(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-18
(45)【発行日】2022-11-29
(54)【発明の名称】塗工液
(51)【国際特許分類】
C09D 129/04 20060101AFI20221121BHJP
C09D 139/02 20060101ALI20221121BHJP
C09D 7/61 20180101ALI20221121BHJP
C09D 5/02 20060101ALI20221121BHJP
C09D 7/20 20180101ALI20221121BHJP
B32B 27/20 20060101ALI20221121BHJP
【FI】
C09D129/04
C09D139/02
C09D7/61
C09D5/02
C09D7/20
B32B27/20 Z
(21)【出願番号】P 2021515670
(86)(22)【出願日】2020-11-11
(86)【国際出願番号】 JP2020042024
(87)【国際公開番号】W WO2021095755
(87)【国際公開日】2021-05-20
【審査請求日】2021-03-19
(31)【優先権主張番号】P 2019205655
(32)【優先日】2019-11-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(72)【発明者】
【氏名】山西 ひろみ
(72)【発明者】
【氏名】柴田 大輔
【審査官】藤田 雅也
(56)【参考文献】
【文献】特許第6592224(JP,B2)
【文献】特開2019-119214(JP,A)
【文献】特開2004-050410(JP,A)
【文献】国際公開第2001/077211(WO,A1)
【文献】特開2012-126112(JP,A)
【文献】特開2021-169574(JP,A)
【文献】特開2022-92075(JP,A)
【文献】特開2019-99623(JP,A)
【文献】国際公開第2019/093260(WO,A1)
【文献】特開2018-149779(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00- 10/00
C09D101/00-201/10
B32B 1/00- 43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒドロキシ基含有樹脂と無機層状化合物と液状媒体とを含む塗工液であって、
塗工液中のナトリウム(Na)量が、塗工液の固形分に対する重量基準で2,500ppm以下であり
、
ヒドロキシ基含有樹脂が、
ビニルアミン-ビニルアルコール共重合体であり、
ヒドロキシ基含有樹脂100gあたりのヒドロキシ基の量が、1.60~2.10molであり、
ヒドロキシ基含有樹脂100gあたりのアミノ基の量が、0.10~0.30molであり、および
ヒドロキシ基含有樹脂の数平均分子量が、15,000~30,000である、水蒸気の透過抑制用のガスバリア層を形成するために用いられる塗工液。
【請求項2】
ヒドロキシ基含有樹脂の含有量が、塗工液全体に対して、0.2~9.05重量%である請求項
1に記載の塗工液。
【請求項3】
液状媒体が、水と、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノールおよび1-ブタノールからなる群から選ばれる少なくとも一つとを含む請求項1
または2に記載の塗工液。
【請求項4】
メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノールおよび1-ブタノールからなる群から選ばれる少なくとも一つの合計量が、液状媒体100重量部あたり1~70重量部である請求項
3に記載の塗工液。
【請求項5】
液状媒体が、水およびエタノールを含む請求項1
または2に記載の塗工液。
【請求項6】
エタノールの量が、液状媒体100重量部あたり1~70重量部である請求項
5に記載の塗工液。
【請求項7】
液状媒体の含有量が、塗工液全体に対して、90~99.5重量%である請求項1~
6のいずれか一項に記載の塗工液。
【請求項8】
無機層状化合物が、粘土鉱物である請求項1~
7のいずれか一項に記載の塗工液。
【請求項9】
無機層状化合物が、モンモリロナイトである請求項1~
7のいずれか一項に記載の塗工液。
【請求項10】
無機層状化合物の含有量が、塗工液全体に対して、0.047~6.0重量%である請求項1~
9のいずれか一項に記載の塗工液。
【請求項11】
請求項1~
10のいずれか一項に記載の塗工液から形成された、水蒸気の透過抑制用のガスバリア層として用いられる塗膜。
【請求項12】
請求項
11に記載の塗膜と、基材とを含む積層構造を有する積層体。
【請求項13】
ヒドロキシ基含有樹脂と無機層状化合物とを含む塗膜であって、
塗膜中のナトリウム(Na)量が、塗膜全体に対する重量基準で2,500ppm以下であり、および
ヒドロキシ基含有樹脂が、
ビニルアミン-ビニルアルコール共重合体であり、
ヒドロキシ基含有樹脂100gあたりのヒドロキシ基の量が、1.60~2.10molであり、
ヒドロキシ基含有樹脂100gあたりのアミノ基の量が、0.10~0.30molであり、および
ヒドロキシ基含有樹脂の数平均分子量が、15,000~30,000である、水蒸気の透過抑制用のガスバリア層として用いられる塗膜。
【請求項14】
請求項
13に記載の塗膜と、基材とを含む積層構造を有する積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗工液に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば食品、化粧品等の包装材料では、それらの劣化を防止するために、ガス(例えば、水蒸気)の透過を抑制する特性(即ち、ガスバリア性)が求められる。ガスバリア性が高い包装材料として、基材上にポリビニルアルコールまたはその誘導体を使用して形成されたガスバリア層を有する積層体が知られている。ここで「ガスバリア層」とは、ガスの透過を抑制するために用いられる層を意味する。
【0003】
例えば、特許文献1には、ポリビニルアルコール、モンモリロナイト、水、イソプロパノールおよびブタノールを含む分散液からガスバリア層を形成することが記載されている。また、特許文献2にはポリビニルアミン-ポリビニルアルコールコポリマーを含むガスバリア層が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2005-220154号公報
【文献】特表2012-502163号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ガスバリア層を有する積層体(以下「ガスバリア積層体」と略称することがある)を高温および高湿の条件で保持すると、その水蒸気透過度が増大することがあった。本発明はこのような事情に着目してなされたものであって、その目的は、高温および高湿の条件で保持された後も、低い水蒸気透過度を示すガスバリア積層体を製造し得る塗工液を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成し得る本発明は、以下の通りである。
[1] ヒドロキシ基含有樹脂と無機層状化合物と液状媒体とを含む塗工液であって、塗工液中のナトリウム(Na)量が、塗工液の固形分に対する重量基準で2,500ppm以下、好ましくは1,500ppm以下、より好ましくは1,000ppm以下である塗工液。
[2] 塗工液中のナトリウム(Na)量が、塗工液の固形分に対する重量基準で0.01ppm以上、より好ましくは0.1ppm以上、さらに好ましくは1ppm以上である前記[1]に記載の塗工液。
【0007】
[3] ヒドロキシ基含有樹脂100gあたりのヒドロキシ基の量が、1.50~2.27mol、より好ましくは1.55~2.20mol、さらに好ましくは1.60~2.10molである前記[1]または[2]に記載の塗工液。
【0008】
[4] ヒドロキシ基含有樹脂が、さらにアミノ基を有する前記[1]~[3]のいずれか一つに記載の塗工液。
[5] ヒドロキシ基含有樹脂100gあたりのアミノ基の量が、0.046~0.682mol、より好ましくは0.060~0.50mol、さらに好ましくは0.10~0.30molである前記[4]に記載の塗工液。
【0009】
[6] ヒドロキシ基含有樹脂の数平均分子量が、10,000~50,000、より好ましくは12,000~40,000、さらに好ましくは15,000~30,000である前記[1]~[5]のいずれか一つに記載の塗工液。
【0010】
[7] ヒドロキシ基含有樹脂が、ビニルアミン-ビニルアルコール共重合体である前記[1]~[6]のいずれか一つに記載の塗工液。
[8] ビニルアミン-ビニルアルコール共重合体のけん化度が、80~100%、より好ましくは90~100%、さらに好ましくは95~100%である前記[7]に記載の塗工液。
【0011】
[9] ヒドロキシ基含有樹脂の含有量が、塗工液全体に対して、0.2~9.05重量%である前記[1]~[8]のいずれか一つに記載の塗工液。
[10] ヒドロキシ基含有樹脂の含有量が、塗工液全体に対して、0.4重量%以上、さらに好ましくは0.5重量%以上、特に好ましくは1.0重量%以上、最も好ましくは2.0重量%以上である前記[9]に記載の塗工液。
[11] ヒドロキシ基含有樹脂の含有量が、塗工液全体に対して、8.0重量%以下、さらに好ましくは6.0重量%以下、特に好ましくは5.5重量%以下、最も好ましくは4.0重量%以下である前記[9]または[10]に記載の塗工液。
【0012】
[12] 液状媒体が、水と、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノールおよび1-ブタノールからなる群から選ばれる少なくとも一つとを含む前記[1]~[11]のいずれか一つに記載の塗工液。
[13] メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノールおよび1-ブタノールからなる群から選ばれる少なくとも一つの合計量が、液状媒体100重量部あたり1~70重量部、より好ましくは5~60重量部、さらに好ましくは10~50重量部である前記[12]に記載の塗工液。
【0013】
[14] 液状媒体が、水およびエタノールを含む前記[1]~[11]のいずれか一つに記載の塗工液。
[15] エタノールの量が、液状媒体100重量部あたり1~70重量部、より好ましくは5~60重量部、さらに好ましくは10~50重量部である前記[14]に記載の塗工液。
【0014】
[16] 液状媒体の含有量が、塗工液全体に対して、90~99.5重量%、より好ましくは91~99重量%、さらに好ましくは92~98重量%である前記[1]~[15]のいずれか一つに記載の塗工液。
【0015】
[17] 無機層状化合物が、粘土鉱物、好ましくはスメクタイト族粘土鉱物である前記[1]~[16]のいずれか一つに記載の塗工液。
[18] 無機層状化合物が、モンモリロナイトである前記[1]~[16]のいずれか一つに記載の塗工液。
【0016】
[19] 無機層状化合物の含有量が、塗工液全体に対して、0.047~6.0重量%である前記[1]~[18]のいずれか一つに記載の塗工液。
[20] 無機層状化合物の含有量が、塗工液全体に対して、0.050重量%以上、さらに好ましくは0.10重量%以上、特に好ましくは0.20重量%以上、最も好ましくは1.0重量%以上である前記[19]に記載の塗工液。
[21] 無機層状化合物の含有量が、塗工液全体に対して、5.5重量%以下、より一層好ましくは5.0重量%以下、さらに好ましくは4.5重量%以下、特に好ましくは4.4重量%以下、最も好ましくは4.0重量%以下である前記[19]または[20]に記載の塗工液。
【0017】
[22] pHが、7~13、より好ましくは8.5~10である前記[1]~[21]のいずれか一つに記載の塗工液。
【0018】
[23] 前記[1]~[22]のいずれか一つに記載の塗工液から形成された塗膜。
[24] 厚さが、10nm~20μm、より好ましくは20nm~10μm、さらに好ましくは30nm~10μmである前記[23]に記載の塗膜。
【0019】
[25] 前記[23]または[24]に記載の塗膜と、基材とを含む積層構造を有する積層体。
【0020】
[26] 前記[23]または[24]に記載の塗膜と、無機物層と、基材とをこの順に含む積層構造を有する積層体。
[27] 無機物層を形成する無機物が、無機酸化物であり、より好ましくは酸化アルミニウム、酸化ケイ素および酸化マグネシウムからなる群から選ばれる少なくとも一つであり、さらに好ましくは酸化アルミニウムである前記[26]に記載の積層体。
[28] 無機物層の厚さが、1~200nm、より好ましくは2~150nm、さらに好ましくは3~100nmである前記[26]または[27]に記載の積層体。
【0021】
[29] 基材の厚さが、5~50μm、より好ましくは7~40μm、さらに好ましくは9~30μmである前記[25]~[28]のいずれか一つに記載の積層体。
【0022】
[30] ヒドロキシ基含有樹脂と無機層状化合物とを含む塗膜であって、塗膜中のナトリウム(Na)量が、塗膜全体に対する重量基準で2,500ppm以下、好ましくは1,500ppm以下、より好ましくは1,000ppm以下である塗膜。
[31] 塗膜中のナトリウム(Na)量が、塗膜全体に対する重量基準で0.01ppm以上、より好ましくは0.1ppm以上、さらに好ましくは1ppm以上である前記[30]に記載の塗膜。
【0023】
[32] ヒドロキシ基含有樹脂100gあたりのヒドロキシ基の量が、1.50~2.27mol、より好ましくは1.55~2.20mol、さらに好ましくは1.60~2.10molである前記[30]または[31]に記載の塗膜。
【0024】
[33] ヒドロキシ基含有樹脂が、さらにアミノ基を有する前記[30]~[32]のいずれか一つに記載の塗膜。
[34] ヒドロキシ基含有樹脂100gあたりのアミノ基の量が、0.046~0.682mol、より好ましくは0.060~0.50mol、さらに好ましくは0.10~0.30molである前記[33]に記載の塗膜。
【0025】
[35] ヒドロキシ基含有樹脂の数平均分子量が、10,000~50,000、より好ましくは12,000~40,000、さらに好ましくは15,000~30,000である前記[30]~[34]のいずれか一つに記載の塗膜。
【0026】
[36] ヒドロキシ基含有樹脂が、ビニルアミン-ビニルアルコール共重合体である前記[30]~[35]のいずれか一つに記載の塗膜。
[37] ビニルアミン-ビニルアルコール共重合体のけん化度が、80~100%、より好ましくは90~100%、さらに好ましくは95~100%である前記[36]に記載の塗膜。
【0027】
[38] 無機層状化合物が、粘土鉱物、好ましくはスメクタイト族粘土鉱物である前記[30]~[37]のいずれか一つに記載の塗膜。
[39] 無機層状化合物が、モンモリロナイトである前記[30]~[37]のいずれか一つに記載の塗膜。
【0028】
[40] 厚さが、10nm~20μm、より好ましくは20nm~10μm、さらに好ましくは30nm~10μmである前記[30]~[39]のいずれか一つに記載の塗膜。
【0029】
[41] 前記[30]~[40]のいずれか一つに記載の塗膜と、基材とを含む積層構造を有する積層体。
【0030】
[42] 前記[30]~[40]のいずれか一つに記載の塗膜と、無機物層と、基材とをこの順に含む積層構造を有する積層体。
[43] 無機物層を形成する無機物が、無機酸化物であり、より好ましくは酸化アルミニウム、酸化ケイ素および酸化マグネシウムからなる群から選ばれる少なくとも一つであり、さらに好ましくは酸化アルミニウムである前記[42]に記載の積層体。
[44] 無機物層の厚さが、1~200nm、より好ましくは2~150nm、さらに好ましくは3~100nmである前記[42]または[43]に記載の積層体。
【0031】
[45] 基材の厚さが、5~50μm、より好ましくは7~40μm、さらに好ましくは9~30μmである前記[41]~[44]のいずれか一つに記載の積層体。
【発明の効果】
【0032】
本発明の塗工液から、高温および高湿の条件で保持された後も、低い水蒸気透過度を示すガスバリア積層体を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0033】
<塗工液>
以下、本発明の塗工液について順に説明する。なお、後述の例示、好ましい記載等は、これらが互いに矛盾しない限り、組み合わせることができる。
【0034】
本発明の塗工液は、ヒドロキシ基含有樹脂と無機層状化合物と液状媒体とを含み、塗工液中のナトリウム(Na)量が、塗工液の固形分に対する重量基準で2,500ppm以下であることを特徴とする。本発明者らの鋭意検討の結果、Na量を低減した塗工液から、高温および高湿の条件で保持された後も、低い水蒸気透過度を示すガスバリア積層体を製造し得ることを見出した。
【0035】
低い水蒸気透過度の観点から、Na量は、塗工液の固形分に対する重量基準で、好ましくは1,500ppm以下、より好ましくは1,000ppm以下である。Na量の下限は、低い水蒸気透過度の観点から特に制限は無く、Na量は低いことが好ましい。但し、Na量がゼロである塗工液は、コスト等の観点から工業的に製造することが困難である。従って、Na量は、塗工液の固形分に対する重量基準で、好ましくは0.01ppm以上、より好ましくは0.1ppm以上、さらに好ましくは1ppm以上である。
【0036】
塗工液全体に対する重量基準のNa量は、後述の実施例に記載する方法によって測定することができる。このNa量と、塗工液の固形分とから、塗工液の固形分に対する重量基準のNa量を算出することができる。また、塗工液の固形分は、下記方法(以下「乾燥助剤法」と記載する)によって算出することができる。
【0037】
<乾燥助剤法>
1.乾燥助剤
無水硫酸ナトリウム(105℃×120分以上乾燥させたもの)
2.操作
(1)110mLのアルミカップを乾燥機に入れ、130℃×60分で乾燥した後、取出し、デシケーター内で30分間放冷する。
(2)放冷後のアルミカップに無水硫酸ナトリウムを20~30g入れ、アルミカップおよび無水硫酸ナトリウムの合計量(以下「合計量1」と記載する)を秤量する。
(3)試料(塗工液)を、上記(2)のアルミカップ(即ち、無水硫酸ナトリウムを入れたアルミカップ)に1.5~2.0g入れ、アルミカップ、無水硫酸ナトリウムおよび試料の合計量(以下「合計量2」と記載する)を秤量する。
(4)アルミカップ中の無水硫酸ナトリウムおよび試料が均一になるまでかき混ぜる。
(5)上記(4)のアルミカップ(即ち、無水硫酸ナトリウムおよび試料を入れたアルミカップ)を乾燥機に入れ、105℃×120分で乾燥した後、取出し、デシケーター内で30分間放冷する。
(6)放冷後の乾燥物およびアルミカップの合計量(以下「合計量3」と記載する)を秤量する。
(7)下記式より、試料(塗工液)の固形分を算出する。
固形分(重量%)
=100×[合計量3(g)-合計量1(g)]/試料量(g)
試料量(g)=合計量2(g)-合計量1(g)
【0038】
本発明の塗工液のpHは、無機物層の腐食抑制の観点からアルカリ性が望ましい。このpHは、好ましくは7~13、より好ましくは8.5~10である。
【0039】
<ヒドロキシ基含有樹脂>
本発明の塗工液は、ヒドロキシ基含有樹脂を含む。ヒドロキシ基含有樹脂は1種のみを使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0040】
ヒドロキシ基含有樹脂は、単独重合体でもよく、共重合体でもよい。共重合体は、ブロック共重合体、交互共重合体、ランダム共重合体、およびこれらの組合せのいずれでもよい。ヒドロキシ基含有樹脂としては、例えば、ポリビニルアルコール(PVA)、ビニルアミン-ビニルアルコール共重合体、(メタ)アクリル酸-ビニルアルコール共重合体、エチレン-ビニルアルコール共重合体(EVOH)、多糖類、およびこれらの誘導体が挙げられる。ここで「(メタ)アクリル酸」とは、アクリル酸および/またはメタアクリル酸を意味する。
【0041】
低い水蒸気透過度および造膜性の観点から、ヒドロキシ基含有樹脂100gあたりのヒドロキシ基の量は、好ましくは1.50~2.27mol、より好ましくは1.55~2.20mol、さらに好ましくは1.60~2.10molである。このヒドロキシ基の量は、プロトン核磁気共鳴(1H NMR)分析によって測定することができる。
【0042】
低い水蒸気透過度を達成するために、ヒドロキシ基含有樹脂は、さらにアミノ基を有することが好ましい。低い水蒸気透過度およびガスバリア層の基材への密着性の観点から、ヒドロキシ基含有樹脂100gあたりのアミノ基の量は、好ましくは0.046~0.682mol、より好ましくは0.060~0.50mol、さらに好ましくは0.10~0.30molである。このアミノ基の量は、プロトン核磁気共鳴(1H NMR)分析によって測定することができる。
【0043】
低い水蒸気透過度、並びにガスバリア層の柔軟性および造膜性の観点から、ヒドロキシ基含有樹脂の数平均分子量は、好ましくは10,000~50,000、より好ましくは12,000~40,000、さらに好ましくは15,000~30,000である。この数平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によって測定することができる。
【0044】
低い水蒸気透過度およびガスバリア層の基材への密着性の観点から、ヒドロキシ基含有樹脂は、ビニルアミン-ビニルアルコール共重合体であることが好ましい。ビニルアミン-ビニルアルコール共重合体は、ブロック共重合体、交互共重合体、ランダム共重合体、およびこれらの組合せのいずれでもよい。低い水蒸気透過度、ガスバリア層の基材への密着性および造膜性の観点から、ビニルアミン-ビニルアルコール共重合体は、好ましくはランダム共重合体である。ビニルアミン-ビニルアルコール共重合体100gあたりのヒドロキシ基およびアミノ基の量、並びにそれらの測定法は、上述の通りである。
【0045】
低い水蒸気透過度、並びにガスバリア層の基材への密着性および造膜性の観点から、ビニルアミン-ビニルアルコール共重合体のけん化度は、好ましくは80~100%、より好ましくは90~100%、さらに好ましくは95~100%である。ここで「ビニルアミン-ビニルアルコール共重合体のけん化度」とは、ビニルアミン-ビニルアルコール共重合体が有し得る「ヒドロキシ基(-OH)」および「ヒドロキシ基の前駆体(例えば-O-CO-CH3)」、並びに「アミノ基(-NH2)」および「アミノ基の前駆体(例えば-NH-CHO)」の合計に対するヒドロキシ基およびアミノ基の合計の割合(=100×(ヒドロキシ基+アミノ基)/(ヒドロキシ基+ヒドロキシ基の前駆体+アミノ基+アミノ基の前駆体))を意味する。このけん化度は、プロトン核磁気共鳴(1H NMR)分析によって測定し得るヒドロキシ基等の量から算出することができる。
【0046】
低い水蒸気透過度、ガスバリア層の柔軟性および造膜性の観点から、ヒドロキシ基含有樹脂の含有量は、塗工液全体に対して、好ましくは0.2重量%以上、より好ましくは0.4重量%以上、さらに好ましくは0.5重量%以上、特に好ましくは1.0重量%以上、最も好ましくは2.0重量%以上であり、好ましくは9.05重量%以下、より好ましくは8.0重量%以下、さらに好ましくは6.0重量%以下、特に好ましくは5.5重量%以下、最も好ましくは4.0重量%以下である。
【0047】
<無機層状化合物>
本発明の塗工液は、無機層状化合物を含む。無機層状化合物は、1種のみを使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0048】
無機層状化合物としては、例えば、粘土鉱物が挙げられる。粘土鉱物は、1種のみを使用してもよく、2種以上を併用してもよい。粘土鉱物としては、例えば、カオリナイト、ディッカイト、ナクライト、ハロイサイト、アンチゴライト、クリソタイル、パイロフィライト、モンモリロナイト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、ソーコナイト、スチーブンサイト、ヘクトライト、テトラシリリックマイカ、ナトリウムテニオライト、白雲母、マーガライト、タルク、バーミキュライト、金雲母、ザンソフィライト、緑泥石、ハイドロタルサイト等が挙げられる。粘土鉱物は、有機物での処理(例えばイオン交換等)によって、分散性等が改良されたものでもよい。
【0049】
無機層状化合物は、好ましくはスメクタイト族粘土鉱物である。スメクタイト族粘土鉱物は、1種のみを使用してもよく、2種以上を併用してもよい。スメクタイト族粘土鉱物としては、例えばモンモリロナイト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、ソーコナイト、スチーブンサイト、ヘクトライトが挙げられる。無機層状化合物は、より好ましくはモンモリロナイトである。スメクタイト族粘土鉱物(特にモンモリロナイト)は、有機物での処理(例えばイオン交換等)によって、分散性等が改良されたものでもよい。
【0050】
低い水蒸気透過度、並びに塗膜の柔軟性および造膜性の観点から、無機層状化合物の含有量は、塗工液全体に対して、好ましくは0.047重量%以上、より好ましくは0.050重量%以上、さらに好ましくは0.10重量%以上、特に好ましくは0.20重量%以上、最も好ましくは1.0重量%以上であり、好ましくは6.0重量%以下、より好ましくは5.5重量%以下、より一層好ましくは5.0重量%以下、さらに好ましくは4.5重量%以下、特に好ましくは4.4重量%以下、最も好ましくは4.0重量%以下である。
【0051】
<液状媒体>
本発明の塗工液は、液状媒体を含む。液状媒体は、好ましくは水および液状の有機媒体を含む。ここで「液状媒体」とは、25℃および1気圧で液状である媒体を意味し、「液状の有機媒体」とは、25℃および1気圧で液状である有機化合物を意味する。液状の有機媒体は、1種のみを使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0052】
液状の有機媒体としては、例えば、1価アルコール、グリコール、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、アセトン等が挙げられる。1価アルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール等が挙げられる。
【0053】
液状の有機媒体を使用する場合、その量は、液状媒体100重量部あたり、好ましくは1~70重量部、より好ましくは5~60重量部、さらに好ましくは10~50重量部である。
【0054】
本発明の一態様において、液状媒体は、好ましくは、水と、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノールおよび1-ブタノールからなる群から選ばれる少なくとも一つとを含み、より好ましくは水と、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノールおよび1-ブタノールからなる群から選ばれる少なくとも一つとからなる。この態様におけるメタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノールおよび1-ブタノールからなる群から選ばれる少なくとも一つの合計量は、塗工液の安定性および塗工時の乾燥時間の観点から、液状媒体100重量部あたり、好ましくは1~70重量部、より好ましくは5~60重量部、さらに好ましくは10~50重量部である。
【0055】
本発明の別の一態様において、液状媒体は、好ましくは水およびエタノールを含み、より好ましくは水およびエタノールからなる。この態様におけるエタノールの量は、塗工液の安定性および塗工時の乾燥時間の観点から、液状媒体100重量部あたり、好ましくは1~70重量部、より好ましくは5~60重量部、さらに好ましくは10~50重量部である。
【0056】
低い水蒸気透過度および造膜性の観点から、液状媒体の含有量は、塗工液全体に対して、好ましくは90~99.5重量%、より好ましくは91~99重量%、さらに好ましくは92~98重量%である。
【0057】
<他の成分>
本発明の塗工液は、本発明の効果を阻害しない範囲で、上述のヒドロキシ基含有樹脂、無機層状化合物および液状媒体とは異なる他の成分を含有していてもよい。他の成分としては、例えば、キレート化合物、界面活性剤等が挙げられる。他の成分は、いずれも、1種のみを使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0058】
<塗工液の製造>
本発明の塗工液は、上述のヒドロキシ基含有樹脂、無機層状化合物および液状媒体、並びに必要に応じて他の成分を混合および撹拌することによって分散液を調製し、得られた分散液中のNa量を低減することによって製造することができる。
【0059】
成分の混合順序に特に限定は無く、例えば、以下の方法によって、Na量を低減させる前の分散液を調製することができる。
1)ヒドロキシ基含有樹脂および液状媒体を混合し、加熱しながら撹拌することによって、ヒドロキシ基含有樹脂の溶液を製造し、得られたヒドロキシ基含有樹脂の溶液に無機層状化合物を添加し、得られた混合物を撹拌することによって分散液を調製する方法。
2)無機層状化合物および液体媒体を混合し、攪拌することによって、無機層状化合物の分散液を製造し、得られた無機層状化合物の分散液と、別途製造したヒドロキシ基含有樹脂の溶液とを混合および攪拌して分散液を調製する方法。
3)無機層状化合物および液体媒体を混合し、攪拌することによって、無機層状化合物の分散液を製造し、得られた無機層状化合物の分散液にヒドロキシ基含有樹脂を添加し、加熱しながら攪拌することによって、ヒドロキシ基含有樹脂を液状媒体に溶解させて、分散液を調製する方法。
【0060】
ヒドロキシ基含有樹脂と液状媒体とを混合および撹拌して溶液を製造するための温度、または無機層状化合物の分散液とヒドロキシ基含有樹脂とを混合および撹拌してヒドロキシ基含有樹脂を液状媒体に溶解させるための温度は、好ましくは50~100℃であり、より好ましくは60~100℃であり、その撹拌速度は、好ましくは300~5,000rpm、より好ましくは500~3,000rpmであり、撹拌の周速度は、好ましくは1~8m/分、より好ましくは2~6m/分であり、その撹拌時間は、好ましくは10~120分、より好ましくは20~110分である。
【0061】
ヒドロキシ基含有樹脂の溶液と無機層状化合物とを混合および撹拌して分散液を製造するための温度、または無機層状化合物と液体媒体とを混合および攪拌して無機層状化合物の分散液を製造するための温度は、好ましくは20~100℃であり、より好ましくは30~80℃であり、その撹拌速度は、好ましくは500~5,000rpm、より好ましくは1,000~5,000rpmであり、撹拌の周速度は、好ましくは1~20m/分、より好ましくは2~15m/分であり、その撹拌時間は、好ましくは10~150分、より好ましくは20~120分である。
【0062】
無機層状化合物の分散性を向上させるために、高圧分散装置を用いて、無機層状化合物を含む分散液の高圧分散処理を行うことが好ましい。高圧分散処理としては、例えば、Microfluidics Corporation 社製超高圧ホモジナイザー、ナノマイザー社製ナノマイザー、マントンゴーリン型高圧分散装置、イズミフードマシナリ製ホモゲナイザー等が挙げられる。ここで高圧分散処理とは、分散液を複数本の細管中に高速通過させることによって、分散液に高剪断および/または高圧を付加する処理である。上述の2)または3)の方法において、ヒドロキシ基含有樹脂の溶液またはヒドロキシ基含有樹脂を混合する前の分散液を高圧分散処理してもよく、ヒドロキシ基含有樹脂の溶液またはヒドロキシ基含有樹脂を混合した後の分散液を高圧分散処理してもよい。
【0063】
高圧分散装置の細管の直径は、好ましくは1~1,000μmである。高圧分散処理の圧力は、好ましくは500~2,000kgf/cm2、より好ましくは1,000~1,800kgf/cm2である。高圧分散処理の際の温度は、好ましくは10~50℃、より好ましくは15~45℃である。
【0064】
上述のようにして得られた分散液中のNa量の低減は、例えば、陽イオン交換樹脂を用いる陽イオン交換処理によって行うことができる。
【0065】
陽イオン交換樹脂としては、陽イオン交換能を有する官能基が導入された樹脂が挙げられる。陽イオン交換樹脂は、官能基の酸性の強さによって分類できる。具体的には陽イオン交換樹脂は、スルホ基等を官能基として持つ強酸性陽イオン交換樹脂、またはカルボキシ基等を官能基として持つ弱酸性陽イオン交換樹脂に分類できる。陽イオン交換能を有する官能基が導入される樹脂としては、例えば、スチレン系樹脂、アクリル系樹脂、メタクリル系樹脂等が挙げられる。また、陽イオン交換樹脂は、架橋度、多孔性等の樹脂構造の違いによって、ゲル型またはマクロポーラス型に分けられる。塗工液の製造において用いることができる陽イオン交換樹脂は特に限定されるものではなく、一般的なものを使用できる。
【0066】
陽イオン交換樹脂は、市販品を使用することができる。その市販品としては、例えば、ローム・アンド・ハース社製「デュオライトC255LFH」、三菱ケミカル社製「ダイヤイオンSK1B」、ダウ・ケミカル社製「アンバーライトIR120B」等が挙げられる。
【0067】
陽イオン交換樹脂の使用量および陽イオン交換処理の時間は、目標とするNa量に応じて、当業者であれば適宜設定することができる。
【0068】
<塗膜および積層体>
本発明の塗工液を支持体に塗布し、乾燥させることによって塗膜を形成することができる。本発明は、上述の塗工液から形成された塗膜も提供する。
【0069】
また、本発明は、ヒドロキシ基含有樹脂と無機層状化合物とを含む塗膜であって、塗膜中のナトリウム(Na)量が、塗膜全体に対する重量基準で2,500ppm以下である塗膜を提供する。塗膜中のNa量は、塗膜全体に対する重量基準で、好ましくは1,500ppm以下、より好ましくは1,000ppm以下である。Na量の下限は、低い水蒸気透過度の観点から特に制限は無く、Na量は低いことが好ましい。但し、Na量がゼロである塗膜およびそれを形成するための塗工液は、コスト等の観点から工業的に製造することが困難である。従って、塗膜中のNa量は、塗膜全体に対する重量基準で、好ましくは0.01ppm以上、より好ましくは0.1ppm以上、さらに好ましくは1ppm以上である。ヒドロキシ基含有樹脂および無機層状化合物の説明は、上述の通りである。
【0070】
本発明の塗膜は、ガスバリア層として用いることが好ましい。即ち、本発明の塗工液は、ガスバリア層を形成するために用いることが好ましい。
【0071】
乾燥後の塗膜(ガスバリア層)の厚さは、ガスバリア性の観点から、好ましくは10nm~20μm、より好ましくは20nm~10μm、さらに好ましくは30nm~10μmである。
【0072】
本発明の塗工液を塗布するための支持体としては、基材のみでもよく、他の層および基材を含む積層体でもよい。他の層としては、例えば、無機物層、接着剤層、プライマー層等が挙げられる。
【0073】
塗工液を塗布する積層体の積層構造としては、例えば、「プライマー層/基材」、「無機物層/基材」、「無機物層/プライマー層/基材」、「プライマー層/無機物層/基材」、「プライマー層/無機物層/プライマー層/基材」、「無機物層/第1の基材/接着剤層/第2の基材」等が挙げられる。前記態様において、各層および基材は、それぞれ、単層でもよく、2層以上でもよい。なお、本明細書中、「無機物層/基材」とは、無機物層と基材とが直接接触している状態を指す。他の表現も同様の意味である。
【0074】
無機物層は、1種のみの無機物から形成されていてもよく、2種以上の無機物から形成されていてもよい。無機物としては、金属、無機酸化物等が挙げられる。金属は、1種のみを使用してもよく、2種以上を併用してもよい。金属としては、アルミニウムが好ましい。無機酸化物は、1種のみを使用してもよく、2種以上を併用してもよい。無機酸化物としては、例えば、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化マグネシウム等が挙げられる。金属酸化物としては、安価であるため、酸化アルミニウムが好ましい。無機物層は、蒸着によって形成された層であることが好ましい。
【0075】
無機物層を形成する無機物は、好ましくは無機酸化物であり、より好ましくは酸化アルミニウム、酸化ケイ素および酸化マグネシウムからなる群から選ばれる少なくとも一つであり、さらに好ましくは酸化アルミニウムである。
【0076】
無機物層の厚さは、ガスバリア性の観点から、好ましくは1~200nm、より好ましくは2~150nm、さらに好ましくは3~100nmである。なお、2層以上の無機物層が存在する場合、前記厚さは、各無機物層の厚さである。
【0077】
基材は、1種のみを使用してもよく、2種以上を併用してもよい。基材としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン、ポリスチレン、ポリアミド、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート、ポリアクリルニトリル、ポリイミド等が挙げられる。基材は、好ましくはポリエステルであり、より好ましくはポリエチレンテレフタレートである。
【0078】
基材の厚さは、好ましくは5~50μm、より好ましくは7~40μm、さらに好ましくは9~30μmである。なお、2枚以上の基材が存在する場合、前記厚さは、各基材の厚さである。
【0079】
塗工液を塗布する方法は、バッチ式の方法でもよく、連続式の方法でもよい。塗布する方法としては、例えば、ダイレクトグラビア法、リバースグラビア法などのグラビア法、2本ロールビートコート法、ボトムフィード3本リバースコート法などのロールコーティング法、ドクターナイフ法、ダイコート法、バーコート法、ディッピング法、スプレーコート法、カーテンコート法、スピンコート法、フレキソコート法、スクリーンコート法、刷毛または筆を用いる方法等が挙げられる。
【0080】
乾燥による塗膜の形成は、加熱によって行うことが簡便である。この加熱は、常圧下で行ってもよく、減圧下で行ってもよい。加熱は、乾燥炉またはヒーターを用いて行うことができる。乾燥温度は、好ましくは40~150℃、より好ましくは30~140℃であり、乾燥時間は、好ましくは0.01分~24時間、より好ましくは0.01~60分である。
【0081】
本発明は、上述の塗膜と、基材とを含む積層構造を有する積層体も提供する。本発明の積層体は、ガスバリア積層体として有用である。本発明の積層体における塗膜および基材の説明は上述の通りである。
【0082】
本発明の積層体は、上述の塗膜と、基材とを、含んでいればよく、各層の間には、他の層が存在していてもよい。他の層としては、例えば、無機物層、接着剤層、プライマー層等が挙げられる。無機物層の説明は上述の通りである。
【0083】
前記積層構造としては、例えば、「塗膜/基材」、「塗膜/プライマー層/基材」、「塗膜/無機物層/基材」、「塗膜/無機物層/プライマー層/基材」、「塗膜/プライマー層/無機物層/基材」、「塗膜/プライマー層/無機物層/プライマー層/基材」、「塗膜/無機物層/第1の基材/接着剤層/第2の基材」等が挙げられる。前記態様において、各層および基材は、それぞれ、単層でもよく、2層以上でもよい。
【0084】
本発明の積層体は、上述の塗膜と、無機物層と、基材とをこの順に含む積層構造を有することが好ましく、本発明の積層体は、上述の塗膜、無機物層および基材からなり、塗膜、無機物層および基材がこの順で積層されている積層構造(即ち、「塗膜/無機物層/基材」)を有することがより好ましい。なお、これらの態様において無機物層および基材は、いずれも2層以上でもよいが、それぞれ単層であることがより好ましい。
【0085】
本発明の塗膜および本発明の積層体を構成する無機物層以外の各層(塗膜、接着剤層、プライマー層、基材)は、本発明の効果を損なわない程度で、必要に応じて、1種またはそれ以上の添加剤を含有していてもよい。また、本発明の塗膜を形成するための塗工液(即ち、本発明の塗工液)も、1種またはそれ以上の添加剤を含有していてもよい。
【0086】
添加剤としては、例えば、水素結合性基用架橋剤、少なくとも1種の有機官能基を有する添加剤、着色剤等が挙げられる。水素結合性基用架橋剤としては、例えば、水溶性ジルコニウム化合物、水溶性チタン化合物等が挙げられる。有機官能基としては、例えば、ヒドロキシ基、ホルミル基(-CHO)、カルボニル基、カルボキシ基、ニトロ基、スルホ基、オキシ基(-O-)、エポキシ基、アミノ基、アセトアセチル基、アルコキシ基、イソシアナト基(-NCO)等が挙げられる。少なくとも1種の有機官能基を有する添加剤としては、例えば、架橋剤、カップリング剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、エポキシ化合物(例、グリセロールポリグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル)、マレイン酸レジン、変性ポリオレフィン樹脂、クエン酸等が挙げられる。これらの中で、ガスバリア性および密着性の観点から、エポキシ化合物、マレイン酸レジン、変性ポリオレフィン樹脂、クエン酸が好ましい。
【実施例】
【0087】
以下、実施例等を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例によって制限を受けるものではなく、上記・下記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0088】
1.原料
実施例および比較例で使用した原料を以下に記載する。
(1)ヒドロキシ基含有樹脂
ヒドロキシ基含有樹脂:ビニルアミン-ビニルアルコール共重合体(セキスイ・スペシャルティ・ケミカルズ・アメリカ・エルエルシー社製「Ultiloc5003」、ランダム共重合体、ヒドロキシ基含有樹脂100gあたりのヒドロキシ基の量:2mol、ヒドロキシ基含有樹脂100gあたりのアミノ基の量:0.27mol、数平均分子量:20,000、けん化度:99%)
【0089】
(2)無機層状化合物
高純度モンモリロナイト(クニミネ工業社製「クニピアG」、単位結晶層の厚さa:1.2156nm)
【0090】
(3)液状媒体
イオン交換水(比電気伝導率:0.7μs/cm以下)
エタノール
【0091】
2.測定方法
実施例および比較例で使用した原料、並びに得られた塗工液およびガスバリア積層体の特性を以下のようにして測定した。
(1)ヒドロキシ基含有樹脂のヒドロキシ基およびアミノ基の量
1)前駆体の酢酸ビニル-N-ビニルホルムアミド共重合体のモノマー比率を1H NMRにて測定した。
2)酢酸ビニル-N-ビニルホルムアミド共重合体を加水分解し、ビニルアミン-ビニルアルコール共重合体を生成させた。
3)酢酸ビニル、N-ビニルホルムアミドの残存量を1H NMRにて測定した。
4)上記値を100gあたりに換算した。
(測定装置および条件)
1H NMR装置(400MHz):Bruker 社製「Bruker Avance 400」
溶媒:DMSO-d6
試料濃度:1重量%
測定温度:25℃
積算回数:16回
D1(パルス間delay):0.1秒
【0092】
(2)ヒドロキシ基含有樹脂の数平均分子量
ヒドロキシ基含有樹脂の数平均分子量を、以下の装置および条件のゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によって測定した。結果は上記の通りである。
(装置および条件)
GPC装置:Malvern社製「Viscotek TDA305」
カラム:SOLDEX社製「SB804X2+802.5」
試料溶液:測定試料(濃度1重量%)、NaNO3(pH調整剤、濃度0.05M)およびアジ化ナトリウム(防カビ剤、濃度0.00077M)を含有する水溶液
検出器温度:30℃
カラム温度:30℃
【0093】
(3)塗工液中のNa量
実施例および比較例で得られた塗工液から、それぞれサンプルを採取し、酸分解処理し、ICP発光分析装置(Agilent Technologies社製「Vista-PRO」)を用いる誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP-AES)によって、サンプル(塗工液)全体に対する重量基準のNa量を測定した。
【0094】
次に、上述の乾燥助剤法によって、塗工液の固形分を算出した。結果を下記表1に示す。
【0095】
上述の塗工液全体に対する重量基準のNa量と、塗工液の固形分とから、塗工液の固形分に対する重量基準のNa量を算出した。結果を下記表1に示す。なお、下記表1では「塗工液の固形分に対する重量基準のNa量」を「Na量」と記載する。
【0096】
(4)ガスバリア積層体の水蒸気透過度
後述の実施例および比較例のガスバリア積層体の水蒸気透過度を、JIS K7129-2008 B法に準じて、水蒸気透過率測定装置(MOCON社製「PERMATRAN-W 3/33」)を用い、40℃および90%RHの条件下で測定した。なお、この測定では、ガスバリア層/無機物層/基材との積層構造を有するガスバリア積層体の基材側から水蒸気を供給した(即ち、試験片の水蒸気供給面は基材であった)。結果を下記表1に示す。
【0097】
3.塗工液およびガスバリア積層体の製造および評価
実施例1
(1)塗工液の製造
ポリプロピレン製容器に、イオン交換水110gと、ヒドロキシ基含有樹脂30gとを添加し、得られた混合物を1,500rpmで撹拌しながら、90℃に昇温した。混合物を90℃および1,500rpmで60分間撹拌してヒドロキシ基含有樹脂を水に溶解させたのち、得られた溶液を60℃に冷却した。得られた溶液を60℃および1,500rpmで攪拌しながら、そこに、エタノール77gを5分間かけて添加し、得られた混合物を60℃および1,500rpmで10分間撹拌して、溶液(A)を得た。
【0098】
次に、イオン交換水360gにモンモリロナイトを15g添加し、室温および3,500rpmで30分間撹拌し、分散液(B)を得た。
【0099】
ポリプロピレン製容器に、溶液(A)と分散液(B)とを添加し、これらの混合物を、60℃、3,000rpmおよび周速度8.2m/分で60分間撹拌した。その後、混合物に、15分間かけて、さらにエタノール158gを加えて、得られた混合物を60℃以下で撹拌し、室温まで冷却して、分散液(C)を得た。
【0100】
得られた分散液(C)を、30℃および1250kgf/cm2の条件で高圧分散装置(Microfluidics Corporation 社製「超高圧ホモジナイザーM110-E/H」、細管の直径:100μm)を用いる高圧分散処理にかけて、分散液(D)を得た。
【0101】
得られた分散液(D)100重量部に対して1.5重量部の量で、陽イオン交換樹脂(デュオライトC255LFH(ローム・アンド・ハース・ジャパン社製)を分散液(D)に加えて、陽イオン交換を行った。その後、ろ過により陽イオン交換樹脂を除去して、塗工液を作製した(塗工液100重量%あたりのヒドロキシ基含有樹脂の含有量:4.0重量%、モンモリロナイトの含有量:2.0重量%、液状媒体(水およびエタノール)の含有量:94.0重量%。液状媒体100重量部あたりのエタノールの量:33.3重量部)。得られた塗工液のpHは9.4であった。
【0102】
(2)ガスバリア積層体の製造
得られた塗工液を、酸化アルミニウム蒸着フィルム(基材:ポリエチレンテレフタレート(PET)、基材厚さ:12μm、無機物層:酸化アルミニウム層、無機物層の厚さ:5~7.5nm)の無機物層にバーコーターによって塗布し、熱風オーブン内にて80℃および20分間乾燥させて、ガスバリア層(塗膜)/無機物層/基材との積層構造を有するガスバリア積層体を製造した(ガスバリア層の厚さ:0.2μm)。なお、乾燥は、常圧の大気雰囲気下で行った。
【0103】
(3)ガスバリア積層体の評価
40℃および90%RHの条件で1時間保持した後のガスバリア積層体の水蒸気透過度(I)、並びに40℃および90%RHの条件で10時間保持した後のガスバリア積層体の水蒸気透過度(II)、それぞれの上述のようにして測定した。結果を下記表1に示す。また、下記表1の「(II)/(I)」欄に、水蒸気透過度(II)および水蒸気透過度(I)の比(水蒸気透過度(II)/水蒸気透過度(I))を記載する。
【0104】
実施例2
実施例1で得られた分散液(D)100重量部に対して6.0重量部の量で陽イオン交換樹脂を分散液(D)に加えたこと以外は実施例1と同様にして、塗工液およびガスバリア積層体を製造し、ガスバリア積層体を評価した。得られた塗工液のpHは9.6であった。
【0105】
実施例3
実施例1で得られた分散液(D)100重量部に対して1.0重量部の量で陽イオン交換樹脂を分散液(D)に加えたこと以外は実施例1と同様にして、塗工液(1)を作製した。また、実施例1で得られた分散液(D)100重量部に対して4.0重量部の量で陽イオン交換樹脂を分散液(D)に加えたこと以外は実施例1と同様にして、塗工液(2)を作製した。得られた塗工液(1)および塗工液(2)を混合し、塗工液(3)を製造した。得られた塗工液(3)のpHは9.6であった。この塗工液(3)を用いて実施例1と同様にしてガスバリア積層体を製造および評価した。
【0106】
比較例1
実施例1で得られた分散液(D)100重量部に対して1.1重量部の量で陽イオン交換樹脂を分散液(D)に加えたこと以外は実施例1と同様にして、塗工液およびガスバリア積層体を製造し、ガスバリア積層体を評価した。得られた塗工液のpHは9.7であった。
【0107】
比較例2
実施例1で得られた分散液(D)100重量部に対して0.5重量部の量で陽イオン交換樹脂を分散液(D)に加えたこと以外は実施例1と同様にして、塗工液およびガスバリア積層体を製造し、ガスバリア積層体を評価した。得られた塗工液のpHは10.9であった。
【0108】
比較例3
実施例1で得られた分散液(D)を陽イオン交換樹脂で処理せず、そのまま塗工液として使用したこと以外は実施例1と同様にして、塗工液およびガスバリア積層体を製造し、ガスバリア積層体を評価した。比較例3の塗工液(分散液(D))のpHは12.2であった。
【0109】
【0110】
上記表1から示されるように、塗工液中のNa量が、塗工液の固形分に対する重量基準で2,500ppm以下である塗工液から製造された実施例1~3のガスバリア積層体は、高温(40℃)および高湿(90%RH)の条件で10時間保持された後も低い水蒸気透過を示した。
【0111】
参考例1
厚さ20μmの二軸延伸ポリプロピレンフィルム(以下「OPP」と記載する)(フタムラ化学社製「FOA」)のコロナ処理面に、実施例2で得られた塗工液を塗布し、熱風オーブン内にて100℃および1分間乾燥させることによって、塗膜/基材(OPP)との積層構造を有する積層体を得た。
【0112】
参考例2
OPPのコロナ処理面にコロナ表面改質評価装置(春日電機社製「TEC-4AX」)にて60Wおよび放電速度6m/minでコロナ処理を1回施した。当該コロナ処理面に、実施例2で得られた塗工液を塗布したこと以外は参考例1と同様にして、塗膜/基材(OPP)との積層構造を有する積層体を得た。
【0113】
参考例3
実施例2で得られた塗工液に、塗工液の固形分100重量部に対してマレイン酸レジン水溶液(荒川化学工業社製「マルキード 32-30WS」)の固形分が5重量部となるように、前記マレイン酸レジン水溶液を添加し、十分に撹拌および混合して、塗工液を作製した。このようにして得られた塗工液を使用したこと以外は参考例1と同様にして、塗膜/基材(OPP)との積層構造を有する積層体を得た。
【0114】
参考例4
塗工液の固形分100重量部に対してマレイン酸レジン水溶液(荒川化学工業社製「マルキード 32-30WS」)の固形分が10重量部になるように、マレイン酸レジン水溶液の添加量を変更したこと以外は参考例3と同様にして、塗膜/基材(OPP)との積層構造を有する積層体を得た。
【0115】
参考例5
塗工液の固形分100重量部に対してマレイン酸レジン水溶液(荒川化学工業社製「マルキード 32-30WS」)の固形分が20重量部になるように、マレイン酸レジン水溶液の添加量を変更したこと以外は参考例3と同様にして、塗膜/基材(OPP)との積層構造を有する積層体を得た。
【0116】
参考例6
実施例2で得られた塗工液に、塗工液の固形分100重量部に対してエポキシ化合物(ナガセケムテックス社製「デナコール EX-313」、グリセロールポリグリシジルエーテル)が5重量部となるように、前記エポキシ化合物を添加し、十分に撹拌および混合して、塗工液を作製した。このようにして得られた塗工液を使用したこと以外は参考例1と同様にして、塗膜/基材(OPP)との積層構造を有する積層体を得た。
【0117】
参考例7
実施例2で得られた塗工液に、塗工液の固形分100重量部に対してエポキシ化合物(ナガセケムテックス社製「デナコール EX-920」、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル)が20重量部となるように、前記エポキシ化合物を添加し、十分に撹拌および混合して、塗工液を作製した。このようにして得られた塗工液を使用したこと以外は参考例1と同様にして、塗膜/基材(OPP)との積層構造を有する積層体を得た。
【0118】
参考例8
実施例2で得られた塗工液に、塗工液の固形分100重量部に対して変性ポリオレフィン樹脂水性分散体(ユニチカ社製「アローベース DA-1010」)の固形分が20重量部となるように、前記変性ポリオレフィン樹脂水性分散体を添加し、十分に撹拌および混合して、塗工液を作製した。このようにして得られた塗工液を使用したこと以外は参考例1と同様にして、塗膜/基材(OPP)との積層構造を有する積層体を得た。
【0119】
参考例9
OPPのコロナ処理面にウレタン系のプライマー(東洋モートン社製)を塗布し、熱風オーブン内にて80℃および20分間乾燥させて、プライマー層を形成した(プライマー層の厚さ:0.7μm)。このプライマー層に、実施例2で得られた塗工液を塗布したこと以外は参考例1と同様にして、塗膜/プライマー層/基材(OPP)との積層構造を有する積層体を得た。
【0120】
参考例10
実施例2で得られた塗工液の代わりに、参考例3で得られた塗工液を使用したこと以外は参考例9と同様にして、塗膜/プライマー層/基材(OPP)との積層構造を有する積層体を得た。
【0121】
剥離強度の測定
参考例1~10で得られた積層体の塗膜にウレタン系の接着剤(東洋モートン社製)を塗布し、熱風オーブン内にて80℃および20分間乾燥させて、接着剤層を形成した(接着剤層の厚さ:16μm)。この接着剤層に、シーラントとして厚さ50μmの無延伸ポリプロピレンフィルム(東洋紡社製「P1111」)をドライラミネート法により貼り合せ、40℃にて1日間エージングを施すことにより、「シーラント/接着剤層/塗膜/基材(OPP)」または「シーラント/接着剤層/塗膜/プライマー層/基材(OPP)」との積層構造を有する剥離強度評価用の積層体を得た。
【0122】
得られた剥離強度評価用の積層体を15mm幅の短冊状にカットし、そのシーラントおよび基材をそれぞれチャックで挟んで180°剥離試験を行って、180°剥離強度を測定した。180°剥離試験は、23℃、50%RHおよび引張速度は300mm/分の条件で小型卓上試験機(島津製作所製「EZ-LX」)を用いて行った。結果を下記表2に記載する。なお、基材が破断して180°剥離強度を測定できなかったものは、下記表2で「材料破壊」と記載する。
【0123】
【産業上の利用可能性】
【0124】
本発明の塗工液から、高温および高湿の条件で保持された後も、低い水蒸気透過度を示すガスバリア積層体を製造することができる。このようなガスバリア積層体は、食品、化粧品等の包装材料として有用である。
【0125】
本願は、日本で出願された特願2019-205655号を基礎としており、その内容は本願明細書に全て包含される。