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特許7180344ビスフェノールの製造方法、及び、ポリカーボネート樹脂の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-21
(45)【発行日】2022-11-30
(54)【発明の名称】ビスフェノールの製造方法、及び、ポリカーボネート樹脂の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 37/20 20060101AFI20221122BHJP
   C07C 39/16 20060101ALI20221122BHJP
   C08G 64/04 20060101ALI20221122BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20221122BHJP
【FI】
C07C37/20
C07C39/16
C08G64/04
C07B61/00 300
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018229380
(22)【出願日】2018-12-06
(65)【公開番号】P2019099581
(43)【公開日】2019-06-24
【審査請求日】2021-06-17
(31)【優先権主張番号】P 2017234315
(32)【優先日】2017-12-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099508
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 久
(74)【代理人】
【識別番号】100093285
【弁理士】
【氏名又は名称】久保山 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100182567
【弁理士】
【氏名又は名称】遠坂 啓太
(74)【代理人】
【識別番号】100197642
【弁理士】
【氏名又は名称】南瀬 透
(72)【発明者】
【氏名】内山 馨
【審査官】水島 英一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-124331(JP,A)
【文献】特開2015-051935(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族アルコール及び炭化水素を含む有機相と、硫酸を含む水相とに油水分離した状態で、前記有機相において芳香族アルコールスルホン酸を生成させ、芳香族アルコールスルホン酸を含む反応生成液を得る工程(1)と、
前記芳香族アルコールスルホン酸を含む反応生成液と、ケトン又はアルデヒドとを混合し、前記芳香族アルコールスルホン酸の存在下で、前記芳香族アルコールと、前記ケトン又はアルデヒドとからビスフェノールを生成する工程(2)と、を含み、
前記工程(1)において、前記芳香族アルコール及び前記炭化水素を含む有機溶液と、原料硫酸とを混合して、前記有機相と、前記水相とに油水分離した状態とするビスフェノールの製造方法。
【請求項2】
前記有機溶液と、質量濃度が70質量%以上、90質量%未満である前記原料硫酸とを混合して、前記有機相と、前記水相とに油水分離した状態とする請求項1に記載のビスフェノールの製造方法。
【請求項3】
前記工程(1)において、芳香族アルコールスルホン酸を生成する反応温度が、60℃未満である請求項1又は2に記載のビスフェノールの製造方法。
【請求項4】
前記芳香族アルコールが、フェノール、クレゾールおよびキシレノールからなる群から選択されるいずれかである請求項1~のいずれか1項に記載のビスフェノールの製造方法。
【請求項5】
前記有機溶液中の前記芳香族アルコールに対する前記原料硫酸中の前記硫酸のモル比が、0.1以上10以下である請求項1~4のいずれか1項に記載のビスフェノールの製造方法。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載のビスフェノールの製造方法によって得られたビスフェノールを用いた、ポリカーボネート樹脂の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芳香族アルコールとケトン又はアルデヒドとからビスフェノールを製造する方法に関する。より詳しくは、硫酸と芳香族アルコールとから芳香族アルコールスルホン酸を生成させた後、前記芳香族アルコールスルホン酸の存在下で、芳香族アルコールとケトン又はアルデヒドとからビスフェノールを製造する方法に関するものである。また、本発明は、上記で得られたビスフェノールを用いたポリカーボネート樹脂の製造方法に関する。
本発明の方法で製造されたビスフェノールは、ポリカーボネート樹脂、エポキシ樹脂、芳香族ポリエステル樹脂などの樹脂原料や、硬化剤、顕色剤、退色防止剤、その他殺菌剤や防菌防カビ剤等の添加剤として有用である。
【背景技術】
【0002】
ビスフェノールは、ポリカーボネート樹脂、エポキシ樹脂、芳香族ポリエステル樹脂などの高分子材料の原料として有用である。代表的なビスフェノールとしては、例えば、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパンなどが知られている(特許文献1)。また、腐食性が強く、専用の設備が必要となる塩化水素ガスに代え98質量%の硫酸を用い、60~100℃で0.5~1.5時間撹拌しフェノールスルホン酸を生成させた後、ビスフェノールを製造する方法が知られている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2008-214248号公報
【文献】特開2015-51935号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、本発明者らが特許文献2に記載の方法で2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパンを製造したところ、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパンの選択率が著しく低下することが判明した。また、硫酸とクレゾールとの混合物の色調が悪化する為、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパンの反応液の色調も悪化し、得られた2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパンの色調も悪化することが判明した。また、反応に長時間を要するという問題もあった。
【0005】
かかる状況下、芳香族アルコールとケトン又はアルデヒドとからビスフェノールを生成する反応において、ビスフェノールへの反応時間を短縮し、生成するビスフェノールの選択率を改善し、良好な色調を有するビスフェノールを得ることができるビスフェノールの製造方法が求められていた。
本発明は、このような事情に鑑みなされたものであって、芳香族アルコールとケトン又はアルデヒドとからビスフェノールを生成する反応において、ビスフェノールへの反応時間を短縮し、生成するビスフェノールの選択率を改善し、良好な色調を有するビスフェノールを得ることができる製造方法を提供することを目的とする。また、上記ビスフェノールの製造方法にて得られたビスフェノールを用いたポリカーボネート樹脂の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、下記の発明が上記目的に合致することを見出し、本発明に至った。
【0007】
すなわち、本発明の要旨は、以下の[1]~[6]に存する。
[1] 芳香族アルコールを含む有機相と、硫酸を含む水相とに油水分離した状態で、前記有機相において芳香族アルコールスルホン酸を生成させ、芳香族アルコールスルホン酸を含む反応生成液を得る工程(1)と、前記芳香族アルコールスルホン酸を含む反応生成液と、ケトン又はアルデヒドとを混合し、前記芳香族アルコールスルホン酸の存在下で、前記芳香族アルコールと、前記ケトン又はアルデヒドとからビスフェノールを生成する工程(2)と、を含むビスフェノールの製造方法。
[2] 芳香族アルコールを含む有機溶液と、質量濃度が70質量%以上、90質量%未満である原料硫酸とを混合して、前記芳香族アルコールを含む有機相と、前記硫酸を含む水相とに油水分離した状態とする[1]に記載のビスフェノールの製造方法。
[3] 芳香族アルコール及び炭化水素を含む有機溶液と、原料硫酸とを混合して、前記芳香族アルコールを含む有機相と、前記硫酸を含む水相とに油水分離した状態とする[1]に記載のビスフェノールの製造方法。
[4] 前記工程(1)において、芳香族アルコールスルホン酸を生成する反応温度が、60℃未満である[1]から[3]のいずれかに記載のビスフェノールの製造方法。
[5] 前記芳香族アルコールが、フェノール、クレゾールおよびキシレノールからなる群から選択されるいずれかである[1]から[4]のいずれかに記載のビスフェノールの製造方法。
[6] [1]から[5]のいずれかに記載のビスフェノールの製造方法によって得られたビスフェノールを用いた、ポリカーボネート樹脂の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ビスフェノールの反応時間を短縮し、ビスフェノールの選択率を改善し、良好な色調のビスフェノールを製造することが可能である。また、得られたビスフェノールを用いて良好な色調のポリカーボネート樹脂を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施の態様の一例であり、本発明はその要旨を超えない限り、以下の記載内容に限定されるものではない。
なお、本明細書において「~」という表現を用いる場合、その前後の数値又は物性値を含む表現として用いるものとする。
【0010】
<本発明のビスフェノールの製造方法>
本発明は、芳香族アルコールを含む有機相と、硫酸を含む水相とに油水分離した状態で、前記有機相において芳香族アルコールスルホン酸を生成させ、芳香族アルコールスルホン酸を含む反応生成液を得る工程(1)と、前記芳香族アルコールスルホン酸を含む反応生成液と、ケトン又はアルデヒドとを混合し、前記芳香族アルコールスルホン酸の存在下で、前記芳香族アルコールと、前記ケトン又はアルデヒドとからビスフェノールを生成する工程(2)と、を有するビスフェノールの製造方法(以下、「本発明のビスフェノールの製造方法」と称する場合がある。)に関する。
【0011】
本発明のビスフェノールの製造方法の特徴のひとつは、工程(1)において、芳香族アルコールスルホン酸を生成させた後に、工程(2)において、ビスフェノールの生成反応を行うことである。このように、反応系内にて芳香族アルコールスルホン酸を生成させることで、芳香族アルコールスルホン酸を別途準備する必要がなく、別途製造された試薬等の芳香族アルコールスルホン酸に含まれる不純物が混入することを防ぐことができる。
【0012】
さらに、本発明のビスフェノールの製造方法の他の特徴は、芳香族アルコールスルホン酸を含む反応生成液を得る工程において、芳香族アルコールを含む有機相と、硫酸を含む水相とに油水分離した状態で、前記有機相において芳香族アルコールスルホン酸を生成させることである。
芳香族アルコールと硫酸とを油水分離させず1相で反応させると、芳香族アルコールが容易にスルホン化してしまうため、過剰に芳香族アルコールスルホン酸が生成しその結果、芳香族アルコールからビスフェノールへの選択率は低下する。また、ビスフェノールの原料となる芳香族アルコールが消費されることで、濃度が下がり、触媒(芳香族アルコールスルホン酸)は多量に存在するが、原料濃度が低いために、反応速度が下がり、反応時間が長くなるという問題がある。更に、芳香族アルコールが酸化され、キノン類が生成される。このキノン類は着色成分であり、ビスフェノールの着色を引き起こす。
【0013】
一方、本発明のビスフェノールの製造方法では、芳香族アルコールと硫酸とが油水分離した状態(すなわち2相)で反応させ、硫酸と芳香族アルコールが同一場に存在していないため、芳香族アルコールスルホン酸の生成速度が遅くなり、芳香族アルコールスルホン酸として程よい量生成し、ビスフェノールの原料である芳香族アルコールの過剰な消費を回避し、好ましいビスフェノール反応条件を確保することができる。また、芳香族アルコールスルホン酸の生成を抑制することで、ビスフェノールに残存する量が低減し、着色の問題を解決できる。また、硫酸が水相に存在するため、ビスフェノールの分解反応を抑制可能であり、結果としてビスフェノールの選択率が改善される。
【0014】
ここで、本願において、「芳香族アルコールを含む有機相と、硫酸を含む水相とに油水分離した状態」とは、以下の(i)~(iii)の状態のいずれかをいう。
(i)芳香族アルコールを含む有機相と、硫酸を含む水相とが上下2相に分離した状態
(ii)芳香族アルコールを含む有機相中に、硫酸を含む水滴が分散する油中水滴状態(いわゆる、W/O型)
(iii)硫酸を含む水相中に、芳香族アルコールを含む油滴が分散する水中油滴状態(いわゆる、O/W型)
反応中に反応液が懸濁していれば、反応は油水分離した状態で行われていると判断できる。また、反応終了後に、反応生成液を静置させ(1~60分間程度)、芳香族アルコールを含む有機相と、硫酸を含む水相とが上下2相に分離すれば、反応は油水分離した状態で行われたと判断できる。
【0015】
本発明のビスフェノールの製造方法で得られるビスフェノールは、工程(1)において芳香族アルコールスルホン酸を生成させた後に、工程(2)において前記芳香族アルコールスルホン酸の存在下で芳香族アルコールとケトン又はアルデヒドとを縮合反応させることにより得られる。
以下、本発明のビスフェノールの製造方法で得られるビスフェノールと、原料となる芳香族アルコール、及び、ケトン又はアルデヒドについて説明する。
【0016】
[ビスフェノール]
本発明のビスフェノールの製造方法で製造されるビスフェノールは、通常、以下の一般式(1)で表される化合物である。
【0017】
【化1】
【0018】
1~R4の置換基としては、それぞれに独立に水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、アリール基などが挙げられる。なお、アルキル基、アルコキシ基、アリール基などは、置換または無置換のいずれであってもよい。例えば、水素原子、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基、ヨード基、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、i-ブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基、i-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基、n-ウンデシル基、n-ドデシル基、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、i-プロポキシ基、n-ブトキシ基、i-ブトキシ基、t-ブトキシ基、n-ペンチルオキシ基、i-ペンチルオキシ基、n-ヘキシルオキシ基、n-ヘプチルオキシ基、n-オクチルオキシ基、n-ノニルオキシ基、n-デシルオキシ基、n-ウンデシルオキシ基、n-ドデシルオキシ基、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロへキシル基、シクロへプチル基、シクロオクチル基、シクロドデシル基、ベンジル基、フェニル基、トリル基、2,6-ジメチルフェニル基などが挙げられる。これらのうちR2とR3は立体的に嵩高いと縮合反応が進行しにくいことから、好ましくは水素原子である。
【0019】
5とR6の置換基としては、それぞれに独立に水素原子、アルキル基、アルコキシ基、アリール基などが挙げられる。なお、アルキル基、アルコキシ基、アリール基などは、置換または無置換のいずれであってもよい。例えば、水素原子、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、i-ブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基、i-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、2-エチルへキシル基、n-ノニル基、n-デシル基、n-ウンデシル基、n-ドデシル基、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、i-プロポキシ基、n-ブトキシ基、i-ブトキシ基、t-ブトキシ基、n-ペンチルオキシ基、i-ペンチルオキシ基、n-ヘキシルオキシ基、n-ヘプチルオキシ基、n-オクチルオキシ基、n-ノニルオキシ基、n-デシルオキシ基、n-ウンデシルオキシ基、n-ドデシルオキシ基、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロへキシル基、シクロへプチル基、シクロオクチル基、シクロドデシル基、ベンジル基、フェニル基、トリル基、2,6-ジメチルフェニル基などが挙げられる。
【0020】
5とR6は、2つの基の間で互いに結合又は架橋していても良く、例えば、シクロプロピリデン、シクロブチリデン、シクロペンチリデン、シクロヘキシリデン、3,3,5-トリメチルシクロヘキシリデン、シクロヘプチリデン、シクロオクチリデン、シクロノニリデン、シクロデシリデン、シクロウンデシリデン、シクロドデシリデン、フルオレニリデン、キサントニリデン、チオキサントニリデンなどが挙げられる。
【0021】
上記一般式(1)で表される化合物として、具体的には、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパン、1,1-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)シクロヘキサン、9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)フルオレン、3,3-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ペンタン、3,3-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)ペンタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ペンタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)ペンタン、3,3-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ヘプタン、3,3-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)ヘプタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ヘプタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)ヘプタン、4,4-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ヘプタン、4,4-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)ヘプタンなどが挙げられるが、何らこれらに限定されるものではない。
【0022】
この中でも、本発明のビスフェノールの製造方法で製造される好適なビスフェノールは、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパンや2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジメチルフェニル)プロパン等である。
【0023】
[芳香族アルコール]
本発明のビスフェノールの製造方法に用いる芳香族アルコールは、通常、以下の一般式(2)で表される化合物である。
【0024】
【化2】
(R1~R4は、上記式(1)のR1~R4におけるものと同義である。)
【0025】
上記一般式(2)で表される化合物として、具体的には、フェノール、クレゾール、キシレノール、エチルフェノール、プロピルフェフェノール、ブチルフェノール、メトキシフェノール、エトキシフェノール、プロポキシフェノール、ブトキシフェノール、アミノフェノール、ベンジルフェニル、フェニルフェノールなどが挙げられる。芳香族アルコールスルホン酸を生成しやすいことから、芳香族アルコールとして、好ましくはアルキル置換芳香族アルコールである。特に好ましくはフェノール、クレゾール、およびキシレノールからなる群から選択されるいずれかである。
【0026】
[ケトン又はアルデヒド]
本発明の製造方法に用いるケトン又はアルデヒドは、通常、以下の一般式(3)で表される化合物である。
【0027】
【化3】
(R5とR6は、上記式(1)のR5、R6におけるものと同義である。)
【0028】
上記一般式(3)で表される化合物として、具体的には、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ブチルアルデヒド、ペンタンアルデヒド、ヘキサンアルデヒド、ヘプタンアルデヒド、オクタンアルデヒド、ノナンアルデヒド、デカンアルデヒド、ウンデカンアルデヒド、ドデカンアルデヒドなどのアルデヒド類、アセトン、ブタノン、ペンタノン、ヘキサノン、ヘプタノン、オクタノン、ノナノン、デカノン、ウンデカノン、ドデカノンなどのケトン類、ベンズアルデヒド、フェニルメチルケトン、フェニルエチルケトン、フェニルプロピルケトン、クレジルメチルケトン、クレジルエチルケトン、クレジルプロピルケトン、キシリルメチルケトン、キシリルエチルケトン、キシリルプロピルケトンなどのアリールアルキルケトン、シクロプロパノン、シクロブタノン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、シクロヘプタノン、シクロオクタノン、シクロノナノン、シクロデカノン、シクロウンデカノン、シクロドデカノンなどの環状アルカンケトン類等が挙げられる。
【0029】
以下、「芳香族アルコールを含む有機相と、硫酸を含む水相とに油水分離した状態で、前記有機相において芳香族アルコールスルホン酸を生成させ、芳香族アルコールスルホン酸を含む反応生成液を得る工程」である工程(1)、「前記芳香族アルコールスルホン酸を含む反応生成液と、ケトン又はアルデヒドとを混合し、前記芳香族アルコールスルホン酸の存在下で、前記芳香族アルコールと、前記ケトン又はアルデヒドとからビスフェノールを生成する工程」である工程(2)について説明する。
【0030】
<工程(1)>
工程(1)は、上述の通り、芳香族アルコールを含む有機相と、硫酸を含む水相とに油水分離した状態で、前記有機相において芳香族アルコールスルホン酸を生成させ、芳香族アルコールスルホン酸を含む反応生成液を得る工程である。
【0031】
[芳香族アルコールを含む有機相]
「芳香族アルコールを含む有機相」とは、油水分離した状態において、芳香族アルコールを含む有機溶液を主成分とする相を意味する。
芳香族アルコールを含む有機相において、芳香族アルコールを含む有機溶液は、芳香族アルコール単独であっても、芳香族アルコールと、芳香族アルコールと異なる有機溶媒との混合溶液であってもよい。
なお、芳香族アルコールを含む有機相における芳香族アルコールは、製造するビスフェノールの原料となる芳香族アルコールと同一のものが使用される。芳香族アルコールとしては、上述の芳香族アルコールが使用できる。
【0032】
芳香族アルコールを含む有機相が、芳香族アルコールと異なる有機溶媒を含む場合、芳香族アルコールと異なる有機溶媒(その他の有機溶媒)は、芳香族アルコールと相溶するものであればよい。使用する芳香族アルコールの種類にもよるが、その他の有機溶媒としては、具体的には、炭素数1~12の直鎖又は分岐の脂肪族アルコールや、脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素等が挙げられる。芳香族アルコールを含む有機相は、その他の有機溶媒として、これらの溶媒の1種以上を含んでもよい。
【0033】
脂肪族アルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、n-プロパノール、i-プロパノール、n-ブタノール、i-ブタノール、t-ブタノール、n-ペンタノール、i-ペンタノール、n-ヘキサノール、n-ヘプタノール、n-オクタノール、n-ノナノール、n-デカノール、n-ウンデカノール、n-ドデカノール、エチレングリコール、ジエチレングルコール、トリエチレングリコールなどが挙げられる。脂肪族アルコールの炭素数は多くなると疎水性が上がり、硫酸と反応しにくくなるため、炭素数は1~12が好ましい。
【0034】
脂肪族炭化水素としては、例えば、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ウンデカン、ドデカン等が挙げられる。
【0035】
芳香族炭化水素としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、ジエチルベンゼン、イソプロピルベンゼン、メシチレンなどが挙げられる。
【0036】
この中でも、硫酸を含む水相との油水分離のし易さや、芳香族アルコールの固化を抑制する等の観点からは、芳香族アルコールと異なる有機溶媒が、トルエン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ウンデカン、ドデカン及びメタノールからなる群から選択される1種以上であることが好ましく、トルエン及び/又はメタノールであることがより好ましい。
【0037】
[硫酸を含む水相]
「硫酸を含む水相」とは、油水分離した状態において、硫酸(H2SO4)と水とを主成分とする相を意味する。硫酸を含む水相における硫酸の濃度は、芳香族アルコールを含む有機溶液の構成等に応じて、有機相と水相とが油水分離できる範囲で適宜決定され、通常70質量%以上である。詳しくは後述する。
【0038】
芳香族アルコールを含む有機相に対する硫酸を含む水相の重量比(硫酸を含む水相の重量/芳香族アルコールを含む有機相の重量)が、少なすぎると有機相に硫酸を含む水相を分散できなくなり、多すぎるとビスフェノール反応後に中和に要する塩基の量が多くなる。そのため、芳香族アルコールを含む有機相に対する硫酸を含む水相の重量比は、0.01以上であることが好ましく、0.05以上であることがより好ましい。また、この重量比の上限は、10以下であることが好ましく、5以下であることがより好ましい。
【0039】
工程(1)では、芳香族アルコールを含む有機相と、硫酸を含む水相とに油水分離した分離状態(懸濁状態)で、任意の時間撹拌することで、芳香族アルコールと硫酸とが反応し、芳香族アルコールスルホン酸が生成される。これにより、芳香族アルコールスルホン酸を含む反応生成液を得ることができる。
【0040】
工程(1)の反応時間が短すぎると芳香族アルコールスルホン酸の生成量が少なくなり、工程(2)においてビスフェノールを生成する反応速度が遅くなり、反応時間が長くなる。また、工程(1)の反応時間が長すぎると、芳香族アルコールが芳香族アルコールスルホン酸となる量が多くなり、ビスフェノールの原料となる芳香族アルコール量が低下し、工程(2)の反応時間が長くなる。そのため、工程(1)の反応時間の下限は、0.1時間以上が好ましく、0.5時間以上がより好ましく、1時間以上がさらに好ましい。また、その上限は、10時間以下であることが好ましく、5時間以下であることがより好ましい。
【0041】
工程(1)の反応温度が高すぎると芳香族アルコールを酸化させ、キノン類などの着色物質の生成が促進されてしまう場合がある。また、反応温度が低すぎると、有機相の構成によっては芳香族アルコールが固化したり、芳香族アルコールスルホン酸の生成反応の進行が遅く、長時間を要する傾向にある。また、上記着色物質や芳香族アルコールスルホン酸の生成速度は、芳香族アルコールを含む有機相や硫酸を含む水相の構成により左右される。そのため、反応温度は芳香族アルコールを含む有機相や硫酸を含む水相の構成に応じて適宜調整される。
【0042】
芳香族アルコールを含む有機相の疎水性が比較的高い場合(例えば、芳香族アルコール及び炭化水素を含む有機相の場合)は、反応温度の上限は、通常80℃未満であり、好ましくは70℃未満であり、より好ましくは60℃未満であり、さらに好ましくは50℃未満である。
【0043】
芳香族アルコールを含む有機相の疎水性が比較的低い場合(例えば、芳香族アルコールや、芳香族アルコールと脂肪族アルコールとの混合溶液からなる有機相の場合)は、反応温度の上限は、60℃未満であることが好ましく、より好ましくは50℃未満である。
【0044】
反応温度の下限は、芳香族アルコールが固化しない温度であればよく、例えば芳香族アルコールからなる有機相では、芳香族アルコールは固化し易いため、その下限は-10℃以上であることが好ましく、-5℃以上であることがより好ましい。
【0045】
芳香族アルコールを含む有機相が、芳香族アルコールと異なる有機溶媒(その他の有機溶媒)を含む場合は、その含有量にもよるが、芳香族アルコールの固化が抑制される傾向にあるので、その下限は、-20℃以上であってもよく、-10℃以上や-5℃以上、0℃以上であってもよい。
【0046】
[反応液の調製方法]
「芳香族アルコールを含む有機相と、硫酸を含む水相とに油水分離した状態」とするための方法は特に限定されないが、芳香族アルコールを含む有機溶液(以下、「O液」と称する場合がある。)と、原料硫酸(以下、「W液」と称する場合がある。)とを混合する方法が一般的である。芳香族アルコールを含む有機溶液と、原料硫酸との混合時に、芳香族アルコールを含む有機溶液の構成成分や原料硫酸の質量濃度を調製することで、油水分離した状態とすることができる。
このように芳香族アルコールを含む有機溶液と、原料硫酸とを混合し、芳香族アルコールを含む有機相と、硫酸を含む水相とに油水分離した状態とする場合、反応開始時の「芳香族アルコールを含む有機相」と「芳香族アルコールを含む有機溶液」の構成は実質的に同じであり、「硫酸を含む水相」と「原料硫酸」の構成は実質的に同じである。
【0047】
「芳香族アルコールを含む有機溶液」とは、芳香族アルコールを主成分とする有機溶媒からなる溶液のことである。
芳香族アルコールを含む有機溶液(O液)は、芳香族アルコールのみからなる溶液であっても、芳香族アルコールと、芳香族アルコールと異なる有機溶媒との混合溶液であってもよい。
なお、芳香族アルコールは、製造するビスフェノールの原料となる芳香族アルコールと同一のものが使用される。芳香族アルコールとしては、上述の芳香族アルコールが使用できる。また、芳香族アルコールと異なる有機溶媒(その他の有機溶媒)としては、芳香族アルコールを含む有機相に含まれる、その他の有機溶媒と同様のものを使用することができる。
【0048】
芳香族アルコールを含む有機溶液(O液)における芳香族アルコールの含有量は、少ないと生成する芳香族アルコールスルホン酸が少なくなる。また、工程(2)においてビスフェノールの原料となる芳香族アルコールが少なくなり、ビスフェノールの生成量が低下する。そのため、芳香族アルコールを含む有機溶液が、芳香族アルコールと異なる有機溶媒を含む場合、芳香族アルコールを含む有機溶液中の芳香族アルコールの含有量は、通常、30質量%以上である。芳香族アルコールの含有量は、40質量%以上であることが好ましく、50質量%以上であることがより好ましい。
【0049】
「原料硫酸」とは、硫酸の水溶液(H2SO4+H2O)のことであり、一般的に、質量濃度に応じて希硫酸や濃硫酸といわれるものである。例えば、希硫酸とは、質量濃度が90質量%未満の原料硫酸である。本発明においては、後述するように、質量濃度が70質量%以上90質量%未満の原料硫酸を用いる方法が好適な方法のひとつである。
【0050】
芳香族アルコールに対する硫酸のモル比(硫酸のモル数/芳香族アルコールのモル数)が少なすぎると芳香族アルコールスルホン酸が生成する量が少なくなる。また、芳香族アルコールに対する硫酸のモル比が多すぎると芳香族アルコールスルホン酸が過剰に生成したり、芳香族アルコールを酸化させ、キノン類などの着色物質を生成させてしまう傾向にある。そのため、この比の下限は、0.01以上であることが好ましく、0.05以上であることがより好ましく、0.1以上であることがさらに好ましい。また、この比の上限は、10以下であることが好ましく、5以下であることがより好ましい。
【0051】
芳香族アルコールを含む有機溶液(O液)と、原料硫酸(W液)との混合比は、原料硫酸の質量濃度等により適宜決定される。芳香族アルコールを含む有機溶液(O液)に対する原料硫酸(W液)の重量比(原料硫酸の重量/芳香族アルコールを含む有機溶液の重量)が、少なすぎると有機相に硫酸を含む水相を分散できなくなり、多すぎるとビスフェノール反応後に中和に要する塩基の量が多くなる。そのため、この重量比は、0.01以上であることが好ましく、0.05以上であることがより好ましい。また、この比の上限は、10以下であることが好ましく、5以下であることがより好ましい。
【0052】
芳香族アルコールを含む有機溶液(O液)と、原料硫酸(W液)とを混合する方法は、特に限定されず、芳香族アルコールを含む有機溶液に原料硫酸を添加しても、原料硫酸に芳香族アルコールを含む有機溶液を添加してもよい。硫酸と芳香族アルコールとを混合すると混合熱により反応温度が上昇する観点からは、芳香族アルコールを含む有機溶液に原料硫酸を添加する方法が好ましい。
【0053】
芳香族アルコールから芳香族アルコールスルホン酸を生成する反応の反応速度は速いため、反応液調製時(芳香族アルコールを含む溶液と原料硫酸との混合時)においても、芳香族アルコールと硫酸とが過剰に接触しないようにすることが好ましい。例えば、芳香族アルコールと、濃硫酸とを混合した後で、水を加えて油水分離させる場合、芳香族アルコールと、濃硫酸との混合時に一旦均一状態となるため、芳香族アルコールスルホン酸が過剰に生成しやすい。
このため、芳香族アルコールを含む有機溶液と、原料硫酸とが反応液調製時においても速やかに油水分離状態となる混合方法とすることが特に好ましい。
【0054】
(油水分離方法(1))
「芳香族アルコールを含む有機相と、硫酸を含む水相とに油水分離した状態」とする好適な方法のひとつは、原料硫酸(W液)として、「質量濃度が70質量%以上、90質量%未満である原料硫酸」(以下、「W’液」と称する場合がある。)を用いる方法である。すなわち、芳香族アルコールを含む有機溶液(O液)と、質量濃度が70質量%以上、90質量%未満である原料硫酸(W’液)とを混合し、前記芳香族アルコールを含む有機相と、前記硫酸を含む水相とに油水分離した状態とする方法(以下、「油水分離方法(1)」と称する場合がある。)である。
このように質量濃度の低い原料硫酸を使用することにより、芳香族アルコールを含む有機溶液との親和性を下げることができ、反応液調製時においても速やかに油水分離状態とすることができる。
【0055】
油水分離方法(1)において、W’液の硫酸の質量濃度は、好ましくは75質量%以上である。また、W’液の硫酸の質量濃度の上限は、好ましくは85質量%以下である。用いるW’液の硫酸の質量濃度が高いと、反応系内における硫酸(H2SO4)の濃度も高くなり、芳香族アルコールを酸化させ、キノン類などの着色物質を生成させてしまう傾向にある。また、用いるW’液の硫酸の質量濃度が低いと、反応系内における硫酸の濃度も低くなり、芳香族アルコールのスルホン化を進行させにくく、工程(2)において、ビスフェノールを製造する反応時間が長くなり、効率的にビスフェノールを製造することが難しい。
【0056】
油水分離方法(1)において、W’液と混合させるO液の構成は特に限定されず上記のものが使用できる。油水分離方法(1)は、硫酸の質量濃度の低いW’液を用いるため、O液の疎水性が比較的低い場合も、O液とW’液との混合時に速やかに油水分離した状態とすることができる。そのため、O液が、芳香族アルコール、又は、芳香族アルコールと脂肪族アルコールとの混合溶液である場合において、油水分離方法(1)は好適である。
【0057】
例えば、芳香族アルコールと脂肪族アルコールとの混合溶液としては、芳香族アルコールの含有量が25質量%以上(好ましくは35質量%以上、より好ましくは45質量%以上)の混合溶液を用いることができる。
上述のように、脂肪族アルコールの炭素数は多くなると疎水性が上がり、硫酸と反応しにくくなるため、脂肪族アルコールとしては、炭素数は1~12の脂肪族アルコールが好ましい。
【0058】
(油水分離方法(2))
「芳香族アルコールを含む有機相と、硫酸を含む水相とに油水分離した状態」とする別の好適な方法は、芳香族アルコールを含む有機溶液(O液)として、「芳香族アルコール及び炭化水素を含む有機溶液」(以下、「O’液」と称する場合がある。)を用いる方法である。すなわち、芳香族アルコール及び炭化水素を含む有機溶液と、原料硫酸とを混合し、前記芳香族アルコールを含む有機相と、前記硫酸を含む水相とに油水分離した状態とする方法(以下、「油水分離方法(2)」と称する場合がある。)である。
このように芳香族アルコールと炭化水素とを含む有機溶液を用いて疎水性を上げることで、親水性の高い硫酸を有機相から水相へ移動させ、反応液調製時においても速やかに油水分離状態とすることができる。
【0059】
油水分離方法(2)で用いられるO’液は、上記のO液が、さらに炭化水素を含むものである。O’液に含まれる炭化水素は、脂肪族炭化水素であっても、芳香族炭化水素であってもよい。炭化水素としては、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、ジエチルベンゼン、イソプロピルベンゼン、メシチレン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ウンデカン、ドデカン等が挙げられる。O’液は、これらの炭化水素を1種以上含んでもよい。脂肪族炭化水素の中でも、ヘキサンまたはヘプタンが好ましい。また、芳香族炭化水素の中でもベンゼンまたはトルエンが好ましく、トルエンがより好ましい。
【0060】
油水分離方法(2)のO’液において、芳香族アルコールに対する炭化水素の重量比(炭化水素の重量/芳香族アルコールの重量)は、0.05以上が好ましく、0.1以上がより好ましい。少なすぎると硫酸と均一溶液となりやすく油水分離しにくく、多すぎると有機相の疎水性が上がり、芳香族アルコールスルホン酸が生成しにくくなるためである。
【0061】
油水分離方法(2)において、原料硫酸(W液)の質量濃度は、油水分離状態とすることができれば特に限定されない。油水分離方法(2)では、W液と混合されるO’液の疎水性が比較的高いため、W液は濃硫酸であってもよい。一方で、用いる原料硫酸の硫酸の質量濃度が低いと、反応系内での硫酸濃度も低くなり、芳香族アルコールのスルホン化を進行させにくく、ビスフェノールを製造する反応時間が長くなり、効率的にビスフェノールを製造することが難しい。そのため、用いられる原料硫酸の硫酸の質量濃度の下限は、好ましくは70質量%以上であり、好ましくは75質量%以上である。原料硫酸の硫酸の質量濃度の上限は、好ましくは99質量%以下である。
【0062】
得られる芳香族アルコールスルホン酸を含む反応生成液は、後述する方法で算出される芳香族アルコールスルホン酸の濃度が、好ましくは0.1質量%以上であり、より好ましくは0.2質量%以上である。また、好ましくは60質量%以下であり、より好ましくは50質量%以下である。本発明の芳香族アルコールスルホン酸の濃度は、低い濃度の場合、ビスフェノールの生成速度が遅くなり、反応時間が長時間化してしまう。また。該芳香族アルコールスルホン酸の濃度が、高い場合、芳香族アルコールに対するビスフェノールの選択率が低減してしまう。
【0063】
(工程(1)で得られた反応生成液中の芳香族アルコールスルホン酸の濃度の測定方法)
工程(1)で得られた反応生成液中の芳香族アルコールスルホン酸の濃度は、芳香族アルコールスルホン酸を含む反応生成液を30分間静置し、油水分離させた上相中に含まれる芳香族アルコールスルホン酸の濃度を示す。油水分離させた上相中に含まれる芳香族アルコールスルホン酸の濃度は、高速液体クロマトグラフィーにより算出した濃度である。詳しい測定条件は、実施例にて説明する。
【0064】
<工程(2)>
工程(2)は、工程(1)で得られた芳香族アルコールスルホン酸を含む反応生成液と、ケトン又はアルデヒドとを混合し、前記芳香族アルコールスルホン酸の存在下で、前記芳香族アルコールと、前記ケトン又は前記アルデヒドからビスフェノールを生成する工程である。
【0065】
上述のように、工程(1)では、芳香族アルコールと硫酸とが反応し、芳香族アルコールや硫酸に加えて、芳香族アルコールスルホン酸を含む反応生成液が得られる。この反応生成液と、ケトン又はアルデヒドとを混合し、芳香族アルコールと、ケトン又はアルデヒドが縮合反応させることにより、ビスフェノールが生成する。
【0066】
より詳しくは、硫酸及び芳香族アルコールスルホン酸を触媒として芳香族アルコールとケトン又はアルデヒドとが縮合し、ビスフェノールが生成する。
具体的には、ビスフェノールの反応は、通常、以下に示す反応式(4)に従って行われる。
【0067】
【化4】
(式中、R1~R6は、式(1)におけるものと同義である。)
【0068】
工程(1)で得られた反応生成液と、ケトン又はアルデヒドとの混合比は、工程(1)で得られた反応生成液に含まれる芳香族アルコール及び芳香族アルコールスルホン酸の量(モル数)に応じて適宜決定される。
ケトン又はアルデヒドに対する芳香族アルコール及び芳香族アルコールスルホン酸のモル比((芳香族アルコール及び芳香族アルコールスルホン酸のモル数/ケトンのモル数)又は(芳香族アルコール及び芳香族アルコールスルホン酸のモル数/アルデヒドのモル数))が少ない場合ケトン又はアルデヒドが多量化しやすい。また、このモル比が多い場合は、芳香族アルコールを未反応のまま損出する。これらのことから、ケトン又はアルデヒドに対する芳香族アルコール及び芳香族アルコールスルホン酸のモル比の下限は、好ましくは1.5以上、より好ましくは1.6以上、更に好ましくは1.7以上である。また、その上限は、好ましくは15以下、より好ましくは10以下、更に好ましくは8以下である。
なお、工程(1)で得られた反応生成液に含まれる芳香族アルコール及び芳香族アルコールスルホン酸の量(モル数)は、工程(1)における反応液調製時の芳香族アルコールの量(モル数)と実質同一である。
【0069】
工程(1)で得られた反応生成液と、ケトン又はアルデヒドとの混合は、通常、工程(1)で得られた反応生成液に、ケトン又はアルデヒドを供給し行われる。このケトン又はアルデヒドの供給方法は、一括で供給する方法、または分割して供給する方法を用いることができる。ビスフェノールを生成する反応が発熱反応であることから、少しずつ滴下して供給するような分割して供給する方法が好ましい。
【0070】
工程(2)における縮合反応の反応温度は、高温の場合ケトン又はアルデヒドの多量化が進行しやすく、低温の場合は反応に要する時間が長時間化する。これらのことから、反応温度は、好ましくは-20℃以上、より好ましくは-10℃以上、更に好ましくは-5℃以上である。また、好ましくは100℃以下、より好ましくは80℃以下、更に好ましくは70℃以下である。
【0071】
工程(2)において、縮合反応の反応時間は、長い場合生成したビスフェノールが分解する場合があることから、好ましくは15時間以内、より好ましくは10時間以内、更に好ましくは5時間以内である。なお、用いる原料硫酸と同等量以上の水を加えて反応系内での硫酸濃度を低下させ、反応を停止することが可能である。
【0072】
[チオール]
工程(2)においては、更に、チオールを添加することが好ましい。用いるチオールとしては、例えば、メルカプト酢酸、チオグリコール酸、2-メルカプトプロピオン酸、3-メルカプトプロピオン酸、4-メルカプト酪酸などのメルカプトカルボン酸、メチルメルカプタン、エチルメルカプタン、プロピルメルカプタン、ブチルメルカプタン、ペンチルメルカプタン、へキシルメルカプタン、へプチルメルカプタン、オクチルメルカプタン、ノニルメルカプタン、デシルメルカプタン、ウンデシルメルカプタン、ドデシルメルカプタン等である。
【0073】
工程(2)において、ケトン又はアルデヒドに対する該チオールのモル比((該チオールのモル数/ケトンのモル数)又は(該チオールのモル数/アルデヒドのモル数))は、少ない場合、ビスフェノールの選択性改善の効果が得られにくい。また、多い場合、ビスフェノールに混入して品質が悪化する場合がある。これらのことから、ケトン又はアルデヒドに対する該チオールのモル比は、好ましくは0.001以上、より好ましくは0.005以上、更に好ましくは0.01以上であり、また、好ましくは1以下、より好ましくは0.5以下、更に好ましくは0.1以下である。
【0074】
[有機溶媒]
工程(2)において、ビスフェノールを生成する反応は、更に、トルエン、キシレンなどの溶媒を加えて、溶媒存在下で行っても良い。また、更に、メタノール、エタノール、プロパノールなどの脂肪族アルコールを添加して行っても良い。特に脂肪族アルコールを添加することで硫酸と反応して硫酸モノアルキルが生成して触媒作用を示すことから、脂肪族アルコールの添加が好ましい。
ビスフェノールの製造後、使用した有機溶媒(工程(1)の芳香族アルコールを含む有機溶液に含まれる有機溶媒、または、工程(2)において追加した有機溶媒)は、蒸留などで回収及び精製して再使用することが可能である。
また、有機溶媒を使わず芳香族アルコールを多量に使用して有機溶媒の代わりにする場合、未反応の芳香族アルコールは損失となることから、蒸留などにより回収及び精製して再使用することが可能である。
【0075】
[精製方法]
本発明のビスフェノールの製造方法の縮合反応によって得られた前記ビスフェノールの精製は、常法により行うことができる。例えば、晶析やカラムクロマトグラフィーなどの簡便な手段により精製することが可能である。具体的には、縮合反応後、反応液を分液して得られた有機相を水又は食塩水などで洗浄し、更に必要に応じて重曹水などで中和洗浄する。次いで、洗浄後の有機相を冷却し晶析させる。芳香族アルコールを多量に用いる場合は、該晶析前に蒸留による余剰の芳香族アルコールを留去してから晶析させる。
【0076】
[ビスフェノールの用途]
本発明のビスフェノールの製造方法で得られるビスフェノールは、光学材料、記録材料、絶縁材料、透明材料、電子材料、接着材料、耐熱材料など種々の用途に用いられるポリエーテル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアリレ-ト樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリウレタン樹脂、アクリル樹脂など種々の熱可塑性樹脂や、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、ポリベンゾオキサジン樹脂、シアネート樹脂など種々の熱硬化性樹脂などの構成成分、硬化剤、添加剤もしくはそれらの前駆体などとして用いることができる。また、感熱記録材料等の顕色剤や退色防止剤、殺菌剤、防菌防カビ剤等の添加剤としても有用である。
【0077】
これらのうち、良好な機械物性を付与できることから、熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂の原料(モノマ-)として用いることが好ましく、中でもポリカーボネート樹脂、エポキシ樹脂の原料として用いることがより好ましい。また、顕色剤として用いることも好ましく、特にロイコ染料、変色温度調整剤と組み合わせて用いることがより好ましい。
【0078】
<ポリカーボネート樹脂の製造方法>
本発明のビスフェノールの製造方法にて得られたビスフェノールを原料とするポリカーボネート樹脂の製造方法について説明する。本発明のポリカーボネート樹脂の製造方法にて得られるポリカーボネート樹脂は、本発明のビスフェノールと、炭酸ジフェニル等の炭酸ジエステルとを、例えば、アルカリ金属化合物及び/又はアルカリ土類金属化合物の存在下でエステル交換反応させる方法などにより製造することができる。上記エステル交換反応は、公知の方法を適宜選択して行うことができるが、以下に本発明のビスフェノールと炭酸ジフェニルを原料とした一例を説明する。
【0079】
上記のポリカーボネート樹脂の製造方法において、炭酸ジフェニルは、本発明のビスフェノールに対して過剰量用いることが好ましい。該ビスフェノールに対して用いる炭酸ジフェニルの量は、製造されたポリカーボネート樹脂に末端水酸基が少なく、ポリマーの熱安定性に優れる点では多いことが好ましく、また、エステル交換反応速度が速く、所望の分子量のポリカーボネート樹脂を製造し易い点では少ないことが好ましい。これらのことから、ビスフェノール1モルに対して使用する炭酸ジフェニルの量は、通常1.001モル以上、好ましくは1.002モル以上であり、また、通常1.3モル以下、好ましくは1.2モル以下である。
【0080】
原料の供給方法としては、本発明のビスフェノール及び炭酸ジフェニルを固体で供給することもできるが、一方又は両方を、溶融させて液体状態で供給することが好ましい。
【0081】
炭酸ジフェニルとビスフェノールとのエステル交換反応でポリカーボネート樹脂を製造する際には、通常、エステル交換触媒が使用される。上記のポリカーボネート樹脂の製造方法においては、このエステル交換触媒として、アルカリ金属化合物及び/又はアルカリ土類金属化合物を使用するのが好ましい。これらは、1種類で使用してもよく、2種類以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。実用的には、アルカリ金属化合物を用いることが望ましい。
【0082】
ビスフェノール又は炭酸ジフェニル1モルに対して用いられるエステル交換触媒の触媒量は、通常0.05μモル以上、好ましくは0.08μモル以上、さらに好ましくは0.10μモル以上であり、また、通常100μモル以下、好ましくは50μモル以下、さらに好ましくは20μモル以下である。
【0083】
エステル交換触媒の使用量が上記範囲内であることにより、所望の分子量のポリカーボネート樹脂を製造するのに必要な重合活性を得やすく、且つ、ポリマー色相に優れ、また過度のポリマーの分岐化が進まず、成形時の流動性に優れたポリカーボネート樹脂を得やすい。
【0084】
上記方法によりポリカーボネート樹脂を製造するには、上記の両原料を、原料混合槽に連続的に供給し、得られた混合物とエステル交換触媒を重合槽に連続的に供給することが好ましい。
エステル交換法によるポリカーボネート樹脂の製造においては、通常、原料混合槽に供給された両原料は、均一に攪拌された後、エステル交換触媒が添加される重合槽に供給され、ポリマーが生産される。
【実施例
【0085】
以下、実施例および比較例によって、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例により限定されるものではない。
【0086】
[原料及び試薬]
2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパン(以下、ビスフェノールCと称する)、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジメチルフェニル)プロパン(以下、テトラメチルビスフェノールAと称する)、オルトクレゾール、2,6-ジメチルフェノール(本願では、キシレノールとも称する)、トルエン、水酸化ナトリウム、原料硫酸、ドデカンチオール、メタノール、アセトン、塩化ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、及び炭酸セシウムは、和光純薬株式会社製の試薬を使用した。
クレゾールスルホン酸水溶液は、キシダ化学株式会社製の試薬を使用した。
炭酸ジフェニルは、三菱ケミカル株式会社製の製品を使用した。
【0087】
[評価]
<芳香族アルコールスルホン酸を含む反応生成液及びビスフェノールを含む反応生成液の組成分析>
ビスフェノールCを含む反応生成液、クレゾールスルホン酸を含む反応生成液、テトラメチルビスフェノールAを含む反応生成液、及び、ジメチルフェノールスルホン酸を含む反応生成液の組成分析は、高速液体クロマトグラフィーにより、以下の手順と条件で行った。
・装置:島津製作所社製LC-2010A、Imtakt ScherzoSM-C18 3μm 150mm×4.6mmID
・方式:低圧グラジェント法
・分析温度:40℃
・溶離液組成:
A液 酢酸アンモニウム:酢酸:脱塩水=3.000g:1mL:1Lの溶液
B液 酢酸アンモニウム:酢酸:アセトニトリル=1.500g:1mL:900mLの溶液
・分析時間0分ではA液:B液=60:40(体積比、以下同様。)
分析時間0~25分は溶離液組成をA液:B液=90:10へ徐々に変化させ、
分析時間25~30分はA液:B液=90:10に維持
・流速:0.8mL/分
・検出波長:280nm
なお、クレゾールスルホン酸の濃度はクレゾール換算値、ジメチルフェノールスルホン酸の濃度はジメチルフェノール換算値とした。
【0088】
<油水分離の評価>
撹拌を停止した後、30分間静置する。静置後、油水界面が生じたことで油水分離の有無を評価した。
【0089】
<色調の評価>
実施例1-1~1-4及び比較例1-1のクレゾールスルホン酸溶液の色調は、静置した後に、得られた芳香族アルコールスルホン酸を含む反応生成液の有機相の色調を目視で評価した。
それ以外の実施例および比較例の芳香族アルコールスルホン酸を含む反応生成液の色調は、1時間撹拌した後の色調を目視で評価した。
判断基準は無色を◎、淡黄色を○、黄色を△、赤みのある黄色を×とした。
なお、得られるビスフェノールの色調は、芳香族アルコールスルホン酸を含む反応生成液の色調と相関しているため、本実施例では、芳香族アルコールスルホン酸を含む反応生成液の評価とした。
【0090】
<ビスフェノールCの溶融時のハーゼン色数の測定>
ビスフェノールCの溶融時のハーゼン色数の測定は、色差計を用いて、以下の手順と条件で行った。
分光色差計用の試験管は、日本理化硝子製の試験管(24mm×200m/m P-24)を使用した。
装置は、日本電色工業株式会社製「SE-6000」を使用した。
ハーゼン色数の測定は、ビスフェノールCを入れた分光色差計用の試験管をアルミブロックヒーターで所定の温度で加熱し、所定時間となったところで30秒以内に行った。
【0091】
<粘度平均分子量(Mv)>
粘度平均分子量(Mv)は、ポリカーボネート樹脂を塩化メチレンに溶解し(濃度6.0g/L)、ウベローデ粘度管を用いて20℃における比粘度(ηsp)を測定し、下記の式により粘度平均分子量(Mv)を算出した。
ηsp/C=[η](1+0.28ηsp)
[η]=1.23×10-4Mv0.83
【0092】
<ポリカーボネート樹脂の末端水酸基濃度(OH濃度)>
ポリカーボネート樹脂の末端水酸基濃度(OH濃度)は、四塩化チタン/酢酸法(Makromol.Chem. 88,215(1965)参照)に準拠し、比色定量を行うことにより測定した。
【0093】
<ペレットYI>
ペレットYI(ポリカーボネート樹脂の透明性)は、ASTM D1925に準拠して、ポリカーボネート樹脂ペレットの反射光におけるYI値(イエローネスインデックス値)を測定して評価した。
装置はコニカミノルタ社製分光測色計CM-5を用い、測定条件は測定径30mm、SCEを選択した。
シャーレ測定用校正ガラスCM-A212を測定部にはめ込み、その上からゼロ校正ボックスCM-A124をかぶせてゼロ校正を行い、続いて内蔵の白色校正板を用いて白色校正を行った。次いで、白色校正板CM-A210を用いて測定を行い、L*が99.40±0.05、a*が0.03±0.01、b*が-0.43±0.01、YIが-0.58±0.01となることを確認した。
ペレットの測定は、内径30mm、高さ50mmの円柱ガラス容器にペレットを40mm程度の深さまで詰めて測定を行った。ガラス容器からペレットを取り出してから再度測定を行う操作を2回繰り返し、計3回の測定値の平均値を用いた。
【0094】
[実施例1-1]
(1)芳香族アルコールスルホン酸を含む反応生成液を得る工程(1)
(1-1)反応
温度計、滴下ロート、ジャケット及びイカリ型撹拌翼を備えた1Lのセパラブルフラスコに、オルトクレゾール150g(1.4モル)、トルエン35gを入れた後、90質量%の原料硫酸125gを入れた。セパラブルフラスコ内の混合物を30℃に維持し、懸濁状態(油水分離した状態)で30分撹拌し、クレゾールスルホン酸を含む反応生成液(1-1a)を得た。
上記30分の撹拌終了後、反応生成液(1-1a)を30分間静置させたところ、油水分離したことからも、反応は油水分離した状態で行われたと判断した。
【0095】
(1-2)芳香族アルコールスルホン酸を含む反応生成液の色調の評価及び有機相の組成分析
上記30分間静置させた後の油水分離した反応生成液(1-1a)の上相の有機相(クレゾールスルホン酸溶液と称する)は、淡黄色であった。該有機相の一部を取出し、炭酸水素ナトリウムで中和した後、高速液体クロマトグラフィーで有機相中の組成を確認したところ、クレゾールスルホン酸が36.7質量%生成していた。
【0096】
(2)ビスフェノールを生成する工程(2)
(2-1)反応
前記滴下ロートに、アセトン31g(0.5モル)、ドデカンチオール4gを入れた。
次に、セパラブルフラスコ内を30℃に維持した状態で、前記反応生成液(1-1a)へ、該滴下ロート内の溶液を30分かけて滴下し、得られた反応液を30℃に維持した状態で更に30分撹拌した。
その後、該セパラブルフラスコに水125g及び酢酸エチル125gを加えて撹拌した後、静置させて油水分離した。油水分離後、水相をセパラブルフラスコの底から除去した。得られた有機相に、飽和炭酸水素ナトリウム溶液を加えて撹拌して中和し、油水分離した。油水分離後、水相をセパラブルフラスコの底から除去し、ビスフェノールCを含む反応生成液(1-1b)(有機相)を得た。
【0097】
(2-2)ビスフェノールを含む反応生成液の組成分析
得られた反応生成液(1-1b)の一部を取出し、高速液体クロマトグラフィーにより反応生成液(1-1b)の組成を確認したところ、オルトクレゾールが24.1面積%、ビスフェノールCが25.6面積%、その他の副生物が50.3面積%であった。
【0098】
[実施例1-2]
(1)芳香族アルコールスルホン酸を含む反応生成液を得る工程(1)
(1-1)反応
温度計、滴下ロート、ジャケット及びイカリ型撹拌翼を備えた1Lのセパラブルフラスコに、オルトクレゾール150g(1.4モル)、トルエン35g及びメタノール7gを入れた後、90質量%の原料硫酸125gを入れた。セパラブルフラスコ内の混合物を30℃に維持し、油水分離した状態で30分撹拌し、クレゾールスルホン酸を含む反応生成液(1-2a)を得た。
上記30分の撹拌終了後、反応生成液(1-2a)を30分間静置させたところ、油水分離したことからも、反応は油水分離した状態で行われたと判断した。
【0099】
(1-2)芳香族アルコールスルホン酸を含む反応生成液の色調の評価及び有機相の組成分析
上記30分間静置させた後の油水分離した反応生成液(1-2a)の上相の有機相(クレゾールスルホン酸溶液と称する)は、淡黄色であった。該有機相の1部を取出し、炭酸水素ナトリウムで中和した後、高速液体クロマトグラフィーで有機相中の組成を確認したところ、クレゾールスルホン酸が15.9質量%生成していた。
【0100】
(2)ビスフェノールを生成する工程(2)
(2-1)反応
前記滴下ロートに、アセトン31g(0.5モル)、ドデカンチオール4gを入れた。 次に、セパラブルフラスコ内を30℃に維持した状態で、前記反応生成液(1-2a)へ該滴下ロート内の溶液を30分かけて滴下し、得られた反応液を30℃に維持した状態で更に30分撹拌した。その後、該セパラブルフラスコに水125g及び酢酸エチル125gを加えて撹拌した後、静置させて油水分離した。油水分離後、水相をセパラブルフラスコの底から除去した。得られた有機相に、飽和炭酸水素ナトリウム溶液を加えて撹拌して中和し、油水分離した。油水分離後、水相をセパラブルフラスコの底から除去し、ビスフェノールCを含む反応生成液(1-2b)を得た。
【0101】
(2-2)ビスフェノールを含む反応生成液の組成分析
得られた反応生成液(1-2b)の一部を取出し、高速液体クロマトグラフィーにより反応生成液(1-2b)の組成を確認したところ、オルトクレゾールが25.6面積%、ビスフェノールCが33.1面積%、その他の副生物が41.3面積%であった。
【0102】
[実施例1-3]
(1)芳香族アルコールスルホン酸を含む反応生成液を得る工程(1)
(1-1)反応
温度計、滴下ロート、ジャケット及びイカリ型撹拌翼を備えた1Lのセパラブルフラスコに、オルトクレゾール150g(1.4モル)、ヘキサン10gを入れた後、90質量%の原料硫酸125gを入れた。セパラブルフラスコ内の混合物を30℃に維持し、懸濁状態(油水分離した状態)で30分撹拌し、クレゾールスルホン酸を含む反応生成液(1-3a)を得た。
また、30分撹拌終了後、反応生成液(1-3a)を30分間静置させたところ、油水分離したことからも、反応は油水分離した状態で行われたと判断した。
【0103】
(1-2)芳香族アルコールスルホン酸を含む反応生成液の色調の評価及び有機相の組成分析
上記30分間静置させた後の油水分離した反応生成液(1-3a)の上相の有機相(クレゾールスルホン酸溶液と称する)は、淡黄色であった。該有機相の1部を取出し、炭酸水素ナトリウムで中和した後、高速液体クロマトグラフィーで有機相中の組成を確認したところ、クレゾールスルホン酸が44.7質量%生成していた。
【0104】
(2)ビスフェノールを生成する工程(2)
(2-1)反応
前記滴下ロートに、アセトン31g(0.5モル)、ドデカンチオール4gを入れた。 次に、セパラブルフラスコ内を30℃に維持した状態で、前記反応生成液(1-3a)へ該滴下ロート内の溶液を30分かけて滴下し、得られた反応液を30℃に維持した状態で更に30分撹拌した。その後、該セパラブルフラスコに水125g及び酢酸エチル125gを加えて撹拌した後、静置させて油水分離した。油水分離後、水相をセパラブルフラスコの底から除去した。得られた有機相に、飽和炭酸水素ナトリウム溶液を加えて撹拌して中和し、油水分離した。油水分離後、水相をセパラブルフラスコの底から除去し、ビスフェノールCを含む反応生成液(1-3b)を得た。
【0105】
(2-2)ビスフェノールを含む反応生成液の組成分析
得られた反応生成液(1-3b)の一部を取出し、高速液体クロマトグラフィーにより反応生成液(1-3b)の組成を確認したところ、オルトクレゾールが27.8面積%、ビスフェノールCが11.2面積%、その他の副生物が61.0面積%であった。
【0106】
[実施例1-4]
(1)芳香族アルコールスルホン酸を含む反応生成液を得る工程(1)
(1-1)反応
温度計、滴下ロート、ジャケット及びイカリ型撹拌翼を備えた1Lのセパラブルフラスコに、オルトクレゾール150g(1.4モル)、オルトキシレン10gを入れた後、90質量%の原料硫酸125gを入れた。セパラブルフラスコ内の混合物を30℃に維持し、懸濁状態(油水分離した状態)で30分撹拌し、クレゾールスルホン酸を含む反応生成液(1-4a)を得た。
上記30分の撹拌終了後、反応生成液(1-4a)を30分間静置させたところ、油水分離したことからも、反応は油水分離した状態で行われたと判断した。
【0107】
(1-2)芳香族アルコールスルホン酸を含む反応生成液の色調の評価及び有機相の組成分析
上記30分間静置させた後の油水分離した反応生成液(1-4a)の上相の有機相(クレゾールスルホン酸溶液と称する)は、淡黄色であった。該有機相の1部を取出し、炭酸水素ナトリウムで中和した後、高速液体クロマトグラフィーで有機相中の組成を確認したところ、クレゾールスルホン酸が22.1質量%生成していた。
【0108】
(2)ビスフェノールを生成する工程(2)
(2-1)反応
前記滴下ロートに、アセトン31g(0.5モル)、ドデカンチオール4gを入れた。次に、セパラブルフラスコ内を30℃に維持した状態で、前記反応生成液(1-4a)へ該滴下ロート内の溶液を30分かけて滴下し、得られた反応液を30℃に維持した状態で更に30分撹拌した。その後、該セパラブルフラスコに水125g及び酢酸エチル125gを加えて撹拌した後、静置させて油水分離した。油水分離後、水相をセパラブルフラスコの底から除去した。得られた有機相に、飽和炭酸水素ナトリウム溶液を加えて撹拌して中和し、油水分離した。油水分離後、水相をセパラブルフラスコの底から除去し、ビスフェノールCを含む反応生成液(1-4b)を得た。
【0109】
(2-2)ビスフェノールを含む反応生成液の組成分析
得られた反応生成液(1-4b)の一部を取出し、高速液体クロマトグラフィーにより反応生成液(1-4b)の組成を確認したところ、オルトクレゾールが28.1面積%、ビスフェノールCが10.1面積%、その他の副生物が61.8面積%であった。
【0110】
[比較例1-1]
(1)芳香族アルコールスルホン酸を含む反応生成液を得る工程
(1-1)反応
温度計、滴下ロート、ジャケット及びイカリ型撹拌翼を備えた1Lのセパラブルフラスコに、オルトクレゾール150g(1.4モル)及び90質量%の原料硫酸125gを入れた。セパラブルフラスコ内の混合物を30℃に維持した状態で30分撹拌し、クレゾールスルホン酸を含む反応生成液(1-1a’)を得た。このとき、反応液は懸濁しておらず、反応は油水分離した状態で行われなった。さらに上記30分の撹拌終了後、反応生成液(1-1a’)を30分間静置させたところ、油水分離しなかった。
【0111】
(1-2)芳香族アルコールスルホン酸を含む反応生成液の色調の評価及び有機相の組成分析
上記30分静置させた後の反応生成液(1-1a’)の上層は、赤みのある黄色であった。反応生成液(1-1a’)の上層の1部を取出し、炭酸水素ナトリウムで中和した後、高速液体クロマトグラフィーで有機相中の組成を確認したところ、クレゾールスルホン酸が36.8質量%生成していた。
【0112】
(2)ビスフェノールを生成する工程
(2-1)反応
前記滴下ロートに、アセトン31g(0.5モル)、ドデカンチオール4gを入れた。
次に、セパラブルフラスコ内を30℃に維持した状態で、前記反応生成液(1-1a’)へ該滴下ロート内の溶液を30分かけて滴下し、得られた反応液を30℃に維持した状態で更に30分撹拌した。その後、該セパラブルフラスコに水125g及び酢酸エチル125gを加えて撹拌した後、静置させて油水分離した。油水分離後、水相をセパラブルフラスコの底から除去した。得られた有機相に、飽和炭酸水素ナトリウム溶液を加えて撹拌して中和し、油水分離した。油水分離後、水相をセパラブルフラスコの底から除去し、ビスフェノールCを含む反応生成液(1-1b’)を得た。
【0113】
(2-2)ビスフェノールを含む反応液の組成分析
得られた反応生成液(1-1b’)の一部を取出し、高速液体クロマトグラフィーにより反応生成液(1-1b’)の組成を確認したところ、オルトクレゾールが18.3面積%、ビスフェノールCが2面積%、その他の副生物が79.7面積%であった。
【0114】
実施例1-1~1-4及び比較例1について、芳香族アルコールを含む有機溶液種類、工程(1)の油水分離の有無、クレゾールスルホン酸を含む反応生成液中のクレゾールスルホン酸量、クレゾールスルホン酸溶液の色調、ビスフェノールCを含む反応生成液中のオルトクレゾール、ビスフェノールC、その他の副生物の量を表1に纏めた。表1の結果より、油水分離した状態で工程(1)においてクレゾールスルホン酸を生成させることで、クレゾールスルホン酸溶液の色調は良好であり、またビスフェノールC量が多く、更にその他の副生物量が少ないことが分かる。
【0115】
【表1】
【0116】
[実施例2-1]
(1)芳香族アルコールスルホン酸を含む反応生成液を得る工程(1)
(1-1)反応
コンデンサー、滴下ロート、ジャケット及びイカリ型撹拌翼を備えた1Lのセパラブルフラスコに、オルトクレゾール150g(1.4モル)、及び80質量%の原料硫酸125gを入れて30℃に維持し、懸濁状態(油水分離した状態)で1時間撹拌し、クレゾールスルホン酸を含む反応生成液(2-1a)を得た。
【0117】
(1-2)芳香族アルコールスルホン酸を含む反応生成液の色調の評価
得られた反応生成液(2-1a)には、着色は見られなかった。
【0118】
(1-3)芳香族アルコールスルホン酸の生成反応時油水分離の評価
上記1時間の撹拌終了後、反応生成液(2-1a)を30分静置したところ、油水分離した。
【0119】
(1-4)芳香族アルコールスルホン酸を含む反応生成液の有機相の組成分析
上記30分静置させた後の油水分離した反応生成液(2-1a)の上相の有機相の一部を取出し、炭酸水素ナトリウムで中和した後、高速液体クロマトグラフィーで有機相中の組成を確認したところ、クレゾールスルホン酸が2.51質量%生成していることを確認した。
【0120】
(2)ビスフェノールを生成する工程(2)
(2-1)反応
前記滴下ロートに、トルエン130g、アセトン31g(0.5モル)、ドデカンチオール4gを入れた。次に、セパラブルフラスコ内を30℃に維持した状態で、前記反応生成液(2-1a)へ該滴下ロート内の溶液を30分かけて滴下し、得られた反応液を30℃に維持した状態で更に30分撹拌した。その後、該セパラブルフラスコに水125g及び酢酸エチル125gを加えて撹拌した後、静置させて油水分離した。油水分離後、水相をセパラブルフラスコの底から除去し、ビスフェノールCを含む反応生成液(2-1b)を得た。
【0121】
(2-2)ビスフェノールを含む反応生成液の組成分析
得られた反応生成液(2-1b)に、飽和炭酸水素ナトリウム溶液を加えて撹拌して中和し、油水分離した。油水分離後、水相をセパラブルフラスコの底から除去した。得られた反応生成液(2-1b)の一部を取出し、高速液体クロマトグラフィーによりビスフェノールC反応液の組成を確認したところ、オルトクレゾールが18.5面積%、ビスフェノールCが76.2面積%、その他の副生物が5.3面積%であった。
【0122】
[実施例2-2]
実施例2-1において、80質量%の原料硫酸125gの代わりに、70質量%の原料硫酸125gを用いたこと以外は、実施例2-1と同様に実施し、工程(1)においてクレゾールスルホン酸を含む反応生成液(2-2a)を得た後、工程(2)においてビスフェノールCを含む反応生成液(2-2b)を得た。
【0123】
(芳香族アルコールスルホン酸を含む反応生成液の色調の評価)
得られたクレゾールスルホン酸を含む反応生成液(2-2a)には、着色は見られなかった。
【0124】
(芳香族アルコールスルホン酸の生成反応時の油水分離の評価)
反応時は、懸濁状態で油水分離しており、また、反応生成液(2-2a)を静置したところ、油水分離した。
【0125】
(芳香族アルコールスルホン酸を含む反応生成液の有機相の組成分析)
得られた反応生成液(2-2a)の有機相の一部を取出し、炭酸水素ナトリウムで中和した後、高速液体クロマトグラフィーで有機相中の組成を確認したところ、クレゾールスルホン酸が0.08質量%生成していることを確認した。
【0126】
(ビスフェノールを含む反応生成液の組成分析)
また、ビスフェノールCを含む反応生成液(2-2b)の組成を確認したところ、オルトクレゾールが78.3面積%、ビスフェノールCが19.8面積%、その他の副生物が1.9面積%であった。
【0127】
[比較例1-2]
実施例2-1において、80質量%の原料硫酸125gの代わりに、90質量%の原料硫酸125gを用いたこと以外は、実施例2-1と同様に実施し、工程(1)においてクレゾールスルホン酸を含む反応生成液(1-2a’)を得た後、工程(2)においてビスフェノールCを含む反応生成液(1-2b’)を得た。
【0128】
(芳香族アルコールスルホン酸を含む反応生成液の色調の評価)
得られたクレゾールスルホン酸を含む反応生成液(1-2a’)は、赤みのある黄色であった。
【0129】
(芳香族アルコールスルホン酸の生成反応時の油水分離の評価)
反応時は、懸濁状態でなく、また、反応生成液(1-2a’)を静置したところ、油水分離しなかった。
【0130】
(芳香族アルコールスルホン酸を含む反応生成液の組成分析)
得られた反応生成液(1-2a’)の有機相の一部を取出し、炭酸水素ナトリウムで中和した後、高速液体クロマトグラフィーで有機相中の組成を確認したところ、クレゾールスルホン酸が22.1質量%生成していることを確認した。
【0131】
[比較例1-3]
実施例2-1において、80質量%の原料硫酸125gの代わりに、60質量%の原料硫酸125gを用いたこと以外は、実施例2-1と同様に実施し、工程(1)においてクレゾールスルホン酸を含む反応生成液(1-3a’)を得た後、工程(2)においてビスフェノールCを含む反応生成液(1-3b’)を得た。
【0132】
(芳香族アルコールスルホン酸を含む反応生成液の色調の評価)
得られたクレゾールスルホン酸を含む反応生成液(1-3a’)には、着色は見られなかった。
【0133】
(芳香族アルコールスルホン酸の生成反応時の油水分離の評価)
反応時は、懸濁状態で油水分離しており、また、反応生成液(1-3a’)を静置したところ、油水分離した。
【0134】
(芳香族アルコールスルホン酸を含む反応生成液の有機相の組成分析)
得られた反応生成液(1-3a’)の有機相の一部を取出し、炭酸水素ナトリウムで中和した後、高速液体クロマトグラフィーで有機相中の組成を確認したところ、クレゾールスルホン酸は検出限界以下であった。
【0135】
(ビスフェノールを含む反応生成液の組成分析)
また、ビスフェノールCを含む反応生成液(1-3b’)の組成を確認したところ、オルトクレゾールが100面積%、ビスフェノールCは検出されなかった。
【0136】
実施例2-1、2-2及び比較例1-2、1-3について、用いた原料硫酸の濃度、得られたクレゾールスルホン酸を含む反応生成液の油水分離の有無及び色調、クレゾールスルホン酸を含む反応生成液中のクレゾールスルホン酸量、ビスフェノールを含む反応生成液中のオルトクレゾール量、ビスフェノールC量、その他の副生物量を表2に纏めた。
疎水性が比較的低いオルトクレゾールのみを有機溶液として用いて反応を行うと、比較例1-2に示すように、原料硫酸の質量濃度が高いと油水分離せず、得られるクレゾールスルホン酸を含む反応生成溶液が著しく着色する結果となる。
【0137】
【表2】
【0138】
[実施例2-3]
実施例2-1において、オルトクレゾール150g(1.4モル)及び80質量%の原料硫酸125gを入れて30℃に維持したまま1時間撹拌したことの代わりに、オルトクレゾール150g(1.4モル)及び80質量%の原料硫酸125gを入れて50℃に維持したまま1時間撹拌したこと以外は、実施例2-1と同様に実施し、工程(1)においてクレゾールスルホン酸を含む反応生成液(2-3a)を得た後、工程(2)においてビスフェノールCを含む反応生成液(2-3b)を得た。
【0139】
(芳香族アルコールスルホン酸を含む反応生成液の色調の評価)
得られたクレゾールスルホン酸を含む反応生成液(2-3a)の色調は、黄色を呈していた。
【0140】
(芳香族アルコールスルホン酸の生成反応時の油水分離の評価)
反応時は、懸濁状態で油水分離しており、また、反応生成液(2-3a)を静置したところ、油水分離した。
【0141】
(芳香族アルコールスルホン酸を含む反応生成液の有機相の組成分析)
得られた反応生成液(2-3a)の有機相の一部を取出し、炭酸水素ナトリウムで中和した後、高速液体クロマトグラフィーで有機相中の組成を確認したところ、クレゾールスルホン酸が27.6質量%生成していることを確認した。
【0142】
(ビスフェノールを含む反応液の組成分析)
ビスフェノールCを含む反応生成液(2-3b)の組成を確認したところ、オルトクレゾールが32.9面積%、ビスフェノールCが57.8面積%、その他の副生物が9.2面積%であった。
【0143】
実施例2-1及び2-3について、工程(1)の反応温度、クレゾールスルホン酸を含む反応生成液の色調、得られたビスフェノールCを含む生成反応液の有機相中のオルトクレゾール、ビスフェノールCの量、その他の副生物の量を表3に纏めた。工程(1)の反応温度を上げると、クレゾールスルホン酸を含む反応生成液の色調が悪化する傾向にあることが分かる。また、その他の副生物量が増加し、ビスフェノールC量が低下することから、ビスフェノールCの選択率が低下することが分かる。
【0144】
【表3】
【0145】
[比較例2]
(1)芳香族アルコールスルホン酸を含む反応生成液を得る工程
(1-1)反応
温度計、滴下ロート、ジャケット及びイカリ型撹拌翼を備えたセパラブルフラスコに、オルトクレゾール51.6g(0.48モル)、98%硫酸2.7gを仕込んだ。加えた硫酸は、オルトクレゾールに溶解して均一溶液となった(油水分離しなかった)。該均一溶液を、80℃まで昇温した。同温度で1時間撹拌し、クレゾールスルホン酸を含む反応生成液(2a’)を得た。
(1-2)芳香族アルコールスルホン酸を含む反応生成液の組成分析
反応生成液(2a’)の一部を取出し、炭酸水素ナトリウムで中和した後、高速液体クロマトグラフィーで反応生成液(2a’)の有機相中の組成を確認したところ、クレゾールスルホン酸が10.50質量%生成していることを確認した。
【0146】
(2)ビスフェノールを生成する工程
得られた反応生成液(2a’)を60℃まで冷却した。そこへ、アセトン2.8g(0.048モル)、ドデシルメルカプタン1.1gを加え、60℃で3分間撹拌した。その後、30℃まで冷却し、1時間撹拌した。得られた反応液に、飽和炭酸水素ナトリウム溶液を加えて撹拌して中和し、水相を除去し、ビスフェノールCを含む反応生成液(2b’)(有機相)を得た。得られた反応生成液(2b’)の一部を取出し、高速液体クロマトグラフィーにより反応生成液(2b’)の組成を確認したところ、オルトクレゾールが61.11面積%、ビスフェノールCが27.50面積%、その他の副生物が11.39面積%であった。
【0147】
[実施例3]
(1)芳香族アルコールスルホン酸を含む生成反応液を得る工程(1)
(1-1)反応
温度計、滴下ロート、ジャケット及びイカリ型撹拌翼を備えたセパラブルフラスコに、窒素雰囲気下でメタノール5g及びオルトクレゾール235g(2.2モル)を入れた後に、80質量%原料硫酸250gをゆっくり加え、30℃に維持した状態で1時間撹拌し、クレゾールスルホン酸を含む反応生成液(3a)を得た。
【0148】
(1-2)芳香族アルコールスルホン酸を含む反応生成液の色調の評価
得られた反応生成液(3a)には、着色は見られなかった。
【0149】
(1-3)芳香族アルコールスルホン酸の生成反応時の油水分離の評価
反応時は、懸濁状態で油水分離しており、また、反応生成液(3a)を静置したところ、油水分離した。
【0150】
(2)ビスフェノールを生成する工程(2)
(2-1)反応
前記滴下ロートにトルエン250g、ドデカンチオール7.5g、アセトン61g(1.1モル)を入れてアセトン混合物を調製し、滴下ロートを用いて該アセトン混合物を1時間かけてゆっくりセパラブルフラスコ内の反応生成液(3a)へ滴下して供給した。該アセトン混合物の滴下終了後、更に30分間混合させた。
反応終了後、トルエン60.0g及び脱塩水175.5gを供給して80℃まで昇温した。80℃に到達後、静置させ反応中に析出していた物が有機相及び水相に溶解したことを確認した後、下相の水相を抜き出した。その後、得られた有機相へ飽和の炭酸水素ナトリウム溶液を加えて中和し、下相の水相pHが9以上になったことを確認した。下相の水相を抜出した後、得られた有機相に脱塩水を加えて10分間撹拌した。撹拌後、静置し、水相を抜き出し、ビスフェノールCを含む反応生成液(3b)を得た。
【0151】
(2-2)ビスフェノールを含む反応液の有機相の組成分析
得られた反応生成液(3b)の一部を取り出し、高速液体クロマトグラフィーで反応生成液(3b)の組成を確認したところ、オルトクレゾールが16.1面積%、ビスフェノールCが80.7面積%、その他の生成物が3.2面積%であった。
【0152】
(2-3)精製
この反応生成液(3b)を80℃から30℃まで冷却して、30℃に到達時にした時に種晶ビスフェノールC 1gを添加させて析出を確認した。その後、10℃まで冷却して10℃到達後、ガラスフィルターを用いて減圧濾過を行い、湿潤状態の粗ビスフェノールCを得た。
温度計及び撹拌機を備えたフルジャケット式1Lのセパラブルフラスコに、前記粗ビスフェノールC全量とトルエン449gを入れ、80℃に昇温した。均一溶液となったことを確認し、該有機相を脱塩水600gで2回に分けて十分洗浄した。その後、得られた有機相に2500質量ppmの塩化ナトリウム水溶液7.5gを加え、そのまま80℃から10℃まで冷却した。その後、遠心分離器(毎分3000回転で10分間)を用いて濾過を行い、湿潤状態の精ビスフェノールCを得た。オイルバスを備えたエバポレータを用いて、減圧下オイルバス温度100℃で軽沸分を留去することで、白色のビスフェノールC生成物(3) 180.9gを得た。
【0153】
(2-4)ハーゼン色数の評価
分光色差計用の試験管に該ビスフェノールC生成物(3)15gを入れ、194℃に設定したアルミブロックヒーターに入れて、ビスフェノールC生成物(3)の溶融液を調製した。加熱開始から30分後、色差計で該溶融液を測定したところ、ハーゼン色数(APHA)は15と良好であった。
【0154】
(3)ポリカーボネート樹脂の合成
(3-1)合成
撹拌機及び留出管を備えた内容量150mLのガラス製反応槽に、該ビスフェノールC生成物(3)100.00g(0.39モル)、炭酸ジフェニル86.49g(0.4モル)及び400質量ppmの炭酸セシウム水溶液479μLを入れた。該ガラス製反応槽を約100Paに減圧し、続いて、窒素で大気圧に復圧する操作を3回繰り返し、反応槽の内部を窒素に置換した。その後、該反応槽を200℃のオイルバスに浸漬させ、内容物を溶解した。撹拌機の回転数を毎分100回とし、反応槽内のビスフェノールCと炭酸ジフェニルのオリゴマー化反応により副生するフェノールを留去しながら、40分間かけて反応槽内の圧力を、絶対圧力で101.3kPaから13.3kPaまで減圧した。続いて反応槽内の圧力を13.3kPaに保持し、フェノールを更に留去させながら、80分間、エステル交換反応を行った。その後、反応槽外部温度を250℃に昇温すると共に、40分間かけて反応槽内圧力を絶対圧力で13.3kPaから399Paまで減圧し、留出するフェノールを系外に除去した。その後、反応槽外部温度を280℃に昇温、反応槽の絶対圧力を30Paまで減圧し、重縮合反応を行った。反応槽の撹拌機が予め定めた所定の撹拌動力となったときに、重縮合反応を終了した。次いで、反応槽を窒素により絶対圧力で101.3kPaに復圧した後、ゲージ圧力で0.2MPaまで昇圧し、反応槽の底からポリカーボネートをストランド状で抜出し、ストランド状のポリカーボネート樹脂を得た。その後、回転式カッターを使用して、該ストランドをペレット化して、ペレット状のポリカーボネート樹脂を得た。
【0155】
(3-2)ポリカーボネート樹脂の評価
該ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量(Mv)は24800であり、末端水酸基濃度(OH)濃度は769質量ppmであった。またペレットYIは、7.62であった。
【0156】
[比較例3]
80質量%の原料硫酸250gの代わりに、92質量%の原料硫酸250gを用いたこと以外は、実施例3と同様に実施し、工程(1)においてクレゾールスルホン酸を含む反応生成液(3a’)を得た後、工程(2)においてビスフェノールC生成物(3’)を得た。
【0157】
(芳香族アルコールスルホン酸を含む反応生成液の色調の評価)
クレゾールスルホン酸を含む反応生成液(3a’)は、黄色であった。
【0158】
(芳香族アルコールスルホン酸の生成反応時の油水分離の評価)
反応時は、均一溶液であり、また、反応生成液(3a’)を静置しても、油水分離は確認されなかった。
【0159】
(ハーゼン色数の評価)
分光色差計用の試験管に得られたビスフェノールC生成物(3’)15gを入れ、194℃に設定したアルミブロックヒーターに入れて、ビスフェノールC生成物(3’)の溶融液を調製した。加熱開始から30分後、色差計で該溶融液を測定したところ、ハーゼン色数(APHA)は189であった。
【0160】
[実施例4]
(1)芳香族アルコールスルホン酸を含む反応生成液を得る工程(1)
(1-1)反応
コンデンサー、滴下ロート、ジャケット及びイカリ型撹拌翼を備えた1Lのセパラブルフラスコを50℃に維持し、溶融したキシレノール150g(1.2モル)及びトルエン40gを入れた。その後、80質量%の原料硫酸125gを入れて静置したところ、油水分離した。該混合物を50℃に維持したまま、30分間撹拌し、キシレノールスルホン酸を含む反応生成液(4a)を得た。
【0161】
(1-2)芳香族アルコールスルホン酸を含む反応生成液の色調の評価
得られた反応生成液(4a)は、淡黄色であった。
【0162】
(1-3)芳香族アルコールスルホン酸の生成反応時の油水分離の評価
反応時は、懸濁状態で油水分離しており、上記30分の撹拌終了後、反応生成液(4a)を静置したところ、油水分離した。
【0163】
(1-4)芳香族アルコールスルホン酸を含む反応生成液の有機相の組成分析
得られた反応生成液(4a)の有機相(以下、キシレノールスルホン酸溶液と称する)の一部を取出し、炭酸水素ナトリウムで中和した後、高速液体クロマトグラフィーで有機相中の組成を確認したところ、キシレノールスルホン酸が3.8質量%生成していることを確認した。
【0164】
(2)ビスフェノールを生成する工程(2)
(2-1)反応
得られた反応生成液(4a)を、混合しながら50℃から30℃に降温した。 前記滴下ロートに、アセトン31g(0.5モル)、ドデカンチオール4gを入れた。次に、30℃に維持した状態で、該滴下ロート内の溶液を30分かけて、反応生成溶液(4a)へ滴下し、得られた反応液を30℃に維持した状態で更に30分撹拌した。その後、該セパラブルフラスコに水125g及び酢酸エチル125gを加えて撹拌した後、静置させて油水分離した。油水分離後、水相をセパラブルフラスコの底から除去した。得られた有機相に、飽和炭酸水素ナトリウム溶液を加えて撹拌して中和し、油水分離した。油水分離後、水相をセパラブルフラスコの底から除去し、テトラメチルビスフェノールAを含む反応生成液(4b)を得た。
【0165】
(2-2)ビスフェノールを含む反応液の組成分析
得られた反応生成液(4b)の一部を取出し、高速液体クロマトグラフィーにより反応生成液(4b)の組成を確認したところ、キシレノールが39.0面積%、テトラメチルビスフェノールAが49.8面積%、その他の副生物が11.2面積%であった。
【0166】
[比較例4]
(1)芳香族アルコールスルホン酸を生成する工程
(1-1)反応
コンデンサー、滴下ロート、ジャケット及びイカリ型撹拌翼を備えた1Lのセパラブルフラスコを50℃に維持し、溶融したキシレノール150g(1.2モル)を入れた。その後、98質量%の原料硫酸125gを入れて静置したところ、均一溶液となった。該混合物を50℃に維持したまま30分間撹拌したところ、固化した。
【0167】
(1-2)芳香族アルコールスルホン酸を含む反応生成液の有機相の組成分析
得られた固体(以下、キシレノールスルホン酸混合物と称する)の一部を取出しアセトニトリルに溶解させ、炭酸水素ナトリウムで中和した後、高速液体クロマトグラフィーで有機相中の組成を確認したところ、キシレノールスルホン酸が68.5質量%生成していることを確認した。
【0168】
(2)ビスフェノールを生成する工程
(2-1)反応
得られたキシレノールスルホン酸混合物を、混合しながら50℃から30℃に降温した。前記滴下ロートに、アセトン31g(0.5モル)、ドデカンチオール4gを入れた。固化しているため混合不良であったが、30℃に維持した状態で、該滴下ロート内の溶液を30分かけて滴下し、得られた反応液を30℃に維持した状態で更に30分撹拌した。その後、該セパラブルフラスコに水125g及び酢酸エチル125gを加えて撹拌した後、静置させて油水分離した。油水分離後、水相をセパラブルフラスコの底から除去した。得られた有機相に、飽和炭酸水素ナトリウム溶液を加えて撹拌して中和し、油水分離した。油水分離後、水相をセパラブルフラスコの底から除去し、テトラメチルビスフェノールAを含む反応生成液(4b’)を得た。
【0169】
(2-2)ビスフェノールを含む反応液の有機相の組成分析
得られた反応生成液(4b’)の一部を取出し、高速液体クロマトグラフィーにより反応生成液(4b’)の組成を確認したところ、キシレノールが96.7面積%、テトラメチルビスフェノールAが1.3面積%、その他の副生物が2.0面積%であった。
【0170】
実施例4及び比較例4について、原料硫酸を入れた後の油水分離の有無、キシレノールスルホン酸量、テトラメチルビスフェノールAの量を表4に纏めた。油水分離しない場合、キシレノールと硫酸との反応が進行し、キシレノールスルホン酸が多量に生成するが、固化してしまうことで混合不良となり、テトラメチルビスフェノールAの生成量がほとんど得られないことがわかる。一方、油水分離させることで、キシレノールスルホン酸量を制御することが可能であり、固化することもない。また、混合不良ではないことから、テトラメチルビスフェノールAを多く得ることができることが分かる。
【0171】
【表4】
【0172】
[実施例5]
(1)芳香族アルコールスルホン酸を含む反応生成液を得る工程(1)
温度計、滴下ロート、ジャケット及びイカリ型撹拌翼を備えたセパラブルフラスコに、窒素雰囲気下でトルエン320g、メタノール12g、オルトクレゾール230g(2.13モル)を入れ、内温を10℃以下とした。その後、撹拌しながら98重量%原料硫酸95gを0.3時間かけてゆっくり加えた後、5℃以下まで冷やし、クレゾールスルホン酸を含む反応生成液(5a)を得た。
なお、反応時は、懸濁状態で油水分離しており、上記0.3時間の撹拌終了後、反応生成液(1-1a)を30分間静置させたところ、油水分離したことからも、反応は油水分離した状態で行われたと判断した。
【0173】
(2)ビスフェノールを生成する工程(2)
(2-1)反応
500mLの三角フラスコに、トルエン50g、アセトン65g(1.12モル)、ドデカンチオール5.4gを混合し、滴下液を調製した。
反応生成液(5a)が入ったセパラブルフラスコの内温を5℃以下にした。次いで、前記滴下ロートを用いて滴下液を、前記内温が10℃以上にならないように反応生成液(5a)へ1時間かけて供給した。さらに、内温が10℃で、2.5時間撹拌し、ビスフェノールを含む反応生成液(5b)を得た。
【0174】
(2-2)精製(洗浄)
反応終了後、25%水酸化ナトリウム水溶液190gを供給して80℃まで昇温した。80℃に到達後、静置させて、下相の水相を抜き出した。得られた第1の有機相に脱塩水100gを入れ、30分混合して静置し、水相を除去した。得られた第2の有機相に1.5質量%の炭酸水素ナトリウム溶液100gを加えて、30分混合して静置し、下相を抜き出した。得られた第3の有機相に更に1.5質量%の炭酸水素ナトリウム溶液120gを加えて、30分混合して静置し、下相を抜き出した。得られた第4の有機相を抜出し、その質量を測定したところ、666gであった。
【0175】
(2-3)ビスフェノールを含む反応液の有機相の組成分析
第4の有機相の一部を取り出し、高速液体クロマトグラフィーにより第4の有機相の組成を確認した。第4の有機相中のオルトクレゾールおよびビスフェノールCは、検量線をそれぞれ作成し、質量%として算出した。測定の結果、オルトクレゾールが5.8質量%(5.8質量%×有機相の質量666g÷オルトクレゾールの分子量108g/モル÷仕込んだオルトクレゾールの物質量2.1モル=16.8モル%)、ビスフェノールCが31.4質量%(31.4質量%×有機相の質量666g×2÷ビスフェノールCの分子量256g/モル÷仕込んだオルトクレゾールの物質量2.1モル=76.7モル%)であった。
【0176】
(2-4)精製(晶析)
得られた第4の有機相を80℃から20℃まで冷却して、20℃で維持させ、ビスフェノールCを析出させた。その後、10℃まで冷却して10℃到達後、遠心分離機を用いて固液分離を行い、ウェットケーキを得た。
温度計及び撹拌機を備えたフルジャケット式1リットルのセパラブルフラスコに、前記粗ビスフェノールC全量とトルエン373gを入れ、80℃に昇温した。均一溶液となったことを確認し、第5の有機相を得た。得られた第5の有機相に、脱塩水200gを加え、30分混合し静置し、下相の水相(第1の水相)を除去した。なお、第1の水相のpHは、9.7であった。得られた第6の有機相に、脱塩水200gを加え、30分混合し静置し、下相の水相(第2の水相)を除去した。得られた第7の有機相に、脱塩水200gを加え、30分混合し静置し、下相の水相(第3の水相)を除去した。
得られた第8の有機相を、80℃から10℃まで冷却した。その後、遠心分離器(毎分3000回転で10分間)を用いて濾過を行い、ウェットの精ビスフェノールCを得た。オイルバスを備えたエバポレータを用いて、減圧下オイルバス温度100℃で軽沸分を留去することで、白色のビスフェノールC生成物(5) 193gを得た。
【0177】
(2-5)ハーゼン色数の評価
得られたビスフェノールC生成物(5)の190℃溶融色差は、ハーゼン色数APHA21であった。
【0178】
(3)ポリカーボネート樹脂の合成
(3-1)合成
撹拌機及び留出管を備えた内容量150mLのガラス製反応槽に、前記ビスフェノールC生成物(5)100.00g(0.39モル)、炭酸ジフェニル86.49g(0.4モル)及び400質量ppmの炭酸セシウム水溶液479μLを入れた。該ガラス製反応槽を約100Paに減圧し、続いて、窒素で大気圧に復圧する操作を3回繰り返し、反応槽の内部を窒素に置換した。その後、該反応槽を200℃のオイルバスに浸漬させ、内容物を溶解した。
撹拌機の回転数を毎分100回とし、反応槽内のビスフェノールCと炭酸ジフェニルのオリゴマー化反応により副生するフェノールを留去しながら、40分間かけて反応槽内の圧力を、絶対圧力で101.3kPaから13.3kPaまで減圧した。続いて反応槽内の圧力を13.3kPaに保持し、フェノールを更に留去させながら、80分間、エステル交換反応を行った。その後、反応槽外部温度を250℃に昇温すると共に、40分間かけて反応槽内圧力を絶対圧力で13.3kPaから399Paまで減圧し、留出するフェノールを系外に除去した。
その後、反応槽外部温度を280℃に昇温、反応槽の絶対圧力を30Paまで減圧し、重縮合反応を行った。反応槽の撹拌機が予め定めた所定の撹拌動力となったときに、重縮合反応を終了した。280℃に昇温してから重合を終了するまでの時間(後段重合時間)は170分であった。
次いで、反応槽を窒素により絶対圧力で101.3kPaに復圧した後、ゲージ圧力で0.2MPaまで昇圧し、反応槽の底からポリカーボネートをストランド状で抜出し、ストランド状のポリカーボネート樹脂を得た。
その後、回転式カッターを使用して、該ストランドをペレット化して、ペレット状のポリカーボネート樹脂を得た。
【0179】
(3-2)ポリカーボネート樹脂の評価
ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量(Mv)は24800であり、ペレットYIは、7.4であった。
【産業上の利用可能性】
【0180】
本発明のビスフェノールの製造方法は、芳香族アルコールスルホン酸を生成させ、硫酸と共に該芳香族アルコールスルホン酸を触媒とすることで、ビスフェノールの選択率を改善し、良好な色調のビスフェノールを製造することが可能である。また、得られたビスフェノールを用いて良好な色調のポリカーボネート樹脂を製造することができる。