(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-18
(45)【発行日】2022-11-29
(54)【発明の名称】精製食用油脂の製造方法、食用油脂の曝光臭改善方法、及び精製食用油脂
(51)【国際特許分類】
A23D 9/02 20060101AFI20221121BHJP
A23D 9/00 20060101ALI20221121BHJP
C11B 3/12 20060101ALI20221121BHJP
C11B 3/08 20060101ALI20221121BHJP
【FI】
A23D9/02
A23D9/00 506
C11B3/12
C11B3/08
(21)【出願番号】P 2022502272
(86)(22)【出願日】2020-07-16
(86)【国際出願番号】 JP2020028612
(87)【国際公開番号】W WO2021010491
(87)【国際公開日】2021-01-21
【審査請求日】2022-01-13
(31)【優先権主張番号】P 2019130820
(32)【優先日】2019-07-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019175917
(32)【優先日】2019-09-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020054350
(32)【優先日】2020-03-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000227009
【氏名又は名称】日清オイリオグループ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【氏名又は名称】服部 博信
(72)【発明者】
【氏名】豊島 尊
(72)【発明者】
【氏名】辻野 祥伍
(72)【発明者】
【氏名】生稲 淳一
(72)【発明者】
【氏名】青柳 寛司
【審査官】安田 周史
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-193776(JP,A)
【文献】特開2011-072192(JP,A)
【文献】特開2010-202774(JP,A)
【文献】特開2011-133365(JP,A)
【文献】特開2013-040143(JP,A)
【文献】ポーランド国特許発明第225068(PL,B1)
【文献】特開2010-168521(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0165734(US,A1)
【文献】特開2009-226205(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第109423353(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23D 9/02
A23D 9/00
C11B 3/12
C11B 3/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
精製食用油脂の製造方法であって、油脂をオゾンに接触させる工程、及び、次いで前記油脂を蒸留する工程、を含む、精製食用油脂の製造方法。
【請求項2】
前記蒸留工程の蒸留温度が120~260℃である、請求項1に記載の精製食用油脂の製造方法。
【請求項3】
前記蒸留工程が減圧水蒸気蒸留である、請求項1又は2に記載の精製食用油脂の製造方法。
【請求項4】
前記油脂をオゾンに接触させる工程が、オゾン気体を前記油脂中にバブリングする工程である、請求項1~3のいずれか一項に記載の精製食用油脂の製造方法。
【請求項5】
前記油脂をオゾンに接触させる工程が、油脂が液状である温度で行われる、請求項1~4のいずれか一項に記載の精製食用油脂の製造方法。
【請求項6】
前記油脂をオゾンに接触させる工程が、180℃以下の温度で行われる、請求項1~5のいずれか一項に記載の精製食用油脂の製造方法。
【請求項7】
前記油脂をオゾンに接触させる工程が、油脂とオゾンを1分以上接触させる工程である、請求項1~6のいずれか一項に記載の精製食用油脂の製造方法。
【請求項8】
前記油脂をオゾンに接触させる工程が、油脂とオゾンを2分~24時間接触させる工程である、請求項7に記載の精製食用油脂の製造方法。
【請求項9】
前記油脂が、大豆油、なたね油、ハイオレイックなたね油、ひまわり油、ハイオレイックひまわり油、オリーブ油、サフラワー油、ハイオレイックサフラワー油、コーン油、綿実油、米油、ゴマ油、グレープシード油、落花生油、牛脂、乳脂、魚油、ヤシ油、パーム油、及びパーム核油からなる群から選択される、請求項1~8のいずれか一項に記載の精製食用油脂の製造方法。
【請求項10】
前記油脂が、大豆油を10~100質量%含有する、請求項9に記載の精製食用油脂の製造方法。
【請求項11】
前記精製食用油脂が、10℃~40℃の範囲の温度で液状である、請求項1~10のいずれか一項に記載の精製食用油脂の製造方法。
【請求項12】
脱ガム工程、脱酸工程、脱色工程、脱ロウ工程、脱臭工程、分別工程、及びブレンド工程から選択される1つ以上の追加の精製工程をさらに含む、請求項1~11のいずれか一項に記載の精製食用油脂の製造方法。
【請求項13】
前記蒸留工程が、油脂の脱臭工程を行うのに効果的である、請求項1~12のいずれか一項に記載の精製食用油脂の製造方法。
【請求項14】
前記精製食用油脂が、曝光臭が改善されたものである、請求項1~13のいずれか一項に記載の精製食用油脂の製造方法。
【請求項15】
包装製品の製造方法であって、請求項1~14のいずれか一項に記載の方法によって精製食用油脂を製造する工程、及び、次いで前記精製食用油脂を透明の容器に包装する工程、を含む、包装製品の製造方法。
【請求項16】
油脂をオゾンに接触させる工程、及び、次いで前記油脂を蒸留する工程、を含む、精製食用油脂の曝光臭改善方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、精製食用油脂の製造方法、食用油脂の曝光臭改善方法、及び精製食用油脂に関する。曝光臭とは、光に曝された条件下で蓄えられた食用油脂のにおいを意味する。
【背景技術】
【0002】
食用油脂は、酸化により風味劣化を生じることが知られている。酸化は、高温化あるいは光により進むものと考えられるが、光の有無により油脂の風味の質が異なることから、曝光による風味劣化は、その他の油脂の酸化劣化とは原因物質・メカニズム等が異なると認識されている。食用油脂は、透明の容器で流通・販売しており、その際に、光に曝されやすい。また、食用油脂を用いた揚げ物、炒め物等の加熱調理品や、食用油脂配合品のドレッシング、マヨネーズ等も流通、販売の過程で光に曝され、食用油脂由来の風味劣化を生じる。特に大豆油においては、曝光による風味劣化が酷く、その改善が求められていた。
【0003】
例えば、特許文献1には、アラキドン酸等を含む明所保存臭の改善された大豆油含有油脂組成物が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許6175003号公報
【文献】特開2015-193776号公報
【発明の概要】
【0005】
しかしながら、特許文献1の方法では、曝光臭改善効果を有する添加剤(アラキドン酸含有油脂)が残存するため、添加したアラキドン酸含有油脂の風味の影響を受け、食用油本来の風味と異なる風味を有する問題があった。
【0006】
そこで、本発明の目的は、曝光臭が改善された精製食用油脂を製造するための代替的な方法、精製食用油脂の曝光臭改善方法、及び曝光臭が改善された精製食用油脂を提供することにある。特に、本発明の目的は、精製品の風味に悪影響を及ぼさない精製食用油脂を製造する方法を提供することにある。
【0007】
本発明は、上記課題を達成するために、下記の[1]~[22]を提供する。上記課題を解決する本発明の要旨構成は、以下の通りである。
[1]精製食用油脂の製造方法であって、油脂をオゾンに接触させる工程、及び、次いで前記油脂を蒸留する工程、を含む、精製食用油脂の製造方法。
[2]前記蒸留工程の蒸留温度が120~260℃である、特徴[1]に記載の精製食用油脂の製造方法。
[3]前記蒸留工程が減圧水蒸気蒸留である、特徴[1]又は[2]に記載の精製食用油脂の製造方法。
[4]前記油脂をオゾンに接触させる工程が、オゾン気体を前記油脂中にバブリングする工程である、特徴[1]~[3]のいずれか一項に記載の精製食用油脂の製造方法。
[5]前記油脂をオゾンに接触させる工程が、油脂が液状である温度、例えば10℃以上の温度で行われる、特徴[1]~[4]のいずれか一項に記載の精製食用油脂の製造方法。
[6]前記油脂をオゾンに接触させる工程が、180℃以下の温度で行われる、特徴[1]~[5]のいずれか一項に記載の精製食用油脂の製造方法。
[7]前記油脂をオゾンに接触させる工程が、油脂とオゾンを1分以上接触させる工程である、特徴[1]~[6]のいずれか一項に記載の精製食用油脂の製造方法。
[8]前記油脂をオゾンに接触させる工程が、油脂とオゾンを2分~24時間接触させる工程である、特徴[7]に記載の精製食用油脂の製造方法。
[9]前記油脂が、大豆油、なたね油、ハイオレイックなたね油、ひまわり油、ハイオレイックひまわり油、オリーブ油、サフラワー油、ハイオレイックサフラワー油、コーン油、綿実油、米油、ゴマ油、グレープシード油、落花生油、牛脂、乳脂、魚油、ヤシ油、パーム油、及びパーム核油からなる群から選択される、特徴[1]~[8]のいずれか一項に記載の精製食用油脂の製造方法。
[10]
前記油脂が、大豆油を10~100質量%含有する、特徴[9]に記載の精製食用油脂の製造方法。
[11]前記精製食用油脂が、10℃~40℃の範囲の温度で液状である、特徴[1]~[10]のいずれか一項に記載の精製食用油脂の製造方法。
[12]脱ガム工程、脱酸工程、脱色工程、脱ロウ工程、脱臭工程、分別工程、及びブレンド工程から選択される1つ以上の追加の精製工程をさらに含む、特徴[1]~[11]のいずれか一項に記載の精製食用油脂の製造方法。
[13]前記蒸留工程が、油脂の脱臭工程を行うのに効果的である、特徴[1]~[12]のいずれか一項に記載の精製食用油脂の製造方法。
[14]
前記精製食用油脂が、曝光臭が改善されたものである、特徴[1]~[13]のいずれか一項に記載の精製食用油脂の製造方法。
[15]包装製品の製造方法であって、特徴[1]~[14]のいずれか一項に記載の方法によって精製食用油脂を製造する工程、及び、次いで前記精製食用油脂を透明の容器に包装する工程、を含む、包装製品の製造方法。
[16]
油脂をオゾンに接触させる工程、及び、次いで前記油脂を蒸留する工程、を含む、精製食用油脂の曝光臭改善方法。
[17]特徴[1]~[14]のいずれか一項に記載の精製食用油脂の製造方法で得られた精製食用油脂。
[18]特徴[17]に記載の精製食用油脂と、透明の容器とを含む、包装製品。
[19]特徴[17]に記載の精製食用油脂、例えば、ドレッシング又はマヨネーズを含む、食用油脂含有食品。
[20]特徴[17]に記載の精製食用油脂で食品を調理又は部分調理して調製された、加熱調理食品、例えば、揚げ物又は炒め物。
[21]前記蒸留温度が、120℃~230℃である、特徴[2]に記載の精製食用油脂の製造方法。
[22]精製食用油脂含有食品の製造方法であって、特徴[1]~[15]のいずれか一項に記載の精製食用油脂を製造する工程;及び、前記食品に前記精製食用油脂、例えばドレッシング又はマヨネーズを配合する工程、を含む、精製食用油脂の製造方法。
【0008】
本発明によれば、簡便な処理で、曝光臭が改善される精製食用油脂の製造方法、及び精製食用油脂の曝光臭改善方法を提供することができる。また、本発明で得られた精製食用油脂は曝光下で長期に保管されても、不快な風味の発生が抑えられる。そのため、本発明で得られた精製食用油脂、及び精製食用油脂で製造された加工食品(加熱調理品、マヨネーズ、ドレッシング等)も、油脂に由来する曝光臭が改善される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】オゾンに接触させた未蒸留油脂(曝光品)の揮発成分の比較を示すグラフである。
【
図2】オゾンに接触させた蒸留油脂(未曝光品)の揮発成分の比較を示すグラフである。
【
図3】オゾンに接触させた蒸留油脂(曝光品)の揮発成分の比較を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明者らは、油脂をオゾンに接触させ、蒸留を経た精製食用油脂が、従来の精製食用油脂に比べて曝光臭の発生が抑えられていることを見出した。これらの知見に基づき、本発明の精製食用油の製造方法、及び精製食用油の曝光臭改善方法を完成するに至った。本明細書において、移行句「含む」、「含有する」、「有する」、「含まれる」等は、制限のないものであるが、「実質的になる」、「からなる」、又は「のみからなる」に読み替えることができる。加えて、いかなる好ましい選択肢も、たとえ選択肢が、例えば、好ましい、又はより好ましいのようなものであっても、組み合わせることができるものとする。
【0011】
以下、本願発明の精製食用油の製造方法、及び精製食用油の曝光臭改善方法について、詳説する。なお、本発明の実施の形態において、A(数値)~B(数値)は、A以上B以下を意味する。
【0012】
<精製食用油脂の製造方法>
本発明の精製食用油脂の製造方法において、油脂をオゾンに接触させる工程を経て、蒸留工程を経る。理論に縛られることを意図するものではないが、高温での単純な蒸留のみでは、曝光臭の改善が見られないので、油脂をオゾンに接触させる工程あるいは油脂をオゾンに接触させた後の蒸留工程で、曝光臭の原因物質が分解し、蒸留除去されるものと考えられる。
(油脂)
本発明で用いる油脂は、特に限定されることなく、公知の食用油脂を主成分として含んでもよい。理解されているように、油脂は、その風味及び/又はにおいが光の暴露によって劣化するものである。当該公知の油脂は、動植物油脂及びその水素添加油、分別油、エステル交換油などを単独あるいは組み合わせて用いることができる。動植物油脂としては、例えば、大豆油、なたね油、ハイオレイックなたね油、ひまわり油、ハイオレイックひまわり油、オリーブ油、サフラワー油、ハイオレイックサフラワー油、コーン油、綿実油、米油、ゴマ油、グレープシード油、落花生油、牛脂、乳脂、魚油、ヤシ油、パーム油、パーム核油などが挙げられる。一般的に油脂は、曝光により風味劣化を生じるが、固形油脂は白濁するので、曝光の影響が弱くなる。そのため、流通時、あるいは保管時(例えば、10~40℃)に液状である油脂が好ましい。また、特に大豆油が含有されている油脂は、曝光臭の影響を受けやすく、本発明の効果を得やすい。そのため、油脂中に大豆油を10~100質量%含有する油脂を用いることが好ましく、油脂中に大豆油を50~100質量%含有する油脂を用いることがより好ましい。特に限定するものではないが、ヨウ素価110~140の大豆油や高オレイン酸品種の大豆油(ヨウ素価80~90)を用いることもできる。なお、ヨウ素価は、日本油化学会制定「基準油脂分析試験法 2.3.4.1-1996 ヨウ素価(ウィイス-シクロヘキサン法)に準拠して測定することができる。
【0013】
油脂は、未精製の油脂、又は1以上の精製工程を経た油脂を用いることができる。1以上の精製工程を経た油脂としては、いかなる公知の精製工程を受けた油脂、例えば、脱ガム工程、脱酸工程、脱色工程、脱ロウ工程、脱臭工程等の1つ以上、又はいずれか、もしくは全部を含む工程を経た油脂を用いることができる。
【0014】
(オゾン処理:油脂をオゾン気体に接触させる工程)
本発明において、油脂をオゾンに接触させる工程を有する。この工程により、曝光臭の原因物質が分解あるいは蒸留で分解しやすい化合物に変化すると考えられる。オゾンは、酸素原子3個から構成される気体であり、オゾン気体を油脂に接触させるか、オゾンを含有する水を油脂と(例えば、撹拌することで)接触させることもできる。オゾン気体は、オゾン(及び、例えば、空気、窒素、又は酸素)を含む気体、オゾンから実質的になる気体、又はオゾンからなる気体を意味する。オゾン気体を接触させた後に、オゾン以外の成分を除去する必要がないことから、オゾン気体を油脂に接触させることが好ましい。オゾン気体を油脂に接触させる方法としては、脱ガス(脱気)された油脂をオゾン気体と接触させる方法、及び/又は、油脂中にオゾン気体をバブリングさせることで接触させる方法を用いることができる。例えば、脱ガスした油脂は、減圧下で脱ガスすることによって得られる。なお、オゾン気体の発生装置は、特に限定するものではないが、空気中あるいは酸素中での紫外線照射、または空気中あるいは酸素中での無声放電など高いエネルギーを持つ電子と酸素分子の衝突によってオゾン気体を発生させる装置を利用することができる。また、市販の水や食品等の殺菌、脱臭、脱色に用いる装置を利用することができる。
【0015】
油脂とオゾンとの接触時間が増加するほど、曝光臭改善効果が向上し、接触時間は1分以上であることが好ましく、2分~24時間であることがより好ましい。油脂とオゾンを3分~6時間接触させることがさらに好ましく、油脂とオゾンを10分~2時間接触させることがことさら好ましい。また、接触温度は、オゾンと油脂を接触させるため、油脂が液状である温度であればよく、―10℃以上であることが好ましく、5℃以上であることがより好ましい。また、接触温度は、高くなると油脂の酸化反応が促進され、反応のコントロールが難しくなるので、接触温度は180℃以下が好ましく、100℃以下がより好ましい。接触温度は10~60℃がさらに好ましく、10~40℃が最も好ましい。
【0016】
オゾン気体の量は、油脂にオゾン気体が溶存できればよく、油脂に対してオゾンが接触時間の間に0.0022質量%以上供給されていることが好ましく、油脂に対してオゾンが0.006質量%以上供給されていることがより好ましく、油脂に対してオゾンが0.005~0.65質量%供給されていることがさらに好ましく、油脂に対してオゾンが0.006~0.65質量%供給されていることが最も好ましい。
【0017】
油脂中の水分量は、オゾン処理のパフォーマンスにいかなる影響も及ぼさないだろう。
【0018】
(蒸留工程)
本発明は、油脂をオゾンに接触させる工程の後に、蒸留工程を有する。蒸留工程が油脂をオゾンに接触させる工程の後で行うという要件は、いくつかの態様においてはそうかもしれないものの、蒸留工程がオゾン処理工程の直後に続いて行われなければいけないことを意図するものではない。ここにおいては、1以上の追加の精製工程が、オゾン処理工程の後であって蒸留の前に、油脂に対して行われてもよい。このような1以上の工程は、さらに、オゾン処理工程の前に行われてもよい。
【0019】
曝光臭の原因物質は、リノール酸のような脂肪酸やフラン誘導体等との提案がなされているものの、不明である。しかし、いずれも、オゾンとの反応で、分解あるいは蒸留工程で分解しやすい化合物に変化していると考えられるので、これらが蒸留除去できる条件で蒸留する。なお、油脂に存在する過酸化物は高い温度(例えば、160℃を超える温度)で分解するので、160℃以上で蒸留処理すればよい。また、減圧あるいは水蒸気蒸留であれば、沸点が低下するので、低い温度、例えば120℃以上でも蒸留処理することが可能である。本発明において、蒸留工程は、油脂の精製で用いられる脱臭(減圧水蒸気蒸留)を行うことが好ましい。一方、油脂は高温に加熱すると品質の低下を起こす可能性があるので、蒸留温度の上限は260℃以下が好ましい。蒸留温度は、120~260℃が好ましく、140~260℃、あるいは160~260℃がより好ましく、180~260℃あるいは200~260℃がさらに好ましく、及び220~255℃あるいは220~260℃がさらに好ましい。
【0020】
なお、本発明において、蒸留時の温度を低温で行うことで、曝光臭改善効果はさらに改善(例えば、相乗的に改善)されるため、蒸留温度は120~230℃であることが好ましく、160~230℃がより好ましく、160~225℃又は180~230℃がさらに好ましく、及び200~225℃がさらに好ましい。
【0021】
蒸留時の圧力は、大気圧でも行うことはできるが、好ましくは、減圧条件下であり、真空に近いいほど良い。50000Pa以下が好ましく、8000Pa以下がより好ましく、800Pa以下がさらに好ましい、なお、減圧条件は真空に近いほどよいため特に下限値はないが、蒸気の吹込みあるいは設備的な制約から10Pa以上で行われることが多い。圧力は10~1000Paが好ましく、100~800Paがより好ましく、200~600Paがさらに好ましい。
【0022】
本発明において、蒸留時に水蒸気を吹き込むことを含む水蒸気蒸留で行うことが好ましい。その場合、水蒸気量は油脂量に対して0.5~10質量%であることが好ましく、1~5質量%であることがより好ましい。
【0023】
蒸留時間は、15分以上行えば十分であり、15~180分が好ましく、30~120分がより好ましい。
【0024】
例えば、120~230℃あるいは230~260℃で、10~50000Pa、15~180分、油脂量に対して水蒸気量0.5~10質量%で蒸留を行うことができる。また、160~230℃あるいは230~260℃で、10~1000Pa、15~180分、油脂量に対して水蒸気量0.5~10質量%で蒸留を行うことができる。また、160~225℃あるいは230~260℃で、100~800Pa、15~180分、油脂量に対して水蒸気量0.5~5質量%で蒸留を行うことができる。
例えば、120~230℃あるいは230~260℃で、10~50000Pa、15~180分、水蒸気無添加で蒸留を行うことができる。また、160~225℃あるいは230~260℃で、100~800Pa、15~180分、水蒸気無添加で蒸留を行うことができる。
例えば、160~230℃あるいは230~260℃で、50000Pa~大気圧、30~180分、油脂量に対して水蒸気量0.5~10質量%で蒸留を行うことができる。また、160~225℃あるいは230~260℃で、50000Pa~大気圧、30~180分、油脂量に対して水蒸気量0.5~5質量%で蒸留を行うことができる。
【0025】
前述の工程(油脂をオゾンに接触させる工程)と蒸留工程との間に、少なくとも一つの追加の工程を行ってもよい。一態様として、1つを超える追加の工程をオゾン処理工程と蒸留工程との間に行ってもよい。追加の工程としては、例えば、脱ガム工程、脱酸工程、脱色工程、脱ロウ工程、分別工程、及びブレンド工程のいずれかから選択される一つ以上の工程が含まれてもよい。また、ここで言う減圧水蒸気蒸留工程は、油脂の脱臭工程を行うのに効果的である。そのため、ある態様において、蒸留工程は、従来の精製手段における脱臭工程と効果的にとってかわることができる。したがって、前述の工程(油脂にオゾンを接触させる工程)は、油脂の精製における脱臭工程の前に行い、本発明の蒸留工程とともに脱臭工程を行うことが好ましい。
【0026】
<食用油脂の曝光臭改善方法>
本発明の食用油脂の曝光臭改善方法は、油脂をオゾンに接触させ、蒸留することを特徴とする。ここで言う「曝光臭が改善」との表現は、光に曝された条件下で発生した食用油脂のにおいの増加が抑制されることを言う。改善は、未処理の油脂に対して、すなわち、ここに記載されたオゾン処理を受けていないが他は同じ精製手段を受けた同一の食用油脂に対して、の改善である。曝光臭は、例えば、油脂を1000luxの値の光を100時間超(好ましくは108~120時間)暴露する場合に測定した、揮発性成分の量に基づいて、測定することができる。光に曝したのち、油脂中の揮発性成分は、オゾン処理を受けていないが他は同じ精製手段を受けた揮発性成分に対して好ましくは97%未満であり、好ましくは95%未満又は90%未満であり、より好ましくは95%未満、90%未満、又は80%未満である。揮発性成分は、好ましくは2,3-オクタンジオン及び/又は3-メチル-2,4-ナノジオンである。油脂、油脂をオゾンに接触させる条件、蒸留する条件等は、前述の<精製食用油脂の製造方法>に記載の通りである。
【0027】
<精製食用油脂>
本発明の精製食用油脂は、油脂をオゾンに接触させ、さらに蒸留を行うことで、曝光した際に発生する曝光臭が低減されている。油脂、油脂をオゾンに接触させる条件、蒸留する条件等は、前述の<精製食用油脂の製造方法>に記載の通りである。例えば、大豆油の場合、同処理を行った精製大豆油は、同処理を行わない精製大豆油に比べて、臭い成分である2,3-オクタンジオンや3-メチル-2,4-ナノジオンが低減する。油脂中に上記オゾンに接触させ、さらに蒸留を行う処理を行った大豆油を油脂中に10~100質量%含有する精製油脂が好ましく、前述の処理を行った大豆油を油脂中に50~100質量%含有する精製油脂がより好ましい。
精製食用油脂は、容器、例えば、プラスチック容器、金属容器、及び透明容器に入れて包装され、流通され、及び販売されてもよい。加えて、精製食用油脂は食品、例えば、調味料、ドレッシング、マヨネーズ、及び、揚げ物や炒め物のような加熱調理品に配合してもよい。
【実施例】
【0028】
以下、本発明について、実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0029】
試験1
<サンプル>
[未蒸留油脂1、蒸留油脂1]
大豆脱色油を未蒸留油脂1とした。大豆脱色油(未蒸留油脂1)1.2kgを脱臭(255℃、533Pa,60分、水蒸気量 油脂に対して2.7%)し、蒸留油脂1を得た。
[未蒸留油脂2、蒸留油脂2]
大豆脱色油(未蒸留油脂1)1.5kgに、室温で、オゾン発生器(GL-3188A:Shenzhen Guanglei Electonic Co.,Ltd製、オゾン発生速度400mg/h)で発生させたオゾン気体(オゾン含有空気)を、微孔を有するガラス管から0.25分吹き込み、未蒸留油脂2を得た。
さらに、未蒸留油脂2 1.2kgを脱臭(255℃、533Pa,60分、水蒸気量 油脂に対して2.7%)し、蒸留油脂2を得た。
[未蒸留油脂3、蒸留油脂3]
大豆脱色油(未蒸留油脂1)1.5kgに、室温で、オゾン発生器(GL-3188A:Shenzhen Guanglei Electonic Co.,Ltd製、オゾン発生速度400mg/h)で発生させたオゾン気体(オゾン含有空気)を、微孔を有するガラス管から3分吹き込み、未蒸留油脂3を得た。
さらに、未蒸留油脂3 1.2kgを脱臭(255℃、533Pa,60分、水蒸気量 油脂に対して2.7%)し、蒸留油脂3を得た。
[未蒸留油脂4、蒸留油脂4]
大豆脱色油(未蒸留油脂1)1.5kgに、室温で、オゾン発生器(GL-3188A:Shenzhen Guanglei Electonic Co.,Ltd製、オゾン発生速度400mg/h)で発生させたオゾン気体(オゾン含有空気)を、微孔を有するガラス管から15分吹き込み、未蒸留油脂4を得た。
さらに、未蒸留油脂4 1.2kgを脱臭(255℃、533Pa,60分、水蒸気量 油脂に対して2.7%)し、蒸留油脂4を得た。
[未蒸留油脂5、蒸留油脂5]
大豆脱色油(未蒸留油脂1)1.5kgに、室温で、オゾン発生器(GL-3188A:Shenzhen Guanglei Electonic Co.,Ltd製、オゾン発生速度400mg/h)で発生させたオゾン気体(オゾン含有空気)を、微孔を有するガラス管から60分吹き込み、未蒸留油脂5を得た。
さらに、未蒸留油脂5 1.2kgを脱臭(255℃、533Pa,60分、水蒸気量 油脂に対して2.7%)し、蒸留油脂5を得た。
[未蒸留油脂6、蒸留油脂6]
大豆脱色油(未蒸留油脂1)1.5kgに、室温で、オゾン発生器(GL-3188A:Shenzhen Guanglei Electonic Co.,Ltd製、オゾン発生速度400mg/h)で発生させたオゾン気体(オゾン含有空気)を、微孔を有するガラス管から180分吹き込み、未蒸留油脂6を得た。
さらに、未蒸留油脂6 1.2kgを脱臭(255℃、533Pa,60分、水蒸気量 油脂に対して2.7%)し、蒸留油脂6を得た。
【0030】
<曝光試験1-1>
300mlのエルレンマイヤーフラスコに、蒸留油脂1~4を各200g入れ、蛍光灯で曝光(1000lux、70時間)させた。曝光臭を評価した。結果を表1に示す。
【0031】
[曝光臭の評価]
油脂40gを、100mlのビーカーに入れて、専門パネル15名で120℃に加熱した時の臭いを評価し、平均点を表1に示した。なお、評価は、蒸留油脂1の曝光品の加熱臭を10点とし、曝光臭を有していない蒸留油脂1の未曝光品を0点として評価した。
【0032】
【0033】
表1から、オゾン処理を行うことで、曝光臭が改善されることが確認された。特に、蒸留油脂3、4は有意な効果を有することがわかった。
【0034】
<曝光試験1-2>
300mlのエルレンマイヤーフラスコに、各油脂を各200g入れ、蛍光灯で曝光(1000lux、70時間)させた。各サンプルの揮発成分(臭い成分:2-ペンチルフラン、2,3-オクタンジオン、3-メチル-2,4-ノナジオン)を分析した。なお、評価は、未蒸留油脂1、4~6を曝光させたもの(
図1)、蒸留油脂1、4~6を曝光させてないもの(
図2)、蒸留油脂1、4~6を曝光させたもの(
図3)で比較した。
【0035】
[油脂中のにおい成分量の分析]
曝光を受けた各油脂10~50mgを150μLのマイクロバイアルに採取する。マイクロバイアルをATEX用のガラスインサートに入れ、キャップをする。下記のTDU・CIS条件で揮発成分を発生させ、揮発成分を下記のGC-MS分析条件にて分析した。GC-MSで得られたクロマトグラフィーの油脂1mg当たりの2-ペンチルフラン、3-メチル-2,4-ノナジオン、2,3-オクタンジオンの各エリア面積値(Area/mg)を
図1~3で比較した。
【0036】
<TDU・CIS条件>
He:50mL/min 250℃ 10minで加温し揮発成分を溶出させ、マイナス50℃に冷却したTenax TAに吸着させる。10min後、CIS4を12℃/secで250℃まで加温し、揮発成分を発生させた。
<GC-MS分析条件>
GC-MS装置:GC-MSDシステム(アジレントテクノロジー社製)
カラム:DB-WAX(60m×φ0.25mm×0.5μm)
キャリアガス:ヘリウム
カラム温度:35℃(5分間保持)→4℃/分→180℃→6℃/分→250℃(5分間保持)
MS検出器:スキャン分析(m/z=99、71、170)
イオン源:230℃
四重極:150℃
エミッション電圧:70eV
【0037】
図1~3から以下のことが確認できる。
曝光を受けていない油脂は、2-ペンチルフランが検出されるものの、3-メチル-2,4-ノナジオンや2,3-オクタンジオンが検出されていない(
図2)。さらに、
図3において、2-ペンチルフランは、同レベルで検出しており、各サンプルの曝光臭の差異にあまり寄与していないと考えられる。
図2と
図3を比較すると、曝光することで3-メチル-2,4-ノナジオンや2,3-オクタンジオンの揮発成分が増加することがわかり、これらの成分が曝光臭の成分と考えられる。
また、オゾン気体と接触させ、蒸留することで、3-メチル-2,4-ノナジオンや2.3-オクタンジオン等の曝光臭の成分が減少しており、曝光臭低減効果があることが確認できる(
図3)。
なお、
図1に示されるように、オゾン気体と接触しただけで蒸留を経ていない油脂は、3-メチル-2,4-ノナジオンに差がみられるものの、2,3-オクタンジオンの減少がみられず、曝光による臭い成分の改善は見込めない(
図1)。
【0038】
試験2
<サンプル>
[未蒸留油脂7、蒸留油脂7]
大豆脱色油(試験1の未蒸留油脂1とは異なるロットサンプル)を未蒸留油脂7とした。大豆脱色油(未蒸留油脂7)1.2kgを脱臭(255℃、533Pa,60分、水蒸気量 油脂に対して2.7%)し、蒸留油脂7を得た。
[未蒸留油脂8、蒸留油脂8]
大豆脱色油(未蒸留油脂7)1.5kgとイオン交換水1.5kgをトールビーカーに入れ、室温でオゾン発生器(OZSD-1200D:荏原実業株式会社製:オゾン濃度2g/m3、流量0.005m3/分、オゾン発生速度600mg/h)で発生させたオゾン気体(オゾン含有空気)を、(イオン交換水の底辺に設置されている)微孔を有するガラス管からで60分間吹き込み、未蒸留油脂8を得た。なお、油脂1kgあたりのオゾン負荷量は400mg/kgであった。
さらに、未蒸留油脂8 1.2kgを脱臭(255℃、533Pa,60分、水蒸気量 油脂に対して2.7%)し、蒸留油脂8を得た。
【0039】
<曝光試験2>
300mlのエルレンマイヤーフラスコに、各油脂を各200g入れ、蛍光灯で曝光(1000lux、108時間)させた。曝光処理の前後の各サンプルの揮発成分(臭い成分:2,3-オクタンジオン、3-メチル-2,4-ノナジオン)を前述の[油脂中のにおい成分量の分析]と同様に分析した。各エリア面積値(Area/mg)の結果を表2に示した。
【0040】
【表2】
* カッコ内の各数値はオゾン未処理サンプル(曝光後の蒸留油脂7)と比較したエリア面積値の比である。
【0041】
表2から以下のことが確認できる。
含水条件でオゾン気体と接触させて、蒸留しても、前述の試験1と同様に曝光後の3-メチル-2,4-ノナジオンや2.3-オクタンジオン等の曝光臭の成分が減少しており、曝光臭低減効果があることが確認できる。
【0042】
試験3
<サンプル>
[未蒸留油脂9、蒸留油脂9]
大豆脱色油(試験1、2の未蒸留油脂1、7とは異なるロットサンプル)を未蒸留油脂9とした。大豆脱色油(未蒸留油脂9)1.2kgを脱臭(255℃、533Pa,60分、水蒸気量 油脂に対して2.7%)し、蒸留油脂9を得た。
[未蒸留油脂10、蒸留油脂10]
大豆脱色油(未蒸留油脂9)1.5kgに、90℃で、オゾン発生器(OZSD-1200D:荏原実業株式会社製:オゾン濃度2g/m3、流量0.005m3/分、オゾン発生速度600mg/h)で発生させたオゾン気体(オゾン含有空気)を、微孔を有するガラス管から5分間吹き込み、未蒸留油脂10を得た。なお、油脂1kgあたりのオゾン負荷量は3.3mg/kgであった。
さらに、未蒸留油脂10 1.2kgを脱臭(255℃、533Pa,60分、水蒸気量 油脂に対して2.7%)し、蒸留油脂10を得た。
[未蒸留油脂11、蒸留油脂11]
大豆脱色油(未蒸留油脂9)1.5kgに、110℃で、オゾン発生器((OZSD-1200D:荏原実業株式会社製:オゾン濃度2g/m3、流量0.005m3/分、オゾン発生速度600mg/h)で発生させたオゾン気体(オゾン含有空気)を、微孔を有するガラス管から5分間吹き込み、未蒸留油脂11を得た。なお、油脂1kgあたりのオゾン負荷量は3.3mg/kgであった。
さらに、未蒸留油脂11 1.2kgを脱臭(255℃、533Pa,60分、水蒸気量 油脂に対して2.7%)し、蒸留油脂11を得た。
【0043】
<曝光試験3>
ガラス瓶(スクリュー管瓶No.8:株式会社マルエム製)に、各油脂を各50g入れ、蛍光灯で曝光(1000lux、108時間)させた。曝光処理の前後の各サンプルの揮発成分(臭い成分:2,3-オクタンジオン、3-メチル-2,4-ノナジオン)を前述の[油脂中のにおい成分量の分析]と同様に分析した。各エリア面積値(Area/mg)の結果を表3に示した。
【0044】
【表3】
* カッコ内の各数値はオゾン未処理サンプル(曝光後の蒸留油脂9)と比較したエリア面積値の比である。
【0045】
表3から以下のことが確認できる。
90℃又は110℃オゾン処理を5分間行っても、曝光後の3-メチル-2,4-ノナジオンや2,3-オクタンジオンの揮発成分の増加が抑えられ、曝光臭低減効果があることがわかる。
【0046】
試験4
<サンプル>
[未蒸留油脂12、蒸留油脂12]
大豆脱酸油(未蒸留油脂12-a)1.5kgに脱色処理(110℃、20分間、活性白土 対油0.8質量%)を行い、大豆脱色油(未蒸留油脂12-b)を得た。未蒸留油脂12-bを脱臭(255℃、533Pa,60分、水蒸気量 油脂に対して2.7%)し、蒸留油脂12を得た。
[未蒸留油脂13、蒸留油脂13]
大豆脱酸油(未蒸留油脂12-a)3.54kgに、室温で、オゾン発生器(OZSD-1200D:荏原実業株式会社製:オゾン濃度2g/m3、流量0.005m3/分、オゾン発生速度600mg/h)で発生させたオゾンを、微孔を有するガラス管から283分間吹き込み、オゾン処理を行った。オゾン処理後に、脱色処理(110℃、20分間、活性白土 対油0.8質量%)を行い、大豆脱色油(未蒸留油脂13)を得た。なお、油脂1kgあたりのオゾン負荷量は807mg/kgであった。
さらに、未蒸留油脂13 1.2kgを脱臭(255℃、533Pa,60分、水蒸気量 油脂に対して2.7%)し、蒸留油脂13を得た。
[蒸留油脂14]
未蒸留油脂13 1.2kgを脱臭(220℃、533Pa,60分、水蒸気量 油脂に対して2.7%)し、蒸留油脂14を得た。
【0047】
<曝光試験4>
ガラス瓶(スクリュー管瓶No.8:株式会社マルエム製)に、各油脂を各50g入れ、蛍光灯で曝光(1000lux、120時間)させた。曝光処理の前後の各サンプルの揮発成分(臭い成分:2,3-オクタンジオン、3-メチル-2,4-ノナジオン)を前述の[油脂中のにおい成分量の分析]と同様に分析した。各エリア面積値(Area/mg)の結果を表4に示した。
【0048】
【表4】
* カッコ内の各数値はオゾン未処理サンプル(曝光後の蒸留油脂12)と比較したエリア面積値の比である。
【0049】
表4から以下のことが確認できる。
脱色工程の前の脱酸工程後にオゾン処理を行っても、3-メチル-2,4-ノナジオンや2,3-オクタンジオン等の揮発成分の増加を抑えることができ、曝光臭低減効果を有する。また、オゾン処理後の脱臭工程は、温度が低い方が、より3-メチル-2,4-ノナジオンや2,3-オクタンジオンの揮発成分の増加が抑えられるので、曝光臭低減効果を有することがわかる。
【0050】
試験1~4の結果から、オゾン処理及びその後の蒸留処理により、ロットが異なる油脂において、曝光による3-メチル-2,4-ノナジオンや2,3-オクタンジオン等の揮発成分の増加を抑えることができ、曝光臭の改善効果があることがわかる。また、オゾン処理は、油の脱酸(脱色工程の前)、あるいは油の脱色の後でもよく、蒸留温度は低い方が高い効果がある。