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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-21
(45)【発行日】2022-11-30
(54)【発明の名称】ワイヤハーネス
(51)【国際特許分類】
   H02G 15/02 20060101AFI20221122BHJP
   H01B 7/00 20060101ALI20221122BHJP
   H02G 3/30 20060101ALI20221122BHJP
   H02G 3/04 20060101ALI20221122BHJP
   B60R 16/02 20060101ALI20221122BHJP
【FI】
H02G15/02
H01B7/00 301
H02G3/30
H02G3/04 062
B60R16/02 623V
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2019025191
(22)【出願日】2019-02-15
(65)【公開番号】P2020137194
(43)【公開日】2020-08-31
【審査請求日】2021-06-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】日立金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002583
【氏名又は名称】弁理士法人平田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】江島 弘高
(72)【発明者】
【氏名】二ツ森 敬浩
【審査官】木村 励
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-46616(JP,A)
【文献】特開2016-91731(JP,A)
【文献】国際公開第2016/153045(WO,A1)
【文献】特開2002-34141(JP,A)
【文献】実開昭49-135792(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02G 15/02
H01B 7/00
H02G 3/30
H02G 3/04
B60R 16/02
H01R 4/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体線が絶縁体で被覆された複数の絶縁電線と、
前記複数の絶縁電線の長手方向の一部を覆うシースと、
前記複数の絶縁電線を導出させる前記シースの端部及び当該端部から導出された前記複数の絶縁電線の長手方向の一部を覆う分岐部固定部材と、を備え、
前記分岐部固定部材は、それぞれ前記複数の絶縁電線のうち一部を導出する筒状の複数の導出部を有しており、
少なくとも1つの前記導出部と、当該導出部から導出されている前記絶縁電線とを覆うように設けられた弾性を有する保護チューブと、
前記保護チューブの一端部を前記導出部の外周面に締め付け固定する締付部材と、を備えた、
ワイヤハーネス。
【請求項2】
前記保護チューブの他端部を、前記絶縁電線の先端部に設けられたコネクタハウジングの外周面に締め付け固定するコネクタ側締付部材をさらに備え、
前記保護チューブは、前記導出部から前記コネクタハウジングにわたって設けられた一つのチューブである、
請求項1に記載のワイヤハーネス。
【請求項3】
前記分岐部固定部材は、前記複数の絶縁電線のうち一部の絶縁電線を導出させる第1の導出部と、前記複数の絶縁電線のうち他の一部の絶縁電線を導出させる第2の導出部と、を有し、
前記第1の導出部の先端部と当該第1の導出部から導出されている前記絶縁電線の周囲、または、前記第2の導出部の先端部と当該第2の導出部から導出されている前記絶縁電線の周囲の少なくとも一方を覆うように、前記保護チューブが設けられている、
請求項1または2に記載のワイヤハーネス。
【請求項4】
前記第1の導出部からの前記一部の絶縁電線の導出方向と、前記第2の導出部からの前記他の一部の絶縁電線の導出方向とが異なる、
請求項3に記載のワイヤハーネス。
【請求項5】
前記分岐部固定部材を取付対象に取り付けるための固定具をさらに備え、
前記固定具は、前記第2の導出部によって前記分岐部固定部材に対する一側への移動が規制されている、
請求項4に記載のワイヤハーネス。
【請求項6】
前記分岐部固定部材が、ゴム状弾性体からなる成形体であり、
前記第1の導出部の先端部と当該第1の導出部から導出されている前記絶縁電線の周囲、及び、前記第2の導出部の先端部と当該第2の導出部から導出されている前記絶縁電線の周囲の両方を覆うように、それぞれ前記保護チューブが設けられている、
請求項3乃至5の何れか1項に記載のワイヤハーネス。
【請求項7】
前記分岐固定部材は、EPDM(エチレンプロピレンジエンゴム)からなる、
請求項6に記載のワイヤハーネス。
【請求項8】
前記分岐部固定部材は、ウレタン樹脂からなるモールド樹脂からなり、
前記第2の導出部から導出される複数の前記絶縁電線が、一括してウレタン樹脂からなる内部シースに覆われており、
前記第2の導出部の先端部と当該第2の導出部から導出されている前記絶縁電線の周囲が、前記保護チューブにより覆われていない。
請求項3乃至5の何れか1項に記載のワイヤハーネス。
【請求項9】
前記分岐部固定部材を取付対象に取り付けるための固定具をさらに備え、
前記シースの外周側にあたる前記分岐部固定部材の外周面の少なくとも一部が前記固定具により締め付けられている、
請求項1乃至8の何れか1項に記載のワイヤハーネス。
【請求項10】
前記固定具は、前記シースの前記端部から導出された前記複数の絶縁電線の外周側にあたる前記分岐部固定部材の外周面の少なくとも一部を締め付けている、
請求項9に記載のワイヤハーネス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワイヤハーネスに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば自動車のABS(アンチロックブレーキシステム)センサの検出信号を伝達する一対のセンサ用電線と、電動式のパーキングブレーキを動作させる一対のパーキングブレーキ用電線とを共通のシースで被覆して一体化したワイヤハーネスが知られている。例えば、特許文献1では、シースの端部からセンサ用電線及びパーキングブレーキ用電線を分岐する分岐部に樹脂モールドを設けたワイヤハーネスが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第6213447号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載のワイヤハーネスでは、樹脂モールドから延出されているセンサ用電線及びパーキングブレーキ用電線に飛び石等があたると、電線が損傷してしまうおそれがある。
【0005】
そこで、本発明は、飛び石等による電線の損傷を抑制可能なワイヤハーネスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記課題を解決することを目的として、導体線が絶縁体で被覆された複数の絶縁電線と、前記複数の絶縁電線の長手方向の一部を覆うシースと、前記複数の絶縁電線を導出させる前記シースの端部及び当該端部から導出された前記複数の絶縁電線の長手方向の一部を覆う分岐部固定部材と、を備え、前記分岐部固定部材は、それぞれ前記複数の絶縁電線のうち一部を導出する筒状の複数の導出部を有しており、少なくとも1つの前記導出部と、当該導出部から導出されている前記絶縁電線とを覆うように設けられた弾性を有する保護チューブと、前記保護チューブの一端部を前記導出部の外周面に締め付け固定する締付部材と、を備えた、ワイヤハーネスを提供する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、飛び石等による電線の損傷を抑制可能なワイヤハーネスを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の一実施の形態に係るワイヤハーネスの正面図である。
図2図1に示すワイヤハーネスの縦断面図である。
図3】(a)は、図2のA-A線断面図、(b)は、図2のB-B線断面図、(c)は、図2のC-C線断面図である。
図4】第1の締付部材の構成例を示し、(a)は正面図、(b)は左側面図である。
図5】(a)は、本発明の他の実施の形態に係るワイヤハーネスの縦断面図、(b)は、(a)のD-D線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[実施の形態]
以下、本発明の実施の形態を添付図面にしたがって説明する。
【0010】
図1は、本実施の形態に係るワイヤハーネスの正面図である。図2は、図1のワイヤハーネスの縦断面図である。図3(a)は、図2のA-A線断面図、図3(b)は、図2のB-B線断面図、図3(c)は、図2のC-C線断面図である。
【0011】
図1乃至3に示すように、ワイヤハーネス1は、一対の第1の絶縁電線2及び一対の第2の絶縁電線3と、第1及び第2の絶縁電線2,3の長手方向の一部を覆うシース4と、シース4の端部4a及び当該端部4aから導出された第1及び第2の絶縁電線2,3の長手方向の一部を覆う分岐部固定部材としての成形部材5と、固定具としてのブラケット7とを有している。
【0012】
このワイヤハーネス1は、車両に搭載され、ブラケット7の貫通孔720に挿通される図略のボルトやリベット等の締結部材によってブラケット7が車体側に固定される。第1の絶縁電線2は、例えば電動式のパーキングブレーキに動作電源を供給するためのパーキングブレーキ用電線である。第2の絶縁電線3は、例えばABSセンサの検出信号を伝達するセンサ用電線である。また、第1の絶縁電線2又は第2の絶縁電線3を、電子制御式のダンパを制御するためのダンパ用電線としてもよい。あるいは、ダンパ用電線を第3の絶縁電線として追加し、シース4に収容してもよい。
【0013】
第1の絶縁電線2は、例えば銅や銅合金からなる複数の素線を撚り合わせた導体線21、及び導体線21を被覆する絶縁体22からなる。同様に、第2の絶縁電線3は、例えば銅や銅合金からなる複数の素線を撚り合わせた導体線31、及び導体線31を被覆する絶縁体32からなる。なお、第1の絶縁電線2は、第2の絶縁電線3よりも太く形成されている。
【0014】
シース4は、筒状であり、一対の第1の絶縁電線2及び一対の第2の絶縁電線3を一括して被覆している。シース4の内部において、シース4の内面と第1及び第2の絶縁電線2,3との間には、繊維状の介在41が配置されている。シース4は、一方の端部が成形部材5に保持され、他方の端部は図略の制御装置のケースに保持されている。
【0015】
成形部材5は、第1及び第2の絶縁電線2,3が導出されるシース4の端部4aの外周を覆ってシース4の長手方向の一部を保持するシース保持部51と、シース4から導出された第1及び第2の絶縁電線2,3の長手方向の一部を保持する電線保持部52と、電線保持部52から(複数(4本)の絶縁電線のうちの一部である)2本の第1の絶縁電線2を第1の方向(例えば、軸方向)に導出する第1の導出部53と、電線保持部52から(複数(4本)の絶縁電線のうちの一部である)2本の第2の絶縁電線3を第1の方向と異なる方向(例えば、斜め方向)に導出する第2の導出部54とを一体に有している。
【0016】
シース4は、成形部材5の内部において直線状に、シース保持部51に保持されている。第1の絶縁電線2は、シース保持部51に保持されたシース4と平行かつ直線状に、電線保持部52に保持されている。第2の絶縁電線3は、電線保持部52の内部で屈曲されて第1の絶縁電線2とは異なる方向に向かって成形部材5から導出されている。以下、シース保持部51に保持されたシース4の中心軸の方向を軸方向といい、この軸方向に対して、斜めの方向を斜め方向、垂直な方向を径方向という。
【0017】
成形部材5は、径方向から見た場合に、シース4の外周側にあたる部分がシース保持部51として、またシース4の開口端面4bから先の部分が電線保持部52として、またさらに電線保持部52から先の部分が第1及び第2の導出部53,54としてそれぞれ形成されている。シース保持部51は、円筒状の本体部510と、本体部510から径方向に突出して設けられた環状のフランジ部511とを有している。フランジ部511は、ブラケット7の巻き締め部71が巻き締められる成形部材5の外周面5aから径方向外方に突出して設けられている。
【0018】
成形部材5は、EPDM(エチレンプロピレンジエンゴム)等のゴム状弾性体からなる。EPDMは、比較的軟らかい材料であり、絶縁電線2,3の屈曲に追従して屈曲可能であるため、絶縁電線2,3の損傷を抑制することができる。なお、成形部材5の材料としては、EPDMのみに限らず、ウレタンゴム、シリコンゴム、ブチルゴム、フッ素ゴム、アクリルゴム、ブタジエンゴムを使用してもよい。成形部材5をゴム状弾性体で構成することで、第1及び第2の絶縁電線2,3の導出方向を固定することが可能でありながら、第1及び第2の絶縁電線2,3が車両の振動等で屈曲したとしても、第1及び第2の絶縁電線2,3の屈曲に追従して成形部材5も屈曲することになり、第1及び第2の絶縁電線2,3の損傷を抑制することが可能になる。
【0019】
第1の導出部53は、電線保持部52よりも小径の円筒状であり、第2の導出部54は、第1の導出部53よりもさらに小径の円筒状である。第1の導出部53には、それぞれ第1の絶縁電線2を挿通させる複数(本実施の形態においては、2つ)の第1の挿通孔が互いに離間して形成されている。第2の導出部54には、それぞれ第2の絶縁電線3を挿通させる複数(本実施の形態においては、2つ)の第2の挿通孔が互いに離間して形成されている。第2の導出部54を電線保持部52から斜め方向に突出させることにより、電線保持部52の外周面5aと第2の導出部54の外周面54aとの間に境界5bが形成される。成形部材5の外周面5aにブラケット7の巻き締め部71を巻き締めた場合に、巻き締め部71をフランジ部511と境界5bで挟むことにより、ブラケット7が成形部材5に対して軸方向(シース4の長手方向)に相対移動してしまうことが規制されている。このように、固定具としてのブラケット7は、第2の導出部54によって分岐部固定部材5に対する一側への移動が規制されている。なお、「一側への移動」とは、シース4から離間する方向(図2右方向)への移動である。また、固定具としてのブラケット7は、フランジ部511によって分岐部固定部材5に対する他側(図2左方向)への移動が規制されている。
【0020】
ブラケット7は、例えばアルミニウム等の板状の金属からなる。ブラケット7は、成形部材5の外周面5aに巻き締められた巻き締め部71、及び車体側の固定対象に固定される固定部72を一体に有している。巻き締め部71は、成形部材5を押圧する押圧部として機能する。固定部72には、貫通孔720が板厚方向に貫通して形成されている。巻き締め部71は、軸方向視において、成形部材5の外周面5aを半周以上にわたって囲っている。巻き締め部71は、シース保持部51とともに電線保持部52を保持している。巻き締め部71が接触して巻き締められた成形部材5の外周面5aは、シース保持部51における外周面から電線保持部52における外周面にわたっている。巻き締め部71がシース保持部51の本体部510の外周面5aの全体に巻き締められていてもよい。
【0021】
成形部材5のフランジ部511と境界5bとの間の外周面5aにブラケット7の巻き締め部71を巻き付けることで、シース4と成形部材5との間から水が浸入してしまうことを抑制できる。また、巻き締め部71を、シース保持部51における外周面から電線保持部52における外周面にわたって成形部材5の外周面5aを押圧するよう構成することで、シース4内への水の浸入をより抑制可能になる。
【0022】
(保護チューブ)
本実施の形態に係るワイヤハーネス1は、少なくとも1つの導出部53,54の先端部と、当該導出部53,54から導出されている絶縁電線2,3とを覆うように設けられた弾性を有する保護チューブ9と、保護チューブ9の一端部を導出部53,54の外周面53a,54aに締め付け固定する締付部材8A,8Bと、を備えている。締付部材8A,8Bはそれぞれ、導出部53,54を保護チューブ9を介して押圧する押圧部材としての機能も有する。
【0023】
本実施の形態では、第1の導出部53の先端部と当該第1の導出部53から導出されている2本の第1の絶縁電線2の周囲を覆うように第1の保護チューブ91を設けると共に、第2の導出部54の先端部と当該第2の導出部54から導出されている2本の第2の絶縁電線3の周囲を覆うように第2の保護チューブ92を設けた。これら第1及び第2の保護チューブ91,92を備えることにより、第1及び第2の絶縁電線2の飛び石等による損傷を抑制することが可能になる。なお、保護チューブ91,92はそれぞれ、第1導出部53,54の先端部のみならずその全体を覆っていてもよい。
【0024】
第1の保護チューブ91の一端部は、第1の締付部材8Aによって、第1の導出部53の外周面53aに締め付け固定される。これにより、第1の保護チューブ91が第1の導出部53の外周面53aに密着し、第1の保護チューブ91と第1の導出部53との間から第1の保護チューブ91内に水が浸入することが抑制される。さらに、第1の締付部材8Aの締付けによって、第1の絶縁電線2とその周囲の第1の導出部53とが密着する。これにより、たとえ第1の保護チューブ91内に水が浸入してしまったとしても、第1の絶縁電線2と第1の導出部53との間からシース4内に水が浸入することが抑制される。
【0025】
同様に、第2の保護チューブ92の一端部は、第2の締付部材8Bによって、第2の導出部54の外周面54aに締め付け固定される。これにより、第2の保護チューブ92が第2の導出部54の外周面54aに密着し、第2の保護チューブ92と第2の導出部54との間から第2の保護チューブ92内に水が浸入することが抑制される。さらに、第2の締付部材8Bの締付けによって、第2の絶縁電線3とその周囲の第2の導出部54とが密着する。これにより、たとえ第2の保護チューブ92内に水が浸入してしまったとしても、第2の絶縁電線3と第2の導出部54との間からシース4内に水が浸入することが抑制される。
【0026】
保護チューブ9としては、締付部材8A,8Bの締付け力に応じて変形する弾性を有する材料を用いるとよく、例えば、EPDM、ウレタンゴム、シリコンゴム、ブチルゴム、フッ素ゴム、アクリルゴム、ブタジエンゴム等のゴム材料、あるいはポリウレタン樹脂や塩化ビニル樹脂等の樹脂からなるものを用いることができる。保護チューブ9は、シース4内への水の侵入を抑制する役割と、絶縁電線2,3をチッピング等から保護する役割と、を兼ねた部材である。そのため、自動車用のワイヤハーネス1に用いる保護チューブ9としては、飛び石(チッピング)に対する耐性や耐候性、耐薬品性が十分に高いものを用いることが望ましい。本実施の形態では、これらの特性を満たすEPDM製の保護チューブ9を用いた。
【0027】
保護チューブ9の厚さは、0.5mm以上3.0mm以下であるとよい。これは、保護チューブ9の厚さが0.5mm未満であると、チッピングにより破れてしまうおそれが高くなり、保護チューブ9の厚さが3.0mmを超えると、硬くなり配策作業が困難になるためである。また、保護チューブ9の厚さは、導出部53,54の厚さ(絶縁電線2,3の外周面から導出部53,54の外周面までの距離)よりも薄いことが好ましい。このようにすることにより、保護チューブ9を介した導出部53,54への締付部材8A,8Bによる締付け力(押圧力)を付与しやすくなり、シース4内に水が浸入することがより抑制される。
【0028】
本実施の形態では、第1の絶縁電線2の先端部には第1のコネクタ23が設けられている。第1のコネクタ23は、第1の絶縁電線2の先端部に設けられた第1の端子231と、第1の端子231と第1の絶縁電線2の一部を覆う第1のコネクタハウジング232と、を有している。第1のコネクタハウジング232は、第1の絶縁電線2を導出する円筒状の第1のコネクタ側導出部233を有している。第1のコネクタ側導出部233には、第1のコネクタ側導出部233の内周面と第1の絶縁電線2の外周面との間をシールする第1のワイヤシール234が設けられている。
【0029】
本実施の形態では、第1の保護チューブ91の他端部(成形部材5と反対側の端部)は、第1のコネクタ側締付部材8Cによって、第1のコネクタ側導出部233の外周面233aに締め付け固定されている。これにより、第1の保護チューブ91の他端側から第1の保護チューブ91内に水が浸入することが抑制される。
【0030】
同様に、第2の絶縁電線3の先端部には第2のコネクタ33が設けられている。第2のコネクタ33は、第2の絶縁電線3の先端部に設けられた第2の端子331と、第2の端子231と第2の絶縁電線3の一部を覆う第2のコネクタハウジング332と、を有している。第2のコネクタハウジング332は、第2の絶縁電線3を導出する円筒状の第2のコネクタ側導出部333を有している。第2のコネクタ側導出部333には、第2のコネクタ側導出部333の内周面と第2の絶縁電線3の外周面との間をシールする第2のワイヤシール334が設けられている。
【0031】
第2の保護チューブ92の他端部(成形部材5と反対側の端部)は、第2のコネクタ側締付部材8Dによって、第2のコネクタ側導出部333の外周面333aに締め付け固定されている。これにより、第2の保護チューブ92の他端側から第2の保護チューブ92内に水が浸入することが抑制される。
【0032】
図4は、第1の締付部材8Aの構成例を示し、(a)は正面図、(b)は側面図である。なお、図示は省略しているが、第2の締付部材8B、第1のコネクタ側締付部材8C、及び第2のコネクタ側締付部材8Dも、第1の締付部材8Aと同様に構成することができる。
【0033】
第1の締付部材8Aは、帯状の本体部81の一方の端部にノッチ821を有する係止ヘッド82を有しており、この係止ヘッド82に本体部81の他端部が挿通される。ノッチ821は、本体部81を係止し、本体部81によって第1の導出部53を締めつけた状態を維持する。第1及び第2の締付部材8A、8B、第1及び第2コネクタ側締付部材8C,8Dは、例えば合成樹脂やSUS等の金属からなる。
【0034】
第1の締付部材8Aの幅(本体部81の幅)Wは、3.0mm以上10.0mm以下であるとよい。第1の締付部材8Aの幅Wが3.0mm未満であると、保護チューブ9内への水の浸入を十分に抑制できなくなるおそれがあり、第1の締付部材8Aの幅Wが10.0mmを超えると、締め付け時に大きな力が必要になり、作業性の観点から好ましくないためである。
【0035】
本実施の形態では、保護チューブ9の端部にそれぞれ1つの締付部材を設けたが、複数の締付部材を設けてもよい。この場合、複数の締付部材は、保護チューブ9の長手方向に離間して設けられるとよい。複数の締付部材を用いることで、締付部材の幅Wを狭く(例えば3.0mm未満に)しても、保護チューブ9内への水の浸入を抑制することが可能になる。
【0036】
(実施の形態の作用及び効果)
以上説明したように、本実施の形態に係るワイヤハーネス1では、少なくとも1つの導出部53,54と、当該導出部53,54から導出されている絶縁電線2,3とを覆うように設けられた弾性を有する保護チューブ9と、保護チューブ9の一端部を導出部53,54の外周面53a,54aに締め付け固定する締付部材8A,8Bと、を備えている。
【0037】
保護チューブ9を備えることにより、絶縁電線2,3の飛び石等による損傷を抑制することが可能になる。さらに、保護チューブ9を成形部材5に締め付け固定することで、保護チューブ9と成形部材5の間から保護チューブ9内に水が浸入することが抑制され、シース4の内部への水分の浸入を抑制することが可能になる。
【0038】
また、ワイヤハーネス1では、第1の絶縁電線2及び第2の絶縁電線3の導出方向に応じて第1の導出部53及び第2の導出部54を成形部材5に設けているので、第1及び第2の絶縁電線2,3をシース4の端部で分岐して異なる方向に導出することが可能である。また、ワイヤハーネス1では、接続先が同じ同系統の一対の第1の絶縁電線2をまとめて第1の導出部53に挿通し、また別の接続先に接続される同系統の一対の第2の絶縁電線3をまとめて第2の導出部54に挿通している。このため、第1の絶縁電線2と一対の第2の絶縁電線3とを異なる方向へ屈曲させる力が印加されたとしても、第1の導出部53及び第2の導出部54が独立して個々に湾曲することが可能なので、第1の導出部53と第1の絶縁電線2間、あるいは第2の導出部54と第2の絶縁電線3間からシース4の内部への水の浸入をより抑制できる。
【0039】
(他の実施の形態)
次に、本発明の他の実施の形態を説明する。図5(a)は、本発明の他の実施の形態に係るワイヤハーネスの縦断面図、図5(b)は、図5(a)のD-D線断面図である。
【0040】
図5(a),(b)に示すワイヤハーネス1aは、基本的に図1,2に示したワイヤハーネス1と同じ構成であるが、成形部材5の材質が異なっている。ワイヤハーネス1aでは、成形部材5は、ウレタン樹脂からなるモールド樹脂で構成されている。
【0041】
また、ワイヤハーネス1aでは、第2の絶縁電線3を一括被覆する内部シース34を備えている。内部シース34は、成形部材5と同じ材料であるウレタン樹脂で構成されている。内部シース34と成形部材5とは、成形部材5を成形する際の熱により溶着され一体化されており、これにより、内部シース34と成形部材5間からの水の浸入が抑制されている。
【0042】
さらに、ワイヤハーネス1aでは、第2の絶縁電線3の先端部に、センサ部35が一体に設けられている。センサ部35は、例えばABSセンサを構成するものであり、磁気センサ(不図示)が内蔵されている。センサ部35は、ウレタン樹脂からなるモールド樹脂で構成されたハウジング35aを有している。ハウジング35aと内部シース34とは、ハウジング35aを成形する際の熱により溶着され一体化されており、これにより、内部シース34とハウジング35a間からの水の浸入が抑制されている。
【0043】
このように、ワイヤハーネス1aでは、内部シース34と成形部材5、及び内部シース34とセンサ部35(ハウジング35a)とが溶着され一体化されており、また、内部シース34によるチッピングにより第2の絶縁電線3の損傷を抑制可能となっているため、第2の保護チューブ92を設けることを省略することが可能である。そのため、ワイヤハーネス1aでは、第2の導出部54の先端部と当該第2の導出部54から導出されている第2の絶縁電線3の周囲が、第2の保護チューブ92により覆われていない。また、ワイヤハーネス1aでは、第2の保護チューブ92の省略に伴い、第2の締付部材8B及び第2のコネクタ側締付部材8Dも省略されている。よって、ワイヤハーネス1aでは、部品点数を削減でき、製造コストの削減を図ることができる。
【0044】
(実施の形態のまとめ)
次に、以上説明した実施の形態から把握される技術思想について、実施の形態における符号等を援用して記載する。ただし、以下の記載における各符号等は、特許請求の範囲における構成要素を実施の形態に具体的に示した部材等に限定するものではない。
【0045】
[1]導体線(21,31)が絶縁体(22,32で被覆された複数の絶縁電線(2,3)と、前記複数の絶縁電線(2,3)の長手方向の一部を覆うシース(4)と、前記複数の絶縁電線(2,3)を導出させる前記シース(4)の端部及び当該端部から導出された前記複数の絶縁電線(2,3)の長手方向の一部を覆う分岐部固定部材(5)と、を備え、前記分岐部固定部材(5)は、それぞれ前記複数の絶縁電線(2,3)のうち一部を導出する筒状の複数の導出部(53,54)を有しており、少なくとも1つの前記導出部(53,54)と、当該導出部(53,54)から導出されている前記絶縁電線(2,3)とを覆うように設けられた弾性を有する保護チューブ(9)と、前記保護チューブ(9)の一端部を前記導出部(53,54)の外周面(53a,54a)に締め付け固定する締付部材(8A,8B)と、を備えた、ワイヤハーネス(1)。
【0046】
[2]前記保護チューブ(9)の他端部を、前記絶縁電線(2,3)の先端部に設けられたコネクタハウジング(232,332)の外周面(232a,332a)に締め付け固定するコネクタ側締付部材(8C,8D)をさらに備えた、[1]に記載のワイヤハーネス(1)。
【0047】
[3]前記分岐部固定部材(5)は、前記複数の絶縁電線(2,3)のうち一部の絶縁電線(2)を導出させる第1の導出部(53)と、前記複数の絶縁電線(2,3)のうち他の一部の絶縁電線(3)を導出させる第2の導出部(54)と、を有し、前記第1の導出部(53)の先端部と当該第1の導出部(53)から導出されている前記絶縁電線(2)の周囲、または、前記第2の導出部(54)の先端部と当該第2の導出部(54)から導出されている前記絶縁電線(3)の周囲の少なくとも一方を覆うように、前記保護チューブ(9)が設けられている、[1]または[2]に記載のワイヤハーネス(1)。
【0048】
[4]前記第1の導出部(53)からの前記一部の絶縁電線(2)の導出方向と、前記第2の導出部(54)からの前記他の一部の絶縁電線(3)の導出方向とが異なる、[3]に記載のワイヤハーネス(1)。
【0049】
[5]前記分岐部固定部材(5)を取付対象に取り付けるための固定具(7)をさらに備え、前記固定具(7)は、前記第2の導出部(54)によって分岐部固定部材(5)に対する一側への移動が規制されている、[4]に記載のワイヤハーネス(1)。
【0050】
[6]前記分岐部固定部材(5)が、ゴム状弾性体からなる成形体であり、前記第1の導出部(53)の先端部と当該第1の導出部(53)から導出されている前記絶縁電線(2)の周囲、及び、前記第2の導出部(54)の先端部と当該第2の導出部(54)から導出されている前記絶縁電線(3)の周囲の両方を覆うように、それぞれ前記保護チューブ(9)が設けられている、[3]乃至[5]の何れか1項に記載のワイヤハーネス(1)。
【0051】
[7]前記分岐固定部材(5)は、EPDM(エチレンプロピレンジエンゴム)からなる、[6]に記載のワイヤハーネス(1)。
【0052】
[8]前記分岐部固定部材(5)は、ウレタン樹脂からなるモールド樹脂からなり、前記第2の導出部(54)から導出される複数の前記絶縁電線(3)が、一括してウレタン樹脂からなる内部シース(34)に覆われており、前記第2の導出部(54)の先端部と当該第2の導出部(54)から導出されている前記絶縁電線(3)の周囲が、前記保護チューブ(9)により覆われていない。[3]乃至[5]の何れか1項に記載のワイヤハーネス(1a)。
【0053】
[9]前記分岐部固定部材(5)を取付対象に取り付けるための固定具(7)をさらに備え、前記シース(4)の外周側にあたる前記分岐部固定部材(5)の外周面の少なくとも一部が前記固定具(7)により締め付けられている、[1]乃至[8]の何れか1項に記載のワイヤハーネス(1)。
【0054】
[10]前記固定具(7)は、前記シース(4)の前記端部(4a)から導出された前記複数の絶縁電線(2,3)の外周側にあたる前記分岐部固定部材(5)の外周面の少なくとも一部を締め付けている、[9]に記載のワイヤハーネス(1)。
【0055】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、上記に記載した実施の形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。
【0056】
本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変形して実施することが可能である。例えば、上記実施の形態では、第1及び第2の絶縁電線2,3が互いに異なる方向に導出された場合について説明したが、第1及び第2の絶縁電線2,3が同じ方向に導出されてもよい。また、一対の第1の絶縁電線2をそれぞれ別の導出部から導出し、それぞれ個別に保護チューブ9で覆ってもよく、一対の第2の絶縁電線3をそれぞれ別の導出部から導出して、それぞれ個別に保護チューブ9で覆ってもよい。またさらに、例えばダンパ用電線を第3の絶縁電線として追加した場合には、この第3の絶縁電線を導出する第3の導出部の先端部と第3の絶縁電線の周囲を覆うように保護チューブを設け、第3の締付部材により保護チューブを第3の導出部の外周に締め付け固定してもよい。ワイヤハーネス1の用途についても特に限定はない。
【符号の説明】
【0057】
1…ワイヤハーネス
2…第1の絶縁電線
21…導体線
22…絶縁体
23…第1のコネクタ
232…第1のコネクタハウジング
233a…外周面
3…第2の絶縁電線
31…導体線
32…絶縁体
33…第2のコネクタ
332…第2のコネクタハウジング
333a…外周面
34…内部シース
4…シース
4a…端部
5…成形部材(分岐部固定部材)
53…第1の導出部
53a…外周面
54…第2の導出部
54a…外周面
7…ブラケット(固定具)
71…巻き締め部
8A…第1の締付部材
8B…第2の締付部材
8C…第1のコネクタ側締付部材
8D…第2のコネクタ側締付部材
9…保護チューブ
図1
図2
図3
図4
図5