(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-21
(45)【発行日】2022-11-30
(54)【発明の名称】エチレン-ビニルアルコール系共重合体樹脂組成物、多層構造体および包装体
(51)【国際特許分類】
C08L 29/04 20060101AFI20221122BHJP
C08K 5/09 20060101ALI20221122BHJP
C08K 5/098 20060101ALI20221122BHJP
B32B 27/28 20060101ALI20221122BHJP
B65D 65/40 20060101ALI20221122BHJP
【FI】
C08L29/04 S
C08K5/09
C08K5/098
B32B27/28 102
B65D65/40 D
(21)【出願番号】P 2018556943
(86)(22)【出願日】2018-10-26
(86)【国際出願番号】 JP2018039793
(87)【国際公開番号】W WO2019083000
(87)【国際公開日】2019-05-02
【審査請求日】2021-08-11
(31)【優先権主張番号】P 2017207706
(32)【優先日】2017-10-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2017207954
(32)【優先日】2017-10-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079382
【氏名又は名称】西藤 征彦
(74)【代理人】
【識別番号】100123928
【氏名又は名称】井▲崎▼ 愛佳
(74)【代理人】
【識別番号】100136308
【氏名又は名称】西藤 優子
(74)【代理人】
【識別番号】100207295
【氏名又は名称】寺尾 茂泰
(72)【発明者】
【氏名】小室 綾平
【審査官】谷合 正光
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-071711(JP,A)
【文献】特開平10-001570(JP,A)
【文献】特開2012-031405(JP,A)
【文献】特開2005-082226(JP,A)
【文献】国際公開第2017/110989(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 29/04
C08K 5/09
C08K 5/098
B32B 27/28
B65D 65/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレン-ビニルアルコール系共重合体(A)、脂肪族カルボン酸(B)、上記脂肪族カルボン酸(B)の金属塩である脂肪族カルボン酸金属塩(C)、アルカリ金属化合物(D)を含有する樹脂組成物であって、上記脂肪族カルボン酸(B)が炭素数3~30の脂肪族カルボン酸であり、上記脂肪族カルボン酸金属塩(C)の金属種が、長周期型周期表第4周期dブロックに属する元素から選ばれる少なくとも1種であり、上記脂肪族カルボン酸(B)、上記脂肪族カルボン酸金属塩(C)、上記アルカリ金属化合物(D)の各含有量が、重量基準で下記式(1)および(2)を満たすことを特徴とするエチレン-ビニルアルコール系共重合体樹脂組成物。
[式]
0.05≦((D)金属換算含有量/(C)金属換算含有量)≦
15・・・(1)
[式]
0.001≦{(D)金属換算含有量/〔(B)含有量/((B)含有量+(C)金属換算含有量)〕}≦
0.8・・・(2)
【請求項2】
上記脂肪族カルボン酸(B)の含有量が、上記脂肪族カルボン酸(B)と上記脂肪族カルボン酸金属塩(C)との含有量の総和に対して、0.01~40重量%であることを特徴とする請求項1記載のエチレン-ビニルアルコール系共重合体樹脂組成物。
【請求項3】
上記脂肪族カルボン酸金属塩(C)の金属換算での含有量が、上記エチレン-ビニルアルコール系共重合体(A)、脂肪族カルボン酸(B)、脂肪族カルボン酸金属塩(C)およびアルカリ金属化合物(D)の含有量の総和に対して、0.0001~0.05重量%であることを特徴とする請求項1または2に記載のエチレン-ビニルアルコール系共重合体樹脂組成物。
【請求項4】
上記アルカリ金属化合物(D)の金属換算での含有量が、上記エチレン-ビニルアルコール系共重合体(A)、脂肪族カルボン酸(B)、脂肪族カルボン酸金属塩(C)およびアルカリ金属化合物(D)との含有量の総和に対して、0.001~0.1重量%であることを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載のエチレン-ビニルアルコール系共重合体樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載のエチレン-ビニルアルコール系共重合体樹脂組成物からなる層を有することを特徴とする多層構造体。
【請求項6】
上記請求項5記載の多層構造体からなることを特徴とする包装体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エチレン-ビニルアルコール系共重合体(以下、「EVOH」と称する場合がある。)樹脂組成物に関し、さらに詳しくは、耐衝撃性に優れ、かつ接着強度にも優れるEVOH樹脂組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
EVOHは、分子鎖に豊富に含まれる水酸基が強固に水素結合して結晶部を形成し、かかる結晶部が外部からの酸素の侵入を防止するため、酸素バリア性をはじめとして、優れたガスバリア性を示すものである。このEVOHは、一般的に樹脂を積層した積層体の中間層に用いられ、各種包装体として使用されている。
【0003】
上述のようにEVOHは、ガスバリア性に優れる反面、分子鎖に水酸基を豊富に有し結晶化度が高いため、脆い傾向にあり、衝撃等により包装体中のEVOH層が割れたりピンホールが発生したりして、破壊される場合がある。
【0004】
そのため、EVOHの耐衝撃性改善を目的として、例えば、特許文献1および2には、EVOHとエチレン-酢酸ビニル共重合体からなる樹脂組成物層を有する積層包装体が開示されている。また、特許文献3および4には、EVOHとエチレン-酢酸ビニル共重合体の部分ケン化物からなる樹脂組成物層を有する積層体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開昭61-220839号公報
【文献】特開昭62-152847号公報
【文献】特開平1-279949号公報
【文献】特開平3-192140号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記特許文献1~4ではEVOHの一部をEVOH以外の樹脂に置き替えて配合するため、樹脂組成物中のEVOHの割合が低下し、EVOH由来のガスバリア性が低下する傾向がある。
また、近年、インターネットショッピングの普及、発展途上国の経済成長等に伴い、物品流通のボーダーレス化が急速に進み、食品や薬品等の輸送期間が長期化する傾向があり、長期輸送時や取扱中における落下や衝突に対する高い耐衝撃性と、さらに優れたガスバリア性を兼ね備えたEVOH系多層構造体(包装材)が求められている。
【0007】
そこで、本発明ではこのような背景下において、EVOH以外の樹脂を配合せずとも耐衝撃性に優れ、かつ接着強度にも優れたEVOH樹脂組成物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
しかるに本発明者は、かかる事情に鑑み鋭意研究を重ねた結果、EVOHに脂肪族カルボン酸と、長周期型周期表第4周期dブロックに属する元素から選ばれる少なくとも1種の金属種を有する上記脂肪族カルボン酸の金属塩を配合し、かつアルカリ金属化合物を併用することにより、耐衝撃性に優れ、かつ接着強度にも優れたEVOH樹脂組成物が得られることを見出した。
【0009】
すなわち、一般的に脂肪酸金属塩は、EVOHの熱分解を促進し、EVOH樹脂組成物の耐衝撃性を低下させることが知られており、EVOHの機械的特性(耐衝撃性)改善を目的とした場合に、EVOHに脂肪酸金属塩を配合することは当業者であれば避けるものである。しかし、本発明者が、EVOHに、脂肪族カルボン酸と、その特定の金属塩を併用し、かつアルカリ金属化合物を、特定の関係を満たすように併用したところ、その機械的特性(耐衝撃性)が、従来の予想に反して改善されることを見出した。
【0010】
このように、本発明は、EVOH(A)、脂肪族カルボン酸(B)、上記脂肪族カルボン酸(B)の金属塩である脂肪族カルボン酸金属塩(C)、アルカリ金属化合物(D)を含有する樹脂組成物であって、上記脂肪族カルボン酸金属塩(C)の金属種が、長周期型周期表第4周期dブロックに属する元素から選ばれる少なくとも1種であり、上記脂肪族カルボン酸(B)、上記脂肪族カルボン酸金属塩(C)、上記アルカリ金属化合物(D)の各含有量が、重量基準で下記式(1)および(2)を満たすEVOH樹脂組成物、を第1の要旨とする。
[式]0.01≦((D)金属換算含有量/(C)金属換算含有量)≦30・・・(1)
[式]0.0005≦{(D)金属換算含有量/〔(B)含有量/((B)含有量+(C)金属換算含有量)〕}≦1・・・(2)
【0011】
また、上記第1の要旨のEVOH樹脂組成物からなる層を有する多層構造体を第2の要旨とし、上記第2の要旨の多層構造体からなる包装体を第3の要旨とするものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明のEVOH樹脂組成物は、エチレン-ビニルアルコール系共重合体、すなわちEVOH(A)、脂肪族カルボン酸(B)、上記脂肪族カルボン酸(B)の金属塩である脂肪族カルボン酸金属塩(C)、アルカリ金属化合物(D)を含有する樹脂組成物であって、上記脂肪族カルボン酸金属塩(C)の金属種が、長周期型周期表第4周期dブロックに属する元素から選ばれる少なくとも1種であり、上記脂肪族カルボン酸(B)、上記脂肪族カルボン酸金属塩(C)、上記アルカリ金属化合物(D)の各含有量が、重量基準で下記式(1)および(2)を満たすものであるため、EVOH以外の樹脂を配合しなくても、製膜した際の耐衝撃性に優れ、かつ接着強度にも優れている。
[式]0.01≦((D)金属換算含有量/(C)金属換算含有量)≦30・・・(1)
[式]0.0005≦{(D)金属換算含有量/〔(B)含有量/((B)含有量+(C)金属換算含有量)〕}≦1・・・(2)
【0013】
また、上記脂肪族カルボン酸(B)の含有量が、上記脂肪族カルボン酸(B)と上記脂肪族カルボン酸金属塩(C)との含有量の総和に対して、0.01~40重量%であると、より耐衝撃性および接着強度に優れている。
【0014】
また、上記脂肪族カルボン酸金属塩(C)の金属換算での含有量が、上記EVOH(A)、脂肪族カルボン酸(B)、脂肪族カルボン酸金属塩(C)およびアルカリ金属化合物(D)の含有量の総和に対して、0.0001~0.05重量%であると、より一層、耐衝撃性、色調安定性および接着強度に優れたものとなる。
【0015】
また、上記アルカリ金属化合物(D)の金属換算での含有量が、上記EVOH(A)、脂肪族カルボン酸(B)、脂肪族カルボン酸金属塩(C)およびアルカリ金属化合物(D)との含有量の総和に対して、0.001~0.1重量%であると、より製膜した際の耐衝撃性と接着強度に優れ、さらに色調安定性にも優れている。
【0016】
また、本発明の多層構造体は、上記EVOH樹脂組成物からなる層を有することから、耐衝撃性に優れ、かつ接着強度にも優れている。
【0017】
さらに、本発明の包装体は、上記多層構造体からなることから、得られる包装体もまた、耐衝撃性に優れ、かつ接着強度にも優れている。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を詳細に説明するが、これらは望ましい実施態様の一例を示すものである。
【0019】
本発明のEVOH樹脂組成物は、EVOH(A)、脂肪族カルボン酸(B)、脂肪族カルボン酸金属塩(C)およびアルカリ金属化合物(D)を含むものである。以下、各構成成分について説明する。
【0020】
<EVOH(A)>
本発明で用いるEVOH(A)は、通常、エチレンとビニルエステル系モノマーとを共重合させた後にケン化させることにより得られる樹脂であり、エチレン-ビニルアルコール系共重合体またはエチレン-酢酸ビニル系共重合体ケン化物として知られる非水溶性の熱可塑性樹脂である。重合法も公知の任意の重合法、例えば、溶液重合、懸濁重合、エマルジョン重合を用いることができるが、一般的にはメタノールを溶媒とする溶液重合が用いられる。得られたエチレン-ビニルエステル系共重合体のケン化も公知の方法で行なうことができる。
【0021】
すなわち、本発明で用いるEVOH(A)は、エチレン構造単位とビニルアルコール構造単位とを主とし、ケン化されずに残存した若干量のビニルエステル構造単位を含むものである。なお、EVOHは、一般的にエチレン-ビニルエステル系共重合体ケン化物とも称される。
【0022】
上記ビニルエステル系モノマーとしては、市場からの入手のしやすさや製造時の不純物の処理効率がよい点から、代表的には酢酸ビニルが用いられる。この他、ビニルエステル系モノマーとしては、例えば、ギ酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、酪酸ビニル、イソ酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、バーサチック酸ビニル等の脂肪族ビニルエステル、安息香酸ビニル等の芳香族ビニルエステル等が挙げられる。なかでも、好ましくは炭素数3~20、より好ましくは炭素数4~10、特に好ましくは炭素数4~7の脂肪族ビニルエステルである。これらは通常単独で用いるが、必要に応じて複数種を同時に用いてもよい。
【0023】
上記EVOH(A)におけるエチレン構造単位の含有量は、ISO14663に基づいて測定される値で、通常20~60モル%、好ましくは25~50モル%、特に好ましくは25~35モル%である。かかる含有量が少なすぎると、高湿時のガスバリア性、溶融成形性が低下する傾向があり、逆に多すぎると、ガスバリア性が低下する傾向がある。
【0024】
上記EVOH(A)におけるビニルエステル成分のケン化度は、JIS K6726(ただし、EVOHは水/メタノール溶媒に均一に溶解した溶液にて)に基づいて測定される値で、通常90~100モル%、好ましくは95~100モル%、特に好ましくは99~100モル%である。かかるケン化度が低すぎる場合にはガスバリア性、熱安定性、耐湿性等が低下する傾向がある。
【0025】
また、上記EVOH(A)のメルトフローレート(MFR)(210℃、荷重2160g)は、通常0.5~100g/10分であり、好ましくは1~50g/10分、特に好ましくは3~35g/10分である。かかるMFRが高すぎると、製膜性が低下する傾向がある。また、MFRが低すぎると溶融押出が困難となる傾向がある。
【0026】
本発明に用いられるEVOH(A)には、エチレン構造単位、ビニルアルコール構造単位(未ケン化のビニルエステル構造単位を含む)の他、以下に示すコモノマーに由来する構造単位が、さらに含まれていてもよい。前記コモノマーとしては、例えば、プロピレン、イソブテン、α-オクテン、α-ドデセン、α-オクタデセン等のα-オレフィン;3-ブテン-1-オール、4-ペンテン-1-オール、3-ブテン-1,2-ジオール等のヒドロキシ基含有α-オレフィン類やそのエステル化物、アシル化物等のヒドロキシ基含有α-オレフィン誘導体;1,3-ジアセトキシ-2-メチレンプロパン、1,3-ジプロピオニルオキシ-2-メチレンプロパン、1,3-ジブチロニルオキシ-2-メチレンプロパン等のヒドロキシメチルビニリデンジアセテート類;不飽和カルボン酸またはその塩,部分アルキルエステル,完全アルキルエステル,ニトリル,アミド若しくは無水物;不飽和スルホン酸またはその塩;ビニルシラン化合物;塩化ビニル;スチレン等が挙げられる。
【0027】
さらに、上記EVOH(A)としては、ウレタン化、アセタール化、シアノエチル化、オキシアルキレン化等の「後変性」されたEVOHを用いることもできる。
【0028】
そして、上記のような変性されたEVOHのなかでも、共重合によって一級水酸基が側鎖に導入されたEVOHは、延伸処理や真空・圧空成形等の二次成形性が良好になる点で好ましく、とりわけ、1,2-ジオール構造を側鎖に有するEVOHが好ましい。
【0029】
また、本発明で使用されるEVOH(A)は、異なる他のEVOHとの混合物であってもよく、かかる他のEVOHとしては、エチレン構造単位含有率が異なるもの、ケン化度が異なるもの、メルトフローレート(MFR)(210℃、荷重2160g)が異なるもの、他の共重合成分が異なるもの、変性量が異なるもの(例えば、側鎖に一級水酸基を含有する構造単位の含有量が異なるもの)等を挙げることができる。
【0030】
<脂肪族カルボン酸(B)>
本発明のEVOH樹脂組成物は、脂肪族カルボン酸(B)を含有するものであり、上記脂肪族カルボン酸(B)の炭素数としては、通常3~30、好ましくは4~20、特に好ましくは5~14である。脂肪族カルボン酸(B)の炭素数が上記範囲内であると、発明の効果がより効果的に得られる傾向がある。
【0031】
上記脂肪族カルボン酸(B)としては、具体的には、例えば、[脂肪族モノカルボン酸]酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ヘンイコシル酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、モンタン酸、メリシン酸、タルトロン酸、グリセリン酸、ヒドロキシ酪酸、リンゴ酸、酒石酸、グルコン酸、メバロン酸、パントイン酸等の飽和脂肪族モノカルボン酸、リノール酸、リノレン酸、ピノレン酸、エレオステアリン酸、イソステアリン酸、イソノナン酸、2-エチルヘキサン酸、2-ヘプチルウンデカン酸、2-オクチルドデカン酸、パルミトレイン酸、サピエン酸、オレイン酸、エライジン酸、バクセン酸、ガドレイン酸、エイコセン酸、エルカ酸、ネルボン酸、リシノール酸等の不飽和脂肪族モノカルボン酸;[脂肪族ジカルボン酸]コハク酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸等の飽和脂肪族ジカルボン酸、エイコサジエン酸、ドコサジエン酸等の不飽和脂肪族ジカルボン酸;[脂肪族トリカルボン酸]クエン酸、イソクエン酸、アコニット酸等の飽和脂肪族トリカルボン酸等が挙げられる。これらの脂肪族カルボン酸(B)は、単独で、もしくは2種以上併せて用いることができる。なかでも熱安定性(溶融成形時の粘度増加およびフィッシュアイ発生の防止)の観点から、好ましくはカルボキシル基を1個含有する脂肪族モノカルボン酸であり、より好ましくは飽和脂肪族モノカルボン酸であり、特に好ましくは、ステアリン酸、カプロン酸、カプリル酸、ラウリン酸、ベヘン酸である。
【0032】
上記脂肪酸カルボン酸(B)の含有量は、脂肪族カルボン酸(B)と後述する脂肪族カルボン酸金属塩(C)との含有量の総和に対して、通常0.01~40重量%であり、好ましくは0.05~30重量%であり、特に好ましくは0.1~15重量%、殊に好ましくは0.3~5重量%である。上記脂肪族カルボン酸(B)の含有量が少なすぎると、発明の効果が充分に得られない傾向があり、含有量が多すぎると溶融成形時の色調安定性が低下しやすくなったり、発明の効果が充分に得られない傾向がある。
【0033】
脂肪族カルボン酸(B)と後述する脂肪族カルボン酸金属塩(C)の総和に対する脂肪族カルボン酸(B)含有量は、特に限定されず、公知の分析方法にて測定することができる。例えば、JIS K 0070(化学製品の酸価,ケン化価,エステル価,よう素価,水酸基価および未ケン化物の試験方法)記載の中和滴定法にて測定することができる。
【0034】
<脂肪族カルボン酸金属塩(C)>
本発明のEVOH樹脂組成物は、上記脂肪族カルボン酸(B)の金属塩である脂肪族カルボン酸金属塩(C)を含有するものである。
【0035】
上記脂肪族カルボン酸金属塩(C)の金属種としては、長周期型周期表第4周期dブロックに属する元素から選ばれる少なくとも1種であることが必須である。なかでも、クロム、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛が好ましく、特に好ましくは、とりわけ優れた効果が得られ、かつ安価で入手しやすい亜鉛である。
【0036】
上記脂肪族カルボン酸金属塩(C)を用いることによって優れた効果が得られる理由は明らかではないが、脂肪族カルボン酸金属塩(C)の金属種が長周期型周期表第4周期dブロックに属する元素から選ばれる少なくとも1種であることにより、機械的特性(耐衝撃性)の低下を招く過度の熱分解を適度に抑制し、かつEVOH樹脂組成物を多層共押出成形した際に形成される分子配向や結晶構造等の高次構造が高度に均一化されるため、結果として機械的特性(耐衝撃性)が改善されると推測される。
【0037】
上記脂肪族カルボン酸金属塩(C)のアニオン種としては、脂肪族カルボン酸(B)として例示したものを用いることができるが、本発明においては、脂肪族カルボン酸金属塩(C)のアニオン種と脂肪族カルボン酸(B)とが同一種であることが重要である。脂肪族カルボン酸金属塩(C)のアニオン種と脂肪族カルボン酸(B)とが同一種であることにより、耐衝撃性に優れ、溶融成形した際にも、より色調安定性が高いEVOH樹脂組成物とすることができる。
なお、本発明のEVOH樹脂組成物が複数の脂肪族カルボン酸(B)あるいは複数の脂肪族カルボン酸金属塩(C)を含有する場合は、少なくとも1種類の脂肪族カルボン酸(B)と脂肪族カルボン酸金属塩(C)のアニオン種が同一種であればよい。
【0038】
上記脂肪族カルボン酸(B)と脂肪族カルボン酸金属塩(C)のアニオン種が同一種であることにより優れた効果が得られる理由は明らかではないが、特定量の上記脂肪酸カルボン酸(B)と上記脂肪族カルボン酸金属塩(C)とを併用することで、上記脂肪族カルボン酸金属塩(C)の分散性が顕著に向上し、より優れた発明の効果が得られるものと推測される。また、脂肪族カルボン酸(B)は脂肪族カルボン酸金属塩(C)の金属種と相互作用し、金属錯体のような状態で存在すると考えられ、かかる脂肪族カルボン酸金属塩(C)のアニオン種が脂肪族カルボン酸(B)と同一種であることにより、よりエネルギー的に安定な状態で存在することが可能となり、溶融成形した際にも熱安定性に優れ、結果としてEVOH樹脂組成物の機械的特性(耐衝撃性)が改善されると推測される。
【0039】
上記脂肪族カルボン酸金属塩(C)の金属換算での含有量は、EVOH(A)、脂肪族カルボン酸(B)、脂肪族カルボン酸金属塩(C)およびアルカリ金属化合物(D)の含有量の総和に対して、通常0.0001~0.05重量%であり、好ましくは0.0003~0.03重量%であり、特に好ましくは0.0004~0.02重量%であり、殊に好ましくは0.0005~0.015重量%である。脂肪族カルボン酸金属塩(C)の含有量が少なすぎると、発明の効果が充分に得られない傾向があり、含有量が多すぎると、熱安定性が低下しやすくなる傾向がある。
【0040】
上記脂肪族カルボン酸金属塩(C)の金属換算での含有量は、特に限定されず、公知の分析方法にて測定することができる。例えば下記のような方法で求めることができる。
乾燥した試料を精秤して、恒量化した白金蒸発皿に入れ、電熱器で炭化し、次いでガスバーナーで加熱し、煙が出なくなるまで焼き、さらに電気炉内に上記の白金蒸発皿を入れ、昇温して、完全に灰化させる。これを冷却後、灰化物に塩酸および純水を入れ、電熱器で加熱して溶解し、メスフラスコに流し込み、純水で容量を一定にして原子吸光分析用の試料とする。この原子吸光分析用試料中の金属量を原子吸光度法で定量分析することにより、脂肪族カルボン酸金属塩(C)の金属換算での含有量を求めることができる。
【0041】
<アルカリ金属化合物(D)>
本発明のEVOH樹脂組成物は、さらにアルカリ金属化合物(D)を含有する。かかるアルカリ金属としては、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウムが挙げられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。なかでも、好ましくはナトリウムおよびカリウムであり、特に好ましくはナトリウムである。2種以上併せて用いた時の含有量は、全アルカリ金属を合計した含有量である。
【0042】
上記のアルカリ金属化合物(D)は、通常、低分子化合物(具体的には、塩、水酸化物等)であり、分散性の点から塩が好ましい。
【0043】
上記の塩としては、例えば、炭酸塩、炭酸水素塩、リン酸塩、硫酸塩、塩化物塩等の無機塩;酢酸塩、酪酸塩、プロピオン酸塩、エナント酸塩、カプリン酸塩等の炭素数2~11のモノカルボン酸塩;シュウ酸塩、マロン酸塩、コハク酸塩、アジピン酸塩、スベリン酸塩、セバチン酸塩等の炭素数2~11のジカルボン酸塩;ラウリン酸塩、パルミチン酸塩、ステアリン酸塩、12-ヒドロキシステアリン酸塩、ベヘン酸塩、モンタン酸塩等の炭素数12以上のモノカルボン酸塩等の有機酸塩等が挙げられる。これらは単独でもしくは2種類以上併せて用いることができる。なかでも、好ましくは有機酸塩であり、特に好ましくは炭素数2~11のモノカルボン酸塩であり、さらに好ましくは酢酸塩である。
【0044】
上記脂肪族カルボン酸金属塩(C)単独では耐衝撃性が改善する一方で接着強度が低下する傾向がある。かかる理由は明らかではないが、上記脂肪族カルボン酸金属塩(C)単独では、それ自体の熱安定性が不充分であり、溶融成形時に生成した脂肪族カルボン酸金属塩(C)の分解物によって、接着強度が低下したものと考えられる。これに対し本発明では上記脂肪族カルボン酸金属塩(C)とアルカリ金属化合物(D)とを併用することにより、上記脂肪族カルボン酸金属塩(C)の熱分解物のうち脂肪族カルボン酸(B)由来の成分をアルカリ金属化合物(D)が捕捉して分散することにより、接着強度の低下が抑制されるものと推測される。
【0045】
上記アルカリ金属化合物(D)の金属換算での含有量は、EVOH(A)、脂肪族カルボン酸(B)、脂肪族カルボン酸金属塩(C)およびアルカリ金属化合物(D)の含有量の総和に対して、通常0.001~0.1重量%、好ましくは0.002~0.05重量%、特に好ましくは0.003~0.04重量%、殊に好ましくは0.005~0.03重量%である。
かかる含有量が少なすぎると、発明の効果が充分に得られない傾向があり、含有量が多すぎると、溶融成形時の色調安定性が低下しやすくなったり、発明の効果が充分に得られない傾向がある。
【0046】
上記アルカリ金属化合物(D)の金属換算での含有量は、特に限定されず、公知の分析方法にて測定することができる。例えば下記のような方法で求めることができる。
乾燥した試料を精秤して、恒量化した白金蒸発皿に入れ、電熱器で炭化し、次いでガスバーナーで加熱し、煙が出なくなるまで焼き、さらに電気炉内に上記の白金蒸発皿を入れ、昇温して、完全に灰化させる。これを冷却後、灰化物に塩酸および純水を入れ、電熱器で加熱して溶解し、メスフラスコに流し込み、純水で容量を一定にして原子吸光分析用の試料とする。この原子吸光分析用試料中の金属量を原子吸光度法で定量分析することにより、アルカリ金属化合物(D)の金属換算での含有量を求めることができる。
【0047】
本発明のEVOH樹脂組成物は、上記脂肪族カルボン酸金属塩(C)の金属換算含有量に対するアルカリ金属化合物(D)の金属換算含有量比((D)/(C))は、重量基準で、下記の式(1)を満たすものである。
[式]0.01≦((D)/(C))≦30・・・(1)
好ましくは0.05≦((D)/(C))≦15、特に好ましくは0.1≦((D)/(C))≦8である。かかる値が上記範囲にある場合、本発明の効果がより顕著に得られる傾向がある。
【0048】
また、本発明のEVOH樹脂組成物は、上記脂肪族カルボン酸(B)、上記脂肪族カルボン酸金属塩(C)、上記アルカリ金属化合物(D)の含有量が、重量基準で下記の式(2)を満たすものである。なお、本発明において、(C),(D)成分の含有量は、金属換算含有量を意味する。
[式]0.0005≦{(D)/〔(B)/((B)+(C))〕}≦1・・・(2)
好ましくは0.001≦{(D)/〔(B)/((B)+(C))〕}≦0.8、特に好ましくは0.003≦{(D)/〔(B)/((B)+(C))〕}≦0.5、殊に好ましくは0.005≦{(D)/〔(B)/((B)+(C))〕}≦0.25である。かかる値が上記範囲にある場合、本発明の効果がより顕著に得られる傾向がある。
【0049】
上記脂肪族カルボン酸(B)、上記脂肪族カルボン酸金属塩(C)、上記アルカリ金属化合物(D)の含有量が、重量基準で上記の式(2)を満たすことにより優れた効果が得られる理由は明らかではないが、上記脂肪族カルボン酸金属塩(C)とアニオン種が同一種である特定量の上記脂肪族カルボン酸(B)は、上記脂肪族カルボン酸金属塩(C)の分散性および熱安定性を高める効果がある一方で、上記脂肪族カルボン酸(B)の含有量が多すぎると溶融成形時の色調安定性が低下しやすくなったり、上記脂肪族カルボン酸(B)自体が可塑剤として作用し、発明の効果(耐衝撃性改善効果)が充分に得られないものと推察される。また、特定量のアルカリ金属化合物(D)は、上記脂肪族カルボン酸金属塩(C)の熱分解物を捕捉し、接着強度低下を抑制する効果がある一方で、アルカリ金属化合物(D)の含有量が多すぎるとEVOH(A)の熱安定性を著しく低下させ、色調安定性が低下しやすくなったり、発明の効果(耐衝撃性改善効果)が充分に得られないものと推測される。
【0050】
<他の熱可塑性樹脂>
本発明のEVOH樹脂組成物には、樹脂成分として、EVOH(A)以外に、他の熱可塑性樹脂を、EVOH(A)に対して、通常30重量%以下となるような範囲内で含有してもよい。
【0051】
上記他の熱可塑性樹脂としては、例えば、直鎖状低密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、アイオノマー、エチレン-プロピレン共重合体、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリペンテン等のオレフィンの単独または共重合体、ポリ環状オレフィン、あるいはこれらのオレフィンの単独または共重合体を不飽和カルボン酸またはそのエステルでグラフト変性したもの等の広義のポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリエステル、ポリアミド系樹脂、共重合ポリアミド系樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、アクリル系樹脂、ビニルエステル系樹脂、塩素化ポリエチレン、塩素化ポリプロピレン等の熱可塑性樹脂が挙げられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。
【0052】
特に、本発明のEVOH樹脂組成物を用いてなる多層構造体を製造し、これを食品の包装材として用いた場合、上記包装材の熱水処理後に、包装材端部にてEVOH層が溶出することを防止する目的で、ポリアミド系樹脂を配合することが好ましい。ポリアミド系樹脂は、アミド結合がEVOHのOH基およびエステル基の少なくとも一方との相互作用によりネットワーク構造を形成することが可能であり、これにより、熱水処理時のEVOHの溶出を防止することができる。したがって、レトルト食品やボイル食品の包装材として本発明のEVOH樹脂組成物を用いる場合には、ポリアミド系樹脂を配合することが好ましい。
【0053】
上記ポリアミド系樹脂としては、公知のものを用いることができる。
具体的には、例えば、ポリカプラミド(ナイロン6)、ポリ-ω-アミノヘプタン酸(ナイロン7)、ポリ-ω-アミノノナン酸(ナイロン9)、ポリウンデカンアミド(ナイロン11)、ポリラウリルラクタム(ナイロン12)等のホモポリマーが挙げられる。また、共重合ポリアミド系樹脂としては、ポリエチレンジアミンアジパミド(ナイロン26)、ポリテトラメチレンアジパミド(ナイロン46)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ナイロン66)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ナイロン610)、ポリヘキサメチレンドデカミド(ナイロン612)、ポリオクタメチレンアジパミド(ナイロン86)、ポリデカメチレンアジパミド(ナイロン108)、カプロラクタム/ラウリルラクタム共重合体(ナイロン6/12)、カプロラクタム/ω-アミノノナン酸共重合体(ナイロン6/9)、カプロラクタム/ヘキサメチレンジアンモニウムアジペート共重合体(ナイロン6/66)、ラウリルラクタム/ヘキサメチレンジアンモニウムアジペート共重合体(ナイロン12/66)、エチレンジアミンアジパミド/ヘキサメチレンジアンモニウムアジペート共重合体(ナイロン26/66)、カプロラクタム/ヘキサメチレンジアンモニウムアジペート/ヘキサメチレンジアンモニウムセバケート共重合体(ナイロン66/610)、エチレンアンモニウムアジペート/ヘキサメチレンジアンモニウムアジペート/ヘキサメチレンジアンモニウムセバケート共重合体(ナイロン6/66/610)等の脂肪族ポリアミドや、ポリヘキサメチレンイソフタルアミド、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド、ポリメタキシリレンアジパミド、ヘキサメチレンイソフタルアミド/テレフタルアミド共重合体、ポリ-P-フェニレンテレフタルアミドや、ポリ-P-フェニレン・3-4'ジフェニルエーテルテレフタルアミド等の芳香族ポリアミド、非晶性ポリアミド、これらのポリアミド系樹脂をメチレンベンジルアミン、メタキシレンジアミン等の芳香族アミンで変性したものやメタキシリレンジアンモニウムアジペート等が挙げられる。あるいは、これらの末端変性ポリアミド系樹脂であってもよく、好ましくは末端変性ポリアミド系樹脂である。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。
【0054】
<その他の添加剤>
本発明のEVOH樹脂組成物には、本発明の効果を阻害しない範囲(例えば、通常、EVOH樹脂組成物の10重量%以下、好ましくは5重量%以下)において、一般的にEVOHに配合する配合剤、例えば、熱安定剤、酸化防止剤、帯電防止剤、着色剤、紫外線吸収剤、滑剤、可塑剤、光安定剤、界面活性剤、抗菌剤、乾燥剤、アンチブロッキング剤、難燃剤、架橋剤、発泡剤、結晶核剤、防曇剤、生分解用添加剤、シランカップリング剤、酸素吸収剤、無機フィラー等が含有されていてもよい。これらは単独で、もしくは2種以上併せて用いることができる。
【0055】
上記熱安定剤としては、溶融成形時の熱安定性等の各種物性を向上させる目的で、例えば、酢酸、プロピオン酸、酪酸、ラウリル酸、ステアリン酸、オレイン酸、ベヘニン酸等の有機酸類(ただし、上記有機酸類を脂肪族カルボン酸(B)として用いる場合は、熱安定剤には含めない。)または、アルカリ土類金属塩(カルシウム、マグネシウム等)等が挙げられる。これらは単独で、もしくは2種以上併せて用いることができる。
【0056】
<EVOH樹脂組成物の製造方法>
本発明のEVOH樹脂組成物の製造方法は、特に限定するものではないが、例えば、以下の(I)~(IV)に示す方法等が挙げられる。
(I)EVOH(A)のペレットに脂肪族カルボン酸(B)、脂肪族カルボン酸金属塩(C)、およびアルカリ金属化合物(D)の少なくとも1種を所定割合で配合して、ドライブレンドする方法(ドライブレンド法)。
(II)EVOH(A)のペレットを脂肪族カルボン酸(B)、脂肪族カルボン酸金属塩(C)、およびアルカリ金属化合物(D)の少なくとも1種を含有する溶液に浸漬させた後、ペレットを乾燥させる方法(浸漬法)。
(III)EVOH(A)の溶融混練時に脂肪族カルボン酸(B)、脂肪族カルボン酸金属塩(C)、およびアルカリ金属化合物(D)の少なくとも1種を配合し、その後ペレットを作製する方法(溶融混練法)。
(IV)EVOH(A)を含有した溶液に脂肪族カルボン酸(B)、脂肪族カルボン酸金属塩(C)、およびアルカリ金属化合物(D)の少なくとも1種を添加して混合後、溶液中の溶媒を除去する方法(溶液混合法)。
【0057】
なかでも(I)のドライブレンド法が好ましく、特にEVOH(A)のペレットに脂肪族カルボン酸(B)、脂肪族カルボン酸金属塩(C)、およびアルカリ金属化合物(D)を所定割合で配合して、ドライブレンドする方法(ドライブレンド法)が生産性、経済性の点で実用的であり工業上好ましい。なお、上記の方法は複数を組み合わせて用いてもよい。また、上記その他の添加剤を配合する場合も上記(I)~(IV)の方法に準じることにより、その他の添加剤を含有するEVOH樹脂組成物が得られる。
【0058】
上記(I)の方法におけるドライブレンドの手段としては、例えば、ロッキングミキサー、リボンブレンダー、ラインミキサー等の公知の混合装置を用いることができる。
【0059】
上記(I)の方法におけるドライブレンドにあたっては、脂肪族カルボン酸(B)、脂肪族カルボン酸金属塩(C)、およびアルカリ金属化合物(D)の少なくとも1種の成分の付着性を向上させるために、かかるEVOH(A)のペレットの含水率を0.1~5重量%(さらには0.5~4重量%、特には1~3重量%)に調整しておくことが好ましく、かかる含水率が小さすぎる場合では脂肪族カルボン酸(B)、脂肪族カルボン酸金属塩(C)、およびアルカリ金属化合物(D)の少なくとも1種が脱落しやすく付着分布が不均一となりやすい傾向がある。逆に大きすぎる場合と脂肪族カルボン酸(B)、脂肪族カルボン酸金属塩(C)、およびアルカリ金属化合物(D)の少なくとも1種が凝集して付着分布が不均一となる傾向がある。
【0060】
なお、ここでいうEVOH(A)のペレットの含水率については、以下の方法により測定・算出されるものである。
[含水率の測定方法]
EVOH(A)のペレットを電子天秤にて秤量(W1:単位g)後、150℃に維持された熱風オーブン型乾燥器に入れ、5時間乾燥させてから、さらにデシケーター中で30分間放冷させた後の重量を同様に秤量(W2:単位g)して、以下の式から算出する。
[式] 含水率(%)=〔(W1-W2)/W1〕×100
【0061】
また、上記(I)、(II)の方法では、EVOH(A)のペレットの外側に脂肪族カルボン酸(B)、脂肪族カルボン酸金属塩(C)、およびアルカリ金属化合物(D)が付着したペレットが得られる。
【0062】
上記(III)の方法における溶融混練の手段としては、例えば、ニーダー、ルーダー、押出機、ミキシングロール、バンバリーミキサー、プラストミル等の公知の溶融混練装置を使用して行うことができ、通常は150~300℃(さらには180~280℃)で、1~20分間程度溶融混練することが好ましく、特に単軸または二軸の押出機を用いることが容易にペレットを得られる点で工業上有利であり、また必要に応じて、ベント吸引装置、ギヤポンプ装置、スクリーン装置等を設けることも好ましい。特に、水分や副生成物(熱分解低分子量物等)を除去するために、押出機に1個以上のベント孔を設けて減圧下に吸引したり、押出機中への酸素の混入を防ぐために、ホッパー内に窒素等の不活性ガスを連続的に供給したりすることにより、熱着色や熱劣化が軽減された品質の優れたEVOH樹脂組成物を得ることができる。
【0063】
また、押出機等の溶融混練装置への供給方法についても特に限定されず、1)EVOH(A)、脂肪族カルボン酸(B)、脂肪族カルボン酸金属塩(C)、およびアルカリ金属化合物(D)をドライブレンドし、一括して押出機に供給する方法、2)EVOH(A)を押出機に供給して溶融させたところに固体状の脂肪族カルボン酸(B)、脂肪族カルボン酸金属塩(C)、およびアルカリ金属化合物(D)を供給する方法(ソリッドサイドフィード法)、3)EVOH(A)を押出機に供給して溶融させたところに溶融状態の脂肪族カルボン酸(B)、脂肪族カルボン酸金属塩(C)、およびアルカリ金属化合物(D)を供給する方法(メルトサイドフィード法)等を挙げることができるが、なかでも、1)の方法が装置の簡便さ、ブレンド物のコスト面等で実用的である。
【0064】
また、溶融混練後にペレットを作製する方法としては、公知の手法を用いることが可能であり、ストランドカット法、ホットカット法(空中カット法、アンダーウォーターカット法)等が挙げられる。工業的生産性の点で、好ましくはストランドカット法である。
【0065】
上記溶液混合法にあたって使用する溶媒は、公知のEVOHの良溶媒を用いればよく、代表的には水と炭素数1~4の脂肪族アルコールとの混合溶媒が用いられ、好ましくは水とメタノールとの混合溶媒である。溶解にあたっては任意に加熱や加圧を行うことが可能であり、濃度も任意である。EVOH(A)が溶解した溶液またはペーストに脂肪族カルボン酸(B)、脂肪族カルボン酸金属塩(C)、およびアルカリ金属化合物(D)を配合すればよい。このとき、脂肪族カルボン酸(B)、脂肪族カルボン酸金属塩(C)、およびアルカリ金属化合物(D)は固体、溶液、分散液等の状態で配合することが可能である。
配合後、均一に拡販したEVOH樹脂組成物溶液またはペーストは、上記した公知の手法でペレット化する。工業的生産性の点で、好ましくはアンダーウォーターカット法である。得られたペレットは、公知の手法で乾燥する。
【0066】
上記ペレットの形状は、例えば、球形、オーバル形、円柱形、立方体形、直方体形等任意の形状が採用可能である。通常、オーバル形または円柱形であり、その大きさは、後に成形材料として用いる場合の利便性の観点から、オーバル形の場合は短径が通常1~10mm、好ましくは2~6mm、特に好ましくは2.5~5.5mmであり、長径が通常1.5~30mm、好ましくは3~20mm、特に好ましくは3.5~10mmである。円柱形の場合は底面の直径が通常1~6mm、好ましくは2~5mmであり、長さは通常1~6mm、好ましくは2~5mmである。
【0067】
このようにして、本発明のEVOH樹脂組成物を得ることができる。
【0068】
<多層構造体>
本発明の多層構造体は、上記本発明のEVOH樹脂組成物からなる層を少なくとも1層有するものである。本発明のEVOH樹脂組成物からなる層(以下、単に「樹脂組成物層」という。)は、他の基材と積層することで、さらに強度を上げたり、他の機能を付与することができる。
【0069】
上記基材としては、EVOH以外の熱可塑性樹脂(以下「他の基材樹脂」という。)が好ましく用いられる。
【0070】
上記他の基材樹脂としては、例えば、直鎖状低密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、超低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、エチレン-プロピレン(ブロックおよびランダム)共重合体、エチレン-α-オレフィン(炭素数4~20のα-オレフィン)共重合体等のポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン、プロピレン-α-オレフィン(炭素数4~20のα-オレフィン)共重合体等のポリプロピレン系樹脂、ポリブテン、ポリペンテン、ポリ環状オレフィン系樹脂(環状オレフィン構造を主鎖および側鎖の少なくとも一方に有する重合体)等の(未変性)ポリオレフィン系樹脂や、これらのポリオレフィン類を不飽和カルボン酸またはそのエステルでグラフト変性した不飽和カルボン酸変性ポリオレフィン系樹脂等の変性オレフィン系樹脂を含む広義のポリオレフィン系樹脂、アイオノマー、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-アクリル酸共重合体、エチレン-アクリル酸エステル共重合体、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂(共重合ポリアミドも含む)、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、アクリル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ビニルエステル系樹脂、ポリエステルエラストマー、ポリウレタンエラストマー、塩素化ポリエチレン、塩素化ポリプロピレン等のハロゲン化ポリオレフィン、芳香族または脂肪族ポリケトン類等が挙げられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。
【0071】
これらのうち、疎水性を考慮した場合、疎水性樹脂である、ポリアミド系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリスチレン系樹脂が好ましく、より好ましくは、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリ環状オレフィン系樹脂およびこれらの不飽和カルボン酸変性ポリオレフィン系樹脂等のポリオレフィン系樹脂であり、特に好ましくはポリオレフィン系樹脂である。
【0072】
本発明の多層構造体の層構成は、本発明の樹脂組成物層をa(a1、a2、・・・)、他の基材樹脂層をb(b1、b2、・・・)とする場合、a/b、b/a/b、a/b/a、a1/a2/b、a/b1/b2、b2/b1/a/b1/b2、b2/b1/a/b1/a/b1/b2等、任意の組み合わせが可能である。
なお、上記層構成において、それぞれの層間には、必要に応じて接着性樹脂層を介してもよい。本発明の樹脂組成物層の少なくとも一方の面に、接着樹脂層を介して、他の機材樹脂層(すなわちEVOH以外の熱可塑性樹脂層)を有する多層構造体である場合、本発明の効果がより効果的に得られる傾向がある。
また、上記多層構造体を製造する過程で発生する端部や不良品等を再溶融成形して得られる、本発明の樹脂組成物と他の基材樹脂もしくは他の基材樹脂と接着性樹脂の混合物を含むリサイクル層をRとするとき、b/R/a、b/R/a/b、b/R/a/R/b、b/a/R/a/b、b/R/a/R/a/R/b等とすることも可能である。本発明の多層構造体の層数は、のべ数にて通常2~15層、好ましくは3~10層である。
【0073】
本発明の多層構造体における、多層構造の層構成として、好ましくは、本発明の樹脂組成物層を中間層として含み、その中間層の両外側層として、他の基材樹脂層を設けた多層構造体の単位(b/a/b、またはb/接着性樹脂層/a/接着性樹脂層/b)を基本単位として、この基本単位を少なくとも構成単位として備える多層構造体が好ましい。
【0074】
上記接着性樹脂層形成材料である接着性樹脂としては、公知のものを使用でき、他の基材樹脂層に用いる熱可塑性樹脂の種類に応じて適宜選択すればよい。代表的には不飽和カルボン酸またはその無水物をポリオレフィン系樹脂に付加反応やグラフト反応等により化学的に結合させて得られるカルボキシル基を含有する変性ポリオレフィン系重合体を挙げることができる。例えば、無水マレイン酸グラフト変性ポリエチレン、無水マレイン酸グラフト変性ポリプロピレン、無水マレイン酸グラフト変性エチレン-プロピレン(ブロックおよびランダム)共重合体、無水マレイン酸グラフト変性エチレン-エチルアクリレート共重合体、無水マレイン酸グラフト変性エチレン-酢酸ビニル共重合体、無水マレイン酸変性ポリ環状オレフィン系樹脂、無水マレイン酸グラフト変性ポリオレフィン系樹脂等であり、これらは単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。
【0075】
このときの、不飽和カルボン酸またはその無水物の含有量は、通常0.001~3重量%であり、好ましくは0.01~1重量%、特に好ましくは0.03~0.5重量%である。変性物中の変性量が少ないと、接着性が不充分となる傾向があり、逆に多いと架橋反応を起こし、成形性が悪くなる傾向がある。
これらの接着性樹脂には、EVOH(A)、他のEVOH、ポリイソブチレン、エチレン-プロピレンゴム等のゴム・エラストマー成分、さらにはポリオレフィン系樹脂層の樹脂等をブレンドすることも可能である。特に、接着性樹脂の母体のポリオレフィン系樹脂と異なるポリオレフィン系樹脂をブレンドすることも可能である。
【0076】
上記他の基材樹脂、接着性樹脂層には、本発明の趣旨を阻害しない範囲内(例えば、30重量%以下、好ましくは10重量%以下)において、本発明で用いる脂肪族カルボン酸(B)、脂肪族カルボン酸金属塩(C)、およびアルカリ金属化合物(D)の他、従来公知の可塑剤(エチレングリコール、グリセリン、ヘキサンジオール等)、フィラー、クレー(モンモリロナイト等)、着色剤、酸化防止剤、帯電防止剤、滑剤(例えば炭素数10~30高級脂肪酸のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、高級脂肪酸エステル(高級脂肪酸のメチルエステル、イソプロピルエステル、ブチルエステル、オクチルエステル等)、高級脂肪酸アミド(ステアリン酸アミド、ベヘニン酸アミド等の飽和脂肪族アミド、オレイン酸アミド、エルカ酸アミド等の不飽和脂肪酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスオレイン酸アミド、エチレンビスエルカ酸アミド、エチレンビスラウリン酸アミド等のビス脂肪酸アミド)、低分子量ポリオレフィン(例えば分子量500~10000程度の低分子量ポリエチレン、または低分子量ポリプロピレン)、フッ化エチレン樹脂等)、核材、ブロッキング防止剤、紫外線吸収剤、ワックス等を含んでいてもよい。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。
【0077】
また、上記接着性樹脂層で用いる樹脂に対し、本発明における脂肪族カルボン酸(B)、脂肪族カルボン酸金属塩(C)、およびアルカリ金属化合物(D)の少なくとも1種を配合することも好ましい。特に、本発明の樹脂組成物層と隣接する接着性樹脂層が脂肪族カルボン酸(B)、脂肪族カルボン酸金属塩(C)、およびアルカリ金属化合物(D)を含有する場合、さらに耐衝撃性に優れた多層構造体が得られる。
【0078】
本発明のEVOH樹脂組成物を他の基材樹脂と積層させて多層構造体を作製する場合(接着性樹脂層を介在させる場合を含む)、その積層方法は公知の方法にて行なうことができる。例えば、本発明のEVOH樹脂組成物のフィルム、シート等に他の基材樹脂を溶融押出ラミネートする方法、逆に他の基材樹脂に本発明のEVOH樹脂組成物を溶融押出ラミネートする方法、本発明のEVOH樹脂組成物と他の基材樹脂とを共押出する方法、本発明のEVOH樹脂組成物からなるフィルム(層)および他の基材樹脂(層)を各々作製し、これらを有機チタン化合物、イソシアネート化合物、ポリエステル系化合物、ポリウレタン化合物等の公知の接着剤を用いてドライラミネートする方法、他の基材樹脂上に本発明のEVOH樹脂組成物の溶液を塗工してから溶媒を除去する方法等が挙げられる。これらのなかでも、コストや環境の観点から考慮して共押出する方法が好ましい。
【0079】
上記多層構造体は、そのまま各種形状のものに使用することができるが、必要に応じて(加熱)延伸処理が施される。延伸処理は、一軸延伸、二軸延伸のいずれであってもよく、二軸延伸の場合は同時延伸であっても逐次延伸であってもよい。また、延伸方法としてはロール延伸法、テンター延伸法、チューブラー延伸法、延伸ブロー法、真空圧空成形等のうち延伸倍率の高いものも採用できる。延伸温度は、通常40~170℃、好ましくは60~160℃程度の範囲から選ばれる。延伸温度が低すぎる場合は延伸性が不良となる傾向があり、高すぎる場合は安定した延伸状態を維持することが困難となる傾向がある。
【0080】
なお、上記多層構造体に対し、延伸後に寸法安定性を付与することを目的として、熱固定を行なってもよい。熱固定は周知の手段で実施可能であり、例えば、上記延伸した多層構造体(延伸フィルム)を、緊張状態を保ちながら通常80~180℃、好ましくは100~165℃で、通常2~600秒間程度熱処理を行なう。
【0081】
また、本発明のEVOH樹脂組成物を用いて得られてなる多層延伸フィルムをシュリンク用フィルムとして用いる場合には、熱収縮性を付与するために、上記の熱固定を行わず、例えば、延伸後のフィルムに冷風を当てて冷却固定する等の処理を行なえばよい。
【0082】
さらに、本発明の多層構造体からカップやトレイ状の多層容器を得ることも可能である。多層容器の作製方法としては、通常絞り成形法が採用され、具体的には真空成形法、圧空成形法、真空圧空成形法、プラグアシスト式真空圧空成形法等が挙げられる。さらに、多層パリソン(ブロー前の中空管状の予備成形物)からチューブやボトル状の多層容器を得る場合はブロー成形法が採用され、具体的には押出ブロー成形法(双頭式、金型移動式、パリソンシフト式、ロータリー式、アキュムレーター式、水平パリソン式等)、コールドパリソン式ブロー成形法、射出ブロー成形法、二軸延伸ブロー成形法(押出式コールドパリソン二軸延伸ブロー成形法、射出式コールドパリソン二軸延伸ブロー成形法、射出成形インライン式二軸延伸ブロー成形法等)等が挙げられる。本発明の多層積層体は必要に応じ、熱処理、冷却処理、圧延処理、印刷処理、ドライラミネート処理、溶液または溶融コート処理、製袋加工、深絞り加工、箱加工、チューブ加工、スプリット加工等を行なうことができる。
【0083】
本発明の多層構造体(延伸したものを含む)の厚み、さらには多層構造体を構成する樹脂組成物層、他の基材樹脂層および接着性樹脂層の厚みは、層構成、基材樹脂の種類、接着性樹脂の種類、用途や包装形態、要求される物性等により適宜設定される。なお、下記の数値は、樹脂組成物層、接着性樹脂層、他の基材樹脂層のうち少なくとも1種の層が2層以上存在する場合には、同種の層の厚みを総計した値である。
【0084】
本発明の多層構造体(延伸したものを含む)の厚みは、通常10~5000μm、好ましくは30~3000μm、特に好ましくは50~2000μmである。多層構造体の総厚みが薄すぎる場合には、ガスバリア性が低下する傾向がある。また、多層構造体の総厚みが厚すぎる場合には、ガスバリア性が過剰性能となり、不必要な原料を使用することとなるため経済的に好ましくない。そして、上記多層構造体における本発明の樹脂組成物層は、通常1~500μm、好ましくは3~300μm、特に好ましくは5~200μmであり、他の基材樹脂層は通常5~3000μm、好ましくは10~2000μm、特に好ましくは20~1000μmであり、接着性樹脂層は、通常0.5~250μm、好ましくは1~150μm、特に好ましくは3~100μmである。
【0085】
さらに、多層構造体における樹脂組成物層と他の基材樹脂層との厚みの比(樹脂組成物層/他の基材樹脂層)は、各層が複数ある場合は最も厚みの厚い層同士の比にて、通常1/99~50/50、好ましくは5/95~45/55、特に好ましくは10/90~40/60である。また、多層構造体における樹脂組成物層と接着性樹脂層の厚み比(樹脂組成物層/接着性樹脂層)は、各層が複数ある場合は最も厚みの厚い層同士の比にて、通常10/90~99/1、好ましくは20/80~95/5、特に好ましくは50/50~90/10である。
【0086】
上記のようにして得られたフィルム、延伸フィルムからなる袋およびカップ、トレイ、チューブ、ボトル等からなる容器や蓋材は、一般的な食品の他、マヨネーズ、ドレッシング等の調味料、味噌等の発酵食品、サラダ油等の油脂食品、飲料、化粧品、医薬品等の各種の包装材料容器として有用である。
【実施例】
【0087】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、以下「%」とあるのは、特記しない場合、重量基準を意味する。
【0088】
[実施例1]
〔樹脂組成物の製造〕
EVOH(A)として、EVOH(a1)〔エチレン構造単位の含有量29モル%、ケン化度99.7モル%、MFR3.8g/10分(210℃、荷重2160g)のエチレン-ビニルアルコール共重合体、およびアルカリ金属化合物(D)として酢酸ナトリウム(d1)を含有し、酢酸ナトリウム(d1)の含有量が、EVOH(A)、脂肪族カルボン酸(B)、脂肪族カルボン酸金属塩(C)およびアルカリ金属化合物(D)の含有量の総和に対して金属換算で0.017%である〕ペレット、脂肪族カルボン酸(B)としてステアリン酸(b1)、脂肪族カルボン酸金属塩(C)としてステアリン酸亜鉛(c1)を用いた。
また、ステアリン酸亜鉛(c1)をEVOH(a1)、ステアリン酸(b1)、ステアリン酸亜鉛(c1)および酢酸ナトリウム(d1)の含有量の総和に対して金属換算で0.0015%用い、ステアリン酸(b1)をステアリン酸(b1)とステアリン酸亜鉛(c1)の含有量の総和に対して0.5%用い、EVOH(a1)ペレット、ステアリン酸(b1)およびステアリン酸亜鉛(c1)を一括でドライブレンドすることにより本発明のEVOH樹脂組成物を製造した。
【0089】
〔多層構造体の製造〕
3種5層多層共押出キャストフィルム製膜装置に、上記で調製したEVOH樹脂組成物、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)〔日本ポリエチレン社製「UF240」、MFR2.1g/10分(190℃、荷重2160g)〕、接着樹脂(LyondellBasell社製「PLEXAR PX3236」、MFR2.0g/10分〔190℃、荷重2160g〕)を供給して、下記条件で多層共押出成形により、LLDPE層/接着樹脂層/EVOH樹脂組成物層/接着樹脂層/LLDPE層の3種5層構造の多層構造体(フィルム)を得た。多層構造体の各層の厚み(μm)は、37.5/5/15/5/37.5であった。成形装置のダイ温度は、全て210℃に設定した。
(多層共押出成形条件)
・中間層押出機(EVOH樹脂組成物):40mmφ単軸押出機(バレル温度:210℃)
・上下層押出機(LLDPE):40mmφ単軸押出機(バレル温度:210℃)
・中上下層押出機(接着樹脂):32mmφ単軸押出機(バレル温度:210℃)
・ダイ:3種5層フィードブロック型Tダイ(ダイ温度:210℃)
・引取速度:9.0m/分
・ロール温度:50℃
【0090】
上記で得られたEVOH樹脂組成物に対しては、下記の色調安定性評価試験を行い、また、上記で得られた多層構造体に対しては、下記のガスバリア性、衝撃強度、接着強度評価試験を行った。
【0091】
<EVOH樹脂組成物の色調安定性評価>
上記で製造したEVOH樹脂組成物5gを30mmφアルミカップ(アズワン社製、ディスポディニッシュPP-724)に入れ、空気雰囲気下で210℃×2時間放置したものを試料として色調評価に供した。色調評価は、下記装置および評価方法に基づいて行った。
・使用機器:ビジュアルアナライザーIRISVA400(アルファ・モス・ジャパン社製)
・データ解析用ソフト:Alpha Soft V14.3
・対物レンズ:25mm(Basler社製)
・照明モード:上下照明
・評価方法:色調評価用試料を、上記ビジュアルアナライザーのチャンバー内のトレイにセットし、CCDカメラで色調評価用試料全体の平面画像を撮影した後、データ解析ソフトを用いて画像処理を行うことで試料のカラーパターンを評価した。得られたカラーパターンのうち、一番存在割合が多かった色(主要色)の明度(L*)から、樹脂組成物の色調安定性を評価した。なお、色調安定性は、数値が高いほど色調安定性に優れ、逆に数値が低いほど色調安定性に劣ることを意味する。結果を表1に示す。
【0092】
<多層構造体のガスバリア性>
上記で得られた多層構造体の20℃、65%RHのガスバリア性を、酸素ガス透過量測定装置(MOCON社製、OX-TRAN 2/21)を用いて評価した。その結果を、表1に示す。
【0093】
<多層構造体の衝撃強度>
上記で製造した多層構造体の衝撃強度(kgf・cm)を、23℃、50%RHの雰囲気中で、YSS式フィルムインパクトテスター(安田精機製作所社製、型式181)を用いて評価した。測定は計10回行い、その平均値を多層構造体の衝撃強度として評価した。なお、クランプ内径は60mm、衝撃球は半径12.7mmのものを用い、振り子の持ち上げ角度90°とした。なお、多層構造体の衝撃強度は、数値が高いほど衝撃強度に優れ、逆に数値が低いほど衝撃強度に劣ることを意味する。結果を表1に示す。
【0094】
<多層構造体の接着強度>
上記で製造した多層構造体の、EVOH樹脂組成物層と接着性樹脂層との間の接着強度(N/15mm)を、下記のT-peel剥離試験により評価した。測定は計10回行い、その平均値を多層構造体の接着強度として評価した。なお、多層構造体の接着強度は、数値が高いほど接着強度に優れ、逆に数値が低いほど接着強度に劣ることを意味する。結果を表1に示す。
(T-peel剥離試験条件)
・装置:Autograph AGS-H(島津製作所社製)
・ロードセル:500N
・試験方法:T-peel法(T型状にして剥離)
・試験片サイズ: 幅15 mm
・試験速度: 300 mm/min
【0095】
[実施例2]
実施例1において、ステアリン酸亜鉛(c1)をEVOH(a1)、ステアリン酸(b1)、ステアリン酸亜鉛(c1)および酢酸ナトリウム(d1)の含有量の総和に対して金属換算で0.003%用いた以外は同様に行い、EVOH樹脂組成物および多層構造体を製造した。得られたEVOH樹脂組成物および多層構造体について、実施例1と同様に評価した。
【0096】
[実施例3]
実施例1において、ステアリン酸亜鉛(c1)をEVOH(a1)、ステアリン酸(b1)、ステアリン酸亜鉛(c1)および酢酸ナトリウム(d1)の含有量の総和に対して金属換算で0.0045%用いた以外は同様に行い、EVOH樹脂組成物および多層構造体を製造した。得られたEVOH樹脂組成物および多層構造体について、実施例1と同様に評価した。
【0097】
[実施例4]
実施例1において、ステアリン酸亜鉛(c1)を、EVOH(a1)、ステアリン酸(b1)、ステアリン酸亜鉛(c1)および酢酸ナトリウム(d1)の含有量の総和に対して金属換算で0.006%用いた以外は同様に行い、EVOH樹脂組成物および多層構造体を製造した。得られたEVOH樹脂組成物および多層構造体について、実施例1と同様に評価した。
【0098】
[実施例5]
実施例1において、ステアリン酸(b1)の代わりにカプロン酸(b2)を、ステアリン酸亜鉛(c1)の代わりにカプロン酸亜鉛(c2)を用いた。また、カプロン酸亜鉛(c2)をEVOH(a1)、カプロン酸(b2)、カプロン酸亜鉛(c2)および酢酸ナトリウム(d1)の含有量の総和に対して金属換算で0.0045%用い、カプロン酸(b2)をカプロン酸(b2)とカプロン酸亜鉛(c2)の含有量の総和に対して4%用いた以外は同様に行い、EVOH樹脂組成物および多層構造体を製造した。得られたEVOH樹脂組成物および多層構造体について、実施例1と同様に評価した。
【0099】
[実施例6]
実施例1において、ステアリン酸(b1)の代わりにカプリル酸(b3)を、ステアリン酸亜鉛(c1)の代わりにカプリル酸亜鉛(c3)を用いた。また、カプリル酸亜鉛(c3)をEVOH(a1)、カプリル酸(b3)、カプリル酸亜鉛(c3)および酢酸ナトリウム(d1)の含有量の総和に対して金属換算で0.0015%用い、カプリル酸(b3)をカプリル酸(b3)とカプリル酸亜鉛(c3)の含有量の総和に対して2.5%用いた以外は同様に行い、EVOH樹脂組成物および多層構造体を製造した。得られたEVOH樹脂組成物および多層構造体について、実施例1と同様に評価した。
【0100】
[実施例7]
実施例6において、カプリル酸亜鉛(c3)をEVOH(a1)、カプリル酸(b3)、カプリル酸亜鉛(c3)および酢酸ナトリウム(d1)の含有量の総和に対して金属換算で0.003%用いた以外は同様に行い、EVOH樹脂組成物および多層構造体を製造した。得られたEVOH樹脂組成物および多層構造体について、実施例1と同様に評価した
【0101】
[実施例8]
実施例6において、カプリル酸亜鉛(c3)をEVOH(a1)、カプリル酸(b3)、カプリル酸亜鉛(c3)および酢酸ナトリウム(d1)の含有量の総和に対して金属換算で0.0045%用いた以外は同様に行い、EVOH樹脂組成物および多層構造体を製造した。得られたEVOH樹脂組成物および多層構造体について、実施例1と同様に評価した。
【0102】
[実施例9]
実施例6において、カプリル酸亜鉛(c3)をEVOH(a1)、カプリル酸(b3)、カプリル酸亜鉛(c3)および酢酸ナトリウム(d1)の含有量の総和に対して金属換算で0.006%用いた以外は同様に行い、EVOH樹脂組成物および多層構造体を製造した。得られたEVOH樹脂組成物および多層構造体について、実施例1と同様に評価した。
【0103】
[実施例10]
実施例1において、ステアリン酸(b1)の代わりにラウリン酸(b4)を、ステアリン酸亜鉛(c1)の代わりにラウリン酸亜鉛(c4)を用いた。また、ラウリン酸亜鉛(c4)をEVOH(a1)、ラウリン酸(b4)、ラウリン酸亜鉛(c4)および酢酸ナトリウム(d1)の含有量の総和に対して金属換算で0.0015%用いた以外は同様に行い、EVOH樹脂組成物および多層構造体を製造した。得られたEVOH樹脂組成物および多層構造体について、実施例1と同様に評価した。
【0104】
[実施例11]
実施例10において、ラウリン酸亜鉛(c4)をEVOH(a1)、ラウリン酸(b4)、ラウリン酸亜鉛(c4)および酢酸ナトリウム(d1)の含有量の総和に対して金属換算で0.003%用いた以外は同様に行い、EVOH樹脂組成物および多層構造体を製造した。得られたEVOH樹脂組成物および多層構造体について、実施例1と同様に評価した。
【0105】
[実施例12]
実施例10において、ラウリン酸亜鉛(c4)をEVOH(a1)、ラウリン酸(b4)、ラウリン酸亜鉛(c4)および酢酸ナトリウム(d1)の含有量の総和に対して金属換算で0.0045%用いた以外は同様に行い、EVOH樹脂組成物および多層構造体を製造した。得られたEVOH樹脂組成物および多層構造体について、実施例1と同様に評価した。
【0106】
[実施例13]
実施例10において、ラウリン酸亜鉛(c4)をEVOH(a1)、ラウリン酸(b4)、ラウリン酸亜鉛(c4)および酢酸ナトリウム(d1)の含有量の総和に対して金属換算で0.006%用いた以外は同様に行い、EVOH樹脂組成物および多層構造体を製造した。得られたEVOH樹脂組成物および多層構造体について、実施例1と同様に評価した。
【0107】
[実施例14]
実施例1において、ステアリン酸(c1)の代わりにベヘン酸(b5)を、ステアリン酸亜鉛(c1)の代わりにベヘン酸亜鉛(c5)を用いた。また、ベヘン酸亜鉛(c5)をEVOH(a1)、ベヘン酸(b5)、ベヘン酸亜鉛(c5)および酢酸ナトリウム(d1)の含有量の総和に対して金属換算で0.0045%用いた以外は同様に行い、EVOH樹脂組成物および多層構造体を製造した。得られたEVOH樹脂組成物および多層構造体について、実施例1と同様に評価した。
【0108】
[実施例15]
実施例6において、EVOH(a1)の代わりにEVOH(a2)〔エチレン構造単位の含有量32モル%、ケン化度99.7モル%、MFR3.8g/10分(210℃、荷重2160g)、のエチレン-ビニルアルコール共重合体、およびアルカリ金属化合物(D)として酢酸ナトリウム(d1)を含有し、酢酸ナトリウム(d1)の含有量が、EVOH(A)、脂肪族カルボン酸(B)、脂肪族カルボン酸金属塩(C)およびアルカリ金属化合物(D)の含有量の総和に対して金属換算で0.018%である〕を用いた。また、カプリル酸亜鉛(c3)をEVOH(a2)、カプリル酸(b3)、カプリル酸亜鉛(c3)および酢酸ナトリウム(d1)の含有量の総和に対して金属換算で0.0045%用いた以外は同様に行い、EVOH樹脂組成物および多層構造体を製造した。得られたEVOH樹脂組成物および多層構造体について、実施例1と同様に評価した。
【0109】
[実施例16]
実施例15において、EVOH(a2)の代わりにEVOH(a3)〔エチレン構造単位の含有量38モル%、ケン化度99.7モル%、MFR4.0g/10分(210℃、荷重2160g)、のエチレン-ビニルアルコール共重合体、およびアルカリ金属化合物(D)として酢酸ナトリウム(d1)を含有し、酢酸ナトリウム(d1)の含有量が、EVOH(A)、脂肪族カルボン酸(B)、脂肪族カルボン酸金属塩(C)およびアルカリ金属化合物(D)の含有量の総和に対して金属換算で0.025%である〕を用いた以外は同様に行い、EVOH樹脂組成物および多層構造体を製造した。得られたEVOH樹脂組成物および多層構造体について、実施例1と同様に評価した。
【0110】
[実施例17]
実施例15において、EVOH(a2)の代わりにEVOH(a4)〔エチレン構造単位の含有量44モル%、ケン化度99.7モル%、MFR3.5g/10分(210℃、荷重2160g)のエチレン-ビニルアルコール共重合体、およびアルカリ金属化合物(D)として酢酸ナトリウム(d1)を含有し、酢酸ナトリウム(d1)の含有量が、EVOH(A)、脂肪族カルボン酸(B)、脂肪族カルボン酸金属塩(C)およびアルカリ金属化合物(D)の含有量の総和に対して金属換算で0.015%である〕を用いた以外は同様に行い、EVOH樹脂組成物および多層構造体を製造した。得られたEVOH樹脂組成物および多層構造体について、実施例1と同様に評価した。
【0111】
[比較例1]
実施例1において、ステアリン酸(b1)およびステアリン酸亜鉛(c1)を用いなかった以外は同様に行い、EVOH樹脂組成物および多層構造体を製造した。得られたEVOH樹脂組成物および多層構造体について、実施例1と同様に評価した。
【0112】
[比較例2]
実施例8において、EVOH(a1)の代わりにEVOH(a5)〔エチレン構造単位の含有量29モル%,ケン化度99.6モル%,MFR8.8g/10分(210℃、荷重2160g)、のエチレン-ビニルアルコール共重合体、および酢酸ナトリウム(d1)非含有である〕を用いた以外は同様に行い、EVOH樹脂組成物および多層構造体を製造した。得られたEVOH樹脂組成物および多層構造体について、実施例1と同様に評価した。
【0113】
[比較例3]
実施例8において、EVOH(a1)の代わりにEVOH(a6)〔エチレン構造単位の含有量29モル%、ケン化度99.6モル%,MFR8.8g/10分(210℃、荷重2160g)、のエチレン-ビニルアルコール共重合体、およびアルカリ金属化合物(D)として酢酸ナトリウム(d1)を含有し、酢酸ナトリウム(d1)の含有量が、EVOH(A)、脂肪族カルボン酸(B)、脂肪族カルボン酸金属塩(C)およびアルカリ金属化合物(D)の含有量の総和に対して金属換算で0.5%である〕を用いた以外は同様に行い、EVOH樹脂組成物および多層構造体を製造した。得られたEVOH樹脂組成物および多層構造体について、実施例1と同様に評価した。
【0114】
[比較例4]
実施例3において、EVOH(a1)の代わりにEVOH(a7)〔エチレン構造単位の含有量29モル%、ケン化度99.6モル%,MFR8.8g/10分(210℃、荷重2160g)、のエチレン-ビニルアルコール共重合体、およびアルカリ金属化合物(D)として酢酸ナトリウム(d1)を含有し、酢酸ナトリウム(d1)の含有量が、EVOH(A)、脂肪族カルボン酸(B)、脂肪族カルボン酸金属塩(C)およびアルカリ金属化合物(D)の含有量の総和に対して金属換算で0.75%である〕を用いた以外は同様に行い、EVOH樹脂組成物および多層構造体を製造した。得られたEVOH樹脂組成物および多層構造体について、実施例1と同様に評価した。
【0115】
[比較例5]
実施例1において、ステアリン酸亜鉛(c1)を用いず、ステアリン酸(b1)をEVOH(a1)とステアリン酸(b1)の総和に対して0.0436%用いた以外は同様に行い、EVOH樹脂組成物および多層構造体を製造した。得られたEVOH樹脂組成物および多層構造体について、実施例1と同様に評価した。
【0116】
[比較例6]
実施例3において、ステアリン酸(b1)をステアリン酸(b1)とステアリン酸亜鉛(c1)の含有量の総和に対して50%用いた以外は同様に行い、EVOH樹脂組成物および多層構造体を製造した。得られたEVOH樹脂組成物および多層構造体について、実施例1と同様に評価した。
【0117】
[比較例7]
実施例8において、カプリル酸(b3)をカプリル酸(b3)とカプリル酸亜鉛(c3)の含有量の総和に対して50%用いた以外は同様に行い、EVOH樹脂組成物および多層構造体を製造した。得られたEVOH樹脂組成物および多層構造体について、実施例1と同様に評価した。
【0118】
[比較例8]
実施例12において、ラウリン酸(b4)をラウリン酸(b4)とラウリン酸亜鉛(c4)の含有量の総和に対して50%用いた以外は同様に行い、EVOH樹脂組成物および多層構造体を製造した。得られたEVOH樹脂組成物および多層構造体について、実施例1と同様に評価した。
【0119】
[比較例9]
実施例1において、ステアリン酸亜鉛(c1)の代わりにステアリン酸カルシウムを用いた。また、ステアリン酸カルシウムをEVOH(a1)、ステアリン酸(b1)、アルカリ金属化合物(d1)およびステアリン酸カルシウムの含有量の総和に対して金属換算で0.0045%用い、ステアリン酸(b1)をステアリン酸(b1)とステアリン酸カルシウムの含有量の総和に対して0.25%用いた以外は同様に行い、EVOH樹脂組成物および多層構造体を製造した。得られたEVOH樹脂組成物および多層構造体について、実施例1と同様に評価した。
【0120】
[比較例10]
実施例1において、ステアリン酸亜鉛(c1)の代わりにステアリン酸マグネシウムを用いた。また、ステアリン酸マグネシウムをEVOH(a1)、ステアリン酸(b1)、アルカリ金属化合物(d1)およびステアリン酸マグネシウムの含有量の総和に対して金属換算で0.0045%用い、ステアリン酸(b1)をステアリン酸(b1)とステアリン酸マグネシウムの含有量の総和に対して1.25%用いた以外は同様に行い、EVOH樹脂組成物および多層構造体を製造した。得られたEVOH樹脂組成物および多層構造体について、実施例1と同様に評価した。
【0121】
[比較例11]
実施例1において、ステアリン酸亜鉛(c1)の代わりにステアリン酸ナトリウムを用いた。また、ステアリン酸ナトリウムをEVOH(a1)、ステアリン酸(b1)、アルカリ金属化合物(d1)およびステアリン酸ナトリウムの含有量の総和に対して金属換算で0.0045%用い、ステアリン酸(b1)をステアリン酸(b1)とステアリン酸ナトリウムの含有量の総和に対して0.5%用いた以外は同様に行い、EVOH樹脂組成物および多層構造体を製造した。得られたEVOH樹脂組成物および多層構造体について、実施例1と同様に評価した。
【0122】
[比較例12]
実施例1において、ステアリン酸亜鉛(c1)の代わりにグルコン酸亜鉛三水和物を用いた。また、グルコン酸亜鉛三水和物をEVOH(a1)、ステアリン酸(b1)、酢酸ナトリウム(d1)およびグルコン酸亜鉛三水和物の含有量の総和に対して金属換算で0.0045%用い、ステアリン酸(b1)をステアリン酸(b1)とグルコン酸亜鉛三水和物の含有量の総和に対して0.5%用いた以外は同様に行い、EVOH樹脂組成物および多層構造体を製造した。得られたEVOH樹脂組成物および多層構造体について、実施例1と同様に評価した。
【0123】
[比較例13]
実施例1において、ステアリン酸亜鉛(c1)の代わりにクエン酸亜鉛二水和物を用いた。また、クエン酸亜鉛二水和物をEVOH(a1)、ステアリン酸(b1)、酢酸ナトリウム(d1)およびクエン酸亜鉛二水和物の含有量の総和に対して金属換算で0.0045%用い、ステアリン酸(b1)をステアリン酸(b1)とクエン酸亜鉛二水和物の含有量の総和に対して0.5%用いた以外は同様に行い、EVOH樹脂組成物および多層構造体を製造した。得られたEVOH樹脂組成物および多層構造体について、実施例1と同様に評価した。
【0124】
[比較例14]
実施例1において、ステアリン酸亜鉛(c1)の代わりにグルコン酸カルシウム一水和物を用いた。また、グルコン酸カルシウム一水和物をEVOH(a1)、ステアリン酸(b1)、酢酸ナトリウム(d1)およびグルコン酸カルシウム一水和物の含有量の総和に対して金属換算で0.0045%用い、ステアリン酸(b1)をステアリン酸(b1)とグルコン酸カルシウム一水和物の含有量の総和に対して0.5%用いた以外は同様に行い、EVOH樹脂組成物および多層構造体を製造した。得られたEVOH樹脂組成物および多層構造体について、実施例1と同様に評価した。
【0125】
[比較例15]
実施例1において、ステアリン酸亜鉛(c1)の代わりにクエン酸カルシウム四水和物を用いた。また、クエン酸カルシウム四水和物をEVOH(a1)、ステアリン酸(b1)、酢酸ナトリウム(d1)およびクエン酸カルシウム四水和物の含有量の総和に対して金属換算で0.0045%用い、ステアリン酸(b1)をステアリン酸(b1)とクエン酸カルシウム四水和物の含有量の総和に対して0.5%用いた以外は同様に行い、EVOH樹脂組成物および多層構造体を製造した。得られたEVOH樹脂組成物および多層構造体について、実施例1と同様に評価した。
【0126】
上記得られたEVOH樹脂組成物を構成する各成分とその含有量とともに、「(D)/(C)」、および「(D)/〔(B)/((B)+(C))〕」(CおよびDは金属換算含有量)、さらに上記評価結果を下記表1および表2に併せて示す。
【0127】
【0128】
【0129】
脂肪族カルボン酸金属塩(C)を含有しない比較例1および5では、衝撃強度が14.3kgf・cmおよび14.0kgf・cmであるのに対し、脂肪族カルボン酸金属塩(C)として金属種が長周期型周期表第4周期dブロックに属する元素から選ばれる1種である、カプリル酸亜鉛を配合し、アルカリ金属化合物(D)を含有しない比較例2では、衝撃強度が17.3kgf・cmに向上した。しかし、接着強度が2.7N/15mmに低下した。
また、本発明で規定する式(1)を満たさない比較例3および4では、衝撃強度および接着強度が低いだけでなく、色調安定性も低いものであった。本発明で規定する式(2)の範囲を下回る比較例6,7,8では衝撃強度が低いものであった。
さらに、脂肪族カルボン酸金属塩(C)の金属種が、長周期型周期表第4周期dブロックに属する元素から選ばれる1種ではない比較例9~11においても衝撃強度が低いものであった。
そして、脂肪族カルボン酸(B)と脂肪族カルボン酸金属塩(C)のアニオン種が同一種でない比較例12~15では、衝撃強度および接着強度が低いだけでなく、色調安定性も低いものであった。
これに対し、本発明の特徴的構成を有するEVOH樹脂組成物(実施例1~17)では、衝撃強度に優れながらも接着強度が低下せず優れた値を示した。さらに色調安定性も低下しないものであった。
【0130】
上記で得られた各実施例の多層構造体を用いて包装体を製造した。得られた包装体は、いずれも耐衝撃性と接着強度に優れるものであった。
【0131】
上記実施例においては、本発明における具体的な形態について示したが、上記実施例は単なる例示にすぎず、限定的に解釈されるものではない。当業者に明らかな様々な変形は、本発明の範囲内であることが企図されている。
【産業上の利用可能性】
【0132】
本発明のEVOH樹脂組成物は、耐衝撃性および接着強度に優れる。そのため、上記EVOH樹脂組成物からなる層を含有する多層構造体は、一般的な食品の他、マヨネーズ、ドレッシング等の調味料、味噌等の発酵食品、サラダ油等の油脂食品、飲料、化粧品、医薬品等の各種の包装材料容器の原料として有用である。