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特許7180071金属元素含有粉、成形体、及び金属元素含有粉の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-21
(45)【発行日】2022-11-30
(54)【発明の名称】金属元素含有粉、成形体、及び金属元素含有粉の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01F 1/26 20060101AFI20221122BHJP
   H01F 41/02 20060101ALI20221122BHJP
   H01F 1/08 20060101ALI20221122BHJP
【FI】
H01F1/26
H01F41/02 D
H01F1/08 130
H01F41/02 G
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2017237140
(22)【出願日】2017-12-11
(65)【公開番号】P2019106431
(43)【公開日】2019-06-27
【審査請求日】2020-11-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】昭和電工マテリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100169454
【弁理士】
【氏名又は名称】平野 裕之
(72)【発明者】
【氏名】田村 遼
(72)【発明者】
【氏名】竹内 一雅
(72)【発明者】
【氏名】石原 千生
(72)【発明者】
【氏名】稲垣 孝
(72)【発明者】
【氏名】須田 聡一郎
【審査官】森岡 俊行
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-234727(JP,A)
【文献】特開2010-123706(JP,A)
【文献】特開2003-166004(JP,A)
【文献】特開2010-215987(JP,A)
【文献】特開2003-273568(JP,A)
【文献】特開2013-026324(JP,A)
【文献】特開2016-006822(JP,A)
【文献】特開2008-063649(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 1/26
H01F 41/02
H01F 1/08
B22F 1/102
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軟磁性粉である金属元素含有粒子と、
前記金属元素含有粒子を覆う樹脂組成物の硬化物のみからなる層と、
を含み、
前記金属元素含有粒子が、鉄単体、又は鉄を含む合金であり、
前記樹脂組成物がエポキシ樹脂及びフェノール樹脂を含有し、
前記硬化物の含有量が、0.5体積%以上2.0体積%以下であり、
芯に用いられる、
金属元素含有粉。
【請求項2】
前記樹脂組成物が、前記エポキシ樹脂として、結晶性のエポキシ樹脂を含有する、
請求項1に記載の金属元素含有粉。
【請求項3】
前記樹脂組成物が、前記エポキシ樹脂として、ハイドロキノン型エポキシ樹脂、ビスフェノール型エポキシ樹脂、チオエーテル型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、オルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂、及びナフタレン型エポキシ樹脂からなる群より選ばれる少なくとも一種を含有する、
請求項1又は2に記載の金属元素含有粉。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の金属元素含有粉を備える、
成形体。
【請求項5】
請求項1~3のいずれか一項に記載の金属元素含有粉を製造する方法であって、
前記樹脂組成物が溶解した溶媒を前記金属元素含有粒子の表面に付着させる工程と、
前記金属元素含有粒子の表面に付着した前記溶媒を除去することにより、前記樹脂組成物で覆われた前記金属元素含有粒子を得る工程と、
前記金属元素含有粒子を覆う前記樹脂組成物を硬化する工程と、
を備える、
金属元素含有粉の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属元素含有粉、成形体、及び金属元素含有粉の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属粉末を含む金属元素含有粉は、金属粉末の諸物性に応じて、例えば、インダクタ、電磁波シールド、又はボンド磁石等の多様な工業製品の原材料として利用される(下記特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平10-154613号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
磁性粉は、例えば、高周波用変圧器、リアクトル、サイリスタバルブ、ノイズフィルタ、チョークコイル等の高周波用コイルが備える磁芯に用いられる。交流磁束が流れている磁性材料中で失われるエネルギーを磁気損失という。高周波用コイルが備える磁芯には、高周波領域においても、磁気損失が小さく、磁束密度が高いことが求められる。
【0005】
磁気損失は、主に渦電流損とヒステリシス損とからなる。渦電流損は、磁芯の固有抵抗と大きく関係する。ヒステリシス損は、磁性粉の製造過程及びその後のプロセスで生じる磁性粉内の歪みに大きく影響を受ける。渦電流損は、交流電気信号の周波数の二乗に比例する。したがって、高周波領域における磁気損失を小さくするためには、渦電流損を小さくすることが重要である。渦電流損を小さくするためには、渦電流を小さな領域に閉じ込める必要がある。渦電流を小さな領域に閉じ込めるためには、微細な磁性粉を圧縮することにより磁芯を形成し、かつ、磁性粉を構成する個々の粒子が互いに絶縁されている必要がある。
【0006】
磁性粉を構成する個々の粒子間の絶縁が不十分である場合、渦電流損は大きい。磁気損失が小さい磁芯の作製には、絶縁性に優れる絶縁層で磁性粉を覆うことが必要である。
【0007】
本発明は、磁気損失が小さい成形体の作製に適した金属元素含有粉、当該金属元素含有粉を備える成形体、及び当該金属元素含有粉の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一側面に係る金属元素含有粉は、金属元素含有粒子と、金属元素含有粒子を覆う樹脂組成物の硬化物と、を含み、樹脂組成物がエポキシ樹脂を含有する。
【0009】
本発明の一側面に係る金属元素含有粉では、上記樹脂組成物がフェノール樹脂を含有してよい。
【0010】
本発明の一側面に係る金属元素含有粉では、上記硬化物の含有量が、0.5体積%以上2.0体積%以下であってよい。
【0011】
本発明の一側面に係る金属元素含有粉は、磁芯に用いられてよい。
【0012】
本発明の一側面に係る成形体は、上記金属元素含有粉を備える。
【0013】
本発明の一側面に係る金属元素含有粉の製造方法は、樹脂組成物が溶解した溶媒を金属元素含有粒子の表面に付着させる工程と、金属元素含有粒子の表面に付着した溶媒を除去することにより、樹脂組成物で覆われた金属元素含有粒子を得る工程と、金属元素含有粒子を覆う樹脂組成物を硬化する工程と、を備える。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、磁気損失が小さい成形体の作製に適した金属元素含有粉、当該金属元素含有粉を備える成形体、及び当該金属元素含有粉の製造方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の好適な実施形態について説明する。ただし、本発明は下記実施形態に何ら限定されるものではない。
【0016】
<金属元素含有粉の概要>
本実施形態に係る金属元素含有粉は、複数(多数)の金属元素含有粒子と、個々の金属元素含有粒子を覆う樹脂組成物の硬化物と、を含む。つまり、金属元素含有粉を構成する複数の粒子其々が、金属元素含有粒子と、金属元素含有粒子の表面を覆う樹脂組成物の硬化物と、を有している。例えば、樹脂組成物の硬化物を含む層(樹脂組成物の硬化物からなる層等)が金属元素含有粒子の表面を覆っていてよい。樹脂組成物は、エポキシ樹脂を含有する。つまり、樹脂組成物の硬化物は、エポキシ樹脂の硬化物を含む。
【0017】
エポキシ樹脂を含む樹脂組成物の硬化物は、絶縁性に優れるので、金属元素含有粒子が樹脂組成物の硬化物で覆われていることにより、金属元素含有粉を構成する個々の金属元素含有粒子が、樹脂組成物の硬化物により互いに絶縁される。その結果、当該金属元素含有粉から構成される成形体の渦電流損は小さく、成形体の磁気損失は小さい。
【0018】
樹脂組成物の硬化物は、金属元素含有粒子の表面の少なくとも一部又は全体を覆っていてよい。金属元素含有粉における樹脂組成物の硬化物の含有量は、0.5体積%以上2.0体積%以下であってよい。樹脂組成物の硬化物の含有量が0.5体積%以上である場合、金属元素含有粒子の表面が樹脂組成物の硬化物で十分に覆われ易く、金属元素含有粒子同士が十分に絶縁され易い。その結果、成形体の磁気損失が小さくなり易い。樹脂組成物の硬化物の含有量が2.0体積%以下である場合、成形体に占める金属元素含有粒子の割合が十分に高くなり易く、成形体の磁束密度が高くなり易い。
【0019】
樹脂組成物の硬化物で覆われた金属元素含有粒子全体の平均粒子径は、例えば、1μm以上500μm以下であってよい。金属元素含有粒子の平均粒子径は、例えば、1μm以上300μm以下であってよい。各平均粒子径は、例えば、粒度分布計によって測定されてよい。金属元素含有粒子を覆う樹脂組成物の硬化物から形成される層の厚みの平均値は、例えば、0.01μm以上10μm以下であってよい。層の厚みの平均値は、例えば、走査型電子顕微鏡又は透過型電子顕微鏡を用いて測定されてよい。金属元素含有粉を構成する個々の粒子の形状は限定されないが、例えば、球状、扁平形状、角柱状又は針状であってよい。
【0020】
金属元素含有粉に含まれる金属元素含有粒子の組成又は組合せに応じて、金属元素含有粉の電磁気的特性又は熱伝導性等の諸物性を自在に制御し、金属元素含有粉を様々な工業製品又はそれらの原材料に利用することができる。金属元素含有粉を用いて製造される工業製品は、例えば、自動車、医療機器、電子機器、電気機器、情報通信機器、家電製品、音響機器、及び一般産業機器であってよい。金属元素含有粉は、例えば、磁芯に用いられてよい。金属元素含有粉が金属元素含有粒子としてFe‐Si‐Cr系合金又はフェライト等の軟磁性粉を含む場合、金属元素含有粉は、上述のインダクタ(例えばEMIフィルタ)又はトランスの材料(例えば磁芯)として利用されてよい。金属元素含有粉が金属元素含有粒子として永久磁石を含む場合、金属元素含有粉はボンド磁石の原材料として利用されてよい。金属元素含有粉が金属元素含有粒子として鉄と銅とを含む場合、金属元素含有粉から形成された成形体(例えばシート)は、電磁波シールドとして利用されてよい。
【0021】
<金属元素含有粉の組成>
【0022】
(樹脂組成物)
樹脂組成物は少なくとも樹脂を含有する。樹脂組成物は、樹脂、硬化剤、硬化促進剤及び添加剤を包含し得る成分であって、有機溶媒と金属元素含有粒子とを除く残りの成分(不揮発性成分)であってよい。添加剤とは、樹脂組成物のうち、樹脂、硬化剤及び硬化促進剤を除く残部の成分である。添加剤とは、例えば、カップリング剤又は難燃剤等である。
【0023】
樹脂組成物は、熱硬化性樹脂を含有してよい。熱硬化性樹脂は、エポキシ樹脂に加えて、フェノール樹脂及びポリアミドイミド樹脂からなる群より選ばれる少なくとも一種を含んでよい。樹脂組成物がエポキシ樹脂及びフェノール樹脂の両方を含む場合、フェノール樹脂はエポキシ樹脂の硬化剤として機能してもよい。樹脂組成物は、熱可塑性樹脂を含んでもよい。熱可塑性樹脂は、例えば、アクリル樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、及びポリエチレンテレフタレートからなる群より選ばれる少なくとも一種であってよい。樹脂組成物は、熱硬化性樹脂及び熱可塑性樹脂の両方を含んでよい。樹脂組成物は、シリコーン樹脂を含んでもよい。
【0024】
エポキシ樹脂は熱硬化性樹脂の中でも流動性に優れているので、エポキシ樹脂を含む樹脂組成物は、金属元素含有粒子の表面を均一に覆い易い。エポキシ樹脂は、例えば、1分子中に2個以上のエポキシ基を有する樹脂であってよい。エポキシ樹脂の中でも、結晶性のエポキシ樹脂が好ましい。結晶性のエポキシ樹脂の分子量は比較的低いにもかかわらず、結晶性のエポキシ樹脂は比較的高い融点を有し、且つ流動性に優れる。
【0025】
エポキシ樹脂は、例えば、ビフェニル型エポキシ樹脂、スチルベン型エポキシ樹脂、ジフェニルメタン型エポキシ樹脂、硫黄原子含有型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、サリチルアルデヒド型エポキシ樹脂、ナフトール類とフェノール類との共重合型エポキシ樹脂、アラルキル型フェノール樹脂のエポキシ化物、ビスフェノール型エポキシ樹脂、アルコール類のグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、パラキシリレン及び/又はメタキシリレン変性フェノール樹脂のグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、テルペン変性フェノール樹脂のグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、シクロペンタジエン型エポキシ樹脂、多環芳香環変性フェノール樹脂のグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、ナフタレン環含有フェノール樹脂のグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、グリシジル型又はメチルグリシジル型のエポキシ樹脂、脂環型エポキシ樹脂、ハロゲン化フェノールノボラック型エポキシ樹脂、オルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ハイドロキノン型エポキシ樹脂、トリメチロールプロパン型エポキシ樹脂、及びオレフィン結合を過酢酸等の過酸で酸化して得られる線状脂肪族エポキシ樹脂からなる群より選ばれる少なくとも一種であってよい。
【0026】
結晶性のエポキシ樹脂(結晶性の高いエポキシ樹脂)は、例えば、ハイドロキノン型エポキシ樹脂、ビスフェノール型エポキシ樹脂、チオエーテル型エポキシ樹脂、及びビフェニル型エポキシ樹脂からなる群より選ばれる少なくとも一種であってよい。結晶性のエポキシ樹脂の市販品は、例えば、エピクロン860、エピクロン1050、エピクロン1055、エピクロン2050、エピクロン3050、エピクロン4050、エピクロン7050、エピクロンHM-091、エピクロンHM-101、エピクロンN-730A、エピクロンN-740、エピクロンN-770、エピクロンN-775、エピクロンN-865、エピクロンHP-4032D、エピクロンHP-7200L、エピクロンHP-7200、エピクロンHP-7200H、エピクロンHP-7200HH、エピクロンHP-7200HHH、エピクロンHP-4700、エピクロンHP-4710、エピクロンHP-4770、エピクロンHP-5000、エピクロンHP-6000、及びN500P-2(以上、DIC株式会社製の商品名)、NC-3000、NC-3000-L、NC-3000-H、NC-3100、CER-3000-L、NC-2000-L、XD-1000、NC-7000-L、NC-7300-L、EPPN-501H、EPPN-501HY、EPPN-502H、EOCN-1020、EOCN-102S、EOCN-103S、EOCN-104S、CER-1020、EPPN-201、BREN-S、BREN-10S(以上、日本化薬株式会社製の商品名)、YX-4000、YX-4000H、YL4121H、及びYX-8800(以上、三菱ケミカル株式会社製の商品名)からなる群より選ばれる少なくとも一種であってよい。
【0027】
樹脂組成物は、上記のうち一種のエポキシ樹脂を含有してよい。樹脂組成物は、上記のうち複数種のエポキシ樹脂を含有してもよい。樹脂組成物は、上記のエポキシ樹脂の中でも、ビフェニル型エポキシ樹脂(YX-4000H)及びオルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂(N500P-2)の両方を含有することが好ましい。
【0028】
硬化剤は、低温から室温の範囲でエポキシ樹脂を硬化させる硬化剤と、加熱に伴ってエポキシ樹脂を硬化させる加熱硬化型硬化剤と、に分類される。低温から室温の範囲でエポキシ樹脂を硬化させる硬化剤は、例えば、脂肪族ポリアミン、ポリアミノアミド、及びポリメルカプタン等である。加熱硬化型硬化剤は、例えば、芳香族ポリアミン、酸無水物、フェノールノボラック樹脂、及びジシアンジアミド(DICY)等である。
【0029】
低温から室温の範囲でエポキシ樹脂を硬化させる硬化剤を用いた場合、エポキシ樹脂の硬化物のガラス転移点は低く、エポキシ樹脂の硬化物は軟らかい傾向がある。一方、エポキシ樹脂の硬化物の耐熱性を向上させる観点から、硬化剤は、好ましくは加熱硬化型の硬化剤、より好ましくはフェノール樹脂、さらに好ましくはフェノールノボラック樹脂であってよい。特に硬化剤としてフェノールノボラック樹脂を用いることで、ガラス転移点が高いエポキシ樹脂の硬化物が得られ易い。その結果、金属元素含有粒子を覆う樹脂組成物(エポキシ樹脂)の硬化物の耐熱性及び機械的強度が向上し易い。
【0030】
フェノール樹脂は、例えば、アラルキル型フェノール樹脂、ジシクロペンタジエン型フェノール樹脂、サリチルアルデヒド型フェノール樹脂、ノボラック型フェノール樹脂、ベンズアルデヒド型フェノールとアラルキル型フェノールとの共重合型フェノール樹脂、パラキシリレン及び/又はメタキシリレン変性フェノール樹脂、メラミン変性フェノール樹脂、テルペン変性フェノール樹脂、ジシクロペンタジエン型ナフトール樹脂、シクロペンタジエン変性フェノール樹脂、多環芳香環変性フェノール樹脂、ビフェニル型フェノール樹脂、及びトリフェニルメタン型フェノール樹脂からなる群より選ばれる少なくとも一種であってよい。フェノール樹脂は、上記のうちの2種以上から構成される共重合体であってもよい。フェノール樹脂の市販品としては、例えば、荒川化学工業株式会社製のタマノル758又はタマノル759、又は日立化成株式会社製のHP-850N等を用いてもよい。
【0031】
フェノールノボラック樹脂は、例えば、フェノール類及び/又はナフトール類と、アルデヒド類と、を酸性触媒下で縮合又は共縮合させて得られる樹脂であってよい。フェノールノボラック樹脂を構成するフェノール類は、例えば、フェノール、クレゾール、キシレノール、レゾルシン、カテコール、ビスフェノールA、ビスフェノールF、フェニルフェノール及びアミノフェノールからなる群より選ばれる少なくとも一種であってよい。フェノールノボラック樹脂を構成するナフトール類は、例えば、α‐ナフトール、β‐ナフトール及びジヒドロキシナフタレンからなる群より選ばれる少なくとも一種であってよい。フェノールノボラック樹脂を構成するアルデヒド類は、例えば、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ベンズアルデヒド及びサリチルアルデヒドからなる群より選ばれる少なくとも一種であってよい。
【0032】
硬化剤は、例えば、1分子中に2個のフェノール性水酸基を有する化合物であってもよい。1分子中に2個のフェノール性水酸基を有する化合物は、例えば、レゾルシン、カテコール、ビスフェノールA、ビスフェノールF、及び置換又は非置換のビフェノールからなる群より選ばれる少なくとも一種であってよい。
【0033】
樹脂組成物は、上記のうち一種のフェノール樹脂を含有してよい。樹脂組成物は、上記のうち複数種のフェノール樹脂を備えてもよい。樹脂組成物は、上記のうち一種の硬化剤を含有してよい。樹脂組成物は、上記のうち複数種の硬化剤を含有してもよい。
【0034】
エポキシ樹脂中のエポキシ基と反応する硬化剤中の活性基(フェノール性OH基)の比率は、エポキシ樹脂中のエポキシ基1当量に対して、好ましくは0.5~1.5当量、より好ましくは0.8~1.2当量、さらに好ましくは0.9~1.1当量であってよい。硬化剤中の活性基の比率が0.5当量未満である場合、硬化後のエポキシ樹脂の単位重量当たりのOH量が少なくなり、樹脂組成物(エポキシ樹脂)の硬化速度が低下する。また硬化剤中の活性基の比率が0.5当量未満である場合、得られる硬化物のガラス転移温度が低くなったり、硬化物の充分な機械的強度が得られなかったりする。一方、硬化剤中の活性基の比率が1.5当量を超える場合、硬化物の機械的強度が低下する傾向がある。ただし、硬化剤中の活性基の比率が上記の範囲外である場合であっても、本発明に係る効果は得られる。
【0035】
硬化促進剤は、例えば、エポキシ樹脂と反応してエポキシ樹脂の硬化を促進させる組成物であれば限定されない。硬化促進剤は、例えば、アルキル基置換イミダゾール、又はベンゾイミダゾール等のイミダゾール類であってよい。樹脂組成物は、一種の硬化促進剤を備えてよい。樹脂組成物は、複数種の硬化促進剤を備えてもよい。樹脂組成物の成分として、硬化促進剤を含有することにより、金属元素含有粒子を覆う樹脂組成物の硬化物の機械的強度が向上し易い。
【0036】
硬化促進剤の配合量は、硬化促進効果が得られる量であればよく、特に限定されない。ただし、樹脂組成物の硬化性及び流動性を改善する観点からは、硬化促進剤の配合量は、100質量部のエポキシ樹脂に対して、好ましくは0.1~30質量部、より好ましくは1~15質量部であってよい。硬化促進剤の含有量は、エポキシ樹脂及び硬化剤(例えばフェノール樹脂)の質量の合計に対して0.001質量部以上5質量部以下であることが好ましい。硬化促進剤の含有量が0.001質量部未満である場合、十分な硬化促進効果が得られ難い。硬化促進剤の含有量が5質量部を超える場合、金属元素含有粒子を覆う樹脂組成物の硬化物の機械的強度が低下し易い。ただし、硬化促進剤の配合量及び含有量が上記の範囲外である場合であっても、本発明に係る効果は得られる。
【0037】
カップリング剤は、樹脂組成物と、金属元素含有粒子との密着性を向上させ、金属元素含有粉を構成する粒子の可撓性及び機械的強度を向上させる。カップリング剤は、例えば、シラン系化合物(シランカップリング剤)、チタン系化合物、アルミニウム化合物(アルミニウムキレート類)、及びアルミニウム/ジルコニウム系化合物からなる群より選ばれる少なくとも一種であってよい。シランカップリング剤は、例えば、エポキシシラン、メルカプトシラン、アミノシラン、アルキルシラン、ウレイドシラン、酸無水物系シラン及びビニルシランからなる群より選ばれる少なくとも一種であってよい。特に、アミノフェニル系のシランカップリング剤が好ましい。樹脂組成物は、上記のうち一種のカップリング剤を備えてよく、上記のうち複数種のカップリング剤を備えてもよい。
【0038】
金属元素含有粉の環境安全性、リサイクル性、成形加工性及び低コストのために、樹脂組成物は難燃剤を含んでよい。難燃剤は、例えば、臭素系難燃剤、鱗茎難燃剤、水和金属化合物系難燃剤、シリコーン系難燃剤、窒素含有化合物、ヒンダードアミン化合物、有機金属化合物及び芳香族エンプラからなる群より選ばれる少なくとも一種であってよい。樹脂組成物は、上記のうち一種の難燃剤を備えてよく、上記のうち複数種の難燃剤を備えてもよい。
【0039】
(金属元素含有粒子)
金属元素含有粒子は、例えば、金属単体、合金及び金属化合物からなる群より選ばれる少なくとも一種を含有してよい。金属元素含有粒子は、例えば、金属単体、合金及び金属化合物からなる群より選ばれる少なくとも一種からなっていてよい。合金は、固溶体、共晶及び金属間化合物からなる群より選ばれる少なくとも一種を含んでよい。合金とは、例えば、ステンレス鋼(Fe‐Cr系合金、Fe‐Ni‐Cr系合金等)であってよい。金属化合物とは、例えば、フェライト等の酸化物であってよい。金属元素含有粒子は、一種の金属元素又は複数種の金属元素を含んでよい。金属元素含有粒子に含まれる金属元素は、例えば、卑金属元素、貴金属元素、遷移金属元素、又は希土類元素であってよい。金属元素含有粉に含まれる金属元素は、例えば、鉄(Fe)、銅(Cu)、チタン(Ti)、マンガン(Mn)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、亜鉛(Zn)、アルミニウム(Al)、スズ(Sn)、クロム(Cr)、バリウム(Ba)、ストロンチウム(Sr)、鉛(Pb)、銀(Ag)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)及びジスプロシウム(Dy)からなる群より選ばれる少なくとも一種であってよい。金属元素含有粒子は、金属元素以外の元素を含んでもよい。金属元素含有粒子は、例えば、酸素(О)、ベリリウム(Be)、リン(P)、ホウ素(B)、又はケイ素(Si)を含んでもよい。金属元素含有粒子は、磁性粉であってよい。金属元素含有粒子は、軟磁性合金、又は強磁性合金であってよい。金属元素含有粒子は、例えば、Fe‐Si系合金、Fe‐Si‐Al系合金(センダスト)、Fe‐Ni系合金(パーマロイ)、Fe‐Cu‐Ni系合金(パーマロイ)、Fe‐Co系合金(パーメンジュール)、Fe‐Cr‐Si系合金(電磁ステンレス鋼)、Nd‐Fe‐B系合金(希土類磁石)、Sm‐Fe‐N系合金(希土類磁石)、Al‐Ni‐Co系合金(アルニコ磁石)及びフェライトからなる群より選ばれる少なくとも一種であってよい。フェライトは、例えば、スピネルフェライト、六方晶フェライト、又はガーネットフェライトであってよい。金属元素含有粒子は、Cu‐Sn系合金、Cu‐Sn‐P系合金、Cu-Ni系合金、又はCu‐Be系合金等の銅合金であってもよい。金属元素含有粒子は、上記の元素及び組成物のうち一種を含んでよく、上記の元素及び組成物のうち複数種を含んでもよい。
【0040】
金属元素含有粒子は、Fe単体であってもよい。金属元素含有粒子は、鉄を含む合金(Fe系合金)であってもよい。Fe系合金は、例えば、Fe‐Si‐Cr系合金、又はNd‐Fe‐B系合金であってよい。金属元素含有粉が、金属元素含有粒子としてFe単体及びFe系合金のうち少なくともいずれかを含む場合、高い占積率を有し、且つ磁気特性に優れる成形体を金属元素含有粉から作製し易い。金属元素含有粒子は、Feアモルファス合金であってもよい。Feアモルファス合金粉の市販品としては、例えば、AW2‐08、KUAMET‐6B2(以上、エプソンアトミックス株式会社製の商品名)、DAP MS3、DAP MS7、DAP MSA10、DAP PB、DAP PC、DAP MKV49、DAP 410L、DAP 430L、DAP HYBシリーズ(以上、大同特殊鋼株式会社製の商品名)、MH45D、MH28D、MH25D、及びMH20D(以上、株式会社 神戸製鋼所製の商品名)からなる群より選ばれる少なくとも一種が用いられてよい。
【0041】
金属元素含有粒子の形状は、特に限定されない。個々の金属元素含有粒子は、例えば、球状、扁平形状、又は針状であってよい。金属元素含有粉は、平均粒子径が異なる複数種の金属元素含有粒子を含んでよい。
【0042】
<金属元素含有粉の製造方法>
本実施形態に係る金属元素含有粉の製造方法は、樹脂組成物が溶解した溶媒を金属元素含有粒子の表面に付着させる付着工程と、金属元素含有粒子の表面に付着した溶媒を除去することにより、樹脂組成物で覆われた金属元素含有粒子を得る除去工程と、金属元素含有粒子を覆う樹脂組成物を硬化する硬化工程と、を備える。除去工程の後に硬化工程が行われてよい。除去工程と硬化工程とが同時に行われてもよい。金属元素含有粉の製造方法は、付着工程、除去工程、及び硬化工程に加えて、別の工程を備えてもよい。例えば、金属元素含有粉の製造方法は、硬化工程の後に、金属元素含有粉から形成された凝集物を粉砕する粉砕工程を更に備えてもよい。各工程の詳細は、例えば、以下の通りであってよい。ただし、各工程は、以下の場合に限られない。
【0043】
付着工程では、まず、樹脂組成物を溶媒に溶解させることで、表面処理液を得る。溶媒は、樹脂組成物を溶解する液体であればよく、特に限定されない。溶媒は、例えば、アセトン、N-メチルピロリジノン(N-メチル-2-ピロリドン)、γ-ブチロラクトン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、トルエン及びキシレンからなる群より選ばれる少なくとも一種であってよい。溶媒は、アセトンであることが好ましい。溶媒がアセトンである場合、アセトンは乾き易い。そのため、後述する除去工程で、金属元素含有粒子の表面に付着した表面処理液を乾燥することにより、表面処理液から溶媒を除去することができる。続いて、金属元素含有粒子と表面処理液とを混合することで、混合液を得る。混合液中で、金属元素含有粒子と樹脂組成物とが接触して、樹脂組成物が金属元素含有粒子の表面を覆う。金属元素含有粉における樹脂組成物の硬化物の含有量は、表面処理液における樹脂組成物の含有量によって調整することができる。
【0044】
除去工程では、上記混合液をろ別することにより、表面処理液が表面に付着した金属元素含有粒子を得る。続いて、金属元素含有粒子の表面に付着した表面処理液から溶媒を十分に除去する。溶媒の除去に伴って、表面処理液に含まれる樹脂組成物が金属元素含有粒子の表面に付着することにより、樹脂組成物で覆われた金属元素含有粒子が得られる。樹脂組成物は、金属元素含有粒子の表面の全体に付着してもよく、金属元素含有粒子の表面の一部のみに付着してもよい。表面処理液から溶媒を除去する方法は、特に限定されない。例えば、表面処理液を乾燥することにより、表面処理液から溶媒を除去することができる。乾燥方法は、例えば、風乾であってよい。
【0045】
硬化工程では、樹脂組成物で覆われた金属元素含有粒子を加熱することにより、樹脂組成物を硬化する。加熱温度は、150℃以上250℃以下であってよい。加熱温度が150℃以下である場合、硬化反応が不十分となり易い。加熱温度が250℃以上である場合、樹脂組成物に含まれる樹脂が劣化し易く、金属元素含有粒子が酸化し易い。加熱時間は、3分間以上2時間以下であってよい。加熱時間が3分間以下である場合、硬化反応が不十分となり易い。加熱時間が2時間以上である場合、金属元素含有粉の生産効率が低下し易い。
【0046】
金属元素含有粉の製造方法は、上記の方法に限定されない。例えば、付着工程では、金属元素含有粒子(当該粒子からなる粉末)に表面処理液を添加して、粉末と表面処理液とを混合することにより、混合物を得てもよい。除去工程では、ろ別せずに、混合物を乾燥することにより、混合物から溶媒を除去してもよい。混合物を加熱することにより、混合物の乾燥、及び、樹脂組成物の硬化を同時又は連続的に行ってよい。
【0047】
<コンパウンド>
本実施形態に係るコンパウンドは、上記金属元素含有粉と、樹脂組成物(金属元素含有粒子を覆う樹脂組成物とは区別される樹脂組成物)と、を含む。コンパウンドに含まれる樹脂組成物のうち、金属元素含有粒子の表面を覆う樹脂組成物の硬化物以外の成分を、コンパウンド用樹脂組成物と表記する。コンパウンド用樹脂組成物は、金属元素含有粉を構成する個々粒子の少なくとも一部又は全体を覆っていてよい。コンパウンド用樹脂組成物は、金属元素含有粉を構成する個々の粒子の表面に付着してよい。コンパウンド用樹脂組成物は、当該粒子の表面の全体に付着してもよく、当該粒子の表面の一部のみに付着してもよい。コンパウンドは、未硬化のコンパウンド用樹脂組成物と、金属元素含有粉と、を備えてよい。コンパウンドは、コンパウンド用樹脂組成物の半硬化物(例えばBステージのコンパウンド用樹脂組成物)と、金属元素含有粉と、を備えてよい。コンパウンドは、粉末(コンパウンド粉)であってよい。
【0048】
(コンパウンド用樹脂組成物)
コンパウンド用樹脂組成物は少なくとも樹脂を含有する。コンパウンド用樹脂組成物は、樹脂、硬化剤、硬化促進剤及び添加剤を包含し得る成分であって、有機溶媒と金属元素含有粉(金属元素含有粒子、及び金属元素含有粒子を覆う樹脂組成物の硬化物)とを除く残りの成分(不揮発性成分)であってよい。添加剤とは、コンパウンド用樹脂組成物のうち、樹脂、硬化剤及び硬化促進剤を除く残部の成分である。添加剤とは、例えば、カップリング剤又は難燃剤等である。コンパウンド用樹脂組成物が添加剤としてワックスを含んでいてもよい。以下の通り、コンパウンドは、金属元素含有粉とコンパウンド用樹脂組成物とから形成されてよい。
【0049】
コンパウンド用樹脂組成物は金属元素含有粉の結合剤(バインダー)としての機能を有し、コンパウンドから形成される成形体に機械的強度を付与する。例えば、コンパウンドに含まれるコンパウンド用樹脂組成物は、金型を用いてコンパウンドが高圧で成形される際に、金属元素含有粉を構成する粒子の間に充填され、当該粒子を互いに結着する。成形体中のコンパウンド用樹脂組成物を硬化させることにより、コンパウンド用樹脂組成物の硬化物が、金属元素含有粉を構成する粒子同士をより強固に結着して、成形体の機械的強度が向上する。
【0050】
コンパウンド用樹脂組成物は、熱硬化性樹脂を含有してよい。熱硬化性樹脂は、例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂及びポリアミドイミド樹脂からなる群より選ばれる少なくとも一種であってよい。コンパウンド用樹脂組成物がエポキシ樹脂及びフェノール樹脂の両方を含む場合、フェノール樹脂はエポキシ樹脂の硬化剤として機能してもよい。コンパウンド用樹脂組成物は、熱可塑性樹脂を含んでもよい。熱可塑性樹脂は、例えば、アクリル樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、及びポリエチレンテレフタレートからなる群より選ばれる少なくとも一種であってよい。コンパウンド用樹脂組成物は、熱硬化性樹脂及び熱可塑性樹脂の両方を含んでよい。コンパウンド用樹脂組成物は、シリコーン樹脂を含んでもよい。
【0051】
コンパウンドにおけるコンパウンド用樹脂組成物の含有量は、コンパウンド全体の質量(金属元素含有粉及びコンパウンド用樹脂組成物の質量の合計)に対して、0.2~10質量%であってよく、より好ましくは4~6質量%であってよい。
【0052】
エポキシ樹脂は熱硬化性樹脂の中でも流動性に優れているので、コンパウンド用樹脂組成物はエポキシ樹脂を含有することが好ましい。エポキシ樹脂は、例えば、1分子中に2個以上のエポキシ基を有する樹脂であってよい。エポキシ樹脂の中でも、結晶性のエポキシ樹脂が好ましい。結晶性のエポキシ樹脂の分子量は比較的低いにもかかわらず、結晶性のエポキシ樹脂は比較的高い融点を有し、且つ流動性に優れる。
【0053】
エポキシ樹脂は、上記のエポキシ樹脂のうちの少なくとも一種であってよい。結晶性のエポキシ樹脂は、上記の結晶性のエポキシ樹脂のうちの少なくとも一種であってよい。
【0054】
コンパウンド用樹脂組成物は、上記のうち一種のエポキシ樹脂を含有してよい。コンパウンド用樹脂組成物は、上記のうち複数種のエポキシ樹脂を含有してもよい。コンパウンド用樹脂組成物は、上記のエポキシ樹脂の中でも、ビフェニル型エポキシ樹脂(YX-4000H)及びオルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂(N500P-2)の両方を含有することが好ましい。
【0055】
硬化剤は、低温から室温の範囲でエポキシ樹脂を硬化させる硬化剤と、加熱に伴ってエポキシ樹脂を硬化させる加熱硬化型硬化剤と、に分類される。低温から室温の範囲でエポキシ樹脂を硬化させる硬化剤は、例えば、脂肪族ポリアミン、ポリアミノアミド、及びポリメルカプタン等である。加熱硬化型硬化剤は、例えば、芳香族ポリアミン、酸無水物、フェノールノボラック樹脂、及びジシアンジアミド(DICY)等である。
【0056】
低温から室温の範囲でエポキシ樹脂を硬化させる硬化剤を用いた場合、エポキシ樹脂の硬化物のガラス転移点は低く、エポキシ樹脂の硬化物は軟らかい傾向がある。その結果、コンパウンドから形成された成形体も軟らかくなり易い。一方、成形体の耐熱性を向上させる観点から、硬化剤は、好ましくは加熱硬化型の硬化剤、より好ましくはフェノール樹脂、さらに好ましくはフェノールノボラック樹脂であってよい。特に硬化剤としてフェノールノボラック樹脂を用いることで、ガラス転移点が高いエポキシ樹脂の硬化物が得られ易い。その結果、成形体の耐熱性及び機械的強度が向上し易い。
【0057】
フェノール樹脂は、上記のフェノール樹脂のうちの少なくとも一種であってよい。コンフェノールノボラック樹脂は、上記のフェノールノボラック樹脂のうちの少なくとも一種であってよい。
【0058】
硬化剤は、例えば、1分子中に2個のフェノール性水酸基を有する化合物であってもよい。1分子中に2個のフェノール性水酸基を有する化合物は、例えば、レゾルシン、カテコール、ビスフェノールA、ビスフェノールF、及び置換又は非置換のビフェノールからなる群より選ばれる少なくとも一種であってよい。
【0059】
コンパウンド用樹脂組成物は、上記のうち一種のフェノール樹脂を含有してよい。コンパウンド用樹脂組成物は、上記のうち複数種のフェノール樹脂を備えてもよい。コンパウンド用樹脂組成物は、上記のうち一種の硬化剤を含有してよい。コンパウンド用樹脂組成物は、上記のうち複数種の硬化剤を含有してもよい。
【0060】
エポキシ樹脂中のエポキシ基と反応する硬化剤中の活性基(フェノール性OH基)の比率は、エポキシ樹脂中のエポキシ基1当量に対して、好ましくは0.5~1.5当量、より好ましくは0.9~1.4当量、さらに好ましくは1.0~1.2当量であってよい。硬化剤中の活性基の比率が0.5当量未満である場合、硬化後のエポキシ樹脂の単位重量当たりのOH量が少なくなり、コンパウンド用樹脂組成物(エポキシ樹脂)の硬化速度が低下する。また硬化剤中の活性基の比率が0.5当量未満である場合、得られる硬化物のガラス転移温度が低くなったり、硬化物の充分な弾性率が得られなかったりする。一方、硬化剤中の活性基の比率が1.5当量を超える場合、コンパウンドから形成された成形体の硬化後の機械的強度が低下する傾向がある。ただし、硬化剤中の活性基の比率が上記の範囲外である場合であっても、本発明に係る効果は得られる。
【0061】
硬化促進剤は、例えば、エポキシ樹脂と反応してエポキシ樹脂の硬化を促進させる組成物であれば限定されない。硬化促進剤は、例えば、アルキル基置換イミダゾール、又はベンゾイミダゾール等のイミダゾール類であってよい。コンパウンド用樹脂組成物は、一種の硬化促進剤を備えてよい。コンパウンド用樹脂組成物は、複数種の硬化促進剤を備えてもよい。コンパウンド用樹脂組成物の成分として、硬化促進剤を含有することにより、コンパウンドの成形性及び離型性が向上し易い。またコンパウンド用樹脂組成物の成分として硬化促進剤を含有することにより、コンパウンドを用いて製造された成形体(例えば、電子部品)の機械的強度が向上したり、高温・高湿な環境下におけるコンパウンドの保存安定性が向上したりする。
【0062】
硬化促進剤の配合量は、硬化促進効果が得られる量であればよく、特に限定されない。ただし、コンパウンド用樹脂組成物の吸湿時の硬化性及び流動性を改善する観点からは、硬化促進剤の配合量は、100質量部のエポキシ樹脂に対して、好ましくは0.1~30質量部、より好ましくは1~15質量部であってよい。硬化促進剤の含有量は、エポキシ樹脂及び硬化剤(例えばフェノール樹脂)の質量の合計に対して0.001質量部以上5質量部以下であることが好ましい。硬化促進剤の配合量が0.1質量部未満である場合、十分な硬化促進効果が得られ難い。硬化促進剤の配合量が30質量部を超える場合、コンパウンドの保存安定性が低下し易い。ただし、硬化促進剤の配合量及び含有量が上記の範囲外である場合であっても、本発明に係る効果は得られる。
【0063】
カップリング剤は、コンパウンド用樹脂組成物と、金属元素含有粉を構成する粒子との密着性を向上させ、コンパウンドから形成される成形体の可撓性及び機械的強度を向上させる。カップリング剤は、上記のカップリング剤のうちの少なくとも一種であってよい。カップリング剤としては、アミノフェニル系のシランカップリング剤が好ましい。コンパウンドは、上記のうち一種のカップリング剤を備えてよく、上記のうち複数種のカップリング剤を備えてもよい。
【0064】
コンパウンドの環境安全性、リサイクル性、成形加工性及び低コストのために、コンパウンドは難燃剤を含んでよい。難燃剤は、上記の難燃剤のうちの少なくとも一種であってよい。コンパウンドは、上記のうち一種の難燃剤を備えてよく、上記のうち複数種の難燃剤を備えてもよい。
【0065】
ワックスは、高級脂肪酸等の脂肪酸、及び脂肪酸エステルのうち少なくともいずれか一つであってよい。コンパウンドは複数種のワックスを含んでよい。コンパウンドの流動性が向上し易い観点において、ワックスは、脂肪酸を含有することが好ましい。
【0066】
<コンパウンドの製造方法>
コンパウンドの製造方法は、特に限定されないが、例えば、以下の通りであってよい。まず、樹脂、金属元素含有粉及び有機溶媒を均一に撹拌・混合することにより、樹脂溶液を調製する。換言すれば、上述のコンパウンド用樹脂組成物、金属元素含有粉及び有機溶媒を混合することにより、樹脂溶液を調製する。樹脂溶液は、硬化剤を含んでもよい。樹脂溶液は、硬化促進剤を含んでもよい。樹脂溶液は、カップリング剤、流動助剤、難燃剤、及び潤滑剤等の添加剤を含んでもよい。有機溶媒は、コンパウンド用樹脂組成物を溶解する液体であればよく、特に限定されない。有機溶媒は、例えば、アセトン、N-メチルピロリジノン(N-メチル-2-ピロリドン)、γ-ブチロラクトン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、トルエン及びキシレンからなる群より選ばれる少なくとも一種であってよい。続いて、樹脂溶液から有機溶媒を十分に除去することにより、コンパウンドが得られる。有機溶媒の除去に伴って、コンパウンド用樹脂組成物が金属元素含有粉を構成する個々の粒子の表面に付着する。コンパウンド用樹脂組成物は、当該粒子の表面の全体に付着してもよく、当該粒子の表面の一部のみに付着してもよい。樹脂溶液から有機溶媒を除去する方法は、特に限定されない。例えば、樹脂溶液を乾燥することにより、樹脂溶液から有機溶媒を除去することができる。樹脂溶液を乾燥する方法は、例えば、真空乾燥であってよい。後述される第二工程における金型の損傷を低減するために、上記で得られたコンパウンドに潤滑剤を添加してもよい。潤滑剤は、特に限定されない。潤滑剤は、例えば、金属石鹸及びワックス系潤滑剤からなる群より選ばれる少なくとも一種であってよい。また、第二工程における金型の損傷を低減するために、潤滑剤を適当な分散媒に分散して分散液を調製し、この分散液を金型ダイス内の壁面(パンチと接触する壁面)に塗布し、塗布された分散液を乾燥してもよい。以上の方法により、粉末状のコンパウンドが得られる。
【0067】
<成形体>
本実施形態に係る成形体は、上記金属元素含有粉を備える。成形体は、金属元素含有粉のみからなっていてよく、金属元素含有粉に加えて他の成分を備えてもよい。成形体は、金属元素含有粉と、上記コンパウンド用樹脂組成物と、を備えてよい。成形体は、未硬化のコンパウンド用樹脂組成物、コンパウンド用樹脂組成物の半硬化物(Bステージのコンパウンド用樹脂組成物)、及びコンパウンド用樹脂組成物の硬化物(Cステージのコンパウンド用樹脂組成物)からなる群より選ばれる少なくとも一種を含んでいてよい。成形体は、上記コンパウンドの硬化物であってよい。コンパウンドの硬化物から構成される成形体は、金属元素含有粉と、金属元素含有粉を互いに結着するコンパウンド用樹脂組成物の硬化物と、を備えてよい。
【0068】
<成形体の製造方法>
本実施形態に係る金属元素含有粉を備える成形体の製造方法は、金属元素含有粉を金型中で加圧する工程を備えてよい。成形体の製造方法は、金属元素含有粉を金型中で加圧する工程のみを備えてよく、当該工程に加えてその他の工程を備えてもよい。上記コンパウンドの硬化物から構成される成形体の製造方法は、第一工程、第二工程及び第三工程を備えてもよい。以下では、各工程の詳細を説明する。
【0069】
第一工程では、上記の方法でコンパウンドを作製する。
【0070】
第二工程では、コンパウンドを金型中で加圧することにより、成形体(Bステージの成形体)を得る。ここで、コンパウンド用樹脂組成物が、金属元素含有粉を構成する個々の粒子間に充填される。そしてコンパウンド用樹脂組成物は、結合剤(バインダー)として機能し、金属元素含有粉を構成する粒子同士を互いに結着する。コンパウンドに及ぼす圧力が高いほど、成形体の密度が高くなり易く、成形体の機械的強度が高くなり易い。ボンド磁石を製造する場合、コンパウンドに及ぼす圧力が高いほど、ボンド磁石の磁束密度が高くなり易く、ボンド磁石の機械的強度が高くなり易い。コンパウンドに及ぼす圧力は、例えば、好ましくは500MPa以上2500MPa以下、より好ましくは1400MPa以上2000MPa以下であってよい。コンパウンドに及ぼす圧力が上記の範囲内である場合、成形体の量産性が向上し易く、金型の寿命が延び易い。
【0071】
第三工程では、成形体を熱処理によって硬化させ、Cステージの成形体を得る。熱処理の温度は、成形体中のコンパウンド用樹脂組成物が十分に硬化する温度であればよい。熱処理の温度は、例えば、好ましくは150℃以上300℃以下、より好ましくは175℃以上250℃以下であってよい。成形体中の金属元素含有粉(金属元素含有粒子)の酸化を抑制するために、熱処理を不活性雰囲気下で行うことが好ましい。熱処理温度が300℃を超える合、熱処理の雰囲気に不可避的に含まれる微量の酸素によって金属元素含有粉が酸化されたり、樹脂硬化物が劣化したりする。金属元素含有粉の酸化、及び樹脂硬化物の劣化を抑制しながらコンパウンド用樹脂組成物を十分に硬化させるためには、熱処理温度の保持時間は、好ましくは数分以上4時間以下、より好ましくは5分以上1時間以下であってよい。
【実施例
【0072】
以下では実施例及び比較例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によって何ら限定されるものではない。
【0073】
(表面処理液の調製)
[表面処理液1]
300mLのポリカップ(ポリプロピレンカップ)に、エポキシ樹脂0.65g、フェノール樹脂0.34g、硬化促進剤0.01g、及びアセトン(和光純薬工業株式会社製)99gを入れた。エポキシ樹脂としては、ジャパンエポキシレジン株式会社製のYX-4000Hを用いた。エポキシ樹脂のエポキシ当量は196g/eqであった。フェノール樹脂としては、日立化成株式会社製のHP-850Nを用いた。フェノール樹脂の(水酸基当量は103g/eqであった。硬化促進剤としては、四国化成工業株式会社製のC11Z-CNを用いた。ポリカップ内の原料を攪拌・混合することにより、表面処理液1を得た。表面処理液1のうち、溶媒(アセトン等)を除く部分が樹脂組成物に相当する。表面処理液1におけるエポキシ樹脂、フェノール樹脂、及び硬化促進剤其々の含有量の合計(単位:質量%)は、下記表1に示される。表1において、「溶液濃度」は、表面処理液におけるエポキシ樹脂、フェノール樹脂、及び硬化促進剤の含有量の合計を意味する。
【0074】
[表面処理液2~7]
表面処理液2~7其々の調製では、各表面処理液の組成が下記表1に示される組成となるように、各原料をポリカップに入れた。以上の事項を除いて表面処理液1と同様の方法により、表面処理液2~7を個別に調製した。
下記表1中のHP-4032Dは、DIC株式会社製の商品「エピクロンHP-4032D」であり、ナフタレン型エポキシ樹脂(1,6-ビス(2,3-エポキシプロパン-1-イルオキシ)ナフタレン)である。
【0075】
(実施例1)
[金属元素含有粉の作製]
300mLのポリビン(ポリエチレンビン)に、金属元素含有粒子として、カルボニル鉄粉(純鉄粉)60.0gを入れた。カルボニル鉄粉としては、BASFジャパン株式会社製のSQを用いた。ポリビンに、上記表面処理液1を80.0g入れた。ポリビン内の原料を30分間攪拌・混合することにより、混合液を得た。ろ紙を用いて、混合液をろ別することにより、表面処理液1で覆われた金属元素含有粒子を含む混合粉を得た。混合粉を一晩乾燥させた。乾燥方法は風乾であった。乾燥させた混合粉を金属製のバットに移し、予め180℃に加熱したオーブンに入れた。混合粉をオーブンで加熱することにより、混合粉を乾燥させ、樹脂組成物を硬化した。乾燥温度は180℃であった。乾燥時間は1時間であった。以上の方法により、金属元素含有粉を得た。金属元素含有粉は、複数の金属元素含有粒子と、個々の金属元素含有粒子の表面を覆う樹脂組成物の硬化物と、を備えていた。
【0076】
[樹脂組成物の硬化物の含有量の測定]
炭素・硫黄分析装置を用いて、金属元素含有粉に含まれる炭素の質量mを測定した。炭素・硫黄分析装置としては、LECOジャパン合同会社製のCS744を用いた。上記と同様の方法により、表面処理液と混ぜる前の金属元素含有粒子に含まれる炭素の質量mを測定した。mとmとの差m-mを算出した。m-mは、金属元素含有粒子の表面に付着していた樹脂組成物の硬化物に含まれる炭素の質量mに相当する。mを、測定に用いた金属元素含有粉全体の質量Mで除することにより、金属元素含有粉全体における炭素の含有量M(単位:質量%)を算出した。Mは、100×m/Mに等しい。樹脂組成物の硬化物の重量分子量をMと表記する場合、樹脂組成物の硬化物の分子構造に基づいて、樹脂組成物の硬化物の1分子中の炭素の質量mの割合Mを求めた。Mは、m/Mに等しい。MをMで除することにより、金属元素含有粉に含まれる樹脂組成物の硬化物の含有量M(単位:質量%)を算出した。Mは、M/Mに等しい。Mと、樹脂組成物の硬化物の密度(比重)dと、金属元素含有粉の密度dとから、金属元素含有粉に含まれる樹脂組成物の硬化物の含有量[C](単位:体積%)を算出した。[C]は、M・d/dに等しい。実施例1の[C]は、下記表2に示される。
【0077】
[トロイダルの作製]
実施例1の金属元素含有粉を金型に装填した。金型中の金属元素含有粉を、油圧式プレスを用いて加圧することにより、トロイダル(成形体)を得た。金属元素含有粉に加えた圧力は300MPa(3ton/cm)であった。トロイダルの形状は、外形20mm、内径12mm、長さ2mmであった。
【0078】
[磁気損失の測定]
B-Hアナライザを用いて、実施例1のトロイダルの磁気損失を測定した。B-Hアナライザとしては、岩崎通信機株式会社製のSY-8258を用いた。トロイダルには、励起側に直径0.4mmの銅線を5ターン巻き、検出側に0.26mmの銅線を5ターン巻いた。励起磁束密度10mTで周波数1000kHzにおける磁気損失を測定した。実施例1の磁気損失Pcv(単位:kW/m)は、下記表2に示される。
【0079】
[トロイダルの密度の測定]
アルキメデス法により、実施例1のトロイダルの密度を測定した。実施例1の密度(単位:Mg/m=10g/m)は、下記表2に示される。
【0080】
(実施例2~7)
実施例2~7其々の金属元素含有粉の作製では、下記表2に示される表面処理液を用いた。以上の事項を除いて実施例1と同様の方法で、実施例2~7其々の金属元素含有粉を個別に作製した。
【0081】
実施例1と同様の方法で、実施例2~7其々の[C]を測定した。実施例1と同様の方法で、実施例2~7其々のトロイダルを個別に作製した。実施例1と同様の方法で、実施例2~7其々の磁気損失及びトロイダルの密度を測定した。各測定結果は、下記表2に示される。
【0082】
(比較例1)
比較例1の金属元素含有粉として、実施例1で用いた金属元素含有粒子と同じものを用意した。つまり、比較例1の金属元素含有粉は、金属元素含有粒子のみからなり、樹脂組成物の硬化物を備えていなかった。
【0083】
実施例1と同様の方法で、比較例1の[C]を測定した。実施例1と同様の方法で、比較例1のトロイダルを作製した。実施例1と同様の方法で、比較例1の磁気損失及びトロイダルの密度を測定した。各測定結果は、下記表2に示される。
【0084】
(実施例8)
実施例8の金属元素含有粉の作製では、下記表3に示される表面処理液を用いた。また、実施例8の金属元素含有粉の作製では、金属元素含有粒子として、Fe、Nb、Cu、Si及びBを含有するFe系合金の粉末を用いた。Fe系合金の粉末としては、水アトマイズ法によって金属箔から作製した粉体を用いた。Fe系合金の粉末の粒子径D50は、25μmであった。実施例8の金属元素含有粉の作製では、ポリビン内の混合物に含まれる金属元素含有粒子及び表面処理液其々の質量は、下記表3に示される値(単位:g)に調整された。実施例8の金属元素含有粉の作製では、乾燥温度は100℃であった。以上の事項を除いて実施例1と同様の方法で、実施例8の金属元素含有粉を作製した。
【0085】
実施例1と同様の方法により、実施例8の[C]を測定した。実施例8の[C]は、下記表3に示される。
【0086】
[コンパウンドの作製]
100mLのポリカップに、エポキシ樹脂14.45g、フェノール樹脂7.9g、硬化促進剤0.15g、及びアセトン(和光純薬工業株式会社製)30gを入れた。エポキシ樹脂としては、ジャパンエポキシレジン株式会社製のYX-4000Hを用いた。エポキシ樹脂のエポキシ当量は196g/eqであった。フェノール樹脂としては、日立化成株式会社製のHP-850Nを用いた。フェノール樹脂の水酸基当量は103g/eqであった。硬化促進剤としては、四国化成工業株式会社製のC11Z-CNを用いた。ポリカップ内の原料を10分間攪拌・混合することにより、エポキシ樹脂溶液を得た。
【0087】
50mLのポリビンに、実施例8の金属元素含有粉47.75g、上記エポキシ樹脂溶液5.25gを入れた。ポリビンを10分間振って、ポリビン内の原料を混合して、混合物を得た。ポリビン内の混合物を、金属製のバットに移して、30分間乾燥させた。乾燥方法は風乾であった。その後、乾燥させた混合物を、予め180℃に加熱したオーブンに入れた。混合物をオーブンで加熱することにより、混合物を乾燥させた。乾燥温度は180℃であった。乾燥時間は1時間であった。以上の方法により、コンパウンドを得た。
【0088】
[トロイダルの作製]
実施例8のコンパウンドを、予め200℃に加熱した金型に装填した。金型中のコンパウンドを、油圧式プレスを用いて3分間加圧することにより、トロイダルを得た。コンパウンドに加えた圧力は300MPa(3ton/cm)であった。トロイダルの形状は、外形20mm、内径12mm、長さ2mmであった。
【0089】
実施例1と同様の方法により、実施例8の磁気損失及びトロイダルの密度を測定した。各測定結果は、下記表3に示される。
【0090】
(比較例2)
比較例2の金属元素含有粉として、実施例8で用いた金属元素含有粒子と同じものを用意した。つまり、比較例2の金属元素含有粉は、金属元素含有粒子のみからなり、樹脂組成物の硬化物を備えていなかった。
【0091】
実施例1と同様の方法で、比較例2の[C]を測定した。実施例8と同様の方法で、比較例2のコンパウンドを作製した。実施例8と同様の方法で、比較例2のトロイダルを作製した。実施例1と同様の方法で、比較例2の磁気損失及びトロイダルの密度を測定した。各測定結果は、下記表3に示される。
【0092】
【表1】
【0093】
【表2】
【0094】
【表3】
【産業上の利用可能性】
【0095】
本発明に係る金属元素含有粉は、磁気損失が小さい成形体の作製の材料に適しているため、高い工業的な価値を有している。