(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-21
(45)【発行日】2022-11-30
(54)【発明の名称】超音波探傷装置および超音波探傷方法
(51)【国際特許分類】
G01N 29/26 20060101AFI20221122BHJP
G01N 29/24 20060101ALI20221122BHJP
G01N 29/09 20060101ALI20221122BHJP
【FI】
G01N29/26
G01N29/24
G01N29/09
(21)【出願番号】P 2019059996
(22)【出願日】2019-03-27
【審査請求日】2021-10-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】日立金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】溝田 裕久
【審査官】嶋田 行志
(56)【参考文献】
【文献】特開昭58-071453(JP,A)
【文献】特開2009-128100(JP,A)
【文献】特開2001-124746(JP,A)
【文献】特開昭61-028052(JP,A)
【文献】特開平10-082769(JP,A)
【文献】特開2010-281843(JP,A)
【文献】特開2007-170877(JP,A)
【文献】特開2007-114075(JP,A)
【文献】特表2011-529177(JP,A)
【文献】特開2014-178302(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 29/00-G01N 29/52
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
凹曲面を有する被検体の超音波探傷装置であって、
超音波を受発信する集束型超音波プローブ、前記集束型超音波プローブに接続され、前記集束型超音波プローブを発信させるとともに受信した超音波データを送信する送受信部、前記被検体に対し前記集束型超音波プローブを相対的に走査する走査部、前記送受信部および前記走査部に接続された制御部を有し、
前記制御部は、前記集束型超音波プローブから発信された超音波が、当該超音波の進行方向において、前記凹曲面の手前で集束する第1焦点を有するとともに、前記凹曲面以遠で集束する第2焦点を有するように、前記凹曲面に対する前記集束型超音波プローブの位置を設定することを特徴とする超音波探傷装置。
【請求項2】
請求項1に記載の超音波探傷装置であって、
前記超音波の進行方向において、前記集束型超音波プローブの第1焦点から前記凹曲面までの距離がαであり、前記凹曲面の曲率がRである場合に、α>Rであることを特徴とする超音波探傷装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の超音波探傷装置であって、
前記制御部は、探傷用データが格納された記憶部と、前記記憶部に格納された探傷用データに基づき前記集束型超音波プローブの走査用軌道データを演算し、前記走査部へ送信する走査軌道プランニング部とを有し、前記記憶部に格納された探傷用データに基づき算出した発信用データを前記送受信部へ送信するとともに前記送受信部から受信した超音波データを処理して前記記憶部へ送信し、
前記走査軌道プランニング部で演算された走査用軌道データは、少なくとも、前記超音波の進行方向における前記集束型超音波プローブの位置を指示するプローブ位置指示データを含み、
前記プローブ位置指示データは、前記超音波の進行方向において、前記第1焦点が前記凹曲面外で集束する位置に設定され、前記第2焦点が前記凹曲面以遠で集束する位置に設定されるデータであることを特徴とする超音波探傷装置。
【請求項4】
請求項3に記載の超音波探傷装置であって、
前記走査軌道プランニング部は、前記記憶部に格納された探傷用データである、前記集束型超音波プローブの素子サイズおよびその焦点位置並びに媒質音速、被検体音速、被検体形状および検査範囲の各データをABCD行列の所定の項に代入し、前記プローブ位置指示データを算出することを特徴とする超音波探傷装置。
【請求項5】
請求項4に記載の超音波探傷装置であって、
前記記憶部は、前記検査範囲における前記被検体の表面の形状データを有し、
前記走査軌道プランニング部は、前記記憶部に格納された形状データに基づき前記検査範囲に存在する凹曲面のうち最も小さい曲率半径を有する凹曲面を抽出し、抽出された凹曲面の曲率半径に基づき前記プローブ位置指示データを算出することを特徴とする超音波探傷装置。
【請求項6】
請求項3から請求項5のいずれか1項に記載の超音波探傷装置であって、
前記記憶部には、事前に設定した前記プローブ位置指示データが格納されており、前記前記走査軌道プランニング部は、前記記憶部に格納された前記プローブ位置指示データを読み込み、当該プローブ位置指示データを含む走査用軌道データを作成することを特徴とする超音波探傷装置。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の超音波探傷装置であって、
前記制御部は、前記送受信部から受信した超音波データのうち底面エコーの強弱に基づき欠陥の存在を判別することを特徴とする超音波探傷装置。
【請求項8】
凹曲面を有する被検体の超音波探傷方法であって、
集束型超音波プローブから発信された超音波の進行方向において、前記凹曲面の手前で集束する第1焦点を有するとともに、前記凹曲面以遠で集束する第2焦点を有するように、前記凹曲面に対する位置が設定された集束型超音波プローブから前記凹曲面へ向けて超音波を入射し、前記被検体から反射した反射波を用いて被検体の探傷を行うことを特徴とする超音波探傷方法。
【請求項9】
請求項8に記載の超音波探傷方法であって、
前記集束型超音波プローブの素子サイズおよびその焦点位置並びに媒質音速、被検体音速、被検体形状および検査範囲の各データをABCD行列の所定の項に代入し、前記集束型超音波プローブの位置を算出することを特徴とする超音波探傷方法。
【請求項10】
請求項9に記載の超音波探傷方法であって、
前記被検体の検査範囲に複数の凹曲面が存在する場合には、前記複数の凹曲面のうち最も小さい曲率半径を有する凹曲面の曲率半径に基づき前記集束型超音波プローブの位置を算出することを特徴とする超音波探傷方法。
【請求項11】
請求項8から請求項9のいずれか1項に記載の超音波探傷方法であって、
前記超音波の進行方向において、前記集束型超音波プローブの第1焦点から前記凹曲面までの距離がαであり、前記凹曲面の曲率がRである場合に、α>Rであることを特徴とする超音波探傷方法。
【請求項12】
請求項8から請求項11のいずれか1項に記載の超音波探傷方法であって、
前記被検体は、さらに平坦面を有し
前記平坦面の内部を探傷する場合には、超音波の進行方向において、前記第1焦点が前記平坦面以遠に存在するように、前記平坦面に対し垂直な方向における前記集束型超音波プローブと前記被検体間の距離が位置付けられた前記集束型超音波プローブから前記平坦面へ向けて超音波を入射し、前記被検体から反射した反射波を用いて被検体の探傷を行うことを特徴とする超音波探傷方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、凹曲面を有する被検体の超音波探傷装置および超音波探傷方法に関する。
【背景技術】
【0002】
被検体である製品や構造物などの製造時検査や供用後の検査において、被検体内部の欠陥の有無を判断するために、超音波やX線による非破壊検査が用いられる。内部欠陥が、ボイドのように空間(体積)を有する場合、超音波でもX線でも検出可能であるが、亀裂や剥離のように空間がない場合、X線による検出は困難であることが多い。このため、検出すべき欠陥モードに亀裂や剥離が含まれる場合には、超音波を使用した探傷(超音波探傷)が適用されることが多い。
【0003】
超音波探傷は、超音波プローブを被検体に対向して配置し、被検体に伝搬した超音波の応答により欠陥を検知する方法である。超音波探傷には、大きく分けて垂直探傷と斜角探傷の2方式がある。このうち本発明で実行する垂直探傷は、被検体表面に対して略垂直に超音波を伝搬して探傷する方法で、被検体表面が平坦、あるいは、平坦とみなすことができる程度に大きな曲率半径である時(以降、これらを平坦面という場合がある。)、被検体表面に対して平行な剥離や、ボイドのような体積欠陥を検出することを目的に用いられることが多い。一方で、斜角探傷は、被検体表面に対して斜めに超音波を伝搬して探傷する方法で、例えば、溶接部など余盛による影響や、金属結晶粒による散乱・異方性の影響で垂直探傷が適用できない場合に、これらの影響を回避・抑制するため、斜めに超音波を伝搬して亀裂やボイドのような体積欠陥を検出することを目的に用いられることが多い。
【0004】
上記したように垂直探傷方式による超音波探傷では、多くの場合に被検体表面が平坦面であることを前提としているが、実際問題として、多くの構造物(被検体)には凹凸面が存在する。このうち特に、凹曲面を有する構造物に対する超音波探傷について、過去にさまざまな取り組みや発明がなされている。
【0005】
例えば特許文献1では、超音波を送受信可能な素子を、対向する被検体の凹曲面の中心と同一円周上となるように複数備えた超音波プローブを用いて探傷を可能としている。また特許文献2には、被検体の凹曲面の曲率をうまく打ち消すように、拡散型超音波プローブを用いて、一度拡散させた超音波を、探傷面と鋼材の界面での屈折で、凹曲面直下の鋼材内で集束させて探傷する方法が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特表2011-529177号公報
【文献】特開2014-178302号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載の超音波探傷技術によれば、特に、配列したすべての素子で超音波を一度に送受信しても、被検体手前で集束した超音波は、被検体の凹曲面の曲率と同一に並んだ素子配列の影響で、そのまま拡散した超音波として被検体内部に伝搬するため、欠陥の検出性は低下するため、凹曲面の内部に存在する欠陥の検出能が低いという問題があった。また、特許文献1に記載の超音波探傷技術に特有の問題として、対向する被検体の凹曲面の中心と同一円周上に1素子ずつ配列した超音波素子から個々に送受信することにより、曲面における超音波プローブの機械的な走査は不要となるが、1素子あたりの面積が小さいため十分な指向性は得られず、欠陥検出能が低く、比較的大きい欠陥しか検出できないという問題があった。加えて、特許文献1に記載の超音波探傷技術は、凹曲面の内部に存在する欠陥の探傷に特化した超音波プローブとなるため、同じ超音波プローブで凹曲面に加え平坦面および凸曲面を有する被検体を探傷することは困難であるという問題も存在する。
【0008】
この点に関し特許文献2に記載の超音波探傷技術においても、凹曲面を有する被検体の探傷に特化した拡散型超音波プローブを用いるため、この同じ拡散型の超音波プローブをそのまま平坦面で用いれば、当然、超音波が拡散して検出性能が著しく低下する。このように、特許文献1と同じく、特許文献2に記載の超音波探傷技術でも、凹曲面を有する被検体の探傷に特化した超音波プローブを用いるため、平坦面、凸曲面および凹曲面を有する被検体を、同じ超音波プローブで広く探傷することは困難である。
【0009】
ここで、
図21は、被検体6の凹曲面30へ、平面波を入射した場合の超音波伝搬結果を示す図である。ミクロ的にみれば、
図21に示すように、接触媒質と被検体材質の音響インピーダンスに差があることで、媒質と被検体境界で超音波が屈折し、超音波プローブ由来の集束性と被検体曲率に応じた集束や発散が被検体内部で生じる。このため、平坦面と凹曲面を有する構造物を超音波探傷するには、平坦面では平坦面の、凹曲面では凹曲面の探傷に適した超音波プローブや検査条件を適用する必要がある。
【0010】
特に、被検体表面が凹曲面の場合、平面型あるいは集束型の超音波プローブを用いて当該凹曲面部を探傷すると、一般的な産業品において、接触媒質の音響インピーダンスは被検体の音響インピーダンスより小さいため、例えば平面波を入射しても、
図21に示した凹曲面30の曲率によって超音波は集束する。(例えば、水・油など液体の音響インピーダンス<樹脂の音響インピーダンス<鉄の音響インピーダンスとなる。)そのため、集束型の超音波プローブを用いても、被検体のごく浅い位置にしか集束せず、深い位置を感度よく探傷することが困難である。さらに、曲率半径が特に小さい(R5mm以下)の場合、プローブと被検体表面が物理的に干渉するのを避けなければならず、被検体から離した位置での走査を余儀なくされる。このため、特に曲率の小さい凹曲面を有する構造材内部の小さい欠陥を検出することは難しい。
【0011】
以上のように、これまで凹曲面を有する被検体の当該凹曲面の内部に存在する欠陥を高い精度で検出することは困難であると考えられていた。さらに、当該凹曲面に加え、平坦面および凸曲面から成る被検体の平坦面および凸曲面の内部に存在する欠陥を、同一のプローブを使用して高い精度で超音波探傷することは実現困難であると考えられていた。
【0012】
以上のことから本発明においては、凹曲面を有する被検体の当該凹曲面の内部に存在する欠陥を高い精度で検出可能な超音波探傷装置および超音波探傷方法を提供することを第1の目的とする。この第1の目的に加え、本発明においては、上記凹曲面に加え、平坦面および凸曲面を有する被検体を、同一の超音波プローブを使用して高い精度で超音波探傷することができる超音波探傷装置および超音波探傷方法を提供することを第2の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために本発明は、「凹曲面を有する被検体の超音波探傷装置であって、超音波を受発信する集束型超音波プローブ、集束型超音波プローブに接続され、集束型超音波プローブを発信させるとともに受信した超音波データを送信する送受信部、被検体に対し集束型超音波プローブを相対的に走査する走査部、送受信部および走査部に接続された制御部を有し、制御部は、集束型超音波プローブから発信された超音波が、当該超音波の進行方向において、凹曲面の手前で集束する第1焦点を有するとともに、凹曲面以遠で集束する第2焦点を有するように、凹曲面に対する前記集束型超音波プローブの位置を設定することを特徴とする超音波探傷装置。」としたものである。
【0014】
また、本発明は、「凹曲面を有する被検体の超音波探傷方法であって、集束型超音波プローブから発信された超音波の進行方向において、凹曲面の手前で集束する第1焦点を有するとともに、凹曲面以遠で集束する第2焦点を有するように、凹曲面に対する位置が設定された集束型超音波プローブから凹曲面へ向けて超音波を入射し、被検体から反射した反射波を用いて被検体の探傷を行うことを特徴とする超音波探傷方法。」としたものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、凹曲面を有する被検体の当該凹曲面下に存在する欠陥を高い精度で検出可能な超音波探傷装置および超音波探傷方法を提供することができる。さらに、本発明においては、上記凹曲面に加え、平面および凸曲面を有する被検体を、同一の超音波プローブを使用して高い精度で超音波探傷することができる超音波探傷装置および超音波探傷方法を提供することができる。なお、本発明に係る上記以外の好ましい構成およびその作用効果は、以下詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明に係る超音波探傷装置の具体的な構成事例を示す図。
【
図2】超音波プローブと被検体の配置関係の一例の拡大図。
【
図4】被検体の凹曲面の内部を探傷する場合の、超音波プローブの位置決めの基本的な考え方を説明するための図。
【
図5】特許文献1における超音波プローブと被検体の位置関係を示す図。
【
図6】本発明に係る超音波探傷の処理の流れを示すフロー図。
【
図7】
図1に示す走査軌道プランニング部における超音波プローブの走査プラン作成の流れを示すフロー図。
【
図9】
図1の検査条件データベースに保存される被検体に係るデータの一例を示す図。
【
図10】凹曲面を有する被検体に対して
図5に示す従来の配置関係における場合に超音波プローブが描く軌跡を示す図。
【
図11】凹曲面を有する被検体に対して
図4に示す本発明の配置関係における場合に超音波プローブが描く軌跡を示す図。
【
図12】凹曲面を有する被検体に対して
図4に示す本発明の配置関係における場合に超音波プローブが描く軌跡を示す図。
【
図13】
図12の順序で移動させたときの受信波形を描画した図。
【
図14】
図11の順序で移動させたときの画素表示の際に、画像化範囲の順序が一部反転して表示させることを表す図。
【
図15】
図12の順序で移動させたときの画素表示の際に、画像化範囲の順序が一部反転して表示させることを表す図。
【
図16】本発明に係る超音波探傷装置の構成例を示す図。
【
図17】
図16の超音波探傷装置において、発信された超音波の伝搬経路を示す図。
【
図18】
図16の超音波探傷装置において得られた、被検体からの反射波を示す図である。
【
図19】
図16の超音波探傷装置に集束型超音波プローブ適用し、垂直探傷法による平坦面の超音波探傷事例を示す図。
【
図20】
図16の超音波探傷装置に集束型超音波プローブを適用し、垂直探傷法による凹曲面の超音波探傷事例を示す図。
【
図21】被検体の凹曲面に対し、平面波を入射した場合の超音波伝搬結果を示す図。
【
図22】本発明の実証試験に用いた試験片の例を示す図。
【
図23】
図4の状態でプローブを配置して得た本発明手法による測定結果を示す図。
【
図24】
図23の有効な中央部分での結果を評価した結果を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
[超音波探傷装置]
本発明に係る超音波探傷装置は、
図1に示すように、凹曲面30を有する被検体6の超音波探傷装置1であって、超音波を受発信する集束型超音波プローブP、集束型超音波プローブPに接続され、集束型超音波プローブPを発信させるとともに受信した超音波データを送信する送受信部3、被検体6に対し集束型超音波プローブPを相対的に走査する走査部4、送受信部3および走査部4に接続された制御部2を有し、制御部2は、集束型超音波プローブPから発信された超音波が、超音波の進行方向において、凹曲面30の手前で集束する第1焦点M1を有するとともに、凹曲面30以遠で集束する第2焦点M2を有するように、凹曲面30に対する集束型超音波プローブPの位置を設定することを特徴とする超音波探傷装置、いわゆる2重焦点法を適用した超音波探傷装置である。
【0018】
以下、上記本発明について、その一実施形態に基づき図面を用いて詳細に説明するが、本発明の理解を容易にするため、本発明の具体的な実施形態の説明を行う前に、その構成の基礎的事項をまとめて説明しておく。
図16に示すように、本発明に係る超音波探傷装置1では、被検体6の内部の剥離やボイドなどの欠陥を垂直探傷法で検出する。
【0019】
図16の超音波探傷装置1は、集束型の超音波プローブP、送受信部3、走査部4および表示装置も含めて構成される制御部2などで構成されており、接触媒質である例えば水中あるいは油中に設置した被検体6に対して超音波プローブPから超音波を照射し、その反射波を制御部2で解析し、被検体6の内部状態を判定する。なお被検体6への超音波照射は、被検体表面を基準位置(Z=0)とする焦点制御がされるため、超音波プローブPは、例えばX軸、Y軸、Z軸による3次元位置に制御される。これらの位置制御は制御部2により実施される。
【0020】
図17は、超音波の伝搬経路を示す図である。
図17では、被検体6の内部に剥離やボイドなどの欠陥が存在しない場合の伝搬経路を(a)に、剥離がある場合の伝搬経路を(b)に、ボイドがある場合の伝搬経路を(c)に例示しており、欠陥がない場合には被検体の表面及び底面で反射しているが、欠陥がある場合には表面及び欠陥部位からの反射となっている。
【0021】
図18は、被検体からの反射波を示す図である。垂直探傷法では、被検体内部に伝搬した超音波は、
図17の(a)に示すように内部に欠陥がなく健全な個所であれば、
図18の(a)に示すように超音波は被検体の底面など被検体形状に起因した反射波を定常的に検知することになる。図示の例では、表面からの反射波である表面エコー、底面からの反射波である底面エコー、底面からの反射波である底面多重エコー、表面からの反射波である表面多重エコーの時間的順序で反射波が得られる。
【0022】
これに対し
図17の(b)や(c)に示すように内部に欠陥があると、
図18の(b)や(c)に示すように欠陥位置で反射し再び超音波プローブに反射波として戻っている。図示の例では、表面からの反射波である表面エコー、欠陥(剥離あるいはボイド)からの反射波、欠陥からの多重エコー、表面からの表面多重エコーの時間的順序で反射波が得られる。この結果、表面エコーや底面エコー以外の位置に反射信号が現れることで、欠陥を検知することができる。あるいは、底面エコーが検知できるはずの伝搬時間/距離の位置に、欠陥で反射が生じて、底面まで十分に超音波が伝搬せず、底面エコーが健全な部分と比較して弱くなる、あるいは、底面エコーが出現すべき位置で出現しないことを評価することで欠陥を検知することができる。
【0023】
垂直探傷法に用いる超音波プローブには、素子に曲率のないフラットな超音波プローブか、素子に曲率を設けた集束型の超音波プロ―ブを用いる。比較的小さいボイドや剥離を検出するには、後者の超音波が被検体内部で焦点を形成できるような集束型の超音波プローブを用いて探傷することが多い。また、超音波プローブPには、超音波の伝搬方向が固定された単一型と、焦点位置を電子走査することができるアレイ型がある。単一型の場合は、素子自体に曲率を付与するか、音響レンズを付けることにより、超音波の集束性が決まる。アレイ型の場合は、複数の素子に与えるパルス電圧のタイミングをコントロールすることにより、超音波の集束性を制御できる。本発明は、複数の素子を有する超音波アレイプローブにも適用できるが、以下、本発明の理解を容易にするため、単一の素子を有する集束型の超音波プローブを用いることを前提に記述する。
【0024】
図19は、集束型の超音波プローブを用いた垂直探傷法による平坦面の超音波探傷事例を示す図である。
図19に示すように、被検体が平坦面だけで構成された構造物であれば、基本的には
図17に示すように、超音波プローブの高さ方向の位置を、被検体6の内部で超音波の焦点が形成できる適切な位置(通常は、
図16に示すZ=0の基準位置より下方のマイナス側)に調整し、超音波プローブPの向きと被検体6との距離を一定にしたまま、超音波プローブPを平面的に(XY平面で)走査し、走査範囲で取得した波形のうち、定常的に出る形状エコー(ここでは表面エコー)にトリガをかけて、平板の被検体の厚さ方向(Z軸)と直交する平面ごとの(ゲートごとの)スライス画像を出力することで、欠陥の有無を評価することができる。
【0025】
なお、被検体6と超音波プローブPの間は、気体の場合もあるが、音響インピーダンス(音速と密度の積)を考慮して水や油などの液中や、あるいは、水や油を塗布したウェッジを用いて被検体に直接接触し、超音波を被検体内部へ伝搬させている。また、平坦面であれば、超音波プローブと被検体の間をほぼ接触した状態で走査することもできる。しかし、被検体には当然、平坦面だけでなく曲面を有する構造物が多くある。
【0026】
図20は、集束型の超音波プローブを用いた垂直探傷法による凹曲面30の超音波探傷事例を示す図である。被検体6が凹曲面30を有する場合に垂直探傷法を適用するには、マクロ的にみれば屈折の影響を受けないように、
図20に図示のように、超音波プローブPから発信された超音波の進行方向と、当該超音波が入射される凹曲面30の点における法線とが一致するように、超音波プローブPをYZ面内でθ軸に沿いに回転しながら走査して探傷することが基本である。
【0027】
なお、被検体6は3次元形状をしているため、実際の探傷では、後述する
図3に示すような直線軸であるX軸、Y軸、Z軸および回転軸であるθ軸およびφ軸の5軸で、超音波プローブPの位置および姿勢を制御する必要がある。以下の説明では、本発明の理解を容易にするため、特に断りの無い限り、超音波プローブPの位置ならびに姿勢を、Y軸、Z軸およびθ軸に沿い制御するものとする。
【0028】
以上説明した超音波プローブを用いた超音波探傷における基礎的事項を参考にしながら、本発明の一実施形態に係る超音波探傷装置の詳細な構成と測定原理について、
図1から
図5を用いて説明する。
【0029】
2重焦点法を適用した
図1に示す好ましい実施形態である超音波探傷装置1において、制御部2は、探傷用データが格納された記憶部2bと、記憶部2bに格納された探傷用データに基づき集束型超音波プローブPの走査用軌道データを演算し、走査部4へ送信する走査軌道プランニング部2aとを有し、記憶部2bに格納された探傷用データに基づき算出した発信用データを送受信部3へ送信するとともに送受信部3から受信した超音波データを処理して記憶部2bへ送信するよう構成されている。また、走査軌道プランニング部2aで演算された走査用軌道データは、少なくとも、超音波の進行方向における集束型超音波プローブPの位置を指示するプローブ位置指示データを含み、プローブ位置指示データは、超音波の進行方向において、第1焦点M1が前記凹曲面30外で集束する位置に設定され、第2焦点M2が前記凹曲面30以遠で集束する位置に設定されるデータであるように構成されている。
【0030】
図1は、本発明の一実施形態に係る超音波探傷装置1の具体的な構成事例を示している。本実施形態の超音波探傷装置1は、この機能を大別して示すと集束型の超音波プローブP、走査部4、送受信部3および表示部2dと入力部2Iを含むコンピュータで構成された制御部2からなる。このうち集束型の超音波プローブPは以下のようなものである。なお、超音波プローブPは、被検体6に向けて超音波を照射し、その反射波を受信するものであるので、超音波プローブPと、固定治具(図示せず)により固定された被検体6により計測部5を構成しているということができる。
【0031】
<集束型超音波プローブ>
超音波プローブPとしては、超音波の進行方向において所定の位置(焦点距離)で超音波が集束する焦点(この焦点が、後述する第1焦点となる。)を形成する集束型の超音波プローブを用いる。ここで、集束型の超音波プローブとは、上記したように単一素子の単一型の超音波プローブでもよいし、複数の素子を備えたアレイ型超音波プローブでもよい。なお、超音波プローブPと被検体6の間には、油などの液体、空気などの気体、ポリスチレンなどの固体でもよいが、検出性、走査性および保守性などを考慮し、以下、水で満たされているものとする。
【0032】
<走査部>
走査部4は、スキャナ4aとスキャナ制御部4bからなる。スキャナ4aは超音波プローブPおよび被検体6の少なくとも一方を、制御軸に沿い移動させる。上記スキャナ4aを制御するスキャナ制御部4bは、後述する記憶部2bに格納された走査用軌道データに基づき、定められたタイミングおよび範囲でスキャナ4aを動作せしめ、超音波プローブPまたは被検体6を移動させ、超音波プローブPと被検体6の相対的な位置関係を変えることができる。
【0033】
図3は、
図1に示した超音波探傷装置1の制御軸(走査軸)を示す図である。本実施形態の超音波探傷装置は、超音波プローブPの位置を原点0とし、制御軸として原点Oを通り、互いに直交するX軸、Y軸およびZ軸を有しており、上記したスキャナ制御部により、超音波プローブPをX軸、Y軸およびZ軸の各制御軸に沿い3次元的に位置および速度を制御しつつ移動せしめることができる。加えて、本実施形態の超音波探傷装置は、その制御軸として、XY平面内での原点O周りの回転軸であるθ軸およびYZ平面内での原点O周りの回転軸であるφ軸を備えており、凹曲面の形状に沿い超音波プローブPの首振り制御を可能ならしめている。なお、
図1では2次元で説明すべく、Y軸、Z軸およびθ軸(図示せず)で位置特定する。また、
図3はZ軸の方向に被検体を配置した垂直探傷を意図した配置を示している。
【0034】
<送受信部>
図1に示す送受信部3は、パルサ・レシーバ3aと送受信制御部3bにより構成されている。このうちパルサ・レシーバ3aは、超音波プローブPに内蔵された圧電素子にパルス電圧を印加し超音波を発振するための送信部(パルサ)と、被検体6から反射された超音波を圧電素子で受けて発生した電気信号を増幅し、A/D変換などして波形データとして取得し、後述する制御部2の受信波形メモリ2cへ転送する受信部(レシーバ)で構成される。なお、
図1では、パルサ・レシーバ3aは送信部(パルサ)と受信部(レシーバ)が一体に形成されている。
【0035】
送受信制御部3bは、制御部2から与えられた条件に従って発信する超音波を制御し、また受信した受信波を適宜処理して制御部2に送信する。具体的には、送受信制御部3bは、入力部2Iから入力され記憶部2bに保存された送信パルス電圧の電圧、パルス幅、繰り返し周波数、増幅値、サンプリング周波数、データ保存タイミングなどのデータを読み込み、これらのデータに基づいてパルサ・レシーバ3aを制御する機能を有する。
【0036】
上記のように送受信部3は、超音波の送受信条件、例えば、送信パルス電圧の電圧、パルス幅、繰り返し周波数、増幅値、データ保存タイミングなどの値に基づいて、超音波プローブPからの超音波の発振および受信を制御することができる。
【0037】
<制御部>
制御部2は、検査条件データベース等の探傷用データが格納された記憶部2b、受信波形メモリ2cおよび走査軌道プランニング部2aからなる。なお、制御部2は、上記した送受信制御部3bの機能を含む形で構成されていてもよい。
【0038】
<記憶部、受信波形メモリ>
記憶部2b内に格納された探傷用データである検査条件データベースには、超音波プローブPや被検体6の寸法などの仕様(プローブ仕様、被検体仕様)、超音波の送受信条件、走査用軌道データ、表示(ゲート)条件、例外条件など、超音波探傷時における検査条件に係るデータが保存されている。また、受信波形メモリ2cには、送受信制御部3bを経て超音波プローブPから送信された受信波形データが格納されている。
【0039】
<走査軌道プランニング部>
走査軌道プランニング部2aは、記憶部2bに格納された探傷用データに基づき超音波プローブPの走査用軌道データを演算し、走査部4へ送信する部位である。すなわち、走査軌道プランニング部2aは、記憶部2bの検査条件データベースに格納された、被検体6の外形や寸法のデータと、超音波プローブPの焦点距離および外形データと、超音波が伝搬する媒質および被検体6の音速データ等に基づき超音波プローブPの走査用軌道データを演算し、作成する機能を有する。このため走査軌道プランニング部2aは、被検体6の外形データや寸法データが保存された被検体データ保存部2a1と、凹曲面30を有する被検体6の凹曲面30の内部の探傷するため凹曲面30の形状を考慮した走査用軌道データを算出するプローブ位置算出部2a2とを備えている。この被検体データ保存部2a1とプローブ位置算出部2a2が連携して超音波プローブPの走査用軌道データを作成する。
【0040】
ここで、被検体の表面が平坦面のみで構成されている場合には、超音波プローブPの走査軌道としては、
図19に示したようにジグザグ走査などの単純な平面軌道とすればよく、平面軌道の場合には、平坦面に対する超音波プローブPの高さ方向の位置を決定した後、走査パターンと走査範囲と走査ピッチさえ入力すれば一意に決めることができる。
【0041】
一方で、本発明の対象である被検体6は凹曲面30を有するため、当該凹曲面30の内部の探傷を行う場合には、走査軌道プランニング部2aで、予め凹曲面30に対する超音波プローブPの位置、姿勢、走査軌道および走査ピッチなどの走査用軌道データを決定し、記憶部2bに検査条件データベースの一部として保存しておく。保存した走査用軌道データを走査部4のスキャナ制御部4bが読み込み、スキャナ4aを動作せしめることで、走査用軌道データに従いスキャナ4aが移動する。
【0042】
<入力部、表示部>
入力部2Iは、キーボード、マウス、タッチパネルなどの手段を用いて入力する一般的な入力機器からなり、表示部2Dは、超音波の送受信の制御や収録条件に必要な値の他、計測した生波形、処理した後の波形、画像再構成結果などを表示する機能を有する。
【0043】
<測定原理>
本発明に係る超音波探傷装置の凹曲面内部の探傷する場合の測定原理について、以下詳述する。まず、
図1に示す被検体6を探傷するための水距離(超音波プローブPの表面と被検体6の表面までの水の層の厚さ)に関して説明する。
【0044】
超音波探傷を行うにあたり、被検体表面からの反射波の多重エコ-が、被検体から得られる反射波と重ならないよう、超音波プローブ表面と被検体表面を往復する時間から再度超音波プローブ表面から被検体表面を往復する時間の間に、被検体内部を往復できるように設定することは必須である。
【0045】
この場合に、水距離をLw、水音速をVw、被検体厚さをT、被検体音速をVcとすれば、水距離の条件は、(1)式で表すことができる。
【0046】
【0047】
被検体表面が平板かあるいは平板とみなせるような大きな曲率半径の場合(つまり平坦面の場合)に、集束型の超音波プローブを用いる場合には、焦点位置を被検体内部の探傷すべき深さ位置となるように設定する。
【0048】
平板形状の被検体内部の探傷すべき深さ位置をTzとすれば、水距離の条件は、(2)式で表すことができる。なお(2)式においてFは、集束型の超音波プローブの焦点距離である。
【0049】
【0050】
(1)式と(2)式から、被検体表面が平坦面であれば適切な集束型の超音波プローブの焦点距離の目安として(3)式で示す集束型の超音波プローブを選定すると良いことがわかる。
【0051】
【0052】
しかし、凹曲面の内部を探傷する場合においては、凹曲面の曲率が影響するため、(2)式や(3)式は成立しない。以下、2重焦点法を適用した、凹曲面の内部を探傷する場合の測定原理について説明する。
【0053】
図4は、本発明における、被検体6の凹曲面30の内部を探傷する場合の、超音波プローブPの位置決めの基本的な考え方を説明するための図である。
図4においては、超音波プローブPの開口中心をOとし、超音波プローブ6の開口方向をY軸とする。また超音波プローブPから発信された超音波のうち中心Oから凹曲面30へ向かう超音波(以下、この超音波を中心軸音波という場合がある。)L1が送信される方向をZ軸とする。このZ軸は、被検体6の凹部において中心軸音波L1が入射する点(以下、この点を探傷点という場合がある。)31の法線方向と一致している。つまり、超音波プローブPの中心軸は、凹曲面30の探傷点31における法線と略一致している必要がある。このような位置および姿勢となるよう超音波プローブPを制御するため、上記記憶部2bに保存された走査用軌道データは、
図3に示したX軸、Y軸、θ軸およびφ軸の制御軸ごとに設定されており、当該走査用軌道データに従い超音波プローブPは移動される。
【0054】
図4に示すように、超音波プローブPの中心OのZ軸上の位置がZ=0とすると、Z軸上の位置はZ=F+αとなる。ここで、前式のうちFは、超音波プローブPの中心Oから第1焦点M1までの距離(以下、第1の距離という場合がある。)であり、αは、当該第1焦点M1から探傷点31の点までの距離(以下、第2の距離という場合がある。)である。ここで、上記式Z=F+αのうち、第1の距離Fは、超音波プローブPに固有の焦点距離で決まる値である。そして、後述するように第1の距離Fと第2の距離αの値が最適化された超音波プローブPを選択することにより、
図4に示すように、超音波の進行方向において凹曲面30以遠で集束する第2焦点M2が形成される。すなわち、
図4に示すように、中心軸音波L1は、光線モデルで考えると凹曲面30でも屈折せず、Z軸に沿い被検体6の内部を直進する。一方で、Y軸において超音波プローブの外側の端から発信されて凹曲面30へ向かう超音波(以下、この超音波を外周軸音波という場合がある。)L2は、凹曲面30へ入射する前に形成される第1焦点M1を通り、その後凹曲面30へ入射し、凹曲面30で屈折して、被検体6の内部を伝搬する。そして、被検体6内を直進する中心軸音波L1と、凹曲面30で屈折を生じて伝搬した外周軸音波L2により、超音波の進行方向において凹曲面30以遠で集束する第2焦点M2が形成されるのである。
【0055】
ここで、一定の曲率を有する凹曲面30は、一種の音響レンズとしてみなすことができ、上記のような超音波の集束現象は、近軸近似で成立するABCD行列を活用することができる。近軸近似は、超音波プローブPから出た超音波が被検体6にほぼ垂直に入射するときにのみ成立する近似である。
図4で示すような体系では、ABCD行列を活用した下記(4)式を解くことにより、超音波の集束状態を評価し、上記第1の距離Fおよび第2の距離αの値、つまり超音波の送信方向における凹曲面30と超音波プローブPとの距離が算出され、凹曲面30に対する超音波プローブPのZ軸方向の位置が、上記走査用軌道データに含まれるプローブ位置指示データとして記憶部に保存される。
【0056】
【0057】
上記(4)式において、右辺のyには、
図4に示すプローブ開口(素子サイズ)dを基準とした値を与えればよく、ここでは、y=d/2とする。uは、u=-d/2F(u<0)で、プローブ開口の最端部から放射される音線の傾きを与える。y´は、凹曲面30へ入射直後の中心音軸からのずれであり、u´は、被検体入射直後の傾きである。また、nは、v
1を超音波プローブPから凹曲面30までの媒質音速、v
2を被検体6中の音速として、n=v
2/v
1である。Rは、凹曲面の場合には負の値の曲率半径を、凸曲面の場合には正の値を与える。α(第2の距離)は、上記したとおり超音波プローブPの焦点(第1焦点)M1から探傷点31までの距離である。
【0058】
したがって、F+αは、凹曲面30の探傷点31から超音波プローブPまでの距離に相当する。(4)式を解けば、超音波プローブPの端から発信されたが凹曲面30に入射し、屈折した後の外周軸音波L2の音線の傾きや、中心軸音波L1との交点を求め、近似的に被検体6へ入射した後の超音波の集束位置、つまり第2焦点M2の位置を特定することができる。
【0059】
以上のように、凹曲面30の内部の探傷を行う際には、超音波プローブPの中心軸が、凹曲面30の探傷点31における法線と略一致させるとともに、超音波の進行方向において、第1焦点M1が凹曲面30外で集束する位置に設定させ、第2焦点M2が凹曲面30以遠で集束する位置に設定させる必要がある。したがって、
図1に示す走査軌道プランニング部2aのプローブ位置算出部2a2は、上記測定原理に基づきプローブ位置指示データを含む走査用軌道データを作成し、記憶部2bに保存する。そして、走査部4のスキャナ制御部4bは、記憶部2bに保存された走査用軌道データを読み込み、スキャナ4aを動作せしめることにより、超音波プローブPは、上記走査用軌道データに従いその位置が制御されつつ移動される。
【0060】
なお、上記式(4)によれば、凹曲面30を有する被検体6の探傷において、第2の距離αが凹曲面30の曲率Rの絶対値よりも大きく(α>R)、探傷点31からF+α離れた距離に超音波プローブPを配置して探傷することとなり、これが、本発明の一つの特徴となる。別な言い方をすると、本発明は、超音波の進行方向において、超音波プローブPの第1焦点M1よりも遠方位置に被検体6を配置し、第1焦点M1において収束した後の超音波により探傷を行うものである。
【0061】
例えば、φ10mm、焦点距離25mm(F=25)の超音波プローブPを用いて、音速1500m/sの水から、R10の凹曲面を有する音速3000m/sの樹脂材へ入射することを考える。この場合、y=5、u=-0.2、n=2、R=-10となる。これらの数値を(4)に代入すれば、(5)式となる。
【0062】
【0063】
この場合、
図4に示す凹曲面30へ入射した後、超音波が拡散せず、超音波の進行方向において、凹曲面30以遠で集束させるためには、傾きu’が正になる必要があり、第2の距離αを20mm以上とする必要がある。従って、第1の距離Fは超音波プローブPに固有の焦点距離25mmであるので、F+αは45mm以上となる。つまり、上記した条件下では、凹曲面30から超音波プローブPをその焦点距離の2倍程度離す方が、被検体6の検出性が向上する。この点、本発明における超音波プローブPの配置方法は、従来の超音波プローブの配置方法とは大きく異なることがわかる。
【0064】
なお、(4)式の行列計算をすると(6)式となり、結局のところy>0、u<0、R<0、n>1のとき(7)式であり、かつ(8)式であることから、Rが負であることを考慮し、(9)式であれば収束に向かうことになる。
【0065】
【0066】
【0067】
【0068】
【0069】
結局求めたいものは、超音波プローブPと凹曲面30の間の距離F+αであるので、(10)式となる。
【0070】
【0071】
凹曲面30から入射した後の超音波が集束に向かうのであれば当然検出性能は、拡散ビームよりも向上する。すなわち、
図4に示す第2焦点M2は、超音波の進行方向において凹曲面30以遠に存在すればよく、必ずしも被検体6の内部に存在する必要はない。
【0072】
本発明は、上記のように
図4に示した被検体6の有する凹曲面30との位置関係を特徴とする超音波探傷を実現するものである。ここで、理解のため、対比的に特許文献1に記載の超音波探傷の場合における、被検体6の有する凹曲面30と超音波プローブPとの位置関係を
図5に示す。特許文献1に記載のように超音波プローブPを配置すると、
図5に示すように、u’=uとなる、すなわち、上記(8)式の右辺>0を=uで置き換えた場合に求められる、F+α=F+Rの場合であり(α=R)、超音波プローブPの固有の焦点である第1焦点M1と凹曲面30の曲率中心O2とが一致する。この場合には、中心軸音波L1はもとより、外周軸音波L2も凹曲面30に入射した後に屈折せず、そのまま被検体6の内部を直進するため、超音波の進行方向において凹曲面30以遠に、
図4に示した第2焦点M2を形成せず、高い検出精度で凹曲面30の内部の探傷を行うことができない。
【0073】
上記測定原理に基づき走査軌道プランニング部で作成された走査用軌道データに従い移動する超音波プローブが描く特徴的な軌跡について
図10から
図15を用いて説明する。ここでは、
図5に示すように凹曲面30を有する被検体6に対して従来の配置関係における場合に超音波プローブPが描く軌跡と、
図4に示す本発明の配置関係における場合に超音波プローブPが描く軌跡とを対比して説明する。
図10は、凹曲面30を有する被検体6に対して
図5に示す従来の配置関係における場合に超音波プローブPが描く軌跡を示す図である。従来の配置関係によれば、超音波プローブPは被検体6の凹曲面に沿って一定距離を保ちながら移動し、被検体6の表面形状に沿った軌跡となる。
【0074】
図11および
図12は、凹曲面30を有する被検体6に対して
図4に示す本発明の配置関係における場合に超音波プローブPが描く軌跡の一例を示す図である。本発明の配置関係によれば、被検体6の平坦面における軌跡は
図10と同じであり一定距離を保ちながら移動するが、凹曲面30を照射するときには、超音波プローブPと凹曲面30との距離が(F+α)となるよう超音波プローブPが移動した軌跡を描くことになる。
図4参照し記述しているように第2の距離α>凹曲面の曲率半径Rであるので、超音波プローブPは一度被検体6(凹曲面30)から遠ざかり、凹曲面30で定まる円周上の軌跡を描くことになる。
図11の場合の超音波プローブPの移動順序は、A、B、C、D、E、F、Gの順序に移動したものである。
【0075】
超音波プローブPの移動順序は上記に限定されず、
図12に示すように、A、B、E、D、C、F、Gの順序に移動させてもよい。
【0076】
図13は、
図12の順序で移動させたときの受信波形を描画した図であり、移動順序A、B、E、D、C、F、Gの各位置における受信波形を評価ゲート内の強度を式相変化として表示するものである。
【0077】
図14は、
図11の順序で移動させたときの式相変換された画素の表示の際に、画像化範囲の順序が一部反転して最終的にA、B、E、D、C、F、Gの順序になるように表示させることを表している。
【0078】
図15は、
図12の順序で移動させたときの式相変換された画素の表示の際に、A、B、E、D、C、F、Gの順序で画像化範囲が順次塗りつぶされていくことを表している。
【0079】
上記したように、本実施形態の超音波探傷装置によれば、
図1に示すように、上記(4)式や(10)式に基づき演算するプローブ位置算出部2a2を走査軌道プランニング部2aに備えることにより、集束型の超音波プローブPを用いた凹曲面6の内部の探傷においても、高いSN比で精度よく探傷を実施することが可能になる。また、被検体6が平坦面を有する場合も、上記(2)式に従って、平坦面に対する超音波プローブPの位置(距離)を変えるだけで、同一の超音波プローブPで平坦面の内部の探傷を行うことができ、平端面および凹曲面を有する被検体でも同一の超音波プローブPで探傷を実施することが可能になる。
【0080】
なお、本実施形態のプローブ位置算出部2a2は、集束型の超音波プローブPを用いた垂直探傷において、被検体6の凹曲面30に対する超音波プローブPの位置の算出方法としてABCD行列を用いて算出するように構成されているが、例えば、CADによる作図などでも同様の算出が可能である。
【0081】
図4で述べたように本発明によれば、被検体6の有する凹曲面30に対して離れた位置に超音波プローブPを配置できるようになる。このため、超音波プローブPの走査性が向上する。すなわち、
図2に示すように、従来であればプローブ開口が小さい外形を破線で示す超音波プローブPを近接して設置する必要があったが、本発明では距離を大きくとることができることから、遠方からプローブ開口が大きい外形を実線で示す超音波プローブPによる探傷が可能となる。被検体の凹曲面の曲率半径が小さく、超音波プローブを被検体表面に近接配置できない狭隘部においても、超音波プローブを被検体表面から遠ざけて探傷するため、比較的大きな振動子を有する超音波プローブを用いることが可能となり、高感度化できる。本発明によれば、さらに、集束型の超音波プローブPを使用しているので、平面、凹曲面および凸曲面から成る被検体に対して、検査現場で一般的に用いられる簡便な超音波探傷装置を実現することができる。
【0082】
なお、上記したように被検体の凹曲面が単純な球面状ではなく、
図8に示すように検査範囲に複数の凹曲面(第1凹曲面30A、第2凹曲面30B)が存在する場合がある。この場合、
図1に示す記憶部2bは、検査範囲における被検体6の表面の形状データを有し、走査軌道プランニング部2aのプローブ位置算出部2a2は、記憶部2bに格納された形状データに基づき、
図5に示す検査範囲に存在する凹曲面30A、30Bのうち最も小さい曲率半径を有する第1凹曲面30Aを抽出し、抽出された凹曲面の曲率半径に基づき前記プローブ位置指示データを算出することが望ましい。
【0083】
さらに、被検体の材質が、例えば結晶性金属や炭素繊維材(CFRP)のように音響異方性を有する材質の場合には、上記した(4)式のABCD行列に基づきプローブ位置指示データが算出できない場合がある。すなわち、被検体6が音響異方性材である場合は、上記(4)式の右辺にあるnに被検体音速v
2が含まれており、v
2求めるべきy’に依存する。このため、正確にy’を評価するには、単純に(4)式を適用することはできない。そのような場合には、
図1に示す記憶部2bに、事前に設定したプローブ位置指示データを格納し、走査軌道プランニング部2aは、記憶部2bに格納されたプローブ位置指示データを読み込み、プローブ位置指示データを含む走査用軌道データを作成することが好ましい。
【0084】
また、音響異方性がさほど強くない場合には、平均音速が適用できるので、媒質音速を代替すれば良い。一方で、上記のように音響異方性が強く、平均音速が適用できない場合には、
図9のようなデータテーブルを
図1に示す記憶部2bに保存しておき、走査軌道プラニング部2aにおける走査用軌道データ作成時に参照するよう、制御部2を構成すればよい。
図9では、
図1の記憶部2bに格納される探傷データである検査条件データベースに保存されるデータの一例を示している。
図9に示すように、被検体6の材質、曲率半径、厚さ、使用するのに好適な超音波プロ―ブPの番号、曲率半径αなどを記憶しておくとよい。
【0085】
さらに、
図1に示す制御部2は、送受信部3から受信した超音波データのうち底面エコーの強弱に基づき欠陥の存在を判別するよう構成されていることが望ましい。被検体の表面と裏面とがおおむね平行で、表面から入射した超音波が裏面で反射し、再び超音波プローブで受信できる場合には、
図19で示した表面エコーをトリガとして時間ゲートを底面エコーにかけ、底面エコーの強弱により被検体6の内部に欠陥があるかどうかを判断することができる。
[超音波探傷方法]
上記構成の超音波探傷装置の動作(超音波探傷方法)について説明する。本発明に係る超音波探傷方法は、
図4に示すように、凹曲面30を有する被検体6の超音波探傷方法であって、集束型超音波プローブPから発信された超音波の進行方向において、凹曲面30の手前で集束する第1焦点を有するとともに、凹曲面30以遠で集束する第2焦点を有するように、凹曲面30に対する位置が設定された集束型超音波プローブPから凹曲面30へ向けて超音波を入射し、被検体6から反射した反射波を用いて被検体の探傷を行うことを特徴とする超音波探傷方法、いわゆる2重焦点法を適用した超音波探傷方法である。以下、上記超音波探傷方法を実現する超音波探傷装置の処理の流れについて、
図6および
図7を用いて説明する。
【0086】
図6は、上記構成の超音波探傷装置による超音波探傷の処理の流れを示すフロー図である。
【0087】
図6のフローに従い、処理ステップS001で、探傷を開始する。処理ステップS002で、制御部は、記憶部に保存された検査条件データベースから検査条件を読み出す。検査条件としては、送受信の設定条件として、超音波プローブに印加する電圧波形、送受信を繰り返すための繰り返し周波数、受信波形のピーク強度を抽出するための時間ゲート、必要に応じ周波数フィルタがある。また、超音波プローブの走査用軌道データとしては、
図3に示したX軸、Y軸、Z軸、θ軸およびφ軸の各軸方向の走査軌跡(範囲)、走査ピッチおよび走査速度がある。
【0088】
図6に示す処理ステップS003で、スキャナ制御部は、スキャナを動作せしめることにより超音波プローブの位置を初期位置にセットし、処理ステップS004で、読みだした検査条件に基づき、送受信制御部でパルサ・レシーバを制御して超音波の送受信を行い、受信した超音波データの受信波形メモリへの保存を開始する。処理ステップS005で、スキャナ制御部は、記憶部に保存さえた走査用軌道データを読み込み、当該走査用軌道データに従ってスキャナを動作せしめることにより超音波プローブの位置を移動させ、処理ステップS006で、超音波プローブは、超音波を送受信し、受信波形メモリは受信した超音波の波形を保存し、その後、処理ステップS007で、制御部2は、指定した探傷範囲を全てカバーしたか判断する。制御部2が、指定した探傷範囲をカバーできていないと判断した場合には、上記処理ステップS005~処理ステップS007を繰り返し、カバーできていると判断した場合には、処理ステップS008で探傷を終了する。
【0089】
図6に示した処理フローに対し、本発明の特徴的な点は、先述したように、集束型超音波プローブPから発信された超音波の進行方向において、凹曲面の手前で集束する第1焦点を有するとともに、凹曲面以遠で集束する第2焦点を有するように、凹曲面に対する位置が設定された集束型超音波プローブPから凹曲面へ向けて超音波を入射し、被検体から反射した反射波を用いて被検体の探傷を行う探傷方法にあり、処理ステップS002において読み込まれる走査用軌道データにより当該探傷方法を実現している。走査用軌道データは、走査軌道プランニング部で作成されているので、
図7を用いて、超音波プローブPの走査用軌道データの作成フローを説明する。
【0090】
図7は、走査軌道プランニング部における超音波プローブPの走査用軌道データ作成の流れを示すフロー図である。
図7の最初の処理ステップS101で、走査軌道プランニング部は、走査用軌道データの作成を開始する。処理ステップS102で、走査用軌道データの算出条件として、前述のように、超音波プローブ内部の素子サイズ、焦点位置、媒質音速、被検体音速、被検体形状、検査範囲等のデータを入力し、記憶部2bに保存する。なお、この処理ステップS102は、処理ステップS101以前に、事前に行っておいてもよい。そして、処理ステップS103で、走査軌道プランニング部は、記憶部に保存された上記被検体形状や検査範囲等のデータを読み込む。
【0091】
処理ステップS104で、走査軌道プランニング部は、所定の検査範囲に対し、凹曲面の形状および当該検査範囲に凹曲面を含む場合には、集束型超音波プローブの素子サイズおよびその焦点位置並びに媒質音速、被検体音速、被検体形状および検査範囲の各データを(4)式に記述したABCD行列の所定の項に代入する算出アルゴリズムに基づき超音波プローブPの走査用軌道データを算出する。処理ステップS105で、走査軌道プランニング部は、算出した走査用軌道データにより超音波プローブを走査した場合に、検査範囲を走査可能であることを確認する。被検体と干渉なく超音波プローブを走査可能な場合には、処理ステップS109で、走査軌道プランニング部は、算出した走査用軌道データを記憶部へ保存する。超音波プローブが被検体と干渉する場合には、処理ステップS106で、走査軌道プランニング部は、例えば記憶部に保存された各種超音波プローブに関するデータテーブル等に基づき適用可能な焦点距離を有する超音波プローブの有無を判断し、適用可能な超音波プローブが有る場合には処理ステップS104へ戻り再計算する。一方で、適用可能な超音波プローブが無い場合には、走査軌道プランニング部は、処理ステップS107において手入力で走査用軌道データを設定するよう指示し、手入力された場合には、処理ステップS109で手入力された走査用軌道データを記憶部へ保存する。一方で、処理ステップS107において手入力できない場合には、処理ステップS108において、走査軌道プランニング部は、所定の検査範囲を被検体の探傷部位から除外し、処理ステップS109に当該検査範囲を除外したことをデータとして保存する。
【0092】
上記
図7を参照し説明したフローの特に処理ステップS104(走査用軌道データ作成ステップ)を実行することにより、
図4に示すように、好ましい実施形態である本実施形態の超音波探傷方法では、超音波の進行方向において、集束型超音波プローブPの第1焦点M1から凹曲面30までの距離がαであり、凹曲面30の曲率がRである場合に、α>Rである超音波探傷方法を具現することができる。
【0093】
なお、本発明に係る超音波探傷方法では、上記したように被検体の凹曲面が単純な球面状ではなく、検査範囲に複数の凹曲面が存在する場合でも、当該複数の凹曲面の内部を探傷することが可能である。すなわち、被検体の検査範囲に複数の凹曲面が存在する場合には、複数の凹曲面のうち最も小さい曲率半径を有する凹曲面の曲率半径に基づき集束型超音波プローブの位置を算出すればよい。以下、検査範囲に複数の凹曲面が存在する場合の探傷方法について
図8を用いて説明する。
【0094】
図8は、被検体6の検査範囲に、2つ(複数)の凹曲面である第1凹曲面30A、第2凹曲面30Bが存在している場合を示している。このように被検体6の検査範囲に複数の凹曲面が存在する場合には、
図7の処理ステップS104の前に、第1凹曲面30Aおよび第2凹曲面30Bの曲率半径を比較し、最も小さな曲率半径を選択するステップを追加するとよい。そして、走査用軌道データを算出する処理ステップS104では、選択された曲率半径を算出するためのデータとし、当該曲率半径に基づき超音波プローブの位置を算出することが望ましい。例えば、
図8の矢印hで示した位置が検査範囲である場合において、軸方向にはR10の第1凹曲面30A、周方向にはR100の第2凸曲面30Bが存在する場合、R10である第1凹曲面30Aの曲率半径が最も小さく、この曲率半径(r10)に基づき超音波プローブの位置を算出する。
【0095】
なお、被検体の材質が結晶性金属や炭素繊維材(CFRP)のように音響異方性を有する材質で、単純にABCD行列から最適値を算出できないケースについて説明する。
【0096】
例えば、被検体が音響異方性材の場合は、(4)式の右辺にあるnに被検体音速v2が含まれており、v2求めるべきy’に依存する。このため、正確にy’を評価するには、単純に(4)式を用いることはできない。
【0097】
ただし、音響異方性がさほど強くない場合には、平均音速が適用できるので、媒質音速を代替すれば良い。音響異方性が強く、平均音速が適用できない場合には、
図9に示すデータテーブルのように特殊ケースとしてデータを記憶部に保存しておき、走査プラン作成時に適宜参照すると良い。
図9に示すデータテーブルは、
図1の記憶部2bの検査条件データベースに保存される被検体6の仕様データ例を示す図である。ここでは、被検体の材質、曲率半径、厚さ、使用するのに好適な超音波プロ―ブの番号、曲率半径などを記憶しておくことが好ましい。
【0098】
次に、以上の超音波探傷装置と超音波探傷方法を用いて、被検体の内部を最も効率的に映像化する方法について述べる。
【0099】
超音波プローブと被検体を相対的に動かしつつ超音波を送受信する際に、被検体の表面曲率半径のうち、小さい曲率半径にあわせて超音波プローブの位置を調整することが重要であるが、特に、被検体の表面と裏面とがおおむね平行で、表面から入射した超音波が裏面で反射し、再び超音波プローブで受信できる場合には、
図19で示した表面エコーをトリガとして時間ゲートを底面エコーにかけて映像化することにより、被検体内部に欠陥があるかどうかを簡単に映像化することができる。
[実施例]
本発明に係る2重焦点法を適用した実施例および適用しなかった比較例について説明する。
図22に、本発明の実施例・比較例に用いた試験片を示すが、
図22(b)に示すように紙面水平方向をx軸、上下方向をy軸、垂直方向をz軸とする。なお、試験片は、繊維含有率が体積率(VF)で62%となるよう東レ製T800の繊維を紙面水平方向(x軸方向)に配向した繊維強化樹脂で構成されている。
図22(a)は試験片の側面図であり、表面からの深さが2mmとなるよう試験片の表面に、x軸(長さ)方向において30mmのピッチでR3,R10,R20の凹曲面30を形成している。また、
図22(b)は試験片の底面図および
図22(c)は
図22(b)のH-H断面図である。
図22(b)に示すように、凹曲面30ごとに、y軸(幅)方向において10mmピッチで、深さが相違する5個のφ1mmの人工欠陥d1~d5を形成した。各人工欠陥d1~d5の試験片底面からのz軸(厚さ)方向における深さは、d1:10mm、d2:8mm、d3:6mm、d4:4mm、d5:2mmとし、凹曲面30の底面からの深さが、d1:1mm、d2:3mm、d3:5mm、d4:7mm、d5:9mmとなるようにした。以下で説明する実施例・比較例では、上記試験片のうち
図22(a)において符号Iで示すように、R10の凹曲面30の直下に形成された人工欠陥を検出対象とした。実施例・比較例で使用した集束型超音波プローブは、口径がφ10mm、焦点距離が25mm、公称周波数5MHzの超音波プローブであった。そして、2重焦点法を適用した実施例では、
図4に示すように、焦点距離が25mmの集束型超音波プローブを、上記説明したように式4に基づき算出された第2の距離αが20mmとなる位置(α>R)、すなわち、凹曲面30の表面からの位置が45mmの位置にセットし、第2焦点M2が試験片内部(凹曲面30から8mmの深さ)に形成されるようにして探傷を行った。一方で、2重焦点法を適用しなかった比較例では、
図5に示すように、集束型超音波プローブの焦点が、凹曲面30の曲率中心O2と一致するようにセットし(α=R)、探傷を行った。
【0100】
係る試験片に対し、
図1に示すように、水浸式で超音波探傷を行った。探傷は、
図22(b)に示す試験片の左側面から開始し、x軸方向において0.5mmのピッチで、y軸方向に約50mm/秒の速度で超音波プローブを走査することにより行った。なお、実施例・比較例ともに、
図11および
図12を参照して説明した凹曲面30の曲率に倣う、超音波プローブPの回転移動(首振り)は行わず、超音波プローブPの移動は、x軸およびy軸に沿う水平移動のみとした。実施例による測定結果を
図23(a)に、比較例による測定結果を
図23(b)に示す。
図23では、受信した超音波信号(Aスコープ)においてS/Nが1.5以上の部分(すなわち、欠陥がある部分)が周囲と比べて相対的に黒色となるようxy平面で示したBスコープ画像である。上記のとおり、超音波プローブは、水平移動のみ行わせたが、実施例では、比較例に対し人工欠陥d1~d5を明確にとらえており、本発明に係る2重焦点法を適用した超音波探傷装置および超音波探傷方法が有効なことがわかった。
図24に、
図22(b)に示す人工欠陥d1~d5の中心線を通るH-H線上の輝度を抽出したグラフを示す。なお、
図24の縦軸は、人工欠陥d1の輝度値を基準(0)として規格化した値を示している。
図24によれば、比較例のノイズレベルがN2’であり人工欠陥d5の信号強度であるS2よりも超えているのに対し、実施例ではノイズレベルがN2まで減少することで、全て飽和した白色(0)を示している。このため,従来法でノイズレベルN2’の値でリジェクションをかけると人工欠陥d4や人工欠陥d5からの信号を見逃してしまうが、本手法では、人工欠陥d1から人工欠陥d5まですべての信号を検出できていることが分かる。本発明に係る2重焦点法を適用した超音波探傷装置および超音波探傷方法の有効性が実証された。
【符号の説明】
【0101】
1:超音波探傷装置
2:制御部
2a:走査軌道プランニング部
2b:記憶部
2c:受信波形メモリ
2d:表示部
2I:入力部
3:送受信部
3a:パルサ・レシーバ
3b:送受信制御部
4:走査部
4a:スキャナ
4b:スキャナ制御部
6:被検体
P:集束型の超音波プローブ