出願、及び技術規格が参照により取り込まれることが具体的に、かつ、個々に記された場合と同程度に、本明細書中に参照により取り込まれる。
図1
図2