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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-21
(45)【発行日】2022-11-30
(54)【発明の名称】トルクセンサ用コイルの製造方法
(51)【国際特許分類】
   G01L 3/10 20060101AFI20221122BHJP
   H01F 5/02 20060101ALI20221122BHJP
【FI】
G01L3/10 301Z
H01F5/02 B
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019024397
(22)【出願日】2019-02-14
(65)【公開番号】P2020134190
(43)【公開日】2020-08-31
【審査請求日】2021-06-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】日立金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】清水 悠輝
【審査官】岡田 卓弥
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-40665(JP,A)
【文献】特開2016-200552(JP,A)
【文献】特開2005-321272(JP,A)
【文献】米国特許第4401986(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01L 3/00- 3/26
H01F 5/02
H01F41/04-41/098
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トルクセンサ用コイルの製造方法であって、
円筒状に形成されると共に、前記円筒状の外周面に軸方向に対して予め設定された所定角度だけ傾斜した複数の第1傾斜溝、および軸方向に対して前記第1傾斜溝と反対方向に前記所定角度だけ傾斜した複数の第2傾斜溝、が形成されたボビンを治具で保持し、
前記ボビンの周囲を取り囲んで配置された複数のノズルから、それぞれ絶縁電線を同時に供給しつつ、前記ボビンを回転させるとともに、前記複数のノズルを前記ボビンの回転方向とは直交する方向に駆動させることで、複数の絶縁電線を前記第1傾斜溝または前記第2傾斜溝に沿って前記ボビンに巻き付ける
トルクセンサ用コイルの製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載のトルクセンサ用コイルの製造方法であって、
前記複数の絶縁電線として、第1電線、及び前記第1電線とは異なる第2電線、が供給され、
前記複数のノズルとして、前記第1電線を供給する第1ノズル、及び前記第1ノズルとは異なる第2ノズルであって、前記第2電線を前記第1電線と同時に供給する第2ノズル、が用いられ、
前記ボビンは、前記複数の第1傾斜溝および前記複数の第2傾斜溝毎に、前記軸方向における略中央部にて前記第1傾斜溝および前記第2傾斜溝が交差する部位を表す複数の交差部を有し、
前記複数の交差部では、前記第1電線と前記第2電線とが順に積層される
トルクセンサ用コイルの製造方法。
【請求項3】
請求項2に記載のトルクセンサ用コイルの製造方法であって、
前記交差部において、前記第1電線と前記第2電線とが同数だけ積層される
トルクセンサ用コイルの製造方法。
【請求項4】
請求項1~請求項3の何れか1項に記載のトルクセンサ用コイルの製造方法であって、
前記第1傾斜溝は、前記軸方向に対して+45度傾斜するように形成され、
前記第2傾斜溝は、前記軸方向に対して-45度傾斜するように形成される
トルクセンサ用コイルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、トルクセンサ用コイルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
磁歪特性を有する回転軸に付与されたトルクを測定するトルクセンサが広く知られている。例えば、下記特許文献1には、トルクセンサに用いられる磁歪式トルクセンサ用コイルを製作する際に、ボビンを順方向に1回転だけ回転させつつ絶縁電線を巻き付け、その後、ボビンを逆方向に1回転だけ回転させつつ絶縁電線を巻き付ける、という作業を交互に繰り返すことで、コイルを構成する絶縁電線をボビンに巻回するという技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-200552号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記のトルクセンサでは、磁歪式トルクセンサ用コイルを製作する際に、ボビンを逆方向に回転させる移動量が大きいため、多数の絶縁電線を同時にボビンに巻き付けようとすると、絶縁電線同士が絡まりやすいというという問題があった。
【0005】
本開示の一側面は、トルクセンサに用いられるトルクセンサ用コイルを製作する際の作業性を向上できるようにすることある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様は、トルクセンサ用コイルの製造方法であって、ボビンを治具で保持し、ボビンの周囲を取り囲んで配置された複数のノズルから、それぞれ絶縁電線を同時に供給しつつ、ボビンを回転させるとともに、複数のノズルをボビンの回転方向とは直交する方向に駆動させることで、複数の絶縁電線を第1傾斜溝または第2傾斜溝に沿ってボビンに巻き付ける。なお、ボビンには、円筒状に形成されると共に、円筒状の外周面に軸方向に対して予め設定された所定角度だけ傾斜した複数の第1傾斜溝、および軸方向に対して第1傾斜溝と反対方向に前記所定角度だけ傾斜した複数の第2傾斜溝、が形成される。
【0007】
このような製造方法によれば、複数の絶縁電線を第1傾斜溝または第2傾斜溝に沿って連続的にボビンに巻き付けるので、複数のノズルをボビンの回転方向とは直交する方向に駆動させるだけでよく、ボビンの回転方向に駆動させる必要がない。この結果、複数のノズルが衝突しにくくすることができるため、ボビンに多数の絶縁電線を同時に巻き付けることができる。よって、ボビンに絶縁電線を巻き付ける速度を向上させることができる。すなわち、磁歪式トルクセンサ用コイルを製作する際の作業性を向上させることができる。
【0008】
また、本開示の一態様は、磁歪特性を有する回転軸に付与されたトルクを測定するトルクセンサに用いられる磁歪式トルクセンサ用コイルであって、ボビンと、第1検出コイルと、第2検出コイルと、を備えてもよい。
【0009】
ボビンは、非金属製であり、磁歪特性を有する回転軸と離間して同軸に設けられ、中空円筒状に形成されると共に、その外周面に軸方向に対して予め設定された所定角度だけ傾斜した複数の第1傾斜溝、および軸方向に対して第1傾斜溝と反対方向に所定角度だけ傾斜した複数の第2傾斜溝、が形成される。
【0010】
第1検出コイルは、ボビンに巻回された絶縁電線であって、ボビンにおける一方の回転方向の順に複数の第1傾斜溝に沿って配置された第1電線により構成される。第2検出コイルは、ボビンに巻回された他の絶縁電線であって、ボビンにおける一方の回転方向の順に複数の第2傾斜溝に沿って配置された第2電線により構成される。第1電線は、第1傾斜溝を縦断しつつ横断して配置され、第2電線は、第2傾斜溝を縦断しつつ横断して配置される。
【0011】
このような構成は、第1検出コイルおよび第2検出コイルを製作する際に、ボビンを大きく戻すことなく、概ね一方向に連続してボビンを回転させながら第1電線および第2電線をボビンに巻き付けることで得ることができる。よって、このような構成は、多数の絶縁電線が絡まることを抑制しつつ、多数の絶縁電線を同時にボビンに巻き付けることができる。この結果、磁歪式トルクセンサ用コイルを製作する際の作業性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】トルクセンサの分解斜視図である。
図2】トルクセンサを回転軸に取り付けた際の断面図である。
図3】ボビンの斜視図である。
図4】各層での絶縁電線の巻き方を示すボビンの展開図である。
図5】第1層と第3層での絶縁電線の巻き方を示すボビンの展開図である。
図6】参考例における絶縁電線の巻き方を示すボビンの展開図である。
図7】コイル製造装置の概略構成図である。
図8】ボビンの展開図における一部拡大図である。
図9】ボビンにおける絶縁電線の積層状態を示す断面図である。
図10】測定部のブロック図である。
図11】トルクとセンサ出力との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照しながら、本開示の実施形態を説明する。
[1-1.トルクセンサの全体構成]
図1は、本開示の一態様のトルクセンサ1の分解斜視図である。図2は、トルクセンサ1を回転軸2に取り付けた際の断面図である。
【0014】
図1図2に示すように、トルクセンサ1は、磁歪特性を有する回転軸2の周囲に取り付けられ、車両に搭載された任意の回転軸2に付与された回転トルクを測定する磁歪式のセンサである。
【0015】
トルクセンサ1は、磁歪式トルクセンサ用コイル5と、シールド部6,7と、磁性リング8と、を備える。磁歪式トルクセンサ用コイル5は、樹脂からなるボビン20と、ボビン20に絶縁電線31,32,33,34(以後「絶縁電線31~34」とも表記する。)を巻き付けて構成される第1検出コイル30および第2検出コイル35(以後「検出コイル30,35」とも表記する。)とを備える。
【0016】
回転軸2は、磁歪特性を有する材料から構成され、円柱状、換言すれば棒状に形成されている。磁歪特性を有する材料としては、例えば、ニッケル、鉄-アルミニウム合金、鉄-コバルト合金等が挙げられる。
【0017】
なお、回転軸2に用いる材料としては、圧縮時に透磁率が低下し引張時に透磁率が増加する正磁歪材料、圧縮時に透磁率が増加し引張時に透磁率が低下する負磁歪材料のどちらを用いても構わない。回転軸2は、例えば、パワートレイン系のトルク伝達に用いられるシャフト、あるいは車両のエンジンのトルク伝達に用いられるシャフト等を採用できる。
【0018】
磁性リング8は、磁性体、例えば強磁性体からなり、中空円筒状に形成されている。磁性リング8の中空部には検出コイル30,35を設けたボビン20が挿入され、磁性リング8は、ボビン20の外周面を覆うように配置される。
【0019】
磁性リング8の内径は、ボビン20の外径と概ね同じ寸法であり、ボビン20の外径よりも若干大きく形成される。磁性リング8は、検出コイル30,35で生じた磁束が外部に漏れて感度が低下することを抑制する役割を果たす。
【0020】
シールド部6,7は、ボビン20を磁性リング8に固定する機能と、検出コイル30,35を外部の電磁ノイズから保護する(電磁ノイズを遮蔽する)機能とを有する。シールド部6,7は、磁性リング8の外径に概ね一致する外径と、ボビン20の内径に概ね一致する内径とを有するリング状に構成される。
【0021】
ボビン20は、磁性リング8の中空部に挿入されている。ボビン20における回転軸2の軸方向Lに沿う両側面側には、シールド部6,7が配置されている。言い換えると、ボビン20はシールド部6,7に挟み込まれているとともに、磁性リング8に固定されている。
【0022】
トルクセンサ1では、ボビン20の内壁と回転軸2との間に隙間が形成されている。隙間を形成することにより、トルクセンサ1は回転軸2に接触しないように構成されている。さらに、トルクセンサ1は、ハウジング等の固定部材に固定されているため、回転軸2の回転に伴って回転しないように構成される。
【0023】
[1-2.ボビン20と検出コイル30,35の構成]
図1図3に示すように、ボビン20は、樹脂を用いて形成され、全体として中空円筒状に形成されている。ボビン20は、回転軸2に対して所定の距離Δdだけ離間して設けられ、かつ、回転軸2と同軸に設けられる。
【0024】
ボビン20の外周面には、回転軸2の軸方向Lに対して予め設定された角度である所定角度だけ傾斜した複数の第1傾斜溝10と、軸方向Lに対して第1傾斜溝10と反対方向に所定角度傾斜した複数の第2傾斜溝11と、が形成されている。軸方向Lに対する第1傾斜溝10の角度は、軸方向Lに対する第2傾斜溝11の角度と同角度に設定される。
【0025】
ここでは、図3に示すように、軸方向Lに対して+45度傾斜するように第1傾斜溝10を形成すると共に、軸方向Lに対して-45度傾斜するように第2傾斜溝11を形成している。ただし、図3では、軸方向Lに平行な直線Lpに対して第1傾斜溝10および第2傾斜溝11が45度傾斜することを示す。
【0026】
トルクセンサ1では、第1傾斜溝10および第2傾斜溝11(以後「傾斜溝10,11」とも表記する。)に沿って絶縁電線31~34を巻き付けて検出コイル30,35を形成する。回転軸2にトルクが付与された際の透磁率の変化は軸方向Lに対して±45度の方向で最も大きくなる。そのため、傾斜溝10,11における軸方向Lに対する傾斜を、±45度傾斜にすることで、トルクセンサ1の検出感度を向上できる。
【0027】
なお、傾斜溝10,11の傾斜角度は±45度に限定されない。ただし、傾斜溝10,11の傾斜角度が小さすぎたり大きすぎたりすると感度が低下する。そのため、傾斜溝10,11の傾斜角度は±30~60度の範囲内とすることが望ましい。
【0028】
本実施の形態のボビン20の外周面には、軸方向Lとは直交する回転軸2の周方向において、偶数個の第1傾斜溝10および偶数個の第2傾斜溝11が、交互にかつ等間隔に形成される。本実施形態では、第1傾斜溝10および第2傾斜溝11は、それぞれ、回転軸2の周方向の60度毎に、6つずつ形成される。
【0029】
さらに、ボビン20の外周面には、ボビン20の両側面に沿う通路である側面通路13が形成される。ここで、ボビン20の側面とは、軸方向L側の側面、換言すれば、シールド部6,7と接する側の面を表す。
【0030】
ボビン20の外周面には、全体として、菱形の突起部である菱突起部14と、二等辺三角形の突起部である三角突起部15と、菱突起部14および三角突起部15(以下「突起部14,15」とも表記する。)の間に形成される谷となる部位である傾斜溝10,11と、側面通路13と、が形成されている。なお、傾斜溝10,11の数は、本実施形態で説明する6つに限定されず、ボビン20の外径、或いは回転軸2の外径等に応じて適宜変更可能である。
【0031】
本実施の形態では、検出コイル30,35をボビン20の外周面に形成している。そのため、ボビン20は、検出コイル30,35で生じた磁束に与える影響が金属材料よりも小さい材料、例えば樹脂を用いて形成されたものを用いることが好ましい。なお、ボビン20は、樹脂に限らず、磁束に与える影響が金属よりも小さい非金属であればよい。
【0032】
また、トルクセンサ1を潤滑油等の油が接触する環境で使用する場合には、耐油性を有する材料を用いてボビン20を形成することが好ましい。さらに、トルクセンサ1を高温環境で使用する場合には、耐熱性を有する材料を用いてボビン20を形成することが好ましい。
【0033】
さらにまた、絶縁電線31~34の材料として一般的に採用される銅または銅合金と同等の線膨張係数を有する材料を用いてボビン20を形成することが望ましい。より具体的には、ボビン20の形成に用いられる樹脂としては、線膨張係数が、銅または銅合金の線膨張係数の±25%以内のものを用いることが好ましい。このようにすることにより、温度変化に起因するボビン20の変形量と、絶縁電線31~34の変形量との差が小さくなり、絶縁電線31~34が断線しにくくなる。
【0034】
ここで、検出コイル30,35は、絶縁電線31~34のそれぞれから形成される4つの層を積層することで構成される。第1検出コイル30は、4層のうちの第1層を形成する絶縁電線31と第3層を形成する絶縁電線33とを備える。また、第2検出コイル35は、4層のうちの第2層を形成する絶縁電線32と第4層を形成する絶縁電線34とを備える。
【0035】
第1検出コイル30は、絶縁電線(第1電線)31,33を第1傾斜溝10、一方側の側面通路13A、および、他方側の側面通路13Bに沿わせながらボビン20に巻き付けて構成される。図4図6図8はボビン20の展開図である。
【0036】
図4に示すように、第1検出コイル30の第1層を形成する際には、まず、絶縁電線31を、巻はじめ位置1aから他方側の側面通路13Bに向かって第1傾斜溝10に沿わせて配置する。巻はじめ位置1aは、所定の第1傾斜溝10における一方側の側面通路13Aの端部に対応する位置である。次に、絶縁電線31を、隣接する第1傾斜溝10(図4における右隣の第1傾斜溝10)に向かって、側面通路13Bに沿わせて配置する。次に、絶縁電線31を、他方側の側面通路13Bから一方側の側面通路13Aに向かって、隣接する第1傾斜溝10に沿わせて配置する。次に、絶縁電線31を、更に隣接する第1傾斜溝10(図4における更に右隣の第1傾斜溝10)に向かって、側面通路13Aに沿わせて配置する。以下、第1傾斜溝10、一方側の側面通路13A、および、他方側の側面通路13Bに絶縁電線31を沿わせることを繰り返す。絶縁電線31は、ボビン20の外周を所定の周回数だけ巻き付けられる。絶縁電線31の巻終わり位置1bは、巻はじめ位置1aと同じ位置を例示することができる。絶縁電線31は、第1傾斜溝10を通って一方側の側面通路13A、および、他方側の側面通路13Bの間を行き来する略クランク状、言い換えるとジグザグ状に配線される。
【0037】
第1検出コイル30の第3層は、第1層と同様に、絶縁電線33を、第1傾斜溝10を通って一方側の側面通路13A、および、他方側の側面通路13Bの間を行き来させて形成される。具体的には、まず、絶縁電線33を、巻はじめの位置4aから他方側の側面通路13Bに向かって第1傾斜溝10に沿わせて配置する。以後の絶縁電線33を配置する手順は、第1層における手順と同様である。絶縁電線33の巻き終わり位置4bは、巻はじめ位置4aと同じ位置を例示することができる。なお、巻はじめの位置4aは、巻はじめの位置1a(所定の第1傾斜溝10)に隣接する第1傾斜溝10における一方側の側面通路13Aの端部に対応する位置である。
【0038】
第1検出コイル30の第1層では、図5の実線にて示すように、隣接する第1傾斜溝10と、一方側の側面通路13Aと、他方側の側面通路13Bとによって囲まれる平行四辺形を構成する4辺うちの3辺(隣接する第1傾斜溝10と、側面通路13Aおよび側面通路13Bの一方)に、絶縁電線31が配置される。第1検出コイル30の第3層では、図5の破線にて示すように、隣接する第1傾斜溝10と、一方側の側面通路13Aと、他方側の側面通路13Bとによって囲まれる平行四辺形(第1層における平行四辺形と同じもの)を構成する4辺うちの3辺(隣接する第1傾斜溝10と、側面通路13Aおよび側面通路13Bの他方)に、絶縁電線33が配置される。
【0039】
すなわち、上述の平行四辺形を構成する4辺(隣接する第1傾斜溝10と、一方側の側面通路13Aと、他方側の側面通路13B)には、第1層の絶縁電線31および第3層の絶縁電線33の一方または両方が配置される。言い換えると、第1層の絶縁電線31および第3層の絶縁電線33の組み合わせにより、上述の平行四辺形が形成される。
【0040】
第2検出コイル35は、絶縁電線(第2電線)32,34を、第2傾斜溝11、一方側の側面通路13A、および、他方側の側面通路13Bに沿わせながら、ボビン20に巻き付けて構成される。図4に示すように、第2検出コイル35の第2層を形成する際には、まず、絶縁電線32を、巻はじめ位置2aから隣接する第2傾斜溝11に(図4の右隣の第2傾斜溝11)向かって、一方側の側面通路13Aに沿わせて配置する。巻はじめ位置2aは、所定の第2傾斜溝11における一方側の側面通路13Aの端部に対応する位置である。
【0041】
次に、絶縁電線32を、一方側の側面通路13Aから他方側の側面通路13Bに向かって、隣接する第2傾斜溝11に沿わせて配置する。次に、絶縁電線32を、隣接する第2傾斜溝11から更に隣接する第2傾斜溝11に向かって、他方側の側面通路13Bに沿わせて配置する。次に、絶縁電線32を、他方側の側面通路13Bから一方側の側面通路13Aに向かって、更に隣接する第2傾斜溝11に沿わせて配置する。
【0042】
以下、第2傾斜溝11、一方側の側面通路13A、および、他方側の側面通路13Bに絶縁電線32を沿わせることを繰り返す。絶縁電線32は、ボビン20の外周を所定の周回数だけ巻き付けられる。絶縁電線32の巻き終わり位置2bは、巻はじめ位置2aと同じ位置を例示することができる。絶縁電線32は、第2傾斜溝11を通って一方側の側面通路13A、および、他方側の側面通路13Bの間を行き来する略クランク状、言い換えるとジグザグ状に配線される。
【0043】
第2検出コイル35の第4層は、第2層と同様に、絶縁電線34を、第2傾斜溝11を通って一方側の側面通路13A、および、他方側の側面通路13Bの間を行き来させて形成される。具体的には、まず、絶縁電線34を、巻はじめの位置3aから他方側の側面通路13Bに向かって、第2傾斜溝11に沿わせて配置する。以後の絶縁電線34を配置する手順は、第2層における手順と同様である。絶縁電線34の巻き終わり位置3bは、巻はじめ位置3aと同じ位置を例示することができる。
【0044】
なお、巻はじめの位置3aは、巻はじめの位置2aと同じ位置である。この際、第1層の絶縁電線31と第3層の絶縁電線33と同様に、隣接する第2傾斜溝11と、一方側の側面通路13Aと、他方側の側面通路13Bにより構成される平行四辺形の4辺には、第2層の絶縁電線32および第4層の絶縁電線34の一方または両方が配置される。言い換えると、第2層の絶縁電線32および第4層の絶縁電線34の組み合わせにより、当該平行四辺形が形成される。
【0045】
本実施形態の検出コイル30,35は、概ねボビン20を図5図6のX軸方向に沿う一方向に回転させるとともに、絶縁電線31~34を供給する後述する複数のノズル54をY軸方向に移動させることにより形成することができる。言い換えると、複数のノズル54をX軸方向に移動させることを要しない。なお、X軸方向はボビン20における周方向であり、Y軸方向は軸方向Lである。
【0046】
なお、図6に示すような参考例の手法では、1本の絶縁電線が前述の平行四辺形の全ての辺を通過するように配置される。このように絶縁電線を配置する場合、ボビン20を一方向だけでなく逆回転である他方向にも大きく回転させる必要がある。または、複数のノズルをY軸方向だけでなくX軸方向にも移動させる必要がある。
【0047】
ここで、本実施形態の手法では、例えば、図7に示すようなコイル製造装置50を用いて、絶縁電線31~34をボビン20に巻き付ける。
コイル製造装置50は、図7に示すように、それぞれ複数の、供給ボビン51と、テンション装置52と、可動ホルダ53と、ノズル54と、を備える。また、コイル製造装置50は、回転治具55を備える。供給ボビン51、テンション装置52、可動ホルダ53、およびノズル54は、それぞれ4つずつ備えられ、図7ではこれらのうちの2つずつを図示する。
【0048】
供給ボビン51は、検出コイル30,35となるボビン20に供給する絶縁電線31~34が巻き付けられており、絶縁電線31~34は、テンション装置52に連続的に送られる。
【0049】
テンション装置52は、ボビン20に巻き付けられる絶縁電線31~34の張力が概ね一定になるように絶縁電線31~34を保持しつつ、ボビン20側に絶縁電線31~34を供給する。可動ホルダ53は、ノズル54を備え、ノズル54とともに、Y軸方向に移動可能に構成される。なお、図7におけるY軸方向は、紙面の上下方向である。ただし、可動ホルダ53は、X軸方向に移動可能であってもよい。
【0050】
ノズル54は先端部からテンション装置52から送られてくる絶縁電線31~34をボビン20に対して供給する。
回転治具55は、ボビン20の内側を貫通して配置され、ボビン20の内側からボビン20を保持する。回転治具55は、モータ等のアクチュエータによって回転し、この回転に伴ってボビン20も回転する。絶縁電線31~34の先端部がボビン20にて保持された状態で、回転治具55が回転することで、絶縁電線31~34に張力が加わり、テンション装置52からボビン20に絶縁電線31~34が供給される。
【0051】
なお、ノズル54のY軸方向の位置が、絶縁電線31~34を巻き付けるための位置として最適になるように、回転治具55の回転に同期して、可動ホルダ53のY軸方向の位置が制御される。
【0052】
参考例の手法では、多数の絶縁電線を同時に巻き付けようとする場合に、絶縁電線を供給する図示しない複数のノズルがY軸方向だけでなくX軸方向にも移動するため、複数のノズル同士が接触する虞がある。そのため、同時に巻き付けられる絶縁電線の本数が制限される。本実施形態の手法では、複数のノズル54をX軸方向へ移動させる必要がないため、参考例の手法と比較して、ボビン20に多数の絶縁電線を同時に巻き付けることができる。
【0053】
一方で、本実施形態の手法では、側面通路13に沿って絶縁電線を巻き付ける際にはボビン20を逆回転させる必要がない。つまり、ボビン20を逆回転させる回転量を最低限(傾斜溝10,11に沿って絶縁電線を巻き付ける分)に抑制できる。そのため、本実施形態の手法は、参考例の手法と比較して、ボビン20に多数の絶縁電線を同時に巻き付けることができる。また、ボビン20に絶縁電線31~34を巻き付ける速度を向上させることができる。
【0054】
本実施形態の手法により絶縁電線31~34をボビン20に巻き付けると、図8に示すように、絶縁電線31,33は、全ての第1傾斜溝10を斜めに横断して配置される。また、絶縁電線32,34は、全ての第2傾斜溝11を斜めに横断して配置される。
【0055】
すなわち、絶縁電線31は、第1傾斜溝10における一方側の側面通路13A側に配置された角部15Aと、他方側の側面通路13B側に配置された角部15Bと、に巻き付くことにより方向転換して配置される。言い換えると、絶縁電線31は、第1傾斜溝10の領域を角部15Aから角部15Bに向かって、または、角部15Bから角部15Aに向かって、縦断しつつ横断して配置される。
【0056】
角部15Aは、絶縁電線31が配置される一方側の側面通路13Aと対向する三角突起部15におけるX軸正側の角部である。角部15Bは、絶縁電線31が配置される他方側の側面通路13Bと対向する三角突起部15におけるX軸負側の角部である。
【0057】
同様に、絶縁電線33は、第1傾斜溝10における一方側の側面通路13A側に配置された角部15Dと、他方側の側面通路13B側に配置された角部15Cと、に巻き付くことにより方向転換して配置される。言い換えると、絶縁電線33は、第1傾斜溝10の領域を角部15Cから角部15Dに向かって、または、角部15Dから角部15Cに向かって、縦断しつつ横断して配置される。
【0058】
角部15Cは、絶縁電線33が配置される他方側の側面通路13Bと対向する三角突起部15におけるX軸正側の角部である。角部15Dは、絶縁電線33が配置される一方側の側面通路13Aと対向する三角突起部15におけるX軸負側の角部である。
【0059】
また、絶縁電線32は、第2傾斜溝11における一方側の側面通路13A側に配置された角部15Eと、他方側の側面通路13B側に配置された角部15Fと、に巻き付くことにより方向転換して配置される。言い換えると、絶縁電線33は、第2傾斜溝11の領域を角部15Eから角部15Fに向かって、または、角部15Fから角部15Eに向かって、縦断しつつ横断して配置される。
【0060】
また、絶縁電線33は、第2傾斜溝11における一方側の側面通路13A側に配置された角部15Hと、他方側の側面通路13B側に配置された角部15Gと、に巻き付くことにより方向転換して配置される。言い換えると、絶縁電線33は、第2傾斜溝11の領域を角部15Gから角部15Hに向かって、または、角部15Hから角部15Gに向かって、縦断しつつ横断して配置される。絶縁電線31~34は、第1傾斜溝10および第2傾斜溝11が交差する部位である交差部23において、交差して配置される。
【0061】
交差部23での断面は、図9に示すように、この交差部23を通過する全ての絶縁電線31~34が積層された状態になる。また、交差部23では、第1検出コイル30の絶縁電線31,33と、第2検出コイル35の絶縁電線32,34とが交互に積層される。ただし、全ての絶縁電線31~34が同位置にて積み上げられてもよいし、絶縁電線31~34は概ね近い位置にて積層されてもよい。
【0062】
交差部23にて積層される絶縁電線31~34の数は、検出コイル30,35を構成する層の数に、それぞれの層における巻回数を乗じた数となる。例えば、絶縁電線31~34により構成されるそれぞれの層(合計4層)の巻き回数が30回転である場合には、これらの積である120本の絶縁電線が交差部23にて積層される。ただし、全ての交差部23で、同数の絶縁電線が積層されてもよいし、概ね近い位置にて積層されてもよい。
【0063】
なお、絶縁電線31~34をボビン20に巻き付ける際には、ボビン20を治具に固定して作業を行う。このとき、絶縁電線31~34の張力によりボビン20が回転してしまわないように、ボビン20の軸方向Lにおける端部が治具に係止される。
【0064】
そして、ボビン20の周囲を取り囲むように4つのノズル54を90度毎に配置する。4つのノズル54からそれぞれ絶縁電線31~34を同時に供給しつつ、ボビン20を概ね一方向に回転させるとともに、ノズル54をボビン20の回転方向とは直交する方向に駆動させる。この際、絶縁電線31,33が複数の第1傾斜溝10に順に沿い、絶縁電線32,34が複数の第2傾斜溝11に順に沿うように、複数のノズル54を駆動させる作動を繰り返すことで、前述のように4層の検出コイル30,35が製造される。
【0065】
なお、検出コイル30,35の各層(第1層から第4層)を構成する絶縁電線31~34は、長さが概ね同じ長さとされ、各層における抵抗値が概ね同じとなるように構成される。
【0066】
[1-3.測定部の構成]
図10に示すように、トルクセンサ1は、第1検出コイル30と第2検出コイル35のインダクタンスの変化を検出することにより、回転軸2に付与されたトルクを測定する測定部41を備えている。以下、第1層の第1検出コイル30のインダクタンスをL1、第2層の第2検出コイル35のインダクタンスをL2、第3層の第1検出コイル30のインダクタンスをL4、第4層の第2検出コイル35のインダクタンスをL3とする。
【0067】
測定部41は、ブリッジ回路42と、発信器43と、電圧測定回路44と、トルク演算部45と、を備える。ブリッジ回路42は、第1層、第4層、第3層、第2層の検出コイル30,35を順次環状に接続して構成される。
【0068】
発信器43は、第1層と第2層の検出コイル30,35間の接点aと第3層と第4層の検出コイル30,35間の接点bとの間に交流電圧を印加する。電圧測定回路44は、第1層と第4層の検出コイル30,35間の接点cと第3層と第2層の検出コイル30,35間の接点d間の電圧を検出する。
【0069】
トルク演算部45は、電圧測定回路44で測定した電圧を基に回転軸2に付与されたトルクを演算する。測定部41では、回転軸2にトルクが付与されない状態では、各層の検出コイル30,35のインダクタンスL1~L4は等しくなり、電圧測定回路44で検出される電圧は略0となる。
【0070】
ここで、回転軸2にトルクが付与されると、軸方向Lに対して+45度の方向の透磁率が減少または増加し、軸方向Lに対して-45度方向の透磁率が増加または減少する。よって、発信器43から交流電圧を印加した状態で回転軸2にトルクが付与されると、第1,3層の第1検出コイル30ではインダクタンスが減少または増加し、第2,4層の第2検出コイル35ではインダクタンスが増加または減少する。その結果、電圧測定回路44で検出される電圧が変化するので、この電圧の変化を基に、トルク演算部45が回転軸2に付与されたトルクを演算する。
【0071】
各層の検出コイル30,35は巻き付け方向が異なる以外は全く同じ構成であるから、図10のようなブリッジ回路42を用いることで、温度による各検出コイル30,35のインダクタンスへの影響をキャンセルすることが可能であり、精度よく回転軸2に付与されたトルクを検出することができる。また、トルクセンサ1では、第1検出コイル30でインダクタンスが増加または低下すれば、必ず第2検出コイル35ではインダクタンスが低下または増加するため、図10のようなブリッジ回路42を用いることで、検出感度をより向上させることができる。
【0072】
[1-4.効果]
以上詳述した実施形態によれば、以下の効果を奏する。
(1a)本開示の一態様は、磁歪式トルクセンサ用コイル5の製造方法であって、ボビン20を治具で保持し、ボビン20の周囲を取り囲んで配置された複数のノズル54から、それぞれ絶縁電線31~34を同時に供給しつつ、ボビン20を回転させるとともに、複数のノズル54をボビン20の回転方向とは直交する方向に駆動させることで、複数の絶縁電線31~34を第1傾斜溝10または第2傾斜溝11に沿ってボビン20に巻き付ける。なお、ボビン20は、円筒状に形成され、ボビン20には、円筒状の外周面に軸方向に対して予め設定された所定角度だけ傾斜した複数の第1傾斜溝10、および軸方向に対して第1傾斜溝10と反対方向に所定角度だけ傾斜した複数の第2傾斜溝11、が形成されている。
【0073】
このような製造方法によれば、複数の絶縁電線を第1傾斜溝10または第2傾斜溝11に沿って連続的にボビンに巻き付けるので、複数のノズル54をボビン20の回転方向とは直交する方向に駆動させるだけでよく、ボビン20の回転方向に駆動させる必要がない。この結果、複数のノズル54が衝突しにくくすることができるため、ボビン20に多数の絶縁電線を同時に巻き付けることができる。よって、ボビン20に絶縁電線を巻き付ける速度を向上させることができる。すなわち、磁歪式トルクセンサ用コイル5を製作する際の作業性を向上させることができる。
【0074】
(1b)本開示の磁歪式トルクセンサ用コイル5の製造方法では、ボビン20の周囲を取り囲むように、ボビン20の周囲の90度毎に配置された4つのノズル54から、それぞれ絶縁電線31~34を同時に供給することによって、4本の絶縁電線31~34を同時にボビン20に巻き付ける。
【0075】
このような製造方法によれば、4つのノズル54をボビン20の回転方向とは直交する方向に駆動させるだけでよいため、4つのノズル54が衝突しにくくなる。よって、4本の絶縁電線31~34を同時にボビン20に巻き付けることができる。
【0076】
(1c)本開示の一態様は、磁歪特性を有する回転軸2に付与されたトルクを測定するトルクセンサ1に用いられる磁歪式トルクセンサ用コイル5であって、ボビン20と、第1検出コイル30と、第2検出コイル35と、を備える。
【0077】
ボビン20は、非金属製であり、磁歪特性を有する回転軸2と離間して同軸に設けられ、中空円筒状に形成される。ボビン20の外周面には、軸方向Lに対して予め設定された所定角度だけ傾斜した複数の第1傾斜溝10、および軸方向Lに対して第1傾斜溝10と反対方向に所定角度だけ傾斜した複数の第2傾斜溝11、が形成される。
【0078】
第1検出コイル30は、絶縁電線31,34を第1傾斜溝10に沿わせながらボビン20に巻回して形成される。第2検出コイル35は、絶縁電線32,33を第2傾斜溝11に沿わせながらボビン20に巻回して形成される。絶縁電線31,34は、全ての第1傾斜溝10を斜めに横断しつつボビン20に巻回され、絶縁電線32,33は、全ての第2傾斜溝11を斜めに横断しつつボビン20に巻回される。
【0079】
このような構成にすることにより、概ね一方向に連続してボビン20を回転させながら絶縁電線31,34および絶縁電線32,33をボビン20に巻き付けることで第1検出コイル30および第2検出コイル35を得ることができる。言い換えると、ボビン20を上述の一方向とは反対方向へ大きく回転させることなく、第1検出コイル30および第2検出コイル35を製作することができる。よって、このような構成にすることにより、第1検出コイル30および第2検出コイル35を製造する際に、絶縁電線31~34が絡まることを抑制でき、絶縁電線31~34を同時にボビン20に巻き付けることができる。この結果、磁歪式トルクセンサ用コイル5を製作する際の作業性を向上させやすくなる。
【0080】
(1d)ここで、上述のボビン20、および線径0.1mmのポリアミドイミド銅線を30回転巻回することで得られる検出コイル(第1検出コイル30および第2検出コイル35と同等な構成を有する検出コイル)におけるトルクとセンサ出力との関係を説明する。当該検出コイルのトルクとセンサ出力との関係を実験により測定したところ、図11に示すような関係が得られた。すなわち、トルクの増減に対して、概ね比例するセンサ出力が得られた。センサ感度は、4.54mV/Nmであり、ヒステリシス誤差は1.07%FSであった。
【0081】
なお、ヒステリシス誤差とは、相対往復誤差(Relative reversibility error)、すなわち、負荷を増加させた場合と減少させた場合とで得られる特性曲線の差異を表す。ヒステリシス誤差の値は、小さいほうが好ましい。
【0082】
上述の測定の結果、本実施形態の検出コイルは、図6にて示す従来の手法で絶縁電線を巻回した検出コイルとほぼ同様な良好な特性を有していると考えられる。なお、従来の検出コイルでのトルクとセンサ出力との関係は、図11に示す本実施形態の検出コイルによる結果と概ね一致したため、記載を省略している。
【0083】
(1e)本開示の一態様では、ボビン20に、複数の第1傾斜溝10および複数の第2傾斜溝11毎に、回転軸2の軸方向Lにおける略中央部にて第1傾斜溝10および第2傾斜溝11が交差する部位を表す複数の交差部23が形成されてもよい。複数の交差部23では、絶縁電線31,34と絶縁電線32,33とが順に巻数分だけ積層されてもよい。
【0084】
(1f)本開示の一態様では、複数の交差部23のうちの全てにおいて、絶縁電線31,34と絶縁電線32,33とが同数だけ積層されてもよい。
これらの構成とすることにより、概ね一方向に連続してボビン20を回転させながら絶縁電線31,34および絶縁電線32,33を同時にボビン20に巻き付けることができる。よって、このような構成にすることにより、磁歪式トルクセンサ用コイル5を製作する際の作業性を向上させやすくなる。
【0085】
(1g)本開示の一態様では、第1傾斜溝10は、軸方向Lに対して+45度傾斜するように形成されてもよい。第2傾斜溝11は、軸方向Lに対して-45度傾斜するように形成されてもよい。
【0086】
このような構成にすることにより、第1検出コイル30および第2検出コイル35は、傾斜角が±45度以外の場合と比較して、回転軸2が捩じられることによって生じる応力を検知しやすくなる。
【0087】
[2.他の実施形態]
以上、本開示の実施形態について説明したが、本開示は上述の実施形態に限定されることなく、種々変形して実施することができる。
【0088】
(2a)上記実施形態では、4層のコイルを備える磁歪式トルクセンサ用コイル5について説明したが、これに限定されるものではない。例えば、2層のコイルを複数備える構成、或いは4層以外の任意の多層構造とされた磁歪式トルクセンサ用コイルとしてもよい。
【0089】
(2b)上記実施形態における1つの構成要素が有する複数の機能を、複数の構成要素によって実現したり、1つの構成要素が有する1つの機能を、複数の構成要素によって実現したりしてもよい。また、複数の構成要素が有する複数の機能を、1つの構成要素によって実現したり、複数の構成要素によって実現される1つの機能を、1つの構成要素によって実現したりしてもよい。また、上記実施形態の構成の一部を省略してもよい。また、上記実施形態の構成の少なくとも一部を、他の上記実施形態の構成に対して付加又は置換してもよい。なお、特許請求の範囲に記載した文言から特定される技術思想に含まれるあらゆる態様が本開示の実施形態である。
【0090】
(2c)上述した磁歪式トルクセンサ用コイルの製造方法の他、磁歪式トルクセンサ用コイル、当該磁歪式トルクセンサ用コイルを構成要素とするトルクセンサ、磁歪式トルクセンサ用コイルを備えるシステムなど、種々の形態で本開示を実現することもできる。
【符号の説明】
【0091】
1…トルクセンサ、2…回転軸、5…磁歪式トルクセンサ用コイル、6,7…シールド部、8…磁性リング、10…第1傾斜溝、11…第2傾斜溝、13…側面通路、14…菱突起部、15…三角突起部、15A~15H…角部、20…ボビン、23…交差部、30…第1検出コイル、31~34…絶縁電線、35…第2検出コイル、41…測定部、50…コイル製造装置、51…供給ボビン、52…テンション装置、53…可動ホルダ、54…ノズル、55…回転治具。
図1
図2
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