(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-21
(45)【発行日】2022-11-30
(54)【発明の名称】単量体組成物の精製方法及び重合体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08F 12/32 20060101AFI20221122BHJP
C07C 7/12 20060101ALI20221122BHJP
C07C 15/44 20060101ALI20221122BHJP
C08F 297/02 20060101ALI20221122BHJP
C08F 257/00 20060101ALI20221122BHJP
【FI】
C08F12/32
C07C7/12
C07C15/44
C08F297/02
C08F257/00
(21)【出願番号】P 2018180497
(22)【出願日】2018-09-26
【審査請求日】2021-08-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100150360
【氏名又は名称】寺嶋 勇太
(74)【代理人】
【識別番号】100174001
【氏名又は名称】結城 仁美
(72)【発明者】
【氏名】安 祐輔
(72)【発明者】
【氏名】藤井 健作
【審査官】三宅 澄也
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-111650(JP,A)
【文献】特開2017-119756(JP,A)
【文献】特開2002-003506(JP,A)
【文献】特開2016-011366(JP,A)
【文献】国際公開第2016/035866(WO,A1)
【文献】特開2016-160387(JP,A)
【文献】国際公開第2013/080967(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08C 19/00- 19/44
C08F 6/00-246/00
C08F301/00
C08F 2/00- 2/60
C07B 31/00- 61/00
C07B 63/00- 63/04
C07C 1/00-409/44
C08F297/02
C08F257/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビニルナフタレンと、不純物としての硫黄及び臭素含有化合物と、を含む単量体組成物の精製方法であって、
前記単量体組成物から
前記硫黄を
吸着材としての活性アルミナを用いて除去する硫黄除去工程、及び
前記単量体組成物から前記臭素含有化合物を吸着材としての活性アルミナを用いて除去するハロゲン除去工程、
を含
み、
前記硫黄は、アニオン重合触媒としてのアルキルリチウムの重合触媒作用を阻害する遊離硫黄及び硫黄化合物であり、
前記硫黄除去工程にて、前記単量体組成物に含有される硫黄量を、前記ビニルナフタレンの質量を基準として150ppm以下とし、さらに、
前記臭素含有化合物は、アニオン重合触媒としてのアルキルリチウムの重合触媒作用を阻害する臭素含有化合物である、
単量体組成物の精製方法。
【請求項2】
前記硫黄除去工程を経て得られる硫黄除去済単量体組成物に含有される硫黄量を、精製前の前記単量体組成物に含有される硫黄量の90質量%以下とする、請求項
1に記載の単量体組成物の精製方法。
【請求項3】
前記ハロゲン除去工程にて、前記単量体組成物に含有されるハロゲン量を、
前記ビニルナフタレンの質量を基準として300ppm以下とする、請求項1又は2に記載の単量体組成物の精製方法。
【請求項4】
前記ハロゲン除去工程を経て得られるハロゲン除去済単量体組成物に含有されるハロゲン量を、精製前の前記単量体組成物に含有されるハロゲン量の90質量%以下とする、請求項1~3の何れかに記載の単量体組成物の精製方法。
【請求項5】
請求項1~
4の何れかに記載の単量体組成物の精製方法に従って得た精製済単量体組成物を含む組成物(I)を、アニオン重合して重合体を得る重合工程を含む、重合体の製造方法。
【請求項6】
前記重合工程にて、前記
ビニルナフタレンを、脂肪族共役ジエン化合物と共重合させることを更に含む、請求項
5に記載の重合体の製造方法。
【請求項7】
前記重合工程にて、前記
ビニルナフタレンと、前記脂肪族共役ジエン化合物とをブロック共重合させて、ブロック共重合体を得ることを更に含む、請求項
6に記載の重合体の製造方法。
【請求項8】
前記重合工程にて、前記
ビニルナフタレンを、脂肪族共役ジエン化合物とランダム共重合させて、ランダム共重合体を得ることを更に含む、請求項
6に記載の重合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、単量体組成物の精製方法及び重合体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、ビニルナフタレン等の芳香族炭化水素単環を2つ以上有する単量体単位と、脂肪族共役ジエン単量体単位とを有する共重合体由来の材料が、各種用途に使用し得る優れた材料として注目されている。
【0003】
具体的には、例えば特許文献1には、特定のビニルナフタレン類と、特定のジエン類とを共重合反応させて得られるA-B-A型トリブロック共重合体に対して金属触媒を用いた水素添加を行うことで水素添加ブロック共重合体を得る方法と、この水素添加ブロック共重合体よりなる光学フィルムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、本発明者らの検討により、特許文献1に開示されたような特定のビニルナフタレン類を含む多環芳香族ビニル化合物を含む単量体組成物を用いて重合体を製造するにあたり、かかる多環芳香族ビニル化合物に含有されうる不純物が、重合反応の進行を阻害しうることが明らかとなった。しかし、特許文献1には、多環芳香族ビニル化合物に含有されうる不純物が重合反応に及ぼし得る影響については何らの言及もなく、ひいては、かかる不純物の量を低減させるといった観点についても何ら開示されていなかった。
【0006】
そこで、本発明は、多環芳香族ビニル化合物を含む単量体組成物に含有される、重合反応を阻害する虞のある不純物の少なくとも一部を除去することができる、単量体組成物の精製方法を提供することを目的とする。
また、本発明は、精製された多環芳香族ビニル化合物含有単量体組成物を少なくとも含む組成物を用いた重合体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討を行った。そして、本発明者らは、多環芳香族ビニル化合物を含む単量体組成物を用いて重合体を形成するにあたり、多環芳香族ビニル化合物を含む単量体組成物に不純物として含有されうる硫黄物質が、重合体の形成を阻害するように作用することを新たに見出し、本発明を完成させた。
【0008】
即ち、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の単量体組成物の精製方法は、芳香族炭化水素単環及び芳香族複素単環からなる群より選択される単環を少なくとも2つ有する多環芳香族ビニル化合物を含む単量体組成物の精製方法であって、前記単量体組成物から硫黄を除去する硫黄除去工程を含むことを特徴とする。このように、多環芳香族ビニル化合物を含む単量体組成物を精製して硫黄を除去することで、重合した際の重合転化率の高い単量体組成物を得ることができる。
【0009】
ここで、本発明の単量体組成物の精製方法において、前記硫黄除去工程にて、前記単量体組成物に含有される硫黄量を、前記多環芳香族ビニル化合物の質量を基準として150ppm以下とすることが好ましい。このように、硫黄除去工程にて、単量体組成物に含有される硫黄量を多環芳香族ビニル化合物の質量を基準として150ppm以下とすることで、重合した際の重合転化率の一層高い単量体組成物を得ることができる。なお、硫黄量は、実施例に記載の方法により測定することができる。
【0010】
また、本発明の単量体組成物の精製方法において、前記硫黄除去工程を経て得られる硫黄除去済単量体組成物に含有される硫黄量を、精製前の前記単量体組成物に含有される硫黄量の90質量%以下とすることが好ましい。このように、硫黄除去工程にて、硫黄除去前の単量体組成物に含まれる硫黄のうちの少なくとも10質量%は除去することで、重合した際の重合転化率の一層高い単量体組成物を得ることができる。
【0011】
また、本発明の単量体組成物の精製方法において、さらに、前記単量体組成物からハロゲンを除去するハロゲン除去工程を含むことが好ましい。上記所定の単量体組成物の精製にあたり、ハロゲン除去工程を実施することで、重合した際の重合転化率の一層高い単量体組成物を得ることができる。
【0012】
さらにまた、本発明の単量体組成物の精製方法において、前記ハロゲン除去工程にて、前記単量体組成物に含有されるハロゲン量を、前記多環芳香族ビニル化合物の質量を基準として300ppm以下とすることが好ましい。ハロゲン除去工程において、単量体組成物に含有されるハロゲン量を多環芳香族ビニル化合物の質量を基準として300ppm以下とすることで、重合した際の重合転化率の一層高い単量体組成物を得ることができる。なお、ハロゲン量は、実施例に記載の方法により測定することができる。
【0013】
さらに、本発明の単量体組成物の精製方法において、前記ハロゲン除去工程を経て得られるハロゲン除去済単量体組成物に含有されるハロゲン量を、精製前の前記単量体組成物に含有されるハロゲン量の90質量%以下とすることが好ましい。このように、ハロゲン除去工程にて、ハロゲン除去前の単量体組成物に含まれるハロゲンのうちの少なくとも10質量%は除去することで、重合した際の重合転化率の一層高い単量体組成物を得ることができる。
【0014】
そして、本発明の単量体組成物の精製方法において、前記多環芳香族ビニル化合物がビニルナフタレンを含んでいても良い。ビニルナフタレンを含む単量体組成物は、各種用途に好適に用いることができる。
【0015】
また、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の重合体の製造方法は、上述した何れかの単量体組成物の精製方法に従って得た精製済単量体組成物を含む組成物(I)を、アニオン重合して重合体を得る重合工程を含むことを特徴とする。組成物(I)をアニオン重合することで、高い重合転化率で重合体を形成することができる。
【0016】
ここで、本発明の重合体の製造方法において、前記重合工程にて、前記多環芳香族ビニル化合物を、脂肪族共役ジエン化合物と共重合させることが好ましい。重合工程にて、多環芳香族ビニル化合物を脂肪族共役ジエン化合物と共重合させることで、各種用途に好適に用いることができ、中でも、光学フィルム等の光学部品を形成するために好適に用いることができる共重合体を得ることができる。
【0017】
また、本発明の重合体の製造方法において、前記重合工程にて、(1)前記多環芳香族ビニル化合物と、前記脂肪族共役ジエン化合物とをブロック共重合させて、ブロック共重合体を得ることを更に含んでいても良いし、(2)前記多環芳香族ビニル化合物を、脂肪族共役ジエン化合物とランダム共重合させて、ランダム共重合体を得ることを更に含んでいても良い。ブロック共重合体又はランダム共重合体等の重合構造に応じて、重合体に所望の属性を付与することができ、各種用途に好適に応用可能な重合体を提供することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、多環芳香族ビニル化合物を含む単量体組成物に含有される、重合反応を阻害する虞のある不純物の少なくとも一部を除去することができる、単量体組成物の精製方法を提供することができる。
また、本発明によれば、精製された多環芳香族ビニル化合物含有単量体組成物を少なくとも含む組成物を用いた重合体の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
ここで、本発明の単量体組成物の精製方法により得られた精製済単量体組成物は、本発明の重合体の製造方法に際して好適に用いることができる。
【0020】
(単量体組成物の精製方法)
本発明の単量体組成物の精製方法は、芳香族炭化水素単環及び芳香族複素単環からなる群より選択される単環を少なくとも2つ有する多環芳香族ビニル化合物を含む単量体組成物の精製方法である。かかる精製方法は、単量体組成物から硫黄を除去する硫黄除去工程を含むことを特徴とする。本発明の単量体組成物の精製方法では、精製対象である単量体組成物に不純物として含有される硫黄物質を除去することで、精製済単量体組成物として、重合した際の重合転化率の高い単量体組成物を得ることができる。ここで、ある単量体組成物を重合した際の重合転化率が高い、ということは、かかる単量体組成物を用いて重合体を得た場合の収率が高いということを意味する。従って、重合体を効率的に製造する観点から、重合した際の重合転化率の高い単量体組成物は有利である。さらに、本発明の単量体組成物の精製方法は、ハロゲン除去工程を含むことが好ましい。以下、精製対象である単量体組成物、及び本発明の単量体組成物の精製方法に含まれうる各種工程等について、説明する。
【0021】
<精製対象である単量体組成物>
本発明の単量体組成物の精製方法における精製対象である単量体組成物は、所定の多環芳香族ビニル化合物と、不純物とを含む。
【0022】
<<多環芳香族ビニル化合物>>
多環芳香族ビニル化合物は、芳香族炭化水素単環及び芳香族複素単環からなる群より選択される単環を少なくとも2つ有する化合物である。なお、多環芳香族ビニル化合物中に2つ以上存在する単環は、互いに独立していてもよく、縮合して縮合環を形成していてもよいが、2つ以上存在する単環は縮合して存在することが好ましい。また、精製対象である単量体組成物は、1種又は複数種の多環芳香族ビニル化合物を含んでいても良い。
【0023】
そして、芳香族炭化水素単環としては、例えば、ベンゼン環、及び、置換基を有するベンゼン環等が挙げられる。また、置換基としては、メチル基、プロピル基、t-ブチル基等のアルキル基、フッ素、塩素、臭素等のハロゲン基等が挙げられる。
【0024】
また、芳香族複素単環としては、例えば、オキサジアゾール環、オキサゾール環、オキサゾロピラジン環、オキサゾロピリジン環、オキサゾロピリダジル環、オキサゾロピリミジン環、チアジアゾール環、チアゾール環、トリアジン環、ピラノン環、ピラン環、ピリジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、ピロール環等が挙げられる。
【0025】
そして、多環芳香族ビニル化合物としては、例えば、1-ビニルナフタレン、2-ビニルナフタレン、ビニルアントラセン、1,1-ジフェニルエチレン等が挙げられる。これらの中でも、多環芳香族ビニル化合物としては、1-ビニルナフタレン及び2-ビニルナフタレン等のビニルナフタレンが好ましい。ビニルナフタレンを含む単量体組成物は、各種用途に好適に用いることができる。
【0026】
<<不純物>>
精製対象である単量体組成物に含まれる不純物としては、硫黄が挙げられる。不純物としての硫黄は、特に限定されることなく、遊離硫黄、及び各種の硫黄含有化合物といった硫黄物質として含有されうる。また、硫黄以外の不純物としては、フッ素、塩素、臭素、及びヨウ素等のハロゲン、並びに水等が挙げられる。不純物としてのハロゲンの含有態様としては、特に限定されることなく、各種のハロゲン含有化合物が挙げられる。
【0027】
本発明者らの検討により、単量体組成物を重合した際の重合転化率の阻害効果については、上記不純物の中でも、種々の含有態様で含有されうる硫黄の寄与が大きいことが明らかとなった。そこで、本発明の単量体組成物の精製方法では、単量体組成物から硫黄を除去する硫黄除去工程を行うことを必須の要件とした。
【0028】
<硫黄除去工程>
硫黄除去工程では、単量体組成物から硫黄を除去する。硫黄の除去方法としては、特に限定されることなく、吸着材を用いた方法及び昇華法等を採用することができる。中でも、除去効率の観点から、吸着材を用いた方法が好ましい。具体的には、吸着材を用いた方法では、精製対象としての単量体組成物に対して吸着材を接触させることにより、単量体組成物中に含まれる硫黄を除去することができる。なお、吸着材としては、無機酸化物等の無機材料を好適に用いることができる。より具体的には、無機酸化物としては、活性アルミナを好適に用いることができる。なお、硫黄除去工程は、例えば、-80℃以上70℃以下の温度条件にて、0.5時間以上30日以内の処理時間(期間)で、実施することができる。
【0029】
そして、硫黄除去工程では、単量体組成物に含有される硫黄量を、多環芳香族ビニル化合物の質量を基準として150ppm以下とすることが好ましく、100ppm以下とすることがより好ましい。硫黄除去工程にて、単量体組成物に含有される硫黄量を上記上限値以下とすることで、重合した際の重合転化率の一層高い単量体組成物を得ることができる。なお、硫黄除去工程で硫黄を完全に除去しても良く、即ち、硫黄除去工程を経た硫黄除去済単量体組成物に含まれる硫黄量が0ppmとなるような条件で硫黄除去工程を実施しても良い。しかし、硫黄除去工程に要する時間が過度に長くなること、及び、重合した際の重合転化率を効率的に高める観点等から、硫黄除去工程を経た硫黄除去済単量体組成物の硫黄量が、30ppm以上であっても良い。
【0030】
また、硫黄除去工程では、硫黄除去工程を経て得られる硫黄除去済単量体組成物に含有される硫黄量を、精製前の単量体組成物に含有される硫黄量の90質量%以下とすることが好ましく、70質量%以下とすることがより好ましい。硫黄除去工程を経た硫黄除去済単量体組成物に含まれる硫黄量の、精製前の単量体組成物に含有される硫黄量に対する比率(以下、単に「対精製前硫黄量比率」とも称する)を上記上限値以下とすることで、重合した際の重合転化率の一層高い単量体組成物を得ることができる。その理由は明らかではないが、硫黄除去工程にて、対精製前硫黄量比率が上記上限値以下となる程度まで処理した場合に、重合反応の阻害作用が大きい硫黄物質が効率的に除去されることに起因すると推察される。
【0031】
<ハロゲン除去工程>
さらに、本発明の単量体組成物の精製方法は、ハロゲン除去工程を含むことが好ましい。ハロゲン除去工程を実施することで、重合した際の重合転化率の一層高い単量体組成物を得ることができる。ハロゲン除去工程では、ハロゲンの中でも、臭素を除去することが好ましく、より具体的には、ハロゲン除去工程において、単量体組成物に含まれる臭素の量を、後述する好適な範囲内とすることが好ましい。ここで、上述した硫黄除去工程と、ハロゲン除去工程とは、如何なる順序で実施しても良い。より詳細には、硫黄除去工程又はハロゲン除去工程の何れかを先に実施してから、他方を実施しても良いし、双方を同時に実施しても良い。ハロゲンの除去方法としては、特に限定されることなく、吸着材を用いた方法、昇華法、及び蒸留法等を採用することができる。
【0032】
例えば、上述した「硫黄除去工程」を、吸着材を用いて実施した際に、かかる吸着材が硫黄のみならずハロゲンも吸着することがある。よって、硫黄除去工程として行った操作により、吸着材に対してハロゲンも吸着されるため、実質的に硫黄除去工程とハロゲン除去工程を同時に実施したこととなる。このように、硫黄除去工程及びハロゲン除去工程が同時に実施されても良い。
【0033】
ハロゲン除去工程では、単量体組成物に含有されるハロゲン量(好ましくは、臭素量)を、多環芳香族ビニル化合物の質量を基準として300ppm以下とすることが好ましく、160ppm以下とすることがより好ましい。ハロゲン除去工程において、単量体組成物に含有されるハロゲン量を上記上限値以下とすることで、重合した際の重合転化率の一層高い単量体組成物を得ることができる。なお、ハロゲン除去工程でハロゲンを完全に除去しても良く、即ち、ハロゲン除去工程を経て得られるハロゲン除去済単量体組成物におけるハロゲン量が0ppmとなるような条件でハロゲン除去工程を実施しても良い。しかし、ハロゲン除去工程に要する時間及び工数、並びに、重合した際の重合転化率の観点から、ハロゲン除去工程を経たハロゲン除去済単量体組成物のハロゲン量が、50ppm以上であっても良い。
【0034】
また、ハロゲン除去工程では、ハロゲン除去工程を経て得られるハロゲン除去済単量体組成物に含有されるハロゲン量(好ましくは、臭素量)を、精製前の単量体組成物に含有されるハロゲン量(好ましくは、臭素量)の90質量%以下とすることが好ましく、55質量%以下とすることがより好ましい。ハロゲン除去工程を経たハロゲン除去済単量体組成物に含まれるハロゲン量の、精製前の単量体組成物に含有されるハロゲン量に対する比率(以下、単に「対精製前ハロゲン量比率」とも称する)を上記上限値以下とすることで、重合した際の重合転化率の一層高い単量体組成物を得ることができる。
【0035】
<その他の下処理工程>
さらに、任意で、単量体組成物中に含有される水等を除去する下処理工程を実施することができる。単量体組成物中に含有される水を除去する方法としては、特に限定されることなく、モレキュラーシーブ等のゼオライトよりなる乾燥剤と単量体組成物とを接触させる方法等が挙げられる。かかる下処理工程は、特に限定されることなく、あらゆるタイミングで実施することができるが、製造効率を高める観点から、上述した硫黄除去工程及びハロゲン除去工程の双方又は何れか一方と同時に実施することが好ましい。
【0036】
(重合体の製造方法)
本発明の重合体の製造方法は、上述した本発明の単量体組成物の精製方法に従って得た精製済単量体組成物を含む組成物(I)を、アニオン重合して重合体を得る重合工程を含むことを特徴とする。組成物(I)をアニオン重合することで、高い重合転化率で重合体を形成することができる。その理由は明らかではないが、硫黄除去工程にて除去される硫黄物質が、種々の重合様式の中でも、特にアニオン重合を阻害するように作用するため、上記硫黄除去工程を経た精製済単量体組成物を用いることで、アニオン重合による重合転化率を顕著に高め得るためであると推察される。
【0037】
<重合工程>
重合工程では、組成物(I)をアニオン重合して重合体を得る。組成物(I)は、上述した芳香族炭化水素単環及び芳香族複素単環からなる群より選択される単環を少なくとも2つ有する多環芳香族ビニル化合物を含むことを必要とする。そして、重合工程では、アニオン重合触媒を用いたアニオン重合を実施して、多環芳香族ビニル化合物に由来する単量体単位のみからなるホモポリマー、又は、多環芳香族ビニル化合物に由来する単量体単位と他の化合物に由来する単量体単位とを含む共重合体を得ることができる。なお、アニオン重合は、特に限定されることなく、窒素ガス等の不活性ガス雰囲気下で、有機溶媒中にて行うことができる。
【0038】
重合工程では、多環芳香族ビニル化合物を、脂肪族共役ジエン化合物と共重合させることができる。脂肪族共役ジエン化合物としては、例えば、1,3-ブタジエン、2-メチル-1,3-ブタジエン(イソプレン)等の鎖状共役ジエン化合物が挙げられ、重合後、共重合体組成物に対し可撓性を付与できるため2-メチル-1,3-ブタジエン(イソプレン)及び1,3-ブタジエンが特に好ましい。これらは、1種単独で、或いは2種以上を混合して用いることができる。
【0039】
ここで、組成物(I)は、上記した化合物以外のその他の化合物を含んでいても良い。かかるその他の化合物としては、例えば、単環芳香族ビニル化合物及び不飽和カルボン酸エステル等が挙げられる。単環芳香族ビニル化合物とは、上述した芳香族炭化水素単環を1つ有する単量体単位である。具体的には、単環芳香族ビニル化合物としては、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、2-メチルスチレン、3-メチルスチレン、4-メチルスチレン等が挙げられる。また、具体的には、不飽和カルボン酸エステルとしては、アクリル酸メチル及びメタクリル酸メチル等が挙げられる。これらは、1種単独で、或いは2種以上を混合して用いることができる。
【0040】
そして、重合工程で用いるアニオン重合触媒としては、例えば、アルキル基の炭素数が1~10のアルキルリチウム化合物が挙げられる。アルキル基の炭素数が1~10のアルキルリチウムをアニオン重合触媒として用いた場合に、組成物(I)中に硫黄物質が存在すると、アルキルリチウムが塩基として作用するなどしてアニオン重合が阻害されると推定される。このため、本発明の精製方法により単量体組成物に含まれる遊離硫黄及び硫黄物質の少なくとも一部を除去することで、アルキル基の炭素数が1~10のアルキルリチウムをアニオン重合触媒として用いた場合に、アニオン重合反応が阻害されることを効果的に抑制することができる。
【0041】
アルキルリチウム化合物としては、例えば、メチルリチウム、エチルリチウム、ペンチルリチウム、n-ブチルリチウム、sec-ブチルリチウム、t-ブチルリチウム等が挙げられる。中でも、重合反応を効率的に進行させる観点から、アニオン重合触媒として、n-ブチルリチウムを用いることが好ましい。また、アニオン重合触媒の使用量は、目的とする共重合体の分子量に応じて適宜調節すればよく、例えば、組成物(I)中の単量体のアニオン重合触媒に対するモル当量が、50当量以上3000当量以下となる範囲、より好ましくは、100当量以上1400当量以下となる範囲とすることができる。なお、アニオン重合触媒に併せて、任意で、ジブチルエーテル等の既知の共触媒を用いても良い。
【0042】
さらに、重合工程で使用する有機溶媒としては、特に限定されることなく、例えば、ぺンタン、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素;シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサン、トリメチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、ジエチルシクロヘキサン、デカヒドロナフタレン、ビシクロヘプタン、トリシクロデカン、ヘキサヒドロインデン、シクロオクタン等の脂環族炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素;ジクロロメタン、クロロホルム、1,2-ジクロロエタン等のハロゲン系脂肪族炭化水素;クロロベンゼン、ジクロロベンゼン等のハロゲン系芳香族炭化水素;ニトロメタン、ニトロベンゼン、アセトニトリル等の含窒素炭化水素系溶媒;又はこれらの混合溶媒が挙げられる。中でも、重合反応を効率的に進行させる観点から、有機溶媒としてトルエンを使用することが好ましい。なお、これらの有機溶媒は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。有機溶媒の使用量は、例えば、組成物(I)中の単量体の全質量を100質量部として、20質量部以上20000質量部以下とすることができる。
【0043】
そして、多環芳香族ビニル化合物と脂肪族共役ジエン化合物とを共重合させる方法としては、ランダム共重合させる方法や、ブロック共重合させる方法が挙げられる。
【0044】
ここで、多環芳香族ビニル化合物と、脂肪族共役ジエン化合物とをランダム重合させる方法は、特に限定されず、従来公知のランダム共重合体の製造方法を採用することができる。多環芳香族ビニル化合物と脂肪族共役ジエン化合物とをランダム重合させる場合に、多環芳香族ビニル化合物を、本発明の精製方法に従って得られた精製済単量体組成物とすることで、高い重合転化率でランダム重合体を形成することができる。さらに、多環芳香族ビニル化合物と脂肪族共役ジエン化合物とをランダム重合させる場合において、組成物(I)中の多環芳香族ビニル化合物の含有割合は、組成物(I)中の全単量体を100質量%として、例えば、5質量%以上99質量%以下であり得る。特に、組成物(I)中の多環芳香族ビニル化合物の含有割合を上記下限値以上とする場合に、本発明の精製方法に従って得られた精製済単量体組成物を用いることで、重合転化率を顕著に高めることができる。
【0045】
また、多環芳香族ビニル化合物と、脂肪族共役ジエン化合物とをブロック共重合させる方法は、特に限定されず、従来公知のブロック共重合体の製造方法を採用することができる。例えば、多環芳香族ビニル化合物由来の構造単位を含み、且つ芳香族ビニル化合物由来の構造単位を主成分とする重合体ブロック[A](以下、単に「所定の重合体ブロック[A]」とも称する)及び脂肪族共役ジエン化合物由来の構造単位を主成分とする重合体ブロック[B](以下、単に「所定の重合体ブロック[B]」とも称する)を含んでなる、([A]-[B]-[A])型のトリブロック共重合体を製造する場合であれば、
(i)多環芳香族ビニル化合物を含む単量体混合物(a1)を重合させて、所定の重合体ブロック[A]を形成する第1の重合工程と、脂肪族共役ジエン化合物を含有する単量体混合物(b1)を重合させて、所定の重合体ブロック[B]を形成する第2の重合工程と、多環芳香族ビニル化合物を含有する単量体混合物(a2)を重合させて、所定の重合体ブロック[A]を形成する第3の重合工程とを含む方法;及び
(ii)多環芳香族ビニル化合物を含有する単量体混合物(a1)を重合させて、所定の重合体ブロック[A]を形成する第1の重合工程と、脂肪族共役ジエン化合物を含有する単量体混合物(b1)を重合させて、脂肪族共役ジエン化合物由来の構造単位を主成分とする重合体ブロック[B’]を形成する第2の重合工程と、重合体ブロック[B’]の末端同士をカップリング剤によりカップリングさせる工程とを含む方法、
等が挙げられる。なお、上記(ii)の方法において使用するカップリング剤としては、特に限定されることなく、従来公知のカップリング剤を使用することができる。また、カップリング剤の使用量は、目的とするブロック共重合体の分子量に応じて適宜調節すればよい。なお、本明細書において、ある重合体ブロックがある構造単位を「主成分とする」とは、当該重合体ブロックを構成する全単位を100質量%として、ある構造単位の割合が、50質量%超であることを意味し、好ましくは60質量%以上、より好ましくは70質量%以上、更に好ましくは80質量%以上であることを意味する。なお、ある重合体ブロックがある構造単位を「主成分とする」場合に、当該重合体ブロックの全単位がある構造単位であっても良い。即ち、ある重合体ブロックが、主成分である構造単位のみからなるブロックであっても良い。そして、かかる重合体ブロックを形成する際に用いる単量体混合物における各化合物間の質量比率は、目的とする重合体ブロックにおける各構造単位の割合に準ずる。
【0046】
なお、上記の多環芳香族ビニル化合物を含む単量体混合物(a1)は、単環芳香族ビニル化合物を含んでいても良く、多環芳香族ビニル化合物及び単環芳香族ビニル化合物よりなる芳香族ビニル化合物の含有量が、単量体混合物(a1)に含有される全単量体量を100質量%として、50質量%超であることが好ましく、60質量%以上であることがより好ましく、70質量%以上であることが更に好ましく、80質量%以上であることが特に好ましい。なお、単量体混合物(a1)に含まれる単量体の全てが芳香族ビニル化合物であっても良い。さらに、単量体混合物(a1)における、多環芳香族ビニル化合物及び単環芳香族ビニル化合物の比率は、質量基準で、多環芳香族ビニル化合物:単環芳香族ビニル化合物=5:95~100:0の範囲であり得る。かかる単量体混合物(a1)を重合して得られる上記重合体ブロック[A]における各種単量体単位の割合も、上記含有量及び比率に準じた割合となる。
【0047】
そして、重合温度は、特に限定されることなく、例えば20℃以上150℃以下とすることができ、25℃以上120℃以下とすることが好ましい。重合温度が上記下限値以上であれば、重合触媒を十分に機能させることができるからである。また、重合温度が上記上限値以下であれば、重合触媒の分解を抑制することができるからである。
【0048】
また、重合時間は特に限定されることなく、例えば1時間以上10時間以下とすることができる。重合時間が上記下限値以上であれば、重合反応を十分に進行させることができるからである。また、重合時間が上記上限値以下であれば、共重合体の製造に要する時間を低減することができるからである。
【0049】
そして、重合工程終了後、得られた共重合体の回収方法は特に限定されず、例えば重合溶液としてそのまま回収することができる。なお、重合工程によって得られる反応混合物は、通常、共重合体と、有機溶媒とを含みうる。
【0050】
精製済単量体組成物を用いる、上記重合工程により得られた重合体は、多環芳香族ビニル化合物由来の構造単位を含み、任意に、脂肪族共役ジエン化合物由来の構造単位、及び、その他の化合物由来の構造単位を含み得る。より具体的には、上記重合工程により得られた重合体は、多環芳香族ビニル化合物由来の構造単位のみからなるホモポリマー、或いは、脂肪族共役ジエン化合物由来の構造単位、及び、任意のその他の化合物由来の構造単位を含みうるランダム共重合体若しくはブロック共重合体であり得る。そして、かかる重合体は、精製済単量体組成物を用いることなく従来法に従って重合した重合体と比較して、分子量分布が狭い。従って、本発明の重合体の製造方法によれば、分子量が比較的揃った重合体を得ることができる。なお、「分子量分布」は、実施例に記載の方法により測定することができる。
【0051】
中でも、上記重合工程にてブロック共重合を実施して得られた反応混合物中に存在するブロック共重合体が、([A]-[B]-[A])型のトリブロック構造を有するトリブロック共重合体である場合に、純度が45%以上であることが好ましい。かかるブロック共重合体は、光学部品の形成材料を製造するに際して好適に用いることができる。なお、「トリブロック共重合体の純度」は、形成したブロック共重合体の全質量に対するトリブロック共重合体の質量の比率として、実施例に記載した方法により算出することができる。
【0052】
トリブロック共重合体の純度は、70%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましい。トリブロック共重合体の純度が上記下限値以上であれば、かかる共重合体を含んでなる材料をフィルム状に成形した場合に、3次元位相差といった光学性能を一層良好に発揮することができる。
【0053】
さらに、上記重合工程にてブロック共重合を実施して得られた反応混合物中に存在するブロック共重合体が、([A]-[B]-[A])型のトリブロック構造を有するトリブロック共重合体である場合に、分子量分布が1.50以下であることが好ましい。かかるブロック共重合体は、光学部品の形成材料を製造するに際して好適に用いることができる。
【0054】
トリブロック共重合体の分子量分布は、2.0以下であることが好ましく、1.50以下であることがより好ましい。得られるトリブロック共重合体の分子量分布が上記上限値以下であれば、かかる共重合体を含んでなる材料をフィルム状に成形した場合に、3次元位相差といった光学性能を一層良好に発揮することができる。
【実施例】
【0055】
以下、本発明について実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、以下の説明において、量を表す「%」及び「部」は、特に断らない限り、質量基準である。以下に各種物性の測定法を示す。
【0056】
<数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)、ピークトップ分子量(Mp)及び分子量分布(Mw/Mn)>
ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)を用いて、実施例、比較例で得た各種重合体について、数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)、及びピークトップ分子量(Mp)を測定し、分子量分布(Mw/Mn)を算出した。
その際、測定器としてはHLC-8320(東ソー社製)を用いた。カラムとしてはTSKgelα-M(東ソー社製)二本を直列に連結して用いた。検出器としては示差屈折計RI-8320(東ソー社製)を用いた。そして、展開溶媒としてテトラヒドロフランを用いて、上記各種重合体について、数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)、及びピークトップ分子量(Mp)を標準ポリスチレン換算値として求めた。それから分子量分布(Mw/Mn)を算出した。
【0057】
<転化率>
重クロロホルムを溶剤とする1H-NMRを測定することにより、2-ビニルナフタレンの転化率及びイソプレンの転化率を算出し、以下の基準に従って評価した。
A:90%以上
B:80%以上90%未満
C:80%未満
【0058】
<硫黄量及び臭素量の測定>
実施例、比較例で得られた精製済単量体組成物を減圧下で蒸留して溶媒を除去し、試料を得た。約0.02gの試料を磁性ボードに量り取り、自動燃焼装置(ヤナコ社製)で燃焼後、イオンクロマトグラフィー(DIONEX社製、ICS-1500)により硫黄量及び臭素量を定量した。なお、硫黄量及び臭素量は、それぞれ、多環芳香族ビニル化合物の質量1g当たりに含有される、硫黄量(μg)及び臭素量(μg)、即ち、多環芳香族ビニル化合物の質量を基準とした量(ppm)として定量した。
なお、対精製前硫黄量比率、及び対精製前臭素量比率は、上記に従って定量した精製済単量体組成物中における各量(ppm)を、精製前の単量体組成物中における硫黄量(ppm)、臭素量(ppm)でそれぞれ除して、100分率とすることで得ることができる。
【0059】
<トリブロック共重合体の純度>
実施例8~10、比較例3~4で得られたトリブロック共重合体の純度について、下記式に基づいて算出した。
トリブロック共重合体の純度(%)=[単離したトリブロック共重合体の質量(g)/反応混合物中に含まれる全重合体の質量(g)]×100
なお、反応混合物中に含まれる各重合体の質量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)による面積比に基づいて算出した。
【0060】
(実施例1)
<硫黄除去工程及びハロゲン除去工程>
耐圧ガラス容器に、多環芳香族ビニル化合物としての2-ビニルナフタレンを含む単量体組成物(粉体、硫黄量:150ppm、臭素量:300ppm、2-ビニルナフタレン基準)28gを量り取り、トルエン84gに溶解させた。その後、乾燥剤としてのモレキュラーシーブス3Aを14gと吸着材としての活性アルミナ(住友化学社製、NKHD-24HD)をそれぞれ加え、25℃で7日間静置した。なお、モレキュラーシーブス3Aは、硫黄及びハロゲンの除去には寄与せず、単量体組成物中の水分子を吸着除去する目的で添加される乾燥剤である。
<重合工程>
窒素雰囲気下で乾燥し、反応器内雰囲気を窒素ガスに置換した耐圧反応器に、溶媒としてのトルエン30ml、及びアニオン重合触媒としてのn-ブチルリチウムの1.6Mヘキサン溶液32μl(n-ブチルリチウム:52μモル)をそれぞれ入れた。その後、上記耐圧反応器に、上記<硫黄除去工程及びハロゲン除去工程>で得られた、7日間精製処理をした精製済単量体組成物である、2-ビニルナフタレンの25質量%トルエン溶液8g(n-ブチルリチウムに対して250当量)加えた。25℃で1時間反応させた後、得られた2-ビニルナフタレン単位よりなるホモポリマーの一部を採取し、上記に従って各種測定及び評価を行った。結果を表1に示す。
【0061】
(実施例2~3)
<硫黄除去工程及びハロゲン除去工程>における処理期間を、それぞれ表1に示す通りに変更した以外は、実施例1と同様にして、各種操作、測定及び評価を行った。結果を表1に示す。
【0062】
(実施例4)
<硫黄除去工程及びハロゲン除去工程>における処理期間を21日間とし、更に、<重合工程>で添加する精製済単量体組成物である、2-ビニルナフタレンの25質量%トルエン溶液の量を16g(n-ブチルリチウムに対して500当量)に変更した以外は、実施例1と同様にして、各種操作、測定及び評価を行った。結果を表1に示す。
【0063】
(実施例5)
実施例3~4と同様の<硫黄除去工程及びハロゲン除去工程>により得られた、21日間精製処理をした2-ビニルナフタレンの25質量%トルエン溶液4g(ブチルリチウムに対して125当量)と、実施例1にて2-ビニルナフタレンを含む単量体組成物を精製した際と同様の処理を行って精製した1-ビニルナフタレンの25wt%トルエン溶液4g(ブチルリチウムに対して125当量)との混合溶液を、精製済単量体組成物として用いた。かかる点以外は、実施例1と同様にして、各種操作、測定及び評価を行った。結果を表1に示す。
<1-ビニルナフタレンについての硫黄除去工程及びハロゲン除去工程>
多環芳香族ビニル化合物として、1-ビニルナフタレンを含む単量体組成物(液体、硫黄量:70ppm、臭素量:<10ppm、1-ビニルナフタレン基準)を用いて、処理期間を21日間とした以外は、実施例1と同様にして、1-ビニルナフタレンを含む単量体組成物を精製した。
【0064】
(実施例6)
<硫黄除去工程及びハロゲン除去工程>における処理期間を28日間とし、更に、<重合工程>で添加する精製済単量体組成物である、2-ビニルナフタレンの25質量%トルエン溶液の量を48g(n-ブチルリチウムに対して1500当量)に変更した以外は、実施例1と同様にして、各種操作、測定及び評価を行った。結果を表1に示す。
【0065】
(実施例7)
<硫黄除去工程及びハロゲン除去工程>における処理期間を21日間とし、更に、<重合工程>で、精製済単量体組成物である2-ビニルナフタレンの25質量%トルエン溶液に加えて、脂肪族共役ジエン化合物であるイソプレンを2g(n-ブチルリチウムに対して567当量)添加した。さらに、<重合工程>における反応温度を50℃に変更した。このようにして、本実施例では、2-ビニルナフタレン単位とイソプレン単位とを有するランダム共重合体を得た。これらの点以外は、実施例1と同様にして、各種操作、測定及び評価を行った。結果を表1に示す。
【0066】
(比較例1)
<硫黄除去工程及びハロゲン除去工程>を行わずに、下記の下処理をして、下処理済単量体組成物(2-ビニルナフタレンの25wt%トルエン溶液)を得て、<重合工程>において、精製済単量体組成物に代えて、下処理済単量体組成物を用いた以外は実施例1と同様にして、各種操作、測定及び評価を行った。結果を表1に示す。
<下処理工程>
活性アルミナを用いなかった以外は、実施例1の<硫黄除去工程及びハロゲン除去工程>と同じ操作を行った。即ち、本下処理工程では、モレキュラーシーブス3Aを加えて7日間静置することにより、単量体組成物から水を除去して乾燥させることで、下処理済単量体組成物を得た。
【0067】
(比較例2)
<重合工程>において、精製済単量体組成物に代えて、比較例1と同様にして得た下処理済単量体組成物(2-ビニルナフタレンの25wt%トルエン溶液)8gと、脂肪族共役ジエン化合物であるイソプレン2g(n-ブチルリチウムに対して567当量)と、を添加した。さらに、<重合工程>における反応温度を50度に変更した。このようにして、本比較例では、2-ビニルナフタレン単位とイソプレン単位とを有するランダム共重合体を得た。これらの点以外は、実施例1と同様にして、各種操作、測定及び評価を行った。結果を表1に示す。
【0068】
表中、「VN」は、ビニルナフタレンを、「IP」は、イソプレンを、それぞれ示す。
【0069】
【0070】
表1より明らかなように、実施例1~7のように、単量体組成物から硫黄を除去する硫黄除去工程を含む精製方法に従って得られた精製済単量体組成物は、重合した場合の重合転化率が高いことが分かる。また、比較例1~2のように、硫黄除去工程を実施しなかった場合には、単量体組成物の重合転化率が低かったことが分かる。特に、実施例1~2と、実施例3との比較より明らかなように、硫黄除去工程により、単量体組成物に含有される硫黄量を100ppm未満とした場合に、分子量20000以上の高分子量の重合体を、高い重合転化率で得ることができたことが分かる。
【0071】
(実施例8)
<ブロック共重合体の製造工程>
<<第1の重合工程>>
窒素雰囲気下、乾燥し、窒素で置換された耐圧反応器に、有機溶媒としてトルエン20ml、重合触媒としてn-ブチルリチウムの1.6Mヘキサン溶液32μl(n-ブチルリチウム:52μモル)をそれぞれ入れた。その後、上記の耐圧反応器に、多環芳香族ビニル化合物として実施例1と同様の<硫黄除去工程及びハロゲン除去工程>を経て得られた精製済単量体組成物である2-ビニルナフタレンの25%トルエン溶液8g(n-ブチルリチウムに対して250当量)を添加して25℃で1時間反応させ、一段回目の重合反応を行い、重合体を得た。得られた重合体について、数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)、ピークトップ分子量(Mp)、及び分子量分布(Mw/Mn)を、上記に従って測定し、また、2-ビニルナフタレンの転化率を上記に従って測定及び評価した。結果を表2に示す。
【0072】
<<第2の重合工程>>
一段階目の重合反応の終了後、次いで、上記耐圧反応器中の反応混合物に、鎖状共役ジエン化合物としてイソプレン2g(n-ブチルリチウムに対して567当量)を添加し、更に50℃で30分間反応させ、二段階目の重合反応を行った。その結果、反応混合物中に、[2-ビニルナフタレンブロック]-[イソプレンブロック]のブロック構成を有するジブロック共重合体を得た。得られたジブロック共重合体の数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)、ピークトップ分子量(Mp)、及び分子量分布(Mw/Mn)を、上記に従って測定した。また、上記に従って本工程で添加したイソプレンの転化率を測定及び評価した。結果を表2に示す。なお、1H-NMRの測定結果から、1段階目の重合反応後に残っていた2-ビニルナフタレンはすべて消費されたことを確認した。
【0073】
<<第3の重合工程>>
その後、上記反応混合物に、更に、芳香族ビニル化合物として、実施例1と同様の<硫黄除去工程及びハロゲン除去工程>を経て得られた精製済単量体組成物である2-ビニルナフタレンの25%トルエン溶液8g(n-ブチルリチウムに対して250当量)、及び、共触媒として、ジブチルエーテル8.7μL(n-ブチルリチウムに対して1当量)を添加して、25℃で17時間反応させ、三段階目の重合反応を行った。重合反応終了後、50μLのメタノールを添加して重合反応を停止させた。その結果、反応混合物中に、[2-ビニルナフタレンブロック]-[イソプレンブロック]-[2-ビニルナフタレンブロック]のブロック構成を有するトリブロック共重合体を得た。得られたトリブロック共重合体の数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)、ピークトップ分子量(Mp)、及び分子量分布(Mw/Mn)、及びトリブロック共重合体の純度を上記に従って測定した。また、本工程で添加した2-ビニルナフタレンの転化率を上記に従って測定した。なお、1H-NMRの測定結果から、2段階目の重合反応後に残っていたイソプレンはすべて消費されたことを確認した。
【0074】
(実施例9)
ブロック共重合体を製造するにあたり、<<第1の重合工程>>及び<<第3の重合工程>>にて、多環芳香族ビニル化合物として、実施例2と同様の<硫黄除去工程及びハロゲン除去工程>を経て得られた14日間にわたる精製処理を経た精製済単量体組成物である2-ビニルナフタレンの25%トルエン溶液8g(n-ブチルリチウムに対して250当量)を添加した以外は、実施例8と同様にして、各種操作、測定、及び評価を実施した。結果を表2に示す。なお、実施例8と同様に、第2の重合工程の完了時に、1段階目の重合反応後に残っていた2-ビニルナフタレンはすべて消費されたことを確認し、第3の重合工程の完了時に、2段階目の重合反応後に残っていたイソプレンはすべて消費されたことを確認した。
【0075】
(実施例10)
ブロック共重合体を製造するにあたり、<<第1の重合工程>>及び<<第3の重合工程>>にて、多環芳香族ビニル化合物として、実施例3と同様の<硫黄除去工程及びハロゲン除去工程>を経て得られた21日間にわたる精製処理を経た精製済単量体組成物である2-ビニルナフタレンの25%トルエン溶液8g(n-ブチルリチウムに対して250当量)を添加した以外は、実施例8と同様にして、各種操作、測定、及び評価を実施した。結果を表2に示す。なお、実施例8と同様に、第2の重合工程の完了時に、1段階目の重合反応後に残っていた2-ビニルナフタレンはすべて消費されたことを確認し、第3の重合工程の完了時に、2段階目の重合反応後に残っていたイソプレンはすべて消費されたことを確認した。
【0076】
(比較例3)
ブロック共重合体を製造するにあたり、<<第1の重合工程>>にて、多環芳香族ビニル化合物として、比較例1と同様の<下処理工程>を経て得られた下処理済単量体組成物である2-ビニルナフタレンの25%トルエン溶液8g(n-ブチルリチウムに対して250当量)を添加した以外は、実施例8と同様にして、各種操作を順次行うことを試みたが、第2の重合工程にて転化率が5%未満となり、それ以上反応を進めることができなかった。測定及び評価を可能な範囲で実施した結果を表2に示す。
【0077】
(比較例4)
ブロック共重合体を製造するにあたり、<<第1の重合工程>>にて、多環芳香族ビニル化合物として、多環芳香族ビニル化合物としての2-ビニルナフタレンを含む単量体組成物(粉体、硫黄量:500ppm、臭素量:20ppm未満、2-ビニルナフタレン基準)について、比較例1と同様の<下処理工程>を施して得られた下処理済単量体組成物である2-ビニルナフタレンの25%トルエン溶液8g(n-ブチルリチウムに対して250当量)を添加した以外は、実施例8と同様にして、各種操作を順次行うことを試みたが、第2の重合工程にて転化率が5%未満となり、それ以上反応を進めることができなかった。測定及び評価を可能な範囲で実施した結果を表2に示す。
【0078】
表中、「VN」は、ビニルナフタレンを、「IP」は、イソプレンを、それぞれ示す。
【0079】
【0080】
表2より、実施例8~10にて、単量体組成物から硫黄を除去する硫黄除去工程を含む精製方法を経て得られた精製済単量体組成物を用いて(2-VN)-(IP)-(2-VN)型、即ち([A]-[B]-[A])型のトリブロック構造を有するトリブロック共重合体を形成した場合には、高い重合転化率を達成し得たことが分かる。一方、比較例3~4のように、硫黄除去工程を実施しなかった場合には、単量体組成物の重合転化率が低かったことが分かる。さらに、実施例9~10では、硫黄除去工程等の条件を変更することで、より高いトリブロック共重合体の純度を達成し得たことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明によれば、多環芳香族ビニル化合物を含む単量体組成物に含有される、重合反応を阻害する虞のある不純物の少なくとも一部を除去することができる、単量体組成物の精製方法を提供することができる。
また、本発明によれば、精製された多環芳香族ビニル化合物含有単量体組成物を少なくとも含む組成物を用いた重合体の製造方法を提供することができる。